○
井出参考人 横浜国大の
井出でございます。十分の与えられました時間内で要約を申し上げたいと存じます。
〔
委員長退席、
大村委員長代理着席〕
一番目に
所得税についてでございますが、私はいわゆる高
福祉高負担ということを基本的には支持するわけでございますけれども、前提といたしまして、高
福祉の問題は別として高
負担の問題になりますと、やはり
税制の
公平化ということが行なわれないというと、この高
福祉高負担という
議論も
国民の合意を得ることはできないじゃないか、こういうことでございまして、こうなりますと、
国民福祉優先の
財政政策、あるいは
福祉税制の確立ということが叫ばれております今回の
税制改正において、もっと意欲的にこの
税制の
公平化をはかっていただきたかった、こういうような気がいたします。
それで、まず
所得税でございますが、
給与所得者の
課税最低限度額の
引き上げがございまして、これはこのままでは不十分であるということを申します。
なお、この点につきまして一言申しますと、いつもこういう
減税の場合は
初年度幾ら、平
年度幾らとなっております。たとえば今度の
課税最低限度額でも、
給与所得者の
夫婦子供二人という場合に、
標準世帯において
初年度は百十二万
幾ら、
平年度は百十四万
幾ら——百十四万九千円、約百十五万円ですけれども、しかし、
平年度というのは、
物価高の過程におきましては、毎年毎年
引き上げが必要になってきますので、実質的に
意味があるのは
初年度でございます。ですから私は、技術的に多少問題があるかもわかりませんけれども、
初年度と
平年度ということをやめまして、
減税の場合は
暦年制、一月からさかのぼってやるべきである。ですから、これをやりますというと、
初年度において百十四万九千円、こういうことになるのでありますけれども、これは技術的にどういう
困難性があるか、
課税当局の方にお伺いをいたしたいと存じます。
それから、
給与所得者の
課税最低限度額の引き.上げの場合は、特に
給与所得控除の
引き上げということになるべくならば
重点を置いていただきたいと存じます。
給与所得控除の
引き上げに
重点を置くことによって、クロヨンとかトーゴーサンというような現在のアンバランスがある
程度解消するわけでございますので、
給与所得控除にひとつ
重点を置いて今後
お願いいたしたい、こういうふうに存じます。
それから、
所得税においては
事業主報酬制度の
導入がございましたが、これは
事業主の
報酬も一部は
勤労所得的要素がございますので、そういう
意味においては基本的には私はこの
制度の
導入には賛成でございます。しかし、この
事業主報酬について、
給与所得者と同じ
金額の
給与所得控除を認めるということになりますというと、いわゆるトーゴーサン、クロヨンというような
負担のアンバランスは、拡大するわけです。サラリーマンあるいは
給与所得者の相対的な不利、こういうことで問題になるわけでございまして、そういう
意味におきまして、私はこの際先ほど申しましたように、
給与所得控除額を今後思い切って
引き上げていく、そうして、
事業主報酬についての
給与所得控除は、
給与所得者に対する
給与所得控除額の三〇%ないし四〇%
程度にする、この
程度の格差を認めるべきであろうと思います。
ただし、この場合に、時間がございませんので申し上げませんけれども、
給与所得控除とはそもそも何であるかということが問題になるわけです。このイデーを究明しなければならない。そのことによって
所得税制を根本的に再
検討する必要があると思います。その
意味におきましては、この
事業主報酬制度を
臨時措置にされたということは適当であったと存じます。
それから三番目には、先ほどもお話ございましたけれども、株式
譲渡所得の非
課税制度というものを撤廃するということが必要だろうと思います。これは利子
所得や配当
所得の実質的な分離
課税が行なわれている、これを撤廃すると並んで行なうべきであろうと存じます。
所得税の公平ということは、
所得の量的な側面と質的な側面と両方から考えなければならない。
所得の大なるものには高い
税率というような量的な側面と、それから資産
所得は
勤労所得よりも
負担能力が大きいというようなことを考えた面からの
負担の公平ということが必要でございますけれども、現在の
所得税制度というものは両側面から
負担の公平というものが崩壊しておると思うんです。こういう資産
所得の総合
所得算入の失敗ということは、これは総合
累進課税の崩壊であり、と同時に資産
所得軽課ということになる。二重の
意味において不公平でありますので、こういうものからまず是正していかないと、高
福祉高負担を
国民がこぞって賛成する、気持ちよく賛成するということにならぬじゃないか、こういうふうに存じます。
それから四番目に、先ほど申しました
課税最低限度額の問題でございますけれども、
課税最低限度額とは一体どの
程度のものであるか、これは非常にむずかしい問題でありますけれども、やはり避けて通らないで、多少時間をかけてもいいから理論的にこの辺を
検討する必要があるんじゃないかと思います。健康にして文化的な生活、これを可能ならしむるのが
課税最低限度額というのは、少し欲が多過ぎるんじゃないかという答えが返ってくるかもわかりませんけれども、現
段階においてやはりこういう問題をもまじめに取り上げて考えるべきではなかろうかと思います。
それから、
課税最低限度額は、アメリカあるいはヨーロッパ
先進諸国と大体肩を並べた、国によっては日本のほうが高いということで、もういいじゃないかというわけでございますけれども、御
承知のように
社会保障
制度が非常に不備でございますので、そのために
わが国においては貯蓄率が高いわけです。ですからして、
所得から
社会保障
制度整備のための貯蓄——これは
一つの強制的な
税金でありまして、この貯蓄を引いた可処分
所得、そこから
税金が払われるわけでありますから、非常に重く見える、重くなるわけです。重く感ずるわけです、日本では。ですから
課税最低限度額は、もうすでに表面的な
金額だけはアメリカやヨーロッパの
先進諸国と肩を並べたからといって、もうよろしいということにはならないと思います。それからまた理論的に確立された
課税最低限度額ができましたならば、やはり
物価上昇に対するスライド制というようなことも、一応
検討するに値するんじゃなかろうかと思います。
それから次に、二番目に、
法人税につきまして申しますと、
法人課税の強化ということについて、今回の
税制改正があまり熱意がなかったように思われるわけでございまして、この点は不満でございます。
法人税率の
引き上げというものがなされておりませんが、
法人課税の強化ということは、
税率を
引き上げるということだけではなくして、
法人所得をどうとらえるかということが問題になるわけです。この点から申しますと、
法人の受け取り配当の益金不算入
制度とか、あるいは
法人の支払い配当への軽
減税率の
適用制度というようなものは、撤廃すべきじゃなかろうかと思います。今日は、大
法人の株式
保有率が非常に多くなっております。それからまた、株式の時価発行増資とか、あるいはまた時価転換社債の発行というようなことによって設備投資の資金などを獲得する、非常に資金コストが低くなっている、こういうような客観的情勢のもとにおきましては、いま申し上げましたような受け取り配当の益金不算入
制度とか、支払い配当の軽
減税率
適用ということは、大
企業にとっては不当に有利ではなかろうか。ですからこの
制度は撤廃すべきである、
法人税率を
引き上げるとともに撤廃すべきである、こういうふうに存じます。
それから三番目といたしまして、同族会社にだけ留保
所得課税が残されておりますけれども、これは撤廃すべきだろうと思います。一回限りの留保金の積み立て額に対する
課税、これは撤廃すべきだろうと思うのです。
個人事業につきましては、完全
給与制度あるいはまた先ほど申しました
事業主報酬制度というものが
導入されましたので、同族会社と
個人事業との間の
負担のアンバランスというようなことはもうないと見ていいわけでありますからして、同族会社に対してこのような
課税をするということは必要ではない、こういうふうに思って撤廃を主張いたします。
あるいはまた、すでに全面的に撤廃されましたところの留保金の累積
金額に対する
課税、これはシャウプ
税制で主張したのでありますけれども、これがなくなっておりますが、これを復活する、こういうこともまたある
意味において考えてみる必要はなかろうか、こういうふうに思います。
それから四番目に、大
企業から
中小企業に至るまでただ
一つの理論によって
法人税制を組み立てていくことは、いかにもナンセンスじゃなかろうかと思います。新日鉄のような大
企業からその辺の町工場に至るまで、同じような理論によって
法人税制が組み立てられているということは、これはやはりおかしいわけでありまして、たとえば大
企業については
法人実在説あるいはまた
中小企業については擬制税、中間においてあやしいところは選択制、どっちかの説に従って納税する、こういうようなことも
検討すべきではなかろうかと存じます。
ただ、こういうことを申しますというと、たとえば
法人税率を
引き上げろ、四〇%にせよとか、もっと上に
引き上げろといった場合に、いや待て、そういう
法人税制をいじるということは、根本的に実在説だ擬制説だということが
解決しないというと手がつかぬのじゃないかというところへ持っていきますというと、何か
法人課税強化の逃げ道、それを避ける
一つの逃げ道として基本的な理論へ持っていかれる可能性もある。ですから、そこは、そういう基本的な理論は、やはり時間をかけて今後の日本
税制を長期にわたってどうするかということで
検討しなければならぬが、それとは別に、やはり現実の日本の実情を踏まえて適当な
税制を行なっていく、改革を行なっていくということが必要だろうと思うのです。しかし、それはそれとして、やはりこういう基本的な理論の問題を考えていかなければならぬというふうに思います。シャウプ
税制はこれはいいところもございますけれども、基本的にはあの当時の実情もございまして産業優先の
税制を確立したわけでして、その基礎的な理論として
法人擬制説を持ってきておるわけです。そういう辺を考えまして、このシャウプ
税制にとらわれることなく、もちろんその長所は長所として認めるとして、とらわれることなくこれからの日本の
税制の
あり方を少し真剣に考えてみる必要があるのじゃなかろうかと存じます。
土地税制につきましては時間の
関係で、先ほども詳しくお述べになりましたので省略させていただきまして、なお
特別措置につきましても、先ほどございましたので簡単に申し上げますが、大
企業優遇という本質的な
租税特別措置の性格は、今回の
税制においても何ら基本的には変えられていないということを指摘いたしたいと存じます。まあ交際費
課税の強化、これはもう少し強化すべきであろうし、あるいはまた重要産業用
合理化機械等の特別償却、これは順次縮小していって三年で廃止というのですけれども、どうして一挙に廃止できなかったのか。あるいはまた価格変動準備金の積立額の一%引き下げというのですけれども、こういう価格変動準備金とか貸倒準備金というようなものは、一体どういう性質のものであるか、本質的には利益留保ではなかろうか、こういうように利益留保かどうかということを
検討して、利益留保的な準備金、引当金というものは、徹底的に排除していくというような大胆さが必要ではなかろうかと存じます。
それから
最後に、先ほどもちょっと
北野教授から申されましたけれども、
公害対策のための
特別措置、これはPPPいわゆるポリューター・ペイ・プリンシプル、公害原因者
負担の原則というものが世界的な合意になりつつあるわけでございまして、その場合に、こういうような
特別措置はいかがなものであろうか。イコールフッティングと申しますと、同じ条件のもとに、日本の大
企業が世界の大
企業と競争していくということで輸出がふえても世界は納得するだろうと思うのです。こういうイコールフッティングの原則、あるいはPPPの原則というものを、やはり考えていかなければならぬのじゃないか。こういう問題とこの
公害対策のための
特別措置というものはどういう
関係になるのか、この辺を一応問題にいたしたいと存じます。