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恒松参考人 学習院大学の
恒松制治であります。
ただいまお二人の
市長さん方から、
地方団体の
財源拡充について非常に強い御要望がありました。このことは、こうした経済の非常に高い
発展と、あるいは現在ではその混乱の中で
地方団体と中央
政府との間の
財政上のすべての分野にわたる問題であると言ってよろしいかと思います。究極的には、
行政事務を国と地方でどう配分するか、またそれに対して
財源をどのように配分していくかという基本的な問題が解決されないと、根本的な対策にはなり得ないと思います。本日ここで問題になります
地方交付税の改正につきましても、この
地方交付税を論ずることはそのまま
地方財政全体を論ずることになると思いますので、ここでは、今度の国会に提案されております交付税法に即して
地方財政の問題を考えてみたいと思います。御
参考になれば幸いだと思います。
四十九
年度の
地方財政計画では、
財政収入のほぼ二〇%を
地方交付税が占めております。それは、
地方財政の運営をかなり強く左右するほどの質を持ち、また量を持っておるように思われます。したがって、その配分をどうしたらいいのか、あるいは比較的変動の強い交付税を、安定的な
地方団体の
財源にするには一体どうしたらいいかということを、ここら辺であらためて考えてみる必要があるように私には思われます。
その配分につきましては、できるだけ
地方団体間に公正が保たれるような方法が望ましいわけでありますけれ
ども、できるだけ公正を保とうとすればするだけ、
地方交付税の配分の仕組みというものはたいへん複雑になっていっております。私
ども地方財政を勉強する者にとりましても、交付税の中身というのは、なかなか容易に理解しがたいほどに複雑になっております。この複雑になるということは、そうした
地方団体間への配分を公正にするという面ではたいへん重要なことではございますけれ
ども、一方では、
地方財政あるいは地方税制の仕組みに対して国民が関心を持たなくなるというマイナスの点を持っております。この点をどのようにうまく調整するかということは、これからの大きな課題であると思います。
それから第二番目には、交付税の原資は国税三税の三二%でございます。この国税のうち、
所得税、法人税というのは、景気に対して非常に敏感な税種であります。言いかえれば、
所得弾力性の大きい税金というふうにいわれております。したがって、景気の変動の影響を受けやすいために、
地方団体の安定的な
財源を
確保するという面におきましては、かなり大きな問題を持っているように思われます。
そういう
一般的な問題を踏まえまして、以下この改正
法律案に即して
意見を申し述べてみたいと思います。
今回提出されております改正案は、大きく分けますと二つございます。その
一つは、
基準財政需要額の算定方法に対して改正を加えるということであります。それから第二番目の点は、
地方交付税の総額の中から約千六百八十億円を減額するという問題であります。この二つの問題が、今度の交付税法の一部改正の主要な論点であろうと私は思っております。
そこで、まず第一点の
基準財政需要額の算定方法の改正につきましては、幾つかの内容を含んでおります。
その
一つは、改正案のうちで、
教育費や
社会福祉費をはじめといたしまして、下水道費あるいは清掃費など
住民生活に直接関連する
施設の
整備のために単位費用を
引き上げたということであります。このことは、文句なく高く評価されていい改正であると私は考えております。もちろん、この単位費用を
引き上げることによって
確保されますところの
財源が、先ほど両
市長さんからもお話がありましたように、たいへん膨大になっておりますところの
地方団体の
行政需要を、十分に満足するものであるかどうかは問題があると思いますけれ
ども、それは、個々の
地方団体がそれぞれの
地域的な
条件に応じて運用することによって、かなり大きな改善が期待できるだろう。少なくとも単位費用を
引き上げるという改正の方向については、私は全く賛成の意を表したいと思います。
それから第二番目でありますが、
基準財政需要額の算定方法の中で、前
年度まで存在しなかった測定単位が二つあります。両者とも四十九
年度限りのものとされておりますけれ
ども、これについては私は若干
意見がございます。このいままで存在しなかった測定単位の
一つは、
土地開発基金費というものであります。もう
一つは
財政調整
資金費というものでございます。この二つはいままでなかったわけでありますが、この二つの問題について共通して問題にすべき点は、四十九
年度限りのものとしてこの改正
法律案の中では提案されているわけであります。
地方交付税制度というものは、本来経常的な
行政費をまかなうための
財源保障という性格を持っておりますために、したがって、四十九
年度限りといったきわめて臨時的な
財政需要を、こうした交付税の中で
財源手当てすることが、はたして適当であるかどうかということについて、私は若干の疑問を感じております。しかしながら、現在、狂乱
物価というようなことばで表現されますように、経済
条件が非常に変動しております社会の中では、ある程度やむを得ない措置であろうかと思います。この額が、ある程度やむを得ない措置としての額であるかどうかというのは、ひとつ国会で十分に御審議願いたいと思っております。
それから問題の第二は、それぞれの内容についてでございます。
土地開発基金費というのは、この提案の理由によりますと、
公有地拡大等に資するためにこういう基金費を設けるということになっております。これは先ほど
守口の
市長さんからも、特に過密
都市の場合には、
公有地拡大あるいは
公共用地の
取得というのが非常に困難である、そのための
財源がたいへん必要であるということを申し述べられました。私もその必要性を決して否定するつもりはございませんけれ
ども、
公有地拡大のためにこうした基金費あるいは
財源を手当てするということについては、私は基本的には反対であります。
なぜかと申しますと、
公有地拡大政策の目的には三つの目的があると私は思っております。その
一つは
地価の抑制ということであります。第二番目には乱開発を防止するということであります。第三番目は
公共施設における
土地費用の
上昇を防止する、言いかえれば、
土地を
取得いたします場合に非常に費用がかかる、その負担を軽減するということでございましょうけれ
ども、これらは
財政の措置によって行なわれるべきものではなくて、本来
土地利用計画をしっかり立てて、そしてその
土地利用計画を厳格に実施することによってでなければ解決が困難な課題であると私は思っております。したがって、
公有地拡大のための
財源手当ということは、言いかえれば次善策でありまして、むしろ、
土地利用計画を厳密に実施することができないことによって生ずる、いわば防止対策としてならば
意味あると思いますけれ
ども、こういう形で問題を解決すべきではないと私は考えております。
それから第二番目の
財政調整
資金でありますけれ
ども、この
財政調整
資金は、提案理由によりますと、社会
経済情勢の変動に対処して弾力的な
財政運営ができるために
財源の留保を認めたものでございます。私は、多くの
地方団体では四十九
年度の予算編成にあたりまして、あるいは予備費という形をとるか、あるいはその他の形をとるかは知りませんけれ
ども、とにかく何らかの形で、こうした
経済情勢の変動に対して弾力的な
財政運営ができるような措置をおそらく講じておられるだろうと思います。したがって、その
財源を交付税の中に見込んだということは、私は評価できると思っております。
しかしながら、原則論から申しますならば、予算というものは本来
政府の活動指針と申しますか、
政府の公共活動の指針を示すものでございまして、言いかえれば、
経済情勢の変化に応じてそれを弾力的に運用するということよりは、できるだけ
経済情勢の変動がないような、言いかえれば、安定的な経済社会をつくるには一体どうしたらいいかというのが、
政府の予算活動の指針になるべきものだと私は考えております。したがって、原則論から申しますならば、こうした
経済情勢の変動が非常に目まぐるしいからそれに対応するような予算措置を講ずべきではなくて、経済変動を少なくするような、言いかえれば、安定化するような
政府の対策を講ずべきであるというのが、私は原則だとは思いますけれ
ども、しかし、
地方団体というのが、そういう経済に対して積極的な役割を果たすほどの力はありませんし、またそういう
立場にはないという
意味で、
地方団体の
財政の中で、こうした変動に対して弾力的な
財政運営ができるような措置を講ずるということは、私はやむを得ない措置であろうと考えております。
これが第一番目の、
基準財政需要額の算定方法の改正に関するおもな点について、私の考えておりますところの
意見を申し上げたわけであります。
それから第二番目の、今度の交付税法の改正の重要な点は、
地方財政の状況にかんがみて、
昭和四十九
年度分の
地方交付税の総額は、現行の法定額から千六百七十九億六千万円を減額するということであります。これはもう釈迦に説法で、御存じのように、先ほ
ども申しました国税三税の三二%が交付税額として国から地方へ移転される、トランスファーされる性質のものであります。このトランスファーという形は、中央
政府が地方に対してそれを与えるというものであるのか、あるいは、国税三税の三二%は本来
地方団体の税であって、それをただ国税庁が徴収の事務を実施しているだけのものという、いろいろな解釈のしかたがございます。私は、
地方自治という
立場から申しまして、国税三税の三二%分は
地方団体の税であるんだけれ
ども、その徴収の事務は国が行なっているというふうに私自身は解釈しております。そういたしますと、約千六百八十億円を減額するということは、
地方団体の課税権に対して中央
政府がこれに干渉するということになりかねないわけであります。あるいはなると考えております。
しかしながら、私は、国と地方との
財政関係というのは決して相互に相対立するものではなくて、国民経済の安定化あるいは成長に対して、国と地方が協力的に
行政サービスを実施するという性質を持っていると思っております。したがって、今度の
一般会計の予算にあらわれましたように、総
需要抑制という
立場で国が
一般会計の
財政規模を縮小しようという方向に向かいます場合には、当然
地方団体の
財政規模もそれだけ縮減をして、いわば総
需要抑制に対して協力をするということは、あってしかるべきことだと私は考えております。言いかえれば、
地方団体は
一つの国民社会における独立国ではなくて、やはり
行政サービスを実施する上では、中央と地方とで協力してやるべき、そういう
関係にあるわけでございますから、したがって、中央
政府が
財政規模を縮小した、しかしながら、
地方団体では
行政需要がたくさんあるから、
地方団体はひとつ放漫に公共支出をしてよろしいということには私はならないだろうと思っております。ただ、こうした公共支出を抑制するという国民社会全体の要求に対して、国と
地方団体との間で
財政支出の配分をあらためて検討し直すということは、私は考えていいことだと思っております。
たとえば、景気変動にたいへん大きな影響を持ちますところの公共
事業、これは削減する、したがって中央
政府の
一般会計の予算の削減率は、ことしは一九%台にとどまりましたけれ
ども、たとえば一四%ぐらいにする、そのかわり、
地方団体の
財政規模の伸びは二五%にふやす、こういうような
一つの
財源の配分のしかたと申しますか、あるいは
行政事務の配分のしかたを考えることは、私は必要だとは思いますけれ
ども、少なくとも現在の段階では、私はそういう
立場にはないと思います。したがって、この四、五年の計数をとってみますと、国の
一般会計の規模の伸び率あるいは縮小率と
地方団体の
地方財政計画の伸び率、縮小率は同じ方向を向いてリンクしております。たとえば、国の
一般会計が二四%伸びれば
地方団体は二三%伸びる、今度のように一九%に下がれば同じように一九%に
地方財政計画も縮小する、こういう方向をとっているということは、国と
地方団体との
財政の協力
関係をかなり明確に示すものとして、よろしいと思います。
今度の千六百八十億にのぼる
財源カットと申しますか、減額措置が可能になりました背景には、
地方団体がいろいろな公共
事業、あるいは
補助金によるところの公共
事業を実施いたしておりますけれ
ども、その公共
事業が抑制されましたことによるところの地元負担の減額部分があるために、私は、
地方団体としては十分にこの千六百八十億円の減額を消化し得るというふうに考えております。もちろん、こうした国の公共
事業によって生じますところの地元負担部分を、
地方交付税の中で見るということ自身に私は疑問を持っておりますけれ
ども、これは、現在の
制度をかなり大幅に変えていかなければならないものでございますので、ここでは、現行の
制度の中で問題を考えてみたわけでございます。したがって、
地方財政の状況にかんがみて、この千六百八十億円の減額措置というのは、
地方団体にとってはかなり苦しい
財政運営をしいることになるとは思いますけれ
ども、これは、中央も地方も含めて公共支出抑制政策という点から、やはりある程度
地方団体としては、耐えると言うとたいへんきつい言い方になりますけれ
ども、耐えていかなければならない問題であろうと思っております。
以上、この改正案に即して私は
意見を述べました。私の
意見の背景にありますものは、国と地方とは行
財政の運営の上で一体どういう
関係に立たなければならないかということが背景にあって、こうした
意見を申し述べたわけでございます。
現在、
地方自治というのは、そういう
意味では、経済の
発展過程の中で大きな曲がりかどに来ていると思っております。それは、ただ単に自主
財源が多くなったから
地方自治が伸びるとか、あるいは
地方財政の
財政規模がふえたから
地方自治が伸びたというふうに、単純には言い切れないような内容を、私は現在の
地方自治というものは持っておると思っております。したがって、ほんとうに
地方自治を育て、あるいは
地方自治を育成するためには、一体どういう
制度が必要であるかということを、こうしたきわめて変動的な経済
条件の中で、私はもう一度考えてみる必要があるように思います。
以上でございます。(拍手)