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1973-09-18 第71回国会 参議院 法務委員会 第22号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年九月十八日(火曜日)    正午開会     —————————————    委員異動  九月十四日     辞任         補欠選任      吉武 恵市君     君  健男君      渡辺  武君     野坂 参三君  九月十七日     辞任         補欠選任      君  健男君     吉武 恵市君  九月十八日     辞任         補欠選任      野坂 参三君     渡辺  武君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         原田  立君     理 事                 後藤 義隆君                 原 文兵衛君                 佐々木静子君                 白木義一郎君     委 員                 木島 義夫君                 鈴木 省吾君                 中西 一郎君                 吉武 恵市君                 鈴木  強君                 渡辺  武君    国務大臣        法 務 大 臣  田中伊三次君        国 務 大 臣        (防衛庁長官)  山中 貞則君    政府委員        内閣法制局第一        部長       角田礼次郎君        警察庁刑事局長  田村 宣明君        防衛政務次官   箕輪  登君        防衛庁参事官   長坂  強君        防衛庁防衛局長  久保 卓也君        防衛庁人事教育        局長       高瀬 忠雄君        防衛庁経理局長  小田村四郎君        防衛施設庁総務        部長       河路  康君        防衛施設庁施設        部長       平井 啓一君        法務大臣官房長  香川 保一君        法務大臣官房司        法法制調査部長  味村  治君        法務省民事局長  川島 一郎君        法務省刑事局長  安原 美穂君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局総務局長   田宮 重男君        最高裁判所事務        総局人事局長   矢口 洪一君        最高裁判所事務        総局行政局長   西村 宏一君    事務局側        常任委員会専門        員        二見 次夫君    説明員        警察庁警備局外        事課長      佐々 淳行君        法務大臣官房審        議官       田邊  明君        法務大臣官房訟        務部長      貞家 克己君        外務省アジア局        外務参事官    中江 要介君        大蔵大臣官房審        議官       田中啓二郎君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○理事辞任及び補欠選任の件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (金大中事件に関する件)  (刑法改正に関する件)  (検察に関する件)  (長沼ナイキ基地訴訟に関する件) ○商法の一部を改正する法律案内閣提出衆議  院送付) ○株式会社の監査等に関する商法の特例に関する  法律案内閣提出衆議院送付) ○商法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係  法律整理等に関する法律案内閣提出衆議  院送付)     —————————————
  2. 原田立

    委員長原田立君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について報告いたします。  本日、野坂参三君が委員辞任され、その補欠として渡辺武君が選任されました。     —————————————
  3. 原田立

    委員長原田立君) 中西一郎君から、文書をもって、都合により理事辞任したい旨の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 原田立

    委員長原田立君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  この際、理事補欠選任を行ないたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 原田立

    委員長原田立君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事原文兵衛君を指名いたします。     —————————————
  6. 原田立

    委員長原田立君) 検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  7. 佐々木静子

    佐々木静子君 先日来金大中事件について政府にいろいろとお尋ねいたしているわけでございますけれども、きょうは実は外務省にも最初からこの席に来ていただく予定だったわけですけれども、ちょっと政府委員関係外務省がまだそろっておりませんので、先に法務大臣とそれから法務省警察庁に対する質問から入らせていただきたいと思います。  昨日あるいは本日の新聞によりますと、金東雲書記官は白であるという趣旨韓国の第二次捜査報告書が提出されたということでございますが、これは所管は外務省になると思うんでございますけれども、捜査の御担当として、法務省あるいは警察庁のほうも、この内容についてはもうすでに御存じであるのかないのか、お伺いしたいと思います。
  8. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 内容につきましては、昨日入手をして、承知をいたしております。
  9. 佐々木静子

    佐々木静子君 どういうわけで白であるかということについて、具体的にどういうふうに説明をされているわけでございますか。
  10. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 韓国側捜査資料によりますと、七三年九月五日、金東雲に対し捜査したところ、犯行に加担した嫌疑がない、金大中金敬仁、梁一東に対しても、金東雲犯行加担のいかんを調査したところ、犯人らとは全く違うとそれぞれ陳述したと、これだけ記載してございます。
  11. 佐々木静子

    佐々木静子君 そうすると、この事件のあった八月八日前後の金東雲氏の行動については別に何も報告に出てないわけでございますか。
  12. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) そのとおりでございます。
  13. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは世上で、まあ物的証拠ははっきりしているんだけれども、この問題はひとつ警察に泣いていただいて、外交上まるくおさめる、そういう方針を出しているらしいということがいろいろとうわさされているわけですけれども、警察のほうとすると、何かそういう外部的な圧力がいま捜査の御当局にかかっているのかどうか、その点はいかがなんですか。
  14. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 警察は、再々御答弁申し上げておりますように、あくまで事実を追求いたしまして、真相の究明につとめておるところでございまして、そのよう圧力を受けておる事実はございません。
  15. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはぜひとも——良識のある日本国民が、そうしてまた日本におります在日韓国人人たちが、いま日本警察に非常に大きな期待を寄せているわけでございます。そういう意味におきましても、ぜひとも、これは日本警察の面目にかけても、しっかりとした間違いのない捜査をやっていただきたいということを特にお願いしたいわけなんでございますが、それで、さきに私、警察庁に伺いました神戸領事館李台煕領事について、その後何か捜査の上で進展したようなことがございますか。
  16. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) お尋ねの趣旨は、前回の当委員会におきまして御質問のございました韓国人たちに対する暴行事件であろうかと存じます。その点に関しましては、さっそく調査をいたしましたところ、昭和四十六年八月中旬ごろ、いまからちょうど二年前でございますが、兵庫県で、当時の在日韓国青年同盟兵庫本部在日韓国学生同盟兵庫本部の連名で、四十六年の七月七日、神戸領事館におきまして、李台煕領事韓国青年同盟の一員に暴力をふるったという内容ビラをまきました。そういう内容ビラを入手したことがあったということがわかりました。当時の状況を聞いてみましたところ、兵庫警察では、さっそく韓国青年同盟あるいは韓国学生同盟、あるいは民団を中心に聞き込みを行ないましたけれども、李台煕領事韓青、あるいは韓学同幹部を呼んで指導した際にトラブルがあったけれども、このことについては、七月の末、仲裁者が入りまして円満に解決をした、こういう情報を得たのみにとどまりまして、関係者からの告訴もなく、被害者がだれであるかもわからない、また暴行程度被害程度などを知るに至らず終わっておるという事実が判明をいたしました。
  17. 佐々木静子

    佐々木静子君 李台煕領事がその暴行の際に、私の聞いているところでは、数名の者に、自分外交官と思って軽く見るな、KCIA幹部だということを口にしている。それを聞いたというのが一人ならず数人おるわけでございますけれども、その点の捜査はいかがでございますか。
  18. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 警察の記録では、警察として直接李台煕領事がそういう発言をしたと、こういう確証を得ておりません。被害者あるいは関係者がだれだかわからないものでありますから、この点につきましては情報を得ておりません。
  19. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは実は前回委員会佐々課長からも、そういう話であれば被害者の人に進んで警察捜査に、警察に届け出てほしい。私のほうからもそのように説得するようにというようお話がございまして、実は私もこの間の連休に、主としてそういうこともございまして、大阪神戸に参りまして、そうしてこのお話を訴えてきた人たちに実は出会って、話もしてみたのですけれども、たいへんにこれはもう想像を絶するばかりにCIAをおそれている。報復をおそれている。まあそういうことで、私も非常にいろいろと話をしたのですが、これはむずかしい問題だということを痛いほど感じたわけなんでございますが、そういう問題がほかにもいろいろあろうと思うわけなんですが、これは実は金敬仁議員ですね、金敬仁議員グランドパレスホテルにあらわれるまでの行動について、いろいろ警察のほうもお抜かりなくお調べになっていらっしゃると思いますが、どういう人に出会ったか。またこの事件後、金敬仁が、親しい在日韓国人方々に、この件のことについて日本を離れる前、どういうふうなことをしゃべったか、そういうふうな点もかなりつぶさに御調査をもちろんなさっていらっしゃるでしょうね。
  20. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 金敬仁議員につきましても、当委員会再々お答えをいたしておりますように、私ども十分な事情聴取が終わっておりません。八月の八日に事件があり、十五日には帰ってしまわれたわけで、その間フルに警察に御協力をいただいたわけではございませんで、その点、前後の事情等につきましても、金大中氏をはじめとする三氏、ぜひ御来日をいただいてもう少し事情聴取をしてみたいと考えております。
  21. 佐々木静子

    佐々木静子君 この事件直後金敬仁議員は、その二人の人間に部屋へ押し込められた、そのときの二人の人相をどのよう警察へは申しておられたですか。
  22. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 金敬仁氏は三人の人相を申し立てております。これは金大中供述と若干異なりますけれども、金大中供述によりますと六人だったと、金敬仁、梁一東両氏供述によりますと五人だということになっておりますが、その五人のうちの三人を見ておるわけでございまして、その三人の人相特徴につきまして、その三人の人相特徴につきましては、当委員会の席で、緊急配備の際の手配内容という際で詳しくお答えをいたしましたとおりでございます。
  23. 佐々木静子

    佐々木静子君 これも全く確たる話じゃないわけなんでございますけれども、金敬仁議員と親しい在日韓国人の人に、事件直後、これは金敬仁氏が言っておったというよりも、金敬仁氏の言っておる人相、ふうていから見て、福岡の領事館につとめている人がそのうちの一人ではないかというふうに、在日韓国人金敬仁氏と親しい方々が言っている、そういうふうな話は全然出てきておりませんですか。
  24. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) そういうお話は聞いておりません。
  25. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは前回——外務省がいないんで伺ってもなんですが、前に夏谷進さんのことを警察に伺ったわけでございますが、主として外務省に伺ったわけなんですけれども、これは神戸葺合警察外事課で、この夏谷進氏の犯罪事実についての何か傍証固めようなことを韓国政府依頼警察がなさったようなことがございますか。
  26. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 前回お答えをいたしましたように、韓国側から夏谷進氏の身柄を逮捕した、このことを刑事訴訟手続によりまして家族に伝えてほしい、こういう通達依頼外務省を通じてございまして、前回お答えをいたしましたように、葺合警察署の者がこれを伝達をしたという事実がございます。その際にどうしたんですかという程度事情聴取を行なっておりますが、韓国側から捜査依頼を受けた事実はございません。
  27. 佐々木静子

    佐々木静子君 この件については外務省にお越しいただいてから伺いたいと思いますが、まあ警察のほうが金東雲書記官のことを公表されるときに、トランプのうちの一枚をめくって見せたというふうな表現を私新聞だったか雑誌だったかで伺ったわけで、まだまだいろいろと御捜査が進んでおりまして、これはもうお抜かりなくやっていらっしゃることと思うんでございますけれども、これも直接関係があるのかということには必ずしもならないと思うんでございますけれども、ことしの七月の末、それと八月に入ってから二人、もっとたくさんの方があるのかもしれませんが、私の大阪方面で聞いている話では、七月の末に一人の在日韓国人が、八月に入ってからやはり在日韓国人を、大阪の方ですが、青年が、それからもう一人、もう一人についてはどういう方かよく知りませんが、なくなったについて、これが直接むろん殺されたというのではないけれども、韓国CIAにまあたいへんにいじめられて、それが原因で結局なくなったというふうな話をですね、これはかなりその土地ではうわさされている。その事柄について何かお調べになったことはありますか。その事柄というのはきわめて不確かな話ですけれども、私は実は名前住所も聞いて知ってはいるのですが、なくなった方の。ちょっとそれ、名前も申し上げかねる事情にございますので、そのことは、そういう意味での聞き込みなり何なりはなさっていらっしゃるわけでしょうか。
  28. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) そういうことを寡聞にして聞いておりません。
  29. 佐々木静子

    佐々木静子君 実はその三人のうち、私その一人のことはまだよう聞き及んでおらないのでございますが、そのうち二人のことが、これは名前住所もわかっておるわけですが、法務省からいただいた資料、あるいは外務省からいただいた資料にも全然出てきておらないわけでございますので、もしもそういう——これが直ちに結びつくとは私も思っておらないわけでございますけれども、もしそういうふうな点についてのお調べができればあるいは何かのお役に立つんじゃないか、そういうことで、実はまあ私もいろいろと事情を申し述べていただくように話はしているわけなんでございますが、そうすると、この七月末になくなった方は東大阪市の人ですけれども、そのことについては何も御承知していらっしゃらないわけでございますか。
  30. 佐々淳行

    説明員佐々淳行君) 聞いておりません。
  31. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはおっしゃるとおりたいへんにむずかしい問題で、捜査に協力していただくということが、たいへんにCIAをおそれる事柄から、なかなか皆さん口をかたくしておっしゃらないというようなことから、警察のほうも御苦労だと思うわけでございますけれども、ひとつ鋭意御調査いただいて、KCIA情報なども十分につかんでいただきたい。これは私もこの問題についていろいろ考え方があろうかと思いまして、在日韓国人方々とか最近韓国から帰ってこられた韓国人方々からも、韓国人民族感情、その他あるいは金東雲氏が日本警察を振り回した、金東雲氏が日本警察の裏をかいて韓国へ無事に帰った、まあそのことをかえって英雄視というか、そういうことで、まあそういう微妙な民族感情というようなものもあるんじゃないかというようなところなども伺ってみたんでございますけれども、このことは少なくとも在日韓国人方々は、いまの警察が非常に御努力いただいているということについてたいへんに敬意を表しているし、また、何とかこの際明らかにしていただきたいという気持ちはかなりに強いというふうに確信を持ったわけでございますけれども、ひとつ何とか、事、人権の重大な問題でございますから、大きな政治的な影響に左右されずに、捜査当局としてもき然とした態度で御追及いただきたいと思うわけなんでございます。  それから、大臣にお伺いしたいと思うわけなんですが、実は法務省から、この間からの、韓国情報部法というのを昨日いただいたわけでございますけれども、大臣自身ももうびっくりしたということが前回お話にございましたが、私も昨日全文を法務省からいただきまして、これはもう大臣ならずとも、われわれもびっくりしたわけなんでございますが、たとえば、情報部法の十六条に、職務執行に対して武器を携帯することができると、またそのほかいろんな規定がある。たとえば、情報部のやっていることは国会の質問に応じないでもいいとかいうふうな意味のことですね、そういう規定などもまあいろいろ拝見しまして、たいへんな事柄であるということを感じたわけでございます。聞くところによると——聞かないでもこれはもういますでにわかっていることですが、日本にも韓国情報部員というものが相当数、まあ数ははっきりわからないにしろ相当数いる。こういう中央情報部法という法律があって、また、この法律に基づいてKCIA日本にもおるということに対して、やはり大臣は前から、取り締まる方法はない、また必要はないということをおっしゃっておられるんですが、これごらんになって、やっぱりこれは日本国内で何とか考えなければならないんじゃないかというふうなお考えをお持ちになりませんですか。野放しでいいとお思いになりますか。その点ちょっと伺いたいのです。
  32. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 私が申しておりますのは、韓国CIA法中央情報部法、これを読んでみると、どの点が驚くべきことであったかといいますと、私は読んで驚いたのでありますけれども、司法警察権を持っておる、犯罪捜査ができる、人を拘引できる、これに驚いたのですね。それは、KCIAというものはそういう仕事をするものではないと思っておった。これを日本国内で、日本領土内で、主権の及ぶ領海、領空の範囲内、領土内でこういうことが行なわれるということになると、これは主権侵犯ですわね。これもう四の五の言うところはない主権侵犯である。それが日本領土内において行なわれておっちゃ困るじゃないかということ、よくわかるのであります。よくわかるんだが、それが行なわれておるかおらないかということ、なかなかつかめない。事実は幾らか行なわれておるのかもしれませんけれども、行なわれておるということが事実上つかめない。ほんとうにつかめないですわね、これ。そこで、日本憲法下法制上道があるかというと、CIAというものの行動対象にしてこれを調べていくという法制がない。法律制度がない。そんなもの調べる必要がないんだというと私のことばは行き過ぎておるのでございます。そう聞こえたらそれはそうではございません。法制がないから調べようがない、こういうことを申し上げておるのでございます。  それから、むろん言うまでもないことでございますけれども、そのKCIAが行ないまする行動が、わが国の刑法はじめ、一口に申しますと刑罰法規、に抵触しない限りはどうも手のつけようがない、抵触をすればぴしゃっといける、そのいき方は、外交特権を持っております場合においては、国外追放の要求ができる、国外追放ができる、外交特権を持っておらぬやつがやったという場合においては、逮捕をしまして、留置をして調べることは自由でございます。どんどんやれる。けど、何にしましてもその逮捕ができる、追放するかという話はこれは別にいたしまして、国内で何か行動をとった場合に、刑罰法規に触れない場合はどうも取り締まる法制がない、調べる必要がないのだということを言っておるのじゃないのですね。法制がないので手の打ちようがないではないか、これは日本法制上からいうとたいへんよいところでもあり、困ったところでもありましょうが、国家機密保持法もなし、いわゆる防諜法などというものも持っておりません。その行動はいけないじゃないか、ちょっと待てということが言えない。刑罰法規に違反をする段階が来てちょっと待てということが言える、これが日本法制である。いろいろ詳しく法制調べてみましたが、KCIAを取り締まったり対象にしたりする法制上道がない、こういうことをいままで申し上げてきて今日に及んでおるのでございます。
  33. 佐々木静子

    佐々木静子君 大臣お話はわかりますが、いまもおっしるとおりに、司法警察官仕事を持っている、人を逮捕したり拘引したりする権限を持っているということがたいへんにおそろしいわけでございますが、これが日本国内で、日本捜査権というものがあるにもかかわらず日本国内で、これは在日韓国人にしたところで、逮捕されたり拘禁されたりするということはこれは私はやはり日本主権の大きな侵害だと思うわけなんです。だから、取り締まる法律がないというのであれば、やっぱりこれは大臣法務省のほうで考えて、何とかそういう主権侵害が起こらないよう立法措置を講ずるなり、行政上何らかの手段を考えるなり、これはやっぱり何もないからしかたがないで済まされる問題じゃないと思うのです。  現に、これは在日韓国人の方が領事館の中で逮捕されるという件が現実に幾つかあるわけですから、御承知のとおり、ですから、何もそういう事犯が起こらないんじゃなくて、起こっているわけです。また、中には日本人逮捕されたというふうな情報もあるわけですね。ところが、それを申し上げてもなかなか、そういうことがあればぴしゃっとやるとおっしゃるけれども、なかなかちっともぴしゃっとやっていただけない、そういうふうなことから、やはりこの被害を受けた人たちは、日本捜査当局はやっぱり、全部が全部そうじゃなくても、一番KCIAと仲のいい方があって、なかなかそうはいかぬのだ、うっかりと名のりをあげれば自分向こう側からやられてしまうということが、それはもうほんとうにびっくりするくらいにみな思っているわけなんです。ですから、やはりほんとう日本捜査権というものが、われわれ日本人から考えると、当然厳正にこれは警察なり検察庁がやれるんじゃないかということ、これはかきくどく言っても、いままでそういうふうにしていただいてないから自分たちよう信用しないと、そういう返事に結論的にはなるわけなんですね。ばさっとやるとおっしゃるけれども、ほんとうにこういうことが何にもないんじゃなくて、あるわけなんですね、あれはやっぱりばさっとやっていただかないと、言った者は非常に困るわけですね、実際あぶないわけなんですよ。名のりを上げたわ、それを調べていただけない、またそれに対してき然たる態度をとっていただけない、まだだめだ、まだだめだ、まだ証拠が足らぬ、まだ何だということでうしろずさりされると、名のりを上げた者こそたいへんにあぶない状態に立ちますので、これは人間の知恵として、もう見るまい、言うまい、話すまいということになってくるわけなんですね。やっぱりそれでいて、これは在日韓国人だけじゃなしに、日本人自身もこの韓国CIAの活動について非常に恐怖感を持っているわけです、正直言って。ですから、これはやはりきっちりとやっていただきたいと思うわけです。  それから、いま外務省がおられないし、もう一番おそくても十二時二十分に入られるとおっしゃっていたのが結局お越しにならないから、これは所管でないとおっしゃられれば一言もないわけですけれども、まあ警察のほうにもそういう問い合わせがあったというお話ですから、あるいはこれは入管にも多少関係があるんじゃないかと思いますので、これは外務省に伺おうと思っていたことをお伺いしますけれども、外務省に入っている、これは先ほど来言っている生まれたときから現在までずっと日本人であったところの夏谷進さんの被疑事実、これは韓国中央情報部分から発表してきているわけですね。これを見ると、彼はまずシンガポールに駐在して、北朝鮮工作員と間諜として話し合った、その次が、そのあと一カ月ピョンヤンにおいてスパイ教育を受けた、それから第三が、その工作金として、これはどこで受けたのか知らないけれども、一万二千六百ドルを受領した、その次の四は、ソウルに行ったということを書いてあるんですが、それから五番目は、また北朝鮮で教育を受けた、そして韓国内の状況を報告した。私、これはなぜ罪になるか、四だけはソウルと書いてあるからこれは別として、刑事局長もこの間、初めちょっとなんでしたが、あとで正式な法務省の御見解をおっしゃったですけれども、なぜこういう捜査警察が協力なさるのかということです。だれが見たって、この日本人が朝鮮民主主義人民共和国へ行ってどういう話をしようと、これはほんとうかうそか知らないが、お金を受け取ろうが受け取るまいが何の罪にもならぬわけですよ。ところが、そういう犯罪事実として韓国の中央情報部からもらって、外務省もこれ黙っている。何か、いまおられないので言ってみてもしかたがないですが、弁護士のあっせんをしていろいろ協力しているとかいうこと、こんなもの罪にならぬですよ。  警察のほうも私聞いているところでは、これは神戸の人ですけれども、この人を知っている人が何かいろいろ警察へ呼ばれて、どういう人か聞かれているんです。それは聞かれる側にしてみれば、これは警察KCIAはぐるだと思われたってしようがないですよ。しかも、法務省の入管局から出ている資料によると、夏谷進という人は元韓国人、帰化日本人としてあったんですよ。だから私、形の上で見て、これはいつ帰化したのか知らないけれども、韓国人の間であるときにこういう事件を起こしたのでいま調べられているんだと解釈したわけですね。ただ、念のために戸籍謄本をとってみたら、何のことはない、生まれたときからずっといままで日本人ですよ。日本人がそういう目にあって、何ら韓国法律にも触れておらない、日本法律にはなおのこと触れておらない、そういうことでいま韓国のソウルの拘置所にほうり込まれている。それに対して何にも手を打ってないんですよ、政府は。外務省の御答弁では、むしろ北朝鮮のスパイですよというようなことを、いかにも悪いみたいに言うんです。かりに、スパイかどうか知らないけれども、何にも日本人としては罪にならないわけでしょう、そういう事柄に対して日本政府は何にもやってないわけです、これだけ言っても。それでいて法務大臣き然たる態度をおとりになるとか言われてもぴんとこないわけですけれども、この問題はこれは外務省が来ないからしかたがないんですけれども、法務省としてもどういうふうにお考えになりますか。
  34. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 私の申し上げておりますことを御理解いただいていないんじゃないかと思う節がございますので、付け加えて申し上げますと、韓国CIA日本国の領土内において人を逮捕したり拘禁する、取り調べをする、もちろん主権侵害ですね、ちょっと出てこいという呼び出し状を突けつけてもこれは主権侵害なんです、捜査権の行使なんです。捜査権の行使というのはどのような形においても日本国の領土内において行使すべきではない、これは犯罪以上のものですね、国内犯罪以上のものでございます。主権侵犯問題でございます。外交交渉を通じて断固たる態度をとるべきもの、とらなかったとするならばいままでが間違いでございます。今後は断固たる態度をとるべきである。それ以外、捜査権をわが国領土内において行使する以外は、ここは先生御了解いただきたいのでありますが、それ以外は刑罰法規に触れる行為であれば取り締れる、刑罰法規に触れる行為でない行為については取り締まる法制がない。それは新しい法律をつくって取り締まれというおことばのように聞こえるのでありますが、それはいかがなものであろうか。  世界に冠たる日本の憲法、一切の行動が自由である、刑罰法規に触れない行動は一切自由である。その自由の範囲の一部について、法律をつくって取り締まらなければならない。かりに法律をつくりまして外に出しましたら、国会かひっくり返るような私は上から下への大問題が、論戦が展開されてくるのではないかと思うのでございます。日本というところはそういうふうに自由人権の思想というものは進んでおるところなんでございます。それを私が申しまして、手のつけようがないということを言っておるのでありまして、法律をつくって取り締ったらいいではないか、取り締らぬのはけしからぬではないかというふうに先生のおことばが聞こえますので、ちょっと私ず太い男ですけれども気になるものですから、先生のお話を承ると、そんなふうに考えていただいては私の真意が通じないように、こういうふうに思いますので。それ以外のことは刑事局長からお答えさせます。
  35. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) いま佐々木先生から、日本人韓国法律で処罰されておるというのを傍観視しているのは、処罰できないのにやっておることだからけしからぬではないかという御趣旨の御発言がございましたが、先日来ここでも申し上げ、資料でも差しあげてございますように、韓国刑法の第二条をごらんいただきますと、日本語で言えば、「本法は大韓民国領域内で罪を犯した内国人および外国人に適用する。」、したがって、韓国刑罰法規は、特段の規定がない限り、国家保安法を含めまして韓国の領域内で罪を犯した外国人に適用する。この外国人の中には当然日本人が入るわけでございますので、詳しい起訴事実は存じませんけれども、夏谷さんが韓国で国家保安法あるいは反共法あるいは刑法で処罰されるとすれば、この起訴状からも推定されますけれども、夏谷さんが大韓民国領域内で間謀をやり、あるいは反共法に規定する北鮮への潜入、脱出をやり、あるいは機密の探知、収集をやったということで処罰をされるべく、処罰を請求されていま裁判中であるということに相なりまして、私、先般来申し上げましたように、日本人日本国内でかようなことを犯しましても、日本国内ではさようなものは処罰されないことでありますので、日本国でそういうことをやったといって韓国裁判権が夏谷さんに対して行使されつつあるということであれば、これはまことにけしからぬことであり、韓国刑法にも規定していないことでありますから、これは厳重にオブジェクションを申し入れるべきでありますが、夏谷さんが韓国内で犯したことにつきましては、遺憾ながらこれは韓国主権に属することでございますし、刑罰法令に属することでもございますので、これは事柄の当否は別として、法律的にはやむを得ないことであろうと、かように考えるわけであります。  そこで、外務省のお株を奪うようでございますが、先般来外務省からお答えのございましたように、そういうことであるということを前提といたしまして、韓国当局から在韓の日本大使館に本件についての通報がありまして、在韓の日本大使館といたされましては、ことしの七月二十一日に、かりに裁判権を行使するとしても適正な手続でやってもらうようにということを厳重に申し入れ、そして本人と面会して、夏谷さんの要望事項を聞き、身辺の状況を聴取して、これを本国の留守宅へお伝えをしたと、かようなことでありまして、いま夏谷さんについて行なわれていることが夏谷さんの韓国内における行動であるとすれば、これは韓国主権の行使としてまことにやむを得ざることであり、その行使が適正であることをこいねがうということ以外にはないということに相なると思います。
  36. 佐々木静子

    佐々木静子君 この韓国内の定義ですけれども、これは法務省とするとどのようにお考えになっていらっしゃいますか。
  37. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) これは法務省としてと申しますか、つまり御指摘は、北鮮の支配している地域は韓国領土と考えるかというお尋ねでございましょうが、これはむしろ外務省からお答えをいただいたほうがいいと思いますけれども、韓国としては、おそらく、推測でございますけれども、北鮮の領域も韓国領土であるという前提のもとにおける韓国内の犯罪と、こう考えてやっておるものと私は推察いたしております。
  38. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはおっしゃるように、この被疑事実を見ると、そういう前提に立っておりますね。いま刑事局長は非常に韓国捜査当局の肩を持たれたのか、弁護をされたのか、書いてないことを言われたわけです。韓国から共和国へ密出国をされたとか、そういうことが罪になっているんだというふうにおっしゃったけれども、これは韓国情報部の発表ではそういうことにはなっておらぬわけですね。しかしそうなってくると、これは私重大な問題であろうと思うんです。これはいま朝鮮半島が二つの国に分断されて、そしていままでは日本は主として韓国との交流が多かったわけでございますけれども、御承知のとおり、もうここ昨今は北の共和国との交流というものが非常に多くなって、日本のいわゆる革新陣営の者ばかりではない、もう財界人も行っている。いろんな方が、共和国との交流が多くなってきている。これが韓国の中央情報部のこの説でいくと、触れるんだということになってくれば、これはたいへんな問題なわけですね。うっかりすると現職大臣だって日本で触れるような問題も起こってくるかもわからないぐらい、われわれ革新陣営の者ばかりじゃなしに。そういうふうなことなどから考えると、やはりこれはもう少し日本が、日本の国民、日本の立場に立って、しっかりした見解というものを打ち出していただかないと、これはとんでもないことになると思いますよ。その点は法務大臣はいかがなんですか。
  39. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) ちょっとその前に、佐々木先生御指摘の、夏谷さんの被疑事実というのを見ますと、平壌でスパイ教育を受けたというやつは、なるほどあすこを韓国国内における犯罪と見るならば、平壌を国内と見るかという問題があろうかと思いますが、そのほかの、何かスパイ工作金を受けて韓国内で韓国警察内に、何と言いますか通報するような組織をつくろうとしたということは、おそらくこれは韓国が現実に支配している地域内のことであろうと思いますし、もう一つ、製鉄所との情報の探知収集、これもおそらく韓国の支配している領土内における収集でございましょうから、すべてが北鮮において行なわれたということにはならないと思います。  あとは大臣から……。
  40. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 刑事局長お答えでいけませんか。
  41. 佐々木静子

    佐々木静子君 いや、非常にいろんな意味においての第六感の発達していらっしゃる方だから、これもやはり先を見越して、やはり何かもう少し官僚サイドじゃない、いい御答弁を伺えるのじゃないかと思って私伺っているわけなんです。  それから、いま刑事局長のおっしゃっている、私もこの第四項を除いてというふうに最初から申し上げているようなわけで、こういうふうなことで唯々諾々と外務省承知したり、警察がこれはおかしいじゃないかと言わずに、これは参考人を呼んだりすると、これは次々第三、第四の問題が起こってくる。そうなると、こういう変なことだってこれはもう処罰されるというふうな土壌をつくるわけですから、やはりここはきわめて厳格に解釈してやっていただきたい。——実はいま中江参事官がお越しになりましたが、実はほんとう外務省に伺うことですね。お越しにならなかったので、法務大臣にいろいろ御奮闘いただいているようなことなんですけれども、法務大臣は、こういうことにやはり日本捜査権侵害されるとかというようなことになればき然たる態度をとって臨むということを言っていらっしゃるわけで、私もその点は法務大臣に大いに御期待しているんですが、何と言っても、いま見ていると、外務省は弱腰で、どうも外務省き然たる態度というものが一向に見られないわけですけれども、ひとつしっかりやっていただきたいと思うわけです。  で、これはあとでまた別の委員会でゆっくり御質問があろうかと思うんですが、最初の発表では、こういうふうに金東雲氏が、日本警察では物的証拠まできっちりある。動かすべからざる証拠だ。そして、そうなれば主権侵犯だということは、これは法務大臣もおっしゃった。ところが、いまだにその断固たる措置というものが一向にとられずに、断固どころか、もううしろずさりばかりの措置がとられているわけですけれども、これはやはり強い措置がとれないというのは、結局日本がいま韓国にたくさんの投資をしているから、強い措置をとりたくてもとるにとれないのだということが、主として日本の財界、経済界からの突き上げがあって、いまの自民党政府ではどうすることもできないんだということが一般の声で、日本国民にしても、特に在日朝鮮、韓国人方々も非常に歯がゆい思いをしているわけですが、いま韓国に対する外国人の直接投資というものが、これはニューズウイークなんかで最近のを見ますと、九九・七%というふうなところまで出ておりますけれども、外務省で把握していらっしゃるのはどのくらいになっているわけですか。
  42. 中江要介

    説明員(中江要介君) 対韓経済協力の実態でございますけれども、いろんな種類に分かれておりまして、無償資金協力というのは、まず、昭和四十六年度から無償援助を行なっておりますが、これは四十六年度に一億三千万円、四十七年度に三億九千四百万円、四十八年度予算では五億六千三百万円と、こういうふうになっております。それから昭和四十年に御承知ように締結されました日韓請求権・経済協力協定と、協定に基づくものがございますが、これは四十年十二月から十年間に準賠償として総額三億ドルということになっております。いまのが無償でございまして、有償資金協力は、いま申し上げました日韓請求権・経済協力協定の有償資金のほうで、これは毎年二千万ドル、十年間にわたって二億ドル、こういうことになっております。  この経済協力協定以外の円借款といたしましては五件ほどございまして、農水産業近代化借款、輸出産業育成及び中小企業振興借款、国鉄電化及びソウル地下鉄建設借款、商品援助、通信施設拡張計画借款、これの合計が、コミット額が六百六十八億四千万円、実行額はいままでで二百七十五億三千万円、こうなっております。  それから、今度は民間ベースの資金協力といたしましては、延べ払い輸出が百四十二件で六億五百万ドル、それから直接投資、これが二億七百万ドル。  いまの政府間及び民間ベースの資金協力のほかに、技術協力といたしましては、これは海外技術協力事業団を通じまして、昭和二十九年以来昨年末までに、研修員の受け入れが千四百五十名、専門家の派遣が二百七十三名等々ございます。そのほか、長期派遣中の専門家が地下鉄電化関係で五名、工業技術訓練センター関係二名というふうに、これはいろんなこまかい技術者が行っております。それから、プロジェクトベースの医療協力といたしまして、寄生虫対策、それから産業災害対策、そういった協力、それから開発調査といたしまして、首都圏の都市交通計画調査、農村開発計画調査、それから橋梁の総合開発計画調査、その他農業協力、こういった多方面にわたっているのが実情でございます。
  43. 佐々木静子

    佐々木静子君 実は、ほんとうはもう少し早く来ていただいて、そういう御答弁をいただいて、あと外務省にもっと伺いたかったわけですけれども、私の持ち時間がないので、もう一、二問に終わらざるを得ないわけですが、これは日本のさる大商社の東南アジア方面の、韓国及び東南アジアの輸出をしている人たちの話では、やはり一九六七年ごろの、当初の日韓条約ができて間もなくの話ですけれども、韓国のリベートというものが、大体韓国へ何する場合は七%というのが常識であるという話を聞いておったわけですけれども、またこれは実は一流紙のソウル支局長などをしておられた方々お話によると、韓国のほうから言わすと、これはリベートが韓国政府だけであるならば非常に楽なんだがという話が、これは実は具体的にも出ているわけなんですね。そこら辺で私どもは、やはりいまの自民党政府は強い態度がとれない、これはうっかり強い態度をとればどういうことが明るみに出てくるかわからないということから、外務省がいろんな思惑で強い態度がとれないのだということと思わざるを得ないわけなんですけれども、もしそういうことでないのであれば、そういうことでないなら、ないだけにきっちりとした態度をとっていただきたい。これは日本の面目にかけてもとっていただきたいと思うわけです。それで当初、警察のほうに最初お伺いをいたしましたけれども、私は警察がもっと証拠を実は持っていらっしゃるけれども、公表するわけにはいかないのだというふうに理解さしていただいているわけなんですけれども、さらにきっちりした、的確な捜査をできるだけ進めていただいて、内外にやはり日本警察というものが、そういう政治力に動かされずに、しっかりした捜査が行なわれるのだということを、これは日本国民の一人として、ぜひとも知らしめていただきたいということを心よりお願いするわけです。とかくのうわさについて、これは、田中大臣金大中事件について非常に御苦労いただいたわけでございますけれども、やはりそのような疑惑の目をもって見られているというのがこれはやはり事実でもございますので、閣僚の一人として、この件についての御見解を述べていただきたいと思います。
  44. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 御懸念のような疑惑の余地のないように、しゃんとした態度捜査を進め、対韓外交をやりたい、こういうふうに私は思うのでございます。ことに、御質問を通じて考えますことは、御質問の最初に出てきたことでありますが、何か捜査が政治によって左右されるようなことがあるのではないかという御心配をいただいている、私も同様の心配をしておるものでございます。捜査に政治が介入するということは断じて許されるべきことではない。警察自身が仰せになっておりますように、実体、真実、真相とは何か、だれが犯人かということの究明に純粋に全力を入れるべきもの、これに政治が介入すべきものではない。そういうことのないように、腰の強い態度捜査をあくまでも遂行をいたしまして、国民の皆さんの御期待に沿いたい、こう考えております。
  45. 白木義一郎

    白木義一郎君 先日の委員会外務省にお願いしておいたので、それの御報告をまず最初にお願いしたいと思います。
  46. 中江要介

    説明員(中江要介君) 先般の委員会調査することをお約束いたしました、日本人教員が韓国に行きまして、そのときに中央情報部に対する便宜供与依頼が出ておる、その内容に、帰国後も身辺の保護をするようにというのがあるのはどういうことかという新聞記事についての真相の調査でございました。私どものほうでさっそく東京及びソウルにも訓令いたしまして調べましたところ、まず一番最初にお断わりしておきたいのは、あのときに私は、この教員の方が、一団が韓国に行かれたのはどうも文化庁の教員交換計画の一環ではないかと思うので、文化庁とも御連絡して調べてみると申し上げましたが、調べましたところ、本件の交換計画で行かれた方は文化庁の教員交換計画の一環として行かれたものではなくて、これは独立して韓国の文教部、つまり日本でいえば文部省でございますが、その韓国の文部省が独自で招待をして、その招待を受けて韓国に行かれた方、この招待が大使館なり外務省を通じてなされたものでなくて、日本の大使館を通じてではなくて、直接日本韓国の大使館及び総領事館を通じて呼びかけがあって、それにこたえて行かれた方であるということがわかったのが第一点でございます。  その招待——こういうふうにして日本の教員の方々を招待するのだということで現地の日本大使館に要請書が申し出てこられましたのが七月の十六日付でございます。この中にいろいろな韓国関係省庁に対する依頼事項が書いてございまして、その中に中央情報部長あての協力要請の欄がございまして、そこを見ますと、まず協力相手方が中央情報部長で、協力要請期間という期間が書いてございまして、それが八月十日(金曜日)から十九日(日曜日)まで、こうなっておりまして、その協力内容の中に「帰国後身辺保護」という字は確かにあるのですけれども、当時大使館では、これははなはだおしかりを受けることになると思うのですが、大使館では、韓国語のままの協力要請の手紙が来まして、その募集その他、手続が大使館を経由しないで、東京の韓国大使館、総領事館を通じて行なわれておったものですから、やがてそういう方が見えるんだなと、協力相手方にいろいろな役所があって、その協力期間を見ますと、八月十日から十九日と、まさしく韓国に滞在しておられる期間の間の便宜供与要請ということになっておるので、協力内容のところを非常にしさいに検討しなかったというところが私どもの落ち度だと思うのですが、そういうことでございました。このことが日本新聞でも報道され、国会でも議論になりまして、私どもの訓令に基づいて向こうで調査をしておりましたちょうどそのときに、韓国側でもこの間違いといいますか、書類をチェックいたしまして、この協力要請期間から見ても、その中に「帰国後」ということは、論理的に合わないものが、「帰国後」という字がタイプのミスで入っていて、非常に遺憾なことであったといって、訂正を申し越しております。で、その最初にこの協力要請の手紙の写しを私どもが持ちましたときに、こまかく内容まで見なかったことが非常に誤解を招いて遺憾なことになったと反省しておりますが、結果的にはといいますか、実体的にはその協力要請期間がはっきりと八月十日から十九日までという韓国滞在中の期間にこういうことを協力してもらいたいという依頼書になっておりますので、八月十九日の日曜日以降帰って——帰国されたのはたしか二十日だったと思いますが、帰国後も日本韓国の中央情報部がその韓国に行った教員の方々の身辺の保護をしなきゃならぬということにはなっていないということでございます。
  47. 白木義一郎

    白木義一郎君 そこで、その協力の依頼文全文を教えていただきたいんですがね。その、まあ訂正したわけでしょう、訂正する前の全文を、これは大臣にもよく心得ていただきたい大事なことですので。
  48. 中江要介

    説明員(中江要介君) ちょっと長うございまして、これは仮訳ということで、原文が韓国語でございますので日本語に訳したものということで、これは文教部から、文教部というのは文部省でございますが、一九七三年七月十六日付で駐韓日本大使館あて、題目は「日本人教員招請に伴う協力依頼」。第一パラグラフが、在日同胞子女教育を担当している日本人教員を招請して韓国の新しい建設と発展する様子を紹介することにより韓国に対する理解を増進させるために別添の企画書により招請いたしたく、二として、この人たちの招請及び滞韓期間中貴機関と貴管下機関の協力事項と訪問日程を別添の企画どおり推進することができるようにお願いいたします、と言って各機関に要請しておりまして、駐韓日本大使館には八月十三日(月曜日)の十六時半から十七時三十分まで一時間、大使礼訪、まあ大使を表敬訪問することについて日本大使館の協力を要請する、これが主文になっておりまして、そのほかに、日本大使館以外にどういうことを協力要請しているかというのが、その別添の表になっております。これは四、五枚になっておりますが、法務部長官にあてましては、八月十日の十九時五十五分に入国手続便宜供与をお願いしたい、八月十九日の日曜日七時四十分には出国手続の便宜提供をお願いしたい。文化公報院長官には、八月六日の月曜日、韓国紹介パンフレットを各二十五部ずつ用意しろという協力内容。国立博物館長には、八月十二日の日曜日の十四時三十分から十六時三十分まで無料入場及び案内を依頼している。治安局長には、八月十日から十九日まで、つまり滞韓中便宜供与。文化財管理局長には、八月十二日の日曜日に秘苑、昌慶苑、これは庭園でございますが、その無料入場、案内、景福宮、これはやはりサイトシーイングでしょうが、無料入場、案内。それから関税庁には、八月十日と十九日に入国、出国の通関便宜供与。それから、その次に中央情報部長に、八月十日(金曜日)から八月十九日(日曜日)まで、日本人教員の滞韓及び帰国後身辺保護及び諸般事項分析、こういうのが中央情報部長あての協力内容。あと韓国放送公社の社長に対しましては、八月十四日の七時から八時まで、KBCTVのニューズパノラマに出演。それから、ソウル特別市教育委員会教育監あてには、八月十一日には、教育監の表敬訪問、晩さん会の招請、八月十日の金曜日は、ソウル市の教育委員会がバス提供、八月十三日も、ソウル市教育委員会がバス提供、十四日も同じくバスの提供の便宜供与依頼。それから今度は釜山に行きまして、釜山市の教育監には、十八日の土曜日には、韓独職業学校訪問——韓国とドイツの共同で経営しております職業学校の訪問のあっせん、それから教育監の表敬訪問と晩さん会。八月十九日の日曜日には、出国手続の協力、そのほかに十八、十九はバスの貸与。それから慶北教育委員会——慶北州の教育委員会には、同じように表敬訪問、晩さん会、それから慶州、これは古跡でございますが、慶州の古跡観光の案内。それから慶南でも、同じく慶南の教育委員会の教育監に対しまして、蔚山の工業団地の視察案内、それから表敬訪問と晩さん会。ソウル教育大学附属国民学校長には、八月十四日に学校訪問。それから首道女子師範大学長には、八月十三日に学校訪問。それからソウル特別市教育委員会に対しましては、八月十四日の火曜日に学校訪問、午さん会、それから梨花女子高等学校、これは有名な女子高校ですが、これに八月十四日の火曜日に民泊のあっせん、それから梨花女子高校では日本人教員二十一名、民泊家庭のソウル案内、一泊四食を提供してもらいたい、それから八月十五日には研修員が集合するのに協力願いたい。それから駐韓日本大使館、これが日本大使館のところですが、これは先ほど申し上げましたように、八月十三日に大使に表敬訪問するからよろしくと。それから、あとソウル特別教育委員会には、八月十四日に座談会、題目「韓国を見た感想と僑胞教育」、これは外国にいる自国民の教育という問題を、中央教育行政研修院で座談会をやっております、それのあっせん。こういうふうになっております。  これが依頼書の全文の仮訳をお読みした……。
  49. 白木義一郎

    白木義一郎君 そこで、法務大臣、これはいま説明がありましたように、韓国の文部省から大阪の小学校の先生が招待をされて韓国へ行ったと、それについて視察その他の日程を組んで各方面に協力をしろと、こういう向こうでの文部大臣の要請の文書だと——公文書になるわけです。その中に、相手先にKCIAが、部長あてがあるわけです。その中に、その先生たちの帰国後の身辺保護及び諸般事項分析をしてもらいたい、こういう意味の文章が載っていた、こういうことです。それで、先般十三日の委員会に、私が朝日新聞の記事からお尋ねしたわけですが、そのときは外務省も御存じなかったんで、次の委員会報告ということで、こうなったわけです。そこで、その間に韓国に問い合わせた結果、この文章はミスプリントであると、申しわけない、こういうことでしたね。それはそれで、ふだんならばこれは誤りだからしようがないじゃないかで済むわけですが、時も時、いまその問題の焦点の韓国の中央情報部に大きな関係のある問題、それで実は心配して当委員会質問をしたわけですが、そのミスプリントの内容、どういう説明韓国側からあったか、御説明を願いたいと思います。
  50. 中江要介

    説明員(中江要介君) これは向こうが事の重大性に驚いてあわてて当該公文書をチェックしてみた。そうしたら確かに一行の「滞韓および帰国後」も一行の「身近保護および諸般事項分析」と書かれている事実を発見したが、この「帰国後」とあるのは全くのミスタイプで、時期が時期でであるだけに、善意の招聘計画がいろいろ疑惑を呼んでしまうことが非常に残念だけれども、これは依頼事項の内容の期間のところを見ていただければ、八月十日から十九日までと明記されていることにもかんがみて、八月十日から十九日というのは一行が韓国にある期間でございますので、「帰国後」ということを書くのが全くおかしかったんで、これは非常にもう残念ながら、韓国人のクラークのミスタイプで、誤解を生んで申しわけないと、こういう説明をしておるわけでございます。
  51. 白木義一郎

    白木義一郎君 経過はわかりましたけれども、ミスタイプにも、ミスにもいろいろあるわけです。きょうも実はミスタイプがあったわけです、理事会でですね。自民党の原先生がおやめになって、補欠中西先生が理事になると、これはミスタイプです。いままで原先生がソ連へ行かれていて、理事交代して中西先生がけさまで理事だった、そこへもってきてもう一回原先生が法務委員会理事をやめる、もう一回中西先生が理事になるというタイプなんです。こういうのはこれは明らかにミスですが、この協力依頼文のミスタイプというのは、ここで終わればいいのに、よけいなことがずっと続いているわけです。で、これは表面的にすらっと聞けば、もう韓国に先生が来てどうぞごらんください、うんと勉強していって帰ってくださいと、帰って日本の先生にもよろしくと、その間は十分サービスしますと、歓迎いたしますと、準備はこうですと、各関係先にこうやって手落ちのないようにいたしておりますと、期間はこれまでですと、なおかつ、お帰りになっても御心配ございませんよ、日本へ行っても韓国KCIAは常時皆さん方の身辺を保護いたしますと、日本には警察がいらっしゃらないでしょうから。それから、及び身辺の保護並びに諸般事項を含めてお引き受けいたしますと、そうしなさいよという文部大臣の公文書なんです。それが情報部長あてに行っているわけです。  これはまことに親切なことなんですが、いまその親切は非常に困るわけです。それでびっくりして、これは間違いでしたと、あわてて取り消したわけですけれども、その間違いの説明がミスプリントなんだ。そのミスプリント、間違いというのはちょっとこういう字を間違えたとかいうことなら、これは忙しかったとか何とかということが言えますけれども、御丁寧にも皆さんお帰りになってからもその期間はないわけです。ずっと、お帰りになってから永久に情報部長は身辺を保護いたします。諸般のことについていつも警戒を申し上げますという文章がくっついちゃっているんです。ひっくり返して間違えたのじゃないわけです、きょうのこれとは。とすると、韓国の文部大臣がそういう公文書を出したということは、韓国の要人の考え方はそういう考えであるんじゃないかと、こういう心配をするわけです。おりしも、いま公権力の行使とかあるいは主権侵犯とかという問題が世界の注目になっている現在です。これはあわてて取り消しただけで済む問題じゃない、まあ韓国要人の考え方といいますか、体質といいますか、そういうところまで私たちは心配するわけです。何の気なしにそういうのをつけ加えちゃっているわけです。こういうことについてぜひ法務大臣に心得ていただいて、その上で、先ほどから毎委員会のたびに決意を伺っておる方針を進めていただきたい、こういうように思うのですが、大臣いかがでしょう。
  52. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 申しわけないことですが、私は実はこの件は初耳なんです。
  53. 白木義一郎

    白木義一郎君 ですから詳しく聞いていただいたのです。
  54. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) そこで、初耳でありまして、ここですなおに聞いておりますと、「帰国後」ということばがミスプリントだと、これを除くとすんなり理解をしてあげてよいのではないでしょうか、そういう感じがいたします。いや、それだけでは承知できぬとこう言わずに、帰国後もということばを取り去って理解をしてあげればすんなり理解ができるのではなかろうか。詳しく私はものを知らずにこれは言うておるんで、無責任なことなんですけれどもね。いま感じたところがそういうふうに思うのです。
  55. 白木義一郎

    白木義一郎君 そこで、私も大臣ように人情豊かな考え方をしたいのです。そうでしょう。向こうへ行った先生がいろいろ案内され、丁重に扱われそして帰って、帰ってきてからも韓国情報部は種々身に影の沿うがごとく身辺保護に当たりますと、および諸般の事項について真剣にお守りしますと、こういうことですからね。すなおにとると非常にありがたいことなんです。だけども大臣、私はよく知らないという前置きがありましたからあれですけれども、ここですなおにとったんじゃあなたのお立場はそれで済まないじゃないか。それも帰国後とか、帰国前とかいう文章のミスであれば、それはまあだれかがやったんだろうからと、これは理事会でも笑い話で済んだわけですよ。これはひどいなと、いや、済みません、これから気をつけますで済むんですけれども、よけいなものが入っているわけです。今度はいまの立場から言うと、これは日本へ帰ったら何を言いふらすかわからぬじゃないかと、あるいはこれがよその国の人に話されたら、そういうこともあったんじゃ困るじゃないかと、だから帰ってからもこういう名目でKCIAは活躍しなければならないぞと、抜かりはないなと、文部大臣から情報部長にそういう依頼が行っていると、こういうことになるわけです。そこでまあすなおにおとりになることはたいへん大事な場合があります。もう人間は善意に善意に解釈していけば戦争なんか起きるはずないのです。  しかし、現実はそういうわけにはいかない。それで、いま戦力だ、いやそうじゃないと言って、口角あわを飛ばしているわけですが、こういうことからも、両国の関係をより友好に深めていくためには、こういう点も何らかの機会に日本としては、政府としてははっきりした態度韓国に対してとる必要があるんじゃないかと思う。それでも法務大臣は、いやそれは単なる事務的な間違いであろうと、韓国の要人はそんなあれじゃないと、日本の中にKCIAなんかいるものかと、金大中先生が連れて行かれたのはそうじゃないんだという見解に立って善意におとりになるならば、これはこの場としてやむを得ないわけですけれども、ちょうど九月の十三日に私がここで申し上げて、そしですぐ調べてみたら、十三日にこれを取り消しているわけです。それはそれでけっこうですよ。しかも、その内容というのは、八月十日から八月十九日までの滞在期間という文書が入っているわけです。それだけならもう何にも、ああお世話になりましたと、学校の先生は非常に韓国へ行って優遇されて帰ってきましたと、これだけで済むわけですよ。よけいなものが、そのよけいなものがいま一番日本じゅう、あるいは世界じゅうで注視している問題なんです。それがプラスされちゃっているわけです。ミスじゃないわけです。となると、どうしてもこれはそういう考え方、韓国の要人はそういう考え方を持っていると、こういうことにならざるを得ないのですがね。私もできたら大臣ように善意に解釈したい、こう思うんですが、いかがでしょうか。
  56. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) すんなり考えたらどうでしょうか。
  57. 白木義一郎

    白木義一郎君 みんなすんなり考えりゃ、もう何も要らなくなっちゃう。そうしますと、全部これ、今回の金大中事件もすんなり考えて、それでまあ何もなかったこととしてしゃんしゃんしゃんということになると、いままでのこの場における、当委員会における法務大臣の確信、決意あるいは第六感等が何だか、それこそこの間のあれじゃないですけど、私たちひやかされているような気持ちになるわけです。  そこで、御答弁を先に要求するわけじゃありませんけれども、これは何かのときに、こういう微妙な間違いは、韓国日本の間なんだから、今後は絶対にしないように厳重に申し渡すというそのお答えをいただければ、これはもうおしまいなんです。すんなりということは——要するにこれで一生身辺保護をしてくれるんですよ。諸般の事項を分析するんですよ、学校の先生が教室でどんなことを言った、教え子にどういうことを言ったということになっちゃうわけです。これはまずいんですから、まずいからあわてて取り消した。取り消したけれども、わが政府としては、われわれとしては、こういう考え方は今後それこそ日韓友好の妨げにならないとも限らないということで、今後の交渉の中に、あるいは将来条約も結ばれるでしょうけれども、大臣として、責任者としてそういうお考えだというお答えが返ってくると思っていたんです。くどいようですけれども、もう一度御答弁を願います。
  58. 中江要介

    説明員(中江要介君) こういう時期にこういうミスがあったために非常に誤解を与え、また各方面に御心配をかけて申しわけないということで、向こうのほうからこの新聞記事を見て驚いて事実を調べてあやまってきました。それに対してわが大使館は、全くそのミスにしては、その事柄の背景がいま両国の間でデリケートな段階であるので、非常に遺憾であると言って、そういう間違いは全く好ましくない、許しがたい間違いではないかと言ってきつく抗議はして、現地では一応その向こうの訂正の公文書も受け取っておりますが、なお先生の御指摘のように、その背後にもし間違った考え方というものがあるのであれば、これは非常に強く修正方しなければいけないと思うんですけれども、まあ本件に関する限りは、いまの韓国側からの訂正、陳謝、それからその釈明というもので、またそれに対してわが大使館でそういう間違いの重大性というものを指摘して強く文句を言ってございますので、そのところでさらに何らかの措置が必要かどうかということは、全般的な今回の事件の全貌が明らかになったときには、あるいはまた再検討を要するかもしれませんけれども、現段階では、これで本件は一応事実が、先ほどから繰り返しておりますように、韓国滞在期間中の便宜供与の対象に入っていたということで、向こうがミスだというのにもまあミスらしい面もあると思いますので、外務省としてはこれで了承——了承というか、まあ承っておくということにしておるわけでございます。
  59. 白木義一郎

    白木義一郎君 そうしますと、わが国の外務省は、重大なこれは誤りであると、私から指摘されて調べてみたらそうだと、その私は、朝日新聞を見て、これはと思って、それで向こうへ言ったら向こうもびっくりして——向こうもびっくりするし、大使館はぼんやりしていて知らなかった。だけど、これは重大な問題。ところが法務大臣は、そういうことはさらりと、こういう御見解、どうしてもそうおっしゃるならばこれであれですけれども、さらりというのはちょっとその困るんですがね。これはもう今後の問題ですからね。間違いはこれはもうだれしもやむを得ないことでありますが、その間違い方にも事と次第によりけりなんです。それで申し上げているんですがね、ひとついつものごとく快刀乱麻のごとき御答弁を期待していたんですが、はなはだ残念なんです。もう一度ひとつ……。
  60. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) ミスの背後にあるもの、これに注目をせなければなるまいという先生のお説は私もそう思います。よって、ただいま外務省から御説明のありましたよう事情でもありますので、この際はこれでさらりと受けるのでありますけれども、これは将来の問題として参考にいたしたいと存じます。しかと胸に入れたいと思います。
  61. 白木義一郎

    白木義一郎君 しかと法務大臣が胸にたたみ込み、胸にきざみつけたと——たたんだっきり、また法務大臣がかわってしまったら、永久にあなたの胸にきざんだっきりで何も役に立たないということになっては、それこそ口先だけの日韓友好ということになってしまいますので、できるだけ機会あるごとに、それこそ韓国との友好関係を深める一つの話し合いの交渉の中に、こういう誤りはまずいじゃないかと、やっぱり夫婦でもですよ、いつも仲よくしているわけにいかぬのですよ。けんかして、またあと仲よくなるということがあるんですから、そうがまん強くがまん強くというだけではまずいと思うんです。やっぱりお互いが言うべきことを言い、聞くべきことを聞いた上であらためて手を握り、進んでいかなきゃならない、こういう考え方でこの問題を大臣にしかと聞いていただきたい、こういうことで私が発言したわけです。  で、その件については以上で終わります。
  62. 原田立

    委員長原田立君) 午前の質疑はこの程度とし、午後二時半まで休憩いたします。    午後一時三十三分休憩      —————・—————    午後二時四十分開会
  63. 原田立

    委員長原田立君) これより法務委員会を再会いたします。  休憩前に引き続き、検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  64. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは、本日一流紙各紙に載せられているところの騒動予備罪の新設について、私のほうから若干質問をさしていただきたいと思います。  先日の委員会でこの刑法改正について、報道の自由に対する制約的な規定が設けられているということについて、これはまあ刑法改正といってもまだ法制審議会の段階でございますけれども、審議会でそういうのが採択されたということで、大臣にもいろいろ御所信を伺ったわけでございますが、これに追い打ちをかけるようにまたまたこの騒動予備罪というものが昨日の法制審議会の総会でまあ多数決で議決されたということを拝見したわけなんですが、それは事実そのとおりでございますか。
  65. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) 新聞の報道いたしますように、昨日午後から法制審議会の総会がございまして、相当の数の条文につきまして審議が行なわれたんでございますが、各紙報道されておりますように、騒動予備罪を設けるべきであるという意見が多数を占めたことは事実でございます。
  66. 佐々木静子

    佐々木静子君 この騒動予備罪の、その多数を占めたという内容について、もう少し御説明をいただきたいと思うわけです。
  67. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) 審議の対象になっておりますのは、特別部会が答申いたしました改正刑法草案が審議の対象になっておるわけでございますが、その中の第九章に「騒動の罪」というのがございまして、これはまあ実質的には現在の現行法にあります騒擾罪に相当する規定の章でございますが、その第百七十一条というものに「多衆が集合して、暴行又は脅迫をしたときは、騒動の罪とし、次のように区別して処断する。」という案になっておりまして、「主謀者は、一年以上十年以下の懲役又は禁固」、それから、主謀者でなくて、二号に「謀議に参与し、群衆を指揮し、もしくは扇動し、又は率先して勢を助けた者は、七年以下の懲役又は禁固に処する。」、三号に「その他騒動に参加し、又はこれに関与した者は、二年以下の懲役もしくは禁固、五万円以下の罰金又は拘留に処する。」というのが騒動の罪の正犯の規定でございまして、これに対しまして百七十二条がいま問題になっております騒動の罪の予備の規定でございまして、規定のしかたは、「前条の罪」——いまの騒動の罪「を犯す目的で、二人以上通謀して、多衆を集合させ、又は凶器を準備した者は、三年以下の懲役又は禁固に処する。」、そして、「前項の罪を犯した者が、」——つまり予備の罪を犯した者が「騒動に至らない前に自首したときは、その刑を軽減し、又は免除する。」、この百七十二条のいま申し上げたのが騒動予備と言われる規定内容でございます。
  68. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは現行刑法とどのように変わるのかということをお伺いしたいんですが、まず、いまの御説明で、騒擾罪に当たるのがこの騒動の罪だというお話でございましたが、これは騒擾罪の騒擾と騒動と概念は全く同一と考えていいわけでございますか。
  69. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) いろいろ案をつくる過程においていろいろの考え方があったようでありますが、いまのところ結果的に騒擾と騒動とは概念は同じだと、部会の審議の関係で騒擾の罪が厳格に解されるようになっておるので、むしろ騒乱ということばでもいいんじゃないかという議論もあったようです。  それではまたたいへん大規模なものしか規制の対象にならないのはおかしいということで、結局騒擾を騒動と変えたということでございます。
  70. 佐々木静子

    佐々木静子君 私もその点を伺いたかったんです。騒擾ということばはふだんあまり一般に使われないむずかしいことばですし、新聞などでは大体騒擾罪のことを騒乱罪というふうに報道している場合が多いわけで、騒動の罪というのは新たにつくられたようなことばのもので、何か特別の御意図があったんじゃないかというふうに思ったからでございますが。  そこで、騒擾の罪と同じだといたしますと、現行の刑法と今度の改正刑法とで内容がどう違ったのか、両方対照してちょっと御説明いただきたいわけです。
  71. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) 騒動の罪、いわゆる騒擾に当たる罪について、草案と現行刑法、どこが変わったかという御指摘でございますが、その点は、実質的に変わっておりますのは、現在の刑法の三号では「附和随行」ということばが使われておりますが、それを今度の部会の答申による草案では「騒動に参加し、又はこれに関与した者は、」ということばで、附和隨行ということばを避けております。これはいわゆる法務省の考えではなくて、部会における審議その他、きのうの審議会の意見を申し上げているわけですが、附和隨行というと、どうもことばのとおりになるといわゆるやじ馬も入る、しかし、やじ馬を入れるのは、少なくとも現行の判例も、その方向としては、単なるやじ馬は入らないという方向にあるので、それを排除するという考え方を背景にいたしまして、やはり騒動の罪——多衆暴行、脅迫の共同加功の意思と言いますか、容認する共同加功の意思はあるが、したがってやじ馬ではなくて、加功の意思はあるが、参加し、関与するという程度の参加のしかたの者も罰するという意味で、附和随行をややしぼった規定にしたということでございます。したがって、そうなりますると、附和随行ということで相当広く入っておった現行刑法よりも刑は重くても当然であるということで、現在の刑法では、附和随行は罰金等臨時措置法の関係でいま、規定上は五十円以下の罰金でございますが、一万円以下の罰金ということでございますが、今度の改正では、単なるやじ馬等を除きますので、「二年以下の懲役もしくは禁固五万円以下の罰金又は拘留」ということに刑が重くなったという点が、実質的に現行刑法と今度の草案の騒動の罪とは違うということでございますし、先ばしるようですが、現行の刑法ではそういう意味での騒擾罪の予備罪という規定はございませんが、それを新設するという点が違います。
  72. 佐々木静子

    佐々木静子君 このいま最後にお話があったこの騒動予備罪が一番の問題だろうと思うのでございますが、まず、附和随行がなくなった。確かに御指摘のように、やじ馬が一緒にこれ逮捕されるというようなことが往々にいまの騒擾罪の場合はあるわけでございますけれども、今度のよう規定を設けて共同加功の意思ということになった場合に、これは具体的にはどういう場合を共同加功の意思と認定するか、ここら辺も相当問題があるのじゃないか。これは騒動の罪になるようなことにならぬつもりで行ってたところが騒動の罪になったような場合というようなことが、実際上はそういうことが多いんじゃないかと思うんですが、そこら辺は御当局とするとどのように考えておられますか。
  73. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) それはいわゆる乱用の問題でございまして、解釈としては先ほど申し上げたようなことで、厳正、適正に運用されるべきものと考えておりますが。
  74. 佐々木静子

    佐々木静子君 これせっかくそういうふうに変わるのですから、しかもそのことによって刑が重くなるのですから、やはりそこはおっしゃるとおりにきっちりと概念をまずつけなくちゃ、同じような解釈で刑だけ重くなったというんではこれは感心いたしませんので、その点ちょっと重ねて伺いたいのですが。
  75. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) それはきのうの審議の過程におきましても、部会でさような解釈で、附和随行ということばではない厳格な解釈をしてい借るということで、部会の審議の模様が報告され、それを前提にして採決が行なわれ、そして多数がこれを採用した、こういうことでございますので、審議の過程というものが法律の解釈に重要な影響を持ちますので、その点は御心配ないものと考えております。
  76. 佐々木静子

    佐々木静子君 そしたらその問題の騒動予備罪のことでございますけれども、これは先ほど御説明にもあったように、目的罪でございますね。この目的罪の認定というものが、これはもう私が申し上げなくっても、一番の御専門の刑事局長には釈迦に説法のようなことになりますけれども、非常に捜査官憲の主観というものに左右されることがたいへんに多いわけでございまして、この予備罪をわかりやすく言えば、どのような場合に「前条の罪を犯す目的」というふうに解釈するか、もう少し具体的にわかりやすく説明していただきたいと思うわけです。
  77. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) その御質問趣旨がまたなかなかお答えしにくいのです。わかりやすくと申しましても、結局御心配は、目的が、ということ、つまり目的は、ことばのとおり、多衆集合して、暴行、脅迫をするという目的で二人以上が相談して多衆を集合させた、あるいは凶器を準備した、ということでございまして、その目的の認定というものがいわゆる取り締まり官の恣意であってはなりませんけれども、そういう意味におきまして、単に恣意的にその目的を認定してはなりませんが、具体的にわかりやすくと申されましても、なかなかこれ以上はことばでは言いにくいと思いますけれども。
  78. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはたとえば二人以上の者が通謀して集まって多衆を集合させて、または凶器を準備した者は、ということになっておりますけれども、これはどういう目的でその人たちが集まったか、どういう目的でそこへ来ているのかというのは、これは非常にむずかしい認定ですね。このとおりだとすると、これはこいつはつかまえてやろうと警察官が思っている場合だったら、自分たちはその目的で来たんだと思えば、これはもうたいていの者がつかまるわけですね、その目的のとり方によって。とり方によってというよりも、つかまえてやろうという気になればこれはそのように認定したと言えばそれだけの話のわけですから、そういう意味でたいへんに危険な問題じゃないか。これは憲法でせっかく集会の自由、結社の自由というものが高らかに保障されているにもかかわらず、そういうことになってくると、これはもう頭からそういう規定が、自由権の保障というものがなしくずしにくずれていくんじゃないか。そういうことで法務当局もいろいろとお考えにはなっていると思いますけれども、重ねて、非常に言いにくいとおっしゃるけれども、もう少しわかりやすい表現でこのあたりを御説明いただきたいわけなんです。
  79. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) この規定にもありますように、「二人以上通謀して、多衆を集合させ」でございまするから、ただ何ともわけもわからずに集まってきた人自体が処罰の対象になるのではなくて、通謀した二人が多衆をそういう目的で集合させるという、通謀した、このさせた者が予備罪の対象になるんでございまして、漫然と集まった者というものが対象になるわけではないわけでございます。ただ問題は、きのうの審議の過程にもありましたのですが、昔の刑法準備草案では、武器を準備して多衆を集合させたと、武器の準備と多衆の集合とが結びつきまして、二つの条件で初めて騒動予備となったのを、今度の草案は、集合させるかまたは凶器を準備したと、目的は騒動の罪を犯す目的で、二人以上が通謀して多衆を集めさせたか、集合させたか、あるいはそうではなくても凶器を準備すれば予備罪になるという点が準備草案よりも広くなっているということで、その点がまたあまりにも広くなり過ぎるじゃないかという少数意見もございましたけれども、多数意見は、騒動罪というものの規定の解釈自体が、今日、判例によりましても、一地方の平穏を害する程度のものでなければならぬというふうになりつつあることを踏んまえるならば、騒動罪本犯の正犯の規定の適用というのは相当むずかしい場合が多い、となれば、そういう場合には予備の段階でこれを取り締まる規定を設けることが妥当であるという意見が多数を占めまして、乱用乱用という批判につきましては、何事にても乱用があるので、この場合のみ乱用があるということを前提にして消極というのは短見に過ぎるという意見が多数を占めた次第でございます。
  80. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは騒乱の目的——ここへ自分は何の目的で来ているかということをみな紙に書いて胸にはっているわけではありませんから、集会を持とうと思って来たり、何かの相談をしようと思って来たりしたときに、どういう目的で来たかというのは、いま申し上げているよう捜査官の考え一つになるわけで、たいへんにあぶないじゃないか、まあ刑事局長のいまのお話はわかりましたが、そういう点で大臣はどのようにお考えになりますか。
  81. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) ひとつ御理解をいただきたいのでございますが、この本件の騒動罪をめぐる問題は、いま刑事局長から御説明をいたしましたよう事情で、多数をもってきまったのでありますけれども、これはまだ事務的内部でそういう動向にあるということが今朝の新聞に取り上げられておるのでありまして、まだ正式に法制審議会としては結論を表面に出しておるわけではない。いわば法制審議会の内部の事務的段階を出ていない、こういうことでございます。しかしながらいち早くこの事件を取り上げて御審議をいただくということたいへん恐縮に存じておりますが、この本委員会等で行なわれました論議は、速記録等詳細に将来とも調査をいたしまして、この重要な御議論は、答申を得ました上で、政府はこれをいかに取り扱うべきか、どう取り扱うかという問題が重要段階でございます。その取り扱い方針をきめますや、この方針に従って政府案を立案する。そこで政府案が立案されて、閣議決定を経まして国会に提出されるという順序になるわけでございますので、その段階におけるその取り扱いに関して、貴重な御意見はことごとく重要資料としてこれを参考にしたいと、こう考えておる次第でございます。
  82. 佐々木静子

    佐々木静子君 大臣お話、よくわかりましたが、前回の報道の自由に対する制約などの改正とか、あるいはスパイ罪、スパイ罪というか、産業スパイ罪のような新設、あるいは秘密——これは同じことになりますか、前回の場合も同じような御趣旨の御答弁をいただいておりまして、私どもも十分そのことを承知しているつもりなんでございますが、法制審議会の結論がそのまま法案になって政府から出されるとは私どもも思っておりませんけれども、しかし、これは重々法務省のほうにおいて御検討いただいて、まあどうかと思われる節の法案の答申は、これは法案になさるときに十分に御検討いただいてチェックしていただかないと、国民がこれたいへんな迷惑を受けることになりますので、大臣に特に重ねてお願い申し上げているようなわけなんです。  ちょっと質問を続けさせていただきますが、この予備罪のうちの「多衆を集合させ、又は凶器を準備した者は、」となっておりますけれども、これは凶器準備集合罪との関係はどうなのですか。凶器準備集合罪でもうすでに規定があるから、別にこういうことを設けなくてもいいんじゃないか、ダブっているんじゃないかという感じを受けるんですが、いかがでございますか。
  83. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) 佐々木先生御案内のとおり、凶器準備集合は現行法でも「二人以上ノ者他人ノ生命、身体又ハ財産ニ対シ共同シテ害ヲ加フル目的ヲ以テ集合シタル場合ニ於テ兇器ヲ準備シ」と、要するに二人以上の者が他人の生命、身体または財産に対して共同して害を加える目的でという点が、騒動罪ではもっと広い、多衆が集合して暴行、脅迫する目的でということで、凶器準備集合の場合の目的の対象が多衆という意味において広いということが違うほかに、凶器準備集合罪は御指摘のとおり、凶器を準備し、あるいはまた準備をしていることを知って集まるということでありまするが、したがって、その目的をはずしてしまいますと、凶器を準備した者はという観点においては、予備罪も凶器準備集合罪も、騒動予備罪の凶器準備の場合と凶器準備集合罪の場合の凶器準備集合とは同じになるわけでありまするが、騒動予備罪は、そのほかに、先ほど来申し上げておりますように、「二人以上通謀して、多衆を集合させ、」凶器の準備を要しないという点におきまして、凶器準備をするということがあとの段階とすれば、その以前の段階でも取り締まりの対象になるという意味におきましては、凶器準備集合に至る前段階でも取り締まれる点において、取り締まりの実益のある規定であるということになるものと思いますが、この点につきましても御指摘のとおり、凶器準備集合罪があれば十分ではないかという意見のあったことも事実でございます。
  84. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはデモ行進などに使うプラカードが凶器だというふうに認定された判例のあることは、むろん法務省も御存じのとおりでございますけれども、そういうことになってくると、この凶器準備集合罪の場合はその目的というようなことが明文上出ておりますけれども、かりにそういう見解をとるとすれば、たとえばデモ行進しようということでプラカードを持って集合場所へ集まる、と、もう行きがけているところにこれは予備罪だということでやられるというようなことも起こり得ないわけじゃないわけですね。そうなると、これは憲法で保障されているところの団体行動権とか、そういうふうなものがたちどころにこの刑法規定によってくずされてしまう。そういうところがたいへん心配するわけなんですが、いかにもこの規定はそういうふうなものの規定と相矛盾すると思うんですが、その点いかがなんですか。
  85. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) まあ乱用の点は、御心配いただくといろいろ御心配があろうと思いますけれども、先ほど来るる申し上げておりますように、いまのようにデモに参加するつもりでプラカードを持ってきたというようなことは騒動予備罪に当たらないはずでございます。なぜならば、多衆集合して暴行、脅迫することがデモの目的であるわけではございませんので、したがって、そういう目的で二人以上が通謀してプラカードというものを本来凶器として使用する目的で持ってきたということになればこれに当たりますけれども、単にプラカードを持ってデモに参加する者が集まったからこれになるということには、法の解釈としてはならないはずでありますし、そこまでわが国の警察が乱用するということは、ちょっと失礼でございますが、杞憂に過ぎるんじゃないかと思いますが。
  86. 佐々木静子

    佐々木静子君 むろん、そのような乱用は起こらないようにしなくちゃなりませんが、しかし法律というものは、だれがそれを運用するにしても、そのような乱用がもう起こらないようにすでにチェックしてかからなくちゃならないのが特にこういうふうな取り締まり法規において一番大事なことじゃないかと、まあ申し上げるまでもなく刑事局長おわかりのとおりだと思います。いまのようにこれはデモに対する非常な——そういうことは起こらないとおっしゃるけれども、これはまあ法務省方々はそのようにおっしゃっても、全国の末端の警察官一人一人が必ずしもそのように認定するかどうかということはわからない。ですから、やはりこの規定はもっと考えていただいて、そういうふうなことの絶対に起こらないだけの条文にしていただかなくては、これは安心して生活できないんじゃないか。  で、結局そういう目的でやったんだというようなことで、予備罪でつかまって裁判にかかって、裁判にかかったあげく無罪になったからといって救われるものじゃなくて、そのとき警察につかまるいうことがもうたいへんな問題なんですから、むしろそこからあとのことはたいしたことじゃないんです。つかまるかつかまらないか、そういうことが問題なわけですから、やはりこの予備罪の規定はよほど十分に慎重に考えていただかないとたいへんなことになるんじゃないか。特にお願いしたいと思うわけです。  これは大臣、先日来金大中事件などで、自由にものが言える、自由に言論の花を咲かせるというところが日本の民主主義の一番大事なことじゃないか、まあ先ほど来私からの質問に対しましても、この自由権が保障されている、この日本国憲法のもとで自由権が保障されているというのが非常にりっぱなことじゃないかということを再三承って、そういう御趣旨においては私もきわめて大臣の御発言に同感するわけでございますが、ところがこういうものができてきますと、結社の自由、集会の自由というものもそこなわれるおそれがある。特に団体行動権も制約される、いろいろなところでいろいろな問題が起こるんじゃないか、たいへんに心配されるわけでございます。そういう点について、もう時間もございませんので、この問題に対しての——まあこれは審議会からいよいよ法務省に答申があったわけでございますから、御担当の大臣として、特に在野法曹としての御経験もお深い大臣の御所信をぜひともお聞かせいただきたいと思います。
  87. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 先生のお説、たいへんよくわかりました。何が大事と申しましても、わが国憲法下におきましては自由、民権ほど大事なものはございません。かりに騒擾罪に関する法制審議会の結論が私のほうに進達されまして、それを受けて、この取り扱いはいかにすべきかという段階を迎えるわけでございます。法制審議会の意向、それから天下の世論、国会の論議、これらのものを中心といたしまして、これを重要資料といたしまして、あるべき姿に政府の具体的法案の内容を立案するという段階を迎えるわけでございます。それに際しましては、ただいま先生お説のように、いやしくも自由、人権の侵害が起こることのないように、騒擾罪の犯罪の構成要件を決定いたします上には、十分慎重に慎重を重ねてこれを決定したい、そして国会におはかりを申し上げたいと、こう考えます。
  88. 佐々木静子

    佐々木静子君 大臣の御答弁を伺って安心したわけですが、もうくどいようでございますが、これは刑法学会においても、また日弁連においても、たいへんに改正案のこの条項を問題にして強く反対しているようなわけでございますので、ぜひともその点を十分にお考えになって、いまの刑法の自由権を保障するためにも、厳重なる構成要件の規制、あるいは予備罪全部の撤回ですね、そういうふうな点においてぜひとも慎重におはかりいただきたいと特にお願いいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
  89. 白木義一郎

    白木義一郎君 先日異例の無罪論告、こういう事件がございました。常日ごろから人権という問題については非常に強い関心と決意を持たれている法務大臣にもお聞き願って、二度とこのようなことのないようにという国民の悲願をもとにして若干お尋ねをしたいと思います。  そこで、これは全く無罪である、裁判所で検事が無罪の論告をした、めったにない、おそらく始まって以来のことだろうと思いますが、なぜこのようなことになったかということについて、警察当局、あるいはまた検察庁の経過を御説明を願いたいと思います。まず警察のほうから。
  90. 田村宣明

    政府委員田村宣明君) お尋ねの、先日無罪の論告をした事件のことでございますが、警視庁の関係捜査の状況について申し上げますと、この事件は、中央区の新富町にあります第二帝興ビルの二階にあります大和屋洋紙店の事務所におきまして、四十七年の一月から六月までの間に現金、債券、約束手形等約二百八十万円相当が盗まれたという事件でございます。この事件につきまして無実の方を逮捕し、これを送致をいたしました。たいへん関係者方々に御迷惑をおかけをしたというはなはだ申しわけない経過になっておるわけでございます。  ただいま申し上げましたように、そういう盗難事件があったということで、六月二十日に築地警察署に、昨年でございますが、届け出がございました。警察では、現場を検分いたしますとともに、関係者からいろいろ事情をお聞きしたわけでございますけれども、被害品の入っておりました大型金庫は合いかぎであけられておるということと、その金庫のかぎは当時の捜査では経理部長と経理課の課長代理の二人しか持っていないというようなことなどから、内部犯行の線が強いというような判断を当時いたしておったわけでございます。   〔委員長退席、理事原文兵衛君着席〕  それで、手形が盗まれておりますので、これについて捜査を行ないましたところ、当時この第二帝興ビルの管理人が裏書きをして換金をしておる、金にかえておるということがわかりましたので、この管理人について事情を取り調べましたところ、課長代理の杉嵜さんという方に頼まれて債券や手形を現金化した、こういう供述があったわけでございます。それで、一方課長代理のほうについてもいろいろ捜査をいたしましたところ、まず金庫をあけられる立場にある二人のうちの一人である。それから、現金の被害が発覚いたしましたときに、上司からも言われておったんでございますが、証券類等についての点検を十分にこの方がやられなかった。また三月一日付で配置がえになっておるわけでございますが、その際も引き継ぎが、十分自分も引き継ぎをしなかった、帳簿と現物を合わせないまま引き継いだというようなことを申しておるわけでございます。それからそのほかにもまだございますが、それで、この課長代理の方は、手形の裏書きをしておる管理人については全然自分は会ったこともないし、手形の割引を頼んだこともないというようなことでございましたので、管理人と課長代理の話が全然食い違ってまいったということで、両者について、この点を対面の上話を聞きましたところが、管理人は、課長代理から依頼を受けた状況などを具体的に、詳細に説明をしたのでございますが、課長代理は、自分は全然知らない人だというだけでございまして、そのような状況から、当時の判断といたしましては、この管理人につきましては金庫のかぎが自由にならないということから、共犯としては考えられるけれども、単独犯としては困難であるというような判断の下に、先ほど申し上げましたような点から、その課長代理を被疑者として逮捕をして捜査を続けたわけでございます。  その後のこの課長代理の方の供述内容あるいはその他の捜査の状況を総合いたしますと、このかぎは部長自分が持っておるだけで、自分は机の中に大金庫のかぎを入れて、それにさらにかぎをかけて、そのかぎは持って帰るので、他の人が使用するということはないということを終始申しておるわけでございます。それから、有価証券等の取り扱いをやっておりますけれども、手形については、どうも預かっていた覚えがない、現金の被害が発生いたしましたときに点検をするように言われたけれども、点検しなかったのは、まさか被害にかかっているとは思わなかった、それからまた石川というこの管理人については、全然会ったこともない、いわんや、手形割引を頼んだこともないというようなことを申しますし、その際自分が無実であるということを強く主張をどうもされたというふうにも、ちょっとそれほど強い主張もされなかったし、アリバイ等があるというような点、あるいはこういう点をさらに調べてほしいというような点もございませんで、積極的な弁明があまりなされなかったというふうに聞いておるものでございます。そういうふうなことで、当時警視庁としてはこの課長代理の方を被疑者として捜査を進めまして、検察庁に送致をした、こういうふうな状況になっておるわけでございます。  ところが、本年の七月、久松署でこの当時のこのビルの管理人を別の窃盗の被疑事件逮捕いたしまして、余罪を追及いたしておりましたところ、この本件、課長代理の方が被疑者として捜査をいたしておりました本件について、自分がやったということを自供をいたしまして、その後裏づけ捜査をやりましたところが、間違いのない証拠関係が出てまいったわけでございます。なお、この供述によりますと、金庫のかぎは、自分がそのビルの宿直の晩に、この課長代理の机の引き出しから、これは無締まり、錠をかけてなかった状態であって、そこから取り出して実は大金庫をあけたんだ、こういう供述があったわけでございます。  そういうふうな状況でございますが、まあ課長代理を当時疑うような条件はあることはあったわけでございますけれども、やはり何と申しましても、この当時の捜査としては、金庫のかぎが二人以外には手にすることができないという先入感にとらわれたという点がございますし、この被疑者、当時の課長代理を被疑者でないという逆の面からの裏づけ捜査が不徹底であったということと、当時の管理人に対する捜査が不十分であったというような点から、人違いの逮捕をして捜査をするというような状況になりました。まことに申しわけのない事件を起こしたということでございます。今後はこのようなことが発生をいたしませんように、適正な捜査を推進するように一段と努力をしなければならない、こういうふうに考えておる次第でございます。
  91. 白木義一郎

    白木義一郎君 ただいま事件の経過の説明をしていただいたわけですが、いずれにいたしましても、この段階に至るまでに幾つかの間違いがあった、これは事実なわけでありますが、   〔理事原文兵衛君退席、委員長着席〕 犯罪が起きた、それから捜査を開始し、それから逮捕、それから起訴、裁判、無罪あるいは有罪、こういう経過をたどる間に幾つかのチェックする場所があるだろうと思います。われわれが知っている常識でも、何段階も、間違いのないよう当局は慎重に事件を扱って最終段階へ持ち込むと、こういうふうに承知をしておるわけですが、そのチェックポイント、まあ一般的にどのような段階を経て起訴あるいは裁判へ持っていくか。いま警察の取り調べの御説明がありましたけれども、それから書類送検をし、検察庁でこれを取り扱う、こういうことになるんじゃないかと思いますので、検察庁のほうでも御説明を願いたいと思います。
  92. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) ただいま警察庁田村刑事局長からお話しのような経過で、警察から事件が東京地検に送致をされまして、そして七月の七日にこの杉嵜徳さんにつきまして勾留状が出まして、そして、否認をしておった事件でございますので、検察官としてもいろいろ捜査をしたわけでございますが、結局七月の二十二日まで勾留を延期してもらいまして、七月二十二日に、否認のままで公判請求をしたということになるわけでありまするが、その間におきまして、先ほど田村刑事局長から御説明のありましたよう関係につきまして、否認の事件でもございましたので、さらに検察官としての捜査をやったわけでありまするが、つまり、結局うそをついたということに相なります守衛の石川の供述をさらに詳しく聞いたり、あるいは経理部長の小嶋さんからも事情を聞いたり、あるいは窃盗の対象になりました電電公社の債券の処分先である赤木屋の永井さんという課長からも、その処分に来たときの状況を聞いたりしたのでございまするが、結局のところ、警察段階で捜査されました以上の新しい証拠、つまり杉嵜さんを犯人と認定するための新しい証拠は出なかりたのでございまするが、警察の調書に出ていました内容をさらに詳しく調べることによって、検察官としては、否認はしておるけれども、石川の供述を中心として、いろいろ、先ほど刑事局長説明ようなことから、杉嵜さんを犯人というふうに判断をするに至ったようでございます。  そうして起訴をいたしましたが、結局公判でもずっと、真犯人ではございませんので杉山奇さんは否認をしておるということで、公判が数回重ねられまして、十月の五日、起訴されましてから、七月の二十二日でございまするから二月半ほどの後に保釈になりましたが、十一月の二十一日の第三回公判で、この本件検挙の端緒になっております石川を証人として調べましたところ、彼の証言は、石川の言うのには、杉嵜さんが、盗んだ、あるいは横領した約手を割り引いてもらった金でよくバーへ行ったというようなことを言っておったんですが、公判における証人尋問の過程で、弁護人のほうから、この石川証人が月に二、三度バーへ行くが金の出所はどこかと追及されてしどろもどろになったというようなことがあったり、それから一月後の第四回公判では、そういうところに来るとしばしば石川が反対尋問に対して証言を拒否するというようなことがあったり、あるいは第二回の公判で証言いたしました経歴がうそであることを認めざるを得なくなったというようなことが公判の推移の過程で明らかになってまいりまして、そこで検察庁といたしましても、どうも杉嵜さんを真犯人とすることに若干の不安を抱きまして、むしろ石川を一度取り調べる必要があるということで、警察でその後お調べになっておりますが、昨年の十二月十九日以後におきまして公判立ち会い検察官が本人を取り調べた事実がございます。  つまり、立ち会い検察官としては、石川の証言に疑いを持ちまして、石川の前科調書とか不提出記録、つまりこの杉嵜さんの事件について提出をしておらない記録等を抜本的に再検討を始めまして、ことしの二月の初めごろには、立ち会い検察官において、石川証人をいわゆる犯罪の嫌疑をもちまして調べた。しかしながら否認をしたということで、立ち会い検察官としては石川を本犯とするあれの調べが徹底できなかったということでございます。  そういうことでございましたが、先ほど警察からお話のとおり、別件で窃盗がわかりまして、石川が真犯人であるということに大体間違いがないということになりましたので、検察当局といたしましてはまことに遺憾な結果でありまするが、人権の侵害ということが一日も早く摘除されなければならないということで、その主任検察官の責任は別といたしまして、一日も早く杉嵜さんを無罪として青天白日の身にする必要があるということで、取り急ぎことしの九月に無罪の論告をしたということでございまして、長い経過ではございましたが、検察官が結果としては誤りであったということを認めて、かような論告をしたという経緯になっておる次第でございます。
  93. 白木義一郎

    白木義一郎君 経過はよくわかりましたけれども、その間に幾つかのミスがあったわけです。これはすでに終わってしまったことではありますけれども、今後の問題として、なぜそういうミスがあったか。これは単純な窃盗あるいは強盗というよう事件であって、背後関係に何もないと、こういうことであります。一課長代理が金庫のかぎをあけて手形等を盗んで流用したと。その証人は、盗んだそのビルの管理人の証人が大きな証言になったと。それだけで一人の無実の一市民が数カ月も勾留をされ、あるいは去年の二月の事件ようやく最近になってその無罪、ぬれぎぬが晴れた。金額にしていえば三百万円前後。しかし、この被害を受けた杉若さんの精神的あるいは物質的な損害は、これはもうたいへんなことだろうと思うのです。それを考えれば、ただまずかっただけではなくて、何か警察あるいは検察庁の、そういったようなしろうとのわれわれでも考えられないようなミスがどうして起きたか。ここに不安を持つわけですけれども、その点は、警察また検察庁の皆さん方大先輩として、よく調査、実態を調べて今後再びないようにしていただかなければならないと思います。その点ひとつはっきり御説明を願いたいのですが。
  94. 田村宣明

    政府委員田村宣明君) 人違いをいたしました原因と対策でございますが、私ども捜査をやる立場にありまして、間違って逮捕するということは最もあってはならないことでございまして、まあほとんど例はないことでございますけれども、これは皆無でなければならないということを目標に努力をいたしております。  それで、いままでの誤逮捕事件の原因というのはいろいろございますが、本件の場合でまあ一般的な問題として考えられますことは、やはりこの杉嵜さんは否認をされておるわけでございます。したがいまして、その供述内容についてさらに徹底をした捜査を当時いたしておれば、そこにやはりその犯人ではないというよう資料というものが出てきたのではなかろうか。やはり供述の裏づけ捜査というものを徹底的にやるという点が一つあると思います。  それから、やはり先入観にとらわれた捜査ということがあってはならない。本件の場合には、かぎを扱う人は二人しかいない。しかも、その机の引き出しに入っておってあけることができないというような当初のお話でありましたし、また経理部長は自宅に持ち帰っておるということでございますので、そういうことになりますと、これはやはり、その他の点ともあわせて、内部犯行であるというような先入観というものをもって、これに基づいた捜査をいたしてまいった。  それからもう一点は、管理人の石川でございますが、いま御質問にございましたように、まあ証言と申しますか、本件について自分がいろいろ裏書きをしておるわけですけれども、そういうことでいろいろ供述をいたしておるわけですが、この管理人について十分検討をすれば、当時としても疑いが出てきたのではないか。そういう関係者のそういう点の調査というものが不十分であったというような点が重なりまして、誤逮捕ということになったわけでございます。  いずれも、捜査といたしましてはきわめて基本的な事柄でございまして、そういうふうな点の捜査に抜かりがあった、いわば基本的な問題のミスであったというふうに考えられますので、そういうふうな点をひとつ、いま申し上げたような点をさらに取り上げまして、今後再びこういうふうな不幸な事件が起きませんようにできるだけの努力をし、また措置をいたしてまいりたいと、このように思っております。
  95. 白木義一郎

    白木義一郎君 そこで、警察の段階でそういうことであったというだけではなくて、それがさらに検察庁へ送られて、また検察庁のほうでミスがあったと、こういうことなんですがね。その点は検察庁のほうはどのようにこのミスをとらえて今後に対処されるか伺いたい。
  96. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) 通常、犯罪、刑事事件につきましては、警察から送致を受けまして、送致を受けた書類、証拠物を検討いたしまして、起訴に値する嫌疑、相当の嫌疑があれば起訴をするというのが通例の手続でございます。しかしながら、常々、われわれといたしましては、警察捜査をそのままうのみにして起訴をするということは厳に戒めなければならない、警察捜査捜査として尊重しながらも、検事の目から事件を見るということを忘れてはならないということは、常々指示をしておるところでございますが、本件は結果といたしましては、警察捜査内容検察官としても検討いたしましたが、警察捜査内容を信用して、判断としては一致するような結果が間違った結果を来たしたわけでありまするが、それはそれなりに、先ほど田村刑事局長もおっしゃいましたように、だまされたわけではありまするけれども、石川の供述がきわめて巧妙でかつ具体的であった。真犯人からものを頼まれたという者の言であろうというふうに思わせるほどに巧妙であり、かつ、一人合点ではありましたが、一応の推定といたしましては、金庫に入っている物が盗まれるわけでありますので、その金庫のかぎを預かっておる者、あるいはその金庫のダイヤルの番号を知っておる者が犯人であろうというのは、一応の合理的な推定であったわけでありますが、結果的には、そこをあまり強く信用いたし、そういうふうに判断したために、結果においては、これは金庫のダイヤルを回していなかった、合いかぎでもすぐあくようになっておったという点に問題がありまして、そのゆえにこそ、真犯人と目される石川が杉嵜さんの机の引き出しからかぎを盗んで直ちにあけられたということになるわけですが、その点は一応合理的ではありましたが、抜かっておったということに相成るわけでありますし、それから杉嵜さんが石川と一緒に贓品の処分に同行したという疑いの点につきましても、それに符合するような赤木屋の課長の、そういう人相の者が来たというよう供述もあったというようなことで、不幸な場合には不幸がますますアクセレレートいたしまして、杉嵜さんが真犯人ではないという方向にころがらないで、そう思えばそうではあろうというような方向に供述が合っていった。合わせだわけではなくて、そういう供述しか得られなかったというところに、結果的に不幸な結果を招いた原因があったと思うのでありまするが、何と申しましてもそれは弁解でございまして、警察の刑事局長のおっしゃいますように、否認事件でございまするから、否認をつぶすだけの自白を求めることは刑訴法の目的ではありませんで、否認をしておれば、否認でも認められるだけの、否認の線に沿って、その否認が否認のための否認であることを明らかにするという捜査の常道をいささか失念したきらいがあったという点は深く反省をいたしまして、二度とかようなことのないように、東京地検におきましても十分に監督官から指示しておりますし、私の信ずるところでは、かようなことは今後は絶対にないと信じておる次第でございます。
  97. 白木義一郎

    白木義一郎君 めったにないことということなんですが、これはちょいちょいあることなんです。これも裁判の段階で、その証人だった人間が実は犯人だった。その犯人から一生懸命警察も検事も取り調べの証言をとって、そして犯人をつくってしまった。ですから、これはわれわれもしろうとにしてもうなずけないことなんですね。そういうことにどうしてなったか。一般的にはやっぱり点数かせぎという制度はないでしょうけれども、どうしてもそういう点が強くなったんじゃないかと、こういう一般は心配をするわけですが、いずれにいたしましても、これがずっと裁判になって有罪あるいは無罪の判決が出てしまえば、こういう事件は表に出ないわけです。そういう事件は私も知っております。現実に目の前で行なわれて、結局は裁判で無罪になってそれで終わってしまった。これは警察官といえども、検事といえども人間のやることですから、間違いはやむを得ない場合もありますけれども、なぜこういう単純な間違いがあったかということを私が考えた場合に、そこに治安を維持するという立場の人たちに国民から与えられた権力というものがあるわけです。これは大きく言えば主権侵犯なんです。主権というのは主権在民で、一人一人が主権者ですから、その主権者を国家権力が不当に弾圧したと、こういうようなことになるわけですけれども、なぜこういう単純な間違いが起きたのかというその底流は、一口に言えばトラの威をかるキツネと、こういう考え方ができるわけです。要するに、善良な国民、市民を守って治安維持を続けていくために与えられた権力が、かえってまじめな国民にそれが被害を与えた。そこにはやはりまだまだ民主化されない検察陣の考え方が払拭されないんじゃないか。そこに人権が無視されるような問題が起きたんじゃないかと、このように思います。ですから、そういう観点から、今後ほんとうにもう国民が安心してまくらを高くして寝られるよう当局であって願いたい、こういうように思います。  それから、この件については当然責任の問題ということがありますけれども、これについて法務省は近く担当の検事らを処分する方針であると、こういうようなことが新聞に出ておりますけれども、これは当面の責任者の問題であって、最高の責任者はやはり法務大臣、あなたのところへ来るんじゃないか。そういうことで、この事件についてこの杉嵜さんのこの一年半の苦しみ、経済的な、精神的な、もう会社からは一銭ももらえない。子供たちにはできるだけ事件を知らせないように、しかも無罪の立証をしなければならない。また弁護士代も非常にかかったでしょう。しかし先日も、無罪の場合には刑事補償として、値上げになりましたけれども、その最高の計算でも二十一万円何がし。これもまあ官尊民卑の法律でありますから、いろいろ手続をとって国家に請求しなければもらえないというような非常に哀れな立場がある。そこで、今後あってはならないという、絶対にこういうことは最高責任者として起こさないという決意で、何らかのこの哀れな被害者法務大臣としての気持ちを披瀝するのが私は当然じゃないか、最高指導者として。私たちはふだん交通事故で相手をちょっと傷つけても、すぐ飛んで行っておわびをする。それから話し合いをする。こういうのが人間としてあたりまえなことなんです。ですから、私は当事者の処分を望む者ではありません。最高責任者の考え方で将来が決定するんじゃないか。われわれの五体にしても、ここをやられると全部こたえるわけです。こっちの故障は全部ここなんです。一国の問題は全部総理大臣なんです。そういうことから、何らかの形で、最高責任者の法務大臣として、このあわれな杉嵜さんに何らかの遺憾の意を、陳謝の気持ちをあらわして、そして今後二度とこのような不始末のないようにしていただきたい、こう思いますので、最後に法務大臣の御意見を承っておきたいと思います。
  98. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 本件は、先生おことばのとおりに、人違いで逮捕をして人違いで公判をしたという事件で、まことに申しわけがございません。この機会に私よりつつしんでおわびを申し上げます。申しわけございません。この当初人違いをするに至りました事情は、両刑事局長からるる御説明を申し上げましたことによっても大体理解はできるのでありますが、結果において人違いの逮捕、人違いの裁判ということは、申しわけないことでございます。私からおわびを申し上げるのでございます。  それから、これに対するおわび、ごあいさつという意味でございますが、これは制度によりまして国家補償の道と刑事補償の道と二様の道がございます。しかし、国家補償の道は、申すまでもないことでありますが、法律の命ずるところによりまして、人違いをするに至ったのは役人に、警察官ないし検察官に人違いをするに至った過失がある、あるいは故意がある、故意または過失があるということを立証していただかなければ、そして裁判にかけていただかなければ国家補償は取れないという欠陥があるわけでございます。一方、刑事補償、国家補償に対し——似たようなことばでありますが、刑事補償の制度を活用をいたしますならば、故意過失の立証などは要らない。無罪の判決がおりたというだけでよろしい。それで計算ができるのでございます。この裁判仕事裁判官が、裁判所がこれをおやりになることではございますが、法務省検察庁はこれに対して意見を述べる立場におるわけでございまして、刑事補償手続、国家補償の手続でなく刑事補償手続によっておわびの道を考えなければならぬということで、目下検討をしておるところでございます。誠意を尽くしてこの刑事補償の道を講じておわびをしたい、こう申し上げます。どうぞ先生におかれましても格別の御理解をいただきまして、御了承をいただきたいと思います。
  99. 白木義一郎

    白木義一郎君 大臣のお考えはよくわかりました。  そこで、そういったよう法律的な問題は、当然いまお述べになっていただいたように誠意を尽くしてやっていただくと同時に、最高の責任者として、被害者に何らかの形で、たとえばはがき一枚出すとか、あるいは代理の人を差し向けてという、人間味のある政治はどうしてもこれからの日本に欠かせない問題じゃないかと思うんです。ひとつお考えおきを願いたいと、こう思います。
  100. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) よくわかりました。これは深刻に反省をいたしまして、今後かくのごときことが起こる余地のないように十分に反省の資料といたしたいと存じます。同時に、今明日、時間を得まして、私みずから被害者に足を運んでおわびのことばを申し述べたいと存じます。     —————————————
  101. 原田立

    委員長原田立君) 本件に対する質疑を一時中断し、商法の一部を改正する法律案、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律案及び商法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律整理等に関する法律案を便宜一括して議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  102. 鈴木強

    鈴木強君 私は、ただいま議題になりましたこの三つの法律案について若干の質問をいたしたいと思いますが、個々の条文の質疑に入ります前に、一般的な問題として少しく大臣にお尋ねをしておきたいと思います。  今回三つの法律案を御提案になっておりますが、提案理由の説明書を拝見しますと、ここにも述べておりますように、まず「商法の一部を改正する法律案は、現下の社会経済情勢にかんがみ、株式会社の運営の適正及び安定をはかり、あるいはその資金調達の方法に改善を加える等のため、早急に改正を必要とする事項について、商法の一部を改正しようとするものであります。」と、こう述べてあります。ところが、いろいろ御苦心をなさって改正案を提案されたと思いますが、改正案の中身を少しく勉強させていただきますと、まだまだ現在の改正だけでは不十分だと私は思います。もう少し、たとえば株式会社のあり方にいたしましても、大きなものと小さいものとをごっちゃにして、その区分け等についてもあまり十分なされておらない。まあ例をあげれば幾つかございますが、いずれにいたしましても、この改正によって実際の運用の面で問題の残る点も幾つかあるように思います。それから、なおさらに改善を加えなければならない点も幾つかあると思います。そういう点を考えますときに、まだまだこれは不十分な改正案であって、もっともっと実態に合った、社会情勢、経済情勢に合った改正案でなければならないと私は思うのでございますが、もう少しそういう点をお考えになって、国民の負託にこたえるような改正にしてほしかったと思うのですが、もし不備がたくさんあるとすれば、どうしてそういう不備を十分煮詰めてお出しにならなかったのか、大臣としてそういう不備があることを認めるのかノーなのか、認めるとすればその点はどうするのか、なぜ今度そういう点を全部整理してお出しになれなかったのか、そこいらをちょっと最初に承りたいと思います。
  103. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) お尋ねをいただきましてたいへん恐縮に存じます。先生おことばのとおりに、今日の時代の趨勢に——ぼんやりした言い方でありますが、時代の趨勢にかんがみまして、商法を根本的に改正しようと思いますと、私は三つの柱がある、いろいろこまかいことはございますが、おもなものは三つの柱がある、こういうふうに考えるのでございます。  その一つは、今回改正のお願いをしております監査制度、これを会計監査にとどまらず業務監査にまで及ぶように監査を徹底して、会社の健全な繁栄をはかるようにしたいということが第一でございます。  第二は、とかく会社の執行部ともいうべき社長を中心といたします取締役会というものがどうも形式に流れ、独善専行におちいっておるきらいがございます。これをセーブするものがない、独壇場である、好きなようにやっておる、こういう社長を中心といたします執行部という——ことばは妙なことばでありますが、執行部、取締役会というものを中心とする運営組織、これは根本的に改めなければならない。  それからもう一つは、最近問題になっております株主総会でございます。大事な株主の権利を預けておる株主総会が三分、五分で、大会社の株主総会が拍手一つで終わってしまう。こういうことは株主総会の組織運営というよう事柄を根本的に変えなければいかぬ。  この三つの柱があるものと存じます。ところが先生、この三つを一ぺんに改正をいたしますというと、生きて動いております株式会社がひっくり返ってしまうんです。そこでとりあえず第一段をここに採用をいたしまして、御審議等お手数をわずらわすことにいたしました。次の取締役会、株主総会の組織運営に関する問題は、今回の第一のお許しが得られたる上に立って改正をはかりたい、そして理想の姿に持っていきたいものだ、こう念願をして、今回の改正をお願いした次第でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  104. 鈴木強

    鈴木強君 大臣のいまお述べになりました三つの柱のうち、三つを一ぺんにやれば会社がつぶれてしまう、そういうことになるのでとりあえず一本ずつやるのだ、そういうお話だと思います、結論的に。しかし、たとえば取締役会が形式に流れ、独善的なものであってこれをセーブすることができない、したがってこれは改正をしなければならぬということですね。それから、なるほど株主総会のあり方については、私ども世上見聞きしておりますところによりますと、きわめて形式的に流れており、はたしてその会社の株主総会にふさわしいものであるかどうかということはよくわかります。ですからそういうものを、悪いことがわかっておりながら見て見ぬふりをするということではないと思いますけれども、大臣のおっしゃる三つの悪い点があるんだが、その三つを一ぺんにやれば会社はつぶれてしまうということは少しこれは極端な表現ではないかと思うんです。取締役会が形式に流れておることをもう少し形式に流れないようにするという歯どもはどういうふうにかけていったらいいのか、あるいは株主総会のあり方について悪いならばこれをどうすべきかということは、勇断をもってやはりやるべきではなかったでしょうかね。つぶれるということはどういうふうにつぶれるのか、明確に教えていただきたいと思うんですが、受ける感じとして、大臣、そういう意味ではないと思いますけれども、極端に言ったらこの三つをやったらつぶれてしまうから一つずつやるのだというお考えのようですが、そこが私にはわかりませんから、もう少し詳しく説明してください。
  105. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 三つを同時にいたしますと、あまりにも長い間の習慣になれております株式会社に急激な変化を与え過ぎる、おとなしいことばで申しますと。私荒っぽくものを言うくせがありますので、たいへんになるんだということを申し上げたんですけれども、あまりに急激な変化が起こり過ぎるんだと。そこで、その株式会社の急激な変化を避けながら順調に改正を加えていくという態度に出ていきたい、そういう趣旨でございます。  たとえば、今回のお尋ねのないことを一口申し上げるわけでありますが、今回のこの改正の監査役制度というものをちょっと見ましても、会計監査だけでなしに業務監査を行なうんだ、こういうことなんです。むろん五億以上ということで衆議院から持ってきておるわけでございますけれども、五億以上にしても何にしても、とにかくそういうことが必要である。そうしますと、会計監査ができて——これはだれでもできるものじゃないと思うんです、会計監査ができて業務監査ができる、材料の購入から生産工程から製品の販売に至りますまで、そういう工程が全部わかるような監査役というもの、なかなかこの監査役一つを選ぶのでもむずかしい仕事、ちょっと人材が見つからぬのではないかと思うほどむずかしい仕事でございます。そしてそれがかりに選ばれた暁においては、いままでと違う点は、取締役会に出席をする、発言をする、発言を聞き入れなければ裁判所にお願いして仮処分を行なう、こういう権限が監査役に与えられておるということでございますので、監査役の仕事もたいへんでありますが、選ぶ仕事がたいへんである。これ、大急激な変化ですね、これは。  こういう点を考えてみますと、その上取締役会の構成要員として新しい労働組合から出てくる人があるとか、あるいはいわゆる資本家以外の者が出てくるような場面がそこへ規定されるとか、組織運営が変わってくるなどということは容易なことではなかろう。ことにこの株主総会の運用上の変化などというものは一大変化をもたらすのでございますから、これはたいへんな事態になるのではなかろうか。生きた株式会社というものをあまりびっくりぎょうてんささずに、ぼつぼつ馴致していくように努力をいたしますということになりますと、とりあえず今回お願いしておることを一つやりまして、そうして続いてあとの二つについても手をつけるようにやっていくことが実情に沿うのではなかろうかというふうな考え方を持って、これをお願いしておるのでございます。
  106. 鈴木強

    鈴木強君 どうもちょっと理解ができませんのは、取締役会というものが非常に形式的に流れておる、独善的であるということを認めておきながら、たとえば監査制度ですね、監査制度そのものについての健全化をはかるために業務監査というものをやる、そうでしょう。そして監査役というものは一体どういうふうにきまっていくかというと、まず取締役会が監査役の候補者をきめますね、そしてその候補者の中から株主総会で監査役を選任する、こういう方法をとられるわけでしょう。そうですね。そうしますと、形式に流れて独善的に流れて、それに対して歯どめのできないような取締役会が候補者を選ぶわけですよ。これ、論理の矛盾じゃないですか。だから、まず形式に流れ、独善になっているこの取締役自体の姿勢を正さなければ、監査役という制度をせっかくつくって業務監査もしていただくということになりましても、ぐうたらな取締役、欠陥だらけの取締役会が候補者を推薦するのに、いいのが出てきますか。監査役のほんとうの独自性を保ってやれるような者が出てきますか。私はそこにあると思うんですよ。結局自分たちの都合のいい監査役を任命して、そしていろいろ問題があっても適当にやってもらう。粉飾決算なんというものは、いろいろあとから伺いますけれども、そういう逃げ道が私はあると思うのですよ。だから、取締役会が形式に流れておるならば、そこのところにちゃんとした歯どめをかけて、ほんとうに独善に流れない、形式に流れない取締役会になるよう法律改正をちゃんとしておかなければ、せっかくの監査役制度、業務監査というものをやろうとしましても、その効果を私疑うわけですよ。そういう論理の矛盾がこの法律改正の、監査制度一つとりましても、私はしろうとですからよくわかりませんがね、しろうとはしろうとなりにそういう矛盾を発見するわけですよ。ここいらは大臣、あなたの言うようにつぶれてしまうという極端な表現じゃないと思いますけれども、一挙に改革をすることは、確かに従来の慣習もあることですから、むずかしい、ですから一歩一歩改善していくというのも一つのこれは方法だと思いますけれども、どうも極端に形式に流れ、独善的である取締役会だということを認めてしまっておるわけですからね。そういう中でその取締役が会計監査役の候補者を任命するということはどうしてもぼくは理解できないのですよ。その辺の論理の矛盾というものはこれはだれだってわかると思うのですが、そういう矛盾を認めながらなぜ……。
  107. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) この監査役の制度というものをこのたび改正をいたしますね。そうすると、この監査役は重役会に出ていく、監査役を重役会に入れないで重役会を開くと、この重役会は無効となるというほど権威を持たして出席をさす。そうして取締役会のきめる事柄は定款に違反をすることのないよう、国の法規に違反をすることのないよう商法違反の起こらぬようにこれをきめていく。そうすると、第二の改革点であります役員会、取締役会の、組織は別にいたしまして、運営に関しては相当程度の改革になりますね。第一の改革だけだと、こう私は説明したのでありますが、これができ上がった暁を考えますというと、第二の取締役会の運営ということに関しましても重要な変化が起こってくる。この上第二の取締役会の改正は何をおやりになるかというと、取締役会を構成する組織に関する、どういう取締役を選ぶかという取締役会の組織に関する改正等が行なわれていく見通しでございますが、そういうふうにやってまいりますというと、徐々に改正ができるのだということがほんとうの実はねらいでございます。なお、詳細につきましては民事局長が来ておりますので、民事局長から御得心のいくよう説明をさすことにいたします。
  108. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) たいへん基本的な重要な問題でございますので、今回の商法改正の経過から御説明申し上げたほうが御理解いただけるのではないかと思います。御承知ように、昭和四十年に山陽特殊鋼という会社が倒産いたしました。これが突如として解散いたしました背後には、粉飾決算があったということが明らかになったわけでございます。何ぶんにも大きな会社でございますので、関連する企業、債権者、株主、従業員を含めまして大きな社会問題を惹起したわけでございます。その後、こういった粉飾決算が問題にされまして、かなり多くの会社において粉飾決算が行なわれておる、これを放置いたしますと、社会的に憂慮すべき事態が頻発しないとも限らない。株式会社の経理をもっと厳正にする必要があるということが指摘されたわけでございます。  それと同時に、単に決算の関係のみならず、会社の業務全般にわたってもっと適正な運営をはかる必要がある、こういうことで、国会などでもいろいろ御指摘をいただきまして、法務大臣の諮問機関でございます法制審議会の商法部会において急遽この問題を取り上げるということになったわけでございます。その際、商法部会におきましては、会社の運営を適正にする方法として二つの案をつくったわけでございます。  その第一といたしましては、現在の株式会社の取締役の制度、取締役会を中心として運営されている取締役の制度を充実強化させるという案。  それから、第二の案といたしましては、現在の監査役、これが会計監査のみを行なっておりますが、これをもっと充実強化したものにいたしまして、業務監査まで行なわせる。この二つの案をつくりまして、実際界その他各界の意見を聞いたわけでございます。  まず、取締役の改正によって改善をはかっていこうという案でございますが、御承知ように、現在の会社の業務執行というものは取締役が行なっております。そして、その意思決定を行なう取締役会というものは、同時に代表取締役の監督機関であり監査機関でもあるわけでございます。したがって、この取締役会というものを強化していくということも一つの考え方であったわけでありますが、これに対しまして各界から寄せられました意見は、現状においてこれを行なうことは相当問題がある。それと、また実効が期し得られるかどうか必ずしも自信がないということであったわけでございます。それはどういうことかと申しますと、御承知ように大きな会社になりますと、取締役は二十人、三十人というように非常に大ぜいおります。しかも業務の執行をそこできめるわけでございます。そういう会議体に、業務の執行を一方では行ないがら、またその監督の機能も行なわせるということは、適任者を得られないという点、それから、業務の執行と監査とが混淆いたしまして、必ずしも十分な監査の実が上げられないのではないか、こういった点がおもな意見であったわけでございます。  その結果、第二の案である、監査役の権限を強化して、これを充実させて、それによって株式会社の運営の改善をはかっていくという方向が決定され、今回の案はその線に沿って立案されたものでございます。しかしながら、先ほど大臣も仰せになりましたように、監査役の強化だけによって十分制度的に完全なものが得られるかどうかという点につきましては、なお問題が残っております。そういった問題につきましては、今後もなお検討をし、必要に応じた改正を行なっていく必要があろうと思いますけれども、これは非常に大きな問題をはらんでいるわけでございます。と申しますのは、最初に先生がおっしゃいましたように、現在の株式会社というのは非常に資本の額の大きな会社から小さなものに至るまで千種万態あるわけでございます。個人企業のような小さなものから、資本金の千億をこえる大きな会社までございます。これを一律に一つの制度によって、取締役会をどうする、監査役をどうする、株主総会をどうするということをきめていきますことは非常に困難な問題があるわけでございまして、そういった株式会社の規模の問題も同時に考え合わせながらでなければ、取締役会あるいは株主総会の問題を十分処理できないのではないか、こういった点がございます。そういう点もございまして、今回の改正案におきましては、比較的そういう問題に大きな影響を与えないで済む、しかも会社の業務の運営を適正にするために直接的な効果をあげ得ると思われる監査役の制度の改正、これを主眼にして立案いたしたものでございます。
  109. 鈴木強

    鈴木強君 あなたね、えらい長々とその経過を説明してくれましたけれどね、私の質問に何も答えてないんです。何を言おうとしたんですか。私もそのくらいの経過は知っておりますよ。それでね、まず取締役の制度を充実強化するというのと、監査役を充実強化して業務監査も行なわせると、この商法部会の答申が出て、それを忠実に実行できないでしょう。で、しょうと思っていろいろ各界の意見を聞いたら反対を食ったと、その取締役のほうはね。しかも、そのいま最後に言っているように、株式会社は千差万別であって、一千万円から何十億というその資本金、千差万別で、そういう会社の規模も問題になって考えなければならないから、取締役については、第一の問題についてはこれはペンディングにしてあるということなんです。私はすべての取締役会が形骸化し、独善であるとは思いませんよ。それはちゃんとした会社だってあると思いますがね。概して言えば、その大臣のおっしゃったようなことだと私も思いますけれどね。そうであれば監査の面ですね、これは、監査の面を強化するということも、これは粉飾決算をなくしたり、正常な業務の運営をしてもらうという意味においては私はわかるのですよ、これはわかるのですよ。ただ、一番問題なのは、取締役というのが形骸化し独善であるという、そういう一般的に改善しなければならぬということがわかって、商法部会からの答申もあったにかかわらず、それをそのままにしておく。今度監査役を設けて、業務監査もやるんだが、その監査役の権限を強化しようとすることでしょう。そして会社経営に対してもっと鋭いメスを入れて、悪いところは悪いとして指摘をし、正常な、国民の納得する経営をしていただこうということですから、その面はいいんですよ。  ところが、幾ら権限を強化しようとしてみても、大事な監査役の候補者というものが取締役会できめられるわけですね。そうするとその候補者が総会で承認されるということですから、問題はあまり改善をしない。独善に走り形骸化している取締役会が候補者をきめて、それがおそらくもう株主総会ではさあっときまっていくわけですね。まあ、違った例があったらここで発表してもらいたいですがね。取締役会できめた候補者が株主総会で変わったというのがあったら、これは教えてもらいたいんだが、おそらく取締役会できまれば、これは株主総会で監査人になっていくと思うわけですね。したがって、その基本である取締役というものがちゃんとしておらなければ、選んだ候補者はやはりその会社べったりのような都合のいい人を選ぶということは、これはちょっと常識的に考えればそうなると思うのですよ。だから、その選出の方法についても、もう少しこれは考えなければならぬと思いますけれども、しかし現状改善をしなければ、そういう取締役が改善されないで、このままで推薦行為をされるとすれば、やっぱり私は、そこにいかに監査役そのものに対して権限を持たしてみても、その監査役は権限は持っているけれども実際の行使ができない、従来と同じような形のものに終わるんじゃないかという危惧を持つのはこれはあたりまえでしょう。  そこのところをなぜ放置して、監査役だけをやったのか。監査役の制度はけっこうですけど、一番大もとの推薦する取締役会というものがぐうたらじゃ、これはりっぱな監査役の仕事はできないでしょう。その点を一体どうするのですかということを理論的に、わかるようにひとつ説明してほしい、というのが私の質問ですから、あなたは局長ですから大臣以上にその経過も知っておられるのでしょう。国民が納得できるように、これこれこういう理由で、取締役会というものはいろいろ問題がありますがこうです、ということを答えていただかなくてはいけないでしょう。一体あなたはいまの取締役会の中に——具体的に、抽象論じゃだめです、これは。これとこれとこれとこういう点を改善すべきだというふうにあげてくださいよ。資本金がどうとか、株式会社の経営がどうとかいうことでなくてね。いまどこに問題があるわけですか、その取締役会の中にどういう問題があるのですか。それから、その資本金によってもし問題があるとすれば、それをどういうふうに整理したら時代に即応したこの分離案ができるのか、それはどうなんですか。
  110. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) まありっぱな監査役をつくっても、取締役会が選任する以上は取締役会を改善しなければ解決しないではないか、そういう御趣旨の御質問でございますが、今回の改正によりまして、監査役というものはその権限においても強化されますし、それから地位においても強化されるわけであります。したがいまして、監査役として選任される者が今後、従来の監査役とは違ったもっとりっぱな人が——と申しては現在の監査役に失礼でありますけれども、いわゆる大ものを持ってくるということになることが期待されておるわけであります。もちろん、いかなる制度をつくりましても運用は人によってなされるのでありますから、そのとおりにならなければ問題は解決しないということになろうかと思いますが、現に財界におきましては、このような改正が行なわれれば、新しい監査役にふさわしい、その地位と権限にふさわしい監査役を置こうという気運が出てきております。それによりまして監査役の地位が上がり、大ものの監査役が配置されるようになる。そういたしますと、それによって取締役会も牽制されまして、したがって取締役会自体も監査役に対して十分敬意を払うようになりますので、その意味で会社の運営の適正がはかられるということになろうと思います。   〔委員長退席、理事白木義一郎君着席〕  ただ、取締役会についての問題点といたしましては、現在多くの会社におきまして、やはり代表取締役というものが非常に大きな力を持っておるわけでありまして、取締役会で意思を決定すると申しましても、結局代表取締役に引きずられてしまう、こういう傾向があるわけであります。商法は、取締役会が中心となって会社の執行部の意思を形成していくということを期待しておるわけでありますけれども、現実の運用といたしましては、代表取締役が中心となって取締役会がそれに引きずられていくというような形をとっておるわけであります。したがいまして、こういった点につきましては今後の問題として、権限の面あるいは選任の方法等について検討を加えて、そして単なる代表取締役が個人の力によって会社を運営していくということでなしに、やはり取締役がそれぞれその分に応じた活動をしていく、そういう形に近づけるような制度を考えていく必要があろう、こういうふうに思うわけであります。
  111. 鈴木強

    鈴木強君 あなたも、いまの取締役会の運営について、まずい点がある。たとえば、いまおっしゃったように、代表取締役がもうほとんど権限を持って何でもやっちゃう。あとの人たちは並び大名みたいになってしまう。これは現在の会社の常識的な、われわれが考える点だと思うのですよ、これは。結局資本金の出資なり何なりでもそうです、一番多く出しているのは代表取締役になる人が出しているのでしょうから、そうなればその人が思うように会社を動かそうとするわけだから、極端に言ったら、りっぱに法制上監査役が権限も強化され、実際には独立した立場によってやれるという、制度は改正してみたけれども、実際に会社の中をウの目タカの目で監査していくような人を任命するはずはないでしょう、その代表取締役が。だから結局イエスマンを据えて、そしてその会社の都合のいいような監査をしてしまう危険性がある。大ものの監査役を連れてくるというのだから、まあ天下りするかどうか私はよくわかりませんが、簡単に大もので、取締役が何と言おうとほんとうに制度によって改正されたような権限の上に立ってりっぱにやってくれる人が出てくればいいけれども、それは私はなかなか現状ではむずかしいと思いますよ。だからなぜ、そういう不備があって、あなたも具体的にこうしたらいいじゃないかということまでおっしゃって、代表取締役なりあるいは取締役との関係、そういう点を不備を認めるならば、どうしてその点を今度は出さなかったのか。それをやったから会社がつぶれるということじゃないと思います。そういう矛盾を認めながら、あなた方は矛盾をそのままにしておきながら、一方だけ形式的に監査役というものを、業務監査をさせるようになった、それから取締役会にも出席する義務がある、出席してなかったら無効だ。それは確かにその点は形式的には強化されたと思うが、強化されたって実際にそれができなければ何にもならないでしょう。それならば、やれるようにその不備なところを直すのがこれは筋じゃないですか。  何か商法特別部会から答申された二つの点の法制化についても、企業に対してあなた方は弱い、大きな企業に対して弱い。各界から意見が出たといったって、それぞれ各界の人たちが集まって法制審議会に専門家が集まって、これこれこうすべきだという結論が出ているのだから、やはり自信と確信を持って、皆さんが認めるなら直すべきですよ、改正すべきですよ。それが、重々不備を認めておるのであるから、どうして同時にできなかったのか。つぶれるというなら、どうしてつぶれるのか。ぼくはつぶれるとは思いません、そのようなことをやってつぶれるとは思いませんよ。ただ大臣がおっしゃるように、長い慣習の中でやってこられたことだから、一挙にやるとたいへん問題が起きるというその心配はありますけれども、だからといって、正しいことを遅疑逡巡することはこれは間違いです。間違いがあったら正すべきであり、また法制上不備であればそれを直して、その間違いを正しい方向に持っていくのが政府の責任であり、われわれの責任だと思うのですね。くさいものにふたをして、みすみす不備を認めながらそれを放置するというのはこれは重大な誤りであって、私は最初に一般論として質問してきたけれども、結局ここまで問題は発展してきてしまったのだけれども、これ一つを見ても、私は今度の改正については非常に、たいへんな抜け穴があるように思うんです。どうしてそういう点を、皆さんは専門家でしょう、そのために生涯かけているのでしょう。どうしてそういうことを実情に合ったようにしてくれないのかという不満が私はあるのです。その不満をいろいろ伺って、なるほどやむを得なかった、そうか、それじゃこれは次の機会に、というように、私たちが理解できるようなことであればいいのだけれども、これは絶対私は理解できないのですよ。そういう点は、これはもうあなたの説明じゃわかりませんね。
  112. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 私の発言説明が不十分であったのではないかと思うのでありますが、先ほどから先生のおことばにもありますように、ここにお願いしております改正ということを前提に置いて、大もののりっぱな監査役が選べる場合はと、こう仮定をして考えてみますと、これはなかなか取締役会の運営に対しては改革が行なわれるということが言えるんじゃないかと思うんですね。従来までの会計監査だけでなしに、業務監査もやるんだと、取締役会に出席もするんだと、定款、法規、世の中の動きと逆行するような買い占め、売り惜しみをはじめとして、いろいろな出過ぎたことはやれなくなるんだと、やればチェックする、チェックに応じなければ裁判所に申請をして仮処分の申請までできるなどというような権限が与えられておる。そうすると、人を得ることができるならば、取締役会の運営はいままでのような独善専行におちいらぬようには確かに運営ができる見通しが立つ。実際やれるかどうかは別にいたしまして、理論的にはそういうふうな見通しが立つ。問題は大ものを選ぶ、先生、道でございます。どういう具体的な道で大ものを選ぶのかという問題でございますが、何ぶんにも株式会社というものは営利企業体である、自由主義経済のもとにおける営利企業体である。そういう企業体のもとにおいて行なう最高の人事ということになりますと、取締役会の意向と無関係な人事ということは考えられぬ。また株主総会の意思とは無関係な人事というものも考えられない。やっぱりこの大事な取締役会がタッチして、株主総会が承認するというものでなければなるまい。たいへんそこのところはむずかしい説明になるわけでありますけれども、そう考えてみると、いま言うたような制度以外にない。先生仰せのように、重役会が選んで、そして株主総会に持っていって承認を受けるということ以外には道はない。   〔理事白木義一郎君退席、委員長着席〕  ところが、その重役会が選ぶのにそんなへぼを選ぶはずがありませんわね、これだけの商法の大改正を行ないまして、いままで前例を見ないような大改正をやって、監査役に権限を持たすのでありますから。制度上大改革をして、そうして生まれ変わった新しい監査役という制度をつくり上げるのでありますから、この権限、地位にふさわしい人物をやはり取締役会が選考する。その地位にふさわしい人物に株主総会が承認を与えるということになるのではないでしょうか。そういうふうに考えていきますというと、十全のものではないけれども、りっぱな監査役が選ばれなければならないように法改正を進めておるんだと、こういうふうに私は信じておるのですが、いかがでございましょうか。
  113. 鈴木強

    鈴木強君 確かに大臣のおっしゃるように、取締役会の意向なり株主総会の意向を無視して監査役を選ぶということは、これはできないと私も思いますよ。ただ、私が問題として投げかけておりますのは、大臣も率直に認められておりますように、いまの取締役会というものの改善が必要である。いま局長のほうからも代表取締役というものがリーダーシップをとってやっていくようなのがつぶれる、それはそうでしょう、おそらく。それも認める。だからそこいらに法律上改善策を加えていく必要があるということは認めているわけですよね。ですから、なぜそれをやれないのですか、というところに帰着するわけです、結論としては。そうしませんと、せっかくの監査制度というものが権限が強化されてみましても、それが実効の面で皆さんがお考えになるような形の働きをしないんじゃないだろうか。  それは会社のほうでは、大臣のいまおっしゃったような、いろんな権限があるでしょうけれども、最終的にそこまで踏み切って、会社と対決しても会社の不正をあばいていくというような正義感に燃えた監査役がはたして任命できるかどうかという、そこにもまた疑問を持つわけですから、せめて選出母体である取締役会というものの不備を是正をして、その上でそこで選出をしていただくというようなことができないものだろうか。具体的にまあここで私もどういう方法ということは言えませんけれども、おそらく商法特別部会が出した取締役の拡充強化という中には、それなりに勉強されて、こういう点をこういうふうに直すべきであると、これはやっぱり制度の改正によって初めてそれが実施できると、いままでの慣習でやらせておったのではいつまでたっても旧態依然としてマンネリ化してしまって進歩がないということからして、私は改善意見というものが最初に出てきたと思うわけですね。ですからそういう点をやっぱり直して、同時に監査制度というものが強化されていくということのほうがいいと思うのですよ。大臣もその点は理論的にはベターだとお認めにならざるを得ないと思うのですよ。  ただそれが何かの理由で、大臣に言わせれば三つ、三つやらなくて二つでつぶれたのかどうなのか、その点はあなたのお考えをまだ聞いておりませんがね。三つやればつぶれるとおっしゃる。二つでつぶれるかどうかですね。つぶれないならば、せめてせっかくのいい制度をつくるのですから、その制度と相マッチして、その制度が運用できるようなその母体についての改善策をやっていただくことが、理想というか、現実の問題としては一番いい方法ではなかったでしょうかと、こういうところに帰着しまして、その辺を——これはお互いに人間ですから、これこれこれこれこういうふうにしたができなかったんだと、したがってそのカバーはどういうふうな方法にしてカバーをして、現実的には今度改正される監査役の強化というものがちゃんと理想に向かってやれるという、そういう確信のある答弁を私はほしいのですよ。こっちからあなたの答弁まで教えてやる必要ないんだけど、事務局はそのくらいの頭を働かせて私の質問に答えるべきですよ。何だか同じようなことを経過ばっかり並べてみたってポイントをそらしてはだめですよ、これは。私の言っていることが間違いであったら、あなた間違いだと言ってくださいよ。それでなければほんとうのこれは質疑にならないでしょう。大臣は高いレベルからやっておられるから、そう一々経過ということもどうかと思いますけれども。まあたいてい大臣頭がいいんだからポイントを押えて答えてくれますけれども、きょうはちょっと、論理的な大臣の答弁としてもちょっと私は受け取れない点があるからこんなにきびしく私は食いついているんですよ。もっと明快に、国民にわかるようにあなた答弁してくださいよ。
  114. 田邊明

    説明員(田邊明君) いまの取締役会の制度についての改正問題でございますが、局長から答弁いたしましたように、まず法制審議会の決定いたしました要綱では、監査役の改正を取り上げて、先生が御指摘になった取締役会の改正の点は次の作業に残そうという結果になったわけでございます。その理由が先生お尋ねになる問題でございますが、当初の方向は、まず運営の基本を担当する取締役会、これを洗おうということで審議がなされました。そしておおむねその結論として出ましたところは、現在の株式会社、おもに大きい株式会社でございますけれども、この取締役の経歴その他から考えて、残念ながらいわゆるその会社の持ち主でない、俗に申しますサラリーマン重役というのが圧倒的に多くなっておる。つまり他人さまのものを預かっているという人たちが多いので、いまのままではこれを規制できないだろう。そうしますと、おのずから取締役のうちの半分以上とか、あるいは三分の一以上は法律で義務的に社外から取締役を入れろという結論につながったわけでございます。この段階で各界の意見を一度聞いたわけでございます。そういたしますと、大臣のおっしゃるようなびっくりするような反響が出た。その段階での対象は、局長の申しましたような百万をこす株式会社全体の問題として受け取られたわけでございます。しかし法制審議会の議論では、それはもちろん同族的な過半数の会社についてはそういうことを考えるのは無理じゃなかろうか。そこでそれじゃ大小二分をどうするかという議論になったわけでございます。  そしてその問題は一応たな上げにして、次に、現在ある監査役の制度をどうして利用できないか、こういう着想になって、現在の法案のような監査役を主体にした改正案がまとまってきたわけでございます。そこで法制審議会は、今回の商法改正が成立いたしますと、すぐに、先ほど来大臣が述べておりますような取締役会及び株主総会、この問題をすぐに取り上げて全面改正の作業に入る。取締役会だけについて申しますと、先生が御指摘になったような問題が早くからもう出ておりますし、外国の実は立法例ではすでに解決しているような点でございます。つまりその会社の持ち主である株主から選ばれてくるというのが本来の監査役の姿ではないか。つまり経営者の推薦する者でなしに、株主総会から持ち出してくるような候補者というものを中心に考えるべきではないか。それが改正法としては外国立法と同じように示されている。  このときに大小二分論が衆議院の御審議の経緯でも問題となり、附帯決議には大小会社の二分を考えろという決議をいただいたわけでございまして、この方向でさらに詰めることになります。御参考までに申しますと、法制審議会の過程でも大小二分を議論いたしましたけれども、現在の法案について申し上げても実は大小二分をやったわけでございます。特例法の形で。これに対しては小会社のほうから非常な反対意見も出たわけでございます。つまり、株式会社でありながら差別をしたのではないかというふうな反論が現在出ておるわけで、将来の作業としては、このあたりも十分検討する問題として残されておるわけでございます。
  115. 鈴木強

    鈴木強君 どうもわかったようなわからないよう説明するものですから、私にはまだよくわからないんだけれども、まあ大事なところはみな逃げているということだよ。結論として、あとに回っている。それで、とりあえず監査役の権限強化というものをやって、取締役で候補者をきめ、株主総会で選出をしていただいて、その監査役の良心に信頼をして、そして何とか目的を達成したいという淡い望みを持って始めたことだということが大体わかりました。しかしこれは大きな抜け穴があり、片手落ちであるということは明白であります。それは、大きな企業と小さい企業等に二分するくらいのことは少なくとももっと早い時期におやりになって、そして中小企業に対してはある程度の弾力性を持ってやはり見てやるとか、大企業のほうにはその悪いところはうんときびしくするとか、それくらいのやはり政治的な配慮をやらないといけないので、特に中小企業なんかの会社については、その運営によってまたどういうふうなことが出てくるかもこれも私は心配の種なんですけれども、そういうのを一緒くたにして問題を解決しようとするところにも私は大きな悔いが残っていると思うんですよ。そういうわけですから、一応私がほんとうにやろうとするにはこうしたらいいだろうという、その考え方は皆さんは否定をしないわけなんだが、とりあえずこそく的な片手落ちなものを出して何とかひとつ様子を見ようと、そういうものであるということがわかりましたから、それはまた、私はそんなことではいかぬという見解に立っておりますから、考え方だけはひとつわかりました。  そこで、まあ何ぼでも質問はするのです。これはもう尽きないのですけれども、特に各条質疑の中に入る前のことですから、もう一つ伺っておきたいのですが、近年、特に最近一部の不動産業者とかあるいは土地譲渡等に対する、ブローカーですね、そういうものが税理士行為をしているということを聞いているのですけれどもね。御承知ように列島改造が国民の前に示されて以来、土地の値段というのはたいへんな高騰をしております。昨年一年間だけでも三三%とか、昨年からことしにかけて上がったとも言われているのですが、とにかく土地を何とか手に入れようと、そういった激しい土地取得が行なわれていると思うのですが、そういう意味で、特に衛星都市を中心にして、あらゆる市町村にまで入り込んで土地の売買が行なわれている。その際、土地の譲渡を行なう所得税の申告にあたって、この売買譲渡の仲介を行なうようなブローカーがある、そしてこれが税理士行為をしている、こういう例が頻発しているように聞いているのですが、実態をつかんでおられますか。おそらくは何か契約のときにそういうことまでまかされたような契約にしてやっているというふうなことが言われているのですけれども、それは非常に私は遺憾なことだと思いますが、まず、そういう実態をつかんでおりましたら説明していただきたいと思います。
  116. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 法務省の立場では、そういう点につきましては調査したこともございませんし、実態を承知しておりません。
  117. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) 税理士に関しましては、税理士法が基準の法律でございますが、これにつきましては、大蔵省では主税局の管轄でございまして、本日は主税局は参っておりませんので、先生のおっしゃっております実態につきましてはちょっとお答えいたしかねる次第でございます。
  118. 鈴木強

    鈴木強君 まあ私の質疑が十分に関係の皆さんに通告をしてありませんから手違いが起きたのでありますから、これは主税局長が来ておられなければやむを得ません。そこで、次回にこれはまた譲りますが、あなたのほうから一応伝えておいてくださいよ。まあこれは委員長にもお願いするのだけれども、その税理士行為をやっているブローカー、不動産業者がおもだと思いますが、そういうものの実態を全国的につかんでおられるかどうか、つかんでおりましたら資料を出してもちいたい。つかんでおったらですよ。おったら資料を出していただきたい。おられなかったらなぜできないのか、その理由を明らかにしてもらいたい。それから、正規の税理士以外の者がこういう行為をすることを放置するわけにいきません。だからこれは、それに対してはどういうふうな行政指導をしておられるのか、法律的にまた規制をしなければならないのであれば、どういうふうなものを考えておられるのか、その点も含めて、次の機会に答弁ができるように、これはたいへん田中さんに恐縮ですがね、大蔵関係ですから、ちょっと言っておいてください。委員長にもそのことはお願いしておきます。
  119. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) ただいま先生からお話のございました点は、主税局に伝えましてしかるべき検討を依頼することにいたしたいと存じます。
  120. 鈴木強

    鈴木強君 それから、これはまあひとつこういう投書がありますからね、これをちょっと伺っておきたいんですが、役人さんの天下りの問題ですけれども、ここにちょっと投書が載っておりますので、これについてひとつどうなのかはっきりと回答してもらいたいのですが、「昨今役人の天下りがやかましい折ですが、名古屋国税局のやり方には、目に余る不正があるのでお知らせいたします。ある会社を強迫的に説得し、人事課長が先頭に立って、これ又、強制的に納税者に、退職幹部職員の天下りの世話をしている。これは五年程前から行われだし、この二、三年は公然と行なわれている。所轄の税務署長をまで動員して、弱い納税者をねらいうちしているのです。しかも、当該会社の関与税理士には何の挨拶もなく、その上、その税理士を追い出し、金の出そうな会社を、官職の特権を利用して、襲うのであります。私は、」——この投書の人ですね、「私は、それらの天下り役員がすべて無責任な税理士行為をなし、全面的な税理士の責任を全うしない連中であることはさておき、次の三点に大いに疑問を持つものであります。まず、公務員たる調査課の統括官や、国税局の人事課長に、公務時間中に、さような就職あっせんをする権利があるだろうか。」第二番目に、「名古屋税理士会は、さような不正な元公務員を何故放置して、どんどん税理士の資格を与えているのか。」これはまあ税理士会のほうに聞きますからこれはいいです。第三番目に、「税務調査にからませて行う就職あっせんには、調査上不正汚職が行なわれているのではないでしょうか。」ということです。これは国税庁のほうですな、これに答えられるのは。これは来てないのかな。
  121. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) もしその件が名古屋国税局関係でありますれば、おっしゃるとおり国税庁の問題でございます。
  122. 鈴木強

    鈴木強君 そうしたら、これはたいへん恐縮ですが、最近五カ年間に退職をした名古屋管内の署長クラスの退職後の就職先並びに入社の実態等について、もし資料がとれましたらね、出してもらいたいと思いますが、これもお願いしておきます。
  123. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) この件につきまして、先ほどと同様、そのようお話があったことを国税庁のほうに伝えたいと思います。
  124. 原田立

    委員長原田立君) 資料でしょう。
  125. 鈴木強

    鈴木強君 資料ですよ、資料を出してもらいたい。それは委員長のほうで取り計らっていただけませんか。
  126. 原田立

    委員長原田立君) いまの鈴木委員質問資料提出等の要望ですから。
  127. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) 出せるか出せないか、どのくらい調査ができているかということも聞きまして、そのようにお伝えいたします。
  128. 鈴木強

    鈴木強君 それから、少し教えていただきたいのですけれどね、今度三つの法律案の改正が出ておるわけですけれど、商法の一部を改正する法律案が適用される会社は何社ありますか。
  129. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) まず株式会社の総数でございますが、昨年の九月三十日現在で、全国の株式会社の総数が百一万五千八百五十二でございます。それから、特例法によりまして五億以上の会社については会計監査人の監査を受けることになっておりますが、これに該当いたします会社が二千七百七十二、それから一億未満の株式会社につきましては、これまた別個の特例が設けられておりますが、これに該当いたしますのが百万五千四百八十でございます。
  130. 鈴木強

    鈴木強君 この前、青木先生も質問されておりましたが、主客転倒だと言っておられましたが、私もそんなような気がするものですから、商法の一部を改正する法律案は具体的に一億以上五億未満の会社に適正されることになるでしょう、この点は。
  131. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 商法は、一応たてまえといたしましては、すべての株式会社に適用されることになっておるわけでございますが、今回、商法の一部を改正する法律案と同時に提出いたしました株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律案、この法律案におきまして、大会社すなわち資本の額か五億円以上の株式会社に関する特例と、それから小会社すなわち資本の額が一億円以下の株式会社に関する特例と、この二つの特例が設けられておるわけでございます。そしてこの一億以下の株式会社に関する特例といたしまして、今回商法の改正規定によりますと、監査役が業務監査を行なうことになるわけでございますが、一億円以下の株式会社につきましては、従来どおり会計監査の範囲にとどめるということにいたしておりまして、その意味で、一億円以下の株式会社につきましては、監査役の権限が従来と同じである、こういうことになるわけでございます。
  132. 鈴木強

    鈴木強君 ちょっと私の聞き方がまずかったかもしれませんから、もう一回こういうふうに整理してお尋ねしますから、それにお答えいただきたいのですが、商法が全般的に適用される、これはわかった話で、今回特例によって五億以上の会社が業務監査というものをさらにやるという形になり、それから一億以下は従来の会計検査で、現行どおりですね、そういうことはわかっておるのですが、それで第一に、一億以上五億未満の資本金の会社が幾つか、それから一億円以下のやつは何かいま、百万五千で、わかりました。それから五億以上が二千七百七十二社ですね。したがってそれはわかりましたから、一億以上五億未満の、この特例に該当しない会社というのがありますね、これが幾らになりますか。
  133. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 七千六百でございます。
  134. 鈴木強

    鈴木強君 それで、五億円以上の会社が二千七百七十二社あるそうですが、この中で、非上場の会社で十億円未満のものは除外されますね。その会社数は幾らございますか。
  135. 田邊明

    説明員(田邊明君) 二千七百七十二社の内訳でございますが、五億円以上の現在証取監査対象となっておる会社が千四百五十二社ございまして、これは特例によりまして四十九年一月一日から会計監査人の監査を受けるということになります。  次に十億円以上の非証取監査会社、これは銀行を除きますが、これは五百九十五。そして現在御審議願っております法律により五十年一月一日から適用を予定させていただいております。  その次に十億円以上の銀行、これが百二十五ございまして、これは五十一年一月一日から。そうして五億から十億の非証取監査会社、これは六百ございまして、これは別に法律で定める日から会計監査人の監査を受けるということになるわけで、以上、千四百五十二、五百九十五、百二十五、六百、合わせまして二千七百七十二ということになります。
  136. 原田立

    委員長原田立君) ちょっと速記をとめてください。   〔速記中止〕
  137. 原田立

    委員長原田立君) じゃ速記を起こしてください。
  138. 鈴木強

    鈴木強君 それじゃあ私はまだかなりの質疑が残っておりますが、時間の関係できょうはこの程度にとどめさしていただきまして、次のまた機会をつくっていただいて質問を続けたいと思いますから、どうぞよろしくお願いします。
  139. 原田立

    委員長原田立君) 三法案に対する質疑は本日はこの程度といたします。     —————————————
  140. 原田立

    委員長原田立君) 再び検察及び裁判運営等に関する調査と議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  141. 鈴木強

    鈴木強君 私は、ちょっと時間の関係で、防衛庁長官に、約十分程度しか時間がありませんのでお尋ねをしておきたいのですが、七日の日に長沼ナイキの違憲判決が出まして、防衛庁長官として、日本の自衛隊を預かる最高の立場にある長官として、この長沼判決を、違憲の判決をどういうふうにいま身に受けとめられておられるか、率直なその気持ちをお聞かせいただきたいと思います。当日の新聞には、張り切り長官声なしというような見出しで記事も載っておりますが、一部には、この判決が偏向判決であるとか、あるいは青法協の裁判官であるから当然予想した判決であるとか、いろいろ聞きますけれども、私はもうもっと厳粛に、三権分立の立場に立って、立法府はそれなりに受けとめてほしいという気持ちを率直に持っておるのです。かけ値のない、長官としてのこの判決が出ましたあとにおける気持ちですね、現状における心境、こういうものを承りたい。
  142. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 本案件は水源涵養保安林解除に対する争いでありますが、しかしその前提として、公益性を主張する根拠の自衛隊が違憲なんだからということで、私たちはいわゆる自衛隊、防衛庁というものが憲法違反の存在であるという司法の場における初めての一審における判決をされたわけであります。したがって、私は司法の独立ということはよくわかりますから、判決以前においてもそれを予測した言辞を弄しておりませんし、判決以後においても、テレビ、新聞、対談その他の企画にも一切私は出演をしておりません。ただその判決によって、私の直接の統括のもとにある隊員諸君に対しては私自身が責任者として訓示をいたしました。それ以外は、質問があれば個々の個条について私の見解は述べておりますが、積極的に述べる見解は、政府として官房長官、訴訟当事者として法務大臣ということで、その意味では私自身は表に立たないことをもって一審判決を受けとめる姿勢といたしております。
  143. 鈴木強

    鈴木強君 まあ大臣は偏向であったとか、あるいは青法協のどうだとかいうようなことをお述べになっているということを私は申し上げたのではなくして、そういうことを政府当局者が言われていることは非常に残念だと、要するにこの判決というものは厳粛に受けとめるべきだということを私は言いたかったわけです。で、長官はそのように厳粛に受けとめておられるようですからそれはいいと思いますが、それで、現実に自衛隊員に与える影響というものもあったと思います。だからこそあなたが訓示をわざわざされたと思いますね。率直に言ってこの判決があなたの胸に一つのショックとして響いたことはこれは私は事実だと思います。だからそういう上に立って、自衛隊を預かる最高責任者として、自衛隊の士気の問題もあったでしょう、一面におきましてはね。同時にまた三権分立の立場にある司法が厳粛に憲法違反であるという判決を下したこともこれは事実でありますから、そういう現実と、現実の中に立たれてあなたがいまいろいろと、この事業にもたとえば募集事務を返上するというような動きも出てきております。それから全国にある基地についても自衛隊の分はこれをひとつ解除してくれとか、いろいろと動きも出ていると思います。ですからそういうものを踏まえて、長官としていまどうなさろうとしておるのか、この判決を受けたあと。これは政府は控訴されましたから、そのことは私もよく理解しております。そういう点、まあ率直な大臣ですから、いまの心境とこれからどうなさろうとするのか、そういう点をちょっと承りたかったのです。
  144. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 私は、やはり隊員の、直接いまおります隊員の動揺というものをおそれましたし、現実に、いままで例のなかった札幌地裁に逃げ込んで脱走したのも出てきておりますから、やはり影響がなかったとは言い切れますまい。また、長い目で見て今後の募集あるいは具体的には返上をするということを宣明している、募集業務拒否の市等もちらほら散見いたしておりますし、そういうことから、影響ないとは言えないと思います。しかし、一審判決はその定められた期間内に当事者である敗訴した国側が上訴を行なったわけでありますし、同意が得られないとわかってもすみやかにこの問題を解決するためには最高裁への飛び越し上告が——勝った側も負けた側もいずれにしても結論を早く出すことだという願望もありましたから、それもお願いをしたんですけれども、それはしかしこれは予想どおりでありまして、断わられた。したがって上訴をいたしました以上は、その法律の、判決の効果というものは法律的には及んでいない。しかし判決があった事実については、やはり多分に心理的な問題を含んで私の責任を持っておる全国の隊員諸君に動揺のないように私としては今後とも努力をしていかなければならぬと考えております。
  145. 鈴木強

    鈴木強君 私も、上訴をした以上、行政権の問題についてこれを停止するとか何とかということはこれは非常に政府の立場からすればむずかしいことはよく理解できます。ただ、新憲法始まって以来初の自衛隊違憲の判決でありますから、国民の中にいままで二分しておった第九条の解釈というものがここに明確になったということもこれは事実でありますね。したがって行政行為そのもの、をすべてやめることはできないとしても、願わくば、国民の願いは、いまの四次防なりあるいは増強計画というようなものについても、これはひとつ情勢を少し見て、現状にひとつストップさしておくとかいうようなことぐらいはできないものだろうかという一面気持ちを持っております。現に、全国に隊員の募集をやっておりますが、なかなかこれが集まりません。そこで、ある市では、こういう違憲の判決が出たのでしばらく募集事務をやらないでおくというようなところも出ておりますわね。そういうものに対して、長官として何がしかの配慮をこの判決によってする決意はないのかどうなのか、この点はいかがですか。私はそうしてほしいと思います。
  146. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 政府の責任者は総理でございますし、また自衛隊の最高の指揮監督者は総理であります。その総理が、参議院内閣委員会、隣の部屋において、現在の既定の方針はいささかも変える意思はないということを言われましたので、私は隊務を預かる責任者として、総理の御意思どおりにいささかの変更もなく進んでいきたいと考えます。
  147. 鈴木強

    鈴木強君 それからもう一つ、この判決が出ましたあと、自民党の中にもそれ見たかと、第九条というのは自衛隊が戦力である、自衛力であると、いういろいろの解釈があって国論が二分しておったけれども、これは中学生が読んだって、あの憲法九条というのは軍隊を持てないんだと、そういうあいまいな——自衛隊もそういう問題がある、したがってそういうあいまいな憲法にしておるところに問題があるのだから、いまこそ日本が軍事力を持てるように憲法を改正すべきだという意見がタカ派の連中を中心に出ているよう新聞で私は見ております。また現にニュースでも聞いております。これは明確な改憲論者だと思いますね。そういう動きが一面自民党の中にあるのですが、これはひとつ防衛庁長官としてこの憲法改正の問題についてはどういうふうにお考えか、これを聞かしていただきたい。
  148. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) これは政党は自民党のみでありませんが、その政党の中で自由にいろんな議論が出ることはあり得ると思います。しかしこれも昨日総理が、現在の憲法を改正する意思もないし改正する能力もないと、国会の議席数その他から言われてはっきりと否定をされましたので、私もそれに——その姿勢というものが政府の一員としての姿勢であると思いますから、党側でどのような議論が行なわれても、政府の姿勢に変更はないということを言ってよろしいかと思います。
  149. 鈴木強

    鈴木強君 法務大臣はその点は、憲法改正に対してはどういうふうなお考えでありますか。
  150. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 私も、憲法九条の解釈というものから、自衛のために必要な最小限度の実力は持って差しつかえないんだという解釈が憲法九条第一項の解釈でできるのでございます。ほぼこれを否定する人はないようでございます。憲法の解釈が自衛のための実力を持ってよいということであり、その解釈が大体に、ごく一部の人は別といたしまして、大体においてその解釈が一定しておるもので、通説であるという解釈になるならば、山中長官仰せのように、憲法改正は必要ないのではないか。総理も言っておりますね。憲法改正は必要ないのではないか、こういうふうに思うのでございます。  ただ妙な話をするようでございますけれども、一つの考え方が私の胸の中にありますのは、せっかくこの自衛のための実力は備えてよいという解釈に通説がなるものならば、憲法九条をはっきりそういうふうに書きかえたらどうであろうかという考え方が、腹の中にあるんですね。腹の中っておかしいじゃないかと言うが、それが正直というもので、私は言うておるのでありますが、憲法改正の必要はないと思うけれども、しかし理想を言えばですよ、はっきり自衛のための実力を持つこと差しつかえないという明文が憲法にあっていい。民主主義というものは、ややこしい条文をややこしく解釈して、ああだこうだという論議をすべきものじゃない。もっとすっきりすべきだ。そういうことでありますならば、そういう憲法の改正はやっておかしくないような心持ちが、心持ちの中にある。しかし、それは一体やれるのかやれぬのかということになると、現状においてはやる意思もなく、やる実力もない。しかし、時を得て将来全国民のコンセンサスが得られるような時期が到来をいたしましたときに、私の腹中にありますことを外に出して、国民多数の同意が得られる場合においては、改正することもまたおかしいことではなかろう。置いていいということを置いていいという憲法にするんですから、何もおかしいことはない。そんなにびくびくすることではない、こういうふうに考えておるのがほんとうの腹の中でございます。
  151. 鈴木強

    鈴木強君 ほんとうのことを言えば改憲論者だという結論だと思うんですね。いまはできないという、それは法務大臣のお立場でそういう意見が出るのですから、それはそれなりに私も受けとめておきますが、私たちは現行憲法を擁護していく立場ですから、そういうことには反対でございますけれども。  そこで長官、もう一つだけ伺いたいんですが、いま法務大臣もおっしゃるように、第九条が自衛力は否定しておらない。そのことはそれとして、それならば裁判が言っておりますように、現在の自衛力が、現在の自衛隊の規模が、ただ自衛力といって済まされるかどうかということですね。この自衛力というのは明らかに戦力であるということが裁判で言われておるわけですね。一体戦力、自衛力は何か、これはもう歴史をずっとひもといていきますと、昭和二十一年、自衛力、戦力の問題は論議されておりますね。特に二十五年の警察予備隊七万五千の創設以来、保安隊にかわり、自衛隊にかわるこの変遷の中で、九条は自衛力を否定してない、自衛のためだ、こう言って自衛隊をふやしてきておるわけですが、今度の裁判では、この自衛力というのは戦力だ、自衛力ではない、戦力の限界に来ている、こういう判決をしているわけですね。だからこの辺がやっぱり一つの問題点なんで、要するに自衛力と戦力とは、一体どこまでが自衛力でどこまでが戦力だ、こういう点が不明確ですね。だから、これは憲法違反でないということならば、その判決に対する、自衛力と戦力はどうなのか、これをひとつ長官、見解を述べてください。
  152. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 私はそういうふうに実は判決を受けとめておりませんが、私のほうが間違ってたらおしかりをいただいてけっこうだと思います。私としては、判決そのものの内容は、一切の人的、物的組織及び生産力を含む産業まで含めて、日本の憲法というものは、全条を流れる趣旨、精神、それを受けて第九条が誕生しておる。したがって、そういうものは全部持てないんだということで、明確にそこで切れておると思うんです。  ただ、あと最高裁の判決で、無防備、無抵抗を意味するものではないという判決もありますし、自衛権もあるんだということもありますので、判決の中で、その点に意識してのことでありましょうか、ほかに手段がある、第一は外交手段、それは私ども賛成であります。その次は警察力だ、これは私どもは警官がこん棒とピストルで立ち向かえるのが急迫不正の侵害を排除できる必要最小限の力になり得ると思いませんし、群民武器を手にして蜂起するという手段は国家権力の行使ではないと思いますし、しかも、日本においては現在民間に武器というものがあまりないということを考えれば、現実離れした意見だと思いますし、また財産没収、国外追放ということも、そういう権能をはたして日本がそのときに保持し得ている状態にあるだろうか、こういう混乱の中を考えますと、自分たちの居住、財産というものが踏み荒らされているときに、とてもそんな国家権力の行使が実際上相手国に侵略を断念させるような力として働くような余裕のないときであろう、そういうふうに思います。したがって、自衛隊については、もうもともと自衛隊そのもの、防衛庁そのものは憲法違反であるというふうに言われていると思いますので、その意味ではかえってさばさばとしていると言ったらおかしいですが、きわめて明確な断定がしてありますから、私どもはきわめて明確に承服しがたいということで、政府はこれに対して法務大臣の名をもって上訴したということであります。
  153. 鈴木強

    鈴木強君 あのね、質問のポイントが——こういうふうに聞きましょう、戦力は持てないですね、第九条。これは認めますね。
  154. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 私どもは、九条一項でいわゆる自衛権というものは否定されていない、また同時に、自衛のための必要な措置として、自衛のため必要最小限度の実力というものを保持することも禁止されていない、したがって、そういう意味で憲法九条二項で保有することを禁止している戦力というのは、自衛のため必要最小限度の実力をこえる実力であろう、こういう解釈をしているわけであります。そういう意味に戦力をとっていただければ、戦力はまさに持てない、こういうことになると思います。
  155. 鈴木強

    鈴木強君 そこで、いまの自衛力は戦力であるかないかの論にやはりなるわけですね。一方では、この自衛力は戦力である、こう言うと、いま自衛力でございます——私はかつて、もうそうですね、十年も前だったでしょうか、赤城防衛庁長官のときに、日本の自衛隊はどれだけの力を持っているか、旧陸海空軍に比べてどうかと聞きましたら、十年前に、旧陸海空軍よりも強い力を持っておる、こう述べた、それでも戦力でないのかと言ったら、戦力でない、自衛力でございますと言ったのをいまでも私は覚えている。安保当時だったと思いますが、そういう意味からして、自衛隊が、いまの自衛力というものが戦力でないというそのことを言うならば、一体自衛力というのはどこまで自衛力か、戦力とは一体どうなのか、そこのところの解釈をお聞きしたい。
  156. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 憲法解釈の立場からしか申し上げにくいと思いますが、これも毎々国会で御答弁申し上げているとおり、しからば、自衛力の限度というものをかりにある一定の数量であらわすというようなことになれば、これはまあ非常にわかりやすいわけでございますけれども、そういうことは事の性質上非常にむずかしいであろう、結局、抽象的に自衛のため必要最小限度の実力としか法規範としては言い得ないんじゃないが。しかし、実際にそれが憲法のいう戦力に当たるかあるいは戦力の以内のものであるかは、そのときどきの国際情勢によっても変わるだろうから、一定不変のものではないだろうし、またその判断自体は、やはり国民の代表である国会において、予算とか法律の審議を通じて御判断になるべきことである、こういうことを毎々申し上げているわけでございます。今回もそのとおりしか申し上げられないと思います。
  157. 鈴木強

    鈴木強君 そんな三百代言は十七年間聞きあきたけれども、今度、少なくとも一審であっても、違憲だという判決が出、しかもそれは、いまの自衛力はもう戦力だといっていますよ、裁判の中で。読んでごらんなさいよ。いまの自衛力を自衛力として済まされない。これはいまの自衛力は戦力だと言えるということを明確にいっているわけだ。  それで、予算も二百億円からすでに一兆円と、年間の防衛費というものがふえてきておりますよ。そうして一九七三年の英戦略研究所の報告によりますと、日本はすでに世界で第八位のところまで戦力を持っておる。予算上から見てもそういうふうなデータもございます。総兵力の数からいうと日本は何番目ですかね、十四番目ですかね。そういうふうに新聞で見ますと明らかになっていますが、いずれにしても、これが一兆円になっても自衛力でございます、二百億でも自衛力でございますという。  これは時間がありませんから、いまの現状、自衛隊の防衛力の全体について私は申し上げることはできませんが、少なくともいろんな資料調べてみますと、アジアにおいても、社会主義国を除いては、日本が防衛力においても予算においてもトップを行っているというようなところまできているわけですから、一体、九条は自衛力は否定していませんと、したがっていまの自衛隊が自衛力であって戦力でないといっていつまであなた方は言い続けるのか。現にここに明確な審判が下された以上、これに対して、戦力とはここまで行ったら戦力でございます、自衛力はこうですというぐらいのことが国民の前に明らかにならぬということは非常に私は残念です。こんな憲法解釈論だけで三百代言を何ぼ言われても国民は納得しませんよ。これは防衛庁長官、どうなんですか。戦力と自衛力は、いまのあなたの率いておる陸海空軍の自衛隊というものは戦力ではない、自衛力でございますと。一体それではどこまで行ったら戦力なのか。こういう点はどういうふうに考えますか。
  158. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) これは日本の場合において、いわゆる諸外国の通常概念の軍隊というものと比べるにはあまりにも制約を多く受け過ぎている集団であります。すなわち、憲法上の制約によってまず徴兵制ができない。また、核の洗礼を受けた国として、衆議院の決議も伴った内閣の方針も、三権のうち二権、立法、行政の府において、いずれも、能力はあってもつくらず、持ち込ませず、持たず、そういうことを言っているわけでありますから、さらに、純防衛的な戦術核であって憲法上は許容し得るものと解釈されても、それも保持しないという上に立っておりますし、そうして、先ほど申しました徴兵制をしない。さらに、つくられたものも海外派民と言われるようなことをしない。すなわち、相手に脅威を与え、その力をもって国際紛争を解決しようとするような一切のものは持たない。でありますから、長距離ミサイル、いわゆる相手の国に脅威を与えるような長距離のミサイル、いわゆる弾道弾あるいはまたB52のような長距離の、相手の国に脅威を与え得る爆撃機、あるいは動く飛行場ともいうべき航空母艦、こういうものは持たないということで、数多くの制約を受けておるわけであります。  しかもまたその戦術としても、相手の国を直接われわれのほうが攻撃をすることは絶対になくて、日本の領海、領空あるいは領土というものがまさに急迫不正の侵害を受け、他にこれを避ける手段がなく、そうしてそのときに最小限の許容される力をもってそれを排除するというだけの存在でありますから、諸外国から見て、今回の判決をやや理解を示し得たのはアメリカだけでありまして、どうして独立国家においてその国の軍隊、いわゆる外国から見ればですよ、軍隊が裁判所において憲法違反だという判決が出たんだろうという、これはまあ日本国憲法を知らざるためでありましょう。そういう声が一斉に上がりましたのも、日本の力というものはまさに外国の軍隊と比ぶべくもない、あまりにも多くのハンディを憲法及び国会を含めた国民の名において課せられたものである。  したがってこれを端的に比べることはできないのであって、その使用目的、そしてそれの運用というものが厳密に区別されて、専守防衛であるならば、私どもは、国民の許容する範囲において、最高の機関である国会において最後のシビリアンコントロールを受ける。したがって防衛二法も、当委員会ではありませんが、二年通過しないで、文字どおりシビリアンコントロールにひっかかっておるわけであります。したがって、国会がお許しにならなければ、私たちは、予算定員がついても、それを実際に充足はできないわけでありまして、ことしは三年目にそれがなっておると。このことでも、国会の文民統制の実はきわめて明白にあがっている。そういうことにおいて、日本の軍隊ということを、外国を見ましても、私たちは一がいに外国の軍隊と日本の自衛力というものは比べられないもんだ、本質的に違う唯一の存在であるというふうに考えます。
  159. 鈴木強

    鈴木強君 防衛庁のおっしゃる理論から言うと、結論から言うと、こちらから攻めて行かなければ、自分の国を守るだけであれば、いまの兵力が十七万九千から二十万になろうと三十万になろうと四十万になろうと、これは自衛力だという解釈にも聞こえるわけですね。それは事実問題として許さぬだろうと。だから、法制局長官のいわゆる憲法解釈というものも、いまのあなたのお述べになった一般的な概念的な立場に立っての裏づけになっていると思うんですがね。それではもう済まない時期に来ているのでありまして、少なくとも、この自衛力というものが戦力であるという、そういうふうに、もう自衛力とは言えませんよ、ここまでくれば。戦力です、明らかに。こういう文面もあのアンケートの中にはあるわけですからね、それを皆さんが自衛力だと言うのには、ここまでが自衛力であってこれまでが戦力だというふうな、国民にわかりやすいようなやっぱり説明も必要ではないでしょうか、正直に言いましてね。極端に言えば、もう何兆円かかっても、自衛のための自衛力であって戦力でないと言って通れば何ぼでもやれる。それはもう許されないし、また国民もそれを納得するようなところへきてませんからね。  そこいらについて、実際、どんなところに向かって長官として考え方を持っておられるのかということを私は聞きたかったんですよ。なかなかそういう答弁できないんですか。
  160. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 今回の防衛二法が成立して陸上が十八万になりますと、これ以上の増員は考えておりません。十八万名以上の増員は考えておりませんから、来年度予算においても予算要求をいたしておりません、陸上について。  なお、空海については、やはり損耗度もありますし、あるいは近代化、能率の向上等やはり対応するものでなければ、三十年前の武器をそのまま持っているから自衛力にたえ得るということにはなりませんので、その意味においては若干のやはり艦艇の損耗更新というようなもの等が伴いますので、若干、しかもそれは四次防の計画の中の年次としてのワクをはみ出さない範囲で要求してあるわけでありまして、全く歯どめのないもので魔物みたいにふくれ上がっていくというようなことは、これは国民も国会もこれを許さないでありましょう。私たちも、かつて、平和時における防衛力の限界を出せと。出したと。引っ込めろというようなことがありまして、何かおかしくなっちゃったんですけれども、私はそのとき長官ではありませんでしたが、今後この判決を機にして、やはりひとつお互いに各党、われわれの国家と民族をだれしも平和のままに子孫に渡していきたいと願う党ばかりでありましょう、その合意と合意を得るための今回の判決が契機となれば、私は、虚心たんかい冷静に各党と防衛のあり方について論議をする機会が与えられたと、その意味では歓迎いたしております。
  161. 鈴木強

    鈴木強君 では、委員長ね、少しここは詰めてみたかったんですが、私もう時間をだいぶ超過して同僚議員に御迷惑かけていますから、一応これで私は終わります。
  162. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは、いまわが党の鈴木委員から、自衛隊そのものについて、今度の判決の内容そのものについての御質問がございましたので、私は、主として裁判権、司法権との関連について質問さしていただきたいと思います。  先ほど来防衛庁長官の御発言を承っていますと、これは七日の日に判決が出たけれども、跳躍上告はできなかったので控訴した、だからこの判決は及んでおらないというおことばがあったわけでございます。しかし、私はこれは非常におかしなことばじゃないかと思うわけなんです。これは確定しておらぬというだけでございまして、一審判決は厳に存在しており、しかも上訴した判決でそれと異なる判断というものはまだ全然出ておらないわけでございまして、及んでおらぬも及んでいるも、すでにもう判決が出ているわけなんです。でございますので、そこら辺の防衛庁長官の御発言というものが非常に一審判決を軽視したものである。私はそのように、これはこの判決が出る前からいろいろなこと、それから出た後の政府当局の御答弁を拝見いたしますと、これは非常におかしいんじゃないか。国家機関の行政府方々が司法権のれっきとした裁判所の一審判決というものを非常に軽く見ておられる。私はそこをたいへん遺憾に思うのですけれども、まずこのことについてお聞きいたしますが、判決が出る前に、すでに、一審判決だからたいしたことはないとか、あるいは判決一つ一つに一喜一憂する必要はないとかということを、長官個人がおっしゃらなかったにしても、防衛庁内部がそういうパンフレットまで配られている、私はこれはけしからぬことだと思うんです、国家機関として。裁判を侮辱するもはなはだしいことだと思うんです。で、現実に一審判決が出たからといって、それがすぐ控訴してあっても、これはほかの事件なら、ともかく判決でこうなったんだからということでその判決は尊重されているわけですよ、国相手の事件でも。確定しておらぬというだけですね。そこら辺非常に、防衛庁長官自身とは言いませんけれども、たまたまいまは長官御自身の御発言でしたが、不穏当なおことばが多いように思うのですが、その点いかがですか。どのように一審判決というものを考えておられるんですか。
  163. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 私は法律のほうは専門家じゃありませんので、確定していないということが正しいということであれば私もそう思います。それでけっこうです。  なお、私どものほうの陸上幕僚監部において作成いたしましたパンフレットに、確かに御指摘のように、判決前にそのよう内容のものが印刷されて配られた事実がございます。私もその後に知りまして、そのことについては司法の独立、尊厳というものについて、あらためて責任者に、私の乏しい知識でありますが言い聞かせました。したがって、私ども防衛庁は、当委員会にはお配りしなかったかもしれませんが、国会にも資料として提出いたしましたけれども、私たちがつくりましたものは、長沼判決に至るまでの発端から経過を克明に、全く客観的に記述して、一冊のコンパクトなものにまとめたものにしたものを、私のテーブルでみんな囲んでつくり上げたものが権威あるものとしては一冊あるだけであります。その判決の出ましたあとは、隊員に対する訓示以外は、そうして国会に対する個々の答弁以外は、私は責任者として、少なくとも一審で憲法違反と言われた責任者でありますから、言動を慎んでいるということでありまして、用語の使い方については、お教えいただければそのとおりにいたします。
  164. 佐々木静子

    佐々木静子君 せっかくの長官のおことばでございますが、これは区々たる用語の問題じゃないと思うのです。精神の問題だと思うのです。これは法律の専門家であろうとなかろうと、日本が三権分立というものが確立されているということは、これはだれしもはっきりしていることでございまして、しかも憲法九十九条には、国務大臣とか国会議員とかは、これは憲法を擁護しなければならないという、これは単に擁護するというよりも、これを尊重し、守る義務があるという義務づけられた規定があるわけなんでございますね。ところがその大臣なり行政機関の方がこの一審判決というものをどうも私は軽く見過ぎていらっしゃるのじゃないか。たとえば、こういう事件と全く違っても、一審判決でたとえば有罪になった場合、まあ刑事事件の場合ですよ、控訴しても、これでもう公務員の場合だったら身分を失うというようなこと、これは幾らでも、普通そうなっているわけなんです。この判決に限って上訴したから効力は及ばないというようなことは、これは私はとんでもないことだと思うのですね、そこら辺は防衛庁長官にも十分お考えいただきたいと思うんですが、例のパンフレット——パンフレットと申しますか、いま長官がおっしゃった、長官のお机でおつくりになりました書面というのは、これはその内容は長官御自身が十二分に御責任をお持ちいただけるものでございますね。
  165. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) そのとおりです。
  166. 佐々木静子

    佐々木静子君 同じことを法務大臣にお伺いしたいんでございます。法務大臣は特に司法と関係の最も深い法務省の長として、この判決は一審判決だからどうのこうのというようなことはよもやおっしゃるまいと思うんでございますが、この一審判決というものをどのように尊重していこうというお考えでございますか。
  167. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) そういうふうにおことばをいただきますと答えがたいへんしにくいんですがね。しにくいんだが、しかしせぬわけにはいかない。お尋ねに答えをせぬわけにいかぬ。  私はかねてより言うておりますように、下級審といえども一審判決があれば、その判決は厳粛にこれを受けとめる。ただそれだけで、厳粛に受けとめて、その効力を認めて、いろいろ遠慮をしたり引っ込んだりすることが必要かというと、それは誤りである。別の意味でおやりになることはいいんですよ。判決があったからといって、判決にその拘束力を認めて、既判力認めて、既判力ということばは専門的なことばでありますが、拘束力ということばがわかりやすい。拘束力を認めて、認める結果御遠慮を申し上げたり行動を退却したりするようなことは要らぬこっちゃ。  どうして要らぬことかというと、たとえば本件事件を具体的に申しますというと、農林大臣は控訴をしておる。私が代理をして控訴の手続をとっておる。そうすると、この言い渡されたる判決には既判力がない。すでに判断する力という字を書くわけでございます。既判力はない、拘束力はないのです。拘束力のないものを法律や政治の社会でどうして効力がありますというようなことを言って、遠慮をしていろいろなことをしなければならぬか、こう考えてみるというと、残念でありますが、法制の上で拘束力を持たない判決に対しては、いろいろな効力は及ばない。また及ぼすべきものではない。やがては第二の判決、第三の判決があるわけでございます。それがわが国三審の裁判制度である。こういうことになりますと、私はこの判決に対しまして、控訴いたしました後におきましては拘束力はない、拘束力がないという立場に立って、判決を厳粛に受けとめておる。厳粛ではないじゃないかということになれば、そういう話は別です。裁判所の御判決に対して厳粛なる気持ちがこれを受けとめるということと、既判力、拘束力がないものだということの判断とは別個のものである、こういうように私は割り切って判断をしておるのでございます。
  168. 佐々木静子

    佐々木静子君 既判力がないことは最初からわかり切っていることで、私も既判力があるなどとはただの一度も申しておらないわけで、ただ厳粛に受けとめる、これは先に大臣のほうからおっしゃったのですけれども、どうもその厳粛に受けとめるというようなことが、いろいろなところから、およそ厳粛に受けとめていらっしゃるようには思えないわけなものですから、私もこの判決が下ったということを率直にどのように感じられているかということを伺っているわけですが、実はもう時間もありませんので、そのことばかり申しておれませんから、いま大臣がおっしゃいましたね、鈴木議員の質問に対しまして、場合によると憲法九条というものを書き直すというようなことも考えないではないという御発言ですね。実は私もこの防衛問題について、これは日本国民が、これはいろいろな考え方があって当然のことだと思うのです。そうして私どもは、大臣と同じ考えを持っているわけじゃございませんけれども、これは日本国民がいろいろと考え方があって、それこそ花咲く議論を展開してもいいと思うんでございますけれども、現段階では、やはりこういう憲法があって、われわれは、特に国務大臣は憲法を尊重し擁護する義務を持っているんですから、好むと好まざるとにかかわらず、でございますので、大臣がそのようにおっしゃらざるを得ないということは、やはりいまの憲法では、大臣自身もこの一審判決どおりとはお思いにならぬでも、これはちょっと無理だなあということをこれは考えていらっしゃるからそういうお話になると思うんですけれども、そんなとこら辺じゃございませんですか、いまの現在の自衛力というものが。
  169. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) それは申し上げにくいが、そうでないんです。私、まあ閣僚の一人でございますが、私の考えをありのままに申し上げますと、いま山中長官が抑せになりましたように、専守防衛の兵器である、別のことばで言うと、攻撃的な性能を有する兵器は一つも持っておらぬ、これは徹底しておる。こういう段階で現在の実力というものを考えてみるというと、これは自衛のために必要とする最小限度の実力であると、こういうふうに私は腹から考えておるので、腹から考えておるのにかかわらず、妙な判決が出てきた。それはどういうところが妙なのかというと、この判決は皆さん御承知のとおりにたいへん特殊な理由が述べてありまして、自衛のための力というもの、全面的に自衛手段、方法というものを否定している。自衛手段は要らぬのだという考え方です、この裁判は。  で、自衛の手段は要らぬのだということばの中身を推測してみるというと、憲法で否定をしていないと言われる必要最小限度以上のものは自衛の実力じゃない、兵力だと、こういう判断で兵力ということばを使っている。そうすると一体どこから上が兵力でどこから下が自衛の実力かということ、どこから上が戦力でどこから下が自衛の実力だということをだれが判断するのか、こういうことになりますと、その判断は高度の政治性を有する政治問題である。そんな判断を裁判所にかってにしてもらっちゃ困るのだ。それは国民から選ばれた国権の最高機関たる国会が行なうべき判断である。国会以外のものがそんな判断をしてもらっちゃ困るのだ。国会に判断をしてもらうには適当でしょう。山中さんが予算を組んで予算を提出する。自衛力に関する限りは、いかなる自衛力というども全部予算に計上されている。予算に計上されざる自衛力というものは一つもございません。それも国会に提出されたときに国会の御判断を願うて、これはよい、これは悪い、これは行き過ぎておるとおしかりになる。そうして結論を得まして衆参両院を通過をいたしましたものが予算となってあらわれる。自衛の最小限度は国会によって認められる。それ以外の国家機関がだれに断わって一体、それは間違いである、それでもなおかつ自衛ではない、兵力である、許すべきものでないなんていうことをだれに断わって言うのかと。たいへんことばがだんだん荒くなって申しわけがございませんが、そういうふうに私は考えておるのでございますので、私の意見を、結論を一口に申し上げますというと、そういう重要な事柄を含んでおるものでありますから、私は、私の信念といたしましては、行き過ぎた、これは兵力に該当するなどという裁判所の判決に書いてあるようなことは私は考えておりません。   〔委員長退席、理事白木義一郎君着席〕  合法、合理的な自衛最小限度の実力である、こういうふうに考えております。
  170. 佐々木静子

    佐々木静子君 たいへんに大臣の御熱弁を承りまして、実は私の質問はこの判決に対する大臣の御批判をお聞きするという質問ではなかったわけでございまして、大臣は憲法九条を書きかえたほうがいいんじゃないかというお話だったわけです。ところがいまのお話を伺うと、これはいまの日本の自衛隊というものは攻撃的兵器を持っておらぬから断じて憲法九条には違背してないと大臣がおっしゃるわけなんです。そうすると、何ゆえに大臣は憲法九条を書きかえようとおっしゃるのか。裏返せば攻撃用兵器を持ちたいから書きかえようということに私はなってしまうと思うんです。そのとおりですね。
  171. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) いや、それはそうではないんです。  私が言うのは、憲法九条は別に改正しなくとも自衛手段は否定していないではないか、だから自衛力は持ってよいんです。よいんだが、はっきりせぬのですね。裏返しに読まんならぬ。国際紛争解決の手段としては、永久に戦力を放棄すると、こう書いてある。それを読み直して、国際紛争解決の手段としてでない自衛のための実力は持ってよろしいと、こう読みかえんならぬ、この九条を。これがややこしいんです。   〔理事白木義一郎君退席、委員長着席〕 読みかえるのが間違いだとか、間違いでないとかいう問題が起こるわけでございます。まあ通説は読みかえておるわけでございます。そういうことでございますから、そういうふうに異論のないものであるならば、国民のお許しが得られる時期が到来をした場合においてははっきり書きかえたらどうか。戦力は持たぬのだ、しかしながら自衛のための実力はよろしいと、そういうはっきりした憲法を日本国が掲げていくという、そういうりっぱな憲法であってもおかしいことはないではないかということを言うておるのでありまして、決して先生仰せのように矛盾ではないのでございます。それも、しかし、内閣総理大臣が憲法改正必要ないと、山中長官が憲法改正必要ないと、こう言うておるのに、せっかく言うていらっしゃるのに、法務大臣がひとり憲法改正の腹があると、それは要らぬことですから、そこで私は、腹の中はこういうことを考えてもおりますと、腹の中のことは言わぬでいいんですが、答えを皆さんがお聞きになるからこれを言うておるわけです。そういう意味です。
  172. 佐々木静子

    佐々木静子君 よくわかりました。  やはり大臣は非常に優秀な法律学者、法学博士でいらっしゃるだけに、やはりサギをカラスとはぬけぬけとはおっしゃれないということについて、私もいまの御答弁を伺いながら、やはり非常なまあまじめな法律家でおられるということに大いに敬意を表したわけなんでございます。  そのまじめな法律家の大臣に、これは一審で福島裁判長の忌避というような問題を法務省がされた。前代未聞のことです。これがやはり司法の独立というようなことについて非常に国民の批判を受けるようになった。その事柄は私ども非常に残念に思っておるわけなんでございますが、高裁へ行ってまたそのようなむちゃくちゃなことをなさるようなことを国がされるかどうか。私は、よもやまじめな法律学者であるところの大臣がおられる限り、そういうことは起こらぬと確信しておるのでございますけれども、いかがでございますか。
  173. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 少し意見が違うのでございますが、刑事訴訟、民事訴訟を進めていく手続の途中において、この裁判官は偏しておる、適当でない、こう考えたときには忌避、回避の手続はとっておかしくないのではなかろうか。主張が足らなければ却下されりゃいいんです。却下されてもさらにこうだと考えれば、別の機会にまた法律に従って出せばよい。忌避される、却下されるという手続の往復は一種の攻撃、防御の内容である。訴訟手続において許されておる合法的な手段である。これはやりそこのうたから裁判が妙になるという筋のものではないのではなかろうかと、私はまあそう思うんですがね。先生いかがでございましょう。
  174. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは裁判所が裁判官として適当な人物であると裁判官に任命して、この裁判に当たっているわけですね。同じ国家機関の法務省が、お前は裁判官として不公平な人間だと、これは、私は厳に慎まなければならないことじゃないかと思いますよ。しかも、法務省、当事者の立場で、それは問題だと思いますよ。われわれも、それはおっしゃるとおり、忌避権を持っておることはよく知っておりますが、大臣の半分にも及びませんが、私も二十年近く弁護士をやっていて、忌避をやったこと、一回だけやったことがあるんですけれども、それとて必ずしもいいことをやったとは思っておりません、はっきり言って。まあ、普通、いろんな立場の人がおりますけれども、また裁判官もいろんな考え方の方もおられるけれども、それが裁判なんですから。これ、国が容易に次また控訴審において忌避などというようなことをされるとすると、これはたいへんな問題になる。大臣、ひとつその点はお約束していただきたいと思います。いかがですか。
  175. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) お気持ちはたいへんよく私にわかります。よって、今後は忌避等の手続に関しましては、十分慎重なる態度をとる、忌避はやらせませんというと法律の否定になりますので、それは申し上げられませんが、軽々しく忌避の挙に出ずるようなことのないように、十分慎重な態度をとるよう指導することにいたします。わかりました。
  176. 佐々木静子

    佐々木静子君 時間がありませんので次の問題に移りますが、この長沼裁判、福島裁判長問題、ひいては青法協問題に波及いたしまして、司法の独立ということがたいへんに騒がれたのがこの事件でございますけれども、やはり私ども、この福島裁判長が、お一人じゃありませんが、三人の合議体でおきめになったことですが、国家の行政庁の考えと異なる判断を下されたということで、実のところ、この三人の裁判官の身分の保障ということについてたいへんに心配しているわけなんでございます。これはもちろん、憲法上も裁判官は完全に身分が保障されておるわけですから、それに対して、その判決のいかんによってどうのこうのということが起ころうはずが、制度上はないわけですけれども、現実のいまの日本裁判制度において、国に対して不利な判決を与えた、そういう場合に、それらの裁判官が必ずしも国といいますか、当時の行政庁ですね、行政機関、あるいは当時の内閣に対して好ましからざる、歓迎されない判決を出した場合に、その裁判官が必ずしも恵まれた状態におかれておらないというのが現実でございまして、あるいは裁判所にいづらくなってやめざるを得ない、あるいは私ども、拝見しておりましても、どうしてこの方がと思う方が、別に裁判官は出世が目的じゃございませんけれども、まああまり、これだけの方がと言われる方が案外なところへ回されたりしている。そういうところ辺で、裁判官が憲法で保障されている身分の保障を確立して、安心して良心と法律に従って判決を行なえるというふうなことを、ぜひとも、この長沼裁判で最高裁当局としてもお示しいただきたいと思うんですけれども、その点について最高裁のほうで、言うまでもないことというお返事が返ってくるだろうと私思いますけれども、念のために人事局長にお伺いしておきたいと思います。
  177. 矢口洪一

    最高裁判所長官代理者(矢口洪一君) ただいまお話のございましたように、裁判官は完全な身分保障を持っておるわけでございます。どういう判決をされたかということは、これは訴訟法で解決される問題でございまして、そのことが裁判官の身分の保障ということに何ら影響するものではないということは申し上げられると思います。
  178. 佐々木静子

    佐々木静子君 二度と、長沼判決を出したためにこういうふうになったとか何とかというようなことがこの法務委員会で論議にならないように、ひとつぜひとも最高裁当局にお願い申し上げたい。  また、これは裁判官の身分の保障ということを十二分におわかりだと思いますが、きょうお越しになっている両大臣にも、ぜひともその点、裁判を尊重されると同時に、その裁判官の身分というものも重々お考えいただきたい。これは日本の民主主義を守る上からもどうあっても欠くべからざることでございますので、お願い申し上げたいと思うわけです。  それから、この判決が出てすぐに、これはある政党から出たお話ようでございますけれども、裁判が事前に漏れたというような風評で、何か札幌のほうで、調査委員会というようなものを札幌地裁でお持ちになったというようなことを伺っているわけです。まあこれは、裁判が事前に漏れるというようなことは私ども常識でとうてい考えることができないわけでございますけれども、そのあたりは最高裁はどのようにお考えになっていらっしゃるわけですか。
  179. 矢口洪一

    最高裁判所長官代理者(矢口洪一君) 裁判は判決をいたしますまでその判決の結果というようなものが外部に漏れるというようなことはあってはならないことでございまして、私ども裁判所に職を奉ずる者といたしましては、万が一にもそういうことはないというふうに現在でも確信をいたしておるわけでございます。ただ、今回の長沼判決につきましては、漏れたのではないかというような風評が一部に流布されたようでございます。今月の十日でございましたか、一部判決が事前に漏れたのではないかといったようなことが二、三の新聞紙上に掲載されたわけでございます。そういうふうになってまいりますと、漏れるはずはないということは確信はいたしておりますが、そういった報道があるということになりますと、これはやはり国民の方々にはっきりと、そういうことはない、そういう疑惑はないんだ、裁判はあくまで公正、慎重に行なわれておるんだということを示す必要があるわけでございまして、それがまた司法の独立を全うするゆえんではなかろうかというふうに考えたわけでございます。そういうことがございましたので、ただオウム返しにそういう事実はないということを申し上げるのではなくて、十分に尽くすべきものを尽くして、その結果を待ってそういうことをはっきりと国民の前に申し上げたいという趣旨でもって、現地にその間の事情調査する委員会が設置されたというのが実情でございます。
  180. 佐々木静子

    佐々木静子君 私も人事局長のおっしゃるように、これは裁判が事前に漏れるというようなことはあり得ないことだと確信しているわけなんです。現に、この判決直前に長沼の弁護団の方々ともお会いしたときにも、少なくとも弁護団はだれもこの判決は知らなかったわけですけれども、これは訴訟の経過から見ても、予測は大体に立っておったわけでございますし、これはまあ普通の人間であれば、福島裁判長ならずともまず普通の良識を備えた法律家であれば、この判決が当然出たと思うわけなんでございまして、これは漏れないでも、まあ普通の人間ならこういう判決になるだろうということは大体が予測はついておったわけなんで、それを漏れた漏れたというようなことで、どうもせっかくの裁判をからめ手から何か黒い疑惑を持たせるようなやり方というものは、非常に私はこの裁判自身だけじゃなくって将来の司法の独立にやはり影響を与えるところが大きいと思うわけなんです。そういうことで、国民の前に明らかにしようという意味でそういう調査委員会をお持ちになったのなら、これはものごとをすっきりさせるために、早く調査をされて早急にこの事柄をはっきり国民に知らされるべきではないか、漏れておらないのなら、そういうことはあり得ないならあり得ないと。ただいたずらにそういうものを設けたというようなことであると、何かそこに変なものがあるのじゃないかと暗い気持ちにならざるを得ないし、また調査委員会の中には、福島裁判長の司法行政上の上司も入っているというようなことになってくると、またそこで不明朗な感じを与えられないでもないと思いますのでね、そこら辺のところは早急に最高裁としても、お抜かりないとは思いますが、司法の独立というもの、それから裁判の権威というようなものをはっきりと打ち出していただきたい、その点いかがでございますか。
  181. 矢口洪一

    最高裁判所長官代理者(矢口洪一君) 全く同感でございまして、一刻も早く現地の委員会調査を完了し、結論を出すことを私どもも待ち望んでおります。
  182. 佐々木静子

    佐々木静子君 もう私の持ち時間がございませんので、最後に、防衛庁長官お忙しい中をお越しいただいているわけでございますから、この一審判決というものを、これは単に及ばないのじゃなくて、やはり判決という現実は十分に尊重していただきたい、またこれは良識ある国民はこれは当然だというふうにみな受け取っているわけでございますから、それはやはりそれとして謙虚に受けとめていただきたい、そのことを特にお願いするわけです。最後に防衛庁長官法務大臣とに、簡単でけっこうでございますから、御所信を述べていただきたいと思います。
  183. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 先ほど法務大臣の言われたとおりでございます。
  184. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) お気持ちはよくわかりますので、裁判は厳粛に受けとめる、法に従って手続をとる、こういう方針をとっていきたいと思います。いやしくも一審判決だからといって軽んずるような傾向が見えませんように心をいたしたいと思います。
  185. 白木義一郎

    白木義一郎君 私はこの裁判について、また判決について、国民の立場から、素朴な質問になると思いますが、してみたいと思います。  それは、今回の判決について、非常に政府幹部が偏向判決、偏向判決という声を大にしております。これをやられますと、国民のよりどころは公正な裁判、いま法務大臣が決意を述べられた、そのとおりだと思うんですが、いよいよ裁判の争いになって、公正な裁判、判決を期待し、そこしかないわけです、国民は。それを時の政府が、あれは偏向しているんだ、おかしいんだ、あれは。というようなことを国民が聞くと、みな黙ってはおりますが、非常に不安になってくるわけです。政治の基本はあくまでも民生の安定だと思います。そういうことが次第次第に国民の中にびまんしていきますと、それがいろいろな風潮となって、不安定な国民生活に、目には見えなくとも、あらわれると思うのです。したがいまして、いま大臣が言われたような考え方を政府に強く持たせていかなきゃいけない、国民に対して申しわけない、このように思います。当然それに対しては二審あるいは最高裁、そういう順序があるわけですから、これを踏むことはあたりまえのことですが、しかし素朴な国民としては、国家の裁判が偏向なんだというようなことになると、いまみんな裁判をやっていると、疑心暗鬼の気持ちを持たざるを得ない、そのに民生の不安定が出てくる。たださえいろいろ、国民不在とかあるいは日々の生活に不安を持っている国民が、そこへ気持ちを向けてしまうと、非常に不安定になるおそれがある、これを私は非常におそれるものです。そういう立場から大臣の、閣僚の、政府のものの考え方、国民に対する姿勢、一体どこを向いているんだ、こういう心配をするものであります。そういうことについて、ひとつ大臣
  186. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) せっかくの先生の熱意のあるお話をくじくようで、言いにくいのでありますが、政府は、政府を構成するどの者も、政府がこの判決を偏向だなどということは申しておりません。これは何かのお考え違いであると思う。政府は申しておりません。そんなことを言うべきものでない。偏向裁判だと思って裁判がお気に入らぬのならば上訴の手続を踏めばええ。三審制度は設けてある。それがための三審制度でございます。偏向であるなどといって攻撃することは間違いである。そういうことはやるべきものではない。またわが政府ではそういうけしからぬことを言うております者はだれもないということであります。
  187. 白木義一郎

    白木義一郎君 今後もそういう大臣の考え方を貫いていただきたい。  そこで、これはもう長年の論争になりますが、自衛という問題ですが、この自衛あるいは戦力ということになると、これはもう御承知のとおりどろ仕合いみたいなことにならざるを得ないと思う、相対的なものですから、これは、防衛力というものは。そこで、私は自衛力には消極的な自衛力と積極的な自衛力が考えられるんじゃないか。国民から税金を集めて、そしてどんどん何と言おうと自衛隊を増強していくというようなことはこれはだれでもできると思うんです。よその国もやっているわけですから。しかし、近代の日本という国の立場はそのような消極的な自衛ではならないと思います。もっともっと積極的な自衛の方法があると思います。従来は、私たちは日本のために死ねと言われてきました。そういう考え方がさらに広がってくると、たとえば母親のために子供に死んでくれというようなところまでいってしまいます。そこで、法務大臣の信念である人権尊重ということは、これは一日本人にのみ当てはめるものではないと思います。世界じゅうの人類に向かってこれは叫ばなければならない大切な思想だと思います。  そこで、積極的な自衛というものは、どんなことがあっても戦争はしないんだと、人間同士殺し合いはしないんだと、やくざと違うんだという思想をどうしてわれわれが世界の人々にアピールしていくか、これが大きな積極的な自衛だと思います。そういう点について、皆さん方はその自衛ということについてもっぱら自衛しているわけです。総理大臣も、防衛庁長官も、まあ政府を自衛するだか何だか、そういうように私は感ぜられます。まる裸の生活というのはあり得ないわけですから、自衛を必要としないなんということは言えないわけです、人間を中心にした場合。しかし、大きな自衛というものを絶えず示しながら現実に対処していかなければならないと思います。  先ほど防衛庁長官は、今度の法案が通過すればもう自衛隊の隊員はそれ以上ふやさないといってもですね、よそがふやせばこれはやむを得ませんということになるのはもう言わずもがなのことです。しかし、攻撃をされればこれは防がなくちゃならない。だれが防ぐか。十八万の自衛隊員だ。われわれはもうそろそろ大ヤングのレベルに入ってきますから、そっちへ出かけなくてもいいけれども、私たちの子供あるいは女の人は、かわいいわが子等々がその矢面に立たなきゃならない。これはいままではやむを得なかったことと思いますけれども、これからはそれは絶対に考えてはならない。どうして自衛をするか、世界に対してどうしてわが日本は自衛をするかという大きな目標を出した上で自衛を論ずるならば、これはどろ仕合いになる気づかいはないと思います。ですけれども、現在まで行なわれてきた論争はそうではない。そうだ、いやそうではない、そうだということの繰り返しです。それでは何のために私たちは国民の代表として選ばれてきたかと、こう言わざるを得ないと思います。積極的な自衛についてどう考えていくか、これを私たちは今後の大きな課題として真剣に取り組んでいかなきゃならない。それは一つの、いまもちょっと触れられましたが、文化の面でやっていくんだと、しかし現実に何が行なわれたかということになっていくわけです。そこで、そういったような積極的な自衛ということについて両大臣ともどのようにお考えになっているか、何かお考えがあるか、お伺いしたいと思います。
  188. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) おっしゃることにもし答弁が間違っていたら、また引き続き御指摘を願いますが、先ほど鈴木委員にもちょっと答弁いたしましたように、自衛の最も最たるものは、外交手段によって戦争あるいは侵略を回避することである。われわれは交戦権は持ちませんから、戦争というと誤解がありますから、要するに、自衛の力といえども、われわれがそれを使わないで済む出ためには、外交が一番大切なことである。これは私は判決の内容ともその点は一致すると言いました。  しかし、もっと目を未来に転ずるならば、第二次大戦の惨禍の上に立ってつくられた国連憲章というものにおいて、全地球人的な視野から、各国がそれぞれの国においてみずからの国権の中のみにおいて所有する軍隊を全部放棄して、そして国連軍ともいうべきものが最終の唯一の武装集団になって、そしてそれが各地の紛争なり平和をもたらす努力を、武力としてはそれのみしか持たないという時代が来るならば、これはもちろん日本は率先して、すべての武装というものを持つべきではない国の第一の候補者に上がると思います。  しかし、そのようなことは人類の理想として、もし核戦争でも起こったら地球壊滅の日でありましょう。したがって、その壊滅を避けるために、米ソの核不戦協定もできたわけでありましょうし、欧州安保もそういうことを踏まえて催されたわけでありましょうが、そういう傾向にぜひ全人類がいってもらいたい。しかし私たちとしては、だからといって、外交努力も続けますが、そのまま短絡して、われわれのみが一切の国を守る手段を放棄するということは、われわれが国家民族に、いまお話ように、われわれの子孫にわれわれの大切な国土と民族、個々の家庭の平和を語り継ぎ受け継がしていくのに、はたしてわれわれはその責めを果たし得るだろうかというそういう危惧に対してのお答えに直結することは、やはり危険ではないだろうかと考えます。その点はまあ各党お考えが違っておりますので、これらの合意が得られることを私たちとしては心から期待しておるものであります。
  189. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 先生仰せの積極的自衛というものは、別の角度からこれを論ずれば平和外交の徹底だ、こういう山中長官のお説、私全くそのとおりに存じます。
  190. 白木義一郎

    白木義一郎君 そこで積極的自衛のあり方について、一口に外交といえばそれまでだと思います。  そこで、まず自衛はいかにしてするか。これは、諸外国から日本を絶対に攻められない、日本を攻めることは世界の損失である、こういう立場をわが国がとらなければならない。私は深く研究したわけではありませんが、あの長い間中立を保ってきたスイス、やはりスイスを滅ぼしあるいは攻めるということは世界の損失であるというような考え方が底流にあると思います。外交外交といっても、それだけで事足りるとしても、いま日本の企業が外国でいろいろな批判を受けているようなことがあると、これはながなか言うべくしてできないことであります。そこで、日本を攻めたらこっちが損するんだという状態をわが国は何とかしてつくり出さなくちゃならない。  そこで、われわれはさんざん研究し考えたあげくに、まず一つは、国連本部日本につくるのも、これも具体的な日本を自衛する非常に大事な問題じゃなかろうか等々、心配しておるわけです。ですから、いま佐々木先生との論議を伺っていますと、法務大臣法律から生まれてきた申し子のようなりっぱな法律論を展開をされて、非常に参考になるわけですけれども、もうわが国は積極的な自衛を考えなければ、いかに十八万といっても隊員が集まらない。かねや太鼓でたたいても集まらない。もう出先はセールスマンになって、必死になって成果をあげる。一方国会では、総理大臣防衛庁長官も、断固として日本を守り抜きますと言っている。現実はさっぱり進まない。こういうことの繰り返しは非常にまずいと思う。そこで、ぜひともひとつわれわれが日本の平和、世界の平和という大きな問題と正面に取り組んで、ぜひとも研究をし論議をして、戦争をしてはならないということは、もうだれもいいんだという人はいないんです。言いながらまだやっておる。そういう状態でもう果てしのない防衛力といいますか、戦力といいますか、言い方でどうにでもなるわけです。  そこで私は、この機会に、積極的な自衛を進めるべきだ、このようなふだんからの私の考えを申し上げて、今後の皆さんのお考えの一端にしていただきたい、そういう気持ちで申し上げておきます。  で、具体的な問題として、最高裁判所の構成あるいはその裁判官の任命というものはあくまでも公正でなければならない。その構成、任命が——その中に偏向の判決をする裁判官がいるというようなことは先ほど申したとおりでございますが、——最高裁の裁判官の任命については、初めは非常に各界から選ばれたバランスのとれた状態であった。ところが、いつも行なわれている国民審査では、バツとマルということで、非常にこの審査については不安定な問題があります。昨年の暮れの審査においても、非常に、これはだめだというような票が投ぜられて、問題が投げかけられたわけであります。そこで、さらに権威あるものにするためには、最高裁あるいは裁判官の任命の諮問委員会というようなものを設けて、そしてその答申を尊重して指名しまたは任命する。それによって、国民の前にその過程を明らかにして、あとから、これはだめなんだ、けしからぬのだというような、国民の審査を受けなければならないような、一口で言えばみっともないことのないように、理解と信頼を得ていくようなお考えをお持ちになっているかどうか。法務大臣、また最高裁のほうからお伺いしたいと思います。
  191. 田宮重男

    最高裁判所長官代理者(田宮重男君) 御指摘のように、最高裁の裁判官につきまして任命するのは内閣でございまして、現在の任命方法がいいかどうかということについてはいろいろ御議論のあるところでございまして、またはこれについて諮問委員会等を設けたらどうかという御議論があることも承知しているところでございますが、こうした任命方法をどうするかということは結局は政府のおきめになることでございまして、最高裁判所側といたしまして特に意見を申し述べる立場にございませんので、御了承いただきたいと存じます。
  192. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 最高裁の人事は、先生御承知のとおりに、裁判所法できめられております。一口に申しますと、十五人の裁判官のうち十人は少なくとも裁判官、検事、弁護士、それからさらに特定の大学教授、助教授等からこれを選ばなければならぬ、こういう規定が厳として存在をしております。この規定の範囲内において、内閣総理大臣が、最も適当であると考えられる人材を起用いたしましてこれを任命しております。  どこに基準が置いてあるかと申しますと、右に片寄らず左に偏せず、中庸、中道、中立の姿勢で仕事のできるような過去を持った人材、そういう人材が適当である、抽象的でございますが、そういう抽象的な基準をもちまして内閣総理大臣が御任命になっておる、こういうことでございます。したがって、諮問委員会その他をつくるという考えは政府には現在のところはございません。いままでで十分に人材を選び得ておるものであると、こう確信をして今日に至っております。
  193. 白木義一郎

    白木義一郎君 それでは、具体的な長沼の現地の問題等についてもいろいろお尋ねしたい点がございますが、ただいま達筆で、山中長官はだいぶ疲れているようなので、ということで、防衛庁長官はひとつこのぐらいなことで疲れるようなことのないように、日ごろから——そうじゃなければ、自民党の理事の先生方がいろいろな配慮をされたメモだろうと思うんです。あんまりお疲れになっていないようなんです。もう足を折っても出ていくんだと、車に乗っても出ていくんだという頼もしい長官ですから。
  194. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) だいぶん疲れていますよ。
  195. 白木義一郎

    白木義一郎君 法務大臣はもう朝からすわってばかりだからわかりますけれども。まあそれはそれとして、すなおに、疲れていらっしゃると。国事多端なおりということで、すんなり、先ほども法務大臣に教訓めいたことを言われまして、すんなり考えたらというんで、すんなり私もこのあれを拝見したとおりにやります。  で、最後に、長沼の現地の住民の公益とそれから基地の公益の問題についても、若干、私なりの意見があったのでございますけれども、将来、長沼の住民の方々の公益も十分政府あるいは自衛隊等も考慮をしていただきたい。というのは、あのナイキの基地、あそこで実際にやると、何か、からが千メートル四方ですか、に散って、非常に住民に迷惑がかかる。あるいは、あすこは保安林をつぶしてしまったけれども、それにかわる施設としてダムも用意してあるというようなこともございますけれども、現実につくった以上は、演習もされるでしょう。いろいろ批判がありますけれども、そのときに起きる当然の基地公害として、これはひとつ皆さん方なりに公益をお考えになる。  これはそれとして、それから起きる住民の公益も大いに認めて、そして十分なそれこそ公益を守る政府であり、自衛隊であるという方向へぜひとも配慮をしていただきたい。また、その決意をお述べいただいて、私の質問を終わりたいと思います。
  196. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 御意見ごもっともであります。  ただ、具体的な事実として、長沼のナイキサイトを含めまして、これは、発射する場合は、ほんとう日本が急迫不正の侵害を受けて、ほかに手段がなくてという場合にしか発射いたしませんで、日本は残念ながら国内に試射するための射爆場も、車力村のいきさつも御存じのとおり、持っておりませんので、アメリカの砂漠にわざわざ運んでいって撃たせてもらっているような状態であります。したがって、これが永久に発射されない状態を私たちは祈っておりますし、そうなければならぬと考えております。  なお、基地周辺の対策等については、くしくも同じ党である黒柳先生から、決算委員会で、コミュニティセンターは金が出し過ぎてあるぞ、運営が間違っておるという御指摘がございまして、間違っていたらその部分だけ補助金を取り上げますと申しましたら、そんなことしたら村はいよいよやっていけなくなるじゃないかという、ある意味の地元に対する御配慮のことばもございましたので、そこらは地元の方々に十分——ましてや、そのような施設個々の問題ではなくて、水源涵養、保安の機能が絶対に失われていないというだけの設備はつくったつもりでありますけれども、裁判において、明確ではありませんが、若干疑問なしとしないというような考え方が述べられております。私たちとしては、問題点がどこにあるのか、私たち自体でまたそれを、具体的な指摘がありますれば、上訴の理由にもなるのですけれども、その具体的な指摘がないものでありますから、われわれのやったことが、はたして降雨量の測定、表流水の問題、いろいろとたくさんございますので、もう一ぺん点検をして、確かにだいじょうぶであるかということ等は検討いたしております。先生の御配慮については、十分努力してまいります。
  197. 白木義一郎

    白木義一郎君 ほんとうに、やっておかないでだいじょうぶなんですか、つくっただけで。いざというときやったらだめだったなんで、これはほんとうに戦力じゃなかっただなんていうのじゃ、プラモデルだったなんというのじゃたいへんなことになる。
  198. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) ナイキは百三十キロしか飛びません。したがって、もうその範囲は、効力の範囲はおのずからわかっているわけでございまして、ただ、それを練度を高めるために、やっぱり基地の射撃に当たる者にどうしても演習が必要であります。国内でできない事情にございますので、アメリカでそれを、練度を向上しておく、ふだん基地で演習いたしておりますのは、その繰作についてやっておりますので、その点では、いざというときになってやってみたら、全然ランチャーから離れていかなかった、あるいはランチャーの上で爆発したという、そういうお粗末なものではないことだけはひとつ御信頼いただきたいと思います。
  199. 渡辺武

    渡辺武君 最初に法務大臣に一言伺いたいと思います。  先ほどの御答弁を伺っておりますと、この長沼判決について、すでに政府が上訴したその瞬間から効力を失うのだという御趣旨お答えがありました。そこで伺いたいのですけれども、この控訴によって長沼判決の中でどの部分の効力がなくなったのか、それを伺いたいと思います。
  200. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) それは先生のお聞き違いでございます。私は、効力がなくなったなどということは申しておりません。控訴と同時に既判力がなくなり、拘束力がなくなるのだ。ああいう御判決があったという事実、判決そのものというものについて、それが失効してゼロのものになったんだなどということを決して申しておるのではございません。少しわかりにくいかもわかりませんけれども、既判力、拘束力がなくなったのだ。したがって、拘束力のない御判決に対して、御判決といえども、これあるがゆえにいろいろやらねばならないことを遠慮をするというわけにはいかぬのだと、こういう趣旨を繰り返して申し上げておるのでございます。
  201. 渡辺武

    渡辺武君 拘束力がなくなったというふうに言いかえれましたので、それはそれとして承っておいて、その拘束力のなくなったという、それは一体長沼判決のどの部分なんですか、これを伺います。
  202. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) あった拘束力がなくなったと言っているのじゃないのです。拘束力がないと申しておるのです。拘束力はない。
  203. 渡辺武

    渡辺武君 どの部分の拘束力がないのですか。
  204. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 判決全体について、主文についても理由についても拘束力はないのであります。あったけれども、なくなったというのじゃありません。初めからないのだと。
  205. 渡辺武

    渡辺武君 念のために政府のこの控訴状ですね、控訴状にはどういうふうに書いてありましょうか。読んでいただきたいと思うのです。また、控訴申し立ての趣旨ですね、これはどういうことになっておりましょうか。
  206. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) これは訴訟技術に関する問題でございますから、私もちゃんと記憶はしておりますが、大事な御質問、間違っちゃいけませんので、ここに私のところの訟務部長が参っております。これが本職でございます、訟務部長からお答えいたします。
  207. 貞家克己

    説明員貞家克己君) 控訴状の内容を申し上げます。  まず事件についての表示をいたしまして、この判決は「全部不服につき控訴する。」まず冒頭にそう述べまして、原判決の主文を表示しております。次に、控訴の趣旨といたしまして、「原判決を取り消す」旨の判決並びに「被控訴人らの本件訴えをいずれも却下する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。」、さらに、七本案につきまして「被控訴人らの本件請求をいずれも棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。との判決を求める。」という趣旨を述べておりまして、控訴の理由は追って述べるということにいたしておるわけでございます。
  208. 渡辺武

    渡辺武君 追って述べるということになっていますが、そのおもな内容はどういう点をいま考えておりますか。
  209. 貞家克己

    説明員貞家克己君) 通常訴訟手続におきまして原判決を不服といたします理由につきましては、口頭弁論期日が開かれまして、その際に準備書面に詳細を記載いたしまして、それを陳述いたすという段取りになるわけでございまして、ただいまのところ、まだ口頭弁論期日の指定はございません。したがって、いつということは断定的に申し上げるわけにはまいりませんが、目下鋭意その内容について検討中でございます。
  210. 渡辺武

    渡辺武君 そうすると、いま伺ったところですとね、長沼判決の判決の主文を取り消すようにということが控訴状の主要な内容だというふうに私伺ったんですけれども、結局法務大臣のおっしゃることを正確に考えてみますと、長沼判決で言っておられます保安林指定解除処分の取り消し、これを取り消してくれということが控訴状の内容じゃないかと。そうなりますとね、結局法務大臣のおっしゃる効力がないということは、その主文の効力がないということであって、長沼判決の判決の理由そのもの、これについては効力がないとかあるとかいうようなことじゃないんじゃないでしょうか、どうでしょう。
  211. 貞家克己

    説明員貞家克己君) 結論といたしまして、主文を取り消すわけでございますが、主文と理由と申しますのは不可分に結びついているわけでございまして、拘束力がないと申しますのは、一般的に民事訴訟の判決におきまして、判決は言い渡しによって一応効力を生ずるのでございますけれども、その効力は裁判所がみずからかってに取り消すことができないという意味での効力でございまして、その効力はもちろんあるわけでございます。ただ、裁判所の本体としての効力、主文及びその理由一体といたしまして確定的な効力が生じますのは、いわゆる裁判が確定した時点でございまして、通常の上訴方法が許される間の期間は確定いたしません。また、上訴をいたしますれば、もちろんその判決の確定力の本体と申しますべき既判力、執行力、形成力というような実質的な効力は発生しないわけでございまして、これらの力はいずれも、判決が最終的に確定した時点において初めて発生するというたてまえになっているわけでございます。
  212. 渡辺武

    渡辺武君 この長沼判決の主文ですね、これについては確かに国が控訴したその瞬間から拘束力はないということは私これは理解できるんです。理解できるんですけれども、しかし自衛隊が憲法違反であるというこの判決の理由ですね、この点については、憲法によって違憲立法審査権を与えられている裁判所が、いわば日本裁判史上初めて公式に出した見解だと思うんですね。いわば有権解釈というふうに見て差しつかえないと思っております。この解釈は、これは政府が控訴しようとしなかろうと、これは依然として生きているというふうに見なきゃならぬと思いますが、どうですか。
  213. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) そうはまいらない、そうはいかぬものと思います。それはどういうことかと申しますと、違憲であるという裁判が下っておるんですね。違憲であるというには、いろいろ理由は複雑に表現してありますけれども、要は違憲であるということになっている。政府は違憲でないという、いや違憲だという、それは憲法に基づいて違憲立法審査権を裁判所に与えている。先生のおことばは憲法どおりいえば、違憲の判断をする力があるではないかと仰せになる、これはごもっともです。一応そう思える。  しかし違憲立法審査権にも理論上−明文ではありませんが、理論上、ロジックの上から、リーズンの上から当然に制約がある。それはけしからぬ話だと仰せになるかもしれぬが、制約はなければならぬ。どういう制約かというと、高度の政治判断を必要とする重大問題については、判断は国会にゆだねるべきものであるという制約がある、これは理論上当然のことでございます。現に存在をしておる自衛のための実力、いわゆる自衛力ということばでもいいわけでありますが、その自衛隊の自衛力というもの、そういう自衛力というものは度を越えたら兵力になる、これは私もそう思う。度を越えたら兵力だ。裁判所は度を越えておるということは言っておりませんけれども、兵力だという断定がしてありますから、度を越えておるというのでありましょう。そういう意味が含まれておるものと思う。自衛のために必要とする、憲法では否定されておらないその自衛力というものが必要最小限度を越えておるかどうかという判断、認定、これは先ほどもくどく申し上げましたように、国会がやるべきもの、国会がやる立場におる。予算を審議するからであります。国会できめるべきものである。たいへん言いにくいことばでありますけれども、国民と、国民意思と縁故の薄い裁判所がおきめになる事柄ではない。直接国民を代表する国権の最高機関たる国会がこれをおきめくださるべきものである、こういうところに力を入れておるわけでございます。  また、今度、部長が申しますように、これからつくるのですね、口頭弁論、間に合うようにこれからつくっていくわけでございます。でありますから、いまからどうこう言うわけにはまいりませんけれども、いま私が申し上げましたようなこの事柄、これは相当重要な論駁の要素、刑事訴訟法的に申しますと、法廷における攻撃の論法といたしまして、強い攻撃の方向にこれがおさまっていく、こういうふうにお考えをいただきたい。
  214. 渡辺武

    渡辺武君 いま大臣のおっしゃるいわゆる統治行為論の問題については、あとからもう少し詳しく伺いたいと思います。しかし統治行為論がかりに正しいというふうにしたとしても、これはまだ政府の見解の範囲内にとどまっている、そういうことだと思うんです。私が伺っているのは、これはこの上級審の判決で、自衛隊が憲法違反なんだということを明確に述べた長沼判決のこの判決理由、これを上級審が判決の中で正式に否定するというまでは、この判決理由というものは有権解釈として依然として生きているんじゃないか、こういうことを伺っているんです。その点どうですか。
  215. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) それはそういうふうにはまいりません。くつがえす判決が下るまでは有効ではないかというわけにはまいらない。控訴提起と同時にこの拘束力はなくなっておる。私が申しますのは、判決の主文、判決の主文をつくるに至った理由、根拠も、裁判所の主文の部分も理由の部分も一切拘束力はない、生きていない、こう判断をしなければ上訴審というものの意味がありません。裁判進行して争うておる、争うておる最中に第二審の判決があるまでは一審が生きているんだと、拘束力はあるんだと、そんなことは理屈の上からも言えない、こう私は信じております。
  216. 渡辺武

    渡辺武君 長らく法曹界におられた法務大臣が信じておるというふうにおっしゃるから、あるいはそうかなというふうにも思いますけれども、私、しろうと考えからしておかしいと思う。いま伺った政府の控訴状、これは長沼判決の判決主文を取り消してくれということを言っているにすぎないでしょう。まだ判決の理由についてはこれは取り消してくれとも何とも言っていない。依然として生きている。上級審の判決で正式にこれを否定したという場合だったらこれはまた問題は別でしょう。しかし依然として生きていると見なきゃならない。しかも、この長沼判決というのは、これはいままで自衛隊が憲法違反かどうかということで争われた裁判も全然なかったわけじゃないけれども、自衛隊が合憲だということを積極的に見解を示した裁判というのは一つもないんです。そういう事態のもとで、初めて自衛隊は憲法違反であると、明確な見解を示しているわけです。しかもこの見解は、これは日本の憲法学界の中でも大体定説となっているものが今回この司法機関の正式の見解となってあらわれたにすぎない。非常に私は重要だと思う。  それだけじゃありません。私ここに朝日新聞のきのうの読者の声の特集を行なっているのを見てみまして、その数字をちょっと申しますがね。十四日までに寄せられた三百三十五通の投書の中で、判決を支持するという投書が二百七十二通、反対はわずか五十三通にすぎなかったという数字がはっきりと示しておりますように、国内の世論もこの判決を支持している。この点も明々白々だと私には思われる。  しかも、いま申しましたように、控訴はしたけれども、それは主文については確かに拘束力はないとおっしゃられる。その点はあるいはそうかもしれない。私どもしろうとでも考えられます。しかし、判決理由については、これは憲法によってその権限を与えられた裁判所が明確に憲法違反だという判定を、見解を示している。これはりっぱな有権解釈です。それは生きていると見なきゃならない。政府としては当然この見解について私は十分な尊重をしなきゃならぬと思う。  先ほど法務大臣は、厳粛に受けとめるという表現をされました。防衛庁長官もそれに賛成であるという趣旨発言もなさったわけです。しかし他方で、防衛二法はそれじゃ撤回するのかと言えば、いや撤回いたしません、いままでの政策は変わりません、こういう答弁です。これでは、厳粛に受けとめるというのは一体どういうことなのか、ふしぎに思わざるを得ない。どういうことを意味するんですか、厳粛に受けとめるというのは、尊重するということですか。
  217. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 先生、私は先生と論争をする気持ちになってものを言うのですがね、あなたはおっしゃっていることおかしいことありませんか、ちょっとおかしいことありませんか。
  218. 渡辺武

    渡辺武君 おかしいことって……。
  219. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) いやいや、それはどこがおかしいか——はなはだ御無礼ですけれども——判決の理由というものが、主文というものがあって、主文を導く理由がある、これが判決になる、別のものじゃないんです。別個のものじゃないです。主文は無効だけれども、拘束力はないけれども、その主文を導いた理由、これは生きておるなどということ、理論的におかしいことはありませんか。そんなことあり得ないことじゃありませんか。  それからもう少し申し上げますと、大体この訴訟法のたてまえを申しますと、せっかく下された判決に対して異議を言うのでしょう、不服の申し立てをするわけだ。不服申し立てをするんならばだ理屈の上から申しますというと、主文に対して不服の申し立てをするならば、その主文を導いた判決理由というものに対しても、同時に不服の申し立てをせいというのがこれは筋なんですよ。ところが、なかなか時間のかかるものでもあり、不服の申し立てば二週間以内と期限がきまっておる。二週間以内にこんなびっくりするような大判決を理由まで書いて出すということは事実上できない。そこで判決はなかなか気がきいておって、小出しでええと、とりあえず主文に対する申し立てをして、その理由をあとからゆっくり小出しで出してよろしい——小出しと言ったってあとは一ぺんで出すんですけれども。そういうことをちゃんと認めておるんです。認めておるからやっておるんですよ。主文は消えておるんだよと、判決理由書は生きておるんだって、そんな理屈はないでしょう、何も私は法学博士だから言うんじゃないんです、これは、ちょっとおかしいことはありませんか、そういう議論をこの何で行ないますことは。両方だめなんですよ。両方とも拘束力はないんです。この拘束力を新たにつくっていただくために控訴手続を踏んでおるんです。第二審で判決があるでしょう、それに対して負けたほうのやつがまた控訴をするでしょう——やつというようなことはいかぬけれども——負けたほうがまた上訴手続を踏む、最後は大審院——いまの最高裁判所。その最高裁判所の判決が下れば、不服の申し立てば双方ともできる、これは確定になると、こういうことが訴訟法の手続でちゃんときまっておるじゃありませんか。主文は死んどるけれども、理由は生きておる、そんなことはありません。私はどこから論じましても、先生の仰せになるようなことはないと思います。
  220. 渡辺武

    渡辺武君 私も法務大臣に言いたいですな、おかしいじゃないかって。しかし、防衛庁長官に伺いたいことがあって、その問題はいずれの機会にまた譲りたいと思います。——これは何ですよ、法務大臣、法学博士だからとおっしゃるけれども、私も一歩も引きません。  そこで、防衛庁長官に伺いたいんです。  いま、法律の手続論争はそれはそれとしまして、こういう判決がとにかく出た。たとえば例はこれは適切かどうか私は知りませんけれども、違法建築をやっている人がいたとする。裁判所がこれは建築法違反のものだという判断を下したとする。で、その違法建築をもっともっと建てていけば、近所の住民の日照権その他大きな被害がある。控訴はしているけれども、その建築主はこの判決を尊重して、しばらく、つまり控訴したその判決が出るまではこれは建築を取りやめているというような事例はたくさんございますよ。いま争われているこの問題は、まさに自衛隊が合憲か違憲かという重大問題であります。憲法の前文にもはっきりとうたわれておりますように、日本の国民の平和的な生存権にかかわる問題、もしこういう判決が出たのにもかかわらず、依然として政府が政策を変えないということでいままでの政策を強行していったらどういうことになるのか。違法建築という判決を受け、付近の住民に大きな被害があるということを承知の上でしゃにむになお建築を続けようという、こういうのを強欲な建築主と一般の人たちは呼んでいる。それと全く同じ態度になるんじゃないでしょうか。どうでしょう、私は防衛二法の撤回、まあほかの委員会でもみんな要求していますが、この点をもう一回防衛庁長官に要求します。御返事をいただきたい。  特に私はきのう、おととい福岡県の遠賀郡にあります岡垣射爆場というところで約一万人ばかりの射爆場撤去の集会がありまして、それに参加して帰ってまいりました。なまなましい記憶があるから特に長官にその点を伺いたいと思う。この岡垣射爆場というのは、これはあの辺の人たちが先祖伝来営々として築きあげた保安林です。つまり人の命を守るための保安林。ところが航空自衛隊の西部方面隊、築城にある第八航空団、まさに人を殺すために実弾射撃の訓練をそこでやっている。国民の平和的生存権を脅かすこと著しいと言わなきゃならぬ。アメリカ軍が以前使っていた当時、ここで二人の人間が死んでいる。百数十件の誤射、誤爆事件が起こってたいへんな被害が生まれてきている。特にあの辺は西日本の民間航空路に当たっている。あんなところに飛行機が飛んで実弾射撃やったらどういうことになるか。ニアミスの危険が非常に大きい。この判決をもし厳粛に受けとめるということが真実ならば、この射爆場は撤去したらどうでしょうか。その点あわせて伺いたい。
  221. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 初めの御意見は、自衛隊の最高の指揮監督権者は総理大臣であります。私はその指揮監督のもと、自衛隊の隊務を統括するものであります。したがって、総理大臣が言明されておるがごとく総理大臣の指揮監督に私は従ってまいります。その総理大臣は、官房長官声明以来、委員会の出席における答弁についても、現在の防衛二法を撤回する意思はない、そしてまた四次防の整備計画を変更する意思はないと明確にしておられますので、私はその指揮監督下にあるものとして、それを守ってまいります。  さらに、一審の判決が出たから防衛二法を撤回しろというお話でありますが、砂川事件の一審の判決が出たときに、ちょうど同じくその当時の防衛二法案が参議院の同じく内閣委員会にかかっておりました。そのときは社会党の野党の方が委員長だったわけでありますけれども、それでも、そのときの国会でそれを議了、可決いたしております。したがって、今国会において防衛二法も必ず可決していただけるものと確信いたしております。  さらに、岡垣射爆場の問題につきましては、これは地元の御了解のもとに五年間だけ使わしていただくということでありまして、米軍時代のような、ある意味ではちょっと乱暴な使い方などはとてもできるものじゃありませんし、おっしゃるような民間航空路の一番大きなグリーンフォー、あるいは板付空港への進入空路、こういうものは全部運輸省との間に、その横もあるいはまた高度も全部調整して、一切の行動がその航空路の外辺にも接触しないように、定められた基準の幅をとって設定されてありますので、間違いは絶対に起こらないという確信がございます。
  222. 渡辺武

    渡辺武君 それでは厳粛に受けとめているなんというのは全くことばだけのことだと考えざるを得ないが、どうですか。特に防衛庁長官はあの判決が出された直後に訓示をされている。その訓示の中で、「本日の札幌地裁判決は重大な判断の誤りを犯している」、こういうことも言っておりますよ。「上級審において正しい判決が確定されるまでの間、外部からのいわれのない批判や攻撃が多くなるものと予想されるが、」云々、こういうことを言っていますね。一体この判決がいわれのない批判や攻撃なのか。十分に根拠のある私は判決だと思う。こういう訓示を出すところに、あなた方がこの長沼判決に対して、極端に言えば敵意を持っている、そういう態度が非常に明確に出ているんじゃないですか。私はむしろ、先ほどの違法建築をやっている建築主の例をあげましたけれども、普通の民間人でさえ判決が出れば建築の強行をちゅうちょする、少なくともちゅうちょしますよ。それをなおかつ建築を強行するなんというやつはよっぽどたちの悪いやつだ。それと同じよう態度をとっている。あなた方自身を含め、また自衛隊の隊員を含めて、国民の批判、裁判所の見解、これに謙虚な態度で接するという訓示をなぜ出すことができないのか。私はこの訓示を取り消すことを要求する。どうですか。
  223. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) まず、建築基準法の問題の不法建築の例をとられますが、これと国家民族の独立、安全、平和という基本にかかわる大問題とを同列に論ずることは私は正確ではないと存じます。  さらに、私の訓示をしたことを取り消せという御意見でありますが、取り消す意思はありません。私は先ほど申しましたとおり、法律によって隊務を統轄するものであります。その隊員が、初めての、おっしゃるとおり判決でありますし、きわめて明快に自衛隊違憲ということを言っておりますから、動揺をするなと言っても無理でありましょうし、その動揺を防ぐ努力をすることは私に課せられた責務であります。しかし、その分においても立場においても、私は分をわきまえてちゃんとつくっております。したがって私が自分の意思として「重大な判断の誤りを犯しているといわざるを得ない」と言ったのではなくて、ちゃんとその前に、先ほど政府の見解が発表されたがということで、政府の、官房長官の立場における政府の見解を踏まえて、それを受けて政府の一員として私は言っておるわけであります。また、それを受けて、今後いわれなき云々ということばがあるがけしからんと言われますが、実際上隊員の子供が税金どろぼうとののしられたり、あるいは隊員が子供から、小学校の生徒からそういう罵声を浴びせられたり、種々の問題が起こっております。私はやはり隊員といえども、その家族といえども、現時点においては日本人であり、そして日本国内に正当に居住する権利も認められてしかるべきだと思いますので、そのようなことを予測して、そのようなことがあってもたじろぐなということを言ったのが決して不当ではないと私は考えております。私の責任においてやらなければならないことをやったのだと、そう思っております。
  224. 渡辺武

    渡辺武君 日本の国民の平和的生存権に関する重大問題だからこそ私は強調しているのです。結局、長官の言われることは、政府はこういうように考えているのだから、どんな判決が出たって自分の考えどおりにやるのだ、単純化していえばそういう結論になってしまうのじゃないでしょうか。国民はそういうことは許さぬと思います。  そこで、長官のおいでの間にもう少し防衛庁関係質問をしたいと思いますが、この長沼判決は、陸海空軍を定義づけるならば、それは「外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体」であるというふうに述べております。政府は陸海軍をどういうふうに定義しておりますか、その点を伺いたいと思います。
  225. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) これも毎度申し上げていることでございますけれども、この判決では、陸海空軍をいま御指摘のようにその他の戦力と区別して定義をしております。ただ政府は、陸海空軍その他の戦力ということで、陸海空軍だけを切り離して定義はいたしておりません。と申しますのは、政府の考え方、まあこれは繰り返して申し上げる必要はないと思いますが、陸海空軍というのは一つの戦力の例示であって、名前だとかそういうことではなくて、われわれからいえば、自衛のため必要最小限度を越える実力でありさえすれば、それは戦力に当たる。憲法で保有を禁止しておる戦力である、こう理解しておりますから、したがいまして、陸海空軍とその他の戦力というものを区別する必要はないわけでございます。
  226. 渡辺武

    渡辺武君 昭和四十七年の四月十二日の衆議院の外務委員会で、当時の高辻法制局長官がわが党の松本議員の質問に答えて次のように言っております。「要するに陸海空軍の定義いかんでございますが、陸海空軍というものが外国の侵略に対して防衛に当たる一つの武力組織、これを陸海空軍というのであれば、自衛隊はそういうものであるということを言って差しつかえございません。」、こういうように言っておりますけれども、いまも法制局の見解はそれと変わりませんか。
  227. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 先ほど申し上げましたように、陸海空軍ということばをいま御指摘のようなことばで理解する限り、自衛隊もまさにそういう機能を——機能というか目的を持っておるわけでございますから、その限りでは陸海空軍と言っていいと思います。ただ、それは憲法九条二項で戦力の一例示として掲げられており、かつ憲法九条二項でわが国が保有することを禁止されているというよう意味における陸海空軍に当たると言ったわけでは決してないと思います。ですから、いま御指摘の高辻答弁は、そういう意味においては現在の私どもの見解そのとおりでございます。
  228. 渡辺武

    渡辺武君 どうもよくわからなかったのですがね。結局自衛のためならば、陸海空軍ですね、これを自衛隊と言っていいと、こういう趣旨ですか、高辻長官の言っているのはまさにそういうことなんですが。
  229. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) ここでは、いまお読みになりましたけれども、「そこを間違いのないように非常に神経を使ってお話を申し上げているつもりでありますが、これも陸海空軍の定義にかかるわけです。かかるわけですが、もしも、御質疑の中で陸海空軍というものが外国の侵略に対して防衛する組織体であるということであれば、それがもっぱら自衛のためにのみ限定するものもまた陸海空軍と言い得るものであれば、陸海空軍と言ってよろしゅうございます。」ということで、何度も申し上げますけれども、その「外国の侵略に対して防衛する組織体である」という意味においては、なるほど自衛隊もそういう目的を持っていることは自衛隊法第三条に明記してございますから、そういう意味では陸海空軍と言ってよろしい。しかし、この判決あたりで言っているところの、九条二項でわが国が保持することを禁止しておる陸海空軍その他の戦力という意味の陸海空軍だというようなことは、この高辻政府委員の答弁でも決して言ってないと思います。
  230. 渡辺武

    渡辺武君 結局、問題は自衛の範囲内かどうかということなんでしょう。どうですか、その点は。
  231. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 私は、この判決を御引用になっての御質問でございますけれども、その判決の一つ一つのことについてコメントする立場でございませんので、非常に遠慮深く、申し上げてなかったわけでございますけれども、この判決の考え方は、おそらくいま申し上げたような、ここでは「外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体である」という定義をしておりますから、そういう目的を持って、そういう組織体であれば、これは一、二もなく憲法でいう保持を禁止している戦力に当たる、したがって、自衛隊は違憲であると、こういう論理だろうと思います。ところが私どもの考え方は、そもそも毎度申し上げておるように、自衛のため必要最小限度の実力組織は持てるという前提に立っているわけです。ですから、そういう意味では、いま先生が自衛のためと言われましたけれども、私どもはその自衛のための組織体であれば常にいいとは言っていない。自衛のための必要最小限度内の、つまり、自衛のためであっても、どんな大きなものであってもいいなどと決して申しておらないわけでございます。しかし、幾らかの一定限度までの実力組織は持てると、こう言っているわけです。ところが、この判決では、一定限度までもいけないんで、もうゼロであるというふうに、目的だけで判断しておられるんじゃないかと思います。そういう意味では明らかに違うんだろうと思います。ただ、繰り返して申し上げますが、私、判決をコメントする立場じゃございませんから、一応政府の見解を一方的に申し上げると、私どもの見解はいま申し上げたような、ある一定限度まではいいと、こういう考え方であります。
  232. 渡辺武

    渡辺武君 わかりました。そうすると、伺いたいのですがね、一体ほかの国の軍隊で自衛のためでない、侵略のためだと言っている軍隊があるのか、必要最小限度の軍隊の力ではなくて、必要最小限度を越えた力だと言っているような軍隊はほかの国でございますか。特に、もう時間がないのでまとめて言いますけれども、国連憲章が「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも」これを慎しまなければならない。これは第二条第四項でいっておるわけですね。特にこの第五十一条、ここでは、急迫不正の侵略、武力攻撃が発生した場合にのみ、安保理事会か必要な措置をとるまでの間、個別的、集団的自衛権の行使を認めている。だから、国連に加盟している国は、これは安保理事会が必要な措置をとるまでの間という限定した期間で、しかも他国を侵略するのではなくて、個別的、集団的な自衛権、この行使だけを、これを許されているということだと思うのですがね。だとすれば、アメリカにある軍隊も、フランス、イギリス、西ドイツにある軍隊も、日本と同じようにやはり自衛のための軍隊だと、こういうことになっているのじゃないでしょうか。しかも、あなたがつけ加えた必要最小限という規定ですね、これだって、どこの国だってそういうことは言っているわけでしてね、必要最小限を越えている軍隊を持っているんだというような国はどこにもないでしょう。一体自衛隊とどこが違うのですか。まさにこれは自衛隊が軍隊だということをはっきりと示しているのじゃないですか。憲法が禁止している戦力そのものではないですか、どうでしょう。
  233. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) いまの御質問のあとのほうから申し上げますけれども、自衛権の行使の問題と、自衛力の保持の問題とはちょっと角度が違いますから、それは一応御理解願いたいと思いますが、自衛力のいわゆる保持の限度ということがございますけれども、世界の各国がまさに自衛のため、一定の、各国の場合は軍備と言っていいと思いますが、そういうものを持っていると思います。まさに侵略のためというようなことで、そういう軍備といいますか、実力組織を持っていると公言している国はないと思います。その点はまず日本もそのとおりでございますけれども、日本の場合にはそれだけではございませんで、自衛のため必要最小限度と言っているわけですね。その必要最小限度ということが具体的に数量がわからないとか、あるいは相対的であるとかというようないろいろな議論はございますけれども、私どもが申し上げている自衛のため必要最小限度というのは、ただ口で言っているだけの意味ではございません。憲法の制約というものをそこに認めているわけでございます。  たとえば世界各国の軍隊は、自衛のために持っていると思いますけれども、日本ように戦力についての九条二項というような特別規定は持っておらないわけですから、その九条二項によっては、われわれは、たとえば海外派兵はできないとか、そういうことを言っているわけです。たとえば攻撃的、侵略的な兵器は持てない、相対的としても、そういう攻撃的、侵略的な実力組織まではいけないというようなことは、憲法上いけないというようなことは何回も何回も申し上げているわけですから、そういう意味の羈絆的な拘束といいますか、そういうことは各国の憲法にはないでしょうし、またそういう拘束がみずからあると言っている国はないのじゃないかと思います。そういう意味で、自衛隊は対外戦闘を遂行するという目的を有するという意味においては軍隊であると言えるかもしれませんけれども、いま申し上げたような憲法上の拘束を受けているという意味において、世界各国の軍備として持っておるところの軍隊とは違う、これがかねがね政府が申し上げているところでございます。
  234. 渡辺武

    渡辺武君 委員長、最後に一言。それは全くいままであちらこちらで論争したことですから、重ねては言いませんが、一言だけ言わしてもらいますけれども、全く失礼だけれども、三百代言の言いわけというふうにしか国民はとれないのですよ。なぜかといえば、いままでの憲法九条解釈はずっと歴史的に変わってきているでしょう。最初のころは、これは自衛のためであっても武力を持てないんだということをはっきり言っておきながら、そのうちに、いや、自衛のためなら必要最小限度持てるのだ、その自衛のためのワクもだんだん広がって、自衛のためなら核兵器も持てるのだ、他国の基地も攻撃できるのだ、制海権、制空権も取るために戦うことができるのだ、どんどん広がっているじゃないですか。そうでしょう。そうして現実からいっても、よその国の軍隊といささかも変わりのない実体上軍隊ができ上がっている。それを憲法第九条が禁止している。これは政治判断の介入する余地のあることじゃない。先ほど法務大臣は、この長沼判決は自衛力を否定する、否定しているのだという趣旨のことを言われましたけれども、私はそれはちょっと見当違いの見解だと思いますね。自衛権というのは認めているけれども、しかしその自衛のための軍隊というのは持つことはできない、こういうことを明確に言っている。まさに自衛隊は軍隊そのものだ。ただ自衛のための必要最小限度という形容詞がついているだけのものだ。憲法違反であることは明確じゃないですか。どうでしょう、法務大臣
  235. 田中伊三次

    国務大臣田中伊三次君) 法務大臣はこういうふうに先ほど申し上げたので、自衛力を否定しておる、自衛権を否定しておると言っておるのじゃないのです。この間の裁判は自衛手段を——程度は高かろうが低かろうが、自衛手段そのものを否定していると、この判決はね。どうして自衛手段を否定しておるのかというと、第一、現在のものは兵力であって自衛力ではないんだということもその中に含まれておる。非常に複雑な——判決を批判しちゃいけないのでありますけれども、まあ国家を代表する私は当事者の代理人でありますから、そういう意味において申し上げますというと、どうもはっきりした表現が足らぬところがございますね。これはいずれ上級裁判所に行って明白にいたしますけれども、自衛手段それ自体を、程度の差ではない、全部否定している。むろんその中には、現行自衛隊というものは、これは自衛の限度内のものではない、度合いを越えたものである、兵力であるということを言っている。そういう判断は裁判所はできぬのですよということを言うんです。いまも言うがこれからも言うんですね。そういうことでございます。
  236. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) ちょっとまた三百代言と言われるかもしれませんけれども、先ほど政府見解が非常にこう変わっているという御引用の中で、かつて、自衛の目的であっても戦力は持てないと政府は言っているのに、いまは持てるように言っているというような御指摘があったように思います。その点についてちょっとお答えすることをお許し願いたいと思いますが、確かに政府の見解として、侵略の目的たると自衛の目的たるとを問わず戦力を持てないと言ったことがございます。しかしその意味は、先ほど来申し上げているように、その場合に戦力ということばは一定限度以上の力をさして言ったわけでございます。まあ当時は近代戦遂行能力というような言い方もあわせてしておったわけでございますけれども、そういうある一定限度以上の力は自衛のためであっても持てないというふうに言ったわけでございます。ですから、今日自衛のため必要最小限度の力は持てるけれども、自衛のためといえども大きな力をむやみやたらに持てないと言っておるのと少しも変わっていないというふうに私どもは考えております。
  237. 原田立

    委員長原田立君) 本件に関する質疑は本日はこの程度といたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後七時三十一分散会