○原茂君 私は、
日本社会党を
代表いたしまして、
昭和四十七年度
補正予算政府三案に対し反対、社会、公明、民社三党提案の組み替えを求める
動議に賛成の
態度を表明いたしたいと存じます。(
拍手)
本
臨時国会は、田中
内閣が成立いたしまして最初の
国会であります。そしてまた、田中
内閣の手によって初めて編成された予算が今回の
補正予算なのであります。
したがって、
国民は、この
国会並びに本
補正予算案に大きな関心と
期待を持ったものでございました。今日の物価高と公害、社会保障、住宅の立ちおくれなど、いま悩んでいる問題に、決断と実行力の田中
内閣が何かやってくれるのではないか、
庶民性が売りものならば、
庶民の気持ちがわかる
政治への徴候でも見出せないか、これが
国民の偽らざる気持ちであります。また、
日中国交回復によってかもし出されました平和ムードを定着化させ、
日本が軍国化の方向をたどらないという保証が得られるのではないか、こうした
期待が広がっておったのは当然でございました。
国会が始まってすでに二週間近くなりますが、残念ながら
国民のこのような
期待は完全に裏切られたといわなければなりません。(
拍手)何よりもまず、今回の
補正予算は、
国民の台所を圧迫するインフレ、物価上昇予算であるからであります。
四月の物統令適用廃止のときには、
政府は
消費者米価は上げないといいながら、米の値段を上げる、ガス料金が値上がりする、地下鉄料金が上がる、その他公共料金や日常諸物価が次々に値上がりする中で、勤労者の家計は深刻に圧迫されています。台所のやりくりをしている主婦
たちは、ほんとうに悲鳴をあげているのが現状ではないでしょうか。
申し上げるまでもなく、物価上昇の原因はいろいろとあるでしょう。独占価格、管理価格など、価格が独占資本擁護のカルテルなどを通じて硬直している問題もあれば、流通機構が著しく前近代的な要素を持っているといった問題もあります。地価のとほうもない値上がり、特に
日本列島改造論に便乗した土地投機や買い占めが物価上昇に拍車をかけておることは、皆さんよく御存じのところと存じます。
当然私は、これらに対する有効な措置を総合的な観点から行なうとともに、
政府が
財政金融
政策の運用よろしきを得ることが、物価対策の枢要な課題であると思うのでございます。
では、
財政金融
政策の運用よろしきを得るとは一体何か。それは、あまりに多く国債にたより過ぎる
財政資金の調達を押え、悪性インフレへの道に歯どめをかけるとともに、
国民が緊急に必要としている社会保障や住宅や公害対策に重点的に支出をふやして、予算の構造を変えることであります。
大型
補正予算を組むなら、ここで
思い切って直ちにお年寄りの福祉年金を月一万円に上げたらどうでしょうか。六十歳以上の老人千百万人のうち、公的年金の受給権者はわずか百万人ちょっとなのです。一千万人近くのお年寄りが、年金制度のワク外に放置されている現状から、いろいろと悲惨な老人問題が起こっていることは御承知のとおりです。老人の自殺率は、まことに遺憾ながら世界有数ではございませんか。難病や長期療養患者や重度障害者の治療費や施設などをどんどんつくることも、いま
国民の切実な要求でございます。
四次防に
国民一人当たり五万円の負担をかけるというのに、
政府はいま困っている
国民に対する予算措置は、できるだけ安上がりに済ませようといたしておるのがこの
補正予算でございます。そして、
補正予算六千五百億円の半分以上にも当たる三千六百億円という巨額の資金を国債でまかなうことにいたしておりますが、当初予算の一兆九千五百億円の国債発行額を合わせますと二兆三千億円、実に
一般会計規模の二〇%にも近くなる額でございます。この借金の大膨張がインフレを
促進することは、火を見るよりも明らかでございます。
私は、田中総理は歴代保守党の
首相としては、決断と実行力において傑出した人であると信じます。しかしながら、この傑出した総理が、福祉を口にしながら、それが具体的
政策とならず、ムードに終わっているのは、一体どういうわけでしょうか。
私の記憶では、田中総理は確かに年度内減税を言われておりましたが、今回の
補正予算において、減税のゲの字もないことは、まことに解せないところでございます。税金の重みにたえかねている
庶民にとっては、
期待はずれもはなはだしいといわなければなりません。
五万円年金なるものもけっこうでございますが、
国民年金の場合、十四年先の話なのです。年とって所得能力を失った
国民は、いま
生活できる年金をほしがっているのであり、十四年先の希望を食って生きていくわけにはまいりません。
予算委員会質問の中でやりとりのありましたC1輸送機、三十億円もするこれ一機だけでも、ガン治療のための原子炉なら少なくとも三基、心身障害者や寝たきり老人のための病院、リハビリテーション施設なら何十カ所もできるわけであります。
察するに、田中総理は、減税もやりたい、年金もいますぐ出したい、C1輸送機を多少減らしても福祉のほうに回したいと考えられたかもしれません。いやしくも福祉を言うからには、コンピューターつきと呼ばれる田中総理に、それくらいの数字の計算がないとは考えられません。
ところが、
現実の四次防予算や今回の
補正予算においては、これらの施策がさっぱり具体化されていないのは一体どういうわけなのでしょうか。「ままならぬは賀茂川の水と叡山の法師」と後白河法皇が嘆いたあの故事になぞらえれば、このすぐれた宰相田中角榮氏にして「ままならぬは官僚」なのでしょうか。私は、コンピューターにそろそろ狂いが生じつつあるのではないかと心配をいたしておるものであります。(
拍手)もし、コンピューターが狂ったとするならば、
日本列島がブルドーザーで破壊されかねないから心配いたすのであります。そして、
現実に
日本列島改造論の構想に沿って、現に六千五百億円の
一般会計補正、五千億円の
財政投融資という大型
補正予算が組まれ、「福祉抜き、インフレつき」のおおばんぶるまいが行なわれようといたしております。この
補正予算が、いわゆる十五兆円予算の玄関口であるとするならば、一級建築士たる田中総理がつくる十五兆円予算の豪華美邸ははたして青写真がしっかりできているのでしょうか、心配です。
国民の住めない、一部の
人たちしか使えないものになりはしないかと心から心配いたすものであります。
ところで、賢明なる田中総理は、「野党の言うことでもよいことは何でも取り入れる」と公言されてまいりました。もし、その言にして偽りがなければ、わが党及び公明、民社三党のまさに福祉を優先する
補正予算組み替えの
動議を、
予算委員会においてなぜにべもなく拒否されたのでありましょうか。こんな姿勢だからこそ、野党に耳を傾ける全閣僚の厳粛さはなく、閣僚の中でも、たとえば口を開けばピンぼけ放言をなしたり、あるいはまた、遺憾なくいまはやりの「こうこつぶり」を発揮する大臣など、
国民のひんしゅくを買っているのであります。田中総理は、はたしてこのことを持っている重要な意義を十分理解されておられるでしょうか。
田中
内閣の姿勢について、さらに強く指摘しておきたいことがございます。それは、わが党の同僚
議員によってすでに指摘されましたとおり、憲法じゅうりんを一歩進める四次防と、これと一体となった産軍癒着の災いの問題であります。
FST2改の爆撃装置に関する
政府の統一見解は、たとえこの機種がF4Eファントムより航続距離が短いとしても、「爆撃装置を持つことは平和憲法の限界を越える」と言ってきた従来の
政府見解を明らかに越えるものであり、憲法じゅうりん行為のエスカレートであります。しかも、こうした軍備強化の基礎に、軍需産業の急速な
発展があり、注文を受ける企業の都合によって、たとえばC1輸送機の値段が二倍にもはね上がり、そのために計画機数を半減するような不当な契約が公然と行なわれているのであります。私は、このような産軍結合の実態について強く警鐘を鳴らしておきたいと存じます。
問題は、
日中国交回復、南北朝鮮統一の機運、ベトナム停戦の話し合いの進行といった新たな国際情勢の展開の中で、積極的に平和の旗振りの
役割りを果たすべき
日本にとって、四次防を急いでやらねばならぬ理由がどこにもないということであります。
また、春風が吹いてあたたかくなってきたのに、なぜまたいま厚着をしなければならないのか、
国民にとっては納得のいかぬところでございます。
政府は、四次防をすみやかに中止し、十分に情勢を再検討して、
わが国の安全保障の方途を探るべきだと存じます。
なお、私は、今回の
補正予算が円対策の一環として組まれていることに言及したいと存じます。
政府は、国内の景気回復が進み、
消費者物価のみならず、卸売り物価も上昇しつつある今日、あえて大型
補正予算を組むことにより、いわゆる調整インフレ的効果を
期待しているものと考えられますが、こうしたインフレ
政策が
庶民の
生活を圧迫するものであることは、すでに指摘したとおりでございます。しかし、かかる
政策をもってしても、円の両切り上げは必至の情勢であり、中小企業や
国民生活への打撃を防ぐ事前の手だても直ちに配意すべきときだと存じます。
インフレで圧迫され、福祉は値切られ、四次防の税負担を強要され、公害で悩む
国民生活の前途は、暗たんたるものがございます。今回の
補正予算にしても、十五兆円予算構想にしても、何でも大型で、「大きいことはいいことだ」というのが田中
内閣の
財政政策の特徴のようでございますが、この大型の中身は、
国民にとっては要するにたいへん高値につくということを意味するようでございます。
私は、田中
内閣が初めて編成した今回の
補正予算が、物価、公害、社会保障、税金の諸般にわたって……