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人見参考人 ただいま御
紹介にあずかりました
東京家庭裁判所調停委員、正確には
候補者と申し上げるのだと思いますが、
候補者の
人見康子でございます。
先ほど来、
日本調停協会連合会理事長横地参考人あるいは
日本弁護士連合会司法制度調査会委員長江尻参考人あるいは北海道大学
小山教授から、たいへんに深い御学殖とそれから豊富な御経験に基づきました御
意見が出されておりまして、その上にまた私のようにまだ家庭
裁判所調停委員といたしましては末席に連なっているにすぎない者の
意見を加えさせる
機会をお与えくださいましたことは、たいへん光栄に存じている次第でございます。
現在
民事調停法及び
家事審判法の一部を
改正する
法律案につきましては、本
委員会におきましてもたいへん慎重な御
審議を賜わっておりますことは、私らの厚く感謝するところでございます。私がきょう出てまいりましたのは、
東京家庭裁判所の
調停委員ということでございまして、大体
調停委員の実務から出てまいりましたところのことにつきましての御
意見を申し上げますので、どうぞその意のありますところをおくみ取りいただきまして、
法案の御
審議に御参酌いただければというふうに考えております。
すでにお聞き及びのとおりでございまして、最近の家事
紛争というのはたいへんに複雑かつ多様というふうなことになっておりまして、そのために
事件解決というふうなものが前に比べますと長引き、また困難になってきております。私どもは
紛争の公正かつ迅速な
解決というふうな
調停の本来持つべきはずの利点を実現いたしますために日夜努力をいたし、そのための自己修養というふうなことにもつとめているところでございます。
ところが、家事
調停事件の処理は現在種々な困難に直面しているのでございますが、なお家事
事件というものの
本質は、先ほどの
小山参考人の御
意見にも出てまいりましたように、その本来的な
解決というふうなものは
調停によるということが最も望ましい、あるいは好ましいというふうなことが
国民大かたの要望するところでもあると考えられるわけでございます。したがいまして、
調停制度の充実、発展ということは、
調停の仕事に携わります私どもはもちろんのこと、同時に広く
国民全体が期待しているところではないかというふうに考えております。そこで、今回の
民事調停法及び
家事審判法の一部
改正のうち、特に
家事審判法の一部
改正案につきまして、私ども
家庭裁判所の
調停委員のかねてからの要望が今回実現され、さらに一般人の
調停に対する期待にもほぼこたえられているのではないかというふうなことで賛意を表する次第でございます。
そこで、まず
調停委員制度の
改正につきましてでございますが、私どもは従来からも時間の許す限り
調停の仕事に携わる、そうしまして、できるだけ数多くの
事件を担当いたしたいというふうにつとめてまいりまして、これは同時に大
部分の
調停委員の方々の実際の御活動でもございますが、今回の
調停委員制度の
改正というのは、その
調停委員の実際の活動にふさわしいお
取り扱いであるというふうに私どもは受けとめております。現在におきましても、
事件の
調停を受けますと、これは
公務員の
身分になるわけでございますが、その
職務を行なっておりますときには、心がまえといたしましては、常日ごろの民間人としての良識というのが必要不可欠でございます。
そうしますのはなぜかと申しますと、常に
当事者の
納得のいく
合意による
紛争の
解決というふうなことが
調停の根本理念でございますけれども、
当事者の
合意に達しますまでのプロセスにおきましては、
調停委員の
説得というものは、
調停委員の常日ごろの民間人としての活躍の場で得ました専門的知識あるいは積み重ねた経験あるいは良識の裏づけ、こういうふうなものがありまして初めて
当事者を十分
納得させられる
説得力があるのだというふうに考えておるのであります。したがいまして、
調停委員がそういうふうな民間の活躍の場において得ました判断に基づいて
調停の場におきましての
説得を行なっていくというこの心がまえは、現在のみならず、同時に
調停委員制度が
改正されましても変わることはないと存じますし、また変わることがないようにみずからもつとめたいと存じている次第でございます。
また、特に
家庭裁判所におきましては、実際に扱います
事件を通じまして、私どもは社会のいろいろな分野の方々に直接接触するというわけでございまして、それら
当事者のかかえております悩みと申しますかあるいは問題と申しますか、これらは私らがはだ身をもって感じておるところでございます。そうしまして、常に
当事者にとって親身の
事件の
解決ということが、
事件の公正な
解決と同時に必要であるということを痛感している次第でございます。したがいまして、その公正な
職務遂行ということの中にも、常に民間人としての健全な良識を忘れない態度というものが、情と理を兼ね備えました
調停の成立へと導くものではないかと存じ、私らは日常心がけてそのようにつとめておる次第でございます。
また、
待遇の改善につきましては、今回
改正案におきましてたいへんな御配慮をいただいておりますが、これは
調停委員に一そう広い
人材を求めることによりまして
調停制度の一そうの充実をはかるということの一助にもなりますし、また、私ども従来
調停活動に従っておりました者も、
調停制度充実のために要望しておりましたところで、たいへんにありがたい
改正の傾向であるというふうに考えております。
次に、
調停委員の
職務に関する——これは
家事審判法の第二十二条の二でございますが、この
改正についてでございます。近年、家事
紛争がたいへん複雑であるということは、先ほど来
小山先生からも御指摘がございましたところでございますが、これはすでに皆さま方においてもお聞き及びのところでございますが、特に家事
事件につきましては
事件数が多く、また
解決も長引く傾向を示しておりますのは、遺産分割の
事件においてその傾向が著しいわけでごごいます。
その遺産分割
事件におきましては、特に遺産の評価ということをめぐりましてなかなか複雑な専門的な知識を必要といたしますことがしばしばございます。そこで、むずかしい理屈のほうは先ほど
小山先生のほうからもいろいろお述べいただきましたところでございますが、私らが実務の上で考えておりますところでは、たとえば不動産鑑定士の資格を持っておりますような
調停委員は、
調停委員の全期日の関与というふうなことは時間の都合上できませんでも、その専門的な知識に基づく
意見が述べられる、そういうことが認められますような
改正が行なわれますと、これは高い費用負担にたえられない
当事者にとりましても非常な便宜でありますし、また同時に、
調停の成立を円滑にし、したがいまして
調停制度は一そう充実し、あるいは
調停の機能が
拡張されるというふうに考え、望ましいところであるというふうに考えております。
それからもう
一つ、これもやはり私ら
調停委員の実務上の実感ということで、たいへんに俗な表現をお許しいただきたいと思いますが、最近私たちが接触いたします
当事者というものはサラリーマンで、かなり転勤が多いという状況でございます。本人出頭を原則といたします家事
事件におきましては、
関係人が
調停に
意見を述べていただきたい、あるいは
関係人が
調停に
意見を述べたいという場合もありますが、これらの
関係人が住居の
関係でどうしても遠隔地から
調停期日に出頭しなければならないということになりますと、これはサラリーマンの方たちにとりましては時間的にも経済的にもかなり負担になる場合がございます。しかし、
当事者、
関係人の
意向を十分くんだ
調停の成立ということをはからなければ、これは
調停として本来あるべき姿ではないわけでございますので、私らといたしましては十分
意向をくんだ
調停の成立ということを心がけておりますが、そのような場合に、
関係人方のお呼び出しということにつきましてかなり困難を生じます場合が少なくはございません。したがいまして、
嘱託にかかわる
事件について
関係人の
意見聴取が行なえるということは
当事者及び
関係人にとりましても非常に有益でありまして、私どもといたしても従来からそのような便宜ということの必要性を感じていたところでございます。
それからさらに問題は、「その他
調停事件を処理するために必要な
最高裁判所の定める
事務」というふうな問題がございますが、この点は私らも従来から、
横地参考人の御
意見にもありましたように、
調停委員としてあるべき限界というふうなことをわきまえた
運用ということをお願い申し上げたいというふうに考えておるところでございます。
次に、
家事審判法の第二十一条の二に関する
改正でございますが、遺産分割の
調停は、これは先ほども申し上げましたように、非常に複雑な事実
関係の
事件が多うございまして、その複雑な事実
関係の正確な把握はなかなか困難でございます。しかもそのような複雑な事実
関係を正確に把握した上でできるだけ早く公正な
解決をと努力いたしておるのでございますが、これはなかなか思うにまかせない次第でございます。現在の遺産分割
事件と申しますのは非常に
当事者の数が多く、しかもそれらの当時者というのはかなりばらばらの地方に住んでいるというふうな事情がしばしばございます。しかも遺産分割
調停というのは、相続人全員がそろいましての
合意がなければ
調停は成立いたし得ないわけでございます。そこで、私どもといたしましては、日常遺産分割
事件におきましてしばしば遭遇いたしますのにこのような事例がございます。それは
調停成立の
合意をほぼ得ておりながらも、先ほども申しましたように
当事者の一人が急に転勤になるというふうな事情が生じまして、
調停成立を目前に控えまして、なおかつ数回の期日を重ねなければ全員の
合意が得られないというふうな事情が出てまいります。また相続人が非常に遠くにおりますために、御本人はできるだけ
調停期日に参加したい、こう思いましても、経済的に制約されましてなかなか思うにまかせないというふうな事情もございます。したがいまして、私たちは従来それらの
事件解決につきましては、できるだけ全員の御
意向を個別的に聞きまして
調停の
説得に当たるわけでございますが、そのときに個別に御
意向を伺いまして、
調停は成立し得ると判断いたしましても、
調停期日に出頭しにくい当時者がおりますために
解決を引き延ばさざるを得ないというふうな状況に出会うわけでございます。そうしまして時に、よりましては、また当時者のほうから、期日には出頭できないが、自分の申し立てたこの線に沿ってあとはおまかせしたい、こういうふうな
意向を示される場合もございます。そこで、これらの点につきまして何らかの
解決がはかられれば、遺産分割
調停の円滑な成立が見られ、そうしまして
調停の機能発揮の一助にもなると考えておりましたところでございます。そこで、
調停当事者の真意に沿って
運用いたしますならば、今回の御
改正というのはたいへんに適切な
改正であるというふうに私らは考えておる次第でございます。
それからさらにもう一点ございまして、
調停制度につきましてはこれはもう先ほど来三御
参考人の方々からたいへん御丁寧に御
意見を披瀝されましたので、私としましては屋上屋を重ねるようなことになりますのでつけ加えるべき
意見はございませんが、これはおそらく本日私が婦人
調停委員というふうな含みもあってのことと思いますので、若干自画自賛みたいなことになってお聞き苦しい点があると思いますが、婦人
調停委員の活動について、これは
調停制度を御論議になりますときにぜひ御理解をいただきたいというふうに存じておりますので、その点についても触れさせていただきたいと思います。
現在
家庭裁判所におきましては、
調停委員のうち一人は婦人
調停委員を加えて
調停を行なうという庁が大体でございます。そうしまして、
家庭裁判所が創立されまして以来、
家庭裁判所が親しみやすい
裁判所というふうなことで、少なくとも
国民の方々が
裁判所の門をくぐりますのに抵抗を感じなくなりました。そのイメージをつくり上げます中におきまして、婦人
調停委員の存在というのはこれは欠くことができない存在であったのではないかと思います。また
事件の過程におきまして、
当事者が、
裁判所というところはなかなか近づきがたいところである、思いどおりに心やすく
事件の
実情を述べられないというふうなことがなくなりまして、婦人
調停委員のソフトな
事情聴取によりまして、
当事者はかなり自分の思うところを忌憚なく申し上げられるというふうな気持ちをお持ちになられておりますのも、婦人
調停委員の功績の
一端ではないかというふうに考えております。そうしまして、このように
当事者が事実
関係を心やすく明らかにしていただくということで、先ほど
小山参考人も仰せられましたように、事実というのは、なかなか陳述にあらわれない事実の中に重要な事実があるというふうなことをお示しいただきましたが、御婦人の
調停委員の
事情聴取というふうなことの中に、かなりそういうふうな、本来ならばなかなか
当事者が胸を打ち明けて語れないような事実が
家庭裁判所におきましては打ち明けられるということになるわけでございます。そうしまして、そのような事実
関係が非常に心やすく明らかにされるというふうなことで
調停では
紛争の実態に即した妥当な
解決が可能になったわけでございます。
それから同時に、
家庭裁判所におきましては、
事件の
当事者の中には御婦人の
当事者も非常に多いわけでございますが、特に御婦人の
当事者というのは
裁判所に出てまいりまして胸を開いて御自分の事情を打ち明けるというふうなことがなかなかむずかしかったわけでございますが、その主張をよく理解してくれる相手として婦人
調停委員には心よく事実を打ち明けられるというふうなことがございます。そうしまして、これらの事柄を通しまして、
裁判所に対しまして従来長い間
国民が持っておりました一種のおそれと申しますか、それよりは、自分の心から胸を打ち割って
解決を求められる
裁判所であるというふうな
信頼を増す存在にもなってきていると存じております。そうしまして、特に
家庭裁判所の
調停に携わっております婦人
調停委員の方は非常に年代層も広く、また同時に
調停の
職務遂行のためには自己修養というふうなことにも非常につとめております。またさらに、最近では高い識見を備えました御婦人
調停委員も少なくなく、同時にその活動というものも非常に活発かつ積極的で意欲に富んだものでございます。したがいまして、
事件解決にあたりまして、かなりきめこまかい配慮といいますか、そういうふうなものも婦人
調停委員ならではのものであるというふうに考えております。したがいまして、家事
調停におきましての婦人
調停委員の重要性というものは、従来も占めておりましたが、同時に今後もまた家族間の
紛争というふうなものは、親子の問題にいたしましてもあるいは夫婦間の
紛争にいたしましてもますます多様性を加えますおりから、一そうの重要性を増しこそすれ減少するものではないという点につきましても御理解をいただきまして、私たちがよりよい家事
調停の充実へと改善の努力を怠っていませんことを、あるいは今後も怠らないようにつとめたいということにつきまして御理解をいただきたいと存じております。
たいへん簡単でございますが……。