運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1973-09-04 第71回国会 参議院 内閣委員会 第25号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年九月四日(火曜日)    午前十一時三分開会     ―――――――――――――    委員異動  八月三十一日     辞任         補欠選任      金井 元彦君     世耕 政隆君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         高田 浩運君     理 事                 内藤誉三郎君                 中山 太郎君                 山本茂一郎君                 片岡 勝治君     委 員                 源田  実君                 佐藤  隆君                 長屋  茂君                 西村 尚治君                 星野 重次君                 町村 金五君                 上田  哲君                 鈴木  力君                 前川  旦君                 宮崎 正義君                 中村 利次君                 岩間 正男君    国務大臣        国 務 大 臣        (防衛庁長官)  山中 貞則君    政府委員        内閣法制局長官  吉國 一郎君        警察庁警備局長  山本 鎮彦君        防衛政務次官   箕輪  登君        防衛庁参事官   大西誠一郎君        防衛庁参事官   長坂  強君        防衛庁参事官   岡太  直君        防衛庁長官官房        長        田代 一正君        防衛庁防衛局長  久保 卓也君        防衛庁人事教育        局長       高瀬 忠雄君        防衛庁衛生局長  鈴木 一男君        防衛庁経理局長  小田村四郎君        防衛庁装備局長  山口 衛一君        防衛施設庁長官  高松 敬治君        防衛施設庁総務        部長       河路  康君        防衛施設庁施設        部長       平井 啓一君        外務政務次官   水野  清君        外務省アメリカ        局長       大河原良雄君        外務省欧亜局長  大和田 渉君        外務省条約局長  松永 信雄君        通商産業省貿易        局長       濃野  滋君    事務局側        常任委員会専門        員        相原 桂次君    説明員        外務省アメリカ        局外務参事官   伊達 邦美君        大蔵省国際金融        局投資第三課長  松室武仁夫君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法  律案について     ―――――――――――――
  2. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ただいまから内閣委員会開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る八月三十一日、金井元彦君が委員を辞任され、その補欠として世耕政隆君が選任されました。     ―――――――――――――
  3. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 次に、防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法律案について質疑を行ないます。  順次発言を許します。
  4. 上田哲

    上田哲君 きょうは国対レベルでいろいろ討議が煮詰まらない経過の上に立って、急速委員会が開かれる段取りになった趣でありますけれども与党側がきょうの開会を強く要望されたにもかかわらず、質問者要求いたしました政府答弁責任者の姿が半数も見当たりません。はなはだ遺憾であります。質問としては十全を期しがたいわけでありまして、委員会の円滑な運営のために質疑を始めさせていただきますけれども委員長及び与党理事におかれては、このような事態について激しく責任を痛感され、自後かかることのないように処置さるべきだと思います。御見解を承りたい。
  5. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 政府委員出席につきましては、御趣旨の線に沿って努力いたします。
  6. 上田哲

    上田哲君 はなはだ不満でありますけれども野党側としては、円滑な委員会運営をのみ希求いたしておりますから、その立場質問を始めます。  残念ながら、予定しておりました段取りに従って質問をすることができません。答弁者に合わせて質問を始めなきゃならぬということになります。進行については委員長において御配慮をいただかなきゃならぬと思います。  そこで、外務次官が時間の制約がおありのようでありまして、前回の質疑で、外務省当局責任者が不在であられましたので、たいへん上つらな質問に終始したうらみがあります。きょうは時間を差し繰って御出席いただいたようでありますから、まずそこへしぼって、冒頭抜き出して質問をさせていただきたいと思います。  次官は先般ハイジャック問題で各国を歴訪されたようであります。はなはだ遺憾な事態でありましたけれども、歴訪された各国のこの事件への反応はいかがでありましたか。
  7. 水野清

    政府委員水野清君) 去る十八日から三十日まで、ただいまお話のございました先ほどのハイジャック事件関係国にいろいろ迷惑をかけておりますので、その謝礼に行って参りました。  参りました順序から申し上げますと、リビアへ参りました。それからギリシアに参りまして、これは救援機がそこで待機をして、向こう関係者に迷惑をかけました。二時間ばかり空港向こう関係者と会いまして、さらにシリアに参りました。それからアラブ諸国連邦、アブダビ、ドバイに参ったわけでございます。  その経過を簡単に申し上げますと、リビアに参りましたら、御承知のように、新聞でも報じておりますが、リビアはいまイスラム教の文化革命というようなことをやっておる国でありまして、ちょうどエジプトと統合問題が起こっている際で、なかなか政府要人が忙しかったのでございますが、革命評議会というのが内閣の上にありまして、革命評議会のメンバーと会い、また閣僚五人と会ってまいりました。特にこの際、日本日航機がベンガジの空港に着きまして、滑走路をこわしたり――爆破したときに滑走路を破壊しておりますし、乗客ホテルで宿泊をしたり飲食をしたりいろいろなことをやっております。あるいはそのほかの報道陣が、日本報道陣だけでも六十人、外国報道陣を含めますと約百人近い報道陣が行きまして、それが一度に電話をかける、あるいはいろいろな経済的にも支払いを残したとか、いろいろな問題があるようです。こういう問題について、まず支払いを、日本航空ないし、必要ならば日本政府から完結をしたいという申し入れをしたわけでありますが、非常に意外だったことは、一切そういう費用は受け取らない、われわれは非常に困っておられたときであるから助けたまでであるということで、再三その話をしたわけでありますが、これは向こう政府は一切受け取らないということで終始をいたしました。  ただ、その際に、リビアは金がある、御承知のように石油収入が非常にある国で、外貨を非常に持っておりますが、金があるんだけれども技術的に非常に国家建設に必要なものが多い、また、できるだけ自分たちは、ヨーロッパのかつての植民地主義者、と彼らは言っております、これはアフリカ諸国植民地を持っていた国のことをさすんだと思いますが、こういう国に対していろいろなことを頼みたくない、日本は、その点では植民地主義ではないから、ひとつ日本技術を利用したいというような話が出てまいりました。ただ、具体的にはあまり案がございませんので、たとえば、突然出てくるのは、海水から真水を取る技術をひとつリビアでも入れて、日本技術でやりたいとかいうような話が出てまいりましたり、そういうことでございました。  さらに、シリアにおきましては、御承知のように、三時間日航機が滞在しまして、ここでも給油をしたり何かをいたしましたけれども、ここにおきましても、支払いの問題はあまり向こう側から要求が出ない、むしろこちらからぜひ支払いをしたいという話をしたわけでございますが、最小限のものにしたい、着陸料というようなものは取る意思がないということでございました。たまたま日本シリアとの間は三千万ドルの円借款をいたしまして、いまユーフラテスダム建設並びにかんがい事業の仕事に日本も参画をしておりますが、むしろその推進を依頼された、さらに経済協力その他について依頼をされた、こういうことであります。  最後に、アラブ首長国連邦、御承知のように、ドバイが入っておりますが、ここへ参りまして、ここはまあ、乗客はここで救出されなかったわけでありますが、一部、パーサーとそれから老夫妻があそこで飛行機から脱出をいたしましたけれども、ここにおきまして、非常に精神的に、あるいは救出準備のためにいろいろな迷惑をかけましたが、ここにおきましても、なかなか当初は経済的な迷惑については支払いを取らないということでありましたが、最終的には、ここでは乗客に差し入れをした食事代だけは取ろう、こういうふうな全体の傾向であります。  私が驚きましたのは、私どもは純粋に日本航空事件謝礼に行ったわけでありますが、向こうでは非常にタイミングよく来たということで、歓迎も受けました。むしろ謝礼に行ってたいへんな歓迎を受けて、さらに経済協力首長国連邦もそうでありますが、経済協力――経済協力といいましても、金のある国が多いわけでありまして、石油で金を持っている国でありますので、技術協力を非常に要請を受けてまいりました。さらにもう一つ驚きましたのは、われわれが行ったことが、何か産油国が非常に多いわけでありまして、いま、けさの新聞にも、リビアアメリカ石油会社株式を五一%取得をするというような声明が載っておりますように、いま産油国の中で産油国同盟がありましたり、いろいろその中の調整の問題、あるいは先ほどアメリカ石油資源についてのいわゆるエネルギー教書が出た直後でありまして、日本政府は――これは私どもはそういう意思はなかったのでありますが、エネルギー問題について、ハイジャック謝礼ということで切り込みをかけてきた、こういうふうに英、米、仏、西ドイツあたりの出先の公館から受け取られていたことであります。私どもは、全くそういう話は私はしてまいりませんでしたけれども現実にはそういうふうにどうも諸外国では観測をしておったようであります。現実に行ってみますと、首長国連邦あたりでは、日本関係者がイギリスのB・P、ブリティシュ・ペトロリアムの株式を最近二十数%も取得をいたしましたり、あるいは新しい石油資源の鉱区を買収したりしている、着々とやっている際でありますので、どうも向こう側としては、それにあわせて親善に来たというふうに受け取られたことはやむを得なかったのではないかと思っております。しかし、そういう意味でも、私はあわせて中東諸国日本のいい印象を与えてきたというふうに思っております。  さらに、現地へ行きまして痛感をいたしましたのは、日本のほうの大使館が、外交機関整備が非常におくれていることでありまして、大使館というのがありましても、実際には大使以下三、四名の大使館でございます。あるいは通信施設も、テレックスもないというような大使館がほとんどでありまして、非常に気象の悪い、気温が非常に高いところでありまして、最高四十七度、表で日中はひどいときは五十度をこえるというような気温の中で、非常に公館員は苦労をしておりますが、それ以上に大使館の設備あるいは人員、あるいは兼任国が多くて、実際には大使館を置いてないというような国があったわけであります。こういうものについて、早急に整備をしていかなければいけないということを痛感して帰ってまいりました。  以上でございます。
  8. 上田哲

    上田哲君 暑いところを御苦労さまでございました。特に今回の訪問の中で私どもが関心を払いますのは、言うまでもなく、リビアの問題であります。お話によると、真水の開発をどうするかという話まで出たということでありますから、そのことはそのこととしてけっこうなことでありましようけれども、問題は、例のハイジャック犯人四名がリビア政府におる。そして、その四名の犯人引き渡し問題というのを当然交渉されたと思うんであります。これは後にお伺いをしたい韓国との関係の問題にも触れてまいりますけれども、当面こっちは切り離して、リビア政府とのハイジャック犯人四名の引き渡し問題についての交渉内容、相手方の回答、見通しについて御説明をいただきたいと思います。
  9. 水野清

    政府委員水野清君) リビアにおいて現在ハイジャック犯人が四人おりまして、その中に一人日本人がいる、これが実はだれであるかということについては、まだ確認ができておりませんが、この犯人引き渡しあるいは取り調べ状況情報をこっちへほしいということにつきましては、実は私どもが出発する前、八月十四日に、トリポリにおります臨時代理大使鰐淵臨時代理大使を通じましてリビア政府申し入れをしております。今回私どものミッションは、行きまして、いきなり犯人引き渡しをしろとかいうようなことを言うことも、いささか、あれだけのいろいろ親切をしてもらったわけでありますから、礼儀に反するであろうということで、ともかく謝礼を言う。しかし、これ、犯人引き渡しをまた何ら要求しないということも国家として非常に困ることであるということで、鰐淵臨時代理大使にあらかじめその旨を正式に口上書として向こうリビア政府申し入れをさせておったわけであります。私ども向こう外務大臣に会いました際に、謝礼を述べまして、あと食事段階になりまして、その段階で、犯人引き渡しあるいは取り調べ状況について情報要求をしたわけであります。その際、向こう当局者は、現在審理中である、まず裁判については厳正にやる、決して、何といいますか、うやむやのうちに犯人を釈放してしまうというようなことはしないということだけは明言をしておりました。それ以上につきまして、犯人の身元の確認であるとか、どういう自供内容をしているかとか、ハイジャックを起こした企図についてとか、あるいは背後組織、そういったことについては現在答えることができない、実はこにいう内容でございました。
  10. 上田哲

    上田哲君 リビア政府との関係は非常に微妙だと思いますから、このことについて、直ちに犯人を引き渡せというような表現をとられなかったということもよくわかります。これは、しかし、後に伺う金大中問題とも関連をしてくることでありますし、いま御理解をいただけない部分に念のため申し上げておけば、日本防衛構想の中で韓国との関係をどういうふうに考えていくのかということにもつながってくる問題でありますから、私はその問題をきちっとこの際淵源をたどっておきたいと思っております。そういう点で、これは警察庁管轄になるのでありましょうか、一般的にこうしたハイジャック事件日本飛行機外国ハイジャックを受けた、またその中に日本人容疑者がいる、こういう場合の犯人引き渡し、というと非常にことばは露骨になるかもしれないが、あるいは捜査権裁判権という問題と言うべきかもしれません、こうした問題についての国際的なあり方というのはどういうふうに考えていかなければならないのか。あるいは、権利義務関係というのはどういうふうにして発生するのか。また、これに対して日本政府はどういうふうに今後対処していくのか。そこまで広がっていくと思いますけれども、これは外務省当局になるのか、警察庁ということになるのか、それぞれの立場から御回答をいただきたい。
  11. 松永信雄

    政府委員松永信雄君) 飛行機ハイジャック事件関連いたしまして発生いたしますところの犯人引き渡しの問題につきましては、現在国際的には三つの条約が締結されております。  一つは、航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約通称東京条約と称しております条約でございます。これの条約内容は、航空機の中で発生した犯罪につきましては、登録国飛行機の登録されております国に裁判管轄権があるということを確認している条約でございます。  第二番目の条約といたしましては、航空機の不法な奪取防止に関する条約通称ヘーグ条約と申しております。この条約の主たる内容は、飛行中の航空機につきまして奪取、すなわちハイジャックが行なわれた場合におきましては、そのハイジャック犯人が所在する国は、犯人を訴追するために必要な措置をとるか、もしくは犯人引き渡しを、請求した国に犯人引き渡しを行なうということを義務として規定しているものでございます。  第三番目の条約といたしまして、民間航空の安全に対する不法な行為防止に関する条約、これはモントリオール条約と通称されております。この条約内容は、業務中の航空機爆発物により破壊する等の不法妨害行為を行なった犯人、これを訴追するためにハイジャック犯人所在国が必要な措置をとる、あるいは引き渡し請求をした国に引き渡すということを義務として規定したものでございます。  現在、飛行機ハイジャックに関しまして締結されております条約はこの三条約でございます。わが国はその第一番目と第二番目の条約に加入しておりますが、現在まだ多数の国がこれらの条約に加入いたしておりませんので、ハイジャックが起こりましたときに、わが国とその国との間でこの条約を適用してハイジャック犯人引き渡し請求する、あるいはその引き渡しを受けるという条約関係にない場合がかなりあるわけでございます。特に中東諸国につきましては、多くの国がこれらの条約に加入いたしておりません。その場合は一般国際法の原則に従って事を処理していくということに相なるわけでございます。一般国際法でまいります場合には、ある国の国内法上、犯罪として訴追をされるべきいわゆる犯罪人国外におります場合には、その相手国に対して犯人引き渡し請求することができるわけでございます。ただし、請求を受けた国がその犯人を引き渡すかどうかということは、相手国との話し合いの主題、すなわち外交交渉主題となるということになっております。  以上でございます。
  12. 上田哲

    上田哲君 政府としては、この事件について引き渡し問題を今後どのように取り扱っていかれるわけですか。
  13. 水野清

    政府委員水野清君) 引き続いてリビア政府には、犯人引き渡し及び取り調べ状況、特にその中に含まれております日本人犯人についての情報について強く要求をしていく予定でございます。
  14. 上田哲

    上田哲君 そこで、まあこれは冒頭に申し上げましたように、政府側答弁責任者出席半数を欠いていたというようなことから、委員長に冒頭申し上げておるように、筋はいろいろ狂ってくることになるということを御理解いただいていなければならぬわけですが、御理解が乏しい部分委員長におありのようですが、これに関連しながら、金大中事件にも少しく触れていきたいと思います。  あわせてお伺いしたいのでありますけれども金大中事件ポイントは、言うまでもなく、この誘拐事件韓国側官憲介入していたかどうかということにかかっていると思うんです。このことについての日本政府基本姿勢を再度承りたいと思います。
  15. 水野清

    政府委員水野清君) このたびの金大中氏の事件につきましては、事件は御承知のような経過でございます。省略をさしていただきますが、ソウルの金大中氏の自宅に本人があらわれてから、記者会見日本新聞記者を含めて記者会見、あるいは後宮大使の面接その他におきまして、金大中氏の発言によりますと、金大中氏は日本国内で自由を奪われて強制的に国外に連れ出されたというふうに言っております。右の事実が――まあ右のことはほぼ事実であろうと思いますが、この事実に基づきますと、日本国内の刑法その他いろいろな法律に触れている重大な違法行為であることは間違いがないことでありまして、日本政府といたしましても、金大中氏をこれは被害者という立場で徹底的に捜査をする、またこの事件の周辺を徹底的に調べていくという方針で現在やっているわけであります。  で、外務省としましては、この捜査協力をするために、韓国政府に、向こう当局金大中事件をいろいろ捜査をしておりますから、この捜査の結果の情報の連絡を強く要請をしております。また同時に、日本の――これはまあ私からよりも捜査当局のほうからお答えをいただけばいいと思いますが、向こう側捜査の結果だけをもとにしてこっちで判断をすることもいろいろ問題があろうと思いますので、金大中氏がこの捜査協力をするために日本に来てもらいたい、あるいは金大中氏だけでなくて、金大中氏が九段のホテルで一緒に会って、その事件、誘拐された前後に会っておりました梁一東氏あるいは金敬仁議員の二人にも、日本にもう一度帰ってきて捜査協力をしてほしい、それについての措置を早急にとってほしいということを韓国政府要求をしております。
  16. 上田哲

    上田哲君 なお真相は不明でありますけれども推定されるところでは、一つポイントは、金大中氏がたいへん警戒厳重な韓国海岸線を越えて自宅にあらわれた、このことは、少なくとも狂言ではない、あるいは民間人協力などというような次元で達せられるコースでもない、相当な数の金なり準備なり人なりというものが動いていなければできないのだということは、物理的に推定がされるところであります。私どもは、だからこれはどうしても官憲介入ではないかという推定状況として持たなければならぬのですが、いわゆるKCIAであるとか、あるいは韓国のCICというようなものの介入ということが推定される根拠は、なおかつ確認されておりませんか。
  17. 水野清

    政府委員水野清君) これは、捜査の進展を見なければ何とも言えないことでありまして、事件はもちろん日本側韓国側捜査をしておりますが、特に日本政府としては、日本の警察の捜査の結果を主眼に置いて判断をしていきたいというふうに思っております。現在のところは、いま上田先生お話がありましたように、客観的にはいろいろなことが想像できるわけでありますけれども韓国政府が直接関与している、あるいは政府当局でなくてもそれに関連をする人、あるいはその示唆によってこの事件が発生したということについては、まだはっきりした結果は出ていないわけであります。ですから、この段階でいきなり韓国政府に対して、新聞紙上いわれておりますようないろいろな諸問題を直接非難をする、こういったことはまだ時期的には早いのではないか、こういうふうに思っております。
  18. 上田哲

    上田哲君 捜査当局にお伺いをいたしますけれども、神戸の韓国領事館安潤璟という人がおられるかどうか。
  19. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) そういう人物はおります。
  20. 上田哲

    上田哲君 このことは捜査当局がお調べになって確認された範囲のことですか。
  21. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) さようでございます。
  22. 上田哲

    上田哲君 この安潤璟という人は、金大中氏が韓国での供述の中で誘拐犯人たちが「アンの家へ行け」と、こういうことばを覚えておると言っておられるわけでありますが、この安潤璟氏という人と、この犯人が漏らしたことばアンというのとは一致するのですか、一致しないのですか。
  23. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) いまその関係捜査中でございまして、まだはっきり判明いたしておりません。
  24. 上田哲

    上田哲君 捜査中ということは、このことについて捜査を続けている、捜査の対象として詰めているという意味でありますか。
  25. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) さようでございます。
  26. 上田哲

    上田哲君 そうすると、もちろん白とも黒とも、まあことばはよくないけれども断定はできないのだけれども、かりにこの安潤璟氏アンという犯人ことばとが一致するということになれば、これは韓国官憲介入ということを疑わしめるに十分な証拠となるというふうに考えてよろしいですか。
  27. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) もしそれがはっきりすれば、本人にいろいろと事情を聞かなければなりませんけれども、そういう疑いが非常に強くなってくるというふうに思っております。
  28. 上田哲

    上田哲君 御本人に事情を聞くようなこともあり得ますか。
  29. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) 捜査の進展いかんですけれども、そういうことも捜査の進展によってはあることもあるというふうに考えます。
  30. 上田哲

    上田哲君 この機会に、あわせて、いまの捜査の全体の進捗状況ですね、御説明いただける部分をお願いしたいと思います。
  31. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) 八日のこのホテルから連れ出された現場を見ておる者が、結局、被害者である金大中さん、それから梁一東、金敬仁という三人の人でございますので、この三者からこまかい事情を聞きたいというのが捜査当局でいま大きな問題になっているわけですが、そのほかの点としては、われわれが現在やっている捜査は、結局現場に遺留品がかなりございますので、それの捜査、それから畑中金次郎という名前で、その日の二日前から梁一東さんの泊まっている隣の部屋を予約した人物、これの解明、それからホテルの従業員その他から、そういう畑中その他犯人らしき者を見た者はないかという目撃者の発見につとめておるわけでございます。これは若干の目撃者も出ておるようでございます。それから連れ去られた車ですね、これは時間帯からして、大体ホテルの車庫に三十台ぐらいありましたので、これを一台一台捜査しているわけですが、ホテルの車庫の登録記録によると、下四ケタしかないようでございますので、一台の車を調べるのにかなり時間がかかるという状況で、現在三十台のうち十七台までがはっきりこれに関係していないということがわかりました。あと十三台の捜査をしております。それから一応金大中さんの陳述によると、関西方面に行ったということもありますので、その過程の調査、いま言ったような神戸に泊まったとか、あるいは大阪に泊まったとか、それから関西方面から船に乗ったというので、当日の時間帯に韓国方面に出帆した船、これが三十数隻あるものですから、それの捜査、そういう基本的な捜査を着実に進めておる一方、いろいろな形で情報が提報されておりますので、そういうものを一つ一つ現在真剣に取り組んで捜査しているという現状でございます。
  32. 上田哲

    上田哲君 安潤璟氏の問題について捜査をするというレベルと比べて、さらに強いレベルの捜査対象は現在ありますか。
  33. 山本鎮彦

    政府委員山本鎮彦君) レベルという表現はあれですけれども、具体的に人名があがってきておるというのはございません。
  34. 上田哲

    上田哲君 韓国領事館内のことですから、みだりにわれわれも言及することは慎まなければならないと思いますけれども、いずれにしても、現在捜査当局お話の中でこういう人物がおられる、少なくともこれは解明しなければならない対象である、そうしてこのことが一致するならば、これは韓国官憲介入ということを立証することにならざるを得ないということはもう自明のことのようであります。こういうことになれば、明らかにこれはいうところの主権侵犯ということになろうと思います。そういう考え方でよろしゅうございますか。
  35. 水野清

    政府委員水野清君) ただいま警察庁の答弁にもありましたように、まだその捜査の過程でありますし、安潤璟という方がこの事件に深い関係があるという証明もまだついていないわけでありますから、いまの段階で早急に結論を出すということは政府としては差し控えたい、こう思っております。しかし、これは仮定の上の話でありますので、御了解いただきたいのですが、もしそういうことであれば、これは重大な主権の侵害である、日本政府としても相当な覚悟をしなくてはいけない、こういうように思っております。
  36. 上田哲

    上田哲君 そのようなことが立証されるならば、いま次官の言われましたように非常に重要な問題として主権侵犯に対する当然な国際措置をとらなければならないと思います。その場合、その根底にあるのが朴政権のファッショ体制という一語に私は尽きると思うのでありますけれども、このようなファッショ体制の政権に向かって経済援助をするというような形それ自体が、日本の民主主義に対する危機をつらねさせるということになろうと思いますので、私は、当面日韓定期閣僚会議というのは無期限に延期すべきである、また、あわせて言うならば、国連総会で韓国の問題がいま議論されるわけでありますけれども、これに対して日本政府の方針をもっと明確に諸外国に対して明らかにすべきである。この二点は当面の課題でなければならないと思うのでありますけれども、たとえば西ドイツの場合なんかと比べても、今日の日本政府の姿勢は非常に弱い。これは捜査当局の厳正な捜査の進行のためにも益するところがないのではないかという気持ちもいたします。そのようなしぼった二点について、政府はどのようにお考えになりますか。
  37. 水野清

    政府委員水野清君) たいへん話を戻しますが、先ほど申し上げましたように、この安潤璟氏の問題が、たとえばということでありまして、まだ現在については、そうだという捜査の結果も出ておりません。また安潤璟氏がこの事件の中で――これは仮定の話でありますが、たとえ関係があったとしましても、この誘拐事件に直接関係があったのかどうかといういろいろなまだ予断をされない事実があるわけであります。ですから、これまでの経過だけを結果として、日韓の定期閣僚会議は現在無期延期ではなくて、総理の訪欧後適当な時期にと、こういう形の延期になっておりますが、これを無期限に延期をする、あるいは対韓経済援助をここで直ちに取りやめるというようなことまでは私は早断ではなかろうか、こういうふうに考えております。
  38. 上田哲

    上田哲君 御配慮はよくわかります。必要以上に波風を立てることが望ましいことではありませんから。ファシズムに対する強い姿勢はともかくとして、無意味な混乱を起こさないためには、先ほど来私も具体的な個人名をあげましたけれども、たとえば部外的にはアン某という程度の取り扱いとして議論は進めるべきだというふうに考えますから、御趣旨のところはわかります。  しかし、その上で、そのような十分な配慮をした上で、もし万一ということを考えておかなきゃならぬわけでありますが、そのもし万一ということを考えた場合に、その際、日本政府のとるべき主権侵犯に対する対抗処置といいますか、この点は非常に私は不安が残るわけであります。極端に言えば、これは何とか韓国官憲介入がなかったという前提、仮定に立って、いわば朝鮮人同士のけんかの扱いというふうなことにされてしまうようなことがあっては、あまりにもそれは政治的なことになるだろうと思うのであります。この際、もう一ぺん伺いますけれども、当面、日韓閣僚定期会議の無期限の延期と国連における韓国に対する姿勢の明確化ということを、いま一歩明らかにする方針をおとりになることはありませんか。
  39. 水野清

    政府委員水野清君) これは、いま上田先生の御質問の前提にもありましたが、韓国の政権がどうであるということは、これは一つ外国のことであります。これはまた一つ外国の主権に対する非難であり、介入になるわけであります。私どもは、いま日本の主権が侵害されたかどうかということについて、日本の警察当局の究明を待って日本政府の態度を考えていきたい、こういう考えでありまして、いまここで前提の上に立って、これは国会の場でございますから、もしそうであれば、たとえば日韓の定期協議も無期延期する、韓国に対する経済援助も停止をする、あるいは来たるべき国連総会における、これは朝鮮問題において日本の態度は重大な転換をするというようなことを簡単に、軽々に申し上げることは私はまだ早断でなかろうか、残念ながらここではそういう明確なことは申し上げかねるわけであります。この点はひとつ御了解を、御理解を得たいというふうに思っております。
  40. 上田哲

    上田哲君 ここで防衛庁長官に伺っておきたいんですが、何となく日本政府のこの問題に対する腰が弱い、あるいは出足がおそいということの根底には、やはり何といっても日本韓国アメリカを頂点とする軍事関係というものが抜きがたく存在をしているというふうに推測されざるを得ません。それがどういうふうな形であるにせよ、いわゆる安定への貢献の努力であるとか、いうところの韓国条項であるとか、軍事的とは言わないまでも――私たちから見れば軍事的だと思いますけれども、軍事的と言わないまでも準軍事的日韓関係というものが根底にある、このことをはっきり削除することなくんば、こうした主権侵犯問題についての明確な態度に曇りが生ずるというふうに思います。  そこで、これも仮定の問題でけっこうでありますけれども、主権侵犯ということがはっきりした場合には、日韓の軍事関係というものについてもはっきりした姿勢をとるということを明らかにさるべきであると思いますが、いかがですか。
  41. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 日韓の軍事関係というものは、わが防衛庁、自衛隊とは直接のものはありません。いわゆるアメリカと安保条約を結んでおる日本としての、アメリカ側から見た極東戦略もしくは世界戦略の中で、日本及び韓国、あるいはまたフィリピン以南の地域までアメリカとしては関連性を当然持って考えていることはわかります。しかし、私どもの自衛隊としては、繰り返しは申しませんが、憲法から始まる各種の制肘を受け、他国と連携をするのはアメリカとだけであって、その他の国と、自由主義諸国圏といえども、共同し、もしくは連動し、行動するということは許されない存在でありますから、したがって韓国と私ども、いわゆる世界的な常識でいう軍という意味における連携というものがこの問題にからまってくるということはあり得ないと考えます。  なお、この機会に一言訂正をさしていただきますが、先般の御質問の際にと思ったのでありますけれども、ということは、御指摘があるだろうと思って覚悟していたのですが、最初、だいぶ前になりました最初の御質問に対して私が答えました速記録、あまり時間がたったものですから一ぺん私も読み返してみたのです。その中に、私が答弁しました中で、憲法第九条に許容された範囲の軍隊、という表現を使っておることを自分で発見しましたので、これはまことに自分として間違った表現であると思いますから、したがって軍隊ということばはこの機会に訂正をさしていただきます。
  42. 上田哲

    上田哲君 訂正のほうが主になってしまいまして……。(笑声)  アメリカを三角形の頂点とするという形であるにせよ、言うなれば、米韓日軍事協力体制というのは、ちょっとこれは疑いをいれない世界の常識なんでありまして、私は、言うならば李下に冠を正さずというような意味で、この際国民過半の疑惑にこたえ得るような、軍事関係をすっきり清算をするという態度を、山中長官が、もし主権侵犯というような事態が生じた場合には、ことさら明確にさるべきだということを求めているのですが、その点はいかがですか。
  43. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 日韓という軍事関係が存在しないのですから、それをこの際主権侵犯という事実がはっきりしたら明確にせよと言われるのですけれども、これはそのことについては、いわゆる主権侵犯という国際法上、あるいはわが国の主権国家として、法治国家としての範囲において問題が提起されているのであって、いわば法理論的な問題、私たちの場合は、物理的にわが国の主権というものが領海、領空あるいは直接の国土という問題に、これはいずれかの国というものがかりにそれを侵犯する場合があったらという存在でありますから、範疇がおのずからいま別であって、存在しないものを明確にしろと言われてもしかたがない、こう思います。
  44. 上田哲

    上田哲君 まあ、これは日本韓国の基地の交流あるいは情報の交換その他具体的な事例は枚挙にいとまがないのであります。これはひとつ別な機会にきっちりそうした問題について議論をしなければならぬと思います。いかに防衛庁側がそれは軍事関係ではない、公のものではないという形を説明されるにしても、やはり国民の疑惑がそこに集まっているということはこの際一言は申し上げておき、次に譲りますけれども、この問題の最後に、外務省にもう一ぺん伺っておくのですが、衆議院内閣委員会で、金大中氏が再来日をした場合に亡命を認めるかという質問に対して、法務大臣が、日本には亡命という制度がないわけでありますけれども、事実上のそのような措置をとるということを明言をされた。法務大臣は最近いろいろさわやかにものを発言される部分があるのですけれども、すぐ、時間がたつとこれがさわやかでなくなるという部分があります。この際ひとつ外務省は、この金大中氏の再来日後の本人の意思表示に基づくたとえば政治亡命等について、衆議院内閣委員会における法務大臣見解をそのまま支持されるのか、あるいはこれに対して別な見解を持たれるのか。ついでにもう一つ申し上げれば、金大中氏の再来日について、たとえばそのような可能性を封殺するような来日条件を付しているのかどうか、この点についてお答えいただきたいと思います。
  45. 水野清

    政府委員水野清君) 金大中氏の捜査協力のための、これは正確に申し上げますと、日本政府捜査協力という形で要求をしているわけであります。この捜査協力についての再来日については、日本政府は、日本に来たあとの取り扱いその他については条件をつけておりません。たとえば、金大中氏が自分の身の振り方について、その後どうするということについては、日本政府は同意をしないとかいうようなことはしておりません。しかし、現在の段階では、日本に来た際に、これから先亡命をするか、日本には亡命という制度はないということは先生のいまの御指摘のとおりでありまして、法務大臣の特別の在留許可という問題はございますけれども、それ以外、いわゆる諸外国にある亡命という制度は日本には法律的にないわけでありますが、そういうことにつきましては、まだ外務省としては明確な方針というものを出しておりません。ともかく日本に来てもらって捜査協力をしてもらう、真相解明に協力をしてもらうということにしぼっているわけであります。ただし、日本に来たあとの条件について、韓国政府から、こうしてもらっては困るとか、幾日間で必ず帰せよとか、そういった条件はっけないでほしい、こういう要請のしかたをして、強く金大中氏の日本に再入国をすることを要望しているわけでございます。
  46. 上田哲

    上田哲君 そうすると、金大中氏は、来日をされる場合には、きわめてその後自由な立場で来られる可能性があり、政府間の立場からすれば――そうして金大中氏が亡命を希望される場合には、日本側政府としては可能な柔軟性を持って対処するというふうに理解していいわけですね。
  47. 水野清

    政府委員水野清君) いま申し上げましたように、日本政府は無条件で再入国をさしてもらいたい、捜査協力のための再入国をさしてもらいたいということは言っておりますが、この条件については、韓国政府日本政府が、こういう条件ではいいとか悪いとか、亡命を、将来亡命をさせることになるかもしれないというような、そういう条件についての話し合いはまだしていないわけであります。ですから、それから先のことについて、いまだここでお答え申し上げるということはできない現在の事情でございます。
  48. 上田哲

    上田哲君 否定的な御見解でなかったことを了解をしておきます。  この機会に、あわせて、韓国問題とつながって、韓国との関係を改善をしていくというためにも、北朝鮮との関係についても一点、二点承っておきたいと思うのです。先般も少し言及したのでありますけれども、北朝鮮との貿易事務所の相互交換、このことは具体性、現実性がどこまでいまいっているのか、どうもはっきりしないのでありますけれども伺いたいと思います。
  49. 水野清

    政府委員水野清君) 北朝鮮との貿易事務所の相互交換という問題は、新聞紙上その他ではすでにいろいろと報ぜられておりますが、日本政府としましての見解としては、まだ時期尚早であるというふうに考えております。
  50. 上田哲

    上田哲君 これは非常におかしいのですがね、時期尚早ということをおっしゃるのだけれども、私のほうで調べてみますと、ジェトロの予算の中に千五百万円計上されておりまして、これは市場調査費というような名目になっているようでありますけれども、これが事実上、貿易事務所の開設費である。だから予算も計上されている。これは間違いなく時間の問題になっておるというふうに考えなきゃならぬと思うのですが、この点は明確にひとつお答えをいただきたい。通産ですか。
  51. 濃野滋

    政府委員(濃野滋君) 北朝鮮との間の貿易事務所の問題にかんがみまして、先生のただいまの御質問のジェトロ予算の問題ですが、当省としては、本年度予算の編成にあたりまして、できればジェトロの調査を北朝鮮に関して行ないたい、そのために駐在員等も置いてみたいという考え方を持っておりましたが、北朝鮮に現実にジェトロの駐在員を置くかどうかという問題につきましては、関係各省との間で十分話をして、政府部内の考え方がまとまりましたときに出そう、こういうことでおるのが私どものいまの態度でございます。
  52. 上田哲

    上田哲君 それは非常におかしいですよ。いいじゃないですか、大いにやるべきなんだ。これはもういまや国の方針なんですよ。あなたのやっていることは出過ぎたことをやっているというのじゃないのです。いいことじゃないですか。どうしてジェトロの中に予算をもぐり込ませるなんということをするのでありますか。これは、関係各省と話し合いが煮詰まったらばそのときにということだったら、早く煮詰まってほしいということなんでしょう。煮詰まらないほうがいいということじゃないのですから、煮詰めたらいいじゃないですか。現に、ここに外務省当局もおられるのですから、これはもう外務省当局が足を引っぱっているはずはないと私は思う。この際ひとつ、予算も計上されているのだから、ぜひひとつ、貿易事務所はもうきわめて近時点でこの予算の上に乗って開設をする、これはひとつ次官、はっきりお約束をいただいたらいかがでしょうか。
  53. 水野清

    政府委員水野清君) 日本と北朝鮮との関係といいますのは、これは国際情勢に順応して漸次展開していくという基本方針でございます。あるいは人的な交流、文化交流、事実上の貿易の促進ということでございますが、貿易事務所の設置ということは、北朝鮮とだけの問題じゃなくて、現在国交があり、厳然として日韓基本条約というものが結ばれております韓国政府との問題も関連をしてまいります。それだけに簡単には踏み切れない、国際情勢を見ながらこれはやっていきたいというふうに考えております。  現在のところは、たいへん残念でございますが、先ほど申し上げましたように、北朝鮮に貿易事務所を設置するという意思政府として持っておりません。外務省だけでなくて、統一見解として持っていないわけでございます。
  54. 上田哲

    上田哲君 それは非常に残念でありまして、現にもう、やみと言っちゃことばは悪いけれども、ジェトロあたりに予算まで配分をして事実上の行動を起こそうというのですから、韓国との関係を正していくという姿勢を明らかにする一つとしても、この貿易事務所はひとつ早急に開く、相互開設をするということをぜひ実現をしていただきたい。  私は、これができれば一つの明るい話題だと思うのですけれども、じゃ、あわせて伺うのですけれども、ケース・バイ・ケースという話が出るのですが、北朝鮮の輸銀の問題であります。この前もちょっと聞いたのですが、よくわからないので、この際具体的にきちっと伺いたい。たとえばタオル工場というのがありますね。これに関して、具体的に輸銀の使用を認める方針をきめたというふうに伺っておりますけれども、これは事実ですか。
  55. 水野清

    政府委員水野清君) タオル工場を北朝鮮に設置する、それについて輸銀の使用を認めるかどうかという問題が、政府内部で議論になっているということは事実でございますが、現在のところはまだ方針を決定しておりません。北朝鮮に対する輸銀の使用というのは、これまでもケース・バイ・ケースという方針でやってまいりましたが、現在の国際情勢を勘案しまして、日本としてはいま検討をしているという段階でひとつ御容赦をいた  だきたいと思います。
  56. 上田哲

    上田哲君 このタオル工場の問題をひとつ具体的に説明していただくと――どっちでもいいですがね、具体的に説明していただくと、この話はほぐれてくるのですよ。どの申請で、どの規模で、いつで、そして輸銀がどうなっているのか、具体的に説明してください。
  57. 濃野滋

    政府委員(濃野滋君) 前回も上田先生から御質問がございましたタオル工場の件につきましては、私、そういう話があることは存じておりますが、タオル工場の具体的な内容につきましては、私どもの機械情報産業局が窓口でございまして、私、本プロジェクトの具体的内容を存じません。  それから本件、コマーシャルの商談の問題でございますので、どこまで詳細な内容を御説明申し上げられるか、その点についても若干の疑問があるんではないか、かように考えております。
  58. 上田哲

    上田哲君 おかしな話で、コマーシャルにきまってるじゃないですか、輸入というのは、貿易というのはコマーシャルですよ。そんなこと言ってたんじゃこれは議論になりませんが、まあ時間がたつだけですから、じゃ、説明をやがてしてください。データを出していただくということを約束をしていただいて、最後の問題ですが、これは次官が時間がないようでありますから、煮詰めて伺うのは、もう一つキューバの問題です。  これはもう何べんも繰り返しますけれども、国交のない国の話ではない。また数少ないインバランスの国である、あるいはココムの対象にもなっていない、いろいろな条件からいって、ここに向かって輸銀を押えておくというようなことは、もうこれはおかしいわけであります。時間の問題であるというような御答弁もいただいているんでありますけれども、そこのところをもう一つ明確に御答弁をいただきたいと思います。
  59. 水野清

    政府委員水野清君) キューバに対する輸銀の使用につきましては、輸出案件の性格、規模、融資条件、それから償還の可能性、それからキューバの国際収支の現状などというものを含めて検討をしていきたい、キューバをめぐる国際情勢、それから、御承知のように中南米諸国におけるOASという機構がございますが、この中における諸外国の取り扱いなど、いろいろな要素というものをいろいろな角度から検討して、ケース・バイ・ケースでこれもきめていきたいと、こういうふうに考えております。
  60. 上田哲

    上田哲君 キューバに関して、もう時間の問題であるというふうに承っていたわけなんですが、これがあとずさりになるのは、ひとつ紙があるんだということではないか。具体的には六三年の七月に北中南米大使会議が行なわれて、これはワシントン。当時、武内駐米大使でありますけれども、国務長官からのトーキングペーパーが手渡されている。このトーキングペーパーは実在しますか。
  61. 伊達邦美

    説明員(伊達邦美君) お答えいたします。  そういうトーキングペーパーないしは紙というようなものがその時点で手渡されたということは、私ども事務当局承知しておりません。
  62. 上田哲

    上田哲君 このトーキングペーパーは、対キューバ向け輸出に対する国家機関による信用供与をストップすることに協力されたいという内容であります。関知しませんか。
  63. 伊達邦美

    説明員(伊達邦美君) 私ども承知しておりません。
  64. 上田哲

    上田哲君 そのとき、北中南米大使会議が開かれたことはお認めになりますか。
  65. 伊達邦美

    説明員(伊達邦美君) ちょっと手元に記録がございませんで申しわけございませんけれども、おそらくその時期にあったかと思いますが、はっきりいたしません。
  66. 上田哲

    上田哲君 これは具体的な事実であります。私はこれについては十分な裏づけを持ちます。重工業局の輸出課、通商局市場一課、これは通産省ですがね、貿易振興局、大蔵省の国際金融局投資三課等々でこの問題は具体的にいま議論を詰めておられるはずであります。このことがテーマになっているはずであります。関係省はいかがですか。
  67. 濃野滋

    政府委員(濃野滋君) 私ども、いまの先生の御質問の点は、私、存じておりません。
  68. 松室武仁夫

    説明員松室武仁夫君) 大蔵省としてもその話は聞いておりません。
  69. 上田哲

    上田哲君 非常に奇妙な話でありますけれども、このトーキングペーパーというのが今日も大きく対キューバ貿易に立ちふさがっていると信じられます。もう少し具体的な例をお話をしてもよろしいんですが、結論を先に言うならば、これが、この存在について各省とも関知しない、存在も認めないということであれば、もはや、ケース・バイ・ケースと言われているけれども、たとえば国交の問題、あるいはインバランスの問題、ココムの問題、その他すべての条件を考えて、ここに輸銀の使用を押えていく、ここだけを、こういう理由はなくなってしまわざるを得ないと思うんです。あとはもう全く実行の段階だけになると居りんです。これ以外に、私はもうこのことがひっかかっているから、この紙一枚が……。もっと具体的に言えば、どうしてもワシントンが気になるからこれ以上はできないんだということが実態だと思うんだけれども、こういうものがなければ、もう時間の問題だと、あすにもよろしいということにならなきやならないと思うんですけれども、そういうふうに理解してよろしいでしょうか。
  70. 伊達邦美

    説明員(伊達邦美君) 冒頭政務次官から御説明がございましたように、輸銀使用の問題だけにいたしましても、先ほど羅列されましたようないろんな条件、それからOASその他各国の動き、もちろん、この間、私どものほうの大口審議官から詳しく御説明申し上げたと存じておりますけれども、そのときにお使いになりましたことばで、時間の問題というようなことを言ってらっしゃいましたが、その意味には、やはりいろいろと動きがございますので、ただいま先生がおっしゃいましたような、アメリカにある程度考慮してというようなことではない、それだけ、それほど簡単に割り切って進めていくというわけにもまいらないかと存じております。
  71. 上田哲

    上田哲君 じゃ、確認しておきますけれどもアメリカに対する配慮が最大のネックなのではない、また、具体的なこのようなトーキングペーパーは今日障害となっていない、そして時間の問題と考えてよろしい、こういうことでいいですね。
  72. 伊達邦美

    説明員(伊達邦美君) ただいまおっしゃいましたうちの、トーキングペーパーがネックではないという点につきましては、先ほどからちょっとお答え申し上げましたように、実は存じておりませんので、その存在を私ども存じておりませんので、これはネックであるかないかという問題外だと存じますが、アメリカに対する考慮ということは、広く国際関係に対する考慮というようなことと理解さしていただくなら、おっしゃるとおりだと思います。
  73. 上田哲

    上田哲君 三点ともですね、アメリカに対する配慮ということは問題ではない、時間の問題であるということでいいですね。
  74. 伊達邦美

    説明員(伊達邦美君) そうでございますね、時間の問題であるというふうに結論的に申し上げられると思います。
  75. 上田哲

    上田哲君 それじゃ午前中はあれですから、一応ここでとどめましょう。
  76. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時二十分再開することとし、休憩いたします。    午後零時十九分休憩      ―――――・―――――    午後一時二十九分開会
  77. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ただいまから内閣委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き質疑を行ないます。  順次発言を許します。
  78. 上田哲

    上田哲君 先般行なわれました日米首脳会談、田中・ニクソン会談の結果について、八月二十八日の本委員会におきまして、わが国の軍事的肩がわりの問題、南ベトナムに対する援助の問題あるいは兵器輸入、朝鮮半島に対する貢献の内容等について質疑を行なったんでありますけれども、さらにこれをふえんいたしまして、もう少しくお尋ねしたい面があります。  まず南ベトナム援助の五千万ドルでありますが、二十八日の委員会において、アメリカ局長の答弁は、南ベトナムとラオスに派遣された調査団に対して、南ベトナム政府要請をした項目から決定をされたのである。つまり、アメリカ側の要請などというものではなくて、ベトナム政府要請に基づくものであって、これはわが国から派遣された調査団が受けて帰ったんだと、こういうことであります。ところが、事実関係で申し上げれば、この調査団は日米首脳会談が終わったあとに日本に帰国しているのであります。きわめて具体的な事実関係からして、南ベトナム側の要請を受けた、向こう要求に従って五千万ドルが決定されたという関係に立たない。これはどういうことになっていますか。
  79. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) ただいま御指摘の調査団の派遣の日時は、私、正確に記憶いたしておりませんけれども、七月のたしか中旬であったというふうに考えております。現地に参りましてから南ベトナム政府側といろいろ接触し、南ベトナム政府側要請を受けまして、東京にそのつど電報連絡、また電話連絡等を行ないまして、南ベトナムが要請してまいりました六千二百万ドルという金額の中で、日本側として考え得るものを、おおよそ五千万ドル、こういうことを考えたわけでございまして、総理大臣が渡米いたします前に、現地とは緊密な連絡が行なわれておりまして、そういう趣旨で、南ベトナム側の要請を受けて日本政府の考えとして五千万ドルの援助を計画している、こういうことでございます。
  80. 上田哲

    上田哲君 そんなことはすぐ調べられますね。日時はつまびらかにしないがとおっしゃるが、私は日時のことを問題にしているのですから、ちょっとすぐ調べてください。
  81. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 至急調べてみます。  先ほどの御質問に対して、調査に時間をとりまして失礼いたしました。  この本野調査団は七月十九日に東京を出発いたしまして、八月三日に帰国いたしております。その間、先ほど申し上げましたように、電報、電話によって随時本省と密接な連絡をとりながら調査を進めておったわけでございます。
  82. 上田哲

    上田哲君 七月の十九日に出発ですね。現地の到着というのはつまり下旬なわけです。その日時で出発をしている調査団、そこに向かっての南ベトナム政府からの要請、これはもう全く、そこから電話連絡があったんだという話は、どんなものごとも点線でつなげばつながらないことはないという典型のようなものでありまして、話が少しつじつまを合わせ過ぎていないか、無理がないか。もっと具体的に申し上げれば、この五千万ドルの決定というのは、田中総理の訪米直前の七月二十六日、この打ち合わせ会の席上で総理によって決定をされたという数字ではありませんか。事実はどうですか。
  83. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 南ベトナムに対する援助につきましては、かねて南ベトナム政府側からの要請があるわけでございますが、その要請と、現地大使館の意見、それから主要関係国の動向、それからいま申し上げております調査団の現地からの報告、こういうものを総合的に勘案いたしまして、政府として自主的な立場で、南ベトナムに対する援助の総額として五千万ドル程度という計画を立ててきた、これが実情でございまして、総理の訪米との時間的な関係で、単につじつまを合わせているという性格のものではないわけでございます。
  84. 上田哲

    上田哲君 何を言っているのかさっぱりわからぬです。初めは、調査団にもたらされた向こう側要請に基づいてやったのである。話が進んでくると、時間がないから向こうから電報や電話が入ったから、その話によってやったのである。やがて話がつじつまが合わなくなってくると、これまでの一般的な状況に基づいて自主的に判断したと。何が何だかわからぬじゃありませんか。結局、おれがきめたのだ、このデータに基づいてきめたのだ、つかみ金の五千万ドルだということになれば、これは言いのがれはどうにでもできるでしょう。しかし、はっきりしていることは、決定は七月二十六日であったということと、それから下からの事務当局の数字の積み上げによってきまったものではないのである、このことだけははっきりしていると思うんです。
  85. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 前回も御答弁申し上げたと存じますが、私はこの問題の直接の主管ではございませんので、どういう過程において、最後的にどういう手続を経て、いつ決定されたのかということの詳細については承知いたしておりません。しかしながら、七月の十九日に本野調査団が現地に出発いたしまして以後、その前にもかねて来ておりました南ベトナム政府側要請というものを、現地の調査を通じまして種々確かめまして、それをもとに現地から種々報告があり、また連絡があったということは事実としてあるわけでございまして、そういう点を総合的に踏まえまして、先ほど申し上げましたように、南ベトナム側の要請大使館の意見、また関係国の動向、調査団の現地からの報告、こういうものが総合的に検討されて五千万ドルという数字が出てきた、これが実情であるというふうに私は承知いたしております。
  86. 上田哲

    上田哲君 それは説明は明らかに無理ですよ。明らかに無理です。明らかに事務当局が積算をして、それを足し算をしたら五千万ドルになったと、あるいはそれに近い数字になったからまるくしたのだということでは、時間的にはあり得ません。また、それまでのということになれば、あなたの前回に答弁された、調査団を派遣してという話とは明らかに食い違ってくるではありませんか。旅行の日にちを別にしても、一週間というズレの中で、このときばかりこんなに手ぎわよくいくなんていうことは、それは説明としては少し無理過ぎると思います。一方に、アメリカ自身の、議会に向かって六億ドル以上の南ベトナム援助が半分に削られていく、それもあぶないと、こういう事情からの物理的な肩がわり論というものがはっきり見通すことができることとあわせて、この話の疑惑というものはこれはどうしても残るのです。しかし、まあこれは政権担当という立場が、こういうつじつまをどうしても合わせてしまうのだといえばそれまでのことになるでしょうが、少なくともそこまで言われるのであれば、どういう積算根拠があったのかということは、ひとつ具体的に資料として提出をしていただきたい。
  87. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 前回の御質問に対しまして、私の承知しておりますところでは、南ベトナム側から要請がありました六千二百万ドルの内訳については、現実の資料があるのでこれを提出いたします。また、提出いたしたというふうに私承知いたしておりますけれども、五千万ドルの内訳につきましては、主管局のほうにおいて具体的に検討いただきたいというふうに考えております。
  88. 上田哲

    上田哲君 明らかに食い違いが出ているわけですから、またこれについてはこまかく追及もさせていただくが、やはり少し説明が無理があるんじゃないでしょうか。国民の疑惑は大きく残りますよ。アメリカが、議会の理解を得られなくなったので、そこまで全部というわけにはいかないが、日本政府にその部分的肩がわりをさせる。核のかさ代などということばが高まっておるおりから、こういう形にいったのだということは、どうしたって国民の一般的なこれは疑惑であるということは打ち消しがたいんです。特にその疑惑の最大のポイントは、課題なき訪米といわれた今回の田中訪米というものの成果として喧伝をされている共同声明が、これまでのいかなる共同声明よりも一番字句が長いにもかかわらず、一番具体的であるこの五千万ドルの南ベトナム援助ということが、たまたまこの共同声明に欠落をしている。それほど重要なものであるのなら、なぜここに書かないのであるか。ずばりひとつ、なぜこれほどたくさん文言を要した共同声明の中に、この南ベトナムへの五千万ドルの援助だけが書かれなかったのかという理由を具体的に説明をしていただきたい。
  89. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 七月末の総理訪米につきましては、昨年八月末のハワイにおける田中・ニクソン会談の際に、日米首脳間において合意されました間断なき対話という形での首脳会談を、なるべく早い時期に開きたいということをかねて双方で考えておったわけでありまして、そういう意味におきまして、七月末に、間断なき対話の一つの形としての第二回の田中・ニクソン首脳会談というものが行なわれたわけでございます。その会談の主要な項目を共同コミュニケという形で会談が終わりました後に発表されているわけでございますが、その中で取り上げられましたアジアの情勢につきまして一つの項目が起こされてございますけれども、アジア情勢との関連におきまして、南ベトナムに対する、あるいはインドシナに対する双方の意見交換が行なわれ、その観点におきまして、総理大臣から南ベトナムに対する援助のことについての言及があるわけでございますが、これはあくまでも、先ほど来申し上げておりますような、日本側の内部作業におきまして五千万ドルという南ベトナムに対する援助額についての計画ができておりましたので、それを総理大臣から会談の際にわが国の心づもりということで米側に伝えたと、こういう経緯があるわけでございまして、そういうことを踏まえまして、コミュニケには簡単に、インドシナ和平のためのパリ協定の署名によって示される緊張緩和への傾向を指摘されるとともに、インドシナの復興を援助する決意の確認ということがうたわれているわけでございまして、日本政府といたしましては、かねてインドシナにすみやかに平和が到達し、この地域の平和と安定のために、人道援助、復興救済のための援助を行なっていくという考え方を明らかにしているわけでございますから、今回そういう観点におきまして、この援助問題がいま申し上げているような趣旨で話し合われていると、こういうことであるわけであります。
  90. 上田哲

    上田哲君 もっとすっきり説明ができぬものでありましょうか、これが私の率直な感想。つまりアメリカ協力をしなきゃならぬというのが日本外交の、あるいは日本の防衛外交のまぎれもない基軸であると言うのなら、そのことを振りかぶって説明をされればいいと思う。何かあなた方の中にも、アメリカと手を結ぶことを、アメリカの世界戦略のある種の協力関係に立つということは、そのとおり受け取られてはまずいことになるのではないかというような、うしろめたさがあって、話はつけてきたんだけれども、決して向こうの言いなりになったのではないというようなことを常に言い続けていなければいかぬというのは、私どもはすっきりしません。  こまかいことを聞くようでありますけれども、しからばこの五千万ドルは田中総理がニクソン大統領に話さずともよかったことでありますか。はなはだこれはことばのやりとりだけのことになろうかと思いますけれども、私がもう一歩突っ込んで言いたいのは、これは日本政府が独自な判断で、ベトナム援助への、あるいはベトナムからの要求に従ってこたえたものである、それのみであるというような言い方に終始されるのだけれども、実のところ、実質的、本体的には、アメリカのアジア政策の大きな協力の一環となっているということは否定しがたいのではないか。そうした協調感覚の中でこの五千万ドルの支出というものが行なわれるのだという本質を否定することはできないでありましょう。ここを否定されるのかどうか。さらにその上にオリジナリティがあり得るのだとおっしゃるのなら、それはそれで――オリジナリティというのか、インディぺンダンスというのか、そういうことがあるというなら、それはそれで一つの議論でありましょう。そこのところはやっぱりしっかりしておいてください。
  91. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) インドシナの復興に伴いまする援助について、主たる責務を持っておりますのはアメリカであるというのが日本政府のかねてからの考え方であります。しかしながら、同じアジアの一国といたしまして、この地域のすみやかな平和の状態の達成ということが望ましいということにつきまして、日本政府は、かねてそういう目的のために日本の国力、国情に応じた援助というものをやっていくべきものであり、またやっていきたいのであると、こういうことはいろんな機会に公表、表に明らかにされているところでございまして、ベトナムの政府要請に応じまして、このベトナムに対する人道援助、復興援助、こういうものは何とかできる限り協力していきたいという基本的な考え方があるわけでございまして、その金額を日本政府としては今日五千万ドルというふうに計画しておるわけでございますが、この五千万ドルという数字につきまして、アメリカ側に相談する、あるいは相談してきめるという筋合いのものでないことは明らかでございます。
  92. 上田哲

    上田哲君 金を出すのは日本ですからね。日本だということは、日本の税金ですからね。だから、それは何でもかんでもアメリカに相談されたほうがいいのだという理屈にはならぬでしょう。外交というものはその関係論ですからね。その関係論をどういうふうにおつけになるのかということが政府のポリシーです。そのポリシーを何となく、税金を使うことをまかされておるあなた方が、もう少し納得のいくように説明をしてくれないという外交専断権はない。インドシナ復興に対して第一責任を負うのはアメリカである。たとえば、そのことばだけからいっても、その第一責任の何分の一かを日本アメリカサイドにおいて、アメリカディレクションにおいてやるのだということにはなるでしょう。つまり、無関係な形での五千万ドル支出だということにはなり得ないでしょう。その関係をどれくらいのものだと認識されておるのかということは、やっぱりもっと積極的に説明さるべき理由があるんじゃないですか。その説明を求むべきわれわれは根拠があると思うんです。  国民主権というようなことばを持ち出すのは少しいかついけれども、何となく陰をくぐって、地下水がどこかで一緒になっておるみたいな説明を聞いておるような感じがするのは、私は五千万ドル、この今日の経済大国などといっている日本の支出の中で大きい金だと言えるのか言えないのかは議論はありましょうけれども、これはやっぱり外交の基礎の問題として説明が私はたいへん不確かであると思います。積極的にその方向でやることにしたんだと、もしそうでないというのなら、日本が当面の外交の基本としているインドシナについては、南北両ベトナムについてひとしくやるのだと言っている原則のほうをさらに有意義に実施せしめるためにも、大かたの誤解を招くような日米首脳会談で話がきまり、しかも南だけにやった、そのときアメリカは元来予定したものよりも小さくなったのだ、こんなことをむしろ慎むことが外交のありようだと私は思うんですよ。そういうことを外交官として、外交当局として考えられるのであれば、今日この時期に、こういう形でこういう金額を出すことに至ったやはり考え方というものが、その分だけ積極性がなきゃいけないでしょう。その積極性をおめず億せずきちっとお話しになったらどうですか。アメリカの方向で、アメリカ協力をして、こういう形をやることになったのだ、これが一番筋の通った説明です。これ、違いますか。
  93. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 政府といたしましては、かねてから北越を含むインドシナ全域の民生の安定と戦後の復興のために、わが国として応分の援助を行なう方針であるということは内外に明らかにしてきているところであるわけでございますが、現状では、多数国間の協力によって、インドシナに対する援助を国際的な仕組みで行なうための体制がまだでき上がっておらないのもまた実情であります。こういう実情に照らしまして、二国間ベースでも、できるところから援助を実施していくべきである、こういうふうに政府としては考えているわけでございまして、たとえば北越につきましては、現在国交回復の交渉を行なっている段階でありますし、ラオスにつきましては、まだ和平協定に基づく暫定政府もでき上がっておらないと、こういうふうな状況でありますので、人道援助、復興援助という一日もゆるがせにできない側面の援助につきましては、できるところからやっていくべきである。こういうことで、南ベトナムの要請にこたえまして、五千万ドルの援助を南ベトナムに対して行なうという方針をきめているわけでございまして、これをやることによりまして、ほかの地域に対する援助をなおざりにするという趣旨ではないわけであります。
  94. 上田哲

    上田哲君 五千万ドルは今後どういうふうに発展していきますか。どういうふうに伸びていくんですか。またその手続は、対米的には特にどうしますか。
  95. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) この五千万ドルの援助は、無償並びに有償を含めまして五千万ドルでございますが、無償の中には、難民救済ということで、難民の住宅でありますとか、診療所等の公共の施設であるとか、農機具の提供とか、そういうことがあるほかに、医薬品の提供も行なわれる予定でありますし、また破壊されました橋なり道路等の復元工事、こういうことも行なわれるわけでございまして、この具体的な援助につきましては、南ベトナム政府と具体的な打ち合わせをしながら進めていかれると、こういうふうに承知いたしております。
  96. 上田哲

    上田哲君 いや、その五千万ドルの次はどうなるのかと言っているんです。
  97. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 政府として当面考えております南ベトナムに対する援助が、有償無償合わせて五千万ドルということでございまして、その先の援助の問題につきまして、私、主管でございませんので、言及する立場にないのをお許し願いたいと思います。
  98. 上田哲

    上田哲君 じゃ、またやりましょう。  少し方向を変えますけれども、今回の日米共同声明において、国際関係の既存のワク組みが最近の緊張緩和への基盤となっている、そういうアメリカの力の政策をそのまま認めることが基礎になっている。安保条約についても、アジアの安定の維持のための重要な要素であると、こういう積極的な評価を基礎に置いているわけです。安保条約は、日本及び極東における国際の平和と安全への寄与を述べているわけであります。アジア全域の安全の維持まで範囲を広げてはいません。最近もまた問題になっておりますし、今後も大いに問題にしなきゃなりませんけれども、極東の範囲を越えた他のアジア地域の安定にまで、条約による日米協力を指向するということになるならば、これは安保拡大強化論ということになると思います。この共同声明が指向しているところは安保拡大強化論と受け取らなければならない要素が懸念されます。衆議院の内閣委員会でも極東の範囲の問題が議論された直後でありますけれども、それとの関連において、安保拡大強化論としてわれわれがとらざるを得ない部分について納得のいく説明をひとつ総括的にお願いをしたい。
  99. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 共同声明の第八項に「国際関係の既存の枠組みがアジアにおける最近の緊張緩和への傾向の基盤となってきていることを認識し、」という表現がありますと同時に、「安全保障条約のもとにおける両国間の緊密な協力関係の継続がアジアの安定の維持のための重要な要素であることを再確認した。」というふうにうたわれているわけでございますが、この点につきましては、この国会におきましても政府が繰り返し申し上げておりますように、最近の緊張緩和への傾向というものの基盤となっているものは、国際関係の既存のワク組みである、こういう認識があるわけでございまして、その既存のワク組みの一つとして、日米の安全保障条約というものは重要な役割りを果たしてきているということも、政府が国会等でたびたび明らかにしてきているところでございまして、その認識を、総理大臣と大統領が話し合われたこの機会に、両者の間で再確認されているわけでございます。共同声明が「アジアの安定の維持」という表現を使っていることにつきまして、これが安保条約の強化であり、また、安保条約の適用地域の拡大であると、こういう御議論があるわけでございますが、この点につきまして政府は、かねて国会等で御答弁申し上げておりますように、極東の範囲ということにつきましては、昭和三十五年の安保国会以来の統一見解について、何ら違った考え、立場を持っているわけじゃございませんで、全く同じ考え方を引き続いて維持しているわけでございます。  ただ、しかしながら、共同コミュニケで「アジアの安定」というふうに申しましたのは、一般的なこの地域の緊張緩和の傾向というものを頭の中に置きました上で、国際政治という現実の形がこの地域の安定というものに意味を持っている、こういうことを言ったまででございまして、安保条約の適用範囲と全く関係のない考え方、こういうふうにおとりいただきたいと思います。
  100. 上田哲

    上田哲君 「アジアの安定」という表現の中で、どうしても物理的な力の張り出しというものを読み取らないわけにはいかない。安保条約そのものに私は大きな有効性がいま増大しているとは思わないわけでありますけれども、それにもかかわらず、アジア地域全体への大きな物理的な力の張り出しということを想定せざるを得ない文言というのは、つまりは日本の軍事力というものがそこまで責任範囲を広げる、そのことを実は安保条約という名目の中で果たそうとしているということが意図されてはいないのか。まあ日本の軍国主義の海外伸長なんということばを使ってしまえばきわめて安易になってしまいますけれども、そういうことが、実質的にも、今日の物理力としての日本軍事力の成長過程というのか、発展過程というのか、そういうものに相応しながらここにニュアンスをあらわしてきたのではないか。この点についてはどうですか。
  101. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) わが国アメリカとの間に安保条約を結び、またこれを維持してまいっておりますけれども、安保条約の規定にありますように、日本アメリカに対しまして安保条約に基づく義務として提供いたしておりますのは、日本における米軍の施設・区域でありまして、この施設・区域の使用につきましては安保条約のワク内における制約があるわけでございます。その安保条約で規定されておりますワクというものは、昭和三十五年の当時以来変わっておらないわけでございまして、その意味で、新しい情勢のもとに安保条約の適用が広まり、強化され、日本がその面で、つまり安全保障の面で従来に比べてより大きな役割りを果たしてくる、こういう関係にはないわけでございます。
  102. 上田哲

    上田哲君 その側面ではなくて、安保条約のワクがあるのだ、それが制約条件となっているのだと言われるが、そうではなくて、日本政府にとって一番今日障害と感ぜられているワクは憲法のワクだ、その憲法のワクを乗り越えていくために、その上にかさとして存在をしている安保条約というものを隠れみのに使おう、こういう発想が顔を出しているのではないかと言っているんです。
  103. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) けさほども山中長官から御発言がございましたように、わが国といたしましては、憲法に基づく厳重な規定があるわけでございまして、そういうことを基盤といたしまして安保条約アメリカとの間に締結されているわけでございます。したがいまして、日本の置かれた安全保障上の問題というのは、そもそもは本源的には憲法の規定があり、さらに安全保障条約の実際の運用、適用にあたっては、安保条約そのもののワクというものが厳として存在しているということを申し上げているわけでございます。
  104. 上田哲

    上田哲君 これは言いぱなし、やるしかないでしょう。もう一つ、今回の会談の一つの焦点として注目されたのがキッシンジャー構想。共同声明の中で「先進工業民主主義諸国間の将来の協力の指針となる諸原則の宣言」と表現されて、田中総理はこれに積極的な関心を表明した、そういう形で賛成の立場を明確にしております。しかし、その後の安川駐米大使とキッシンジャー補佐官との話し合いの結果によると、これについての米側のはっきりした構想も固まっていないし、日本の参加はまだ白紙だと、こういうふうになっていますね。
  105. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) いわゆるキッシンジャー構想というものにつきましては、四月二十三日にキッシンジャー補佐官が提唱をいたしまして、初めて天下に明らかにされたものでございますが、このキッシンジャー構想の内容につきましては、必ずしも具体的なものがあるものとは私ども承知いたしておりません。したがいまして、今後こういう先進工業諸国間の協力の指針となるべき諸原則をまとめ上げることが望ましいということを、米側はかねて、日本にもまたヨーロッパ諸国にも言ってきているわけでございまして、大統領はまさにそういう趣旨の宣言が望ましいということを指摘したわけでございますが、日本側といたしましては、内容がまだ固まっておらないものについて、いまの段階で賛否そのものを明らかにする立場ではありませんので、総理大臣は米側のそういう考え方に対して積極的な関心を表明いたしたわけでございまして、今後関係諸国間でこの問題についてのいろいろな話し合いが行なわれていくことと考えておりますが、その話し合いの過程において、日本といたしましては米側とも十分協議をしていきたいと、こういうことを今回話し合われたわけでございます。
  106. 上田哲

    上田哲君 そこのところはいいと思うのですよ。そこのところはいいと思うのです。だから、おっしゃるところはキッシンジャー構想というのはまだ具体的なものが出ていないんだということですね。そういう認識に立たれて外交路線をお考えになるべきだと思う。ところが、元来、ニクソン、キッシンジャーの外交路線というのは、政治、経済、軍事、すべてにわたって同盟国の共同責任分担、そういう思想がきびしく貫かれています。安全保障という問題では非常に対米的にも特殊な関係に立っている日本のオリジナルな立場というのは、非常に議論あってむずかしいが、貫かなければならないものを持っているこの国のこういう構想への参加のしかたというのは、非常にまあそうでなくてもむずかしい。しかも、おっしゃるように、相手方の構想が非常に具体性をまだ持っていないという段階に――見てたわけじゃないけれども、まるでせんすをばたばたさせるようにして、けっこうけっこうと言ったんじゃないかというような感じがするような総理の賛意の表明というのは、いまのお話のようにきわめて私は時期尚早であったのではないか、こういうふうに指摘したいと思います。
  107. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) キッシンジャー補佐官が当初提唱いたしました考え方の中には政治、通商、通貨、エネルギー、安全保障、そういうものをすべて総体的にリンクして考えるという考え方が出てきております。しかしながら、この考え方はそもそもはヨーロッパとの関連において提起されているという感じがあるわけでございまして、日本といたしましては、安全保障の面に関する限り、NATO諸国とは全く立場が違うわけでございますから、この点につきましては、米側に対して累次日本側の基本的な立場は伝えてあるわけでございまして、安全保障問題をヨーロッパ諸国、具体的にはNATO諸国と同じ側面では絶対に考えられないという事情については、米側も十分承知しているところであろうというふうに考えております。しかしながら、今後その趣旨の指針というものがどういう内容を持って、どういうふうにまとめ上げられていくかわからない状況ではございますけれども日本として当然これに強い関心を持つべきであると、こういう趣旨におきまして総理大臣は強い関心を表明されたという次第であります。
  108. 上田哲

    上田哲君 まあ、やっぱり材料がないのに少し前へつんのめり過ぎたという感じがするので、時期尚早だったというふうにお認めになったような気もします。まあそこらはキャラクターでありましょうけれども、特に確認しておきたいのは、大平外務大臣が八月十五日の日本経済調査協議会の講演で、キッシンジャー構想下の軍事協力として基地提供が限界である、こういう発言をしております。この点は確認をしっかりしておきたいと思いますが。
  109. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 大平大臣のその部分発言について、私一々の字句をちょっと承知いたしておりませんけれども、想像いたしますに、大平大臣がもしそういうふうに言われたとしますならば、日本としては安全保障条約のもとに施設・区域の提供という義務を負い、また現にその義務を履行しておると、これ以上のことは日本立場としてはできないのであると、こういうことを言うお気持ちではなかったかと推測いたします。
  110. 上田哲

    上田哲君 まあ、少なくともけっこうけっこうというような感じでのめり込んでいくようなことではないのであって、できるだけ――まあこれはそもそも基本的な原理としての議論が必要になるわけですが、いずれにしても、入る入らないというようなことの前に、すり足をしながらよく確かめて発言もしてもらわなければならない。その辺のところを十分にとにかく要望をしておきますけれども、今後そういうキッシンジャー構想について話し合いというふうなものが、キッシンジャー構想の固まり方――まあ国務長官にもなられるようでありますから、非常にまた権限を掌握してぐいぐいとキッシンジャーばりのディプロマシーが展開をされるんじゃないかと思うのですが、その影響下にたいへん大きくゆれる心配もあるわが国の外交当局として、この話し合いがどういうふうな段取りや可能性、方向を持つのか。特にキッシンジャー氏の来日がうわさされておりますけれども、こうした問題と関連してその辺はどうなっておりますか。
  111. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 八月初めの首脳会談におきましては、今後この問題については安川大使とキッシンジャー補佐官との間で協業を進めていく、こういう話し合いになっております。日本といたしましては、安川大使を通じまして、キッシンジャー補佐官とこの問題で協議を続けていく考えであるわけでございますが、たまたまキッシンジャー補佐官が国務長官に指名されたということによりまして、今後そのチャンネルがどういうふうに動いていきますかということについては、まだちょっと見当がつきかねるという側面がございます。  一方、ヨーロッパの諸国は、この十日、十一日と、ECの外務大臣会議が開かれまして、キッシンジャー構想についての話し合いをEC内部で行なうというふうなことも伝えられております。したがいまして、あり得る形は、アメリカとヨーロッパとの間に米欧間の話し合いが行なわれ、それと並行したような形で日米間の話し合いが別途行なわれていく、こういうふうなことであろうかと思っております。
  112. 上田哲

    上田哲君 また、その進展に伴って伺っていきたいと思います。  アジア集団安保構想についてでありますが、六九年の六月、ブレジネフ書記長によって打ち出されたアジア集団安保構想、その後四年間たちまして、各国の反応はまちまちでありますけれども、まあ全般的にはまだ反応はにぶいと言うべきかもしれませんけれども、最近ソビエトはコスイギン首相がアジア安保十原則を示し、どうやらこの構想にかなりの執念を持っている、やる気だというような感じがにおってまいってきております。田中総理のソビエト訪問が十月と予想されておりますけれども、ここでは当然この問題が一つの焦点となると思います。キッシンジャー構想に比べて、扇子をどういうふうにたたかれるのか、この構想に対して政府の基本的見解がどのようなものであるのか伺っておきたいと思います。
  113. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) 御指摘のように、この構想は六九年六月に党大会でブレジネフ書記長によって提唱されまして、その後七二年あるいはことしにかけまして、いろいろな機会に内容がだんだん出てまいったという段階でございます。これに対する特にアジア諸国の反応と申しますのは、まだよく中身が具体的でないということで、はっきりいたしておりませんので、したがって、その反応も、もう少し時間をかりて中をよく知りたいというような感じでございます。田中総理の訪ソは十月上旬に予定されておりますが、この問題が出るかどうか。首脳間の会談に国際情勢についての意見交換という予定がございますので、あるいはこの構想をソ連側が意見をたたいてくるということはあり得ることかと思います。で、われわれとしましては、まだ、申し上げましたように、確かにコスイギンが申しますように九項目あるいは十項目というようなことはございますけれども、その中身が何であるか。もしこの問題が出てきた場合には、その具体的な考え方をまず先方から説明を受けたいという考えであります。
  114. 上田哲

    上田哲君 この構想の一つの弱点というのは、中ソ対立というのが根深くあるわけですから、ソビエト側の打ち出した構想は中国の不参加というところが一番大きなクレバスになるだろう。無理にこの構想を進めた場合には、結果的に中国を孤立化させるというか、排除をしてしまうというか、かえって安全保障としては好ましくない状況をつくるというようなことすらあり得るでありましょう。で、これは言うまでもないことであります。  そこで、わが国としては、この同構想への参加というのに、中国の参加を条件にして話し合いに入ろう、そういうまた意思表示もしようというふうにも伝えられておりますけれども、この辺はいかがですか。
  115. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) この構想自身、先方がいままで出してまいりました――出してまいりましたというのは一般的な表現でございますが、言っております幾つかの原則の中に、この構想、このシステムの中にはアジアのすべての国が入らなくちゃならぬということを言っております。一方、六九年の六月にブレジネフ書記長がこの構想を出しました直後に、周恩来首相は、これに反対であるということを言っております。したがいまして、われわれとしては、かりにアジアの集団安保、アジアの安全保障全体を考える場合には、どうしてもアジア全体の国の参加ということが必要であろうというふうに考えておりますので、もし中国が入らないということが確実でございましたら、われわれとしても賛成することはできないのじゃないかという考えでおります。
  116. 上田哲

    上田哲君 そこは非常にはっきりしているようですけれども、逆に、したがって、わがほうは――ことばで言えば論理的にそうなるのだけれども、わがほうは中国の参加を前提とするならばいいんだ、そのことを条件として交渉に入るというか、その前提を向こう側に提示するというか、そういうかまえまでいくわけですか。
  117. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) いま御質問の焦点が中国の参加云々ということでございましたので、そのような答弁を申し上げましたのですが、この構想全体といたしましては、幾つかの原則の中に領土の不可侵ということもうたわれております。したがいまして、もしこの構想をわれわれがソ連との間に話しする場合には、われわれとの間には領土問題の未解決の問題もございます。したがって、その問題が解決しないと、この幾つかの原則のうちの重要な項目である領土の不可侵ということについては賛成できない、まずそういう態度をとらざるを得ないと思います。そのあと、いま御指摘の中国の問題その他、つまりアジアのすべての国の祝福を受けてでき上がった構想でなければ実現は不可能であろうという感じを持っております。
  118. 上田哲

    上田哲君 その領土の不可侵というところですね。これは北方領土の問題が具体的になってまいります。そこのところを北方領土ということばにしっかり具体的に置きかえて、ひとつお話をしていただきたいことが一つ、話し合いの条件としてですね。それと、さっきの中国問題、ちょっとはんぱになった感じなんで、中国の参加ということを条件として向こうに提示することになるのかどうか、そこをあわせて二つお伺いしたい。
  119. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) 実際に、一番最初申し上げましたように、先方はこれを出してくるかどうかまだ確認されておりませんのですが、その可能性はあるということでございます。それで、もし出してきた場合に、田中総理がこれにどう応対なさるかということであろうかと思います。私は総理も十分御承知でいらっしゃいますけれども、まず第一にやはり領土の問題、つまり現状固定という考えには納得できないということは総理は十分認識しておられます。  それから同時に、アジア集団安全保障という場合に、アジアのすべての国ということが当然考えられる。したがいまして、それが条件で、それがいれられなければ云々ということではなくて、まず第一に先方の説明を詳しく聞くという態度からいかれるのではなかろうか、こう考えております。
  120. 上田哲

    上田哲君 その北方領土問題ですね、何度も繰り返し、巻き返しのような感じがいたしますけれども、領土不可侵という表現でありましたけれども、北方領土問題についてどれぐらいの執着と、この構想に向かっての――バージンではもちろんないんだけれども、執着といいましょうか、交渉の場としての評価、そういう立場でこの問題をどれくらい出すべき場だとお考えになっておられますか。
  121. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) まず第一に、われわれとしては、日ソの間にほんとうの意味の友好の関係を持つためには、未解決の問題を解決しなくちゃならない、その最大のものは北方領土の問題であろうという認識でございます。したがいまして、この問題、つまり集団安全保障の問題が出てまいりました際にも、やはりその前提として領土問題が満足のいく形で解決しているということがなければ話に乗れないということにならざるを得ないのではないかと思います。
  122. 上田哲

    上田哲君 そうすると、今度の田中訪ソの中で、この問題はかなり具体的に話としては少なくともかまえていくべきチャンスである、時期が到来しているというふうに、ブレジネフ構想ということを土台としながら考えていいということですね。
  123. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) 具体的にこの問題を考える前に、まず領土問題の解決が必要であろうというのがわれわれの考えでございます。
  124. 上田哲

    上田哲君 ブレジネフ構想というところにもう少し戻してみますけれども、集団安保という場合には、アジアのすべての国の参加が望ましい。インドネシアのスハルト大統領が反対の意向も表明されている。アジア各国の反応というのはどういうふうに把握されておりますか。
  125. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) 当初説明申し上げましたとおり、その反応は、明確に反対とか賛成とかいう形ではなくて、ややばく然とした反応が出ております。ただ、一般的に申し上げられるのは、具体的な内容がまだわからないし、それから一つの大きな問題としては、先ほど御説明申し上げましたように、この構想がブレジネフ書記長によって打ち出された直後に、中国は反対しております。そういう要素を考えまして、アジアの諸国もはっきりイエス、ノーと言えないのではなかろうか。全般として見ますと、やや消極的という表現が適当かと思います。
  126. 上田哲

    上田哲君 問題になるのは安保条約ですね、一つわが国政府としては、日米安保条約を主軸とする現在の既存のワク組みを容認させるということがなければ、この構想を受け入れられないということになるのだろうと思いますが、そういうことですか。
  127. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) 日米安保条約を含みまして、それ以外の既存の条約、これは必ずしも日本関係していない、たとえば米国と韓国との条約、その他あるいは条約上の基礎に必ずしもないけれども、地域的な会合、たとえば東南アジアの開発閣僚会議とか、いろいろなことが行なわれておりますが、これらを踏まえた上で、つまりそれらに矛盾しない形でのみ考え得るということでございます。
  128. 上田哲

    上田哲君 この構想にアメリカの加入を希望する意向があるのかどうか。
  129. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) 実はその前に、はたしてソ連はアジアの国なりやという問題がございます。一九五五年のバンドン会議で、ソ連はこれに参加を希望いたしましたが、アジアの国ではない、したがってアジア・アフリカ会議のメンバーにはなり得ないということで断わられた経緯がございます。その会議の決定が正しいとすれば、アジアの国でない国がこの構想を唱えるという点が一つの問題でございます。もしこの構想の中にアジア以外の国も含み得るということであれば、現実にアジアの安定に関係の深いアメリカの参加ということも考えざるを得ないんじゃないかと、こう考えております。
  130. 上田哲

    上田哲君 そこで、総理がソビエト訪問をされる際に、ソビエト側から日ソ武力不行使原則の確認要求する、こういう意向がある、そしてまたその意向はすでに日本側申し入れ済みであるという報道もなされています。アジア安保構想にも武力不行使が優先条項として扱われているわけでありまして、これもこの構想にわが国を参加させるための足がかりではないか、こういう考え方、そもそもこの申し入れの問題と、その展開についての見通し、まとめてひとつ伺っておきたいと思います。
  131. 大和田渉

    政府委員(大和田渉君) いわゆるブレジネフのアジア集団安保構想の中には、武力不行使という原則があるのはわれわれ承知しておりますが、その原則をまず云々という申し入れはいままで受けておりません。
  132. 上田哲

    上田哲君 次に、アメリカの外交防衛政策とわが国関連についてもう少しく深めておきたいと思いますが、従来から指摘されておりますように、アメリカの最近の外交防衛政策を示している外交教書とか国防年次報告というのが、日本との関係に年々ページ数、スペースをたくさんさくようになってきているし、特に経済問題と安全保障問題とをからめて、わが国に対してかなり強い態度で迫ってきているというのが今日までの目につく傾向であるのは言うまでもありません。アメリカのたいへん混迷を続けている、そしてその分だけ強気になっているような感じがする外交防衛政策というのが、わが国の安全保障政策に非常に大きな影響を与えるわけでありますけれども、ことしの三月二十八日に米議会に提出された七四年度のリチャードソン前国防長官による国防年次報告では、全体戦力構想を自由世界同盟国の各国からできるだけ強力な防衛寄与が得られるような形で実施をしたい、その目的に沿って私は今後数カ月間にヨーロッパ、アジアを訪れて同盟国の国防担当者と会談する計画であるという表現があります。ニクソン・ドクトリンに基づく全体戦力構想では、同盟国の戦力強化、防衛負担の拡大、それによってアメリカの軍事的離脱をはかりながら、アジアにおけるトータルフォースを変えないと、こういう構想というものでありますけれども、この従来からの基本的な構想にのっとって各国にさらに強力な防衛寄与を求めると。こういう強力な防衛寄与というものを防衛庁としてはどういうふうに受け取ろうとしておられるか。基本的なところですけれども、長官から承っておきます。
  133. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) たびたび申し上げているとおり、わが国は安保条約アメリカとの間に締結をしていても、私たちの国自体は憲法その他の諸制約――こまかく羅列することはこの際避けますが、それらの範囲内でしか私たちは行動できない。安保条約においても第五条で、「自国の憲法上の規定及び手続に従って」というようなことばで前提に置いておるわけでありますから、われわれの範囲はおのずから明らかであります。かといって、この戦術面における――アメリカ側から見れば極東戦略でありましょうが、わが国の限度というものは明確でありますから、それ以上のものは、アメリカ側もむしろ理解もし、断念しているという感じで言ったほうがあるいは正直かもしれませんけれども、これはもう間違いないところでありますし、われわれもその態度を変える意思はありません。したがって、このことは変化はないと思います。  一方、貿易収支等の議論の中で、アメリカ側がもっと日本アメリカのいわゆる兵器、完成兵器その他を日本がドルで購入してくれることによる貢献というようなものに対する議論が行なわれた時期もあったことを、これは公式、非公式の議論を含めて承知はいたしておりますが、具体的に私たちに対してそういう要請も何も防衛庁としてはありませんし、また、四次防において想定された範囲内におけるアメリカを含む輸入というもの以外に、新規に今後考えていく意思は持っておりません。計画もなく、またその変更の意思もない。ただAEWあるいはPXL、こういうものは国防会議の専門家会議で今後調査等をいたしまして、国産か輸入かのすべての問題を白紙から出直してやるわけでありますから、この結果は、四次防とは関係が直接にありませんが、別といたしまして、それ以外のものは何ら変更はないということははっきり申し上げられます。
  134. 上田哲

    上田哲君 日米安保を基軸にして進められるわけでありますから、今後ともその関係の緊密化は進められると思うのでありますけれども、この報告にあるように、前の長官のリチャードソン氏は、そうした目的のために、いわば日米の安保政策調整ということでこの夏来日することになっていたのが、横すべりした。そこで後任のシュレジンジャー長官は来日の予定があるのかどうか、これを受けて。そしてまた、あるとすれば、どういうふうな話し合いを深められるようなことになっているのか。
  135. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) まあ、外務省から答えてもらうべき筋合いのものかもしれませんが、シュレジンジャー新国防長官は来日の機会がないということであります。しかし、日本に対して直接目的を持ってシュレジンジャー長官も来ようと言ったのではなくて、米韓安全保障条約の定期協議のための米韓の間における会合が持たれる。その往路もしくは帰途において立ち寄って、その機会に、外務あるいは防衛等の関係者と話をしたい、こういう内々の意向はあります。しかし、シュレジンジャーは都合によって来れなくなったということでありまして、はたして、だれがかわりにいわゆる米韓の会合に出て、その帰りとかあるいは行く道とかになりますかは、まだいまのところ、外務省マターでありますが、はっきりいたしておりません。あるいは次官等が来るのかもしれません。
  136. 上田哲

    上田哲君 防衛庁長官が就任されるとアメリカへ――われわれからすると参勤交代と言っておりますけれども、出かけられる慣習もあるようであります。また、もし四次防の延長として五次防が策定されるというようなことになれば、四次防策定のときの経過からすれば、そろそろそういうふうな打ち合わせの訪米ということもあるわけでありまして、向こうの国防長官というよりも、こちらの国防長官の訪米というようなことは、念のためですが、ありますか。
  137. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) まあ、いまの御意見の中の、当方の国防長官というのは間違っておりますから、防衛庁長官としてですね。参勤交代というのは私はそうじゃないと思うので、中曽根長官が参りまして以来は、その後あわただしく長官がかわったという背景もありましょうが、実際上は行っておりません。でありますから、年月にしても二年間はとだえておるということはございます。したがって、まあいろいろな方の御意見も、私がこれから腰を据えて防衛担当をやるということになれば、やはり安保条約を締結しておる――外務省の話し合いは別として、やはりアメリカの軍事当事者との話し合いということは、私に課せられた一つの仕事であるということを言う人もおります。しかし私は、自分の過失でありますが、けがをいたしましたために、まだ初度巡視といわれる陸海空のそれぞれの自衛隊の施設も行っておりませんし、駐とん地にも行っておりませんし、相なるべくんば、なるべくわが国内の自衛隊の諸君にまず私が接することが必要であると思っておりますので、いまのところはその計画を持っていないというのが実情であります。
  138. 上田哲

    上田哲君 それからこの報告は、また、ヨーロッパにおける一方的な兵力削減はしないということを言明しておりますが、それとともに、アジアにおいては不安定が続く可能性も依然残っている。アジアの同盟国の戦力及びこれら諸国の安全への脅威から見て、短期的にはアメリカが抑止力として、また抑止状態がくずれた場合の適当な反撃力として、十分装備された一定の兵力を海外に維持することが必要であると言っております。この点については、さきに発表された日米共同声明の第八項で、日本の米軍基地の整理統合のためにさらに措置がとられることが望ましいとしながら、同じ項目の中で、アジア地域において適当な水準の抑止力を維持するというアメリカの意向が確認されている、そういうことからも裏づけられているわけです。そのことはニクソンドクトリンに基づいて基地の整理統合をこれまでかなり積極的に進めてきたアメリカが、ポストベトナムのアジア情勢が落ちつくまで、まあざっと一年間ぐらいは、海外駐留米軍を現状のまま凍結しようとしているのではないか、こういう分析も生じております。あとでもちょっと聞きますけれども、そういうことで、たとえばわが国では、沖繩基地の整理縮小のペースもおくれているというような事態も懸念されているようでありますけれども、こういうことについての総合的な御見解をまず承っておきたい。
  139. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 一般的に申しまして、アメリカはニクソン・ドクトリンという考え方に基づいて、盟邦国に対する条約上の義務の順守、これを求めるとともに、共同コミュニケにもございますように、国際関係の既存のワク組みというものを急激に変えていくことは、緊張緩和への傾向という事態の中において必ずしも適切な措置ではないと、こういう考え方をとっているようでございまして、したがいまして、新しい情勢の中に処しつつ、ニクソン・ドクトリンを具体的に適用いたしていきます場合にも、大幅な現状の変革をもたらさないような措置をとっていきたいと、こういう基本的な考え方を持っているというふうに承知いたしております。したがいまして、ヨーロッパにおきましても、ヨーロッパ安全保障会議、あるいは相互兵力削減交渉と、こういうふうなものをにらみ合わせながら、ヨーロッパの兵力の維持の問題をどういうふうに考えていくかという考えであるように思われますし、アジアにおきましては、ベトナム和平後の情勢に照らしまして、アジアにおける米国の戦略の方向を考えつつも、現状においては大幅な、また急激な兵力展開の体制を変えることは望ましくないと、こういう姿勢であるように考えられるわけでございます。しかし、日本側といたしましては、そういう情勢の中におきましても、基地問題の重要性ということにかんがみて、沖繩を含めます日本の米軍の施設・区域の整理統合の問題については、鋭意米側との折衝を重ねてきているわけでございまして、今回の共同声明の中におきましても、整理統合のためにさらに措置が必要であるということについては、両首脳間の意見の一致を見ているわけでございますが、こういう情勢を背景としまして、今後とも基地の整理統合のための折衝を急いでいこうと、こういう考えでいるわけでございます。
  140. 上田哲

    上田哲君 具体的には、きのうもわがほうから申し入れをしたところでありますけれども、那覇空港の全面返還を求めて久しいのでありますけれども、その後の進捗状況は非常に停滞をしていることであります。特に那覇空港の全面返還の前提であるP3の嘉手納への移駐、これは何べんも議論をしたところでありますけれども、移駐のための工事は五十年三月というような言い方にもなっているようであります。非常に好ましくないわけでありますけれども、SR71等の問題はしばらくあとにおくとしても、沖繩の目玉問題ということになれば、山中長官もたいへん深いいきさつをお持ちになってもおられるわけだし、このおくれおくれという問題が、いまのお話とやはり深くかかわっているのではないかと、そこのところは抽象的な言い回しではなくて、具体的にこういう目玉の部分を解決をされるというところで実証されなきゃならぬのじゃないかと思うんですが、この具体的な見通しを含めて御説明をいただきたいと思います。
  141. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) P3の那覇空港からの移転の問題につきましては、ことしの一月の日米安保協議委員会の席上で、最後的に原則的な合意ができておりまして、P3が那覇空港から嘉手納へ移転するということの合意のもとに、日米間で具体的な作業が急がれているわけでございまして、政府といたしましては、五十年三月の沖繩の海洋博の開催を念頭に置きまして、十分作業を促進しまして、P3がなるべくすみやかに那覇空港から出ていけるという状況にしたいと考えているわけでございます。  なお、沖繩の施設・区域の整理統合の問題につきましては、一月の安保協議委員会での基本的な合意、その後、日米安保運用協議会における数回の会合を通じての日米間の話し合い、いろんな形を通じまして、米側との接触が鋭意続けられているわけでございますので、政府といたしましては、なるべくすみやかにP3の移転に伴う整理統合計画に引き続きまして、さらに第二次、第三次の整理統合計画が合意できますように急いでいきたいと考えているわけであります。
  142. 上田哲

    上田哲君 ついでに、施設庁長官が、このP3問題が大幅におくれるということを認められている、そしてまた、臨時的に那覇空港でファントムを使いたいという申し入れも来ているなどと、むしろ話がさかさ向きになるような実態を認められているようでありますけれども、この辺の実態と、今後の方向を御説明いただきたい。
  143. 高松敬治

    政府委員(高松敬治君) 昨日、社会党の上原、安井両議員から、四つの問題についていろいろお話がございました。そのときのことが新聞に出ているわけですが、その中でやや誤り伝えられているものがあります。P3の移転の問題につきましては、いま大河原局長からも説明がございましたが、那覇空港に所在するP3に関連するいろんな施設を嘉手納へ移さなきゃいかぬと、それから那覇の海軍、空軍補助施設にあるいろんな施設を嘉手納に移さなければいけない、それが移らなければP3の移転は不可能でございます。一月以来、それについての何を移すか、どういうものを実際に必要とし、どういう形のものが要るのかということでいろいろ交渉をずっと進めてきております。ようやく大体いま話がまとまりかかっているという段階でございます。当初からの予定といたしまして、できれば海洋博の開催までにはP3を移転さしたいというのが、今国会でも外務大臣以下常々言われておったことでございます。そういう意味では、私どもも海洋博の開催というものを一つのめどにして仕事を進めております。そういう意味では、これが予定よりも大幅におくれているということは現在ないと思います。  それから那覇空港におけるファントムの問題につきましては、私は昨日も、これは外務省の問題でございます、当庁の関知するところではございませんということを申し上げておきました。ただ、雑談の際に、あるいは一時的なものかもしれませんがという程度のことは申しましたけれども、本来は、きのうの四項目のうち、一、二の問題につきましては、これは外務省の問題で、外務省のほうにひとつお話し願いたい、こういうことを申し上げたわけでございます。その意味では、きょう一部の新聞に出ておりました記事は、私も見ましたけれども、ちょっと正確ではございません。
  144. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) P3の問題につきましては、先ほど御答弁申し上げ、また、いま施設庁長官から具体的なことを御答弁ございましたが、那覇空港に入ってまいりましたファントムの問題についてお答えしたいと存じます。  これは昨年の夏、岩国の海兵隊の航空部隊が南方に展開したわけでございますが、その部隊が今回南方からまた原隊に復帰してきております。そのうちのA6の部隊はすでに直接岩国に帰還いたしておりますけれども、ファントムの一個中隊が岩国に帰還いたします途次、那覇で三週間、とりあえずそこで駐機する、こういうことでございまして、その期間が過ぎますならば、岩国のもとの部隊に復帰するという予定になっております。
  145. 上田哲

    上田哲君 そういう関連がいろいろ出てくるだろうと思うのです。現にタイのアメリカ軍が岩国にどんどん帰ってくるなんということが最近の例でありますし、ポストベトナムのアジアにおける米国の兵力展開が、あるいは在日米軍基地を含む基地のあり方、そうした問題が今後どういうふうにいくのかということが、たとえば先ほど来の議論の中で、日本韓国との軍事的関係は皆無であるということをしきりに長官は言っておられるのでありますけれども韓国からの米軍撤退計画というものが具体的にペンタゴンから出ているということとの関連の中で、日本の基地態様にどのような影響を及ぼすのか。及ぼさないということにはたぶんならないだろうと思いますけれども、大きくはニクソン・ドクトリンとの関連において、あるいは韓国撤兵計画との関連において、日本の基地態様がどのような変化をもたらすか、この見通しについて御説明いただきたい。
  146. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 確かにシュレジンジャー国防長官の言明によって、韓国及び台湾からわれわれの周辺では引き揚げ計画というものが明らかにされましたが、しかし、私どものいわゆる安保条約のもとの米軍との関係、あるいは自衛隊のそれに伴う関係というものは何らの変化はない。事実、アメリカ韓国から二万一千名撤収と申しますか、アメリカとしては転進でしょうが、配置がえをしようとするときに、韓国は総辞職の決意まで表明してそれをとめにかかったんですけれども、結局は容赦なく引き揚げていったということも、日本側に対しては、何らわれわれの、安保条約関係下にあるとはいえ、自衛隊の問題には関係は全くなかったということを考えまして、それを考えても、今回のシュレジンジャーの言明どおりに行なわれていった韓国、台湾等の撤兵というものが――もちろん韓国が主でありますが、私どものほうに影響があるとは全く考えておりません。
  147. 上田哲

    上田哲君 五月三日に出されたニクソン外交教書では、安保体制という軍事的保護の代償として、対米貿易収支の不均衡是正のために日本の経済的譲歩を求める姿勢が強く出されたと。日本の経済的協力を規定する安保条約第三条を引用して、この問題について日本政府の政治的意思の意識的努力がなければ、われわれの経済的紛争はわれわれの同盟関係の組織を引き裂くこともできると、たいへん威嚇的な表現までとっているわけであります。けれども、この教書では、わが国の対米依存面のみを指摘しながら、安保による在日米軍基地が米軍の軍事戦略上いかに重要であるか。つまりアメリカ軍の日本依存面というものは全く無視して、経済と安全保障との取引を主張しているということはたいへん問題だと私は考えております。長官、これについて、そうしたひずんだ認識をどのように認識されておられるか、あるいはまた長官の了知される範囲で、日米首脳会談では、この種のテーマがどのように認識され合ったのかということをお伺いしたいと思います。
  148. 大河原良雄

    政府委員大河原良雄君) 御指摘のとおりに、五月の初めに発表されました外交報告には、安保条約とあるいは経済問題との関連ということをかなりきびしい表現で書いている個条がございます。しかしながら、ことしの前半の日米間の経済関係を考えてみましても、たとえば貿易収支の不均衡につきまして、昨年四十二億ドルありましたものが、ことしの前半の趨勢から見ると、今年末にはその半分程度におさまることが優に予見されるというふうに、貿易の問題の好転が現実に見られるわけでございますし、また五月の一日には一〇〇%原則に基づく資本の自由化が行なわれまして、日本といたしましては非常に思い切った措置をとったわけでございます。したがいまして、こういうふうな現実の貿易収支の動き方、またその間に処して行なわれた日本政府のきわめて困難な、しかも重要な決定というものに対して、米側はこれを高く評価しているわけでございまして、首脳会談におきましても、そういう趣旨の日本側措置に対する米側の深い評価の気持ちが見られるわけでございます。したがいまして、日米間の現状に関しまする限り、経済問題に関しましては、昨年見られましたようなとげとげしい摩擦関係というものではなくして、米側は日本側措置、努力、これを大いに多としているという背景があるわけでございまして、首脳会談もそういう背景において行なわれたということが言い得るわけであります。
  149. 上田哲

    上田哲君 まだ三時半にならないけれども、ちょっと休憩をしましょう。
  150. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 三時十分まで休憩いたします。    午後二時五十九分休憩      ―――――・―――――    午後三時十三分開会
  151. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ただいまから再開いたします。  休憩前に引き続き質疑を行ないます。  順次発言を許します。
  152. 上田哲

    上田哲君 いろいろ伺ってまいりましたけれども、ひとつ新防衛庁長官にこの際基本的な、まあ委員会では本格的な議論はおそらく初めてでありましょうから、ひとつ基本的な問題についていろいろと構想を、十分成熟された時期でもあろうと思いますので、いろいろ突っ込んで伺ってみたいと思います。まあ山中構想とでもいいましょうか、そういう考え方をたたくにあたって、やはり何といっても憲法論、あるいは戦力論というところに話が提議されなければならぬと思います。  昨年暮れの衆議院解散当日に、当院において戦力に関する政府見解が発表をされました。で、私はそれ以前も、そしてそれ以後も、今日の自衛隊は憲法に禁止するところの戦力に当たっているであろうという前提に立ち、戦力とはすなわち近代戦遂行能力ではないかという立場で議論を進めてきておりますし、そして、そういうたてまえから、しからば近代戦遂行能力とは具体的に何かということを、ひとつぜひ明らかにしてみたいと思っているわけです。その前提となる戦力とはということになるわけでございますが、昨年十一月十三日の政府の統一見解における戦力論では、一般に、まあ当日解散というたいへんあわただしい日であったこともあって、従来の政府見解がそのまま踏襲されたものであるというふうに片づけられておりますけれども、なるほど必要最小限の自衛力を越ゆるものと、あるいは許容されているものは越えないものというふうな、いわゆる必要最小限論というものが基底にはなっておりますけれども政府見解をつぶさに熟読玩味いたしますと、その末尾にきわめてこれまでとは違った見解というものがかなり率直に出されているという点を私は評価できると思っています。  その部分だけもう一ぺん申し上げれば、では、現時点で戦力を近代戦遂行能力と定義することが間違いかとなると、今日どういう意味で用いられるかまず定めなければ是非を判定する立場にはない。しかし、戦力の字義からいえば、近代戦を遂行する能力というのも戦力の一つの定義とは思う。結局、政府は二十九年十二月以前、近代戦遂行能力ということばを用いた意味を述べたが、その意味であれば、言い回し方は違うとしても、一がいに間違いではないと思うという表現になっております。つまり、これは同義反復としての必要最小限、あるいは概念の確定的な必要最小限という、あるいはもっと言えば、時代によってその基準が変わっていく、非常に不定確な基準である必要最小限というものを、動かない、コンスタントなものと定めて、そこに届かなければ戦力と呼ばないのであるというようなたいへん内包矛盾というのでしょうか、同義反復というべきことばのぐるぐる回しでは説明のつかない部分が率直に言えばここに出てきているとも思います。私はやはり憲法九条に禁止されている戦力というのは、必要最小限論をとるということでは、論理的に必要にして十分な定義にはなり得ないのだということがここにあるように思うのですけれども、いかがでしょうか。
  153. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) 昨年の十一月十三日の委員会におきまして、政府の戦力に関する統一見解を申し上げ、その際、昭和二十九年の定義についても関連してお答え申し上げたことは、先ほど上田委員から御指摘のあったとおりでございます。昨年の答弁のやや繰り返しになるかもしれませんが、私どもは現在は、戦力とは、ただいま上田委員が御指摘になりましたように、自衛のため必要な最小限度を越える実力を戦力というのだ。憲法第九条第二項で保持を禁止されているものは、自衛のため必要な最小限度というものを想定いたしまして、その最小限度を越えるようなものは憲法で保持を禁止されておるのだという考え方をとっておることは依然として変わりはございません。ただ、近代戦争遂行能力、あるいは近代戦遂行能力ということば意味につきまして、近代戦、すなわち現代における戦争の攻守両面にわたって最新の兵器及びあらゆる手段方法を用いて遂行される本格的な戦争というものを想定をいたしまして、そのような戦争を独自で遂行し得る総体としての実力をいうのだという意味で、この近代戦遂行能力という言い回しも一つの言い方ではあるということで、これは私が昨年申し上げましたばかりでなくて、その前の時代からも本質においては変わる説明ではないというような答弁をいたしておりますが、とにかく私どもといたしましては、憲法の禁止する戦力を指示する言い方といたしまして本質的な違いはない。しかしながら、現段階において政府説明としては、自衛のため必要な最小限度を越えるものは憲法で保持を禁止される戦力であるという言い方をあえてとりたいと思います。
  154. 上田哲

    上田哲君 よくわからないのです。つまり近代戦遂行能力と必要最小限というものは同じ次元の概念でありますか、あるいはこれが一致するということが常に言い得るものですか。
  155. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) 先ほど御説明申し上げましたように、憲法第九条二項でその保持を禁止されている戦力の説明としての方法としては、いろいろそこのアプローチの方法はあると思いますが、昭和二十九年十二月までは近代戦遂行能力というような表現を使っておりました。これは近代戦――先ほど申し上げましたような意味におきまして、近代的な、全面的な戦争、本格的な戦争を独自で遂行し得る能力というものを想定をいたしまして、そのようなものが憲法では禁止されるんだというこちらの方角からのいわば定義をしたのに対しまして、その後の定義のしかたは、憲法の第九条第一項及び第二項の関連から見て、自衛のため必要な措置をとり得ることは当然であって、その自衛のため必要な措置の一環として、自衛のため必要な最小限度の実力を整備することは憲法の禁止するところではないということを頭に描きまして、憲法第九条第二項の解釈としては、そのような最小限度、必要最小限度の実力というものを越えるようなものは憲法では保持を禁止するんだという定義のしかたのほうが、より第九条第二項の解釈としては的確であるというのが私どもの考え方でございます。
  156. 上田哲

    上田哲君 必要最小限というところと、越えるというところを一生懸命になって力を入れて説明をすればわかるというものではないのです。私が伺っているのは、近代戦遂行能力という尺度と、必要最小限という尺度とは全く地平を異にする尺度であるということを言っているのです。
  157. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) その点は、七月十七日の本委員会における上田委員の御議論でそのような御議論をなすったことを速記録で拝見いたしております。私も全くその近代戦遂行能力という定義と、それからただいま政府のとっております見解とが同じしかたであるということは申しておりませんので、ただ、わが国の防衛力の憲法上の限界を示すための法律上の概念としては本質的に差はないだろうということを申し上げているだけでございます。
  158. 上田哲

    上田哲君 政治的に差がないところに船をつけなきゃならぬということを一生懸命強調されるという気持ちはわかるのです。しかし、それは違うんであります。いいですか。必要最小限というのは、たとえばA国にとっての必要最小限とB国にとっての必要最小限とは明らかに違う尺度があり得るわけでしょうね。近代戦遂行能力というものもそういう部分もあるし、また近代戦遂行能力というものはある程度平均的に提起さるべき概念もあり得るわけです。たとえば南北問題なんということばもありますけれども、南北という大まかに二つに分けた場合にも、あるいは世界を五等級ぐらいの軍事国家、軍事レベルに分けた場合にも、ある程度そういうことは基準をつくることができるわけです。その近代戦遂行能力、近代戦ということばがあるわけですから、かなり具体的な概念になるわけですが、その近代戦遂行能力というものが必要最小限を上回る場合もあれば下回る場合もあるでしょう。その両方があるということはお認めになるでしょう。
  159. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) それを直接比較することは困難ではないかと思います。と申しますのは、先ほど申し上げましたように、わが憲法上保持し得る実力と申しますか、わが国の保持し得る防衛力の限界を示すための法律概念としては、両方とも同じような作用を営むという意味で本質的な差はないと申しましたけれども、いずれにいたしましても、近代戦遂行能力という定義にいたしましても、また自衛のため必要な最小限度を越える実力というような概念にいたしましても、これはいつも申し上げておりますように、具体的な数字をもって、具体的な規模、内容を直ちにあらわすものではございません。したがって、大筋では差がないと存じますけれども、両者をただいまおあげになりましたような意味で、具体的あるいは客観的な能力として、いずれが高いか低いかということを論ずることは非常に困難ではないかと考えております。
  160. 上田哲

    上田哲君 規模を確定することができないと言われた。規模を確定することができないようなあいまいな言い方をもって憲法解釈、軍事能力の解釈をすることは正しくはないのじゃないですか。
  161. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) そこで、その具体的な規模、内容はいかなるものであるべきかということは、現在は自衛隊の設置につきましては、防衛庁設置法及び自衛隊法、及びこれに関連する諸法規によって法律的には規制をされております。また、その物的、人的な施設につきましては、毎年度予算をもってその規模、内容を国会で御審議になります。その形で毎年度の予算案の審議あるいは個々具体的な法令の――まあ国会では法律でございますが、その法律の審議を通じまして、この程度の規模、内容のものが自衛のため必要な最小限度の範囲内に属するものであるかどうかということは国会が始終御認定になりまして、そこで憲法第九条第二項の許容する範囲内の自衛力である、この程度の実力を保持することは憲法の許容する限界内であるということを御認定になって、現在の防衛庁設置法及び自衛隊法及び関連法規による法体系、それから防衛庁にかかわる予算が策定されておるものと私どもは考えております。
  162. 上田哲

    上田哲君 そうしますと、必要最小限というものは常に近代戦遂行能力の下にありますか、必要最小限が近代戦遂行能力の上に出ることはありませんか。
  163. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) どうもその近代戦遂行能力というものを、先ほど申し上げましたように、現代における戦争の攻守両面にわたって最新の兵器及びあらゆる手段、方法を用いて遂行される本格的な戦争を独自で遂行し得る総体としての実力というような意味に解釈いたしまするならば、これはもう自衛のため必要な最小限度より上になるのではないかと――私は軍事力を判定する専門家ではございませんけれども、近代戦遂行能力のほうが上である、つまり近代戦遂行能力という大きさよりも自衛のため必要な最小限度というものはその下にあるというふうに考えます。
  164. 上田哲

    上田哲君 これは非常にいい見解が出たのです。確認しておきますよ。これは内閣の見解としていいんですね。必要最小限は近代戦遂行能力の下にある、確認しておきます。
  165. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) ただいま申し上げましたように、近代戦遂行能力という定義を先ほど私が申し上げましたような定義で考えた場合には、この近代戦遂行能力のほうが自衛のため必要な最小限度を越えるものであるということでございます。
  166. 上田哲

    上田哲君 これは非常にいいことであります。これはひとつこの二つの概念を私は接着しがたいものだと思っておったのです。ところが、これは日本国憲法九条の解釈として、政府見解は、必要最小限は近代戦遂行能力の下にあるべきものであるということがはっきりいたしますと、それならば何で近代戦遂行能力なんというものをこの必要最小限論の定義の中に入れなければならなかったのか。吉國さん、いじめて申しわけないのだけれども、はたと論理的矛盾に突き当たっていませんか。
  167. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) 近代戦遂行能力ということばにつきましては、ただいま私が申し上げましたように、くどいようでございますけれども、近代戦というもの、つまり現代における戦争の攻守両面にわたって最新の兵器及びあらゆる手段、方法を用いて遂行される本格的な戦争、これを近代戦と想定をいたしまして、そのような近代戦を独自で遂行し得る総体としての実力という定義をいたしまするならば、そのようなことに相なると思います。で、近代戦遂行能力というものも、しかし、具体的にそれではどういう数字であるかということについては、先ほど申し上げましたように、具体的な規模、内容をそのことばのみをもって直ちにあらわし得るものではないということにおいて、自衛のため必要の最小限度を越える実力が憲法の保持を禁止する実力である、戦力であるという現在の政府の定義と比較をいたしまして、近代戦遂行能力という定義のほうがどうこうというようなものではないということを先ほど申し上げた次第でございます。
  168. 上田哲

    上田哲君 近代戦遂行能力というのは具体的なことですから、たとえば一九七三年九月四日においては具体的なことでありますから、そうしますと、たとえば今日の地球の上に存在している諸国家群の中で、アメリカの持っている戦闘能力あるいは軍事能力というのが近代戦遂行能力であることを疑う人は何人もないでありましよう。ソビエトもしかりでありましょう。中国もたぶんそういうふうに考えていいでありましょう。ドイツまでそうなるのではありますまいか。イギリスまでいくのでありましょうか。フランスはどうでしょうか。その次あたりには日本が入ってまいりますけれども。そうなりますと、少なくとも、もし、そのフランスのところまでが近代戦遂行能力保有国であるということとなれば、ただいまの定義、意見、政府解釈によるならば、日本の自衛力というものはフランスの上に出ることはあり得ないのだということになります。それでいいですか。
  169. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) ただいま、私はほんとに軍事的には無知でございますので、ただいまおあげになりました国家が近代戦遂行能力をすべて持っているかどうかということを断定するだけの力はございません。まあアメリカなりソ連なりがこのような定義における近代戦遂行能力を持っているということは、これは常識的にわかると思いますけれども、その次の段階におあげになりましたような諸国がはたしてそうであるかどうか、これは断定できません。何とも申し上げかねると思います。  ただ、わが国の防衛力は、先ほど来申し上げておりますように、自衛のため必要な最小限度の範囲内のものという制約を持っておりますので、それは専守防衛という――これはもういつも言っていることでございますが、専守防衛という目的に制約があるのみならず、その規模、内容等も専守防衛のためにしか使えないような必要最小限度のものでなければならないということに相なります。わが国の自衛隊はこのような制約のもとに通常兵器による局地戦以下の侵略の事態に対処することを目的として整備されてきたものでございまして、とうてい近代戦を独自で遂行し得るような能力を持っていないことは明らかでございますし、イギリスでございますとか、まあフランス、西独あたりはあまり詳しいことは存じませんけれども、そのような国々の軍事力とも質的にも異なるところがあるというふうに考えております。
  170. 上田哲

    上田哲君 これまでの国会の論議の中で、これは防衛庁でも外務省でもけっこうだけれども、たとえば米ソ中、そして西欧一流軍事国、こういう諸国は当然近代戦遂行能力を具備している国であるということは何べんも確認をされておるんです。そこはいいですね。
  171. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) それは憲法九条第一項並びに第二項に示す制約、そのもとにおいてのみ許されるわが国の自衛力でありますから、吉國君がただいままで述べましたようなことを踏まえて各種の制約があります。まず第一は憲法上の制約であると、それに関連する制約の具体的な問題としては、自衛のための必要最小限度という表現を一応いたしておりますが、しからばどういうことになるかというと、戦略ミサイル、長距離爆撃機、攻撃型空母等の性能上相手の国に脅威を与え、もしくは攻撃を加えられる可能性のあるものについてはこれを、保持を許されないんだと、またそれ以外の兵器の保持も無限に許されるものではない。それはたとえば戦術上、局地戦術的に用いられているものについては憲法解釈上許されるとかりにしても、しかし、一切保有しないという政府の方針がありますし、これは原子力基本法第二条というものがある以上は、やはり日本法律的にも持てない。これは憲法からまっすぐくるものではありません。さらにまた、自衛艦の推進力としての原子力の利用も、これが一般普遍化された状態の中で常識的になるまでは自衛隊の船にそれを装備しないということも言っておりますし、原子力基本法同じく第二条というものがそれを示しておりますから、これまたその他の憲法以外の制約ということも言えると思います。  また、装備及び行動の制約というものは、これはもう明白でありますから、たとえばたまたま上田委員の指摘されました空中給油装置、これなどもわれわれは緯度の関係として一応いいと思ったんですけれども、しかし、やはり経度の議論をすれば確かに西のほうが主でありますけれども、距離の問題は、やはりそれがはたして範囲内かどうかという議論の末に、総理大臣言明をもってわれわれはそれを忠実に地上二点給油しかできないものに変えつつある、こういうものが示しておる等もその一つの例だと思います。さらにまた、私どもがいままで言っておりますような相手国に反撃を与えるというような、自衛から次に起こってくる手段としての海外派兵というような表現でいわれまするようなものは、限度を越えるものであるというようなことで、私たちとしては持ち得ないもの、あるいは行使し得ないものという制約を自覚いたしておりますし、その制約下にあると思っておりますから、これらの各種のものをいわゆる諸外国でいう純軍事的な性能、装備、能力というものから判断をしても、私たちの範囲は憲法の九条の許される範囲内の俗に言う専守防衛下にとどまっているものということを考えております。これはまあいわゆる国際的にいう軍事力という立場からのわが国のみが独特に制約をされておる各種の問題点を列挙いたしたわけでありますが、これらの問題を考えてみて、諸外国とその装備、兵力、規模、能力等だけでもって比較するには、わが国のあまりにも負っているハンディというものは、その限りにおいては大きいものがあるというふうに考えます。
  172. 上田哲

    上田哲君 山中長官がいま説明されたのは、必要最小限論の説明なんです。私がいま議論しているのは近代戦遂行能力とはということなんです。もっと言えば、その二つの関係をどこに求めることができるのか、まあその関係論はさっき出たわけですけれども、つまり必要最小限論というのは、持っている軍事力の戦略使途の問題です。使い方の問題であります。だから、飛行機があっても、どこへ飛ばないとか、あるいは海外派兵をさせないのか、かりに海外派兵する能力があったって、しないのか。まあたまたま専守防衛用のワクをはみ出るような兵器がないからといって、軍隊の能力というのは一定の期間、きわめて短時間にでも基礎能力があればいつでも上に乗っけることができるんですから、議論をすれば、これはあげ足とりをするようですけれども、先般の空中給油装置の問題だって、変えようと思ったらいつだって変えることができるわけですから、これは最後は信頼の問題でしかないので、能力の問題ではない。潜在能力ということになれば、これは別な議論が出るわけです。したがって、軍事能力としての潜在能力――基礎能力といいますかね、そのほうが正しいでしょう。その基礎能力を軍事的にどう使うかという戦略使途の問題として、必要最小限論とか専守防衛論とかというのが出てくるわけであります。それは、だからシビリアンコントロールであるとか、戦略展開構想であるとか、そういう問題として憲法のワクをがっちりはめるということは一つ説明であると私は思うんです。  いま、ここで問題にしているのは、その基礎的な能力の軍事能力を問題にしているんです。どのように使うかという使い方の問題を議論しておるのではなくて、その使うもとにある軍事能力は基礎的にどれだけの大きさになっているのかということが一つ基準としてあるではないか。これが必要最小限論であり、そして近代戦遂行能力論であると、この二つだと思うんです。ですから、私はいま長官の御意見を承っていて、やっぱりそれは半分の説明でしかない。無理やりに憲法の中に押え込んでいくとすれば、こういうふうなワクをつけるしかないのだという説明であったという点はよくわかりますけれども、それではこちら側の説明にはならない。そこで、さっきから申し上げているのは、近代戦遂行能力というのは別な基準がある、たとえばミリタリーバランスの中でこれだけの軍事費を使っておる。これだけの戦車や大砲、軍艦を持っておると、これだけの航空能力を持っている、爆弾を持っている、あるいは原爆を持っているという、いろんなさまざまな総合戦力の比較値というものが、これはいろんなやり方があるけれども、あるとすれば、まあとにかく世界じゅうに近代戦遂行能力がどこにもないなんという議論にはならないのですから、そうすると、一定のところまでが近代戦遂行能力じゃないか。  まあ大ざっぱに言えば、百三十幾つもある近代国家なるものの中で、上から十や十五ぐらいは近代戦遂行能力ということがなければ軍事体制なんかを議論する意味はなくなってくるわけですから、常識的に言えば、その辺で線を引っぱっちゃってもいいと思いますよ。思いますけれども、まあとにかく日本の国会でいままで防衛論争でやられてきたのは、どの辺を基準にしているかと言えば、米中ソであるとか、核三大国と、そして西欧一流軍事国というあたりは近代戦遂行能力を持っている国だというふうに理解をし合ってきたわけですよ。そうしますと、そういう近代戦遂行能力のほうが必要最小限よりも量において上にくるんだと、必要最小限はそれ以上行つちやいかぬのだということになれば、西欧一流諸国、核三大国並びに西欧一流諸国よりも日本の軍事力は総ワクにおいて上へ行つちやいかぬのだということがここに明らかになったのだという説明になっていくわけです。そこは、そういうことにならざるを得ないから、さっきの見解で私はもうそこは議論しません。  問題は、明らかにそういう必要最小限論と近代戦遂行能力というものとの接合点を求めるならば、これは先般の国会でも議論をしたわけですけれども日本の軍事力というのは――これは私の仮説だから、どんなに納得させられなきゃならぬとしてもノーとおっしゃるだろうけれども、すでに日本の軍事力というのは、西欧一流軍事国に並べらるべき近代戦遂行能力を具備するに至っておる、軍事費であれ、マンパワーであれ、あるいはもう一歩踏み出そうとすればできる基礎能力であれ、これは十分にある。ファントムの数だってそうであります。そういうものを持ているのだけれども、たまたまここに専守防衛というワクをかけたのをあわせて言えば必要最小限という言い方になるのだというのが、今日ぎりぎりの政府における憲法解釈ではないかと、それ以外には論理はないと思んですよ。この見解はどこか間違っていますか。
  173. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) ただいまの御立言の前に、国会の中ではお互いに、近代戦遂行能力を持っている国は米ソ中のほか西欧の一流国ぐらいは近代戦遂行能力を持っているんだという前提でいろいろ議論をしてきたという御指摘でございましたが、先ほども申し上げましたように、私どもは近代戦遂行能力というものでいろいろ議論をいたしますときの近代戦というものは、現代における戦争の攻守両面にわたって最新の兵器及びあらゆる手段方法を用いて遂行される本格的な戦争というものを近代戦としてとらえまして、その近代戦遂行能力という、その近代戦を独自で遂行し得る総体としての実力が近代戦遂行能力であるという定義を先ほども申し上げたわけでございまして、そのような定義のもとに、はたしてそのような想念が練られておったかどうか、この点は私どもの申し上げました定義を前提にして御議論になっていたかどうかは問題ではないかと思います。  そこで、ただいまの御立言で、日本の自衛隊の持つ自衛力は近代戦遂行能力に近いものになっている。ただ、その近代戦遂行能力に近いものになっているけれども、その自衛力を行使する態様と申しますか、行使のことについて自衛のためというワクをはめてあるから憲法上差しつかえないのだという説明が唯一の説明だというような御立言でございますけれども、私どもは、自衛のためという目的の限定さえありさえすれば、いかなる実力を持ってもいいなどということは全然考えておりません。自衛のため必要な最小限度と申します制約は、まさに自衛のために必要な最小限というぎりぎりのラインを設定をいたしまして、その実力に達するまでの自衛力を保持することは許される。その実力を越えるものは憲法第九条第二項でその保持を禁止されている戦力であるという考え方でございます。したがって、自衛のためという目的の限定さえあれば、どんな実力を持ってもいいなどということは、もちろん考えておりませんし、また、自衛のためという、その保持の目的ということで、すべての実力をキープするということでなくて、自衛のため必要な最小限度という大きさを、限界を憲法は指示しているものだ。その限界内の実力が現在の自衛隊の実力であるということを申しているわけでございまして、先ほど上田委員が御指摘になりましたように、自衛隊の持つ実力が、世界の近代国家が持っているような近代戦遂行能力に同じ程度か、あるいはそれに近いものになって、ただ、それを説明するために専守防衛のために用いるのだと、あるいは防衛のために保持するのだという説明で憲法第九条第二項の説明をするということは、私ども説明とは全く当たらないということを申し上げておきます。
  174. 上田哲

    上田哲君 これはもう全然無理ですよ。あなたのおっしゃっていることは、胃袋をこわさないためには、この胃袋にはどれぐらい物を詰めていいかということにですね、それは腹を下さない限度までであると、こういうことを言っているわけですよ。腹を下さない限度というのはどこまでかというと、何とか消化できる範囲までであると、こういう全くこれは同義反復でね、論理的にはこれはちょっとはずかしいと思う。追い詰められてしようがないものだから、自衛のため、専守防衛ということであればどんなものを持ってもいいなんて言っていない、そのためには一定の限度がちゃんとあるんだと、それは何かあるのかと思ったら、なくて、これは自衛のためだと、またもとへ戻るのですね。これは際限のない、ポンチ絵の中にそういうのありますけれども、この論理はもうだめですよ。こういう論理をひとつ何とか、このままではいけなくなってしまったのが、今日の実質的な日本の自衛力と称する三軍軍事力が、一定の世界国際的戦力値というものに達したという現実が横合いから顔を出しているということに実はあるわけです。そういうことのためにちょっとひとつ先に聞いておきますけれども、近代戦遂行能力を持っている国というのはそれではどこですか。いままでそういう議論をしてなかった。私たちが何べんもしてまいりましたのは、核三大国及び西欧一流軍事国という表現を使ってまいりました。総理も使ってきました。あなたはそうでないとおっしゃるならば、どこを近代戦遂行能力保有国というのですか。国の数はたくさんないはずだろうから、ちゃんと言ってください。
  175. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 近代戦争遂行能力という……。
  176. 上田哲

    上田哲君 国の名前ですよ、国の名前。
  177. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 近代戦遂行能力ということばに定義を与えないで、何となくそのことばを使った場合に、それに相当する国というのは、おっしゃるように主要諸国は相当あろうと思うんです。そこで問題なのは、法制局で定義を与えたわけでありまして、この定義によりますと、攻守両面にわたりまして云々とあります。この場合に、たとえばおっしゃいますようなフランスとかイギリス、あるいはドイツも攻守両面にわたる能力を持っております。したがって、これは当たるわけであります。あらゆる手段方法を用いまして遂行される戦争という場合に、あらゆる手段の中に、これらの国から脱落するものは衛星であります。衛星は米ソしか持っておりません。この点が少し欠けるということがあります。しかし、一つ欠けたから近代戦遂行能力がないということはあるいは言えないかもしれません。さらに、そういうものを使用するものであると解した上で、近代戦争遂行能力とは、右のような戦争を独自で遂行することができる総体としての実力であります。ここで、くせ者と申しますか、問題なのは、独自でということでありまして、私は、いままでのこの独自ということば以前の段階のこの定義を使えば、フランスあるいはイギリス、ドイツなどが入ると思いますけれども、独自となりまするとNATOというものが出てまいります。そこで、この定義そのものに該当するものが一体、イギリス、フランス、ドイツとして当たるのであろうかという疑問があります。ですから、いまの日本の防衛力で戦力に当たるか当たらないかということを判断する場合に、やはり従来いわれていた近代戦遂行能力という表現でこれを議論するのが適当でないということはこの辺に出てくるのではなかろうか。そこで、法制局のほうで二十九年以来答弁を変えられましたように、最小限の実力と、あるいは自衛力という表現のほうが説明がしやすい、こういうような経緯になろうかと思います。
  178. 上田哲

    上田哲君 どうも話を横へそらした感じがあるんですけれども、それでも、ミニマムをとると米ソ中、それからNATO、ここらあたりは近代戦遂行能力を保有している国または集団だということになりますね。これは、近代戦遂行能力を保有している国は地球上にないという言い方をすれば、軍事力論争も必要なくなるんですから、これはどっかはなきゃならぬということになる。そこはミニマムだとしても、私はどうもそういう言い方じゃこれまでの議論を少し横にひん曲げ過ぎると思うんですよ。しかし、それはいい。それはまたひとつ後の議論にするとしましても、いま、やっぱり防衛局長の言われた論理の最大の間違いは、そういうところで一がいに近代戦遂行能力の線を引くことができにくいものだから、法制局では二十九年以来、近代戦遂行能力という定義を変えたのであると。これは間違いであります。二十九年まではどうひっくり返ったって、オタマジャクシがカエルになってアヒルになったという話がありましたけれども、幾らガアガアのアヒルになったところで、そのアヒルになる直前ぐらいまでの自衛隊あるいは保安隊というようなものは、どう考えたって今日、ひょっとすりゃ似てるかもしれないぞと、イギリスだ、フランスだ、イタリアを抜いたかというようなところと比肩できるような日本の軍事力は存在をしなかった。だから安心をして、近代戦遂行能力などというところにはとうてい届かないのがわが国の九条が認めている戦力なのであると言って、両手を広げておられたんです。  ところが、二十九年以降、高度成長にも乗っかってきたけれども、三十年代以降、三次防から四次防にかけて、これは諸外国の声も明らかになるように、やっぱりいまの話をあの程度にぼやかさなきゃならない、西欧諸国を三つ四つ一緒にまとめて言わなきゃ説明がつかないぐらいに、われわれとの差がつかないぐらいの大きな力になってきた。ファントムの保有機数を一つ比べたってこんなものは明らかでありますから。五十機以上ファントムを持っている国が幾つあるのかと言えば、もう議論は明らかであります。背中の穴をふさいだか、ふさがないかということだけではなくて、あけようと思えばまたいつでもあくんでありますから、そういう意味での基礎的な軍事能力というのは固有のものとして、日本の軍事力というものが小さなものでないことぐらいは常識中の常識。こういうところまでくると必要最小限という着物だけではからだがはみ出るというのは、だれの目にも明らかだ。だから今日、憲法九条が昭和二十何年にきめたあの戦力保持というときの戦力というものとは明らかにずれているんだ。時の流れの違いを若干読み込むにしたって、これでは説明がつかなくなったから、二十九年以降は戦力という、近代戦遂行能力ということばを定義として落としたんです。落としてきたんだけれども、ここまで肥大化した軍事力というものは、やっぱりそのままでは必要最小限論では説明がつかなくなった。一つには世論、一つには国際世論です。こういうことがあるものだから、今回の具体的な四次防、五兆一千億円のすべり出しという段階の中では、この必要最小限論を基底にとるように見せながら、最後に近代戦遂行能力という言い方を間違いとは言えないのだと、こういう説明になってきた。これが経過論上も正確なところであります。  私は、そこのところはもっとすっきりされたらいい。吉國さんがどんなにのたうち回ったって、論理的に出発点が間違っているのだから、これは説明がつかぬですよ。説明をつける方法はたった一つある。長官、頭をかいておられて悪いけれども説明をつける方法はたった一つある。必要最小限論だけでつるっとして押し通すことですよ。ここに近代戦遂行能力という概念を二つ一緒にくっつけて説明しようというのは絶対に無理なんだ、これは。からだが大きくなっている。五十キロ以上は仲間に入れないのだと言っているのに五十三キロの人間が出てきているのに、小さな着物を着せてこれを説明しようというのは、もう無理なんです、これは。ところが、どうしても近代戦遂行能力という戦力定義を入れなければ、これは国民の議論が納得しないところにきちゃっている。これが無理なんですよ。私は、そういう線で納得がしていただけないならば、近代戦遂行能力というのは開始基準の概念であり、それから必要最小限論というのは結果基準の概念だという言い方に変えてもいいと思います。そういう立場で、これは違うんですよ。それは無理なんだ、その論議は。だから、ひとつ私は、そういう論理以外には、これは論理的整合をはかることは不可能だと思っているので、そこで憲法解釈をこじつけられることは非常な困難が出てくるであろうと思うんですけれども、私は軍隊の専門家ではないなどとおっしゃらないで、論理的整合において、あなたは、私の言っておることがどこか間違っているところがあるならば、論理的にひとつ破砕してください。
  179. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) 昨年の十一月十三日の委員会でも申し上げましたように、政府といたしましては憲法第九条第二項の戦力の議論をいたします場合に、近代戦遂行能力という説明のしかたはとっておらないということを申したつもりでございます。そうして自衛のため必要な最小限度論、いま上田委員の言われます最小限度論というものを政府の見解として申し述べたわけでございます。その自衛のため必要な最小限度という説明については目的的な説明だけではないかというようなさっき御指摘がございましたけれども政府の申しております最小限度、必要最小限という概念には、それ自体に自衛力の規模、内容についての制限的な意味合いを含んでおるのでございまして、目的はもちろん自衛のためということでなければなりませんけれども、自衛のために用いるから、どんな大きなものでもよいという意味ではございませんで、規模、内容等も自衛のため、あるいは専守防衛のために必要というところから当然出てくる一つの制限に服しておるわけでございます。それを最小限度ということばで表現をしているわけでございます。  先ほど防衛庁長官からも言われましたように、たとえば近隣諸国に対して攻撃的、侵略的な脅威を与えるような武器は持てないということにもあらわれておりますし、また、自衛のためという概念につきましても、通常の意味合いで用いておりますような意味よりももっときびしいとらえ方をいたしております。その意味で、私どもは近代戦遂行能力という概念をまたもう一ぺん持ち込んだんではないかというような御指摘でございますけれども、それは昨年の十一月十日の御質問で近代戦遂行能力という定義のしかたはもうやめたのかというようなお話でございましたので、これは昭和二十九年の十二月までは使っておりましたけれども、それ以後は自衛のため必要な最小限度という説明をいたしております。で、なぜそのような言い方を変えたのかということについても、三つばかり理由をあげて御説明を申し上げたつもりでございます。で、現段階においてそれでは近代戦遂行能力という言い方は全くとれないのかという御指摘がございましたので、それに対して、現在政府としては使っておらないけれども、近代戦遂行能力というものは憲法第九条第二項の保持を禁止する戦力だという説明も、説明のしかたとしては自衛のため必要な最小限度という説明とは違うけれども、それ自体として、もしもこういうような定義で用いるとするならば、本質的な違いはない、あるいは一がいに間違いとは言えないという答弁を申したつもりでございまして、近代戦遂行能力という定義を、この際またあらためて戦力の定義の中に持ち込んだつもりではございませんので、その点は申し上げておきたいと思います。
  180. 上田哲

    上田哲君 そんなことを言っているんじゃありません。とんでもない。私が言っているのは、あなたは、あなたに忠告したと思って、助け船だと思ってすがりついてもらっちゃ困る。必要最小限ということでもって、つるっと知らぬ顔して覆面をして通り過ぎてしまえば、中身はインチキだけれども、論理の筋道だけは通るよと私は教えたんですよ。必要最小限ではもう通らないんですよ、実体的に。そんなでたらめは通らない。必要最小限が通るのはまぎれもなく近代戦遂行能力というのがその底辺にあるときですよ。そうでないところへきている段階では、そんな説明では通らないんだから、しかたがないから正直なあなた方は近代戦遂行能力という基準を入れなければ、その接合をはからなければ論理性が通らないというところになったことのほうが正しいと私は言っているんです。だから、正しいということは、すなわち矛盾が露呈するということなんですから、それではお困りだろうということを皮肉って言ったまでの話でありまして、へたにやろうと――それでは近代戦遂行能力の概念は切り捨てることにいたします。とんでもない話だ。近代戦遂行能力がここに復活蘇生したことこそあなた方の論理の矛盾の露呈であり、まさにこれこそわれわれが防衛論争することの出発点ですよ。こんなものを否定されちゃ、冗談じゃない。やっとここへ、近代戦遂行能力を議論することもあながち一がいに間違いではないと言った、ここから出発しなければいかぬのです。いいですか。胃袋にどれくらいのものを詰めてよろしいかという議論をするときに、腹下しをしない限度まででよろしいなんていうのは説明にならぬのですよ。これだけの量、何グラム、何匁を入れるならばだいじょうぶでありますということがきちっと出ない限り、これは基準とは言えません。これは基準とは言えません。処方せんを書くのであれば薬は何グラムということをはっきり明示しなければポリシーでありません。結果論的にこれは腹を下していないと考えられるので、必要最小限、憲法には違反しておりませんなどという説明は、いやしくも政府のとるべき見解ではありません。  だから、必要最小限論ではなくて、近代戦遂行能力にまっこうからいどんで、その中で日本の防衛政策を、防衛構想論を展開することが正しいんです。そこへ入ることができないということは、防衛構想に対しての見識を欠いている以外の何ものでもない。論理の喪失のごときは笑止千万。私はそのことを繰り返し強調し、まかり間違って法制局長官が見解を変えられることのないように深くとどめをさしておきます。どうかひとつ必要最小限論などという古色蒼然の同義反復論理はもうそろそろ卒業されて、まっこうからひとつ近代戦遂行能力というものに照準を合わせて、日本の自衛隊がどこまでの軍事力に育っているのか、どこまでが正しいのかというクリタリオンをしっかりお出しになることに努力をされることが私はあるべき姿だと思います。それじゃひとつ、からだが大きくなり過ぎたから憲法でも変えようかなんというのはとんでもない話だから、あわせてこのことも念のために申し上げておきます。  長官の見解も伺いましょう。長官の政治論。
  181. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 私は、この四十七年十一月十三日の政府統一見解として法制局長官が答弁の形式で表明した文章、これについては列席して……、その前後の雰囲気というものをよく知りません。しかしながら、近代戦遂行能力ということばはまぎらわしい、あるいは誤解を生じやすいというようなことから、おそらく歴代内閣がその表現を採用していないんでありましょうし、それをいま憲法解釈ですから総理がかわったら、内閣がかわったらどんどん変わっていいというのはたいへんですからね、そういう意味で法制局としては一貫した説明としてそれをとらうるには、このような答弁の統一見解としての示し方を、言い回し方とかなんとか、いろいろとこう私どもならちょっと言えないような言い方をしておるわけですが、これはやはり政府の統一見解であるとして、私どもはこれに従うという立場をとるわけでありますから、やはり近代戦遂行能力というものを今後そのほうを限界論にしていくんだというようなことでもなければ、あるいは必要最小限というものは近代戦遂行能力と同義語であるという表現をとるつもりでもない――私の言い方も少しおかしくなってきましたけれども、明快でなくなってきましたけれども、もともとこの文章が少し明快でないわけですから、これを明快に言うのはきわめてむずかしいので、やはり統一見解を作成した答弁者という者によってこの問題は詰めていただいて、しからば自衛隊、防衛庁はどう思うんだということならば、私の立場で見解を述べたい、そう思います。しかし、このような基本的な、いわゆる自衛力、防衛力というものに対する真正面からの議論というものをきわめて歓迎します。
  182. 上田哲

    上田哲君 近代戦遂行能力ということばは、政府が一番初め使ったんです。途中でやめたんです。必要最小限というわからぬ概念を持ち出してきて今日に及んでおるんです。ですから、必要最小限という概念でこれから説明されることはあまりにも論理的に恥ずかしいから、もうおやめになることが実情的にもふさわしい。やはりもう少ししっかりした諸外国との対比における近代戦遂行能力にいどんでいけるような議論としての、もし専守防衛と言われるならば専守防衛のフィロソフィに合うような、はっきりした構想をお出しになることが新しい防衛論の出発点だろうということを、私はこれはかなり前向きに御提言申し上げておきたい。  そこで、このことばかりやっておられませんから、これはおそらく長沼訴訟が出てまいりますと、もう一ぺんやらなければならぬと思いますので、ひとつ先へ進みます。  どうしてもそうした問題からいって、たとえば、じゃあその必要最小限という基準をだれがきめるのかという問題がある。これは、法案を提出する政府、そしてこれを受ける国会が決定をするのだという通り一ぺんの説明になっておりますけれども、もしそういうことが、先般来議論になっておりますように、多数決原理ということが一方的に解釈をされて押しつけられることになれば、この議論というものは非常にへんぱなものになります。ここでやっぱり問題になるべき普遍的な概念としては、少なくとも文民統制という問題でなければならぬと私どもは思うんです。その文民統制ということについて言うならば、昨年の第六十八回国会において四次防予算の先取り問題が紛糾した際に、船田議長あっせんによってようやく収拾を見た。このとき与野党が了承したあっせん案の第四項では、政府は今回の経緯にかんがみ文民統制の実をあげるため適切な措置を講ずるというふうになっていたのであります。  政府が検討した文民統制の実をあげるための適切な措置というのは、昨年の十月九日四次防の主要項目と同時に国防会議及び閣議で決定された「文民統制強化のための措置について」、こういうのがあるんです。はなはだ私はこれは不十分かつ不親切だと思うんですが、この「文民統制強化のための措置について」だけがあれ以来の文民統制の政府の方針でありますか。
  183. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) この国防会議、閣議決定にかかる議員の増員以外の第二項の実質上の一、二、三で、さらにカッコ書きの四項までの分、この分以上には出ておりませんし、また、この分は守られておるということです。
  184. 上田哲

    上田哲君 この決定の内容は、一項目目というのは国防会議の議員を四人追加するというんですね。そのための国防会議の構成に関する法律の改正というのが必要になるわけです。守られておるとおっしゃる。今国会にこの法案は出てないです。科学技術庁長官を加えることは学術会議等の反対がありますし、国家公安委員長については自衛隊の間接侵略対策等の問題が提起されておる。政府はこの法改正を行なう意思があるのかどうか。現行法の第六条によっても関係大臣等の出席は可能でありまして、また国防会議議員懇談会には従来から通産大臣も出席していたわけでありますから、現行法の運用でやろうということになるのですか。私はどっちかへどうしてくれなんということ全然言っているのじゃありませんから、これもまたよけいな議論にならないように、どうなのかということをしっかり聞いておきたいのです。
  185. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) 法案の関係でございますので便宜私から申し上げますが、昨年の十月九日に国防会議で決定をし、さらに閣議決定をいたしまして、通商産業大臣、科学技術庁長官、内閣官房長官及び国家公安委員長を国防会議の議員とするということで、当然これは国防会議の構成等に関する法律の改正に相なるわけでございます。そこで国防会議の事務局で法案の準備はいたして、法制局の下審査は終わったわけでございますが、今国会での内閣委員会にいろいろ法案が錯綜しているというような情勢も考えた結果でございましょうか、内閣官房といたしましては、法案は一応内容は定めましたけれども、今国会への提案は、確か三月末であったかと思いますが、今国会への提案は取りやめるということに当時決定をして、次の国会に回すということにいたしたと記憶いたしております。結局、衆参両院の内閣委員会の法案の審議の状況等も考えまして、今国会では提案をしないというだけでございまして、法案の内容そのものを変えてしまったわけではございません。  なお、通商産業大臣、科学技術庁長官及び内閣官房長官は現在は関係行政機関の長といたしまして国防会議に事実上は出席をして、ほとんど議員と同じように行動はいたしております。ただ、議員ではございませんから、かりに国防会議の決議をいたすというようなときに、賛否の投票をする、意見の表明をするというようなことについては、議員とは当然資格が異なりますので別でございますけれども、事実上は国防会議の運営に参与しておる事実はございます。(「おかしいのだ、そのやり方は。」と呼ぶ者あり)
  186. 上田哲

    上田哲君 おかしいという声がありますから、またこちらへ問題を譲っておきまして、時間が非常に少なくなってきたのでどんどん先へ急ぎますけれども、第六十八国会の論議では、国防会議について、従来の構成を改めて国家安全保障会議といった組織に改正すべく単独立法化についても検討をする、こういう答弁があったのであります。それの検討はどうなりましたか。
  187. 吉國一郎

    政府委員吉國一郎君) 今国会に提案する法案といたしまして国家安全保障会議というようなものを検討したことはございません。ただ、国防会議の構成等に関する法律のほかに、防衛庁設置法の第三章に国防会議という章がございまして、そこに第六十二条と第六十三条の二カ条でございますが、国防会議という規定を置きまして、それをまた「別に法律で定める。」ということで国防会議の構成等に関する法律というもう一本の法律がある。で、同じ国防会議を規定するのに防衛庁設置法のいわば平たく申せばひさしを借りたようなかっこうで国防会議の基本規定を置いて、別に構成等に関する法律で規定をすることは形として適当ではない、別に国防会議設置法というような単独の立法にしたらどうかということについては、検討はいたしたことがございます。
  188. 上田哲

    上田哲君 文民統制の中心は国会にあるべきだ、こういう考え方から、従来から議論されておりましたけれども、五カ年に及ぶ防衛力整備計画、年次計画というものは当然国会の承認事項にすべきだ、ほかにもそういう長期計画の承認案件もあるんですから当然これは国会にかけるべきだ、これは政府政府責任で独自に決定すべきものだということで賛成をしておりません。しかし、諸外国の例、たとえばフランスでは一九六〇年以来、五年から六年の期間の軍事装備及び施設の研究、生産計画を内容とする軍事装備に関する計画法――プログラム法と呼んでいるようですけれども、そういうものによって承認を受ける、しかも同法によって毎年国会へ装備品の達成推移状況、経費区分の変更、資金状況等の執行報告を提出することになっております。つまり四次防はちゃんと国会に毎年出るのです。現在は一九七一年-七五年までの軍事装備に関する計画法が執行されております。こういうふうにシビリアンコントロールを達成するために防衛力整備計画を法律事項とすることによって国会承認事項とするような方法というのは、十分に国会の今日の解釈の中であり得ると思う。つまり、意欲さえあればできるという程度のことだと思うのですけれども、これについて長官、検討する気はありませんか。
  189. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 過去のやりとりの詳細はよく存じませんが、この委員会でも、私、私自身の考え方として述べたかと思いますけれども、現在のような五カ年計画等の予算のあらかじめ設定された方式を使うことが是か否か、そういうこと等は人件費のアップとかいろんなこともありますし、そういう単年度で処理してもいいもの、それから長期的な展望に立って研究、試作あるいは発注、調達という経過をたどっていくものについては、これは単年度ごとの予算の議論では一体どれだけになるのかわからないという問題もありましょうし、現実にそれはまた生産その他において不可能なことにもなりましょうから、そういう仕分けをする必要があるように思う。したがって、四次防の次には五次防という固定した概念を私は一応とっておりませんということを申しておりますが、それはいま検討段階であります。したがって、そのことが確定したということを申し上げておるわけでもありません。
  190. 上田哲

    上田哲君 確定してないとすると、四次防の次に五次防が出る場合には、それ自身を法律事項、国会承認事項とするという決意はありませんか。
  191. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 私が五次防作成まで防衛庁長官やるかどうかも――これはちょっと長過ぎる展望になるわけですけれども、私としては五次防という形は好ましくないのではないかという気持ちを持っておりますから、そのためには検討作業を命じております。したがって、これは十分に部内で討議を重ね、場合によっては国防会議等の意見も聞きながら、そういう方針を定められるならば、相なるべくんば、いままでのような三次の次なんだから四次である、四次の次は当然五年間の五次防というものが出てくるのだという、そういう惰性というもので見られがちなそういう姿勢を変えていきたいものだということでいることは事実です。
  192. 上田哲

    上田哲君 従来、増原長官段階で五次防は当然あるんだと、こういう説明もありました。それをマンネリズムから脱する意味でも、あるいはまた現状の固定化から脱する意味でも、そういうように検討されるということは、それなりに前向きの御意向だろうと思うのですけれども、それはそれとしても、たとえばどの道、単年度では処理することのできない装備計画なんというものがどうしても顔を出してくるでありましょう。そういう処理というものはどういうふうにお考えになりますか。
  193. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) いままで政府のほうが、まず防衛庁自体においても一応文民統制という仕組みがありますし、さらにそれに加うるに国防会議というものがあって、それについては先ほど法制局長官が申しましたように、法律の定めのしかた等も独立したほうがいいのではないかという検討もしたことがあるということは、やはりこれは傾聴すべき具体的な事実問題だと思いますし、したがって、そのような権威ある国防会議というようなものがもう一つありまして、さらにまた国防会議議員懇談会、そして閣議等の議を経て、政府段階において、少なくとも政府サイドにおけるシビリアンコントロールというものは完全な機能を果たし得る機構ができておるわけでありますから、その結果、政府はそれによって是なりと信じて国会に提案をする、しかし、国会においてはさらに立法の最高の府としての唯一の機関として、それに対する厳正なる批判あるいはまた判断等を繰り返された後、最終的な御意思の決定があれば、かりに私たちの政府の中において、いかなる手順を踏んで文民統制の経過を経てきたものであっても、それは当然結果的に変えられるものであるということは当然のことでありますから、出たものは全部可決される、あるいは原案どおりでなければならぬということに将来ともそうなるのかどうか、これはわからないことであって、やはり国会においてもし変えられた場合には、それが最終のものとなるということにおいて、はっきりとそれは文民統制の究極は国会にあるという事実が証明できると思うんです。
  194. 上田哲

    上田哲君 これは、最後のところは非常に私はいいことばだと思うんですよ。これはひとつこっちも勇気を持って声をかけますが、今日まで自衛隊ないしは保安隊、警察予備隊発足以来、この問題に関しては修正なんということは一歩も許してはならぬのだということが鉄則であった。現にそうであった。これはナショナルコンセンサスなんというものへのアプローチからしても、元来このことだけが国会審議のラインから超絶してしかるべきものではないんであって、常に修正の可能性を踏まえた中で、デモクラシーはその分だけ余裕度を持つわけでありましょう。これは防衛予算といえども絶対にらち外であってはならない。これは原理であって、なお、なかなか今日まで明らかにされていないわけですが、現に防衛二法なんというのは、そういうことで、もう二回も終わっていなければならない内閣委員会がこうやって続いているわけですから、ぜひひとつ、ことばだけでなくて、大いに修正ということがあり得るんだと、修正ならばいいというほどわれわれはまだ議論があるわけではありませんけれども、大いにひとつ政府提出防衛予算、軍事予算というのは一指も触れることを許されないのだということではないという、そういう発言防衛庁長官から出ること自体が、私はたいへん国会審議のためにはけっこうなことだと思うんですよ。これをひとつ具体的にどういう段取りの上で花を咲かせるかということを考えていただきたいというのがやっぱり具体論になりますね。  いま文民統制を一つ抜き出して議論しているわけですけれども、ハウスが最終的な権限を持つんだと、にもかかわらず、ハウスはそういう権限を実際に実証したことはないです。また文民統制は、あの先取り問題のときにあれだけ議論をされていながら、ほとんど、じゃどうなんだと言われると、毎年毎年膨大な装備計画や増員計画が出てきて、牆に相鬩ぐなんという状態が起きていながら、このシビリアンコントロール問題というのがこれほど等閑に付せられていたということが非常に問題だろうと思うんです。やっぱりその点についてはひとつ反省もしていただかなければならないし、また昨年のあっせん案了承という時点に戻るならば、私は政府の約束違反だろうと思うのです。そういう部分を前向きに努力をするという点で私は御見解を承りたいと思います。
  195. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 私は純理論的に申し上げておるわけです。現実面に目を転ずれば、これは私たちにとっては不幸なことでありますが、その不幸な見解を押しつけようとする気は毛頭ありません。少なくとも国家、民族の生命、財産を最悪の場合に守る力について、わが国においては第二次大戦の経過も踏まえながら、各党間において最低共通のコンセンサスの場もない。したがって、その議論はオール・オア・ナッシングの議論に終始しがちである。かといって、いまは私たちが多数を占めておりますから、国会において最終的に多数によってきめられたものを私たちは文民統制の最終の結果と受け取っておりますが、しかし、現実に示されたものは、この防衛二法案の内容はすでに三年間の、二法が成立しなかったがために定員も増加できないでやりくりでまかなっておるものをずっと積み重ねてきて三年目に及んでおる。すなわち二年間は、二年度分にわたっては国会の最終的な数では賛成者が多かったにしても、しかし、その行為が行なわれなかったことによって二年間これが実行に移されていない。この事実はやっぱり厳然として国会においてシビリアンコントロールの最終の権威、オーソリティーというものが証明されておる、私はそのように思うんです。  したがって、私はむしろ――これ以上は要らぬことかもしれませんが、やはり日本の国防というものを真正面から論ずる。そして論じて、許容すべき範囲があれば、できれば各党の共通の、賛否は別として、理解の得られるような論議をしたい、こういう気持ちでおりまして、したがって、あなたの議論は私は気持ちよく、まともに組んで受けておるつもりであります。
  196. 上田哲

    上田哲君 ひとつ文民統制の実施について御努力をいただくことを申し添えて、次のテーマに入りますが、そこで、これは中身の具体論ではないんですけれども、四次防、五次防という話がありましたけれども、四次防のちょうど第三年目、四十九年度防衛庁概算要求がついに一兆円の大台をこえて、とてつもなく大きいのが出てきたわけであります。一兆千五百七十億円、四十八年度の二三・七%増でありまして、四次防の総額は、人件費の増や物価上昇による装備品の値上げ部分は含まずに四兆六千三百億円と見込まれております。来年度概算要求を決定するにあたって、残る四次防期間中にどの程度の予算を必要とし、四次防総額の当初の見込み額をどの程度上回るか、こういう見通しは当然ついていると思うんですけれども、まずその点を伺いたいと思います。
  197. 小田村四郎

    政府委員(小田村四郎君) このたびの概算要求は積み上げによる概算要求でございまして、四次防との関係につきまして申し上げますと、四次防できまりました主要項目、各主要装備品の数量、機数等がきまっておりますが、それの各年度におきます調達量を計画に従いまして計上してございます。で、その後、単価の積算等につきましては、最近の物価動向及び人件費の上昇等を勘案いたしまして計上してございます。したがって、防衛庁予算に関しまする限り、四次防計画の外に出ることはあり得ないわけでございます。ただ、金額的にこれがどういうふうになりますかということにつきましては、今後大蔵省との折衝がございますので、そこで最終的にきまると思いますけれども、いずれにいたしましても、人件費、物件費等の上昇分を除きますと、四次防の見積もりのワク内には入るであろう、かように考えております。
  198. 上田哲

    上田哲君 ここのところの異常な物価高が続いていることは御承知のとおりでありますから、特に航空機、諸艦艇、戦車等が一五%から二〇%のコストアップ。こうなると、予算の大幅追加か、装備調達の削減か、このどちらかの二者択一を迫られるということになるわけでありまして、実際には新型戦車百六十両、DDH、FST2改二十二機、C1十三機等の調達予定となっておりまして、これは装備調達の削減はしないという、この方向をとったというふうに考えていいんですか。
  199. 小田村四郎

    政府委員(小田村四郎君) そのとおりでございます。四次防で概定いたしました数量につきましては、そのまま計上してございます。
  200. 上田哲

    上田哲君 いま申し上げたように、新規の装備として、FST2改二十二機、新型戦車百六十両、こういうものがどしんとすわっております。で、FST2については、四次防では六十八機を調達することになっているわけですけれども、来年度二十二機調達の受領予定はどういうことになっているのか。また残り四十六機についての調達計画はどうなっているのか。
  201. 山口衛一

    政府委員(山口衛一君) FST2改につきましては、来年度の概算要求としましていま御指摘の二十二機でございますが、この取得予定は五十一年度と五十二年度にかけまして、五十一年度に六機、五十二年度に残りの十六機でございますか、こういうような予定を取得予定として組んでおります。さらに二十二機の残りの分につきましては五十年度以降の契約予定というふうに組んでおりますので、現段階でどの年度というふうにはまだ明確にはお答えできない状況でございます。
  202. 上田哲

    上田哲君 同じく航空自衛隊のC1輸送機については、四次防二十四機調達予定のところで、四十七年度十一機、四十九年度に残りの十三機調達、これで全機発注されることになるわけでありますけれども、C1の輸送機部隊の配備予定はどうなっておりますか。
  203. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 現在のところ、ちょっとあとで年度を出しますが、入間と、それから小牧、それから美保という三カ所に配置になると思います。
  204. 上田哲

    上田哲君 新型戦車については、四次防百六十両調達も、全部が来年度発注されることになるわけで、その額も総額四百四十二億円。先日の当予算の質疑で、この戦車の価格が二億七千万円というのはいかにも高いじゃないかという議論をいたしました。で、装備局長は、これはまあ確かに高いのだというようなニュアンス、できれば引き下げたいみたいに受け取れるようなニュアンスがありました。そこだけしっかりやれというのもおかしいですけれども伺いたいのは、実際に概算要求で決定してから、装備局長が値たたきをするようなことによって、実際に値下げという可能性があるのかどうか。逆に言えば、あるとするならば、ずいぶんこの概算というものもいいかげんなものになってくる。この辺のところはどうなのかということを伺いたいんです。
  205. 山口衛一

    政府委員(山口衛一君) ただいまの戦車の価格単価でございますが、概算要求段階におきましては、この字のとおり、実はまだ長期に生産がこれから開始されますので、しかもこれまで開発を終了した直後の段階で、これから量産に入るという場合には、ほとんどの実は物質につきまして、これからどのような生産設備を導入し、どのような工員の生産過程訓練を行なうという、これからの企業努力、それからまた防衛庁サイドからいたします価格交渉という過程がこれから数年続くわけでございます。しかも、先般の委員会でも申し上げましたとおり、この新型戦車の場合には、契約は確定契約ではございませんで、実は概算契約をとるというふうに申し上げました。概算契約で、四年間の概算契約をとりますと、これから三年目ぐらいの段階で中途確定という段階が参ります。この中途確定の段階で、私どもはこれまでの、初めて量産に入りますいろんな価格要素を勘案いたしまして、私ども調達側の最も有利な計算をいたしまして関係企業と交渉するわけでございます。むろんその上限は予算単価で縛られておりますので、たとえ中途確定の段階でも、予算単価を上回るということは全くないわけでございまして、下がる要素はすべて取り入れるという、まあ相当きつい線で私どもは価格査定をこれまで続けてまいりました。このような過程がありますので、私どもは概算の段階におきまして、明確にこれが三年、四年先で幾らかかるということが、実は算定することがなかなかむずかしいわけでございます。  しかしながら、私どもは概算する以上は明確な根拠に基づきまして算術をするわけでございます。先般も申し上げましたとおり、この開発にあたりまして、私どもは、現在つかんでおりますコストは、四十五年度に第二次の試作をやりましたときの試作単価というものを基準にせざるを得ないわけでございます。その場合に試作単価がすべて基準ではなくて、つまり試作単価の中で、試作に要した特殊の経費を差っ引いたり、あるいはその過程におきましていろいろと様の変更がございます。この仕様の変更分も逓減したりいたしまして、実際に、試作ではない、純粋に量産した場合にどの程度のコストがかかるかという算術をいたしまして、それを基礎にして実はコストを算定せざるを得ないわけでございます。それからその四十五年度段階から四十六、四十七、四十八、四十九と、四年間たちまして契約にこぎつけるわけでございますが、その間の人件費、材料費のアップというものは、やはりある適正なものは見ざるを得ないと思います。それからまた四十九年度に契約いたしましても、先ほど申し上げましたとおり、私どもは百六十両全体が、どの程度で一体最も安く手に入るかということで、さらにまた三年ないし四年間というコストの動きを見ていくわけでございます。したがいまして、その間の適正な人件費、材料費というもののアップ分を、現段階では官側の見通しによりまして、実は比率を策定したわけでございます。その根拠は、たとえば政府決定によります社会経済発展計画による材料費のアップ率を見ますとか、実際にはこれから上がります材料費よりも、現在の段階で私どもが官側で査定しておりますかなりきびしい上昇率を算定する、このように各種のこれからの算定要素がございますので、そういう意味で、私は先般の委員会で、今後できるだけコストを低下するように努力をしたいというのは、当然調達官庁側としてのきわめて強い希望でございます。ただし概算契約におきましては、繰り返すようでございますが、ある一定の試作段階におきます根拠となるコストを基準にいたしまして、これに今後の私どもで算定いたします加工費、材料費をはじきまして、それで積算いたしましたのが一台当たり約二億七千万円という数字でございます。そのような事実を申し上げた次第でございます。
  206. 上田哲

    上田哲君 つまり下がるんですか。
  207. 山口衛一

    政府委員(山口衛一君) ただいま先生が、翼契約につきましての明確性の根拠を一つお尋ねになりましたので、概算契約につきまして、こういう根拠でやりましたということをお答えしましたのと、もう一つは、私ども調達側としまして、できるだけ今後コストを下げる努力を続けていきたいということでございます。さらに、その前の段階で、経理局長がお答えしましたように、大蔵省との折衝がございまして、これによってどの程度の、いわゆる予算政府案としてのコストになるかという問題が、さらに前の段階一つございます。
  208. 上田哲

    上田哲君 下がるものなら、とにかく最初からと思うんですがね。下がればいいというようにとられても困るんですが、まあそこのところは、もう少し経過を見ましょう。  それから来年度の定員増要求を見ますと、海上千七十四人、航空二百八十七人、統幕五人、計千三百六十六人という増員要求です。この増員の理由も聞きたいんでありますし、この増員が四次防期間中の海空の増員計画三千四百人の中に入っているのかどうか、これをひとつお伺いします。
  209. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 四次防では、増員といたしましては明確な数をきめておりません。陸上自衛隊の千名を除きますと、見積もりといたしましては約八千名ということにいたしております。そのうち、四十八年度までで約四千七百名でありますが、その残りの分のうちの一部が四十九年度ということになっております。
  210. 上田哲

    上田哲君 海上及び航空自衛隊においては、新たに婦人自衛官の採用というのがこれは出ていますね。その人数、目的等の説明をしていただきたいと思います。
  211. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 婦人自衛官は、男子自衛官に比べて相当に優秀な人が多いわけでありまして、アメリカあたりでも一般の職員及び婦人の軍人といいますか、WACというのがありますが、これを大幅に採用するようにしております。人員難という問題も背景にはございますけれども。そういうことにいたしまして、従来陸上自衛隊だけが婦人自衛官を採用しておりました。それに対して、海空につきましても婦人自衛官を逐次整備してまいりたい。四十九年度は約三十名弱のものでありますが、曹と幹部をさしあたって採用して、五十年度から士のクラスを採用してまいりたい。で、ポストにつきましては、必ずしも庶務とは限りませんで、通信とか会計、その他婦人に適する職域がありますので、そういう点も開拓しつつ、婦人自衛官の職域を広めてまいりたい、こういう計画であります。
  212. 上田哲

    上田哲君 予備自衛官については、本法案の三千三百人増に加えて、四十九年度に三千百人を増員して四万二千七百人、こういう予定になっております。四次防末までの予備自衛官数の目標は四万五千人となっておりまして、軽普通科連隊を二十一個つくると、こういう予定の国会答弁がさきにあったんでありますが、この軽普通科連隊構想というのは、中曽根長官時代の警備連隊構想にかわるものと思われる。四万二千七百人もの予備自衛官を集める、四十九年度あたりからこの軽普通科連隊の編成に入る予定なんでありましょうか。
  213. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 従来警備連隊ということは、いわゆる中曽根原案と申しますか、四次防原案のころには、いわゆる警備連隊と申しております。しかし、現在の案では軽普通科連隊というふうに申しておりまするけれども、この考え方は、必ずしも四次防で新たに導入されたものではございません。三次防でも積算上は、つまり積算の上では軽普通科連隊を十三個つくってそれを配置すると、そして四次防では、もとの四次防原案では、四十一個の警備連隊をつくる計画でありましたけれども、現在の四次防の案の中では二十一個の軽普通科連隊をつくるということにしております。内容も若干装備、人員等減少しておりますが、そういう計画で、従来の三次防でなかったものが新たに登場したということではありませんで、三次防の数量を若干ふやしてまいりたい、こういう計画であります。
  214. 上田哲

    上田哲君 それから現在のF104戦闘機については、昭和五十五年度に一隊減って九隊になる、そこで同年度に一隊ふやすためには五十二年度ごろに予算措置が必要で、それから逆算すると四十九年度ごろから準備を考える必要があるという前に久保さんの答弁がありました。FXの機種選定作業に着手するための調査団の派遣などは来年度概算要求でどうなっているんですか。
  215. 小田村四郎

    政府委員(小田村四郎君) FXの調査のための調査費というものは来年度の要求にはございません。
  216. 上田哲

    上田哲君 ざっとひとつ見てきたんですがね、長官、これらを含めて一兆円。これはまたじっくりやるわけなんですが、ざっとアウトラインを確かめながらきてみて、一兆円をこえる。これはまあ一つのけじめとして、大台に乗ったという意味だけではなくて、四兆六千億円、あるいはわれわれは五兆一千億円と読んでいますけれども、どっちみち五兆円前後の大防衛予算である四次防というものの第三年次に一兆円の大台に乗ったということは、すなわち総体との対比で言うならば、最終年度の五十一年度には一兆四、五千億円になると。これはさっきのミリタリーバランスからいってもかなり大きな――もう一ぺん言われるのはお気に召さぬかもしらぬけれども、近代戦遂行能力の域に入らざるを得ないところへ軍事費としても突入せざるを得ないことをここに明らかにしている。別な言い方で言うならば、実に四十九年度概算要求が一兆をこしたということは、四次防があと三年以内には世界で五指に入る軍事大国になることを方向づけたということにもなると思います。これはもう数字上の問題ではっきりいたします。長官はことしは内政の年であるということを重点にされていると伺うんでありますが、内政の年ということと、この大きな軍事膨張とどういう関係に立つのかというところがよくわからぬのであります。三次防の延長であるというふうな言い方できた四次防が、どうもそんな形ではとうていおさまりそうもないような大きな形になっていく。ここにはやっぱり世論の大きな抵抗もある。この中で内政の年とは何であるか。まあ基地問題は後に聞きますから別の問題といたしまして、ひとつそこのところを伺いたいと思います。
  217. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 基地問題を除いてですか。
  218. 上田哲

    上田哲君 基地問題は別にあとで伺います。
  219. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) やはり基地問題も内政の年の私の大きな重点指向項目の一つでありますから、いままでの基地周辺整備法を廃止して新しく特別立法をいたします。それに伴う諸内容については、いまのところは素案の段階ですけれども、御質問があれば、まあ法律にはまだなっていないわけですけれども、答弁できる範囲でいたします。  一方の、他の内政の年とは、すなわち前方後方と言っておりますけれども、言いかえれば装備という問題は、これはもう四次防の年次計画をもって、大蔵も含めて合意された順番どおりの手順で運んでいこう。ただ問題は、先般指摘されました新型戦車百六十両の一括発注の問題契約の問題この問題は国庫債務負担行為とはいえ、そのことがいいのか、あるいは単年度ごとにしていくのがいいのか、コストの面でほんとうにそれで安くなるのか、それらの議論は確かに問題もありましょうし、国防会議にもかけられるべき問題である、そう思っておりますが、その他の隊員の処遇改善等を私としては内政重点の年と言っておるのでありまして、その内容についてはこまかく申し上げることを差し控えまして、いわゆる自衛隊員の生きがい、入隊した以上は生きがいというものを与えなければならないし、その生きがいは、国民のために自分たちが存在するということの意識、その上に立った生きがいでなければならぬ。しかし、それから見てみますと、ずいぶん給与の面においても、あるいはまた特殊な二年、三年の任期を前提として、国家公務員の特別職につく立場の者にしても、一般の公務員の給与体系の公安職に準じて、ただそれにスライドされているだけである。これだけでもっていいのか。あるいはまた准尉を曹の吹きだまりにしておくことはよくないのじゃないか、吹きだまり的な感じになるのではないかというような各種の問題点をいろいろと基本論にさかのぼって、いまこまかく、そのようなまず隊員たちが自衛隊としての隊員の意識に徹するための環境というものを、給与面その他からなるべくめんどうを見てやろう。もちろん隊舎の改善その他のことは引き続き重点を置いてやっていくということが主として私の内政の年という意味であります。
  220. 上田哲

    上田哲君 前段に申し上げた四次防の最終年度は一兆数千億円の単年度防衛予算になっていくだろう、そこを卜する四十九年度一兆円防衛予算だと思うんですよ。それはどうお考えになりますか。
  221. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 四兆六千三百億の場合は、まあ四十七年度ベースで一応想定された目標でありますから、この問題については、私どもはこの中に入るべきものとして今後の年次計画を立てていかなければなりません。しかし、一方において人件費のベースアップ分というものが見ていない。あるいはまた最近の異常な値上がりのことはこれはまた論外としても、少なくとも鉄鋼その他の諸物資等の値上がり、あるいはまたそれらのコストの要因を占める造船業界グループに入っている近年のベースアップの一八ないし二〇%の高いコストへはね返ってくるそのプッシュ要因そういうようなものが予算上は見ておりません。もっと低い数字でありますから、これらの問題は具体的にやはり契約の段階においては、最悪の場合には発注不能ということも起こり得る可能性もあります。したがって、それらの問題を今後どうするかという問題は、やはり私どもとしては四兆六千三百億の昭和四十七年度ベースに立った見通しの上に立って、そうしてそれのもし変更がある場合でも、それは全く客観的に見て数量、能力、その他装備等においてと全く変わらないけれども、単価その他において変更があったんだという程度しかわれわれには許されないというふうに考えております。
  222. 上田哲

    上田哲君 ちょっとお答え、もう少しついていきたいわけですが、時間もだいぶ詰まってまいりました。私、このほかに研究開発の問題をちょっと伺いたいと思う。たとえばレーザーの開発はどうなっているのか、あるいはフェーズド・アレイ・レーダーの研究、あるいは新型潜水艦の問題、あるいはAAM1等々、少し研究開発の問題も伺いたいことがあります。それからいま長官も言われた基地問題への新構想というものもじっくりひとつ伺わなくちゃならないなどなどの問題があります。しかし、まあきょうのところはちょっとそこまでいきそうもないので、ちょっと目の前の問題で伺っておかなきゃならぬのは、この七日に長沼判決があるわけです。で、この長沼判決について、まあおそらく結論が出るまでは何も言えぬというようなことになるんでしょうから、ここのところはまあ出てからゆっくりということにたぶんなるでありましょうけれども一つだけ伺っておきましょう。たとえば自衛隊は違憲であるという判決が示された場合に、たとえば政府は直ちに非常抗告をする、非常上告をするというようなかまえでありますか。
  223. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) これはもうあなたもおっしゃっているように、判決が七日の午前十時から始まりますから、それを見て、そうしてその相当なページ数にのぼるであろう全容を見て、私たちとしては明らかにしなければならない態度が出てくるかもしれないということしかいまのところは答弁できないと思います。司法権の独立の名においてできないということであります。
  224. 上田哲

    上田哲君 その司法権の独立ですけれども、この福島裁判長というのは政府が忌避されたことがあるわけです。あるいは青法協会員云々というような言い方の中で、どうも司法の独立をどれだけ政府が尊重するのか。これはまあ上告、非上告というような方式をとられるかどうかの問題とは別に、ここのところは私はやっぱり判決を前にしてしっかり承っておきたいところであります。
  225. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) これはなるほど忌避いたしました。過去に忌避いたしましたが、それは地裁においても高裁においても却下されております。したがって、これは司法の場における判断において、そのような理由をもって忌避することを認めないという正式な国のその限りにおいては敗訴でありますから、その立場に立って、過去に忌避したことがあるからという先入観を持って判決に論及することも、あるいは判決後において、そのような先入観によって政府の行動することもあってはならない、そう思います。
  226. 上田哲

    上田哲君 そこはそれでいいんですけれども、どうも判決が、あるいは自衛隊違憲ということになるのではないかということに神経を使われて、防衛庁は、しきりに敗訴対策とうなずける部分があるのですけれども裁判に負けた場合の対策に大わらわであるということが伝えられております。たとえばこれまでの訴訟経過であるとか、国側の主張を盛り込んだ。パンフレット「長沼事件について」というのが、これはだれの名前でしたかな、責任者の名前で配られている。あるいは、聞くところによると、もし敗訴した場合には、当日、長官が有線放送で全国の自衛隊員に向かって鼓舞激励の演説をするという計画もあるそうでありまして、どうもそういう少し神経質な、またそういう対策をあらかじめ講ぜられるということは、どうも裁判に向かって、いま言われたような精神構造で向き合われるというようなことではないような気がする。
  227. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) それは九月七日の午前十時より判決が行なわれて、そしてその結果はどういう判決があるかもわからない。しかし、最悪の場合において、自衛隊の問題について重大な判決が行なわれることがあり得る。きわめて、ここらのところはいまの時点で言っていいかどうかわからないのですが、しかし、その場合に、自衛隊が、あるいは防衛庁が、あるいは政府のレベルだと思いますが、そういう政府というものが、そのことがあらかじめずいぶん前から予告されて、政府自身も裁判官の忌避を申し立て、却下されていて、そういう過去の事実がありながら、今回の判決が予想されているときに限って、それに対する声明なり談話なりの準備も何もしないということはまたおかしいのであって、それはそういうものを準備しておいても、裁判の結果が違えばそういうものは全然お蔵入りということで何にもならないわけでありますから、そこのところは全く既定概念をもって、こうであるときめつけておるものではないというものであります。
  228. 上田哲

    上田哲君 そういうことはやっぱり最小限の襟度でなければならぬと思うのですが、ところが、すでに防衛庁、自衛隊幹部に配られている。パンフレットによりますと、地裁の判決があったといっても、それは当該裁判所の一人の裁判官または一部の判断であって、必ずしもその地裁全体の考えとは言えないというような表現もある。これは私は、裁判の判決に対してどのような抗告権もありますから、それはいいでありましょうけれども、やはり裁判所の出す見解に対してここまで言い切るというのは、これはやはり多少の予断を持って迎え撃つということにならざるを得ないのではないか。十分にその判決の中身を熟読玩味して、その上しっかりした対策を講ぜられることはけっこうでありましょうけれども、いかにも予断を持たずということとはこれは違うことになるだろうと思う。これは私は少し行き過ぎではないかという気がいたしますが。
  229. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) その点は、これは私が責められてしかるべきだと思うのですが、陸幕においてそのような、おっしゃるような個所を含む一万六千部に及ぶ印刷をいたしたことは事実であります。このことは、幕は幕として、そのようなことについて非常な心配をして、過去の経緯も、事実上国側が有利であるという材料がなかなか発見できない環境の中にあれば、隊員の動揺、いわゆる判決の瞬間における動揺というものを事前に防ぎたいという意思はあったと思いますけれども、しかし、私が知ったのは、報告を受けたわけでもなくて、このようなものが出ているということを知った後において、幕僚長を呼んで聞いてみたら、出しましたということでありまして、私は、いま御指摘になったところとか、あるいはまた不利な判決が出ても、そんなことで一喜一憂するのは笑止であるとか、かといって有利な判決ができてもおどり上がって喜ぶなんということは必要ないんだとか、そういうようなことは、いわゆる判決の一種の既定概念を持ってそれに対する批判を、あるいはまた批判ということを形を変えても、いろんな対応という心がまえを事前に説いておることになる。したがって、この文章はその部分について穏やかでない点があるということで、これは別段公的な処分をしたわけではありません。今後このようなものは私の目を通さなければやってはならないということにしてあります。その後、私のもとで、私のテーブルの上において、幹部全部を集めて私がよろしいと申しました印刷物がきのうでき上がりました。これは全く客観的に、過去の経緯、国が敗れた忌避の経緯等もすべて網羅して、経緯を全部わかりやすく説明するにとどめた文書にしてありますので、これが防衛庁の私を含めた姿勢としては、判決以前の姿勢としては、少なくともその瞬間までは、われわれ防衛庁として、思惟に立ち入って、それに対する批判その他をしておる文書は、防衛庁の責任あるものとしては出ていない。しかし、幕においてそれが出たということについては、私の監督不行き届きな点がございます。
  230. 上田哲

    上田哲君 お認めになったところはけっこうであります。ひとつその資料ですな、私どもにも見せていただきたい、これをひとつお願いをいたします。いいですか、あとでいいですよ。
  231. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 幕の出しました。パンフレット、これは兵並びに幹部と両方分けてありますが、それと、私どもが私の責任においてつくりました文書、いずれもこれを委員全員にお渡しいたします。
  232. 上田哲

    上田哲君 そこで、もう一つありますのは、この長沼判決を控えまして、ちょうど判決の出る七日をはさんで、五日から二週間、札幌近郊の島松演習場で、第十一師団を主体にした大規模な対機甲演習を実施するということになっております。総監部の話では、この対機甲演習は第十一師団約五千二百名が参加、実動部隊としては第十普通科連隊二千四百人が攻撃、二十八普通科連隊千三百人が防御部隊、ここで実弾射撃も含めた戦闘訓練もやる。また六一式戦車百両のほか、対戦車誘導弾、六〇式百六ミリ無反動砲など、陸上自衛隊の主力対機甲砲火器が勢ぞろいして、航空自衛隊第二航空団所属のジェット戦闘機二十六機も参加する。こういう大訓練が、あたかもこの七日の判決にデモンストレーションをかけるがごとく行なわれるというのは、これはやっぱり。パンフレットよりも私はもっと音のするだけでもよくないことであると思う。冷静に、クールに判決を見守るという長官の先ほどの御発言からすれば、これはやっぱり見識いずくにありやということになろうと思う。すみやかに撤回されることが望ましいと思います。
  233. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) 先ほどの私の答弁中、また一つことばを、不穏当なことばを使いましたが、幹部と兵と申しましたのは、幹部と曹士と直しておきます。  それから、いまの演習ですが、これは長沼判決が何日に行なわれるかわからない段階における、毎年の各幕における業務計画において設定されたものでありまして、これはあらゆる環境、気象条件、場所、あるいはその他の輸送想定その他をきめて、相当前からこれはきめてあったものであります。また七日の日に、いわゆる音――ポンと音がしてもいかぬというのは十四日になります。その日は少しポン、ドカンという音がいたします。
  234. 上田哲

    上田哲君 これは音がしても、と言ったのは、私はまあ一言長官に誘導するつもりで申し上げたんでありましてね。先ほどのパンフレットにそれほど勇断を示された長官が、それは私は、わざわざこの日を目ざして軍隊を集結せしめ、音をさせようと思ったというふうにあえて誤解をして追及はいたしません。そういうふうに誤解をされないためにも、自衛隊がクールに、やはり国民の財産であると言われるならば、その国民の見識を示される地裁の判決を見守るという姿勢は天下に明らかにさるべきであって、みだりに、ここでこうした誤解を招かれる日をはさんで、音がするのは二、三日ずれるかもしれませんけれども、二週間に及ぶ大演習というものをこの七日をはさんで五日から始める。わずかに三日ずらせばいいわけでありますから、少なくともそのくらいのことが、命令一下機動性をもって鳴る自衛隊でその程度の変更ができないということになると、これは作為ありと言わなければならないと思います。これはやはり英断をもってこういう種類のことは処置をされることが自衛隊の見識ではないかと、防衛庁の見識ではないかと、私はあえて問いたいんであります。
  235. 山中貞則

    ○国務大臣(山中貞則君) これはどうもやっぱりあなたの頭の中には、どうせ政府は敗訴するんだからということが前提にあっておっしゃっているようです。――いや、頭の中ですよ、ことばには出ていないんですから。だから私たちは、九月七日に福島判決、これは通常いう長沼ナイキの判決が行なわれるということを踏まえて、しからばその判決がどのようなものであろうと、一大デモンストレーションを展開してやろうなどという、そういう不遜な気は毛頭ありませんで、これは、毎年の業務計画はずいぶん前から練って準備してあるものであって、そのことの結果いかんということに関係なしに、私たちとしては、やはり本来の自衛隊の業務というものを遂行するための演習の本年度の一つ行為であるということで、検討はしてみますけれどもね、しかし、かといって延ばせば、判決があったにもかかわらず何だとまた言われるでしょうし、これもまた私の頭の中に既成概念があっちやいけませんが、どのような判決があっても、そういうことになりますから、これは関係なしの、自衛隊が存在する以上の正常の毎年の訓練であるということで、何ら司法権に挑戦して実力を誇示するなんというものでは全くないということで、まあ検討はいたしますが、なかなかむずかしいと思います。
  236. 上田哲

    上田哲君 この島松演習場は、恵庭市内にあって、札幌市南方約三十キロ、長沼町と島松地区は約三十キロを隔てて東西に並んだ位置、ここでこれだけの大部隊が動くと、これは例年あることであることも知っておりますけれども、やはりこの時期に現実に地元では反対の声もあがっている。刺激的な行動であるというふうに受け取られていることも事実であります。あえて自衛隊のためと言ったら言い過ぎになるかもしれないけれども、この際、やっぱり姿勢を正されることが、勝ちを予断しているか、負けを予断しているかということではない。負ければおかしいだろうけれども、勝ったらまた図に乗るということにもなるでありましょうから、そういう立場で、その予断を持たずに、クールに、やっぱりこうした問題には手控えるということが、まあコンセンサスありとするならば、これを高めることになるのではないか。私はやっぱり山中長官のこの辺の見識というものを、いろいろな事情はあるでしょうけれども、この際示されることを大いに要望をして、期待をして、検討と言われましたから、その検討に今後期待を集めて、七日まで見守っていきたいと思っております。  時間が、約束の時間をもう越えましたが、さっき申し上げたように、たくさんありますし、長沼問題も当然あとに残るわけでありますから、約束の時間ですから、きょうのところは項目をたくさん残して一応終わることにいたします。
  237. 高田浩運

    委員長高田浩運君) ちょっと速記をとめて。   〔午後五時四分速記中止〕   〔午後五時二十四分速記開始〕
  238. 高田浩運

    委員長高田浩運君) 速記を起こして。本日の質疑はこの程度にとどめます。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十五分散会      ―――――・―――――