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渡辺(惣)
委員 そうですか。この西丸震哉君は専門の立場で非常に最近食糧と人口の問題を論じておるのです。特に自分の役所の勤務のポストの立場からも非常に問題を掘り下げて研究している、珍しい勇気ある官僚だと思うのであります。その西丸震哉君が食糧、人口問題を
中心といたしまして、去年の十月の中央公論に「食事の哲学」という論文を執筆しております。この論文の趣旨は、「人類が直面する生存の危機は、過度の安楽追求と自然界に占める地位の認識不足から起る。」ということが
中心のテーマであります。同じく同君は去年の中央公論十二月号に「飢えの時代が来る」「アラスカでの飢餓実験日記」というものを発表しております。「少なくも過去一万
年間起らなかった生存条件の大
変化が始った。大飢餓が襲って来るのだ。」こういう予想であります。みずからこの危機をあえて体験した現状の視察
報告で、非常に感銘すべきものがあると思います。そのほか、最近私
どもの手元にある資料だけでも、
経済政策研究協会の会報に載っています「食糧と人類の危機」、それからごく最近、これは六月の段階ですが、総合雑誌で「終末から」という雑誌が出ております。非常に世紀末的な問題の提起のしかたでありますが、ここでは「腹ペコのバラード」という題で執筆しております。
わずか半年のうちで四回も総合雑誌あるいは権威ある研究協会に
意見を発表しておるということは、非常に勇気の要ることだと思うわけなんです。科学者の立場でこういう
提案をしておりますので、政治的な視点は何も持っておりませんが、純粋な科学者の立場に立っておることで、私は特にこの論文の中に注目をするわけであります。衆議院の
建設委員会には珍しく二人の科学者がおられます。井上博士と浦井博士の両名の科学者がおられますので、私の提起する問題が科学的な立場からも専門職の立場からもどういう視点を持つものかということで共同の論議を深められるべきだと私は思うのであります。
私はここで、いまの経企庁
長官並びに
下河辺君の非常に楽観論的な食糧と人口の展望について、この四つの論文を通した総括的な見解を私なりにまとめてきたものをここで申し上げたいと思います。参考までにちょっと聞いてもらいたいと思います。将来展望の重要な提起であります。ことに皆さんの仲間である勇気ある官僚の
提案であります。でありますから聞いてもらいたいのですが、彼は異常景気の原因のとらえ方を経企庁
長官のような楽観論的な取り上げ方をしないで、非常に深刻に問題を取り上げております。
「西シベリアからヨーロッパ、カナダにむかって寒冷化が進んでいるが、これは第四永河期末期の状態に似ている。シベリアの気温はこの十
年間に五度も下った。冬は割合暖かだが、春先冷え、一足飛びに夏になるが涼しく、秋がなくてすぐ冬に入るといった気象がつづき、ソ連の農業に大きな打撃をあたえている。
南では、インドから豪州にかけて旱魃が起り、ニューギニアでは、最低気温が十度以下になり、霜害騒ぎで食糧危機を起した。
日本はその影響で東北、北海道の低温化が進み、稲作の北限が南下する兆候をみせ、南
日本では旱魃が多くなり、高気圧にはさまれた中部は前線が停滞して雨が多く、日照不足をまねいている。去年の米作は条件からいえば大豊作でなければならないのに、平年作を下回る千二百万トンしかとれなかった。化学肥料を使いすぎて堆肥や厩肥を使わなくなったので地力が衰えたことも米の生産が頭打ちになった原因である。
北太平洋の水温が十
年間に五・八度上昇したことがわかったが、それだけ大気に対する熱の補給が減り、大気がどんどん冷えてゆく。その原因として
考えられることは、油のうすい膜が北太平洋をおおい、水分の蒸発を妨げていることである。一方、ジェット機や地上の煙突が排出する微細な塵が大気に層をつくって太陽の熱エネルギーを吸収し、北極に近いほど太陽熱が減る。氷や雪の太陽熱の反射も手伝って氷河地帯がひろがる。赤道に近い南では放散する熱がその層にひっかかって欝熱し、乾燥し、こうして地球全体にわたって食糧危機をまねいている。」
これは政治家の論文じゃないのです。科学者の見た、そして非常にデータを
中心にして分析しておる
状況であって、まさに地球の危機が迫っておることを予言しておるわけです。そういう点で、これほど極端でないにいたしましても、ローマクラブの提言等からも示唆を受けた部分が相当強い、それによって独自で足で歩いて
調査をしているということを見出すのであります。
こういう
状況の中で食糧問題の位置づけを彼はしようとしております。食糧問題については、「人間は一人年平均二百キロの主要食糧を摂取するから、地球上に住む三十六億の人間には七億トンが必要である。」非常にきちっとしています。「現在世界の穀物生産量は八億トンだが、水分を引けば七億トンでとんとんになる。しかし人間は文明が進むにしたがって畜産物をとるので、人間が食う穀類の四〇%が動物のエサとしてあたえられ、それが肉、卵、ミルクとなって人間の口に入るときはその四〇%の一五%に減り、減った分だけ食糧が不足する。食糧は将来まだ三割は増産できるという人もあるが、」これはたぶん
小坂大臣のことを指示するのだろうと思います。「労働力の不足、農民の労働意欲の減退、農地の潰廃などを
考えると、現在以上に供給をふやすことはむつかしい。各地で行われている大規模の自然改造は、食糧生産ではかえってマイナスが多い。」
こういう食糧の規定のしかたから、最後に人口問題に触れています。「半減する我国人口」、驚くべき提起であります。
「
日本の食糧自給率は八五%なし九〇%といっているが、家畜の輸入飼料をいれると四〇%となり、四千万人分の食糧を自給しているだけである。
日本人の食生活
基準は、二千二百五十から二千三百カロリー、蛋白は七十五グラム以上になっているが、その結果成人病が急増している。昔あった長寿村は、空気や水がきれいで、気候はあまりよくない、労働がかなり行われ、ストレスがなく、粗食で蛋白質の摂取量が少く、野菜や海草を多くとるといった条件をそなえていた。いまは
日本全国が肉食するようになった。食品添加物は三百五十種類あるといわれ、PCB、農薬、重金属などが入っているから肝臓が悪くなり、神経がおかされることは自然のいきおいである。
厚生省は二〇〇〇年の
日本の人口を一億三千万と予測しているが、これにはマイナスの要因が入っていない。私の予測では、七〇年を一〇〇として八〇年で一〇八ないし九八、九〇年で九六ないし七七、二〇〇〇年には四八・五ないし四五・〇、四千五百万人となる可能性がある。現在は零才の者が半減するのは六十七・五才で、九十才で殆んど死亡するが、二十年後には、三十五才で半減し、四十五才で全員が死亡するという不吉な予想が可能である。このままでは人類の破滅が案外早くやって来ると警告したい。」
まさにあなた方の見解と対蹠的な驚くべき
提案が出てきておるのであります。しかもそれは農林省の官僚であります。あなた方の仲間であります。彼は勇気をふるって
——大臣に呼ばれて、大豆の問題はしゃべるな、食糧の問題はしゃべるな、こう言われたと伝えられていますが、それほ
どものをゆがめずに、あくまでも人間的な立場で、人類的な立場で問題を掘り下げ、問題を告発している勇気は非常に驚くべきものがあると思います。
それでこの問題につきまして、皆さんの見解と全く対蹠的な食糧、人口問題の展望が提起されておるという事情について、これは
大臣は読まれてないかもしれないが、
下河辺君は読んでおられるかもしれないので、そういうような
提案が現実に科学者の中から、しかも天下に公開して、中央公論やその他に論策を出しておるということについて、どういうこれを打ち消す根拠
——これは人口問題研究所がこういっておるとかなんとかではなしに、この問題を切り開いて、この問題をどう受けとめようとしておるのか、所見を承りたいと思います。