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1973-09-19 第71回国会 参議院 内閣委員会 第30号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年九月十九日(水曜日)    午前十一時五分開会     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         高田 浩運君     理 事                 内藤誉三郎君                 山本茂一郎君                 片岡 勝治君     委 員                 源田  実君                 佐藤  隆君                 世耕 政隆君                 長屋  茂君                 西村 尚治君                 星野 重次君                 町村 金五君                 上田  哲君                 鈴木  力君                 鶴園 哲夫君                 前川  旦君                 黒柳  明君                 宮崎 正義君                 中村 利次君                 岩間 正男君    国務大臣        国 務 大 臣        (防衛庁長官)  山中 貞則君    政府委員        内閣法制局第一        部長       角田礼次郎君        防衛政務次官   箕輪  登君        防衛庁参事官   大西誠一郎君        防衛庁参事官   長坂  強君        防衛庁参事官   岡太  直君        防衛庁長官官房        長        田代 一正君        防衛庁防衛局長  久保 卓也君        防衛庁人事教育        局長       高瀬 忠雄君        防衛庁衛生局長  鈴木 一男君        防衛庁経理局長  小田村四郎君        防衛庁装備局長  山口 衛一君        防衛施設庁長官  高松 敬治君        防衛施設庁総務        部長       河路  康君        防衛施設庁施設        部長       平井 啓一君        林野庁長官    福田 省一君    事務局側        常任委員会専門        員        相原 桂次君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法  律案について     —————————————
  2. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ただいまから内閣委員会を開会いたします。  防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法律案について質疑を行ないます。
  3. 前川旦

    前川旦君 午前中は一時間しかありませんので、きようの最後の問題はたいへん大きな、何といいますか、質問を続けていく上においてどうしても聞かないけない問題がありますが、それはできれば午後に回して、まず最初に、陸上自衛隊定員増が千人ということに出ていると思いますが、これで十八万人の体制が、もしこの法案が通れば、なるわけであります。そうしますと、法案が通って十八万人ということになりますと、それ以後増員考えておられませんか。
  4. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 考えておりませんし、来年度予算要求の中にも陸上兵員要求はしておりません。
  5. 前川旦

    前川旦君 それでは、陸上増員要求はこれで最後だというふうな、いまお話がありました。海と空についてはどういうふうな見通しを立てておられますか。
  6. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 四次防の中では増員については明確な数字を出しておりませんし、大蔵省とも話をしておりません。ただし、われわれの内部的な検討では、四次防全体で、陸を除きまして、約八千名ぐらいの増員、そのうち海空が約四千五百ぐらいが二法案で出ていると思いますが、したがいまして、残りが、その計算からいきますと大体三千五百人ぐらいという大ざっぱな見当を内部的な事務検討の資料としては持っております。
  7. 前川旦

    前川旦君 七月一日の日経新聞に、「防衛法修正検討」「定員増、陸の千人削除」、こういう記事が出ておりましたが、陸の千人を削除してこの法案を五千九百八十八人に縮小する、それから、四次防中の定員増を行なわない旨の附帯決議をつけるということでこの国会を乗り切ろうという検討を始めたという記事が出ております。これは後ほど回しますが、こういう事実はございましたか。
  8. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 防衛庁に関する限り、私に関する限り、そういうことはございません。それは、私も、党のほうも、正式にそういうことを言った機関も部会もありませんし、その問題はそれだけにとどめておりますが、私の心情的な言い方は悪いかもしれませんが、衆議院の内閣委員会で本法案の審議の終了する直前にあたって、民社党より、正式な民社党意見としてはっきり述べられたわけではありませんが、民社党提案であると私は受け取りましたが、それは、陸上の一千名増員欠員二万数千ある中での増員であるからこれを取りやめたらどうかと、民社党にとってはこれがこの法案に対する最後自分たち意見と聞いてもらいたい、こういう御意見がありましたときに、私としては、民社党さんの提案はごもっともである、二万五千名の欠員をかかえて、なおかつ十八万名編成というものにどうしても到達しようというわれわれの説得力はあるいは弱いのかもしれぬ、そういう自省もいたしました。しかしながら、これは私がつくっていま出した法案でありませんで、三年前からの提案されたものがいまここに陸上においては変化なくそのまま提案をされているところに顧みまして、私としては、やはり国会お許しを、できれば十八万名の編成定員でお願いをして、後、恒久的にどのような体制をつくるべきかという問題は、欠員の将来の見通し等考えながらあらためて検討していくことでお許しを願いたいと、そういう気持ちで心の中で思いながら、民社党さんに対してたいへん申しわけなかったんですが、応じられない旨の答弁をいたしております。触れておるとすれば正式にはその点だけであろうと思います。
  9. 前川旦

    前川旦君 この記事では「政府自民党は」というふうになっています。防衛庁がというふうになっておりません。しかし、政府自民党政府原案を修正する方向検討を始めたということですから、防衛庁長官も、いまお話を伺った以上に党側とこういうお話があったんではないか、その場合に、この記事によりますと、千人は削除してもいいということは、無理やりに今国会で十八万人にしなくてもいいんだ、これだけ欠員がありますから、こういう方向にも考えられるわけです。それから、附帯決議で、四次防中の定員増は行なわない旨の附帯決議をつけるということを検討するということは、これでも差しつかえがないという前提に立って検討を始めたのではないかというふうに思いましたので伺ったんですけれども、そういうことではないんでしょうか。
  10. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) その最初定員の問題は、わが党の中でだれかがものを言ったのかもしれませんが、正式な機関において議論されたこともありませんし、私のほうに党からの接触がそのためにあったことも、あるいは何かのはずみでそういう話が出たことも、ありません。また、後段のほうは、これはもう党のほうでそういうことを言うはずもないし、「政府」とありますが、政府のどこかに、四次防を今後やらないんだという、そういう議論をする者がおろうはずはありませんので、それは明らかに推測にすぎないのではないかと思います。
  11. 前川旦

    前川旦君 それでは、いま長官も言われましたように、充足率においてたいへん欠けておりますね。そういう中で定員増だけするということは非常に素朴な疑問を感じざるを得ません、率直に言いまして。そこで、これは七月二日の読売新聞に載った記事でありますか、「米」——アメリカです。「全軍志願制スタート」という、これは七月二日ですが、ちょっとかいつまんでみますと、米軍の場合、最悪八万三千人の欠員が出る見込みだ、それからボーナスを倍近く引き上げる、これは二千五百ドルに引き上げると書いてありますから、日本の円に直すと六十四、五万円になると思います。円に直して。それから新兵初任給も、月に三百七十ドルといいますと、日本の金にしてほとんど九万五千円ぐらいになると思いますが、こういうふうにいろいろ待遇をよくしても、なおかつ応募者がない、いずれ志願兵はがた落ちとなるだろうと観測をされている、こういう記事が出ています。同じ悩みも、これから皆さん方——現在もそうでしょうし、直面されるわけですね。定員定員と言われますけれども欠員充足見込みとか、努力とか……。しかも、若年労働力は減っていくばかり、横ばいですね、ふえる見込みありませんが、どういうふうにこれを解決するというふうに考えていらっしゃるんでしょうか。
  12. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) これは率直に言って、防衛庁の長年の悩みであります。さらにまた、現在の客観情勢から見て、また悩みが一つ深刻になったわけでありますし、また、日本の十八歳から適齢期と申しますか、私どもが入ってほしい隊員たち候補者の数がきわめて顕著に減ってまいりました。大学進学率高校進学率、それと相対的な就職率、さらにまた背景の日本失業指数求人倍率、こういうようなものをいろいろ見ますと、自衛隊に喜んで来てくれる、あるいは合意して進んで来てくれるという志願制のもとにおいて、われわれの要求する、あるいは必要とする定員確保というものがその関係においては先行き非常に苦しいだろう、そういうことを考えております。したがって、アメリカがどのようなことを、持てる国アメリカですから、できるかわかりませんが、私たちは、やはり日本法律の許す範囲内においてしかそれを許されません。現在の自衛官俸給は、国家公務員に一応基礎を置き、そして公安職にスライドしておりますし、かといって、食費全額無料のように見えますが、実際は、その俸給体系の中に食費のほとんどがめり込ませてあって、実際は自分の選択できない食事を自分が金を支払ったことになっておる体系にもなっております。しかもまた、一応陸二年、海空三年という約束ごとで、短い期間の国家公務員ということになってくる体系は、ほかにはございませんし、この給与体系あり方も基本的に問題であると思っておりますが、なかなかこれを一ぺんに直すということは問題があると思いますし、不可能でありますので、いま給与制度調査会というもので、識者にお集まりいただいて、外部から御検討をいただいておるところであります。さしあたり、来年度予算においては——われわれの最も欲する一任期から二任期へ移ってもらうものがなるべく多いほうがいいわけであります。これは御指摘を待つまでもなく、約半数ほどが一期終わるといなくなる、二期への継続雇用に応じない、そういう実態でありますし、せめて入ってきてくれた人たちは引き続いておってもらう努力をすることがまず先決だろう、そのように考えまして、来年度予算では、特別退職金について、いまは一期終了して二期目にまいりますものについては百日分でありますけれども、これを二百日分に改める。二期目を終了して三期目に継続するものについては、現在の百日分を百五十日分とする、四期目については据え置くという、私たちの最も必要な一般士、そうして曹の三曹、二曹の位のところまでをなるべく長く自衛隊におってもらうための努力を一応予算要求としては進めてみようと思っておりますが、これはしかし、認められるか認められないか、あとまた給与法にも関することでありますし、国会の御意見も聞かなければなりませんが、いずれにしても、現行給与体系の中で話し合いし得る道はその程度しかないということで努力をいたしておりますが、これがはたして魅力ある施策であると一般青年諸君が受け取ってくれるかどうか、これは大いに疑問があると私も思っておりますが、できるだけの努力をしてみたい、こういう気持ちであります。
  13. 前川旦

    前川旦君 アメリカ記事では、「“高給、代休つき新兵いじめなしの軍隊”をキャッチフレーズに、軍紀の緩和を盛んにPRしている」けれども、なかなか集まらない。待遇をよくします。退職金をふやします——つまり、何といいますか、待遇がいいことで魅力を持たせるという、その考え方と、それから、私どもはこれ、賛成しているのじゃないのですけれども、いざというときに臨んで命を捨てて国を守るんだという精強な、何というか、精神を持った自衛隊あり方を貫くというのと、これははなはだ矛盾すると思うのですが、これはどういうふうにお考えですか。これは何かたいへんおかしな感じがしますよ。
  14. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) おっしゃるとおりだと思います。率直に言って。アメリカのほうも、志願制に切り変わって第一回の応募をして合格し、採用された隊員たちのインタビューがあったのをちょっと見たのですが、一番多かったのは、うちが貧乏で高校に行けないから軍に入る——アメリカですから軍ですね。軍に入ると、高校の勉強もさせてもらえるし、資格ももらえるというようなことなどが一番多かったようで、非常に無邪気な、あるいはまた切実な、進学の道として志願をしたのだというような、そういうこともだいぶ数が多かったようなことを印象づけられておりますが、そのことは、私たちも、本人の希望があれば、高校課程等終了については努力をしております。かといってまた御指摘がありましたように、防大卒業生一般大学に、その後の大学院等に受け入れられていない社会環境というものも十分承知しておりますし、そこらの点は、これから私たち努力努力を重ねなければならないのですが、青年諸君から見て、自分たちの国を守る気概、意識、その前提に、まず自分たちがその道を選ぶべきかどうかの判断としては、やっぱり待遇とか将来の生きがいとか、自分の生涯をそれにかけていいだろうかという計算も働くだろうと思うのです。これは、いまの若人諸君気持ちをそんたくすれば十分に考えられるところでありますから、そういうところもやはり私たちあり方から踏まえながら十分な検討を必要とするきわめて深刻な問題である、そのように考えております。
  15. 前川旦

    前川旦君 定員の増ということですけれども、いまの欠員充足をはかることが、このほうが先ではないかというのが一般国民の素朴な疑問なんですよ。それをやらないでいて——やらないでいてというのはちょっといけませんね、やっていらっしゃるんだと思うけれども、そのほうの努力が十分なされないで、定員のワクだけ広げて、しかもそれが国会でたいへんな問題になって、強行採決のようなかっこうになって、政治そのものの品位にまで影響すると。非常に素朴な疑問なんです。それに対して、努力をする、努力をするとおっしゃるけれども努力をいままでしておられるんであれば欠員が埋まっておるはずですね。ちっともその努力の結果は見えませんね。一番重大な欠陥はどこなんでしょうか、それは。どういうふうに判断をしておられますか。しかも、入ってきたものが二年たつと半分はやめていく、半分しか残らない。一番のその原因はどこだというふうに長官考えですか。
  16. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) まず最初に、入ってくる諸君のなかなか確保しにくい問題点は、一応予想を立てた定数は確保をして、毎年消化しておりますけれども、それとても、欠員充足するために、何年計画で、五年後には欠員が全部埋まるというふうな計画ではなくして、何人確保できるだろうかという大蔵との最後の折衝の場において認められる当該年度募集定員ということになっておりますから、それを充足してもなお横ばい状態欠員が続く、こういうことでありまして、やっぱりわが国の自衛隊国家民族生命財産を守り、独立と安全を保持するために必要な組織なんであって、そしてそれに対して自分たちの青春をささげて悔いがないんだということを広く一般青年諸君が理解していてくれないということが第一でありましょうし、入ってみて二期目に継続するものは半分になってしまうということは、入りますと、いまの一般社会青年諸君にはやはり相当かけ離れた社会であります。すなわち、長髪にしてみたくてもなかなか、そう、するなとは言っておりませんが、長髪をしていいような社会じゃありませんし、一種の集団生活を余儀なくされますし、集団の中には階級がある。階級もあって、また、自分自由意思というものが働く時間がきわめて少ない。やはり一般社会の深夜喫茶にも行けるし、ゴーゴーも踊れるし、長髪うしろから見ると男か女かわからない服装もしてみたい、そういう一般青年心理には、やはり自衛隊に入ってみると、何と申しますか、どうも窮屈でしようがないという気持ちになるのは私もうなずける気がするんです。しかし、そういうところをやはり私たちがつなぎとめるのは、決して金の面だけじゃだめだと思うんです。金を幾ら積んでも、精神的にいやだと思ったものはもうつなぎとめられませんから、それを強制するのではなくて、やはりみんなが自分たち使命の重大さを自覚するということに尽きるのじゃないかと思います。そういう意味において、私たち自衛隊の存在というものが、与野党の論議国民論議、そして司法の場に提起されました問題等を含めて、なるべく早く国民合意というものが得られるように、私たち自身が、平素、外に向かって謙虚に、そして自分自身たちは、そのもの使命感に燃えた集団として存在するような努力を今後私が先頭に立って進めなければならぬだろう、そう考えております。
  17. 前川旦

    前川旦君 これは、長官そうおっしゃるけど、非常にむずかしい問題ですね。私きのう申し上げました、脅威が眼前にあるのと、脅威がなくなる、つまり、いい世の中になるに従ってますますこういう傾向はふえていく、そういう点での矛盾というものがあって、なかなかいまのおことばのようには世の中はうまくいかぬと思いますよ、これ、実際問題として。これは、私、いつも自衛隊につきまとうこの矛盾をどういうふうに割り切っていくのかというのはたいへん大事な問題だと思う。  そこで、六月十三日の朝日新聞には、「海上自衛隊アナクロ業務計画案」、「階級名、昔に戻せ」「地位を明確にせよ」という、こういうのが出ておりますね。業務計画案で、海から、たとえば階級名前も、一佐を大佐に、三尉を少尉に、それから、何ですか、そうなると、二等海士をまた二等水兵にするんですか、こうやれば魅力があると  いう意見が出ていると新聞に出て、だいぶんひやかされていますけれども、一体こういうことがあったんですか。これはあったとして、こういう  ことをおやりになるんですか。
  18. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) まあ、特車を戦車と読みかえるのにずいぶん長いこと時間がかかったんです。そういう大将、中将、少将のほうが、それはわかりやすいかもしれませんし、大尉、中尉、少尉のほうがわかりやすいかもしれません。かといって、名前を呼びかえたところで、わかりやすいからといって、それが何の効果があるんだろう。むしろ、旧軍と同じ呼称を持つに至ったということのほうの逆の効果のほうしかないんじゃないかと私は思います。したがって、私に関する限り、そのようなものが検討された、あるいはそれに対して検討をしているということはありませんで、そういう願望はあるいは一部にあるかもしれませんが、それを取り上げる気はありません。
  19. 前川旦

    前川旦君 私は、これはたいへんアナクロニズムだと思いますがね、こういう発想法は。しかし、たとえば西ドイツ国防軍では、旧軍人を採用するのに非常にきびしい査定をして、少しでも極端な国家主義者傾向のあるものは全部排除して、非常にきびしい、二度とナチスのあやまちを繰り返さないという——このほうが合意なんですよ。国民一致合意なんですね。ところが、それに比べて、私は、自衛隊はたいへんルーズだったと思いますよ、その点で。それが、やっぱりどことなく、こういうところにも出ているし、それからわれわれも自衛隊はこわい。こわいんです。はっきり言うと、この武装集団が。そういうこわい、こわさ、また昔の世の中に逆戻りするんじゃないか、何か力になるんじゃないかという、そういう疑問を絶えず起こさせるものがそういうアナクロニズムの中にあると思いますが、これはどうなんですか、こういうふうな発想法は一掃するというようなお考えなんでしょうか。どうなんでしょう。
  20. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) ドイツは、その前提には、しかし、敗戦後つくりかえました憲法を、独立後は基本法でありますか、ドイツ憲法というもので国軍創設を明確に規定して、NATOにも正式にドイツ国軍として参加をしておるわけであります。しかし、その精神面において、かつてのナチズムに染まった旧軍のこちこちのものは採用しないという合意を持っているというならば、それはドイツとして私はけっこうなことだと思うのですが、私たちの場合には、文民統制組織防衛庁自体も確立をしておりますし、責任者文民たる長官でありますし、その最高の責任者総理大臣であり、国防会議が存在して、最終的には国会がチェックしてまいります。したがって、いま、かつての旧軍の者であったものが若干残っておりますけれども、いずれは戦後の防大卒業生が全体を、責任者を含めて、占める日が来ると思いますし、それに対するどのような形で橋渡しをしていくかについては、これまたむずかしい問題がありますが、解決をしておかなければなりませんけれども、旧軍の軍籍を持っていたからといって、それが特別に、いまおっしゃるように、こわい集団と申しますか、どちらに向けてこわいのか、国民に向けてこわいのか、よくわかりませんが、少なくとも国民に向けてこわい集団であるようであったならば、まず長官たる私自身がこわくなけりゃならぬのですが、ちっともこわくありません。私自身がぴしっと制御いたしておりますし、そのようなことにおいて文民たる私が統括をしている。その隊務というものが、いやしくも国民にこわいという気持ちを起こさせるようなことが絶対にあってはならぬ。いまアナクロニズムとおっしゃいましたけれども、そういう角度からすれば、いたずらに呼称等に固執するなんという考え方は、あるいはそういう表現が当たっているかもしれませんし、私として判断をするならば、そういう見解はまだ私たちの内局にも上がってきているわけではありませんし、一部の幕においてそういう意見を述べているものがいるかもしれませんが、そういうものは全く取り上げる気はありませんし、必要がない。第一、必要のないこと、無用のことであると考えます。
  21. 前川旦

    前川旦君 それでは、五月二十日の、これまた朝日新聞ですが、「旧軍の伝統“勲章”が復活」、「自衛官の胸飾る」、「「戦前のような勲章がほしい」という制服自衛官の要望にほだされて、防衛庁はこのほど制服の胸を飾る棒状の“勲章”を出すことに踏切った。」という記事が出ておりますが、これはこのとおりなんでしょうか。
  22. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 踏み切っておりません。私のほうでそれは却下いたしました。
  23. 前川旦

    前川旦君 四次防がいま進行中でありますが、この五カ年計画を、四次防の終了時は五十一年度ですけれども、それからあとは単年度でやるんだということを長官が指示されたというのは、これは六月六日の日経に出ております。これはこのとおりなんでしょうか。五次防というのはもうおやりにならないというふうに長官はお考えになっていらっしゃるのか。たとえばローリングバジェットシステムというのですか、これを採用していくのか。あるいはアメリカのようなミックス方式でいくのか。どういうふうに考えていらっしゃるんですか。五次防はおやりにならないならおやりにならないということで、決意というか、お考えを言っていただきたいし、考えが固まっているんでしょうか、どうなんでしょうか。
  24. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 固まっておりません。私が答弁いたしました前提には、私自身の私案としてそういうことをいま検討をしておりますと。しかし、それは単年度で済むいわゆる単年度的で完全な見通しの立つもの、あるいは兵器等に顕著に見られるように、国庫債務負担行為でもって後年度長期にわたって歳出化して取得していかなければならないもの等がありますから、そういうものはやはり長期展望の上に立った国会の御審議が必要であろう。でありますから、単年度で済むものと、単年度予算といっても長期的な展望を踏まえるもの、そういう場合には一応やはり五年ぐらいの区切りはなければならぬと思いますが、そういうもので国会が絶えず陸海空組織、装備、能力について単年度であっても全容を掌握できていただけるようなものでなければならぬと思います。それを一年ごとに、タケノコの節みたいにどこまで伸びるかわからない単年度の節をつくっていくつもりで言ったのではありませんので、その点は全然私自身の真意がそういう一年ごとにごまかして予算をつくる、五年たって振り返ってみたら膨大な数字になっていたというようなことを念頭に置いて言っているものでないことは御理解を願いたいと思います。最終的にそういう方針をきめるとすれば、国防会議なり、総理の御判断なりというものを仰がなければ、私がきめられないこともちろん、職階組織、その上から明らかであることは自明の理でございます。
  25. 前川旦

    前川旦君 それでは、いまの山中長官は、五次防という、四次防に次いで五次防と、こういうふうなことは賛成なんですか、反対なんですか。五次防というのはやるべきじゃないというお考えなんでしょうか。その辺の長官としての御見解を述べていただいてもいいと思うのですよ。いかがでしょう。
  26. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 一次防から始まって、三次防の次は当然次の年だから四次防、次の年度だから四次防、そして四次防が終われば五次防だと。とすると、それは一体どういうことになるんだという疑問が起こるだろうと私は思ったんです。したがって、五次防というものをつくったほうがいいのか、あるいは五次防というような形のものは、もう四次防で終わったほうがいいのか。そこらの判断については、私まだ自分に対して決断をし切らないでいるというのがいまの心境であります。
  27. 前川旦

    前川旦君 それでは本題に返りますが、四十五年十月の日本防衛白書、これによりますと、これからは直接侵略というようなものよりも間接侵略のようなものが危険性がある、そのほうが重要性を増すという文章が入っております。これは三年前ですけれども、いまでもやはりそういうふうなお考えなんでしょうか、どうなんでしょう。
  28. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) そのとき私作成に参加したわけじゃありませんが、大体そういう方向にいくのではないかという程度のことで、それを日本が一国だけでもって国際的な戦略を踏まえて断定し得る立場にもありませんし、その時点における判断を示したものと理解いただきたいと思います。
  29. 前川旦

    前川旦君 自衛隊の任務の中には、間接侵略に備えるというのが大きな任務の柱になっておるのは御承知のとおりであります。法律にちゃんと書いてあります。そして、そのための治安出動の準備も、ずいぶん実質的な訓練をしておられたことも事実であります。これは発表されました。そこで、一体間接侵略というのはどんな形で起こる、起こるとすればどういう形である、この想定がない限り備えられないわけですね。ですから、ああいう、備えて訓練をして、年間何百時間かという訓練をして新聞記者に公開をする、富士のふもとで公開をする——ですから、治安出動の対象である間接侵略というのはどういうかっこうで起こるんだということの想定がないと、訓練計画もできないはずなんであります。ですから、どういうふうな形で起こるというふうに想定されていらっしゃるんでしょうか。これは政府委員の方でけっこうですが。
  30. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 間接侵略と申しますのは、外国の教唆または干渉による大規模な内乱または騒擾というふうに一般に理解をいたしております。この場合に、教唆または干渉による大規模な内乱、騒擾の中で、単純に国内治安的な場合と、それから外国の不正規軍、たとえば義勇隊、義勇兵のようなものが入ってくる場合に分けられますが、前者の場合には治安出動で対処いたしまするし、後者の場合には防衛出動で対処することになるという考え方であります。  そこで、具体的にどういうことかというのはやはり千差万別でありまして、国内のいろんな地域、たとえば農村中心、山岳を中心に考えるか、あるいは都市を中心に考えるか、そういうところで全国的に暴動が起こる、どこで起ころうとも、国内の自衛隊、主として陸上自衛隊を中心にしてそういう事態が発生した場合に派遣をするということで、具体的な騒擾の態様そのものについてはなかなか特定しがたいのでありまして、そういうような相当数、多数による暴動が各地に起こるということを前提にしている。その前提に応じて、部隊の移動、それからいわば動員と申しますか、部隊を派遣する計画、そういうものを練っておるわけであります。
  31. 前川旦

    前川旦君 不正規軍が外から入ってくる、これは防衛出動で対処する、それから国内で外国の教唆、扇動によって行動を起こす、これは治安出動で対応すると、こうおっしゃいましたね、いま。不正規軍が入ってくるなんていうことは、どういう場合なんですか。一体その不正規軍というのはどういうものであって、どんな条件のときに、何を目的にして、どういうメリットがあって、不正規軍がどれぐらい入ってくるということなんでしょうか。ちょっと不正規軍が入ってくるというのは何か現実のことのように思えませんが、まあ現実のことでないことを想定していかなければいけないのが防衛の基本的立場ですから、まあそれはいいんですけれども、具体的にどういうことなんでしょうか。ことばとしてはあるんですけれどもね。
  32. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) もちろん、われわれが具体的なケースが想定されるというわけではありませんが、しかしながら、考え方といたしましては、たとえばロシア革命当時におきましても、いわゆる不正規軍がロシアの各地に発生をしたということもありますし、近くは朝鮮戦争の場合に、これは名前をちょっと忘れましたけれども、中国側のほうから北鮮に入ってきたという例もございます。そこで、私どもはやはり万一の事態というものを考える場合に、国内の暴動だけで済まない、あるいは外国からの資金とか装備とかの援助だけで済まないという場合もやはり想定せざるを得ないわけでありまして、その場合には、海上からという場合もありましょうし、海上から来る場合には比較的小規模なものであると考えまするし、そしてまた陸地続きはございませんけれども、大陸に近い場所、そういったところが比較的大きな規模のものが考えられるということであります。  それでは、具体的にどういう程度の規模のものであるかということは、おそらくどこの地域でもそういった義勇兵あるいは不正規軍ということを考えられているわけではございませんでしょう、今日においては。したがって、具体的な想定というものはなかなかむずかしいんですけれども、そういう事態があり得ると、あり得た場合にどうするかということは、やはり直接侵略及び間接侵略に対する任務を持っている自衛隊といたしましては、計画としてはそういうことを念頭に置きながら計画を立案するということであると思います。
  33. 前川旦

    前川旦君 たとえば、いま言われたのは、こういうことですか。ロシア革命のときの不正規軍というのは、各地でシベリアあたりで帝制ロシア側の革命政府に対する反乱軍のようなものがたくさんできましたね。内戦になりましたね。そういうことを言われたのでしょうか。それから朝鮮戦争のときの中国から出てきたのが、これは不正規軍というのに当たるのでしょうか。義勇軍が出てきたというのですか、そういう意味で言われたわけですか、いまの。
  34. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 外国政府の指揮管理のもとにわが国に部隊が振り向けられる場合、これは直接侵略に該当すると思います。しかし、外国の政府と無関係に、たとえば民間団体が適当に部隊を集めてわが国に侵攻するという場合、これはことばが義勇兵であれ、不正規軍であれ、ことばは問いませんけれども、外国政府とは関係がないわけでありまするので、そういった事態がないとは限らない。シベリアの場合には内乱的な様相は示しましたけれども、やはりヨーロッパの軍隊がシベリアにも来ておったという事例もございますので、そういったことも想定してといいますか、そういうことも少なくとも過去の歴史においてはあった。ですから、そういうことはあり得ないということではなかろう。ですから、われわれとしては、やはりそういった事態も念頭に置いておく必要があるであろうということであります。
  35. 前川旦

    前川旦君 陸地続きであれば、不正規軍のようなものが、これは亡命者なんかが武装して入ってくるということも考えられましょうけれども日本のように海に囲まれて、しかも日本人というのはワンフェイス・ワンボンスです、これね。そこへ外国から不正規軍が入ってくるというような状態というのはどんな状態ですか。そういうことはちょっと考えられませんけれどもね。しかも、それに一または二の外国から教唆と干渉というのがかぶさってますね。いま外国と切れているとおっしゃったけれども、それかぶさっているでしょう。そうすると、そういうような間接侵略を日本にするという意図を持っている国は一体どこがあるのか、日本の周辺に。もう一つは、能力を持っている国はどこがあるのか。これはどういうふうに考えていらっしゃるのですか。
  36. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) きのう来再三食い違い答弁をしているようですが、私たちは仮想敵国を持っていない、そして今度は絶対に仮想敵国にもなり得ないのはアメリカだけである、ということを申しております。ただいま局長が申しました例は全部続きの例であって、例にとるに芳しくないというなら、島国であるキューバに対してやはり不正規軍というものが——これは、そのときには、アメリカが関係しているといろいろ言われたことがありますが、そういう侵攻は一応カストロ首相の手によって鎮圧されたというようなこと等もあり、南米各地では、国境を越えていろいろと逆にまたキューバが、ゲバラですか、それの指揮によってほかの国にそういう蜂起をさせようとしたとか、させたとかいうことが伝わっておりますが、やっぱり私たちは、直接どの国が日本にどういうかっこうで来るだろうということは、これはなかなか想定しにくい問題でありますし、相手国の意図も、そんなものは日本に対して現在だれも持っていないと思いますし、したがって、ただ自衛隊法の第三条にいわれている任務、そういうことを遂行するために、やはり直接と間接の侵略に対応するあり方というものは研究しておく必要があるというふうにとどまるのだろうと思います。
  37. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、これは現実にあり得ない論議のようですけれども、これは防衛の論争ですからやむを得ない。  間接侵略の場合には防衛出動になるのですか、治安出動になるのですか。これはどこでどういうふうに分かれますか。
  38. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 先ほど申し上げましたように、自衛隊法の中の任務の中に、直接侵略及び間接侵略に対して防衛するということばがあります。そこからもわかりまするように、また本文の治安出動のところでは「間接侵略その他の緊急事態」ということもありまして、したがって、間接侵略という態様の中で治安出動と防衛出動、両様の態様があるという前提法律がなっております。そこで、具体的に考えますれば、先ほど御説明申し上げましたように、純粋に国内の治安問題だけである、外国からのたとえば資金であるとか、資材、資機材の援助にとどまるというような場合には、これは治安出動の対象になります。ところが、どういう場合でありまするか、外国の不正規軍が関与してくるという場合には、これがもし直接的に計画的な武力攻撃とみなされるような態様で来る場合、そういう場合にはやはり防衛出動の対象になるであろうという考え方をとっております。
  39. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、防衛出動の場合と治安出動の場合とは、武器の使い方の基準が違いますね。これはどういうふうに違いましたかね。
  40. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 国内の場合、つまり治安出動の場合におきましては、国内の法律に従った範囲でしか使えません。武器としては、警察官職務執行法の第七条でありましたか、それが準用されるということでありますから、非常に制限された範囲内でしか使えません。しかしながら、防衛出動の場合でありますれば、国際の慣行、慣例に従って使えるということで、その点、非常な違いがあろうと思います。
  41. 前川旦

    前川旦君 いま久保局長は、防衛出動については、義勇軍等で外国から入ってきたもので、しかも外国から干渉と教唆を受けて、しかもかなりの武器を持っているということで入ってきたものについては防衛出動の対象になる、こういうことを言われましたね。そうすると、これは自衛権の発動であるということでしょうか。
  42. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 防衛出動の対象になりまする場合には、自衛権の発動であると思います。
  43. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、国内で日本人のみの集団で、やはり外国からの教唆、扇動を受けて騒動を起こすという場合は、これは防衛出動ではなくて、あくまで治安出動の対象だと、こういうふうにすぱっと分けて考えられますか。
  44. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) そのように思います。
  45. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 治安出動の場合は、あくまでも前提として一般の警察力をもってこれを収拾することができないということが前提でない限り、自衛隊がまず一義的に行動を起こすことはあり得ないのだ、したがって、一般の警察力の総力を傾けてもそれが鎮圧できない状態というものが起こった場合ということでありませんと、同じ分けてみましても、間接侵略に対応する自衛権の行使というものと直接にすぐに、その次には治安出動ということにはならない。その点は私からつけ加えておきます。
  46. 前川旦

    前川旦君 いまのその辺の解釈は、はっきりした解釈をしてもらいたいと思いますが、「陸上自衛隊法制提要」、陸上幕僚監部監理部の出した参考書ですけれども、これの「防衛出動」というところで、「もっとも治安維持のために自衛隊が出動するような事態が発生する原因には、純然たる国内上のもののみに限らず、外国の干渉によるもの(間接侵略)もありうるので、その意味では治安維持のための行動が自衛権の行使に該当する事態もありうる。」という文章が出ている。ですから、治安維持のための行動がこれは治安出動ですね。それが「自衛権の行使に該当する事態もありうる」となると、武器の使用方法が違いますね、これは。その辺、はっきり区別をしておいてもらわないと、あいまいにされると、治安出動で出ていったものが、これは外国からの教唆扇動があるとだれが認定するのか、これも問題があるけれども、間接侵略だ、これは自衛権の発動だということになってくると、治安出動では武器の使用には制限があります。しかし、自衛権の発動ということになると武器の使用は無制限になるでしょう。ですから、その辺はどういうふうに考えていらっしゃるのですか。
  47. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 治安出動の対象でありまする場合には、あくまでも国内法規に従った出動と武器の使用が行なわれるわけで、それは自衛権の行使とは違います。この点、いま法制調査官にも確かめましたが、そのとおりだということで、もし、いまの陸幕の資料の中にそのように書いてありますれば、この点は修正さしたいと思います。
  48. 前川旦

    前川旦君 これは昭和四十三年の三月ですから、その後変わっているかどうかわかりませんけれども、私、防衛庁で本を買ったのは、人に買ってもらったのは四十三年の三月なので、おそらく変わってないと思う。混同していますね、これは。ですから、それを整理してもらわないと、実際に武器を持っている集団が、その辺があいまいになっていて、治安出動だか防衛出動だかわからぬという、どっちもあり得るのだということで教育をされたのでは、たいへんです。と言うのは、実際に武器を使用するかどうか、治安出動の場合、その判断をするのはどこがするのですか。現場でするのは、だれがするのですか。
  49. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) これは治安出動に関する訓令の中に書いてありまして、現場におきまする、できるだけ最高の部隊の指揮官ということになっております。したがって、個人が使用する場合には、正当防衛及び緊急避難といったような場合に限られている。部隊行動する場合には、その場におけるできるだけ上級者というふうに規定されております。
  50. 前川旦

    前川旦君 治安出動の場合には、一個分隊単位で要所要所に配置されるということがあるでしょう。一個分隊十一人ですね。ライフル銃が十一になりますか、分隊長は三曹ですか、二曹ですか、三曹ですね。そうすると、要所要所に配置されるということはあり得るわけだ、ヘリコプターで。そうすると、その現場の武器の使用を判断する最高責任者というのは分隊長ということになりますね。二曹、三曹、そこに武器の使用を判断する権限までまかされるのでしょうか。それとも、出ていった全部隊の部隊長ということになるんでしょうか。その辺も、はっきり聞かしてもらいたいと思うのです。
  51. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 部隊行動をしまする場合、独立部隊としての行動をする場合の単位は中隊であります。したがって、個々の現場を見ますると、分隊が配置されているという場合もあり得ましょうけれども、しかし、最低限中隊長の指揮によって武器の使用が行なわれる。したがって、分隊が個々に配置されておりましても、それは通常の場合はやはり正当防衛その他の場合であって、部隊行動として行なう場合には、中隊長もしくはそれ以上の指揮官の権限によると思います。ただ、たとえば、特別の施設を警備する、あるいは特定の要人を警備するという場合がございます。これは分隊として、特別に離れて、本隊から離れて行動する場合があると思いますが、そういう場合に襲撃が行なわれたというときには、これまた部隊による人及び施設の警備については、第九十条ですか、九十条によっての武器の使用が認められておりまするので、これによって、その場合は分隊長という場合もあり得ましょうけれども、通常の場合は、治安出動をやっておりまする個々の分隊長が武器の使用を命ずるということはあり得ない。中隊長もしくはそれ以上、現場の最高指揮官でありまするから、連隊長、場合によっては師団長ということになろうと思います。そしてまた、おそらくかりに連隊長、中隊長というふうな、いわば中間機関の指揮官に権限が与えられるとしましても、その場合の武器の使用はこういう場合にしかやってはいけないということが、上級者から命じられるだろうと思います。なぜかなれば、過去の外国においてもそうでありまするけれども日本において明治以来軍隊が出動した場合に、発砲して治安自体が鎮圧されたかどうかということは、何といいますか、発砲したがゆえに治安が維持されたということには、必ずしもなっておりません。発砲されたがゆえに、かえって事態が紛糾したという場合もしばしばございます。それほど非常にむずかしい問題でありまするので、これはできるだけ上級者、師団長あるいはその上の人といったような者が指揮をすることが望ましいというふうに考えております。
  52. 前川旦

    前川旦君 これは私はたいへんな問題だろうと思いますよ、実際に武器を持って出るのですから、その武器の使用はだれが判断するかということは。ですから、国会でのこの場での答弁だけではなくて、やはり本格的な取り組みをぴしっとしないと、たいへんなことになると思う。  そこで、もう一つお伺いしますが、今度は自衛隊法九十二条、これは防衛出動時の公共秩序の維持のための権限です。九十二条には、「第七十六条第一項の規定により出動を命せられた」——これは防衛出動ということですが、「自衛隊は、第八十八条の規定により武力を行使するほか、必要に応じ、公共の秩序を維持するため行動することができる。」とありますね。八十八条の規定により武力を行使する、これは防衛出動のときの、自衛権発動のときの無制限な武力の行使だろうと思います。「必要に応じ、公共の秩序を維持するため行動することができる。」というのは、どういうケースを想定しているのでしょうか、ケースとして。
  53. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) この場合には、たとえば住民の避難誘導あるいは交通の整理、その他要するに武器の使用以外について秩序維持にわたるもの、そういうことを広く意味しているのであろうと思います。
  54. 前川旦

    前川旦君 私は、この参考書ですね、政府著の参考書ですね、「陸上自衛隊法制提要」、ここのところをちょっと拾ってみると、これは一九五ページにありますが、「防衛出動時の権限等」ということで「(1)武力行使」、それから、これはいまの前段に当たります。自衛隊法八十八条第一項によって武力行使ができる、その次の「公共の秩序の維持のための権限」として、「防衛出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため必要な武力を公使するほか、必要に応じ、公共の秩序を維持するため行動することができる。(同法第九二条第一項)。」これはさっきも読み上げたとおりです。  その次の解説ですが、「これは、防衛出動中の部隊が武力行使のために、武力行使地域に近接した地域に生じた騒じよう等をすみやかに鎮圧する必要があるからであり、」——あとはまあ関係ないことです。これは私あとでそちらへお見せしてもいいですが、防衛出動を命ぜられて出動した部隊が武力行使のために——これは海外派兵ではありません。国内でのことです。日本の国内でのできごとだろうと思う、を想定している。武力行使地域に近接した地域、つまり侵略軍が占領している地域ということでしょうね。これは武力行使ですか、侵略軍が占領しているところへ、追い落とすために自衛権の発動で攻めていくという場合の想像だろうと思いますが、その「武力行使地域に近接した地域に生じた騒じょう」——これは国民の起こした騒擾ですね、当然。「等をすみやかに鎮圧する必要がある」と、これが公共の秩序を維持するための権限で防衛出動の中に入っているのだと、こういう解釈になっています。これは少しおかしいと思いませんか。つまり、外国の軍隊がかりに武力侵入してきた。そこには日本国民がたくさんいる。それに対して、自衛隊がこちらから追い返しにいく。そこで恐慌状態が起こるのはわかり切った話ですよね。一般国民には、そのわれわれ国民がいる上で、大きなロケット砲や二百五ミリ・カノン砲がどんどんぶち込まれたら、えらいことになります。どっちが死ぬかわからない。ですから、これは当然騒ぎが起こります。それを鎮圧する必要があるからということでありますから、それも防衛出動の中に含めているとしたら、そういうパニック状態におちいって騒擾化した国民に、防衛出動の対象として銃を向けるということが、この教科書の中ですか、参考書ですか、述べられているということは、これは間違いじゃないでしょうか。一九五ページ、お持ちですか、これ。一九五ページのまん中ごろです。
  55. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 持っておりません。——この文書の表現か適当かどうかは別といたしまして、おおよそこういう事態があり得ると考えられまするのは、九十二条、「防衛出動時の公共の秩序の維持のための権限」としまして、九十二条の第一項の中身を第二項で書いてありますが、その第二項のところでは、「警察官職務執行法及び第九十条第一項の規定」が準用されるということになっております。そこで、職務執行法は、当然、国内治安の維持のためのいろんな規定が書いてありまするし、それから九十条のほうは、これは一号では人と施設、物件に関する防護というような場合、それから二号のほうは、「多衆集合して暴行若しくは脅迫をし、」云々というような場合に、自衛隊がこれに対処することができると、武器を使用することができるということがあるわけでありますが、そういう事態を前提にしまして、九十条一項をも準用しておるわけであります。したがって、純粋に外敵に対する場合のみならず、関連をして、国内でいろいろたとえば暴徒が重要な施設を襲ってきた、あるいは橋梁その他交通施設を破壊していると、国民が。そういうような場合も、これはやはり公共の秩序の維持ということで、それに対処することは防衛出動時といえども可能であるというふうに読めると思います。そのことばを、ここに書いてありますることが適当であるかどうかはちょっとよく考えてみまするけれども法律に即して申せばそういうことになろうと思います。
  56. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、これはあとあとの解釈の問題で大事なことですから、はっきり答えていただきたいんです。治安出動のときの武器の使用と、防衛出動のときの武器の使用とは違いますね、はっきり違いますね。九十二条では防衛出動時ですから、武器の使用は防衛出動時の武器の使用です。必要に応じて使えるということです。その一番最後の「公共の秩序を維持するため行動することができる。」、この行動することができる公共の秩序の維持活動は、このときの武器の使用は、治安出動の武器の使用の範囲であるというふうにはっきりされますか。それとも、これは防衛出動の武器の使用の範囲であるということになりますか。
  57. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 「公共の秩序の維持のための権限」として第二項が書いてありまして、その第二項では、職務執行法と九十条一項の規定がまた準用されていると。ところで、この職務執行法及び九十条一項というのは治安出動時の権限であるということになりまするので、公共の秩序の維持のための権限というのは、治安出動時の権限の範囲内であるということになろうかと思います。
  58. 前川旦

    前川旦君 なろうかと思いますということでありますが、それをやっぱりはっきりしていただきたいと思いますね。
  59. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 私のいま申し上げたとおりであります。
  60. 前川旦

    前川旦君 災害出動に武器を携行してはいけないという規定はないようですね、私さがしてみたんですけれども。ありましたかしら。災害出動のときの武器の携行はどうなんでしょうか。
  61. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) これは、災害時ならずとも自衛官は武器を携行することができるようになっておりますので、常時であると災害出動時であるとを異にしません。しかしながら、現実問題として、災害時において武器を必要といたしませんので、普通は持ってまいっておりません。
  62. 前川旦

    前川旦君 それでは、昭和四十六年三月六日作成ということで、「大震災が発生した場合の自衛隊の災害派遣計画について」、これは自衛隊が関東大震災のような災害を予想して対策を練る、それで外に発表したものですから、そちらにも資料がおありになると思いますが、この間、九月一日にはたいへんな防災訓練が行なわれたはずですね。東京で、関東大震災のような大きな地震を想定をしての訓練が行なわれたはずですが、関東大震災のような災害が起こった場合のことを自衛隊はいろいろ計画していますね。これは治安出動ですか、災害出動ですか、これははっきりしていただきたいと思うんですね。
  63. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 明らかに災害派遣であります。
  64. 前川旦

    前川旦君 明らかに災害派遣であって治安出動ではないと。そうしますと、武器を携行してこの出動をするということはありますか、どうなんですか。常時武器は携行できるということなんですがね、これはどうなんでしょう。
  65. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 災害派遣時には、災害における対処が主目的というよりも全目的でありますので、余分なものはなるべく省いて身軽にする、そうして災害出動に必要な資機材を持って行くことがたてまえでありますので、武器の携行はないと考えます。
  66. 前川旦

    前川旦君 ないと考えますと、はっきり言われました。これは私は了とします。長官もそういうお考えであろうと思います。あと長官からも追認していただきたいと思いますが。  私は、なぜこういうことを聞く気になったかというと、この東京の震災に出動するのは五万人をこえますね。計画で五万七、八千人、陸海空入れて総計人員約五万七千名となっています。この計画では。五万七千人というと、自衛隊の、幾らですか、二割以上を投入をするという計画でしょう。名古屋の師団も、これは名古屋ですから第十師団ですか、これも投入されることになっていると思うんです。たしか、なっていたと思います。「都内城北地区に、第一〇師団(名古屋)」と書いてあります。この名古屋の十師団が——これは八月二十一日の読売新聞から引用しますが、四日市発ということで、「「九州で大災害が発生、陸路寸断」との想定で、二十二日、三重県四日市−大分県別府港間で海上輸送の災害派遣訓練を行い、軽戦車や百五ミリ砲を運搬しようとしていたことが明るみに出、二十日、四日市港管理組合(管理者・田川亮三・三重県知事)が自衛隊に中止を申し入れた。」、「第十師団は、さる十五日、災害派遣訓練のため、四日市港公共岸壁で海上自衛隊の揚陸艦二隻に車両三十八台、隊員百十九人とともに、M24型軽戦車四両と百五ミリ砲二門を積み込む」という計画であった。——私は、災害出動と治安出動とが混乱されては困るという感じがいたしました。九州で大災害が起こったということを前提にして、名古屋の師団が、災害出動をする訓練に、戦車それから砲を携行するという訓練、これは一体どういうことなんだろうかと、つまり、災害派遣ということで、東京に関東大震災のような大災害が起こったときに、戦車や砲が、重武装した軍隊が、五万七千人もこの都市に投入されるということになるんだろうかという疑問が起こりましたので、いまそれを伺っているわけなんです。この点について御見解はいかがでしょうか。
  67. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) その四日市の問題は私も奇妙なことだと思って調べたんですが、これは通常の部隊の移動、装備の移動であったんですけれども、それがたしか初めての四日市港の使用であったと思いますが、そういうこともあって、事前に打ち合わせをしたところ、災害ということにしたらどうですかというような話し合い等があったやに聞きました。しかし、それにしても、通常の移動に対して、別段、国民が、港湾管理者といえども文句をつけているわけじゃないんだから、そういう目的を取り違えたカモフラージュをして、そうして部隊装備の移動を行なうなんということは、それは心得違いである、したがって、そういうものは、目的はこうでありますということをはっきり言って、それに必要な限りのものを積み込むのが常識である、そういう、内容の許可もあたりまえの許可を出すべきであって、表面を糊塗するようなことはいけないということで、私から、そのことは、今後そのようなことを絶対にやってはならないということで、きびしく直さしてあります。その点は私どものほうの不心得な者が現地におって、そういう申請をしてしまったということで、災害派遣のときに戦車とか火砲を持って行くというようなことは絶対あり得ないことであります。
  68. 前川旦

    前川旦君 災害派遣ということになりますと、知事の要請ということになりますかね。そうしますと、一県また二県にまたがる大災害ということになります。この東京の場合は。ですから、緊急の場合には師団長の権限で、もう天変地変でやむを得ない場合には災害出動を出すということも許されておりますけれども、数県にまたがるということを含めて、私は、これは災害出動であるということを、治安出動ではないということを——もちろん、その最後のほうにえらい大暴動が起こったりして態様が変わったら別ですけれども、そうでもない限り、これはあくまでも災害出動なんだということを、長官、やっぱり確認してもらいたいと思う。というのは、私は数年前に、この自衛隊の任務で、直接、間接侵略または——もう一つありましたね、自衛隊法三条、「必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。」、これは一体どういう場合があるのですかと尋ねたら、関東大震災のような場合がこれに当たるでしょうというような趣旨の当時の防衛局長の答弁があったことを実は覚えておるのですよ。そういうことで、私はこれ、たいへん気になっておったのです。ですから、災害出動には原則として武器は持たない——当然のことです。関東大震災のような場合は何よりもまず災害出動だ、人命救助第一だというふうに、私ははっきり——いま防衛局長からははっきりした答えをいただきましたけれども長官からはっきり追認したお答えをいただきたいのです。
  69. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) もちろん、そのとおりでありまして、関東大震災がかりにマグニチュード七を想定して起こったと仮定した場合、推測だけでも、阿鼻叫喚、混乱のちまたと化するであろう。そのときに、私たちの持っております集団が、国民の、その一部地域であっても、首都並びにその周辺の大混乱をみずから身を挺して人命救助に当たり、あるいはまた避難誘導し、あるいはあらゆるヘリその他を使って災害を食いとめようとする努力をすることこそ、平和時における自衛隊の重大な使命の一つだと考えます。この点は黒柳委員からもそのような御指摘がありまして、私としては総務長官時代に災害対策本部の責任者であったので、自衛隊も入れて立体的な具体的な災害訓練をやってみたらどうだろう、震災対策をやってみたらどうだろうという提案もしたのですが、地方自治体その他も参加することもあって、なかなか自衛隊が入ってやることがむずかしいということで、現在九月一日には、一応図上で自衛隊としては連絡をとっておる、電話連絡、無線連絡みたいなものしかやっておりません。しかし、私どもの任務の中でこれはやはりきわめて重大な仕事であるし、やらなければならない私たちに一義的な義務がある、能力もまたそれに対して持っておるべきである、そう思いますから、黒柳委員の御示唆もございまして、御迷惑をかけない範囲で自衛隊が関東大震災等を想定する演習というものもやる必要がある、もちろん、その際において武器その他については一切使用しないで、もっぱら災害目的のためにやる、ただ、それによってあまりまた民心に、六十九年周期説ですか、そういうようなもの等で心配を与えてもいけませんから、そこらの配慮はしながら、ぜひ私としては関東大震災を想定した演習も必要である、そういうふうに考えております。
  70. 前川旦

    前川旦君 関東大震災のような大災害を想定した訓練が消防庁なりあるいは東京都なりでいろいろ考えられてやっていることは、これは備えていることですからいいことなんですが、防衛庁としては、自衛隊が五万七千人ほど動員するというこの救助活動、この災害出動のいろいろな具体的な計画ですね、かなり細部の計画があるようですが、これは要求があれば明らかにしていくべきだ。五万七千人というと、一千万に対して割ったら二百人に一人くらいの割り合いになりますかね、どこに行けばどうなるんだというようなことをあらかじめ問い合わせがあれば出すべきだと思う。  ところが、私が聞いている範囲では、取り扱い注意だとか、秘密だとかいって、わからないと、こういう話を聞きに行ってもなかなか教えてもらえないということがあるんです。それと、この武器弾薬の関連がありますからね。私はふしぎに思って、聞きたいと思ったのですが、秘密事項にしてなかなか知らせない。それで、そのえらい武器、戦車を持ってくるったって、五万何千人も東京都内に入り込まれたら、これは三島由紀夫の最も期待した客観的条件ができるわけですわ、これね。あっという間に、クーデターなんか起こそうと思ったら、できぬことはない。ですから、これはまさかのことを考えるのが防衛ですから、どんな仮定のことも考えておかなければいけないということですから。そういうことで私は気になりました。ですから、そういうときの動員計画、どうやって水を配給するかとか、どうやって病院に収容するかとか、そんなの秘密でも何でもないのですから、率直にあらかじめ明らかにしておくということにならぬものでしょうかね、どうなんでしょう、それは。
  71. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) これはまあ、地震の規模その他の、発生してみなければわからない態様によって変わるわけですけれども、まず、途中にはさまれて、質問ではなかったようですけれども、その混乱に乗じてクーデターをやってというような、そんなとほうもないことが起こり得るわけはありませんし、したがって、その計画には武器等の移動という、いわゆるクーデターに必要な武器等の移動というものが含まれた計画じゃありません。したがって、いまここに準備をしてきておりませんけれども、いずれ機会を見て、関東大震災時における自衛隊の行動はどのようなものかということについては、詳細お答え、御説明を申し上げる必要があり、また、そうしてもよろしいと考えます。
  72. 前川旦

    前川旦君 あの前の震災のときには、不幸な日本の汚点ですね、あの朝鮮人に対するたいへんな虐殺、暴行、それから日本人に対してもずいぶん虐殺、暴行、それから大杉榮をはじめとして労働組合の指導者に対するテロリズム、いろいろありました。もう二度とああいうことは繰り返してはいけない日本の恥辱だと思います。その点はその方針で万全を尽くすということなんでしょうか。当然そうだと思いますがね。それはいかがなんでしょうか。
  73. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 地震の際において最も具体的に、火事とか震動によるガスとかいろいろな危険がありますが、もう一つのパニックのもとになる要素としては、心理的なそういうデマというものが横行するというのは、これはやっぱりあり得ることであります。しかし、私たちは、そういうものが今日日本に内在していようとは思いません。また、かっての日本が三十六年にわたるいわゆる異民族統治という形を朝鮮半島に押しつけた歴史が、いまは反省の材料にこそなっておれ、また、日本に居住する人がいまもいるとしても、そういう人たちに対して何らかのデマ等が横行しようとは全く考えておりませんし、そういうデマというものは、これは単に自衛隊だけじゃありませんが、一切の災害対策については十分にそういうデマ等に迷わされないようなふだんの心がまえとかいうようなものを、いわゆるデマになるような要素は日本にはいま存しないだろうということを、これは主として総理府が中心に、パンフレットや小冊子をつくって家庭に配ったりなどしておると思いますが、そういう、火の元を消すとかなんとかいう心得のほかに、心の火も消すということもたいへん必要なことであります。そういうことを前提に申しますと、自衛隊がそういうような流言飛語に乗って、かつての大地震の際において軍あるいは警察、憲兵隊等がとったような行動をとるだろうか、全くそういうことはないということは、はっきり申し上げておきます。
  74. 前川旦

    前川旦君 それでは、もう休憩の時間、切りがいいと思いますからね。  そこで、休憩前に一つ。いまあり得ないことですけれども、あり得ないことを言うのも防衛論争のうちに入ります。私は、もしクーデターが起こったらどうなるかと考えてみたのですよ。そうすると、二・二六事件のときには、これは統帥権が独立していましたから、ぱっと対応できました。もしクーデターのような場合には、おそらく閣僚は全部人質になりますわ。だれが命令して鎮圧に当たるのでしょうかね。これは、この法律をじっと見ていて、私は、こういう場合には困るだろうなと思って見たのです。治安出動は総理大臣が命令するのであって、その総理大臣が二・二六のときも閉じ込められてしまいましたね。そういう場合はもちろん想定しておられないでしょうけれども法律上の問題で、一体だれがどういうふうに、そういう場合には指揮をして出動に当たるということになるのでしょうかね。これは防衛局長はどういうふうにお考えですか。
  75. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) むしろ、戦前の二・二六等の例であれば、統帥権が行政府の長たる総理から離れていたということで、そういうことが起こり得たでありましょう。現在は、自衛隊の最高の指揮監督権者は総理であります。内閣総理大臣である。したがって、その統帥権者に向かって刃を向けることになりますから、そのようなことが日本においては想定されようもありませんし、総理の指揮監督を受けながら隊務の統括をする者は防衛庁長官であって文民であります。その掌握下にきちんと置かれた者が、いやしくも国民に向かって銃口を向けるようなことが万々が一にもあり得ない自衛隊である、そのことだけは明確に申し上げておきたいと思うんです。
  76. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時二十分再開することとし、休憩いたします。    午後零時二十二分休憩      —————・—————    午後一時三十四分開会
  77. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ただいまから内閣委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き質疑を行ないます。
  78. 前川旦

    前川旦君 午前中の質疑の最後のほうに災害の問題をお尋ねしましたが、当然のこととして、関東大震災のような大災害で行政機能が麻痺するということも当然考慮に入れられていると思います。特に閣僚の皆さんが行くえ不明になる、これは宿直しているわけじゃないんですからね。外にいらっしゃるんですから。あるいは道路で、通勤途上であれば、そこでたいへんな災害が起きたら来れませんわね。そういうことで、閣僚の皆さんに傷がないということはあり得ないのですね。そのことは当然予想していらっしゃると思う。そういう場合には一体だれがどういう権限で出動を命じたり動かしたりするということになりましょうかね。これはどういうふうになりますか。
  79. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) これは政府としても平時に相当研究しておかなければならぬことがあります。それは、災害対策本部の設けられる予定になっている総理府の本庁の庁舎、これが鉄骨が入っておりませんで、マグニチュード六でぺしゃんこになることになっております。そして、防衛庁の檜町の、私の入っております本舎も、実は耐震構造からいえばきわめてお粗末な構造になっております。そういうことも考えなければなりませんし、さらに、隊務の指揮官たる私が、震災のときに、檜町に居住しているわけじゃありませんから、どういう形で指揮をとることができるのかということを聞いてみましたところ、何ら具体的なそれに対する答えがない。それはやはり私だけが生き延びるという意味じゃありませんで、最高の統括責任者の私は、東玉川におりますが、その自宅から直ちにへりで檜町に行って、そこで震災対策の指揮がとれるように、そういうことを配慮していかなきゃいかぬじゃないか、総理についても同断であるというようなことで、目下そういう……。非常に演習そのものは図上でいろんなことを想定しておりますが、だれが指揮するんだという問題等になりますと具体的に詰めていない傾向がありますので、私も気づいております。そういう点は、まあ閣僚でも震災対策に関係のない閣僚はあと回しにすることにして(笑声)やっぱり何か緊急に確保して、定位置、指揮の位置、そういうものは絶えず連絡がとれていくようなものがないと、中枢が麻痺して部隊だけが動いてみても、それは部隊そのものが混乱状態におちいる、そう思いますから、そういうことも今後の問題として私たちの内部でも真剣に詰めておきたい問題の一つであります。御指摘のとおりであると思います。
  80. 前川旦

    前川旦君 これは、いま一時間のうちに起こるかもしれないことなんですよ、実際予知ができないんですから、何月何日何時という。これから詰めておかなければいけないとおっしゃるけれども、あすのこと、一時間先のことを考えておかなければいかぬわけですわ。閣僚が全部行くえ不明でどうにもならぬということだって最悪においてありますよ。そうすると処置なしだ。ペーパー上の計画はあるけれども処置なしだ。それから、クーデターなんかあり得ないことだとおっしゃったけれども、これはシビリアンコントロールがきちっと守られておれば、当然そうでしょうね。しかし、それだって将来のことですから、長官も平均十カ月くらいでかわられるんじゃないでしょうか。ですから、山中長官のもとではきちっとそれが行なわれているにしても、決してあり得ないことだといって全然考慮外にするということは、どこかでやっぱり詰めた対策というものを立てておかなければいけない、私はそう思いますよ。まして、これ、どうなんですか、大震災で閣僚が全部行くえ不明だ、当然あり得ることですよ、これは残念ですけれども。閣僚が行くえ不明で生死不明だと、国会は召集できませんね。どうなんでしょうかね。国会は召集できないと思う。そうすると、防衛のいろいろなものの言い方、いろいろな人の話では、そういうときに直接侵略のおそれがあるというふうな、国内の混乱に応じて間接侵略のおそれがあるとかなんとかというお話を、よく防衛研究のいろんなあれに出てきます。かりに閣僚が行くえ不明だ、生死不明だ、国会も召集できない。直接侵略があったら一体どういうふうにするんですか。その辺は考えていらっしゃるんですか、対応策は。ちゃんとだれがどういうふうにして、どういうふうにするんだというのはいかがなんです。これは。
  81. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) そういうことは考えていません。今日の地球は距離ではなくて時間である、そういう関係に各国立っておるわけでありますが、どこかの国に最近も幾つかもありますが、大地震等が起こった場合にすべての国が考えることは、どのようにして国連機構を通じ、あるいは各国の協力関係を通じてそれに救援の手を差し伸べようかと努力することがまず第一のように私は見ております。そこが混乱におちいったから直ちにそこの混乱に乗じて相手の国を制圧するということが、かりにいわゆることばの上だけで存在するとしても、そのようなことは、いわゆる人類の名において許されないことである。したがって、そういうことは想定する必要がないと、そう考えます。
  82. 前川旦

    前川旦君 それは、私どもはそう思うんです。私どもの論理なんです。いま長官の言われたことは。国際的な信義に信頼をする、あり得ないことだと。ですから、そういう論理を詰めていくと自衛力も必要がないという論理にだんだんわれわれとしてはいくわけなんです。ですけれども政府のほうではそうじゃないという論理構成でしょう。ですから、いまのように、そういうことはあり得ないんだというのは、私が、何といいますかね、社会国民政府防衛庁長官にしてもらうんであれば、私はそういうふうにやっぱりしますね。答えますけれども、ちょっとちぐはぐな思いがいたします。  この間、飛行機の乗り逃げがありましたね。飛行機乗り逃げがありました。私、あのとき考えたんですけれども、もし何人かのグループで飛行機を乗り逃げして外国を爆撃することがあったとしたら、一体それはどんな罪になるんだろうか。現実に乗り逃げがありましたからね。現実にないとは言えませんよ。どういう乗り逃げであったのか知らないけれども、この罪はどういうふうになりますかね。何によって処罰されるんでしょう、これは。全くそういうことはあり得ないとは言えない。この間飛行機乗り逃げがありましたからね、実際に。
  83. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) どういうことで外国の爆撃ということが想定できるのかわかりませんが、この間のLM機の乗り逃げという事件は、これはもういくら本人の動機やその他をさがしてみても、整備の任に当たる者で航空の操縦の経験のない者が飛び立って行ってしまって、それきり、おそらく洋上に沈んでしまって一片のかけらも油も残さなかったということになってしまっておるわけでありますが、その後は、格納庫の動哨のあり方あるいはとびらのかぎのかけ方、あるいはまた、それぞれのとびらの一枚一枚の機のおろし方、あるいはかぎの保管の二重、三重のチェック、緊急事態における、そのかぎを各飛行機にかけておりますかぎについての措置要領その他、きちんといたしました。したがって、先般のLM機のようなことは起こり得ない組織に、あるいはチェック体制にいたしましたが、それを操縦でき得る者が操縦して、そして正規の訓練の途中で離脱して外国に爆撃に向かうなどということは、これはちょっと考えられないことでありまして、外国とはどこをさすのかも問題でありましょうし、そういうようなことの想定は、議論としてはいくらでもしてよろしゅうございますが、現実的に考えられないことであるというふうにしかお答えできないと思うのです。
  84. 前川旦

    前川旦君 過去の例で、戦前に、中央の統制を離れて関東軍がずいぶん独走したでしょう。ですから、中央の命令に違反していろんなことをやったわけですね。ですから、過去に実例があるわけなんです。それを、いまはシビリアンコントロールが確立しているとか、それから民主主義の世の中だからといって——外国にはよく例のあることです。こういうことは、クーデターとかなんとか。ですから、日本は絶対そういうことはあり得ないんだから考える必要はないんだということで済んでいいものかどうか、私は疑問に思うんです。そういうことは詰めて、どこかでやっぱりきちっと最悪の点というのは考えておかなければいかぬのじゃないでしょうか。私はなぜこういうことを言ったかというと、あのときにちょっと考えてみて、何の罪になるかと思って調べてみたのですけれども、何の罪にもならないんですね、あれは。かりに飛び出して、よその外国を爆撃して帰ってきた。つかまえられた。刑法にも触れない。防衛出動時の命令違反でもなさそうですね。それで、私はおかしいなあと思って、一体それはどういうことなんか、ちょっと聞いてみたんですが。  それに関連して私ほんとうに聞きたいのは、いまの自衛隊に、違法な命令に対する不服従権、抗命権といいますか、不服従権、これは認められているのかどうか、この点はいかがなんでしょうか。
  85. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) それは認められておりません。懲戒、任免等について普通の公務員の公平委員会に訴えるというような手段は、同じように自衛隊員にも認められておりますが、上司の命令に対して、たとえば私の幕僚長を通じて指揮したことについて幕僚長が従わないというようなことはあり得ないことになっておりますし、法律でもそのようなことは禁止されております。
  86. 前川旦

    前川旦君 二・二六事件のときの判決文をちょっと読んでみましたところが、あの当時でさえ、将校首謀者に対しては罪が厚くなりましたけれども、下士官、兵に対する判決文の中で、たとえ上官の命令は絶対であると教育を受けた上官の命令であっても、違法な命令にまで従う義務があるであろうかという疑問を判決文の中で述べている一項がありまして、私は、いまの状態に当てはめた場合どうなるんだろうか……。それから、ベトナムでも、ソンミの虐殺とかいろいろありましたね。人間のやることでありますから、したがって違法な命令——これは戦争中のあれもありました、戦犯問題もありました、に対して拒否する権利というものが、民主主義、いわゆる西欧の民主主義軍隊ではずいぶん問題になって、認められているんじゃないでしょうか。その点についてのお考えはどういうふうに整理されているんでしょうか。
  87. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) これはもう自衛隊法に従う旨が定めてありますし、それに対して従わないということは、私たちとしては、一応それを担保する罰則もありますし、その範囲でしか保証できませんが、しかし、たとえば関東軍のかつての暗黙のうちに既成事実をつくり上げていった例とか、あるいはその二・二六の判決の部分とか、そういうものをとらえて、たとえば自衛隊の中でそういうような行動を上官の命令を聞かずに起こすというようなことがあり得るかといえば、私はあり得ないと思うんです。しかし、厳密に言えば、ほんとうの軍隊であるならば、それは軍法というものが別途に所在をしないといけない範囲のものがあると思うんですけれども、上官抗命、通敵、反乱、逃亡、敵前逃亡、いわゆる戦闘遂行能力その他に直接関連するそういうものがなくちゃいかぬと思いますが、日本の場合にはそういうものもありませんし、したがって、一般の公務員法の違反に準じて、まあ自衛隊法も特殊なケース以外はほとんどそれに対する罰則の適用にとどまっておるということでありますから、その意味では、悪いほうへ悪いほうへと解釈していったときに、どこで歯どめをするんだと、どこが抑止力に、いわゆるその意味の抑止力になっているんだと言われると、私たち自衛隊は軍隊ではない、しかし、その装備や能力をもって、もしおっしゃるような事態が起こるような場合に防げるかといえば、そういうことは起こらないような集団である、起こしてはならない存在の集団であるということしか言われないのではないかと思います。
  88. 前川旦

    前川旦君 私の質問したい要点というのは、ヨーロッパの軍隊で問題になった、つまり上官の違法な命令に対する不服従、従わない権利というものが兵士に確保されているかどうかということがヨーロッパでは問題になっている。それが、日本自衛隊の場合、たとえば治安出動する、あるいは防衛出動する、そのときに指揮官が、人間ですから、逆上するということもあり得ないことじゃない。違法な命令は、兵士——兵士ということばを使っちゃいかぬな。末端の自衛隊員が、この命令はずいぶんひどい命令だ、自分はこの命令には従えないという抗命をする、違法な命令に従わないという権利が保障されているのかどうか。その辺はどう整理していらっしゃるのですか。そのことを実は一番聞きたいのですよ。その点、いかがですか。
  89. 高瀬忠雄

    政府委員(高瀬忠雄君) 自衛隊組織体でございますので、上官の適法な正しい命令には当然従わなければならぬ、当然のことだと思います。で、そういった命令には部下たる者は忠実に従うというのが自衛隊法のたてまえでございますが、いまおっしゃいました違法な命令につきましては、これは隊員は従う義務はないと思います。ただ、それが違法であるかどうかという問題はなかなかむずかしい問題だと思いますけれども、観念的に違法な命令であった場合にはそれは従う必要はない、私はかように考えます。
  90. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、いま違法な命令には原則として従わないでもいいという権利が認められているという、はっきりお答えがありましたね。それじゃ、その違法か違法でないかを判断する基準というのは、どこに置かれるべきだとお思いになりますか。
  91. 高瀬忠雄

    政府委員(高瀬忠雄君) これは、一つ一つその具体的なケースに従いまして判断しなくちゃならぬ問題でありまして、これは隊員としては非常にむずかしい問題であろうかと思いますが、これはまあ上官の、指揮をする者の、命令を出す者の良識といいますか、そういった、まずまっ先に日ごろから良識に従っていろんな命令を出さなければならぬという、そういう教育訓練を施さなければなりませんが、と同時に、問題は、自衛隊の上官、それから信保を受ける者、その間の信頼関係といいますか、そういった日ごろからの教育訓練、そういうような雰囲気をつくりまして、いまのような事態が起こらないということをむしろ十分警戒をして日ごろからの教育訓練をするということが必要なんじゃないかと思うんです。で、この場合につきまして、これが違法であるか違法でないか、その違法、違法でないかの程度はわかると思いますが、それが適切であるか適切でないかということになりますと、なかなかむずかしい問題がありまして、はっきり違法な命令であるということにはこれは従わなくてもいいというふうに思いますけれども、その限界はなかなかむずかしいんじゃないかと思います。
  92. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 自衛隊法の五十九条では職務遂行の義務というのがあります。「隊員は、法令に従い、誠実にその職務を遂行するものとし、職務上の危険若しくは責任を回避し、又は上官の許可を受けないで職務を離れてはならない。」という、まず職務遂行義務として、裏返せば、法律に従わないことはやる必要はないということでありますし、したがって、職務上の危険もしくは責任を回避することも、この法律を裏から読めば、法令に従っていないことについては職務上の危険または責任を回避し得るし、上官の許可を受けないで職務を離れることもあり得る、というふうに読めると思います。また、次の五十七条では、上官の命令に服従する義務として、「隊員は、その職務の遂行に当たっては、上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」、でありますから、その職務上の命令とは、前条の「隊員は、法令に従い、」という、その法令に従って出される職務上の命令ということになっておりますので、この両者を勘案いたしますと、隊員が——そういうことはあり得ないと思いますが、小規模な個人的な関係で、きのうも実は奄美大島の竜郷村というところで、年の若いほうの三曹が年の多いほうの陸士長に「タバコをくれ」と言ったところが、持っていなかったので、もらいにいって持ってきた、それがおそかったとかいってなじられたために、ハブが出るときの用意にと持たしてあったナイフでもって刺し殺したという例がありますが、こういうのは上官、部下の関係を離れたもので、上官であるからといって、「タバコを持ってこい」、「お前が持たぬならもらってこい」、「何でおそかったか」というような、そういうこと等はやっぱり個々の人間関係の問題であろうと思います。隊務の遂行、職責の遂行というものは、やはりきちんとした組織、法令、そういうものに従って出される手順を踏んでいくべきものである、みだりに、また自分の気に食わない命令をされたから、それにそむいてもいいんだということはできない、ということがこの法律から読めると思います。
  93. 前川旦

    前川旦君 防衛出動なり治安出動の場合には、人間というのは異常な興奮状態になりますから、ここで論議しているような冷静な、クールなかっこうにはならないわけでしょう。その場合の行動についての本人の責任というものは、絶対に上官の命令に従わないと自分の命も危いんだ、やむを得ないんだというような状態があれば、これは責任が免れるというか、責任阻却という場合もあるかもしれませんけれども、違法な命令には従わないんだということが確保されていると、一人一人の責任が非常に重大になってくる。それは当然のことだと思う。それがほんとうだと思います。一人一人の責任が重大でなければならないということで実はこの問題を伺ったのです。そうすると、違法な命令に従う義務がないということを明確にしていただきましたので、そのことと——命令は何でも従わないでいいということではないんですよ。ないんですけれども、ぎりぎりのときの違法な命令に対する抗命権というのは基本的な人権に通ずるものとして認めるべきだという意見で合致した答弁がありましたので、次へまいりたいと思います。  それではいよいよ直接侵略の問題を伺いたいと思いますが、まず、その直接侵略の問題を伺うに際して基本的な問題としてよく問題になることでありますが、一体自衛隊は何を守るのか、この問いに対して、私はいろんな答えが混乱をしているというふうに思うのです。はっきり言いまして。ある人は国民の生命自由を守るためだといい、ある人は体制、いまの自由な体制を守るのが目的だといい、さらにはまた、ある人は、自衛隊の目的は米軍の基地を守る、米軍が来援してくれるまで基地を維持するのが自衛隊の任務であるという理論もあります。それから、そういう理論からまた派生して、自衛隊そのものの戦力を保持する、つまり、自衛隊そのものを守るんだというような意見も聞いたことがあります。あるいは国土を守るということばもあります。いろいろな人の書いたもの、それから防衛庁関係の人の談話のようなもの、それぞれみんな重点の置き方が違うのです。この辺で、何を守るのかという明確な統一した見解というものをお示しをいただくわけにいかぬだろうか、私こう思いますが、いかがですか。
  94. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) それは、いろいろな質問があった場合にいろいろな表現で答えておるということでありましょうが、しかし、基礎は厳然として自衛隊の任務、自衛隊はわが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ公共の秩序の維持に当たるものとする、これは明確でありますから、このことばのそれぞれのケースにおける起こる対応というもので、ある場合においては領海、領域、領土そのものを守り、そのことがひいては国家民族の安全と個々の生命財産を守ることにつながっていくということになるわけでありますから、あくまでも自衛隊法第三条というものがその目的をはっきり示しておると、こう思うんです。これが軍でありますならば、建軍の本義というようなものがやはりあるべきだと思うんです。しかし、日本の場合においては軍隊ではありませんし、建軍の本義というものが明確になって、それから軍の組織が構成されていくというようなものではありませんので、自衛隊法第三条に定めるものでもってそれで私は足りるものだと思います。
  95. 前川旦

    前川旦君 この自衛隊法と、それから自衛隊設置法ですね、中に文章としていまあげられたような文章が載っておりますが、これが抽象的なんです。ですから、いろんな人によって意見が分かれてくる。ですから、何を一番大切に、まず第一美的に何を考えるんだというようなことをうんと論議をして、ちゃんとした形がないと、実際に行動するときに差が出てくると私は思うんです。たとえば、国土を守ることが何よりも最重点だという発想法であれば、私は、これは陸上自衛隊なんかそういう発想になりがちだと思いますよ、どうしても。実際なっているかどうかしれないけれども。そうなると、一坪たりとも日本の土地を侵略されない、国土を守るためにはすべてを、自分も犠牲にする、人も犠牲にする、そこに何千人日本人がいても犠牲を顧みず大きな大砲をどんどんぶち込んで、そこを押し返すという、それが認められる、合法かつ最高のものだ、こういう陸戦重視の考え方からそういう国土ということが第一義的に出てくると、そういう発想法がどうしても出てこざるを得ないでしょう。  それから、海原さんですね、最近ずいぶん書いていらっしゃる、元防衛局長であり、国防会議の事務局長ですけれども、あの方は、体制を守るんだとはっきり書いてあるわけですね。はっきり言っておられるんですよ、新聞等でも。体制を守るということになると、一体それは何だ、自由な体制というのは何だ……。かつて国体を護持するということで多くの犠牲がありました。最終的には国体を護持するかどうかということで八月十五日にということを迎えたわけですね。体制を守るんだということになると、体制を守るためには反体制の人は味方ではないということになる。そうすると、じゃ体制とは何か、反体制側とは何かという非常にむずかしい問題が出てきますね。  それからこの判決文の中にもいろんな方の証言が出ていますけれども、その中には、結局日本の力では単独では守れない、したがって、米軍が来援するまで、その来援したときに基地が使えるというために基地の機能を守るということが、いま与えられたというか、いま許される最大の抵抗なんだというような証言も出ています。これはこれなりに論理的につながっていくわけですね。  それから、同じような発想法でいくと、自衛隊が対核防御というか、自衛艦なんかやっていますけれども、放射能を洗い流すという装置がついている。それから新型戦車もおそらく放射能を遮断する装置がいているんだろうと思いますけれども、それを見てある人が、ああ、もし核攻撃がされたときには自衛隊だけが生き残ったらいいんだなという皮肉を言った人がおりましたがね。国民は核の放射能にそのままにさらされておってもですね。そうなると、これは一体何を守っているんだという矛盾が出てくる。ですから、この問題は、私は、抽象的な平和と独立、安全、国を守るんだということで済ましておいてはいけないと思う。まとまった考え方にしておかないと。たとえば、第一義的には、とにかく国民の命を守るんだということで統一するのか、あるいは体制を守るんだと……。体制を守るとなると、これはいろいろ問題がありますけれども、海原さんなんかそういう意見がある。それはそれなりに論理は通っている。私どもは批判があります。同調しませんが。どうもいろんな人によって違うんですよ、意見が。何を優先的に何を守るんだという、これをはっきりされるべきではないだろうか、私はこう思いますがね、いかがでしょうか。
  96. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) なるほど、おっしゃるとおり、いろんな人がいろんな意見を言っていることは私も知っていますが、かといって、自衛隊を、かつてどのような地位にあったとしても、去っている人というものの意見というもの、自衛隊がその意見によって何かをしなければならないというふうには受け取っておりません。いろんな御批判は自由であります。むしろ、自衛隊で要職を経て去られた人が、自分の体験に向かって言いにくいことも言ってもらうこと、これまた一つの歓迎すべきことであり、私たちの目的に沿わないことまで言及されるならば、それは個人の御自由であって、私たちはそれを何らしんしゅくする必要はないわけであります。したがって、私たち自衛隊防衛庁というものが、あるいは政府というものが何らか別な考え方を持ち始めたとすれば別でありますけれども、われわれとしては、やはり日本独立と安全を守るんだ、そのことによって領海、領空、領土そのものも守っていくことが当然のことであり、それによって国民の個人的な生命財産も結果として守られていくというようなことを当然言えると思うのでありまして、アメリカの基地を守るために日本自衛隊があるということは、それは言い方の違いであって、安保条約において、その第五条で「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」、こうなっておりますから、私たちとしては、アメリカの基地を守るために自衛隊があるのではない。しかし、日本の国土を攻撃をされた場合に、それはアメリカの基地であるから、われわれとは関係ないから、どんどん攻撃をしてくださいと、それを見ているものではない。いたずらにながめているものではないことは、両国の厳粛な取りきめによる安保条約第五条が宣言する義務でありまして、私たちは、結果的にわれわれの国民生命財産もまたそれを守る手段として基地や施設を持っておる自衛隊も、そして合法に、かつ条約上それぞれの国内法の手続を経て提供をされておるアメリカの施設も、日本の国土の施政の中にある限り、結果的にはそれも守られていくことはあたりまえのことである。それを守るために存在するという言い方は、それは一面からのみの意見であって、われわれはそれにくみするところではない。そう思います。
  97. 前川旦

    前川旦君 私の言い方が悪かったか、ちょっと誤解があるようです。この自衛隊の任務は米軍の基地を守ることと言われた方は、私がごく存じ上げている方で、しかも、りっぱな識見を持たれた方なんで、それはアメリカを守るためだと言われているではないのですよ。日本を守るためには米軍の来援を待たなければならない、来てもらわなければだめだと、だからいまの実力でできるのは、それを来るまでを維持するんだ、維持するとなると、何とか基地を使えるように守っておかなければいけない、日本を守るため、ということですから、それはちょっと誤解なさらないようにしてください。その方の名誉のために私はちょっと申し上げておきます。  しかし、この考え方が通ってないと、いろんな出動をして、いろんな事態にあったときに、やっぱりばらばらになる、まちまちになるような思いがいたします。私どもは、国民の命1これは財産はなかなか守れない、命を守るということが第一義であるべきではなかろうか。そのことを第一に据えないと、国民を犠牲にして、命を犠牲にしてほかのものを守るという、国民の命の犠牲もやむを得ないんだと、ほかのものを守るためには。たとえば、体制を守るためには反体制のものを力ずくで、武器で押えてもやむを得ないんだと、そういうふうにすうっとつながっていってしまう。ですから、私はその辺は整理して、はっきりと何よりも一番大事なのはこれなんだと、命なんだと、こういうように一本通った、守る目的というものを、これ、一つのまあ防衛のフィロソフィーかもわかりません、通すべきじゃないでしょうか。そのことを私は言ってるんです。長官としてはどうお考えなんでしょうか。私はきのうから非常に興味深く読ましていただいた「防衛庁ビッグ4との対談」ということで、いまはもう去っていかれた方もいらっしゃいますけれども、陸幕長の中村龍平さんという方が、何よりも国民の命を守ることが目的ですよと、こう言い切っていますがね。まあいろんな意見がありますから、私は何かそういうところをまとめた一つの方針というのをほしいんです。聞かしていただきたいんですがね、いかがでしょう。
  98. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) あなたの御質問が、究極するところ、その問題を問い詰めたいんだと、聞きたいんだということであれば、私も初めからそうお答えしたと思うんですが、私としては同感でありまして、ふだんの自衛隊の存在するあり方国民のために存在する集団であって、国民の一人といえども自衛隊員が個人の責任であっても、危害を加えたり、あるいはまた破廉恥な行為を含む好ましからざる行為を起こしたという場合においては、きわめてきびしい態度をとって私は臨んでおります。ということは、自衛隊国民のために存在するのだ、その自衛隊が、一人といえども国民に害を与えるということ、そういうことは全く存在意義からして許されないことである、これはほかの職場と全く違うんだということを徹底しておりますし、言いかえるならば、私たちは、地域住民も含めて、一人一人の国民のまず生命、それの安全を守ること、そして自衛隊がまかり間違ってもその生命の尊厳に向かって、自衛隊の一員といえども、それがかえって危害を加えるようなことが起こる、このことはきわめてきびしく繰り返し注意もし、なおかつ、数多くの二十四万をこえる集団でありますから、一人二人の不心得な者が出ました場合には、全く本人に対してはにくむ気はありませんが、人間の飲酒後の、酒を飲んだあとの本能的な弱さが出たんだと思う節がありましても、自衛隊員なるがゆえに、それはもう懲戒免職以外の何ものも許されずということできびしく臨んできております。いまおっしゃることが私も論議の過程で初めて明らかになりましたので、それは、われわれは日本国民の命を大切にし、命を守る集団であるということを意味せよとおっしゃるなら、私どもはそのとおりでなければならぬし、そのとおりであると考えます。
  99. 前川旦

    前川旦君 それでは念のために伺いますが、自衛隊体制を守る、これは、体制というのはいろいろ内容によって違いますけれども、資本主義体制を守る、あるいは憲法で保障されたいまの政治を守る、いろいろありますが、体制自衛隊との関係というのは、これはどういうふうに理解をすればよろしゅうございますか。
  100. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 体制というのを、資本主義体制とか現在の自民党の政権による社会構造を体制と言われるのか、そこはよくわかりませんが、一つの体制に奉仕する集団であるべきはずはないと思うんです。したがって、われわれは特定の体制に奉仕するものではない。したがって、民主主義を基調とするわれわれの国のあり方というものを守っていくんだということを言うのでありまして、それが逆に独裁、暗黒、政権のために奉仕するということを意味するものでないことは、これは当然のことであります。そういうものに奉仕するものではないだろうと。しかし、日本の各政党、いわゆる政治を動かし、将来はどちらが天下をとっても、国権の最高機関を占め、内閣を構成するために存在する政党は、そのような政党は存在しないわけでありますから、単に与党、野党であって、野党のほうは反体制だと私は一概に言うことは間違いだと思うんです。現在の日本のこのような民主主義議会制度というものによって守られている平和な制度というもののもとにある限り、そういうものを守っていく、したがって、いまの日本というものを守っていくのであって、資本主義とか自民党の政権とかというもののために存在するものではない、それが自衛隊の本旨であるべきだと考えます。
  101. 前川旦

    前川旦君 いまのはよくわかりましたが、そうすると、私は何も長沼判決との関係で結びつけていこうとしているのじゃないですから。憲法自衛隊との関係はどうあるべきか。いま長官が言われたようなことは、憲法で保障された社会ですね、いまの日本ですね、民主主義社会、基本的人権が守れる社会。ですから、この憲法が結局問題になるということになるんでしょうか。たとえば、いまのような答弁のよって立つ基礎は何かというと、その基礎は何に置かれるかというと、やっぱり憲法で保障された自由、基本的人権、つまり日本憲法ですね。これがそういうことの判断の基礎にならなきゃいけないということになるんじゃないでしょうか。私はそういうふうに考えるのが至当だと思いますけど、これはいかがでしょうか。
  102. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 同感です。
  103. 前川旦

    前川旦君 私は、そこで一つふしぎなことがあるんです。これは長官に直接責任のないこと、あることじゃないかもしれませんが、何がふしぎかというと、外国の例を調べてみると、どの国の軍隊も、政府に忠実であるということではないんですね。憲法に忠実であるということなんですね。政府がどうかわろうと、要するに、その憲法に忠実であるということになっている。それが大体いわゆる自由主義国家での通例のように思いますが、私はちょっと調べてみたんです。そうしますと、国家公務員ですね。国家公務員は、就任するときに宣誓をしますね。捺印します。この宣誓書の内容を言いますと「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」——これは国家公務員の服務の宣誓文です。「憲法を遵守し」ということがはっきり書いてありますね。  それから今度は警察官。警察官の宣誓文を調べてみました。すると、「私は、日本憲法及び法律を忠実に擁護し、命令及び条例を遵守し、」ということばがかぶさってきて、「地方自治の本旨を体し、警察職務に優先してその規律に従うべきことを要求する団体又は組織に加入せず、何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、良心のみに従い、不偏不党かつ公平中正に警察職務の遂行に当たることを固く誓います。」——これは警察職員でも地方公務員です。ほかに、国家公安委員会の規則による警察職員、これも全部を読みません、時間がたちますから。やはり「私は、日本憲法及び法律を忠実に擁護し、」と、「日本憲法」と入ってますね。  自衛隊のこの宣誓は、不思義なことに、「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊使命を自覚し、法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、」——あとは省略しますが憲法を擁護しとか、憲法に忠実ということばが全然抜けている。前はどうだったろうかと調べてみたんです。それで警察予備隊の資料がなかったんです。ですから私の手元にありませんが、警察予備隊の次の保安隊員ですね。次の保安庁ですか、保安隊員。保安隊員の服務の宣誓として、「私は、日本憲法を擁護し、法令を遵守し、」と、こうなっている。自衛隊になったとたんに「憲法を擁護し」とか「憲法に忠実に」ということばが削られたというのは、これは何を意図して、どういう理由でこうなったのか。公務員のすべてに憲法を守るということが宣誓文の一番重要な部分に入っている。自衛隊の前身である保安庁の隊員にはありました。自衛隊になったとたんに憲法ということばを抜いたということはどういうことなんでしょうか。そのことについて私はふしぎでいかない。この理由はどうお考えなのか。それから、これから一体どういうふうに考えられるのか。ふしぎでしかたがないのですよ。どういうことなんでしょうか、お答えいただきたいと思います。
  104. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  105. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 速記を起こして。
  106. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) どうも私どものいまの担当者も、その当時の経過についてつまびらかにしておりませんし、私も全部法令は読み通しておるわけでありますけれども憲法ということばがかつて保安隊のときにあって、自衛隊と同時になくなっておるということについて、そこまで気がつきませんでした。したがって、この際、明確にいたします。これは自衛隊法施行規則でありますから、私の責任においてしかるべき文章をつくりますが、憲法を遵守する旨を明記させることにいたします。私の勉強不足であります。
  107. 前川旦

    前川旦君 たいへん気持ちのいいお答えをいただきました。これは初めに言いましたように、長官には御存じないときの話なんで、私もおかしいなあと思って実は読んだのです。ですけれども、まあこれは当然のことだと思いますね。国家公務員がみんなそうで、警察官みんなそう。自衛隊も公務員ですからね。しかも、前にあって今度抜いている。しかも家官の権限でできることだと思います。これは規則なり政令なりですから。どうか、いい答弁をいただきましたので、前向きに御処置をいただきたいと思います。  そこで、きようの最後に、いろいろな兵器を買って、今度一兆円を越す予算要求があって、その配備が、たとえば北海道に、陸上自衛隊であれば四個師団。ですから、どういう形の侵略というものがあり得るんだということをここで説明をして、論議をすることはできないものだろうかということに対して、はっきりした、お答えをきのういただけなかった。それは結局どういうことなんでしょうか。やはりここではそういうことは出せないのでしょうか。そういうことで話を進めないと、ほんとうの防衛論議はできないというふうに私は思いますがね。その点は、きのう私は満足できるお答えをいただけなんだのです。実を言うと。一晩明けましたけれども、どういうふうにいまお考えでしょうか。
  108. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 外国では、軍事委員会もしくは外交委員会等の場において、それぞれの国防大臣なりあるいは国務長官なり、そういうような者が、あるいは大統領なりという者が、自分の国の軍備あるいはまた予想される相手となり得る国々の能力その他をあげて、いま自分のところは追い越された、あるいは自分のところがこの点ではまさっているというようなことをやっているようであります。これはしかし、国権の発動たる戦争をし得る国、そして交戦権を当然持っている国においては、私は、西ドイツも含めて、敗戦国家でありますけれども、当然そういう議論が行なわれていい背景があると思うのです。しかし、私たちの場合は、攻められた場合のことを想定して、無防備、無抵抗ではいませんよというだけの範囲でございますので、きのう食い違い的な話であったことも私も十分考えておりますし、何かいいお答えができないかとも思いますが、やはり私たちは、たてまえ上、比較はできますけれども、じゃ仮想敵国をどこに置いて——これは仮相敵国というのを置いたところで、そう失礼になるわけじゃないのですね。ないのですけれども日本はそういうものを、交戦権とかそういうものを持って想定をし得る立場にありませんし、国権の発動たる戦争をしないわけでありますから、したがって、われわれとしてはもっぱら、いろいろな対応の場合にでも、どこにどれくらいのものがどういう装備で上陸した場合にはどういうふうに対応できるかということを、日本列島の各地区にわたってやはり検討はいたしますけれども、しかし、それはソ連であり、中華人民共和国であり、あるいは朝鮮人民民主主義共和国であり、場合によっては韓国でありというような想定をなすべき私たちは立場にないんじゃないだろうか。すなわち、それが諸国民の公正と信義に……、われわれは完全にそれを前提として、ここに高らかに平和を追求する国家として、だれにも危害を与えない国家として誕生することを宣言するという意味の憲法前文というものを受けた私たちの、拳々服膺してそれを守るべき範囲ではなかろうかと思いますので、したがって、この問題で御質問を幾らいただいても、私どもはやっぱり日本のあるべき謙虚な自衛隊あり方として、いやしくも仮想敵国なり何なりというものを想定した問答をいたすことはつつしむべきであると考えております。
  109. 前川旦

    前川旦君 この間の源田実委員の質問に対して山中長官のお答えになった答弁の中に、日本の生産力あるいはその日本国民性等からいって日本を配下におさめるとプラスになると思う国はたくさんあるでしょうというようなことを、私ちょっと、速記を調べておりませんけれども、述べられたように思いますし、それから、きのうの御答弁では、敵対関係には絶対なり得ないのはアメリカだけであるということを言われたように思います。そうしますと、いままでの防衛庁長官の、歴代の長官の答弁とだいぶん違うんですよ。いままではこういう答弁だった、日本の周辺に日本を侵略する意思のある国はありません、意図はありませんと、能力のある国はあるでしょう、しかし意思のある国はありませんと、こういう一貫した答弁だったですね。それが今度は意思の問題で、意思はないということから、意思は潜在的にアメリカ以外にはあるんじゃないかというふうに受け取られるような御答弁だったように思うのです。そういうふうに聞きました。それが私なら私の誤解であればいいのですけれども、いままでと少し違うところがあるんでしょうか、どうなんでしょうか、これは。
  110. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 私は違ってもかまわないと思うんです。相手の国の意思というものは常時変わるわけですから、指導者が交代しただけで意思は変わります。あるいは国際情勢が変化しただけで、一夜にして意思の変わることもありましょう。だから、意思の問題よりも、日本が現実に脅威を受けていると想定する、いわゆる仮想敵国というものを私たち考えません、そういう姿勢をとるべきでないと思いますということを言うほうが、私のほうが正しいんだと思います。
  111. 前川旦

    前川旦君 それじゃ、一つ一つの国をあげていくと、これはまあ時間がかかりますけれどもね。それじゃいまの中国がそういう意思を持っているだろうか、あるいは北朝鮮が持っているだろうか、それから大韓民国あるいは台湾ね、一つ一つに、意思を持っているかどうかといって考えていくこと、やっぱり意思を持ってないだろうと言わざるを得ないのですよね。まさか、いま中国は意思を持って、降るとは思えません。しかし、能力はあるかもしれませんね。それからソ連だって意思を持っているとは思えませんね。しかし、能力はあるかもしれませんね。ですから、私は、ほんとうは、将来はともかくとして、現在意思を持っているとは思えない、つまり、脅威ではない、現在は脅威になっていない、しかし能力があるからという、従来の考え方のほうが私は合理性があるように思いますよ。いかがなんでしょうかね。
  112. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 侵略する意思をどこかいま日本に対して抱いているだろうかといえば、やっぱり現実には抱いていないでしょうね、どこも。かといって、なぜ——これはもうソ連とはっきり言っていいんですが、ソ連の飛行機は、定期便といわれるように、日本列島を、スクランブルをかけられることを承知の上で、年じゅうぐるぐると、おりては上がり、おりては上がりするのだろうか。全く何の必要もないならば、そういうこともなさらないだろうと私は思うのですけれども。これは侵略の意思ありと言っているわけじゃありません。ですから、日本に現在侵略をしようと思っている意思を持つ国はない、そのことについては歴代長官が言っているとおりでありましょう。しかし、意思というものは指導者が突如としてかわる、われわれのような国の体制の総裁公選とは違うわけでありますから、かわれば変わり得ることもあり得ますし、変わらないこともあり得るでしょう。だから、外国のことを、その人たちの心をきめてしまっておくということもどうかと思いますし、しかし、現時点においてどうかといわれれば、どこもそういう意思はないでしょう。私もそれについては歴代長官と何ら変わりませんが、しかし、意思だけでもって推定するということだけは、それだけでもってわれわれは、じゃ、もう非武装中立でいいんだという気持ちには私たちは私たちはならないということであります。
  113. 前川旦

    前川旦君 いま非武装中立という問題が出ましたが、私は、皆さん方が直ちに直ちにということをよく言われますが、社会党の非武装に至る過程というのは、はっきりした文章がありまして、これは、社会党の政権の安定の度合いとか、平和外交の推進の度合い、自衛隊の把握の度合い、いろんな条件が並んでいるのであって、あしたから自衛隊をなくしてしまえ、それは手品だったらできますわ。そんなこと現実にできない。やっぱり過程というものがあるわけですから、そうすうっと結びつけるようなことじゃないので、それはそういうふうにおっしゃっていただきたくない。  そこで、それじゃ航空自衛隊考えている空からの武力攻撃というのはどういう態様を考えていらっしゃるのですか。どういうかっこうで攻撃があるとお考えですか。
  114. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 防衛庁の立場では、あくまでも可能な、ポシブルである事態ということを考えるわけであります。そこで、ポシブルであるということでいえば、周辺の諸国に軍事能力がある、これは歴代長官も、ただいままた山中長官お話しになったとおりであります。そういった周辺の軍事能力を基準にしてわが国に対し向け得る勢力というものを検討し、そういうものに対してわがほうがどう対処するかという考え方に立つわけであります。それは可能性のある事態ということであって、そうなりそうだという問題とはおのずから別の問題でありますが、しかし、防衛庁自衛隊の場合は万一の場合を想定するということでありますから、可能性の問題を基準にして、そういった計画考え方をとるわけであります。
  115. 前川旦

    前川旦君 それじゃ、可能性ということですけれども、そうなると、日本の周辺で最も——意思は別にして、大きな能力を持っている国がやっぱり可能性の対象として——これは実際するしないは別です。あなたのおっしゃったとおり。これは名前をあえて言わないで、X国ならX国でいいですよね。一番能力を持っている国というものがやはり対象になって、いろんな戦略、戦術を組み立てられるのでしょうか。
  116. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 必ずしも特定国X国だけではございませんで、周辺の諸国というものの軍事能力というものを基礎に置いております。
  117. 上田哲

    ○上田哲君 先ほどの御答弁の中で二、三はっきりしておきたいことがあります。  これまでの防衛庁の御答弁では、周辺諸国に脅威なしというふうに私どもは承っております。これが脅威ありというふうに変わったんですか。可能性というようなことは、これはいままでそう不明確には使われていなかったわけです。わざわざ横文字を使って、プロパビリティーとか、ポシビリティーとか、潜在的ポシビリティーとか、いろんなことばが使われていたわけです。不特定の可能性というようなことばではなかった。はっきりしていただきたいのは、そういう可能性の度合いが変化したということをお考えになるのか。これが一つ。変化したとお考えになるのであれば、私たちは、緊張は緩和の方向に向かっている、これはきのうも長官が言われたとおりですが、変化と言うならば、それは緩和の方向に向かっている、いまの長官のおことばでは。これまでの防衛庁長官や外務省側の答弁では、緊張緩和の方向に向かっているが、なお定着には至っておらぬということであります。長官は一歩進んで、かなり正直に、定着をしているという表現を使用されております。私は、そういう考え方からすると、これまでの脅威の見積もり論からして少しくズレが出ていると思うので、そこをひとつ正確に統一をしていただきたい。  もう一つ、ソビエトという名前をあげて、スクランブルを覚悟しながらかなりわれわれの空に飛んできているがというお話でありましたけれども、これは、そのような数字というのは私どもはいままで承ったことはありません。そういう実態をどのように 握しておられるのか、これをひとつ御報告をいただきたいし、少なくともわれわれが各自衛隊基地などを回ったりなどして断片的に報告を受けてきたところでは、ここ二、三年来はなはだしくその数は減っているというふうに報告を受けております。これは、いまの御報告では不分明でありますけれども、どういう傾向、数字になっているのか、この辺のところをひとつもう少し具体的にお伺いをいたしたい。根本的に防衛構想が変わったということだというふうには受け取っておりませんけれども、表現というのはこういう場合にははなはだ重要なことでありますから、ここはひとつズレのないようにお伺いをして、もしズレがあるならば、そのあともう少し突っ込んだ質問を留保いたします。
  118. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 先ほど前川委員との間では意思の問題についてやりとりをしただけであって、全体の極東の情勢は世界の情勢を踏まえて、好ましい緊張緩和の方向に向かいつつある、しかし、それがまだ定着しておるとは言い切れないということになっておりますから、それは何ら外務省の見解と私と違っておるわけじゃありません。したがって、われわれとしては、脅威が完全になくなったということも言っておりませんし、脅威があるのかといえば、脅威があるとも言っておりません。わが国に対して脅威でない国はアメリカ、そしてアメリカの軍事力だけがいまのところ脅威ではない。ということは、アメリカが安保条約を一方的に通告でもって破棄を申し出てくれば、アメリカも経済戦争その他で頭にきている面もありますから、いよいよ軍事的にも亀裂を向こうから生ぜしめるニクソン大統領のどうかつが具体的な手段として登場することになれば、これはわれわれは容易ならざる事態に逢着するわけでありますけれども、いまのところは、ことばはことばとして、そういうことはありそうにないということでありますから、私の答弁のことばの節々にやや違った点があっても、本来の、いままで述べてきました流れと何ら変わるところはありません。  ソ連機の——これは明確にしてよろしゅうございます。ソ連機の日本列島に対する定期便については具体的な件数等をあげて局長から答弁させます。
  119. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 一般に、スクランブルの回数は、三十八年度ぐらいまでは二百件前後もしくはそれ以下でありますが、三十九年度ごろ以降は大体三百件から多くて四百件台ぐらい。一番多い年が四十二年の四百二十六件でありますが、大体その後は横ばいで三百数十件。それから昨年度、四十七年度は、いま手元の資料では十二月までしかございません、これは年度で申しておりますが——では二百件余でありまして、昨年度はやや低目である。ただし、特異な動向といたしましては、ことしの一月には例年よりも非常に回数が多かったということ、それから東シナ海、沖繩周辺に来る機数が四件ないし五件であったと思いますが、相当これはふえておる。特に東シナ海の奥に入っていくケースというものは初めてでありますが。それから、このうちでソ連機と見られるのは、大体四分の三程度というふうに御認識いただけばよろしいだろうと思います。
  120. 上田哲

    ○上田哲君 関連質問でありますから、そう長くはやらないつもりなんですが、いま四分の三と言われましたね。これまで私は、こういう数字でこういう形で伺ったことはないと思うんですけれども、四分の三というのは、どういう識別でソ連機であるということを確認されたのか。機種などでわれわれが調査しているところでも、スクランブルの数字は、これを見ても私は定期便でどんどんふえているということにはならぬと思っているんですが、いずれにしても、たとえば中ソ問題というようなときに、数がいろいろ変動があるということはありますけれども、それをわれわれの国との関係で見るのは少し行き過ぎるということになる、それはほんとうにそう思っております。まあここは、もしそういうことが区別できるならしっかりしていただきたいにしても、第一線なんかの判断では、飛んでいってみればやっぱりだいぶ違うということが多かったように私どもは聞いておるのです。この四分の三がソビエト機であるというのは、それほど確認がしっかりできるものであるかどうか、これはひとつ明確にしていただきたい。  それから、ついでにといってはなんですけれども長官は、アメリカだけは攻めてくる心配はないのだというお話であります。これはたいへん論理的に言うとおかしくなるわけでありまして、あらゆる国に対しての万一を考えるということになれば、アメリカだけが攻めてくる心配はないというのは、まさしく安保条約というものがあるから、これがそういう論理を立てさせないのだという非常におかしな過程を中途段階で承認させられるということになるにすぎないと私どもは思う。仮想敵国もつくらず、あらゆる脅威の見積もりの上に立ってポシビリティーに対する防御力を自衛のためにつくるんだという論理を押し進めていけば、あらゆる国の軍隊は、これは脅威の対象として計算しなきゃならぬということになるはずでありまして、アメリカだけをここから除外するというのは、はなはだどうも意味がわからぬ。それは、とりもなおさず、たとえば長沼判決にもそのニュアンスがうかがわれるように、日本の軍事力というものはアメリカの補助部隊としてのみ作用すると、あるいはアメリカの補助体制の中でしか日本の軍事保障はあり得ないのだということを合意しているということを前提とするのだということになってしまう論理だと思うのであります。少なくとも、だからアメリカだけは来る心配はないぞという言い方というのは、論理的におかしい、私はそう思う。しかし、それと同時に、伺っておきたいのは、しょせん、そういうかまえに立つのであれば、日本のおっしゃるところの自衛力というものは、相手からの万一の侵略を受けた場合に、アメリカさんが助けに来てくれるまでの補助単位能力であるということになるはずでありますから、それならばひとつ、いつまでに来てくれなければならないのかということをはっきり明示していただかないと議論にならぬと思います。元来、必要最小限の方向から——必要最小限の必要とは何かという議論をせにゃならぬのですけれども、これはお答えにならぬのですから、まあそれはそれでいい。それはいいとしても、いつまでに来てくれなければいかぬのかということが、そうなればどうしても出てこなければならぬと思います。従来からいろいろな意見が出ておりますけれども、海はどれだけの抵抗力、空はどれだけの抵抗力、陸はどれだけの抵抗力ということを、どの国とは私は申し上げないが、防衛庁が想定されるシミュレーションならシミュレーションの中で、世界の一流軍事国の来攻ありとするならば、この際そうした三軍に分けての抵抗力がどれだけあるのかということを統一見解としてしっかり承っておきたいと思います。
  121. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) まず、アメリカ脅威の対象としないというのは、これは理論上も、安保条約を結んでおる相手国でありますから、あり得ないことでありますから、おかしくはない。そしてまた、いつ敵に変わるかもしれないものに、条約があるからといって、戦闘能力を持っている基地を提供し、その駐在を許しているという、そういうのはまた現実におかしな話でありますから、そういうことから考えても、アメリカ日本に対していま脅威であるということは考えられない、そういうことを言っているわけで、おかしくないと思います。  さらにソ連機の識別等については、これは写真その他で撮影されておりますし、私も、向こうの何型の飛行機で、どういうスピードで、どれだけの飛しょう能力を持っているというような報告は、そのつど受けておりますから、具体的には局長から答弁をさせます。  さらに、日本に対する侵略が直接に実際に起こった場合、陸海空それぞれ、どれだけ持ちこたえられるかというのは、これはまさに、どのような態様をもって急迫不正の侵害が行なわれたか、あるいは行なわれるかという問題に帰するわけでありまして、極端に言うならば、日本に対して一斉に核弾頭によって日本列島を全部一瞬にして——日本列島だけを目標にして攻撃をするとするならば、一時間で日本列島はおしまいになってしまう。しかし、そういうことは考えられないことでありますし、一発の核といえども、世界じゅうの核の引き金に全部指をかけるという可能性がある現在そういうことはもう想定する必要もないことであります。したがって、われわれは、そのときの態様というようなものによってそれに対応していくということでありますから、日本列島が全面的に核兵器まで含めて攻撃を受けるということはないような状態というものを永続させたい、それが安保条約による核抑止力ということによって一いろんな話し合いが進んでいるけれども、バランス・オブ・パワーという、そのパワーのバランスの中に私たち日本列島があることが安定への道であることなんだということで言っているわけであります。具体的な問題は局長に……。
  122. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) スクランブルに上がりました場合に、相手方が日本の飛行機あるいは米軍機であった場合もあります。それから、こちらが上がったけれども、相手方がもうその近くにいなかったということで、いわゆる会敵しなかったということで、わからないというケースもあります。しかし、ソ連機であったという場合は、いま長官が言われましたように、視認する、目で見る場合と、それから写真でとる場合と、両方ございます。それの集計で確認されたものが、いま申しましたように、大体四分の三程度であるということであります。
  123. 上田哲

    ○上田哲君 質問はちゃんと答えていただきたいのですがね。まあ関連質問だから、もうこれでやめますがね。長官のおっしゃるのは、私はやっぱり論理にならぬと思うんですよ。それならば、仮想敵国というのはどうしても出てこなければならぬですよ。仮想敵国ということは出せないのであって、おことばを借りるならば、仮想敵国ということを想定したってそんなに失礼なことじゃないのだと言われるが、にもかかわらず、仮想敵国を持たないのだと、それだけ二重に押えておきながら、抜き出してアメリカだけは例外であるということは論理性の完ぺきさを失うものだと私は思うんだということが一つです。  それから、安保条約があるんだからそれは関係はないんだということは、われわれの安全保障なり敵対関係というものは、安保条約という形の中に確約しているということを言うだけのことでありましてね。これは自衛論ということばとは少し違ってくると思うんだと。安保絶対論ということをとれば、それまでのことですよ。  それから、まあせいぜいその理屈を認めれば、アメリカが攻めてくる心配があるなら基地も貸すわけはないじゃないかというのは、これは逆証でありまして、はっきり言うなら、アメリカにはすでに占領されているんだから、これ以上占領される心配はないというだけのことになる。まあ理屈はそれだけのことですよ。だから、もしほんとうの意味で日本独立を軍事的にも確立をするんだ、回復をするんだとおっしゃるんなら、これはやっぱりアメリカに対しても侵略の可能性を十分戻すところまで引き戻して議論しないと話はおかしくなると思うんです。まあしかし、それはそれで、あとの議論にしておきます。  私は問題にしたいのは、日本が世界の一流軍事国からの侵略をもし受けた場合、この想定がないのだったら、初めから全然何のために軍隊を持つのかということに戻るんですよ。これは議論しなきゃだめですよ。一流軍事国から……。全然黒船にしかあたらないような小さい船が攻めてくるというのだったら、これは海賊船ジャックの話になるのだから、これは議論は別なんだ。そのためには四次防はあまりにも大き過ぎる。しかし、世界一流軍事国が攻めてくる場合の四次防じゃプラモデルのようなものだということは、長官もつい数日前の感想であったわけですよ。その辺のところが十分説明されないところに大きな国民の理解のギャップもあるわけでしてね。それからまた、向こうが攻めてくる態様によるんだとおっしゃるけれども、こんなものは態様によるんだということを考えていないんだったら自衛隊なんというものは全部おやめにやったほうがいいわけで、シミュレーションもあるわけですし、ORもやっているわけですし、幾つかの態様が十分にあるから、そこで何々Rとか何Rとかいう計算の中で、自衛隊というのは、実は単なる郷土の武装なんということばではない、うしろに一応の計算をつくって七百七十機が必要である、二十万ノットの何がしがどうであるということが出てきているわけですから、この根拠が説明されないということになれば、国家あるいは軍事論争、防衛論争がないということになるので、これは私はしっかりさすべきだと思う。核弾頭が降ってくる場合にはどうにもならぬのだという話になれば、これはすべてがないんですから、そんなら軍隊を持ったってしようがないとしかならないじゃないですか。私は、ここはしっかりひとつ防衛庁側で持っておられるシミュレーションの何通りかもあるだろうから、それを全部逐一にとまではいかずとも、さっき私が申し上げたように、一流軍事国が万が一進攻するならばという前提の上に立って、まあたとえばA国ならA国が七百七十機来攻する場合に、六百六十機来攻する場合、あるいは極東にすべての戦力を集めて九百機来攻する場合にという計算は、自衛隊にあるはずじゃありませんか。そういういろんな計算がおありになるはずだから、そこのところをしっかり出していただきたいと私は言っているんでありまして、これはひとつ、今日までいろんなやり方が出てまいりましたけれども防衛局長からでけっこうですからね、防衛局長、そこはあなたの該博ないままでの知識と計算の上に立って、日本の陸海空三軍自衛隊が、まさにアメリカが来るまでどれだけ持ちこたえるかということの一つのめどとしても、その一級軍事国の進攻を受けた場合に、海はどれだけで空はどれだけで陸はどれくらいだという数字をひとつ明らかにしていただきたい。
  124. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) これは、参議院の予算委員会で上田議員の御質問に応じまして比較的詳細に御答弁申し上げたわけでありますが、この場合の計算と申しますものは、四次防原案の作成の前段階としまして、いろんないわゆるシミュレーションをつくり、ORをやったわけでありまして、この当時のもの、つまり四次防原案の前提として考えたもの、これは当時のいわゆる十年後の防衛力が整備された場合の目標を基準にしまして、どの程度のものができるかということをやったわけであります。しかしながら、現在の四次防の案というものは三次防案の延長ということで、原案から非常に性格が変わっておりますので、実は前の数値を申し上げてもあまり意味がないことになったわけで、実際には現在の四次防の防衛力でもって何ができるかということを、あらためて——この前はインプットなどで相当不備もあったようにわれわれも反省しておりますから、そういった点を考え直して、四次防の案の防衛力で一体どういうことができるのかということを計算すべきだと思います。これはまだできておりません。しかし、御質問のいまの前の状況でありますると、おっしゃいましたように、航空機の場合には大体七、八百機程度のものが日本に飛行されるであろう。これは日本の周辺の軍事能力というものを基準にして考えて、おおよそそういうものを考える。そのうち、ほぼ三割程度のものを撃墜する能力を持ち得るであろう。それから艦艇につきましては、これは阻止率とか撃破率とかいういろんなケースがあるわけでありますが、そういったものもおおよそ三割程度ということを見込んだわけであります。しかし、このときは、いま申し上げたように十年後の整備目標といいますか、目標を基準にして考えたものでありますから、比較的大きなものであったわけであります。しかし、四次防の防衛力というものは相当小さくなっておりますから、そういったものよりもはるかに下がった数値になるであろう、これが予測されるわけであります。
  125. 上田哲

    ○上田哲君 何日、何時間ということを聞いているんですよ。三十機撃墜すればということはわかっておりますよ。あるいは三〇%か三六%、七%というシミュレーションがあることもわかっております。だから、そのためにはどれだけ持ちこたえられるのかという数値があるだろう。いまそれをどういう修正をしようとしているのかというのは出されるべきです。
  126. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 航空機の場合には、シミュレーションの関係で、双方の被害を一応出しまして、それが常に同じ被害の度合い、これは航空機自身もありまするし、日本について言えば、レーダーサイト等の関連資機材もあります。そういうものが同じ度合いを維持しながら逐次減耗していくという計算をやったわけでありまして、これはいわば計算の入り口のところでありまして、それがどれだけそれじゃ維持されるのか、特に相手国の場合には航空機をさらに増強した場合にどうなるかといったような計算をしておりません。したがって、時間的あるいは期間的な要素がそこに入っておりません。そういう意味では十分なシミュレーションではなかった。しかし、一応この程度のものがあれば被害率、損耗率、三割程度を維持し得るであろうというような数値を出したわけであります。海上の場合もやはり同じでありまして、艦艇あるいは潜水艦に対する阻止率あるいは破壊率、撃沈率というものがこの程度維持されるであろう、そういうものがどの期間維持できるかということは、この前の計算の中には入っておらないということであります。
  127. 上田哲

    ○上田哲君 だから、それがあるのかないのか、どうも質問に答えてくれないのですね。
  128. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 要するに、そういう期間の要素が入っておりませんでした。したがって、全体のいわば戦闘要素といいますか、そういうものを具体的には想定できない。言うならば、侵略に際して、海空において、あるいは陸においても、防衛するための一つのシミュレーションでしかない。総体のものはそこに現われておらない。これはORの計算上非常にむずかしくて、つまりインプットを、どの程度の要素のものをどの程度把握してそれをインプットとして入れるかということはなかなかむずかしいわけで、言うならば一つの試算をやってみたわけでありますが、問題は、むしろそういった計算方法といいますか、そういうことを開発する、またその計算の容量というもの、つまりボリュームでありますが、量の問題でありますが、そのボリュームを非常に大きくしないとなかなか計算が完成しないというような面もございますので、こういった面を具体的にどういう計算方式でやり、全体の防衛の態様を数値的に説明できるようなものをつくるかということは、今後のわれわれの研究課題になっていると思っております。
  129. 上田哲

    ○上田哲君 質問に答えてくれないのでしようがないけれども関連だから、最初久保さんとゆっくりやりたい意欲がわいてきましたけれども、残念ですが、やめますよ。やめますけれども、ちょっとこれだけしっかり答えてください。  そのシミュレーションが全然ないということになりますと、これはめくら行動じゃないですか。いまもってそういう段階ですか——そうですか。そうすると、アメリカがいつ来援してくれるのかわからないでですよ。私はまあそんな立て方はきらいですよ。そういう立て方に立ってないですよ。立ってないですが、あなた方の立て方によると、アメリカがいつ来援するのか、来援するのかというのは、まだ援軍来たらぬか、まだ援軍来たらぬかといって何か政府防衛隊がラッパをたたいているみたいな感じしかしないじゃないですか。全然科学的じゃないわけで、ずいぶんたよりないものじゃないかと思うのですよ。しかし、これはやはり防衛当局の勘ではいかないけれども、おおよそなその時点時点を区切った見方というものはあり得るでしょう。だから、ことばを変えて大ざっぱな言い方をします。  一つは、さっきあなたがおっしゃったような、おおむねたとえば航空七、八百機の来攻、こんなことができる能力というのは世界でせいぜい三つくらい以上はないのですから、その第一級軍事国としてのたとえば航空七、八百機の来攻以上の侵略がある場合には、たとえば空は数時間、海は半日、陸上はほぼ一カ月、こういうふうな概略で見ておいていいものかどうか、これが一つ。  それからもう一つは、それが十分なシミュレーションを得ておらなければ、このことについては可及的すみやかにシミュレーションを済ませてわれわれに報告をしてくれるか、その二つをひとつ答えてください。
  130. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 先ほど申しましたように、期間的要素がこの前の計算に入っておりません。そこで、これをどういうふうに期間を中に織りまぜるか、いろんな、何といいますか、見当をつけた資料は、日本についてのことを外国で書いたものもありますけれども、これはおよその見当でしかないのであって、根拠はないと思うのですが。そこで、これを日本側で計算……。
  131. 上田哲

    ○上田哲君 ニューズウイークに出ていますよ。見ましたか。あれはどうですか。根拠はない……。
  132. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) はい見ました。われわれとしては反論があるわけです。いま外国で出ているものは、たとえば四次防のいまの兵力で、あるいは四次防にあがっている兵力だけのときに外国から来たらどうかということについての一つの見積りが出ているわけです。しかし、私どもはこの四次防で出来上がる兵力だけを基準にして考えるのではなくて、ある程度やはり緊張事態がもし来るならば、それについての若干の余裕時間があるであろう、その間にある程度の補強をする。たとえば弾薬でありますとか、あるいはレーダーサイトについての補強、レーダーサイトにしても、基地にしましても、防空能力がきわめて微弱であります。そのままであれば、いま外国の雑誌なんかが書いているようなことになるかもしれませんけれども、われわれとしては、そこにプラスアルファというものを期待するわけであります。有事が近くなればそういうことでありますので、外国の数値はもちろん参考にはならない。しかし、それならば実際にはどの程度の期間かということは、再々申し上げるように、私ども計算しておらないわけであります。で、これを計算する方法をさっき申し上げたように開発をしようとしているわけでありまして、従来、航空自衛隊について上田議員に説明しましたその計算にしましても、一年余をかけて一億数千万円の経費のものであります。それでもインプットが非常に足りないわけでありますから、これは相当な作業になるわけです。われわれとしましては、しかしいまの状態でよろしいというわけではありませんので、議会あるいは国民にもう少し数値をまじえた説明ができるように努力すべきだと思います。   〔委員長退席、理事山本茂一郎君着席〕
  133. 上田哲

    ○上田哲君 だから一つ目の質問、数時間、半日、一カ月というのはどうですかというんです。七、八百機以上の規模の侵略があった場合には。
  134. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 計算上、私どもで明確に出しておりませんので、期間的なことをここで申し上げる自信はございません。
  135. 前川旦

    前川旦君 常識的に考えまして、日本に進攻能力がある国で最大の国をX国と考えてみて、まず空からの攻撃というのは常識的にどういうふうになるんでしょうか。おそらくレーダーサイト、それから飛行場、ナイキの基地、こういうものから攻撃が始まるんであろうと思いますが、どういうふうに攻撃が予想されますか。
  136. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 当然、最初はレーダー基地、それから次いで航空基地あるいはレーダーサイトの基地、次いでさらに他の軍事施設及び軍事施設に利用できるような施設、たとえば港湾、橋梁、それから交通機関、これは船舶関係及び鉄道関係を含むものでありますが、そういったいわば戦略要域、要点というものについての攻撃が行なわれるであろうというふうに、これは相手方に立てばそういう戦略、戦術に出るだろうと思います。
  137. 前川旦

    前川旦君 私は、レーダー基地を見せてもらったことがありますが、全く海岸べりに露出した基地ですね。あのレーダー基地を破壊する、これは全国で何カ所ありますか、二十数カ所だと思いますね。レーダー基地が破壊されるのは簡単に破壊されるように思います。これが破壊されると、飛行機が攻めてきてこちらがその要撃に飛び立って会敵するまで誘導できなくなる、つまりめくらになる、こういうふうに考えていいわけじゃないでしょうか。
  138. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 沖繩を除きまして、本土には二十四カ所のレーダーサイトがあります。で、そのレーダーサイトはオーバーラップするようになっております。つまり重なるようになっております。したがって、一カ所がやられればほかのほうでカバーするということになります。それからDCサイト——防空指揮所でありますが、そこで実際上の航空機の誘導をやるわけでありますが、もしバッジ組織、自動化の組織が機能しない場合にはマニュアル、手動式に切りかえるようになっております。で、それのバックアップといたしまして移動警戒隊というのが三次防から四次防にかけまして準備されてございます。四次防では三隊であったと思いまするけれども、そういったものがもし逐次拡充されていけば、レーダーサイトがやられた場合に移動警戒隊がレーダーを持ってかけつけるということになります。しかし、それでも現在のレーダーサイトはいわば裸に近い。防空能力が非常に弱いわけであります。その点は、有事が非常に近いのかどうか、緊張が高いのかどうかという情勢判断の問題にもかかわるわけでありますから、私どもはいまそこに重点を向けるほどの必要はないということで、言うならば、もろい状況のまま残されている。そういう状況で、先ほど上田議員も言われましたように、数時間ではないかという外国の指摘も出てくるわけであります。
  139. 前川旦

    前川旦君 奇襲を受けますと、レーダーサイト一たまりもないわけですね。いまの現状でいいますと、そういうふうに考えていいと思いますが、どうでしょう。
  140. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 一たまりもないということがどういうことでありますか、特定のレーダーサイトに対して爆弾を投下すればまあ非常に弱い。しかし、いま言いましたように、オーバーラップをさしてありますので、他のレーダーサイトがその地域をカバーするということにはなります。しかし、全域的に大規模な空襲が行なわれれば、これはおそらくレーダーサイトは生き残れない、現状におきましては。
  141. 前川旦

    前川旦君 レーダーサイトがやられますと、自後日本の戦闘機が要撃に飛び立つ、会敵するまでどのくらい、何分かかるかわかりませんけれども、その誘導能力はなくなると考えていいわけですね。あとはもうそのF4ならF4の持っている能力しか期待できない。そうすると、マッハに近いスピードで来る飛行機と会敵するということは不可能になるのじゃないでしょうか。
  142. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) レーダーサイトが全部やられました場合には、これは航空機を誘導する能力はございません。そうしてまた、戦闘機が持っておりまするレーダーも近間の相手は見つけられまするけれども、いわば近眼でありますから、遠くからのものを発見することはできない。ただ、ここでせっかく先生が御勉強でありますので、私は特にお願いをしたいのでありますけれども防衛力というものが、戦争に備えるものであるのか、戦争をむしろ起こさせないようなための抑止力として意義があるのか、そこのところの問題が非常に重要だと思うのであります。そこで、戦争になった場合に、これは役に立たない、あるいはどうだというお話もありまするけれども、いまの平和を維持するための防衛力ということもたいへん意味があるのではないか、まあいわば抑止力ということでありまするけれども、そういった観点に立つ場合には、このレーダーサイトは全部やられた場合にどうのということは、まあ重要な問題でありまするけれども、もう一つ別の見方が可能なのではないかという感じがいたしております。
  143. 前川旦

    前川旦君 私は軍事の問題を全然知りませんので、あなたにいろいろお尋ねしているのでありますから、どうかそのつもりで親切にお答えをいただきたい。  いま抑止力とおっしゃいましたけれども、実力、あなた方の考え方でいうと、われわれの考え方は違うのですよ。抑止力というのは別の考え方。しかし、武力に抑止力をたよろうとする限り、能力がないと抑止力にはならないわけでしょう。そこのところをすりかえちゃいけないと思いますよ。そこで、攻撃してくる側に立って考えてみると、スポーツしに来るわけじゃないのです。これは。楽しみに来るわけじゃないのですから、戦闘を楽しみに来るわけじゃないのですから、本気で進攻してこようと思ったら、まずこれはレーダーサイトをめくらにするでしょうね、おそらく。これは常道じゃないでしょうか。私は何にも軍事のことを知りませんけれども、長沼判決での源田先生の証言で教えていただきました。源田先生も正攻法としてはそういうふうなことになるでしょうねという証言をしていらっしゃいます。ここで私は勉強したのですけれども、たぶんこういうふうになるでしょう。それからF4にだんだん変わっていきますね。F4EJですか、これが離着陸できる飛行場というのはどのくらいあるのです。これは秘密でない限り教えていただきたいのですけれども
  144. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 民間飛行場の相当部分が使えると思うのですけれども、したがって、民間飛行場を含めての施設はちょっと見当つきません。計算すればすぐわかると思いますけれども、これは長さだけでなくて厚さの関係もあります。自衛隊だけで申し上げれば、現在使えまするのが、千歳と百里は使えます。あとは工事をしないと、たしか使えないはずだと思います。これは長さと、それから厚さの関係、それから米軍の施設でいえば、もちろん三沢、横田、それから岩国が使えると思います。
  145. 前川旦

    前川旦君 当然、攻撃する側に立つと、レーダーと、それから飛行場を攻撃しますね。これはたとえば中東の六日戦争ですか、あのときにほとんどアラブ側の飛行機が地上で撃破されましたね。ああいう形が奇襲の場合には攻撃は望ましいわけです。だと思います。私は。ですから、レーダーと飛行場を攻撃するということになるでしょう。そうなりますと、レーダーがやられ、飛行場がやられ、しかも地上でやられる、こういう損害というのはどういうふうに見積もっていらっしゃるんですか。つまり、先ほど言われた、最強の能力国であるX国が、八百機とか言われましたけれども、それだって動きますわね。飛行機は移動するんですから、集結所を持っていれば幾らでもできるんですからね。それに対して、一体どれぐらいの奇襲を受けて、反撃に出られるんですか。どういう見積もりをしていらっしゃるんです。
  146. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 私ども検討しました場合には、対空ミサイル及び要撃機によってどの程度対処し得るかという計算をしたわけでありますが、いまの飛行場の被害に応じて、それをどの程度早く回復し得るか、また、飛行場における損害率をどう見るかと、この点が、さっき申し上げたように、インプットで必ずしも十分でなかったという面がありますので、数字的には申し上げにくいと思います。しかし、この点も、再々申し上げまするように、いまの飛行場、自衛隊の飛行場というものは、いわゆるシェルター——掩体壕とでも申しますか、飛行機を分離して被弾を免れるようなための施設、つまりシェルターでありますが、そういったものをつくっておらない。これは韓国なりヨーロッパなりはつくりつつあるわけですけれども、わがほうはつくっておらない。それから、いま申し上げた防空機能が非常に弱いということでありますので、現在では非常にその点は、奇襲を受けた場合には脆弱であると思います。
  147. 前川旦

    前川旦君 長沼で問題になりましたナイキでありますが、アメリカで訓練をおやりになっておるわけでしょう。そのときには命中率が非常に高いという話を聞いておりますが、実戦になると五〇%ぐらいに落ちるだろうと。しかも、これはどうなんですか、ベトナムでソ連の地対空ミサイルの命中率が三%から四%であったという話を聞いておりますが、それはなぜそういうふうに低かったかというと、例の電子妨害が大きな影響を及ぼしていると思う。それで、この電子妨害、何というんですか、ECMですか、これをやられると誘導ができませんね、実際にレーダーがまっ白になったんでは。しかも、この電子妨害を排除する方法というのはあるのかどうか、これは開発されているのかどうか、その点、どうなんですか。いかがですか。
  148. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 当然、レーダーサイトに対しましても、また航空機に対しましても、いわゆる電子妨害装置、ECMというものが実施されるわけであります。また、当然それに対しまして、たてとほこの関係でECCM、対電子妨害装置をすべての国が装備をしておるわけであります。  そこで、どちらが強いかという程度問題もありましょうが、少なくともECM、電子妨害に対するいろんな措置がございます。たとえば、電波をすぐ切り変えますとか、レーダーのスコープの上にあらわれました白くなったところを消す方法とか、いろいろ出ておるわけでありまして、この点については、これはなかなか外国の援助も得られませんで、それぞれの国が独自で開発をしている段階であります。したがって、われわれのほうも相当程度のものを持っているつもりでありまするけれども、今後、特に力点を置いていかねばならないところだと思います。  ところで、北ベトナムの場合に、ソ連から提供されましたSA2というミサイルが必ずしも撃墜率が高くなかったということがよくいわれております。おそらくそうだろうと思います。しかしながら、問題は、高空をSA2対空、ミサイルでもって制するために、米側の航空機は高空を飛び得ない、低空を飛ばざるを得ない、低空を飛ぶと、従来の火器、ひどいときには機関銃ですらも撃墜され得るということでありまして、単一の兵器システムでもって相手を十分に撃墜し得るということはやはり因難でありまして、北ベトナムの防空戦闘から見ましても、いろんな各種の兵器のコンビネーションというものが非常に有用であるということがいわれております。数字はちょっと忘れましたけれども、おそらく四千機か六千機か、ベトナム戦始まって以来、米側の飛行機がそれほど落ちております。昨年の十二月から北ベトナムの猛爆が始まって、ことしの一月まで三週間ばかり続きましたが、その間にB52が十六機落ちたという報告もあるわけでありまして、やはり総合的な防空体制の中の重要な一環を占めるということは確かであろうというふうに思います。
  149. 前川旦

    前川旦君 私は、局長に率直に答えていただきたいと思うんですけれども、相手の電子妨害を排除するためには、相手のECMのシステムがどうなっているのかがわからないと、これに対応することができないだろうと思いますよ。これは各国ともたいへん厳重な秘密でしょう、おそらく。最高の軍事秘密でしょう。そうすると、この最高の能力のあるX国がどんなやり方をするか、全然わからないはずなんですよ、つかめないはず。そうすると、それに対して的確な対応もできない。そうじゃないでしょうか。そうすると、私は、これは遊びで来るんじゃない、本気で来るんですからね、もしあるとすれば。そうすると、圧倒的な数量でやっぱりやってくるでしょう、これは。反撃を排除して入ってくるんですからね。その圧倒的な数量をX国は持っていますよ、これは。その場合に、どんな有効な防衛手段が空の場合にあり得るのか、どういう御自信がおありになるのか。私は、おそらく本気で最も能力のある国がかかってきたら、とてもじゃないけれども、やれないと思う。まして、これは長沼証言の中にいろいろ出てまいりますけれども、行動に制約されていますね、憲法上の制約、自衛力の制約で。自由に向こうの基地を報復的にどどどーんとたたいていけるというのであれば、まだしも少しはあれだろうと思うけれども、そうじゃない制約があるでしょう。そうすると、本気で来た場合に、いま言った、何時間持つんだという、上田哲委員が何時間持つんだと言っていた時間単位というのは、ほんとうかどうかわかりませんけれども、日単位かもわからないけれども……。本気でかかってきて、しかもナイキはいまの電子妨害を当然やられますね。で、最近、いろいろそういうことが論議になっていますでしょう、抵抗力がどれだけあるのだということで一それが私どもは、抵抗力はないから、じゃもっと軍備を増強せよと言うのじゃないですよ。これはほんとうに抵抗力をつけようと思ったら天文学的になると思う、実際。それは国情が許さない、憲法も許さない。そのことがはたしてプラスになるかどうかもわからない。ですから、これは率直な話、聞かしてもらいたいと思いますが、いかがですか。
  150. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) アメリカとか、ソ連とか、そういった世界超一流の軍事大国を相手にして一国で戦える国はないと思います。そこで、問題をしぼって、ECMの問題にしぼりますると、これは理論的には、たとえばチャフと申しまして、アルミ箔を線にしたり、紙のように紙片にしましたり、そういったものをまいたりするような方法もあるわけであります。そういったものを巧妙な、何といいますか、散布のしかたをする。たとえば、爆弾の中にそれを入れて、それを爆発させてECMにするといったような、具体的な手段についてはいろいろ考えられましょう。しかし、私も実はECMとか、ECCMの技術的なことはよく存じません。存じませんが、係の者に聞きますというと、理論的にはおおよその方向というのは見当がつくそうで、見当がつくからECCMという対策もまた、それぞれの国が持っている。しかし、どっちみち、たてとほこの関係で、どっちが強いかというのは、やっぱりその場になってみなければわからないわけでありますから、私どもとして十分の自信を持っているということは言えません。しかし、最悪の事態を考えた場合に、私どもはどのような攻撃に対してもそれに対処し得るということは言えなかろうと思います。しかし、この戦闘様相というものは、常に最悪の場合だけとはやはり限らないので、各種の対応のしかたがある。その場合に、わがほうは何もできないということではなく、やっぱり相当程度のことができる能力を持っていると、相手方もそれに対しては相当の被害をこうむるという体制、いわば抵抗力を持つことによってわがほうに対する侵略を制止し得る、つまり抑止し得るという、そういう関係が成り立つんではなかろうか、つまり、完全に勝ち得るということをわれわれは望むべくもありませんし、また、実際にできません。しかし、相当の相手方に対する損害を与えるという体制を持続するということが、相当程度の抑止力になるのではないかと、そういう考え方に立ちたいと考えるわけであります。
  151. 前川旦

    前川旦君 これは久保さん、そうおっしゃるけれども、持続できますかね。こっちは損害がないと考えていらっしゃるんですか、損害があるわけでしょう。これは航空自衛隊の幹部学校記事で非常にいい記事があったが、一月号に四百海里——NMですから海里でしょうね、の行動半径の戦闘機が、アフターバーナー、最高推力で三分間の戦闘を実施するとしたら行動半径は半減して二百海里だと、五分間の戦闘を実施するとすれば、さらに半減して、行動半径は五十海里に減ってしまう、基地周辺といえども、六分以上のアフターバーナーによる戦闘速度の維持は不可能だ、という研究論文が出ています。そうすると、いつもいつも空中にいるわけじゃないんでしょう。地上だっているわけですよ。どれぐらいの稼動率で回転するのか私はよくわかりませんけれどもね、地上で撃破されることだってある。それから出ていって損害だって受ける。そうすると、限りのある百八十機ですか、百何十機ですか、F4を四次防で取得される、消耗する、パイロットも消耗する。パイロットの補充がききますか、右から左に、そこら辺のあれを連れてきて、さあおまえ乗れと言えるはずがないでしょう。それで、しかもX国は入れかわり立ちかわり逐次増強して、パイロットも飛行機も増強して、つぎ込むことができる能力を持っている国なんです。相当程度の持続的な抵抗ということは、それはあなた方は、それは考えとしてはいいけれども、実際の問題として冷静に考えた場合、それは中途はんぱの能力の国ならいいですけれども、そんな国は来ません。来るとしたら最大の能力を持った国です。とてもじゃないけれども、私は単独でたえる力はないと思う。そうすると、壊滅ということはやっぱり考えなきゃいけない。最悪の場合を考えなきゃいけない、航空力は。そのときは一体どうなるんだろうかということをやっぱり考えざるを得ないですね。私もあなたと同じ立場で一生懸命考えてみた。ですから、いまあなたの言われたようなことは相当程度持続するとか、損害を支えるとかいうけれども、同じ数同士の衝突であれば、あなたのおっしゃるようなことも成り立ちますよ。しかし、そうじゃない、補給のきかない、あるものがなくなればもう終わりだというところと、次から次と出てくる、しかも非常に、何というか、闘志のある、ねばり強い闘志のあるX国、たとえば進攻していって、進攻していった飛行機が二〇%落とされたら、もう意欲を失って引き返すだろう、こんなのは甘い考え方ですよ。落とされても落とされても突っ込んでくるという場合だってある。それは戦闘精神の問題です。そういう戦闘精神にあふれた国でもある。ですから私は率直に、あまり力まないで、それはなかなかむずかしいことなんだという最悪のことを予想できるのじゃないかと思いますが、それはいかがなんですか。
  152. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 再々申し上げるように、米国とかソ連のような大国を相手にしての軍事戦闘というものは、これはなかなか成り立つものではなかろうと思います。しかしながら、ものの考え方を私はこういうふうに考えたらどうかと思うんですが、アメリカのいわば自由陣営、ソ連のいわば社会主義陣営というもの、それぞれの国を頂点にしておるわけでありますが、その頂点同士は相争いたくない。したがって、また、その頂点を囲むところの陣営というものに対する、言うならば干渉といいますか、そういうものは遠慮をするという暗黙の了解があるというふうに普通に理解をされるわけで、したがって、日本について見ますると、日米安保体制ということがあることによって、そういった周辺諸国は、わが国に対する軍事的な干渉をすることをセーブする、押えるという機能を果たしている。その場合に、日本が軍事能力はほとんどゼロに近くて日米安保体制をつくれば一番日本としては得かもしれませんけれども、そうはいかないわけで、やはり日本としてある程度の意味を持つ軍事能力を持っておって、そこで日米安保体制がある、そうすると、両大国というものは、この前の核不戦条約じゃありませんけれども、やはり双方の、言うならば陣営に対する武力干渉はしない、これはいままでの幾つかの戦後の事例である程度証明できますし、外国の人たちも多くそういう見方をしているわけでありますが、そういう体制にあることが結局抑止力になっているということではないかというふうに考えたいと思います。
  153. 前川旦

    前川旦君 あなたのいまのお答えは政治の領分なんです。軍事の領分じゃない。その安保体制が抑止力になっているかどうかというのは、政治の領分ですから、私はそれだったら幾らでも議論したいと思う。私がいま聞いているのは、そういう外交手段、抑止力、いろいろなものがあるでしょう、それが破れたときに初めて武力による進攻があるわけでしょう、そういうものが無効になったときに、そうでしょう、それが前提なんですよ。それで、そのときに備えているのが自衛力だというのが皆さんの論理なんでしょう。ですから、そこのところで聞いているんですから、安保体制があるからという、それは政治の問題であって、次元の違う論議ですから、それはそれで、あとでぼくはそれじゃその問題で二、三時間やりたいんですよ、ほんとうに。ですから、私が聞いているのは、そういう答弁じゃないんです。X国を相手にして本気でこられたら、これはとてもじゃないけれども、やれないだろうと、私はそういうふうに思いますから。私は軍事のことは何にもわかりませんけれども、しろうと考えでそう思います。ですから、あなたとしては、そうなかなか言いがたいでしょうね、それは。確かに、そういうことは担当者としてはちょっと言いがたいかもしれないけれども、これは私は、そういうことを考えておかないと議論にもならないし、この防衛力の問題についてのまっ正面からの論議にもならないというふうに思います。ですから、それはいまの答弁じゃ、ぼくはちょっと納得しないんです。初めの質問に戻しますから、その辺、もう一ぺんお尋ねいたします。
  154. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 大国が全力をあげて侵略に来た場合に、わがほうが独自でそれに対処する能力はないと思います。そこで米国が援助に来るであろう期間、これは陸海空によって違ってまいりまするけれども、一カ月前後から逐次本格的になるであろうという考え方でありますが、したがって、一カ月前後もしくは数カ月というものは、わがほうが相当程度がんばれる能力を持っておく必要がある。つまり、どのようなバトル、戦闘においても勝ち得るということ、完全に防御し得るということ、それは無理であろうと思います、おっしゃいますように。しかしながら、また、半月や一カ月で日本側が手をあげてしまうということでは、日本の存立あるいは日本独立というものを失うことになるわけでありまして、米軍が協力し、援助するその機能が維持し得る程度にわがほうが抵抗し得る能力を維持する、つまり、言うならば抵抗力を持っておる、そういった程度の力を持っておるべきではなかろうか、という考え方であります。したがって、初めのほうで御意見がありましたように、日本が寸土も国土を相手方に譲ることは許せないといったような発想はとれないわけであります。ですから、日本が外国から、これは米国の協力だけではありません、国際世論という支持もありましょうが、そういったものが日本独立を維持し日本に支援を与える期間、抵抗し得る力を持つべきであろう、そういったものはなかなか計算上はむずかしいように思いまするけれども、そういうことを目標にして考えるべきではないかというふうに思っております。
  155. 前川旦

    前川旦君 私は、あなたがそういうふうにお考えになる、それはよくわかります。私は、そうありたいとあなたが願っているであろうと思います。それがいまの答弁になって出ていると思うんですがね。抵抗力を持つためには、日本の国というのは非常にむずかしいでしょう。これは中国大陸とかシベリアとか、うしろへどんどん下がっていって、そこで建て直しができる、蓄積ができる、再建ができる、こういう奥行きがあれば、それは一カ月から二カ月がんばるということもあるいは可能かもしれない。しかし、日本のような小さい狭い国で、しかも人口密度が高いでしょう。飛行場がやられ、レーダーサイトがやられ、それからコンビナートがやられたら、ものすごい被害を受けますね、コンビナートがやられたら。それはコンビナートのようなものをあれするかどうかしりませんけれども。ですから、とてもじゃないけれども、戦争にたえられない体質を、やむを得ない、日本は持っている。だから、昭和二十年八月十五日に、それはどんなに考えてみても、本土決戦を考えてみても、戦略が成り立たない、ですから、水ぎわで一撃やったらもうそれで終わりなんだ、あとはもうそれで光栄ある帝国軍隊の最後の死に場所なんだというような発想があったそうですけれども、そういうかっこうになってしまう。これはなかなかあなたの口から言いがたいことであろうと思う。しかし、私はこれから海のほうへいくんですが、その前に、空だけとってみた場合に、やっぱりなかなかこれは守り切れないというふうに思いますが、あなた、どうしてもそれはお認めになりませんか。それを認めたからといって、決して恥ずかしいことじゃない、実際客観的事実というものからわれわれスタートしなければいけないんですから。私そう思うんですよ。どうなんでしょう。
  156. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 少なくとも、四次防におきまする航空自衛隊の実力といいますか、戦闘能力といいますか、そういったものがきわめて脆弱であることは申すまでもございません。さてそれでは、シェルターをつくり、防空機能をそこに付与したからといって、本格的な大規模な攻撃に対して十分に航空自衛隊の戦闘能力を維持できるかというと、それはやはり疑問だと言わざるを得ないと思います。
  157. 前川旦

    前川旦君 私はもう一つ、これは決定的なことがあると思うのですよ。このX国では、最高の実力を持っているX国では、航空力の攻撃力というものが、考え方が違うようですね。これは核兵器を抜きにして、通常兵器の場合でも、遠距離から空対地ミサイルを発射する、その性能が非常にいい。たとえば一九六八年八月一日のプラウダの上で、このX国の——プラウダと言っちゃだめだ。これはあとで取り消しをしてもらいたい。空軍総司令官が——一例ですよ。一例ですが、「小さな移動目標に対する攻撃でも、数百キロの距離から、空対地のロケットを使用して、目標を撃滅するようになった。しかも、その際、このロケット搭載機は、目標の上空に進出する必要がないばかりか、その目標を直接援護する敵の防空圏内に入る必要もない」ということを述べているようですね。これはソ連の場合です。そこで、X国も同じようにこれぐらいの力を持っている可能性があるわけですね。そうすると、数百キロ——これは防衛年鑑の統計のうしろに出ていますからね。防衛年鑑というのは防衛庁が配ってくれますから、かなり権威のあるものだろうと思いますけれども。X国のASMの性能を見ると、航続距離が長いんですね、ずいぶん。二百キロ、五百キロ、六百キロという長い足を持っています。そういうので、先ほど言いましたように、全備重量で二十五トンか六トンの全備重量でこのF4が上がっていく。しかし、戦闘をやろうとすれば、足がだんだんだんだん短くなっていく、残念ながら。そうすると、こちらの範囲がだんだんだんだん近づくわけですね、短くなっていく。その外から非常に性能のいい空対地ミサイルで移動目標さえねらえるという能力を持っている。これではちょっと私は手が出ないのじゃないか。いまの段階でこれは防ぎとめようがないのじゃないか、こう思うのですよ。余分にそういうことがありますからね。  なお、これは持ちこたえるといったって、そうはなかなか簡単にはいかない。これは、とてもじゃないけれども、さか立ちしても追いつかない。こちらが、それじゃ食うものを食わずに、ものすごい天文学的数字を使って、国がこんなになる、大騒ぎになるぐらいのことをやっても、相対的には向こうはさらに持ち上げますよ、それは意思があれば。ですから、これは武力で空を守るというのは、言うにしてなかなか困難ではないかというのが私の判断なんですよ。それについてどういうふうにお考えになりますか、いろいろ反論もおありだろうと思いますけれどもね。
  158. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) ASMの場合には、これは比較的大きなものでありますので、一つの飛行機が一機もしくは二機積んでまいります。そうしますと、経費効果上は核爆弾であることが望ましいわけでありますが、核戦争でない通常戦争を前提にするわけでありまするから、かりに一機もしくは二機で攻撃を受けても、通常火薬でありますると、比較的ペイしないという問題がございます。つまり、数百キロあるいは一トンぐらいの爆弾と同じものが一発、二発落とされるということになりますから、ペイしない。しかし、ペイしなくても、それを攻撃するということは考えられるわけですが、その場合には、私どもは、短距離ミサイル、短距離のASMについては、これはナイキとか、あるいは要撃機によって落とすことは困難でありまするけれども、長距離を飛ぶASMについては可能である、これはASMの大きさの観点からいきまして可能であるということになっております。したがって、もちろん攻撃をされる場合もありましょうけれども、しかし対処方法は可能であるし、かりに落ちた場合にも、その被害というものは数百キロあるいは一トン程度のものと考えれば、それほどのものではないんではないか。むしろ問題は、レーダーサイトのレーダーに対してホーミングするようなミサイル、いまのような長距離あるいは短距離のミサイルで攻撃された場合に比較的弱い状態にあるということになろうかと思います。そしてまた、全般的な体制について言うならば、これはやはり本格的また大規模な航空攻撃について十分わがほうが対処する能力は、現状の状態ではなかなか持てないものであろうというふうに思います。
  159. 前川旦

    前川旦君 それは十分に対処できるとおっしゃるけれども防衛年鑑に出ている一つの例ですけれども、射程が三百キロ、速度がマッハ二・五、通常弾頭——これ、マッハ二・五で、重量が六千キロですから六トンですか、三百キロの射程、実用化されている。二・五のマッハで三百キロの向こうから来るやつを、なかなかそう簡単にはやれるとは私は思いませんよ。  それじゃ十分休憩をお願いできますか、委員長
  160. 山本茂一郎

    ○理事(山本茂一郎君) 三時四十五分まで休憩いたします。    午後三時三十六分休憩      —————・—————    午後三時四十七分開会   〔理事山本茂一郎委員長席に着く〕
  161. 山本茂一郎

    ○理事(山本茂一郎君) ただいまから再開いたします。  先ほどに引き続き、質疑を行ないます。速記をとめて。   〔速記中止〕
  162. 山本茂一郎

    ○理事(山本茂一郎君) 速記を起こして。
  163. 前川旦

    前川旦君 それでは海上自衛隊の、海の問題をこれからお尋ねするのですが、その前に、法制局にもお尋ねをしたいと思いますが、自衛隊法の八十八条の第二項「(防衛出動時の武力行使)」「前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。」と明記されてあります。ここでいう「国際の法規及び慣例による」と、「法規及び慣例」というのは具体的にどういう、一つ一つを全部あげる必要はありませんけれども、どういうことをさしているのか、お尋ねをいたします。
  164. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) そこでいう「国際の法規及び慣例」といたしましては、たとえば一九〇七年のヘーグにおける陸戦法規とか、あるいは一八九九年の毒ガス使用禁止に関するヘーグ宣言、一九二二年の潜水艦及び毒ガスに関する五国条約、まあそのほかいろいろあると思いますが、それからさらに確立された慣例としましては、たとえば海戦の場合に白旗の掲揚があったときは攻撃を中止するとか、いずれにしても、一般的に申し上げれば人道的な見地においてできているもの、そういういろいろなものがあると思いますが、そういうものについては、自衛隊防衛出動をする場合にもそれによるべきものであるということだろうと思います。
  165. 前川旦

    前川旦君 なるほどよくわかりましたが、ここに開戦——開戦とは開く戦いです。開戦に関する条約、日本は明治四十五年にこれに入っていますがね。これはいまの日本に生きているのでしょうか、拘束しているのでしょうか。
  166. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 私、正直に申して、条約の専門家ではございませんので実はあれなんですけれども、お尋ねがありますので、私の知る限りでお答えいたしますが、形式的に申しますと、いま御指摘の条約から日本が脱退しておりませんから、そういう意味では現在も加盟しておるという地位を持っておると思います。まあ一応それだけ申し上げておきます。
  167. 前川旦

    前川旦君 この第一条に、開戦宣言または最後通牒なくして戦争を開始せぬことの承認、これは例の真珠湾と関連がありますが、第一条に、「締約國ハ理由ヲ附シタル開戦宣言ノ形式」——これは戦宣布告のことでしょうね、「又ハ條件附開戦宣言ヲ含ム最後通牒ノ形式ヲ有スル明瞭且事前ノ通告ナクシテ其ノ相互間ニ戦争ヲ開始スヘカラサルコトヲ承認ス」というのが第一条にあります。それから第二条は、中立国に対する戦争状態の通告、第三条以下は手続を書いてあります。実体はこの一条と二条でしょう。三条は中立国との間の問題ですからまあともかくとして、これが私はいま生きているのかどうか、脱退してないから生きていると思うのですが、拘束されているとしますと、「締約國ハ理由ヲ附シタル開戦宣言ノ形式又ハ條件附開戦宣言ヲ含ム最後通牒ノ形式ヲ有スル明瞭且事前ノ通告ナクシテ其ノ相互間ニ戦事ヲ開始スヘカラサルコトヲ承認ス」、これは自衛権の発動のときには、これは拘束されるでしょうか、いかがでしょう。
  168. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 先ほど御答弁を途中でやめましたけれども最初に申し上げたように、形式的には加盟国の地位を持っていると思います。しかし、実質的にそれじゃわが国が適用を受けるかどうかということについては、また別の議論があるのじゃないかと思います。と申しますのは、御質問にもありましたように、一九〇七年にこの条約ができているわけでございまして、当時この条約がいっておる意味の戦争というのは、これは伝統的な国際法上の戦争といいますか、そういうものをさしていったんだと思います。ところが、現在の日本憲法のもとにおきまして、これは毎々申し上げているように、私どもは自衛のための必要最小限度の実力行使といいますか、武力行使しかできないわけでございます。たとえば、いつも申し上げますように、自衛戦争というようなことばを使わずに、自衛のための武力行使、そういうものしかできないというふうに、きわめて注意深く、私どもは伝統的な戦争ということばを用いていないわけでございます。  そこにもあらわれておりますように、私どもとしては、現在の憲法の上では、そういう限られた武力行使しかできない日本国については、実質的には適用がないと言わざるを得ないと思います。つまり、そういう事態が初めっからわれわれはできないわけでございますから、そういう意味で実質的には適用がないというふうに考えるべきじゃないかと思います。
  169. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、この第二条の戦争状態になったということで、中立国に対する戦争状態の通告義務というのが第二条にありますね。なるほど侵略があって飛行機で日本の国土が攻撃された、あるいは着上陸があった、これは排除するということですから、実際問題としてそう問題にならないかもしれないけれども、公海を動いている船、艦がありますね。公海というと万国共通の所有と言っていいのか、公海自由の原則があります。そうすると、いままでの自衛力の行使は公海、公空に及ぶということでありましょう。そうすると、中立国に対する戦争状態の通告、たとえば中立国の船を臨検して物資をどうのこうのとか、いろんな権利ができますね、戦時国際法で。それとの関連があって戦争状態の通告というのが義務づけられているんだと思いますが、そういうものも一切実行されないということになるのでしょうか。
  170. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) これも毎度申し上げておりますように、わが国の憲法では交戦権を放棄しておりまして、中立国の船舶を拿捕するとか、占領地行政を行なうようなことは、わが自衛権の行使の態様としてはできないということを言って  いるわけですから、そういう意味では中立国とのそういう意味の関係は生じないと思います。したがって、こういう規定も実質的に適用がないと言っていいと思います。
  171. 前川旦

    前川旦君 そうしますと、これは法的な問題で、ちょっと私もわかりませんから、防衛庁と法制局に聞きますが、潜水艦というやつは国籍が不明ですね、初めから国籍の旗を上げて近づいてくる潜水艦はありませんね、はっきり言って。そうすると、潜水艦を攻撃する何というか、こちらの自衛権の発動、現に、ある特定の潜水艦から、艦なりあるいは護衛艦が守っている船なりが直接攻撃を受けたら、その攻撃をしたものを反撃をするというのは、これは正当防衛でもあるし、これはできるでしょうね。しかし、どうなんでしょうか、かりに自衛権の行使があった、つまり防衛力、防衛出動があった、自衛権の発動があった。そのあと、かりに日本の護衛艦に近づいてくる潜水艦を見つけた場合、これは攻撃できる法的根拠はどうなんだろうか、これはできないんじゃないだろうか、その辺が私よくわからないのですよ。明らかに日本に侵略してきた国の軍艦が近づいてくるというならまた別ですけれども、隠密裏に接近してくる潜水艦は国籍がわからない。これは自衛権発動後の話ですよ。戦略的守勢ですから攻撃もあり得るわけです。戦術的に狭い範囲ではですね。やれるという根拠は一体どうなるんだろうか、ちょっとこれふしぎなんですがね、これはどういうふうに考えたらよろしいですか。
  172. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 通常、日本の周辺海域、特に近海においてわが艦艇に近接する潜水艦があった場合に、その潜水艦がたとえばアメリカのものであるか、あるいは海上自衛隊のものであるか、あるいは第三国もしくは日本の侵略を企図しているものであるか、これがわからない場合もあり得ようと思います。しかし、ある範囲では、たとえば潜水艦のノイズの種類によりまして、どういうタイプのものであるかということがわかるようになります。しかし、それがオールマイティではございません。その場合には、通信でもって相手方と交信をいたします。相手方から回答があればその国籍を確認することが可能であります。そうでない場合に、相手方から回答も来なかったという場合にどうするかということでありますが、おそらくこれはそういう事態に、日本の周辺において潜水艦からの攻撃が非常にたくさんあったという場合には、そのうちの攻撃潜水艦の一隻とみなして、わがほうが攻撃する可能性が多分にあるのではなかろうかというふうに思います。しかし、冒頭申しましたように、事前にわがほうのものであるか、あるいは第三国もしくは相手方のものであるかということの分別について努力するであろうというふうには思います。
  173. 前川旦

    前川旦君 これは分別できるのかできないのか、それはあとにして、それじゃ本題に返って、日本に対する武力攻撃があった場合に、侵略があった場合に、海上自衛隊はどういうことを任務と考えているのですか、どういう任務が与えられているのですか、そのことについてはどうですか。
  174. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 海上自衛隊につきましては、日本周辺におきまする外国の艦艇、相手方国の艦艇の動向を察知する、そうしてまたその活動を封止するという任務が一つあります。その監視という場合には、たとえばいわゆる三海峡におきまする、これは水上、水中の艦艇の動向を探るということ、そうしてまた、その場合に適切な機雷その他を敷設してその通行を阻止するという任務、そういうものが一つあります。それから日本のごく近海の海上交通を保護する。これは陸上を基地とする航空機と協力をいたしまして、いわゆる内航護衛と申しておりまするけれども、そういった百マイルあるいは二百マイルといったような近海における海上交通の保護を行なう。それから数百マイルにわたりまする海上交通の保護を行なう。この場合に、航路帯を設定する場合もありまするし、格別航路帯を設定しない場合もあろうと思いまするが、そういったことをやる場合もあります。この場合に、航路帯の長さはどの程度であるかということについて、衆議院で若干問題になりまして、千マイルの範囲内で検討したいというふうに答弁申し上げたわけでありますが……。それからもう一点は、相手国の軍隊が上陸船その他の艦艇に乗ってわがほうの上陸を企図した場合に、途中で、あるいは水際で要撃をしてこれを撃退するということを任務とするというようなこと、それから全般的な航空機によるもころの哨戒任務というようなものがあろうと思います。
  175. 前川旦

    前川旦君 これはこれはたいへんな大きな任務ですね。いまおっしゃったのは、まず海峡を防衛するということが一つトップで出ました。その次には近海で相手国の動きを封止する、ということは、つまり近海航路の安全をはかるということでしょうね。それからその次には長距離の海上交通の安全をはかる、そういうことですね。その次は上陸してくる敵の艦船を阻止する。これだけのことを完全にやれるというのは、どれぐらいの兵力量があればやれるのか。たいへんな大きな任務ですね、これを全部やるとしたら。これが任務だというのは、ことばとしてわかりますが、実際にやれるやれぬは問題だろうと思う。  そこで、これは一つ一つ伺っていきますが、法制局、長いこと待っていただきましたから、ちょっと法制局をはさみますけれどもね。国際法上、戦時国際法で認めているのは、先ほどいろいろおっしゃったような開戦の条約とか捕虜の取り扱いとか、あるいは中立国の船舶のどうのこうのとか、そういういろいろなものがありますね。そういうものについて、人道的なものについては日本はこれを順守するのだ、しかし、一般的には、これは日本の自衛権の発動の場合には適用はないと言われたのでしょうか。それは公海、公空でずいぶん活動するということがありますから、どうしても戦時国際法と接触になりますわ、実際。これが一切日本には適用されないということなんですか。その辺はどうおっしゃったんですか、さっき。   〔理事山本茂一郎君退席、委員長着席〕
  176. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 一つ一つのこまかい例は申し上げてないわけですけれども、いわゆる戦時国際法規の中でも、人道的考慮というものから出ているものについては、わが国が自衛のための武力行使をする場合にも当然適用になるだろうと、しかし、わが国はいわゆる交戦権を持っておりませんから、国際戦時法規の中でもそういうものを前提とするようなものについては、わが国はそもそもそういう能力がないから、したがって適用もないだろうと。たとえば第三国船を拿捕する権利とか、占領地行政をやる権利とか、そういうものが戦時国際法上認められておりましても、そういうことはわが国は自衛権の行使としてはもともとできないことになっておりますから、そういうことを定めた戦時国際法規は適用にならないだろうと、こういうことでございます。
  177. 前川旦

    前川旦君 そうすると、日本は順守すると言っておりますけれどもね。それじゃ日本に攻めてきた外国は、これは戦時国際法に拘束されるんでしょうか。日本の場合は拘束されない、向こうは拘束される、こういうふうになるんでしょうか。双務的なものでしょうか。こちらが拘束されない、こちらが適用がないと言ったら、向こうもないということになるんでしょうか。向こうだけにはあって、こちらだけがないんでしょうか。その辺の考え、どうなんです。
  178. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 八十八条の二項については、わが国のことしか言ってないわけで、しかも「よるべき場合にあってはこれを遵守し」というわけですから、わが国がよるべき場合においては守らなければいかぬということだけ言って、外国のことはちっとも言ってないと思います。ただ、いま拘束されるというようなことを言われましたけれども、具体的にどういうことをおっしゃっておられるのかわかりませんけれども、たとえば人道的な取り扱いをしなければいけないようなものについては、当然わが国は拘束されるわけですね。片一方でいろいろ権利があるわけです。そういう権利については、いわゆる交戦権として認められるような権利はわれわれはもともと持っていないから、そういうことは主張できないということを申し上げておるわけです。拘束されるような具体的法規としては、おそらく人道的な扱いをしなければいけないというようなものが中心じゃございませんでしょうか。
  179. 前川旦

    前川旦君 戦時国際法で、前提は交戦権というものが前提になっているわけでしょう。戦争状態というものが前提になっていますね、戦時国際法ですから。そうすると、その戦時国際法は戦争状態を対象にしてつくられている。そうすると、日本の自衛権の発動は自衛戦争ではないのだ、こういうお話でしたね。そうすると、その適用があるのかないのか、何か微妙なところなんです。なぜかというと、日本はそれじゃ人道的なものは順守する義務がある、こう言われましたね。それじゃ戦時国際法でいう交戦権として、戦争として認めないというのであれば、たとえばこの侵入してきた上陸軍に日本自衛隊員が捕虜になった、向こうを捕虜にした、これは順守するんですか。向こうの捕虜については人道的な対処をする義務があるときめられていますね。そうすると、捕虜にされた味方に対して相手の国に人道上の取り扱いをせよ、つまり捕虜に関する国際条約を順守せよと要求する権利があるんでしょうか。ちゃんとできるんでしょうか。どうなんでしょうか。適用除外になるんでしょうか。そうなるとたいへんなことになると思う。これ、どうなんです。
  180. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) そういう場合はこちらは当然要求できると思います。自衛権の行使として行なわれた武力行使を通じて捕虜になった自衛隊員に対して戦時国際法の捕虜の待遇に関する定めに従って要求できると思います。
  181. 前川旦

    前川旦君 それはできると思いますとおっしゃいましたけれども、結局国際法は全部交戦権、戦争というものが前提ですね。ところが、日本の場合は戦争ではないんだということでしょう。だいぶ考えが違うわけですね、戦争ではないんだと。相互の国の戦争を前提として結ばれたこの国際的な条約との関係は一体どうなるんだろうか。私はいろいろ考えて実はわからないんですよ。日本だけは人道的なものを守ると、こうなっていますね。そうすると、日本に対してもこれを守らすという権利が、この国際条約に入っていても戦争でないというんであれば、交戦権というものを前提にした、戦争を前提にしたこの条約は適用されて、こちらからも請求権があるんだろうかというはっきりした根拠はあるんでしょうか。いま、あなた、そう思いますと、こうおっしゃったけれども、それ、詰めているんですか、どうなんですか。
  182. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) 最初に申し上げましたように、私、条約の専門家でございませんけれども、かねがね憲法解釈として申し上げているところを言っているわけですけれども、自衛権の行使という形でいろいろ実際上武力行使が行なわれるわけです。相手方が侵略国であり、わが国はその侵略を排除するための武力行使というものとして行なうわけですけれども、実際にあらわれた形では普通の意味の戦争と同じような戦争状態というものが行なわれると思います。現在の世界の戦争というか、あるいは武力行使というか、自衛権の行使というか、それは別として、非常に似かよった状態が現にあちらこちらで行なわれているわけですけれども、その場合に、あれは戦争でないから、いわゆる人道的なものを中心とした国際法が適用されないとはだれも思ってないと思います。したがって、私は日本国としても当然そういうことを要求する権利が国際法上あると言っていいと思います。
  183. 前川旦

    前川旦君 どうも私わかったかわからぬような妙な気持ちですけれども、私の不勉強のために的確な判断が私どもつきません。  そこで、話は戻しますが、海上自衛隊が有事の際にとる一番第一の任務として、まず海峡監視、それから機雷等をもってする海峡封鎖ということばが出ました。海峡というのはどの海峡を考えておられますか。
  184. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 監視という事態を含めますると、宗谷、津軽、それから対馬海峡、三海峡、それから先ほど海峡だけで申してちょっと一つ落としましたが、港湾も含みます。港、湾ですね、港というよりも湾でありますけれども、重要港湾及び海峡の監視ということであります。
  185. 前川旦

    前川旦君 宗谷海峡、それから対馬海峡は幅の広い公海であります。津軽海峡はこれはどうなんですか、十二海里になると公海じゃなくなりますかね。その公海を封鎖する権限は自衛権のどこによって与えられているんですか。国際的に公海自由の原則が認められている、その公海を実力で封鎖するということは、封鎖するということは攻撃するということですね、通過することを認めなさいということですから。それは自衛権の範囲を私逸脱しているのじゃないかという疑いがありますが、これはどういうことになるんでしょうか、自衛権との範囲は。
  186. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 正式な条約の名称は忘れましたが、少なくとも日本に対して侵略を企図する艦艇を阻止する、その手段として機雷を使うことは許されていると思いまするけれども、第三国の船舶についてはそれが認められておらない。したがいまして、第三国が、海峡のかりに封鎖するという場合に、それを自由に航行する余地を第三国に与えなければならないというふうになっていると思います。
  187. 前川旦

    前川旦君 法制局のほうは、いまのでいいんですか。
  188. 角田礼次郎

    政府委員角田礼次郎君) それでよろしいと思います。  なお、先ほどのちょっと答弁を補足させていただきたいと思いますが、捕虜の待遇の話が出ておりましたけれども、捕虜の待遇に関する限りは、ジュネーブ条約ではいわゆる戦争に限らない、紛争全般を対象としているようでありますから、私の一般論として申し上げた中で、捕虜の待遇に関する限りは条約上十分根拠があると言っていいと思います。
  189. 前川旦

    前川旦君 海峡を封鎖するというのは、これはここへ軍艦——護衛艦を配置して、まあそこを通航しようとする侵略国を何というか攻撃するということですね。それで通さないということになると思うんです。実際問題としてそういうことだろうと思う。そうすると、そこを通過して外に出ていく艦が必ず日本を攻撃するんだということが予測されるんでしょうか、どうなんでしょうか。むずかしい問題になってくると思う。ですから、これは自衛権の発動として、現に攻撃があればこれは反撃ができますね。しかし、たとえば宗谷海峡を越えて太平洋へ出ていく潜水艦があるとする。それを封鎖して攻撃できるというのはどういう根拠なんでしょうかね。
  190. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 最初申し上げました条約の名称は、自動触発海底水雷の敷設に関する条約であります。  そこで、いまの御質問でありますが、相手国が全力をあげてわがほうに攻撃を加えてきているという相対的な状況が明白である場合には、私はそういうことが可能であろうと思います。しかしながら、その情勢に応じて艦艇の行動が何らわが国に対する侵略と無関係なような場合が明白である場合があるかもしれませんが、そういう仮定の場合にそういう措置をすることが不適当かどうかという問題はあろうかと思います。やはり、要するにその場の情勢いかんによるのであって、一般的にはなかなか言いにくいのではなかろうかというふうに思います。
  191. 前川旦

    前川旦君 これは非常にあいまいだと思うんですよ。たとえば北海道に対して進攻がありました、X国からありました。北海道でX国から進攻があった。すると対馬海峡を封鎖してX国の船をそこで攻撃するということは自衛権の範囲に入るのかどうか。極端にいうと北海道でどんどんぱちぱちが始まった。たまたまフィリピンなり太平洋でX国の軍艦と日本の護衛艦がすれ違った、そのときにいきなり攻撃ができるのかどうか。あるいは日本の船に近づいてくる潜水艦があった。その水中もぐっている潜水艦にどういうふうにして通信をして国籍をお尋ねになるのか、私よくわかりませんけれども、何か方法があるんでしょうか。それをX国であろうと判断して事前に攻撃をする。それが自衛権の範囲として認められるのかどうか。どこまでが自衛権の範囲なのか。というのは、公海の問題ですから交戦権になってしまうんじゃないだろうか。その辺の交戦権でない自衛権の範囲とはどの辺までが限度なのかというような、詰めてお考えになっていらっしゃると思うんですけれども、どういうことなんでしょうか。
  192. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 一般論的に自衛権の範囲というと何か言えそうに思いまするけれども、具体的な個々のケースについてこれが自衛権の特に必要最小限度の範囲であるかということになるとなかなかむずかしいのでありまして、私どもでもいま検討して、法制局と幾つかの設例をもって検討している最中でありまして、まだ結論は出ておりません。いま申されましたような事例は、まだ実は私どものほうの設例の中に入っておりませんでした。そういったことについても今後検討してまいりたいと思います。
  193. 前川旦

    前川旦君 今後検討してまいりますと言われると、私も質問ができなくなるのですが、それじゃ海峡を通り越して出る船が明らかに日本を攻撃するんだと、これがもう客観的に明白であれば、これは自衛権の範囲に入るでしょうね。しかし、それをどうやってその意思を判断することができるのだろうか。それを越えて、しかももぐって外洋へ出ようとする潜水艦を攻撃し得るのだろうかどうか。私はこれはなぜこういうことを言っているかというと、たいへんあぶないことをお考えになっていると思うのです。というのは、もし日本が三つの海峡を本気で封鎖をしたら、そこを通るX国の潜水艦を封止して攻撃したら、そうするとポラリス潜水艦の太平洋における核バランスというものに大きな影響を及ぼします。X国とこのある国との間の。ということは、核の均衡によってこの平和が保たれているという理論からいうと、X国は核の均衡がくずれるということになりますから、これは自衛上やむを得ず、その安全のためにせめてこの一つの航路でもこれは自衛上あけなきゃいけないということになるでしょう、これは核の均衡がくずれるということになるから。そうすると、これは自衛上やむを得ず、たとえば北海道の北部なら北海道の北部を占領して宗谷海峡を一つあけるとか、九州なりの一部をあれして対馬海峡をあけるとか、そうすると自衛権の発動としてするという理論的なことになってしまうのじゃないか。ですから私は、非常にこれはあぶないことだというふうに、日本の安全に対してプラスになるのだろうかということを非常に疑問を持っている。この点のお考え、いかがですか。
  194. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) かりに封鎖を考えまする場合も、第三国の考慮をするということは先ほど申しましたが、それ以外でありましても、日本領土の間にはさまれたところ、したがって津軽海峡と対馬海峡ということになります。宗谷は考えておりません。  それから、いまお話しのように、この海峡を通って日本を攻撃する艦艇もあるであろうというお話でありました。したがって、そういう事態に備えて封鎖する機能は持っておりたい。しかしまた、いま御設例のような場合もあり得る。そこで、そういうような場合を考慮して、現実に封鎖する能力は持っているけれども、封鎖するかどうかということは、これはまさに総理大臣、あるいは防衛庁長官、あるいは国防会議といったようなところが御判断になるべき点であって、わがほうの計画としては、そういう機能を持っておりたい、現実にはまだ持っておりませんけれども、持っているということ。それをどういうふうに使用するかということは、いまおっしゃったようないろいろな点を考慮してやるべきであろうというふうに思います。
  195. 前川旦

    前川旦君 なかなかうまいことをおっしゃるので、なるほどそれをするかしないかは政治の判断だと、しかし能力だけは持っておくということですね。そういうふうに言われると私もちょっと次の追撃ができないのです。質問の追撃ができない。  それじゃ、そういう海峡の封鎖能力を持つとおっしゃるけれども、能力というのは持ち得るのでしょうか。これ、ひとつ明らかにしていただきたいと思います。というのは、現在、たとえば津軽海峡は幅二十キロしかありませんね。その津軽海峡でさえ潜没して航行する潜水艦の動静は入手できないという記事を私は読んだことがあります。潜水艦を探知する能力というのはどの程度日本は持っているのか。これはもうたいへんな努力しなきゃいけないことですね。はっきり言うとアメリカでさえ持ってないのじゃないでしょうか。たとえばアメリカの対潜能力というのは第七艦隊を守るだけの力だけしかないでしょう。ですから、可能なのかどうかということをひとつお尋ねしたいのですが、いかがですか。
  196. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 通峡に際しての情報の入手、つまり監視とそれから阻止の体制というものは、一つの兵器体系でもっては十分ではございません。特に現在私どもが持っておりまする海中に設定をする聴音機、聴音装置、これはたいへん性能はいまのところまあ低いと申してよろしかろうと思います。で、これのある程度の向上というもの、それからその聴音機にかわるたとえば磁気探知機的なもの、磁気を感得する、感じる装置でありますが、そういったものは開発を考えております。そういったものができ上がりますると、ある程度性能は向上すると思います。しかし、それだけではありませんで、海峡とかあるいは重要港湾などにつきましては対潜索敵能力というものを持っておりまするヘリコプター、あるいは固定翼機というようなものも飛ばすことになっております。場合によっては潜水艦をそこに沈めてやはり聴音機で相手方潜水艦の動向を聞くということであります。しかし、そういうことをやりましても、百のうち百それを探知し得る、監視体制が十分であるというわけにはなかなかまいらないと思います。しかし、いずれにせよ、現実におきましては、いまの力では非常に弱いけれども、もう少し向上の余地はあるということは言えると思います。
  197. 前川旦

    前川旦君 いまの力では非常に弱いけれども向上の余地がある、これはもう未来のことでありますけれども、実際にそれでは海上交通の保全ということを言われましたね。海上交通の保全というのは、どこからどこまでをどういうふうに保全するというふうに任務づけられているのでしょう。
  198. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 大体太平洋岸に向きましては、海上における内航護衛及びそれに伴う哨戒の範囲というものは、大体太平洋岸については二、三百マイル、それから日本海については大体百マイル程度といったような幅を考えております。で、それ以外に、先ほど申し上げました外航護衛の場合、つまり遠くからの船団を護衛する、あるいはそれに伴って哨戒を行なうといったような場合には、まあ千マイルの範囲内で検討をしたいということを考えておるわけであります。
  199. 前川旦

    前川旦君 その千マイルというのは前にも出ましたけれどもね。今度の国会の初めのほうでしたかね、出ましたけれども、千マイル千マイルとおっしゃるけれども、その千マイルというのはどこから出た根拠なのか。それからあとはどうするのかという質問にどういうふうに答えておられるのか、一体それはどういうふうに整理なさっていらっしゃるのですか。千マイルと言ったらどの辺までですかね、フィリピンまではいきませんか、いきませんね、たぶん。
  200. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 航路帯を考えまする場合には、一応東のほうが南東航路、西のほうが南西航路というふうに略称しておりまするけれども、南東航路の場合には東京からであります。サイパンまでが大体千三百マイルでありまするから、それよりもだいぶん手前のところになります。それから南西航路は大阪あたりから計算をしまして、大体南西諸島の端のほう、台湾の北くらいのところといったようなところがほぼそれぐらいの距離に当たります。そこで、その先はどうなるかということになりまするけれども、この距離のとり方は、たとえばかりにサイパンまでといいましても、サイパンから先はどうなるのか、かりにまたマラッカまでといっても、マラッカから先はどうなるのかということで、とればまあ果てしのない議論になってまいります。したがって、まず常識的な日本の周辺海域、したがってまた、相手方の潜水艦が集まりやすいような海域の程度で足りるんではないか。特にこの前の第二次大戦のときには、わが商船が非常に多く撃沈されましたのは、重要港湾の周辺でありますとか、台湾でありますとか、フィリピンの北でありますとか特定の海域であったように思いまするけれども、まあ潜水艦の性能も向上しましたので、周辺海域という程度、また数百マイルから千マイルくらいというのがまあまあ常識的なところではないか。それから先ということになると、もちろん危険性というものはあるわけでありますが、しかし、相手方もまた攻撃する場合に、非常に広域になってきまして効率が薄れてくるということも考えていいんではないかということで、必ずしも理論的に割り切れた数値ではないかもしれませんが、まずまずといったようなところを考えているわけであります。
  201. 前川旦

    前川旦君 私はどうしてもそういう御答弁が説得力を感じないんですよね。まずまず千海里とか、まずまずそこまで。あとはどうなるとか。この前の戦争のときに、バシー海峡かなんか、あの辺で非常に沈められた。ですから、まずまずその辺まででいいんだと。一体その先はどうなるかという質問に対して、何にもそれは答えることになっていないわけなんですね。なっていないでしょう。それじゃ、そのあとアメリカに依存したらいいじゃないか、冗談言っちゃいけない。アメリカにはそれだけの能力がありませんね。船団護衛能力を持っていません、自分のところの艦隊を守る護衛能力を持っているけれども。そうすると、千海里までの力を持つということが一体どれだけの意味があるのでしょうかね。海上交通を保護するという意味で、どれだけの意味があるのだろうか。私はこれは非常にふしぎなんです。私は、もしかしたらその千海里という想定は、海上交通を守るのじゃなくて、フィリピンならフィリピンから日本に弾薬を輸送する最小限度の船を護衛すればいいんだという発想法じゃないかというふうにふっと勘ぐったりするのですがね。それなら、海上交通の擁護ということで、石油は何%も来ているからそんなものでいかぬのだという説明とはだいぶ食い違ってくるので、どうしても一千海里でまあまあという話はわからない。もっと説得力のあるような、納得できるような答えをしていただけぬものですかね、それからあとはどうするのだということ。
  202. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 海上交通の保護の場合にきわめてむずかしい問題は、日本に対する侵略がありました場合に、その戦闘期間がどのくらい続くであろうかという問題であります。かりに、たとえば一カ月ないし二カ月でおしまいになるということであれば、海上交通の保護の意義といいますか、有益性というものはそれほどのものではない。しかし、半年から一年も輸入がストップするような状態が予想されるということになれば、海上交通をどのようにして確保するかということがたいへん問題になります。そこで私どもは、日本に対する侵略があった場合に、一体どの程度の期間持続するものであろうかということについて検討しているわけでありますが、なかなか結論は出てまいりません、いまのところは。  そこで、その期間の問題を別にいたしまして、海上交通が重要である、必要であるという前提に立ちました場合に、いまの私ども計算では、特にこの場合に問題なのは有事、つまり戦時中になって長期間にわたってその場合に日本が最小限どういうものをどの程度輸入しなければならないかということの見当がついておりません。これは私ども申すわけでありまするけれども防衛庁のなし得ることではなくて、やはり政府検討してほしいと思う分野の一つでありまするけれども、したがって、私どもはおおよその想定をしてかからざるを得ない。そこで、総輸入量にいたしますると、四十三年度が約四億トンでありまして、四十八年度の推定で大体六億五千万トンぐらい。その程度のものの中で、いま外航護衛に充当し得るものが四次防の段階で二つあるわけです。現在でも二つありますが、二個護衛隊群あるわけで、その二個護衛隊群で大体運び得る量が——これは損害率を除外して考えます。計算上、単なる算術をいたしますると六分の一から七分の一程度は船団を護衛できる。しかし、そこに被害率をかけなければいけませんから、かりに八分の一なりあるいは一割程度輸入できた場合に、それがどういう意味を持つものであるかということを考えなければならないわけで、石油の問題食糧の問題、その他われわれの保有する能力の中で海上交通の保護、船団護衛をかりに組んだ場合に、それを護衛し得る量、それの意味合いというものは、これは政府の中で検討さるべきものだと思うのですけれども、ただ、おっしゃいまするように、単に弾薬だ、あるいは兵器だというだけの護衛を考えておるわけではございません。
  203. 前川旦

    前川旦君 それでは一体潜水艦を探知する能力というのはどの程度の能力なんですか。たとえば攻撃の意図を持って接近してくる潜水艦、あるいは攻撃したあとで退避する潜水艦、それを、どこにいるという探知する能力というのは、それはパーセントで出すのか何かわからぬけれども、どの程度の能力が現在の技術水準で可能なんでしょうか。
  204. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) おおよそこの海域に潜水艦がいるらしいという情報があったとします。たとえば商船が一隻沈められた、そうすればその周辺の海域に潜水艦がいると想定するわけでありますが、そういった、ポイントはわかりませんが、おおよそこの海域という場合に、私どものほうの対潜水艦作戦としましては、一護衛隊群八隻が一単位になって行動するわけでありますが、そこにヘリコプター搭載の護衛艦二隻を含めた勢力があったといたしました場合の潜水艦を探知、攻撃し得る能力というものは計算してあります。そんなに高いわけではありませんけれども、比較的意味のある数値にはなっております。
  205. 前川旦

    前川旦君 その潜水艦は、いまのあなたの計算では通常型のディーゼルエンジンの潜水艦を対象にしているのか、原子力エンジンの攻撃型潜水艦を対象にしているのでしょうか。
  206. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) いま比較的意味がある数値と申しましたが、その場合は通常型の潜水艦であります。これが原子力潜水艦になりますると数分の一に減少してまいります。
  207. 前川旦

    前川旦君 ポラリス潜水艦というのは居場所がわかったら意味がないのですね、これは。そうでしょう。ですから、ポラリス潜水艦というのは探知不可能でしょう、いま、おそらく。これはアメリカの資料にちょっと出ています。一九七〇年二月二十日の資料にちょっと出ていますけれども、これはアメリカのポラリス潜水艦は不死身である、つまり探知不能であるということが前提になっている。攻撃型にせよ同じ原子力潜水艦ですね。ポラリス型とは違う。ポラリス型の潜水艦が船団を攻撃することはないでしょう。しかし、船を攻撃するのに通常型の潜水艦ばかりであるとは限らない。どうしてそんなことが言えるのかわからない。それは原子力潜水艦の攻撃型潜水艦である場合もある。しかし、これは全くポラリス潜水艦と同じような性能を持っているはずですから探知不可能だと思いますよ。そんなに簡単に探知されるのだったら、ポラリス潜水艦を常時動かして第二撃能力を保持しているといったって、そんなに簡単に見つけ出すことはないはずですよね。しかも三百メートルぐらいの下を三十五ノットぐらいで二年間も燃料補給をしないで回るのですからね。私は、ほんとに潜水艦攻撃を、これは原子力潜水艦が対象になった場合に、まず探知する能力があるのだろうかということ、現在の科学水準で。通常型潜水艦であればそれはある程度のパーセント——それはそのパーセント幾らかおっしゃらなかった。これは秘密であれば、ここで数字出していただくわけにいきませんけれども、それだってかなり低いのじゃないかと思います。私の想像では。ですから、原子力潜水艦が計画的に船団を攻撃しないという保証はないのですから、それに対する探知率というのはどう考えていらっしゃるのでしょうか。
  208. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) まずポラリス型のものは、これはたとえば米ソが相対し一——ポラリス型を持っておりますのは四カ国ありますが、少なくとも米ソが相互いにそれを相手国に向けておるわけで、これは探知はほとんど不可能だと思います。特にまたSALTの二で討議されましたように、むしろそれを探知し得ないほうが相互の抑止力になるという発想があるようでありまして、これはまず論外であります。その次に原子力潜水艦の中でもクルージングミサイルを持ったものがあります。これは距離的には数百マイルだと思いますが、この部門は、たとえばソ連の場合であれば第七艦隊を攻撃する艦隊攻撃用と考えたほうがよろしかろうと思います。米国はこのクルージングミサイルは持っておりません。そして最後に残りまする原子力潜水艦が通常の攻撃型潜水艦であります。しかしながら、攻撃型潜水艦のいいところは長時間潜航でき、かつスピードが速いわけでありまするが、半面ノイズが非常に高いというわけで、通常型の潜水艦よりも数倍に達すると思います。したがって、たとえばこちらの潜水艦が待ちかまえている、非常にあるいは低速である、スピードがおそいという場合には相手方を探知しやすいという点がございます。これは一般の潜水艦よりも原子力潜水艦のほうが探知しやすいということがあります。それともう一点は、広い太平洋の中で潜水艦をさがすことは、これはたいへんむずかしいわけで、外国の表現によれば、枯れ草の中で一本の針をさがすようなものであるという表現があるようでありますが、それは太平洋の中、広い大洋の中でさがす場合であります。しかし、現実にはやはり相手も効率を考えまするから、比較的わがほうの商船の通るところ、あるいはそれの集中地点になるようなところ、そういうところに多く来るであろうということは考えられます。そういたしますると、そういうところでやはりこちらが警戒網を持っておる、これは航空機、それから艦艇、潜水艦、そういうものを総合したもので持っておりますると、比較的原子力潜水艦といえども探知できないわけではない。ただし、前々申しまするように、いまだ能力は不足である。たとえば航空機につきましては、そこでいわゆるPXLという問題が登場してくるわけでありまして、あるいは港湾、海峡におきまするソーナーといいますか、聴音装置の開発の問題もございます。それからDDH、つまりヘリコプター搭載護衛艦を整備するというようなものもあります。向こうの性能アップに対しましてこちらも性能アップするということで、ある程度の探知率というものはやはり確保し得る。しかしながら、これで十全であるということはもちろん申せません。
  209. 前川旦

    前川旦君 あなたのおっしゃるような探知力を持つためには、たいへん膨大な艦艇を必要とするでしょう、おそらく。それといまの技術水準でそれほどの、日本の二流技術国でそれだけの探知能力を持てるようになるとは私考えられませんね。それから日本の財政が耐え得ないような膨大な艦艇を持たないとおそらく不可能だろうというふうに私は思います。あなたはそういうことはおっしゃらないかもしれない。それともう一つは艦対艦ミサイル、これはSSMになりますかね、これは非常に実用化されておりますね。これも防衛庁から配っていただいた防衛年鑑を見ますと、たとえばある国の、これはソ連の場合を例にとりますと、ケンネル九十九キロの射程、キッパー百八十キロ、カンガルー六百三十キロ、キッチン二百九十キロ、ケルトは三百二十キロ、AS6は五百四十キロの飛しょう距離、低空を飛んでくるからレーダーはききません、そばへ来るまで。ですから、こういう遠距離から誘導されながら攻撃してくるミサイル、これをX国がこういうのを備えないとは限りません。これを防ぐ方法というのは実際にあるんでしょうか、どうなんでしょうか。
  210. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) SSMにつきましては、ヨーロッパとアメリカが短距離のSSM、大体二十マイル、二十海里でありますが、二十マイル足らずのものを考えており、かつ装備しておるのに比べまして、ソ連は短距離以外に長距離のものを持っておる。いまお話のとおりでありますが、ただ、長距離のものは言うまでもなく、普通に発射しましても可視線上、つまり艦艇から、船から発射しまするから、船から水平線を見通し得る範囲内においては船から誘導し得ますけれども、水平線を越えると誘導し得ない。そこで、長距離のSSMについては飛行機を必要とするという不便があります。そういうことで、この出現当時は世界で少し騒がれたわけでありまするけれども、誘導の面で難点があるということで、ソ連の場合にむしろしばらくの間、短距離のSSMのほうに重点が移ったようであります。そこで、いまソ連の場合でいえば、航空母艦を建設しておるわけでありまして、航空母艦ができますと、空母から飛行機を飛ばしてSSMを誘導するということで、もう一度あらためて長距離SSMの任務が見直されるという時代がいずれ来るかもしれませんが、いまのところそういう趨勢にあります。そこで、このSSMにつきましては、長距離のものでありまする場合には、やはり胴体が大きいものですから、たとえば海上自衛隊が装備しておりまするDDGのターターという対空ミサイル、これでもって、これは比較的短い距離ではありまするけれども、艦艇の近くに来ればターターでもってSSMを撃墜することは可能であるというふうになっております。
  211. 前川旦

    前川旦君 あなたずいぶん楽観的なことを言われますけれども、かつて第二次世界大戦のときに日本の海軍が護衛のためにずいぶん努力して、結局ものすごい膨大な船舶の喪失量を予想以上に出して息の根がとめられる。ですから、海上の船舶護衛というのはたいへんな、ほんとうに全うしようと思うと膨大な数量を持たないと完全にやることができない、私、そう思います。ですから、それだけのものを備えるということは不可能だろうと思います。ですから私は、これはあなた、むきになって海上交通の安全をやるのだとおっしゃるけれども、実際にはこの前の戦争の経験からいって不可能ではないだろうか。それは部分的にはなるほどできるかもしれない、おっしゃるとおり。しかし、何億トンという、億をもって数えられる荷物を守るというのは天文学的な軍艦が要るでしょう、おそらく。艦が要るでしょうね。ですから私は、言うはやすく行なうはかたい。部分的なことはできても、長い距離をやることはできないだろう、率直な話ですよ。それからそれも千海里を見積もっておるということでしょう。ですから、これはなかなか不可能であろうと私は思う。ですから、われわれは武力を持たない自衛ということを言いますが、こんなことでこれを守るために膨大な軍艦をつくるよりか、たとえば戦略物資を蓄積する、あるいは石油なら石油の輸入のあれを多角化する、そんなほうがずっと私は費用対効果でも武器にたよらずしてもっと効果があるように思いますよ。私は実はそういうふうに思う。あるいは政策の面でも食糧の自給率をどんどん落としていながら、今度は食糧を運ぶ船を守るために軍艦をつくらなければいかぬ、これだっておかしな話なんですよ。ですから私は、自衛艦をもって海上交通を守るなんて発想法はたいへんマイナスというか、効果のないことであって、もっと平和的な手段による効果のある方法を考えるのが当然だと、私どもはそう思っておる。その点について御意見いかがですか。非常に効率が悪い。
  212. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 大部分は私も賛成であります。したがって、エネルギーから食糧、そういうものは国策としても、これは戦争が起こって日本が困るということを想定しなくとも、やはり備蓄その他は国策としてしていかなければなりませんし、食糧自給というものも、そういうことも念頭において自給自足なり、さらに備蓄というものが戦時を予想せずとも、あってしかるべきだと思うのです。さらに海上交通というものも一つの任務であるということは私どもは否定できないのですが、しかし、海上交通を千マイル以内は完全に日本海上自衛隊が自力でもって守れるのだということは、実は局長もちょっと触れていたのですが、それから先はどうなんだということにすぐに議論が広がることはあたりまえのことでありまして、そこにたどりつくまでの間に、日本のほうは手が伸ばせないのですから、全部沈んじゃったら千マイル以内というのは、来ないのですから、意味がないわけでありまして、かといって、千マイル以内に入ってきているものをわれわれは全然守れないということもまたおかしな話であって、その程度の近い、あるいは他国の領海等に入らないような範囲内においてわれわれが守る努力をするということはあっていいだろうと思うのです。しかし、そのために籍口して膨大な海軍力の増強をはかるというようなことは私ども考えておりません。
  213. 前川旦

    前川旦君 私は、いま申し上げましたのは潜水艦による攻撃だけしか言いませんでしたがね、それでさえむずかしいんですね。その上に有事ということになると、その上に加わるのは航空機による攻撃、軍艦により攻撃ですね、これはインド洋にもたくさんの軍艦がおりますがね、そうでしょう。それ、全部ひっくるめて、実力で守るというのはとうてい不可能な話だと思いますね。艦対艦ミサイルだけじゃなくて、朝の航空自衛隊の問題でも言いました空対地のASMだってずいぶん長距離のものが出ている。これはマッハ二・五ぐらいで四・五トンぐらいの飛んでくるのをなかなかそう、ミサイルで撃墜しますなんて、そうは簡単に、理論上はそうは言えても。実際問題としてできる問題じゃないと思う。ですから、われわれだって、最初に言いましたように、武力にたよるなということは無抵抗であれと言っていることじゃないわけなんですから、私どもも。抵抗するということにはコンセンサスがあると初めに申し上げました。ですから、食糧の自給度を高めるとか、あるいは物資の蓄積をはかるとか、輸入先を多元化するとか、一つが切れても一つが動いているようにするとか、そういうような自衛の方法がより効果的ではないかということを私ども言っているんですから、そう言っても実力で守られぬというのではぐあいが悪いから、まあ千キロぐらい何とか努力するんだというような感じに聞きましたけれども、どうもふに落ちない。なかなかそうは言っても、金ばかりかけて効果があがらないだろう。なるほどそれはたいへん勇ましいでしょうね。しかし、長官、ほんとうにプラモデルだって言われたのをぼくは読んで、私も実はそんな感じがするのを、ぴしゃっとおっしゃって、私はたいへん痛快な思いであの新聞記事を読みました。ですけど、もっと効果のあることを私は考えていいんじゃないかと思います。その点どうなんでしょうか。先ほど言いましたように、金ばかりかけて効果、効率が悪い。しかも結局は潜水艦から、空から、海からやられたら、とてもじゃない、国土なんか守り切れるはずがない。もしそれを艦だけで守ろうと思ったら、天文学的な海軍を再建しなきゃやれない。もっと違う方法を考えるほうが私は賢明だと、先ほど蓄積とか多角化とか例をあげましたけれども、どうなんでしょうね。
  214. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) だから、いまあなたのおっしゃることの大部分は私も賛成でありますということを言っております。さらにまた、外交努力ということもそれに加わるでしょう。ことに原子力潜水艦等については、アメリカが第一次SALTで合意した後の変化というもので、原子力潜水艦の実際上は探知不能ということによる、さらにソ連が開発を実用化してきたといわれる多核誘導弾頭ミサイルというようなもの等がこれから先の論議の対象になっていくんじゃないかと思うんです。これは日本にとっては直接話し相手にしてもらえる筋合いのものじゃありませんが、それほど両国は悩んでいる。逆に探知衛星というものによって、もう米ソともに地上におけるものは全部それを発見できる。もっとも弾頭の中が多核弾頭であって誘導弾頭であるかどうかについての点が、それは宇宙からは発見できないだろうと言っておりますが、そういうようなものがあって、日本が、米ソ両国ですらお互いが探知不能なために悩んでいる、話し合いをしてみようと思っていることを、われわれがとてもできるはずではないわけであります。したがって、私はプラモデルと言ったんですが、それはそのことばは使いましたけれども、そのようにいわゆる諸外国の軍隊の持つ軍艦というものからすれば非常にちゃちなものに見える。しかし、われわれの自衛隊というものは、そういう外国の軍隊に比する大艦巨砲主義をとるものでなく、航空母艦等を持つものでもないし、したがって、この力というものは、日本に手を出したらけがをする、やけどをするという程度の力であって、それでわれわれは十分なんであるということを申したんですが、そのところは全部カットされまして、たいへん耳ざわりのいいプラモデルのところだけが喧伝されておるわけであります。私が言った真意はそういうことでありまして、私らはそういうもので、日本に手を出したらただじゃ済まないし、自分もばかばかしいという程度の力を持つことが自衛の限度であろう、私はそう思ってああいうことばを使ったわけであります。
  215. 前川旦

    前川旦君 それから海の最後に、上陸してくる侵入軍を迎え撃つという任務があると言われましたね。実際にそんなこと可能なんでしょうかね。上陸してくるときには、一応制海権も制空権も確保しないで上陸してこないわけなんですよ。ですから、上陸してくるのをのこのこ出ていって、いまの護衛艦の大砲はほとんど対空砲ですね、あれ、軍艦攻撃するようになっているのかどうかわかりませんけれどもね、それな力があるのかどうか。現に上陸があるというときには、もう壊滅しているとき、完全にやられているときでなければ上がってきませんからね。上がってくるのを迎え撃って、水ぎわで防衛作戦するんだなんということが海上自衛隊の任務の中に入るのかどうか、これはどうなんですか、実際問題として。
  216. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) 私の先輩の海原さんは特にその点を強調しているわけで、海上交通の保護よりも上着陸阻止に海上自衛隊の任務は主とすべきであるということを強調しておりましたが、いまの自衛隊海上自衛隊の中での機能から申しますると、艦艇の中で五インチ砲を持った艦艇、それから対空ミサイルを積んだDDG、これのコンビネーションと、それから潜水艦及び高速魚雷艇、これでもって対処をしたいという考え方であります。もちろん事前に相手方は制空権をとるように確保するでありましょうし、またわがほうもそれを阻止するわけでありましょうが、それにしても、わがほうでそれ相当の能力を持っているということが、安易には上陸を企図できないという阻止力になっていると思います。そしてまた、現実にこれは上着陸のORなんかをやってみますると、わがほうはやはり相手方の航空機を前提にしますると相当の被害を受けます。しかし、相手方も受けるというような結果にもなっておるわけでして、ORがもちろん実態を示すものとは申しませんけれども、それ相当の力を持っているということ、それが抑止力になり、かつ、現実には相当程度の被害を与え得るというものになるんではなかろうかというふうに考えます。
  217. 前川旦

    前川旦君 局長、調子のいいことをおっしゃるけれどもね、実力の差はたいへんな実力の差でしょう。第七艦隊、X国のアジアにおける海上力は第七艦隊、空母をのけては第七艦隊を上回るという批判もあるわけですね、海軍専門家の間には、外国の。それと、それが全力をあげてくるのに対抗して、かなりの打撃を与えてそれを——入ってくるときにはもうたいへんな決意をして入ってくるわけですよね。米国との対戦も辞さないというぐらいの決意で入ってくる。おそらく部分的な対戦は辞さないが、しかし、それは部分的に制限するということもあるでしょうけれども、辞さないというかっこうで入ってくる、全力をあげて入ってくる。たいへんな実力の艦隊ですね。それに対抗して、やけどをして痛いからもうやめるという抑止力になるような、そんな大艦隊、大実力のある大艦隊をつくり上げることなんか不可能だと思いますよ。こちらが一つ伸ばしたら向こうは二つ伸ばすというふうな状態じゃないだろうか。ですから私は、あなたはそういうふうにおっしゃるけれども、ここではそうおっしゃるけれども、実際に冷静に考えて、あの膨大なX国の実力にどうやって対抗できるんだろうか。私は、まあこれはあとで申し上げますが、対抗できないということは何も敗北主義じゃないんですよ、現実の姿を冷静に見るということなんですからね。それは恥ずかしいことでも何でもない、力まなくていいと思う。やっぱり客観的なところからわれわれの論議はスタートしなければいけない、そう思っていますから、私はなかなかそれはそうおっしゃってもできないと思います。はっきり言って。できないとあなた言い切れないだろうけれどもね。どうなんですか、それ、実際どうお考えですか。
  218. 久保卓也

    政府委員久保卓也君) われわれの期待するところが十分にできるとか、防衛し切れるとか、具体的な戦闘場面におきまして、要するに十分な効率をあげるということはとうてい不可能だと私も思います。しかしながら、海上戦闘におきまして相当程度の戦果をあげる、まあちょっと勇ましくなりますが、相当程度被害を与えるということが、これはその場合でもわれわれのORでやった経過では上陸をされるわけでありますが、上陸されても、その場合にやはり相手の勢力は減殺している。そこで、わがほうの陸上自衛隊の能力は必ずしも十全のものを持っているわけではありませんが、その場合の陸上自衛隊の助けになる。要するに、陸海空を通じて対処し得る能力を上陸阻止に振り向けるということによって何とか相手方と対峙することが可能である。少なくとも十分な成果をあげ得ないにしても、わがほうが持っております海上勢力というものを、相手方が海上から上陸しようとするのに対しまして向けないという手はないわけで、向ければどの程度の成果があり、それがまた陸上自衛隊にどういうふうにプラスになるかというようなことを考えるべきではなかろうかというふうな考え方でおります。
  219. 前川旦

    前川旦君 私は何かちょっとむなしいような感じがしますが、防衛庁長官、なぜ私がこういうことを聞いているかというと、私の率直なことを申し上げますと、この間もこういう問題でいろいろ話をしていまして、もう一ぺんアメリカと戦争する気があるかと数人の友だちに尋ねましたら、それは毛頭ないと、なぜアメリカと戦争する気はないのだ、それはもうかなうはずはないやないか、全然かなわないわと、そんなこと考えるのはあほうだと言います。みんな。私の友だちはそう言いました。しかし、そのアメリカと同じ実力を持っている国があるのですよ。そのことが案外、同じ実力を持っているというX国、能力ある国があるということ、実力が同じだということが案外頭の中では忘れられている。ですから私は、とてもじゃない、日本がさか立ちしたって武力で、実力で対抗し得ない大国、幾つかあります。もうそういうところとは何であろうと事をかまえるという発想法はやめると、転換するというほうが私はほんとうの日本の安全保障じゃないか。そしてもうそうではない、武力で、自衛力で幾ばくでも犠牲を、打撃を与えたらというようなことではなくて、ほんとうに外交なら外交、それから経済の相互発展という違う面での安全保障に全力を尽くすこと以外にないんじゃないか。そのほうが安全度が高いのではないか、比べた場合に。相対の問題、比較の問題です。私はそういうことを実は主張したいがゆえにこういうことをいろいろ聞いてきたんです。ですけれども、それは私、そう言いましても、おそらくそこのところはコンセンサスは得られないところでしょうね。しかし、われわれの言っていることにも真理があるんだということは耳を傾けていただきたい、そういう姿勢があっていただきたいと私思いますが、いかがですか。
  220. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) もちろん耳を傾けて聞いております。これは冗談ではなくですよ。ということは、アメリカととても私たちが戦えるものではない。同時に、それはX国とも戦えるものではない。わかり切ったことです。かといって、私たちは、それだからアメリカの対等と思われる背後の核抑止力を中心とするアメリカの補完的なものでもって、安保条約をてこにして、われわれはそういうものを背景に持っているということにおいて、自分たち日本国というものをそうやすやすとじゅうりんすることに賛成しないという態度をとっているにすぎないのです。かりに私たちは、いまおっしゃったように、真剣に耳を傾けておりますが、何にもどこの国とも——アメリカも出ていってくれという声もだいぶありますから、そういうことで日本側から安保条約を廃棄を通告して、そして完全な非武装になってということになった場合に、日本のこの持っている工業生産力というものは、福島判決の中にも見られるとおり、戦力の解釈にすら生産能力というものをあげているぐらいでありますから、これは日本列島をもし手に入れようと考える者がおれば、おさめたほうがきわめて有利な条件を世界戦略で確立し得ること、これは私は申すまでもないところだと思うのです。かといって、上田委員がおられないときに言うのは失礼ですが、上田委員のいないときに言うのではなくて、上田委員が質問でなくて言いっぱなしにされましたけれどもアメリカを敵にしないというのだったら、アメリカの基地を置いてアメリカにいま占領されているのではないかということを言われました。そうではない。私たちは軍の組織においてもアメリカの指揮下にあるわけではありませんし、アメリカはちゃんと日本独立を各国とともに条約をもって承認し、日本と対等のパートナーであるということを言っているわけでありますから、われわれはアメリカに占領されていると思っている者はだれもいないと思うのです。そういう意味からいって、私たちは、現状の体制で何事も起こらず、安保条約の必要性すら疑わせるような何の発動の危険性もないような状態が長続きすることを願っておりますし、それが一番の安全策であると私ども考えておりまして、そこらのところにやはりコンセンサスを得られない今日の日本の不幸があるいはあるのかもしれません。
  221. 前川旦

    前川旦君 私はことばじりをつかまえるのは大きらいなんですけれども、今日の日本の不幸というのはちょっと言い過ぎですね。私はそんなにいまの日本が不幸だとは思いませんからね。防衛あり方でコンセンサスが、防ぐ方法で、あり方でコンセンサスがないことがもう極端な不幸だという発想法は、私はちょっと納得しませんけれども、それはことばじりをどうこうというのは私はきらいですから、私はそういうふうに思いながらちょっと聞きました。
  222. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) ちょっと取り消しておきます。  不幸という主観的な表現は取りやめます。それは私がそういうことばを無意識に使ったのであって、意識したものではありません。できればコンセンサスを得たいと思いながら、具体的にこうして防衛論議を展開してまいりますと、どうしても基本的な認識、角度の違いがある。ここに私たち国民合意を得たい、そのためには国民を基礎にする政党間の最大公約数でもいいから合意を得たいと願うものが日本においてまだ得られないことに、むしろ言いかえて苦悩しているということにおとりくださってもけっこうであります。
  223. 前川旦

    前川旦君 山中長官、非常に文学的な表現をされます。  そこで、それではもう時間もだいぶおそいようですが、陸上自衛隊による防衛、私は一番これが問題だと思っているのですよ。これはなぜ問題かというのは、もうおわかりだろうと思いますが、陸上自衛隊が出動するときには国土の上ですね。国土の上には一億人の国民が住んでいますね。ここが戦場になるというのが前提ですね。しかし、それは不可能でしょう。だれを守るのか、何を守るのかというのはここで返ってくるわけなんです。国民の命を守るということが、これは国土一坪たりともということで言うのであれば、これは国民がおろうが何をしようが、全力を尽くすということになりましょうし、それから国体の護持というのがかつてありましたけれども、そういう、何と言うかな、体制ということだけが前面に出ればまた違うことになるのでしょうが、しかし、われわれ政治を志す者が、国民のしあわせと命とを一番大事にということを心の中に置いている限り、これは国土を戦場にしての防衛戦争、六一式中戦車とか新型戦車を縦横に駆使して、それから二百何ミリ加農砲、りゅう弾砲をどんどん撃ち回るとか、六七式30型ロケット、SSMを縦横に撃ち回る、こういう形の防衛戦争というものが成り立ち得るだろうか、私は決してこれは成り立ち得ないと思いますね。もしそういうことになれば、日本国民の命を守るためには、これをやむを得ませんから、自治体単位で非武装都市、これは国際法にありますね、戦時国際法にありますが、無防備都市宣言をでもして、民族の生存というか、を残していく以外に日本を守る道はないのじゃないだろうか、私どもはそういうふうに思うのです。民族の歴史というのは永久ですから、民族の命が残っている限り、長い歴史の中ではまた何回も何回も私は日本のしあわせを築き上げていく粘りというものは、長い日本の民族の中にあると思う。ですから私は、たとえば八月十五日に、もうこれで日本は終わりだといっていろいろ嘆いて、今日の繁栄があるとはあのとき想像した人はいなかったと思いますね。私は少年でしたけれども、なかったと思うが、しかし、これ、民族が生き残っている限り必ず不正なことは通らない。歴史の法則として一時は苦しんでも必ず正しい姿に戻る、戻す努力が始まる、私はそういう意味の自信を実は持っているんです。そういう意味で、地上を舞台にしての、本土を舞台にしての本土決戦的な戦争のあり方——戦争と言っては悪いんだ、自衛権の行使のあり方、武力の行使のあり方というのは、私はことばでは言えても、とても実際にそれはやれないことだと思いますよ。これだけの一億人の国民のいるところでね。それは大混乱と混乱。で、その混乱をすれば、たとえばいま北海道で四個師団配置して、北海道最重点に機械化師団は全部配置してありますね。いいところは全部配置してある。しかし、北海道だって五百万の人がいるわけでしょう。これは一カ月か二カ月か、徴候があるから、それはできるだけ避難さすということを言っておられます。制服の方は。しかし、実際にたとえば北海道だけとってみても、五百万の人を一日に一万人ずつ青森県に移送するとしても五百日かかります。五百万であればね。それだけの船をどうやって調達するだろうか、そのための準備、食糧等の準備、受け入れ体制をどうするか、そんな計画は全然進められてないと思いますよ。まだ私聞いておりません、あるのかもしれないけれども。ですから、とてもじゃないけれども、これは成り立たないんじゃないでしょうか。私はたいへんこれは陸上自衛隊の使い方というものに対して、防衛戦争は成り立たないという考えを持っているものなんです。その点についての御判断、お考えはどうなんでしょうか。
  224. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 私たちは、やはり独立国家として領土を厳然として持っておるわけです。いまおっしゃるようなことは一つの考え方だと思いますが、じゃ、日本は世界じゅうに知れ渡って、その領土のどこかに上陸したら直ちに全部がその国のおっしゃるとおりに、すべての工業生産力も含めてその支配体制下に服して、そうして生き抜いてまいるつもりでありますというような宣言みたいな国になったら、喜び勇んで上陸してくる国がないとは決して言えないと思うんです。私たちはそういうことを選択することがはたしてよろしいんだろうか。やはり私たちの国土と民族というものは日本にとって最も尊厳であり、そして、かつまた、いま存在する平和を守り続けなければならないものであるし、いまの国民の生活の向上をわれわれは子孫に伝えていくべきものである。それがいけないんだと、いまの体制——いまの社会体制と申します。政治体制じゃありません。これを全部すべてが不幸な支配階級の搾取にあえぐ民衆であって、みんながことごとく不満を持っておるということなら、むしろ国内において革命の起こる要素のほうが強いわけであって、諸外国が日本に対して上陸さえすれば直ちにもう無防備、無抵抗で手をあげる、おっしゃるとおりにいたします。というんだったら、私たち独立国家とは何ぞやということをもう一ぺん考えてみなければならぬ気持ちがいたします。また、そういうことを言っておる人もおるわけですから、それもやはり責任ある御意見として私たちは傾聴はいたしておるつもりでありますが、そこに残念ながら私どものとり得ざる道に帰結していくことを非常に残念に思います。
  225. 前川旦

    前川旦君 私もあなたのいまの御意見に八割方賛成なんですよ。ですから、私どもの言っていることを直ちに無抵抗、完全服従という形で図式化しておっしゃらないでほしいと思うんです。それはたいへんな誤解なんですから、その点はしっかりしていただきたい。  で、私がしきりに一生懸命考えてみて、本土決戦というかっこうでの防衛戦争というのは、とてもじゃないけれどもやれないだろうと。そうすると、とにもかくにもわれわれがいま一番考えなければいけないことは、日本に対して攻撃がある、武力進攻がある、侵略があるという、そういう可能性をみんなの努力で少しずつでもつみ取っていくことがもっと大事なんではないだろうか、そのことを私は日本の安全保障の中に据えていかないといけないと思う。確かにことばとしては防衛白書にも平和外交を積極的に進めると、こう書いてある。しかし、よく見てみると、中心が武力による防衛、武力による防衛の足らざるところを外交努力で補うというような発想法のように私は見える。そうではなくて、やっぱり一番大切なのは、外交努力による武力進攻という状況のない環境をつくり出す、そのためにはわれわれは一体何をしたらばいいのだろうか、そこのところで私はいろいろコンセンサスのできる可能性があると思うのですよ。ですから私は、たとえば日中の間でも、早く日中友好条約を結んで、一日も早く結んで、日中不戦、武力不行使、そういう条約がかたくできるということは、はるかに安全の上での大きな前進である。相対的なものです。はるかにもっと前進である。日ソの間でもそういう努力をしていくということも一番大事な問題である。それに全力を注ぎ、一日も早くそういうことをする。それから朝鮮半島の問題でも、われわれは緊張を激化するようなことに手をかすようなことをしてはいけないと思いますよ。それでやっぱりいままでの——これからのことは言いません。いままでの安保体制下で韓国との間の経済的なつながりとか、軍事的なつながりを言われましたね。やはり緊張激化に手をかしてはいけないという私どもの悲願とは乖離していたように思います。もちろん朝鮮民族に対しては日本人はたいへん大きな罪を犯したのですから、それに対する罪を償はなければいけないけれども、それは民族に対して犯したことであって、一つの国だけに限られるべき問題ではありませんから、同じ経済援助にしても、学校とか、病院とか、そういった人道的なものを中心にして、平等にするという方法もあるだろうし、いろいろな方法が考えられると思いますので、考えていけば。ということで、緊張激化を緩和するという努力をどうやってするかということに私は与野党話し合う余地があると思うのですよ、一生懸命考えていく。  それから核の問題もどうでしょうか、全面核戦争になったら日本は確かにお手あげです。しかし、これがもうないという保障もありません。これは偶発戦争という危険もありますからね、決してゼロとは言いがたい。それから核の抑止力は、なるほど力としては対等の核所有国同士に働くけれども、同盟国まで有効に働くかどうか、なかなかそれは確信が持てない。ですから、たとえば核の問題にしても、私どもが核の問題について考えたいことは、少しでも安全度の高いほうを慎重に考えて、少しでもそちらそちらを歩くような努力考えてできないものだろうかどうか。私は、特にラテンアメリカで非核地帯の条約が結ばれ、今度中国が中南米条約に調印するということが新聞で報じられております。これは八月十八日の読売の記事ですけれども、周恩来首相がこの条約に調印するとなると、五つの核所有国の中で、四つまでがこの中南米条約に調印するということになれば、あと一つ入れば完全に非核武装地帯になるわけですね。ですから日本も、それから日本だけでなくて、アジアのいろいろな国と、たとえば非核武装地帯にして、その非核武装地帯を核所有国がそれぞれ保障するというふうな、そんな方向も私は危険を避ける——効率の問題ですけれども、危険を避ける道としてさがしていくことができるのではないだろうか、そういう真剣な努力を積み重ねることで、武力進攻という不幸な事態を避け得る可能性をさがしていくために努力するのがわれわれの任務ではないだろうか、私は実はこういうふうに思ったりするのです。ですから、これは一〇〇%あなたと一致するということにならぬかもしれませんけれども長官の御意見をこの際伺いたいと思います。
  226. 山中貞則

    国務大臣山中貞則君) 外交上の姿勢、テクニックの問題等については、外務当局がやはり答弁してくれたほうがいいと思いますが、そのお考え方の大部分は私も反対ではありません。しかし、その中に、あなたのおっしゃった中に、私たち考え方は武力が先であって、外交努力は二の次であるというふうにとられると、こうおっしゃっていますけれども、そうじゃないのであって、これは国連憲章の中に安全保障の関係の条項が一ぱいあります。われわれは、国連中心主義というのは、まさにその国連の崇高な、地球の平和を目ざす全人類の平和のための崇高な理念と努力に対して協力をし、その安全保障措置が一日も早く国連機構の中で確立されていくべきである、それによって各国が将来は軍備を持たないで済むような時代が来てほしいと、それを願うし、そのために日本努力すべきであるということを先日も申したわけでありますが、したがって、われわれはあくまでも外交優先であり、国連中心であり、国連憲章の精神が全世界の国民をおおって、それに安全保障というものがゆだねられる時代というものを期待して努力をしていくことについて何ら変わりはないわけであります。まあその他個々の外交の問題については、私から述べる範囲を少し越えると考えます。
  227. 前川旦

    前川旦君 私は外交の問題を防衛庁長官と特に議論をしたいんです。というのは、あなたはシビリアンですからね。外交の問題は自分の守備範囲ではないんだということになると、シビリアンとしての幅が狭くなってしまいますから、それは自分の専門じゃなく、それは外務大臣が答えるのは適当だとおっしゃるのはわかりますけれども、シビリアンコントロールの趣旨というのは、制服というのはどうしても視野が狭くなるからということなんでしょう。広い視野のシビリアンでそれをできるだけコントロールするということにあろうと思うんですけれども、そういう意味で、私は、長官の外交、経済すべてを含めた広いシビリアンとしての、ステーツマンとしてのお考えを実は聞きたいわけなんですから、その点はあなたの担当でないことを聞いたことについて気を悪くしないでいただきたい、そういうことを期待しているんですから、私は。  そこで、日本防衛構想をいろいろ、私は何も知りませんけれども、勉強を少しさしていただくと、結局最後に落ちついてくるところは安保条約にたよる。海も空も憲法の制約があるからある程度までしかやれない。あとは第七艦隊の支援にたよる、安保条約での米軍の支援にたよる、最後になると仮定なんですね。来てくれるだろう、必ずそれは守ってくれる、助けてくれる、やってきてくれる、それまで維持するんだ、最後のところになるとどうしてもそこがよりどころになってしまう。空も守るだけでは、とてもじゃないけれども、専守防衛だけだってもやれない。しかし、その攻撃する権限はないから、それは第七艦隊の攻撃部、やりの部分に依存してやっとこの一つの体系ができる。それから海の場合も同じですね。上陸してくるような武力については、とてもじゃない、第七艦隊の攻撃力に期待する。最後になるとアメリカが支援してくれるだろうというその条約の確かさを信じるしかないというところへ論理が入ってしまうんです。  私は、実を言うと、もっとシビアにそれを考えたいんです。それは助けてくれるに方法はたくさんあるでしょう。いろいろな選択権は向こうにある。たとえば第七艦隊を動員して直接武力で支援するという面もあるでしょう。あるいは武器だけを送ってくれるという場合もあるでしょう。これはあそこでありましたね、インドネシア半島でソ連がとった態度です。北ベトナムに対して。それから声援だけを送ってくれることもあるでしょうし、あるいは見殺しにすることもあるでしょう。いろいろなことが、それはアメリカの政治情勢とアメリカ人のセンスと、そしてアメリカという国の国益から判断されることなんであって、こちらから絶対的な拘束力を持たないという弱みが私はあるように思う。どうしても最後に、その架空の、必ず来てくれるだろうという仮定に立ってしまうということに、私は日本防衛論の私に言わしたら弱みと思いますけれども、納得いかない面が出てくるように思うんです。ですから私は、それがもしなかったときの場合を想定して、その中で安全度がより高いものは何かということをいろいろ自分なりに考えてみての上で長官論議を実はしてきたんです。ですから、そういう最悪の場合を考えるということは、これはやっぱり必要なことだと思う、シビアな面というのはね。口に出して言う言わぬはともかくとして、こういう場面で言える言えないは別として、これは国際信義の問題がありますから。しかし、そういうシビアな態度、その中でどうするかということを考えていくべきではないかと私は実は思っているんです。そういう意味でいろいろ質問をさしていただきましたけれども、もう時間も終わりましたから、私は以上の自分意見最後に申し上げて、きょうは終わりたいと思います。
  228. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  229. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 速記を起こして。  本日の質疑はこの程度にとどめます。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十六分散会