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1973-06-07 第71回国会 衆議院 内閣委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年六月七日(木曜日)    午前十時二分開議  出席委員    委員長 三原 朝雄君    理事 奥田 敬和君 理事 加藤 陽三君    理事 笠岡  喬君 理事 中山 正暉君    理事 藤尾 正行君 理事 大出  俊君    理事 木原  実君 理事 中路 雅弘君       赤城 宗徳君    上田 茂行君       越智 伊平君    大石 千八君       近藤 鉄雄君    丹羽喬四郎君       旗野 進一君    林  大幹君       三塚  博君    村岡 兼造君       吉永 治市君    上原 康助君       坂本 恭一君    山崎 始男君       横路 孝弘君    和田 貞夫君       木下 元二君    東中 光雄君       鈴切 康雄君    受田 新吉君  出席国務大臣         内閣総理大臣  田中 角榮君         国 務 大 臣         (総理府総務長         官)      坪川 信三君         国 務 大 臣         (防衛庁長官) 山中 貞則君  出席政府委員         内閣官房長官 山下 元利君         内閣法制局長官 吉國 一郎君         内閣法制局第一         部長      角田礼次郎君         総理府総務副長         官      小宮山重四郎君         総理府総務副長         官       宮崎 清文君         内閣総理大臣官         房総務審議官  宮崎 隆夫君         総理府賞勲局長 吉原 一眞君         防衛政務次官  箕輪  登君         防衛庁参事官  大西誠一郎君         防衛庁長官官房         長       田代 一正君         防衛庁防衛局長 久保 卓也君  委員外出席者         法務省刑事局刑         事課長     根岸 重治君         内閣委員会調査         室長      本田 敬信君     ————————————— 委員の異動 六月六日  辞任         補欠選任   越智 伊平君     高見 三郎君   近藤 鉄雄君     染谷  誠君   竹中 修一君    橋本登美三郎君   林  大幹君     篠田 弘作君   東中 光雄君     瀬崎 博義君 同日  辞任         補欠選任   篠田 弘作君     林  大幹君   染谷  誠君     近藤 鉄雄君   高見 三郎君     越智 伊平君  橋本登美三郎君     竹中 修一君   瀬崎 博義君     東中 光雄君 同月七日  辞任         補欠選任   伊能繁次郎君     上田 茂行君   竹中 修一君     村岡 兼造君 同日  辞任         補欠選任   上田 茂行君     伊能繁次郎君   村岡 兼造君     竹中 修一君     ————————————— 六月六日  靖国神社法制定に関する請願外五件(正示啓次  郎君紹介)(第六〇三一号)  同外十件(小川平二紹介)(第六一九三号)  同外五件(海部俊樹紹介)(第六一九四号)  同(羽田孜紹介)(第六一九五号)  官公労働者ストライキ権回復に関する請願  (井上普方紹介)(第六〇三二号)  同(佐野憲治紹介)(第六〇三三号)  同(阿部未喜男君紹介)(第六一一七号)  同(井岡大治紹介)(第六一一八号)  同(大柴滋夫紹介)(第六一一九号)  同(不破哲三紹介)(第六一二〇号)  同(堀昌雄紹介)(第六一九六号)  同(山田耻目君紹介)(第六一九七号)  同(和田貞夫紹介)(第六一九八号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国の防衛に関する件      ————◇—————
  2. 三原朝雄

    三原委員長 これより会議を開きます。  国の防衛に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大出俊君。
  3. 大出俊

    大出委員 いわゆる増原発言、こういわれております件につきまして、各新聞皆さんなり週刊誌その他、ずいぶん広範囲にいろいろな論点から取り上げられておりますが、私はまずもって、私どもの党が現行憲法をとらえまして、民族悲劇歴史の上にでき上がった憲法でございますから、これを平和憲法という規定をいたしまして、右寄りの改悪論もたくさんございますので、守り抜くんだ、しかもこれを完全実施をするのだという長い運動を続けてきているわけでございますが、私ども立場はそういう立場である。  そこで、いま問題になっております増原さんの発言、これについて多くの学者の諸君その他がいろいろなことを書いておりますが、これは単なる憲法の解釈上の問題だけではない。あるいは新聞が発表している政府統一見解と称するものがございますが、真偽のほどはわかりませんが、単なる小手先の議論で逃げるとか、そういう筋合いのものではない。つまり新憲法ができた歴史的な経過と申しますのは、二百四十万からの若い諸君がなくなりまして、悲惨な大東亜戦争あるいは第二次大戦が行なわれて、そうした悲劇反省の上に九条を明確にしている不戦の憲法ができたんだというふうに考えておりますから、そういう意味で、天皇地位という問題に関しましても、国民統合象徴という、こういう規定ができ上がっているのだと思っているわけであります。だからその意味では、単なる制度論ではなしに、天皇にも、また私どもにも、あるいは総理にいたしましても、この民族悲劇歴史の上に生まれた憲法というものをどう守っていき、再び軍国主義などということにまかり間違っても進んでいかないようにささえていかなければならぬ責任義務があると、私は次の世代に向かって強くひとつ主張したいわけでありまして、だからこそ、事実行為を明らかに、かつまた経過を明らかにしたいということで増原さんの御出席をお願いをしたのですが、これが不可能であるという結果になりました。そうなりますと、事実確認に欠ける点が出てきはせぬかという点を懸念をいたします。これから申し上げることに率直にお答えをいただきたいのですが、どうしてもこれは事実確認に大きな相違があるとすれば、この質問を途中で打ち切っても、あらためて増原さんの御出席をいただかなければならぬ、こう実は心配をいたします。  そこで総理に承りたいのですが、増原氏がこの二十六日の記者会見で、六人ばかりおいでになりましたね、記者団方々に、いわゆる内奏ということばはありませんけれども、いわゆる内奏、このとき天皇と話し合いをされたその中身なるものを発表されているわけであります。つまり、新聞が書いた、国民皆さんが見た、書くからには増原氏がしゃべったことになる。とすれば、増原氏が天皇と話した中身を言ったことになる。この事実をまず総理がお認めになるかどうか。私も総理新聞は見ているはずであります。たくさんの人の話を聞いているはずであります。こういうことがあった、このことについて総理がすなおにこれをお認めをいただきたいと思うのでありますが、いかがでございますか。
  4. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 増原防衛庁長官が宮中に参内をしたときに、いろいろなことを申し上げたということは事実であります。その後記者会見記者懇談でございますか、そういう機会にその模様を話したということも事実だと思います。これは新聞に報道されたわけでありますから、新聞記事を見て承知をしたわけでございます。  その後増原長官から、事実を申し述べるという過程において、まあ表現はいろいろあると思いますが、自分が述べたということ自体に対して適当でなかったということと、それから陛下が御意見を述べられたごとき印象を与える記事になった。なったということは、そういうことを増原氏が述べたわけでしょう。その結果に対して、明確に事実はなかったのだということをまず確認をいたしたわけであります。しかし、このような誤解を生むような状態を起こした責任というものを痛感して、国務大臣の職を辞したいということでございましたから、いろいろ事実の中には、これは御本人でなければわからない問題がたくさんございますが、以上のような事情で職を辞したということから考えても、いろいろな御指摘のような事情が、一連の事情があったということは報道されたとおりである、こう考えます。  ただ、ここで明確にしておきたいことは、御説明に対して陛下から御意見の発表があったというように印象づけられたようであるが、その事実は全くなかったのである、そのように印象づけられるような記事ができた真の責任自分にあるのだ、その責任を負います、こういうのが結論でございます。
  5. 大出俊

    大出委員 たいへんこれは重要なことでございますから、私も記者諸君と会いましてこまかく聞いてみました。ここでいま申し上げますが、その上に立って、もう一ぺんそこのところを明らかにしていただきたい。  まず、増原氏の内奏がきまったのは、二十五日の朝の閣議でございます。あなたは御存じのとおりであります。二十六日の川島利雄スーダン大使中野次雄大阪高裁長官認証式増原長官が侍立をする、これが閣議中身でございます。閣議後の記者会見増原氏はこの経過を披露した。数社の記者皆さんから、内奏あと模様を話してもらえぬかという話をして、たいへんごきげんよく、はいはいと約束をされた。次に、二十六日の正午に皇居から帰った増原氏が、親しい記者方々六人のところで内奏模様お話しになつた。この記者団方々は、話の内容をいわゆるカッコ、囲みの中の記事にする。通称箱というのでしょうか、あらかじめ了解を得てやった、こうおっしゃっている。  増原さんの話を聞いて記者団の方もびっくりした。まず第一に、チャートやグラフを使って近隣諸国政治情勢自衛隊の沿革などを陛下にお記し申し上げた、こう増原さんが言っている。陛下ら熱心なお尋ねがあって これはたいへん問題でございますが、新聞に出ている事故などの不祥事を防止しながら隊員の士気を高めることはむずかしいだろうが、そういう対策はどうなっているのかとお尋ねになった。陛下は実によく新聞を御検討になっているようでございますねと、こういう増原さんのことばがつけ加わっている。次に、自衛隊部隊数周辺諸国より少ないのに、新聞などで四次防で自衛隊が飛躍的に増強されると指摘しているのはなぜかとお聞きになった。また、近隣諸国に比べて自衛力がそんなに大きいとは思えない、国会でなぜ問題になるのかともお聞きになった。これは新聞カッコ欄にはチャンポンに出てくる。四次防が出てきたり、あるいは自衛力が出てきたりいたします。そしてその次に、国の守りは大事なので、旧軍の悪いところはまねせず、いいところは取り入れてしっかりやってほしい、こうおっしゃった。長官は、防衛二法の審議を前にしてたいへん勇気づけられました、こういうふうにお話しになった。私は何人かの方に承ってみましたが、こう言っておられるわけです。  そこで、記者団に発表された事実は、あなたはお認めになった。ただ、あなたが増原氏ではないから、陛下との間で増原さんがどういう話をされたか、それはおわかりにならぬでしょう。私も同様でございます。しかし、聞いた人がおり、書いた人がおり、一人ではない、六人だ、こういうことになりますと、ここまでのこの経過というのを、あなたはいま何とおっしゃったかというと、記者諸君いろいろ話をしたのですけれども増原さんの辞任の弁、ここで、天皇陛下から国政に関する御発言があったという事実は一切ございませんと、これは二回繰り返しておられる。ということなんだという、いまそういうお話。  これはあなたが、そういうふうにしらばっくれてもだめですよ。これは実は新聞方々が一生懸命まとめておられまして、経過が明らかになっている。そうじゃない。いま最後増原さんのことばというのは、そういうことに御相談の上でしたんだ。長いこと読み上げませんけれども総理もたいへん御心配になって、関係方々何人もお集めになったり、事、天皇御一家にかかわることだからというので、ずいぶん慎重に法制局意見を聞いたりおやりになった。そうして記者の方が経過をずっと書いている最後だけ申し上げますが、つまり結局これは、増原さんが内閣委員会意見を述べたい、経過説明したいとも言っている。参議院の平井さんにも会ってそういうことを述べておられる。それらの結果、結局、増原長官辞任記者会見の席上、天皇陛下から国政に関する御発言があった事実は全くないと発言することで決着をつけることにした。あなた方が決着をつけることにした。いかがでございますか。
  6. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 そういうことはないです。増原大臣は今件に対しては、閣議でも一切発言はいたしておりません。それから、陛下に上奏申し上げたり内奏という、まあことばの問題ありますが、俗にいわれる内奏というときには、これはだれも立ち合わないのでございます。これは陛下の御前で御説明を申し上げるということでございまして、私も間々参上するわけでございますが、これは全く余人は交えておらないわけでございます。そうしていま記者諸君いつでも、私も内奏に参上しました帰り道は、どうでございましたということをよく聞かれます。たいへん御元気でおられた、こういうことだけでございます。これはまあずっと古い時代からそういうことになっておるわけでございますし、現実的に私もそう答えておるわけでございます。災害などがあった場合、災害の状況はどうかというような御下問がありまして、万全の対策を講じております、それから災害を受けた人々が立ち上がれるように政府も十分配慮いたしております、こういうことを申し上げるわけでございますが、そういうような状態はここで初めて申し述べるわけでございまして、新聞記者諸君にはどうもあまり悪いなあと思っておっても、ごきげんはしごくうるわしかった、御健康のていでございました、こう申し述べるだけであって、私たちはもうそういうことが原則になっておるわけでございますので、増原防衛庁長官がそういうことを述べたこと自体新聞承知をしましたが、その間、増原氏に対して事情を聞いたり、閣議で報告を求めたりは全然しなかったわけでございます。しかも増原防衛庁長官、五月二十六日の認証式云々というのは文書を持ってまいったわけでございまして、これは内閣でもっていろいろ相談鳩首会議の結果このようにしたものではない。全く増原大臣のみずからの発言であって、これをそのまま御信用いただきたい。
  7. 大出俊

    大出委員 長い答弁は要りませんが、ポイントをお答えいただきたい。時間の関係で延びては、あなたもお困りになるから。  そこで、御信用いただきたいというなら、増原氏が辞任にあたって述べた、先ほど私が引用いたしました、正確に言いますが、天皇陛下から国政に関する御発言があったという事実は一切ございません、こういうことならば、何で一体、先ほど私が読み上げた、近隣諸国自衛力に比べて日本自衛力がそんなに大きいとは思えない、国会などでなぜ問題になるのだとか、四次防がそんなに大きくはないのに、新聞がこれで飛躍的に自衛隊が増強されると指摘するのか、などということをなぜ言うた。ほんとう天皇が何も言わなかったということだとすれば、増原氏が、憲法四条で明確にきまっている国政に関する権能を有しない天皇——九十九条があるのですから、閣僚憲法順守義務があります。そのことを知らないはずはない。その増原氏が事もあろうに、何にも言わないのに——いま私が読み上げたことは新聞に載っているんだから、国民のみんなが知っている。天皇のおことばだと思っている。全く捏造してこういうものを記者にしゃべったんだということになるとすれば、あなたが任命した閣僚が、ペテンとうそで固めて、軍事的にいまの防衛力というものを正当化しよう、合理化しようということで、全くもって天皇を利用したということになる。それをあなたが任命した閣僚、ただじゃほうっておけませんよ、そんなことならば。  あなた、最後締めくくり増原氏が言ったことば記者会見での辞任の弁は、天皇に御迷惑をかけたくないからという意味の配慮でこういうことを増原さんが最後におっしゃったというなら、それなりに、私も政治をやっているんですから、わからぬわけではない。何か自作自演天皇をかつぎ出して、天皇がおっしゃりもせぬことをかってにべらべら記者にしゃべって、中身は、防衛二法について激励されたまで言ってしまっている。自作自演自分で取り消して事済むんじゃない、これは。政治的な締めくくり発言で、天皇に御迷惑をかけたくないという真意であったというなら、それでいい。言ってしまっておいて、そんなことはなかったんだというふざけた話は認められない。詭弁じゃいけませんよ。ちゃんとはっきりしてください、これは。
  8. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 先ほども述べましたとおり、増原大臣からこの間の事情を聴取をするということはなかったのであります。閣議における自発的な発言もなかったのであります。増原氏が私に申し出たものは、お手元にある辞任の弁だけでございます。しかも前段だけお読みになりましたが、私の新聞記者に対する説明が意を尽くさなかったため誤解を与えたことはまことに申しわけなく、というくだりがございます。その新聞記者に対する説明が意を尽くさなかった、誤解を与えたということに対して、この際その責任を負って辞職をいたしますと、こういうことでございます。閣僚でも私でも、いやしくも陛下を、政策遂行のために皇室を利用するなどという考えは毛頭ありません。
  9. 大出俊

    大出委員 その点が明らかでないと、もう一ぺん増原さんにお出かけいただかなければならぬ。質問ができないことになる。とりあえずお引き取りをいただいて、増原氏がもう一ぺん出てくるまで待っていただくよりしかたがないことになる。だから私は、そういう言い方をなさらぬで、念を押しますが、国民皆さんは、このたくさんの新聞がお書きになったんだから、まともに読んでおられる。天皇のおことばだといって増原さんが話をしたのですから、そう受け取っておられる。重大なことです。ならば、その国民のそうした認識をこの席上で明らかにする責任義務政府と私ども議員にある。しかも事、憲法にかかわる問題だから、正しく議論をしておく必要が将来の日本のためにある、私はそう思う。だから、逃げていただいては困るから、増原さんの御出席を求めた。いまあなたの答弁でいけば、それは逃げだ。それじゃ困る。まともお答えをいただきたい。  そこで私は、先ほど読み上げましたこの事実。自衛隊部隊数周辺諸国より少ないのに、新聞などが四次防で自衛隊が飛躍的に増強をされると指摘しているのはなぜかと天皇がお聞きになったという。近隣諸国に比べて自衛力がそんなに大きいとは思えない、国会でなぜ問題になるのかと、新聞国会に対してものを言っておられる。大きな問題であります。国会はこれを解明する責任がある、国会にものを言っておられるのだから。国の守りは大事なので、旧軍の悪いところはまねせず、いいところは取り入れてしっかりやってほしいと言われた、防衛二法の審議を前にしてたいへん勇気づけられました、こう長官は語っておられる。このことについて、新聞であなたはお読みになったと思う。国民はもう一緒に読んでおられる。これがほんとうにこのとおり天皇がおっしゃったかどうかという点は、本人増原さんでなければわからない。あなたも私もそれは同じ立場だ。だが、私は新聞に出たこのことについて明確にしておく必要があると思うのですが、いかがでございますか。はっきりしておかなければ国民が困る、あなたも私も困る、そう思いますが、いかがでございますか。仮定でもいい。
  10. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 仮定の問題でお答えをすることは適当でない、こう考えます。すべて事実をもって答えるべきであります。事実に対しては、先ほどから述べておりますように、私は増原氏が本件に対して閣議発言もしないし、私もこの事実を増原氏からただしておらないということは事実であります。
  11. 三原朝雄

    三原委員長 不規則発言を禁じます。
  12. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 ですから、増原氏の本件に対して結論を出されたことは、これもまた新聞に報道されておるのであります。前段ばかり報道されておるのではなく、ちゃんと報告されておるのであります。そういう意味で私は、公式に増原氏が職をかけて出したものを信ずる以外にはないのでありますし、私は少なくとも国政に影響を及ぼすような御発言がなかったということは信じております。それは、私たちがいままで内奏を申し上げるときでも、そのような御発言はなさらないのでありますから、その間にどういう事情の食い違いがあったかもしれません。あったかもわかりませんが、私は、増原氏が報道せられた記事を見て、自分新聞記者誤解を与えるような発言をしたことは、国務大臣としてはなはだ申しわけないのでいさぎよく責めを負いますと、こう言っておるのでありますから、その事実を申し上げる以外にありません。
  13. 大出俊

    大出委員 総理、あなたのお立場もあろうと思うから、いま新聞皆さんがお書きになったことをとらえて、これが全部天皇がおっしゃったことかどうかということについては、増原氏がいないのだからお互いにそこまではわからぬ。新聞に報道された事実について、文章についてはっきりさせておく必要があると、こう申し上げて、あなたの立場もあるから、仮定の論議になってもいいと、こうまで私が言っているのに、あなたがそういう答弁をされるのだとすれば——あなたは新聞にある事実は認めたのでしょう。さっき私に、お読みになったと言ったでしょう。あなたが読んだとひとしく国民も読んでいる。それでもなおかつ、あなたがいまの逃げ方をなさるなら議論にならない。増原氏に出ていただくよりない。だがもう少し議論を進めましょう。その上で私も腹をきめます。私は新聞に書いてあることで言う。仮定じゃない。新聞に書いてある。  まず第一番目の問題は、さっきあなたは、増原さんがかってにおやめになったという意味のことを言ったが、あなたが任命した長官なんだから、辞表を持ってこられたって、あなたが受け取ったということは辞任認めたことになるのだから、その増原さんがしゃべったことが記事に載っているのだから、中身について聞いてみて、あなたの御答弁いかんによっては相談をさせていただきますが、私はこのいまの新聞記事箱記事天皇は今日の憲法によって国民統合象徴という意味象徴天皇という地位おいでになる。ところが、この一番最初からずっと読み流してみて、国の守りは大事なので、旧軍の悪いところはまねしないで、いいところは取り入れてしっかりやってほしいという、かりにこういう発言をなさったと仮定すると——これは新聞に載っかっているんだから。ただ、あなたも私も増原氏でないから、天皇に会っていないというところは仮定だ。この新聞記事によると、この天皇がもしこういうふうにおっしゃった、新聞記事のとおりであるとすると、これは、旧軍隊もいまの自衛隊も、旧憲法も新憲法も全くごっちゃだ。新憲法に対する憲法感覚というものを疑わざるを得ない。全く理解しておられないと解さざるを得ない。これは実は私は重大な責任だと思います。憲法九十九条は、天皇にしても、摂政にしても、閣僚にしても、私ども議員にしても、今日の憲法を擁護する責めを負っている。たいへんなことだ。私は、この記事で言うなら、これは重大な責任がある。二百四十万の日本軍隊は死んでいるのですから。民族悲劇歴史反省の上にできているのですから。そうすると、旧軍の悪いところは取り入れないで、いいところを取り入れよという。何が一体いいところだ。精強無比でたくさん死んでいったのがいいところだなんて、えらいことになっちゃう。自衛隊軍隊ではない。そうだとすると、この記事に関する限り天皇責任がある。だが、さらに突き詰めてみると、天皇責任ということになるのか、それとも内閣責任ということになるのか、一体いずれかという問題にぶつかる。すなおにお答えいただけませんか。
  14. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 増原氏の辞任の書にも書いてありますように、そのような事実はなかったのだ、こういうことを御本人が明確にしております。同時に、いままでの経験からいたしましても、陛下がそのような御発言をなさるはずはないというふうに私も自信を持っております。そういう意味で、誤解を与えた、意を尽くさなかった、責めを負うて職を辞します、こういうことでありますので、陛下がそのような御発言をなされたということは信じておりません。
  15. 大出俊

    大出委員 重ねて聞きます。それはすれ違ってもあるところまで行きます。せっかくおいでいただいたのだから。お帰りいただきたいなんということはあとから言います。  次に、自衛隊部隊数周辺諸国より少ないのに、新聞などが四次防で自衛隊が飛躍的に増強されると指摘しているのはなぜかと聞かれた、こう書いてある。書いてないことを言っているのじゃない。書いてある。ということになると、今日、国論を考えてみると、先ほど来申し上げている、第二次大戦というたいへん悲惨な民族歴史を踏まえてできた憲法でございますだけに、憲法九条で、陸海空その他の戦力を放棄する戦力放棄の条項がある。だからこそ、自衛隊は違憲ではないかということ、あるいは違憲であるということ。また皆さんのサイドで自衛隊の合憲を求める、そういう形で大きく二分をされている。いまその意味憲法裁判も進んでいる。幾つかぎりぎりのところへ来ている。ただ裁判所は、この問題について、自衛隊が合憲であるとも違憲であるとも確定判決は下していない。砂川判決でも、自衛隊が戦力であるかないかは別としてとたな上げしている。確定判決はない。有権解釈はない。  こういう時期に、あたかも、増原氏が記者に発表されました天皇のおことばというものからすれば、四次防というものは小さいんだ、これで飛躍的に増強するなんということはどうもおかしくないかと新聞が書くけれどもと、つまり四次防肯定の立場に立っておられる。少なくとも、この国会でも、私ども社会党をはじめ野党四党の方々は、ニュアンスの相違はいろいろあるけれども、四次防に反対の立場に立っている。だとすると、天皇が肯定をする側にお立ちになる御発言国民統合象徴としてやるべきではない、こういうことになる。  さらにもう一つ。かくて、防衛二法の審議を前にして、増原長官がたいへん勇気づけられたと受け取るような御発言をなさった。国の守りは大事なので、旧軍の悪いところはまねせず、いいところを取り入れてしっかりやってほしいと、こう言う。こうなると、防衛二法まで触れられると、では一体防衛二法とは何だ。その中心は沖繩配置です。久保・カーチス協定を踏まえまして、五千人からの自衛隊が沖繩に行く。天皇の名によって三人に一人の県民が死んでいる。しかもたくさんの県民が逆に、天皇軍隊、あるいはそれに類するものによって殺されている。だからこそ、相当たくさんの方々自衛隊派遣にまっこうから反対をしておられる。しかも四半世紀の間異民族支配のもとにあった。天皇を含むわれわれも何にもしてあげられなかった。この方々の反対論、それがおわかりにならぬはずはない。にもかかわらず、防衛二法を肯定される発言をなさったとするならば、まして激励をするなどというふうに受け取れる発言をなさったとするならば、沖繩県民百万の意思を全く無視している。本来、天皇の名においてという形の中では、私もそうだが、戦争責任をお感じになっていていいはずだと私は思っている。そうだとすれば、そういう発言があっていいはずはない。国民統合象徴どころではなくなってしまう。傷がつく。これは慎重に私ども考えなければならぬことです。私はこう考える。だからこそ、そう受け取っている沖繩県民の方や国民皆さんに、そうでないならそうでない。もしよしんば天皇がこういう御発言になってしまう御心境にあるとするならば、それはいずれかの責任において改めていただかなければならぬのですよ、日本の将来のために。  そこらのところがこの問題の中心なんだ。単なる制度論じゃない。だから私はあなたに、新聞に出ていてみんなが知っているんだから、そこのところをお認めになったんだから、まとも議論に入ってほしい。もしかりに、この新聞にあるようなこと、これであってはならない。しからば責任の所在はというなら、私どもがそこのところは責任を持って、憲法の趣旨に従って将来ともに日本という国は進んでいくように最善の努力をしていくんだというふうなことにならなければ、私は国民に対してまとも国会議論ではないと思っておる。まだあなたはそこでも、仮定だからということで、増原さんの辞任の弁を繰り返して答弁終わりとするのですか。もう一ぺんお答え願います。
  16. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 憲法の定めるところ、天皇国政に対する権能を有されないということは申し上げるまでもないことでございまして、私も間々上奏も申し上げておりますし、いろいろ内政のことに対して御説明を申し上げておるわけでございますが、陛下国政を左右される、国政に影響のあるような御発言をなされることは全くありません。しかも、政策に対して反対、賛成というような立場をおとりになるということは全くないということだけは、この際明確にいたしておきます。  私たちは、旧憲法時代のことを思い出してもそうでありますが、お相撲をごらんになられても、天覧相撲が行なわれても、いずれが勝っても拍手もなされないという、非常に中立的なお立場であるということは、旧憲法時代から一貫しておるのであります。(発言する者あり)事実を申し述べておるのであります。でありますから、もちろん新憲法になって陛下がそのようなことをされるはずはないということは、私自身の経験に徴しても、憲法上も当然でありますし、事実の上においても信じておるのであります。そういうことはないということをひとつ理解をいただきたい。それが増原発言によって誤解を生じ、意を尽くさなかったという責任を負って辞職という事態が起こったのであるということでございまして、私はそのような事実がなかったという前段を確信いたしております。
  17. 大出俊

    大出委員 あなたは、先ほど増原氏が新聞記者方々に話をし新聞記事になった、その新聞記事をお読みになった、ここまではお認めになった。お認めになった以上、その新聞記事は現実にある。現在世の中にある。国民ひとしく見ておる。その記事には、天皇がこうおっしゃったと明確に書いてある。あるから問題なんでしょう。あなたが言うように、なければ初めから問題になりはせぬ。あるから問題になっている。あるから問題になっているのを、ないないとあなた言ったって、議論にはならぬでしょう。そういうことを言われては困るから、増原氏に出てもらいたいと言っている。  天皇防衛二法を激励された。激励されてあっさり通っちゃったら、昔の憲法に返っちゃう。陸海軍に対する統帥権は天皇にあったんだ。そういうわけにはまいりませんよ。だからまともお答えを願いたいと申し上げている。ないないづくしで、最後までないないと言ってそこへすわっていれば時間がたってしまうというのなら、せっかくの時間をかけて議論する必要はないんだ。私も、昔あなたが郵政大臣で、私が全逓の書記長時代ならけんかしちゃう。腹が立つから、いきなり帰っちゃう。総理なんて価値がないんだから帰ってくれとぼくは言う。私も少しはしらがはえているからがまんしているんだ。あなただって昔のあなたなら、すぐおこったかもしれぬが、がまんしているんだから、がまんついでに、もうちょっとまともに答えてくださいよ。日本の将来にとって大きな問題なんだ。いけませんよ、そういうことは。  もう一ぺん聞きますが、現に新聞記事がある、私がいまるるしゃべった、天皇のおことばという形で増原氏が新聞記者に発表されたことが新聞に現に書いてある。お認めになりますか。
  18. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 大出さん、これはすなおに考えて、あなたは新聞記事だけを前提としておられますが、ものを考えるには三つあるのです。立ち会っておったかどうかということが一番正確であります。新聞に報道されておるという二つ目の問題がある。第三は、増原氏が否定をしておるという事実があるのです。この中の新聞記事にあっただけを前提として私は答えるわけにはまいらないのです。私自身は、増原氏が意を尽くさなかったということを一つ言っております。誤解を生じたということも言っております。その結果職を辞しておるのであります。そういう問題から考えれば、私は立ち会っておらない。新聞は見てはおります。しかしその新聞に対して、増原氏は第三の手段をとっておるじゃありませんか。そうすれば、公的にとられた増原氏の考えをそのまま認める、それは私の立場上当然であります。
  19. 大出俊

    大出委員 総理、これはますますもって議論になりませんな。こういう問題をそういう受け答えをされるというのは、これは私に言わせるならば、私の見解だが、逃げですよ。それはいけません、そういう考えでは。もっとまつ正面に取り組んで、国民皆さんがいろいろお考えになっていることを解明していく責任がある。  新聞記事というけれども、あなたが言うとおり。だからこそ増原氏が出てきていただければ一番いいんだ。何べんもそう申し上げている。その責任があなたのほうにありますよ。あなたが任命した閣僚だったんだから。あなた自身が辞表をお受け取りになったんでしょうから、いままでのところが明確でなければ、制度論なんというものは百万べんやったって意味がない。いまの新聞記事に書いてあること、それをすなおに、誤解といい舌足らずというんだが、誤解は何が誤解で、一体何が舌足らずなんです、それならば。まず聞きましよう。
  20. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 増原氏は国務大臣の職を辞しておるのでありまして、国務大臣の職をかけて真実を述べたわけであります。その責任をいさぎよく公の地位をかけて果たしたわけでありますから。私は立ち会ってもおらない。新聞は読んでおるだけであります。ですから第三の段階を事実として認めておるのであります。
  21. 大出俊

    大出委員 それじゃ、一国務大臣の現職にあった人が、先ほど私がるる述べたような、天皇のおことばとして新聞記者方々に発表された、大きな世論の反撃を食った。食ったら、いまのお話にある公の職、これを辞した。辞するにあたって、天皇から国政に関する御発言があった事実は全くございませんと言ってやめた。それですべて事終われりというなら政治じゃない。そういうことで事が済むとするならば、何も総理に出てもらって答えてもらう必要はないんだ。これはもう並行論で成り立ちません。私はこれ以上質問しません。理事会を開いてください。これではだめです。とてもじゃないが話にならぬ。増原氏の出席を要求して、私は保留します。     〔「理事会、理事会」と呼び、その他発言する者あり〕
  22. 三原朝雄

    三原委員長 お静かに願います。
  23. 木原実

    ○木原委員 関連して。  いま総理の御答弁を聞いておるのですが、増原氏は結果において、天皇政治的に利用する、そういう結果を招いたという事実があるわけであります。そのことの責めを負って増原氏はおやめになった。そういうことになりますと、それはただ増原さんだけの責任で済むのですか。天皇内閣との関係はどういうことになるのですか。増原氏がおやめになったのは、新聞を通じて、総理の御答弁の中にもありましたけれども、結果において天皇政治に利用するというような誤解を与えたという責めを負っておやめになっている。そうなりますと、誤解を与えたという事実は残っているわけです。しかも問題は、天皇とのかかわりの中に問題がある。そうなれば、ただ増原さんがおやめになったというだけで、この問題は解決がつくのですか。内閣責任というものはどういうことになるのでしょうか。
  24. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 私は、天皇陛下憲法をお守りになっており、国政に対して賛否を意思の上で明らかにされるようなことは、過去も現在も将来もありません、こう述べておるわけであります。それは経験に徴して申し上げておるのでありますから。私は、何回も上奏申し上げた結果、そのような事実は全くないし、ほかの国務大臣にもなかったわけでありますから、事実に徴して真実を述べておるわけであります。また制度上も陛下は、国政に影響を与えるようなことをなさらないということも事実でございます。  そうすると、一つ残っておるのは、増原防衛庁長官内奏の後の記者会見で述べた記事が報道せられた。それは委曲を尽くすものではない、しかも誤解を生じたということでありますから、責任をとって辞職をいたしますということでございますので、他の閣僚や歴代内閣は、陛下をいやしくも政策の上で利用しようというような考えはごうまつもないし、将来もそのようなことがあってはならないということを信じております。     〔「理事会、理事会」と呼び、その他発言する者あり〕
  25. 三原朝雄

    三原委員長 不規則発言をおやめください。
  26. 大出俊

    大出委員 いまの答弁の中には、新聞にこれだけ大きく取り上げられ、国民全体が見ておるというこの現実、これを全く無視している。そして一増原氏個人の個人ミスで逃げ切ろうとする態度、それではこれは議論になりません。この問題の解明にもなりません。したがいまして私は、理事会を開いていただきまして、自後の問題をひとつ御協議いただきます。これ以上質問を続けません。保留いたします。
  27. 三原朝雄

    三原委員長 このままの状態理事会を開きます。  大出君。
  28. 大出俊

    大出委員 いま私が、新聞に報道されている事実について、全くその事実はないのだということを総理が言われて、増原氏の個人ミスの形に答えを持っていかれる、それでは議論にならない、こう申し上げました点は、いま野党間話し合いましたが、たなに上げます。あらためてひとつ理事会で協議をする、こういうことに扱いをいたします。  そこで、残る幾つかの問題点につきまして質問をいたします。  最近、特に私は大きな疑問を感じ、また将来に向かって心配をいたしますのは、天皇自衛隊関係であります。ここにひとつございますが、一月の十七日午前、衣笠統幕議長はじめ、中村陸、石田海、石川空等々の高級幹部自衛官の方々が六十一名、皇居の正殿竹の間で天皇陛下にお会いになっておられる。この席で、陛下から「自衛隊の各員には、平素からその職務に精励し、ご苦労に思います。皆には重大な職責を自覚し、国家のため」云々というところから始まりまして、おことばがございました。衣笠議長が、「決意を新たにしてわが国の平和と独立」云々、最後に「もって聖旨にそい奉る覚悟です」という形の、陛下がおっしゃったこと、また統幕議長以下がしゃべったことがここに載っている。  旧憲法天皇の権能が二つになっておりまして、統治権の総攬、それと陸海軍に対する統帥権の二つになっていた。統治権のほうはしたがって総理責任があった。統帥権のほうは直接天皇と陸海軍でございます。だから、旧来、上奏ということは、あるいは奏上ということばが使われていたんだけれども、このときは、総理の了解あるいは許可なしに、陸軍大臣、海軍大臣は直接、統帥権の名のもとに天皇のところに、いわゆる帷幄の上奏、帷幄の奏上、こういうことでおいでになっていた。ここに、陸海軍いずれかの大臣がやめるといえば内閣が辞職するという歴史が続き、いわゆる軍国主義という形に進んでいったという過去の反省がある。私はしたがって、いま一つ例をあげましたが、最近の自衛隊の教育の方針、特に精神教育の方針、こういうものとあわせ考えまして、ここのところは先ほどたなに上げましたが、新聞記事は厳としてある。ここらの問題とからみまして、総理は、制服幹部の方々が皇居においでになる、ここらを一体どういう形にしてお認めになるなりなんなりしておられるのでございますか。どういう関係にこの間はございますか。
  29. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 いま御指摘ございましたように、旧憲法時代は、各省大臣は輔弼の大任に任じておったわけでございますから、これは当然内奏申し上げる義務があったわけでございます。新憲法になりましてからは、親任式のときとか認証官の認証式のときとかというときに立ち会いを必要といたします。内閣総理大臣の親任式には衆参両院議長が侍立申し上げることになっておりますし、また最高裁判所長官というようなときには私が侍立をするようになっております。認証式その他に対しては各省大臣が御説明申し上げるということになっておるわけでございます。旧憲法時代の内奏というようなことばは、今度法律の中には全くありません。これは慣習のような気持ちで、内奏と一般的に使われておるということだと思います。国会法その他法律の中に上奏ということばはございますが、内奏ということばは法律上の問題としては存在いたしません。ですから、当然御説明申し上げるということは、認証式に立ち会います前に認証される人の、また親任される人の経歴その他を御説明を申し上げるわけでございます。そういうことは、外交官の認証式、非常にたくさんあるわけであります。ですから、外務大臣、それから法務大臣が非常に多いわけでございます。そのようなときに、いろいろな所管事項に対して御説明を申し上げるということでございまして、公的な法律的な職務は親任官及び認証官に対して内奏申し上げる、御説明を申し上げるということが正しいと思います。御説明を申し上げるということは公的な任務でございます。そのおりに所管事項の御説明等を申し上げるということでございまして、象徴としての陛下の御教養を高められるというために随時行なわれておることでございます。
  30. 大出俊

    大出委員 もう一ぺん、いまの点、明らかにしていただきたいんですが、これは拝謁ということばが使われております。拝謁であれ何であれ、つまり私がさっき指摘しました旧憲法、新憲法の大きな相違がある。だとすると、そこのところはシビリアンコントロールという名がついておるいまのシステムでございますから、総理は国防会議責任者でございます。そういう意味で、きちっとしておかれませんと問題が起こる。一々総理はこの点については御存じの上で、こうこういう理由だからこれは認めるとか、何かきちっとしたものがございますか。
  31. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 内閣として基準をつけてワクをはめておるということはありません。ありませんが、先ほども御指摘ございました憲法に明文がございます。内閣総理大臣国務大臣国会議員はこの憲法を守らなければならないということでございますから、これは憲法に背反するような行為を行なったり、そういうことは絶対にないということを大前提にいたしておりますので、こまごまたる内規とかワクとかいうものはきめておりません。
  32. 大出俊

    大出委員 この点はもう一ぺん承りたいのですが、いま一月の自衛隊の各幕幹部の方々の拝謁問題を取り上げましたが、練習艦の「かとり」というのがございます。これは最初の練習艦、四十四年就航だろうと思うのでありますが、これが就航するにあたりまして、天皇をいつの日かお迎えをするというふうなことが前提で、その席その他が考えられておったという話が一つ出てまいっております。元首ではないはずでございますが、そういう意味での用意をお考えになっておる。あるいはまた、観閲式とか観艦式であるとかいう自衛隊の行事に天皇をお迎えをしたい、これは何回かそのことが話に出てきておりました。近くは、皇太子をお迎えをする、この話もどうもだいぶ進んでおるやに承った時期もございます。  ただ、英国の場合に、女王は法律の裁可権のような国政に関する権能をお持ちでございます。日本の場合には、先ほど来問題になっておりますように、憲法四条国政に関する権能を天皇は有しておられない。権能のある英国王室は、三百年にわたりまして、権能あるけれども政治にかかわるお話はしていない。英国では、王を政治プレーの場に引き出してはならないという格言がある。同じ意味で、一つ間違うとこのことは、その点非常に大きく象徴天皇の位置に傷がつくことになりかねぬ心配を私はする。  したがって、こういうことについては、先ほどの拝謁の問題とあわせまして、総理は新憲法現行憲法を踏まえてということでございましたから、おわかりになっているわけでございましょう。やはりきちっとけじめのつくようにしておいていただかぬと。きょうは時間がございませんから、こまごまという点については触れません。触れませんが、あなたと私の間のやりとりで政治姿勢が明らかになればいい。そういう意味で、こういう点はきちっとしておくべきであると思っておりますが、いかがでございますか。
  33. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 陛下に拝謁をお願い出るということは、これはございます。これは全国で年に一回の会同というようなときに、検察官とか、また自衛隊の幹部とか、また学校の関係者とか、いろいろ拝謁をお願い出るということでございまして、これは宮内庁でも十分考えられて、お時間やいろいろな御都合を承りながらおきめになっておることでありまして、これは自衛隊の幹部だから拝謁を願い出てはいけないというものではないわけでございます。これなら差別をすることになるわけでございまして、そうではなく、これは自然に行なわれておるということでございます。ただ拝謁のときに、そういう幹部が政治的なことを申し上げたりすることはいままででもなかった、またあってはならないということは、これは私も承知をいたします。  まあ拝謁というのは、皆さんの中でも拝謁をされた方たくさんあると思いますが、私たち、芸術院会員の授賞式にもこの間参りましたが、拝謁は、おすわりになっておる陛下の前に参りまして、私は田中角榮でございますという官姓名さえも名のらず、深々とごあいさつを申し上げて、そのまま退出をしてくるというのが拝謁の常道でございます。そういう意味で、区別をするというのではなく、皇室のお考えで随時御引見をいただく、拝謁をしていただくということでございます。  自衛艦がお迎えをしたいということは、いま私はさだかにその事実を承知しておりません。おりませんが、両陛下が学術振興のためにおいでになるとか、社会施設をお見舞いになるとかというようなことはございますので、これは自衛艦というものに対しておいでいただくということが法律上制限のあるものだとは考えておりませんが、しかし、非常に御慎重にお考えになっておるのか、御都合がおつきにならないのかは別にしまして、いままでそのような事態が起こらなかったということは事実でございまして、いませっかくの御発言でございますし、まあこれはどうも法律問題もあるようで、私は法律問題はないと思いますけれども、これは法制局意見ども聞きまして少し勉強いたしてみたい、こう思います。
  34. 大出俊

    大出委員 最後に三点だけ承って終わります。  総理のこの質問の中での憲法感覚というのは、これは明らかにしていただきたいのでありますが、先般いろいろ問題になりました天皇の外遊をめぐる問題。公的な予算をお使いになる。つまり憲法の定めるところによりますと国事行為のみになっている。国政に関する権能はこれを有しないことになっている。ところが、私的行為と国事行為の間に何か公的なことがあるという宮内庁の考え方が前に出てきておりました。それは外遊のような場合に当てはまる、こういうわけでありますが、私は、法律上何の根拠もない形のものが存在をし、公的予算を使うというのは許されぬ、これは明確にしておいていただきたいと思う。かつ、アメリカの新聞の論調等を読んでみましても、どうやらこの天皇のアメリカヘの外遊問題は、ぎくしゃくしたアメリカと日本との関係というものを、何とかすっと通りやすくしたいという意味政治的な感覚がその中心に据えられていた感じがする。これとても、やはり、一つ間違うと天皇政治的に利用することになりかねない。その辺は将来に向かって厳に慎むべきではないか、こういうふうに思います。  さらに、春の天皇、皇后両陛下の園遊会に、これは身近な問題を取り上げ過ぎるけれども、しかし、考えてみればそう小さな問題ではないのですが、総理の後援会の方八人、内閣の推薦で、功労ということでお出しになったというのですけれども、まさか田中角榮さんなる人物を今日総理に押し上げた功労という意味じゃないと思うのですがね。内閣推薦のうちの四分の一に近い方をという。こうなると、どうも天皇を私しやせぬかという言い方も出てきかねない。この辺はやはり総理、幾ら何でもあんまりみっともいい話じゃないと私は思う。こういう点はきちっとしておいていただかぬと困る、こういうふうに私は思う。  それと、内奏ということも、これはことば上ない。だから、戦後、宮内庁がつくったというのだけれども、どこまでかということについてこまかい規定はできぬにしても、やはり筋は筋で明確にしておかなければならぬと私は思っている。でないと今回のようなことが起こる。  その辺についてあわせてお答えいただきたいのと、結論として、これだけ世の中大きな騒ぎになったわけですから、さっきの問題はたな上げをいたしましたが、私もあなたも、いつか私は、同志であり秘書をおやりになっておった引田さんに、大臣をおやりになっているときに承りましたが、天皇の名によって私は召集を食ったわけだ。一銭五厘の兵隊でございますが。つまり過去を振り返ってみると、今回のようなことになる、大きな世の中の騒ぎになったことを、むしろ私は前進ととらえるわけですけれども結論としてどうもやはり総理にも責任がある。任命されたのはあなたですしね。さっき新聞のところへ一生懸命にお逃げになったけれども、そこのところは、あなたはやっぱりはっきりしておかぬと、これは幾らないないと言ったって国民は読んでいるんだから。たな上げた分はあとで相談をいたしますが、あなたの責任の度合いだけ最後に聞いておきたい。含めて四点だけお答え願います。
  35. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 第一の問題は公的な外国御出張等の問題でございますが、これは当然存在することでございます。憲法で定める御権能と、全く私的な御活動と、それからそのまん中に公的なものということが存在することは、これは当然のことでございます。私にも、内閣総理大臣としての職務と、私的なものと公的なものがございます。憲法規定のないというのは、禁止規定がないということでございます。ですから公的なものは、当然憲法に定める象徴として外国に御出張になる。これは、元首が日本を訪問されたら、その答礼に私が訪問をするだけで足るものでないということでございますから、それは、両陛下が公的に御訪問をなさるということが、世界の平和に寄与し、国際的交流を増進し、国益、国民の利益を守ることであるということでございますから、これは、あの災害の人々が苦労しないように、日本人すべてが、老人も婦人も弱い人がみんなよくなるようにという一般的な論議の上でも、これはもう御訪問あってしかるべしである、これは象徴として当然のことである、こう考えても議論の余地はない、こう思います。  第二点は、どうも私もびっくりしておるのでございますが、これは越山会という、私の俗にいう後援会に属する人たちが何人か園遊会に呼ばれた。この中で三、四人御辞退を申し上げた人もあるようでございますが、こういうことは在来の例であったようでございますが、しかしそういう人選が一部にも行なわれるということは遺憾なことでございます。これは相当な方々から調べてもらったようでございまして、越山会の役員ではあったが、しかしその地域の代表者でもあったということで、越山会の会員でなければ呼ばれてもしかるべき人たちだったけれども、あたかも、公職にあったり非常に社会的功績者であったけれども越山会の会員であったということで、これはやはり責めを問われるんだ、それは私もそのとおりだと思います。そういう意味で、以後そのようなことは、どんな例であっても絶対にしないようにという注意をいたしておきましたし、私もそういうことは起こらないようにいたします。これは、私がやらなくなればもう次の人もやらなくなるのでしょうし、災い転じて福となさなければならない、こういう考えでございます。  第三点目は責任問題でございますが、責任問題というのは、これは増原氏が職を辞したわけでございます。しかし、御指摘になるようなことで——増原さんは皆さんも御承知のとおり、自衛隊の生みの親である、何人もそう認めておる人でありますし、人格高潔である、非常にすばらしい人材であるということも認められておる人でございます。そういう増原氏がこのようなことで職を辞さなければならなかったということに対しては、これはほんとうに遺憾だと思っておりますし、そういうことだけではなく、それを任命した内閣総理大臣としてはどうかということでございますから、そのようなことで引責辞職をしなければならなかったという閣僚を任命した私としては、ほんとうに遺憾だと感じております。
  36. 大出俊

    大出委員 いまの、公的行為という形の何か中途半端な形のもの、天皇の外遊等の公的行為、私的行為でもない国事行為でないものがある。それは当然だというのですが、これはそんなことをいえば、閣議できめれば何だってできることになっちゃう。この点はそうはいかない。私は時間がございませんから、この点は保留をいたします。  以上です。
  37. 三原朝雄

    三原委員長 木原君。
  38. 木原実

    ○木原委員 先ほど総理は、増原発言にかかわる問題はなかったんだ、こう申されておるわけですけれども、しかし、増原発言によってひき起こされた問題というのは、それだけで消えるほどのものではない、こういうふうに考えるわけです。それだけに、大出さんの質問に続いて二つばかり総理にお伺いをいたします。  この問題によって新たにひき起こされました問題は、いま総理お答えになりました、憲法に禁止規定がないという理由で行なわれておる象徴としての天皇の公的行為、こういう問題があるわけです。これは重ねて伺っておきますけれども、公的行為を象徴天皇として行なわれるその根拠になるものは何ですか。  それからまた、そういう行為を行なう基準なり範囲なりというものについては、これは当然内閣が関与するわけでしょうけれども、そういうものは、内閣の中で一体どういう根拠や基準や範囲をお定めになっているのか、お考えになっているのか、明らかにしてもらいたいと思います。
  39. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 憲法に明文がございますとおり、天皇が行なう権能というものに対しては十カ条制定をしておるわけでございます。しかもそれは内閣の助言と承認に基づくものであって、行政的には権能を有しない、その責任内閣に存する、こう明文がございますから、その憲法規定に結果として反するような行為を行なわない、そういうことはもう当然でございまして、これは絶対に行なわれるはずはないのでございます。私的な行為は、これは当然のことでございます。公的な行為ということでございますが、先ほど申し上げましたように、国際親善とか、平和のためとか、それから戦没者の慰霊碑にお参りになるとか、これは公的な行為、こういうことでございまして、憲法の条章に反しないで、しかも憲法で定める国家の象徴として、大きな意味国民の福祉増進になり、平和に寄与できるというような問題に対して公的な御活動をなさるということは、もうこれは当然のことだと私は申しておるわけでございます。ですから、芸術院賞をお出しになったり、学術振興のために行幸啓になられたり、いろいろな象徴としての御活動があるわけでございまして、これはもう、どんなものはいけない、どんなものはどうだということをこまかく規定する必要はないわけでございまして、憲法に明定しておる条文に反するような行為は絶対におやりにならない、これはもう事実でございますし、これからも守られていくことでございます。
  40. 木原実

    ○木原委員 そうしますと、この公的行為を行なう根拠になるものは必ずしも明らかではないが、限界は憲法という問題がある、こうおっしゃるわけですね。しからば、公的行為を行なうについて、たとえば公的行為ですから、当然、社会的、もしくは場合によっては政治的な影響があるわけですが、影響があったときの責任内閣がおとりになるのですか。それとも天皇御自身がおとりになるのですか。
  41. 吉國一郎

    吉國政府委員 先ほど総理からお答え申し上げましたように、天皇の行為には、憲法の定める国事行為のほかに、天皇の個人としての私的な行為と、それから日本国の象徴たる地位に基づくいわゆる公的行為、これも学者によっては公的行為とか準国事行為とか呼んでおりますが、そういう行為があることは、これは否定できないところであると思います。  国事行為につきましては、内閣の助言と承認によって行なわれるということは憲法に明定をされております。それでは公的行為についてはどういうふうに行なわれるか。これは皇室に関する国家事務を処理いたしております宮内庁、それを統轄する総理府、さらにその総理府を統轄する責任のある内閣が、責任をもってこの公的行為について、いかなる行為を行なわれるか、その公的行為を行なわれるに際しまして、憲法第四条第一項にございます「國政に関する権能を有しない」という規定の趣旨にかんがみまして、いやしくも国政に影響を及ぼすようなことがあってはならないという配慮を十分にいたしておるわけでございまして、第一次的には宮内庁、第二次的にはそれを包括する総理府、さらに内閣責任を負うものでございます。
  42. 木原実

    ○木原委員 時間がありませんので、もう一つだけ総理にお伺いをいたしておきたいと思います。  天皇憲法第九十九条によりまして憲法順守の義務があるわけであります。かりに天皇憲法にそむき、あるいはまた憲法順守の義務を怠られた、こういうようなことがあった場合には、それ自体によって起こる責任というのは、憲法第一条に規定をされておる象徴天皇地位そのものを危うくするほどの問題を持つ、こういうふうに考えるわけですけれども、その点はいかがですか。
  43. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 いやしくも皇室が憲法に背反をし、九十九条に背反をするような行為をなさることは絶対にない、こういうことでございます。しかも内閣も、いま申し上げましたように、内閣総理府、宮内庁、十分意思の疎通をはかり、お間違いのないようになさなければならない責務をも有しておるわけでございますので、そのようなことは絶対にないということで御理解いただきたい。
  44. 木原実

    ○木原委員 これで終わりますけれども、しかし今度の増原発言によって提起をされました問題、総理は一貫してこの事実をお認めになっていらっしゃいませんけれども、しかし、この問題がもし事実であったとすれば、明らかに九十九条に違反をする疑いのある問題であります。またそれだけにきわめて深刻な事態を引き起こす問題だと私は考えるわけです。しかし総理先ほど来事実をお認めにならない。しかも出された問題は残っておる。私たちの疑念と心配は消えないわけですね。そういう意味では、私自身、この問題については釈然としない、そういう気持ちを持ちながら、もう時間がありません、同僚とかわりますけれども、これからの措置については、いわゆる公的行為の拡大的な執行、あるいはまた、内閣の助言と承認という国事にかかわる分野以外の問題についても、ひとつこれから十分な配慮、措置を要求をしたい、こういうふうに考えるわけでございます。  同僚とかわりたいと思います。
  45. 三原朝雄

    三原委員長 上原康助君。
  46. 上原康助

    ○上原委員 時間がありませんので、二、三点だけ総理にお伺いをしたいと思います。  先ほど来同僚議員と政府のやりとりを聞いていますと、今回のいわゆる増原発言に対して、総理をはじめ政府の認識のしかたというのが、私はきわめて問題だと思うのです。多くは触れられませんが、事は国の政体の基本にかかわる、いわゆる根幹の問題だと私たち見ているわけです。そういう意味で、突っ込んだ論議というのが必要かと思うのですが、時間がありませんので、簡単に触れたいと思うのです。  そこで総理は、いわゆる増原発言というのは、天皇に御迷惑をかけたから個人の責任をとっておやめになったという理解のしかたなのか。国民に、憲法天皇との関係憲法内閣との関係において、多くの疑惑を与えていると私たちは思う。ある意味では重大な政治責任だと思うのです。その点に対する総理の明確な答弁を簡単にお聞かせいただきたいと思います。
  47. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 結果的に見て、増原防衛庁長官が深く政治的な責任を感じられて辞表を提出した、内閣はこれを受理した、こういうことであります。
  48. 上原康助

    ○上原委員 一閣僚が深く政治責任を感じて閣僚のポストを辞任したということは、一人の閣僚の問題でないと思うのです。あなたが任命をした。田中内閣全体の責任じゃないですか。その点に対する総理の御見解はどうなんですか。
  49. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 先ほども述べましたとおり、遺憾なことだと存じております。
  50. 上原康助

    ○上原委員 それでは、角度を変えてお尋ねしたいと思います。  総理は、政府あるいは内閣がいやしくも皇室を利用するようなことはないんだ、また、なかったというようなことをおっしゃいました。しかし、新聞報道などでいろいろ報道されておることは、先般の天皇、皇后の御外遊の問題にしましても、とかく日米間のぎくしゃくした政治問題に対していろいろ国民は疑惑を持っております。また、アメリカ側の報道を見てもそういう節があります。それも私たちは、政治的な色彩が強いという感を受けるわけですが、さらに総理は、皇室を利用したことがないとおっしゃいながら、天皇、皇后の主催で催された園遊会に、あなた御自身の後援会を多く内閣の推薦で招いているんじゃないですか。そういうことに対しても、天皇地位を何かと政治的に利用している、いやらしいということを国民は言っているわけですよ。それに対しては、総理はどうお考えですか。
  51. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 先ほども申し上げたとおり、いやしくも国の象徴である天皇を利用するような考えは毛頭持っておりません。これは日本国民として毛頭持つべきではないのであります。ですから、先ほど園遊会の問題に対しては、あなたお聞きになっておらなかったかもしれませんが、私の所信を明らかにいたしております。
  52. 上原康助

    ○上原委員 総理先ほど大出委員の御質問に対して、いわゆる今回の発言内容のもろもろの事実があったことはお認めになったわけですね。また、政治責任を感じておやめになった。もしそうであるならば、天皇に対して増原発言というものが重大な、天皇の名誉と信用を傷つけたことになると思うのですね。そういう意味政治責任もあった。刑事的な責任はないわけですか。
  53. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 よくわかりませんから、もう少しはっきり言ってください。
  54. 上原康助

    ○上原委員 政治責任があったということをお認めになったわけですね。刑法の二百三十条、いわゆる名誉棄損の項。「公然事実ヲ摘示シ人ノ名誉ヲ毀損シタル者ハ其事実ノ有無ヲ問ハス三年以下ノ懲役若クハ罰金ニ処ス」ということがあるわけですね。(笑声)これは笑い話じゃないのですよ。さらに、二百三十二条の二項においては、「告訴ヲ為スコトヲ得可キ者カ天皇、皇后、太皇太后、皇太后又ハ皇嗣ナルトキハ内閣総理大臣、外国ノ君主又ハ大統領ナルトキハ其国ノ代表者代リテ之ヲ行フ」。さらに信用棄損の場合、二百三十三条、「虚偽ノ風説ヲ流布シ又ハ偽計ヲ用ヒ人ノ信用ヲ毀損シ若クハ其業務ヲ妨害シタル者ハ三年以下ノ懲役又八千円以下ノ罰金二処ス」。総理、もしも国民天皇を利用してそういう名誉棄損をやったという場合は、おそらくこの刑法にかかるでしょう。あなたがおっしゃっているように、増原さんがおっしゃったことは事実はなかった、天皇国政に関することは一切言わなかったということを辞任の弁で言っている。それ以外の事実はなかったということ。先ほどと矛盾している、前半とは。そうであるならば、当然これによって増原さんは告訴を受けるか、あるいは検察庁の捜査を受けなければならない立場にあると思うのです。その意思があるかどうか、お尋ねしたいと思います。
  55. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 御発言があったという事実は全くありません、説明が意を尽くさなかったため誤解を与えたことはまことに申しわけがない、よって辞任をいたします、こういうことでございまして、明らかに三点に分けておるわけでございまして、増原氏は国務大臣という職を辞して責めをとったわけでございまして、この増原氏の辞任をそのまま認めておる私としては、刑法に基づく手続をとるような意思はありません。
  56. 上原康助

    ○上原委員 検察庁来ていますか。告訴するかどうかは、それは総理の、さっき申し上げたような条文、条規できまっているわけですが、少なくとも捜査の対象にはなると思うのですね。これは議論を深めませんが、検察庁の見解はどうなのか、承っておきたいと思います。
  57. 根岸重治

    ○根岸説明員 具体的事実につきまして、名誉棄損あるいは業務、信用妨害の罪が成立するかどうかというような趣旨の御質問かと存じますが、具体的事実につきまして、それがなるとかならぬとか、いま私の立場で申し上げるのは適当でないと思いますので、答弁を差し控えさせていただきたいと思います。
  58. 上原康助

    ○上原委員 少なくともこれだけの問題に発展してきているわけなんですよ。単に政治的に、行政的に責任をとってやめればそれでいいということではない。私はむしろ、増原さんはほんとうのことをおっしゃったと思う。閣僚天皇にいろいろ御説明する、あるいは内奏するということは、秘密事項であってはならないと思うのです。国民に公にされたことしか、内閣の助言と承認によって天皇は国事行為できないと思うのです。その事実をおっしゃったかもしれない。それが事実かもしれない。しかし内閣は、天皇がそういうことをおっしゃったことがないのだということで、二の問題をいわゆる没にしようとしておられる。当然この憲法の名誉棄損に該当するのかどうかということは捜査の対象になるわけですよ。それだけの重大な問題であるということを私たちは認識すべきだと思う。  そこで、最後お尋ねしたいのですが、先ほど来のお話にもありますように、天皇にも憲法を尊重し擁護する義務があると思うのです。ですから憲法は一内閣や一大臣政治生命より重いですよ。そういう意味で私は、天皇御自身も、今度のことではたいへん深刻な御心配をしておられるのじゃないかと思う。なぜなら、天皇、皇后の今度の伊豆への旅行なども、ちょうど五日から八日、明日までやっている国会でのこういう論議に対してのいわゆる心痛、わずらわしさで御旅行もなさっているとしか国民は受けてないのですよ。そうであるならば、増原さんをやめさせて、しゃあしゃあとそこにおすわりになっていないで、あなた自身が責任をとるべきじゃないですか。その点を明確にしてください。
  59. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 天皇または摂政もという九十九条の明文がございますとおり、憲法をお守りにならなければならないということは当然でございますし、お守りになっております。これはもう、過去の天皇の御生活を見ておって、天皇憲法に背反しておるなどと言う人は日本人には一人もいないと私は確信をしております。ですから、そういう問題に対しては全く問題は存在しない、こういうことでございますし、日本国の象徴でございます。そういう意味で、これはもう日本国民全部で御大切に申し上げて、ほんとうにわれわれの象徴としての皇室をお守りするということで徹していかなければならない、こう思います。私は先ほど増原国務大臣本件に対する責任は、増原責任だけで帰着するものではなく、内閣総理大臣責任があるのではないかということでございましたので、遺憾の意を表しておるわけでございます。
  60. 上原康助

    ○上原委員 時間が来ましたので、まだ釈然としない問題がたくさんあります。特に沖繩県民の立場から言うと、事、防衛問題に対して天皇が御発言をする。あるいは、いまの国論を二分化している防衛問題を、あたかも一自民党政府の政策を正当化するようなことは断じて許されないと思うのです。そういう面で私たちは、憲法問題、国の防衛の問題に対しては、これからいろいろ議論をしていきたいということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。
  61. 三原朝雄

    三原委員長 中路雅弘君。
  62. 中路雅弘

    ○中路委員 私は、今度の増原防衛庁長官内奏をめぐる天皇発言問題は、国論が大きく分かれている自衛隊問題、自衛隊の増強、また防衛二法案の成立を促進するという特定の政治的な目的のために、天皇発言と称するものを利用したという国の政治のあり方の関係で見た場合に、現憲法天皇条項を政府が厳格に実施するかどうか、また憲法九十九条で、天皇もまたこの憲法を尊重し擁護する義務があると明記されていますが、このような憲法と民主主義にかかわる重大な性質を持つ事件だと考えます。  したがって、この問題の審議には、まず正確な事実の確認がなくてはならないと思うのです。繰り返しますが、最初に総理にもう一度お尋ねしたいのですが、陛下から国政に関する発言があったという事実は全くない、そういうことは、先ほどるる紹介されました、新聞紙上で増原氏が紹介した天皇発言、各紙が一斉に報道しているきわめて具体的なこの天皇発言が、全くなかったということかどうか、この問題について最初にもう一度確認したいと思います。
  63. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 先ほども申し述べましたように、陛下に御説明を申し上げるときには余人をまじえておらないのでございます。しかも御説明を申し上げた増原国務大臣が、全くなかったと天下に公言をしておるのであります。しかもその責めを負って辞表を提出をしておるのでございますから、なかったというふうに考うべきは当然でございます。私は、全くなかった、陛下がそのようなことを仰せられるはずはないと自信を持って申し上げます。
  64. 中路雅弘

    ○中路委員 増原長官辞任の際に、なかった、そしてそのあとにこう言っています。私の説明が意を尽くさず誤解を与えたと。いまおっしゃったように、増原氏自身しか立ち会っていない、話をしていない。したがって、この事実問題を正確にするためには、また国民に与えた誤解を解くためには、増原氏自身がこの国会の場に出席して責任ある態度を国会国民に明らかにすべきであると思うのです。これしか方法はない。あなた自身も先ほど、事実の認識について、確かめについて、増原氏がこう言っておるからだ、天皇発言があったかどうかということをこまかく増原氏から確かめられたのかどうか、それについてはやっていたいと言われる。したがって私は、当委員会に当然増原氏が出席をして、この国会の場でこの問題の事実を明らかにすべきだと思います。この点については先ほど大出議員も言っていましたが、きょう時間の関係で中断するわけにいきません。理事会で私たちは引き続いて増原氏の出席を要求していきたいと思います。  今度の問題は、事柄の本質が、公表したから悪い、ないしょだったらいい、そういう問題でないと思うのです。中身が問題だと思います。天皇自身も公務を行なう表御所で話をされている。増原氏も、内閣を代表して侍立をし、公的な国務大臣として国政に関する問題について報告をし、天皇からいろいろ意見を引き出す、こういう問題ですから、決してこれは私的な行為ではない。また、御進講というような、学者から天皇が個人の教養を高めるために聞かれる話でもない。御進講だとすれば、生徒が先生を励ますはずがないわけです。したがって私は、増原氏がこの中で行なった行為、どういう理由で辞表を出されたのか、また内閣としてこの辞表を受理されたのはどのような理由なのか、まずお聞きしたいのですが、特に総理は、防衛庁長官については、自衛隊法八条によって内閣総理大臣の指揮を受けるということが明記されていますが、一番責任があると思うのです。その点で、防衛庁長官の辞表を受けた理由について、どのような理由で辞表を受け付けられたのかということをまずお聞きしたい。
  65. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 事はたいへん重要な問題でございますし、先ほど述べましたとおり、増原さんは人も知る人格者であります。私たちよりも、年齢的にも教養の上でも、あらゆる面から先輩でございます。そういう意味で、増原氏が辞表を提出をしなければならないという心境は推測するにかたくないのであります。私はそういう意味で、すなおにこの辞表を受理したわけでございますし、いままでも陛下や皇室をいささかでも利用するようなことはごうもなかったし、また、これを機会にますます憲法の趣旨に沿って皇室を大事にしなければならないという考え方もありましたので、すなおに増原氏の辞任認めたわけでございます。
  66. 中路雅弘

    ○中路委員 増原長官記者団天皇発言としてしゃべったことを否定された。このことは、田中内閣閣僚天皇政治関与の発言を捏造してまで自民党政府の政策を合理化し、正当化に利用したことであって、これは大臣辞任では済まされない。増原氏にとってみれば、当然私は内閣として罷免すべきだと思うのです。議院の名誉をこれほど傷つけることはない。しかも閣僚の代表として侍立したあとの中で起きた問題です。個々の大臣責任ではなくて、また内閣全体の政治責任がより一そう重要であると私は思います。増原長官をここに出さないということは、内閣がこの責任を隠蔽するためにあくまで増原長官出席させない、こうしかとれないわけですが、この問題について、長官天皇発言が、なかったということは、なかった天皇発言を摸造して政治的に利用したという内閣責任はさらに重要ではないかと私は思うのですが、この点についての総理の明快な責任ある態度を聞かしていただきたい。
  67. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 増原氏はみずからの行動に対して責任を負ったわけでございます。内閣はその辞任認めたわけでございます。内閣憲法を順守しております。過去も現在も将来も、言うまでもないことでございます。しかも、皇室をいやしくも政策のために利用するというような考えのごうまつもないことは、間々申し上げておるとおりでございます。増原氏個人が責任を負ったことに対して内閣責任はないかということでございますから、私としましては、任命をした閣僚が、事のいかんにかかわらず、あのような問題でみずから身を処さなければならないという事態を招いたことに対しては、遺憾の意を表明いたしております。  そうすると残るのは、法律的な問題とか増原氏個人の問題ではなく、内閣全体の問題ではないかということでございますが、これは、あなたはそう思われるかもわかりませんが、私も法律論でもって申し上げるわけじゃございませんが、侍立をするところまでは全くの憲法上、法律上の公務でございます。その機会に所管の事項を御説明を申し上げるということは、これは各大臣がみなやっておることでございますし、しかもその中で、陛下憲法に背反をするような、また政策に影響があるようなことを仰せられるはずはない。これは絶対にない。私は閣僚時代からというと、十五年も前から何回も皇居に参内をいたしておりますし、そんなこと絶対ないのです。ですから、そういう事態を前提にしておりますのに、増原長官誤解を招いたということで責めを負われたわけでございまして、その責任内閣が全部負わなければならないという法的根拠もないし、それは遺憾の意を表する。これからこのような間違いのないように閣僚には厳に通達をいたします。通達だけじゃなくて、もうこれはやりました。内閣でもうほんとうに、いままでもそういうことはなかったんだが、誤解を受けるようなことをいささかでもやらないように厳に申し合わせておる、こういうことであります。
  68. 中路雅弘

    ○中路委員 この問題は、いずれにしましても専実を正確にして論議をしなくてはならない。あくまでないとおっしゃっても、現に国民の前にあれだけの問題が出ているわけです。具体的な発言として出ている。私は時間の関係で、この問題について押し問答していてもしようがない。増原長官がこの国会の場に来て明確に態度を示される、それからさらに引き続いてこの問題を質疑を続けたいと思うのですが、いま、天皇がそういう政治に関与する発言をするはずがないというお話がありました。先ほども少し質問がありましたが、一例で私はお聞きしたい。  防衛庁広報課が出している、広報課の分室に編集室がある新聞「朝雲」一月二十五日号の報道によれば、一月十九日に開かれた四十七年度自衛隊高級幹部合同会議、これには田中総理増原防衛庁長官出席をして訓示をしている。これに先立った十七日、衣笠統幕議長をはじめとした陸海空自衛隊の部隊指揮官六十一名の高級幹部自衛官は、皇居の竹の間で天皇に拝謁、この席で天皇から、これは新聞記事が長いですから終わりのほうを読みますが、天皇発言です。「皆には重大な職責を自覚し、国家のためますます職務に精励するよう望みます」と自衛隊を激励するおことばがあったと書いてあります。またこれに答えて衣笠議長が一同を代表して、「決意を新たにしてわが国の平和と独立を守るため全力をつくし、もって聖旨にそい奉る覚悟です」と答えたと報道されています。こういう中身を持った拝謁というのは、天皇の国事行為としてきめられたどれに当たるのか。憲法四条の明白な逸脱、国政関与の発言であるばかりでなく、天皇が旧軍の継承者となるべきことを示唆した重大な憲法違反行為ではないかと思うのですが、この点について、この報道された事実、またこの内容についてお答え願いたいと思う。
  69. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 その防衛庁内部の新聞か何かに報道された事実は承知しておりませんが、防衛庁の幹部が一年に一回の東京における会合に際して陛下に拝謁を願い出たということは存じております。これは検察官、消防、それから裁判所長等、いろいろな会同のときに拝謁を願い出る、こういうことはございます。その他もたくさんあろのでございますが、時間の御都合とかその他でもって、おできにならないときもたくさんあるようでございますが、これはずうっとおやりになっておることであるということでございます。  拝謁というのは、普通、先ほど申し上げたように、私などは、官職、氏名も名のらないで、ごあいさつだけ申し上げて退出をするということが例になっておりますが、高級幹部が相当大ぜいで拝謁を願い出るという場合は、おことばもいただけるのかもしれません。おことばに対してお答えを申し上げるということは全く儀礼的なことでございまして、政治意味を持つものではない、こう理解しております。
  70. 中路雅弘

    ○中路委員 法制局長官にお聞きしたいのですが、いま私が述べました拝謁あるいは内奏、こういったことばはともかくとして、中身のことでお尋ねしているのですが、天皇に六十一名の高級自衛官が拝謁をして、天皇から自衛隊激励のことばを賜わり、そして聖旨に沿い奉るという決意を述べる、こういう行為は憲法で定められているどの天皇の行為に当たるのですか。
  71. 吉國一郎

    吉國政府委員 先ほど申し上げましたように、天皇憲法に定める国事行為を行なわれるほかに、もちろん私的な行為も行なわれますし、また天皇象徴としての地位においての御行動というものがございます。その象徴としての御行動というものを、学者はあるいは名づけて、公的行為または準国事行為というようなことばを用いる人もございますけれども、いずれにいたしましても、象徴としての地位をお持ちになる天皇が御行動になりますれば、それがある意味において公的な意味を持ってくるということは当然のことであろうと思います。たとえば、国会の開会式に招待をされて御出席になるとか、あるいは国内を御巡幸になるとかいうような行為が、このいわゆる公的行為の典型的なものであると思いますが、宮中においていろいろな人に拝謁をたまう、お会いになるということも、天皇象徴としての地位において行なわれるものでございますので、この公的行為に類似する行為、いわば公的な意味を持っている御行動であろうと思います。
  72. 中路雅弘

    ○中路委員 憲法一条でその地位規定されている象徴天皇は、四条で「天皇は、この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、國政に関する權能を有しない」ということが明記されているわけですが、先ほど自衛隊高級幹部を集めての激励のことばというのは、明らかに国政関与に関する発言であり、禁止を明確に規定されているわけですが、私はいま、拝謁ということでなくて、この中身について法制局長官に、これがこの憲法の四条に照らして明らかに違反するのではないかということとをお聞きしているわけです。もう一度……。
  73. 吉國一郎

    吉國政府委員 ただいま御指摘のように、憲法第四条第一項には「天皇は、この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、國政に關する権能を有しない」という規定がございます。この規定は、象徴としての地位ではなしに、国家機関としての天皇の行為は、憲法の定める国事に関する行為、いわゆる国事行為に限るという趣旨のものでございまして、天皇が、国家機関とは関係のない立場で、国事行為以外の行為をされることを否定する趣旨のものでないことは、これは大かたの学者の唱えるところでございます。天皇も自然人であらせられます。自然人として御行動になることは当然のことでございまして、国事行為のみを行なう、国事行為以外には行動はあり得ないということはないわけでございまして、自然人としては当然に御行動になる。その自然人が象徴としての地位をお持ちになっていらっしゃるわけでございます。したがって、自然人としての御行動にも象徴としての地位が反映をされて、そこで公的な意味を持ってくるということで、公的行為あるいは準国事行為というものが大かたの学者の認めるところになっております。  それで、ただいまの自衛隊の幹部が天皇陛下に拝謁あるいはお目にかかった際におことばをいただくということでございますが、これは、たとえば警察官がお目にかかり、あるいは検察官がお目にかかり、裁判所長の会同の機会に裁判所長等がお目にかかる、あるいは消防官等がお目にかかる場合に、その職務に対して陛下が御激励になるということは、天皇象徴たる地位にかんがみて当然あり得ることと思いますので、その意味で、その勤務に精励するようにという励ましのおことばを賜わるものであると思います。具体的にその内容について私は知悉いたしておりませんけれども象徴としてのお立場において、いろいろな職務に従事する者に対して御激励になるということは、当然あってしかるべきことであろうと思います。
  74. 中路雅弘

    ○中路委員 明らかにこれは政治関与の発言であり、しかもそれが新聞に出て、自衛隊にも全部配られておる。自衛隊が文字どおり天皇を忠誠のシンボルにしていくという、そういう道をたどっている。  しかも今度のこの拝謁というのは、ことしだけ起きたわけでない。昭和四十年から毎年行なわれているわけです。時間がありませんから、簡単に言いますけれども、昭和四十年の十月七日、この日、最初に拝謁がこの年から始まったということを機関紙は書いている。それまでは、これもよくわからないのだけれども、毎年高級幹部会同の際には、事務次官の引率で自衛隊の高級幹部がそろって拝謁を賜わっていた、しかし、ことし初めて陛下に拝謁、お目にかかる方式がとられたと書かれて、毎年この拝謁について天皇がどのような激励のことばを述べているか、あるいは統幕議長がそれに対して決意を述べているかということが毎年の「朝雲」に掲載されています。  このような行為は、明らかに天皇国政関与の行為であり、先ほど初めにお話ししましたように、九十九条では、天皇もこの憲法を尊重し擁護しなくてはならない、そしてそれについては内閣が助言と承認、責任を負うということが明記をされているわけですが、このような、明らかに政治関与に関するような発言を引き出す拝謁とか、あるいは今回の、大臣が所管事項を、時の政府の政策を一方的に話をし天皇から発言を引き出す、それを利用する、このような行為は、憲法の条項に照らしても絶対にやめるべきだと思いますが、最後にこの点について総理の御見解をお聞きしたいと思います。
  75. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 国民一般及び憲法に定められた適法な措置にある機関の職員、その他、中には外国の大公使も、また日本を訪問をした外国人も拝謁を願い出ることは十分あるのでございます。しかも政府は皇室を御利用するというような考えの毛頭ないことは、間々申し上げておるとおりでございまして、これは拝謁を願い出る人々の要望におこたえになることでございます。そういう意味で、これをやめなければならないというような考えは全く考えておりません。これはもう、政府がそういうことを申し上げるということではなくて、ほんとうに大事なわれわれの象徴としての陛下が、より多くの方々に会っていただけるということは望ましいことであっても、これをやめなければならないというような考えは全く持っておりません。
  76. 中路雅弘

    ○中路委員 この問題については、宮内庁長官はきょうお見えになっていないが、総理長官が、宮内庁が外局ですから責任ある答弁をするということで御出席ですから、最後に宮内庁長官にかわって総理長官に、このような憲法の逸脱がある場合、それをやらせないということについて責任があるわけですから、その問題についてもお考えを最後にお聞きしたいと思います。
  77. 坪川信三

    ○坪川国務大臣 ただいま総理お答えに相なりましたごとく、いま御指摘になりました行為は、象徴天皇としての当然の立場でおとりになっておられることでもあり、制度上、行政上何ら背反するものでもありません。したがいまして、これを中止、あるいは今後取りやめるというような考えは持たないことだけをはっきり申し上げておきたいと思います。     〔「もう時間だ」と呼び、その他発言する者あり〕
  78. 中路雅弘

    ○中路委員 まだ時間はあります。
  79. 三原朝雄

    三原委員長 中路君、御協力を願います。
  80. 中路雅弘

    ○中路委員 持ち時間はまだあるのです。事務局は言っておりますけれども、私はあとの公明党の諸君と民社党の諸君発言ということを考えまして、あらためてまた理事会でこの問題を引き続いて問題にしたいと思いますので、一応終わらせていただます。
  81. 三原朝雄

    三原委員長 鈴切康雄君。
  82. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 わが党は現行憲法擁護を党の綱領で明確にしておりますが、ただいま問題になっております天皇の権能についてまずお伺いを申し上げたいと思います。そこで、総理大臣の認識についてまずお伺いをしたい。  増原発言から、天皇の権能についてはいろいろ論議をされているわけでありますけれども、わが国はイランと同じく王制の国であるかどうかという認識でありますけれども、その点についてまずお伺いいたしましょう。
  83. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 憲法に明定するとおり、天皇国民の総意に基づく象徴でございまして、主権は在民でございます。ですから、王制であるとか、そういう外国にある例に的確に当てはめて議論をするということはむずかしいわけであります。
  84. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 いま総理大臣は、主権在民であるし、そういうことから言うならば、イランと同じ王制であるというものの考え方は決して正しくない、こういう御発言がありました。  そこで、この問題について、実は六月五日の参議院の内閣委員会におけるわが党の宮崎委員への答弁で、中曽根通産大臣が次のような発言を行なっております。その内容を明らかにいたしますと、まず消費国同盟に日本は入るかという質問に対して、その内容の中に中曽根通産大臣は、「私は、それはイランのホベイダという首相に聞かれたんですが、その時に、日本はアジアの東にあって王制の国です。あなた方は、アジアの西にあって同じく王制の国で、ともに古い伝統を持っておる国家です。この二つの国が東と西で手をつないで経済協力をし、お互いに繁栄をして、アジアの安定、世界の平和のために貢献するということは非常に欣快なことであると思う」、こういう話をしたら、非常にホベイダという首相がそれに対して喜びの表情をあらわした。こういう内容なんですが、いま総理大臣がおっしゃった王制に対するものの考え方はまるきり通産大臣とは違うわけでありますけれども、このいわゆる閣内不統一の問題をどうしてくれますか。
  85. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 鈴切さん言われますけれども、閣内不統一というほどの問題ではないのです。これは王制ということ自体にも学問的に定義もありますけれども、これはそんなに明確なことでいまお答えができない。キングとエンペラーの違いがどうだというようなこまかい議論もございますが、しかし、王制ということ、俗にいう王制が主権在君か在民かという分かれ方から言えば、王制といわれるのは、主権は在君である、いわゆる統治権を持つ者は国民ではなく特定の制度上の王、キングが存在する、こういうことであります。そういう意味から言うと、旧憲法時代の日本は王制の中に入る、範疇に入る、こういうことでありましょう。しかし戦後の憲法を読めばおわかりになるとおり、これは国民総意に基づく象徴としておるわけでございます。憲法には厳として主権は在民の規定がございます。在民の規定がございますが、国民総意に基づく象徴として天皇をいただいておるということも事実でございます。  そういう意味で、王制の中にも入れられるのかなというような感じで中曽根大臣述べたのだと思いますが、やはり正確には、そういうことはどのような話をしたということにウエートがあっての応答の中でもってきっと述べたのであって、王制とは何ぞや、日本は王制かどうかという議論をした中のものではありませんから、そこらはひとつ御理解がいただけると思います。学問上の問題でございますので。私はしかし、先ほど申し上げ崖したように、国民総意に基づいて天皇象徴としていただいておるという厳たる事実に徴して、日本もまた王制であるというように、中曽根国務大臣、答えの中にそう述べたのだと思いまして、少なくとも日本が王制であるというような認識のもとに立って述べたものでない、こう理解をいたしております。
  86. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 総理大臣がいま言われた発言は、私は非常に重大な問題ではないかと思います。それじゃ法制局長官、あなたの王制に対する解釈をひとつ。
  87. 吉國一郎

    吉國政府委員 王制という法律上の用語ではございますけれども、これは学問上の用語であると思います。日本の法令の上に法令の用語としてあらわれておることは全然ございませんので、あくまで学問上の用語として申し上げますが、結局これは帰するところ定義の問題であろうと思います。  古くは、王制、あるいは昔の日本天皇制とか、あるいは皇帝制というようなものに共通の要素と申しますか、学問上の一つのメルクマールになるものを取り上げるといたしますならば、まずその国の尊貴の対象と申しますか、日本で言えばちょうど象徴に当たるような地位にある人といたしまして、世襲を基本としたような、世襲の尊貴の対象をその国の相当高い地位にいただいておる。その地位にいただかれる人は、通常、王であるとか、あるいは皇帝であるとか、王にも、国王というようなものもございましょう、首長ということばを使うということもございましょうが、そういうような尊貴の対象が世襲であって、しかもそれが相当な範囲において、主権のうちの行政権についてある程度掌握をしているというのが昔の王制であったと思います。その後、十九世紀から二十世紀になりまして、王制の観念も実質的にはずっと変わってまいりまして、いろいろな国がございますが、たとえばベルギーの王制におきましても、あるいは北欧三国の王制におきましても、その国王たる地位にあられる人が世襲であり尊貴の対象であるという点は昔と変わりございませんけれども、その掌握している統治の権、特に行政権についてはほとんど形式にのみ流れまして、実質は、その王のもとにある行政権の主体者である内閣なり、あるいはその他の機関に属しておるというのが通常の形態であろうと思います。イランについていま私は詳しくは存じませんけれども、そういう意味においてイランが王制であることはおそらくそのとおりであろうと思います。  日本天皇制について、王制であるかどうかということになりますが、その王制の定義いかんの問題でございまして、王制について先ほど申し上げましたように、世襲の尊貴の対象をいただいておるという点についてだけ着目をいたしまするならば、日本が、象徴天皇制と俗に呼ばれる意味で、象徴としての天皇を、日本国の象徴であり日本国民の統合の象徴であるとして、国の機関として高いところにいただいておるということは間違いないと思いますので、その意味で王制に類似する制度であるということで、中曽根大臣も、同じような制度を持っておるということについて比喩的に言われたものであると思います。要は王制の学問上の定義の問題に帰する問題であると思います。日本はあくまで象徴天皇制という世界にも独自な形態であるということを申し上げておきます。
  88. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 法制局長官は知っておられるのか、あるいはさらに答弁を控えられたのか、王制に対する解釈というのは、これはやはり学問的にあります。その中でいまあなたが言われたのは、世襲制であるということが一点と、それからもう一つは、統治権と行政権の一部を持つということをはからずもあなたはおっしゃった。これはやはり大きなウエートではないかと私は思うのですが、日本の国は天皇に統治権と行政権があるのですか。その点について……。
  89. 吉國一郎

    吉國政府委員 天皇は、憲法の第四条にございますように、「この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」ということでございます。先ほど申し上げましたのは、その世襲である尊貴の対象を国家の機関の相当高いところにいただいておるという点において共通であるということを申し上げたつもりでございます。
  90. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 日本の国は、天皇はいわゆる統治権を持ち、帝国憲法と帝国議会でそれを行使した時代というものは、これは立憲君主国であったことはもう明らかであり、また君主制即王制であった。しかし現在は主権在民なんです。その主権在民のこの世の中にあって、中曽根発言の、イランの国と日本の国とは同じ王制である、そういう発言国会の場において堂々と答弁されるということは、これは納得いきませんよ。これはたいへんなことですよ。一国の国務大臣が、内閣委員会において——これは新聞と違うのですよ。新聞と違う。正式な国会の場所において、こういうことを言われるということについては、これは重大な発言ですよ。現憲法無視の発言じゃないですか。この点どう総理大臣決着をおつけになるのですか。
  91. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 突然の御指摘でございますので、勉強しておらないことをはなはだ遺憾といたします。しかし、国会で御質問に答えて、先ほど申し上げましたが、日本は王制なのかそうでないのかという質問に答えて述べたのではないようでございます。いまあなたの御発言を承っておりますと、私とイランの大臣が話したときに、あなたの国も私の国も王制でございますので、同じような国でございますのでと、こう述べたということを国会でまた述べているわけでございますから、その意味で言わずもがなのものかもわかりません。そういうことをどういうような意思でイランとの交渉の過程において述べたのか、私は承知をいたしておりません。おりませんので、考えられるままに、すなおに答弁を申し上げているわけでございまして、これはいま法制局長官も述べましたように、これは王制というような中に日本を学問的な意味でも入れるには、これはむずかしいところもある。むずかしい。これは主権在民でありますから。そういう意味で私は明確に申し上げておるわけでございます。  しかし、憲法に定める国民統合象徴という特異な憲法の表現規定があるわけでございまして、そういう意味で、やはり皇室中心というような考えで、平たい意味での王制、こう述べたのだと思います。しかし、これは国会質問に対して述べたのではなく、イランで何を話をしたというときの、こういうことを話しました、こういうことだと思います。それは相手との雰囲気の問題もありますし、いろいろな立場があると思いますので、その部分だけを抽出をしながら日本憲法上の解釈を誤っておるということを論ずるには当たらない、こう思います。
  92. 三原朝雄

    三原委員長 お静かに願います。
  93. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 総理大臣、たとえば外国に行って、日本の国が王制でないにもかかわらず、王制かのような印象を相手方に与え、そうしてしかもそういう認識のもとにいろいろ相手方と交渉をするということははたして適当であるかどうかという問題、言うならばこれは完全にごまかしである。相手方に対してごまかしであるわけです。また、そういうようなものの考え方を持っている国務大臣がいるからこそ、こういうふうな大きな問題になっているのじゃないですか。増原防衛庁長官だってそうじゃないですか。言うならば田中内閣全体の、閣僚の姿勢の問題だと私は思います。一閣僚でなくして、言うならば田中内閣全体の責任だと私は思うのですが、こういうふうな憲法否定の発言国会において、たとえ相手方の国において話をしたという内容をここで明らかにするという中においても、すでにこういうふうな重大な発言があるということは私は許しません。あなたは事実はわからないとおっしゃるけれども、これは六月五日の内閣委員会におけるわが党の宮崎議員の質問に答えてそういうことを言ったのですから、事実をお調べなさい。
  94. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 事実を調べろということであれば、それは調べますが、これは国会でも、中曽根国務大臣がどういう趣旨でもって発言をされたのかおただしになるという機会はあるわけでございますから、おただしいただきたい。それはすなおに私は申し上げますが、いまあなたの御発言の中で承知をした限りにおいては、イランで話をしたときの状態を述べた、国会ならもっとしっかりした答弁をしたと思いますが、外国でもって話をしたというので、相手が——これは国会でもって、先ほどから述べておりますように、日本は王制かどういうのかという問題ではなく、石油の交渉という過程においての話し合いの一部を引用してお答えをしたようでございます。これは私は、少なくとも中曽根国務大臣が、憲法に明定する日本天皇、皇室ということを存じないで、ただ端的に王制という観念でイランで述べたものではない、こういうことを考えております。
  95. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 この問題はやはり重大な問題でありますし、わが党といたしましても、参議院においてさらに取り上げるつもりでいます。いずれにしても、そういうものの考え方から憲法を解釈をされるということになると、これはたいへんに大きな間違いを生じてくるわけであります。いま明らかに、田中内閣総理大臣と中曽根さんの発言とは、全く異質なるものをここであらわしたわけでありますから、これは明らかに閣内不統一だということであります。これは大きな問題を提起したと私は思うのですが、時間がございますので、一、二点申し上げたいと思うわけであります。  私、この増原発言は、現行憲法を守るという立場から言うと、憲法第一条の天皇地位にまで問題が発展し、政治問題化したということは、明らかに天皇政治の場に利用するという疑いが出てきたことについては、まことに重大な問題だと私は思います。総理大臣、あなたはこの問題を、ただ増原さん一人の責任としてこと足れり、そのように考えておられるか。あるいは、あなたが任命した国務大臣辞任は、その長として、ただ一閣僚辞任だけでこと済まされない問題である。少なくとも天皇政治に対する憲法順守という立場に立ったときに、内外に与えた影響がまことに重大であるという反省を含めて深刻に受けとめられておるかどうか、その点についてお伺いします。
  96. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 まず第一に、皇室を政治に利用するという意思はごうまつもありません。それから陛下もそのようなお考えを述べられるということは全くないということを前提にいたしております。にもかかわらず増原発言が存在し、私が任命をした、特に防衛庁長官としては適格の人格者であると考えておった増原氏が、責めを負って辞職しなければならなかったということに対しては、はなはだ遺憾であるという気持ちを表明いたしておるわけでございます。以後はますます気を引き締めまして、いやしくもこのようなことで国民各位に誤解を生ずることのないように全力を傾けたい、こう考えております。
  97. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 田中内閣発足以来わずか十一カ月、政府の一連の動きを見ておりますと、何か天皇政治の場に利用するのではないかというような疑問視をしている国民もずいぶんいるわけであります。さきの天皇の訪米に関して、政治問題化し、結果からいえば訪米は見送りという状態になつた。  五月十八日の赤坂の御苑で開かれた天皇、皇后両陛下主催の春の園遊会に、先ほども話がありましたけれども田中総理の個人後援会、越山会の有力メンバーが八人入っていたというふうに聞いておるけれども、限られた内閣推薦の功績者に個人後援会の人を多数推薦の対象とされたのはどういうわけなんだかということを、国民は非常に疑問を持っている。なお総理、たとえあなたを一国の首相に誕生させたとはいう功績があったとしても、それはどこまでも個人後援会という私的な立場であるわけです。言うならば、いまや個人後援会の総理というのではないのです。ゆえに、一国の総理として、広く人材を集め、その上に立って推薦されるという基本的な姿勢から言うならば決して好ましくない。国民の批判があるのは私は当然だと思う。  こういう問題一つとっても、総理みずから反省がないとするならば、私は今回の増原問題も、そうした体質の中から起こるべくして起こったというふうに感ぜざるを得ないのですが、総理はその点についてどのようにお考えになるのか、それが一点。  もう一つ。天皇の御発言が事実あったにせよ、なかったにせよ、増原長官記者会見における発言があったことは事実なんです。これは。その事実が天皇政治的利用という批判の根拠になっているのであるから、一見増原長官だけの責任のようにも見えるけれども、これまで一度も行なわれたことがない重大発言を、いまも総理の言われた有能な、慎重な増原さんが行なうに至ったのか。どうも私はいまの内閣にそういった体質があるように思えてしかたがない。つまりこの問題の責任は、一閣僚にとらしただけで事を済ませようとする内閣の姿勢がやはり一番大きな問題だと考えるけれども、なぜ内閣全体で責任をとらないのか、それだけの質問をいたしておきます。
  98. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 第一間に対しては、先ほどるる申し述べたとおりでございます。  第二問に対しましては、はなはだ遺憾であるということでございますし、これを機会に、憲法守り、皇室に対する政府の基本的な考え方は、先ほどからるる申し上げているとおりでございます。結論としては、再びこのようなことが起こらないように、閣僚申し合わせをし、憲法の定める内閣責任を十分果たすべく努力を傾けたいということであります。
  99. 鈴切康雄

    ○鈴切委員 時間でありますから、これで終了いたします。
  100. 三原朝雄

    三原委員長 受田新吉君。
  101. 受田新吉

    ○受田委員 総理、この増原発言をめぐる事件の結末をつけるべき大事な当委員会に御苦労をしていただいておるわけですが、私は限られた時間の中で、まず第一に、現在の憲法、新憲法が定着して国民の中へ溶け込んでおる、この時点において、憲法を擁護する立場にある総理以下閣僚たち、われわれ国会議員、真剣に取っ組んでいるかどうかという問題を、もう一度考え直してみたいと思うのです。  田中総理も、終戦直後のあの新憲法制定当時の論議をよく御存じのはずです。相当混乱した中で、敗戦の痛苦の中で、新しい祖国の行くえをどうするかという形の中で、古い頭の人、新しい感覚の人、それらが入りまじって、結局、現在の憲法が、祖国の再建と経済の復興、平和な国づくりの基本として生まれた。あの新憲法施行後、あなたも私も二十有六年にわたって議員生活をやらしていただいておるんですけれども、来し方を顧みて感無量なものがあるわけです。その戦後の長い政治の道のりをともに歩いたあなたに、ひとつ、現在の憲法順守義務のある立場にある、憲法九十九条を守る立場からお尋ねしたい。  自民党の中に、憲法を改正して憲法第一条、天皇地位象徴天皇から元首天皇として権限を強化する動きが出ております。憲法第九条の戦争放棄の規定を改めて、自衛隊の権力的背景を法律的に憲法規定として認めようとする動きもあります。過ぐる五月三日、憲法記念日に、自民党の中では憲法改正の気勢をあげている。いま申し上げたような諸事項を強く国民に訴えておられたことを総理は御存じかどうか。このような動きのあることに対して総理は、憲法を擁護する立場に立つ総理として、あなたの政府は、断固このような改正の動きを持つものでなく、現在の象徴天皇守り、戦争放棄の規定もある現行憲法を守る総理大臣としての意思が明確にあるかどうかを、まず御答弁を願いたいのです。
  102. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 現行憲法を守らなければならないということは、もう言うをまたないことでございます。これは憲法九十九条の規定に明文がございます。内閣総理大臣以下国務大臣国会議員も当然でございます。憲法を守らなければならぬ、あたりまえのことでございます。これは守っておることはもう申すまでもない。  しかし、憲法を学問的に勉強するということは、これは学問の自由でございまして、これはもう憲法に対してはいろいろな議論が行なわれておる、これも当然でございます。また政党が、憲法に対して将来どうあるべきかということで憲法調査会を設けるということは、これは問題は何もありません。かつて政府に、法律に基づく憲法調査会というものが置かれて、各界の有識者の意見をまとめて一つの案が政府に提案をせられておるということも事実であります。これはいまは自民党だけではなく、共産党のほうにも憲法改正ということが書いてございますし、かつて社会党にも、稲村順三君起草になるといわれておる憲法改正案が世に明らかにされたわけでありますから、これは勉強の問題と政党の政策の問題とはお互いに区別しなければいけない。ですから、勉強の問題と、政党が政策として将来かくあるべしであるということは、これは憲法に保障されておることでございます。しかし、現実な憲法を守らなければならぬ、これはもう当然のことであって、これは政府・与党のみならず、野党もすべて憲法を守らなければならぬ、これは当然であります。
  103. 受田新吉

    ○受田委員 総理は、憲法を改正するようなことは総理としては考えていない。はっきり言えることですね、明確に。それは党内の問題であって、私は改正しないと。
  104. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 私はいま憲法改正問題を考えておりません。特に、憲法がどのような状態になろうとも、これは国民総意の、国民の大多数というものが賛成をしないような場合に改正はできないわけであります。衆参両院において三分の二の多数の発議を必要とする。しかも直接国民投票によらなければならないということでございまして、現在、衆参両院において三分の二の多数を持たない自民党の総裁として、こういうことは不可能なわけでありますから、不可能な状態において改正しようなどということを考えてもおりません。特にあなたが指摘された憲法九条。憲法九条は絶対に改正をしないということは、自民党の政策の中でも、自民党はみないっておるんです。憲法改正というものに対しては、勉強しなければならぬし、国民の合意が得られるならば憲法改正という時期もあるだろう、しかし九条は絶対に改正をしない、こういっておるのでございますから、そこはひとつ誤解のないように、この際明らかにいたしておきたい。
  105. 受田新吉

    ○受田委員 党内にはいろいろの御意見を持った方のあることもよく知っております。しかし私はそこで、あなたは、九条は変えない、しかし憲法一条を変えようという動きはあるということになりますと、元首論がそこに起こってくる。日本の現在の天皇は法律的に元首の要素を持っているものがあるのかないのか、形式的にも元首であるのかないのか、ちょっとお答え願いたい。
  106. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 まあ学問的な問題に対して法制局長官から補足説明をいたしてもよろしゅうございますが、元首というものは学問的にも定義がいろいろございます。時代によって変遷をしております。そういう意味で、元首という意味から考えると、ここで元首でない、元首であるというふうに明確にお答えができるとは考えません。それはいままでの通俗的な元首論というのは、その国の代表者であり三権の長であるということ、また統治権を有する、国の内外に対してその国を代表しておる、こういうことになれば、もう当然そのまま元首でございます。そういう意味から言うと、憲法の一条からの制約がございますから、その意味で言うと、日本天皇は元首ではないというのが学問的な一つの根拠でございます。  しかし、もう一つ、世界に例のないような憲法の条文でございますが、国民統合象徴としての天皇をいただいておる。そういう意味で、外国使臣を接受せられるというようなことも十項目の中にはあるわけでございます。しかし、それらの一切の責任というものは行政府内閣責任であるという免責規定もございますが、しかし、いずれにしても外国から考えると、日本天皇は元首である、こういうふうに見ておることは事実でございます。これは、私がどこの外国の人に会ってみても、総理大臣が元首だというふうにだれも言う人はありません。これはまた言える根拠もございません。日本の元首は天皇である、元首である天皇にお目にかかりたい、拝謁を願いたい、こういう申し入れがございますので、外国人は日本天皇を元首として考えておる。また憲法上も元首でないというような規定はないわけでございますし、学問的な問題から考えてみても、憲法をよく読んでみますと、国民統合象徴として代表者であるという意味で、そういう二段がまえで言うと、その意味では元首と言って一向問題はない、こういうことでありまして、それ以上は学問的なものでございますので、私の範疇からちょっとはずれますので、法制局長官からお答えいたします。
  107. 吉國一郎

    吉國政府委員 元首論につきましては、ただいまの総理答弁で十分であると思いますけれども、やや詳しく申し上げますならば、昔のように、元首とは内政、外交のすべてを通じて、形式的にも、また実質的にも国を代表して、それから行政権を掌握している、少なくとも三権のうちの行政権を掌握しているというのが従来の古い元首観念の定義であっただろうと思います。現在の憲法のもとにおきましては、そのような定義に照らすならば天皇は元首ではないことは明白でございます。  しかし他方、最近の学説では、対外的に国を代表する地位を持っているもの、あるいは、実質的には国家統治の大権は全くないけれども、形式上の姿といたしまして、国家におけるいわゆるヘッドの地位にあるものを元首とするというような学者の見解もございます。そのような見解に従いますならば、天皇は、先ほど来いろいろ議論がございましたように、国の象徴であるという面を持っておられること、これはもちろんでございます。さらに一部には、外交関係に関連して、国を代表する地位、外国の大公使を接受するということが天皇の国事に関する行為の一つとしてあげられております。そういう面をとらえますならば、天皇は現在の憲法のもとでも元首と言ってもいいではないかというような考え方もあり得ると思います。要は元首の定義の問題いかんによるということでございます。
  108. 受田新吉

    ○受田委員 総理、あなたは先般、国を代表して、アメリカへ行かれた。そのときに儀礼的な礼砲を撃ってもらった。そのたまの数が前の佐藤総理よりも多かったというので御満足であったというのがこの前の委員会で出てきたようでございますが、やはり一国を代表して総理は行かれるわけです。しかし元首ではないから、元首の礼砲と総理の礼砲は数が違うということもあるわけですが、私はその問題について、自民党の政府の中に、元首に対するあこがれ、そしてそれをかさに着るというような、皇室をかさに着るような風潮があるのではないか。つまり天皇からおことばをいただいたというので、さも誇りげに語るところに自民党の体質がある。閣僚になっても、天皇からおことばをいただいたというのを誇りげに外に宣伝される。増原さんは非常に正直な人だから、それをすなおに言われた。ここにいる後任長官はなかなか要領がいいから、そういうことはやらぬ。こういうようなところがあって、ちょうどたまたま増原さんのような人であったのでぼろが出たわけなんです。しかしその風潮は、自民党の体質の中に袞竜のそでに隠るるという古い風潮があって、内閣の助言と承認の責任者として、天皇国民の上に、われわれの上にあるかさというふうな、権力を利用するという、そういう風潮があるということは私は残念に思うのです。これをあなたは、すかっと今後おやめにならなければいけない。あなたは決意と断行をされる方であるから、したがってここで御注文がある。  総理陛下御自身は非常に平和を愛せられる、純粋な、穏やかなお方で、私個人何回かいろいろな機会にお目にかかって、敬愛をしている国民の一人です。その陛下をいかにも政治の渦巻きの中に巻くようなことを今回やったわけです。そこで、上奏、御裁可という古いことばがあったわけですが、内奏して裁可をしてもらって御名御璽、名前を書いて印を押してもらうという、この政治的な、行政的な扱いをいましておられるわけですが、拒否権——陛下が、この法律は、この政令は、この大使の認証は、この国務大臣は、どうも勉強してみぬと適当でない、ちょっと時間をかしてくれというようなことができるのかどうか。拒否権は全然ないと私は判断するけれども、国事行為は、すなわち即時、全く機械的にやるのであって、内閣の助言と承認に政治的な時間的余裕とか、考えさせてくれとかいうことは全然できない、こういう形のものであると信ずるが、どうかをお答え願いたい。
  109. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 内閣も私個人もでございますが、国民統合象徴として存在される皇室を心から尊敬をいたしております。また、ほんとうに大事にしなければならない、こういう考えをすなおに持っております。がしかし、いやしくも政策遂行の過程において、皇室を利用しようなどという考えはごうまつもないことを明らかにいたしておきます。また、どんな場合でも袞竜のそでに隠れるというようなことは全く考えておらない。これは過去も現在も将来もであることをこの際明確にいたしておきます。  それから、第二点の、天皇に拒否権があるかどうかとか、それから、この人事は少し待ったらどうかというような、平たくいえばそういう猶予権、余裕を求められるような権能がおありになるかということでありますが、これは憲法に明定するところ、内閣の助言と承認に基づいて行なわれるものでございますから、この問題にしては拒否権は有せられない。また、猶予というようなことをなさるようなことは全くない。これはまた法律上、憲法上も存在しない、このように理解をしております。
  110. 受田新吉

    ○受田委員 私もう一、二点……。  総理、しかるがゆえに、陛下には政治責任のない形になっている。にもかかわらず、陛下の御発言の中に政治的な発言があったというようなことを流布されるということは、象徴天皇規定を少なくとも三十年近く国民の中へ固定した情勢の中においては、青天のへきれきである。国民の中にも、現在の憲法規定をそのまま、すなわち、象徴天皇はこのままでよろしいという世論、無関心組を含めて世論が七、八割あるわけです。そういう情勢の中で、これをあなた方のほうで取り上げて国民を迷わすようなことをしてはならないのである。  内奏——国会法にも奏上ということばが六十五条に書いてある。こういうことばがまだ出ておる。それから、謁見、接受、接見、こういうことばがいろいろ出ておる。こういう古いことばが新しい形で——憲法にあるのはやむを得ないけれども、その他のものについては、近代的国家の象徴天皇として、国民統合象徴国民の中にとけ込んだ陛下の存在をすかっとするようにやってもらいたい。そして総理陛下も、外へ出られるときには——総理もですよ。国民の中にとけ込む総理であり、陛下であるはずです。外出をきびしく厳重な警戒のもとに、非常に暴力をふるわれる国のような形で陛下が外出され、皇后さまは御母貞明皇后の御逝去の際にも間に合わないというような厳重な古いしきたりが皇居の中にある。国民統合象徴としての皇室、陛下天皇御一家をもっと国民の中へ統合して、国民とともにあるという、主権在民ですから、その線でまとめていかれるように、総理、今後きびしく、あなたが庶民から出た総理として、勇気をもって大衆の中へとけ込む総理として、この問題の解決に当たってもらいたい。  注文をしておきまして私の質問を終わります。答弁があれば答えていただきたい。
  111. 田中角榮

    田中内閣総理大臣 天皇国民統合象徴であります。その意味で、国民皆さんが御理解を申し上げ、大事にしなければならない皇室でございますので、ただいまの御発言、貴重な御発言として十分対処してまいりたいと存じます。
  112. 三原朝雄

    三原委員長 この際、暫時休憩いたします。     午後零時四十一分休憩      ————◇—————