○吉岡政府
委員 大臣の
説明を補足いたしまして、
出入国法案につきまして、その概要を御
説明申し上げます。
附則を含めますと百条余りにのぼる
法案でございまして、また手続的な
規定を多く含んでおりますので、現行の出入国管理令と比較いたしまして、
改正したおもな事項に重点を置いて
説明をさせていただきたいと存じます。
なお事務局から、なるべく簡潔にという御注意がございましたので、お手元に差し上げました資料に基づきながらも、多少省略させていただきますことをあらかじめ御了承願いたいと存じます。
まず第一の柱は、外国人の出入国手続の簡易化でございます。
その
一つは、短期滞在者の出入国手続の簡素化でございます。わが国を訪れる外国人の大部分が、九十日以内の短期の滞在を
目的とし、しかも観光以外の用務によるものが著しく増加しておるにもかかわらず、現行の出入国管理令では、短期滞在者の在留資格が観光客に限られておるため、観光以外の用務による短期滞在者の入国手続がきわめて煩瑣でございますので、現行令第四条第一項第四号の観光客にかえまして、第三条第一項第十三号において、観光のほか、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習もしくは会合への参加または
業務連絡の
目的その他これらに類似する
目的で短期間本邦に滞在する者の在留資格を設けまして、いわゆる短期滞在者というものの
範囲を拡大しまして、その上陸手続の簡素化をはかることといたしました。この短期滞在者の在留期間は現行の六十日にかえまして、政令で九十日間を予定しておる次第でございます。
その二は、査証を必要としない一時上陸の許可を受け得る対象者の
範囲の拡大でございますが、第十六条は、査証を必要としない「一時上陸」について
規定しておるものでございまして、現行令第四条第一項第三号及び第十四条から第十八条までの
規定を整理したものでございますが、この
法律案では、現行令が全般的に船舶の乗客、乗員の上陸を中心としているほか、わが国に入国したときと同一の船舶等により出国する場合に限定して一時上陸を許可することとしておる不都合を改めまして、航空機の乗員・乗客にも同一の取り扱いをするとともに、航空機等を乗りかえて出国しようとする場合にも許可できることといたしまして、一時上陸を許可できる場合を大幅に拡大し、かつ、上陸を許可する期間を長くいたしまして、国際旅行の途中短時日の観光等を希望する外国人の一時上陸を容易にすることによりまして、出入国手続の簡易化の国際的要請に応ずることといたしました。すなわち、同条第一項におきましては、現行令がその第十四条から第十六条まで、及び第四条第三号に
規定をしておりました「寄港地上陸」、「観光のための通過上陸」、「転船上陸」及び「査証を必要とする通過客」を
一つにまとめまして、入国審査官は、乗員または通過者が、船舶もしくは航空機を乗りかえるため、または臨時観光その他の一時的用務のために、出入国港の周辺に上陸する場合にあっては七日、他の出入国港におもむく場合にあっては十五日をこえない
範囲内で、船舶もしくは航空機の長または運送業者の申請に基づいて一時上陸を許可することができることといたしました。
第二の柱といたしましては、外国人の在留制度の改善でございます。
その
一つは、時代の要請にこたえる在留資格制度の確立でございます。第三条は、在留資格及び在留期間について
規定しておりますが、同条第一項においては、在留資格、すなわち外国人が、特定の身分を有する者または特定の
活動をすることができる者として本邦に在留することができる資格について
規定しておりまして、現行令第四条第一項に相当いたしますが、在留資格制度を、広く
経済、文化、スポーツ等の各分野における国際交流に対応することができるようにするとともに、国民の職域等に悪影響を及ぼさないように配慮し得るように改めまして、わが国において在留を認める外国人の身分または
活動を列挙いたしまして、外国人に入国、在留を認める場合には、その身分によって、または一もしくは二以上の
活動をもって在留資格を
決定することといたしまして、同条第二項におきましては、外交官等及び永住者以外の在留期間は、三年の
範囲内で政令で定めることといたしました。
その二は、在留資格の変更について改めたことでございます。第二十二条は、「在留資格の変更」について
規定したものでございまして、現行令第二十条に相当しますが、現行令では、在留資格の変更が認められますのは、商用
活動者など
一定の在留資格を有する外国人に限られておるのを改めまして、いかなる在留資格を有する外国人も、相当の理由があるときは、すべて、他の在留資格への変更ができることといたしました。
その三は、出国猶予期間の新設でございます。第二十五条は、在留の延長が認められない場合でございましても、出国準備のため六十日の
範囲内で出国猶予期間を定めまして在留を許可できることとし、やむを得ない不法残留の生じないようにしたものでございます。
その四は、在留外国人身分証明書発給制度の新設でございます。第二十八条は、「在留外国人身分証明書」につきましての新設
規定でございますが、無国籍者等旅券を取得できない特別の事情のある外国人に対しまして、本法の適用上旅券にかわり得る在留外国人身分証明書を発給し得る制度を設けました。
その五は、再入国許可制度の改善でございます。第三十一条は、「再入国の許可」について
規定したものでございますが、必要があると認めるときは、その許可を数次再入国の許可とすることができることといたしました。それから第三項及び第四項は、新設の
規定でございますが、再入国の許可を受けて出国中の人が、その有効期間内に再入国できない相当の理由があるときは、一年をこえない
範囲で有効期間の延長を許可することができることといたしまして、その事務を
日本国領
事官等に委任することといたしました。
その六は、政治
活動に対する規制の法制化でございますが、第二十条に、「中止命令」についての
規定を新設いたしまして、外国人として在留国においては当然慎んでもらわなければならない
一定の政治
活動をした者に対しまして、まずその
行為の中止または反復禁止の命令を発しましてその是正を求め、これに従わないときに処罰または退去強制の手続を進めることといたしました。
第一項においては、地方入国管理官署の長は、
日本国の
機関、すなわち国会、内閣及びその統轄下にある各省等において
決定いたしました政策の実施に反対する公開の集会もしくは集団示威運動を主催または指導をした外国人、あるいは、公衆に対しまして、
日本国の
機関において
決定した政策の実施に反対することを扇動する演説、文書図画の頒布等を行なった外国人に対しまして、書面をもって、その
行為の中止または同種
行為を反復しないことを命ずることができることといたしました。ただし、永住者はその地位にかんがみましてこの中止命令等の規制の対象外といたしました。
第二項におきましては、地方入国管理官署の長が右の政治
活動をした外国人に対し中止命令等を発する場合には、手続を慎重にするために
法務大臣の承認を要することといたしました。
第三の柱は、退去強制手続の合理化でございます。
その
一つは、収容の手続を改めたことであります。第四十八条は、「収容令書による収容」について
規定したものでございますが、現行令第三十九条ないし第四十三条並びに第四十七条第一項、第四十八条第六項及び第四十九条第四項の
規定に相当いたしますが、現行令では、退去強制手続を進めるには、必ず容疑者を収容しなければならないとしているのを改めまして、外国人の人権尊重により一そうの配慮をする
趣旨から、容疑者が退去強制事由に明らかに該当し、かつ、逃亡し、または逃亡のおそれがあるときに限って収容することができることといたしますとともに、収容期間も現行令の六十日以内を四十日以内に短縮いたしまして、かつ、収容の事実を被収容者の指定する在留者に通知しなければならないことといたしました。
その二は、特別在留許可制度を改めまして、退去強制事由該当者の行政救済面の充実拡大をはかったことでございます。第二十七条は、
法務大臣の「特別在留許可」について
規定したものでございますが、現行令においては、
法務大臣による特別在留許可の認められますのは、退去強制の手続が行なわれ、異議の申し出をした場合に限っておるのを改めまして、特別に在留を許可すべき事情があるときは、いつでも与えることができることといたしました。すなわち、
法務大臣は、退去強制事由に該当する外国人であっても、その者が、
日本人の親族でその扶養を受けているものであるとき、本邦に本籍を有したことがあるとき、永住の許可を受けていた者であるとき、その他特別に在留の許可を受けるべき事情があるときは、いつでも特別在留許可をすることができることといたしまして、さらに本人の救済をはかるため、地方入国管理官署の長も特別在留許可の上申をすることができることといたしました。
なお、退去強制手続が進められました場合でも、
法務大臣が異議の申出を理由がないと裁決いたしました場合には、特別在留許可をするかどうかの判断をしなければならないことを明らかにいたしております。
その三は、任意退去を優先させる制度の採用でございます。第四十六条は、「退去強制令書の執行」について
規定したものでございますが、任意退去にはすべて許可を必要とする現行令第五十二条の制度は、外国人の人権尊重の精神から、これを改め、退去強制令書の執行当初において、十五日以内は、本人が希望する国へ向けみずから国外退去をすることについて許可を要しないことといたしまして、その間、入国警備官による送還を行なわないことといたしました。なお、十五日を経過した後におきましても、地方入国管理官署の長は、任意退去を許可することができることとなっております。
その四は、退去強制者の送還先について特別の配慮をしたことでございます。第四十五条は、「送還先」について
規定したものでございますが、外国人の人権尊重の精神から、現行令の
規定しております本国送還の原則を緩和いたしました。すなわち、強制送還先は、まず、退去強制される者の国籍または市民権の属する国といたしますが、本国に送還することが不可能な場合に限らず、本国に送還することが適当でない相当の事情がある場合にも、本国以外の国に送還できることといたしまして、その場合、本人の希望する国を送還先に指定しなければならないこと、その者が希望する国を申し出ないとき、または希望する国に送還できないときは、本人の意思をできる限り尊重して、親族が居住しておる国その他の国を送還先とすることができることといたしまして、さらに、地域を特定いたしまして送還することが相当であるときは、その地域を送還先とすることができることといたしまして、これらの
規定によりまして、いわゆる政治的亡命者についても妥当な取り扱いがなされ得るように配慮いたしました。
第四の柱は、出入国管理行政事務の改善でございます。
その
一つは、船舶または航空機の乗員に対する配慮をしたことでございます。
その二は、
日本人の出帰国手続の迅速化をはかり得るようにしたことであります。第五十九条は、本邦外の地域におもむく意図をもって出国しようとする
日本人は、有効な旅券を所持し、出入国港において入国審査官から出国の確認を受けなければならないことといたしまして、第六十条は、本邦外の地域から本邦に帰国する
日本人は、有効な旅券を所持し、出入国港において、入国審査官から帰国の確認を受けなければならないことといたしましたが、現行令第六十条及び第六十一条で出国の証印または帰国の証印としておるのを出国の確認または帰国の確認といたしましたのは、手続の簡素化を考慮に入れたものでございます。
その三は、重要犯罪人の国外逃亡防止をはかり得ることとしたことであります。第三十条は、諸外国の例にならいまして、外国人の「出国確認の留保」について新設したものでございますが、重要犯罪を犯した疑いのある外国人の国外逃亡を防止するため、死刑、無期もしくは長期三年以上の懲役、禁錮にあたる罪につき訴追されておる者等につきまして
関係機関から通知を受けておるときは、二十四時間を限りまして、その者について出国の確認を留保することができることといたしまして、出国の確認を留保したときは、通知をした
機関にその旨を通報しなければならないことといたしまして、この二十四時間の期間内に司法
機関等が刑事手続等を適正に実行し得るようにいたしました。
その四は、被収容者の処遇について配慮したことでございます。第七十条は、収容令書または退去強制令書により収容されております者の処遇に関する
規定でございまして、現行令第六十一条の七に相当しますが、新たに、被収容者の本国政府の外交官もしくは領
事官または
代理人もしくは弁護人である弁護士と被収容者との間の面会または通信については制限等をしないこと、及び被収容者から処遇に関して不服の申し出があった場合には処理結果を申し出人に告知することを明文化いたしました。
最後に第五の柱は、戦前から引き続きわが国に居住する朝鮮人、台湾人及びこれらの子につきまして、その在留の経緯、特殊性を十分考慮いたしまして、種々の
特例を設け、
一般外国人に比べ優遇措置を講じたことでございます。
附則第十四条は、昭和二十七年
法律第百二十六号の一部
改正について
規定いたしましたが、同法第二条第六項に該当する者、すなわち戦前から引き続きわが国に在留する朝鮮人及び台湾人とそれらの者の子で平和条約発効の日までに出生した者、これらの者は以下法一二六−二−六該当者と申し上げますが、この法一二六−二−六該当者は、同条約発効の日にみずからの意思にかかわりなく
日本国籍を喪失した特殊性にかんがみまして、同条項により、在留資格を有することなく本邦に在留することができることとされてきたのでありますが、これらの人々は、この
法律の
施行後も引き続き在留資格を有することなく本邦に在留することができることといたしております。
附則第十六条は、法一二六−二−六該当者及びその子についての優遇措置等を
規定したものでございます。
第一項におきましては、法一二六−二−六該当者は、政治
活動の中止命令等、再入国及び退去強制に関しては、永住者と同様に扱うこと、すなわち、中止命令等の
規定は適用せず、また、らい患者、精神障害者、覚せい剤の慢性中毒者もしくは麻薬中毒者または貧困者等公共の負担となるおそれのあるものであることを、退去強制事由とせず、また再入国に際しましての上陸拒否事由としないことといたしまして、第二項及び第三項におきましては、法一二六−二−六該当者が永住資格その他の在留資格の取得を希望いたしますときは、永住その他の在留資格を取得できる道を開きました。
第四項及び第五項におきましては、法一二六−二−六該当者の子として出生した者につきまして、その
範囲を明確にするとともに、これらの人々は、終始出生時の身分を維持することができるほか、この
法律の適用上永住者の家族とみなし、したがって資格外
活動の規制を受けないことを明らかにいたしまして、また、その親と同じく、政治
活動の中止命令等の適用を除外いたしまして、退去強制事由及び再入国に際しての上陸拒否事由につきましても、その一部の適用を除外することといたしましたほか、在留の延長申請の手数料を免除することと
規定いたしました。
第六項及び第七項におきましては、右の者の子として出生した者につきましては、終始出生時の身分を維持することができるほか、この
法律の適用上永住者の家族とみなし、したがって資格外
活動の規制を受けないこととするとともに、在留の延長申請の手数料を免除することといたしました。
第八項におきましては、法一二六−二−六該当者及びその子の配遇者は、いずれもこの
法律の適用上、永住者の家族とみなすことを
規定いたしまして、したがって資格外
活動の規制を受けないことを明らかにしております。
附則第十七条は、出入国管理特別法の
規定によりまして永住の許可を受けている者、すなわち日韓協定による永住者に対するこの
法律の適用について
規定いたしまして、政治
活動の中止命令等の適用除外、再入国の際の上陸拒否事由の一部適用除外及びその家族の取り扱いを、法一二六−二−六該当者と同様に
規定しました。
以上でございますので、本
法案につきましてすみやかな御審議をいただきまして、本
法案の成立をお願いいたしたい次第でございます。
以上をもって
説明を終わります。