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1974-05-21 第72回国会 衆議院 外務委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年五月二十一日(火曜日)    午前十時三十二分開議  出席委員   委員長 木村 俊夫君    理事 石井  一君 理事 石原慎太郎君    理事 鯨岡 兵輔君 理事 水野  清君    理事 河上 民雄君 理事 松本 善明君       足立 篤郎君    小坂善太郎君       小林 正巳君    坂本三十次君       谷垣 專一君    深谷 隆司君       福田 篤泰君    土井たか子君       三宅 正一君    渡部 一郎君       永末 英一君  出席国務大臣         外務大臣臨時代 二階堂 進君         理  出席政府委員         外務省条約局外         務参事官    伊達 宗起君         外務省国際連合         局長      鈴木 文彦君         文化庁長官   安達 健二君         特許庁長官   齋藤 英雄君  委員外出席者         外務委員会調査         室長      亀倉 四郎君     ————————————— 委員の異動 五月二十一日  辞任         補欠選任   石野 久男君     上坂  昇君 同日  辞任         補欠選任   上坂  昇君     石野 久男君     ————————————— 本日の会議に付した案件  千九百六十七年七月十四日にストックホルムで  署名された世界知的所有権機関を設立する条約  の締結について承認を求めるの件(条約第一一  号)  千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百  十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五  年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月  二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一  日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日  にストックホルムで改正された工業所有権の保  護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条  約の締結について承認を求めるの件(条約第一  二号)  千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百  二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四  年六月二日にロンドンで及び千九百五十八年十  月三十一日にリスボンで改正された虚偽の又は  誤認を生じさせる原産地表示防止に関する千  八百九十一年四月十四日のマドリッド協定の千  九百六十七年七月十四日のストックホルム追加  協定締結について承認を求めるの件(条約第  一三号)  千八百八十六年九月九日に署名され、千八百九  十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年  十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十  四年三月二十日にベルヌで補足され、千九百二  十八年六月二日にローマで改正され及び千九百  四十八年六月二十六日にブラッセルで改正され  た文学的及び美術的著作物保護に関するベル  ヌ条約締結について承認を求めるの件(条約  第一四号)  千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千  九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、  千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され並  びに千九百二十八年六月二日にローマで、千九  百四十八年六月二十六日にブラッセルで、千九  百六十七年七月十四日にストックホルムで及び  千九百七十一年七月二十四日にパリで改正され  た千八百八十六年九月九日の文学的及び美術的  著作物保護に関するベルヌ条約締結につい  て承認を求めるの件(条約第一五号)      ————◇—————
  2. 木村俊夫

    木村委員長 これより会議を開きます。  千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約締結について承認を求めるの件、千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約締結について承認を求めるの件、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで及び千九百五十八年十月三十一日にリスボンで改正された虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示防止に関する千八百九十一年四月十四日のマドリッド協定の千九百六十七年七月十四日のストックホルム追加協定締結について承認を求めるの件、千八百八十六年九月九日に署名され、千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され、千九百二十八年六月二日にローマで改正され及び千九百四十八年六月二十六日にブラッセルで改正された文学的及び美術的著作物保護に関するベルヌ条約締結について承認を求めるの件、及び千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され並びに千九百二十八年六月二日にローマで、千九百四十八年六月二十六日にブラッセルで、千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十一年七月二十四日にパリで改正された千八百八十六年九月九日の文学的及び美術的著作物保護に関するベルヌ条約締結について承認を求めるの件、以上各件を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。松本善明君。
  3. 松本善明

    松本(善)委員 ベルヌ条約について伺いますが、この条約の七条の一項には「条約によって許与される保護期間は、著作者生存の間及びその死後五十年とする。」ということが規定されております。ところが、写真著作物については、国内著作権法五十五条によりますと、その著作物公表後五十年となっておるわけです。それから映画についても公表後五十年ということになっておる。  これはどういうわけで写真映画についてだけこういう差別がなされているのか。これはやはり条約がいっているように、死後五十年というふうに変えるのが妥当ではないかというふうに考えるわけですけれども、この点については文化庁はどう考えているか、伺いたいと思います。
  4. 安達健二

    安達政府委員 写真保護期間でございますが、ただいま引用なさいましたベルヌ条約ブラッセル条約におきましては、第一項で一般的な保護期間といたしまして「著作者生存の間及びその死後五十年」ということでございますが、第三項によりまして、映画著作物写真著作物等につきましては「保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」ということで、それぞれの国におきまして定めることができる、こういうことになっておるわけでございます。そしてまた、万国著作権条約等におきましては最低限を十年というように定めておるわけでございまして、従来から写真映画等につきましては、一般著作物とは異なる期間を定めてきたというのが条約並びに各国国内法状況でございます。  旧法、すなわち新しい著作権法前の旧法におきましては、写真著作物につきましては発行後十年、ただし経過的に十三年まで延長されたわけでございますけれども新法におきましては、公表後五十年というような線を打ち出したわけでございます。  写真につきましてこのように一般著作物と異なる扱い一般的に条約並びに各国国内法で行なわれておりますというのは、従来の経過もございますが、考え方もいろいろございまして、国によりましては一般著作物と区別しなくて死後五十年というところもございますが、多くの国では公表後あるいは発行起算というようなことをやっておるところも多うございます。  その理由といたしましては、写真というものは、たとえばニュース写真等でございますと報道的な性格あるいは記録的な性質が強うございまして、早く一般国民利用に開放したい、こういうのが一面あろうかと思いまして、その場合にニュース写真一般写真を区別するということも実態的に不可能でございます。そういうようなこともございまして、写真の記録的な性質というようなこと等も勘案いたしまして、写真においてはそういうような特別な扱いが従来から各国並びに条約上取り扱われてきたというのが実態でございます。
  5. 松本善明

    松本(善)委員 経過などはわかりましたけれども写真家生存している最中にもいまの規定のままだと保護期間が切れるということも起こるわけですし、それから利用者のほうも、その写真保護期間が切れているかどうかということの捕捉もむずかしいという問題も起こるというようなことで、写真家もいろいろ要求しているわけだからこれは死後五十年というふうに変えても差しつかえないように思うわけですけれども、そういうふうにするのは支障が何か起こりますか。
  6. 安達健二

    安達政府委員 先ほど申し上げましたように、従来からの経過で、従来十三年であったものが五十年というように大幅に延長されたわけでございます。これは同時に利用者に対する影響もあるわけでございまして、私どもとしては、第一段階といたしましてはこのように措置することが適当であるということでございます。  ただ、考え方として、死後起算でいけないということもいえない問題であろうかと思うわけでございまして、この問題は、新しい著作権法案を採決していただきましたときに文教委員会のほうで附帯決議が出ておりまして、その問題の中にそういう点も指摘されておるわけでございまして、これは今後もなお検討すべき課題であることを失わない、かように考えておるところでございます。
  7. 松本善明

    松本(善)委員 映画についてでありますが、著作権法の二十九条によりますと、映画著作物著作権映画製作者帰属をするということになっております。映画監督やシナリオライター、俳優などが協力して製作をするということは言うまでもありませんが、映画著作権について映画製作に参加した関係者が自主的にきめるというようにしたらどうか。一方的に法律がきめてしまいますと、製作関係した人たち地位が弱まるといいますか、不合理が生ずる場合もあると思うのですが、この映画著作権については、いま文化庁はどういうふうに考えているか、伺いたいと思います。
  8. 安達健二

    安達政府委員 映画著作物著作者著作権の問題は非常にむずかしい問題でございます。そしてこの問題につきまして、新法制定のときにいろんな議論がございました結果といたしまして、現行の新しい著作権法におきましては、映画著作物著作者につきましては第十六条に規定がございまして、その規定によりますと、映画著作物著作者につきましては二つの面がございます。  それは先ほどお述べになりましたような原作の著作物と申しますか、小説、脚本あるいは音楽、そういうものが映画の中に取り入れられ、翻案され、複製されておるわけでございますが、そういう著作者の群がございますが、映画そのもの著作者となりますと、それは「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」こういうようになっておるわけでございまして、言うならば、全体的な形成に創作的に寄与した限りは映画そのもの著作者であるというたてまえをとっておるわけでございます。  一方、著作者がどういう権利を持つかと申しますと、大きく分けまして著作者人格権というものといわゆる財産権としての著作権、この二つを持つということが第十七条にきめてあるわけでございます。たとえば監督等の方々は人格権というものを持っておるわけでございまして、これは十八条、十九条、二十条に定めておるところでございます。一方、映画財産権的に利用するということになりますと、これは第二十九条に規定がございまして、映画著作物著作権というものは、その映画製作者、メーカーに帰属する、こういうことでございます。  という意味は、監督その他等は映画著作という行為に参加する場合におきましては、当然契約というものがございまして、その場合に、そのでき上がった映画著作物利用についていろいろな特約をすることができるわけでございまして、そういう特約をするという余地があるということを前提にいたしまして、映画著作物財産権的利用を円滑にするという意味におきまして、映画製作者がその著作権を持つという形によりまして、一方におきましては映画著作者たる地位におきまして人格権創造者に与え、一方におきまして財産権としての利用につきましては映画製作者帰属させる、こういうことが映画実態並びに映画利用あるいは映画の精神的な創作性というものに対する配慮ということから、最も妥当である、こういうことで現行制度ができておるわけでございます。
  9. 松本善明

    松本(善)委員 二十九条の財産的利用製作者帰属をするということのために、いろいろな製作関係した芸術家たちの財産的な権利保護の問題が問題になっておるのだと思うのですが、これはいまの事態では必ずしも妥当なものとして映画関係者には受け取られていないのではないか。これは撤廃ないし変えるということによって映画製作に関与した人たちの財産的な権利保護するということが適当ではないかと思いますが、その点についてはどう考えておられますか。
  10. 安達健二

    安達政府委員 映画というものは、普通の著作物といいますか、文士がペンと原稿紙をもって創作をするというようなものと製作過程が非常に違うということでございます。一つは、映画著作物におきましては多数の者が関与して行なわれるというような点、それから製作行為がいわば一種の企業的な活動として行なわれる、映画一種の企業的な生産物であるというような特性を持っておるわけでございます。  そういう点からいたしまして、映画著作物著作権扱いにつきましては、世界各国ともいろいろな方式をとっておるわけでございまして、一つは、映画製作者法律上当然に映画著作権者であるイタリアとかオーストリアというような国の場合もございます。それからフランスのようなところにおきましては、映画著作物著作権につきましては、一応それぞれの芸術家に属するけれども、しかしそれは映画製作者との間で特段の契約がない限りは、映画製作者に譲渡したものと推定する、こういうような形におきまして映画製作者地位を考えるというようなところ、あるいはイギリスのように、フィルムコピーライトと申しまして映画フィルムを持っているものが著作権者であるというようなところ、アメリカのように、雇い人のつくったものはその会社が持つという考え方で、映画著作権会社が持つというような、いろいろな形をとって、映画経済的利用という面におきましては、映画製作者に何らかの形で地位を配慮するというのが世界的な状況でございます。  そういう点からいたしましても、現段階におきましては、私どもといたしましては、映画著作権帰属関係につきましては、一方におきましては人格権芸術家に与え、財産権製作者に与える、そして、その間の経済的関係参加契約段階において処理するというところが、現段階におきましては一番おさまった制度ではないだろうかと思うわけでございます。  もちろんいろいろな御意見のあることも十分承知しておるわけでございまして、この問題も、なお将来、実体的な権利関係のあり方あるいは運用状況も見きわめ、あるいは諸外国状況をも十分留意しつつ検討を加えるべき問題であることを失わない、こういう考え方でございます。
  11. 松本善明

    松本(善)委員 委員質問を終わります。
  12. 木村俊夫

  13. 河上民雄

    河上委員 ベルヌ条約をはじめとして現在五本の条約が提示されておりますので、それについて質問をいたしたいと思います。  まず、一般論でございますけれども国内法条約で述べられている規定との間にもし矛盾があった場合はどういうふうに処理をされるつもりでございますか。
  14. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  一般論といたしまして、条約締結をいたしますときに、条約の実施に遺漏なからしめるために、矛盾があるような場合には、国内法を整備いたしまして条約締結するというふうに常に行なっておりますので、わが国が締結いたします条約につきまして矛盾が生ずるというようなことはないと思いますけれども、かりにそのような場合があったといたしますれば、状況に応じて国内法の手当てをしていくということが必要ではないかと思います。
  15. 河上民雄

    河上委員 今度出されております五本の条約でございますが、これは正文は何語でございますか。
  16. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  世界知的所有権機関につきましては英語フランス語スペイン語ロシア語正文でございます。  それから、その他の工業所有権関係条約につきましては、フランス語正文でございます。  著作権関係の二本につきましては、英語フランス語正文になっております。
  17. 河上民雄

    河上委員 そういたしますと、日本語はもちろん正文でないわけでございますね。いまわれわれに、本委員会に出されておりますのは、正文もついてはおりまするけれども、しかし、一般日本人がこういう問題について関心を持つ場合、よりどころになりますのは、やはり翻訳ではないかと思うのです。したがって、この翻訳というものは、著作権知的所有権条約内容というものは、日本国民の一人一人の権利義務に非常に関係があるわけでありますので、その翻訳は、当然日本人が読むのに、つまり日本語だけをたよりにする日本人にとって親切でなければならない。権利義務というのは、当然微妙なぎりぎりのところを争うときの一つのよりどころになるわけですから、誤解の生じないようにしなければならないと私は思うのでございますけれども、一体その場合、翻訳というものは、つまり日本語訳というものは、権利を争う場合にどれほど権威があるのかどうか。  つまり、日本語ではこうなっておると思って、日本国民がある裁判を提訴した場合に、いや、日本語ではそうなっているけれども英文フランス文を参照してみたら実はこうなっているのだ、おまえは権利はないのだ、こういうようなことに、もしかりになった場合、一体その日本翻訳文というのはどの程度国際的に権威があるのか、その点を伺いたいと思います。
  18. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  まず第一に、最初の御質問に対する私の答弁に若干補足させていただきたいと思うのでございますが、ベルヌ同盟条約につきましては、英語フランス語正文でございますが、解釈につきましては、フランス語解釈正文ということになってございます。  ただいまの御質問に対しまして御答弁申し上げますが、日本語正文でございませんので、外国において日本人権利を主張する場合に、日本語によって権利を主張することはできませんで、やはり外国における権利主張の際には、ベルヌ条約でございますれば、解釈のよりどころとなっているフランス語正文によるということになると思います。
  19. 河上民雄

    河上委員 そういたしますと、いま政府が批准について国会承認を求めておりますのは、一体われわれに配られておる日本語文による条約について承認を求めておるのか、それともフランス文とか英文とか、あるいは一本についてはそのほかスペイン語ロシア語やいろいろありますが、そのどっちについてわれわれは承認を求められておるのか、その点をちょっとはっきりさしていただきたい。
  20. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  政府国会に、ある条約についての締結について承認を求める場合には、その内容の御審議はいただくわけでございますが、本来締結自体について承認を求めるという、国会に御提出いたします原議に書いてございます締結行為についての承認を求めるという文書につきまして御承認を求めているわけでございます。  もちろん、当然のことながら内容も御審議いただくわけでございます。したがいまして、内容を御審議いただく際の日本語訳というものは、私どもといたしまして非常に苦労いたしまして、正文である外国語から翻訳をいたしておるわけでございます。ただ、日本語であるかそれとも正文である外国語であるかということでございますれば、条約内容についての全体のものであるとしか御答弁の申し上げようがないと思います。
  21. 河上民雄

    河上委員 私ども外国語がかなりできるとかりに自負する人がいても、実際にはなかなか微妙なところになりますと、ほんとうのことはわからぬ場合があると思うのです。そういう場合は、結局政府が出した翻訳に全面的に依存し、信頼を置くほかないわけです。もしその翻訳が非常に不正確であったり、権利義務を争う場合にたよりにならないような翻訳であった場合、これは国会審議としてはなはだ権威のないものになるおそれも十分あると思うのです。  そこで、私はそこのところをここで確認しておかないといけないと思うのです。たとえばブラッセル規定に関しては、数年前、国内法としての著作権法国会で可決するときに、特に参議院では五党一致附帯決議をつけて、一日も早くブラッセル規定に入るように、こういうことを要求しているわけですから、今回、いま承認を求められておりますところのブラッセル規定については、それにのっとってわれわれは審議態度をきめるわけですけれども、しかし翻訳文がもしかりに日本国民に非常に誤解を与えるようなものであった場合、一体われわれは英文あるいはフランス文に従って承認したのか、それとも日本語だけで承認したのかということを将来問われるおそれがあるわけですね。  そこで翻訳の問題というのは非常に重要である、いまおっしゃったことは大体わかりますけれども、もう一度重ねて、一体われわれはよくわからぬ仏文について責任を負うてここで承認を与えるのかどうか、その点もう一度伺います。
  22. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  仏文についても、審議を御担当になる委員会としてやはり責任をもって御審議いただくものというふうに御了解いただきたいと思います。
  23. 河上民雄

    河上委員 なかなか外務委員になるのはたいへんなことになってきました。よくわからないのです。学校で習った程度のフランス語ではとてもできないようなことになってしまうのですが、それだけにわれわれとしては、翻訳というものが単に仮訳であるというだけでは済まないと思うのです。私自身実は翻訳を数冊出したことがありますので、翻訳というものには非常に興味があるのですその観点から幾つか問題点を指摘したいと思うのです。  千八百八十六年九月九日に署名され、千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され、千九百二十八年六月二日にローマで改正され及び千九百四十八年六月二十六日にブラッセルで改正された文学的及び美術的著作物保護に関するベルヌ条約、こういうのがございますが、これを見ますと、正文英文仏文になっておるのですが、非常にこれは私、重要でないかもしれないけれども、重要だと思うのですが、第二条第一項、その日本語訳ですと「文学的及び美術的著作物」、こうなっておるのですけれども、原文を見ますと、まあ私はフランス語はそれほど自信がないので英語だけでいきますが、「ザ・ターム・リテラリー・アンド・アーティスティック・ワークス」、こうなっておりますね。ところが日本語訳ではいわば「ザ・ターム」に当たるものがないのです。いきなりかぎカッコでこうなっているわけですね。これは、翻訳をする立場からいえば、やはり、本条約にいう何々なる用語は、とでも訳すのが一番正確ではないかと思うのです。一般論として、かぎカッコで何か一応おまえわかれということのようでありますけれども、これはささいなことのようでありますが、私はやはり大きな問題ではないかと思うのです。それを単に「文学的及び美術的著作物」というふうに訳してしまいますと、これは本条約規定するところのという感じが非常に弱くなります。  前のローマ規定批准の際に政府が出した訳によりますと、「「文学的及美術的著作物」ナル用語ハ、」こういうふうに訳しておりますが、「ザ・ターム」をそのままこの「用語」ということばで訳すかどうかは別として、これは日本語でいえば、本条約にいう何々はと訳さないと、これが一般原則になってしまうと思うのです。これは本条約のいわば主語に当たるわけでありまして、すべてここへひっかかってくるわけですね。  なぜそういうことが問題になるかと私が言うかといえば、先ほどちょっと国内法との関係で申しましたけれども、じゃ、今度は日本国内法としての著作権法にいうところの著作物、文学的、美術的著作物とこれは全く同じものなのか、ややずれる点があるのかということが実はそこで問題になってくると思うのです。もしずれるとすれば、これは一体どういう関係になるのか。これではまるで一般原則としての文学的、美術的著作物というふうな感じになってしまう。おまえ正文を見ればそれでわかるじゃないかということかもしれませんけれども、これはある意味では非常に不用意な訳であるし、これが本条約の主語に当たるだけに、私は非常に重要な点だと思うのです。  明治以来幾つか著作権法に関する条約政府訳文がありますけれども、全部そういう点かなりりちぎに訳しておるのに、今回だけなぜ一体そこをすっ飛ばしてしまったのか、その点だけ伺いたいと思います。
  24. 伊達宗起

    伊達政府委員 先ほど来先生いろいろ御指摘のように、確かに翻訳という作業は、日本語とそれからヨーロッパのことばとの間の違いというものがございますために、たいへん苦労をいたしますし、むずかしい問題でございます。したがいまして、この条約につきまして翻訳文をつくります際には、私どもは数カ月を費やしまして各方面ともいろいろ相談をし、議論をし、用語を選んでいるわけでございます。  ただいま御指摘になりました具体的な問題といたしまして、このタームズの問題でございますが確かに御指摘のようにローマ改正規定におきましては「「文学的及美術的著作物」ナル用語ハ、」というふうに訳してございますが、何ぶんにもこれはだいぶ戦前もかなり前の条約でございます。戦後、私どもといたしましては、なるべく口語体で書き、かつまたひらがなで書くというような方向でございますので、簡潔にもしたいということもございましたので、戦前の条約文の翻訳のしかたと戦後におきますそれとは若干異なっているわけでございます。  特に定義の条項におきまして、横文字には「ターム」というふうに書いてございまして、さらにクォーテーションマークをつけまして「リテラリー・アンド・アーティスティック・ワークス」というふうに書いてございますが、日本語といたします際には、この「ターム」というのは省いて訳す。そのかわりに原文に忠実にかぎカッコをつけまして「文学的及び美術的著作物」というふうに書きますれば、これは当然この条約にいうところの文学的及び美術的著作物を定義しているのだということはかなりの程度明瞭であって、特にそれを明示して何々という用語は、と訳す必要はないものと考えまして、この条約に限らず、従来の多くの定義の条項を含みました条約につきましてタームズというのは訳していない傾向にございます。
  25. 河上民雄

    河上委員 あまりいい傾向じゃないですね。というのは、国内法著作権法を見ますると、ちゃんと、たとえば第二条に「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。」というふうに、用語はこういう意味だということが書いてあるわけですね。いまおっしゃったのとちょっと違うと思うのですよ。国内法でもちゃんとそうなっておる。第二条に、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」というような規定がありますね。  ここのこの規定に、たとえばさっき写真の問題が出ましたけれども、もしずれるもの、入るものいろいろあった場合に、条約でいうところのものとどうなるのかというようなことは、やはり将来もし微妙な限界線を争うようなときに、境界線を争うようなときに問題になる。そのときに、ただかぎカッコで十分なんだというのは非常に不親切な気がいたします。これは翻訳からいって私はあまり適当でないということを申し上げたい。  同じようなことは、これは別に誤訳であるといえるかどうかわかりませんけれども、その次のもそうでございまして、その内容を幾つかずっとあげてありますね。「表現の方法又は形式のいかんを問わず、書籍、小冊子その他の文書、講演、演説、説教その他これらと同性質著作物、演劇用又は楽劇用の著作物、振付けが文書その他の方法で固定された舞踊及び無言劇の著作物、」とずっといっているのでありますが、これを読んでいくと頭の中に十分入らないのです。ところが原文を私は見たのです。そうしますとこれはやはり分類がちゃんとできておるわけですね。  次にありますけれども、「ホワットエバー メイビー ザ モード オア フォーム オブ イッツ エクスプレッション サッチ アズ ブックス パンフレッツ アンド アザー ラィティングス」そこまでで一区切りになってセミコロンになっている。ここで一つ区切ってあるわけですね。それから「レクチャーズアドレシーズサーモンズアンドアザーワークスオブザセイムネーチャー」そこでまたセミコロンで一つ区切っているわけです。それから「ドラマティックオアドラマティコミュージカルワークス」そこでセミコロン。こういうふうに原文では性質に従って一つ一つ区切っていっているわけです。  ところが日本文を見ますと、ただだらだらとのっぺりと羅列したようなかっこうになっているのです。これをもし原文の英文やあるいはフランス文の起草者が見たら、怒り心頭に発すると思うのですね。非常に苦労して文章の性格、著作物の性格に従ってセミコロンをつけていっているのにかかわらず、これはただだらだらとこうなっているわけですね。これではほんとうの正確な親切な訳とはいえないです。こういうことを、いやもう慣例でこうしておりますというようなことで済まそうとするのは私は非常に問題があると思うのです。これは今後のこともありますから、えらいしつこいようですけれども私はそのことを申し上げたい。  これは幾ら読んだってよほど頭のいい人でもわからないですよ。だらだらと何だか知らないけれども二十ぐらいいろいろな名前が出てくるわけですね。しかし私はおかしいと思って原文を見たらちゃんと一つ一つ性格に従ってセミコロンをつけて、そして続けていっているわけですね。こういう無神経な翻訳というものは、まさに文学的、美術的著作物の問題を争うにははなはだ不適当な訳であると私はそのことを申し上げたいのです。いかがでございますか。
  26. 伊達宗起

    伊達政府委員 訳文が必ずしもさらりと読んですぐにはわからないという先生の御指摘につきましては、まことに私どもも同感と申しますか、そのとおりでございますと申し上げる以外にないわけでございます。先ほど申し上げましたように、条約文の翻訳の作業と申しますのは、若干文芸作品の翻訳と異なりまして、あまりかってな改変もできないということもございます。したがいまして、いろいろと条約文にないことばを補いましてさらにわかりやすくするということもあるいはできるかもしれませんけれども、それも差し控えられるということから、どうも条約翻訳文と申しますのは一見してわからず非常に生硬なものとならざるを得ないということは先生にも御了解をいただきたいと思うのでございます。  セミコロンの点でございますが、確かにセミコロンで横文字を読みますとある程度のグルーピングができておりましてわかりやすいのでありますが、これは私ども常に条約文を訳しますときに痛感いたす点なのでございまして、決して無神経にずらずらと羅列しているものではなく、非常な反省と、日本語外国語との差というものを痛感しながら、やはりこのようにどうもセミコロンをあらわす日本語に適当な記号がないということもございまして、このような訳し方にならざるを得ないという御事情を先生にも御了解いただきたいと思うのでございます。
  27. 河上民雄

    河上委員 参事官もはなはだ不十分であるということは認められたと思うのです。しかし、もう少し努力の方法はあると思うわけです。この黒いポツでつないでグルーピング、一つのグループは一つの黒いポツでつないでいってもいいと思うのです。最近国会においても、共産党・革新共同というのでポツでつないでいる例もあるわけでしょう。それをポツでつないでいってグループを分けるときに点にしたっていいわけです。そのくらいの努力はやっぱりやったっていいのじゃないですか。黒いポツというのはきわめて密接な関係にあることを暗示するということは国会でも承認されておるわけでしょう。そういう点をもう少し苦労してもらわないと困りますね。  ほんとうにただ、だらだらと、一体国際条約というのはこんなだらしのないものかと思って原文を見ると、やはりちゃんとセミコロンでグルーピングができているわけです。ですからこの翻訳は、さっきのお話によると翻訳承認を求めているのじゃないらしいのであれですけれども翻訳だけで見ますと、誤訳でないかもしれないけれどもきわめて不正確な訳であるということはいえるのじゃないかと私は思うのです。それが何かのときに問題になったら非常に困るというのが私の考え方でございます。  さらに、えらいつまらないことばかり言うようですけれども次の第二条第二項でございますが、これなんか見てみますと「文学的又は美術的著作物翻訳、翻案、編曲等による改作物は、」云々と書いてありますが、これは前の政府訳では「翻訳、翻案、編曲及其ノ他文学的又ハ美術的著作物ノ変形複製物並二異リタル著作物ノ編輯物ハ」云々となっておるのですが、これは同じものなんですけれどもちょっと違うように思うのです。これは原文を見ますと「トランスレーションズ アダプテーションズ アレンジメンツ オブ ミュージック アンド アザー オルタレーションズ オブ アリタラリー オア アーティスティック ワーク」こうなっておりまして、これはこれで大体いいと思うのですけれども、基本的にはちょっと「文学的又は美術的著作物の」というので、そこから「トランスレーションズ アダプテーションズ アレンジメンツ」、これは翻訳されたもの、翻案されたもの、編曲されたものという、作品をさしているのじゃないかと思うのです、原文によれば。ところがこれを見ますと「翻訳、翻案、編曲等による改作物は、」こうなって一つの動作を、行為を示すような訳になっているのです。  これはたいして違いはないようですけれども、もし何か争うときにこういうことが出てこやせぬかという意味で、ちょっとこの翻訳はやや粗雑であるというふうに私は思わざるを得ないのです。これは小さいことのようでありますけれども、何を受けるかということは、次に出てきた場合に、この翻訳では不正確であるということをこれは伊達さんも認められると思うのです。「トランスレーションズ アダプテーションズ アレンジメンツ」というのは、あくまでこれは翻訳されたもの、翻案されたもの、編曲されたものという作品をさしているのじゃないかと思うのです。ところが、政府が出した訳によりますと、「翻訳、翻案、編曲等による」となりますと、これは一つの行動、行為をさしていることになってしまうのですね。だから、これは非常にこまかいことを言うて恐縮ですけれども、訳はちょっと違うのですね。いかがですか。
  28. 伊達宗起

    伊達政府委員 御指摘のように、この第二条第二項におきましては「トランスレーションズ アダプテーションズ アレンジメンツ オブ ミュージック」というぐあいになっておりまして、これは翻訳物、翻案物、それから編曲物というふうに、物をそのまま言っているものだと思います。ただ、日本語にいたします場合に、文学的または美術的著作物翻訳物、翻案物、編曲物というように訳すのは、日本語としてあまりにも生硬過ぎるというような配慮がございまして、意味は全く同一であって誤解の余地がないという判断のもとに、日本語として若干通りのよろしい「文学的又は美術的著作物翻訳、翻案、編曲等による改作物」としまして、最後に物をかけているわけでございます。
  29. 河上民雄

    河上委員 まあそれがよくわかっていればいいのですけれども、いま私が二、三こまかいことを指摘したようでありますけれども、そういうようなところが随所に見られるわけです。私は別に意地悪してそういうことを言っているわけではないのですが、もしそういうことが将来問題になった場合に、われわれ日本人としては、こういう翻訳をたよりに争わなければならぬ。そういう意味で、やはり審議の過程でそれはこういうことなんだということを確認しておかないと、非常にこれは問題があると思うのですね。今後、何か争う場合に、この翻訳だけで争ったらたいへんなことになるということを、やはり国民に知らせておく責任があると私は思うのです。  たとえば、この第七条第五項ですが、「(3)及び(4)に規定する著作物の範囲に属しない遺作については、相続人その他の承継人のための保護期間は、その著作者の死後五十年で満了する。」というところがございます。まあ一般著作権の有効期間というのは常に問題になるわけでありますが、第七条の第五項を見てみますると、これは英文フランス文と若干違う場合、どちらをたよりに訳しておられるのかということをひとつ伺いたい。  それによりますと、英語で言いますと、「トゥザ エアズ アンド ザリーガル レプレゼンタティブズ アンド アサイニーズ オブ ザ オーサー」、こうなっておりますが、これによると、相続人及び法律的な代表者及びその承継人というふうになっているのですね。ところが日本語では「相続人その他の承継人」と訳しておりますけれども、これは明らかに意訳だと思いますが、こういうふうに訳された根拠を伺いたいと思うのです。
  30. 伊達宗起

    伊達政府委員 初めに、英語フランス語とあった場合にどちらの文章によるかというお尋ねでございますが、英語フランス語正文がどちらにもございまして、解釈の場合にも、いずれが優先するというような規定がございません場合には、日本語が一番わかりいいと思われます文章、すなわち、英語を訳したほうが日本語にわかりやすいという場合には英語によりますし、フランス語を訳したほうが日本語にわかりやすいという場合にはフランス語によるというように、相互に、英仏両国語を比較対照しつつ、条約の趣旨を誤りないように日本語に表現する作業を行なっております。  この条約の場合には、先ほど申し上げましたようにフランス語解釈正文になりますので、フランス語によって訳しているとお考えいただいてけっこうだと思うのでございます。  御指摘の「相続人その他の承継人」といいまして、英語のほうでは三つ、カテゴリーが御指摘のようにあがっておりますが、フランス語によりますれば、相続人とその他の承継人と、二人しかあがっておりません。この承継人と申しますのは、フランス語での承継人ということばでございますが、それは英語にやはりぴたりとしたものがないために、英語ではそれを、法律上の代表者及びその委任を受けた、権利を承継しておる者というようなぐあいに、二つの、リーガル レプレゼンタティブとアサイニーということばで、フランス語の一語で表現されている内容を表現していると思います。したがいまして、相続人その他の承継人というフランス語の訳によって、日本語の場合にはそれで正確に表現できているというふうに考えます。
  31. 河上民雄

    河上委員 この部分はフランス語によったということですね。そういたしますと、リーガル レプレゼンタティブというのとアサイニーというのとどう違うのですか。
  32. 伊達宗起

    伊達政府委員 リーガル レプレゼンタティブと申しますのは、日本語で申しますれば法定代理人というようなものになるのではないかと思います。アサイニーと申しますのは、法定代理人と同じような意味かもしれませんが、やはり権利をその著者から受け継いで与えられている者という意味でリーガル レプレゼンタティブとアサイニーという二つのことばでもって、フランス語のエヤンドロワ、権利を有する者ということが表現されているのだと思います。
  33. 河上民雄

    河上委員 これはやや、ちょっと重箱のすみをつつくような質問かもしれませんけれども、これはたまたま一生のうちに何度あるかわかりませんが、そういうところにぶつかった場合に、こういうある意味じゃ不正確というかいろいろ疑問の出てくるような訳のままで、これをたよりにしたらえらいことになるというような場合は十分にあると思うのです。ちょっと調べてみますと、現実に工業所有権あるいは著作権の問題で、国際的な争いが幾つも起こった例があるわけですね。その場合に、一体ブラッセル規定のこの国際条約、ほかにいろいろありますけれども、こういうものをたよりにやった場合にいろいろ疑問が出てくるおそれがあるのです。  そこで私は、えらいこまかいことを日本語英文仏文と対照しながら伺うわけですが、今度は、この第十八条を見ますと、「公共のものとなった」と書いてあるのですが、この原文を見ますと、パブリックドメインですか、前の訳では同じことばを公有に属するというふうに訳しておるわけです。公有に属するということと、「公共のものとなった」という訳を、どうしてそういうふうに変えたか。また、その公共のものとなった著作物というのは一体どういうものを具体的にさすのか。それを伺いたいと思います。
  34. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  御指摘のように、同じ英語で申しますればパブリックドメインということばにつきまして、ローマ規定段階におきましては、公有に属するという訳を使いまして、このブラッセルにおきましては公共のものとなるということばを使ってございます。これは別に意味におきましては、原文が変化しておりませんように、全く同じことを意味しておるわけでございますが、ただ公有に属するという表現は、以前は使っていたのでございますが、どうも何か公有という、政府が所有しておるものというような誤解を招きやすいことばではないかむしろ公共のものとなって著作権が切れてだれでもそれが自由に使えるという状態になったので、それは必ずしも政府の所有に帰したとか国の所有に帰したとかいうことではないんだから、「公共のものとなった」と訳すほうがより正確であり、平易にわかりやすいということで、ブラッセルにつきましては今後とも公共のものとなるというふうに訳していくこととしたわけでございます。
  35. 河上民雄

    河上委員 私も、えらい訳のことばかり言って恐縮ですけれども、再三申し上げますように、翻訳というものは非常にむずかしいものでして、私も経験がありますけれども、少し大きな本を訳しますと、誤訳はつきものだといわれるくらいです。ただ、個人の翻訳ならば、批評家が書評欄であげつらえばそれで済む——済まないのですけれども一応済むとしましても、政府の訳というのはやはり日本人にとっては一番権威があるわけですから、訳についてはいま私、まだほかにも幾つか指摘したい点ありますけれども、あまりやっておりますと少しくどくなりますからこの辺でやめますけれども、こういうような訳でありますと、いろいろな問題が出てくるのじゃないか。  たとえば最近、読売新聞の夕刊にちょっと出ておりましたが、映画監督協会のほうから出ております、たとえばパリ規定の実体規定の中にあります制作者という訳のごときは、これは単にちょっと首をかしげる訳というだけではなくて、ひょっとするといろいろ問題を引き起こすおそれがある一つの実例だと私は思うのです。少し別な条約になりますけれども、これについて政府当局のお考えを承りたいと思うのです。  パリ規定の第十四条の二の(3)に「映画著作物の主たる制作者については、適用しない。」とか「その主たる制作者について適用すること」とかいうふうに「制作者」となっているのでありますけれども、かつて昭和四十三年の文部省の文化庁著作権課の仮訳では、この制作者というところは監督となっておりました。通例、制作者というのと監督というものとはやや違うのではないかという、日本語の語感としてあるわけですね。  たとえば「羅生門」という国際的な映画がありますけれども、この場合制作者というのは永田雅一でぱっと大きく出ますね。映画監督は黒澤明です。主演は三船敏郎、こうなるわけですけれども、その場合に一体どこに著作権があるのかということになりますと、一体大映にあるのか永田雅一にあるのか、あるいは黒澤明の傑作として将来残るのか、これは非常に大きな問題だと思うのですね。  そういう場合に、制作者ということばと監督という二つの訳がある。そして原文を見てみますと、ここはディレクターになっているわけです。ディレクターを特に制作者と訳しておるわけですね。われわれの日本語の感覚からいいますと、制作者というのはプロデューサーであり、「羅生門」でいえばまさに永田雅一である。ところがディレクターとなれば、これは当然黒澤明でなければならぬですね。  その辺の訳が、今回の政府の訳とかつての文部省の訳というものとは非常に大きな違いがあるわけですが、なぜこういうように変えたのか、一体これでどういうものを意味しようとしているのか、伺いたいのです。
  36. 伊達宗起

    伊達政府委員 御指摘のように、原文はプリンシパル ディレクターでございまして、映画監督でございますとかテレビにおける演出家というようなものを意味していることばでございます。したがいまして、私ども翻訳の作業をし、かつまたいろいろと用語の選定について議論をし検討いたしました際に、この訳語については決して無神経に制作者、つまり「ころも」のない制作者というものを使っているわけではございませんで、いろいろ議論をいたしました結果、どうも適当なことばがないので、一番ぴったりいく、やはり芸術作品をつくるという意味で広く一般的に用いられております制作ということばがあることに着目いたしまして「主たる制作者」というふうに訳したわけでございます。  その際に、プロデューサーとしてただいま先生があげられました例におきます永田大映社長を意味する場合にどうするか、それとまぎらわしいのではないかという問題はございますが、その永田、つまりいわゆる企業として映画をつくる人をさす意味におきましては、この条約の同じ十四条の二の二項の(C)でもございますように、「映画著作物製作者」と「ころも」をつけましてメーカーということを意味することばを使っているわけでございまして、この条約翻訳におきましては、その間に誤りと申しますか誤解を招く余地はないものと思います。  重ねて申し上げますが、御指摘の第十四条の二の三項におきます「製作者」と申しますのは、御例示の例に従いますれば黒澤をさすものであるというふうに申し上げておきます。
  37. 河上民雄

    河上委員 それでは、ディレクターということばは制作者ということになりますと、たとえば国内法の第十六条に「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」というようなことばがございますが、この場合の製作は下に「ころも」がついていないのですね。これはもし英語でいえば一体何をさすのですか。
  38. 安達健二

    安達政府委員 「ころも」のあるのないの、いろいろございまして、たいへんおわかりにくいのは申しわけないと思いますが、現在著作権法におきましては、一応まず第一前提といたしまして「ころも」のあるのとないのとを区別いたしております。「ころも」のあるのはメーカーである。いまお述べになりました例でいえば、大映株式会社がメーカーというようにいたしておるわけでございます。  一方、十六条のほうに「制作、監督、演出、撮影、美術」というのがございますが、この「制作」はプロデューシング、「監督」はディレクティングということで、この十六条のほうでは行為をいっておるわけでございます。したがいまして、そういう行為を担当して、「映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」、これが映画著作者であるということでございます。  いまお述べになりました「羅生門」の場合におきまして、永田雅一さんが「ころも」があったのかなかったのかちょっと明らかにいたしませんけれども、私は「ころも」がどうもなかったのじゃないかと思っております。その場合におきましては、そういう永田雅一個人がプロデューシングを担当してその映画の全体的形成に創作的に寄与したと認められる限りは映画著作者になるというのがこの解釈でございます。ただし、その映画著作権は永田雅一氏個人ではなくて、大映株式会社帰属するというのが第二十九条の意味でございます。  そこで、条約におきまして、プリンシパルディレクターというものを日本文では「主たる制作者」——これは制作ではございません、「制作者」というふうに訳してございます。この意味は、おそらくプリンシパルディレクターといいまして、いわゆる監督といった場合には、テレビ映画の場合におきましては監督ということばは使わなくて演出ということばを使っております。そこで、かりにここで主たる監督ということばを使います場合は、二つの面の誤解を生じます。一つは、監督というのは、著作権法では行為を書いてあるわけでございますけれども、ここでは人をいっているわけでございます。それで、その間の差が一つ必要である。第二の点は、演出というのがございます。これも条約にいうところのいわゆるプリンシパルディレクターに該当するものであるけれども、それを監督だけ書いて演出を書かないと、その辺での手抜かりがあるのじゃなかろうか、こういうことが考えられるわけでございます。  したがいまして、この条約日本語訳といたしましては、通常映画の場合におきましては、「主たる制作者」はやはり監督と称せられる人であろう。テレビの場合には「主たる制作者」というのは演出家であろうということになります。あるいは特異な場合におきましていわゆるプロデューサーがなることもあり得るかもしれませんけれども、通常の場合は監督者ないし演出者であろうということになるわけでございまして、そこのところを、いろいろなことばがございますので、一種の精神的な創造者であるということで「主たる制作者」ということばをお使いになったということでございます。  しかし、いまこのことばが最善であるとは私も思いませんし、次善、三善、あるいは四善くらいかもしれませんけれども、どうもいいことばがない、したがって、今後条約集などを私のほうで発行する場合には、この中には映画監督、テレビの演出等が含まれるのだというような注釈をつけまして、この意味を明らかにしてまいりたい、かように考えております。
  39. 河上民雄

    河上委員 いま御説明いただいても、結局何かはっきりしないのですね。一年じゅう「ころも」があるのないのといって、衣のそでから何か出てくるような話でたいへん困るのです。私たちは、いまおっしゃったように、「羅生門」の場合に「せいさくしゃ」というのがもし出てくれば「ころも」がなかったと思うのですね。その場合の永田さんはプロデューサーであって、決してディレクターではない。ディレクターはあくまで黒澤明である。そうしますと、その点からいいまして、日本語の通常の感覚からいってもこの訳は適切でないということはもう明らかだと思うのです。  監督と演出ということばを、映画とテレビで違うから——これは日本語の特殊なあれで、同じ勘定をするにも、魚の場合は一尾、二尾、犬の場合は一匹、二匹、人の場合は一人、二人とこうやるこういう日本語の特殊な発想から出てきたものだろうと思うのですけれども、しかし監督ということばが演出家も含むというほうがむしろ自然であって、それをおそれるがゆえにというので全然違ったカテゴリーのものを含むおそれのある制作者ということばを当てるのは非常に間違っていると思うのですね。これは少なくともいま御本人みずから認めるように全く救いがたい翻訳上の混乱だと思うのです。これは一々「ころも」があったかなかったか、自分でもはっきりしないような話でやらなければならなくなる。  こういうことですと、結局日本文の訳の下に英語でディレクターとかプロデューサーとかメーカーとか——三種類あるわけでしょう。それに対して与えていることばは「せい」と、下に「ころも」があるかないかぐらいでわずかに分けるというようなそういうこそくなことで三種類のものをうまく区別することは不可能だと思うのですね。映画監督協会の人がこれに対して非常に強い抵抗をもってこれでは困るとおっしゃるのは当然だと思うのです。われわれはここで議論すればそれまでかもしれませんけれども映画監督協会にとっては自分の権利義務に直接響く問題ですね。そのときによりどころになる国際条約の訳がこういうことであるということでは非常に困るし、一々正文はこうなんだということを確かめる、しかし、すでにこういう制作者という訳が日本語として普及してしまえば、やはりそれは一つのイメージになっちゃうわけですね。  ですから、私はもう一度重ねて伺いたいのですけれども、まず政府としてもこの訳には若干の混乱があるということをはっきりとお認めになるかどうかということですね。それを伺いたいのです。
  40. 伊達宗起

    伊達政府委員 翻訳技術上の問題といたしまして、たいへんむずかしい個所であることは先生もおわかりいただけると思います。したがいまして、非常に苦労したあげく、こういう訳をしたわけでございまして、監督、演出家を総称することばとして適当な日本語がないということから、このことばを考えついたわけでして、その意味においては、必ずしも理想的なものではないといえると思いますけれども、それ以外に、はたしてまたどういう訳語があるかということになりますと、やはりこういう訳し方をせざるを得なかったのではないかというふうに思っております。
  41. 河上民雄

    河上委員 私が申し上げたいのは、監督と演出家というのは、いわば桃太郎の舟に何人乗って行きましたかという話と同じようなものでして、日本語の特殊性からくるものだと思うのです。むしろこれのほうを一つにしたほうがいいのであってプロデューサーというものとディレクターというものははっきり違うわけでしょう。それを同じように一まとめにして「せいさく者」、それで「ころも」をつけたりつけなかったり、げたをはがせたりはかせなかったりするようなやり方は非常にこそくであるし、一体これは国語審議会でちゃんと承認されているのかどうか、私は疑うわけです。  もう一度伺いますけれども、ではプロデューサーディレクター、メーカー、この三つの英語に対してどういう訳を皆さんは考えたか、最後にもう一度伺いたいのです。
  42. 伊達宗起

    伊達政府委員 メーカーにつきましては、先ほど申し上げましたように「製作者」という訳を使っております。それからディレクターという訳につきましては「制作者」というのを使っております。プロデューサーにつきましては、この条約においてプロデューサーということばが出てまいりませんので、別に考えておりません。
  43. 河上民雄

    河上委員 考えてないとおっしゃっても、現実にさっき私は「羅生門」の例を出したわけですけれども、「羅生門」のように国際的に通用する映画ができた場合に、一体プロデューサーとディレクターとメーカーと、どこに著作権があるのかというのは重要な問題ですわね。そういうことを、たまたま文章に出てこないから私は知りませんということでは済まないのじゃないでしょうか。特に国内法における第二十九条の中で、「映画著作物著作権は、その著作者映画製作者に対し当該映画著作物製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者帰属する。」こうなっておりまするけれども、これで見ますと、映画製作者というのはメーカーのことになるわけですね。「羅生門」でいうと株式会社大映になるわけですか。プロデューサーというのは永田雅一である、監督は黒澤明である、こういうことになりますね。こういうことが一方であるわけですが、では今度はその次に第十六条を見ますると、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当して」と書いてありますけれども、この場合の「制作」というのは一体何をさすのか。
  44. 安達健二

    安達政府委員 この第十六条におきますところの「制作」は、プロデューシングでございます。先ほどのでいえば永田雅一個人がこの制作を担当されたということが映画に表示されておるということでございます。したがいまして、この第十六条の考え方は、そういうプロデューシングあるいはディレクティングあるいは「演出、撮影、美術等を担当してその映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」につきましては、いわば共同著作者である、こういう考え方でございます。  したがいまして、それらの著作者は、共同著作者といたしましてその著作者人格権を有するということになるわけでございますが、財産的な利用権としての著作権映画のメーカー、映画製作者であるところの大映株式会社帰属するということでございますから、この著作権法に関する限りは何らの疑いを差しはさまないわけでございます。
  45. 河上民雄

    河上委員 いまのお答えではっきりしたのですけれども、「制作」というのはプロデューシングであるということをはっきりいま認められたわけですね。ところが今回のパリ規定翻訳の中では、ディレクターに「制作者」ということばを与えているわけですね。そうすると、この条約の訳にいうところの「制作」と国内法たる著作権法にいうところの「制作」とは違う。国内法ではプロデューシングをさしておる。ところが条約翻訳ではディレクティングをさしておる、こういうことになりますね。そうすると、これはことばの混乱と言わないで何と言ったらいいのでしょうか。少なくとも違っているということをまず認められるかどうかですね。
  46. 安達健二

    安達政府委員 一つ申し上げておきたいと思いますのは、ただいま問題になっておりますところのこのパリ条約規定は、実は日本国内法とは直接関係がないということが第一でございます。というのは、第十四条の二の第二項におきまして「映画著作物について著作権を有する者を決定することは、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」ということでございますから著作権帰属を定めることはそれぞれの国内法にゆだねられておるわけでございます。したがって日本国内法パリ規定との関係で、もしパリ規定の批准の御承認を得られるといたした場合におきましても、これは十四条の二の第二項の(a)だけに関係をいたすわけでございます。  ところで、ただいま問題になっております三項は、二項の(b)に関係をいたしておるわけでございます。したがって、二項の(b)におきましてはいわゆる解釈規定映画製作者がこの著作権を行使する場合について、その映画著作者が反対することができない、そういう解釈規定を適用した場合に関連する規定でございます。したがいましてわが国の法制とは関係がないことであるということでございます。  それから、ことばといたしましては、条約上で使っているところの「主たる制作者」は、国内法によるところの「制作」とは若干意味が違うということは、認めざるを得ないというのが率直なところでございます。
  47. 河上民雄

    河上委員 それがはっきり認められれば、また争うときにいまの御答弁が根拠になるわけです。先ほど来「ころも」をつけて区別したとかなんとか言いながら、現実にはそういうことばの混乱が起きておるわけですね。この翻訳というものは、そういう意味で、国内法と全く関係ないからとはいえ、一つ国内法解釈にも投影するわけですから、やはりもっと慎重にやっていただきたいということを私は望まざるを得ないのでございます。  最後に、もう次の方が見えましたし、時間も参りましたから一つだけ伺いたいのでございますけれども、一体これに入らないと困るのかどうかですね。たとえばブラッセル規定に入らないと先進国としてのメンツとかあるいは実際の生活の中で困るということであるのかどうか。聞くところによりますと、これはソ連もアメリカも入っておらぬ。日本とアメリカの関係は非常に密接でありますけれども、相手のアメリカは入ってないし、ソ連も入ってないというようなことでございますけれども、これは実際に入らないと困るのかどうかまた、条約を拝見しますと、実体規定と管理規定と分けられるわけですけれども、幾つかの国は実体規定に問題がある場合は管理規定だけ入っておるというケースがあるわけです。日本でもそういいう態度はとれないのかどうか。この二点について伺って、私の質問を終わりたいと思います。
  48. 伊達宗起

    伊達政府委員 ベルヌ条約パリ改正規定に入らなければ困るのかという御指摘……(河上委員ブラッセルについてもです。」と呼ぶ)それでは、ブラッセルについてまず御説明申し上げます。  ブラッセル規定は、同時に御提出申し上げているパリ改正規定が発効いたしますと自動的に加入の道が閉ざされて、新規のブラッセルへの加入は認められないということになるわけでございます。ところが、現在の段階におきましては、このパリの発効条件がほとんど満たされまして、ことしの七月十日に発効するという見通しが立つに至りましたので、七月十日以降はブラッセル条約に入ることができなくなるという事情にあるわけでございます。したがいまして、やはりこのブラッセルに入っておかなければ、今国会の御承認を得て入らないと非常に支障があるということになります。  なぜ支障があるかと申しますと、これはたいへんむずかしい問題でございまして、ベルヌ同盟同盟国相互間における条約の適用関係という問題がございます。  これを具体的に申し上げますと、かりにブラッセル規定日本が入りませんでローマ規定にとどまっているとした場合、他の国が新しくパリの改正規定に入ってくるという場合を想定いたしますと、この相互間に一体どの条約が適用になるのかよくわからなくなるという問題が生ずるわけでございます。同じくベルヌ同盟の一国であるということで日本ローマ規定を適用し、相手国はパリを適用すれば、その間の問題は解決できるという考え方もございますが、そうではなくて、条約一つの理論といたしまして、一つの改正条約の締約国になっていない国には条約関係が生じないのだというような問題もございます。  そういうような問題がございますので、現在ブラッセルには四十五カ国の大多数の主要国が加盟している条約でございますので、日本もこれに入ることによりまして、それらの国との間の条約の適用関係を問題が起こった場合にも解決しやすいようにしておくということが非常に望ましいことである、その見地からブラッセルに入りたいという考えを持っているわけでございます。  それから、このパリ改正規定につきまして、管理規定だけに入って実質的に実体規定には入らなくてもよいようにこの条約規定がございますけれども、これはなぜかと申しますと、同時に御審議願っております世界知的所有権機関というものをつくりました際に、その母体と申しますか、世界知的所有権機関の構成の最も主要な部分をなしているのは、従来からのベルヌ同盟パリ同盟の構成国が主要なるメンバーとして世界知的所有権機関をささえているわけでございまして、たまたまパリ改正規定に入れないために従来のベルヌ同盟の加盟国であったものが世界知的所有権機関に入れなくなるということでは非常に支障を来たすわけでございます。  したがって、その道を開きますために、パリ改正規定には入らないけれども、従来からのベルヌ同盟国であるというものにつきまして、パリ改正規定の実体規定ではなく、管理規定に入ることによって世界知的所有権機関のメンバーとなるようにしようということで、管理規定と実体規定とを分けて、管理規定だけを受諾することもできるというふうにきめてあるわけでございますが、ブラッセルに今国会におきまして幸いにして御承認が得られまして日本が加盟いたしますと、実態的にはパリの実体規定ともほとんど差のない内容でございますので、ブラッセルに入ります限り、パリの実体規定を受諾いたしますことは問題ないのではないかというふうに考えております。
  49. 河上民雄

    河上委員 きょうは五本の条約でございますので、まだ幾つか議論を続けたい点もありますけれども、きょうはこれで私の質問を終わりたいと思います。
  50. 伊達宗起

    伊達政府委員 ただいまの御答弁一つ補足させていただきたいことがございます。  ただいま七月十日にパリ改正規定が発効するので、その以降はブラッセルに入れなくなると申し上げたわけでございますが、実はこれは現在調査中でございまして、事務局の見解といたしましては、七月十日が限度であるという見解でございます。私どもは、条約解釈からいたしましてもう三カ月、十月十日まではブラッセルに入れるのではないかという意見を持っておりまして、この点についてさらに事務局の見解を聞いている段階でございますが、しかし一応七月十日をめどとしてブラッセルに入ったほうが安全であるという見地から、七月十日を申し上げたわけでございます。
  51. 木村俊夫

    木村委員長 渡部一郎君。
  52. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 私は、ベルヌ条約ブラッセル改正の部分につきまして数点お伺いしたいと存じます。  まず、今回提出されているパリ条約が発効しますと、ただいま河上議員に対する御答弁にもございましたが、ブラッセル改正の部分の加入が閉鎖されることになっているということでございましたが、パリ条約の発効の見通しはどのようであるか、それからまた、どういう不都合が生ずるかという点について御答弁が明確でなかったように受け取れますものですから、重ねて御答弁を承りたいと思います。
  53. 伊達宗起

    伊達政府委員 ベルヌブラッセル規定に入らないと条約の適用関係で非常に混乱が生ずるということでございますが、ベルヌ同盟と申しましても、ベルヌ条約には数々の改正規定、補足規定がございます。わが国はベルリン改正からパリ補足を経ましてローマ改正規定に現在入っているわけでございますが、その他の諸国はさらにその後できましたブラッセル改正規定にも入っております国が多うございますし、その後のパリ改正規定に入っている国もぼつぼつと出始めているわけでございます。  問題は、各同盟国がそれぞれ異なった条約規定に入っております相手国との関係、他の同盟国との関係において、どの改正条約に基づいて条約上の権利義務関係を有するのかという問題でございます。具体的には、著作者権利保護に問題が生じた場合には、どの改正条約に基づいて権利を主張し、義務を追及されるかということでございますが、これを明らかにすることは、各同盟国は相手国が自国が締結している同じ改正条約の締約国であるかどうかを問わず、すべての同盟国に対して著作者権利保護する義務を負うのかどうか。また第二番目に、自分が締結している複数の改正条約のどれに基づいて保護すればよいのかというような問題を明らかにすることが必要でございます。  一般的には、各同盟国が他の同盟国との関係において、どの条約に基づいて条約上の権利義務関係を有するかという点につきまして、大別いたしますと次の三つの解釈がございます。  第一番目の解釈は、新しい改正条約に加入することによって新しい同盟国となった国は、従来の改正条約にも加入したものとみなされて、新しい改正条約締結していない同盟国との関係におきましては従来の改正条約が適用されるという説がございます。  第二番目の説は、国家は自分が締約国である条約によってのみ拘束されるのであるから、同一の条約の締約国との関係においてのみ条約関係を適用するものである。したがって、両国間に共通の改正条約のない場合には何らの権利義務関係も生じないということも一つの説としてございます。  第三番目には、すべての同盟国はたとえ共通の改正条約に拘束されていない場合であっても、相互間に同盟国として常に何らかの関係があるべきであって、新改正条約の締約国は新改正条約を適用し、旧改正条約にとどまっている国はその旧改正条約をそれぞれ適用するということで足りるではないかというような三つの見解があるわけでございます。  これらにつきましては、ベルヌ同盟の内部で非常な論戦がございまして、結局結論を得ておりません。したがいまして、将来この問題について何らかの結論を得る見込みもない現在におきまして、なるべくこのような複雑な論争を引き起こさないように、なるべく多くの改正条約に入っておけば大体共通の規定を適用すればよろしいという考え方を当てはめれば問題は生じないわけでございますので、わが国といたしましては、なるべくベルヌ同盟の改正条約につきましては多くの改正規定に加盟いたしまして、それらの問題をより解決しやすく、また条約の適用関係についても実施を容易ならしめたいという方針でいるわけでございます。
  54. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 このブラッセル改正規定の批准に関しては、四十五年四月二十八日の参議院の文教委員会において著作権法案に対する附帯決議として早急な加盟実現を決議した事実があるわけでありますが、こうして拝見しますと、まだ幾つかの問題点のようなものも散見するものですから、あえてお伺いするわけでありますが、わが国は引き続き翻訳権の留保を行なっているわけでありますが、その理由と申しますか、どういう認識を持っておられるか。  また、わが国における翻訳される出版物のわが国文化に対する影響というのはきわめて大きな比重を占めるのではなかろうかと思っているわけであります。したがって、十年留保による翻訳ものと正規の許諾を受けた翻訳ものとの割合というか、比率というか、その辺もあげた上で御説明を賜わりたい、こう思っております。
  55. 安達健二

    安達政府委員 翻訳権の十年留保というものでございますが、これは日本が従来から採用しておりました留保でございますが、内容は、著作物につきまして十年間著作権者の許諾を得て翻訳物が発行されないときは、十年間経過した後におきましてはその著作物についての翻訳権、すなわち原著作者の許諾権が消滅する、こういう制度でございます。十年間に原著作権者の許諾を得て翻訳物が発行されればその翻訳権は継続するけれども、十年間発行されなければ翻訳権が消滅する、こういうのが制度でございます。  そこで、この翻訳権の制度で、従来、旧法時代と申しますか、の件数で、昭和四十二年の二月現在でございますが、翻訳出版物の件数が三千三百五十一件でございまして、それを一〇〇%といたしますと、保護期間が切れてしまっているもの、すなわち本来の保護期間が切れてしまっているものの翻訳物の件数が三三・四%でございます。それから保護関係にない国のもの、当時でございますとソ連のものとか、そういうような保護関係がございませんものが七・五%、それから保護期間内のものが五九・一%でございます。約六割のものが保護期間内のものであるということでございます。  ところで、保護期間内のものにつきましてどういう割合でありますかといいますと、まず許諾を得て印税を払っているものといいますか、そういうものが一六・六%、それから万国条約国、すなわちアメリカ等のものでございまして許諾を得て印税を払っているものが二一・三%、そして残りのものが二一・二%ということで、それを締めて五九・一%でございます。六〇%でございます。したがいまして、全翻訳物のうちでベルヌ条約の十年留保の規定を使って十年留保によって印税を払わずに翻訳されているものが全体著作物のうちで二一・二%、約二割のものがこの翻訳権留保によって許諾を得ないままでやっておったというのが実情でございます。  そこで、この翻訳権十年留保の制度を続けるべきかどうかということが新著作権法のときに非常に議論になりました。翻訳物を自由にして、できるだけ外国の文化を取り入れるのがいいのだという考え方と、原著作者権利を尊重して、翻訳する以上は当然原著作者の許諾を得て金を払って出版すればいいじゃないか、それが著作権尊重の思想に通ずる、こういう考え方とがございまして、結論的にはこの十年留保の制度はこれを廃止しよう、こういうことが結論でございます。  ただ、経過的に、新法施行時までに出版されたものにつきましてはなお十年留保の可能性があったわけでございますから、これを無視するのはいけないというので、昭和四十五年の十二月三十一日までに出版されたものについてはなお旧法が働く、すなわち十年留保の規定が動くということにいたしておるのでございます。翻訳権十年留保に関する問題の考え方は以上のようでございます。
  56. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 この条約承認に伴いまして非常に関連のある業種もあるわけであります。たとえば喫茶店、飲食店、ホテル、パチンコ店、遊園地、遊技場、バー等の音楽を使用する営業というのは多種類にわたっているわけでありますが、現在ではレコードやテープに録音された音楽を鳴らしても著作権法附則第十四条によりまして著作権使用料を支払っていない形になっております。ところが本改正が通過いたしますとヨーロッパ系の音楽につきましては使用料を支払わなければならないことになるのではないか、また、この条約承認の後著作権法附則第十四条そのものを削除して、そういう法案が提出されてアメリカ系の音楽や国内音楽についても使用料を払うというような形になるのではないかというようなさまざまな質問といいますか疑問が関係者の間から提起されております。これらについて外務省及び文化庁はどのような見解を持たれているのか、それを承りたいと存じます。
  57. 伊達宗起

    伊達政府委員 外務省といたしましては、条約に入ります際に国内法との乖離という点を問題にいたして検討するわけでございますが、現在の国内著作権法ブラッセル条約と何らそこを生じるようなものではないというふうに考えて御承認を仰ぐ次第であります。
  58. 安達健二

    安達政府委員 ブラッセル改正条約あるいはパリ改正条約ともにレコードといいますか録音物によるところの音楽の演奏権を認める、こういうたてまえでございます。そしてその考え方を受けまして新しい著作権法におきましては録音物によるところの演奏権というものを全般的、本質的にこれを認める、こういう体制になったわけでございまして、附則十四条はそういう本質的なものを採用した上におきましていわば周辺的なようなもの、つまり直接営利に結びつかないようなレコードの使用につきましてはこれは当分の間著作権の対象にしない、こういう考え方をとったわけでございます。そういう意味におきまして、条約との関係におきましては本質的な点をカバーいたしておりますので、ただいま外務省から御答弁がありましたように条約との関係におきまして問題はない、かように考えるわけでございます。  ただ、この附則十四条の規定につきましてはいろいろ議論がございまして、まあ両院の附帯決議等でもこれについてなお検討を要するというような御決議はいただいておるわけでございます。しかしながら、私どもといたしましてはこのブラッセルなりあるいはパリ改正条約に加入したことのゆえに直ちにこの十四条の改正を考えるということではなくて、やはりこの問題につきましては音楽の著作権に対するところの関係者の間の十分な理解と協力が得られるような段階においてそういう問題も十分検討すべき課題である、かように考えているところでございます。
  59. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 そうすると、この附則十四条において「当分の間」と規定されているのはどれぐらいの当分の間と考えておられるのか。
  60. 安達健二

    安達政府委員 たいへん恐縮なお答えでございますけれども、「当分の間」はやはり当分の間でございまして、ちょっとその「当分の間」を何年というようなことは少しく何とも申し上げようがないということでございまして、内容的に申し上げれば、こういう問題におきまして音楽を使用される方々、著作者というような間におきまして一つの了解ができる、そういう間ということでございます。
  61. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 そうすると、ブラッセル条約の第十三条と国内法の附則第十四条とは相克する規定だと見ているわけですか。だんだんめんどうな話になりますよ、御慎重にお答えを。
  62. 安達健二

    安達政府委員 先ほど申し上げましたように、公のレコード、録音物によるところの演奏権というものの本質的な部分は新法によってカバーされておるということでございます。したがいまして、いわばその周辺的な部分につきましての点が附則十四条にあらわれておる、こういうことでございます。  私は個人的な見解を多少申し上げさせていただきますと、従来この問題につきまして私ども文化庁といたしましてブラッセル改正条約新法との関係ということにつきましていろいろと検討し、考えてまいりました。私ども著作権会議、国際会議に出ますたびに関係者あるいは各国の主要な人あるいは国際著作権権威の方々あるいは著作権の事務局の方々のいろいろな意見を聞いておったわけでございますけれども、その結論といたしましては、日本現行法によってブラッセル条約との関係におきまして特に問題とすべきものはない、こういうようないろいろな意見を伺いましたので、私どもも確信を持って御承認をお願いいたしておるところでございます。
  63. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 憲法の規定によって日本条約を尊重しなければならぬ義務を公務員に対して課しているわけであります。この条約国内法と衝突しないということは国際的な意見によって決定されるのではなくて、文化庁の意思として、あるいは外務省の意思としてそれが主張されるなら私は納得できるわけでありますが、あなたはいま個人的見解と言われましたので、当委員会において個人的見解などというものがあり得るか。きわめてまずいことを言われたが、個人的見解とはそれは何なのであるか。それは寝言なのか。寝言なんか聞いている余裕はないし、それはちょっとばかりおかしな発言だと私思いますね。あなたはこれをもう一回お話しし直される義務があるのじゃないか、こう思いますよ。
  64. 安達健二

    安達政府委員 個人的見解と申しました点は訂正させていただきます。ただ、私どもが公人といたしましていろいろな機会に意見を伺ったところではそういうことであったということを参考までに申し上げたわけでございます。
  65. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 じゃ公人としてはどう考えているのですか。この改正には問題があると言っているのですか、国内法と衝突するとおっしゃっているのですか。
  66. 安達健二

    安達政府委員 先ほど申し上げましたように、国内法との関係におきましては問題がないということを申し上げておるわけでございます。
  67. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 外務省はその点どうお考えですか。
  68. 伊達宗起

    伊達政府委員 冒頭にお答え申し上げましたように、このブラッセル改正条約国内法との間で乖離はないというふうに考えております。
  69. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 その根拠はどこにありますか。
  70. 伊達宗起

    伊達政府委員 国内著作権法に第五条がございまして、「著作者権利に関し条約に別段の定めがあるときは、その規定による。」という規定がございます。したがいまして、このブラッセル改正条約とわが国著作権法との間で理論的に衝突抵触があるということはございません。
  71. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 もう一つ、この部分についてでありますが、ブラッセル改正が通ったあと著作権法の附則第十四条の「当分の間」という部分を削り落としているのではないか、それは国内業者の権利義務関係に対して大きな影響があるという問題提起を先ほど申し上げたわけです。そうすると、「当分の間」は当分の間であるというかなり人を食った答弁が行なわれた。これでは私は当分の間本条約審議をストップさせるしかない。ですから、著作権法の附則第十四条の趣旨からいって「当分の間」というものをどういうふうに適用するかについてあなたは説明なさらなければならないと私は思うのです。そして間接的に「当分の間」の意味するものを本委員会に説明なさらなければ先ほどの質問に答えたことにはならないと私は思います。
  72. 安達健二

    安達政府委員 申し上げたいことが二つございます。  第一点は、先ほど申し上げましたように、ブラッセル改正条約なりパリ改正条約日本が加入したことを理由として、直ちにそれによってこの附則十四条を改正する意図はございませんということでございます。  第二点としては、それではその十四条は永久に検討しないかというとそういうことではない、われわれといたしましては、これは決議もあることでございますし、十分検討すべき課題であるということでございます。  それからもう一つつけ加えさせていただければ、「当分の間」の問題につきましては、関係者の間にわれわれもいろいろ見解を申し上げて十分な理解が得られるという段階になったときには改正をしなければならないということでございまして、そういう意味におきまして、この規定は当分の間の規定でございますから、当然われわれとして検討すべき課題に属しておる。これはまた両院の決議でもあるところでございます。したがいまして、そういう点をわれわれとしては検討していきたいこういうような意味でございます。
  73. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 応用美術に関する明確な規定がどうやら国内法にないようでありますが、国内法二条二項の「美術工芸品」というのは条約にいうところの「応用美術」と同一なものであるかどうか、また国内法のこうした形の規定で本条約との関係性は十分なのであるかどうか、その辺をひとつ御説明をいただきたいと存じます。
  74. 安達健二

    安達政府委員 応用美術の著作物につきましては、このブラッセル改正条約で挿入されたものでございます。応用美術の著作物を例示いたしましたのは二条の一項でございます。応用美術の著作物をここに掲記いたしますと同時に、第五項におきまして「応用美術の著作物及び意匠に関する法令の適用範囲並びにそれらの著作物及び意匠の保護の条件は、同盟国の法令の定めるところによる。本国において専ら意匠として保護される著作物については、他の同盟国において、その国において意匠に与えられる保護しか要求することができない。」という規定がございます。  その考え方は、応用美術を条約保護すべき対象にする、しかしどのような応用美術を保護の対象にするか、またそれらのものについて意匠に関する法令でどういうふうに処理するか、それらのことはそれぞれの国内法にゆだねる、こういうことでございます。したがいまして、応用美術の保護のしかたについてはそれぞれの国内法によってこれを考えるということでございます。  ところで、新しい著作権法におきましては、「美術工芸品を含むものとする。」というようにいたしておるわけでございます。したがいまして、応用美術のうちで美術工芸品といわれるものについては美術の著作物として保護の対象にするということを明らかにいたしておるわけでございます。  そのほか実際的な問題といたしまして、ポスターとか絵はがき、カレンダーとして作製され、あるいはこれらのグラフィックな作品に利用される絵画、写真等につきましては、これは実質上意匠法との重複は生じますけれども著作権法による保護も与えるという考え方になっておるわけでございます。  ただ問題点は、物品に応用することを直接目的として制作されるところのたとえば染色図案というようなものについては、この著作権法においては一応保護の対象からは除外しておる。そのかわり意匠法によって保護がはかられておるということでございます。したがいまして私は、応用美術の著作物著作権法なり意匠法等の規定によりまして何らかの形において保護ははかられておる、したがってプランセル改正条約との関係におきましては、特に現在のところその条約との乖離というような問題は生じないだろう、こういうことを申し上げたわけでございます。
  75. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 最後に長官に重ねてお願いをしておくわけでありますが、先ほどから議論の中で申し上げたのは関係国内法条約との関係でありました。しかし、この条約に入ることがわが国の国民の既得権益を大幅に侵すようなことのないよう十分の御配慮を仰ぎたい。もちろんそのつもりではやってこられたのでしょうけれども、これは今後新著作権法との関係において、その法の運用あるいは改正検討の段階にあたってわが国民に対する影響というのはきわめて濃厚にあらわれてくると思われますので、その辺の御配慮をい北だきたいと思うのですが、いかがですか。
  76. 安達健二

    安達政府委員 その点は私どもも十分心得まして、この著作権法考え方、運用、解釈等につきましては権利者と使用者との間で十分な話し合いが行なわれ、円滑に実施されるように特に考え、またその改正等におきましても同様な配慮を行なってまいりたいと思う次第でございます。
  77. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 以上です。
  78. 木村俊夫

    木村委員長 永末英一君。
  79. 永末英一

    ○永末委員 私は図案の著作権に関する問題について質問いたします。  このベルヌ条約第二条第一項の中に、フランス語ではデッサン、英語ではドローイング、日本語では素描と書いてある概念がございます。同時に第二条第五項にフランス語ではレ・デッサン・エ・モデル・アンデュストリと書いてあるもの、英語ではインダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズと書いてあり、日本語では意匠と訳しておる。この二つのものは一緒ですか、違いますか。
  80. 伊達宗起

    伊達政府委員 お答え申し上げます。  第二条一項でいうデッサンというものと同条第五項でいいますインダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズというものは同一のものではございません。違う概念だと思います。
  81. 永末英一

    ○永末委員 どう違うのか御説明願いたい。
  82. 安達健二

    安達政府委員 素描といわれるものは、いわゆるデッサンでございまして、そのもの自体が美術的性質を持っているというものだろうと思うわけでございます。インダストリアルデザインというのは、いわゆる工業に応用されるところのデザインということでございますので、物品に応用するあるいは物品のもとになるようなそういうデザインあるいはひな形というようなものがインダストリアル・デザイン・アンド・モデルというようなものでございまして、一応両者は違うものと心得ているわけでございます。
  83. 永末英一

    ○永末委員 この第一項で、フランス語ではデッサンと書いてある。フランス語だけ読みますと、第五項ではデッサンと出ておる。英語のほうはドローイングとデッサンという字を使い分けておる。日本の図案というのはどこに当たるのですか。
  84. 安達健二

    安達政府委員 図案ということばは著作権法では一応使っておりません。そこで、図案というのはむしろ工業的なといいますか、そういう物品に応用するということを一応考えた一つのそういうくふうと申しますかそういうようなものの表現であるだろう。一方素描と申しますのは、その絵画的な表現ということで、まあそれに絵の具が塗ってないといいますか、そういうようなものが素描というものであろう、デッサンでありドローイングであろうと思います。
  85. 永末英一

    ○永末委員 著作権法にあるかないかを聞いているのじゃございません。日本には図案をかいてめしを食っている人がある。その図案にはいろいろな支払い方がございまして、私は京都でございますのでたくさんの図案家を知っております。この図案家の人々が協会をつくって、四十五年の新しい著作権法ができる前に図案を著作権法の対象にせよという運動をやられたことはあなたも御存じだと思う。したがって、ベルヌ条約に書いてあるこの文句と、日本著作権法で書いてあるものには差違があるわけであります。ベルヌ条約のこの二条一項ないしは二条五項、ここに書いてあるデッサンという文字に日本の図案というのは当たるのか当たらぬのかと聞いておるのです。そこを答えてください。
  86. 安達健二

    安達政府委員 いわゆる日本で図案といっておられますのは、先ほどお聞きになりましたアプライド・アート・アンド・インダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズというものに該当するものと考えております。
  87. 永末英一

    ○永末委員 あなたはさらさらさらっと言いましたけれども英語で言いますとアプライド・アートというものとインダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズというものと概念が違うのでしょう。同じなんですか。全部一緒なんですか。それだけ全部読めというのですか。  そうすると、日本語でいきますと、「応用美術の著作物及び意匠に関する法令」とこうなっております。明らかに「応用美術の著作物及び意匠」こうなっておるじゃございませんか。応用美術が二つにかかっているようにも読めるし、かかっていないようにも読めますけれども、あくまで違うものでしょう。あなたはどう読んでおられるのですか。図案はどこに属するのですか。はっきりしてください。
  88. 安達健二

    安達政府委員 応用美術の著作物という中にわれわれが一応使っておりますものは、いまお述べになりましたようなものを含めまして応用美術の概念の中にいっておるわけでございます。応用美術というものの中身につきましては、いろいろ議論がございましょうけれども一つは日用品そのものであるというようなものもございましょうし、あるいは日用品に付属されたところの傘のとっての上につけてある一種美術的なそういう創作物のようなものもございましょうし、あるいはまた文鎮とか、そういうようなもののひな形のようなものもございましょうし、あるいは染色図案等によりまして着物等に応用されるところの図案というようなものもございまして、そういうものを総称いたしまして私どもは応用美術という概念に含ましておるのでございます。  したがいまして、私どもはそういうものを含めまして、応用美術の著作物というように概念をいたしておるのでございます。そういうものの大部分が意匠法によって法の対象になっておるというのが実態ではないかと思う次第でございます。
  89. 永末英一

    ○永末委員 私が伺っておるのは、英文もあいまいでございますけれども、アプライド・アート・アンド・インダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズとこうなっておる。このインダストリアルがデザインズとモデルズにかかるかどうか、これは英文学者でないとわからぬかもしれませんが、たとえかけたとしてみたところで、アプライドアートとは違う概念になっておる。  その観点から、この日本文のベルヌ条約の条文を見ると、「意匠」という一字でもって、いうならば、インダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズ全部をカバーしておる。それを受けて特許法による意匠登録ということで保護するならばそれですよ、こうやっておるのであって、その法律体系に対して私は疑念を抱いておるのだからその辺を明確にしてください。
  90. 安達健二

    安達政府委員 この条約の改正の経過ローマ規定におきましては、「工業二応用セラレタル美術的著作物」というようにいたしておるわけでございますが、それを第五項を入れまして、そういうものにつきましての保護につきましては、意匠法等にもよるというような意味で、そこでアプライド・アート・アンド・インダストリアル・デザインズ・アンド・モデルズというようなものがつけられておるのでございまして、内容的にはローマ改正条約ブラッセル改正条約とは違わないのではないかということでございまして、そういう意味で私は申し上げたわけでございます。
  91. 永末英一

    ○永末委員 あなたは図案というものはそのものストレートに著作権法の対象には本質上なり得ないものとお考えなのか、法律体系上書いてないからなってないとお考えなのか、どっちなんです。
  92. 安達健二

    安達政府委員 図案というようなものが本来的にいって著作物たり得るかどうかということにつきましては、これは著作物でないあるいは著作物であるということにつきましては、いろいろの議論のあるところでございまして、国によりましては著作権法と意匠法と両方のダブル保護をしておる国もございます。あるいはまたイギリスのように、一種のダブル保護でございますけれども、十五年間というような形で、一種のダブル保護をしている国もございましょうし、あるいはイタリアのごとく美術的なものは著作権法により、そうでないものはというように、その図案自身を二つに分けているところもございます。  そういう意味におきまして、これを一義的にどちらであるということを言い切るわけにはいかないわけでございますけれども、これは意匠法という一種保護の体系がございまして、それと著作権法と重複させることにつきましては関係者の間におきまして十分な話し合いができなかったということで、新法におきましては、従来のたてまえで、応用美術のうちで美術工芸品は、これは著作権法によるところの保護を与える、染色図案等におきましてはなお従来どおり意匠法の保護にゆだねるということでございましたが、しかしながらこれは非常に問題の存するところであり、二つの法体系をうまく調節するようにするためにはどうしたらいいか、これをひとつ将来の大きな検討課題にしようということでございまして、その趣旨は両院の決議でも出ているところでございまして、そういう面におきまして意匠の保護著作権保護をいかに調整していくかということは、今後の大きな課題であると考えておるところでございます。
  93. 永末英一

    ○永末委員 新著作権法ができましたときに附帯決議が衆議院文教委員会でつけられておりまして、その中に応用美術等保護についても積極的に検討を加えるべきであるという、そこにいまの含意は含まれておると思うのですね。何かやられましたか、その後。
  94. 安達健二

    安達政府委員 実は附帯決議をいただきまして、われわれとしてはいろいろな問題を指摘をしていただいたわけでございます。そこで、いろいろな問題がございますので若干のあと先があるわけでございまして、従来のところでは、たとえばコンピューターとかあるいはビデオテープの問題とかあるいはゼロックス等の複製機器、フォトコピイングのような問題を検討いたし、また検討いたしつつあるところでございますけれども、応用美術の問題につきましてはなお利害関係者の団体の間におきまして非常に強い対立がございますので、現在のところはそういう問題点を見きわめておるということでございまして、具体的な検討にはまだ入っていないということでございます。また国際的にもこの問題が取り上げられまして、著作権の国際機関におきましてもこの著作権によるところの保護と意匠法等によるところの保護とをどのように調整すべきかにつきましてのスタディグループと申しますか、研究部会がつくられておるというようなわけでございますので、そういうような検討の動向をも見きわめつつ、今後ひとつ適切なる対処をしてまいりたい、かように考えておるところでございます。
  95. 永末英一

    ○永末委員 図案の法律的性格はきわめてあいまいに取り扱われてまいりました。しかも、図案家が自分が図案をかきました場合に、それがどういう経済的対価になるかということもしたがってきわめてあいまいでございました。十数年前に、図案家が図案をかきました場合に源泉徴収をされて支払われているものもございましたし、また同時にそれは府県において事業税の対象になっているものもございました。したがって、このあいまいさを払拭するためにそのころ私も努力したのでございますが、事業税をやめて一律にひっかかるものは全部源泉徴収の対象にする、それは将来著作権法の対象になるべきものだ、こういう税法上における整理はいたしております。したがって、あなたのほうも法律の形があいまいであれば、現実の経済の支払いもあいまいになりますので、あまり何もしてないようでございますけれども、それぞれ重要な問題でもございます。  さらにまた近代社会というのは、それぞれの自己の活動が法律上の権利として確認をされるというぐあいに整理をしていくべきが至当な道だとわれわれは考えておりますので、時間があればもっと伺いたいのでございますが、委員長との約束の時間が参っておりますから、いずれ日を改めてもう少し精細に問いますが、せっかくひとつ御検討願って前向きに図案家の要望がかなえられるように御努力を願いたいと思います。  質問を終わります。
  96. 木村俊夫

    木村委員長 ただいま議題となっております各件のうち、千八百八十六年九月九日に署名され、千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され、千九百二十八年六月二日にローマで改正され及び千九百四十八年六月二十六日にブラッセルで改正された文学的及び美術的著作物保護に関するベルヌ条約締結について承認を求めるの件に対する質疑は、これにて終了いたしました。     —————————————
  97. 木村俊夫

    木村委員長 これより討論に入るのでありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  千八百八十六年九月九日に署名され、千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され、千九百二十八年六月二日にローマで改正され及び千九百四十八年六月二十六日にブラッセルで改正された文学的及び美術的著作物保護に関するベルヌ条約締結について承認を求めるの件について採決いたします。  本件を承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  98. 木村俊夫

    木村委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。  おはかりいたします。  ただいま議決いたしました本件に対する委員会報告書の作成等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  99. 木村俊夫

    木村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  100. 木村俊夫

    木村委員長 次回は、来たる二十四日金曜日、午前九時四十五分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時五十七分散会