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1974-02-22 第72回国会 衆議院 法務委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年二月二十二日(金曜日)     午前十時十四分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 谷川 和穗君 理事 羽田野忠文君    理事 稲葉 誠一君 理事 青柳 盛雄君       井出一太郎君    野呂 恭一君       保岡 興治君  早稻田柳右エ門君       日野 吉夫君    正森 成二君       沖本 泰幸君    山田 太郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         法務大臣官房司         法法制調査部長 勝見 嘉美君  委員外出席者         最高裁判所事務         総局総務局長  田宮 重男君         最高裁判所事務         総局人事局長  矢口 洪一君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出第一九号)      ————◇—————
  2. 小平久雄

    小平委員長 これより会議を開きます。  内閣提出裁判所職員定員法の一部を改正する法律案議題といたします。  質疑の申し出がありますのでこれを許します。青柳盛雄君。
  3. 青柳盛雄

    青柳委員 私は、いま議題となっております裁判所職員定員法の内容をなすところの下級裁判所裁判官あるいは裁判官以外の職員定員、つまり下級裁判所定員についてお尋ねをしたいと思うのですが、この法案の参考資料として法務省が作成されました資料がございます。それを見ますと一番目に「下級裁判所裁判官定員・現在員等内訳」というのがあり、二番目に「裁判官以外の裁判所職員新旧定員内訳」というのがあり、三番目に「裁判官以外の裁判所職員定員・現在員等内訳」という三種類の表がついております。そのいわゆる定員というものの法律的根拠は何であるか。つまり裁判所職員定員法によって定められた員数というものがございますが、その範囲内で裁判所自由裁量でいわゆる下級裁判所裁判官定員というものを決定できる権限があるのかどうか。もしあるとすれば、そのように解釈する根拠はどこにあるのか、これをまずお尋ねしたいと思います。
  4. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 お答えいたします。  最高裁判所職員定員法は、お手元の資料にございます提案理由説明書の次にございますように、法律では、第一条で「下級裁判所裁判官員数は、左の表に掲げる通りとする。」ということで、高裁長官、それから判事判事補簡易裁判所判事、こういうふうな区別になっております。それから第二条では、「裁判官以外の裁判所職員員数は、」これこれということで、確かに御指摘のとおり裁判所職員定員法では裁判官員数、それから裁判官以外の裁判所職員員数ということで、各裁判所別にはなっておらないのでございます。  それでは、ただいまお話のありましたように裁判所といたしましてそうした定員法で定められたところの裁判官以外の職員高等裁判所地方裁判所家庭裁判所というふうにかってにといいますか、適当にそういうふうに区分することができるのかという問いでございますが、まず裁判官以外の裁判所職員につきましては、予算書によりましてそれぞれ各裁判所別員数がきまっておりまして、この員数に従いましておのずから各裁判所別に、また各職種別員数がきまってまいっております。そういうふうな趣旨で裁判官以外の裁判所職員の表はできておるのでございます。これは予算定員として定まっているそれぞれの各裁判所員数でございます。  それに対しまして裁判官でございますが、この裁判官につきましては、実は各高裁地裁家裁別にはなっておらないのでございます。予算の上でもそういうふうにはなっておらないのであります。と申しますのは、裁判官以外の裁判所職員の場合ですと、等級別定数といったような関係で、各裁判所別にどれだけの職種職員がどれだけということをきめる必要がございますが、裁判官の場合にはそういうふうな等級別定数といったようなものがございませんので、一括して予算書ではそういうふうになっておるのでございます。  これは経過的に申しますと、予算の上では昭和四十年までは高裁地裁家裁といったふうにそれぞれ項が別になっておったのでございます。予算の費目として項が別でございますので、高裁のところには高裁判事何名、それから地裁のところには判事何名、判事補何名、家裁のところには判事何名、判事補何名というふうになっておったのでございますが、四十年になりましてから予算の組み方が変わりまして、下級裁判所の場合には下級裁判所ということで一括して一つの項になったものですから、その際に各裁判所別ではなくて判事何名、判事補何名、簡裁判事何名というふうに一括して予算書に載るようになったのでございます。  それならばここで、この参考資料にありますように、なぜ高裁地裁家裁というふうに分けてあるのかと申しますと、それは四十年までの予算書に載っておりますところの各項別高裁地裁家裁人員をここに計上しておるのでございます。御承知のように、裁判所裁判官増員の場合には一括して裁判官何名というふうな増員のしかたではございませんで、たとえば高等裁判所事件を処理するために高等裁判所判事を何名増員するとか、地裁事件を処理するために地裁判事もしくは判事補を何名増員するといったようなことで、従前ずっと増員をお認めいただいてきたのでございますので、したがいまして、四十年の予算のそうした編成がえの時点におきますところの各裁判所別人員を、その後順次増員を認められた部分をそれにつけ加えてこういう表にいたしまして、御審議の便宜のためにこういう表を従来つくってきたというような経過でございます。
  5. 青柳盛雄

    青柳委員 御説明ですと、予算の項目からこういうものができたのだけれども裁判官については昭和四十一年以後は従来のままをそのまま踏襲してきた。ただ、たとえば判事補増員というのが行なわれるつど、それは地裁などで増加分がつけ加えられたというようにとれるわけでありますが、これは単なる便宜的なものであるのか、それとも定員配置する一つ基準というかワクとして固定されているものなのかどうか。つまり、たとえば高裁判事は二百七十名というふうにずっときめられておりますけれども、これは必ずしも二百七十名でなくてもいい、あるいは二百七十名以上でもいいというような、何ら拘束的なものでないのかどうか。これはいかがですか。
  6. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 実は高裁地裁家裁の別は、先ほど御説明いたしましたように昭和四十年当時におけるところの各予算定員であったわけでございます。そのころの予算定員は、いろいろ計算いたしましてそれだけの必要人員であるということでそういうふうに予算定員が組まれておったのでございます。ところが昭和四十一年以後におきましては、そうした各裁判所別予算定員が区分されないということでございますので、先生御指摘のように、理屈からいえば適宜これは動かし得るということになるわけでございますが、その後の事件推移等を見ますと、必ずしもその変更の必要はないというふうに考えておりまして、現在のところでは、たとえば高裁判事二百七十名ということで、それは高等裁判所事件を処理するために必要な人員だというふうに現在私どもとしては考えておるのでございます。
  7. 青柳盛雄

    青柳委員 融通性のあるようなお話でございますので、これが一つの障害になる、つまり実情に合うような裁判官あるいは職員配置を拘束するようなものではない、つまり職務遂行上不均衡におちいるようなことはないと理解されるわけですが、それにしても現実には過密過疎みたような現象があって、裁判官一人当たりの手持ち事件数というようなものが必ずしも平均化しておらぬ。ある裁判所では非常に多い、しかし他の裁判所では、比較的多くないというような現象現実に起こっているのではないかと思うのですが、そういう点には支障がないというならば、こういうものを何か目安にするみたいにきめておくということは、こういう不合理を除去する上においてじゃまになっているのではなかろうかという感じがするのですが、この点いかがでしょうか。
  8. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘のように、確かに各裁判所によって裁判官の負担のアンバランス、人口その他の関係アンバランスが生じておるわけでありますが、そうした関係アンバランスは、主として地裁なら地裁同士の間、家裁なら家裁同士の間ということでございまして、事件数から見ますと、高等裁判所地方裁判所、全体を比較いたしますと、高等裁判所で処理する事件と、地方裁判所で処理する事件というのは、このところ、昭和四十年以来でございますが、その比率は大体一致しておりまして、特に変動はない状況でございます。そうした関係からこうしたことで、たとえば高裁はこれこれ、地裁はこれだけの裁判官というふうに、一応一つワクと申しますか、そういうものを設けてやっても、特に高裁地裁との間でいろいろ支障を生ずるということは起こっておらないと思うわけであります。また特に高裁で一時何か特殊な事件が起きたというような場合で応援が必要だというような場合には、地方裁判所裁判官職務代行という制度もございますので、職務代行の形で一時高裁のほうに応援させるというふうなこともやっておりますので、特にこういうふうに定員と申しますか、ワクを考えても、その点はいまのところ支障を来たしていない、こういう次第でございます。
  9. 青柳盛雄

    青柳委員 先ほど指摘しました法務省作成資料の表によりますと、高裁地裁家裁及び簡裁というように裁判所種類別定数が表示されておって、これは一般的な仕分けのような感じがするわけですけれども、具体的には、各個々裁判所、たとえば東京地方裁判所東京家庭裁判所あるいは大阪地方裁判所大阪家庭裁判所というような個々裁判所ごと定員がきめられているのではなかろうかというように考えられるのですが、その点はいかがですか。
  10. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘のとおりでございまして、たとえばここにありますように、地方裁判所判事八百五名、判事補四百二十三名、こういうふうになっておりますが、これらの人員をそれぞれ東京幾ら大阪幾らというふうに内部的には一応事件数等を基準といたしまして、それぞれその人員をきめております。
  11. 青柳盛雄

    青柳委員 それも必ずしも固定的なものではなくて、大阪が非常に手薄であれば、東京を減らして向こうへ持っていくというようなこともできるのじゃなかろうかとは思うのでありますが、それにしても、そういうような個々裁判所について一定定員数がきめられるというのには、何らかの基準があるのじゃなかろうか。いま事件数というようなお話がありましたが、一体、事件数だけなのか、それともほかに何か基準になる要素があるのかどうか、それが一つ。  また、そういうことで割り当てをするのは、一体どこできめて、そしてこれはいつきめることになっているのか。すなわち定期的であるのか、それとも随時であるのか。定期だとすれば、その期間はどのくらいの期間をおいて定期的にやるのか。こういうような点はいかがですか。
  12. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 各裁判所別人員でございますが、原則としては、事件数基準としてやっておるわけでございますが、しかしそのほかにも、地理的な事情、交通の便利、その他といったようなことも加味して、いろいろ複雑な計算ではございますが、そういうような形できめておるのでございます。  そのきめる時期でございますが、これも必ずしも、何年に一度ということではございませんで、大体いままでの経過でございますと、二、三年に一度ぐらいずつ——二、三年たちますと、事件変動等がございますので、それを変更するということをやっております。そうしますと、その変更するまでの間に、特にある裁判所事件が急にふえたというような場合にはどうするかといいますと、その場合には、先年行ないましたように、京都とか大阪堺支部のように、一時ほかの庁から応援を出すというような形で、暫定的にそこの人員をふやして、次の機会にそこの配置人員を変更するというようなやり方をやっておるのでございます。
  13. 青柳盛雄

    青柳委員 判事補でございますが、判事補は、高裁地家裁などにも配置するのについて、一定定員というものをきめておられるのでしょうか。
  14. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘のとおりでございます。判事補判事は、資格も違いますし、また判事補の場合ですと、未特例判事補という、まあ一人前ではないというふうな判事補がございますので、そういう点も区分いたしまして、人員をきめておるわけでございます。
  15. 青柳盛雄

    青柳委員 いまもお聞きしたのですが、判事補簡裁に派遣するというのか、あるいは判事補資格を持つ者を簡易裁判所裁判官に任命して、それをまた判事補にも使うというのか。この辺判事補というものは簡裁判事ではないのにもかかわらず、簡裁のほうに行っているというのは、何か法的根拠はもちろんあると思うのですけれども、それについて定員というようなものがあるのかどうか。簡裁へ何名くらい派遣するというようなことがあるのでしょうか。
  16. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 判事補簡裁仕事をするという場合、判事補簡裁判事ではございませんので、判事補という身分のまま簡裁判事仕事をするということはできないわけでございます。御承知のように、裁判所法によりまして、判事補で三年たちますと、簡裁判事資格ができますので、簡裁判事が必要な庁におきましては、そうした判事補簡裁判事兼務もしくは簡裁判事判事補というような発令をいたしました上で、簡裁判事としての仕事をするということでございます。各地裁管内簡裁判事の数というものも、人員をきめる場合には簡裁判事何名ということできめておりますので、一応そうした中でそうした発令をするということになっております。
  17. 青柳盛雄

    青柳委員 いまの配置の問題につきましては、その程度にいたしまして、今度は、司法修習を修了した者を判事補として採用する、あるいは簡判として採用するということについてお尋ねをいたしたいと思いますが、毎年三月中の一定の日、つまり判事補から判事に任命する日、及び判事として再任する日現在において、判事退官者、これは定年退官、また任期途中において退官する人、それから再任日判事にならないという人つまり判事をやめるという人ですね。そういう人を含めて、判事定員との関係欠員となる数というようなものは毎年調べておられるかどうか。
  18. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 欠員がございませんと採用できないわけでございますが、そういう意味で、ちょうど三月の末から四月にかけましては、いま御指摘任期終了再任命の時期と、それから新任採用の時期と、これが接着して重なってまいりますので、大体何名ぐらいが現在欠員となっており、新任の方々の採用時までにさらにどの程度の、いま御指摘のような減耗、減員があるかということを調べまして、その範囲内で欠員の補充という形で新しい方を採用しておるという状況でございます。
  19. 青柳盛雄

    青柳委員 このことは、判事補でなくなった者についても、また簡判でなくなった者についても、欠員の有無は一定の時期において調べられていると思いますが、過去の実績では、特にその瞬間における判事補欠員というのを判事補定数との関係においてどのくらいあらわれていると見てよろしいでしょうか。
  20. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 その瞬間においてというふうにお尋ねでございますと、非常に厳格に言うとむずかしい問題があるわけでございますが、ごく大ざっぱに申し上げまして、たとえばきょう現在の欠員と、それから判事補として今度採用いたしますのは四月上旬でございますが、それまでの欠員というものはまた違ってくるわけでございます。ある程度見込みということになってまいりますが、まあいろいろなやり繰りはございますが、大体百名ぐらいの採用は常にできるようにというふうに配慮をいたしてやってきておるわけでございます。一名、二名という厳格な計算をいたしますと、そのときの都合で、ある方はとれなくなったり、ある方はとれたりという問題が起こりますので、そういうことは起こらないようにということでこれまで配慮をしてきてやっておるわけでございます。
  21. 青柳盛雄

    青柳委員 百名のワクがあれば、その年によって修習を終わった人の判事補希望、いわゆる採用申し入れをする人たちをまかなう上で、あまり定員の上での支障はなさそうに思えるのですが、従来は六、七十名程度希望であり、そしておおむね採用されていたようでございます。もちろんいろいろ問題のある、つまり青法協の会員であるという人がたまたま採用されなかったとか、あるいは婦人であるために採用されなかったということは過去においてたくさんありましたが、定員過剰だから採用しなかったというような話は聞いたことがないのですが、本年は、前回大竹委員からの御質疑もありましたけれども、比較的例年よりも判事補希望の方が多い、九十数名というふうにお聞きしたように思うのですけれども、この点は依然変わりありませんでしょうか。
  22. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 現在のところ、前回総務局長お答え申し上げました数字に変わりはございません。
  23. 青柳盛雄

    青柳委員 そこで、百名くらいのあきはあるのだということでございますけれども、先ほどもちょっとお尋ねしましたが、司法修習を終わった方で判事補として、あるいは検事、弁護士としての資格を持っている人たちなんですが、こういう方が本人の希望あるいは勧告で簡易裁判所裁判官判事採用されたというようなことが過去においてもありましたでしょうか。
  24. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 ございました。
  25. 青柳盛雄

    青柳委員 こういう方がその後判事補として地家裁あるいは高裁のほうに勤務するようになったという例もございますか。
  26. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 ございます。
  27. 青柳盛雄

    青柳委員 これからは、いつも採用の時期になるといろいろと物議をかもすわけでございますけれども採用されないというのは過去においてあったこと、先ほど申し上げたとおりですけれども一般論として、希望した者、つまり採用を申し入れた者で断わられるという人はあり得るのかどうか。まあいままであったのだからこれからもあり得るというお答えだろうと思いますが、念のためお尋ねいたします。
  28. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 修習を修了して判事補に任官したいという御希望の方の御希望は出てまいっておりますが、御承知のように、これから最終の仕上げに入るわけでございまして、私どもとしましてはそういった仕上げを待ち、またよくお目にかかっていろいろとお尋ねもし、その上で総合してきめることでございます。いわゆる判事補として好ましい方であるならば、御希望の方にはできるだけ多く来ていただきたいというふうに考えております。
  29. 青柳盛雄

    青柳委員 お答えがあまり歯切れがよくないのですけれども、要するに、できるだけ来ていただくということなんで、裏からそれを解釈すると、できるだけやってみたけれども、残念ながらお断わりせざるを得ない人があるということになるわけですが、その理由ですね。これはもう絶対おっしゃらないというがんこな方針があるのですけれども、これはまた採用希望する人たちにとってみると非常に悩みの種なんで、根掘り葉掘りしつこくそのことを要求するわけですね。要するに、採用する基準というものは明確なものがあるのじゃないのか。あるのだったら、公表したらどうかというようなことを言うのですが、なかなかそれが抽象的で、ふさわしいかどうかということを総合的に全人格的にきめるのだというような程度お話なんで、ちょっと取りつく島がないのですけれども、少なくともいままでの論議の中では、思想信条あるいは特定団体員であるということだけでは拒否理由にならないという言明がなされておる。この点は依然有効なものと解釈してよろしいですか。
  30. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 御指摘のとおりでございます。
  31. 青柳盛雄

    青柳委員 これも同じことをまた聞くようですけれども会議録などを見ますと、だけでは、ということばがある。だからそれはその他の理由と相まって合わせて一本というか、要するに拒否理由一つ要素には使われる、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。
  32. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 そういうふうには申し上げていないわけでございます。どういう採用基準であるかというお尋ねに対しまして、これは人事の問題でございますので、やはりこういうスタンダードであるというふうには申し上げかねるわけでございます。しかし、たびたびのお尋ねでもございますし、まあしいて申し上げれば、ただいま御指摘の全人格的評価によって判事補なら判事補たるにふさわしい方だ、そういうふうにごく抽象的に申し上げざるを得ないというのがこれまでのしばしばお答え申し上げておるところでございます。ただ、そういうふうにだけ申し上げますと、それでは思想信条あるいは団体加入ということが入ってくるのじゃないかということで、特にその点につきまして、スタンダードお尋ねいただく以上にきびしいしばしばのお尋ねがございますので、まあ事の性質上理由を申し上げるということもほんとうはいたしたくないわけでございますが、やむを得ず、その点について区別をすることはないという意味で、これは消極的な意味において採否基準の一端を申し上げてきたというところが現実でございます。いまもその点について変わりはございません。
  33. 青柳盛雄

    青柳委員 この点は全人格的という中にはそれも入るというふうに理解されそうな感じがする。しかし、思想信条で差別するということは憲法違反だから、あえて憲法違反をやっているというようなことを言いたくない、だから適当に解釈してくれというふうなことなんであって、私どもとすればこれはすっきりできないものだろうか。全人格的に考えるといっても、その場合にも思想信条特定団体員というようなことは全く無視するのだ、それはもうないものと思って、心証を形成する上においては何らの影響力もないものだというふうに言い切れないものだろうか。そうだとすればこれは非常にりっぱな、少なくとも憲法違反になるおそれはないというふうに理解できるのですが、この点はどうでしょうか。
  34. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 判事補採用希望される方の思想信条あるいは特定団体加入ということによって差別するつもりはございません。
  35. 青柳盛雄

    青柳委員 大臣にもちょっと関心を持っていただきたいと思うのですが、前任の田中法相は、左右に偏しない法曹資格者裁判官に任命されるのが国民の要望であるというふうにおっしゃって、そのような偏向を持った者、左右に偏している者は裁判官採用する際に選別をすべきではないのか、それを怠って、判事補になった者がその後たとえば判事採用されない、つまり再任されないというようなことが起こるのは問題だから、事前にそういうのは排除するほうがいいのだ、こういうようなお話だったと思います。あるいは私の理解が不十分であるかどうか知りませんけれども、こういう法務大臣もおられたわけですが、中村法務大臣とされては、やっぱり採用してから特定団体に加入しているというようなことを再任支障になるように、あるいは支障にしているというふうにとられるようなことのないように、あらかじめもう司法修習を終わった者から判事補採用する際に左右に偏している者を排除するということがいいことだというふうにお考えでしょうか。
  36. 中村梅吉

    中村国務大臣 裁判官というものは、これは国民の信頼を必要といたしますから、できるだけいずれにも偏しない存在でなければならないと思います。ただ、司法部というのは最高裁判所が独立してやっておられますので、われわれがかれこれどうも私見を差しはさむことはいかがかと思いますが、ただ、抽象的な考え方としましては、裁判官というものはいずれにも偏しない公正な立場であってほしいものだ、こう私どもは考えております。
  37. 青柳盛雄

    青柳委員 そこで、公正な立場の人が好ましいという点、最高裁人事をやっているのだから行政府の長である法務大臣としては一般的な意見しか言えないのだ、それはそうだと私思いますけれども、いわゆる左右に偏するというのは結局は思想信条の問題になってくるわけなんです。だから、思想信条と無関係だ、左でもなければ右でもないというのは思想信条とは無関係だというのは詭弁になるわけなんで、結局は思想信条を採否の基準にするということに帰するわけですけれども、これは結局はいろいろの点で支障を来たすと思うのです。不合理なことが起こると思うのです。たとえば公害とか物価運動などに同調的な人物はどうも左がかっている、あるいは自衛隊を違憲だと考えるような人物は左である、労働運動に熱心な人もしかりというようにどうも考えがちになるので、私どもはこれは厳重に慎まなければならぬことだと思うのですが、裁判官というのは中正、公正だからいずれにも肩を持たないというその一般的な考え方、これは当然だと思うのですね。紛争の当事者、どっちかの肩を持つようであってはいけないわけで、もうこれはあくまでも中立であり公正でなければならぬと思うのですが、そのことと、何かいまのような社会ではお金持ちもあれば貧乏人もある、金持ちのほうの肩を持つのはいいけれども貧乏人の肩を持つのは左のほうだといったような考え方におちいるのが私は左右に偏しないということではないと思うのですね。だから中正、公正とかいう問題は左とか右とかいうイデオロギー的なものとして理解をしないということが非常に重要だと思うのですが、この点について大臣のお考え、それから最高裁判所のお考えをお尋ねしたいと思います。
  38. 中村梅吉

    中村国務大臣 どうもなかなかむずかしい問題で、第一、左とか右とか、それ自体がわからないのですよ。実際、どこで判断すべきものか。要するに問題は、ただ言えることは、裁判所といえども憲法のもとにあるわけですから、日本の憲法の精神をよく踏まえた、要するに憲法に忠実である人が望ましいということになるだろうと思うのですが、それ以外はどうも、ちょっと私どもも判断つきかねますけれども、憲法に忠実である人が裁判官としてはまことに望ましいということになるだろうと思います。
  39. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 憲法七十六条の三項に「すべて裁判官は、その良心に従ひ獨立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」とございます。かつての御質問でもお答えしたかと思いますが、ここにいう良心とは客観的良心でございまして、このような客観的良心に従い得ない人であるならば、これはいけないのではないかと思いますけれども、従い得る人であれば、裁判官としての十分の適格をお持ちになっているというふうに考えております。ただ、これもしばしば申し上げるところでございますけれども、相対立する双方の当事者の紛争をさばくものでございますので、裁判官のモラルとしては、公正、中正らしく見えるということもまことに必要なことではなかろうかということで、そのつどつけ加えさせていただいておるところでございます。
  40. 青柳盛雄

    青柳委員 法務大臣お答えもそれから裁判所お答えも、いま私の質問に対してはごりっぱだと思いますが、問題はそういう判定をやる機構ですね。機関といいますか仕組みといいますか、それは結局、最高裁判所の十五人の裁判官の方々だと思うのです。  これはだれかがそれをやらなければしようがないので、結局は最高裁判所できめて、そして任命は内閣がおやりになるわけでございますけれども、内閣は、最高裁判所でつくったリストに対して拒否権を行使するということは事実上できないということなんで、その限りにおいては民主的にいっていると思うのですけれども、それにしても任命権者は、憲法のもとでは主権者である国民ということになるわけなんです。その国民にかわって十五人の裁判官が選定をおやりになるわけですが、それを保障するというか、それが先ほど言われるような基準から逸脱しないという保障をつくり上げるために、私は最高裁判所裁判官などについて、いわゆる諮問委員会というのがかつてあったわけですが、裁判官についても推薦をするか諮問に応ずるかというような機関があってもいいんじゃないか。たとえば、簡易裁判所裁判官の審査をするという委員会がありますけれども、ああいうふうなことはそれなりに意味があることだと私は思うのです。あれが完全な機構だとは思いませんけれども、少なくとも選考委員会というのは——選考ですか、簡易裁判所判事選考規則というものがきめられておりますけれども、これは法曹資格のない人たち裁判官にするんだから、こういう選考がないというと、非専門的な人あるいはふさわしくない人がどんどん採用されるというようなことになってはいけないというところから出ていると思うのですけれども、これと同趣旨に、裁判官の選任についても民主的な機構をもって、先ほどの採否の基準がほんとうに公正に行なわれるための保障をつくり上げるということについて、これは制度上の問題ですけれども、研究したことがおありになりますかどうですか。これは最高裁判所についてもまた法務大臣についてもお尋ねをしたいと思うのです。
  41. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 最高裁判所裁判官の場合は、これは内閣が専権でおきめになることでございますので、私どもから意見を申し上げるべきものではなかろうかと存じます。  下級裁判所裁判官は、御指摘のように最高裁判所できめます名簿に基づいて内閣が御任命になるということでございます。といたしますと、その名簿を作成するにあたりまして、ただいま御指摘の委員会をつくるかどうかという問題が理論的にはあり得るわけでございますが、もちろんそういったこともいろいろの制度を抽象的に考えます上では考えられ得ることかとは思いますけれども、しかし現在の憲法が最高裁判所に独立を保障したということの大きなかなめをなしておりますのが、やはり名簿の指名権でございます。そういうものでございます以上は、やはり十五人の裁判官方が全責任をもって名簿の内容をおきめになるということが、憲法の精神に最も適合するものというふうに考えておりますので、現在のところそのようなことを検討する、あるいは今後検討するというような考えはございません。
  42. 中村梅吉

    中村国務大臣 私どもといたしましても、いま裁判所からお答えがあったとおりに考えております。
  43. 青柳盛雄

    青柳委員 非常に保守的というか消極的というか、非常に残念で、私どもはもっと積極的に前向きに、こういう往々にしてトラブルも起こるし、また世間で批判の対象にもなるような人事関係については、そういう疑問を残さないようなやり方が考えられていいんじゃないかと思いますが、この問題はそのくらいにしておきます。  修習生の二次試験の問題について、稲葉委員からも前回お尋ねがあったようでございますので、あまり重複して長くお聞きしようとは思いませんが、結局はその二次試験の過程で合否をきめるだけでなしに、成績というものが何か勤務評定と同じようにきめられるという趣旨の話だったと思うんですね。段階的な評価というようなわけでしょうか。そういうものは何か将来に役に立つ資料として、あえてつくり上げるものなのかどうか。そういうものはかりに合否をきめさえすれば、あとはもう焼却してしまって、将来この人の人物評価みたいなもののデータとして保存するというようなことがあっていいのかどうか、この点は最高裁としてどう考えておられるでしょうか。
  44. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 修習生に関する規則の十三条で、修習生考試委員会の行なうことを定めております。十三条には、考試委員会の考試が行なわれる前に修習の成績を司法研習所長が委員会に報告するということが定められております。ここに修習の成績と申しますのは、修習生になりましてからその時点に至るまでの二年間のいわゆる修習の成績でございます。また、それには実務修習地におきます裁判所、検察庁、弁護士会の報告書というものが添付されます。その報告書と申しますのも、やはり現地修習をいたしまして、その間にどのような修習をしたかということの報告でございますので、結局修習の成績ということの一環をなすものと考えております。また、考試をいたしますれば当然考試の結果が出てまいります。その考試の結果というものも、当然のことでございますが、考試委員会に報告されてまいります。こういったものが総合されまして合否の判定がなされるということでございます。もちろん、合否の判定の目ざしますところは、法曹として一本立ちできるかどうかということでございますので、一本立ちできるということになりますれば、それはそれで考試委員会の目的は終了するわけでございますが、ただそのようにして判定されたということはあくまで事実でございます。たとえば判事補にその中から希望者がありまして採用いたしました場合、その時点におきましてはその方がどういう修習をなさってこられた方かということは、それ以外の判定の資料がないわけでございますから、そういったものも問題に取り上げられるのは当然のことであろうかと思います。  しかし、それから定年になりますまでの間、常に考試委員会といったようなことで出ましたものがそのままいわばずっとついて回るといったようなものでないことは、これは青柳委員もつとに御承知のところでございまして、その後におきます裁判官としての御勤務、そういったものが、その後におけるその方々の評価と申しますか、そういったものに密接につながってきて、過去に、数年前、十数年前、数十年前にどうであったかといったようなことは問題にならなくなる。これはまたそのことの性質として当然のことではなかろうかというふうに考えております。
  45. 青柳盛雄

    青柳委員 確かに、あとから言われたことはそのとおりだと思うのです。固定的なものではなくて、大器晩成などということもあるので、また努力次第では過去の成績よりもりっぱな業績を残すという人も出てくるわけですから、それはそれでいいと思うのです。むしろ私が問題にしているのは、法曹資格の同質性といいますか、同一性というか、要するに、これは成績がいいから裁判官にふさわしい、あまり成績がよくないから弁護士くらいでいいんだといったような考え方、(「弁護士を侮辱するなよ」と呼ぶ者あり)そうそう、しかし世間ではそういうふうに受けとめている人もあるわけなんです。良質な裁判官、つまりものごとをさばく立場にある人は最も優秀な人であることが望ましい。弁護士などは当事者の一方の肩を持つんだから、あまり優秀でなくともそういう弁護士を雇ったのが損するだけの話だというようなことで、裁判官よりは違うんだといったような考え方、つまり法曹資格の同一性というものが自然に裏のほうから掘りくずされて、裁判官にふさわしいということばかりが強調される。つまり、成績のいい人がいいというようなことになりはしないかというのを私は問題にしているわけなんです。私は、法曹資格として、つまり裁判官であろうと検事であろうと弁護士であろうと、全人格的にふさわしいというのが法曹資格であろうと思うのです。つまり、中立、公正なものの考え方がなくて、性格的に偏屈である。まあ精神異常ではないけれども、何か一方に偏して自説を絶対に譲らない、人の言うことなんかちっとも聞かない、わかった、わかったとばかり言うというようなのは困るわけなんです。そういうのが基準じゃない。だから、あまり成績のことは言わぬほうがいいのじゃないかというふうに思って私は質問したわけなんですが、この点いかがですか。
  46. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これもいずれかの機会に申し上げたかと思いますが、いい方に来ていただきたいというのは、これはそれぞれのところの願いでございます。非常に失礼な言い分でありますが、弁護士事務所で若い弁護士さんをおとりになるときでも、少しでもいい人に来てほしいとお考えになる、当然のことではなかろうかと思います。私どもも、そういう意味で、裁判の仕事というものが国家意思を形成するという意味で重要でありますればありますだけに、一人でもいい方に来ていただきたいということを常時願っておるということを申し上げておるわけでございます。
  47. 青柳盛雄

    青柳委員 だいぶ時間もたってまいりましたので、最後に一つの項目についてだけお尋ねして終わりにしたいと思います。  今度の定員法の改正は、提案理由によりますと、高等裁判所の事務が渋滞しているといいますか、高等裁判所における刑事長期未済事件の適正、迅速な処理をはかるため、それで判事補を二人ふやす、こういうことなんですが、これは判事補をふやせばおのずから高等裁判所のほうを充実させることに役立つ、つまり判事補高等裁判所にたくさんやるという意味ではないと私思うのですけれども、この点はいかがですか。
  48. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 この前も御説明いたしたかと思いますが、これは地裁のほうに判事補増員いたしまして、それは主として給源の関係でございますが、それによりますと、地裁判事補を今度職務代行という形で高裁のほうにつけて高裁のほうを応援させるということができる、そういうふうな考えでございます。
  49. 青柳盛雄

    青柳委員 それから今度は、簡易裁判所における道交法違反事件の適正、迅速な処理をはかるために簡判を三人増加する、これはそのとおりだろうと思いますが、実は前回、昨年度ですね、簡判をふやす際には、提案理由によりますと、民事事件の適正迅速な処理をはかるために四人ふやす、こういうことになっております。これはつまり、簡易裁判所というものはかけ込み訴訟を処理する、国民の最も日常的なトラブル、権利の保護ということに徹するために申し立てというか、訴訟提起のしかたを簡素化する、つまり口頭で受理するというようなことも含めて、そして、適正迅速な処理をはかるということ、つまり簡易裁判所の機構を充実させるということにあったと思うのですが、これはそれで非常に前向きだと私思うのですけれども、実績はどうだったか。四人ふやしてほんとうによかったというような経験が報告されているかどうか。一年たったわけですから、これをお尋ねしたいと思うのです。
  50. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 仰せのとおり昭和四十八年度におきましては、簡易裁判所判事及び書記官各四名、それから事務官二十四名という数の増員をお認めいただいたわけでございます。これも御指摘のように、簡易裁判所国民に親しみやすい裁判所にするということで、口頭受理その他の訴訟法にありまする特則を大いに活用するということとして、御配慮いただいたのでございます。私どものほうとしても、その点につきましてPRその他いろいろ努力してまいっておりますが、何ぶんにも緒についたという段階でございますので、必ずしもそうした特則手続によるという事件は、そう大幅にはふえてまいっておりません。と申しますのは、簡易裁判所事件そのものが若干最近減る傾向にございますので、したがって、それに占めるところの特則手続によるそうした口頭受理等の事件数もそう大幅には伸びないのでございますが、まあ若干ずつふえておるという状況でございます。したがいまして、そういうふうな状況でございますので、昭和四十八年度におきまして増員等の御配慮をいただきましたので、いましばらく事件の推移、それから今後の私どものほうのいろいろな施策等を講じた結果、どういうふうになるかということを期待しておるのでございます。で、会同等いろいろやっておりますが、ごく最近にも簡易裁判所判事会同をそれぞれの高裁管内で行ないまして、こうした特則手続の活用といった面につきましても、簡易裁判所判事の一段の協力と申しますか御理解と御協力を得るよう、いろいろお頼みしている次第でございます。今後この特則の活用というものがいま一段と活発になされることによって、簡易裁判所が本来の、国民みんなに親しみやすい裁判所となることを、大いに期待している次第でございます。
  51. 青柳盛雄

    青柳委員 昨年は民事、ことしは刑事といったような形で、去年は四人でことしは三人だというのですが、私はこの刑事事件の迅速な処理ということも、道路交通違反などが多いわけですから必要だと思いますけれども、やはり民事のほうをもっと力こぶを入れていただきたいというふうに考えるわけです。口頭の受理というようなことを一つとってみても、これは窓口にいる書記官などがおおむねその衝に当たるのだろうと思うのですが、地方自治体などでも課長クラスが窓口に出て、直接住民のいろいろの訴えを聞くというようなところも出てまいっておりますので、本来、簡易裁判所裁判官が充足されるならば、裁判官室というようなところにすべての人ががんばっているというのではなくて、窓口に近いところに裁判官も出て来られて、そして一般民衆が裁判所に相談に来るというときには、積極的に口頭受理でも何でもするようなやり方をとって、どんどん処理してもらうということがいいと思うのです。  こういう前向きな考え方をことしに限ってやらない。——ことしに限ってではありません。ことしはやらないというのは、いまのお話ではどうもまだ事件がふえないとかよく徹底していないとかいうようなお話なんですけれども、たとえば昨年度の欠員は二十六名だった。ところがことしは三十名、四名ふえているようですね、法務省作成関係資料によりますと。ですから、何かせっかくふやしたんだけれども欠員がまた四人ふえちゃった。これは偶然かもしれませんけれども、こういうようにやはり指導が徹底していないというような面が考えられるのですが、もっとくふうをして、もう欠員どころじゃない、足りなくて困るんだというような処理のしかたというものは考えられないのかどうか、これをお尋ねしたいと思うのです。
  52. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたとおり、昭和四十八年度において増員等の御配慮をいただきましていろいろ努力してまいっておりまして、今後もその点、御趣旨の線に沿って努力してまいる点は変わりないのでございますが、事件状況等からいって、特に四十九年度さらに増員をするということでなくても、四十八年度の増員によって体制が整ったというと言い過ぎではございますが、体制もある程度整ったということでございますので、いま少し事件等の推移も見たいということでございます。この特則手続の活用につきましては、四十六年の五月に民事局長名で、簡易裁判所の訴訟手続に関する特別実施要領といったようなものもつくりまして、各裁判所に周知徹底をはかっておるのでございます。先ほど御指摘のあったように、口頭受理のやり方その他についても、なおなお改善する点もあろうかと思いますが、そういう点も加味しまして、こうした実施要領の再検討といったようなことも、場合によっては考える必要があろうかというふうに考えております。
  53. 青柳盛雄

    青柳委員 いまの問題、法務大臣もお聞きになったと思いますけれども簡易裁判所の充実強化といいますか、ということは、今後も引き続き一つの課題として追及していくことが望ましいと思うのですが、大臣はどうお考えになっておられますか。
  54. 中村梅吉

    中村国務大臣 簡易裁判所は、一番末端の司法機関でございますから、できるだけ大衆となじんで業務が遂行されることが望ましい、お説のとおりと考えます。したがいまして、そういう点につきましては、これは最高裁判所の所管ではございますが、われわれも関心を持って今後進んでまいりたい、かように考えます。
  55. 青柳盛雄

    青柳委員 終わります。
  56. 小平久雄

    小平委員長 沖本泰幸君。
  57. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先日、私は正森議員と御一緒に横浜の地裁の内容をいろいろ調査に行ってきたわけでございます。そこで印象的なものをかいつまんで申し上げますと、たとえば簡裁の建物の中に入ったんですが、とにかく足音をたてて歩いては困る、たくさん人が乗るとあぶない、そういうことを言われたわけです。それで早急に建て直すような方向には向いているというお話なんですけれども、これは一日も猶予ができない問題じゃないか、こういう印象を受けたんです。皮肉に申し上げるわけではないんですけれども最高裁判所の建物が完成期にもう近づいて、すぐそこにすばらしいのができ上がりつつあるわけですけれども、それと比べると、あまりにも差が激しい。同じように国民が自分の生命、財産なりなんなりを根本にした問題を取り扱ってもらう場所としては、公平なものを求めていることになるわけです。この簡裁の悪いというのは、いつもどこへ行っても一番あと回しということが現実にあるわけですし、したがいまして、建物も悪いし、仕事も、非常に条件も悪いということになってくるんじゃないか、こう思うわけです。こういう点で、現在簡裁のこういうふうな同じような条件にある建物が全国に幾つぐらいあって、どのような現状でどういうふうにこれからおやりになろうとしていらっしゃるかということを、正確にということは申し上げませんけれども、概略、状況がわかるような形で御説明いただきたいと思います。
  58. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 いま手元に数字を持っておりませんで、正確に申し上げることはできませんが、簡易裁判所でいわゆる独立簡裁、支部とか本庁と一緒のところにないという簡易裁判所が二百六十ぐらいあるわけでございます。現在の裁判所庁舎の全体の建築、改築等の状況でございますが、逐次努力してまいりまして不燃庁舎に変えつつあるわけでございますが、これが昭和四十四年度におきましては全体の七六%ということでありましたのに、四十八年度中にはこれを八四%まで引き上げることができたわけでございます。数字的にはこのようにかなりの程度に不燃庁舎がふえたのでございますが、簡易裁判所の数が非常に多いというせいもありまして、場所によってはかなり時期的にあと回しになっておるというところもあろうかと思いますが、全体としてはそのような進捗状況であるということで御理解いただきたいと思います。  なお、御指摘の横浜簡裁でございますが、これは昭和二十四年度の建築で、いわゆる戦後のバラックでございますので、非常に老朽化しておるのでございますが、これは横浜地方裁判所の本庁でございますが、これは昭和五年の建築で、かなり手狭な上に戦前の建物でございますので、いろいろ設備等も不十分といった面もありまして、これを早急に改築しなければならないといったような状況もございます。この横浜地裁の本庁を建て直すということも早急にしなければなりませんので、その際には、横浜簡易裁判所も一緒にその建物の中に入れるということで、いましばらく横浜簡易裁判所の不便、老朽の点については、どうかもう少しがまんしていただきたいというふうに考えておるわけでございます。横浜地裁の本庁につきましては、いずれ近い将来この改築に取りかかるということになろうかと思います。
  59. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いわゆる快適な庁舎で執務できるというところとそうでないところの差が、お互いの生活が近代化されていっているという中にありますと、その格差が非常に激しいということになるわけですから、そうしますと、そこで執務される裁判官にしましても職員にしても、労働条件、執務条件というものに大きな差ができてくるわけですね。そういうものは何らかの形で補っていける、たとえばどうにもならないものは何らかの手当的なもので補うとか、勤務時間的なもので補うとか、ほかの何か特典があって条件の違うものを補ってもらえるとか、そういうものがなかったらこれは公平を欠いていき、非常に条件の悪いところで働かされるということになるわけですから、そういう点をやはり十分考えていただかなければならないのじゃないか、私はそう考えるわけですけれども、そういうものについて、最高裁としては何らかのものをお考えになっていらっしゃるかどうか、お伺いしたいと思います。
  60. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘のように、やはり建物が不十分でございますと、たとえその中におられて勤務される裁判官職員その他の方がりっぱな方でありましても、勤労意欲と申しますか、そういった面にいろいろ影響なしとしないわけでございますので、その点について先生御指摘のようないろいろな措置をとったらいいではないかということも考えられるわけでございますが、一般公務員としていろいろ勤務条件その他きまっておりますので、そういうふうな不十分な庁舎にいるがゆえに、特にほかの面でいろいろ優遇するということもなかなかむずかしい面があるのではなかろうかと思うわけでございます。そういうふうな点を考えますと、一刻も早く新しいりっぱな庁舎に建て直すということが私どもとして当面考えなければならないことであろうかというふうに考え、早急に努力したいというふうに思います。
  61. 沖本泰幸

    ○沖本委員 順を追ってお伺いしたいと思いますけれども、横浜をおたずねして、特に私みたいにしろうとに一番印象に残ったのは、たとえば速記官の方が、いまここに国会の速記官の方がいらっしゃるわけですけれども、時間的に交代して速記をしていらっしゃる。ところが裁判所の速記官は、法廷へ入ったら入りっぱなしで、一人が担当してずっとやっていくというところに全然違う労働条件があるということになるわけですね。そういう点がより人数が足りないから労働過重になってしまって、職業病にかかる率も非常に多くなってくるし、精神的にも非常な負担がかかってくるということになってもまいりますし、それからいろいろな関係から、いわゆる早く結論を得たいために、内容を早く知りたいということの要求が出てくるから、どうしても仕事の量がだんだんふえてくる。あとで少しこまかいことは申し上げますけれども、そういうふうなものが非常に違った面であらわれてきているということを、私たち聞いていてよくわかるわけなんですね。そういう点をやはり一まとめにしてお考えになる、裁判所のほうで十分そういう問題が取り上げられていろいろと検討されておるかどうかということなんです。  それから、行ってショックだったのは、交通裁判で、何秒間に一人という率で審理が行なわれているということを伺ったわけですけれども、これじゃ裁判という活字だけであって、中身ははずれてしまっているのじゃないか、こういうふうに考えられるわけです。そういう点がもしそうであれば、そういうものをはずして、新しい方法を考えたほうがいいんじゃないか、国民が十分自分の正当性なり、自分の権利を守ってもらうなり何なりの裁判を行なってもらうということよりも形式的な裁判が行なわれておるということであれば、むしろ人がそういうさばきをするよりも、調査した結果なりあるいは本人の言い分なり、加害者、被害者の言い分というものをコンピューターにかけて結論を出したほうがまだ正確な結論が出てくるんじゃないかという点もありますし、それから、もう忙しいので判こを押すのも書記官が判こを押しているというようなことも、前に事件があったけれども現実にはそういうことにおちいる内容を持っておるし、おちいってもおる。こういうふうなことをお話をしていらっしゃいましたけれども、こういう面について、実際に最近の事件の件数の動向なりあるいはそういう特殊な面における裁判官の持つ事件数ですね、それが可能な範囲内の事件件数であるかどうかという点についてお答えを願いたいと思うのです。
  62. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘のように、横浜におきますところの交通事件簡易裁判所におけるところの交通事件が最近急激にふえておりまして、これはやはり全国的な傾向でございますが、特に横浜で著しいようでございます。  御承知のように、交通事件の処理につきましては、反則金制度というものができまして、一時非常に減ったのでございますけれども、四十五年以来急激にふえて、それに対する対策として、四十五年、四十六年にわたって簡易裁判所判事、書記官、事務官等の増員の措置等お認めいただいたのでございますが、現状においてもなおかつ足りないということで、四十九年度におきまして簡易裁判所判事三名、書記官二名、事務官十二名の増員ということもお願いいたし、ただいま審議いただいておるのでございます。  裁判のやり方が何秒間に一件ということでは裁判の形をなさないのではないか、こうした御指摘は過去におきましても、反則金制度ができます前でございますが、墨田の簡易裁判所でいわゆる在庁略式という形で処理しておったときも、いろいろそういった面の御批判がございまして、そういうふうな関係もありまして反則金制度という制度が現在行なわれておるのでございます。まあ先生御指摘のように、そういうような状況ならばさらに新しい制度を考える必要があるのではないかということでございますが、制度の問題となりますと、最高裁判所でこれをきめるというわけにまいりませんので、それについてどうこうと意見を申し上げる立場にはございませんが、さしあたりの問題といたしましては、やはり職員を充実して、いやしくもそのような批判を受けないというふうな形の事件の処理体制というものを何とかしてつくり上げなければいけないというふうに考える次第でございます。  なお速記の問題がございましたが、裁判所におきますところの速記は、機械速記、速タイプという速記でございます。この速タイプを取り入れたというのは、いろいろ理由もございますが、こうした機械速記ですと、手で書く速記よりも手があまり疲れないといったような点でしょうか、軽いタッチでもって符号が打てるというような点で、ある程度の長い時間速タイプが打てるというふうな利点等も考慮してこういうような採用に踏み切ったということに聞いておりますので、国会におきますところの速記とは違いまして、ああした機械速記ですと、ある程度継続してタイプを打つということは可能ということで始まったようでございます。なお速記につきまして、単に速記機械を打つというだけではなくて、それの反訳という仕事がございまして、反訳の時間というものがかなりの倍率になっておるのでございます。したがいまして、一時間速記のキーを打ちますとそれを反訳する際には九倍から十倍かかるといったような点もございまして、そういうような点で若干身体に障害を生じているという面もあることは確かでございます。
  63. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ここで資料をもらっているんですが、裁判所速記官と国会速記士との比較という点で、昭和四十七年十二月から四十八年九月二十五日までの二百八十日というロングラン国会で衆参記録部の速記十数人が腕を痛めてばたばたと倒れた。これは毎日新聞に出ている。同紙の報道によれば、驚くなかれ、裁判所速記官は国会速記士の三倍以上の立ち会いをしていることがわかる、ということで、計算は四十七年十二月から四十八年九月二十五日までの分として、衆議院のほうでは三千二百十九時間三十六分、これで人は百二十四人、一人当たりの速記時間が二十五時間九分。参議院が千六百六十三時間三十九分、人員が百五人、一人当たりの速記時間が十五時間八分。横浜地裁の場合は、刑事部が速記時間が七百四十三時間、人員が九人で一人当たり八十二時間。民事部が約七百四時間、人員が十人で、一人当たりが七十四時間。全体としては千四百四十七時間、十九人で一人当たりの平均は百五十六時間。民事部のA氏の場合は速記時間が八十五時間十五分、ですから一人、八十五時間十五分、それから刑事部B氏は一人で九十八時間の速記の時間を使っている、こういうことになるわけですね。そういう記録が出ているわけです。ですから、いまおっしゃったとおりに機械速記をやっておるからといって、あながち対象がいろいろ違う、こういうことは当たらないという記録がここへ出ているわけですけれどもね。そういうことで、これは結局どちらも同じですけれども、反訳して直さなければならないという問題があるわけです。ですから、こういうふうな非常な無理が重なってきてやはり労働過重的なものになってきているということになるわけですね。間で休憩できる時間というものはないわけです。法廷へ入りっぱなしということになるわけですから、その辺やっぱりこういうふうな、私たちが記録いただいてびっくりしているということよりも、むしろ最高裁のほうでこういう記録をとった内容から具体的なものの検討をしていただいて、人間的にこれでいいんだろうか悪いだろうか、労働時間として妥当だろうかどうだろうかというようなものからやっていただかないと、やっぱり人権を一番尊重していただく裁判所が人権を一番軽視するというようなことになったのでは、これは困るということになってくると思うのですが、その辺をもっと検討していただく余地があると思いますけれども、この点いかがでございますか。
  64. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 ただいま先生御指摘資料、特にこちらのほうで見ておりませんので、詳細はよくわかりませんが、国会の速記官の方と比較して云々という点、私どものほうもよく詳細わかりませんが、全国的に見ますと、速記官は大体週に二時間法廷に立ち会うというのを一応標準と考えておるのでございますが、これは平均でございますので、現実には週二時間に満たない。そうすると、一月に五時間から七時間ぐらいの間立ち合っているというのが数字的には出ておるのでございます。もちろんこれは平均でございますので、ある週では一日四時間もずっと打ち続けた、ある週には三十分で終わったというような場合もございますから、平均だからということで、その点はあまり強調できないのでございますが、数字的に平均週二時間弱ということでございますと、これを反訳するということで、かりに倍率を十倍といたしましても、結局あと二十時間あればこの反訳ができるということになりますと、速記官の勤務時間全体から見て、勤務時間まるまるその速記に取りかかっていなくてはならないという状況には一応ないように数字的にはなっておるのでございます。ただ、実際の事件になりますと、やさしい事件もありますし、むずかしい事件、神経を非常にとがらして聞きすましていなければならないような事件もあれば、軽くタイプできるというふうな事件もございますので、それぞれその内容によっては違うとは思いますが、数字的にはそういうふうになっているということで御理解いただきたいと思います。
  65. 沖本泰幸

    ○沖本委員 具体的にお話ししておられたのですが、形の上ではそうかもわからないけれども事件数が非常に多くなってきて、今度はそれを扱っている人の心理状態というものを考えていくと、たとえば地検の次席検事さんあたりから、弁論調書について次の法廷までにつくってほしいとか、これは手控えの記録を取った場合というようなことで、どんどん注文がつけられてくるわけですね。それに合わせなければならないということになると、しょっちゅう記録のことばかり考えていなければならない、そういうふうな日常を送っているということになるので、いわゆる平均値だけ出しているのでは、こういうところでいらっしゃる人たちの心理状態というものはくんでもらえないということになるわけです。特に弁護士さんあたりになってくると、全部を要求されてくるということになると、それがますますひどくなってくるという点なんですね。その辺にいろいろと問題が出てくるわけです。そういう点について所長さんといろいろと話をするけれども、結局一つ一つについては裁判官の方だけの考えでものごとが決定されていくということになるので、個人の考えておることとか注文とかそういうふうな具体的な内容については、ほとんどカットされてしまうということがあるので、この点は十分考えた処置のしかたをしてもらわなければ、人間的にまずい問題が出てくるということになるわけです。これは、おっしゃっていることが当然ではないか、こういうふうに考えられるわけですけれども、その点はいかがですか。
  66. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 おっしゃるとおり、単に数字の問題ではなくて、それぞれの勤務のしかた、それから速記をした当該事件の内容、それから事件関係者の速記録に対する要望の熱意の程度といったようないろいろな問題もございます。そうしますと、これも各裁判所にまかしておるのでございますが、たとえば速記官の配属をどういうふうにするかといったような問題もございます。これはそれぞれの裁判所できめるわけでございますが、各部に配属してしまうか、それともある一定限度プール制にして、立ち会いの場合にもたとえば三十分ごとに交代するといったようなやり方等もいろいろあろうかと思います。そうしたような速記官の執務の実態等につきましても、今後十分私どもとして関心を持ちまして、それについて対処すべきものがあるということであれば、それぞれそのつど何らかの対策を講じていきたい、こういうふうに考えております。
  67. 沖本泰幸

    ○沖本委員 裁判所のほうにまかしているとおっしゃるのですけれども、この間もおっしゃっていましたけれども裁判官にあらずんば人にあらず、こういう激しいことばが出ていました。やはりそういうようなことがあるということになるのですね。その辺はよく実情を見ていただいて、裁判官と一般職員との関係というものをよく調整してもらうところまで持っていってもらわなければならないのではないか。ただ一律にどうこうということでなく、十分その辺を調査した上で結論を出していただいて方向をきめていただく、こういうことでなければならないと、私たちそのとき感じたわけです。  それから、書記官は定員の一割、速記の方は約三割が欠員だということで、このときの質問でも、その欠員の分の費用はどういうふうに使われているんだろうかというような質問も出ておりました。これはいろいろと検討していただかなければならないし、そういう疑問も持たさないようなことをしていただかなければならないと思います。先ほど、一回の事件で二人が交代で入っても、一日一回は必ず中に入っていっておるというような内容とか、ですから、いまの分を充足していただくためには、現在配置されている問題について、各部に三名の配置はしてほしいし、それで全国平均かけていけば全国の部に三人をかけた分が必要量になってくる。そうでなければ重要な問題が出てくる、こういうこともいわれております。その点については十分検討を加えていただかなければならないと思いますけれども、いかがですか。
  68. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 速記官が足りないか足りるかという問題でございますが、確かに最近、そうした逐語調書と申しますか、供述をそのまま録取するということに対する要請がふえていることは間違いないとは思いますが、結局、いかなる事件が速記を必要とする事件であるかといったような基準等、これは各裁判官の御判断ということになるわけでございますので、速記を必要としないような簡単な事件に速記が付されているという面もなきにしもあらずのわけでございますが、いずれにいたしましても、事件のうちどの程度まで速記を付することがいいのか、必要かといったような問題もございます。全国平均で見ますと大体二五%、全事件ではございません、調べた証人のうちの二五%、大体四分の一ぐらいは速記が付されているということでございますし、他方、また普通速記を要する事件として考えられます労働、行政それから最近の公害事件、それから刑事でいいますと公安事件といったような種類事件を考えますと、四分の一程度速記を付することができるということであるならば、一応それによって、これも数字的な問題でございますが、まかない得るのではないか。あとは各地の需要に応じたところの適正配置ができるかどうかという配置の問題になろうかと思います。他面、まだ最近録音機等の技術が飛躍的に発達したというような面もございますし、他方いろいろな問題もございますので、それら総合的に検討しなければならないというふうに考えております。
  69. 沖本泰幸

    ○沖本委員 テープの問題が出てきましたので、テープについて申し上げますけれども、向こうからいただいた資料によりますと、「カセットテープの調書引用状況地裁本庁刑事八係ということで、この下のほうに「テープは毎月、刑事部全体で四十巻の交付を受け、ほぼ使い果している。八係のほか六係がほぼ同数の引用を行っている。七係は昨年中に二件引用した。テープの引用後調書を作成し直した件数は八件で、現在まで約十八件、内訳は、控訴及び検察官の要検討が十六件、弁護人の請求が二件」こういうことで、四十八年の六月から四十九年の一月までで、一番多いのは十月、開廷回数が十七で被告人が百四十五、テープ引用した被告人の数三十九、使用したテープの巻数が二十八巻、これは八係ですが、こういう数が出ております。この一月はテープを引用したのが二十で使用したテープが十六巻、こういうふうな数が出ておるわけです。ほとんどこういうことでテープが使われておるということになるわけですけれども、この前の臨時国会でも、さらにこのテープを使うということで相当いろいろ、私も御質問しましたし他の方の御質問もあったわけですけれども、こういうものが入ってきだすと、だんだんそういう方向に向かいつつあるということになるんではないかというふうに考えられますけれども、その分だけがだんだんとまた労働過重的なことになっていくんじゃないかというふうに考えられるわけですけれども、その点いかがですか。
  70. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘の点は、おそらく録音帯を引用する、録音機でテープにとりましたものを、それを反訳して文字に直すということをしないで、録音帯をそのまま引用して調書の一部とするという、そうしたやり方だろうと思うのであります。これは、横浜地裁で四十八年の六月、昨年の六月から始めたように聞いておりますが、これは特に私どものほうでいろいろ指示をしてやらせたということではございませんで、横浜のほうで実験的にということで事実上始められたようでございまして、内容の詳細については私どもわからないのでございます。使用テープの数等につきましても、ただいま御指摘の数字等私ども持ち合わせておりませんので何とも申し上げかねるわけでございますが、ただいまおっしゃいましたように、それに基づくところのかえって労働過重ではないかというようなこと、その点も今後よくいろいろ聞いてみないとわからないのでございますが、いろいろの問題も含みますので、いまこの段階で、私どものほうとしてこうしたやり方がはたして妥当であるとまで言い切れるかどうかということについては、いまのところなお検討中ということでございます。
  71. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この問題はやはり危惧する点があったから、前回の国会では相当疑問を持っていろんな点についてみな御質問をやったわけですが、やはりこういうものが導入されてくると、われわれが危惧したことが現実になってあらわれてくるおそれがだんだん出てくるということになるわけですから、こういう点はやはりそのつど問題点をよく考えていただいて、われわれの危惧した方向にいかないように処理をしていただかなければならないと考えるわけです。  それから宿日直の点についてですけれども、実際に簡易裁判所あたりの回数が月のうちに五回も六回もという話が出ているのです。横浜の場合ですと宿直の回数は、女子の場合は一週間に一日日直があって三名、男は八名、ですから女子は三週間に一回、男は一週間に一回の程度で宿直が回ってくる。これは簡裁です。それから鎌倉のほうは、五人で月三回から四回、六回も七回もになる場合があるということです。これは人員関係もあると思いますけれども、ただそれだけではなく環境が非常に悪いし、そのまま仕事をしなければならないという条件もいろいろあるので、こういう点は十分考えてもらわなければならないというふうな話をしておられましたけれども、こういう点はいかがなんですか。全国的にごらんになっていただいて、宿日直についてのこういう問題の整理のしかたについてお答え願いたいと思うのです。
  72. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 御指摘のように簡易裁判所が全国で五百七十五というような数にのぼっておるわけでございまして、全庁数を入れますと千百幾つあるわけでございます。勢い職員の数も非常に小ないところがございまして、職員が五人以下あるいはもう少し大きくて十人以下ということでありましても、宿直あるいは日直をやる回数というものは非常にふえてまいります。御承知のように、裁判所がある意味で二十四時間の即応体制をとらなければいけないという面のあることも当然ではございますけれども、しかし一方、職員が一週間に二度も宿直をしなければいけないというような状況に置かれるということも、きわめてお気の毒なことでございます。そこで、ここしばらくの間全般的に職員の数の少ないところの宿日直をやめていくという方向で検討をいたしまして、これは検察庁あるいは警察等関係方面とも十分御了解を得なければいけないわけでございますが、そういうふうな御了解を得、予算的なそれ相応の手当てもいたしまして、順次宿日直廃止庁というものをふやしていくという方向で検討し、昨年度も相当数の廃止をいたしましたし、本年もまたかなりの庁についてそういう廃止を実行するということで予定をいたしておるわけでございます。
  73. 沖本泰幸

    ○沖本委員 同じように裁判所職員の勤務時間外の令状事務処理について宿日直の評価を改めて、本務の延長または勤務時間の割り振りの変更という形で評価してほしい、こういう要望があるわけなんです。それで、横浜なんか特に海をかかえておるので、緊急に船なんかの問題で、出港なんかの関係があるので、特にそういう点が多くなっておるということなんです。ですから、その平均値というものをとっていただくのに、比較的ひまなところとか軽いところもあるじゃないかということよりも、やはり労働条件が一番きついところをいろいろ検討していただいて、そこの条件を改めていただくということのほうが大事ではないかというふうに考えるわけです。ですから、この職員の皆さん方が、一番の監督官庁である皆さんのところへ要望に行ってそれがいれられれば、私たちにいろいろ注文をつけるはずはないと思うのです。ところがわれわれをしてこの場所でこういうことを言わせるということは、満たされていないということ、それは限界があるし、裁判所のほうにもいろいろ事情もある。条件もあるということになるわけですけれども、行って聞いてみると、うなるようなことがときどきあるわけですね。いってみれば、言い方がオーバーであるとか何とかかんとか反対条件としてのお説もいろいろ出てくると思いますけれども、私たちが行ってみると、もっともだということのほうが多いということになってくるわけです。そういう点を考えていきますと、やはりこういう点十分聞いていただいて、ほんとうに検討して、十分話し合って、できないことはできないという点があればそれは十分納得をしてもらえるだけの努力なり何なりというものがなければならない、こう考えるわけですけれども、いま言いましたような、評価を変えてほしい、こういう点についてはいかがですか。
  74. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 宿直を例にとってみますと、通常、宿直というのは庁舎設備の管理ということが重点でございますが、検察庁でございますとか裁判所でございますと、夜間のいわゆる令状事務といったような問題が出てまいります。そこで、検察庁も同様でございますが、事件宿直という制度がございまして、その場合は単なる庁舎の保守ということではなくて、事件がその間に来るということもある程度考慮に入れまして、そういった事件宿直というものを行なっておるわけでございます。現在横浜では事件宿直ということで処理をいたしております。金銭的なことを申し上げて、あるいは恐縮なのかもしれませんが、通常の宿直よりも一晩当たりの単価が高くなっておるというような状況で処理いたしております。しかし、これも程度問題でございまして、その程度が、非常に恒常的に、夜必ず何度か起こされるということがずっと続いていくというようなことになりますれば、これは事件宿直ということで処理すべきではなくて、むしろ勤務時間の割り振りとかそういうことをいたしまして、深夜勤務をすることが本則であるという方向へ持っていかなければならないわけでございます。どういうふうな扱いをするかということは、率直に申しまして、その辺のところの検討は常に怠らないでおるつもりでございますが、残念ながら、ときどき沖本委員等から御指摘を受けまして、またそのつど新たな検討をいたしておるという段階でございます。  私どもとしては、通常はそういう点も十分考慮に入れて現在の扱いをいたしておる。ただ、問題は裁判所だけではございません。検察庁あるいは警察等とも関連する問題でございます。今後ともなお十分検討を怠らずに、適切な措置をとっていきたい、このように考えます。
  75. 沖本泰幸

    ○沖本委員 法廷があって、和解するような場合ですね。それが昼休みにやろうとか、あるいは時間外にずっとあとまで話し合いが続けられていって、結局は労働時間の延長のような形に変わっていってしまう、それがただ裁判官だけの問題でなくて、そのほかのいろいろな条件が重なってきて、それに従っていかざるを得ないような事情が生じてくるということが生まれてくるわけですね。そうなってくると、ただ話し合いできめたとか、ここであらわれておること以外のことがいろいろ起きてくる。そういう問題を十分考えて改善をしてもらわなければ、ほんとうに改善をはかっていただいたということではなくて、考えておるということに終わってしまうというのが現実だ、こういうことなんです。こういう点は特に具体的なことをやはり中身にした検討を加えていただかなければならないのじゃないかというふうに考えます。  それから今度、女子の方々でお産のときの交代要員が認められない。自分でさがしてこいと言われるらしいのですね。交代をいわゆる臨時で来てもらうわけですから、定められた時間給ではとうてい来る人はいないわけです。そういうふうなことでさがしてきたら今度は、交通費を含めて出していくと結局相当な金額に上がっていく。その分だけは与えられた日数を縮めざるを得ない。縮めた分はだれかがかわってやらなければならない。こういうふうなのが現実だというのです。それで、費用は千五百円で、これがいわゆる交通費込みということになっているわけです。お産で休んだ場合には産前産後六週間は見ていただかなければならない、こういうことはもうはっきりしているのです、労働条件として。ところが、現実はそうではないということになると、いわゆる労働条件を裁定する裁判所が労働条件を無視した労働内容を与えているということは、非常に問題になるのじゃないか、こう考えられるわけですね。それは法廷で裁判官がおさばきになるものと裁判所の中身とは一つ一つ違うということはいえるかもわかりませんけれども、そこにはやはり十分人権を認めるなり基本的な労働条件なり何なりを認めた中身のあるものをしていかなければ、裁判所のほうでそれだけのことをやる権能がなくなってしまう、こういうことにもなると考えられるわけですけれども、その点についていかがですか。
  76. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 お産ということは非常に重大なことでございまして、その前後正しい休暇を与えなければいけない、これは当然でございますし、その点を値切るというようなことは、全国、絶対にいたしていないわけでございます。ただ、お産で一人の方が休まれますと、そのなさっておる仕事のいかんによりまして、どうしてもかわりの方をその間雇わなければいけないという問題が出てまいります。そこで、いま沖本委員の、それを雇うについて十分の費用がないのではないかという御指摘でまことに恐縮でございますが、確かに一般的な人手不足というような状況のもとにおきましては、それがコンスタントな問題ではございませんで、きわめて個々に特異性のある特定期間という問題でございますので、それにマッチした適当な方を直ちに持ってまいるということが非常にむずかしいわけでございます。と申しまして、お産が全国一定平均で年間あるといたしましても、それを特定のところにプールしておきまして、お産で休まれるということになると派遣してその間勤務してもらうというようなことも、事が女性の問題でございますだけに、実際問題としてはなかなか困難でございます。これは適当な費用でもって現地で臨時にお見つけいただくよりほかしようがないということになるわけでございます。そういたしますと、いまも御指摘のようななかなか適当な人を見つけにくいという問題が出てまいりますが、しかしこれは私ども理論は別といたしまして、女性の方がお産で休まれる、そのことによってかりにある短期間仕事の忙しさというものがふえるといたしましても、同僚諸公ができるだけこれをカバーし、くふうしてその間の仕事を合理化して、業務に支障のないように、また周囲により負担がかかることのないようにという努力も一方ではいたしておるわけでございます。そういうことで、御指摘の平均単価でもって適任者が雇えるかどうか、これは今後十分検討いたしていきたいと思いますが、そのことによってお産の前後休むべきものが休めない、そういうようなことはないとひとつ御了解いただきたいと思います。
  77. 沖本泰幸

    ○沖本委員 結局は千五百円じゃ来てくれませんからね。そうすると千五百円分に足していくことになると、お金を集めてくるわけですね。そうすると休む日数がなくなってくるわけです。そうすると、それだけ休んでいいということは認められておっても、具体的にはそういかなくなってしまっているのが現実だ。だから裁判所のほうでなかなか見つけられないから、自分でさがしてきなさい。さがしてこれるだけの費用を裁判所のほうで出してくれれば、それはさがしてくる。しかし千五百円で縛られているということになると、来てくれ手がない。そうすると何日分も一日の分として出す以外にない。そうすると来てもらって、やってもらった分で結局日数はたってしまう。あと足らずまえは結局早く出てきて働かざるを得なくなってくるということになっているわけです。ですからそういう実情を見て、実情に合ったようなことを考えてあげないと、労働条件が満たされないということになるわけです。よそのところではいろんな形で振りかえて、そういうものをうまく細工をしていらしゃるというのです。ところが裁判所はそうはいかないんだという点に問題点があるということをおっしゃっておられましたけれども、そういう点考えていきますと、お米の足りなかったときに栄養失調で判事さんがなくなったというようなことになったら困るわけですね。ですから具体的な内容をよく検討していただいて、合ったように考え直していただかなければ、ほかの方法を考えていただく以外にないわけですよ。その点いかがなんですか。
  78. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 お産でお休みになる方が正規の休み期間をとれないような結果になるということは、これは絶対にいたさないように今後とも十分努力いたしたいと思います。御指摘のように非常にかたい役所でございまして、なかなか融通がきかないというおしかりでございますが、ただ、いろんな点で努力の足りない面もあろうかと思いますが、今後融通をきかすというようなことではなくて、十分やっていけるように努力いたしたいと考えております。
  79. 沖本泰幸

    ○沖本委員 またもとの大きい問題に戻っていきますけれども現実裁判所職員定員増員ということですと、何かいつも足りない足りないで、いつまでたっても足りない。毎年毎年できるだけやっているのですが、結局はこういうことに終わりました、もっとふやさなければいかぬじゃないですか、という問答の繰り返しでいつも終わってしまうことになるわけですけれども、そういうしわ寄せが一般職員の皆さんのところに全部いってしまって、結局いろんな反発になって返ってくる。そこに無理が起きてくる、病気が出てくる。いろんなことが起きるわけですから、その辺はもう一度具体的に内容を拾っていただいて、それぞれの要望している中身を見合っていただいて、それに合っただけのことを——できないにしても、できるだけそこへ引きずり込んでいくような方向のことをやっていただかなければ、ただいつも議論に終わってしまうということになりかねない、こう思うわけです。その点を十分お考えになってやっていただきたいと思うのです。そうでなければ何にもならないと私は考えるわけです。その点いかがですか。
  80. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 裁判所が自分のほうで仕事の計画をあらかじめ立てまして、その仕事を適確に遂行していくということでございますと、あらかじめどこにどの程度の人間をふやしておいて、その上で仕事をやっていくかということがきめられるわけでございますが、御承知のように、ある意味では非常に受動的な役所でございます。外的な事由と申しますか、訴訟が多くなると忙しくなるといったような事情が出てまいります。私どものほうでその訴訟の起こってくるのをコントロールするという問題が不可能でございますので、勢い受動的にならざるを得ないわけで、手当てが一歩おくれてくるということが間々あるわけで、その点を御指摘いただいておるのだろうと思います。しかし、たとえば具体的にただいま御指摘の横浜ということを考えてみますと、東京周辺のところが非常に事件がふえて忙しくなってくるという、この傾向的なものは私どもも十分わかるわけでございます。できるだけ現実におくれることのないようにきめこまかく、裁判官ということのみでなくて、書記官、事務官、速記官、廷吏といった各職種について十分慎重に検討をいたしまして、おくれを出すことのないように今後十分努力してまいりたいと考えております。
  81. 沖本泰幸

    ○沖本委員 まだあるのですけれども、もう時間も来たようでございますから、この程度にしておきたいと思います。  それで、横浜だけ一生懸命申し上げたから横浜だけがさつと片づいて、ほかのほうがうまくいかないということになると、またほかからしかられますから、その点こういう問題の多い地点を早くキャッチしていただいて、十分検討していただきたいと思います。  以上で終わります。
  82. 小平久雄

    小平委員長 次回は、来たる二十六日火曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後〇時二十八分散会