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1973-04-12 第71回国会 衆議院 公害対策並びに環境保全特別委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年四月十二日(木曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 佐野 憲治君    理事 菅波  茂君 理事 登坂重次郎君    理事 林  義郎君 理事 森  喜朗君    理事 島本 虎三君 理事 中島 武敏君       田中  覚君    戸井田三郎君       村田敬次郎君    土井たか子君       馬場  昇君    木下 元二君       岡本 富夫君    坂口  力君       小宮 武喜君  出席政府委員         環境庁長官官房         長       城戸 謙次君         環境庁企画調整         局長      船後 正道君         環境庁水質保全         局長      岡安  誠君         通商産業省公害         保安局参事官  田中 芳秋君         通商産業省化学         工業局長    齋藤 太一君  委員外出席者         参  考  人         (東京大学教         授)      白木 博次君         参  考  人         (熊本大学教         授)      江川 博明君         参  考  人         (東京大学助         手)      宇井  純君         参  考  人         (熊本大学助教         授)      原田 正純君         特別委員会調査         室長      綿貫 敏行君     ————————————— 委員の異動 四月十二日  辞任         補欠選任   阿部喜男君     馬場  昇君 同日  辞任         補欠選任   馬場  昇君     阿部喜男君     ————————————— 本日の会議に付した案件  公害対策並びに環境保全に関する件(水俣病問  題)      ————◇—————
  2. 佐野憲治

    佐野委員長 これより会議を開きます。  公害対策並びに環境保全に関する件、特に水俣病問題について調査を進めます。  本日は、参考人として東京大学教授白木博次君、熊本大学教授江川博明君、東京大学助手宇井純君、以上の方々が御出席になっております。また後ほど熊本大学助教授原田正純君が御出席になります。  この際、委員会を代表いたしまして、参考人各位委員長から一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、参考人皆さん方には、御多用中のところ、また遠路にかかわらず本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  本委員におきましては、ただいま水俣病問題の調査をいたしておりますが、申し上げるまでもなく水俣病がその悲惨さにおいてわが国の公害史、わけても世界公害史に類を見ないものといわれ、多くのとうとい人命を失い、長年この病気に苦しんでいる人たちは未発見の者を含めるとその数ははかり知れません。また病人の看護に日を費す家族の心痛は余りあるものがあります。  思えば、水俣病発生の初期において水銀汚染によるものとした科学者の声を率直に生かされなかった企業や行政面での立ちおくれはともにきびしく反省しなければなりません。  去る三月二十日の水俣病裁判の判決を機に、その補償や救済策が具体化しようとしているのでありますが、きのうの関係者からの御意見の聴取に引き続き、本日は、医療やしゅんぜつの関係をはじめ本問題の研究の権威ある科学者として参考人皆さんから貴重な御意見を承り、もって水俣病対策樹立のため万全を期する所存であります。つきましては、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いを申し上げます。  なお、議事の整理上、御意見の開陳はおのおの十五分程度といたしまして、あと委員の質疑にお答えいただくようお願いを申し上げます。  それでは白木参考人からお願いいたします。白木参考人
  3. 白木博次

    白木参考人 ただいま御紹介にあずかりました東京大学脳研究所におります白木でございます。  限られた時間にどういうように話をしていいかちょっと戸惑いますけれども、私はかつて岩波書店から出ております「公害研究」、ことしの一月号でございますが、その中に「水銀汚染実態健康崩壊への危機の一例として」という論文を出しておりますし、それから最近では四月の三日のエコノミストに、四大公害裁判に関しての座談会を持たれましたので、そこである程度意見を述べておりますので、御参考にしていただければと思います。  そこで、その二つの論文と申しますか、そういうものの中のエッセンス的なものを申し上げたいと思うわけでございます。私は医学者でございますけれどもあと原田先生のほうから水俣病むしろ実態お話があると思いますので、その点はあまり触れるつもりはございませんが、ただ御承知のように新潟阿賀野川水銀中毒あるいは水俣水俣病というのは、その原因工場排水の中に含まれておりますメチル水銀、これが原因である。それが魚を汚染し、それを食べた主として漁民とその家族が脳を侵されてあのような悲惨な病気を呈したわけであることは皆さま御承知のとおりでございます。  しかし、水俣病実態というのはまだ私は決して的確に把握されているとは思えないわけでありまして、それがジャーナリズムなどでは隠れ水俣病というような表現になっておりますが、その実態がまだとらえられていないわけであります。隠れ水俣病というのは、基本的に考えますと、一つは定型的な、だれが見てもはっきり診断できる水俣病のほかに、神経が侵されているけれども、その症状がごく軽いものであるとか、あるいは全部の症状がそろっていないいわゆる不全型と申しますか、あるいは非定型というような問題を含んでおりますし、さらにはメチル水銀からだの中にふえているけれども、少なくとも現在の医学では臨床的にはっきりとらえられる健康破壊が起こっていない形のもの、これを専門用語で申しますと、不顕性中毒つまり外にあらわれない中毒、そういう実態があるわけでありまして、そういうものを総称したものが隠れ水俣病だといたしますと、それへのまだ基本的なはっきりした調査は、データはまだ上がっていないわけでありまして、したがって、そういう意味では水俣病調査研究というのは今後続けられていかなければならないわけであります。で、ことばをかえますと、いまとらえられております水俣病患者さんは氷山一角にすぎないのであって、海面下にひそんでおります膨大な氷山、この実態は全部とらえられていないということでございます。この場合に調査研究を進めるにあたっての問題点は二つあるように思うわけでありまして、一つはそのものの実態をつかんでいくためには単に医学のいろいろな分野の共同研究体制だけでなくて、そこには他の科学、つまり地質であるとか、あるいは海洋であるとか、あるいは河川の問題、そういう他の科学領域との共同研究なしにこの実態はとらえられないのではないか、そういうことが非常に重要であるというふうに考えます。  それともう一つの問題は、現在置かれておりますはっきりした水俣病患者さんの医学的な今後の治療とか、あるいは社会復帰の問題にあたっては、これは医学の問題だけでなくて、やはり社会学的な問題を同時に研究調査していかなければならないという視点が残されていると思います。裁判それ自体が勝利なき勝訴というふうに呼ばれているのは、結局問題があの裁判の中で決して片づいていない。現在の患者さんの社会的な福祉的な問題というのは今後に残されている問題としてまだ未解決であるわけであります。たとえばいまの患者さんが地域からも疎外されているというような実態があるわけでありますが、それがどのような社会的な要因から来ているかというような問題については、これは医学だけでなくて、やはりそういう立場からの、角度からのとらえ方が非常に重要である。これも私はやはり調査研究の対象となるべきであり、それによって初めて今後の患者さんの福祉的な、あるいは医療問題を含んだ福祉的な対策基本ができると思うわけでありますが、そういうものもぜひ進めていかなければならないことではないかというふうに思います。  それに基づいて、あるいはそれと並行してどのようなきめのこまかな対策が立てられていかなければならないかという問題がまだそこに未解決として残っているという点を、一応このレベルでは指摘しておきたいところでございます。  しかし私が現在申し上げたいことは、その問題はむしろ原田先生におまかせするとして、決してこの水俣病というのは一地域の特殊な病気ではないんだということをこれから申し上げたいと思います。  と申しますのは、先ほど申しましたように、メチル水銀という一つ有機水銀が現在水俣病の発病の原因であるということでございますが、われわれの研究あるいは東大の薬学の浮田教授その他の研究によりますと、いま現在一般市民髪の毛水銀、これが平均しまして、六・五PPMという値を持っているわけでありまして、これは世界の最高値を示しているわけでありますが、その平均しまして約五割、まあ高い人はそのほとんど一〇〇%がメチル水銀に変わっているという事実でございます。私の髪の毛も自分で調べましたが、数年前でございますが、すでに三PPMメチル水銀を持っております。ここにいらっしゃいます皆さんも、おそらくその例外ではないというふうに考えますと、水俣病原因であるメチル水銀一般市民なり国民の大多数が持っている、こういう事実は、これを水俣病を特殊な地域病気としてとらえることができないということの一つのいい科学的な実証ではないかというふうに考えるわけでございます。  どうしてそういうことが起こったかというようなことについての詳しいことは私は申しませんが、一番の元凶は、かつて、日本全土にばらまいてまいりました水銀農薬がその原因になっております。いまでは禁止になっておりますけれども、過去水銀を約六千八百トン全国の各地にばらまいてきたわけでありますが、それがメチル水銀原因になっているということが科学的に証明されつつございます。  水銀農薬は、これはフェニル酢酸水銀という有機水銀で、メチル水銀ではございません。しかしそれをばらまきますと、簡単に土の中で無機水銀に変わりますけれども、その土の中の無機水銀が今度は土の中におりますところのバクテリアの作用によりましてメチル水銀に合成されているわけです。そのメチル水銀が農作物あるいは飲料水、そういうものを通じてわれわれのからだの中にたまりつつあるということでございます。  もう一つは、そういう無機水銀が、これは農薬に限りませんで、おそらく工場が触媒として使っております無機水銀、これが川を通じ、海洋に流れ出て、そしてマグロの肝臓の中でメチル水銀に合成されることがはっきり証明されております。したがって、それを食べるわれわれのからだの中にメチル水銀がたまってくるということは当然のことでございます。  いまのところ六PPM程度メチル水銀は、これは水俣病を起こすそういう危険性はないと思いますけれども、しかしこの微量メチル水銀がどのように国民の健康を破壊していくかということについての科学的なデータは何らまだ得られておらない。しかし、もともとからだの中にあってはいけないメチル水銀一般国民の体中にふえてきているということになりますと、極端なことばを使えば、一億総不顕性メチル水銀中毒状態にあるということが言えると思います。ただしそれは症状は出ていない。したがって水俣病患者さんは氷山一角としますと、一億総国民海面下氷山を構成しているという言い方ができると思うわけでありまして、そういうことになりますと、これは一体日本国民の健康が守られているかどうかという問題をここで深刻に反省しなければならない事態になっている。そういうふうに考えます。つまり憲法二十五条に、国民は健康にして文化的な生活を守る権利があるということが明瞭に規定されておりますけれども、しかし考えてみますと、もともとからだの中にあってはいけない水俣病原因であるメチル水銀がたまっているということは、もうすでに健康とは言えない非健康の状態にあるということになるわけでありますから、多少飛躍すれば、いま日本国民の健康は守られていないんだ、つまり憲法二十五条というのは守られていない。その辺の原点に立たないと、この公害問題というものは本質的には解決しないというふうに考えます。  どうしてこのようなことが起こったかということについては、私簡単に触れますと、結局はこれは水銀農薬だけでなくてあらゆる農薬について言えることでございますけれども日本農薬の使い方というものが外国とは全く違ったフィロソフィーで使われてきたというところに原因があると思います。欧米では、少なくとも口から入るものはすべて医薬並みに扱わなければならないというはっきりした衛生思想があるわけであって、したがって農薬というものは結局は食品を汚染するわけですから、医薬並みに扱うべきであるという考え方がございます。したがって農薬を使う場合には種の消毒それから苗床の土の消毒、それには限定して使っておりますけれども、作物が田畑に育ってからヘリコプターで人工肥料とまぜて大量散布してきたというような国はどこにもないわけでありまして、それが日本の姿でございます。終戦後は確かに国民を飢餓から救うために農薬をそのような形で散布しなければならなかったということは制限つき意味でそのメリットを認めるにやぶさかではございませんけれども、それがいつの間にかその農薬というものが国民の健康を破壊するというものについてのメリット、デメリットという問題を考えて、そこで農薬というものをどうすべきなんだという発想がどこにもなかったのではないか。端的に言いますと、農村のGNP左上げていくということに短絡的に直結していったというような状況農薬が使用されてきたということだと思います。  しかし、いまとなりますと、もっと深刻な状況が起こっているのではないか。つまり、農村人口労働力の質量的な低下という問題があるわけであります。つまり若手の農村労働力はみな工業生産のほうに吸収されている。残っているのはかあちゃんと老人しかないわけでありますから、したがってその量的な、質的な低下は避けられないわけでありますから、したがって農薬をまかなければあるいは枯草剤をまかなければもうすでに農業がやっていけないという状況の中に置かれている中で農薬が使われている。そのような事態をわれわれ考えなければならない。ことばをかえますと、工業生産が進めば進むほど、そして工業汚染が進めば進むほど同時に農薬汚染を引っぱっていく、連動していくということでダブルパンチを受けるということをわれわれ深刻に考えなければならない。工業汚染だけの問題ではないので、工業汚染が進めば必然的に農薬汚染を連動するという、そういう状況があると思います。大都会ではそれに大気汚染というトリプルパンチを受けているということでございます。  ですから、この問題になりますと、結局基本的には、私医学者でございますからあまり端的には申せませんけれども日本の国の政策、つまり工業生産食糧産業というもののバランスをどう保つかということを考えない限りにおいてこの問題は解決しないというふうに考えるわけでございます。  この点についてはまたいろいろ申し上げたいことがございますが、それにもかかわらず、日本でいま行なわれています現在の政策とそれに基づく汚染の問題というものは非常にきびしい条件がある。国土は狭くて過剰人口があって天然資源が少ない、ほとんどないというものの中でこの問題は起こっているということなんでございますが、少なくとも医学立場からあるいは生物学立場から申しますと、いまのような基本点を押えない限りにおいては今後病気はどのようにでも発生してくる可能性があるということを申し上げなければならないと思います。そしてその影響がどこに出るかということを考えますと、それはわれわれおとな世代ではなくて、まず第一にあらわれるのはわれわれの次の世代である、子孫であるということを考えなければならないと思います。その一番いい証拠胎児性水俣病でございます。胎児性水俣病のおかあさんは発病していないか、症状は非常に軽いのですけれども、生まれてきた子供は高度の精薄と高度の手足が曲がったいわゆる脳性麻痺、これをダブルに持った重症心身障害児にほかならないわけでありまして、ここにすでにそのようなはっきりした証拠があがっているわけであります。と申しますのは、胎児はわれわれと違って、入ってきた毒物を外に出すルートはへその緒を通じて、母親を通じて出す以外にはないわけであります。それと同時に、発育盛り胎児というのは正常の物質も取り込みますけれども、同時に毒物も取り込んでいくというような そういう性格を持っておりますので、絶対量がふえていく。しかも胎児はわれわれよりも少ない量の毒物によって侵されてしまう、こういう現実があるわけですから、いま日本で起こっております汚染の問題が、もし健康破壊をするとすれば、次の世代であるということがはっきり言えると思います。  いまその証拠は的確にあがっておりませんけれども、それがだれの目にもはっきりわかってくるような時点ではその数量は膨大なものに達している可能性があるので、その時点では時すでにおそいということになりますので、いま食いとめなければならない、そう思います。  それと、この問題を考えますときに、いまの公害問題については、確かにいま現代に生きているわれわれおとなは、被害者的であると同時に、加害者としての役割りもになっていると思います。マイカーを持っておれば、これは大気汚染をしているわけでありますから、加害者立場も持っているわけでありますが、次の世代は全く一方的な被害者になってしまうわけであります。そういう意味でははっきりした階級性がそこにある。しかも、われわれ現代の生きているおとな加害者立場で次の世代被害者に仕立てていくというようなことは許されてはならないわけでありますし、また、たった一つ日本にある天然資源というのは、頭脳だと私は思うわけです。その頭脳が次の世代を通じてやられようとしている。そこでは日本というものは全く生きていくあれがない、そういうことに結論せざるを得ないと思うわけです。  私が申し上げたいことは、水銀問題というのは各論にすぎないと思うわけでありまして、これは二十年かかってやっとこれだけのことが科学的にはっきり言えるようになってきたわけですが、ほかのPCBその他の無数の汚染物質については、何もわかっていないわけであります。ましてそういう汚染物質が数百、数千とある中で、それが相乗作用として一体次世代をどのように破壊していくかということについては、何ら科学的な実証性はございませんし、またそういう研究体制も組まれていないというところに公害問題の一番大きなポイントがある、そういうふうに私は思います。  ちょうど十五分になりましたので、この辺で一応とめたいと思います。
  4. 佐野憲治

    佐野委員長 どうもありがとうございました。  次に、江川博明参考人
  5. 江川博明

    江川参考人 ただいま御紹介いただきました江川でございます。  熊本大学工学部工業化学教室に籍を置いておりまして、本日ここに参考人としてお話をすることになりましたのは、私どもが四十六年度に熊本県から委託をされまして、水俣湾内にあります汚泥対策研究の一員として参加しておったためではないかと思っております。その一年間のわれわれの調査の結果をかいつまんでお話し申し上げまして、あとでまた御質問に応じたいと思っております。  私どもが一年間行ないました調査研究は、当時工学部長をしておりました本里、これは合成化学の講座でございますが、これを代表者といたしまして、土木関係梶原教授三池教授、それから、工業化学が私と大吉教授、それから、合成化学山田教授臨海実験所弘田助教授医学部衛生学教室藤木助教授らとともに、一年間、汚泥をどういうふうにすればいいだろうかというようなことで調査研究をしてまいりました。  水俣湾内、特に百間港といわれております港の中、それから外にたまっております汚泥の中の有害物質、これは医学部におきまして、または県におきまして、十年間ずっと追跡研究が行なわれております。それで、それに加えまして、われわれはそれをさらにほかの有害物質その他の調査をいたしまして、対策を考えようということから始めたわけでございますが、汚泥の中に見出されました有害物質といたしましては、水銀メチル水銀、クローム、鉛、砒素、亜鉛、そういうものが入っておりまして、これは百間港の排水口のそばに一番高濃度で存在しておりまして、港の外に向かってやはりだんだんと少なくなっております。  その有害物質は、汚泥の中ではほとんど硫化物として存在していると考えられまして、また、その有害物質湾内に平均的に分布しているのではなくて、局部的に塊状になって存在していると思われるような調査が出てまいりました。  特に汚染度の著しく高い地域は、港の中の北東部北部で、北部といいますのがちょうど排水口の出口の部分に当たりまして、北東部といいますのは、現在港の埠頭があります向かい側の部分になりますが、その部分に、かなり高濃度有害物質汚泥の中に沈積しているということがわかります。その汚泥堆積層厚は、厚い部分で四メートルもありまして、湾内の港の外側になりますと数十センチ程度になってまいります。  また、一番われわれが考えましたのは、一応処理対策としましてその汚泥を動かすということを考えました場合に、その動かしたときにそういう有害物質海水中に移行するかしないかということでございます。その調査といたしまして、泥土を人工海水または海水と攪拌、振盪したあとに、海水層に移ってまいります有害物質の量を追跡いたしますと、〇・〇一から〇・一四PPM砒素微量の総水銀、これは十のマイナス三、四乗のオーダーの〇・〇〇一から〇・〇〇四のトータル水銀、それからメチル水銀が十のマイナス五乗のオーダーで検出されました。このような微量の総水銀、それからメチル水銀が、海水と振盪することによりまして、海水層に、抽出というと語弊がありますが、非常に微細なコロイド状として、沈降しにくい状態で移行してくる。実際に海水中に溶解してしまう量としては、非常に微量でございます。ほとんど硫化物としてありますので、溶解する水銀の量を見てみますと、これは十のマイナス四乗程度のものでございまして、非常に微量でございますが、コロイド状物質として、沈降し得ない、非常に沈降しにくい状態で移行してくるということが、調査の結果、はっきりとわかってまいりました。  それで、これらの微粒子は、動かした場合に、もししゅんせつ、埋め立てをやりますと、その埋め立て地から余剰水を吐き出し口から吐き出させる場合に、その沈でん槽内の滞留時間というものを非常に長くとらなければならない。それから、凝集剤を加えて沈降を促進させるとか、そういうような特殊の条件下で行なわないと、二次汚染が防げないということが明らかになります。  また、現在水俣湾内の海域におきますプランクトン及び魚介類水銀汚染状況を検討いたしました結果、プランクトンに——これはただ一回の採集でございますので、これがはっきりとどの程度有意性があるかということはわかりませんが、トータル水銀としまして乾燥プランクトンに対しまして一・五九PPM、それからメチル水銀としまして〇・一九PPM程度見出される。また現在水俣湾内におります魚介類には〇・〇〇七から〇・五、平均しまして〇・一PPM程度メチル水銀が蓄積されております。この蓄積量は、工場が生産をやめましたあと極端に減った状態で、すなわち四十三年以降におきましてはその水銀含有量はほぼ横ばい状態で続いております。  次に、いままで水俣百間港内のしゅんせつは、三十九年から四十四年まで六回にわたりまして航路しゅんせつが行なわれております。その航路しゅんせつの汚泥の量というのはわずかでございますが、その間のアサリ体内中の水銀含有量の変化の調査をいたしております結果からは、しゅんせつとアサリ体内の水銀含有量には直接的な関係が認められません。昭和四十四年度に七万二千立米の航路しゅんせつが行なわれておりますが、その翌年のアサリ貝の体内中の水銀の量はほとんでその前の年の水銀量と変化がございません。こういうような調査結果が出てまいりますが、しかし、先ほども申しましたように、多量の有害物質を含む泥土を一時的に多量に処理するといたしますと、一時的には海水中にメチル水銀濃度がふえるということも可能性がないわけではございません。そういうこともひとつ考えておかなければならない。  次に、しゅんせつを行なう、それから埋め立てを行なうといたしますと、しゅんせつのときの汚泥の二次拡散、すなわちポンプしゅんせつを行なうことに仮定いたしますと、ポンプしゅんせつを行なうときの吸入口の汚泥の拡散、それから埋め立て地から余剰水として吐き出し口から出てまいります海水の中に、先ほど申しましたように微粒子となって浮遊して出てまいります汚泥有害物質、そういうものを極度に押えるような工法を考えなければならないだろう。そういうことからいろいろ考えてまいりますと、汚泥のしゅんせつ、埋め立て工事を行なうといたしますと、多少なりとも有害物質の拡散が行なわれるだろう。そうしますと、いま二次汚染を完全に防止するというような対策はなかなか困難であろうと思われるわけです。汚泥の移動、それから有害物質の拡散を完全に防止するといたしますと、汚染区域全体を締め切り堤ないし全面埋め立てというような特殊な方法によって非汚染区域から隔離しなければならない。しかし、そういうことは汚染区域の広大な面積、それから水俣港の港湾機能ということから考えますと、非常に実施困難ではないだろうかと考えられます。先ほどから申しますように、わずかの二次汚染拡散というような危険性が伴っておりますが、現在、事前の処理対策としては、有害物質による汚染度の非常に高い区域のしゅんせつは行なわずに、その部分埋め立てる。そういたしまして汚染度の低い区域の汚泥をしゅんせつする、そういうような方法で考えたらいかがだろうか。ただ、高汚染区域の埋め立て工事を行なう場合にも、特にその埋め立て地帯の護岸工事の場合に二次汚染が考えられるわけですが、その二次汚染を極力押えるような工法、そういうものを検討しなければならないだろう。低汚染区域のしゅんせつ汚泥を流用いたします埋め立て工事、その汚泥埋め立てに使うという場合ですが、その場合は、そのしゅんせつする区域、それからしゅんせつの規模、工法、すなわちどういうような工法をとるか、それから工程、そういうものを十分に検討して行なわなければならないと考えられます。それに対しましてはいろいろのことが考えられますが、細心の注意を払って行ないますれば、従来の工法に対しまして比較的安全な対策を樹立することは可能であろうと考えられます。しかし施工中の汚泥の拡散、それから有害物質量の追跡というものは常に施工中監視体制を整えておくということが最大の条件ではないだろうか。特に先ほども申しましたように、メチル水銀海水層への移動というものは十のマイナス五乗という非常にわずかな量でありまして、その量は現在十のマイナス五乗のメチル水銀程度からは、魚介類に蓄積されるメチル水銀の量は〇・一PPM程度であるということがいわれておりますので、その程度であれば、行政的な指導のもとに処理対策は可能ではないだろうかと考えられます。しかし、特に何らかのことでメチル水銀が非常に海水層に移行するということも考えられないわけではございませんので、その発生に対する対策、そういうものを十分に検討した上で処理対策は行なわなければならないだろう。特に現在多量に汚泥中に含まれております無機水銀が、微生物その他で有機水銀へ変わるか変わらないかというようないろいろの説が出ておりますし、その点につきましてもう少し検討を要するわけでございますが、これが藤木先生のその後の追跡によりましては、水俣湾内の現在の状態では、水俣湾内にあります無機水銀有機水銀に変わるということは見出されておりません。これは有機水銀の量、メチル水銀の量と無機水銀の量が全く相関関係がないということからもそのことはうかがわれますが、実際にいろいろな実験を行ないましても、メチル水銀になるということは考えられません。  そうしますと、現在なおメチル水銀魚介類中に横ばいの状態であるということは、水俣湾内の特殊の事情を考えますと、ある時点からは、結局魚の死亡、腐敗、それからプランクトンへの移行、プランクトンから魚への移行というような中で循環しているのではないだろうかというようなことも考えられます。  われわれが調査研究を行ないました結果は以上述べましたとおりでございますが、さらに調査研究が行なわれて、安全な処理対策が出されることを願っておる次第でございます。
  6. 佐野憲治

    佐野委員長 ありがとうございました。  次に、宇井参考人お願いいたします。宇井参考人
  7. 宇井純

    宇井参考人 東大の都市工学におります宇井でございます。  水俣病一般的な経過につきましては、すでに私いろいろな機会に発表してまいりまして、三省堂新書で以前出しました「公害の政治学」という本にまとめてございますので、ここではこまかいことについては触れません。  ここで申し上げたいことは、水俣病を私やはり特殊な奇病としてここ十数年ずっと調べてまいりましたが、決してそうではなくて、水俣病は、いま世界全体に起こっている非常に大きな環境汚染一つの典型例であったということでございます。  御承知のように、水俣病は、昭和三十一年、一九五六年に熊本で発見されました。その年の末にはもう、魚があぶない、それから、どうも工場排水が疑わしいということが現地ではわかっておりました。ところが、水銀が見つかったという発表がされましたのは、それから三年たった一九五九年、昭和三十四年でございます。  なぜこんなにおくれたか。ここには実は、工場の非協力あるいは妨害、それに行政の怠慢があったことは広く知られております。しかも、工場側は、この水銀の発見がありましてから、猛烈な反論を展開いたしました。どうやら水俣病はうやむやになったように見えました。  そして一九六五年、昭和四十年に至って、新潟に第二の水俣病が出るに至って、ようやく第一の水俣病熊本大学が発表した原因が正しかったということが再確認されましたが、政府見解としてそれが認められたのは、それからまたさらにおくれて、昭和四十三年、一九六八年であります。このときに、ようやく因果関係が公的に認められました。そして一九七三年の先月に至って、ようやく法的な責任が裁判所で認められたのであります。  この間すでに二十年近い月日がたっております。そして工場だけではなくて中央政府も、地方政府である県も、この問題については真剣に取り組もうとしませんでした。  たとえば、信じがたい話でありますが、いまだに水俣湾海域で一度も、魚の漁獲禁止が公的にとられたことはないのです。予算がないから補償ができないという理由だけで、魚はなるべくとらないほうがよいという行政指導はされましたけれども、責任を持ったとってはいけないという発言は、ついに一度もなかったのであります。  また古い話でありますが、昭和三十三年に水俣を訪れましてこの問題を調査した、アメリカの魚の毒性の権威でホルステッドという学者がおります。この人がアメリカへ帰って書いた報告の中に、工場側はいかなる情報の提供も拒否した、しかし水俣市長の非常に熱心な要請によってようやく若干の討論をしぶしぶやったというふうに、報告書に書いてございます。後に本人に会って確かめてみたところ、それはもうとても話にならぬものであったということを言っております。  昭和三十四年に水銀が発見されてからあとの通産省の妨害、これは反論を展開した東京工大の清浦雷作という教授あるいは日本化学工業協会の大島竹治理事などに対して、いろいろ指示を与え、陰へ回って水俣病水銀の関係を隠そうといたしました。  また同じ年の昭和三十四年の十一月に原因工場排水であるということを発表しようとした食品衛生調査会の水俣特別部会の部会長に対して、当時の環境衛生局長は、それだけはやめてくれ、なるべくぼかしてくれということを頼み込んでおります。  こういうふうな経過を考えますと、実に水俣病というものは企業と行政の共同正犯であるということを、私はここではっきり申し上げたいと思います。  ところが、私が調べました第二の水俣病、新潟に起こりました阿賀野川の水銀中毒の場合にも、経過は全く同じでありました。横浜国立大学の北川徹三教授は、やはり会社の側に立って猛烈な反論を展開いたしました。こういう人たちは全部私どもの先輩であり、広く知られた大家でありまして、一介の助手が面と向かってこういうことを言うのには相当の勇気を要します。しかし、残念ながら、そういう反論が大家、権威によって、しかも当時の通産省の指示によってなされたということは、やはりはっきり申し上げなければなりません。  しかも、その後、水俣病に関しては厚生省の委嘱する千種委員会によって、原因と法的な責任をはっきりさせないあっせんがなされました。こういうふうにして、第三者機関によってあいまいにしてしまおうという策動は常に続けられましたが、結局真相がようやく二十年近くかかってはっきりしたということであります。  イタイイタイ病なども私直接調べましたが、やはり経過は大体同じであります。  そうしますと、こういった社会の反応あるいは行政の反応、企業の動きというのは、実は水俣病に限らず、多くの公害でほとんど同じだと見てよろしいようであります。公害のおそろしさは、実は病気のおそろしさだけではなくて、こういった社会の反応のおそろしさにございます。これだけ原因究明がおくれたことは、一つには科学者の態勢、姿勢にも責任がございました。このことは、いま申し上げましたほかにも、東京大学医学部を中心とした田宮委員会水俣病水銀説をつぶすために働いたという事実からもあげられます。  ところが一方、こういうふうなことをやっている間に、国際的に問題はどんどん広がりまして、このこともやはり水銀が非常に一般的な問題であるということを教えております。一九六六年スウェーデン、フィンランドで工場で使いましたフェニール水銀が水の中へ入って無機水銀となり、これが微生物の作用メチル水銀に変化して魚にたまってくる、水俣病と同じような病気になるということがわかりました。六八年には、オランダで農薬として使いました水銀が魚の中へたまってくるということが発見されました。六九年には、水俣工場と同じ種類の工場のあるイタリアで、その周辺にやはり水銀がたまっているということがわかりました。幸いここはほかの汚染もございまして、魚が油くさくなって食べられないために、水俣病は出ておりませんでした。さらに一九六九年から七〇年にかけて、カナダ、アメリカで水銀が問題になり、七一年にはノルウェーで、これまで全然水銀と関係ないと思われていた硫酸をつくる工場で、硫酸の原料となる硫化鉱の中に含まれている水銀が海を汚染したということがわかりました。こうなりますと、私どもはいままで水俣工場と同じ種類の工場だけを追っていたのですが、それでは足らないということになります。現在水俣工場と同じ種類の工場がある国は、西ドイツ、東ドイツ、ポーランド、中国の四つが確認されております。未確認でありますが、おそらくソ連にも相当大きな工場があると思います。  そこで、水俣病と同じタイプの病気が起こる可能性がこういう国にもあるということになりますと、やはりこれは世界的な問題でありますが、それだけではなくて、そのほかの無機水銀を使っている工場のまわりでもたまっているという例がスウェーデンやフィンランド、ノルウェーというふうな例で立証されますと、これだけでは間に合いません。ノルウェーでわかりましたことは、どうもやはりかき回すとあぶない、一ぺん海へ出してしまった水銀ヘドロをかき回すと魚の中にたまってくる傾向があるということでありまして、先ほど江川参考人が述べられました十のマイナス五乗PPMぐらいのメチル水銀ならば魚にたまっても〇・一PPMぐらいだということでありますが、これは実はまだ全世界的には確認されておりません。日本ではそういうことを言う人がありますが、それより少なくてもたまるらしいという例も外国にはございますので、ちょっとまだそこまで踏み切れません。その上に、日本は、私どもがたくさん食べます海産魚の中に元来水銀が多いという問題があります、たとえばマグロについては皆さんよく御存じであります。また農薬として使いました水銀の量が欧米の百倍という事情がございます。初めからこういうふうに水銀が多いのでありますから、なおさらこれ以上毒を食べてはいかぬという条件がそれだけきびしい、許容できる幅が少ないということを念頭に置かなければなりません。外国人に比べて毛髪の水銀量の多いことはすでに広く知られておりますが、水銀に限らず、これ以上ほかの毒も食べてはあぶないということをはっきり示唆しております。ですからPCBの許容量がアメリカ並みだとかその他の許容量、農薬の許容量が外国並みだというふうな話は、公害先進国の日本には全く通用いたしません。害を受けるのはわれわれのからだでありまして、これはからだ一つでありますからいろいろな毒が入ってくる点ではみな一緒であります。これは白木先生もおっしゃっておることですが、親よりも子供に水銀はよけいたまる。胎児によけいたまるということは結局未来の問題のほうが大きい。そういった日本のきびしさを、これまでの、昨日皆さん調査になったチッソの挙動はもとより、行政のやってきたことについても全く考えられていなかったというのが実情であります。研究面でも、水銀が問題になれば水銀ばかりはかる。PCBが問題になればまた別の魚を集めてきてPCBをはかる、そういった場当たりの方法では絶対にいま私たちの環境がどれほどよごれているかということはわかりません。水銀とPCBの関係を調べるという視点がなければ環境汚染というのはつかみ得ないのであります。  こういう現状にあるにもかかわらず、日本でこれまで公害の専門講座として文部省によって認められたのは、横浜国立大学の北川先生の講座だけであります。つまり現在の政府の研究方針というのはどういう先生に研究をしてもらいたいかということがきわめてはっきりしております。私どもは、たとえば過去十数年全く自費であるいは外国の研究費によってのみ公害問題の研究を続けてまいりましたし、熊本大学も、一番苦しい時期には研究費を打ち切られ、米国のNIHの研究資金でようやく息をつないだことがあります。こういうふうな状況ではまだまだ公害問題は広がる、非常に危険であるというのが十四年間調べてまいりました結論でありまして、ここでやはり水俣病一つの典型例と見るべきであって、決して特殊例ではないということを私の結論として申し上げたいのであります。  これで一応私の話を終わります。
  8. 佐野憲治

    佐野委員長 ありがとうございました。  引き続きまして、参考人に対する質疑の申し出がありますので、順次これを許します。林義郎君。
  9. 林義郎

    ○林(義)委員 きょうは参考人の三先生にはたいへんお忙しいところを御出席いただきまして、ありがとうございました。  いまいろいろとお話を聞いておりまして、私も農学とかあるいは工学についてはしろうとでございますから、しろうととして御質問申し上げますが、実は与えられた時間が非常に少ないのでございまして、しかもまだ原田正純さん、熊本大学の助教授が飛行機の御都合だと思いますが、来ておられませんので、この方に対する御質問の時間もとらなければなりません。したがって、しごく簡単明瞭にお答えをいただきたいと思います。  まず白木先生にお尋ねいたしますが、先ほどのお話では、まさに国民的によごれているということだと思うのです。先生御自身の髪の毛の中にも三PPMぐらいあるという話であります。おそらく私の髪の毛にも何ぼかあるだろうと思うのです。そこで水銀というのは確かにいろいろな化学工業のために使っておられる物質でありますけれども、やはりこれは自然の中にあるものであります。至るところにころがっている。先ほど宇井さんからもお話がありましたけれども、マグロの中にも非常にたくさんあるということであります。マグロというのは非常に遠い太平洋のまん中からとってくるところであります。この地球には必ずあるものでありますから、一体どの程度のものが普通にあるのかというのが一つあります。  それからやはりこのぐらいになったならば相当に危険である——水銀何でもかんでもいかぬということになりますと、私は地球の中で生存しているのですから何らかの形で入ってくるだろうと思うのです。そういった形の境界線というか限界というものは一体あるのだろうかどうだろうか。確かに水銀があぶないということは私は事実だと思うのです。しかし生活をしている以上はやはりいいものも悪いものも食べなければならない、そういったときにどの辺に境界線があるのか。また水銀というのは人間のからだに入ってくるのです。またへその緒からしか通じない。だんだんだんだん人間に蓄積してくるのです。地球にあるものですから、だんだんたまってくればすでに人間は滅亡に追い込まれる以外に方法がないものだという感じもするのです。この辺につきましてどういうふうに考えたらよろしいのか、まずお尋ねいたします。  それから時間もあれですから江川さんにお尋ねいたしますが、先ほどのお話では比較的安全な方法でやることもできるということであります。環境基準がヘドロの中にあるのが三十PPMであるとか一PPMであるとかどのぐらいであるとかいうのも問題だろうと思いますけれども、やはり三〇PPMくらいのものをかりに——これはまだいろいろ議論をしておられるところでありますから、やるにしましても、私は相当にたいへんだろうと思うのです。そのときに、非常に常識的に言いますと、若干撹乱するかもしれませんけれども、ポンプでずっと吸い上げて移してしまうという形にすれば一番いいのですけれども、どうもそれしか私は、常識的に考えて方法がない。ずっと吸い上げるというのが一番早いだろうと思うのですけれども、そういった方法というものが一体はたして実施可能なものかどうかということであります。そうしたならば、ポンプでずっと吸い上げていくという方法でしたら、ほかにどのくらい拡散をしていくのか、その辺はおそらく技術的なデータがあるだろうと思いますから、その辺をお尋ねしたいと思います。  それから、宇井先生には、当委員会にはたびたび来ていただきましてたいへん感謝をしておりますが、さっきのお話の中でちょっとありましたので……。通産省の指示があって化学工業協会の大島専務理事ですか、それから東京工大の教授の清浦さんが隠蔽をしたことがある、こういうふうなお話でありました。その辺の事実というものは一体どういうことになっておるのかということでございます。  それから先生、さっきのお話で、行政と企業の共同正犯である、こういうふうなお話でありますけれども、共同正犯ということばは刑法上の用語であります。そういった形で考えていいのかどうか、その辺につきまして、簡単でけっこうですからお答えいただきたいと思います。
  10. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  最初に、私、申し上げなければならないのは、科学というのは限界があるということであって、科学ですべてのものがわかるというものではないということをまずお話ししなければならない。  それで、いまのところ、われわれの髪の毛は六・五PPMくらいが平均であって、その半分がメチル水銀である。その程度であると確かに水俣病が出るということはあり得ないと思います。一体髪の毛メチル水銀がどれくらいになったら水俣病になるかということは、これはいろいろの諸説紛々としておりまして、三〇PPMでもなるし、あるいは一〇〇PPMをこえていてもならない、ばらつきが非常に大きいということです。ということは、髪の毛というのは要するに水銀の排せつルートの一つにすぎないわけでありまして、結局一番はっきりわかるのは、血液の中のメチル水銀がどれだけあったならば神経症状が出るのかというところが押えられない限りにおいては出ないわけです。この問題は、動物実験ではある程度ありますけれども水俣、阿賀野のあれについてはそういう研究が十分されなかったというようなところから、はっきりしたことはわからない。が、少なくとも現在一般国民にたまっている量くらいでは、いわゆる神経病が起こってくるという意味での水俣病は出ないことは確かだろうと思います。しかし、こういう微量メチル水銀がわれわれのからだの中にあってはいけないものがあるわけですから、それがどういう影響を与えるかということはだれもわかっていないと思います。私の考え方は、これもやはり今後の調査研究にまたなければならないわけでありますが、何しろメチル水銀というのは、神経だけでなくてほかのからだの臓器、たとえばじん臓とか肝臓とか、あるいは筋肉とか、そういうところのほうがむしろ量としては多いわけですね。たまる率はですね。ですから、したがって、それがどのような影響を与えるかというのは、水俣病は脳の病気としかとらえないのでははっきりしない、つまり全身臓器の病気としてこれをとらえていかなければならないという立場があると思います。  それに対して一つのいい例は、水俣病の解明のヒントになりましたイギリスのラッセル・ハンターが一九五四年に報告している一解剖例があるわけですが、これは二十三歳のときに農薬メチル水銀のほこりを吸ってなった患者が十五年間生きていたわけですが、その間に血圧が非常に上がっているわけです。血圧が上がるということは、脳ではなくてほかのからだの血管に動脈硬化症が起こったということです。そして解剖してみますと、その心臓の冠動脈ですね。心臓を養っている血管の動脈硬化症が起こっていたわけです。そして心臓がやられて死んだわけでして、したがって、水俣病は単に脳の病気ではなくて全身病として考えなければならない。したがって、いま現在のわれわれのからだの中にたまっている微量メチル水銀というものが、むしろ神経ではなくて、ほかの臓器に対するいろいろな異常を起こしてくる可能性があるわけで、これは今後の研究としてやっていかなければならないという問題だと思います。  問題は、水銀だけじゃなくて、数百数千ある毒物と、それからメチル水銀とのいわゆる共同作用と申しますか相乗作用というようなものを考えますと、これは一々その組み合わせを考えていたら、何百何千何億あるかわからないわけです。そんなことをやって、その結果が出なければこの汚染の問題を考えないんだというようなことであるならば、これはもう先々何百年かかるかしれない。問題は、むしろそのものの考え方、フィロソフィーだ、私は一応いまの段階ではそういうふうに申し上げておきたいと思います。
  11. 江川博明

    江川参考人 ただいまの御質問に対しまして、私は実際の工法に対しましては専門家でございませんので、適当な回答になるかどうかわかりませんが、私どもと一緒にこの対策につきまして一員として行ないました土木の教授の試算によりますと、ポンプしゅんせつの際に汚泥が一〇%拡散する。一〇%拡散ということは、非常に多く見積もってあるわけでございますが、そのときにヘドロの中の無機水銀がウエットの状態で一五〇PPMで、その一万分の一、すなわち十のマイナス四乗が有機水銀であると仮定いたしますと、実際は十のマイナス四乗以下に有機水銀はございますが、そういうふうな仮定をいたしまして、先ほど申し上げましたように、そのときの拡散が有機水銀として十のマイナス五乗PPM程度になるようでございます。宇井先生によりますと、先ほど、十のマイナス五乗というのはこれは安全な濃度ではない、まだこれは明らかでないということでございますので、その点が一つ残ってまいりますが、これはいま申しましたように、まだ実際に、現在コンクリートポンプというものがございまして、濃度を薄めなくて、濃いまま運ぶというポンプもございますし、ただその場合にポンプに能力がございますから、距離があまり長くできないということがございますが、拡散を押えてポンプしゅんせつするということは可能であろうと思います。  ただ問題は、そのあと今度はポンプしゅんせつで埋め立て地なり沈でん池なりに吐き出したあとの、先ほど申しましたように、一たん攪拌されたものが今度は沈降する、非常に微細なコロイドが沈降する時間が非常に長くかかる。しかも、長くかけても、さらに沈降しないものが吐き出し口から出る可能性がある、そのことが少々問題であると思います。
  12. 宇井純

    宇井参考人 まず、先ほどお尋ねのありました清浦教授と大島理事の件については、大島理事の報告書には、はっきりそのように書いてございます。通産省その他関係方面と十分な連絡をとった上で現地に行ったということは、当時報告書の中に最初に書かれてありました。  それから清浦教授と通産省の連絡については、私はちょうどこの問題を調べ始めた当初であったので、現在、ちょっと名前は記憶しておりませんが、当時の係官とそれから清浦教授から直接聞いた記憶がございます。一応、私はその程度の確認を現在持っております。  それから、東大の田宮委員会については、これは新潟水俣病裁判の中で、日本化学工業協会から支払われた金額と、どの会社が出したかという一覧表が法廷に証拠として提出されております。ですから、一応これも確認がしてあるものと思われます。  それからもう一つの、自然に存在する水銀はどれくらいかということについて、若干データを持ち合わせておりますのでつけ加えますと、スウェーデンの一番水銀の多かった魚の、淡水魚の川カマスという魚の例では、〇・二PPMをこえると明らかに汚染源が近くにあったという例がございます。これは一番高かった例で、あとは種によってみんな違いますが、日本では大体これは〇・〇幾らPPMというけたらしいと推定はつくのですが、それ以上はっきりしません。と申しますのは、農薬でどの川にもみんな水銀をまいてしまったものですから、水銀の入っていない川の魚の標本というのはとれないのであります。  それからフランスの報告を昨日見ましたところ、やはりマグロの中に〇・二、三PPMから一PPM程度までたまっておりますが、地中海のマグロのほうが大西洋のマグロよりも明らかに多いという結果がたまたま入手できました。  それからもう一つしゅんせつに関係しましてカナダでわかった問題でございますが、ヘドロの中に落ちついている水銀はメチル化をほとんどしない。ところが空気にときどき触れるとメチル化がどんどん進むということがわかっております。したがって、潮の干満のちょうど間のところにあるヘドロから有機水銀が溶け出してくるという例がわかっておりまして、その点からもちょっとしゅんせつはやりにくいというのが私の結論でございます。
  13. 林義郎

    ○林(義)委員 もう一つ宇井さんから共同正犯の話を……。
  14. 宇井純

    宇井参考人 これは実は新潟の水俣病の提訴の場合にずいぶん議論された問題でありまして、刑事責任を問えるかどうかということを弁護士が協議いたしました。やってみようではないかという意見もあったのでありますが、そのときには当然企業と行政と両方を告発すべきであるという弁護士の多数意見でありました。しかし種々の技術的な理由でできませんでした。それから昭和三十八年に熊本地検の検事正が、水俣病の因果関係が明らかになったら刑事責任も考慮する必要があるということを一言だけ当時の新聞に漏らしたことが記録されております。水俣病で実は、公式にといいますか、公に刑事責任が議論されたのはその一回しかないのでありまして、あとは残念ながら私どもがそう思っているという域を出ないのでありますが、共同正犯であるということばは、これまで新聞紙上にもこの問題を取材しました記者が何人か使っております。私だけではございません。
  15. 林義郎

    ○林(義)委員 要するに。宇井さんは自分の考えでは共同正犯ということばを使って一つも差しつかえないという御見解ですね。ちょっとお答えいただきたいと思います。
  16. 宇井純

    宇井参考人 刑事責任をもし問う場合になれば当然共同正犯として取り扱うべきではないかと、私、自分が被害者であったら当然そう思うというふうに考えております。
  17. 林義郎

    ○林(義)委員 時間があれですから、実は原田参考人来られませんので、その質問の時間にあと保留させていただきたいと思います。私がおりませんでしたら、かわりの自民党の委員から御質問することにいたしまして、私の質問はこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。
  18. 佐野憲治

    佐野委員長 了承いたしました。  島本虎三君。
  19. 島本虎三

    ○島本委員 ほんとうに参考人皆さんにはたいへん忙しいところ感謝にたえません。  私もいまの報告に基づきまして、若干繰り返しになり、また教えていただく点もあろうかと思いますが、特にこの点お願いしておきたい、こういうふうに思うわけです。  いま白木参考人の御意見を聞いておりまして、東京湾や瀬戸内海や大阪湾、それに伊勢湾はもちろんでありますけれども水銀を含んだヘドロが滞留されているという報告がわれわれにはなされておるわけです。その点は琵琶湖も同じなんであります。他方、最近牛やネコ、こういう家畜に至るまで、奇形や中枢神経がおかされてまともに歩行もできないものもあらわれてきているという新聞報道を見たわけです。いま先生の報告を伺って、水俣病はこれは一地域の問題じゃなくて、世界的な範囲でこれは考えられなければならないということとあわせて、主としてこの有機水銀のはずなんですが、こういうような因果関係はやはり考えられなければならないものでしょうかどうか、この点についてひとつお教えを願いたい、こう思うわけであります。  次に、宇井参考人にもこの点はお願いしておきたいと思います。  いまいろいろ報告がありました中で、やはり私どもも政治の場でいろいろといままでの非を正しながら、それを今後ルートに乗せていかなければと思っておりますので、常に問題があれば、それに対処するのは行政であります。そういうようなことからして、新潟や阿賀野川の問題等を通じて、横浜の教授ですか、いま御発表ありました発表に対しても、いろいろと猛烈な反論があった。その反論は某高官や通産省の指示によって行なわれたということをちょっと聞いたわけです。水俣の場合は、確かにいまの例としてわかりました。いまのようにして、新潟や阿賀野川の問題までも、そういうように奥深いものであるかと、むしろ、まさに共同正犯的なものは行政そのものだ、こう考えざるを得ない点があるのでありまして、この点も一つ解明さしてもらいたい、こう思うわけでございます。  それと、次には江川参考人お願いしたいと思います。  いま、ヘドロの処理ということも政治的にも行政的にも大きい問題でございます。この問題点ははっきりしているんですが、方法として、取ることができなければ埋め立てるよりしょうがない。埋め立てについても、これはやはり微量であるけれども、相当拡散されるおそれもある。そうしたならばいかなる方法がいいとお考えですか。私どもとしてはそこはそっと埋め立ててしまうよりしようがないのじゃなかろうかと、常識的に考えられるわけです。それとてもだめだというならばなにですけれども、そういうようなものも一切流さないで、外ワクをはっきりさしておいての埋め立て、こういうようなことになった場合には、それはそのままにしてあとは永久に地中に葬ってしまうことができるのじゃないか、こうも思うわけですけれども、この点についてもお考えをひとつ伺いたい、こういうように思うわけです。  まずその三点だけ質問いたします。
  20. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  水俣湾以外の日本各地の湾の中に水銀がふえている、つまり蓄積している。私その正確な数値は知りませんが、それが相当の量であるということはそのとおりでございます。そうだといたしますと、この問題は水俣湾だけの問題ではないということが考えられるわけです。つまり、そこからまた水銀が溶け出ていく。それがマグロの体内でメチル化するというような問題も当然考えなきゃならない。もし埋め立てだけが唯一の方法であるならば、日本近海は全部埋め立てなければならぬというような、そんな極論にもなってしまうわけです。そんなことは不可能に近いことでございます。ただそれをどう考えるかということを医学者として私はすぐお答えはできませんが、そういう深刻な事態があるということです。そして問題は、外部環境破壊とか汚染というものは内部環境汚染にそのままつながっていくということを案外皆さん忘れていらっしゃるのではないか。そこにタイミングのズレがあるだけの話である。ですから、いま国土の、あるいは海水のどろの水銀はあるいは少しずつは減るかもしれませんけれども、減った分が、あるいはその減った分の大部分が内部環境を汚染してきている。むしろふえてくるという可能性があるわけであって、その問題についてのまだ科学的なデータというものは、私は積み重ねられていないと思うわけです。ですから今後いろいろな汚染を避けるということは当然のことでございますが、いままでの蓄積というものが膨大な数になっているという事実を忘れてはならない。たとえばこれは宇井さんが計算されたわけでありますが、日本で過去十二年間、あらゆる種類の農薬が、一ヘクタール当たりどれだけ残っているかといいますと、それはグラムにして七百三十グラムでありますが、欧米ではオランダの九グラムがトップで、西ドイツが六グラム、あるいはスウェーデンが四グラム。ですから西ドイツの約百二十倍の蓄積を持っている、この事実であろうと思います。この中では、おそらく有機燐関係の農薬は分解するでございましょうが、有機塩素というのは、端的に申しますとPCBに非常に近いものでありますので、それは簡単に分解しないわけで、いつまでも残っているわけであります。ですから、それが今後だんだんじわじわと十年、二十年、三十年かけて内部環境を汚染してくるという事態について私たちは深刻に考えなければならないわけであります。ですから、今後の問題だけではなくて、過去の蓄積と、なぜそのような蓄積を起こしたかということについてのフィロソフィーは、先ほど私が申し上げたことの中に尽きているわけでございまして、結局、基本的には国の政策それ自体の問題であるというふうに私は考えます。  そこで、現在起こっておりますネコやその他の動物の神経がやられている、こういうものが、メチル水銀に関係するかもしれませんが、しかし、あらゆる神経毒、そういうものが一つ一つからまっている可能性があるわけであります。私の研究の範囲の中で申し上げますと、いままで使ってまいりましたあらゆる農薬、つまり水銀農薬、有機塩素系農薬、有機燐系の農薬は全部神経毒でございます。その蓄積が外国の百倍以上ある、この現実を考えますと、農薬だけでもそういう症状を起こしてもいいのかもしれません、しかし、その因果関係というものを論ずるとなりますと、農薬以外に数百、数千の神経毒があるかもしれないけれども、とてもそこの因果関係を論ずることは不可能に近いので、かりにここから膨大な研究費を投入したとしても、いまからやってはもうおそいという感じがするわけです。やはり基本的な対応というのは科学以前の問題ではないか、そんなふうにしかお答えできないと思います。
  21. 江川博明

    江川参考人 汚泥地区の全面埋め立てということでございますが、土木工学的には、先ほど申し上げましたように、私、専門家でございませんので、はっきりしたお答えはできませんが、先ほども白木先生のおっしゃいましたように、水銀のあるところ全部を埋め立てなければならないとなりますと、どこまで埋め立てればいいかということは非常に問題になるだろうと思います。ただ、水俣湾内、特に百間港内のことにしぼりますと、たとえば、これは先ほど申しましたように、私よくわかりませんが、水俣港内の湾内にあります上層部のヘドロというものは非常に軟質でございます。それでその埋め立てについても非常に問題があるのではないだろうか。あるところを埋めますと、ほかのところから吹き出してくるというようなことも起こるのではないだろうか、そういうことも十分考えなければならないだろうと思います。
  22. 宇井純

    宇井参考人 私も、第一の御質問の、最近ネコや牛に広く見られる奇病と、それから特定の水銀なり農薬なりどれか一つ汚染物質との間の因果関係というものは、おそらくあったとしても現在の私どもの力では発見できないものだろうというふうに考えます。ただ、これだけよごれていたら、特に魚を多く食べるネコなんかにどんな病気が出てきても私もう驚かないというふうな事情はございます。日本の現在の汚染状況というのは、実は私どもがあらかた半病人になっていてもふしぎではないほどによごれているということはいろいろな数字で立証することができますが、これはまたちょっとこまかくなりますので、別の機会にさしていただきます。  それから新潟の水俣病の場合に、私が調べました範囲では、まだはっきり書かれた形で通産省と北川徹三教授との間で相談があったというふうなことは立証できませんでした。私も、したがって、北川徹三教授が通産省の委嘱で動いたということは申しておりません。しかし、通産省は第二水俣病の場合には別の面でいろいろな動きをしております。一つは、表へ出ておりますのは、昭和四十一年三月に厚生省の研究班が、これは鹿瀬工場の排水による汚染に間違いないという結論を出そうとしました席上へ急に通産省の役人が入ってまいりまして、いろいろ反論をして、とうとう結論を流してしまったということがございます。昭和四十二年に入りまして、何べんか通産省が新聞等を通じまして、反論を発表しております。それから四十二年の五月だったと思いますが、私が石田宥全先生のお供をいたしまして、鹿瀬工場の視察に初めて参ったことがございます。それまで鹿瀬工場は一度も私を入れてくれませんでしたので、石田先生にお願いしてお供したのですが、たしか島本先生もこのときにおいでになったように思いますが、随行していた通産省の役人から工場へ入ることを断わられたといういきさつがございます。そんなことからも、工場と通産省はほんとうに一体だという感じを第二の水俣病の場合にも私は持ちました。これが私が先ほど申し上げたことの論拠でございます。
  23. 島本虎三

    ○島本委員 ありがとうございました。  なかなか聞けば聞くほどこの対策がおそきに過ぎたし、政治そのものに重大な関係を持つものであるし、いまの行政そのものの責任も免れることはできないとしたこの判決をあらためてかみしめなければならないのであります。しかし、やはりそういうふうにいたしましても、これからのことを考えた場合には、その対策をはっきり最大限度しなければならないと思いますので、なお、これは幼稚な質問になるかもしれませんが、この点もあわせてひとつお答え願いたいのであります。  まず、白木先生のほうには、化学工場水銀農薬からの水銀散布によって人間のからだにはそれぞれの水銀の蓄積が行なわれておった、またいまでもわれわれもあるわけであります。それに今度PCBであるとかまたはABSであるとか、こういうものが体内にまた蓄積されると、相乗作用がやはり起こっておるのではないか、そういうような意味のことも、当然いま起こっておるものであるという先生からの御意見の発表がありましたので、こういうような点も十分われわれも考えなければならないのじゃないかと思ったわけです。  それとともに、こういうようなものに対してはどういうような御見解でございましょう。原子力発電所の再処理工場から出されるトリチウムであるとかプルトニウム、こういうような放射性物質、これは微量であっても遺伝に重大な影響を及ぼすものであるといわれておるわけであります。それがだんだん現在の親じゃなくて子孫に及ぶものである、こういうようなことであるならば、水銀の蓄積との相乗作用は当然考えられるけれども、こういうような行政に対しても、いま政府はこれをやろうとしておるわけでありますから、重大な関心を払わざるを得ないわけであります。私もそういうような意味からして十分先生の御見解をこの機会にはっきりお聞かせ願いたいと思うのであります。  それと、きのう、患者を含めまして水俣市長や現在の熊本県知事、それに島田チッソの社長さんなんかに参考人として来てもらいまして、いろいろ陳述を受けました。われわれとしては涙なしに聞けないようないろいろな報告もございました。その中で、いわゆる水俣病患者の健康被害の回復のための臨床症状の病理学的研究と治療方法の解明が必要である、熊本大学の全面協力の調査研究が進められているが、早急解明のためさらに大きな観点から、国の力によって全国的な頭脳の結集による解明をしてもらいたい、こういうようなのが浮池水俣市長のほうから要請があったわけであります。やはりこういうようなのを聞いておりましても、それでも可能であるのかどうかと思われるほどこれは重大な要素があると思うわけです。こういうような点等につきましても、ひとつお聞かせ願いたい、こういうように思うわけであります。  それと、宇井参考人の場合には、最近まで中国へ行っておられた、こういうようなことを伺っておったわけでございます。しかし、水銀を使っている国の中に、これはいま一番使っているのは、それぞれ報告がございましたが、その中には西ドイツ、東ドイツ、ポーランド、中国とソ連もそうかもしれない、こういうような御発表のようでございました。その中国の公害の状態、またこれに対する対処の状態はどうなのか、また水銀に対してはどのような考えで行政を行なっておったのか、つい新しい一つデータにもなろうかと思いますが、その点を含んでひとつ十分お伺いしたい、こういうふうに思うわけでございます。  それと、江川参考人にこれまたお伺いせざるを得ないのでありまするけれども、やはりこの第二次汚染のことを考えました場合には、具体的に、しゅんせつしても困る、埋め立てても困る、こうならば、これはまあほんとうに常識的で申しわけないのですが、どうしたらいいのだろうか、こうなるわけであります。しかし、やはりその点はわりあいに、ベストでなくてもベターということもございましょうし、その点を考えて、いま考えられておるような、こういうような最良の方法があるとするならば、この機会にやはり伺わせてもらったほうがよろしいと、こう思うのでございます。ほんとうに愚にもつかない質問のようでありますが、ひとつよろしく御解明願いたいと思います。
  24. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。愚にもつかないのじゃなくて、それは一番基本的な御質問だと私は思います。  第二の点から申しますと、水俣病の今後の治療という問題でございますが、まあ私は脳の研究者でございますので、はっきり申し上げまして、医学的治療あるいは医学的リハビリテーション、社会復帰というのは、もう限界が明らかにあるということを申し上げます。ということは、神経細胞というのは、生まれたときに数がきまっているのでありまして、一度失われたものは絶対再生いたしません。ですから、したがって、その失われた部分だけはハンディキャップとして残ってしまう。ですから、それをどうにもできない。いまの医学でもおそらく何百年かかりましてもその問題は片づかないと思います。ですから、医学的な治療、医学的なリハビリテーションの限界ははっきりしている。もちろんその中で、残った神経細胞をフルに活用するという意味での医学的なリハビリテーションは私はあると思います。しかし、問題は単に医学的な問題でなくて、私が最初の話のときに申しましたように、そういうハンディキャップになった方々、この方々をどのように福祉と医療の面で受け取っていくか、こういう基本的な姿勢が、いま国にも地方自治体にも非常に欠けている、あるいはないというところを申し上げなければならないわけです。一口で申しますと、私は、去年の四月十四日に社労委員会の難病対策委員会に呼ばれまして、そのときにもはっきり発言していることでございますが、水俣病というのは、はっきり言って私は難病の分数に入ると思います。国のとらえ方といいますか、厚生省のとらえ方は、原因がはっきりしない、治療法がない、そして社会復帰が非常に困難であるものが難病であるというとらえ方をなさっていらっしゃいますが、水俣原因がはっきりしているわけであります。治療法もある程度ははっきりしているわけですが、そこに限界がある。問題は、難病というのは、結局社会復帰もできない、あるいは非常に困難な人たちが、医療からも福祉からも疎外されているというその社会的な、医学的な概念としてとらえるものがまさに難病だと私は思うわけでありまして、そういうものに対する基本的な対応がないところに、まあ勝利なき勝訴があると私は思うわけであります。そういう意味では、国なり地方自治体なり、あるいはこういう問題を起こしました企業なりが、その難病的な意味での水俣病をとらえて、そしてそれに対するぴしっとした医療的、社会的、福祉的な対応をするということ、それが私は今後の一番重要なポイントだと思います。もっとはっきり言いますと、医学というのは、私は五つあると申します。健康増進、予防医学、治療医学、そしてその次にリハビリテーション医学があるのですが、そこで問題はとまってしまいます。私は、第五の医学として、はっきり難病医学というものがある。それを医療基本法の中にはっきり組み入れるということをいたしません限り、この問題は片づかないと思います。それは水俣だけでなくて、イタイイタイ病にしましても、あるいはぜんそくにしましても何にしましても、公害関係の問題というのは、みなそういう要素を含んでいるわけでして、そういう問題が基本的に国なり、それから地方自治体なりあるいは、こういう問題を起こす、あるいは起こしかねない企業の責任だと私は思うので、そこをはっきりさせていただきたい。そういうことをやらない限りにおいて、問題は片づかないと思います。ですから、水俣病研究というのは、私は、医療だけではないのだ、社会的な、福祉的な研究が必要なんだということを最初に申し上げましたのは、そこでございます。もちろんそのきめのこまかないろいろな対応になりますと、時間がございませんので私は申しません。  それから第一の問題は、これは一番基本的な問題でございます。原子力開発が行なわれると、それによって遺伝の問題を含めて問題が起こってくるということは確かだと思います。それは広島、長崎の原爆とその後の調査が、ある程度それを結論づけようとしているわけであります。メチル水銀にいたしましても、染色体異常を起こすか起こさないかというのが、いま研究のポイントになっておりますが、まだはっきりした結論は出ておりません。しかし農薬としてのDDTは明らかに染色体異常を起こすということはわかっているわけであります。あるいはBHC農薬の中のアルファBHCがやはりそのような問題を起こしかねないというようなこともわかってきているわけであります。  したがって問題は、まあ私、医学者立場を離れまして、一人の国民といいますか市民立場で申しますと、日本が課せられている非常なきびしい条件、つまり国土は狭く、耕地面積は少なく、過剰人口であって、そして天然資源が非常に少ないという条件を踏まえて、なおかつ今後日本が生きていくために日本列島を改造しなければならないとするならば、それがまたぜひ必要であるというならば、その改造するときの心がまえの問題だと私は思います。バラ色の夢はないのであって、これだけ汚染がひどくなっている。過去の蓄積がひどいというものの中で、なおかつ日本列島改造をやるならば、これはもう最後の日本のあがきである。つまり、われわれは終末点にあるのだ、そういうきびしい心がまえでこの問題に立ち向かわないといけないということだと思います。ですから、原子力開発にしましても、工場の問題にしましても、もうやるからには徹底的なクローズドシステムをとる以外にはない。また、そこで起こってくる問題というのは、それだけでもまだ解決できなくて、いろいろな汚染を起こすでしょう。そういったときに、いま私が申し上げましたような意味での健康破壊が起こっていくものに対して、国なり地方自治体がどういう対応をするのかという非常にきびしい心がまえに立たないと、日本列島改造は甘い夢はないのだ。そこの一点が、やはり科学者だけでなくて、あらゆる政治の姿勢の中なりあるいは国民の中にない限りにおいては、この問題は片づかない。日本の民族の将来はない、そういうばく然とした表現でございますが、しかし私は、それは正しいというふうに考えております。
  25. 宇井純

    宇井参考人 私もまた工学という全然違う立場から、白木先生の御意見に全く同感であります。先ほどまで私、政府部内でも、特に通産関係者は公害問題に関して非常に無関心であり、場合によっては妨害に出たということを申し上げましたが、物をつくる立場にあります私ども工学部を出た人間は、どうしてもつくることを目的にしがちであり、そのためにほかが見えなくなるという欠陥を感じます。で、通産省のそういった技官の人たちがやはり多く工学部出身で、私と同じ考え方を持っていて、私はようやくそこを克服しかかっている段階にあるだけに、問題は容易ならぬものだと感じます。  このことを、中国に行きましてやはりいろいろな人にぶつけてみました。中国の公害問題はまだ始まったばかりであるということをどの人も答えておりまして、非常に真剣ではありますが、確かに公害問題の対策が始まった段階であるということを、私も結論として持って帰りました。工場から出るものはできるだけ減らそうとしていることは事実であります。たとえば工場担当者が私に真剣に尋ねましたのは、体温計をつくるときに、体温計の中に水銀を封入する。封じて切ったガラスのかけらの中に、ごくわずかの水銀が残留する。これはせいぜい数PPMのもので、全部回収しても数グラムではあるけれども、何とかこれを回収できないだろうかという相談を持ちかけられまして、いま私どもは、残念ながらそんな手間のかかる回収対象をどう扱っていいかわからないという返事しかできませんでした。その程度に真剣であります。  いろいろな場所で、現場の労働者と技術者、それから工場幹部のいわゆる三結合によって、公害問題、産廃問題を解決するのだということを強調しております。これは日本のように環境庁の、公害の現実についてほとんど触れたことのないお役人が——これは私どもの学科の卒業生がおもでございますからよくわかりますが、そういう人たちが机の上で、これも公害のことをよく知らない学者が、審議会で答申した案に基づいて環境基準をきめるよりは、現場でものを扱っている人間が、自分の責任で処理していくほうがはるかに現実的であります。その点で、確かに中国には、日本に比べて、公害問題はまともに解決される可能性はあるということを中国でも申しておきました。  ところが、もう一方で、日本のようにまわりが海であるとか雨がよく降るとかいうふうな地理的自然条件は中国にございませんから、一たん公害を出したら、えらいことになるということもまた確かでありまして、中国でもそのことを非常に心配しておりましたが、まだまだちぐはぐなところがございまして、たとえば水銀農薬はかなり広く使われたようであります。あるいは農薬は、たとえば日本ですでにほとんど使わなくなりましたBHC、これが広く使われております。その体内蓄積は相当高いものと思われます。しかし、これからだんだんにこれを減らしていくということを当事者はいっておりました。  日本と中国の条件のおそらく最大の差の一つは、中国では農業がきわめて強いことでありましょう。日本のように、農業、漁業はすでに寿命の尽きた第一次産業、滅びゆく産業だというふうな考え方は中国にはございません。農業こそ国の基本である。したがって、その農業に損害を与えるような工場生産あるいは都市に損害を与えるような工場生産は、一時見送ってでもちゃんとやるということをいっておりまして、これは口だけではなくて、事実、アクリルニトリルの工場を北京の近くへ建てる計画があったのを、排水処理が北京の近くではうまくいかないという見通しのために、一時建設を延期しているという話を聞きました。  わずかな滞在でございますから、はっきりしたことはわかりませんが、農薬につきましても、あるいは水銀のような工場廃棄物の害にしましても、急性毒性についてはかなり認識して手を打っておるようでありますが、日本水俣病で示されたような慢性の毒性あるいはPCB問題でいま私どもが直面しているような、わずかずつたまってきてどうなるかわからないという問題については、まだ手がついていないということを正直にいっておりました。その点で、おそらく、日本のわれわれの悲しむべき実例が、中国にとっては一番大きな寄与になるのではないか、つまり日本の現状を正直に語ることが、真の日中友好ではないかというふうに痛感いたします。決して私どもは、こんなにうまくやったとか、手柄話をすることではないということを痛感いたしました。
  26. 江川博明

    江川参考人 現在時点において、ベスト、ベターの方法がないかというような御質問と思いますが、私ども考えまして、現在これをどういうふうにしたら最もいいかということは非常にむずかしい問題だと思います。  先ほど宇井先生、白木先生らの話にもありましたように、無機水銀有機水銀に転換する工程、いろんな条件のもとでそういう研究が行なわれて、そのデータが出そろうとか、中毒を起こす有害物質の摂取量がどれだけであれば確かであるか、その生物学的、医学的な相乗効果、そういうものの基礎的なデータが明らかになってまいりませんと、工学的にはベスト、ベターの対策はなかなか立てにくい現状だと思われます。現在早急にやるべきことは、そういう、どの程度であれば魚の蓄積量から人体に及ぼす量がよろしいという点が出てくるのか。それから、そういう有害物質の相乗効果などがどの程度であればよろしいのか。そういうことが出てまいりますと、工学的にはいろいろ計算によって、または実質的な予備実験によりまして、ベスト、ベターの方法が考えられ得るだろうと思います。
  27. 島本虎三

    ○島本委員 聞けば聞くほど深刻な気持ちになるのであります。  それで、私もこの辺で皆さんに最後の質問になるかと思いますけれども、きのう参考人が来て、坂本さんという人が、十六歳になる子供、胎児性でありますが、しのぶさんの状態をはっきり言っておりました。その中で、もうすでに十六歳ですからいろいろ自分でわかるわけですが、一つ部屋を持ちたいということを盛んに言っておることと、お嫁にはもう行けないんだ。私はもうお嫁に行けないんだということは座談会でも言っているんだそうでありますが、そういうことを聞いて、まさに胸を打たれるわけです。十六歳にして何の罪もない子供さんたちが、こういうようにして生まれてきたとたんに宿命を背負うことになるわけでございます。それだけに私どもは罪の深さを自分でいま全く肝に銘ずるような気がするわけです。どうにもならない。そして御飯を食べるのに二時間かかるそうです。それでも、親が食わしてやったりしなければならない。死んだ子供に対しては、口でといってもだめで、鼻から少しでも落としてやればいいと思って、母親として鼻からさえ食物を入れてやった。だけれども死んだ。二番目の子供がしのぶさんで、いま生きているんだ、こういうようなことでございます。  こういうように、現在相当程度までやれる人のおかされた神経やこういうようなものは、やはりだめなものでしょうか。少しでも症状があったら、もうだめなものなんでしょうか。この点については、まだ原田先生が来ておりませんので、具体的な臨床の結果を聞くことはできないのでありますけれども、その前に白木先生、江川先生にこの点をあわせてお伺いしておきたいのです。  こうなりますと、いかに共同正犯でないといいましても、そういうような子供を生んで治療方法もない、金をもらってもどうにもできないということは最大の罪悪だ、こう思わざるを得ないのであります。ことに、そうなるということをネコの実験をしたときにわかっておった、またそれを隠していた、こういうような状態です。それで、これは刑事責任も当然関わるべきじゃないかとさえ思うわけでありますけれども、諸外国の例では、こういうような場合にはどうなっているのでしょうか。私も公害関係で外遊したことはないのでございまして、この点は残念ながらよう知りません。私は、いまのような状態とあわせて諸外国の例はどうなっているのか、この点を宇井先生やまた皆さんに聞きたいのであります。  それと不知火の魚、それに対しましても、白木先生からのいろいろな報告があったようでございます。その魚は、きのう来た漁民の人が、売れないんだ、買ってくれないんだ。ボラなんかはほとんどもう買ってもらえないんだという、これは血を吐くような訴えなんであります。そういうところからして、売れないということは買わないということであり、買ったならば食べるのですから、食べて水俣汚染は自分は受けたくないという自己防衛になるわけであります。そういうふうになった場合には、有機水銀日本国民に次から次に摂取されるような一つの経路をつくることにもなるでしょうから、長期的にこれは拡大することにもつながるでしょうから、われわれとして政治的にも行政的にもこの点は苦しいところです。科学者として、この辺の魚はとるべきじゃない、禁止する必要がある、こういうことについてどのようにお考えでございましょうか。これは行政や政治的な立場を離れて、科学者としての見解を承りたいのであります。  そういうようなことでございますが、いまの質問は二つでございますが、白木先生、江川先生、宇井先生のいずれを問いませんが、ひとつ啓蒙する意味で十分開陳をしてもらいたい、こう思う次第でございます。
  28. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  私、最初の陳述のときにちょっと言い残したことがございますが、それがいまの御質問に触れるかと思うわけです。つまり、水俣裁判というものが民事訴訟として行なわれたわけでありますが、やはり刑事的な要素を非常にたくさん持っている。しかし、日本で刑事責任を追及する場合には、法人は責任をとる必要がない、個人が責任をとらなければならない、それから検察官がそれを告発しなければ刑事裁判にはならない、またその刑事裁判になった場合には疑わしきは罰せずという一つの、むしろこういう問題についてはデメリットが出てくる、こういうことで結局は民事になったと思うわけですが、しかし患者さんたちの気持ちはおそらく民事とそれから刑事とが合同にされたような形の裁判を一番望んだろうと思うわけです。しかしながら、いまの日本裁判というものは、そういう二つのものが加味されている、公害というものはすべてそういう要素を含んでいると思うわけですけれども、いまの日本の法律ではそれが両方一緒に対応できないという一つの欠陥を持っているのではないか。この辺のところもやはり政治なり司法なりがもっと研究して、そして対応していかなければならない問題だと思います。  諸外国ではどうなんだというような御質問で、これは私諸外国のことを知りません、専門も違いますので。しかし一人の国民としてはやはり公害裁判というものは両方が合同しなければ話にならぬのではないかというふうに私は思うわけでございます。  それからいまの坂本さん、こういう方の問題も、その裁判と実はからまっている問題ではないか。少なくともこの水俣裁判にしても四大公害裁判というものの中で、国と地方自治体の責任は問われていないわけであります。しかし私がさっき申しましたような意味で、こういう方々はもうすでに難病の群に入る、重症医学の群に入る。医学だけの問題じゃなくして、そこにはどうしても社会的な医学と申しますか、あるいは福祉という問題、二つから対応していかないと片づかないような問題の中に重症医学というものも位置づけられる。そして水俣病なりあるいはほかの公害病なりというものはみなその中に入っているわけでありますから、それに対して国が、地方自治体が、あるいは企業がどのような対応をしてくるかという問題が過去の蓄積としてないというところに日本の一番の欠陥があると思うわけです。これは先ほど申しましたように、はっきり医療基本法の中に難病医学、重症医学というものがあるんだという位置づけをしなければならない。それに対しては当然いままでないものに対する膨大な資本投資をしなければこの問題は片づかないというふうに思います。それはしかも医学だけの問題じゃなくて、その医学の連続線の向こうにある福祉なり社会医学の問題でもある。そしてそれの背景にあるものが何であるかということは、結局まだ科学的にも究明されていないと思うのです、いまの裁判の問題を含めまして。ですから今後水俣病なりあるいは公害病を研究調査するというなら、そういうものを含めた全体のものの調査研究でなければならないし、それから出てくるきめのこまかな対策はそのような理論の上に立ったものでなければならない。それ以外に私は方法はないと思うわけです。  確かに国は結核対策についてはそれはかなり一貫した医学から社会への対応をしたと思います。しかしこれはやはり戦争中の有為な壮丁が結核で倒れていくということに対する富国強兵的な意味合いがあったと思います。もしそれがほんとうの意味であらゆる医学を、全部福祉まで含めて一貫した思想があったならば、いまこのようなどうにもならない人たちに対してもうすでに体系があったはずです。しかしそれがいま日本にはないわけですね。その辺のところをやはり国会で大いに取り上げていただかないといけないと思うわけです。これはまあ水銀問題だけでなくて、公害問題あるいは国民の健康一般の問題としてぜひ取り上げていただきたい問題だと思います。  その場合に、私はもう一言言いたいのですけれども、それはもっと地方自治体に権限を与えようということです。権限という意味は法律的な権限もそうでありますし、それから予算を行使する権限も与えよということです。もし地方自治体の首長がその思想を持ちそしてやろうとするならばそれはできるはずですが、いまは国が全部その権力を持っている。そして地方自治体が公害に対してきめのこまかな対応をしようとしてもその法律をそのまま実行することができない。あるいは予算としても、思い切ってそういう難病に対する予算を投入しようとしても、やはり三割自治、一割自治、二割自治で吸い上げられているではないか、もっと地方自治体の権限をはっきりしろということを私は申し上げたい。そうでなければ公害問題は片づかないと私は思うわけです。もしその首長が間違ったことをするならば、そのときこそ国がチェックすればいいのであって、やはりそういう下からの積み上げという問題を、国会の議員の方に申しわけないのですけれども、もっと地方に分散せよというふうに申し上げたい。これが一番の基本ではないのか。それによって初めて何とかなるんではないか。いずれもまだスタートをしたばかりで蓄積がないという現実があらゆる悲劇を起こしているのだというふうに申し上げたいのです。
  29. 宇井純

    宇井参考人 私も別の立場からいまの結論を支持するようなことになりますが、決定権の地方分散ということが実は中国で非常に思い切ってなされているのに目をみはりました。中国という国は思ったよりもばらばらな国でありまして、公害対策なんてみな工場の責任で周囲と相談してどこまでやるかというのをきめる。それが実際に効果があがっているようであります。  で、日本のこれから生き残る道というのは、実はやはり中央統制ではなくて地方の住民にどこまで力を持たせるか、どこまでやらせるかということにあると、住民運動などにかかわってつくづく感ずるものであります。  外国ではどうかというお尋ねに対して、実は残念ながら、日本水俣病のような公害は外国にございません。しかも二十年にわたって企業が責任を回避し続けた例というものはまだございません。したがって日本水俣病と同じような形の裁判は私の知る限りではまだ見つけることができませんでした。多くはやはり民事訴訟で責任が確定するようであります。最近になりまして、アメリカで、ミシガン州の法律で何か新しく設備をつくったり工場を建てたりあるいは既存の工場に対して公害があると住民が判断をしたときには、一人でも利害関係を主張して差止めを請求する権利があるという内容を持つ環境保護法が通過いたしました。この一年余りこの法律に従ってどのような裁判が提起されたかという調査がなされました。これは調査自体たいへんおもしろいものであります。やはり個人が学者の協力を得て差止めをやることは、法律ができていてもなかなか困難であるという実情が報告されております。  やや刑事訴訟的な性格を持ちますのは西ドイツのサリドマイドの裁判でありました。これはたしか一部分は刑事訴訟になったというふうに記憶をしております。ですが、これもなかなか立証が困難で、結局会社側が自分の非を認めて被害者にあやまるというふうな形で和解が成立して、判決までは至らなかったように覚えております。  坂本しのぶさんの場合については、私去年一緒にストックホルムへ参りましてつくづく感じたことがあるいは政治の方向ということを考える上に若干参考になるかと思うことがあります。あのほんとうに目もほとんど見えない、耳も聞こえないからだでありながら、ストックホルムで、どんなに疲れていても新聞記者が近寄ってくる気配があると、さっと立ち上がって、いつでも写真をとっていいよという表情をする。その姿を見ておりまして、私は、ここまで脳をおかされた人が一番人間らしく生きられるものだということをしみじみ感じました。  今後の私どもの生きる道については、まだ私もはっきりした結論は出ませんけれども、あのしのぶさんのような人たちが自分を主張して生きていけるような社会をつくるほかにはないのではなかろうか。そして自分の意思を持ち、自分の行動を少しずつ広げていっております、脳の細胞はもうなおらないにしても、こわれた細胞をつなぎ合わせてだんだんに生きる努力をしている患者を私たちはまず第一に考えるべきではなかろうか。これはチッソとの交渉についても、結局は患者の言い分をまず全面的に認めてあやまるところから出発しない限りは、交渉は先へ進まないのではなかろうかというふうに感じます。そういう点で、日本の公害の被害者というのは決してやっかいものの病人ではございません。むしろ、私各地の公害で被害者といろいろ接触いたしまして、ほんとうに人間らしく生きているのはこの人たちである、人間のいわば一つの典型として、私たちはそのためにこそ被害者を大切にしあるいは身体障害者を大切にしなければならないのだということを最近感じます。おそらくこれはきわめてあいまいな形ではありますけれども、今後の政治が強い人たちのための政治であるか、弱い人たちのための政治であるかという方向をある程度示唆しているのではないかと感じます。  もう一つ、先ほど幾たびもお尋ねのありました行政のことについて、ただいまの地方分権と結びつけて実例を申し上げておきますと、昭和三十七年か八年かに、ばい煙等規制法が四日市のぜんそく問題から施行されましたときに、通産省が、この規制法に定める基準よりもきびしい条例をきめてはいけないという通達を各地方にたしか出しております。これは法律上もきわめて疑問のある内容でありますけれども、こういう通達を一たん出してしまえば、各地方で公害がいかにきびしくとも、現状に応じたきびしい基準を適用することができなかったという状態がずっと続きまして、これは昭和四十五年まで続いて、ようやく四十五年暮れの公害国会で、この通達は間違っているとして撤回されました。それまではしかし生きていたのでありまして、この通達がどれほど日本大気汚染の激化を助けてくれたかは、現地を歩いてみますと、つくづく痛感するところであります。そういった幾つかの証拠を重ねました上で、私は、多少どぎついように聞こえるかもしれませんが、共同正犯だということばを使っております。
  30. 島本虎三

    ○島本委員 このあと、私も臨床的に患者実態をちょっと聞いてみたいと思いますが、先生がまだ来ておりませんので、あとの時間はそれに残して、私の分はこれで終わります。
  31. 佐野憲治

    佐野委員長 白木参考人から補足があるそうですから……。白木参考人
  32. 白木博次

    白木参考人 先ほど水俣の魚をどうしたらいいかという御質問に、どなたもお答えしなかったし、私も忘れたわけでございますが、これはやはりメチル水銀がどれだけ現在水俣の魚の中にあるかということによって考えなければいけない問題ですけれども、これが中毒を起こすかどうかという問題については非常にいろいろな複雑な条件があるわけで、これは食べるほうが絶えずそういう魚を三度三度とれば、これは蓄積するわけですから、したがって発病する可能性もあるわけでありまして、魚の中のメチル水銀がこれこれの量になればやめるべきだとか、禁止しなくてもよろしいとかいうのは、やっぱり技術論だけのような気がするわけです。  そこで、私は、なぜ一体水俣病の初期の段階で漁師とその家族が犠牲になったかということを申し上げなければならないわけです。一般市民はなぜならなかったか。それは非常に簡単な理屈であって、生きのいい魚ならば、これは水俣の市のマーケットに売れるわけでございます。しかしながら、生きの悪い魚、つまり水銀中毒しているような魚は、市場には売れませんから、自分たちがそれを持って帰って家族に食べさせる、そういうことから起こってきて、場合によっては一家が全滅するというようなことが起こっているわけで、貧困ということがその背景にあるわけですね。ですから、今度の問題でも、水俣湾の魚を禁止すべきだというような結論が出るとして、それではそれにかわるべき生活保障を一体どうしてやったらいいのかということがない限りにおいては、禁止すべきではないと私は思うわけです。つまり、たとえば漁師に対して、国なり地方自治体なり企業なりが、遠洋漁業というものの資金を出す、そしてそういうふうな生活方針を切りかえていくというようなことがあって初めて禁止すべきことだと思うわけです。それなしに、ただ禁止すべきだということには私は賛成しかねるわけです。その問題に非常に金がかかるから、地方自治体も国もようせぬというなら、それはやはり国なり地方自治体がよくない、そういうことに考えざるを得ないと思います。
  33. 島本虎三

    ○島本委員 どうもありがとうございました。
  34. 佐野憲治

    佐野委員長 木下元二君。
  35. 木下元二

    ○木下委員 白木先生にお伺いいたしますが、日本世界最高の水銀汚染国になっておる、日本人の体内に世界で一番多くの水銀が蓄積をしておるということであります。しかもこの水銀というのは、有機水銀ばかりではなくて、無機水銀であっても問題があるというお話を伺いました。人体内に入った無機水銀は人体中でメチル化する危険がある、こういうことのようであります。これはこれからの研究課題でもあろうと思いますけれども、これは単なる推測ではなくて、実験的にもある程度立証されておることではなかろうかと思いますので、そうしたことについて、ひとつ伺いたいと存じます。
  36. 白木博次

    白木参考人 これは私自身がやった実験ではなくて、私と一緒にやっておられました東大薬学部の浮田教授ですね、裁判化学のほうの権威でいらっしゃいまして、去年ガンでなくなられましたが、その方の実験、それから、先ほど宇井さんがお話しになりましたスウェーデンの実験であります。  その実証でございますが、スウェーデンの場合は、川に無機水銀が流れていく、それがどろの中で、メタンガスをつくるバクテリアのからだの中にメチル基を持ったビタミンB12があるのですがそのバクテリアのからだの中のビタミンB12のメチル基と、工場から流れてきた無機水銀とがくっつきまして、そしてメチル水銀ができて、それが川の中に流れ出て、魚のからだの中に濃縮される。これは実験室的にも証明されているわけです。ただし、その量はあまり多くはないのですが、実証されている。つまり、これはバクテリアの自衛作用でございます。自分のビタミンB12を使って、メチル水銀として体外に放出する。ですから、このままいきますと、いまに世界はメタンガスをつくるバクテリアだけになってしまうかもしれないわけでございますが、そういうことでございます。  それから、浮田先生のお仕事は、非常に簡単な実験でありまして、水銀とメチル基を持ったビタミンB12の溶液をまぜ合わせて、三十七度、それからPH七・〇、暗室、こういう三条件でやった場合には、大体二十四時間以内にビタミンB12のメチル基が全部無機水銀に移ってしまうという実験で、これはアメリカも一カ月おくれて同じことをやって成功しておりまして、間違いない事実でございます。そうすると、暗室であってPH七・〇で三十七度というのは、われわれのからだの中でございます。ですから、われわれのからだの中にはビタミンB12はたくさんあるわけでございますから、無機水銀が入ってくれば、われわれのからだの中で合成される可能性が出てきたわけです。  そこで、まずマグロで実験をされた。マグロはメチル水銀が高いので、その肝臓と、それから無機水銀をまぜまして、そして、いまのような三条件でやりますと、みごとにメチル水銀ができる。ほかの魚はごく微量であります。マグロだけが妙にメチル水銀をたくさんつくる。ですから、結局、マグロの漁船員、遠洋漁業をやっている人たち髪の毛水銀は、一番高い人で六七PPMメチル水銀を持っている。たいてい三〇とか四〇、あるいは魚市場に働く人たちも非常に高い値を示しているというのは、そこからきているわけです。  それで、人間についてどうなんだということを少し実験をされる段階で、浮田先生はなくなられてしまったわけです。発表になっておりません。しかし、私の聞いている範囲では、数例やった人間の肝臓と無機水銀をまぜ合わせた実験では、メチル水銀は合成されないということでございますが、これはまだ今後いろいろな条件下にやってみないと何とも言えない。しかし、そういうことは明らかに科学的にはもう証明されていることでございます。
  37. 木下元二

    ○木下委員 先ほど農薬についてはお話を伺ったのですけれども農薬ばかりでなくて、日本全国各地の化学工場からたれ流してきました無機水銀の量というものは、どの程度あるでしょうか。推定でもけっこうですから、宇井先生、ひとつお願いします。
  38. 宇井純

    宇井参考人 実は私どもまだ手がそこまで回りませんで、推算を全部重ねるところまでいっておりません。ただ苛性ソーダ一トンをつくるのに最低四、五十グラムぐらいの水銀がどうも要るようだとか、塩化ビニールを一トンつくるときに百五十ないし三百グラムぐらい要るようだというふうなことは長いこと昔からわかっておりますし、アセトアルデヒドの場合には、一トンにつきまして大体三百から一キロぐらい、チッソの場合は一キロだったというふうなこともわかっておりまして、生産量にそれを掛け合わせると大体の見当はつくとは思うのですけれども、まだそこまで実はやっていないという現状でございます。ただ、過去に水銀を使った工場で、やはり数十キロあるいは数百キロから数トンぐらいのものがあちこちにころがっているということはいえます。  それで、東京湾については実は私が大ざっぱな試算をいたしまして、大体一日二百キロぐらい流れ込んでいるというべらぼうな大きな数字が出てきて自分の目を疑ったことがございます。東京湾のハゼになぜ水銀がたまってこないかというのは、これは実は外国でも議論されたなぞでありますが、結局いまのところの結論は、ヘドロが多過ぎてその中に埋まってしまって魚にたまるひまがなかったということになっております。  それから先ほどお尋ねのありました、世界で一番日本水銀でよごれているということに加えまして、あと世界で一番というものを私が調べましたものは、カドミウム、それからPCB、それからBHC、この水銀も含めて四つについてはどうやら日本世界で一番らしいということがわかっております。
  39. 木下元二

    ○木下委員 たいへん貴重なお話で、しかも貴重なばかりでなくて戦慄を覚えるようなおそろしいお話を伺ったのですけれども、この水銀とか——水銀ばかりでなくて、いまお話があったカドミウム、PCB、BHC、こうしたものをもう一切工場から排出をさせない、そういう仕組みなり制度をつくるべきではなかろうかと思うのですが、この点についてはどのようにお考えになるでしょうか。  それからまた農薬につきましても、もう農薬水銀を一切使わせないという仕組みをつくるべきではなかろうかと思いますが、こうしたことについて科学者立場でお答えをいただきたいと存じます。
  40. 宇井純

    宇井参考人 それはおっしゃるとおりでございまして、PCBについてはだいぶ紆余曲折がございましたけれども、使わないことにしようではないか、あるいはカドミウムが非常に問題になったために、それまでネコもしゃくしもカドミメッキをやっていたものが、ごく特殊な用途のほかカドミウムを使わないようにするというふうな方向に日本でもなってまいりました。  それで、残りの二つの水銀とBHCについては、やはり使用量が減ってはまいりましたけれども、まだまだ水銀を使わないとできないところがありまして、それに対する技術の開発はきわめておくれているというのが現状でございます。この点で、よく十年もたてば技術が開発されるから公害はなくなるというふうなことを説く人がございますが、私は実は専門がそういう技術でございまして、自分の力あるいは日本の現状から考えまして、十年でとてもそんなに進歩しようがない。たとえば研究費がなくて自費でやっている人間が、どうして十年間で日本水銀を全部退治できるかというふうな気もするのでありまして、その点では技術にあまり期待をかけることはできない。そうすると、どうしても水銀を使わないあるいはBHCを使わないというふうな方向に持っていくほかないようであります。すでにヨーロッパでも食塩を電解しまして苛性ソーダと塩素をつくる工場で、いままでは大体水銀を使う方法のほうが新型ということになっておったのでありますが、一割ぐらい能率を落としても水銀を使わない方法に切りかえようという動きがございまして、日本でもそれを真剣に考慮中であるというふうに聞いております。ですから、やはり使わない方向に行くほかはない。この点で先日、ちょうど一年前にPCBのことでやはりここで証言したとき申し上げたのでございますが、PCBの場合には代用品に早急に切りかえることが実はもっと危険であるということを申し上げまして、その後の経過はやはりそのようになっております。つまりPCBよりも毒性があるかもしれない物質が広く同じ用途に使われて、実はそれでたいへん困っているということがございまして、やはりそういった用途を少し能率を落としてでも使わないようにするというのが最終的な答えではなかろうか。特にノーカーボンの複写紙なんというのはそういう実例だと思います。あんなものは別に紙の上にどんなに字を書きましてもせいぜい〇・一PPM以上薬品を使うことはございません。それを全面に塗るのはとんでもないむだでございます。BHCにつきましても、やはり農薬として使わないという方向しかないように思います。その他のいろいろな危険な化学物質についても、やはりそういった検討を実例についてするよりほかにしようがありませんで、動物実験は多くの場合にほとんど無効であるといいますか、役に立たないということをここ数年痛感しております。
  41. 木下元二

    ○木下委員 宇井先生にもう一点だけ伺いますが、この水俣病のことですけれども、昭和三十六年に熊本大学水俣病研究班で研究費を打ち切られたというお話がありました。これは私どものほうでも少し調べて知っておりますけれども、この水俣市の最多発地域の成人千百五十二名を対象にしまして一斉検査を行なったところが、その後研究費が打ち切られておる、こういうふうに聞いておるのですが、その間の事情、そしてまたどうしで打ち切られたのか、そうしたことについて伺いたいと存じます。
  42. 宇井純

    宇井参考人 これは実はその前に、昭和三十四年の十一月に食品衛生調査会の水俣中毒特別部会といっておったものがありまして、これが中間答申を出しました日に、熊本大学の出身の部会長も知らない間に厚生省によって解散させられていた、事実上このときにその関係の研究費は打ち切られたということが、まずその前にございました。それからいまお尋ねの三十六年の、細々と残っていたのもまた打ち切られたということになるいきさつがございます。これは私も、打ち切ったからではございませんので、いままで調べてみてもどうもなぜそうなったのかということがよくわからないと申しますが、どういうつもりでだれがそうやったかということは政府部内で立証のしようがないのでございますが、三十六年には実はかなり広く水俣病はこれで終わったという宣伝が学界でもなされたことは事実であります。これは熊本大学の内部というよりもむしろ東京大学などを中心とします医学界の権威たちが、もうそんな政治的にむずかしい問題をやる必要はないではないかというふうなことをいろんな方面で言いまして、学界の空気がそのほうに流れたということも一つ状況としてはあったようであります。どうもこの打ち切った理由につきましては、単年度の計画ですともう年度が終わりましたからこれでおしまいですという場合もしばしばございまして、なかなか立証するのは困難でございます。そんなわけで、私にもわかっておりません。
  43. 白木博次

    白木参考人 なぜ途中で研究費が消えたか、先ほど宇井先生から東京大学の名前が出たわけですけれども、そういうこともありますでしょう。しかし一般的にいって、国の研究費というのは三年たちますと自動的に打ち切る習慣がございます。その一番いい例はスモンの研究でございまして、これはスモンの患者がまだどんどん多発している時期で、しかもまだ原因究明も何もできていない時期に、三年たったところで打ち切られております。大体国なり厚生省なり、文部省でもそういう考え方があるかと思うのですが、三年が一区切りであって、それが終われば病気があろうがなかろうが打ち切ってしまうという傾向がございます。水俣の場合ですと問題が問題であっただけにかなり続いたと思うのですけれども、それでもまあ六年以上オーバーしていたのでしょうか、そんな意味で非常にメカニカルな切り方をおそらくしただろう。私はあの当時はNIHの研究の顧問という形になったので、やはり熊本大学人たちはまだ問題はちっとも片づいていないのだ、これからなんだ、しかし国はどうも出しそうもない、この際アメリカの資本だけれどもやむを得まいというようなことで、そうしてそれを受け取ったということについて直接私タッチしておりますので、その辺は知っておりますが、問題は現場の人がちっとも片づいていないと言うのにかかわらず、やはり打ち切る中には、確かに中央のほうの動きもございましょうが、国のそのような機械的に研究費を打ち切っていくという姿勢があると思います。
  44. 木下元二

    ○木下委員 最後に聞きますが、水俣病の問題を頂点としまして、水銀汚染というものがとにかく世界一の汚染状況をつくり出したということであります。これに対して、科学者立場で、こまかいことはけっこうですけれども、一体どう解決をするのか、根本的なことあるいは行政に対する要求、いろいろこれまでに言われましたけれども、簡単でけっこうでございますが、一言お願いしたいと存じます。
  45. 宇井純

    宇井参考人 実は、そのことについて技術的な対策はないというのが技術者である私の正直な答えでありまして、公害問題の多くは、その現実を直視してそこで考えるよりほかにしかたがない。ですから、これまでの政治、行政の約束がこうだったとか、あるいは前例がこうだったとかいうふうなことを離れて、やはり水俣病というものがある以上は、この真相を掘り出すまで、とことんまで研究費をかける、そして水俣のあぶない魚を食べないようにするならば、それは徹底的に生活を保障するというふうに、その場その場に応じて考えていくほかございません。そのときの原則が、結局きょうの私どもだけではなくて、あすの世代をどうやって守るかということになると思います。  で、しばしば技術的な解決対策を要求されるわけでありますが、一ぺん広げてしまった水銀を拾い集める手段は残念ながらございません。これは先ほど申し上げましたほかの四つの物質についても同じでございます。そうしますと、私どもは、からだの中へこれだけ入っている以上、これ以上は入れないんだという考え方をしっかり打ち立てるほかないのではないかと思います。その点で、いままでのいわゆる許容量の議論、動物にこれだけ食べさしたけれどもだいじょうぶだったということは全く内容を持たないと感じます。
  46. 木下元二

    ○木下委員 終わります。
  47. 佐野憲治

    佐野委員長 ただいま原田参考人がお見えになりましたので、原田参考人から御意見を聴取いたします。原田参考人
  48. 原田正純

    原田参考人 熊大の原田です。  私、十年近く現地の水俣患者さんを見ておりまして、それで、いま私感じておることを申し上げたいと思います。  一つは、今日正確には患者の数がわかっていない、今後どれくらい出るのかほんとうに予想がつかないという状況があるわけです。それは私たちも含めてですけれども、十何年間、そのあと、取りまとめようとしなかった怠慢の結果だと思うわけですけれでも、よく何人ぐらい出るのかと予想を聞かれるのですけれども、正直なところ、いまこれはわかりません。そういう今日の大きな問題になっている潜在性患者がたくさん存在している原因は、やはり私たちにもあるわけですけれども、大きな原因は行政にあると思います。  三十一年の十二月に、何か物質はわからなかったけれども工場排水原因でないかとわかった時点工場排水をストップし、魚を食べることを直ちに禁止しておれば、今日の患者は、問題になっている患者の何分の一かは、大部分は救われたんじゃないかと思います。もし三十四年、メチル水銀というのがわかった時点でもそれが行なわれたならば、今日問題になっている、その数がわからないというような事態は予防できたのではないかと思うのです。その点、この水俣のあやまちを再び繰り返さないように、私、お願いしたいわけです。  それからもう一つの問題は、水俣の事情をあまり御存じない方は、最近になって何か急にたくさん患者が出たような印象をお受けになるのではないかと思います。あるいは環境庁の裁決によって診断基準が何かゆがめられたために、あるいは広げられたために患者がふえている。だから心の中では、前に認定された患者さんと最近認定されている新しい患者さんと何か違うのではないかというお疑いがあるのではないかと思います。それを少し説明しておきたいと思います。  私たち最初、この水俣病というのは、御承知のように非常にひどい状態患者さんだけをピックアップして、その中から典型症状をそろえて、それがメチル水銀中毒だというふうに熊本大学研究班が持っていったわけです。それは非常に高く評価されるのですけれども、それが非常に固定的になったために、この病気というのはすべて、そういう重症な典型例の底辺にはその何倍にも及ぶメチル水銀中毒、つまり水俣病患者がいるのだということを失念しておったわけです。それで、そういう一つ水俣病の概念というものが広げられた段階でもう一ぺん見直してみる、あるいはほかの病気として切り捨てられた部分がいまやっと発掘されているわけです。医学ことばで潜在何々病ということばがあります。しかしこれは決して、症状があるかないかわからないくらいに軽いという意味ではないのです。隠れていた患者さんたちなんです。だから、いま新たに認定されている患者さんの中にハンター・ラッセルという五つの症状に限ってみても、全部そろえた患者さんがたくさんいることを申し上げておきたいと思うのです。  三十五年に水俣病が終わったというふうに考えたために、その後出てきた、その後症状が悪くなった患者さんたちはすべて水俣病でないとされて、今日まで葬られていたということだと思います。  で、昭和三十四年に熊大の元教授の世良教授がやったデータがあるのですけれども、これは熊本市内のネコを現地の患者さんの家に預けますと、普通に飼っていて大体一カ月から二カ月の間にネコが水俣病を発症して狂い死にしたわけです。で、今日実験室でそういうネコをつくろうとすると、大体体重一キロ当たり一ミリ前後の純粋なメチル水銀が要るわけです。ということは、当時この水俣のあの地区の住民がどんなにひどいメチル水銀の中に住んでいたかということだと思うのです。ある地区の四分の一が患者になったといって大騒ぎしているわけですけれども、私たち医学的な立場から見れば、どうして四分の一にしか出ていないのだろうという気がするわけです。それくらいこのメチル水銀水俣病汚染実態、そしてその根というのは深いわけです。  私たち、今日一つの新しい水俣病の診断基準というものをつくろうとして模索しているわけですけれども、しかし実際はこの典型重症例、その下に不全型、軽い例、それはまあ当然なんですけれども、もっと薄い場合にほかの病気に隠されてわからない、たとえばメチル水銀が肝臓に対してどういう影響があるのか、あるいは高血圧に対してどういう影響があるのかということはわかっていないし、それがもしわかったにしても、まだその底辺には、それこそほんとうの医学的な意味での潜在性水俣病というのが存在すると思うのです。だから、今日私たちが、いまとらえている水俣病患者実態なんて言っていることはほんの氷山一角であるということを申し上げておきたいと思います。  もう一つの点は、、世界じゅうでいろいろ水銀に対する安全基準というものをきめられておるようですけれども、その基準は何かといいますと、水俣病を下敷きにしていることは事実なんです。水俣病というものを下敷きにしている以上、その水俣病というものがいま非常に大きく変わろうとしているなら、当然その安全基準というか、一つの基準というものは変わらなければいけないと思うのです。  で、最近になって、四十七年あるいは四十六年症状が悪化ないしは発病した例が見つかっているわけです。ということは、いま私たちがばく然と安全基準というふうに考えている——確かに、水俣の魚はその基準以下だということをいってみたところで、それが安全かどうかを確かめるのは水俣しかないわけです。世界じゅうが一つの基準をつくるときに水俣参考にした。ところが、その参考にした患者というのは、いま申し上げたように非常に重症な典型例、急性発病だけを基準にしているんだということ。だから慢性に十年食い続けたらどうなるかということは、いまだにはっきりした答えが出ていないということを申し上げておきたいと思います。  さて、そういう実態の上で、いま何を私たちするべきかという問題があると思うのです。そういうふうに申し上げていきますと、結局、水俣病のほんとうの実態というのはあまりわかられていないのではないかという気がしてしようがないわけです。いろんな対策を立てる、早急な対策が必要なわけですけれども、特効薬はないと思います。いまこれをすれば、これ一発で解決するという問題はないと思います。それから、こうしたらいいという手本にするような対策もないと思います。というのは、これほどの広いところを住民ぐるみ健康を破壊した実態というのは、世界じゅうにも日本じゅうにもほかにないわけですから、どこかを参考にしようにもないと思うのです。したがって、何か一つこれをやれば、これですべて解決するということではない。やはり水俣の問題と取り組む中でしか一つの方法というのは出てこないのではないかというふうに考えております。そのためには、まず何をすべきかということを、ほんとうに実態を知って、まずそこから始めなければいけないのではないか。  ちょっと変なたとえになりますけれども、たとえば、水俣病というのは病気だから、では大きな病院を一つどかんとまん中につくれば、それで解決するかというと、決してそうじゃないと思います。というのは、地域ぐるみの健康破壊の、たとえば水俣人たちを全部、大きなデラックスな病院をつくってその中に囲い込めば、それで問題は解決するかというと、決してそうではないと思います。地域の中でいろんな障害を持った多くの人たちが、いかに人間として社会人らしく生活できるか、それをどう援助できるかということだと思うのです。  そういう意味で、正直なところ、何をしたらいいかとよく聞かれるのですけれども、私たち自身、いま申し上げたように、これが特効薬というものはないと申し上げざるを得ないのです。もちろん、私は医者ですから、医療の問題に限ってみても、いま申し上げたように特効薬はないわけです。一ぺん失われた神経細胞というものは回復しない。それはそうなんですけれども、私たちも含めて、はたしてそこまで公言できるほど、いまの医療がこの公害病患者に対して積極的に治療をしているだろうかということがあると思います。確かに、ある限界はあると思います。しかし、いま申し上げたように、その実態、その個々の症状のばらつき、ほかの病気との関係、そういったことがわかっていない段階で、一ぺん失われた神経細胞はもう返ってこないということで、治療を放棄していいのだろうかという気がしているわけです。もっと個々についてこまかく検討していけば、まだまだ治療の方策はたくさんあると思います。  それと、いま申し上げたように、大きな設備を一つぼかんとつくればいいということではないわけです。だから、たとえば胎児性の患者さんが熱が出たときに、引きつけが起こったときに、すぐ行ける病院がほしい。これは救急病院のことなんでしょうけれども、しかし、これが非常に困難なことは、地域ぐるみ水俣病が発生したという特殊事情にかてて加えて、いま私たち、日本じゅうで直面しているいろいろな医療の問題とからんでいるわけです。だから、どうしてもその壁はたいへんなことだと、さっき申し上げたようにいわざるを得ないわけです。  そういうことをいろいろ考えてみて、具体的には、認定とは別に、全地区の住民に対して安心して医療が受けられるような体制、たとえば健康手帳など、原爆手帳でなされたようなことを考えるのも一つの手ではないかと思います。というのは、いま申し上げたように、ここまでが水俣病で、ここから先はメチル水銀とは関係ないんだということは、医学的にまだいえないわけです。だから、あの地区のすべての疾患に対して、最低医療の保障をできるように考えるべきだと思います。  さらに、それは急ぐわけです。いまいろんなことがいろいろいわれているわけですけれども、現地の患者さんは何も医療にかかるだけじゃないわけです。たとえば日常の生活や子供のめんどう、そういったことまで含めて、現地に保健婦だとかケースワーカーだとかいうような——医者ももちろんですけれども、医者以外の手がたいへん足りない。そのことが、さっき申し上げたように、病院の中に入れるのではなくて、社会の中でどう適応していくように考えるかという一つの手だてになるのではないかと思います。  そして最後に、やはり研究をもっと続けなければいけない。その研究は、いままだわからないことが多くて、水俣病というのは、ほかの国やほかの実験や、そういうものの中にないことが多いわけです。この地区の人たちがどのような経過をたどっていくか、さっき申し上げた微量、長期の問題はどうなのかということは、いまからやらなければいけない問題です。そういう意味で、この研究に関するいろんな援助をしていただきたいと思います。  それから、その地域の健康に責任を持っている市立病院や医師会、やはりそういうものと別個には考えられないわけで、そういうものとの連帯あるいは協力というようなことも今後必要になってくると思います。残念ながら私は、百キロ離れた大学にいて、ものを言っている立場なんです。そういった現地の医療機関からそういうものまで含めてこの医療の問題は考えないと、単に何か国立の大きな病院を一つでんとつくれば、それで解決するということではないということを申し上げておきたいと思います。  ちょっと長くなりましたけれども……。
  49. 佐野憲治

    佐野委員長 ありがとうございました。  質疑を続行いたします。田中覚君。
  50. 田中覚

    田中(覚)委員 水俣病がいかに残酷な病気であるかということは、各先生方のお話によりましてよくわかったのであります。  そこで、お伺いをいたしたい第一点は、先ほど白木先生あるいは宇井先生のお話にもございましたし、また、ただいまの原田先生も触れられたのでありますが、要するに、現在のこの安全基準といいますか、こういったものが必ずしも安全を保障するものではないという点でございまして、特に当面の症状あるいは当面の健康を守るという点においては、一応これ以下であれば支障はないという基準だけでなくて、長期にわたる蓄積についての配慮をしなければいかぬ、こういう趣旨のお話があったわけであります。たとえば農薬につきましても、ただいま農林省が、ある種の農産物、また、ある種の農薬につきまして残留基準というようなものをつくっておりますが、こういったものは結局これからの農薬の使用に対して蓄積という点から見ると問題があるということでございますし、それからことに先ほどの有機水銀メチル水銀の問題などにつきましても、長期の慢性的な基準というものに対して問題があるというお話がございましたが、こういった点につきまして、一体どういうふうな具体的な措置をとったらいいのか、この点をひとつ伺いたいと思います。  それから原田先生はただいまこの水俣病については特効薬はないんだというようなお話もあり、また白木先生も、医学的な治療だとかあるいは医学的なリハビリテーションについては限界があるというお話がございましたが、しかしそれにもかかわらずこの治療への研究の必要性というものを強調をされました。私も実は全く同感でございまして、実は当委員会におきまして厚生省が難病対策というものに新しい予算をつけた、これに関連いたしまして、ひとついま起きておる公害病についての国家的な研究というものを難病対策と同様に取り上げるべきではないかということを実は指摘をしたのであります。これに対しましてまさにその裏づけを得たようなお話を伺いまして、たいへん力強く感じましたし、またそういう方向への施策の実現に努力しなければならぬということを痛感をいたした次第でございまして、この点についてはただいまのお話のような趣旨を含めて今後十分の努力をしたい、かように考える次第でございます。  それから次に、これも伺いたいのでございますが、いわゆるこういった有害な、有毒な物質の蓄積が結果的には公害病となってあらわれておるわけでありますが、こういったもののいわゆる排せつの限度といいますか、どれだけ以上摂取をした場合に蓄積になりどの程度であれば自然に排せつされるというような生理作用があるものかどうか、これはあるいはその有害物質によって違うかもしれませんが、そういった点について何かお教えいただければたいへんありがたい、こう思います。  それからもう一つ。これはちょっと先のことで恐縮ですが、先ほど白木先生のお話で、胎児に対する凡百の有害物質の影響というものを指摘されて、私もたいへん教えられたのでありますが、最近心身障害児童の重度化の傾向というのは非常に顕著でありまして、肢体的な不自由と精神薄弱をあわせ持ったいわゆる重度心身障害児というものが非常にふえてきておりまして、しかもその原因は厚生省の調査では脳性麻痺が大部分であるというような結果になっております。先ほどメチル水銀の脳神経細胞に及ぼすおそろしさというもののお話を伺いましたけれども、先ほど凡百の物質とおっしゃったけれども、当面たとえば公害対策として考える場合に、あとどういったものが一体対象として考えられるのか、何かこの点についての研究的な成果があればお伺いをいたしたい。  以上についてひとつお教えをいただきたいと思います。
  51. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  先ほど宇井先生のお話の中で、世界に冠たる汚染物質を四つあげられたと思うのです、BHCそれから有機水銀それからカドミウム、PCBと。その中で私の専門としております神経毒、つまり脳をおかすものは、これはBHCとそれから有機水銀この二つでございます。このBHCなんでございますが、これは有機塩素系でPCBと非常に似ているわけで、現在のところは農薬としては禁止されていると思いますけれども、容易に分解しないという形ではこれから何十年先まだ残留していくかわからないということになります。で、そういう点ではこれはやはり神経毒としての問題が残っている。それから水銀もそうです。  PCBについては私経験がないのですけれども、BHCと非常に似たような化学物質であるという意味ではやっぱり神経毒の可能性はあると思います。カネミの場合ですとやはり末梢神経がおかされていることは確かでございますし、それが胎児に対してどうかということは、たとえば黒子というようなものが生まれているというような形の中では、私自身は実験しておりませんけれども、やはり胎児に相当移行するであろうということが考えられます。そうすると、四大汚染物質の中の三つがどうも神経毒であるということが言えると思います。  BHCの中にはアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、さまざまな薬物がございまして、全体として神経毒でございますが、その中で特にアルファがおそろしいと思っております。アルファはあまりいままで問題になっておりませんけれども、これはBHC農薬の中のパーセンテージが少ないということでございますが、私の実験した限りにおいては非常な神経毒であるということが言えると思います。そして一度入りますと容易なことで抜けていかないということです。それでその問題に関連していまそろそろ気がつき出したものは母親の脳の中に簡単に入るような物質、これは薬それから農薬を含めてでございますが、それはどうも胎盤を通って容易に胎児のほうに入っていきやすいという平衡関係がありそうだということです。逆が真とは言えないのですけれども、どうもそういう平衡関係がある。サリドマイドは御承知のように睡眠薬でございます。睡眠薬というのは脳の中に簡単に入ってそして睡眠作用を惹起する。だからそれが子供にいってサリドマイドの子供をつくったのは当然のことだと、いまにして思えばそういうことでございます。  そういう中で、四大公害物質の三つが神経毒だからこそ次の世代がこわいということを私この段階で申し上げられると思います。それで、その中のどういう汚染物質がいま御指摘のような心身障害の重度化を進めているかということになりますと、これは化学的にいけば、それが有意であるということを証明するのは非常にむずかしいという感じがいたします。がしかし、世界に冠たる農薬汚染その他の汚染を考えますと、どう考えても次の世代はあぶないのだなという感じはいたします。そういう面での調査研究というのは非常に重要なことになるんではないか。特に小児科領域あるいは産婦人科領域における研究がいま非常に重要である。いまにしてその生まれてきた子供たちの精神的なあるいは身体的な素質という問題を把握しておきませんと、今後五年なり十年なりの間にどのようにそれが悪化していくかということのコントロールすらないわけです。ですから心身障害のほんとうの意味での基礎研究というのは、まずやはり実態把握から進めるべきであって、しかも毎年毎年小学校の児童なり幼稚園の児童なりあるいは赤ん坊なりの精神的なあるいは身体的素質が、はたして今後低下していくのかどうかというようなことをやりませんと、私、将来の運命もわからない。ただ、胎児性水俣病というのは、それはことばは非常に悪いのですけれども、期せずした人体実験だった、その点を私たちは非常に問題にしなければならない、そう思うわけでございます。したがって、こういう研究をやるとなりますとこれは膨大な資本投資が必要でございます。私ははっきり言って、四次防、五次防、六次防、全部投入しないとおそらくできないだろう。厚生省が組んでおられます難病のあんなちっぽけな予算ではとうていその問題は片づかないというふうに考えます。  それからさっき原田さんのおっしゃったように水俣地域に国立病院を一つぽんと建てればいいという問題では決してなくて地域ぐるみの医療と福祉体制をとらなければならない、これも膨大な資本投資が必要でございます。また心身障害あるいは胎児性水俣病あるいは非常に医学的に回復困難なそういう人たちを収容していくようなセンターがかりにできたとしても、それをメンテインしていくためにはよほどの不採算医療を投入しないとそれができません。あるいはその現場に働く従業員たちもやはり目に見えて効果が出ないと士気が阻喪してまいります。そしてこれは私はかつて重症心身障害の院長をしたことがありますのでその経験がございます、人間もやはり心理的な動物でございますので、そういうセンターのほうの現場の士気を阻喪させないで、それをメンテインしていくためには、おそらく八〇%か九〇%の不採算医療が必要である。それだけとっても非常に大きな資本投資が必要でございます。まして地域ぐるみ、保健所、開業医それからあらゆる公的、私的病院というものの連携というものを考えてみた場合には、それ以上の膨大な資本の投資がまた必要である。ですから、十数億とか百億なんというような、そんなオーダーでは問題は水俣地域だけですら片づかない。と同時に、これは水俣だけじゃなくて、イタイイタイもぜんそくもみな同じことになるわけでございます。あるいはスモン、サリドマイド、森永砒素ミルク、みな同じことになってくるわけですから、そういうことがほんとうの福祉だと思うわけなんで、そちらに対して思い切った投資というものを国がやっていただきたい、あるいは地方自治体がやっていただきたい、そう思います。
  52. 田中覚

    田中(覚)委員 先ほどの摂取したものの蓄積と排せつの関係はどういうふうに理解したらいいのか、ちょっとその点だけひとつ教えていただきたい。
  53. 白木博次

    白木参考人 それはものによって全部違うわけでございます。たとえばメチル水銀ですと、入ってから比較的簡単に出やすい臓器とそうでない臓器とございます。たとえば脳というような問題は、あとからおくれてじわじわとたまってきて、なかなか出ていかない。がしかし、ほかの臓器にたまっておりますものも、やはり中に入りますと、たん白と結合して容易に出ません。私つい一カ月ぐらい前ちょっと水俣のほうに行って、武内教授のところで慢性の解剖例を見させていただきましたときに驚いたことは、すい臓でございますね、あれがやられているのです。すい臓というのはインシュリンを生産するところで、からだの血液分を調整するところでございます。それがやられておりますから、インシュリンがおそらく生産されてないだろうと思います。そうしますと、血液の中の糖が上がってくるわけでございます。血糖が上がる。それが動脈硬化につながるわけでございます。ですから、慢性例を見ておりますと、高血圧という問題が必ず出てくるだろうと思う。それは今後もずっと続けて見ていかなければならぬ。その辺のところは先ほど原田さんが指摘されたとおりだろうと思う。BHCになりますと、さっき言ったように、アルファ、ベータ、ガンマでそれぞれ違う。これは毒物の性格によっても違いますし、今度は受ける側のほうになりますと、組織によってみな違ってくるというので、一口には申せません。ただしPCBとかBHCあるいは有機水銀というのは入るとなかなか出ない。したがって、入ってくる量よりも排せつされる量が少なければ、だんだんたまっていくだろうということになるわけです。  したがって、私は次の世代がおそろしいと申し上げましたが、それだけではないんで、今後は老人が問題だと思います。老人はやはり年をとればとるほど蓄積毒物がふえていく可能性がある。それはマグロの漁船員の経験年数二十年、六十歳という人のメチル水銀の量がほかの人より一番多かった。六七PPM、ほかは二九か三〇、それはみごとにそれを示していると思います。そうしますと、老人病の重症化の起こる可能性があると思います。つまり次の世代とそれから老人という一番弱い世代に、いまの公害の物質の蓄積という問題とからめてその悪影響が出ていく。老人病の重症化ということが起こり得る。脳の場合ですと恍惚がだんだんふえていくであろう。この辺にいらっしゃいます国会議員の方もあぶないと思います、私も含めまして。
  54. 田中覚

    田中(覚)委員 ありがとうございました。
  55. 佐野憲治

    佐野委員長 坂口力君。
  56. 坂口力

    ○坂口委員 すでに多くの皆さん方からいろいろな問題が出されましたので、できる限り重複を避けて御質問をさせていただきたいと思います。  まず白井先生にお願いしたいわけでございますが、先生のお話に、外部環境の汚染というものは自然に内部環境の汚染に結びついていくというようなお話がございましたし、またわれわれは不顕性のメチル水銀中毒に襲われている、こういうお話もございました。これらのお話から、すでにたまってしまったものは、先ほどからのお話にもございますとおり、もういかんともしがたい問題がある、ひとつこれ以上出さないこと以外には手がないというお話でございました。現在問題になっておりますのは、水銀であり、PCBであり、あるいは砒素でありというようなことでございますが、これからいろいろの工業生産が進んでいきますと、またさらに新しいいろいろの物質等も出てくる可能性があると私は思うわけでございます。そこで現在までのこの公害防止は、公害防止といいますよりも、何か終末処理というような感じでやられてまいりました。これを何とかして本格的な公害防止にどうしても結びつけていかなければならない。先生方の学問的立場からもそうでしょうし、われわれの政治的な立場からもそうだと思うわけでございます。  そこで私は、どんな製品をつくるにいたしましてもあるいはまたどんな材料を使うにいたしましても、それを一ぺん私たちの健康に害はないかどうかをチェックする機関を必要とするのではないかということをいままで申しておりました。かりに工業保健管理センターというような名前を自分でつけたりいたしておりますけれども、こういったことに対する先生の医学立場からの御意見、また政治に最も何を望まれるかというような点の御意見をひとつお聞かせをいただきたいと思います。この点について宇井先生も御意見がございましたら、あとでひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  57. 白木博次

    白木参考人 私、断片的にはあっちこっちでしゃべってきたことをいま総括的に御質問があったという形で受け取りたいと思いますが、そのようなあらゆる化学物質は事前に健康チェックの対象にするという、いわゆるテクニカルアセスメント、これはないよりあったほうがいいということはもちろん言えると思いますけれども、私は基本的には医学立場から離れまして、やはりクローズドシステム、外に出さない、出てきたらクローズドシステムで全部回収するという以外には方法はないと思います。そうなりますと、おそらくこれは膨大な資本投資が必要になると思うわけで、大資本ならそれができると思いますが、中小企業はどうするのか、あるいは洗剤その他のような家庭一般に使っているものに対してはどうするのか、これは上下水道というものをほんとうに思い切った措置をしないといけない。中小企業に対してはやはり汚水処理という問題についてはクローズドシステムを本質的にはとらなければならないと思うわけで、ものすごい膨大な資本が必要であって、そうなりますと、おそらく十次防くらいの予算が必要だろうと思う。したがってあまりここでは四次防論争などをなさらないでそういうことをしろ、そうでないと、憲法二十五条は先ほど申した意味で守られていないのだから、そういうことをやれということを国会で私は決議していただきたい。あるいは公害戦争の終結宣言をやれというふうに私申し上げたい。それは先ほど申したようにわれわれが加害者で次の世代被害者に仕立てていく可能性がある。これは戦争をしかけているわけです。ですから、国会でむしろ公害戦争終結宣言でもほんとうにしていただきたい。それくらいの姿勢でやっていただかないことには健康は守れないというふうに私は考えます。  そして問題は、先ほど申しましたように、工業汚染が必ず農薬汚染を連動する、あるいは大気汚染を連動するということになりますと、結局工業産業と食糧産業をどうバランスするかということをここで深刻に考えていただかないとどうにもならない。その基本が一番あるわけでありまして、これは健康増進とか予防医学のもう一つ手前、もっと前の問題だ。その問題をやりませんと、結局本質的にはこの問題は片づかないと思います。  それからもう一つは、先ほど申しましたように、地方自治体にもっと権限を与えよ、それは法律的にも予算的にも与えよ、それしかないと思います。
  58. 宇井純

    宇井参考人 実は日本の高度成長というものは公害のたれ流しができたからこそこれだけの急速な発展ができたということを私経済学者と議論したことがございます。たとえば水処理をしないからこそ紙パルプ工業がこれだけ大きくなれた、大気汚染防止をちゃんとやらないからこそ製鉄業は戦後こんなに大きくなれた。あるいは奇妙な場合でございますと、戦前から戦後しばらくの石油工業のように技術が発展していなかったために、アメリカから買ってきた設計図をそのままつけちゃったので水処理の設備まで知らずにつけちゃったというような例さえございます。ですから、技術が発展すると公害がとめられるかというと必ずしもそうはなりそうもないということを自分で痛感いたします。  大体いま私がかかえております水処理の問題のうちで、金に糸目をつけずにどうにか解けるのが約半分でございます。もし金に糸目をつけることになりますと、経済性というふうなことになりますと、一割か二割がいいところでございます。残りの半分のうち、またさらに半分、四分の一くらいが、これから五年十年必死で勉強したら何とかなるかもしれない。それで最後の四分の一、つまりばらまいてしまった水銀を集めるとか、からだの中に入ったPCBを取り出すとかいうふうなこと、これは不可能である、というふうな種類のことが四分の一くらい残るんではないかと、排水処理の仕事をしておって大ざっぱに考えております。  そこで、いまほしいことは、まずこの最後の四分の一については使わないということ、あきらめる、一つの段階として、どうにもならないものはやめるということと、それからせめていま言いました程度の整理、金に糸目をつけずに処理できるものはいますぐにやってもらいたい。そのためには多少経済成長は落ちるでありましょうし、とても日本列島改造で数年後にGNPが二倍になるあるいは三倍になるというふうな成長は不可能でありましょう。しかしそれをしなければ、これは日本列島自殺計画になりかねない段階であります。それで、その上で、いろいろな生活に使っております物資を検討するというただいまの提案も十分考えてみなければなりません。  ただ、私は過去に一つ苦い経験がございます。環境庁が公害科学研究所をつくるというふうな対策を打ち出しまして、マスコミもこれはたいへんいい計画であるというふうなことを書き立てましたし、国会でも促進が、たしか決議されたと思います。しかし私が過去に日本の公害問題を調べましたときに、いつも企業側に立って発言した先生方がこの設立委員になっているということから判断しますと、この研究所をつくってもおそらく公害問題は一つも解けないであろう、幾ら金をかけてもむだ使いにしかなるまいということもまたはっきり言えます。ですから、機関をつくることは、現在の考え方をそのままにする、その上で機関をつくるということではほとんど効果はなくて、むしろ税金のむだ使いになるであろう。やはり過去に起こした失敗をとことんまで洗い出して、二度繰り返さないための、われわれが実例を身につけるという意味で、水俣病にしてもイタイイタイ病にしても、またカネミ油症——カネミ油症なんというのは現在全然何も手は打たれておりません。もう研究費も打ち切られ、それから公害病としての扱いもしないと政府ははっきり言っております。そんな調子では、今後それこそ何十かの新しいPCBによる中毒は起こります。やはり過去の例を徹底的に調べ上げて、どこが悪かったのかということを洗い出すことにより今後の失敗を防止するという姿勢が根本に必要であろうと思います。  私は先ほど、行政が共同正犯であるということを申し上げましたけれども、それは何も行政が憎くて言っているのではありません。そのことをまず認識した上で、今後共同正犯にならないためにはどうするか、過去のあやまちを徹底的に洗い出すほかないのであります。  その点で、私都市工学という水を処理する学科におりますけれども、現状はきわめて不十分であり、こんな調子ではもうどうにもならないということを痛感いたします。第二、第三の都市工学をつくり、衛生工学をつくったところで、さらに税金のむだ使いにしかならない、やはり現実に密着して、被害者の声を聞く学問をつくるほかはないということを感じます。政治もまたその方向に動いていって、被害者の生きやすい政治をどうしていくかということになるのではないか、それが根本的な対策ではないかというふうに考えます。特に今回中国をしばらく旅しまして、日本をやや外からながめる機会がありましたときに痛感した次第であります。
  59. 坂口力

    ○坂口委員 次に、江川先生それから原田先生にお伺いしたいわけでございますが、先生方、お二人とも熊本のほうでそれぞれ御研究あるいは臨床にお携わりになったわけでございますが、この水俣病のこの問題に関して、いわゆる研究費の問題がございます。  先ほど宇井先生は、外国からの研究費でやったということをおっしゃいましたけれども、私もかつて地方大学で公害のことをやっていたことがございますが、いつも問題になりましたのは研究費でございまして、この研究費について両先生、この水俣病の経過の中でどういうふうであったか。もう少し研究費があれば水俣病をこんなに広げずに食いとめることができたか、そういった点をお考えになっているかどうか、その点ひとつお伺いをしたいと思います。
  60. 江川博明

    江川参考人 研究費の問題が出てまいりましたが、研究費の問題につきましては医学部の関係、原田先生が一番お詳しいのじゃないだろうかと思うのです。  私どもが行ないました処理対策調査研究につきましては、県からの委託研究費によって行なってまいりまして、これも先ほど申しましたように、われわれの工学的な見地からではもうとうてい推察できないところ、すなわち医学的な、また生物学的な問題が早急に全国的な研究のもとで完成されない限りは、工学的な対策が立てにくい現状でございます。現在私が非常に望みますのは、先ほども出ておりましたように、水俣病の治療の問題もございますが、それよりももう一つ、いまどのような摂取量であればどうなるかという線を早く医学的、生物学的に解決していただいて、その方面の研究が早く結論が出てまいりますと、工学的にどのようなヘドロの処理対策ができるかということが推定できるのではないだろうか、その方面の研究に対しまして、現在から今後多大の援助をいただきたいものと思っております。
  61. 原田正純

    原田参考人 研究費の問題ですけれども、一口に言ってこれは絶対に足りないわけです。しかしここで問題は、では、もしかりにあり余るほど研究費を出したらそれで片がつくかというと、そうじゃないと思うのです。お金だけが問題じゃないわけです。そこまでいくには非常にたくさんの問題があると思うのです。というのは、すべてのいろんな地域研究の中心は、その地域地域にある大学がまあ大体日本じゅうでその責任をもってやっている。それは確かに今後もそういう大学がその地域に起こった問題を中心的に研究していくことはけっこうだと思うのです。ただ、いまの大学のこの、教授一、助教授一、助手三というワクの中で、もし金があっても研究と——本来大学の人というのはわりとわがままで、自分の研究をやっている人が多いわけです。それはそれでいいんです。ただ、その研究と教育と、しかも医学部ですと診療というような三つの部門を受け持った大学が、はたして地域の住民がほんとうに要求する問題をほんとうに取り上げて大学がやっていけるかという問題がやっぱり残ると思うのです。だから、もし金だけを自動的に大学なら大学に委託するというような形では、これは決して問題は解決しないのじゃないかというふうに考えるわけです。  それともう一つは、水俣病は、これは病気だ、だから医学部を中心に研究を組んでいく、しかしそういうことでいまから先やっていけるだろうかという気がするわけです。やっぱりそうなると、どうしても工学関係や生物学や社会学や、いろんな人と共同したシステムがとられなければいけない。そういう問題があるのですけれども、ただ、単にある大学なら大学に研究費が足りないことは、これはもう一口に言ってそうなんです。ふやしていただきたいし、援助していただきたい。ただ、それは非常に機械的に、ある大学にぽんとやればそれでいいということでは決してない。最後にはやはり、その研究者がたとえば金をもしもらったとしても、実験的研究はかなりできるんです、やっていく人もたくさんいるわけです。ところが、現地に入り込んで、いま具体的に目の前に起こっている問題をどんどん持ち込んでいって、一つ研究システムを進めていくというような点で、多少われわれは片手落ちをしてきたのではないか。だから、実験的なメチル水銀に関する研究は非常に進歩した、にもかかわらず、皆さん、いまごろ何だろうとおっしゃるような問題が現地には残されているというようなことなんです。そういう意味で、研究費をふやしていただきたいし、絶対足りない。しかし、それは最終的には、いま白木先生や宇井先生がおっしゃったように、最後にはやはり金だけの問題じゃなくて、たとえば大学なら大学あるいはつくった研究所なら研究所が、どういう立場に立って、どういうことをやろうとしているのかという、そこのところの魂を抜いてしまえば、これはもう税金のむだ使いになるだろうというふうに思います。
  62. 坂口力

    ○坂口委員 ありがとうございます。私自身も考えておりましたことをお答えをいただいたわけでございます。  時間がございませんので、もう一問だけ、簡単でけっこうでございますので、白木先年と宇井先生にお伺いしたいわけでございますが、白木先生のほうには、先ほど農業の生産の質的低下、これが進むほどこれに連動して農業汚染というものがまた進んでいくというお話がございました。現在使用されている農薬の中で、水銀は一応別にしていただきまして、そのほかのもので、非常にわれわれの健康を害するような、第二の水銀剤に匹敵するようなものがあるのかどうか、もしそれがあれば、もしも注意するようなことがございましたら、ひとつお教えをいただきたいと思います。  それから宇井先生、世界の公害の状態をいろいろとごらんになりまして、日本の今後の公害研究の方向性について御所見がございましたら、簡単にひとつお伺いをしたいと思います。
  63. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  農薬水銀系のものは禁止になっているわけですが、こういう問題については私よりも佐久病院の若月先生が一番よくお答えになると思いますし、それについてのいろいろなデータは、ことしの一月の岩波書店の「公害研究」、そこに詳しく出ております。水銀農薬が禁止されたにもかかわらず、米の中の水銀は意外に減ってない。依然としして使われている、こういう実態があるということをまず申し上げなければならない。それはどこから来ているかということについてのいろいろな分析は若月先生がなさっておられます。そして、そうなりますと、禁止しただけで、その使用禁止のあとのアフターケアと申しますか、ほんとうに使っていないかどうか、それをきちっと行政が追及していく体制が十分ではないのではないか、そこの怠慢があるのではないか。その次にBHCとか有機塩素系のものも大体禁止になったわけです。しかし、やはり依然として高い——高いというのは、さっき申しましたように、まいたものは簡単に消えない。今後、何年何十年続くかわからないということが一つあると思います。  現在使われておるものは低毒性の有機燐だと思います。燐剤というのはわりと簡単に分解しますので、副作用は少ないといわれておりますけれども、これもやはり農薬を使いますときに、企業のやったデータを国がうのみにするということ自体に問題がある。石油たん白がまさにみごとにそれを出しているわけです。国がぴしっとした対応をしているかといいますと、やっていない。しかも、それが急性実験で、ほんとうの意味での慢性実験をやっているかどうかわからない、そういう危険性は依然として農薬全体につきまとっていく問題だ、そう考えます。と同時に、口から入るものはやはり医薬品並みに考えなければいけないので、そのほうのほんとうの意味での規制というものが法律的にも行政的にもできているのか、その問題をきちっと国会あたりで押えていただかなければならない。もしそれによって——科学は決して安全性の問題を云々できないと思います。限界があるのであって、慢性実験ということを考えますと、十年、二十年人間に使ってみなければ安全性は言えないわけですから、問題は、動物実験の段階から人間に移し植えられたときに、もし健康阻害というものが起こったならば、だれがそれを補償するのか、企業なのか国なのか、そういう法律上の問題をはっきりさしておかないと、もうこの問題は片づかない、そういう一つ科学以前の問題がある、私はそんなふうに考えます。  それと、さっきの原田先生のおっしゃったことについて一言言いたいのですけれども、確かに研究費だけつけても何にもなりません。それは、たとえば人員の問題がございます。いま日本には公務員法がございまして、どんどん首切りが国立大学で起こっておるわけです。助教授一、助手三というものも守られなくなってきている。そういうような問題を許しておいて、研究費だけつけても絶対問題は片づかないわけです。つまり一ベッドに対してどれだけの従業員があるのか、この数字を外国と日本と比較してみれば一番簡単なのであって、アメリカは教育病院というものは一ベットに対して六人、医師を含め看護婦を含めあるいはソーシャルワークを含めてあるわけですね。一対六です。それからヨーロッパが一ベッドに対して二人ないし三人です。日本は東大が一番いいといわれておりまして、一ベッドに対して一・三八でございますが、いま首切りが行なわれておりますから、この数値はもっと下回っておると思います。おそらく熊本大学は一対一ないしはそれ以下であろうと思います。それが一対六のアメリカにどうやって対抗していくのか、この問題を基本的に考えない限りにおいては、研究費だけでは片づかないということをさっき原田先生おっしゃったと思いますが、私は非常に物理的な条件からその点を申し上げました。
  64. 宇井純

    宇井参考人 諸先生の言われる物理的な条件、それから公害の激しさという点で日本が決定的なきびしい条件にあるということを考えた上で、なお私たちは研究を捨てるわけにいきませんし、公害を解かなければなりません。そのときに、最後にたよるのはやはり人間であります。私、自分で東大におりまして研究をしてつくづく感じますことは、もし私の父が水俣病で殺されていたらもっとまじめにやったろうということです。結局、公害の被害者立場に立って研究をするということになれば、いまのようなのんきな研究ではとても済むまい。しかし、一歩進んで考えてみれば、私も皆さん方も同じように東京の空気を吸う以上は、光化学スモッグでいつやられるかわからないのでありますし、またPCBをだいぶ体内にため込んでおるわけであります。そうしますと、いまのところはおれに縁がないと思っているのはそれは夢かもしれません。やはり被害者に自分はいずれなるのだという立場で、研究をする人間をどうやってふやしていくか、あるいは被害者の中から研究者を育てていくという道が、ほかのことを全部封じられたあとでも、金がなくても、人がいなくても、なおかつおれたちは手弁当でもやっていくぞという人間が出てくる、それしか私にはよって立つところがございません。しかし、それがいま日本の各地で起こっておることでありまして、しろうとがみんな勉強を始めておる、そこに期待がございますし、また、そういう人たちの望むところが政治で実現されていく。たとえば、この工場は、もうけを全部東京へ持っていってしまって地元には公害しか残さぬのなら閉鎖していいではないかという望みを実現することが、私はやはり日本の公害を根本的に解決するために、また、世界で一番きびしい立場に置かれたときにもそれが最終的な解決だと考えます。ですから、原田先生の言われた、魂を入れるということを認めた上で、なおかつ、魂も入れてくれないような政治のときでもわれわれはやる、被害者の一人として被害者の仲間をつくってやるということをお答えしたいと思います。
  65. 坂口力

    ○坂口委員 ありがとうございました。
  66. 佐野憲治

    佐野委員長 木下元二君。
  67. 木下元二

    ○木下委員 原田先生に伺いますが、水俣病は、認定患者が現在四百数十名ということでありますが、これには多数の隠れた患者がおります。水俣病のすそ野はきわめて広いといわれておりますが、地域的にはどの範囲まで入っておるのか、また人数から申しまして、どの程度がその対象になり得るのか、こういったことを伺いたいと思います。  それから、この水俣病の申請認定の制度は、十分に利用されておるのかどうか。医師が水俣病だから申請をしなさいというふうに言っても拒否をされたということも聞いておりますが、一体これまでの利用状況はどうであったのかということであります。現にこの制度がどういうふうに使われておるか、ほんとうに救済に役立っておるかどうか、このことを伺いたいと思います。  それから、さらにもう一点。この水俣病患者の認定基準、この基準が公開されていないように聞いておるのですが、疫学的事項を第一としまして、四つの事項があるように聞いております。これは非常にきびしいものになっておりまして、先生が先ほども言われたんですけれども医学的な見地から見てもいろいろと問題があるように思います。一体このような認定基準でいいのかどうか、このことを伺いたいと存じます。
  68. 原田正純

    原田参考人 まず広がりについてでございますけれども、広がりは正直なところ、現在ここまで、これから先が安全だということははっきり申し上げられないと思うのです。ただ常識的に考えまして、水俣を中心に大体上下に百キロ以上にわたって患者がすでに出ているわけです。それを今度は東西に伸ばしますと、もちろん天草、それからさらには、水俣の魚は各地に持っていかれているわけです。たとえば、熊本あるいは鹿児島県、そういうことはまだ一切手がつけられていないわけです。したがって、その患者がどこまで広がっているのか、そのことはわかってないばかりでなく、そのことにすらまだ手がつけられていないというのが実情です。ただ幾つかの指定地区に関して昨年から熊本、鹿児島両県が一斉検診をやっております。その結果は近いうち出ると思います。それから数は、そういうことで私自身も想像がつかないわけです。ただ当時あの地区に少なくとも大ざっぱに考えて、水俣を中心に汚染されるであろうというふうに考えた地区の住民は、非常に大ざっぱなんですけれども、二十万といわれているわけです。そのうちのもし十分の一の人が影響を受けているとすれば二万ということになるわけですけれども、それも私ここで大体推定何人ぐらいというふうには申し上げられないのです。ただ、少なくとも汚染地区に関しては、先ほど申し上げたように、ほとんどの人が影響を受けている可能性がある。それは今後も影響が顕著化する例が出てくるだろうということしか言えません。  それから認定申請制度の点ですけれども、一ころみたいにはないのです。一ころは認定すること、申請することすら知らない、あるいはもしそれをぼくらがしてあげようと言っても、それはいろいろな世間的なことだとか、たとえば嫁入り前の子供がいるからとか、あるいはチッソに悪いからとか、魚が売れなくなりはしないかとか、そういうさまざまな理由でそれすら拒否された時代——しかしまあここ一、二年は県が一斉検診をやる、積極的に取り上げようという姿勢を見せた、それだけでもかなりたくさんの人が自分から進んで申請しようとしてきている。それが大きな変化なんです。ただそれでも去年の十二月ぼくが歩いていて見つけた患者さんなんですけれども、こんなひどい人がどうしてひっかからなかったかと聞いたら、二人とも寝ているのでだれも連れていけなかったと言われた。そんな人がまだいるのです。それから、ある人は十七年寝ているわけです。どうしていままでほっておいたのか。——どうしてその検診に連れて行きますか。だから、この認定申請制度——いつでもいらっしゃい、門戸は開かれております、申請者が希望すればいつでも開かれております、ということをおっしゃっているのですけれども、実は私、中に入ってみると、どんなにして連れていくのですかというような人が現実にまだいるということを申し上げておきたいのです。  それからもう一つは、離散者の問題です。この水俣はやはり日本全国で起こっている過疎の問題と無関係ではないわけです。私たちのデータでは水俣市で五年間に約一万人ぐらいがどこかへ出ていっているのです。それはほとんど関西や東京やそういうところに出ているわけですけれども、この人たちは少なくとも一番激しい時期に食べていたわけです。そしてよそに行っているわけです。たとえば私大阪に何べんか行って大阪の患者も見ました。そうすると、大阪では何か病気が起こるわけですけれども、医者にかかって治療しているのですけれども水俣病の申請すら出てこないわけです。最近少し出てきたんですけれども、そういう離れていった人、それからまだ手のつかない部分、たとえば魚がどう流れていって、どこに行ってどこで売られたか、その辺はどうなのかということなども、一応形は整ったものの、中身はきわめて不十分だといわざるを得ない。それから認定基準は、私審査会のメンバーでございませんので、審査会がどんなふうにしてきめているのか、これは何とも言えませんけれども、私は患者さんを申請する立場から見ますと、いまのところ一応疫学とかそのほかいろいろな点で認定されていっているようです。この後どうなるかわかりません。だけれども、いま申請している部分は大部分が急性の激症の認定された患者さんの家族なんです。だからもう疫学的には問題ないわけです、同じものを食べていたという点で。今後まだいろいろな地区、あるいはいろいろなところ、そんなところから出てきたときにどうなるかという問題がありますけれども、いまのところスピードその他の点はありますけれども、認定基準は少なくとも一年、二年前からすると非常に広がってとらえられていると思います。それが正しいのだと思います。  それから、一つ申し上げておきたいのは、きびしいのは子供の診断です。白木先生ずっとさっきから御指摘になったように、知能がどうなったかという問題が、その底辺として医学的にも社会的にもきわめて大きな問題があるのですけれども、いま子供の認定に関してわれわれはデータを持たない。たとえば知覚障害があったり視野の狭窄があったりすれば、日常生活はほとんど支障がなくても、いまは水俣病として認定しているわけです。ところが子供の場合知覚障害が証明されなかったり、知能が悪いために検査できなかったりする部分、この子供に対する問題というのが、まだわれわれ自身がこういうふうにして認定すべきだという認定基準を持っていない。その辺でさっき申し上げた研究の問題とからんでくるわけですけれども、認定審査会そのものが熊本、水俣で、世界で初めてあれだけの環境汚染が起こったんですから、この認定審査会そのものが研究をして概念を広げていかないと、新しい事実を拾い上げて広げていかないと、ある時点でわかった、ここまでで線を引くことはたやすいのですけれども、それはあとになってこういう事実がどんどん出てきたときに、それを切り捨てになる役目を果たす危険性を十分に持っているのだというふうに申し上げておきたいとお見ます。
  69. 木下元二

    ○木下委員 時間が来ましたので……。  ありがとうございました。
  70. 佐野憲治

    佐野委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人の各位には、御多用中のところ長時間にわたり、貴重な御意見を述べていただきまして、ありがたく、お礼を申し上げる次第でございます。  次回は、明十三日金曜日、午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時五十九分散会