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1974-05-23 第72回国会 衆議院 社会労働委員会 第29号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年五月二十三日(木曜日)     午前十時七分開議  出席委員    委員長 野原 正勝君    理事 大野  明君 理事 斉藤滋与史君    理事 葉梨 信行君 理事 山口 敏夫君    理事 山下 徳夫君 理事 枝村 要作君    理事 川俣健二郎君 理事 石母田 達君       愛野興一郎君    伊東 正義君       小沢 一郎君    加藤 紘一君       瓦   力君    小林 正巳君       住  栄作君    田川 誠一君       田中  覚君    竹中 修一君       戸井田三郎君    登坂重次郎君       橋本龍太郎君    旗野 進一君       林  大幹君    粟山 ひで君       大原  亨君    金子 みつ君       島本 虎三君    田口 一男君       田邊  誠君    多賀谷真稔君       土井たか子君    村山 富市君       森井 忠良君    山本 政弘君       田中美智子君    大橋 敏雄君       坂口  力君    伏木 和雄君       和田 耕作君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 齋藤 邦吉君  出席政府委員         厚生大臣官房審         議官      三浦 英夫君         厚生省医務局長 滝沢  正君         厚生省薬務局長 松下 廉蔵君         厚生省児童家庭         局長      翁 久次郎君         厚生省保険局長 北川 力夫君         社会保険庁医療         保険部長    柳瀬 孝吉君  委員外出席者         法務大臣官房審         議官      鈴木 義男君         外務大臣官房領         事移住部長   穂崎  巧君         外務省国際連合         局外務参事官  野村  豊君         厚生省児童家庭         局母子衛生課長 本田  正君         社会労働委員会         調査室長    濱中雄太郎君     ————————————— 委員の異動 五月二十三日  辞任         補欠選任   大橋 武夫君     竹中 修一君   加藤 紘一君     小沢 一郎君   粕谷  茂君     愛野興一郎君   中村 拓道君     旗野 進一君   羽生田 進君     林  大幹君   島本 虎三君     多賀谷真稔君   山本 政弘君     土井たか子君 同日  辞任         補欠選任   愛野興一郎君     粕谷  茂君   小沢 一郎君     加藤 紘一君   竹中 修一君     大橋 武夫君   旗野 進一君     中村 拓道君   林  大幹君     羽生田 進君   多賀谷真稔君     島本 虎三君   土井たか子君     山本 政弘君     ————————————— 本日の会議に付した案件  優生保護法の一部を改正する法律案内閣提出、  第七十一回国会閣法第一二二号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (内閣提出第五五号)  結核予防法等の一部を改正する法律案内閣提  出第三四号)(参議院送付)      ————◇—————
  2. 野原正勝

    野原委員長 これより会議を開きます。  優生保護法の一部を改正する法律案日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案結核予防法等の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。土井たか子君。
  3. 土井たか子

    土井委員 人命の尊重、それから人口対策、そういうふうな観点から、今日の人口問題というのは一国規模でなく、地球的な規模において考えられなければならないというのがいわば常識化しております。これは常識だと思うのですね。世界人口はいまや三十七億をこえて、やがて二十一世紀に入りますと、七十億をこえる時代を迎えることになるというふうにいわれております。はたしてその人口を養えるだけの食糧資源は心配ないのかどうか、今後いろいろな会議で重要な課題となるに違いございません。  ここで、外務省、御出席をいただいていると思いますが、国連もことしを世界人口年というふうに定めまして、来たる八月に第三回世界人口会議がルーマニアの首都のブカレストで開かれるようになっておりますが、外務省お尋ねをまずしたいのは、食糧不足、貧乏の問題を解決して世界国々が繁栄をするためには、人口問題を解決するのが根本でございます。国連中心主義わが国外交姿勢として、積極的にこれには協力すべきであるというふうに考えられているわけですが、国連でこの問題についてどのような役割りをいま日本は果たして、具体的にどういうふうな行動をおとりになっているかをまずお伺いしたいわけでございます。
  4. 野村豊

    野村説明員 ただいま先生の御指摘のございましたとおり、この人口問題というものはきわめて重要な問題でございまして、とにかく世界各国が全部力を合わせまして地球的な規模におきまして協力しなければならないということは非常に認識されておるところでございます。そういった意味から、すでに国連におきましては人口委員会というものがございましたけれども、一九七〇年の国連総会におきまして、特に一九七四年を人口年とするということがきまりまして、かつまた、ただいま先生の御指摘のございましたとおり、ことしの八月十九日から三十日まで、ブカレストにおきまして世界人口会議というものが開かれることになっておるわけでございます。   〔委員長退席大野(明)委員長代理着席〕 こういうように国連がこの問題に非常に積極的に取り組んでおるわけでございまして、わが国国連世界人口会議という機会をとらえまして人口問題に対処しようということはきわめて時宜を得たものでございまして、わが国といたしましてはこれに積極的に寄与をしてまいりたいというふうに考えておるわけでございます。特にわが国は御承知のとおり人口問題につきましては多くの経験知識を有しておるわけでございまして、そういった日本経験なり知識に対しますところの期待というものもあるわけでございます。先ほど指摘のございましたとおり、わが国はこの人口問題につきましては当初から世界人口委員会のメンバーとして活躍しておるわけでございまして、この人口委員会世界人口会議準備に当たってまいったわけでございます。そういった意味で、わが国はこの世界人口会議に十分な寄与をいたしたいということでございまして、現在、厚生省さんをはじめ関係各省方々を含めましていろいろと検討しておる段階でございます。
  5. 土井たか子

    土井委員 いま検討段階だと御答弁なさいましたが、この国際会議に臨まれる政府態度として、外務省はどのような見解を具体的に用意すべきだとただいまの段階ではお考えでいらっしゃいますか。
  6. 野村豊

    野村説明員 今回の世界人口会議に関しましては、現在国連事務局におきまして諸種の資料準備しておる段階でございまして、まだそういった資料が十分そろっておりません。しかしながら、人口会議準備会を通じまして、とにかく今回の世界人口会議におきましていろいろな議題、たとえば人口家族あるいはまた資源との問題等につきましても議論するわけでございますが、特にその議題の中では、行動計画というものもいま検討が進められておるわけでございます。そういったものにつきましては、特にわが国といたしましては、わが国知識経験を分かち合いまして、世界各国のコンセンサスが得られるような一つ協力の方向というものが打ち出されるようにいたしたいというふうに考えておるわけでございます。  かつまた、御承知のとおりすでに最近、人口問題審議会におきましても、そういった世界人口会議に臨みますところの態度等につきましても、いろいろ御答申もちょうだいしておるわけでございますし、さらに国会方面におきましても非常に超党派的な人口問題懇談会というものも結成されたやにわれわれ承知しておるわけでございまして、そういった意味で非常に心強く思っておるわけですけれども、そういった方々の御意見もいれましてこの会議に臨みたいというふうに考えておる次第でございます。
  7. 土井たか子

    土井委員 いま外務省のほうの御答弁では、人口問題審議会をはじめとしていろいろな調査機関が、特に政府諮問機関として果たしてまいりましたその役割り答申という形で出している中身考えて、それを参考にして国際会議の場に臨みたいという御答弁でありました。  そこで、厚生大臣にひとつお伺いをしたいのです。  厚生大臣諮問機関人口問題審議会というのがございますね。この人口問題審議会は、四十九年の四月十五日の日に「日本人口動向の概要」という、私いま手にいたしておりますが、この答申を出しております。この中には、大臣もよく御承知のとおりに、「本審議会はすでに昭和四十四年の中間答申において、わが国人口静止人口状態になることが望ましいとした。現実には、今世紀末までに増加率こそ減少しつつも、なお二千万ほどの人口増加が予想される現在、世界人口動向と各種の課題にかえりみて、少なくとも現在の人口生産力を上まわることのないよう方策考えるべきである」というふうに述べられております。人口増加抑制についての方策というところを考えてあります。こういうふうな答申をもって、先ほど外務省国内にある種々の見解、特に審議会で述べられている答申などを参考にしながら、具体的な見解をかの国際会議においては述べるべきであるというふうな御答弁でありますが、これに対しまして、厚生大臣はいま申し上げた人口問題審議会答申等に基づいて、どういう見解をもって国際会議にお臨みになるわけでありますか。
  8. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 人口問題は非常にむずかしい問題でございまして、しかもこれは全世界的な、グローバルな立場において考えていかなければならぬという、非常に大きな問題でございます。将来の人口扶養力の問題それとの関連において資源が非常に大きな問題になってまいります。さらにまた将来の経済生産とにらみ合わしての労働力の問題、各般の問題を頭に描きながら豊かな世界、平和な世界を建設するためのグローバルな見地において考えていかなければならぬと考えておるわけでございます。   〔大野(明)委員長代理退席委員長着席〕  ところで、日本では、私率直に申し上げますが、国の方針としての人口問題に対する政策といいますか、そういうものがまだ十分に明らかにされてない、これは率直に言うてそうだろうと思うのです。そこで、この人口問題審議会もそういうことを積極的に急いでやらなければだめですよという意見を出しておるわけなんですね。これはもうお読みになればおわかりになっていただける、そのとおりであります。そこで、実はいま私どものほうでもこの人口問題審議会答申もととし、さらにまた人口年における各国準備室におけるいろいろな資料、そういうものをもととして、ひとつその人口年の大会が開かれるまでにかちっとしたものをはっきりきめるようにしていきたい、こう考えておりまして、目下関係各省その他と十分連絡をとりながら勉強をしておる、こういう状況でございます。
  9. 土井たか子

    土井委員 つけ焼き刃勉強では間に合わない。特に人口問題というのは政治の基本問題だというふうにも考えられている問題でありますから、急にお考えになってどうのこうのというわけじゃ私は実はなかろうと思うのです。大臣大臣なりに、日本の将来の人口政策いかにあるべきかというふうなお考えは当然お持ちになっているはずだと思うわけです。  そこで、この点いかがなんですか。大臣わが国人口について将来どういうふうなあり方が好ましいか。つまり、審議会静止人口状態になることが好ましいという答申を出しているわけであります。これについてはどうお考えでいらっしゃいますか。それくらいはお答えになって当然だと思います。
  10. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 私は、この審議会答申というのは大体において妥当なものだと考えているのです。ですから、その点については、ここに「静止人口に近い線をたどるといえるが、それでも、なお」云々、こう書いてありますね。まことに同感であります。私はそう思っております。
  11. 土井たか子

    土井委員 そういうことになってまいりますと、その次にたいへん重視さるべきは、家族計画という問題がやはりどうしても出てまいります。  そこで、外務省に再度お尋ねをいたします。  発展途上国人口問題というのは、いままでにたいへん大きな課題を背負いながら、それらの国々国内問題でありますから他国がこれについては口出しをすべき問題ではないという考え方が、つい最近まで国際社会で支配しているおおよその考え方でございました。その背景を見てまいりますと、人口国力であるという非常に古い考え方がございまして、出生抑制に関連して先進国国際援助を行なうことに対して疑問を抱くという風潮が一連の風潮として見られたわけでございます。   〔委員長退席、斉藤(滋)委員長代理着席〕 ところが最近はそれらの考え方も急速に弱まってまいりまして、特にアジア地域政府家族計画に積極的な態度をとっているものが多いわけであります。私がここに持ってまいりました中にも、東南アジア開発閣僚会議というのが共同声明を七〇年の五月二十五日ジャカルタにおいて発表された。続いて七二年十二月十三日、サイゴンにおいて共同声明が発表されている。中身を見ますと、それぞれがやはり家族計画に対して非常に積極的な態度をとっております。それだけアジア発展途上国が深刻な人口問題に悩まされているというわけでありますから、わが国としてはどのような役割りを果たさなければならないかということが、具体的な問題として、国際社会の間においては出てこようと思うのです。このことに対して外務省としてはいまどういう態度でこの問題に当たっていらっしゃるか、ひとつありますれば、国連に対してのいろいろな拠出金についての中身もつけ加えて、御答弁願えれば幸いです。
  12. 野村豊

    野村説明員 ただいま先生の御指摘のございましたとおり、この人口計画というものはきわめて機微な問題でございまして、確かにおっしゃいますとおり、従来ある国の一部では、これはいわゆる国力の一部だということから、若干消極的な態度をとる国もございましたし、かつまた、いろいろ、宗教、風俗、習慣等々の問題もございまして、かなり機微な問題でございます。したがいまして、わが国に対しましてはもちろん、先ほども申し上げましたとおり、いろいろわが国知識経験もあるわけでございますけれども、そういった家族計画に対しますところの協力というものは、一つは国際的な機関を通じまして協力していく。特に、国連人口活動基金とか、あるいはまた国際家族計画連盟というものを通じまして協力していこうということでございます。幸い本年度の国連人口活動基金に対しましては、今国会におきまして五百万ドルの拠出が認められたわけでございまして、これは従来二百五十万ドルの拠出でございましたけれども、これが倍増をしていただいたわけでございます。そういった国連の、あるいはまたその他の国際的な機関を通じまして協力をいたすということも一つはやっておるわけでございます。  第二におきましては、二国間ベースといたしまして、それぞれの発展途上国からの要請に応じまして、いろいろ家族計画協力をいたすということでございます。これは従来から技術協力事業団等を通じまして、技術協力の一環といたしまして、家族計画のセミナーでございますとか、研修生の受け入れでございますとか、あるいはまた専門家の派遣あるいは器材の供与等を実施してまいっておるわけでございます。そういったことで、特に最近は東南アジア国々中心といたしまして、そういった家族計画協力を進めておるというのが現在の実情でございます。
  13. 土井たか子

    土井委員 外において、特に国連人口活動基金に対して、拠出金が年々日本の場合は、一九七一年から七二年に、七二年から七三年にとふえていっておるという資料は私手元にいただいておりますから、よくわかります。  さて、国内事情なんですが、家族計画に対して、いま厚生省は具体的にどういうふうな施策を講じ、何をポイントにして具体政策を進めていらっしゃるか、また、それに対する予算というものはどういうふうに組まれているか、ひとつ御答弁願います。
  14. 翁久次郎

    翁政府委員 国内におきます家族計画事業は、考え子供さんを産み、それをりっぱに育てる、そして母性保護、そういう観点から進められているわけでございます。御承知のように、日本の一般的な知識水準はきわめて高うございます。推定によりますと、昭和五十年には子供さんの平均の数が一・九五というような推定もされているわけでございますが、わが国におけるこういった家族計画という事業は、ただいま申し上げたように、考え子供さんを産み、そしてそれをりっぱに育てる、同時に母体保護を少しでもよりよくするという観点で進められているわけでございます。そしてそれは全国の保健所、優生保護相談所あるいは母子健康センターというところを中心といたしまして、それを具体的に実施いたしますのは、受胎調節実地指導員という方々、約四万六千名おられるわけですが、こういった方々を、国、都道府県あるいはその他の機関によって講習を行ないまして、そして実地あるいは知識講習を行なった上で、個別的あるいは集団的に指導している実情でございます。その予算中身は、実地指導員に要する経費として四十九年度約一億、それから低所得階層方々実地指導の上で器具、薬品を交付するわけでございますが、その予算が約千五百万、それから講習会その他に要する予算が約八百万、合わせて大体一億二千三百万という予算規模をもってこの事業を推進している次第でございます。
  15. 土井たか子

    土井委員 その問題については、国外に対して、先ほど外務省のほうからの御答弁にございましたように、年々国際機関では家族計画なり人口対策なりに対する対策が進んでまいりまして、それに即応して基金中身もふえていっているわけであります。したがって、日本がこの基金に負っている拠出金中身もふえていっているわけであります。また、それだけの認識があるから日本拠出金を出しているわけであります。国内家族計画に充てられている費用は、また費用だけではありません、家族計画について考えられております政策中身は、それに比べますと、遅々として進んでいないということが、私は実際問題だと思うのです。これは先ほど厚生大臣の御答弁にもございましたが、人口対策人口政策というふうなものは、もうちょっとこれは煮詰めなければ、ほんとうのところまだまだわが国では人口問題に対しての読みが十分ではないというふうな意味の御答弁がございました。その辺がまだまだ十分でない限りにおいて、家族計画に対して熱心であるはずがないということが一つは言えるわけです。だから、そういうことからすると、国外に対して、いま国連を通じての日本外交姿勢と、国内において、それならば日本国内はこういうふうにやっていくのだ、だから国際社会においても、日本という国は、なるほど人口対策についても、あるいは資源の問題あるいは食糧の問題あるいは公害をはじめとする環境保全という問題、それから何といっても戦争ということを予防して、戦争を起こさない、これを考えて、生まれた人たちに対しては幸福な生活を、また、そういう人たちに対しての人権というものを十分に尊重していく、こういうことをなるほど考えている国だなということにならなければうそだと思うのですが、その辺のアンバランスというのが少しあるようであります。
  16. 翁久次郎

    翁政府委員 あるいはそういう御意見もあろうかと思いますが、冒頭に申し上げましたように、日本における国民全体の知識水準、これがきわめて高いことは御承知のとおりでございます。したがいまして、他の国々人口政策あるいはそれに基づきます受胎調節あるいは家族計画、それぞれその国々実情によっていろいろな実態があろうと思います。日本の場合には、私ども厚生省としてやっております家族計画というのは、先ほども申し上げたように、考え子供さんを産み、そしてそれをりっぱに育てる。同時に、おかあさんが子供さんを産むことによって母体を傷つけることのないようなことを中心指導しているわけでございます。それ以外に、文部省が社会教育あるいは学校教育立場で、それぞれ、母性保護あるいは子供さんを産むための、あるいは環境事情によって生まないための知識というようなことをそれぞれの立場でやっているかと思うわけでございます。そういった意味で、外国に、かりに東南アジア等に対して家族計画連盟等が実際的な助言等をいたしておりますのは、人口政策そのものではなくて、その国々が欲しているいろいろな受胎調節技術あるいは家族計画実地指導ということを中心に行なっているのではないか、かように思うわけでございます。
  17. 土井たか子

    土井委員 実地指導をいまおっしゃいましたから、それならばその問題を申し上げましょう。いま人工中絶というものは、一体年間どれくらいあるというふうに把握なすっておりますか。
  18. 三浦英夫

    三浦政府委員 私ども統計では、最近では四十八年で年間七十三万件ぐらいという統計報告が出されております。
  19. 土井たか子

    土井委員 おそらくその数字のとおりだろうとまじめに考えていらっしゃいますか。まともにそれをそのとおりに受けとめていらっしゃいますか。
  20. 三浦英夫

    三浦政府委員 優生保護指定医師からの報告でございますので、七十三万というのは報告された数字だということで認識しております。
  21. 土井たか子

    土井委員 役所仕事というのはそういうことでつとまるわけでありますね。これは、指定医からの報告以外に、医師会を通じて報告されていない、いわゆる俗なことばでいうとやみ中絶というものがあるというのは、公然たる事実なんですね。そういうことに対して、これはおそらく何件なんということは言えないところがやみ中絶の特徴でありますが、推定してどれくらいということぐらいはお考えになっていられなければならないと私は思うのです。こういうことについて、どういうふうにお考えですか。
  22. 三浦英夫

    三浦政府委員 四十七年度報告数字が七十三万件でございますが、四十三、四年ごろは七十五万から八十万という数字でございまして、突然変異の統計はなされておられませんので、まず指定医からの報告というのは、それなりの報告はいただいておるものと認識しております。
  23. 土井たか子

    土井委員 これは産婦人科医のいろいろな方々がその中にはいらっしゃるわけでありますけれども、御承知だと思いますが母性保護医協会、あのほうでいろいろ問題にされて、数字は具体的にこれも推定しかいえないけれどもということで、おそらく人工中絶というのはやみを入れると二百万をこえるというふうに推定されているわけです。二十年近く前までは、年間二百五十万前後出生数があったわけです。最近では二百四十万前後ということになっていますね、概算、なっています。そうすると、最低に見積もっても年間四百万前後の妊娠数がありながら、その中の出生数が二百万ということは、ほぼ二分の一の出産拒否率ということになっているわけですね。出産拒否ということにも、もう先ほどからおっしゃっているように、これは計画的に避妊をするという場合もあります。受胎をしてしまってからあと、こういうふうに人工中絶をやるという場合もあります。一体、母体保護とか母体を尊重する、母性保護するという立場から、どっちが好ましいですか。
  24. 三浦英夫

    三浦政府委員 昭和二十年代の後半におきましては、人工妊娠中絶の件数も百万をこえておりましたけれども先ほど申し上げましたように、現在は七十数万になってきております。これはやはりその当時と違って、家族計画あるいは受胎調節の普及ということが効果があったのではないかと思いますが、いずれにいたしましても、人口問題審議会等からも答申をいただいておりますが、人工妊娠中絶というのは非常に母体の健康に及ぼす影響が多いところでございますので、なるべく人工妊娠中絶よりは受胎調節なり、さらに根本的には家族計画の普及というほうに努力していくべきものだと思っている次第でございます。
  25. 土井たか子

    土井委員 そういうふうな御認識がおありになるのですね。その御認識に基づいて、どの程度の対策と努力がいままでその中にあったかということをひとつはっきりさせたいと思うのですよ。  さて今回の優生保護法の改正、一部改正とおっしゃっているわけですが、私はこの改正について——やはり提案理由というものかございます。提案理由について見ましたけれども、どうもよくわからないのです。今回、どうしてもこれを改正しなければならない理由、それはどの辺にあるのですか。
  26. 三浦英夫

    三浦政府委員 優生保護上の問題点につきましては、かねてから厚生省におきまして検討検討を重ねてきたわけでございます。実は、今回三点の改正についての御審議をお願いしておりますけれども、これにつきましても、実は国会に御審議をお願いいたしましたのは、昭和四十七年の五月に提出をさせてもらっております。それから二年の月日を経過したわけでございますが、いろいろ問題点はあるにいたしましても、この三点につきましてはかねてから何をおいても早く成立さしていただいて、それなりの優生保護なり人工妊娠中絶対策を進めたいと思ったような関係で、急に思いついた問題ではなくて、かなり前から厚生省はそういう姿勢であったような次第でございます。
  27. 土井たか子

    土井委員 いまのは御答弁になっていないんですよ。私が聞いていることに対する御答弁になっていない。改正点を聞いているわけじゃないのです。改正点は三点。これはいまおっしゃったとおりでありましょうが、なぜそこをそのように変えなければならないかという理由についてお伺いをしているのです。いままで一年、二年の間考えたことじゃないので、多年考えてきたとおっしゃるわけでありますから、よほどその蓄積の結果がうんちく傾けて中に披瀝されているはずであるこの提案理由を、どう読んでも納得できないところを私はお伺いしているのです。わからないのですよ。わざわざこれほど力を入れて改正なさるという必要がどこにあるのか、それをお伺いしているのです。まだお答えをいただいておりません。
  28. 三浦英夫

    三浦政府委員 先生承知のとおり、この優生保護が最初に制定されましたのは昭和二十三年でございます。その当時の時代背景とあるいは医学技術の面とそれから二十数年を経た今日とでは、御承知のとおりかなりの様相の変化というか、変わってきております。したがいましてその一つは、医学技術の発達に対応いたしました内容をとらえていきたい。それからさらにもう一点は、昭和二十三年あるいは二十四、五年当時の時代背景、社会背景と、今日の背景とは、たとえば一例をとりましても、国民生活の向上その他かなりの面ではかられてきております。そういう面から制定当時の様相と今日とはかなり変わってきておりますので、その時代に即応した内容に改正さしていただきたいと思って提案さしてもらったような次第でございます。
  29. 土井たか子

    土井委員 どのように変わってきているのですか、いまおっしゃったその当時とは。昭和二十三年当時と比べるとずいぶん医学的な側面からも社会的な側面からも変わってきているということをおっしゃりたいだろうけれども、どのように変わってきているのですか。
  30. 三浦英夫

    三浦政府委員 たとえば人工妊娠中絶のできる一つの理由といたしまして、今回たとえば胎児において重度の身体障害者であるとかあるいは重度の精神薄弱児である場合の原因となるような疾病を、当時の時代背景ではとても医学的に発見できなかったのが、今日におきましては、特定の疾病についてはかなり高い確率でそういうものが発見できるような時代になってきております。したがいまして、その面を改正案に取り入れさしてもらったということが一つでございます。  それから二十四年当時に、いわゆる経済的理由によっての母体の健康をそこなうおそれがあるという場合には人工妊娠中絶ができると、こういう条文が入ったわけでございますが、当時の国民生活あるいは国民の栄養状態と今日とではかなり変わってきております。やはり高度の経済成長を見て、国民生活も豊かになってきておりますので、特定の理由だけあげて人工妊娠中絶——刑法のまさに特例でございますので、そういう形でやるよりは、医学的に純化したほうがふさわしいということで、御審議をお願いさしてもらったような次第でございます。
  31. 土井たか子

    土井委員 社会条件が変わったとおっしゃる。それはそういうふうな側面だけを主観的に見て変わった変わったとおっしゃっているのであって、現に厚生省日本医師会が意識調査を中心とした「優生保護法実態調査の概要」というのを四十五年の四月二十日に出していらっしゃいます。この中身で、中絶希望者の理由というのを調べていらっしゃるでしょう。きちんと調べていらっしゃいますよ。いままで中絶希望をなすった方々をずうっと見ていくと、避妊の失敗というのが一番多い。これ以上子供ができると経済的に困るという方が、その次に多いのですよ。これ以上子供はほしくない、前の子供がまだ小さい、そういうのがずっと続いておりまして、いまおっしゃったような社会の状況が変わったとおっしゃる御見解とは、この実態調査の中身が少しズレがあるようであります。これは厚生省日本医師会が責任を持ってお調べになった中身なんです。実態調査をして、しかもその概要については印刷物にして配っていらっしゃる。せっかくお調べになった中身政策の中で生かしていただかなければうそですよ。厚生省がどうお考えになるかということは、実際を無視してお考えにならないだろうと私は思っています。実際はどういうふうにして把握なさるかというと、こういうことだろうと思うのですよ。実態調査をやって、それに従って、実際はどう動いているかということを把握なさるわけじゃございませんか。それからすると先ほどおっしゃった理由というものは表向きの理由であって、それはある特定の議員の要望、ある特定の階層の要望、ある特定の団体の要望というものでしかないと私はいわざるを得ないです。こういう実態調査の結果というのは、どういうふうに厚生省は利用されるのですか、せっかくこれを予算をつけてやっておいて。こういうことに対して活用してこそ、私は実態調査の意味があると思うのです。特に指定医師の意見というところを見ると、法律を改正して適応や手続きを厳重にしても、中絶を希望してくる人が減らないということをはっきり言われているのです。数の上から非常に多いですよ。指定医師の意見です、これ。指定医師は現にそれをおっしゃっている。こういうふうな事情も知ってもらわなければ困ります。医学が進歩したから未然に優生保護法に基づいてもっともっとチェックすることが容易になった、だから一部改正をやりたい、そんなことじゃないですよ。指定医師の意見を見ると、中絶を希望してくる人は減らないだろうということになっているのです。こういうことの実態調査はどのように生かされていますか。
  32. 三浦英夫

    三浦政府委員 確かに先生指摘の調査は、昭和四十四年十二月に実施をいたしまして、その集計結果を四十七年に発表しております。これはまさに事実のとおりでございます。したがいましてむしろ私どもとしてはこの調査結果から、従来は理由につきまして身体的理由と経済的理由、それを、それだけの理由ではなくて、結局のところは母体の健康を著しく害するおそれがある場合に人工妊娠中絶をしてもよろしい、こういうことになっておりましたが、いずれにいたしましても二つだけの理由を原因としてできるようになっておったわけですが、人工妊娠中絶につきまして母体の健康をそこなうおそれがある場合というのはもっと理由が多様化をしておるというところから、二つだけの理由をあげるよりは、むしろ率直に母体の健康を著しく害する場合ということに医学的に純化したほうが適当だ、こういう判断で今回改正を提案させてもらっておる次第でございます。
  33. 土井たか子

    土井委員 そうしますと、今回は経済的理由の認定というふうなものをなくしてしまって、そうして純医学的な見地から医師が中絶手術の是非を判断できるということになるわけでありますね、端的に言うと。そうしますと、経済的理由による人工中絶を行なわなくともいいような社会状況を保障するということが、片や厚生省政策の中には必要になってくるのですよ。そうでございましょう。またこの法律を受ける側は厚生省でもなければ、片やお医者さんだけじゃありません。一番大事なのは個々の、一人一人の女性なんですよ。女性の立場からしますと、純医学的な立場だけにおいて生活しているわけじゃないのです、経済的な側面もあれば社会的な側面もある、政治的な側面もあるわけですよ。したがいまして、こういう観点を無視して、純医学的立場だけから優生は保護できるとお考えになったらこれはおかしいと思うのです。したがいましていま申し上げたように、経済的理由の認定というものをなくしまして、純医学的な見地からだけ医者が中絶手術の是非を判断できるようにするということであるなら、ひっくり返していえば、厚生省とされては経済的理由による人工中絶を行なわなくてもいいような社会的な状況というものを保障していくという義務が生ずる、こういうことだと思うのですが、この中身についていまどういうふうな御用意があるのですか。こういうふうな改正案をお出しになる以上は、その御用意が背後にあってのことだろうと私は思う。その背後を整備してからのことだと私は思う。この背後の問題どうなっていますか。
  34. 三浦英夫

    三浦政府委員 その前に、経済的理由でございますけれども、私ども厚生省といたしましてこの経済的理由の従来からとってきました指導態度といたしましては、一つは生活保護の適用を受けている方、そういう方が妊娠をされた場合とか、または生活保護の適用をお受けになってなくても、妊娠とかあるいは分べんによって生活が著しく困窮し、生活保護の適用を受けるように至る場合、通常こういう場合が経済的理由に当たる、こういう運用解釈で今日までまいっているわけでございますが、かりに経済的理由ということばをとりましても、従来からのそういう該当するような理由というのは、むしろ結果的に母体の健康を著しく阻害することになりますので、そういう意味合いにおける従来の解釈、運用あるいはその実態を狭められているというものではないわけでございます。  それから、もちろん基本的には先生指摘のとおり、社会保障とか社会福祉ということもあるでございましょうが、むしろ社会福祉、社会保障ということよりは、それはそれといたしまして、母体の健康の保持ということを重点に考え、一方それと即応いたしまして家族計画の普及とか受胎調節の普及ということにさらに尽力をして母性の健康保持の増進につとめてまいりたい、こういう考えでおる次第でございます。
  35. 土井たか子

    土井委員 出産や人工中絶や育児という問題は、生活保護者家庭に限ったことじゃないのです。全国の家庭の中で起こっている問題ですよ。生活保護者家庭は言うまでもない話ですけれども、全国の家庭で起こっている問題です。したがいまして、生活保護者家庭にだけ限定をして経済的理由ということは問題にはできないはずです。現に私は厚生省次官通達というものを存じておりますが、しかし通達によって万事が決せられるわけじゃない。まさかそういうことを思い上がってお考えにはなっていまいと私は思うわけであります。したがいましてそういう点からしますと、出産、中絶、育児というものは全国の家庭にある問題だ、そういう側面に対していまお答えのとおりで、純医学的な見地からお医者さんが中絶手術に対して是非を判断するということに重点を置く改正なんでしょう。本来優生保護法はそういう立場でいままで運営されてきたのだけれども、今回はその点にさらに重点をかけるということになってくるわけでしょう。私は経済的理由を削ることによって範囲が広まる、狭まるということを一言半句も言っていませんですよ。ただそういうことをなくすということによって、先ほど言っているところ——これは率直にひとつ端的に聞いていただきたいと思うのです、間違えずに誤解しないで聞いていただきたいと思うのですが、経済的理由による人工中絶を行なわなくともいいような社会状況を保障するという責任が厚生省にはございますね、こう聞いているのです。いかがです。
  36. 三浦英夫

    三浦政府委員 社会保障、社会福祉の増進ということにつきましては厚生省の責務でございますので、それ自体は今後とも当然努力を続けていく事柄だと思います。ただ人工妊娠中絶と社会保障社会福祉を結びつけるというのは、ややいかがかと思われますが、そもそも基本的には堕胎というのは刑法によって禁じられているところでございます。それを母性保護という観点から、優生保護法で定められた場合に限って人工妊娠中絶が刑法の特例としてできるというわが国の法体系になっておることは申すまでもないことでございますが、したがいましてそういう観点から取り上げていくということは、やはり母性保護ということが一番の重点に、理由になってくるのじゃないかと思う次第でございます。
  37. 土井たか子

    土井委員 これは、人工中絶というものは本来好ましくないというお考えであると思います。しかし現にその人工中絶を行なっている女性に対して、先ほども私はここで言った実態調査をやっていらっしゃるわけですね、なぜ人工中絶をやらざるを得なかったかという。理由についてもちゃんと調べていらっしゃるわけですよ。本来はぐくまれた命を切り捨てるということは、母親としてだれしもこんなことは好みませんですよ。けれども、やむにやまれずやっているということ人工中絶の実態について把握なすったところを、やはり正確にキャッチしていただきたいと思います。どういうところが理由になっているか、どういうところにその原因があるか。これは全く私は、きょうは聞いてあきれる。実態調査の中身が生かされていないじゃありませんか。そういうことから考えてまいりますと、先ほど少しお述べをいただいた限りでありますけれども人工中絶をするよりも予防策、つまり避妊をすることのほうが母性保護母体保護という点からすれば好ましい、そういう点については、いまこの純医学的な見地から中絶手術の是非を判断できるようになさる半面、どういうふうにこの問題に対して、つまり避妊という問題ですよ、予防という問題をお考えになっていらっしゃるかは、ひとつどうしてもこの中身として聞いておきたい問題です。先ほど来そういう問題が一つ一つ私は答弁の中に出てくると思って待ちかまえていたのだけれども、全然出てこない。こういうことに対してはどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。
  38. 翁久次郎

    翁政府委員 受胎調節中身といたしましての避妊というものにつきましては、厚生省として指導いたします内容としては、出産計画上それぞれの家庭あるいはおかあさん方で産みたくないときに避妊具を用いるということを前提にして、特に新婚者あるいは婚前学級というようなものを中心とした集団的、あるいはすでに中絶をしたあと特に母体の健康に害のある人々に対する個別的な指導というものをやっておりまして、その中身としては、具体的にはコンドームの使用であるとかあるいは錠剤、ゼリーあるいは基礎体温、荻野式というようないろいろな方式を兼ね備えた組み合わせによりまして、先ほど申し上げました全国の実地指導員が出向き、あるいは講習会等によって指導している、こういうことになっておるわけでございます。
  39. 土井たか子

    土井委員 ちょっと待ってくださいよ。いまの御答弁の中に錠剤というのが出てまいりました。これは経口避妊薬と一般にいわれていることをおそらくはさして問題になすっているのじゃなかろうか、概してピルと言ったっていいわけですが。この問題は、いま避妊薬としては認められておりませんよ、治療薬としてはお認めになっているはずだけれども。これはひとつはっきりさせていただきます。
  40. 翁久次郎

    翁政府委員 ただいま申し上げた錠剤というのは、ゼリーにかわる挿入するものでございまして、経口避妊薬のことを申し上げているわけではございません。
  41. 土井たか子

    土井委員 その辺ははっきりおっしゃってください。ピルというのは日本語に直訳すると何ですか、錠剤ですよ。これはひとつ英和辞典をひっくり返してください。そして、しかも通称ピルといわれているのは何かというと、経口避妊薬をさしているのです。答弁はひとつ明確にお願いします、誤解を生じないように。  いま世界各国ずっと見てまいりますと、いろいろ避妊に対して、先ほど医学も進歩したとおっしゃる。日本の医学水準というのは非常に高いということを自負していらっしゃると思うのだけれども世界の医学が進歩しているといわれる文明国において、いま経口避妊薬というのがどういうふうに取り扱われているか、どういうふうに認識なすっていますか。
  42. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 先生指摘のように、現在通称ピル、ホルモン剤を主剤といたします経口避妊薬につきましては、相当多数の国で避妊の目的をもって使用を認められておるということは承知いたしております。
  43. 土井たか子

    土井委員 これは相当多数の国どころじゃないのです。実は、おも立ったところを見ると、トルコと朝鮮民主主義人民共和国と日本だけなのですよ、まだこの経口避妊薬に対して禁止をしているという国は。それで、ちょっとこれについて具体的に私は厚生大臣にもお答えを求めたいのですが、参議院において須原議員が質問をしております際、品質であるとか副作用であるとか等々を、ひとつ日本人に適した品質改良を進めて、経口避妊薬についても日本独自で開発をすることが必要である旨の御答弁があり、そうして特に、中央薬事審議会の中で副作用審査会というのがあるので、そこで少し検討をしようというお約束があったようでありますが、この中身はどういうふうに具体的にいま進んでおりますか。
  44. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 御指摘のように、相当多数の国でピルの使用を認められておるわけでございますが、同時に、須原先生にも御答弁申し上げておりますように、このピルにつきましては、非常にまれな例ではございますけれども、相当有毒な副作用があるということが、すでに使用を認められております幾つかの国の報告によって明らかになってきております。したがって、現在西洋諸国で使われております配合剤をそのまま用いますことは、特に血栓症などの重篤な副作用あるいは高血圧、黄だんというような例が、非常に少数ではございますけれども発現の余地があるということは、いろいろな報告で明らかになっておりまして、国際家族計画連盟の中央医学委員会の声明の中にも盛られておるわけでございます。  そういうことのために、私どもといたしましても、いまの形のままでこれを認めますことは、そういった事例から照らしまして必ずしも適当でないということで、先生指摘のように、いろいろな情報を収集いたしまして、より安全性の高い避妊方法の開発ということを中心に作業を進めております。  たまたま昨日の新聞に報道されておりますように、イギリスにおきまして、王立開業医協会によるピルの副作用の再評価も行なわれておるという報道も伝えられておりますし、その中では、いま申し上げました高血圧等については心配はないというデータも出ておるようでありますので、こういったことも至急原本を取り寄せまして、いま御指摘の中央薬事審議会における審議に付するというようなことも予定いたしております。  それからまた、これは必ずしも現在使われておりますピルだけでなしに、いま開発されておりますいわゆるミニピル、あるいは持続性の注射あるいは男性の避妊薬、そういったことも資料を集めておりますが、なおこれは実験段階のものでございまして、実用に耐えると認められるものはございません。ただ、現在なお使用が公式に認められておりません避妊方法の一つで、子宮内に挿入いたします避妊器具、いわゆる避妊リング、IUDと称せられておるものがございます。こういったものにつきましては相当やはり避妊効果も高い、あるいは安全性につきましても、若干の局所的な副作用であって、全身的な副作用のおそれはないというような御意見を産婦人科学会からもいただいておりますので、こういったものにつきましては正式に、薬事審議会の中に医療用具特別部会がございますが、この部会の御審議をお願いして、前向きの方向で検討をいたしております。  また、いま御指摘のホルモン剤とそういったIUDとを組み合わせたような、さらに少量の使用によって効果があるといわれておりますものを加えまして、こういったものについても試験用避妊医療用具といたしまして承認をいたしまして、現在知見類を集めておる、このような方法によりまして、いろいろと新しい方法を開発いたしまして、御指摘のようにさらに安全で有効な避妊方法が開発されるということは、私どもにとっても非常に望ましいことであるという前提で、努力をいたしておる次第でございます。
  45. 土井たか子

    土井委員 IUDなんて、私がまだ説明を求めていない点にまで話は高飛びをしたわけですけれども、ピルについてはいま検討を進めていらっしゃると——検討を進めております、検討を進めております、どこまでも続くこれは答弁でありまして、私たちは耳にたこができることばであります。具体的にどれだけの予算をつけて、副作用審査会で、ことしの年次計画はどういうふうなことで臨みたいというふうな方針なり、具体的な計画の青写真なりはあるのですか、どうですか。いかがです。
  46. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 経口避妊薬は、いま御答弁申し上げましたように、この最も重い副作用とされております血栓症につきましては、現在までに得ました資料では、大体十万分の一というようなオーダーの発現でございまして、したがって、こういったものにつきまして実験的に副作用を調査するということは技術的に非常に困難でございます。むしろ、すでに使用を認められております国においてさかのぼっての調査というもののデータが日も正確なデータであるという前提で、いま申し上げましたようにWHOの副作用情報その他の情報を収集いたしまして、そういったものを専門家の議に付しまして、安全性の評価をお願いしておるという実情でございます。そういう意味で、昨日発表されましたイギリスの資料につきましても、至急取り寄せまして、もし伝えられますように安全性がいままでよりもさらに確認されておるということであれば、非常に朗報でございますので、至急資料を入手いたしまして検討いたしたいと考えます。
  47. 土井たか子

    土井委員 至急資料を入手いたしましてと、これからなんですね。そうしてしかも、ひとつそれならば、ちょっとだめ押しをしておきたいことがあるのです。指示薬でしょう、要指示薬ですね、これは。昨年の四月の一日付で要指示薬に指定された、そういうことでございますね。お尋ねしたいのは、要指示薬になってから、いわゆる経口避妊薬といわれている日本では、したがって治療薬としてしか使えない、避妊薬としては使えないこの薬品の生産量は減っておりますか、ふえておりますか、昨年の四月一日以後。
  48. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 正確な経年の資料はいま持っておりませんが、私の記憶では大体横ばいの状態で、そう増加はないと考えております。
  49. 土井たか子

    土井委員 横ばいの状況でもこれは問題だと思うのです。実はよく調べてみてください、減ってはおりません。ふえております。横ばいでも問題ですよ。なぜかというと、要指示薬でない場合は、これは町中の薬局に行って私たち入手できたのです。要指示薬ということになると、お医者さんの指示がなければ買えないんでしょう。したがいまして、その薬の取り扱いがまるで違っているはずなんです。要指示薬ということになってからはこれを避妊薬としては使えない、治療薬としてのみしか使えないというふうに、やはり使途も明確になっているわけですね。しかも生産は減っていない。むしろふえている。この中身をどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。
  50. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 避妊の目的をもって効能をうたい、そういう販売をするということは、要指示薬であるといなとにかかわらず、以前から認められていないことでございまして、そういう意味での要指示薬による変化はないと考えております。  それから、なお要指示薬になる以前におきましても、店頭で販売されておりました女性ホルモン剤は、主としていわゆるEPホルモンで月経周期を変更いたしますための使用に供せられるものが大部分であったというふうに私ども承知いたしております。  現在、経口避妊薬としての効果を諸外国において認められておりますものと大体同様な成分を持っておりますものは、もう少し重篤な婦人科疾患の治療に用いられるものでございまして、したがいまして要指示の指定になります以前におきましても、そういった成分のものはほとんどが医師の処方せんあるいは医師の直接の調剤によって使用されておったというように承知をいたしております。
  51. 土井たか子

    土井委員 しかし、それにしても、この生産量が減っていない、むしろふえているという実態が一体どういうふうに具体的に動いているかという追跡調査のようなことはやはりおやりにならないと、先ほどから、データをいまから取り寄せて実施にひとつ検討を重ねてみたいとおっしゃっている中身は生きてこないと思います。そうして要指示薬でない場合においても避妊薬としては認めていなかったとおっしゃいますけれども、これはやはり指示を要するということになってから以後と、それ以前とでは現場における取り扱いというのは違っているという実情は御存じないですか。やはりこれは違いますよ。したがいまして、そういう点からしますと、やはり実際問題について具体的にひとつどういうふうに事が動いているがということを調査されることば、どうしても必要だと思います。そうしてむしろ積極的に、この経口避妊薬について、副作用のないものを日本において開発することにひとつ力を入れていただきたい。そうしてそれもやはり健康診断というものを常にしながら、こういう経口避妊薬による避妊ということは私は大切だと思いますから、医者の指示を得ながら、これに対しては使用できるという方策、これを具体的にやはり制度化していくということを考えていただきたい。これについての御用意がいまどういうふうにあるか、先の見通しに対してどういうものを立てていらっしゃるか、ひとつ聞かせていただきたい。
  52. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 先ほど答弁申し上げましたように、私どもがこの経口避妊薬について問題意識を持っておりますのはもっぱら副作用の問題でございまして、したがっていま御指摘のように、さらに副作用の少ない、しかも有効性が持続されるようなピル、経口避妊薬が開発されるということは非常に望ましいわけでございます。   〔斉藤(滋)委員長代理退席委員長着席〕 そういう意味で、先ほどおあげになりました須原先生の御指摘もございまして、さらにホルモンの量を減らすような経口避妊薬の開発につきましては、いろいろと外国のデータ等も調べておるわけでございますが、ただやはり学問的な報告によりますと、現在以上に五十ガンマ以下に減らすということによりまして破錠出血のような新たな副作用が生ずるというような報告がございまして、そういったものに踏み切るというのもなかなか困難な実情でございますし、私どもとしましては決してピルの効能を軽視しておるわけでもございませんが、ただ非常にまれではございますが、重篤な、場合によっては致命的な副作用があるということが唯一の難点でございますので、御指摘のように、そういったものがない経口避妊薬、あるいは経口でなくても有効な避妊薬が開発されるということは非常に望ましいことだと思いますので、先ほど申し上げましたようなIUDと組み合わせたようなものも含めまして、幅広い検討を進めておる次第でございます。
  53. 土井たか子

    土井委員 世界の趨勢として、これは先ほど言うとおりであります。もう大多数の国が経口避妊薬については開発を進め、しかもより安全性の高いものを、しかも使用の方法についても安全性を確保しながらやっている最中なんですね。だいぶ日本はこれについて様子が違いますよ。いまの御答弁からしますと、もう一つはっきりしないのでありますが、やがて日本において、この経口避妊薬に対しての開発ということが具体的に来たるべき何年ごろに、あるいはもっと早く言うと、半生以内にとか、三カ月以内にでけっこうでありますけれども、できるようにひとつ努力したいというふうな御発言、ここではっきりさせていただきたいと思います。
  54. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 私ども先ほど申し上げましたように、より安全性の高い避妊方法が開発されるということはきわめて望ましいことでございますので、全力を傾けましてそういった努力はしなければならぬと思っておりますが、何ぶんにも学問のことでございますので、期限を切りましていつまでに現在の副作用が除去されるような避妊薬が開発されるかというようなことは、ちょっと私いまの段階で申し上げる自信を持たないのでございます。ただそういった方向での努力をできるだけいたしたいということは、十分責任を持って申し上げられると思います。
  55. 土井たか子

    土井委員 どうもまだまだはっきりしないわけですね。確かに薬のことでありますから、慎重に慎重を期すということは大事かもしれません。しかし、もう諸外国において開発されている問題についていまから資料を取り寄せて少し検討もまだしなければならないというふうな段階だということは、ひとつ確認させていただきたいと思いますよ。しかもどうしても私こだわらざるを得ないのは、昨年四月一日から要指示薬に指定されて以後生産量は減っていない、ふえているという事実であります。どういうふうに現に使われているかという実態をもう少しはっきり把握なすっているはずであるというふうに思って私は質問したわけでありますけれども、一向その中身もはっきりさせられていない、ひとつこの安全性を期して慎重にこれに対しては検討なすっているのであるならば、現に使われているところのこの経口避妊薬といわれているこの中身についても実際問題に対して調査を進めて、そうして今後の検討課題というふうにぜひしてもらわなければならないと思います。どうですか。
  56. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 事が安全性の問題でございますので、御指摘の御趣旨はあるいは須原先生が前回御指摘になりましたような、現在産婦人科の医師の責任におきまして研究的と申しますか、そういった形で現在他の効能が認められておりますホルモン剤が避妊の目的をもって使われておるという事実を御指摘かと存じますけれども、そういった少数の現象によりまして安全性を云々するということは、いままでのデータによります副作用の発現率等から見まして、なかなか正確なデータを得ることは困難であろうかと思います。ただ使用の実態につきましては、私ども先生と同じようにやはりいろいろと把握する必要もあろうかと存じますし、そういった点は医師会あるいは日本母性保護医協会等の御協力もいただきながら、いろいろと検討はしてまいりたいと考えております。
  57. 土井たか子

    土井委員 また検討検討なんですね。具体的にひとつ努力の積み重ねというものをぜひやっていただきたいのですが、それもあいまいなことじゃ困るので、いま私が申し上げた点なんかを十分に留意しながらひとつやっていかなければならない問題だと考えます。  さて、この避妊という問題と同時に、いま一つの法改正のポイントになっている「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められる」場合、人口中絶ができるという項目がつけ加えられておりますね。胎児学の急速な発達に対応してのことであろうと思われるわけですが、現に、こういうことに対して察知する方法にはどういう方法があるのですか。
  58. 三浦英夫

    三浦政府委員 私、その道の専門ではなく、しろうとでございますが、聞いておりますのは、従来からありましたいわゆるレントゲン検査による方法に加えて、最近では羊水を抜き取って検査をする方法があるというように聞いておる次第でございます。
  59. 土井たか子

    土井委員 レントゲン検査というのは、これは指定医方々が必携ということで持っていらっしゃるこの資料の中にも、レントゲンということになると、これは受胎が不可能になるという可能性があるので、できる限り避けなければならない、これはちゃんと書いてありますね。いまの、あとにおっしゃった羊水の問題ですが、これは先ほど来おっしゃるとおり、安全性ということが非常に大事だ、一番大事だとおっしゃる、その安全性はだいじょうぶなんですか。胎児を羊水検査によって傷つけるということはないのですか。
  60. 本田正

    ○本田説明員 妊娠の時期を通じまして、一番安全な時期があるわけでございます。つまり妊娠十六週から二十四週といいますのは、大体妊娠四カ月から六カ月にかけてでございますが、この時期は非常に胎児が小そうございまして、胎児の小さいわりに羊水が多うございます。そういったことから、その時期が一番適切だということがいわれておりまして、諸外国の例、それから日本での従来の例を見てみまして、子宮を穿刺し羊水をとることによっての事故の報告例は一件もございません。
  61. 土井たか子

    土井委員 まだまだ羊水検査については、疑問点が多いということがしきりにいわれておりますね。それによってこれは「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有している」かどうかということをはかるわけでありますから、これは母体を傷つけると同時に、何といっても命の尊重というところが出発点でありますから、そういう点からいうと、胎児を傷つける可能性なしとしない。こういわれているのです。  しかもこれはさらにいうと、不良の子供は生きる権利がないのかという疑問と、まっ正面からこの問題はぶつかるわけですよ。そうして健康でない命というものについても、これを保障していくことができるような社会というものをつくらなければならない。健康でない命というものの定着ということができる社会を保障するということは、これはことばでいうと健康権を保障するということになると思うのですけれども、もう一つ大きな意味でいうと、これは環境権保障ということに私はなると思うのですが、そういう点からいうと、胎児の生命尊重をうたいながら、中絶手術を非難する。中絶手術よりもそれ以前に、避妊ということのほうが大事だというならば、それの対応策として、知識を含めた性教育、避妊教育、こういうものがどうしても私は必要だと思うのです。  あとで参考までに私は持ってまいりますけれども、たとえば外国の例、スウェーデンのような国においては、義務教育諸学校でどういうふうな性教育がなされているか。そのための教科書をわざわざつくって、非常にわかりやすく、ABCから説いているという例があるわけです。現にこういうふうな問題については、厚生省はどういうふうに考えていらっしゃるのでしょうか。文部省との間の関係もあると思いますけれども、いまそこにおすわりの皆さま方も、私たちも含めてですけれども、私たちは性知識というものに非常にうといですよ。正確な知識というものをはたしてどの程度持ち合わせているかというと、まことに貧困そのものであります。したがいまして、避妊ということについても、これはやはり正確な知識を男性は女性に対して持っているか、女性は男性に対して持っているか、特に男性は女性に対して持っているか。私は、この中身については、いつもお粗末だなあと思うことが多い。私ですら思うんだから、これはよっぽどですよ。したがいまして、こういう問題についてどういうふうに思っていらっしゃるかということをひとつお聞かせ願いたいです。
  62. 翁久次郎

    翁政府委員 先ほども申し上げましたように、一般的な社会教育あるいは学校教育立場から申しますと、文部省がそれぞれ学校教育法あるいは社会教育立場で、いま御指摘のあったようなことについての進め方が行なわれておるわけでございます。厚生省のたてまえで、先ほど来申し上げております家族計画の一環としてのいわゆる受胎調節、避妊の問題につきましては、集団指導の中で先ほど申し上げた婚前教室あるいは新婚教室の中で、パンフレット、リーフレットあるいは映画等を使用して、受胎調節の必要性あるいは避妊の成立の過程、受胎調節の方法あるいは実地指導に応ずる場所、実地指導者の存在の表示というようなことを具体的な内容といたしまして、それを県等を通じて指導しておりますのは、ラジオ、新聞、講習会というような媒体資材を用いるように指導しておる次第でございます。
  63. 川俣健二郎

    ○川俣委員 関連質問、というよりも動議的な質問、提案ですが、この優生保護法というのはいま質疑応答されておるように、非常に広範囲で複雑多岐、人口問題から避妊問題食糧問題に至るまで、非常に幅の広い知識を要求するし、なおきわめて専門的な知識が必要だと私は思います。理事会でも再々やっておるように、本来ならばこれは参考人なり連合審査なり、徹底的に審議を尽くしていくべきだという考え方だったが、しかし会期もこれあり、日雇い健保、結核法等の法案がらみの法案でもあるし、理事会では委員長の確認で各党に審議時間も割り当てて、そしていま急いでこのように質疑応答をやっているのを、私は理事の一人として見ていますと、やはり問題だと思うんだが、しかしこういうことをいまさらに言って、ほかの各党の質問時間に迷惑をかける気持ちはさらさらない。ただ、私は最低限度、社会党としてきのう金子議員からもるる質問して、とうとう答弁はとれなかったんですが、専門的な知識で審議するというのももちろんですが、法案が成立して国会議員としてやはり法に対する責任を持つとなれば、その中絶をやる人はだれか。法律の十四条に書いてあるように、社団法人の日本医師会である、こういうように条項に書いてあるわけだ。ところが、その日本医師会が絶対反対だということを、電報で各議員に意思表示されておる以上は、一体この法案というものに対する責任はだれが持つだろう、こういうように考えざるを得ないわけでして、社会党はあとで大原議員の質問が留保されておりますが、その問題がある程度解けない限りにおいては、私は、この審議は入っていったってしょうがないと思う。  もう一度申し上げますけれども、法律ができて、中絶する者は社団法人の日本医師会である。ところが、その日本医師会は今度の法案に反対である、こういうことをわれわれ担当議員に電報で意思表示されている。日本医師会がそういう絶対反対であってもこの法律はつくるんだ、そういう前提で審議をお願いしているんだということを政府は思っているのかどうか、その点一つだけを聞いて、社会党がこれから質問を続けるか留保するか、その点の態度をきめたいと思います。大臣、お願いします。
  64. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 昨日、日本医師会長からの電文、私も見せていただきました。私はどういう理由か一向存じておりません。何も存じていないのです。私は何も存じておりません。電報が来たという事実は、私も承知をいたしております。政府といたしましては、提案をいたしました以上は、国会において十分審議をしていただく、これが政府の基本的な態度でございます。
  65. 川俣健二郎

    ○川俣委員 電報にはいろいろあるという雑音もあります。にせ電報もあるだろうし、あるいはいたずらして、医師会の中での反対の医者が出したかもしらぬ。しかし一応、日本医師会武見太郎という名前で出た以上は、一人じゃないのだから、みんなに来ているんだから、そうしたらある程度調査して、それは日本医師会の一部が反対だぐらいのある程度の話がなければ、私らこの法律に対して責任持てないと思うのですよ。修正だってそうでしょう。だから私は、委員長、やはり理事会で、先ほど申し上げましたように、非常に複雑多岐だし、専門的な分野で質疑しなければならぬから、時間が足りないということを再提案をして、理事会を並行的に開いてもらって、そして各党の割り当て時間を、さらに時間をいただくように提案をして私の質問を終わって、社会党の質問をこれ以上続けないで留保したいと思います。
  66. 土井たか子

    土井委員 ちょっといまのに補足。  いま川俣理事のほうからの発言どおりでありますが、たとえば法案というものは一党一派の立場で出されるものじゃないと私は思っているわけであります。広く国民的立場に立ってやらなければならぬ。そういう点からいいますと、遺伝学会や国立遺伝学研究所や日本母性保護医協会などの意見を、この改正される法案をつくられる中においていろいろ意見聴取をされているのかどうかですよ。国立遺伝学研究所の松永、木村部長は、厚生大臣に本法案改正の必要なしという意見書を提出されていることも事実であります。特に忘れてもらっては困るのは、医師会もそうでありますけれども、私は、一人一人の女性こそこの場合大事なんで、女性のこれに対する意見がどうであるかということを無視してかかってもらっては困るわけであります。これに対してはいろいろな陳情が来ておりますけれども、特に厚生省自身は先ごろ、私が申し上げたとおりで実態調査を、意識調査をやっていらっしゃるわけでしょう。この中身がまるで無視されていますよ。  こういうことで今回の改正案というものが出されたいきさつから考えてみますと、私たちはこれに対して了としない。これは先ほど川俣理事が言われたことに対しての補足であります。
  67. 野原正勝

  68. 田中美智子

    田中(美)委員 それではきのうの質問に続きまして、きのう半分しか質問しておりませんので、そのあとの質問を始めたいと思います。  まず、きのうやりかけましたところで、経済的理由というところですね。ここのところをもう一度大臣に伺いたいわけですけれども、経済的理由というのはどういうことなんでしょうか、もう一度はっきりお答えいただきたいと思います。
  69. 三浦英夫

    三浦政府委員 この経済的理由の条文が挿入されましたのは、昭和二十四年の改正のときであったわけでございます。それまでは母体の生命を著しく害するおそれがある、こういう条文だったのが、その際に、二十四年のときに経済的理由によって……。(田中(美)委員「質問に対して回答が違う」と呼ぶ)したがいまして、私どもの経済的理由の運用解釈は、生活保護世帯であるとかあるいは生活保護世帯に準ずるような方々については、この経済的理由に該当するということになる。したがって、そういう運用解釈の上で今日まで来ておるような次第であります。
  70. 田中美智子

    田中(美)委員 きのうの続きなんですから、最初からまた始めないでいただきたいと思う。貴重な時間ですのでね。そういうことは何べんも聞いています。  あなたのおっしゃることは、生活保護家庭は、それに準ずる家庭は、貧乏だから子供をおろしてもいいということだったわけですか。
  71. 三浦英夫

    三浦政府委員 そういう家庭の方が妊娠を継続されると、母体の健康を著しく阻害するおそれがある場合が多い、そういう、結局のところは母体の健康を著しく害するおそれがあるという、指定医師の認定判断でやっているわけであります。
  72. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、きのう大臣がおっしゃったのと違いますけれどもね。これは、十四条の四というのは、「身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」。それじゃ、それは、生活保護とそれに準ずる人だけがそういうことなんですか。きのうとだいぶ違いますね。
  73. 三浦英夫

    三浦政府委員 従来からの厚生省の運用態度として、経済的理由につきましては、昭和二十八年以来、そういう通牒を出して運用にあたってきているところでございます。
  74. 田中美智子

    田中(美)委員 きのう大臣が、経済的理由ではできないのだというふうに言われましたけれども、もう一度その点を確認したいと思います。
  75. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 この法律の字句に書いてあるとおりなんです。経済的理由だけではいけません。経済的理由によって母体の健康に支障があるおそれがある場合、こういうわけでございます。きのう言うているとおりでございます。
  76. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、経済的理由で健康に害があると思われる場合、これは医者一人が判定するわけですね。そうすると、これは、生活保護やそれに準ずる方たちが、食べるものが少なくて、からだが十分ではないから、妊娠すればからだに影響があるということ、それからお金がないためにいろいろ心配することによって、食べるものはちゃんと食べて健康だけれど、お金がないからいろいろなことで心配なために、それが健康を害するおそれもあるという場合もいいというわけですね。
  77. 三浦英夫

    三浦政府委員 いろいろございますが、終局的には指定医師の診断、判断によるところでございます。
  78. 田中美智子

    田中(美)委員 実際の場合は、そうすると、どういう人であっても、経済的なことが心配であろうと何であろうと、健康を害するおそれがあるという場合には、いままでは中絶ができたわけですね。それはよろしいですね。大臣、それはいいですね。
  79. 三浦英夫

    三浦政府委員 お説のとおりでございます。
  80. 田中美智子

    田中(美)委員 それでは今度、精神と身体のおそれがあるという場合になった場合には、これは一体だれがこの判定をするのですか。だれが、どこでするのですか。今度は精神がからだに害を与えるような精神状態になっているという場合には中絶が許されるわけですね。これは、だれが、どこで、判定するのですか。
  81. 三浦英夫

    三浦政府委員 やはり従前どおり指定医師の判断にまつことでございます。
  82. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、その指定医師が、心が不安定であったり何かして、からだに影響を与えるおそれがあると、一人の医者が判断すればいいわけですね。その判断の基準というものは、その一人の医師の良識にまかされているわけですね。
  83. 三浦英夫

    三浦政府委員 精神がからだでなくて、精神の健康、要するに肉体的でなくて精神の健康を著しく害するおそれがあるとき、こう読まれるべきだと思います。いずれにいたしましても、当然ほかの病気の診断と同じように、医師の診断にゆだねられることでございます。
  84. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、これは指定医というのは産婦人科医ですから、指定医が精神の健康に害があるときめるわけですね。それは病名をきめるのですか。
  85. 三浦英夫

    三浦政府委員 先生承知のとおり、医師というのはたまたま産婦人科を専攻、特に産婦人科を専攻されているお医者さんもあると思いますが、医師というのは人間全体についての健康について御判断をされるところでございますから、したがいまして、たまたま産婦人科を専攻されている方が指定医師であると申しましても、医師はやはり医師としての全能を持った医師であるわけです。
  86. 田中美智子

    田中(美)委員 私の聞いているのは、よく聞いていてください、そして言ったことに答えてください、時間がもったいないですからね。そんなことはわかっています。医者が、その産婦人科を専攻している医者が病気だときめなければいけないのですか、そう言っているわけです。
  87. 三浦英夫

    三浦政府委員 病気をきめるのではなくて、精神または身体の健康を著しく害するおそれがあると認めた場合でございます。
  88. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、そういうときには健康保険はどうなるのですか。おそれがある、こういった場合には健康保険は適用されるのですか。
  89. 三浦英夫

    三浦政府委員 いまの保険の御質問は、人工妊娠中絶に対しての保険の給付かと思われますが、現行では十四条の一号、二号、三号、四号のうちの経済的理由でなくて身体的理由によって母体の健康を著しく阻害するおそれがある場合における人工妊娠中絶については、保険給付の対象になっていると聞いております。
  90. 田中美智子

    田中(美)委員 どうして私の言う……私の言い方が悪いのでしょうかね。精神で、精神の健康を著しく害すると産婦人科の指定医が判断した場合、中絶できるわけでしょう。これは健康保険でできるのかと聞いているのです。
  91. 三浦英夫

    三浦政府委員 それにつきましては、現に害しているんじゃなくて、母体を著しく害するおそれのあるものでございますから、現に害してなくてもできるわけですから、現に疾病でなくてもいいわけですから、したがいまして、その場合の疾病でない前提のもとにおける健康保険というのは考えられないんじゃないかと思います。
  92. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、やはりこれは病気でなくてもできるわけですね。健康保険がきかないわけですからね、こういう場合。身体に著しく影響がある場合には健康保険がさくけれども、精神の健康に著しく害のある場合というのは病気ではないから健康保険がきかないというわけですね。
  93. 三浦英夫

    三浦政府委員 現に疾病でなくて、そういうおそれがあるという判断でございますから、病気以前でございますから。
  94. 田中美智子

    田中(美)委員 そうしますと、きのうから、一体この法案が通れば国民にとって中絶をしやすくなるのか、しにくくなるのかということが非常にあいまいになるわけですね。どちらですか。もう一度はっきり答えてください。
  95. 三浦英夫

    三浦政府委員 きのうも申し上げましたとおり、ゆるめるとか広めるとかいう意図でやっているのではなくて、個々の理由をあげるよりは、総合的なそういうおそれがあるという医師の診断というか判断にまったほうが適当だということでやっておりますから、したがってそういう予測はいまのところつきかねるわけでございます。
  96. 田中美智子

    田中(美)委員 何べんも言いますけれども、あなた方はそういう予測でやっても、法律をつくるときには、これがどういうふうに運営されるかということを見ないでつくるということはないでしょう。これをつくったら実際には国民は中絶しにくくなるのか、しやすくなるのかということの予測がつかないでやるということはないでしょう。そこを聞いているわけです。どういう予測ですかと聞いているわけです。まだやってないですからわかりませんね。しかし、これが通りましたらどうなるのか。その予測は厚生省としては持っているのか、全然その予測がないのか。持っているならば、広まるのか狭まるのか。三つの回答があるはずです。この三つのどれであるかをはっきり答えてください。
  97. 三浦英夫

    三浦政府委員 予測をもって改正をお願いしているわけじゃなくて、特定の理由だけというのはおかしいからということでございますので、したがいまして、いま予測をどうだこうだということはちょっとわかりかねると思います。
  98. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、この法案が通ればどういうふうになるかということは全く予測なくつくった法案だということがいえるわけですね。もしこれがいまより広まる——いまはうんと広まっているわけですからね。いまと同じくらいであるというならば、こんな法改正をすることば全くないわけです。それなのにするということは、狭まるのではないかということを国民は非常におそれているわけです。それをあなた方は言いたくない。だから全く予測しないでこの法案を提案しているんだということが、いま非常に明らかになったと思います。  次の質問に移りたいと思います。  その次は、きのうは受胎調節の問題を質問していたわけですけれども、この指導がどのようになされているか。きのうはどれだけの予算でどういう範囲で行政をしているかということを伺ったわけですけれども、きょうは具体的に、これは年齢によって違うと思いますけれども、家庭の主婦に対してどういう受胎調節指導をしているか、その点を簡単に話していただきたいと思います。
  99. 翁久次郎

    翁政府委員 厚生省が各府県の実施指導員を通じて受胎調節指導をしております内容は、集団指導と個別指導に分けられるわけでございます。集団指導につきましては、これは婚前の女性三十人ぐらいを一つの単位としたいわゆる集団的な指導、それから新婚学校という、これもまたやはり三十人程度の方々を対象とした実地指導。いま御指摘のありました個別指導、これは具体的にはすでに中絶後非常にからだの不調を訴えられているような方の場合には、こちらから出向いてこの次の妊娠をされる場合の注意を申し上げる、同時にその場合の避妊の方法として、これもいろいろな方法がございますけれども、具体的に申し上げるならば、受胎調節には努力が必要であり、油断しないようにする注意が必要である、さらにコンドームであるとかゼリーであるとか、あるいは基礎体温の測定の方法あるいはその測定の場合に基本体温が低温期の場合には避妊をしたほうがよろしい、高温が続いたら、四日したら避妊しなくてもよろしいというような具体的な中身、さらに荻野式の方法、こういったものを合わせた指導を行なっているわけでございます。
  100. 田中美智子

    田中(美)委員 いま二つの問題が答えられたと思います。一つは油断するなということと、それからもう一つはコンドームやゼリーやリズム法などをあわせて使いなさいという指導をしているということですね。コンドームとゼリーとリズム、きのうのお答えにありましたように、こういうものでやった場合に失敗率というのは大体いま二五%というふうに出ているわけですね。そうしますとこの二五%失敗した場合に、これは油断したから悪いということなんですか。油断をしたから二五%になったということですか。
  101. 翁久次郎

    翁政府委員 その原因が油断であるのかあるいは器具の欠陥があるのか、その点については必ずしも一がいに原因を推定することは困難だと思います。
  102. 田中美智子

    田中(美)委員 油断をするなという指導中身を教えていただきたい。油断をするなというのはどういうことですか。
  103. 本田正

    ○本田説明員 コンドーム、ペッサリー、荻野式、いろいろ方法があるわけでございますが、それぞれについてやはり使用方法なり注意があろうかと思います。特に荻野式あたりは次の月経から逆算してのことでございますので、非常に月経の周期が不安定な方はなかなかうまくいかない場合もございます。そういったことをあらかじめ知って、たとえば月経の周期の不安定な方にはコンドームをあわせて用いる、あるいはゼリーをあわせて用いるとか、いろいろ方法の組み合わせがあろうかと思います。油断ということは、まずそういった技術的なこまかい注意をいろいろなケースについて指導する、そういった意味でございます。
  104. 田中美智子

    田中(美)委員 それじゃ油断をするなということは、日にちの計算のしかたをきちっとしておけとか、それからコンドームが不良品でないかどうかをちゃんと点検しておけとか、そういうことなんですか。
  105. 翁久次郎

    翁政府委員 そのとおりでございます。
  106. 田中美智子

    田中(美)委員 それだけの指導を——いまあなた方がやっている指導日本の場合二五%ぐらいの失敗があるわけですね。そうしますと、その失敗は、どうして二五%という失敗が出ていると思われますか。
  107. 翁久次郎

    翁政府委員 この二五%の失敗率は確実な数値ということではなくて、ある程度推定を加えられた数字であろうと思います。  先ほども申し上げましたように、日本の御婦人の一般的な知識水準というのはきわめて高いわけでございまして、厚生省が優生保護立場から保健所なり優生相談所を通じて指導しておりますのは、そういった中にもこういった知識についてやはり事前の認識と申しますか、そういったことが必要な方々を婚前あるいは新婚あるいは一般家庭婦人というように集団的、個別的にやっているわけでございます。どんなに指導のきめをこまかくいたしましても、ある程度の失敗の予測数値は考えられる。したがって現在二五%の失敗率というものを極力下げていくということがやはり今後の行政の目標であり、あり方でなければならない、かように思うわけでございます。
  108. 田中美智子

    田中(美)委員 失敗率を下げるためにはどうしたらいいですか。失敗率を減らすということは、どういう計画を立てていらっしゃいますか。
  109. 翁久次郎

    翁政府委員 これはやはり一厚生省指導だけではなくて、国民全体のレベルの問題もあろうかと思います。  しかし、私どもの仕事に限って申し上げるならば、今後もっと都道府県の保健所あるいは優生相談所等を通じてこういった知識の普及、特に家族計画先ほど申し上げましたように、考えて産んでよい子を育てるという立場の避妊あるいはそういった具体的な方法の普及につとめていくということ以外にないのではないかと思います。この点については今後ともさらに努力を加えるという以外に申し上げようがないと思います。
  110. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、非常に抽象的な、ただ社会教育とか、そういう指導以外にはない、こういうふうにいわれますけれども、私はそのように思わないわけです。それは知識の普及も大切です。しかし、日本世界の国の中で義務教育は非常にトップにいく国です。そういう意味で字の読み方、そういうものに書いてあるものを読んで理解する力というのは世界の国民の中ではトップにいっているわけですね。   〔委員長退席、斉藤(滋)委員長代理着席〕  ですから戦後日本人口を急激に減らすことができたのは、中絶もありますけれども受胎調節をやることができたということが大きかったと思うのですね。そういうことですから、それだけ知識もあり、これはいま非常に普及しています。それは一部分にはまだ十分に読むことさえめんどうだということもありますね。しかし一般の主婦というのはほとんど読んで理解している。そして気持ちの上では油断せずにやっていても、これが失敗するわけです。  そういう意味で、大体いま私たちの友人関係で話していることは、いろいろな人に聞いて、子供が四人目できた、三人目できたという人に聞いてみますと、大体が三人目、四人目はうっかりして失敗してできちゃったんだけれども、やはりおろさないで、二人も三人もいるからずいぶん迷ったけれども産んだという人が非常に多いのですね。それはどうしても産めない情勢にある人たちは、一人二人のところでおろしたりということがあるわけですけれども、三、四人のところはほとんどが失敗でできている。これを聞いてみますと、ほとんど当たるというわけですね。ちょっと失礼だけれども四人目は計画出産ですかというと、いやそうじゃない、ちょっと失敗したんです、こういうふうに言う。皆さんたちに聞いてみてください。大体そういうふうなことなんですね。ということは、いかに失敗率として、中絶の形で出てきた以外に、失敗したけれども産んだんだ、しかたがないから産んだんだという人たちもたくさんいるということで、これは失敗率が二五%よりもはるかに計画出産では失敗している人たちが非常に多いということなんですね。これだけ知識も普及し、日本のレベルは高い。にもかかわらず、これは二五%よりもはるかに高い段階の失敗をしているということは、私はたくさんの原因があると思うのですね。この趣旨説明の中にありますように、国民の生活が豊かになったから経済的な理由では中絶できないのだというふうな言い方が書かれてあるわけですけれども、国民の生活が豊かになっていないから失敗率が多いのだというふうに私は思うわけですね。  それはたくさんあるわけですけれども、その一つの大きな問題というのは、まず住宅だと思います。きのうも申しましたように、木賃アパートのたった一部屋に台所と風呂とトイレがついているというところに住んでいる夫婦はまだいっぱいいます。そういうところに住んでおりますと、木造ですから全く隣もすぐくっついているわけですね。一軒家というものはいま庶民はなかなか入れないわけです。そうすると、ほんとうに話し声も息づかいさえも聞こえるというような、そういうところに住んでいる夫婦というもの、それからそこに子供が生まれ、そしておじいちゃん、おばあちゃんもいる、だれかがいる。そういう一部屋の中で、ここが食堂であり居間であり寝室であるという家がうんとたくさんあるわけです。こういうところで油断をするなという指導はどういうことなんですか。幾らコンドームの使い方を微に入り細に入り知っていても、実際にそういうときにコンドームが使えるかということですね。(「使えるよ」と呼ぶ者あり)大きな家に住んでいる人とは違うわけです。そういうことから考えて、まずそこからやっていかなければ失敗率というものは決して減らないということを私はいっているわけですね。そういう点を考えないで、ただ指導していく。それで食べるものやそれからテレビや自動車やそういうものがあるから豊かになったのだ、それだからもう経済的な理由でからだに影響を与えるという場合には中絶をさせないのだというような理屈というのは、比常におかしいというわけですね。だから勘ぐられるのは、日本の国民が勘ぐっているだけでなくて、きのう論争しましたように、東南アジア人たちが非常にこの優生保護法をおそれている。これは世界の問題になるわけです。この優生保護法は単なる日本の問題ではないと思うのですね。この点、住宅が狭いということ、一部屋に住んでいるというふうなこと、これをどういうふうに解決していくかということについてお尋ねしたいと思います。
  111. 三浦英夫

    三浦政府委員 住宅事情母性保護というのは、直接の関係は私もいかがかと思いますが、いずれにいたしましても本来刑法で禁じられているものを母性保護観点から人工妊娠中絶ができるようになっているわけでございまして、直ちに住宅関係とは直接関係ないのではないかと思います。   〔斉藤(滋)委員長代理退席委員長着席
  112. 田中美智子

    田中(美)委員 先ほどからも盛んに質問の中に出ておりましたけれども、人間は社会的動物なわけですから、社会的条件というものは全く関係ないのだ、ただ医学面だけで、コンドームがある、リズム法がある、ペッサリーがあるのだ、そういうものでやっていけば失敗率は少ないのだというものの考え自体が、非常にさか立ちしている。むしろさか立ちしているよりも、それは単なる詭弁であって、ねらいは別なところにあるということが言えると思います。  昨日、東南アジアの話をしました。これは世界的な問題として大きな問題だと思いますけれども、もう一つ自民党の一部議員のメンツによってこの法案が出されているのではないかということが、いま国民の中で非常に大きな話題になっているわけです。これはいろいろなところのあれに出されているわけですけれども、まずこれは日本家族計画連盟の出した新声明という声明ですね。この中を読んでみますと、「而かも世に広く噂されているように、一部の議員たちが、或る宗教団体の勢力下にある票の支持を得るためであるとすれば、その罪は絶大である。」これは新声明に書いてあるのですね。「国家百年の大計にも関係する優生保護法改正問題の如きは、たとえその必要ありとするも、充分の時間をかけて広く国民各層、特に婦人の意見を聞き慎重に措置すべきであろう。」受胎調節指導をしているところからこういうことを言っているわけです。それから四十八年五月の朝日新聞にもこういうことが書いてあります。自民党の代議士が「私は慎重論だ。審議には入らないと思う。来年の参院選を控えて、その宗教団体の票をアテにしている一部の自民党議員のメンツのために、政府がやむなく提案したものだ。野党はもちろん、自民党内にも反対の空気は強い」これは自民党の社労の議員が新聞に言っていることばです。それからまだあります。これはことしの四月三十日の神奈川新聞ですけれども、「自民党内には改正運動を推進している生長の家系議員を中心に、参院選向けの思惑もあって、修正をしてでも成立を図ろうとする声が出ており、」そして間をちょっと抜かしまして、「このような情勢の中で、自民党内に成立を図る声がにわかに出たのは、参院選が間近に迫っているのが最大の理由。会員二百万人という大きな票田である生長の家の意向にこたえる必要があるというわけだ。」こういうことがことしの四月三十日の新聞に出ております。まだあります。これはことしの五月十七日の毎日新聞です。この中には、「自民党が同法案に熱心なのは、日本列島改造論ならぬ日本民族改造論が根底にあるといわれているが、当面のねらいは参院選。中絶規制に関心を持つ宗教団体」——これは中絶を規制する法律だというふうにこの宗教団体は考えているわけです——「宗教団体、中でも「生長の家」のおぼえを良くしておきたいためだといわれている。特に玉置氏に対しては「法案を通さなければクビだ」とまで「生長の家」ではいい切る」と、こういうことを書いてありますね。そして日本産婦人科医でつくる日本母性保護医協会の会長森山豊氏は「選挙向けであることは公然の事実。以前に法改正を検討した時は我々の意見聴取もあったが今回は全くない。国民の意見を全然反映していない。人工中絶の問題は、法全体を時間をかけてじっくり考えるべきものだ。また一片の法律で片づけることなく正しい家族計画を真剣に考え、根本的には安心して産み、育てる社会福祉対策が大切なのに今度の法改正にはその精神が欠けると怒る。」と、いうふうに毎日新聞に出ているわけです。これは一流の毎日、朝日、そういうものが報道しているわけですから、庶民はやはりほぼこのとおりであろうというふうに考えているわけです。国民の一部分の世論ではなくて、ジャーナリストをも入れたこうした世論というもの、一流新聞の報道とそれからその方面の専門家たちの言われていること、これについて大臣はどのようにお考えになりますか。
  113. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 先ほど来るる、いろいろな記事をお読みになられたわけでございますが、その話は十分私も承りました。しかし、私ども厚生省の者は、この法律を提案いたしましたのは、局長からるる申し上げておりますように、戦後の荒廃した時代から最近における繁栄をきわめておる日本の経済、社会に発展をしてきたということや、あるいは医学、医術の進歩に伴うことやら、いろいろなそういう理由を考えましてその理由に基づきまして、要するにこれは刑法の定める堕胎罪の免責の法律でございますので、現代の世相に合うような優生保護法にしようということだけを考えて提案をいたしておるものでございまして、そういうふうなことをいろいろ言うている人もありましょうが、私どもはそういう考えに基づいてやっているものではない、この点だけははっきりと申し上げておきたいと思います。
  114. 田中美智子

    田中(美)委員 まさか厚生大臣がそのとおりですとはお答えになれないことはよくわかっておりまして、世論というものはこのようになっているということを、新聞は読んでいらっしゃるでしょうけれども、もう一度その一部分をお知らせしたにすぎないわけです。  いま刑法ということをおっしゃいましたけれども、一部宗教団体、生長の家なんて書かれていましたけれども、この人たちが今度の改正案に非常に賛成しているということは事実なんですね。自民党の一部議員と一緒になってやっているということは新聞では報道しているわけですけれども、これは私は確かなことはわかりませんから言いませんけれども、そういう宗教団体が、これは中絶を規制するものだということをいっているわけなんです。だから賛成をしているわけなんですね。生長の家のいうことは、そういうことをいっているわけです。そうしますと、いま刑法とかいうことをおっしゃいましたけれども、いま刑法の改正がやられてきているわけですね。この改正案を見ますと、いままでは三年とか二年という体罰であったわけです。ですから堕胎をしたりそれから堕胎をさせたりという人が一年なり三年なりという間刑務所に行くということがあったわけです。ですからよほど犯罪に関係するような堕胎罪でない限り、堕胎罪というものは実際にはほとんどなきにひとしいものであった。あるけれども実際にはあまり使われていなかったわけですね。それが今度の改正案を見ますと、各項目について全部罰金刑がついているわけです。そうしますと、罰金刑をなぜつけたか。そこだけ見ますと体罰よりも少し軽いようなものがあるように見えますけれども、実際にはこの堕胎罪が復活してくるというそういう準備がちゃんとなされている。堕胎罪が復活してくる、こういうふうに受けとめていますけれどもその点についての御見解を伺います。
  115. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 御承知のように現在、刑法改正草案が法制審議会においていろいろ論議をされておるということを承知いたしております。これは法務大臣のお答えになることでございましょうが、その草案が審議会においてまとまりました段階において、政府がそれを受けてどういう案を政府提案としてお出しになるか、それはまだ何もきめてないと私も承知しております。刑法改正についての法制審議会においてのその草案について、いろいろ相談をされているということを承知をしておるわけでございます。もしかりに将来何年か先にその草案のとおりの刑法が成立したとしても、優生保護法に基づく人工妊娠中絶は適法になる。この解釈はいまの刑法との関係においても、将来かりに改正されるとしても、その刑法においても堕胎罪の免責になる。すなわち優生保護法によって行なわれる人工妊娠中絶は適法となる、堕胎罪にはなりません、こういう解釈は現行法との関係においても将来においても同じでございます。
  116. 田中美智子

    田中(美)委員 これは中絶の規制がきびしくなくてくれば、昨日話しましたような、アメリカであったようなほんとうの医者でない者がするやみ中絶ですね、日本やみ中絶は届けていないのをやみ中絶といっているわけですけれども、アメリカのような医者でない者がするやみ中絶というものがはやってくるわけです。それを防止するために刑法を改正して罰金を課する。体罰ではあまりにも気の毒過ぎるというので、ちょっと罰金を課すというようなことがきちんとセットでなされているということは、これは国民は見のがしていないわけです。ですから、あなた方は、この法案というものが広がるのか狭まるのかということに対して、きのうから逃げを打っている。絶対に広がるのか狭まるのかということを言わない。予測もしてない——してないはずはないのですけれども、予測してない、こういうふうにおっしゃる。だけれども、ちゃんとこれば狭まるから、その規制のために、もし不当なことをすれば罰金刑というものが出てくる、そういう準備がなされている。こういうところから、これを狭めるために、こういうことがなされていく。だから、ある宗教団体がそれに対して非常に賛成しているという形になっているのだというふうに思います。  その次に、適当な年齢のときに初回の妊娠の指導をするということを今度は法律できめた。これはなぜ法律できめるのですか。現行法で、適正な年齢での指導というのは、家族計画の中では、していないのですか。
  117. 翁久次郎

    翁政府委員 現在の家族計画指導の中でも、ただいま御指摘になったようなことは、指導の対象になっております。ただ、今度の改正でこういう条項を入れましたのは、御承知とも思いますけれども、たとえばダウン症候群のような疾病にかかる場合が、若い時代にお産をしたおかあさんと比べて、四十代以後においては十倍近くある。したがって、高年齢で出産をされる場合には、子供さんもさることながら、母体の健全な保護という立場からいって、やはり事前に十分指導することが望ましいということが定説でございます。したがいまして、本法の改正の際に優生保護立場から、ただいままでやっております指導のほかに、こういった新たに、適正な年齢での妊娠並びに出産をすることが、考えて生んで、そしてよい子を育てるというたてまえからいって、きわめて望ましいということで、この改正条文を入れた。あくまでもこれは強制でもなく、相談に応じ、あるいは診断指導する場合の一つの目安であるということで入れた次第でございます。
  118. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、いまやっているのは、怠慢なのか、やる気がないのか知りませんけれども、効果がないということですか。簡潔に答えてください。
  119. 翁久次郎

    翁政府委員 そういうふうには全く考えておりません。
  120. 田中美智子

    田中(美)委員 考えていないのに——いまので十分できるわけでしょう。そこに予算をたくさんもらえばできるわけじゃないですか。それをなぜ法の改正をするのですか。法改正をしなければできないというならばわかりますよ。ですけれども、なせ、いまできるのに——それじゃいまのままでは指導ができないのか。なまけているのか、それともできないのかといえば、全くそんなことはない。ちゃんとできるならば、こんなものを何でくっつける必要があるのですか。
  121. 翁久次郎

    翁政府委員 簡潔に答えろということで、先ほどきわめて舌足らずであったかと思いますが、いままでの指導において中心になっておりますのは、受胎調節中心とする指導、そして最近の学問的な事例によって、そういう高年齢出産の場合の危険性がふえてきた。したがって、それは学界あるいは一般の常識にもなってきていることでもありますので、そういった知識に乏しい方をより多く指導することが必要であるということでつけ加えたということでございまして、全く他意はないわけでございます。
  122. 田中美智子

    田中(美)委員 高年初産婦がふえてきたからこうするというのですが、なぜ高年初産婦がふえてきたのですか。
  123. 翁久次郎

    翁政府委員 高年で初産をされる方の障害というものが多いということがはっきりしてきたということを申し上げているわけでございます。
  124. 田中美智子

    田中(美)委員 なぜそういうことがふえてきているのですか、高年初産婦が。なぜそういうふうにわかってきたのですか。
  125. 翁久次郎

    翁政府委員 従来からも一部には、高年齢の出産の場合には胎児あるいは出産をされる子供さんあるいはおかあさんに障害が多いのではないかということが言われておりましたけれども、最近の医学の進歩によって、それが学問的な常識になってきたということでございます。
  126. 田中美智子

    田中(美)委員 医学が進歩すれば、高年初産でいろいろ事故を起こす人は減るはずですよね。それがふえているというのはどういうことなんですか。
  127. 翁久次郎

    翁政府委員 出産される子供さんが障害を持つということは、従来から高年齢か低年齢かは別として、あるわけでございます。ただ、高年齢で初産をされる場合に、そういう比率が若いときよりも多いということが学問的にもはっきりしてきたということを申し上げておるわけであります。
  128. 田中美智子

    田中(美)委員 学問的にはっきりしてきたら、なるべくそうしないように、いまのままで指導できるわけじゃないですか。指導したらいいじゃないですか。なぜこんな法律をつくらなければならないのですか。
  129. 翁久次郎

    翁政府委員 指導ということはもとよりでございますけれども、一般的な問題として、若いときにじょうぶな赤ちゃんを産むということと、高年齢で初産をされた場合にその障害を持つという比率が高いということを申し上げておるわけであります。実際的なお産をする場合のいろいろな学問的な事実ということとは別でございます。
  130. 田中美智子

    田中(美)委員 そう話をはぐらかさないで……。高年初産婦がいろいろな事故が多いということは、先ほどから言っていますけれども日本は義務教育が進んでいるのですから、そんなことを知らない人はいないですよ。昔からそんなことは言われているのですよ。それがなぜ、いま高年初産婦でいろいろな事故が出てきているのかということは、かつてはそれが隠されていた面もあるかもしれないけれども、いまは医学が発達して、いろいろ報道もはっきりしてきてわかるという面があるかもしれません。しかしわかっていながら、高年で初産婦にならざるを得ない原因というのは、どういうふうに考えていますか。無知だからそうなるのですか。日本の婦人は無知だから、三十過ぎて子供を産むというようなことを好むのですか。
  131. 翁久次郎

    翁政府委員 私のほうは、あくまでも母性保護立場から申し上げておるのであって、高年齢初産の場合にそういう障害があることをできるだけ避ける必要があるということで、相談業務の中にこれを入れておるということを申し上げておるわけであります。
  132. 田中美智子

    田中(美)委員 相談業務に入るなら、それでいいじゃないですか、やったらいいじゃないですか。ますます高年では産まないようにとやったらいいじゃないてすか。幾ら指導していても——あなた方に能力がないのか、怠っておるのか、幾らやっても、婦人のほうが聞かないのか、聞かないから今度は法律でもって無理やりに若いときに産ませる。結果はそうなるじゃないですか。そういうことになるでしょう。
  133. 翁久次郎

    翁政府委員 これは法律の規定として、決して義務規定ではございませんので、相談する場合の中身として、受胎調節に加えて、高年齢初産は避けたほうがよろしいですよという指導をするための一つの目標と申しますか、そういうことで、ただいま御指摘があったように、こうしなければいけないと言うつもりは毛頭ございません。
  134. 田中美智子

    田中(美)委員 そうならば、法律をつくることはないでしょう。もちろんこれはいま強制力はない、こう言われるかもしれません。しかし、子供をいつ産もうと、どこでだれの子を産もうと、それは自分のきめることでしょう。そういうことを、子供を出産する時期とか、結婚は三十歳までにしなきゃいけません、こういう指導をされたらとんでもないことですよ。こういうことは、結果的にどうなるか。いま国民が非常におそれていることは、適正な年齢というのは、結局子供を若いときに産むということですよね。こういうことは、出産の時期だとか、結婚をいつしなさいというようなことをある程度規制していっているわけです。これは憲法違反ですよ。基本的人権の違反です。基本的人権というものは、これは「この憲法が國民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び將來の國民に與へられる。」憲法十一条で基本的人権というものがいわれているわけですね。ですから、自分の子供をいつ産もうと産むまいと——これはアメリカの最高裁でも言ったわけです。生む生まないは親の権利だと言っているわけですね。ですから、いまのままでできるわけですからね。なるたけ若いときに産めるなら産んだほうがいいという指導をするのはいいことです。しかし法でもって、こういうものをわざわざ、いまできるにもかかわらず、これをやるというところに別のねらいがある。ここでは、強制しない、ただ指導すると言いますけれども指導という中身というものは、受ける側からすれば、強制のようにとられる場合がたくさんあるではありませんか。これは確かに刑法には触れないかもしれません。しかし、あなたはいま産まないと、優生保護法では、これはもうだめです、経済的理由ではできないのですから、もうだめですよ、これは産まなければ、これをもし無理におろせばあなたは刑法の罰金刑の何々になりますよということは、もしそういう指導をしたら、これは刑法には触れていません、触れていませんけれども、受けるほうからすればまさに脅迫です。自分は失敗して生まれたんだ、保育所は足らない、お金もないし、とても育てていく自信がない。ましていまのアパートなんというのは、子供が生まれるとおん出されるんですよ。私、秘書が二人おります。これは名古屋から来てくれたわけですね。彼らはみんな子供を持っている。で、東京へやってきた。入る家がないのですよ。さがし回ったんです。あちこちさがし回って、奥さんをなかなか呼べないのです。子供がいるというと、安いアパートは全部ぱあですね。もう一人の秘書は、これは子供が生まれるというんでアパートをおん出された。それで別のアパートに移って子供を産んだというような事実もあるわけですね。こういうふうに実際に小さい子供を持っている人たちは、さっき家が狭いということを言ったわけですけれども、アパートをおん出されるんですよ。そういう人が妊娠した場合、せっかく安いアパートの居住権ができたんだ、よそへ移ればまた権利金だとか引っ越しの費用だとか、また家賃がうんと高くなる、とてもできないからこのアパートで産みたいというのに——産まないように一生懸命していたけれども家が見つかる前に子供ができちゃった。そうすれば、それをおろさなければならない、そういうときに指導を、いや若いときに産まなければいけません、これは優生保護法の規定の中に入りませんよ、これを無理しておろせば刑法で罰金刑になりますよ——これは情報提供で知識を教えてくださったということかもしれません。しかし、受ける側からすれば、どうしても産まざるを得ない立場に追い込まれてしまうわけです。そうした国民の置かれている立場を無視して机上の空論のような、いまの返答はみんな机上の空論の御返答です。実際のねらいは、きのうからいろいろ出しておりますけれども、そうした言い方だけでどうして国民が納得するでしょう。だからこういうものを、適正の年齢というものをつけたものに対して、結婚や出産の時期を国に管理されるんだ、国に介入されるんだ、こんなことは基本的人権だということで、いま非常な反撃が出ているわけです。この点についてもう一度お伺いしたい。大臣の返答をいただきたいと思います。
  135. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 いつ結婚するか、それはもう本人の自由、これは当然のことでございます。これはお述べになりましたとおり、憲法の精神はそういうふうな精神になっておるわけでございます。ただお産をするときに、若いときにお産をするよりも、年をとってからお変をするとたいへんでございますよということを国民にいろいろ注意をしてあげるということは、これはいいことじゃないでしょうか。そうすらっとお考えください。すらっとお考えいただければ、わかると思うのです。いろいろなことを勘ぐると言うとまたおこられるかもしれませんから勘ぐるということばを使いませんが、すらっと読んでいただけばいいんですよ。何も早く結婚しなさいと国が命令しているわけでもなんでもないのですよ。いつ結婚なさるか、それはもう本人の自由なんでございます。これはもうそのとおりなんですよ。すらっと読んでいただいて、すらっと御理解をいただきたい、こう申し上げます。
  136. 田中美智子

    田中(美)委員 すらっと読んですらっと御理解してたら、ひどい目にあうから言っているんですよ。よく勘ぐる勘ぐるっておっしゃいますけれども、ずぼしをさされているからそういうふうにおっしゃるんだと思うのです。これは私が勘ぐっているだけでなくて、日本家族計画連盟でもこうした「優生保護法の一部改正に反対する」というものを出しているわけですね。こんな大きな字で出されているわけです。この中にこう書いてあります。「さらに法制審議会が、近く刑法改正にあたり堕胎罪の存続実施を政府に建言しようとしている事実を、本法改正と併せ考えるならば、国民生活をして戦前の警察国家に戻す意図と断ぜざるをえない。」疑っていますというだけでなくて、家族計画連盟は「断ぜざるをえない」といっているんです。私は、まだ、あなたがおっしゃるように勘ぐる言い方をしているんです。私も確信しているんですよ。自分の言っていることを。そうだと思うから、死にもの狂いでこの質問はしていますし、そして国民にこれを訴えているわけです。だから時間を制限してはならない。質問を徹底的にしてこの過程を国民の皆さんに聞いてもらうんだ、各党がそれをやる。その上で国民の意思を十分に聞いて、そうしてこういうものは慎重にやらなければいけないと確信しているわけですけれども、あなたは勘ぐるとおっしゃる。日本家族計画連盟では「断ぜざるをえない」ということを言っているわけですね。こういう大きな問題、世界的な問題になっている、国際的な問題になっている。実際に受胎調節をやっている人たちが、これを、非常に縮めるものだ、中絶を規制するものだということを言っている。そういうふうに受け取っている。そうして賛成をしている方たちは当然、ある宗教団体を中心にした方たちも、これは規制するものであるというふうにとっておるということを見れば、厚生大臣だけが口で幾ら、これは規制するものでもなければ広げるものでもなければ、結果を全く予測もしていないで出しているんだなんて言ったって、すらっと読んですらっとすなおに理解するなんという問題ではないわけですよね。  これはやはり日本母性保護医協会の会長森山さんの論文ですけれども、これには、いまの人工中絶に対する世論の変化というものをよく政府考えて、そして法案を考えていかなければならない。世論の動きというものは大きくいま変わっている。それはどういうふうに変わっているかというと、妊娠中絶を制限していたものを緩和するという方向にいままであったけれども、現在の世界の方向というものは撤廃の方向にいっているんだと、こう言っているのですね。こういう方向に行っているのだ。これは非合法の堕胎による母体の障害が初めはおもな理由であったけれども、最近では、産む産まないは婦人の権利という思想の大きな変化によって、撤廃という方向に動いているんだ。そういう時期にこういうものを通してしまえば、近い将来再び法改正を行なわざるを得なくなる。そうして、いたずらに混乱を招くのみであり、これは避けるべきであるという論文を書いていられるわけですね。   〔委員長退席大野(明)委員長代理着席〕  これは産婦人科の医者であり、東大の教授を長くなさり、東芝病院の院長もなさって、いまは母性保護医協会の——もちろん厚生省は御存じですね、顔もすべて御存じの方ですけど、この方がこう言っているのですね。こういうものをそれこそ大臣が私にすなおにすらっと法案を読めと言うなら、大臣こそ、こうした国民の声をすなおにすらっと受け入れるべきです。こういう法案は出すことがもう誤っている。これは全く撤回しなければならない問題だと思います。  全く時間がなくて、私は時間の要求をしておりますからまだやりますけれども、きょうはもうあと五分しかありませんので五分だけやります。あと次回にまだ質問をいたしますので、きょうは十四条の四ですね。「胎児が重度の精神又は身体の障害」と、こういうふうなところ。これはいまそちらでは修正案を出す、これを削除するというようなことを言ってこられているわけですね。これは私は、削除するということに対して反対しようとは思っていません。もともと、この法案を出すことは絶対反対ですからね。ですから、削除したからといって、それでこの法案の本質が変わるものではない。しかし、ここで一言言っておかなければならないことは、削除したから障害者の差別意識というものがあなた方の頭の中からなくなったということはいえないと思う。障害者に対する年金だって少ないし、何の保障があるか、ほんのわずかずついま出かかっているところですけれども、第一、教育だってまともに受けられない。一体、では障害者がこの日本でどのように生きていくかという福祉的なものがどれだけできているか。これだけおくれている、これはどうしてそういう状態になっているのかということ。こういうものを出す頭があるからですよ。結局、大資本に奉仕して金もうけに役に立つ人間は産みたくなくてもどんどん産ませるけれども、からだが弱かったり障害がある者はできるだけ早く抹殺してしまえという思想です。そういう思想では——ほんとうに人間を愛する思想がなかったら政治なんかできませんよ。自民党の政治は、大企業に奉仕する人間だけが能力があって、そうでない者は能力がないと見ている。それは劣性であるから抹殺せよという思想がここに出ているわけです。だから、これを削除したからといって、あなた方の頭の中からその思想がなくなったとは思いません。しかし、これを出したということであなた方の頭の中が国民に見えた。これに対する反撃を受けたというのでお驚きになってあわてて引っ込んだでしょう。差別をしているということさえ自覚していなかったということは、まさにおそろしいことだと思います。いい勉強になったと思うのです。(「人間を大事にしてもらいたい」と呼ぶ者あり)いまやじを飛ばしていらっしゃるように、もっと人間を大事にする、そういうふうな観点からこれを出していただきたい。きのう申しましたように、日経連や労働省や経企庁などが一緒になってつくった労働力政策の中に優生保護法の改正があるということを見ましても、まさにすべてつながっているというふうにいわざるを得ないと思います。  それから、時間がありませんので、簡単に返答していただきたいのですけれども、IUDのことです。IUDはなぜ公認しないのでしょうか。
  137. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 IUDは従来は金属性の材質等のものがございまして、医学的な見地からいたしまして、これはかなりの副作用があるということも報告されておったわけでございます。そういったところから、四十二年に日本母性保護医協会及び産婦人科学会に専門的な御意見を伺いまして、またその後、材質が非常に改良されまして、プラスチック等の、損傷を与えることの可能性の非常に少ないものが開発されてきております。両団体からも医師の厳重な管理のもとにおいては適当ではないかという御意見をいただきましたので、ただいま大臣諮問機関でございます中央薬事審議会の医療用具特別部会にこれを付議いたしまして、これを許可することの可否及び具体的にその条件等について前向きな御検討をいただいておる段階でございます。
  138. 田中美智子

    田中(美)委員 いつごろこれは許可になりますでしょうか。
  139. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 御検討のぐあいによるのでござ  いますが、私どもといたしましては、そういった御意見をいただいた後でもございますし、できるだけ早く結論を出していただくようにお願いをいたしております。
  140. 田中美智子

    田中(美)委員 予測としてはどれくらいのときに公認になるか、日にちをきっちり言っていただかなくてもいいのですが、予測として大体何カ月後とか何日後というふうに伺いたいと思います。
  141. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 私どもは、専門的な御検討段階でございますのではっきり申し上げにくいのでございますけれども、努力目標といたしましてはなるべく本年中か、少なくとも本年度中には具体的な承認の手続ができるような段取りで御審議をお願いいたしております。
  142. 田中美智子

    田中(美)委員 これが危険が全くないということであれば、家庭の主婦にとっては非常に朗報なわけですから、ことしじゅうに必ず公認していただきたいと思います。  時間になりましたので、きのうから採決だ採決だ——まだ参考人、公述人の意見も聞かないで、採決だ採決だということを自民党からいわれていますが、私はもっともっと審議したいし、この各党の審議の過程というものを国民にも聞いていただきたい。そういうものを無視して、毎日のように採決する採決するというふうな態度に対して強い抗議をして、きょうの質問を終わりたいと思います。
  143. 大野明

    大野(明)委員長 坂口力君。
  144. 坂口力

    ○坂口委員 昨日から人口問題等につきましていろいろこまかな議論がされました。あらあら浮き彫りにされている問題もございますので、まず大臣に一応確認をしておきたいことから入らせていただきたいと思います。  人口問題につきましては、昨日も、そしてきょうも、いろいろと御議論がございました。この日本だけではなしに、世界人口がだんだんとふえつつある、結局、今世紀末には現在の倍の七十億近くにもなる、あるいはそれを突破するかもしれないという推測がございます。その中において、日本もおそらく一億四千万前後のところにはいくであろうという推測がございます。そういった中で、人口問題をどうすべきかということについてはなかなか国の方針も決定していないというお話もございました。しかし厚生大臣として、この人口問題をどう日本の政治の中で持っていくかということについての御見解をまず先に伺っておきたいと思います。
  145. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 人口問題というのは非常にむずかしい問題でございまして、人口扶養力の問題すなわち資源との関係、それから公害、環境汚染の問題、いろいろな問題とからみ合っておるわけでございます。さらにまた、将来の生産を考えての労働力との関連においても考えなければならぬ。しかもまた、これは日本だけの問題ではない、やはりグローバルな、世界的な問題として考えていかなければならない。こういうことであろうと思います。  一部、日本においても人口というのは国力であるという考え方もあったりしまして、この問題について確たる政策を立てるということがなかなかむずかしい状況にあったことは、皆さん御承知のとおりでございます。しかしながら、本年御承知のように、国連中心としての世界人口年の年ということになってまいっておりますし、低開発国におきましても、御承知のように最近の人口増加率が二・二、三%、日本は幸いに最近は一・一程度に下がっておりますが、低開発国においては二・二とか二・三とかいったふうに非常に高い人口増加率になっておるわけでございます。そこで、東南アジアのエカフェ域内の諸国においても、こういう増加率の高い人口ということはどうであろうか、やはり人口の増加をある程度押えていかないとたいへんなことになるぞというコンセンサスも出てきたような段階でございますので、日本としてもこの際もっと確たる人口政策を立てる必要がある、こういうふうに私は考えております。  幸いに先般、人口問題審議会から御答申をいただきました。その線というものはおおむね妥当がと私は思います。したがって、こういう答申中心として人口問題の対策を具体的にはっきりときめていく、そして人口年の大会においても、日本はこういう人口政策を持っているんだということを世界の前にも示す必要があるのではないか、こういうふうなことを考え、この人口問題審議会答申中心として、関係各省において十分相談をしながら、もう少しはっきりした人口政策を打ち出していく段階である、こういうふうに考えておる次第でございます。
  146. 坂口力

    ○坂口委員 人口問題はグローバルな問題であるというお考えについては、私も同感でございます。人口が増加していくのがいいか悪いかということよりも、結局いま大臣も述べられましたように、食糧の問題あるいは公害の問題いろいろの面からやはりこの地球上にどれくらいの人間が生きられるかということをもうすでに迫られているときではないかと思うわけであります。そういうふうな意味で、この人口問題というものが今後の政治の中心課題になることはもう当然だと思います。  そこで、外務省お見えいただきましたか。——外務省は今後の日本の移民の問題、これをどうお考えになっているかということをまずお聞きをしたい。  それからもう一つは、先ほども御議論のあったところでありますが……   〔大野(明)委員長代理退席、斉藤(滋)委員長代理着席〕 よろしゅうございますか。——それでは外務省のほうにあらためてお聞きをいたしますが、今後日本の移民の問題をどのようにお考えになっているかということが一つ。  それからもう一つ東南アジア等家族計画等について日本からも非常に援助をしているという議論がございましたが、そのことについて外務省としての立場から、どういうふうなことになっているかということがありましたら、つけ加えてひとつお願いしたいと思います。
  147. 穂崎巧

    ○穂崎説明員 移住の問題でございますが、いまの御質問、将来どういう考えであるかということだというふうに考えます。御承知のように、移住というのは戦後はやはり個人の発意で、とにかく海外へ新しい世界を求めて出ていくということが基本でございまして、政府としてはこれを援助するという立場でやっております。ただ、御承知のように戦前からの移住者は、いま日系人全部を入れますと、アメリカと南米合わせますと約百四、五十万の人間に達しております。これらの先輩の移住者の方々は自分たちの後継者が日本からやってくるということを非常に希望しているわけでありますし、それから昭和三十年を境としまして移住者の数は減っておりますが、最近、あるいは御承知かと思いますが、技術者の移住が逆にふえつつあります。そのような傾向からいたしまして、われわれといたしましては、移住というものは今後とも続けていくんだということが、政府の基本的な姿勢でございます。しかしながら、現実に出た移住者の中に、いろいろ現在でもまだ生活の安定していない、現地に定着していない方もおりますので、そういう方々に対する援助というものにつきましては従来必ずしも十分でなかった点もございますので、この点はわれわれとしてはよく考えて、この援助の強化をはかっていきたいということでございます。結論的に申しますと、移住はあくまで個人の発意で行くということと、政府はこれを側面的に援助していくということが基本的な考え方でございます。
  148. 野村豊

    野村説明員 ただいま先生の御指摘の第二点でございます、東南アジアにおきますところの人口問題でございます。  先ほど先生の御指摘もございましたとおり、人口問題というものはやはり世界的な規模で取り上げるべき問題でございまして、その意味からことしの夏、八月の十九日から三十日まで、国連によりますところの世界人口会議というものが開かれるわけでございまして、そういった世界各国協力もとにそういった問題を解決していかなければならないということでございます。しかしながら、もちろんその中で、先生の御指摘のございましたとおり、アジアにおきます人口問題というものは、アジアにおきます人口というものが世界人口の中の相当部分を占めておるという観点、かつまた、アジアにおきますところの人口増加率も相当高いというところから、非常に重要な問題があるわけでございます。  そういった状況のもとにおきまして、わが国といたしましては、一つはその国際的な機関、たとえば国連人口活動基金というようなものを通じまして援助をやりますとともに、二国間の援助によりましていろんなその人口問題の解決に協力していくというふうな考え方をとっておるわけでございます。  前者の国際的な機関といたしまして、国連人口活動基金というのがあるわけでございますけれども、それを通じましては、わが国は本年度はこの国会の御承認を得まして五百万ドルの拠出を行なうことになっておりますが、この拠出は昨年のわが国の行ないましたところの拠出の二百五十万ドルの倍額というふうになってまいっておるわけでございます。  第二の、二国間の人口問題に対する協力といたしましては、これはあくまでも技術協力の一環としてそういった国々からの要請に応じてやっていくというのをたてまえにしておるわけでございます。現在二国間ベースとして技術協力事業団を通じますところの技術協力といたしまして、家族計画ゼミナールでございますとか、あるいはまた研修生の受け入れでございますとか、専門家の派遣あるいはまた器材の供与というふうなものを実施してまいっておるわけでございます。当面日本がやっておりますのは、そういった家族計画につきまして非常に認識の高まっておりますところのインドネシアでございますとか、フィリピンとかタイというふうな国を中心にしてやっておるわけでございます。
  149. 坂口力

    ○坂口委員 いまお二人からお伺いしたわけでありますが、この移民というのは個人的な考え方で、国が援助をしていく、いままで百四、五十万の人たちが行ったけれども、今後、いまのお話を伺いましても、ふえるといたしましてもそんなにたくさんの人が移民をするとは、ちょっといまの条件では考えられない。そういたしますと、好むと好まざるとにかかわらず、日本人口というのはある程度抑制せざるを得ない。いいとか悪いとか、好むとか好まないとかいうことではなしに、現在のこの狭い日本の中でもう一億を突破する人間がいる。これをさらにこのままで、現在のように一組の夫婦からたとえば一・九人といたしましても、子供を産むペアがいまふえておりますから、どんどんふえていくということになれば、当然日本人口というのはこの二、三十年の間にさらに多くなることは事実であります。そういたしますと、好むと好まざるにかかわらず、この日本国内で住める人間の数にはやはり限界があるわけでありますから、やはり抑制せざるを得ない、そう私は考えますが、この点、大臣どうでございましょう。この点もやはりお考えは同じでございましょうか。
  150. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 そのとおりに考えております。
  151. 坂口力

    ○坂口委員 その前提のもとに議論を進めていきたいと思うわけでありますが、いま提案をされております優生保護法の一部を改正する法律案、この中の一番中心になっておりますのは、先ほどから何度か議論が重ねられております「経済的理由」云々の問題ではなかろうかと思います。  そこで、いわゆる医師のほうからの中絶の報告書というものが出ると思うわけでありますが、その報告書に理由というものが書かれていると思いますけれども、たとえば四十年の当初から四十八年まで、こういうふうな年次別に見ました場合に、この報告書の理由というものはどういうふうに変化しておりますか、わかっておりましたら、ちょっとお答えいただきたい。
  152. 三浦英夫

    三浦政府委員 報告書の総数が四十七年で約七十三万件になっておるわけでございますが、報告書の内訳といたしましては、法律の十四条の一号から五号まで種類がございます。たとえば一号では遺伝疾患を有しているということがございますが、その区別に従ってきておりまして、おそらく先生の御指摘は、四号の身体的理由と経済的理由の、経済的理由によって母体の健康を著しく害するおそれのあるものが幾らあるかというような御質問かと思いますが、実は四号につきましては母体の健康として一括報告をいただいておりまして、経済的理由と身体的理由というのに分けては報告はいただいていないような仕組みになっておる次第でございます。
  153. 坂口力

    ○坂口委員 そういたしますと、その中から経済的理由と思われる項目というものはわかりませんか。
  154. 三浦英夫

    三浦政府委員 ちょっと話が戻りますけれども、総数が四十七年で七十三万二千で、そのうちに母体の健康が七十二万六千と、ほとんどでございますが、ただ理由のいかんを問わず、終局的には母体の健康という医師の判断になってまいりますので、その内訳は残念ながら把握できない状況になっておる次第でございます。
  155. 坂口力

    ○坂口委員 そういたしますと、報告としてははっきりとしたものがわからない。そうすると、先ほど来申しております経済的理由による健康被害ということでどれぐらいの中絶があったということは、皆さん方は把握をしておみえにならないわけですか、それとも、しておみえになりますか。
  156. 三浦英夫

    三浦政府委員 その点に関しましては、先ほどからも御質問がありましたが、昭和四十四年の十二月に厚生省日本医師会との間で一応若干の調査をしたことがございますが、そのときの状況によりますと、経済上の訴えが二〇・一%、健康上の訴えが二四・八%、個人、家庭的訴えが三六・四%、その他が一八・七%となっておりまして、これ以外には資料を持ち合わせていないような状況でございます。
  157. 坂口力

    ○坂口委員 四十四年と申しますと少し古くなりますけれども、もう少し前にお調べになったものとの比較はございませんか。
  158. 三浦英夫

    三浦政府委員 その前の調査はやっておりませんので、比較は残念ながらない状況でございます。
  159. 坂口力

    ○坂口委員 そういたしますと、この四十四年の十二月時点におきますところの二〇・一%という経済的理由の率というものは、高いと判断をしておみえになりますか、それともこれは低いというふうに判断をしておみえになりますか。
  160. 三浦英夫

    三浦政府委員 実は、その前のその他の調査というものがございませんので、高いとか低いとかいう価値判断はちょっと申し上げにくい状況でございます。
  161. 坂口力

    ○坂口委員 今回のこの一部改正案において、いわゆる経済的理由という項目を削除するということになったわけでありますが、やはり削除しようということになった背景としては、経済的理由というものが非常に少なくなってきている、そういう人はだんだんと少なくなってきているという考え方に基づいてなされたものと思うわけでありますが、そういうふうな資料がないのに、なぜこういうふうな結果になったんでしょうか。
  162. 三浦英夫

    三浦政府委員 経済的理由が少なくなったというよりは、むしろ、四十四年の十二月調査等の結果、母体の健康を著しく害するおそれのある原因が多様化してきたということ、従来のように経済的理由と身体的理由だけでなくて、理由が多様化してきたということの把握をしたものでございますから、したがいまして、多様化したものを一々理由をあげるわけにまいりませんので、最終的に医師の診断にまつということにしたような次第でございます。
  163. 坂口力

    ○坂口委員 そうしますと、今回の一番問題になっております条文ですね、これは「妊娠の継続又は分娩が母体の精神又は身体の健康を著しく害するおそれのあるもの」、こう今度変わるわけですね。古いほうは「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの」、こうだったわけですね。大臣もきのうから何度か、この条文をよく見てほしい、こういうお話かございました。いままでの——いままでと申しますか、現在のものは「身体的又は経済的理由により」という、いわゆる「著しく害する」ということばの理由がここに述べられているわけであります。これは高等学校の文法みたいな話になりますが、「身体的又は経済的理由により」というのは、「著しく害する」ということばの副詞句だと思うのですよ。それで、今回の「母体の精神又は身体の健康を著しく害する」の「母体の精神又は身体の」というのは、「健康」ということばを詳しく説明している、言うてみれば形容詞句だと思うのです。そうですね。
  164. 三浦英夫

    三浦政府委員 先生の御意見のとおりでございます。
  165. 坂口力

    ○坂口委員 そうすると、いままでの場合には、母体の健康というものを害する、これのどういうふうなときに害するかということを、身体的または経済的理由というようなことばで詳しく説明していたわけですね。今回の場合には、この「著しく害する」ということの説明は取れたわけなんです。今度の改正案は、健康とはどんなことかという、健康ということに詳しく説明がくっついた、こういうことになろうかと思う。そうすると、今回の改正案のほうは、「著しく害する」理由というものは何もついていないわけなんです。そうするとよけいに、いままでよりはぼやけた感じになるわけなんですね。ここがまた核心でもないかと思うのです。ではどういう理由で健康を害するときに中絶が可能になるのか。ここをもう少し明確にしてもらわないと、これはぐあいが悪いわけです。医師会等のいろいろ御議論もありましたが、やはりこの点が非常にはっきりしないということを一つは不安に思っておるのではないか、こういうふうに思いますが、いかがですか。
  166. 三浦英夫

    三浦政府委員 最近の近代社会になりましてから、母体の精神または身体の健康を著しく害する場合の理由が、従来のように経済的理由と身体的理由だけでなく、おそらくその他社会的、諸般の理由があるから、理由を一々列挙するということはむしろやめて、医師の総合的な判断にまちたい。そこへ持ってきて、実は健康の定義そのものも、消極的な、病気をしていないというような定義でなしに、むしろWHOの定義にあるごとくに、積極的な健康ということで把握をしてまいりたい。そういたしますと、むしろ身体ということよりも精神を加えた健康ということのほうが適当だということで、こういう改正案をお願いしているわけでございまして、先生の御質問に対して、なぜ取ったかということは、逆に理由が多様化しているから、むしろ多様化しているものは書かないでおいで、よって来たる原因はいろいろあるだろうけれども、最終的にそういうおそれがあると指定医が御判断されたら、人工妊娠中絶ができる、こういう仕組みにしようとするわけでございます。
  167. 坂口力

    ○坂口委員 きのうも金子先生の御質問等にもありましたが、健康の定義というものが非常にむずかしいというお話も皆さんのほうからありました。いまWHOのお話が出ましたけれども、WHOの定義によりますフィジカル・メンタル・アンド・ソシアルという三つの面からの定義でこれはいくというふうに解釈すべきなんでしょうか。きのう社会的、ソシアルということばが非常に解釈がむずかしいというお話がございましたので、社会的と言わずにソシアルと原語のほうでひとついきたいと思いますが、いかがですか。
  168. 三浦英夫

    三浦政府委員 先生指摘のとおりな意味合いの健康で運営に当たりたいと思っておりますし、そういう趣旨で改正をお願いしている次第でございます。
  169. 坂口力

    ○坂口委員 そうすると、今回の改正案のほうの「母体の精神又は身体の健康」ということになっておりますが、ここで一応ソシアルに当たるベきものとしては、直訳的なものはここに入っていないわけでありますが、この「母体の精神又は身体の」という中に、この点も含まれているのですか。
  170. 三浦英夫

    三浦政府委員 その母体の置かれた客観的なというか、環境条件等というものがこの中に含まれているという解釈で立案さしてもらったような次第でございます。
  171. 坂口力

    ○坂口委員 そういたしますと、たとえば経済的理由というようぬものは、これは一応ソシアルの中に入ってくる一つのファクターだと思うのです。そういたしますと、経済的な理由で母体の健康を著しく害すると医師が診断をした場合には、今回の改正案においても、これはやはり中絶の対象になるというふうに理解してよろしゅうございますか。
  172. 三浦英夫

    三浦政府委員 そういう理解で、それぞれよって来たるところの理由は医師の判断にまつわけでございますが、そういう理由の場合にも中絶の対象になってくると思います。
  173. 坂口力

    ○坂口委員 もう少し具体的な例を申し上げましょう。そうしますと、たとえば共かせぎの御夫婦がある、これは実際に現場の婦人科の先生等にお聞きしましてもそういうケースが非常に多いと言いますので、私、たとえとして申し上げるわけでありますが、共かせぎをどうしてもやっていかないことには食べていけない。御主人だけがつとめていたのでは食べていけない。そういう御夫婦がたくさんあります。その場合に奥さんのほうが妊娠をなすった。そのときに、このまま継続してつとめながら子供を産むということは、これは経済的に非常にむずかしい、あるいはまた経済的な理由によって身体というものに非常に影響するから非常にむずかしい、そういう例があると思うのです。そういうふうなときに、非常にじょうぶな人ならこれは別です。ところが妊娠という現象によってからだの調子が非常に悪くなった、やめればあるいはいいかもしれないけれども、やめるわけにもいかない。そうするとどうしてもこのままつとめながらいかざるを得ない。つとめながら妊娠、出産ということを遂行するのは、医学的に見て非常に困難だ。またつとめておみえになるところが官公庁とか、はっきりとしたところならよろしゅうございますけれども、非常にはっきりしたつとめ先でない、長く休めば首になる、そういうふうな場所も多い。そういうふうな場合に、医師が、経済的理由によってこのままつとめながらいくということは身体に非常に耐えがたいものを与える、どうしてもこれでは産めない、あるいは流産等をしてしまうおそれがある、そう判断をしたようなときには、これは経済的理由により身体を非常に害するというようなことで中絶の対象になりますか。
  174. 三浦英夫

    三浦政府委員 従来厚生省がとっておりました「経済的理由」の指導方針は、先ほど申しましたとおり、生活保護の適用を受けている者とか、あるいは生活保護の適用を受けていないが妊娠または分べんによって生活が著しく困窮し、生活保護め適用を受けるに至るような場合が、通常これに当たります。通常ということで指導運用をやっております。ただ、先生指摘のような、個々の具体的なそれぞれの母体に即した判断というのは、最終的に医師の判断にゆだねられるということになっておりますので、最終的に母体の健康を著しく害するおそれがあるということを認められる場合には、当然その医師の判断できまるということになると思います。
  175. 坂口力

    ○坂口委員 わかりました。そういたしますと、今回の改定案が、なぜこういうふうに字句を修正なすったかということが少しわかりにくくなるわけです。この法案の提案理由の説明のところに、「経済的理由という要件については国民の生活水準の向上をみた今日においては、このままにしておくことには問題があり、」云々、こうなっている。そして「経済的理由」というものを削除しなければならないという文面になっているわけですね。そうしますと、この文面を見ましたときに疑問に思いますのは、いわゆる「妊娠の継続又は分娩が医学的にみて母体の精神又は身体の健康を著しく害するおそれがある」、いわゆる「経済的理由」というものがもう問題はなくなってきた、こういうふうに皆さん方のほうの解釈はなっているんじゃないか、こう思うわけです。この点どうですか。
  176. 三浦英夫

    三浦政府委員 この「経済的理由」という条文が挿入されましたのが、先ほどから申し上げましたように昭和二十四年当時でございまして、その当時の時代背景としては、当時の困窮した時代でございましたので、経済的理由ということが特に強調されて、それがゆえに「経済的理由ということがことさらに法律の条文の中に入ったのだろうと思います。しかし今日の社会情勢でまいりますと、そういう意味合いの「経済的理由」ということは、かなりの高度成長を見た今日におきましては、「経済的理由」という場合もあるでしょうし、あるいはかつてと違ってかなり生活も豊かになっておりますので、それ以外の社会的な理由等で、それがよって来たるところで医師の最終的な健康を害するおそれがあるという判断につながる場合があるだろうと思いますので、他の要因もむしろ平等に考えるべきではないかというような観点から、こういう提案理由で「経済的理由」という要件については国民生活の向上を見た今日においてこれだけ取り出してやるのはおかしいじゃないかというのが、改正の立案趣旨になっている次第でございます。
  177. 坂口力

    ○坂口委員 いまおっしゃったように、昭和二十四年に、そのときの時代背景のもとにこの「経済的理由」というものが述べられたということですね。そういたしますと、「経済的理由」というのは、先ほどから大臣も何度もおっしゃっておみえになりますように、ただ経済的理由があるからいわゆる人工中絶の対象になったわけじゃないですね。「経済的理由」によって母体が著しく障害をされる、そのときに初めてこれは対象になり得るわけです。そういたしますと、いままでは「経済的理由)というのはそういうふうに考えられてこなかったということですか。これはいままでの「経済的理由」というのも、これがそのまま中絶の対象になってきたわけじゃないのですから。こういうふうな「経済的理由」もあり、そのために身体の障害というものが起こる。母体の健康を害する。その一つの理由として「経済的理由」というのはあげられていたわけですね。しかし今回「経済的理由」というのを取られたというのは、それはこういうふうなものがその心配がなくなったという御見解、いまあなたのことばをもう一ぺん繰り返して言いますならば、「経済的理由」というような部分的なことではなしに、もう少し広範な表現と申しますか、広範な内容を示すものにしたい、こういうことだという御意見ですか。それでよろしゅうございますか。
  178. 三浦英夫

    三浦政府委員 最終帰着するところは、結局母体の健康を害するおそれのあるものでございますけれども、そのよって来たる理由というのはもう少し広範なことがあると思いますので、ことさらに特定の理由だけあげるのは不適当なので削除した。いわば先生の御意見のとおりではないかと思っております。
  179. 坂口力

    ○坂口委員 昨日からの議論を聞いておりまして、だいぶ皆さん方の御答弁も変わってきたような感じを受けるわけでありますが、それならばなぜあらためて今回これを変えられたのかという提案理由もはっきりしなくなってくるわけです。それならば「母体の精神又は身体の健康を著しく害するおそれのあるもの」こういうふう心表現でなしに、「経済的理由」ということばを使うとか使わないとかいうことは別であります。別でありますが、これに匹敵する、「経済的理由」というものをより包括した字句が挿入されてしかるべきであったと思うのです。今回そういうものはないわけですね。そういうふうな何々による理由によりというものは全部除かれているわけです。それを「母体の精神又は身体の健康」と「精神」ということばを挿入して、精神と身体ということばに置きかえたというところに、はっきりしないところが出てきておると思うのです。  そうしますと、もう一ぺん重ねて聞きますが、「母体の精神又は身体」という意味は「経済的理由」等のこともこの中に含まれておるという意味ですか。ちょっとそれにしてはこの字句があまりにもおかし過ぎる。その点どうでしょう。
  180. 三浦英夫

    三浦政府委員 最終的には医学的な問題に純化をしたいということからでございますが、きのうから申し上げているように、経済的理由だけで堕胎罪の特例とする人工妊娠中絶というのは、これは現行法でも禁じられているのでございますが、経済的理由であれ社会的理由であれ、最終的に母体の精神または身体の健康を著しく害するおそれがある場合に、医師の判断で行なわれる場合には当然人工妊娠中絶の理由になると思う次第でございます。
  181. 坂口力

    ○坂口委員 それでは大臣に次の問題をお聞きをしたいと思います。  これは昨日からも大臣答弁がございましたので、重ねて確認をさせていただくわけでございますが、いわゆる「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められるもの」、この項目に関してでございますが、大臣の昨日からの御答弁を聞かせていただいておりますと、この委員会における審議の結果削除すべしというふうな方向にきまるのならば、それに対して何ら異議をはさむものではないというふうなお答えのように受け取れたのでありますが、その点もう一度お聞きをしたいと思います。
  182. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 この規定は、最近における医学の非常な進歩によって、胎児である状態においても重度の障害を持って生まれるであろうということが非常な確率をもって想像されるようなことになってきたわけでございます。しかしながら、羊水の検査とかその他を考えてみますと、なかなか専門医も少ない、そういうふうな検査機関も少ないといったふうな、制限された場合が多いようでございますし、さらにまた、世間では変な誤解をしている向きもありますので、むしろこの際国会の審議を尊重していったほうがいいんじゃないか、こういうふうに私は考えておるものでございます。したがいまして、この社労委員会の御審議において、こういう規定はちょっと、医学が進歩したといってもまだ時期が尚早ではないか、こういうような御意見で削ろうということになりました場合においても、政府はこれを尊重いたしまして、これに従います、こういうことを申し上げているわけでございますから、国会の御審議においてこの問題の決着をつけていただければしあわせだ、かように考えております。
  183. 坂口力

    ○坂口委員 私どもも、この項目につきましては削除されることを希望するものであります。そしてこれは、大臣からいまこういうふうな御答弁がありましたからいいわけでありますが、いわゆる胎児の羊水の検査等は、これはいままでの御計画では全部おやりになるという御計画だったのでしょうか。
  184. 三浦英夫

    三浦政府委員 これはあくまでも、たって両親がそういうことを希望されるという場合に限ってでございます。したがいまして、政府がこれを勧奨するとかいうことは一切考えてなくて、一に両親がたってそういうことをされたい場合にできるという意味でございます。
  185. 坂口力

    ○坂口委員 もう一つ基礎的な問題で確認をさせていただきたいことがあります。それは今回の改正案ともかかわり、また今後のこういったふうな優生保護あるいは人口問題等にもかかわっていきます非常に基本的なことでありますのでお聞きをしたいと思うわけでありますが、この妊娠中絶についていわゆる期限つき規制と申しますか、たとえば妊娠三カ月まではいわゆる中絶を自由にする、それ以後は制限をする、こういうふうないわゆる期限つき規制というものの考え方がございます。この考え方についてどのようにお考えになっているか、ひとつお答えをいただきたい。
  186. 三浦英夫

    三浦政府委員 基本的にはこれは刑法の堕胎罪の特例ということの考え方でございますので、現在の堕胎罪との関係において特例法でございますので、先生指摘のようなことは現在のところ、優生保護法においては考えていないような次第でございます。
  187. 坂口力

    ○坂口委員 今回のこの優生保護の法案そのものにかかわっての話ではなしに、厚生省としてこの考え方にどうかということをお聞きしているわけです。
  188. 三浦英夫

    三浦政府委員 現在のところ、厚生省ではそこまでは考えていないような次第でございます。
  189. 坂口力

    ○坂口委員 それからもう一つ、この条件つき規制と申しますか、これは今回の法案にもかかわってきていると思うわけでありますが、いま皆さん方がおっしゃっている医学的条件ですね。WHOの定義によれば「先ほど申しましたような三つの側面からの健康というものを考える場合、それがいわゆる母体の健康というものに非常にかかわる、こういうふうなときにはいわゆる一つの条件として中絶の対象にする。それからもう一つは、いわゆる倫理的な条件として暴行などによって妊娠したときにはこれを認める。あるいはまた遺伝学的な条件としてこれを中絶として認めるという、いわゆる条件つき規制と申しますか、こういう考え方がございます。この三番目の遺伝学的な条件というのは現在ひとつここにも問題になっています、大臣からも御答弁をいただいた問題ともある程度かかわってはくるとは思いますが、この条件つき解決という考え方に皆さん方はお立ちになっている、こう考えさせていただいてよろしゅうございますか。
  190. 三浦英夫

    三浦政府委員 そのとおりでございます。ただ、あるいは先生の御質問に対してやや違ったかもわかりませんが、現在遺伝的な疾患であるとか、あるいは暴行、脅迫等については十四条の他の条項のところにすでに人工妊娠中絶のできる理由として規定されているところでございます。
  191. 坂口力

    ○坂口委員 それから先ほどのいわゆる「母体の精神又は身体の」というこの「精神」に多少こだわるわけでありますが、この精神的理由というのは、いわゆる精神医学的な病気ということを意味しているのでしょうか、どうでしょうか。
  192. 三浦英夫

    三浦政府委員 私、しろうとでございますが、あるいは御専門の先生にどうかと思いますが、いずれにいたしましても母体の精神の健康を著しく害するおそれがあるものでございますから、現在疾病に至っていない状態で、そういうおそれのあるという医師の認定診断があれば、ということでございます。
  193. 坂口力

    ○坂口委員 たとえば、これは医師が決定することでございますが、ノイローゼというような診断が下されましたときに、たとえそういうような病名であっても、ノイローゼでも重い人もありましょうし、あるいは軽い人もありましょうし、病名によってこれは決定することはむずかしいと思いますが、たとえばそういうふうなことで医師が、妊娠を継続することが困難である、こう認めた場合にはこの中に入る、こう考えてよろしゅうございますか。
  194. 三浦英夫

    三浦政府委員 今度の「精神」を挿入することによりまして、先生の御指摘になっていることをより明確にさせていただいたと思っている次第でございまして、先生の御意見のとおりだと思います。
  195. 坂口力

    ○坂口委員 それから先ほど田中議員とのディスカッションの中にもかなり出ておりましたが、いわゆる適正な年齢に初回分べんが行なわれるように助言、指導するということが書かれておるわけです。その中にもかなり述べられておりましたが、もう一度確認をしておきたいと思うわけでありますが、具体的にはどういうふうな指導というものを現在計画をしておるのでありますか。現在の計画のもうできているのだけでけっこうでございます。
  196. 翁久次郎

    翁政府委員 これは先ほども御答弁申し上げましたように、広く家族計画あるいは受胎調節指導というものを現在保健所、母子健康センターあるいは優生保護相談所を拠点といたしまして、優生保護実地指導員等の資格のある人々が実際の指導をしておるわけでございます。こういった拠点並びに指導員によりまして、従来からも受胎調節については重点的な指導が行なわれておるわけでございますけれども、今後この法律が改正になりました上で、新婚学級あるいは婚前学級あるいは個別指導の際にこういった御相談をする際に、高齢出産の場合のいろいろな問題点というようなものについてあらかじめ知識を持っていただくという意味指導をするというのが、この改正の趣旨でございます。
  197. 坂口力

    ○坂口委員 人口問題研究所の調査等を見ますと、三人の子供さんのあるところでも三十歳までに三人目を産み上げているという報告がございますが、これはいままでの傾向がいわゆる高齢化していくという傾向があるからこういうふうな方針を打ち出されたのか、それともいままではそういう傾向はなかったけれども、将来そういうふうな傾向に向かってはというので出されたものでしょうか。人口問題研究所の調査等で見ますと、三十歳までにほとんどの人が産み上げているというふうに私はお見受けするのですが、その点いかがでございましょう。
  198. 翁久次郎

    翁政府委員 この改正の際に、将来高齢出産がふえるであろうということを想定したものではございません。あくまでも高齢出産に伴う母体保護あるいは生まれる子供さんの健全な育成というために、こういった高齢出産の弊害をなくしていこうという趣旨でございます。
  199. 坂口力

    ○坂口委員 そういたしますと、これは多い少ないの問題ではなしに、いわゆる高齢初産婦と、初産婦でなくても高齢産婦を見ると非常に障害の例が多いので、数は別に現在多くなっているとか少なくなっているとかいうことではなしに、そういう高齢時における妊娠というものは避けたほうがよろしいのではないか、そういう意味だというふうに理解してよろしゅうございますか。
  200. 翁久次郎

    翁政府委員 御指摘のとおりと思います。
  201. 坂口力

    ○坂口委員 そういたしますと、先ほどからいろいろお聞きしましたが、今回の改正案の主たるところであります経済的理由というものにつきましても、何か字句にあらわれているものと皆さん方がお答えになりますものとがかなり差があるという感じを受けるわけであります。それではなぜこういう改正案が出されたのかという疑問を持つわけでありますが、その問題はいま私も述べましたし、あと大橋議員もまた触れるであろうと思いますので、その次に進みます。  そういたしますと、どうしても現在中絶をしなければならない方々がかなりたくさんあるわけであります。この人たちのいわゆる指導というものをどうしていくかということが、今後の大きな問題になってまいります。先ほどからピルの問題等もお話に出ておりました。このピルにつきましては、現在副作用等の問題がある程度問題になっております。個人的見解を申しますと、私も慎重派の一人でございますけれども、こういうふうな避妊薬を含めて、将来どのような計画を現在よりもより発展的に進められていこうとしておいでになるのか、あらあらでけっこうでありますから、ひとつ御答弁をいただきたいと思います。
  202. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 医師会の御見解によりましても、安全な避妊方法につきましては八つの条件をあげておられまして、これは先生よく御承知だと思いますが、その条件を全部満たしておる確実な避妊方法というものは、現在まだ発見されていないわけでございます。したがいまして、私どもといたしましては、先ほど児童局長から御答弁申し上げましたように、現在認められております避妊方法をできるだけ組み合わせてその効果をあげていくということを普及いたしますと同時に、新しい避妊方法につきましては、現在諸外国等の例にも見られますように、具体的に申し上げますと、先ほど御質問もございましたが、IUDとピルでございます。その二つにつきまして鋭意検討を進めてまいりまして、もちろん副作用がだいじょうぶだという見通しがつけば、これはすみやかに承認いたしまして使用に供すべきものだと考えております。IUDにつきましては、先ほども申し上げましたように、すでに大体の見通しがつきまして、具体的な規制の内容等について審議会で御審議を願っておる段階でございますが、ピルにつきましても、いろいろな情報を収集いたしました限りでは、かなりの副作用につきましてはだいじょうぶだというデータがだんだんそろってきております。ただ最も重篤な副作用の一つといわれております血栓症につきましては、いままでのデータによりますと非使用例に比べましてあるいは二倍あるいは七倍、数は違いますが相当の格差がある。しかも致命率がきわめて高い。もちろん発現率は十万分の幾らという少ない数でございますけれども、非常に重篤な副作用があるということで、これをどのように解釈するかということが現在唯一のネックになっております。諸外国及び国内におきますさらに安全性のあるピルの開発ということと見合わせながら、できるだけ検討を進めてまいりたい、かように考えております。
  203. 坂口力

    ○坂口委員 これは避妊薬を含めての話でありますけれども、避妊薬というものがあるいは器具というものが開発さえされればそれで家族計画あるいは避妊というものができるというわけのものではないと思うわけであります。現在もいろいろの器具その他のものがあるわけでありますが、それにもかかわらず失敗例もございましょうし、それからその失敗例とは別にいたしまして、ほしくないけれども子供ができたというような例もあるわけなんであります。これは単なる器具の開発だけの問題ではないと思うわけでありますが、このことについてやはり根本的に今後母体を守っていくという立場からいたしますと、器具の開発というものと同時に、もっと別な面からのアプローチがなされなければならないと思うわけでございます。そのことについて何かお考えがありましたら伺いたいと思います。
  204. 翁久次郎

    翁政府委員 御質問の要点は、わが国人口動向並びに人口政策を踏まえた上での家族計画、その中における妊娠中絶ではない避妊というものをもっと具体的な方向の上で検討すべきじゃないかというようにお聞きするわけでございますが、わが国の将来の人口構造につきましては、人口の推計といたしまして、昭和五十年度には大体一家族一・九何がしという数値が示されております。国として将来人口をどうするかというところまでは、先ほど大臣の御答弁がありましたように、現在こうするということでやっておるわけではございませんけれども、しかし、家族計画の基本になるものはやはりそれぞれのおかあさん、家族がよく考えた上で子供さんを産む、そしてそれがりっぱに育っていくということが家族計画の一番の基本になるわけでございます。ただ、現状におきまして国がやらなければなりませんのは、御承知のように低所得階層であるとか、あるいは非常に忙しい職業を持っている方々、こういった方々を対象としたよりよい内容の充実した知識の普及並びにそれに必要な器具、薬品の給付ということが、その二つの柱になるかと思います。そういった意味におきまして、すでに昭和二十七年に受胎調節に関する通達を出しまして、三十九年からは家族計画に関する通達を出しまして、都道府県、市町村一体となって地区の衛生組織を活用した母子保健を踏まえた家族計画を進める方策をとっているわけでございまして、この点については先ほども申し上げましたように、単に厚生省にとどまらず、文部省における学校教育あるいは社会教育との関連も考えながら、具体的な方策としてさらに進めていかねばならないというように考えておるところでございます。
  205. 坂口力

    ○坂口委員 いまお答えいただいたようないろいろの方策を講じられているわけでありますが、しかし、依然として中絶をしなければならない人がたくさん出ている。先ほどいわゆる表向きの数字としても、七十三万というのがございました。しかし、それ以外にもおそらくあるであろうということが、いわゆるうわさとしてではありますけれども、かなりはっきりとした数字を示す人もございます。そういうふうないろいろの方策がとられているにもかかわらず、現在なおかつ現実としてはそういうふうな数字があるわけでありますが、現在の方策というものがどこが間違っているか、どこが足らないのかということについてどういうふうにお考えになっているかということをお聞きしたいわけであります。重ねてひとつお願いいたします。
  206. 翁久次郎

    翁政府委員 私どもは基本的な理念においては間違っていないと思うのでございますけれども、これをさらにきめこまかく浸透させるという方法、手段においてさらに徹底したことをしていく必要がある。そのためには、単に国のみならず、いろいろな地区組織あるいはボランティア活動、そういったものの協力をさらに受け、そしてあらゆる方法、媒体を使うということで、正しい家庭計画と正しい受胎調節知識の普及ということにつとめていかなければならないという意味におきましては、ただいまどこが問題であるかという御指摘に対して申し上げられることは、さらにきめのこまかい、より具体的な方法を浸透させることである、また、その道に向かってわれわれは進んでいかなければならない、かように考えるわけでございます。
  207. 坂口力

    ○坂口委員 いずれにいたしましても、一番中心母体をどう守るかということ、そしてまた将来の人口をどうするかという大きな問題にかかわることではないかと思います。で、日本の母子保健法を見ましても、これは皆さん方の御専門でありますので、私申し上げるまでもないと思いますけれども、まだまだ妊婦等の問題につきましてもいろいろの問題点がございます。数はうんと減ってきてはおりますけれども、妊婦の死亡率というものも、欧米諸外国に比べますとまだ高いのが現状でございます。そういった全体からながめましたときに、やはり妊婦という立場人たちが社会の中で非常に優遇されていない、そういう結果が数字として出ていると思うわけです。そういった中で今回のこの改正案というものもやはり議論をされるべきであるというふうに私ども考えております。  そういうふうな立場からいたしますと、今回のこの改正案が、いわゆる人口問題とからめて、いわゆる母体保護ということについてどういう結果を来たすかということが、非常に重要な面であろうと思うわけです。先ほどから聞いておりますと、いわゆる字句は変えたけれども内容は何ら変わってないようなお話でございますけれども、しかし、こういうような字句を変えることによって、いわゆる社会における妊婦あるいは妊娠初期の人たちの健康がどう守られるか、そういうことにどういう影響が及ぼされるかということについてのいわゆる見通しというものがなければ、やはり法律改正というものはすべきではないというふうに私ども考えております。  そういう意味で最後に大臣にお伺いしたいのは、いわゆる母性保護という立場から、今回のこの改正案というものについて、大臣としてはおそらくそういうふうな悪い結果は導かないというお考えで出されたものだと思いますけれども、しかし、われわれの側から見ますと、それはさらに非常に母性保護という面がなおざりになるという気がするわけであります。その点について御見解を伺って、私最後にしたいと思います。
  208. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 母体の健康を守るということは最も基本的な問題であります。先ほどもお述べになりましたように、わが国の妊婦の死亡率は、戦争前に比べればだいぶ減ってまいりました。しかしながら、先進諸国に比べますとまだまだやっぱり高いということをいわなければなりません。そういうふうな妊婦、母体の健康を守るということ、それから産んだ以上はその子供が健康に育つようにということが基本でなければならない、こういうふうに考えておるわけでございます。  今度の優生保護法の改正というのは、よく読んでいただくと私は十分に御理解いただけると実は思っておったのです。たとえば母体の健康を害する理由が身体的と経済的と二つだけに限定されて書いてあるわけでございます。母体の健康をそこねる理由としては、身体的なものともう一つは経済的なものと二つの理由だけに限定されてあげている。ところが、戦争後の荒廃した時代からいまの繁栄した日本という時代に変わってまいりましたし、それからまた、近代社会における社会的な生活というものも多様化し、複雑化してきておる、そういうことの中で問題を考えるならば、母体の健康と精神の健康というふうにしておいたほうが、理由を限定しないで、理由はどこにあろうが、理由は一切限定しないで、母体の健康と精神の健康を守っていく、こういう方向で妊娠中絶というものを行なっていくようにしたほうがいいのではないかというのが、現代に最も適した方策である、こういうふうに考えたわけでございまして、私どもはあくまでも母体の健康とその精神の健康を守っていかなければならぬ、こういう基本的な精神で貫いておることを御理解いただきたいと思います。
  209. 坂口力

    ○坂口委員 私はこれで終わりまして、このあと大橋委員が総括的に質問されるそうであります。
  210. 斉藤滋与史

    ○斉藤(滋)委員長代理 大橋敏雄君。
  211. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 非常に限られた時間でありますので、私は特に大臣によく聞いていただきたいと思います。  ただいま議題となっておりますこの優生保護法案は、御承知のように、長期異常国会といわれました前国会の、しかもその会期末どたんばにおきまして、与党の強行によりましていわゆる継続審議となったいわくつきの法案であったことは、御承知のとおりでございます。そこで今回、継続審議法案だからそのまま出したと言われればそれまででございますけれども、どうして自民党の強行によって継続審議としなければならなかったか、内容からいけば国民の大多数の反対があった、野党のほうに反対があった、こういう事情もとに行なわれたことは事実でございます。したがいまして、今回もし出すとなれば、国民が納得いく内容に改めて出されるのであればまだわかるわけでございますが、先ほど申しましたように国民の大多数の者が強い反対を主張している、いわゆる改悪案をそのまま今回も出してきたということになれば、これは全く国民無視といいますか、議会軽視といっても私は言い過ぎではないと思うのであります。大臣、国民のこうした声に真剣に耳を傾けていただきまして、この際、この法案をみずからの手で取り下げていただく、これが賢明なる態度ではないかと私は思うのでございます。  先ほどから論議されておりましたように、この法案が参議院選挙の思惑に使われている、きわめて遺憾なことでございます。私もこの新聞記事は読ませていただきましたし、おそらく大臣も御承知のはずだと思います。人間の命のとうとさというものは、ある哲学書によりますと、人間の一日の命の重さ、とうとさというものは全世界の宝を集めたその重さよりもさらに重く、とうといといわれております。いやしくも、このような最もとうとい生命の浮沈といいますか、あるいは消滅といいますかにかかわる問題を選挙の材料にするということは、断じて許されるものではございませんし、かりにその一部分を修正したからといって、了解できるしろものではないと思うのであります。  提案理由の説明の中に、人工妊娠中絶の適応事由を改めることにより優生保護対策の適切な実施を期するとございます。その趣旨と実態に大きな開きがあることが、もうこれまで各委員がるる指摘をしたとおりでございます。すなわち、現実を直視しない、生命尊重、人口増強など、短絡的原則論の発想からの法改正であろうと私は思うのであります。もちろん、妊娠中絶が生命尊重やあるいは母体保護からも好ましくないということは言うまでもございません。しかし、政府答弁などを聞いてまいりますと、戦後の優生保護法の制定当時は、貧困や食糧難などの社会的要求で経済的理由が不可欠であったが、いまは生活が向上しているとか、あるいは中絶を野放しにすると性道徳が乱れて青少年の非行化に拍車をかけることになるとか、あるいは幼少人口の低下、経済活動の労働力低下を招くなどを主張していらっしゃるわけでございます。  こういうことを法改正の必要性としておっしゃっているけれども、私は、これは早計である、こう訴えたいところであります。つまり、庶民の劣悪な狭い部屋あるいは子を産めば追い出されていかなければならないアパートの条件、共働きをしなければ生活ができないのに託児所や保育所も不備である、あるいは出産すると退職をしいられる会社など、枚挙にいとまがございません。現実は生命尊重の原則論を直接適用できないほど、これまでの長い間の悪政のひずみがここにさらけ出されていると私は思うのであります。このような深刻な生活実態を無視して原則論をいたずらに押しつけた場合、さらに傷口を大きく広げることは目に見えていると私は考えるのであります。現に諸外国の例を見てみましても、中絶を禁止した場合にはやみ堕胎がふえたり、あるいは結局非合法のやみ中絶に高額の費用を要求されたり、または暗躍するやみ医師によって健康をそこなう人が多くなっていることが多く指摘されているところであります。さらに世界の趨勢からも、イタリアあるいはスペインなどの禁止国はあるといたしましても、やみ中絶から母体を守る、人口爆発への対処、堕胎技術の向上などから中絶の規制緩和の方向に向かっているのが現状ではありませんか。  このような観点から考えてまいりますと、経済的理由を削除するということは、ますます大きなひずみを招くことになると私は考えるのであります。先ほど坂口委員もこの問題についてるる指摘しておりましたが、ここのところをもう一度大臣見解を承りたいと思います。
  212. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 まず第一に申し上げたいことは、この法案の提案というものは参議院選挙などとは何にもかかわりはございません。それは過去のこの法案の取り扱いをごらんいただければわかると思うのです。数年前にこれは提案されてきて、それでずっと継続審査になったり廃案になったりいろいろな過程を経てきたものでございまして、この七月に行なわれる参議院選挙が目当てならば、そんなに早く出さぬでもいいわけでございます。数年の過去の経過を経て今日に至っておるわけで、私ども厚生省は、参議院選挙を目当てに国民に関係のある法案を提案する、そんな考えは全然持っておりません。それは、いろいろなことを言う人がおります。いろいろなことを言う人がおりますが、私どもは、そんな考えによってこの法案を提案したものではないということだけははっきりとこの機会に申し上げておきたいと思います。  この法案を提案いたしましたのは、まず人工妊娠中絶というものは、こういう規定がなければ刑法の堕胎罪になるわけなんです。堕胎罪になるのです、これは、刑法によって。そこでこういう人工妊娠中絶というものは堕胎罪にはなりませんよというので、この法案ができているわけなんです。そこで皆さんも御承知のように、この法案がそもそも最初に成立いたしましたときには、経済的理由などということばはありませんでした。ところが戦後の荒廃いたしました時代、これはお互い考えてみましょう、三十年近い前でございますが、ほんとうにお互い食べるにも食物はないし、着物もぼろぼろでございました、住む家もありませんでした、ほんとうになかなか。東京は焼け野原でございました。それからいま私どもがいろいろなことを言っている福祉社会ということを考えてみましても、生活保護一つきりなかったのです。昔の社会福祉というものは。それをどうです、最近、この三十年の間にいろいろな法制が整備されてきました。内容的にはそれはいろいろ御意見はあるでしょう。いろいろ御意見はあるでしょうが、日本の社会福祉というものは西欧先進諸国並みにいきましょうというレールができたではございませんか。もちろん、それはそこまではいっておりません。それは事実です。それは何も否定はいたしておりませんが、そこへ向かってのレールというものはりっぱに開かれてまいりました。あの当時の国民のエンゲル係数というものを考えてみてごらんなさい。七、八〇%のエンゲル係数でございましたよ、ところが、いま国民の、一般勤労者の諸君のエンゲル係数はどの程度か。三〇%に下がってまいりました。それは私ども個人の消費生活水準というものを考えてみればわかります。それだけの社会というものに発展してきた。これは事実なんです。それを、さっぱり昔と変わりないなんておっしゃる方もおりましたが、それはやはり現代の世相、経済の状況に対する認識が全然私どもは違う。戦争後の荒廃した社会から今日の日本というものは発展してまいった、これは事実なんです。こういうふうな社会情勢、経済情勢の変化ということを考えてみれば、食うや食わずでおった戦後の時代において、経済的理由だけを強調されたいわゆる人工妊娠中絶よりも、もっと医学的な立場で見て母体の健康と精神の健康を守る、これが一番の基本じゃないでしょうか。母体の健康と精神の健康を阻害するものには、それは身体的な理由もありましょう、経済的な理由もありましょう、あるいは社会的な理由もありましょう。しかし、戦後の荒廃したときは経済的理由が非常に大きく出たので、これが議員提案で入ったはずでございます。ところがいまは、いわゆる社会というものは進んでまいりましたし、それから社会も近代社会になって、近代社会というものは非常に文化的になってまいりました。いろいろな理由によって母体の健康をそこなわれ、精神の健康をそこなわれるようなことになってまいりましたので、むしろ経済的理由などというものよりも、理由を限定しないで、総括的に母体の健康と母体の精神を守ろうじゃないか、こういうことにいくのが筋じゃございませんか。こういうことでこの法案を提案をいたしました。  なお、それから重度心身障害児の問題の条項もございます。近代の医学はこういうことがはっきりわかることになったんです。非常に大きな確率でそういうことを見定めるようになったというわけで、もしそういう子供さんが生まれるであろうということを知ったら、おとうさんやおかあさんが、こういう子供は生まれてもかえって不幸じゃないか、それでは人工妊娠中絶をしたほうがいいなと思ったときにはやってもけっこうですと言っているだけなんです、けっこうですと。それをやりなさい、すすめなさい、すすめましょうなんという考えではないのです。そういう場合において、親御さんが望むならば、生まれる子供のしあわせのためなら、この際おろしたほうがいいんじゃないかと思われるならば、そういう場合にはおやりになっても異存はないのですよ、それだけのことを申し上げているだけなんですよ。しかしこの規定については、皆さん方、医学の進歩がありましてもまだ時期尚早であるという意見もあるのです。お医者さんの中にもありますから、私は虚心たんかいに、皆さん方の審議によって削れとおっしゃるならいつでも削ります、こう申し上げておるわけでございます。  したがって、政府としては、これは数年来の問題でございますので、社会情勢の変化、市民生活の文化的な程度の変化、そういうものとにらみ合わして御審議を賜りたい、こういうふうに考えておるわけでございまして、一部の人たち意見によって提案をいたしておるものでもなければ、参議院選挙目当てに、こういうことで選挙を勝ち抜こうなんということのためにやるなんてことは全然考えていない。これは大橋先生、どうかすらっと読んでいただきたいと思うのでございます。
  213. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 いかように弁解なさろうとも、国民は賢明でございます。この法案は確かに参議院選挙の思惑もあって一部修正してでも成立させたいという意図がありありと見えているということは、もう国民の皆さんは承知いたしております。そこで私は先ほどから、こういう大事な、生命にかかわる問題を材料にしてもらっては因るということを言ったわけでございます。  そこで、経済的な理由の問題についてもいまるる御答弁があったわけでございますけれども、確かにもともと経済的理由はなかったでしょう。また、経済発展そのものを私は否定しているわけじゃございません。しかし、これまで各議員がいろいろと内容を指摘してきましたように、現実に経済的理由で産めない方々がたくさんある。あらゆる条件のもとにそういう方がまだたくさんあるという現実を無視してはならぬではないか、こう言っているわけです。一説によりますと、わが国年間の中絶件数は届け出の七十万件をはるかにオーバーいたしまして、二百万件にも及ぶといわれているわけでございます。しかもその理由は、計画外妊娠がきわめて大きな比重を占めておる。すなわち経済的理由がいまなお大きな要素となっていることを物語っているのでございます。したがいまして、経済的な理由によるという現行法を削除することは私は反対でございます。もしこれをそのまま認めるならば、やみ中絶が激増する、これを推し進めていくことになると私は判断するものでございます。もう一回この点を再考してもらいたいと強く訴えるものでございます。  時間の関係もございますので、次に移ります。  先ほど大臣は障害者の中絶の問題にも触れられましたけれども、これもいかように説明なさりましょうとも、差別主義をさらに固定化する、こう非難されてもしかたない内容を含んでいると私は思うのであります。  先般、国民春闘のさなかで、みずからの弱いからだにむち打って、身体障害者の方々がいろいろな要望を訴えに参りました。そのときに、厚生大臣にも障害者の方が、われわれは生まれないほうがよいというのですかと、優生保護法の内容を見て悲壮な訴えをなさった。そのとき厚生大臣は返事に窮された。これはいまだに記憶に新しいのでございます。いまの大臣のおことばでは、委員会でこの項を削れと言われれば削ります——確かに修正でこれは落とされるでしょう。落とされてみましたところで、それでは障害者のその傷はいえるか、私はそうしたものではないと思います。障害者のこの深い傷は永久的に残るだろう。非常に残念に思うところでございます。私は大臣がさっき答弁なさったことの趣旨はわからぬわけではないのですよ。ないけれども、この法律にいまのような条文を入れたということはきわめて軽率であったということを指摘したい。もう一度この点についてお答え願いたいと思います。
  214. 三浦英夫

    三浦政府委員 この条項につきましては、かねてから医学界その他でも定説になっているところを、四十七年五月に提案させてもらったときから取り入れたわけでございまして、私どもとしては慎重にそういう学界の定説等も踏んまえて提案させてもらっておるような次第でございます。
  215. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 非常に残念でなりません。まあいずれにいたしましても、かりに採決がなされるならば、この項はもう何が何でも削除しなければならない一項だと思います。  それから、厚生省のこの優生保護に対する姿勢の弱さの一端を示してみたいと私は思います。  第十五条に、受胎調節の普及の問題が述べられております。受胎調節実地指導政府の責務が述べられているわけでございますが、結果的には助産婦にこの役目を押しつけたということになっております。しかも、一件当たり月額五十円のいわゆる調節指導額ですね。また助産婦の新規養成もおくれている事実、そして予算内容を見てまいりましても非常に少額であって、つまり要指導対策人口一人当たりわずかに二円、まことにあいた口がふさがらないほどの予算内容でございます。こういう点について恥ずかしくはないだろうか、口では受胎調節の普及について相当力を入れているとおっしゃいますけれども、実態はこうじゃないですか。どうですか。
  216. 翁久次郎

    翁政府委員 たびたびお答え申し上げておりますように、厚生省家族計画あるいは受胎調節指導普及と申しますのは、母性保護、それから生まれてくる赤ちゃんの健全な育成ということを中心にしているわけでございます。諸外国に比べましてわが国の女性全体の知識水準は非常に高いわけでございます。かねてから政府人口政策をとったということでなくして、すでに先進国と同じような人口構造に急速に近づきつつあることは御承知のとおりであります。そういった中で、受胎調節あるいは家族計画というものを普及し指導するというのは、そもそも低所得階層あるいは非常に家族の多い方々にこういった知識をさらに広めるということが主たるねらいでございまして、他の国と比較することはいかがかと存じますけれども、たとえば東南アジアその他の、国自身として人口政策を真剣に考えなければならないという国とは若干その様相を異にしているのではないだろうか。そういった中で保健所あるいは優生保護相談所母子健康センターといったものを拠点といたしまして、助産婦、保健婦、看護婦さんに講習その他の研修を行なった上で、個別的あるいは集団的な受胎調節指導をしているのが現在のわが国の状況であるということでございまして、必ずしもこのことについて国が全く立ちおくれているというようには私ども考えていないわけでございます。
  217. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 厚生省昭和三十六年薬事審議会に経口避妊薬の調査会を設定なさったはずでございます。先ほどから避妊薬の、いわゆるピルの問題も出ておりました。これにからむわけでございますが、昭和四十一年までの五年間で八回検討なさった。しかし、いまだに最終答申は出ていない。私は独自のピルの調査委員会をつくるべきだと考えるわけでございますが、いまだにそれもできていない。要するに取り組み方が非常に弱いと私は思うのです。この点について大臣はどう思われますか。
  218. 松下廉蔵

    ○松下政府委員 先生ただいま御指摘のとおり、昭和三十六年以来経口避妊薬調査会におきましてピルの検討を行なっておる、八回の調査会が開かれたということはそのとおりであります。経口避妊薬調査会ができたのが三十六年三月でございまして、第八回が四十一年の四月十八日に開かれております。そういった段階におきまして、先ほど答弁申し上げましたように、ピルの効能及びその副作用ということがいろいろな資料によりまして漸次明らかになってきております。調査会の御意見といたしましては、ピルの副作用といたしまして、視力障害、それから血栓性静脈炎、発ガン性等についての調査を必要とするという御意見をいただいておるわけでございまして、こういった副作用についての安全性が確認された後に、このピルというものが初めて行政上取り上げられるという形態でございます。先ほど申し上げましたように、その後の資料で発ガン性等につきましては相当否定的なデータが出てきておりますけれども、血栓性静脈炎その他血栓を伴います重篤な副作用については、確かにこれは使用群と非使用群との間にはっきりした医学上の差があるというデータは、むしろ確実な資料として出てきております。したがいまして、現在諸外国で使用されております成分のピルにつきましては、こういった問題についての解決がなされない限り、これを直ちに採用するということが困難な状態でございます。したがって、私どもといたしましても、新しいピルの開発に関する資料も収集いたしておりますし、また同様に、現在なお採用されておりません避妊のもう一つの方法として、相当確実性の高いIUDにつきましては、学会の御意見をいただきました上で、前向きの検討をいたしたい、そういうような形で、総合的なかっこうで受胎調節の前進をはかっておる、そのような次第でございます。
  219. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 残念ながら私の時間も参ったようでございますが、最後に一言。  今回の法案の内容から見まして、中絶の重要な仕事をしていく日本医師会の責任はきわめて重いという内容になっておりますが、電報問題も先ほど取り上げられました。われわれはこの点について非常に疑問を抱いておるわけでございまして、おそらく厚生大臣医師会を代表してものを言うわけにはまいらぬと思いますので、私は医師会の代表の方にじきじきこの問題について真偽を確かめない限りは、この法案についてこれ以上の審議を進めるわけにいかないという考えを持っておることを申し添えまして、私の質問を終わります。
  220. 斉藤滋与史

    ○斉藤(滋)委員長代理 この際、暫時休憩いたします。    午後一時五十三分休憩      ————◇—————    午後三時四十八分開議
  221. 野原正勝

    野原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  休憩前の質疑を続けます。和田耕作君。
  222. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 法務省の政府委員お見えになっておりますね。——法務省で、最近刑法改正の問題が重要な問題になっているわけですけれども、堕胎罪という問題を、刑法改正ではどういうふうな方向で取り上げておるのですか。
  223. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 刑法の全面改正の問題につきましては、ただいま法制審議会検討しておる段階でございまして、近く法制審議会から法務大臣のほうへ答申があるはずでございます。  それで、法制審議会におきましては、堕胎罪というものについて規定を残しておくのか、あるいはこれについて改正をする、特に堕胎罪を廃止するというようなことをするのかということで議論が行なわれたわけでございますが、結論におきましては、現行法とほぼ同じように、堕胎罪についての規定は残しておく、こういうことが現在のところの結論でございます。
  224. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 その堕胎罪を残しておくという議論の根拠は、どういう根拠になっておるのでしょうか。その審議の経過をもしお答えできたらお答えいただきたい。
  225. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 堕胎罪を残しておくという根拠につきましてはいろいろな意見が出たわけでございますが、一番大きな問題はやはり胎児の生命、これは十分尊重しなければいけない。この胎児の生命を軽んずるようなことになりますと、ひいては人間の生命についても軽んずるというような考え方に連なるおそれがありますので、この胎児の生命を重んずるということが一番大きな理由となりまして存置論になったわけでございます。  このほかに、たとえば人口問題等のことも議論になりましたけれども人口政策については、まだはっきりした国の施策というのがきまっていないような段階で、刑法だけでそれを先取りするようなことをするのは適当でないとかいうことも問題になりましたし、一部の委員の中には堕胎罪を廃止するというようなことになると、性道徳がさらに乱れるおそれもあるのじゃないかというようなことも議論されたわけでございます。
  226. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 堕胎罪をこの際廃止しようという意見もあったといま伺いましたが、廃止しようという意見はどのような根拠で述べられておるのですか。
  227. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 廃止しようとする意見もいろいろあったわけでございまして、第一番目には、出産するかしないか、すなわち妊娠を継続するかどうかということは、妊娠をしております女子自身の自由にまかせるべきことであって、これを刑法その他国の法律によって規制すべきではないという点が一つ。  それから二番目といたしまして、わが国では堕胎罪についての検挙、処罰の件数が非常に少ない。すなわち堕胎罪は残してあるけれども、実際はそれを使っていないという、こういう法律と実際との食い違いということは適当でないので、やはり堕胎罪を処罰するということが無理であるということであるならば、いっそ思い切って堕胎罪は廃止すべきではないか。  それから第三点といたしましては、日本だけではございませんで、世界における人口増という問題があって、これから数十年たちますと世界の全人口が生きていけないほど人がふえる可能性がある。そういう時期にはそういうことをなるべく抑制するような方策考えるべきである、こういうような点が問題になったわけでございます。
  228. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 この堕胎罪の件数が非常に少ないということですけれども、最近の実情でもしわかりましたら御説明いただきたい。
  229. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 これは裁判所の統計から申し上げますが、昭和四十二年から四十六年までの五年間に堕胎関係で有罪になりましたのが八件ございます。五年間に八件でございます。それからこれは検察庁の統計でございますが、堕胎事件につきまして検察庁で事件を受理した件数を申しますと、これは一年ずれておりますが、昭和四十三年から四十七年までの五年間で六十八件、検察庁へ事件が送られてきておりますが、このうち起訴いたしましたのは六件という数字になっております。
  230. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 この有罪になった八件、五年間に八件ですから、一年間に一件ちょっとということになるわけですけれども、この有罪になったケースはどのようなケースですか。これは代表的な例だけでけっこうでございます。
  231. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 堕胎罪で現在起訴されておりますものの全部とは申しませんけれども、その一部あるいはその多数の事件は、私どもが想像いたすところによりますと、何と申しますか、もぐりのお医者さんにかかって、そのために事故が起きたとか、そういうようなことがもとになって事件になってくる場合が多いように思っております。
  232. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 その場合は医者が処罰されておるわけですか。
  233. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 医者と申しますか、堕胎手術をした人が処罰されるようであります。
  234. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 厚生大臣、いまお聞きのとおりでございますけれども、堕胎罪というものは残っておるけれども、ほとんど罪に該当する事例がない。ある場合も非常に特殊なケースということになっているわけでございますけれども、なお法務省にもう一つお伺いしたいのは、今回のこの法改正がこのまま行なわれたとして、堕胎の件数がふえるというお見込みになっておられるのか、厚生省その他では現状とあまり変わらないという御答弁もあるようですけれども、法務省としてはこの法律が施行されると堕胎罪に当たる件数がふえるという見通しを持っておられるのか、あるいは変わらないという見通しを持っておられるのか、いかがでしょう。
  235. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 この法律とおっしゃいますのは優生保護法の改正ということだと思いますが、私どもはこの点は直接の担当ではございませんので、正確なことは申し上げかねますけれども厚生省のほうからお聞きしたところによりますと、この今回の改正法は規定を整備するということであって、実質的に人工妊娠中絶をしてよい場合を広げるとか狭めるとかいうことではない、こういうふうに聞いておりまして、条文を拝見したところ大体そういう趣旨に十分理解できますので、おそらくこの優生保護法の改正ということは堕胎罪の件数ということにはほとんど影響はないのではなかろうかというふうに思っております。
  236. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 厚生大臣、いまの問題ですけれども、今度の優生保護法の一部改正という名前の法律案ですが、改正される点というのはどういう点ですか。
  237. 三浦英夫

    三浦政府委員 改正される点につきましては、人工妊娠中絶に関する部分が二カ所と、優生保護相談所に関する部分が一カ所であります。  まず人工妊娠中絶に関する部分の第一点は、胎児が重度の精神または身体の障害の原因となる疾病あるいは欠陥を有しているおそれが著しいと認められるものにつきまして、あえて両親の方が人工妊娠中絶を希望するならば、それは今後は堕胎罪の例外措置として人工妊娠中絶の理由といたそう、これが第一点でございます。  それから第二点は、従来は人工妊娠中絶できる理由として、身体的または経済的な理由によって母体の健康を著しく害するおそれのあるものについて人工妊娠中絶ができるようになっておりましたのを、経済的理由と身体的理由とに限ってできたものを、むしろそういう理由をことさらに法律で規定をしないで、医学的な見地に純化いたしまして、「妊娠の継続又は分娩が母体の精神又は身体の健康を著しく害するおそれのあるもの」というように改めようとする点でございます。  それから優生保護相談所に関しましては、従来の優生保護相談所の機能に加えて、新しく相談業務の内容として、適正な年齢において初回分べんが行なわれるようにするための助言、指導、その他妊娠及び分べんに関する助言、指導を行なうことができるようにする機能を付与しようとする。この三点になっている次第でございます。
  238. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 具体的に端的にお伺いしたいのですが、いまの中絶の手術をするケースとして、若い働く夫婦が身体上は少しも欠陥はない、しかし子供を産まないための万全の処置をいろいろしておるけれども、何かのはずみでこれができなくて子供ができた、その子供を中絶するというケースが非常に多いと思うのですね。つまり、身体とか精神とかそういうことは一つも関係なしに、いま働く若い夫婦の中にそういうケースがたくさんあると思うのです。そういうふうなケースはこの法律ではどういうふうになりますか。全くおかまいなしということになりますか。あるいはこの法律のどこかの条文にひっかかるということになりますか。いかがですか。
  239. 三浦英夫

    三浦政府委員 いまの先生の御指摘のことがもし「母体の健康を著しく害するおそれ」と全く関係ないということになりますと、現行法でもその点は禁じられておるところでございますし、さらに改正法におきましても同じ趣旨になっている次第でありまして、あくまでも優生保護法母体の健康保持という観点からとらえておるような次第でございます。
  240. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 そういうことになりますと、妻になって働く女性についていま私が申し上げたようなケースが非常に多い。これは現在でも法律違反になる。しかし、法務省の答弁によりますと、そういうふうなものはほとんど違反として処理されていない。これはどういうことになりますか。   〔委員長退席、葉梨委員長代理着席
  241. 三浦英夫

    三浦政府委員 指定医師の指導もとというか、指定医師が行なわれることでございますし、しかも、指定医師は十分そういう医学的経験を積んだ方がなっておられますから、いわゆる違法的なことはさして行なわれていないのじゃないかと思っておる次第でございます。
  242. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 いままでの同僚委員の質問に対して、厚生省はかえって中絶する範囲が広まってくるというように思われる御答弁、少なくとも現状と変わらないという御答弁があると思うのですけれども、それはそう受け取ってよろしゅうございますか、大臣
  243. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 母体の健康を著しく害するおそれがあるという場合の理由として、現行法は身体的理由または経済的理由と二つあげておるわけなんですね。それが今度は、そういう以外にも、社会的というか別な理由によって、母体の健康や精神に支障を来たす場合があり得るということであれば、法域的には広がったような面も確かにあると思うのです。しかし現実問題として、広げようとか狭めようとかいう考えはない、こういう考え方でございます。要するに従来のような経済的、身体的、二つの理由だけを限定して列挙しておくことよりも、その後経済事情も変わってまいりましたし、社会の進歩も著しいわけでございますから、母体の精神並びに健康を害するおそれというものについての理由を言わないで、害するおそれがあるときには中絶をすることができるといったようなことにするほうがより適切である、こういう考え方でございまして、広げようとか狭めようとかいう考えは全然ないのです。ただ、その理由を二つ除いてありますから、それ以外の理由によるものがあるとすれば、その分は広がったということは言えるでしょう。法律的な領域として、もしほかの理由によるものがあるとすれば、広がったということは言えるでしょうが、現実問題として広げるつもりもなければ、狭めるつもりもない、こういうわけでございます。非常にむずかしいお答えかもしれませんが、今度の法律はちょっと違う立場から書いているものですから。やはり医学的な立場に純化して規定をすることが人工妊娠中絶の規定としては適当であろう、こういうところで改正をしようというのでございます。
  244. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 私どもが最初にこの法律について感じた印象は、無責任な堕胎をすることによって母体が著しく損傷されるおそれがある、したがって、理由のない中絶はこれを抑制しなければならないというようなことがこの法案の一つの重要な趣旨だというふうに承っておったのですけれども、そういう意味はないのですか、大臣
  245. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 いや、現行法だってゆえなくやるということはいけないということになっているのですから、その点は一つも影響はないと思います。現行法だって、母体の健康に重大な支障を来たすおそれがあるときだけ人工妊娠中絶ができるのであって、ただ経済的な理由だけでやるなんということは禁止されているのですから、もうその点については精神は一つも変わっておりません。
  246. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 その経済的理由だけではやっちゃいけないということですけれども、現実には行なわれておるわけですね。それは大臣、そう思っておられるでしょう。
  247. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 国民は法を守り、医師もりっぱにこの精神は理解しておるわけですから、この法律に従って医師はそれぞれの手術をしているものと私は理解をしておるわけでございます。この法律を無視して、医師がかってに人工妊娠中絶をしているなんというふうなことを私の口から言えるものでもありませんし、さようなことは信じておりません。
  248. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 それでは重ねて聞きますけれども、健康な夫婦で働く女性の方が子供ができれば仕事につけなくなる、つけなくなれば収入も減りて家計が苦しくなるという理由だけで中絶をするということは違法であるし、この違法は今後とも取り締まらなければならないという意欲をもって法改正をされたと思われるんだけれども、そうじゃないですね。
  249. 三浦英夫

    三浦政府委員 先生の御指摘のとおり、「母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に関係のない場合には、従来においても違法かと思います。  ただ、私どもとしては、経験の豊富な指定医師を中心として行なわれる人工妊娠中絶が、そういうような違法的なことで行なわれることはないものと思っておる次第でございます。
  250. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 その繰り返しの答弁だと話が進まないわけですね。かなり大騒ぎをして、たくさんの国民はあなた方がそういう答弁をなさるのとは違った印象を持っているわけです。この法律ができると、中絶は非常に制限されてくる、チェックされてくる、こういうふうに思っているわけですね。その問題についてお答えいただきたいと思うのです。この法律ができても、いままで以上にこれがチェックされるとかあるいは制限されるとかということは絶対にないんだというふうにお答えができるかどうか、そのことをお伺いしているのです。
  251. 三浦英夫

    三浦政府委員 先ほど申し上げましたとおり、広げようとか狭めようとかいうような意図で行なおうとしている改正ではございません。したがいまして、あくまでも指定医師の心証、判断によって母体の精神または身体の健康を著しく害するおそれがあるというものには人工妊娠中絶が認められ、そうでないものは認められないということになるかと思うわけでございまして、広げるとか狭めるというような意図的なものではなくて、純粋に医学的な見地からの整理をさしていただこうという内容であります。
  252. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 広げるとか狭めるとかという意図はないという。そして、従来はほとんど無制限に中絶が行なわれておるということは、いま法務省の御答弁からもうかがわれるわけです。それであれば、この問題はいけないという趣旨が、この立法の最初の目的の中の相当重要な要素であったのじゃないのですか。そういうことは全然ないのですか。ただ文言上の整理をするというだけのことですか。
  253. 三浦英夫

    三浦政府委員 私どもは無制限に堕胎が行なわれたというふうには理解していないつもりでございまして、検察庁等におきましても、それなりに必要な刑法の適用は行なわれていると思うわけでございます。したがいまして、要するにそういう無制限に行なわれているという印象、人工妊娠中絶を狭めようとかというような、そういう政策意図からというよりは、やはり従来の、当時から二十五年たちまして経済事情あるいは社会事情の変化に応じまして、医学的な見地から、もう少し医学的なものに純化をしていきたい、こういう改正の意図から出発したものでございます。
  254. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 これは一番大事な点ですから、単なる形式上のお答えでななく——むやみな中絶を抑制しなければならないという意見も、これは意見としてはりっぱなものなんです。一つの理屈を持った意見なんです。立法当局としては、この意見がやはりあったのでしょう。
  255. 三浦英夫

    三浦政府委員 もちろん刑法に違反し、優生保護法に照らして不適当な、いわゆる中絶というものが行なわれてはならないということはございますし、この優生保護法に関してはいろいろな意見もございますので、そういう意見の背景の方も十分あると思います。
  256. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 どうもさっぱりわからないのだけれども、いま大かたの国民の、特に勤労女性が心配している点、何らかの制限が加重されるのではないかという心配、これは大臣、心配無用ですか。無用か、あるいは少しは何かのあれがあるか、それだけでけっこうですけれども、心配無用と考えていいのですか。これは公式の答弁として、私どもこの法案を審議する場合にはその点が一番大事な点なんです。心配無用というふうにはっきり御答弁できますか。
  257. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 要するに今回の改正は経済的、身体的理由によるという二つの限定といいますか、明示されている理由を取っ払いまして、母体の精神と健康を害するおそれがある場合ということに、医学的にすることが適当であるということで改正をしようというわけでありますから、範囲を広げるとか狭めるとかいうものではないのです、法律的な問題は。ところが、和田さんのおっしゃるのは、法律を無視して、ゆえなき人工中絶がいっぱい行なわれているじゃないか、こうおっしゃるが、私は行なわれているということを前提としてものを判断していないのです。国民は法律を守っていただいている、医者も守って手術をしているのだ、こういう前提で、私どもは法律の領域においてこういうことを直すことが適当でございます、こう申し上げているわけです。ところが、ゆえなき中絶があるじゃないかと言われましても、私どもには何も統計がないのです。ゆえなき中絶が何ぼあったといったって私どもにはわからないのです。資料がないのです。世間でそういうことを言っておるということは私も聞いております。でございますから、こういう審議を契機として、なるほど優生保護法というものは堕胎罪を免責するところの法律である、それはこういう場合にのみ人工中絶というものは行なうべきものなんだという趣旨をわかっていただくだけでもたいへんいいことです。私は、何も取り締まりを厳重にしようとかそんなつもりじゃないのです。法の趣旨がりっぱに国民に伝わるということが大事だと私は思うのです。これは私は大事なことだと思っております。
  258. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 私、最初に法務省の御説明を求めたのは、実際優生保護法はあっても、現在有罪だと思われるケースが現実にあっても法で処罰されていない、このことがつまり先ほどの法務省の御意見から明らかになったわけでしょう、五年間に十件というのですから。しかも、その八件も、もぐりの医者が最もひどい方法で処理した事件が八件だけ有罪になった、こういうことです。そうだとすると、この優生保護法というものはあってもなきがごとき存在であるということになりはしませんか。
  259. 三浦英夫

    三浦政府委員 人工妊娠中絶の届け出は指定医師のほうから行なわれることになっております。患者さんというか、実際に人工妊娠中絶された方は届け出をされたかどうかわかりませんので、あるいは優生保護法上でないようなことに思われているのかもわかりませんけれども、そういうケースがあるのかもわかりません。いずれにいたしましても、年間七十三万件という中絶は確かに報告に載っておるところでございます。私どもとしては、指定医の正規の手続で行なわれてない人工妊娠中絶は、それほどというか、そんなにない、したがって、法務省のほうの堕胎罪に関する件数もその程度になっておる、こういうような認識でおる次第でございます。
  260. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 これは国民生活北限も関係のある問題でして、実態を離れた議論を繰り返してやってもらっては困るんですよ。私も率直に質問しておるわけですから、こうして大騒ぎしておるこの法律の趣旨として何らの変化のないものであれば、むしろ現状をもっとゆるやかに、中絶の範囲を拡大する意味を持っておるのだというようなものであれば、国民は何も心配はしないのです。しかし、何べんそういうふうな形式的な答弁をいただいても、相当心配をしておるわけですね。そこのところを立法者としては率直に解明をして説明をしないと、これはむしろ法に対する不信を起こすだけのことじゃないですか。その点はよくお考えになっていただきたいと思うんですね。  先ほど言ったように、無制限な中絶を押えるということは相当の理由を持っておる。おそらくその趣旨でこの法の提案者は出しておると思うのだけれども、それについてはノーともイエスとも言わない。大臣、これはノーですかイエスですか、どっちですか。
  261. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 この条項に該当しない人工中絶はやっていただきたくない、こういう考え方です。これはもう当然です。
  262. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 そうであれば、いまの状態から中絶の問題をチェックしていくという働きをこの法案は持つというふうに理解していいですね。
  263. 三浦英夫

    三浦政府委員 チェックするというか、同じことになるかわかりませんが、従来は身体的理由と経済的理由によって健康を害するおそれのある場合しか中絶ができなかったわけでございます。しかし、二十三年当時は、経済的理由ということがおそらく非常にクローズアップされたがゆえにこういう条項が入ったのだと思いますけれども、現在の時代になりますと、経済的理由以外で、その他の理由で、母体の精神または身体の健康を著しく害するおそれのあるものが理由としてはあるだろうと思います。厳格な刑法の特例措置になるわけでございますので、むしろ従来のほうが不適当な人工妊娠中絶が行なわれてきた場合があったかもわかりませんが、今度はほんとうに何らかの理由で母体の精神、身体の健康を著しく害するおそれがあるものについては、人工妊娠中絶のまさに適応事由になってくるので、時代の進歩、発展に応じた改正と私どもは思っておる次第でございます。
  264. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 時代の進歩、発展に応じた改正ということは、時代の進歩、発展という面から見れば、人口問題の現在の段階の方向にしても、いろいろな意味から見て時代の方向というのは中絶というものを取り締まるという方向ではないと私は思うのだけれども、これはあるとお思いになるか。時代の傾向というのはどういうふうに御理解をなさっておられるのか。
  265. 三浦英夫

    三浦政府委員 確かに、人工妊娠中絶の認められる態様につきましては、世界各国いろいろな態様があるようでございます。非常に倫理的にきびしい国から比較的ゆるやかな国までありますが、全体的な世界的な傾向としては、少しずつ人工妊娠中絶の認められる場合が広がりつつあることについては、そういう認識に立っておる次第でございます。
  266. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 それでは重ねて聞きますが、時代の方向に応じての法改正だとすれば、いまのお答えから見れば、時代の方向というのは中絶の問題をもっと寛大に処置するという方向だというお答えだと思うのですけれども先ほどからこの法を立案する立法者の意図として、そういう意図がこの中に盛り込まれておるのか、あるいは逆の意図があるのか、このことをお聞きしているわけです。じゃこれはいまおっしゃるように、中絶をゆるやかにする方向の線に沿った法改正だと、こう理解していいですね。
  267. 三浦英夫

    三浦政府委員 今度御審議をお願いしております内容は、そういう政策的な人工妊娠中絶を広げようとか狭めようとかいうような意図の政策を持ったものではございません。むしろ先ほど申し上げましたように、ただ経済的理由とか身体的理由という特定の理由だけあげておられた人工妊娠中絶の適応事象を、時代の進展とともに純医学的なものに純化をしていく、こういうまさに公衆衛生の見地から母体保護をはかっていこうという意図の改正でございまして、そういう政策的な意図を持ったものではない次第でございます。
  268. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 結局何を言っているかわからぬようなことになるわけですけれども、いままでの質疑の応答を聞いておりまして、立法の意図としては、とにかく現状と変わらない、少なくとも変わらない、むしろ現状よりも中絶の範囲を広める意味を持っておるんだ、これは確かですね。
  269. 三浦英夫

    三浦政府委員 大臣も申し上げましたが、二つの事由を取ってしまったということで、一面から見れば、確かに社会的事由その他の事由ということもあろうかと思います。しかし、終局するところは、やはり母体保護という観点からでございますが、といって、それが広げる意図かどうかということにつきましては、そういう意図からではないということでございます。
  270. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 先ほど法務省の御答弁では、これでもって中絶を現状以上にチェックするというふうには考えていないという答弁でしたね。そうでしたね。
  271. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 この改正によって、人工妊娠中絶が許される範囲が実質的にふえるとかふえないとかいう問題ではないように理解しております。
  272. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 ふえるとかふえないのではなくて、国民が心配しているのはチェックする要素が強まるんじゃないかということなんです。だから、そのことについてこの法はかなりあいまいな点、今度いろいろ改正されるとますますおかしくなってくると私は思うのですけれども、あいまいな点があるので、特にこの法律は運用する人の気持ちによって非常に変わる法律なんです。したがって、いまの立法者の意図を聞いておるわけです。それで私は、何回も確かめるように、実際問題として少なくとも現状と変化はない。むしろ経済的理由ということばをなくすることによってそれだけかえって広められるんだ、このように理解していいですね。
  273. 三浦英夫

    三浦政府委員 結局のところは、広げるとか狭めるかというよりは、繰り返しになりますけれども、担当する特定の指定医師という制度がございますが、その医師のまさに医学的な心証判断で、どういう原因であれ、その原因がこのままでいけば母体の精神、身体の健康を著しく害するおそれがあるという、医学的な良心に基づいた判断で行なわれる次第でございますので、相当な経験を持った指定医師の方々でございますので、医学的な常識の判断に立てば、適正な、妥当な運用が行なわれるものと思っている次第でございます。
  274. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 そうなりますと、お医者さんの処置、お医者さんのこの法に対する理解のしかたというものが、この法の運営の非常にかなめになりますね。そう思いませんか。
  275. 三浦英夫

    三浦政府委員 従来からも優生保護法というのは、結局のところは医師の心証判断というものが非常に重要になってくること、これは事実でございます。
  276. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 この改正案の立法の過程で、医師会とどのような折衝を試みたか、そのことについての経過をお伺いしたい。
  277. 三浦英夫

    三浦政府委員 同じ内容の法律を最初に国会に提出させていただきましたのがおととしの昭和四十七年になっております。その以前から日本医師会等におかれましても、やはり優生保護人工妊娠中絶の問題点等については種々検討されております。私ども厚生省のほうにおきましても、提出前から、さしあたってのとりあえず改正を行なわなければならないような問題点について検討は進めてきたところでございますが、当時、二年前でございますが、どういう意味合いにおいて医師会と具体的にあったかは存じませんけれども、少なくとも厚生省として、これが適当だということで国会に提出をしたような次第でございます。
  278. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 お医者さん、特に産婦人科のお医者さんがこの担当者になると思うのですが、中絶手術ができるというのは日本医師会できめる、これは各府県の医師会がきめるようですけれども日本医師会としてきめる、こういうものですけれども、したがって、いまおっしゃるように、この法の運営について、かなめになる重要な医師会と十五な打ち合わせが行なわれておったかどうか、これが疑わしいわけですよ、あとから申しますけれども。どういうような形で打ち合わせをなさってこられたのか。これは普通の法律関係でなくて、お医師さんの判断ということがこの法律を運営するかなめですね。日本の刑法は堕胎罪を処理する場合でも、お医者さんの判断いかんによってこれを何ともすることのできないほどお医者さんの立場は重要なんですね。お医者さんの団体である日本医師会と、現在の改正法案をつくる場合にどのような話し合いをなさったのか。完全な了解を得たのかどうか。了解を得なくとも、了解を得るための努力をなさったのか。なさったとすればどういう方法でなさったのか。そのことをお伺いしたいのです。
  279. 三浦英夫

    三浦政府委員 昭和四十七年当時に提出をしたときに、その前後におきまして、厚生省から日本医師会のほうにお伺いする等して、責任者の方が十分説明をしたりした記録は、私もそのあと読んでおります。したがいまして、日本医師会のほうにおかれましても、こういう法律が提出されるということは十分知っておられて提出が行なわれたような状態になっております。
  280. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 そのときの日本医師会の会長は武見さんですね。そして、日本母性保護医協会の会長の森山豊さん、この人もそのときの会長ですね。このお二人が一昨日、五月二十一日付で私のところにこのような電報をよこしておるのです。「優生保護法の一部改正に絶対反対する 日本医師会会長武見太郎」、同じく、「優生保護法改正案に絶対反対する」、ちょっと文章は違いますけれども、「絶対反対する」は同じです。「絶対反対する日本母性保護医協会会長森山豊」。この電報が一昨日の二十一日に私の会館の部屋に届けられたのです。きょう、このことについて、委員部のほうで医師会のほうに確かめてもらったのですけれども、そのことについては一切説明をするなということが医師会会長の命令であるという返事をいただいた。これは先ほど委員部からただしたところです。つまり、一切この問題については話をしてはいけないということは、電報を出したという事実を一応黙認したということになると私は了解をしている。つまり、この法律を運用するかなめになる重要な日本医師会の会長、これは絶対多数で十選を果たした武見さん、直接の担当者である産婦人科の母性保護医協会の会長の森山さん、このお二人から、いま申し上げたような電報が来ているということは、非常に大事なこのお二人がこの法案に反対をしているということになるわけです。  こういう経過から見まして、先ほど昭和四十七年に医師会と接触したというお話ですけれども、それからもう二年以上たっている。しかも、こういう一部改正をこの段階国会へ出してきている。その間にはほとんど話し合いらしい話し合いをしていない。これは、法の立法者として、特に責任を持っている厚生大臣として、国民の非常に重要な健康に関係する法案について、しかもそれを実際に執行する担当者である医師会との交渉が非常に不十分、ほとんどなされていない、あるいは絶対反対のままでこの法案を出しているということになると思うのですけれども、この電報を出したか出さぬかということは質問いたしません。これは当事者じゃないのですから。ただ、医師会の意向としてこういう意向を持っておるままでこの法案を通していくというところに問題がある。この問題は、私いまポイントの点を御質問しているんですけれども、非常に広範な、どちらのほうからも五分五分に議論できる問題なんです。しかも担当者が反対をしているという問題なんです。こういう問題を、そうたいした折衝もなしに通すということは、立法者として無責任のそしりを免れない。もっともっと慎重な審議をすべきだ。しかも、ときあたかも、一般の国民がこの法案に対して理解しておるのと、皆さん方がいま御説明になっている点とは、かなりの食い違いがあるのです。国民のほうは非常に心配している。皆さん方のほうは、いや、そんな心配は要らないのだ、むしろいままでよりも緩和されるのだということの答弁さえなさっておられる。しかも、実際やっている医師会は、これについてたいへんな反対をしている。どういうことになりますか。これをあえてこの段階で無理に通すということになると、これは問題をたいへん軽率に扱ったというそしりを免れない、こういうふうに私は思うのですけれども、いかがでしょう。
  281. 三浦英夫

    三浦政府委員 繰り返しになりますけれども昭和四十七年に提出いたしました前後においては、医師会とも十分——その内容は医師会も知っておられるところでございます。さらに、一度廃案になりまして、昨年の五月にもう一度あらためて国会に上程をさせてもらっておりますけれども、そのときも、国会に提出させていただいたということは医師会のほうも十分知っておられたようでございます。したがいまして、もちろんこの法律が成立した暁におきましては、関係の医師会等とも運用につきましては十分協議をしていかなければならぬ問題だと思っている次第でございます。
  282. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 またこの問題は、法律である制限を設けるとか、ある方向をきめるとかいうこととは、ちょっとなじまない問題ですね。もっと国民の自発的な協力というものが必要な問題でもあるわけです。そしてまた、そういうふうな中絶ということか事実上なくなる心配が——これはやっぱり今後ともありますよ。ほんとうにからだの悪い人等の問題については、ありますよ。事実上そういうことがなくなるような、性道徳的なもの、あるいは避妊の現実的な方法、そういうようなものも開発されようとしている時期なんですね。また一般からあまり人口をふやしてはいけないというようなこともある。こういう時期にあえてこのような、国民がたいへんな心配をするような、これはあなた方は誤解だとおっしゃるかもしらぬけれども、いまの大臣あるいはあなたの答弁を聞いても、全然心配する点は解けないと思うのです。そういうものをあえてどうしてこういう時期に出すのか。なぜもっと慎重な審議をしないか。特に、医師会、担当者の医師会、あるいはその他の特に関連の深い団体の人たちとなぜもっと慎重な打ち合わせをしないのか。これが私はふしぎでならないのです。この問題について、大臣、いままでの手続で十分だとお考えになっておりますか。あるいは若干足らない点があったとお考えになりますか。いかがでしょう。
  283. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 当初国会へ提出するときにどういうふうに折衝が行なわれたか、その当時の古い話は、私も大臣就任前ですから承知いたしておりませんが、法案提案については、医師会とは十分連絡をしておるはずでございます。  そこで、きのうからのお話で、反対という電報もいただいたというお話、金子委員のときからでございますか、承りました。しかし私は、医師会長からは反対の意見を聞いておりません。どういう点が反対なのか、反対の意見を全然私は承っておりません。したがって、私としては、数年越しの法案でございまして、政府としては提案いたしました以上は、あとはもう国会の御審議にまつ、これが私は政府としての態度だ、かように考えておるわけでございますから、さようにお願いを申し上げたいということをきのうから申し上げておるとおりでございます。
  284. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 また、その法案を最初に出した昭和四十七年という年を考えてみますと、高度経済成長の頂上に達しておって、労働力が非常に不足であった。もっともっと日本としては労働力が必要である、今後の見通しとして労働力が非常に少なくなる、こういう心配をされた時期ですね。現在は非常にそれとは違った条件にある。こういう条件の変化だけを考えましても、もっと慎重にこの問題は審議すべきだ、こういうふうに私は思うのです。  時間もだんだんなくなりましたから、最後にお伺いしたいのですけれども、私はこの法案について、せめてもの理由があると思われたのは、重症心身障害児を産むおそれがあるという場合に、これを中絶するという道を開くということですね。これはいろいろ意見があります。ありますけれども、この条項は、優生保護法という名前の法律にとっては私は非常に大事な条項だと思う。私どものいろいろな関係の団体でもこの問題を議論して、これはいいことじゃないかということを言う人が非常に多い。むろん、このいいことではないかということは、現に重症心身障害者あるいは障害児をかかえておるおとうさん、おかあさん、御家族を無視するという意見は全然ない。ただ今後ともこういうケースをもし予防できるようになれば、これは非常にいいことではないか、私どもはそういう考えを持ったのです。しかし伝えられるところによると、この条項を取っ払ってしまう、この条項はなくしてしまってもいいというお考えがあるやにお伺いをする。厚生大臣、これはどういう気持ちですか。
  285. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 この条項についてはきのう以来お答え申し上げてありますように、最近の医学の進歩によりまして、身体に障害を持つ子が生まれるであろうということを相当高い確率で判明することができる、こういうふうな事態になったということを承っております。そこで、そういうふうなことであるならば、その生まれてくるであろう胎児を持つおかあさんやおとうさんの御意見によっては、そういう場合には産みたくないということで中絶をしてもいいのではないか、中絶をさしてあげてもいいんじゃないか、こういうことが実はこの法案を提案するときの私の気持ちでございました。ところが、その後これを調べるにあたりましては羊水検査をしなければならぬ。羊水検査ということになると十分な検査機関が不備ではないか、こういうふうな御意見もあり、さらにまた時期尚早ではないか、もうちょっと時期を待ったらどうだ、こういうふうな意見も出てまいったわけでございます。そこで、そういう意見があることであるならば、そういういろいろな意見があることを率直に社労の委員会にもお伝えいたしまして、社労の御意見によって、もし皆さん方が削れとおっしゃるならば削ってもいいではないか、社労の御審議にまつ、これに対するいろいろなそういう医学的な時期尚早という意見もある、それを率直に社労の席にお伝えしまして、あとは社労の御審議におまかせをして、この社労の御審議を尊重して処理をするというのが適当ではないか、こういう考えに現在なっておるところでございます。私は近代の医学の進歩ということであるならば、やはりこれも必要かなということで提案をいたしたわけでございますが、そういうふうな御意見もございますので、社労の皆さま方の御審議の結果にまちたい、こういう気持ちでございます。
  286. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 経済的理由を取っ払うという形で、一般の国民には中絶という現に必要なことをチェックするような印象を与える項をつくるよりも、むしろこの項を生かしていくというほうが私は意味があると思う。扱い方が逆なんですよ。国民生活にとって非常に重要な問題について、優生保護という立場から見て必要なことを、一部の反対があるからといってこれをやめてしまって、大部分の普通の国民が心配している点をそのまま残していく、これは非常に無責任な、つまり優生保護という問題を真剣に考えない態度じゃないかと私は思う。大臣いかがでしょう。間違っておるでしょうか。
  287. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 御承知のように、経済条項を削除することにいたしましたのは、戦後の荒廃したときに経済的困窮ということが非常に大きくクローズアップされた時代なんですね。その時代においては一般の勤労者の諸君においてもエンゲル係数も高かった。現在は一般勤労者のエンゲル係数は三〇%台に落ちてきましたが、戦後の荒廃したときにはほんとうに食う食物もない、着る着物もない、こういう時代であった。そういう事態でありましたために、多分これは議員提案であったと思いますが、経済問題が強く出て、経済的理由によって母体の健康をそこなう場合には中絶をさしたらどうだ、こういうことで、たしかこれは議員提案で出たわけでございます。もともと優生保護法の当初にはなかった条項でございます。ところがその後エンゲル係数もそういうふうに変わってまいり、国民の富もあの当時に比べれば豊かになってきた。経済問題だけを頭に描いての中絶よりも、そういう理由を取っ払って、母体の健康、母体の精神の健康、そういう人工中絶の本来の姿に条文も適切に直したらどうだ、これは私の率直な気持ちなんです。そういうことでしたのでございまして、ただ身体障害者の条項については、私は確かに優生保護一つのりっぱな考えだと思うのです、自分で言うのもおかしいですがね。そういうことがはっきりわかるならば、無理に何もそういうときに中絶しなさいというのじゃないのです。親御さんが中絶したいとおっしゃるならばそれは中絶しなさい、してもいいですよということの条項は私は適切だと思っています。いまでも適切だと思います。しかしながら、それについては医学的に見てまだ時期尚早ではないか、それから羊水の検査などについても検査機関が全国にそう整備されているわけでもないではないか、こういわれてみれば、なるほどそういうものかな、これはひとつそういう材料を全部委員会の席上に提案をして、皆さん方の御判断にまつ、これがいいのではないか、こういうふうに考えておるような次第でございます。
  288. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 いまの御答弁でもわかりますように、この法案について真剣な討議がされていない。いまのような問題はこれは当然議論として起こる問題です。またいままでもある問題です。これを十分討議しておれば、こういうふうな出したものをまた引っ込めるというようなことはないはずですね。第一、大臣いろいろな答弁を承っておりましても、法律をつくっても、一般の国民はこれは妙に取り締まられるんじゃないかという印象を持っているけれども、取り締まるわけじゃない、かえって自由になるんだというような答弁をなさる。これは私は、この法律自身について、法律案なんですから、つくったら守らなければいけないのですから、守れない、政府がまた守らすことも考えてないような法律はむしろつくらぬほうがいいのです。だから先ほど法務省で、刑法改正で、現実に五年間に有罪になったのは八件しかない、その八件もごく特殊なケースだということになると、こういうことだから堕胎罪というものは必要でないという有力な意見があるといわれておられる。しかもこの法律をつくって、いままでのやみくもの中絶を取り締まるということなのかといえばそうじゃないということになる。こういうちょっと意味のわからない法律、われわれ国会議員としては責任をもって討議をする場合には、政府としてもどういう立法の趣旨をもってやったのかということを国民にもっと納得させるような準備、努力が必要なんです。そういう準備と努力がなされていないんじゃないか。先ほど医師会の問題もそうです。重要な担当者との話し合いが、やったといっても、現にこういう電報がこの法案の、最後を左右するかどうかという直前に来ているということですね。いずれにしても、人口問題等の大きな流れからいっても、こういう問題を早々の間に通していくということはきわめて遺憾なことで、私どもいろいろな理由でこれはもっともっと慎重に審議をすべき問題だと思う。特にいまの御答弁を聞けば聞くほどそういうように思う。厚生大臣もあまり自信がないんじゃないですか。これを絶対通して国民のあめになるというふうな自信を持っておられますか。
  289. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 この法案はもう数年越しの問題社労に数年提案をいたしておるわけなんです。ところがいままで審議の機会に恵まれなかったことば、私はまことに遺憾に存じております。
  290. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 非常に不十分ですけれども、私の時間が参りました。まだたださなければならない問題が非常に多いのですけれども、率直に申し上げた私の質問を、どうかひとつ大臣としてもいろいろな行きがかりにとらわれないで、そして国民多数の持っている疑問にもっと率直に説明もし、そして御協力を求めるという方法を選んでいただきたい。そのためには、この法案をこの段階でこの委員会を通過するようなことを強く求めるような態度を反省していただきたい。こういう意見を申し上げまして私の質問を終わりたいと思います。
  291. 葉梨信行

    ○葉梨委員長代理 大原亨君。
  292. 大原亨

    ○大原委員 昨日来の論議を受けまして法律問題とそれから事実問題、これを踏まえまして、われわれが納得できない、審議を通じて納得できない、このように考えておる問題につきましてひとつ焦点を合わせて質問をいたしますから、質問をそらさないように、ひとつ簡明率直な答弁をいただきたい。  きのう指摘をいたしました法律問題の中で、この優生保護法は、第十四条におきまして現行法律に類例のない規定をいたしております。それは第十四条の「社団法人たる医師会の指定する医師」、これは都道府県単位でありますが、「(以下指定医師という。)」、こういうふうに、社団法人たる民法上の法人に政府人工中絶できる医師の認定を、指定権を委任をいたしておるわけですね。これはたしか二十七年の改正であると思いますが、これを通じて、全婦人科のお医者さんが都道府県の医師会の指定によりまして人工中絶ができるようになったわけであります。当時の議論から考えてみますと、当時の議論から情勢は変わっておりますが、しかしこういう法律は異例のことなんです。異例ですが、この立法の論争を私はおきます。おきますが、こういう法律を明文としてつくってある以上、これは日本医師会が全面的に絶対反対を主張いたしておる、そういう場合には、私は、この法律については反対の理由もいろいろあると思うけれども、執行上大きな問題になるのではないか、こういう疑惑を持っておるわけです。ですから、その問題については私は簡潔に——厚生大臣はこの問題だけについて主体性のあるような答弁をちょっとされましたけれども、それは政治答弁といたしまして、そういう点からも、社団法人たる医師会の意思を無視できないような法律の仕組みになっておるではないか。しかも医師会は反対しておるではないか。連合体にいたしましても、単一体にいたしましても、日本医師会は反対しておるではないか。この法律と現実とのギャップについて厚生省はどのように判断をいたしておるのか。
  293. 三浦英夫

    三浦政府委員 先ほども申し上げましたけれども、最初に四十七年に法案を提案した前後におきましても、さらに昨年あらためて提出いたしましたときも、この内容につきましては医師会等のほうにも十分、こちらからも説明にあがったりして連絡はとっております。  なお、もしも法律が通過した場合には、医師会あるいはさらに都道府県単位の医師会等とも運用につきましては十分連絡をし、相談し合ってやっていく所存にしている次第でございます。
  294. 大原亨

    ○大原委員 私は、日本医師会の主張を全部うのみにしていいというのじゃないのです。ないのですけれども、この法律はそういう特殊事情の中にできた特殊の法文を持っておるわけですから、その日本医師会の反対があったならばできないだろう、こう言っているのです。あと了解を求めます、いままで説明いたしました、そういうことを聞いているのではないのです。いかがですか。
  295. 三浦英夫

    三浦政府委員 私ども厚生省のほうには日本医師会等から直接いわゆる公式的な御反対の意見は聞いていないところでございます。
  296. 大原亨

    ○大原委員 昨日、社会労働委員に武見会長名の電報が着いたことは金子委員その他から御披露があったとおりです。いまも質問がありました。  私は、けさ、この問題はきわめて重要であるから、事実を確かめなければならぬということで、社労の始まります前に医師会に連絡をいたしました。事務局長も会長もまだ出勤ではなかったわけであります。この問題を担当しておる理事に連絡がつきました。その理事のお話によりますと、これは提案をされて以来、正確には四年以来、この問題について医師会は反対であるということは一貫いたしております、それから今日まで政治的に上程されたということで、政治のことについてはあまり深入りはいたしませんでしたけれども、廃案になるというのが世論の常識でありますから、留意いたしておりませんでした、こういうことであります。第三は、数日来の情勢の中で急速にいろいろな各機関の決定等があって、雲行きがあやしくなってまいりましたから、従来の方針どおり絶対反対の要請をいたしました、こういうことでございます。それから一歩踏み込んでもう少しありますけれども、あなたが答弁していること、あるいは大臣答弁しておることと違うではございませんか。そのことを確かめなければいけない、こう言っているのですよ。そういうことをうやむやにしてこの問題を審議することはできないじゃないですか。いかがですか。
  297. 三浦英夫

    三浦政府委員 繰り返しになって恐縮でございますけれども、私どものところには公式に医師会からは反対という意見はいただいていないような次第でございます。
  298. 大原亨

    ○大原委員 私は三段階に分けて言ったのです。あなたのほうは違ったことを言っている。厚生省にもそのことは直接伝えてあります、こういうことであります。  もう一つ第四の問題を加えてみましょう。あなたは国会を欺いておるのですか。国会を欺いてこの法律案を通そうとしているのか。どうですか。これは、日本医師会の主張の是非については厚生大臣は主体性を持つべきである。しかし、いいことはいい。それで、私は理由についてはきのうこういう議論をいたしましたが、この議論についてはいかがお考えですかというふうに念を押しました。その第一の理由は、第十四条の第一項の五号におきまして、経済条項をカットして精神条項を加えるならば、そうするならば「精神又は身体の健康を著しく害するおそれ」という判断は一にかかって医師にある。日本の現刑法はもちろん改正案にも堕胎罪が残っておる。特別法である優生保護法で刑法の適用が除外されておるけれども、経済条項という国民の側が選択する条項というものがなくなってくると、医師の全責任になって刑法の適用の範囲が広まってくる、そういうことが一つ。もう一つは、中絶の安全と自由化ということは国際的な私権の問題からも経済問題からもそうです。これはまさに経済問題です。人類死活の経済問題だ。世界の大勢からも自由化の方向に向かいつつあるときに、国際的に日本優生保護法がある程度の評価がなされておるときに、この問題について、いまことさら改正するという理由がないではないかということであります。私がそういう点を指摘いたしましたら、その御趣旨のとおりでございます、こういう主張でございました。私は口裏を合わしたのではありません。その方がおっしゃったことについて、ことさらその人に責任を転嫁しようとも思いません。私の責任で申し上げますが、あなたらが答弁していることは、そういう事実を隠蔽しておいてやっているじゃないか。そうしてこの法律自体が持っておるそういう構造を否定するような、そういう立法を強化しようとするようなことを、われわれは時間が来たからといって、それで終わりでございますというふうなことは国会の責任上絶対にできない、そういうことを言っているのだ。いかがですか。
  299. 三浦英夫

    三浦政府委員 この法律の点につきましては、四十八年の五月に提出させていただくときにも、日本医師会とは連絡をとったということは先ほど申し上げたとおりでございます。過般、いろいろな国会情勢につきまして、日母の方が私のところにお見えになったようなこともございましたが、もしも法律が通過するというようなことがあれば、運用については厚生省と日母との間で十分協議をしてまいりたい、こういうような御意見のあったことも聞いております。いずれにいたしましても、公式に私どものところに日本医師会のほうから御反対ということの御意見は現在までいただいてないような次第でございます。
  300. 大原亨

    ○大原委員 それでは、きのう金子委員の質問のときであると思いますが、日本医師会のほうにこのことをただしてもらいたいということを要望いたしてあります。きのうはどういたしましたか。
  301. 三浦英夫

    三浦政府委員 実は金子先生から電信のことをいただくまで、その電信のことは全く存じなかった次第でございますし、厚生省のほうにそういう電信は届いてないような状況でございますので、こちらのほうから日本医師会のほうに御連絡をとるようなことはしてないような次第でございます。
  302. 大原亨

    ○大原委員 この問題がきのう以来こういうふうに問題になっておって、具体的に金子委員や私からまで指摘をいたしているのに、その事実をなぜ確かめないのか、どういう理由で反対か、どういう理由で賛成か、そういうことについて確かめて審議の参考にするということは国会の当然の責任ではないか。そういう国会の権威や要求というものを無視して、君たちが時間を過ごせばいいというように考えているのか。どうですか。
  303. 三浦英夫

    三浦政府委員 確かに電信の問題につきましては、先ほど和田先生のお話の中にもございましたが、衆議院の事務局のほうでもお確かめになったようでございますし、非公式に電信内容等につきましても、医師会のほうではノーコメントだということのようでございますので、そのままにしておる次第でございます。
  304. 大原亨

    ○大原委員 本委員会のことを言っているのじゃないですよ。何を言っているんだよ。君は何を言っているんだ。質問に答えなさい。
  305. 三浦英夫

    三浦政府委員 私のほうも、実はけさ、私自身は九時過ぎに一度役所へ参りまして、医師会事務局の責任者のほうにも一度確かめるよう連絡をとってみましたけれども、ちょうどまだ出ておられないようなこともございまして、そのままこちらの国会へ来たような次第でございます。
  306. 大原亨

    ○大原委員 こういうでたらめな答弁で審議ができますか。法律や事実に基づいて追及をいたしておるのに、その事実の解明と法律の解明をほおかぶりしておいて、そんなことができますか。そんなことはできませんよ。委員長、これはどうしますか。そんなことはできないですよ。〔「休憩だ、休憩だ」〕と呼び、その他発言する者あり〕
  307. 葉梨信行

    ○葉梨委員長代理 速記をとめて。   〔速記中止〕   〔葉梨委員長代理退席委員長着席
  308. 野原正勝

    野原委員長 速記を始めて。  この際、暫時休憩いたします。    午後五時十分休憩      ————◇—————    午後五時四十一分開議
  309. 野原正勝

    野原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  休憩前の質疑を続けます。大原享君。
  310. 大原亨

    ○大原委員 休憩前に、昨日来の質問を受けて、われわれ同僚委員から指摘をしたこの優生保護法の法律解釈、独特の法律構造、それとそれから事実の問題について、厚生省側がきわめて不誠意であり、国会の権威をじゅうりん、無視をしている、こういう点を私は指摘をしてまいりました。ここにあらためて政府の責任ある見解を求めたいと思います。
  311. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 優生保護法の施行というのは、私が申し上げるまでもなく、日本医師会の御協力なくてしては運営することのできないものでございます。そういう意味におきまして、この法律が皆さん方の御協力により成立いたしました暁には、国会におけるいろいろな論議等も十分医師会にお伝えしなければなりませんし、この法律の運用について御協力をお願いしなければなりませんので、私としては誠意を持って皆さん方の御意見も十分お伝えしながら協力を求める覚悟でございます。
  312. 大原亨

    ○大原委員 いまの齋藤厚生大臣答弁は、いままで政府委員大臣答弁いたしましたことよりも一歩も出ていないわけであります。  私が指摘をいたしました点を時間的な制約もありますから、まとめて記録にとどめておきたいと思います。  その第一は、この優生保護法の法律構造は独特のものであって、社団法人たる都道府県の医師会人工中絶の医師の指定を機関として委託をいたしておる法律であります。このような法律は他の法律にはないわけであります。この立法論については私はきょうは触れません。触れませんが、昭和二十七年の改正当時からの実勢で、情勢の変化はあるけれども、そういう法律の構造の上から当然に大臣大臣としての権威を持つべきであるけれども、このことは、法律構造自体からこのことを改めていないのであるから、手続として日本医師会意見を聞くべきである、これを本委員会の重要な参考資料にすべきである、今日まで人工妊娠中絶その他の優生手術等の指導を担当してきた医師であるからであります。  私どもは昨日、日本医師会長武見太郎氏から優生保護法絶対反対の電報をもらっておるわけでありますが、そのことについて政府は知らないといっておるのでありますが、私の確めたところによりますと、医師会意見は、これは私は二重の確かめ方をしておりますが、四年前から優生保護法については反対である、いままではこれは日の目を見ないという社会的な常識で審議が進んでおった。したがってこのことが現実の政治問題になるとは想像していなかったが、最近の情勢では、急転直下そういう情勢が出てきたから、従来の反対態度についてはっきり表明をしたのである。そうしてそのことは、皆さん方が答弁したこととは違って厚生省側には伝わっておる、伝えてある。そういう答えを得ると一緒に、その反対の理由といたしまして、われわれがしばしば指摘をいたしてまいりましたが、経済条項をカットして、そうして精神条項を入れるということは、これは国民の側からの中絶についての選択の幅を狭めるという側面と一緒に、医師自体が全責任を負うということになって、そうして刑法の堕胎罪が特別法、優生保護法との関係で動いていないのが動いてきて、そうして医師が刑事責任を問われる可能性が強い、こういう点が一点であります。そういう点を背景として、国民の立場から見るならば、これはやみ中絶ということが横行する可能性がある。その場合には危険負担が多いから値段が上がるという可能性がある。しかも受胎調節その他について明確な総合的な方針は政府にはない。これが第一です。  第三の理由は、中絶の安全と自由化については、これは国際的な情勢である。アメリカの最高裁判所は三カ月未満の胎児の中絶については、これを刑事上免責にいたしておるという判決がある、こういう点をあげたわれわれの主張に対しましては、その主張については同感である、こういう趣旨の答弁を得たのであります。ですから、皆さん方が、政府委員答弁をしていることは、それらのことについて非常なあいまいな答弁をしている、私があげれば切りがないけれども。確信のない答弁をしている。非常な牽強付会の答弁をしている。そういうことであるので、明らかにそういう議論については白黒はっきりいたしておる。  しかも、それに加えて、昨日来金子委員指摘しておるように、きのう以来このように問題が提起をされて議論になっておるのに、だれかを派遣をいたしまして、はっきりした中絶に対する、あるいはこの経済条項のカットに対する医師会の賛否に対する責任ある見解をただす時間があったはずである。それを今日に至るまでやっていない。そういうことは全く国会を冒涜するものである。利害関係の深い、権利、義務に生活に深い関係のある国民の主張や意見というものを無視するものであって、われわれとしては少数多数にかかわらず絶対にこのことについては了承しない。そういう点は、私はいまの大臣答弁によりましても私の所説を変える意思はないわけです。大臣答弁政府委員答弁との間における認識の相違点については、これは性格上の差もあるけれども、まあそのことについては触れないが、以上のような法律の構造、法律の持っておる組織とそして事実の問題について重要な問題を指摘をしたわけでありますから、われわれの態度については、全国民にその主張と責任の所在を明確にできるものとわれわれは確信を一いたしておるわけであります。しかし、国会は全体の運営があることを私どもは十分承知をいたしております。私ども社会党といたしましては、衆参両院一体の原則でこの問題の処理も考えておるわけでございますが、私どもはあくまでも、この問題点について、審議を通じて政府が責任ある答弁をしていない、そういう事実を確認をして、われわれとしてはこの問題については絶対にこの法律の成立をさせない、こういう私ども社会党の決意である、そういう点を明確にいたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
  313. 野原正勝

    野原委員長 速記をとめて。   〔速記中止〕   〔委員長退席、斉藤(滋)委員長代理着席〕     …………………………………   〔斉藤(滋)委員長代理退席委員長着席
  314. 野原正勝

    野原委員長 速記を始めて。  これにて三案についての質疑は終了いたしました。     —————————————
  315. 野原正勝

    野原委員長 ただいままでに委員長の手元に大野明君、斉藤滋与史君、葉梨信行君、山口敏夫君及び山下徳夫君より、優生保護法の一部を改正する法律案に対する修正案が提出されております。
  316. 野原正勝

    野原委員長 修正案の趣旨の説明を聴取いたします。山下徳夫君。
  317. 山下徳夫

    ○山下(徳)委員 ただいま議題となりました優生保護法の一部を改正する法律案に対する修正案につきまして、自由民主党を代表いたしまして、その趣旨を御説明申し上げます。  修正の要旨は、人工妊娠中絶の要件のうち「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められる」場合の規定を削除することであります。  何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。     —————————————
  318. 野原正勝

    野原委員長 これより三案を討論に付するのでありますが、結核予防法等の一部を改正する法律案日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案については申し出がありませんので、優生保護法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案を討論に付します。  討論の申し出がありますので、順次これを許します。山下徳夫君。
  319. 山下徳夫

    ○山下(徳)委員 今回の優生保護法の修正案を要約しますと、政府から再三にわたって御説明がありましたとおり、第十四条の四、「その胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められるもの」、第二番目が、同条の五、「妊娠の継続又は分娩が母体の精神又は身体の健康を著しく害するおそれのあるもの」、第三は、第二十条に規定されております、これは私は朗読を省略いたしますが、いわゆる優生保護相談所に関する規定であります。  この三つが今回の改正案の柱になっておりますが、そのまず第一の、第十四条の四に掲げております、いわゆる胎児の重度の精神または身体の障害云々という規定でございますが、これにつきましては、おそらく、政府とされましては、胎児が、生まれ出ても、重度の精薄でもって、心身障害等でもって、一生不幸な目を見なければならぬ。あるいは家庭全般に対していろいろ問題があるだろうということで、こういう条文をつくられたのでありますけれども、これに対していろいろ、たとえば身障者を一人前に扱わないという御批判もございますし、私どもは、そういう御批判があるならば、それをさらに削るのにやぶさかでないということと、もう一つは、これを判定するための科学検査、たとえば羊水検査と申しますか、そういう問題につきましては、まだ一般の診療所、病院等で容易にこれをなすことができないという一つの現状、あるいはまた、これによって判定し得る一つの障害児の範囲というものが極端にまだ狭いという現状等にかんがみて、われわれとしてはこの条文には固執しないで、ひとつこの際修正をしよう、削除をしよう、こういうことになったわけでございます。  それから、第二十条の優生保護相談所は、これは私は与野党におけるたいした意見の差はないと思いますので、あえてここで申し上げることを省略いたします。  したがって、残りますのは第十四条の五であるところの、いわゆる経済的理由というものを削除した一点にしぼられるわけでございまして、昨日から、かなりの長時間にわたって多くの人々が論議を繰り返しましたが、主としてこの問題に集中された、集約されたということでございます。  そこで、われわれとしては、従来この経済的理由ということに規制をいたしておりましたけれども、今回は、経済的理由だけではなくて、精神的理由、つまり、妊娠の継続あるいは分べんが母体に害を及ぼすおそれのあるときは、医師が判定をすれば、別に経済だけには限定しない、何でもよろしい、こういう意味ですから、包括的にこれを置きかえた、純化したということでございますから、私はきわめてこれはすぐれた改正案である、そういうふうに理解をするものであります。  いろいろ論議もありましだけれども、私は、この修士案が可決されまして、そして一年、二年たった後に、おそらくこの改正案というものは国民によって十分納得されることを確信を持っておりますので、私はこの法案に賛成をするものであります。(拍手)
  320. 野原正勝

    野原委員長 金子みつ君。
  321. 金子みつ

    ○金子(み)委員 優生保護法の一部改正案に対する反対討論を行ないます。  今回提出された優生保護法の一部改正においては、人工妊娠中絶を認める条件のうち、「身体的又は経済的理由」を削除し、「母体の精神又は身体の健康」に改め、その理由を、現在の国民生活水準の向上に置いておりますが、これは、あまりにも実態を掌握していないものといえます。なぜなら、国民が好まない人工妊娠中絶を受ける最大の動機は、激しい物価高騰、住宅不足などの経済的理由によるものであるからであります。ことばをかえれば、国民が不安定な現代の生活及び将来に適応しようとする最後の生活の知恵にほかならないと考えます。  また、経済的理由を削除すれば中絶が減少するという分析は甘く、むしろ、やみ中絶をふやし、堕胎罪に結びつく可能性もあります。中絶費の大幅引き上げを招くことになり、同時に母体を危険にさらす結果ともなります。しかも他方、家族計画指導が組織的になされてはいないわけであります。  なお、精神的理由を入れるのは、それをはかる尺度がないだけに、運用によっては際限なく狭くもなり、また広くもなります。人間の基本的権利である妊娠、出産に対して政治の介入を許すことになり、はなはだしく危険と言わなくてはなりません。  また、障害児出生防止の見地から「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められるもの」という条項を中絶適応事由に加えることになっておりますが、経済社会活動に有効なものとそうでないものとを、出生前に選別しようとすることは、差別思想につながり、人権じゅうりんもはなはだしいものがあります。  さらに、指導、助言とはいいながら、本来本人または夫婦自身がきめる初回分べんの年齢について、干渉的な事項を法律によって規定するということは、憲法の精神に違反するおそれがあります。全くの誤りだと考えます。教育的事項でこそあれ、法律事項ではありません。  法改正案の背景に人口増強論の存在することがうかがわれますが、日本の高度経済成長と軍国主義の復活に結びつく危険思想であるといわなければなりません。  優生保護法については、内外の世論、動向を考慮し、十分時間をかけ、一部の人工中絶のみでなく優生手術、家族計画、衛生教育など、総括して慎重に検討を加えるべきであります。  中絶を必要としない福祉社会実現への対策の強化こそ、現在最も重要で緊急な施策であると考え、今回の一部改正に対しては強く反対を表明するものであります。(拍手)
  322. 野原正勝

  323. 田中美智子

    田中(美)委員 私は日本共産党・革新共同を代表して、優生保護法の一部を改正する法律案に反対する討論を行ないます。  本法案に反対する第一の理由は、政府が「経済的理由」云々による妊娠中絶を認めない根拠として、国民の生活が豊かになったことをあげていることは、事実に反するからであります。  現在、年間七十万件以上の中絶の大半は、家庭の主婦の計画外の妊娠であります。この事実は、生活様式が変わり、物価高、住宅難など現代的貧困の度を深めており、国民の経済的な生活困難は依然として解決されておりません。  また、精神的理由なら中絶可能とすることは、中絶希望者は医師さら精神病、ノイローゼなどと認定してもらわなければなりません。だれがどんな基準で「精神的理由」云々と認めるのか、これが不明確なまま法文化されることは、その運用いかんによっては、中絶が大幅に制限されることとなります。  中絶が合法的にできなくなれば、やみ中絶がふえることは、外国の例からも十分に予想されます。本年二月、中絶禁止国である西ドイツの国会議員団が日本の現状を視察するために来訪されたのは、やみ中絶の弊害が社会問題化しているからといわれています。  いわゆるやみ中絶は、設備の悪い不衛生な場所で、医師でない者がこっそり手術をするおそれがあるわけですから、母体が危険にさらされるだけでなく、事故があっても責任の所在が不明確にされてしまいます。  反対理由の第二は、胎児に重度の障害がある場合に中絶ができるとされていることは、障害者は生まれるべきでなかったという考え方になり、これは障害者の差別につながり、容認できないことであります。  第三に反対する理由は、適正な年齢での出産という条文を加えたことであります。  これは低賃金の若年労働力を求める資本の要請にこたえる労働力政策とも無関係ではありません。昭和四十五年に出された日経連の労働力政策一つとして、優生保護法の改正があげられているのを見ても明らかです。  また、出産年齢は結婚年齢と関連があり、適正な年齢の出産とは結婚年齢の適正化ともなり、婚姻の自由、基本的人権への干渉にさえなりかねません。  なお、自民党提案の修正案については、障害者の差別につながる条文を国民の声に押されて削除せざるを得なくなったことは、当然といわざるを得ません。しかし、この部分を削除したとしても、この法案の危険な本質は何ら変わるものではありません。  最後に私は、本法案をがむしゃらに成立させようとする自民党の態度に触れたいと思います。  この法案は、七十一国会で廃案になっていたものを、自民党の単独採決によって継続審議とされたものであります。当委員会において審査している国民生活に関連の深い予算関連法案を先議したあとに、取り扱いをきめるべきものです。  また、国民の基本的人権にかかわりのある本法案については、徹底的に審議し、広く国民の疑問にこたえるべきであります。それにもかかわらず、参考人招致、公聴会開催、連合審査の要求を理不尽にも無視し、また要求した質問時間さえ大幅に削減してきたのであります。その上、一括採決と称して、本法案の採決を予算関連法案に先行させようとしたことは許されることではありません。  こうした委員会運営は、自民党の党利党略により、議会制民主主義を無視するものであり、強く抗議いたします。  日本共産党・革新共同は、本法案の撤回を強く主張すると同時に、安心して子供を産み、育てられるよう社会的、経済的条件を整備、確立し、計画的、合理的な妊娠、出産ができるように、その指導と避妊知識の普及、安全な器具や薬品の研究、開発を行なうべきことを要求して、反対討論を終わります。(拍手)
  324. 野原正勝

    野原委員長 坂口力君。
  325. 坂口力

    ○坂口委員 私は、公明党を代表して、議題である優生保護法の一部改正案に反対する討論を行なうものであります。  反対の第一の理由は、本法案が経済的理由の削除によって、人工妊娠中絶にブレーキをかけることにあることは事実であり、これは、人工妊娠中絶に関する国際的な動向が十年前から若干の例外を除いて、制限緩和、自由化を示しており、中絶理由の緩和が進められていることに時代逆行するものであります。  特に、昨年一月のアメリカ連邦最高裁の人工妊娠中絶を禁じている州法の違憲判断が示されたことは、記憶に新しいところでありますが、今年、国連世界人口年を迎えて、爆発的な世界人口増加の危機感を世界じゅうが憂慮しており、その対策に真剣に取り組んでいるのであります。したがって国土も狭く、資源的に乏しいわが国人口対策は非常に注目されており、地球的な視野に立つ人口抑制策に協力すべきであるにもかかわらず、本法案は、これに全く逆行するからであります。  次に、本法案の持つ重大な意味は、法制審議会における堕胎罪の存続、強化の改悪審議とあわせ、母子の生存権健康権という基本的人権を脅かす内容を持つからであります。  昨年の厚生省人口問題等研究所の出産力調査によれば、全夫婦の五七%が一回ないし四回の流死産を経験し、その八〇%が人工妊娠中絶といわれています。このような実態、背景での本法の強行は、確実に妊婦にとり非常に危険なやみ堕胎を増加させ、直接、貧困に結びつく出産を余儀なくするものであります。そして刑法の強化で母体の健康を無視し、経済事情を踏みにじってまで出産を強制するということは、きわめて重大なことであります。  われわれは、胎児の生命尊重を否定するものではありませんが、現実に妊娠中絶が多くの婦人を救っていることも否定できないのであります。  この望まない妊娠、分べんを強制し、婦人の意思を無視する本法案に反対する第二の理由であります。  第三には、政治や行政の責任は、本法案を提案する前に、前提条件となるべき母子の生存権、健康権につながる最低賃金制の改善と、居住水準の引き上げを含む住宅事情の改善、さらに働く婦人のための保育所の拡充、義務教育における避妊知識の性教育の実施など、環境の整備をはかる施策こそまず行なうべきであります。日本の婦人の大部分が安心して子供を生み、育てられる環境と避妊技術の確立を望んでいるのであります。  これらの政府としてやるべき事柄をたな上げしていることは、重大な政治責任であり、怠慢この上もありません。したがって、婦人の生命身体の危険と負担において、人口政策を推し進める橋頭塗になる本法案は、断じて認めるわけにはいかないのであります。  なお、本法案の改悪の第二の柱である重度心身障害の原因となる疾病及び欠陥を有する場合の人工妊娠中絶に関する自民党の修正は、言わずもがなの当然の措置であり、この程度の内容では、修正の名に値しないものといわざるを得ません。  以上の理由により、本法案並びに修正案に反対し、私の討論を終わります。(拍手)
  326. 野原正勝

    野原委員長 和田耕作君。
  327. 和田耕作

    ○和田(耕)委員 私は、民社党を代表いたしまして、優生保護法の一部改正の法律案に対して反対の討論をいたします。  第一の理由は、この法案の立法の趣旨が最後まで不明確な点であります。そして国民は、多くの働く勤労者は、この法案の成立によって、人工中絶という生活上必要なことが大きく制限されるのではないかという危惧を持っております。しかし政府答弁によりますと、現状と変わりはない、あるいはまた、むしろ中絶の機会を拡大するものだという印象を与える答弁をいたしております。しかし何らその保障はない。先ほど申し上げたとおり、国民の多くは、これに対して、中絶をむずかしくするのではないかという危惧を持っている。国民だけではないのであります。この法案の運用次第でどのようにも運用できるようなところがありますけれども、これを運用する主体になる日本医師会の総意とも見られる人たちが、たとえば日本医師会の会長武見太郎さんあるいは母性保護医の会長である森山さん、ひとしくこの法案に対して強く反対をしておるわけでございます。  その反対の理由は、何らか医師の裁定について制限が強まるのではないかという危惧を持っておるからでございます。  このような理由で、私どもは、いまの時代の流れからいっても、中絶をきめる基準を強める方向を持っておると判断をされるこの優生保護法の一部改正に対しては、絶対に承服することはできないのでございます。政府も、このような法案についてはもっと慎重に検討すべきであるのに、このような検討の過程においてもいささか、いささかでない、大きく不備な点が露呈されておると思うからであります。  私どもは、この法案に対しで、党を代表いたしまして反対の意向を表明いたしました。(拍手)
  328. 野原正勝

    野原委員長 これにて討論は終了いたしました。  採決に入ります。  第一に、結核予防法等の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  329. 野原正勝

    野原委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。  第二に、日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  330. 野原正勝

    野原委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。  第三に、優生保護法の一部を改正する法律案について採決いたします。  まず、大野明君外四名提出の修正案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  331. 野原正勝

    野原委員長 起立多数。よって、本修正案は可決いたしました。  次に、ただいまの修正部分を除いて、原案について採決いたします。  これに賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  332. 野原正勝

    野原委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。     —————————————
  333. 野原正勝

    野原委員長 この際、葉梨信行君、枝村要作君、石母田達君、坂口力君及び和田耕作君より、結核予防法等の一部を改正する法律案に対し附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  その趣旨の説明を聴取いたします。枝村要作君。
  334. 枝村要作

    ○枝村委員 私は、自由民主党、日本社会党、日本共産党・革新共同、公明党及び民社党を代表いたしまして、本動議について御説明を申し上げます。  案文を朗読して説明にかえさせていただきます。    結核予防法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議   政府は、結核対策推進のため、次の事項について格段の努力を払うべきである。  一 各地域における一般住民、とりわけ多発地域の住民、老人層及び零細企業従業員に対する定期検診の受診率の向上を図り、併せて患者家族等の定期外検診を強化、拡充すること。  一 幼少年層の結核発生の予防のため、その合理的な方策を更に検討すること。  一 国立療養所等の病床を整備、活用し、併せて医師、看護婦等の確保に努め感染性患者をはじめ入院を必要とする結核患者の入院促進を図ること。  一 再発、再入院を防止するため、退院者の追跡健康管理、後保護等の措置に万全をつくすこと。  一 公衆衛生の重要性にかんがみ、その実施機関である保健所の機能を一層充実強化し、勤務職員の待遇改善に特別の配慮をすること。  一 公費負担医療と国民健康保険の医療給付との調整に当たっては、患者の一部負担を軽減するよう努力すること。  一 結核研究所の助成強化に努めること。 以上であります。  何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。(拍手)
  335. 野原正勝

    野原委員長 本動議について採決いたします。  本動議のごとく決するに賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  336. 野原正勝

    野原委員長 起立総員。よって、結核予防法等の一部を改正する法律案については、葉梨信行君外四名提出の動議のごとく附帯決議を付することに決しました。  次に、大野明君、村山富市君、石母田達君、大橋敏雄君及び和田耕作君より、日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案に対し附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  その趣旨の説明を聴取いたします。大野明君。
  337. 大野明

    大野(明)委員 私は、自由民主党、日本社会党、日本共産党・革新共同、公明党及び民社党を代表いたしまして、本動議について御説明を申し上げます。  案文を朗読して説明にかえさせていただきます。    日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案に対する附帯決議   政府は、医療保障を充実する責務にかんがみ、次の事項についてその実現に努めること。  一、医療供給体制を完備するため、無医地区の解消、救急医療体制の確立、病床の増大、差額ベットの縮少、看護体制の充実、医師、看護婦等医療従事者の養成と待遇の改善等について積極的に推進すること。  一、五人未満事業所の従業員に対する政府管掌健康保険及び日雇労働者健康保険の適用の問題について具体的方策の樹立に努めること。  一、日雇労働者健康保険の保険給付の受給要件について日雇労働者の就労の実態を勘案し、その緩和措置を検討すること。  一、日雇労働者健康保険の財政状況の推移をみきわめつつ、累積赤字の処理、国庫負担のあり方及び労使負担区分のあり方等財政対策について検討すること。  一、高額療養費の支給要件及び支払方式について、なお検討すること。  一、日雇労働者健康保険の賃金日額の区分のあり方等については、今後十分に検討すること。 以上であります。  何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。(拍手)
  338. 野原正勝

    野原委員長 本動議について採決いたします。  本動議のごとく決するに賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  339. 野原正勝

    野原委員長 起立総員。よって、日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案については、大野明君外四名提出の動議のごとく附帯決議を付することに決しました。  この際、厚生大臣から発言を求められております。これを許します。厚生大臣齋藤邦吉君。
  340. 齋藤邦吉

    齋藤国務大臣 ただいま御決議になられました二つの附帯決議につきましては、その趣旨を尊重いたしまして、今後とも一そう努力いたしたいと存じます。     —————————————
  341. 野原正勝

    野原委員長 なお、ただいま議決いたしました各案に関する委員報告書の作成等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  342. 野原正勝

    野原委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。     —————————————   〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  343. 野原正勝

    野原委員長 次回は、来たる二十八日火曜日、午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後六時五十六分散会