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政府委員(長島敦君) ただいま御質問のございました甲府におきます自殺事故の概要、
経過等について申し上げます。
この本人は、
先生御
指摘のとおり破疑者でございまして、五月四日に警察から甲府刑務所へ入ってまいりまして、未決監に入っておったわけでございます。本人のその後の
状況でございますが、五月七日には父とか兄とか弟と面会をしております。そのときは一般の家庭の
関係の家事の連絡でございまして、その面会後に特に変わった様子もございませんでした。
先ほど
大臣が申されましたのでありますけれ
ども、
東京拘置所の
事件がありまして後、矯正部内の精神医学及び心理学の専門家、それから保安のほうの専門家が集まりまして鋭意
検討いたしました結果、自殺要注意者判定表というものをつくりまして、この手引きとともに
全国の拘置所、刑務所、少年院その他に配っていたわけでございます。これは一つのためしと申しますか、試行的なものでございまして、その結果について、ただいま矯正の特別研究というのがございますが、その研究員を指名いたしまして、これの有効性、なお改正を要する点等について研究を始めております。この自殺要注意者判定表というのによりますと、いろんなチェックリストがついておりまして、本人の犯しました犯罪、疑われております犯罪とか、あるいは家庭の
状況と申しますような
環境的な要因、それから本人の精神的な異常があるのかないかというそういう要因、それから心理的に非常にショックを受けているのじゃないかというような心理的な要因、大きく申しますと、三つに分けまして、チェックリストでチェックをしてまいりまして、一定数のチェックがつきますと、これは当然要注意者という判定になってまいるわけでございます。
そういった要注意者判定表というものをこの甲府刑務所でも現にこのときは使っておりまして、それによって本人に詳しく、この五月七日の日にいろいろな事情を聞いてチェックリストをつくったわけでございますけれ
ども、その
段階での判定の結果は、要注意者というところに実は入らなかったわけでございます。
で、五月九日になりまして兄にあてて手紙を出しておりますけれ
ども、それには、冷静に
裁判を待って、服役して罪の償いをしたいという普通の趣旨の手紙でございました。またその日に友人と面会しておりますが、この面会
内容も、
皆さんに心配をかけたが、犯罪についてはこういう理由があったというような程度の話でございまして、その日に昼食に差し入れ弁当がございましたが、これも全部食べておりまして、午後零時十分にその食べ終わった食器を舎房から出すために看守が房をあけたわけでございますけれ
ども、そのときも落ち着いた様子で、別に何も変わった様子はございませんでした。
ところが、その後、そういう
状況でございましたのでありますけれ
ども、その後、午後零時二十五分でございます。ちょうど先ほど食器を取るために開房しましてから十五分後でございますが、看守が見回りに参りましたところ、その部屋の中で縊死をしているというのを発見いたしまして、すぐ人工呼吸その他、医者が参りまして強心剤の注射その他をやったのでございますけれ
ども、三時十五分についに死亡したという、たいへん残念な結果になったわけでございます。
経過につきましては以上のとおりでございますが、本人がなくなりましてなら後に室内をいろいろ調べましたところ、室内に、各室に未決者の収容心得という小冊子が入っておりますが、その冊子の表紙の裏に、家族にあてまして、死んで罪の償いをしたいという簡単な遺書がございました。以上の
状況から判断いたしますと、やはり自責の念にかられたと申しますか、そういうことで発作的に自殺する決意を生じて自殺したのではないかというような
状況に見受けられます。
で、当時この拘置所に収容されておりました人員は約五十三名でございました。二名の看守がそこに張りついておりまして、交代で順次巡回をしておりました。巡回の間隔は十分ないし十五分間隔でずっと巡回をしておったのでございます。そのほかに当直の監督看守がおりまして、これは随時監督者としてやはり巡回をしておったという
状況でございました。本件の場合は、食器を下げましてから十五分後に、巡回をしたときに首をつっておるのを発見したという
状況でございます。
これらの自殺事故につきましては、
大臣から仰せられましたように、私
ども矯正に当たっております者としては、これはもう最も申しわけないことだというふうに
考えておりまして、まああらゆるいま
考え得る限りの
努力をただいま尽くしておりますが、一つは、先ほど申しました自殺要注意者判定表をつくりまして、これを各地でいま使っておるということでございますが、この
ケースでもわかりますように、ややまだ判定力と申しますか、十全でない点もございますので、いままでの過去の
ケースにもさかのぼりまして、この判定表についてさらに精密な科学的な、いまこれから
検討を加えていくということで、もっとこれを完全なものにしたいというふうに
考えておるわけでございます。
そういう判定表によりまして自殺要注意者と判定されました者につきましては、特別の舎房をつくるということで、これまた
東京拘置所におきまして数種の舎房を試作いたしました。試作いたしました理由は、先ほど
大臣が仰せられましたように、突起物を全部取るということのほかに、現在居住の
環境をなるべくいい、明るい
環境でまあ未決の方を収容する、あるいは受刑者にいい生活を送ってもらうということで
考えておりますので、ただ自殺防止ということで網を張ってしまうというようなことになりますと、居住性を害してまいりますので、居住性を害しないで、しかも自殺になる手がかりをみんな除くにはどうすればいいかということで、いろんな
検討をいたしました。その結果、
東京拘置所で、それほど感じを害しなくて、部屋も暗くならないで、しかもこういう自殺に使えるような、たとえば鉄棒とかそういうものを全部囲ってしまうという方法を、不完全ではございますけれ
ども、見つけたわけでございまして、その方式に従いまして、今後こういった要注意者と判定されました者を入れます房には特別のそういう配慮をするということで、いまそれに着手しております。自殺の件数から申しますと、何と申しましても未決の場合が一番多いわけでございますので、さしあたって拘置所、未決監を重点にいたしまして、この全体の中の大体十分の一程度が要注意者であろうかと思いますので、その程度の房につきましては、こういう特別房をつくってまいりたい。
さらに、こういう房に入ります者につきましては、ふとんに敷きます敷布とか、えり布とか、そういうものを全部ふとんに縫いつけまして、これをたやすくはずして破って縊死に使うというようなことがないように縫いつける、あるいは、タオルとかくつ下等も自殺に利用されますので、こういうものは必要のつど本人に渡すということで、ふだんは引き揚げていくというような
措置をとるわけでございます。なお、自殺を企図いたしました場合には、応急の
措置といたしまして人工蘇生器とか、その他各種の救命用具がございます。これを各所に配付いたしております。
こういうようなあらゆる方法をやっておりまして、先ほどの甲府の例では、この判定表がうまくいかなかった例でございますけれ
ども、その後各地の
状況を見ておりますと、
東京拘置所におきましては、本年に入りましてすでに十二件自殺企図がございましたが、それを全部未然に防止いたしております。大阪拘置所でも五件自殺を防止いたしました。その他各管区から聞いてみますと、数件ずつすでに防止をした事例がございまして、
全国的には相当な数の自殺を防止しておりますが、これらのうちの相当部分が、実はこの判定表というものが非常に有効であったということが出てきておるわけでございます。なお各管区におきましては、管区長がこの問題について非常に真剣に私
どもと協力しておりまして、自殺事故を防止いたしました
職員に対しては管区表彰ということで激励をしておる次第でございます。
まだいろいろ不備の点がございますが、私
どもといたしまして、ただいま全力をあげて今後少しでもこういう事故を防止したいということで
努力をしておる次第でございます。