○堀昌雄君 私は、
日本社会党を代表して、
田中総理の
所信についてお尋ねをいたします。
質問はすべて
田中総理にいたします。
総理の
答弁を補足される必要があると感じられた閣僚は、補足してお答えをいただいてけっこうであります。
まず最初に、私は、昨日
田中総理がわが党の成田
委員長あるいは自民党の機内さんにお答えになった
答弁の中で、問題の点についてお尋ねをいたします。
ただいま
総理は、春日さんの質問に答えて、前言を訂正されましたが、ちょっと私は昨日の御
答弁をもう一ぺん読み上げておきたいと思います。
「百四十も国があるのです。その中で、
緊張をしておるところの国は別でございますが、全く
緊張をしておらないような平和な環境の中にある国でも、
一体どのぐらいの
国防費や
防衛費を計上しているのか。だから、
日本の
現行憲法のように全く
世界に類例のないものをつくろうという考えとか、しかも無防備中立がいいんだという前提に立っての考えとは、われわれの考えは合わないのです。どうしても合わないのです。」こういうふうにお答えになっておるわけであります。
先ほど
総理は、
憲法の平和主義を
堅持してまいりますと、こういうふうにおっしゃったわけでありますが、
一体それではあなたが最初におっしゃったことは全部お取り消しになるのかどうか、その点を
一つまず明確にしていただかなければならないと思うのであります。(
拍手)
その次に、無防備中立ということばをたいへんだびたびお使いになっておるわけでありますけれども、私どもは無防備中立などということを申したことはございません。私どもが申しておりますのは、非武装中立ということを申し上げておるわけであります。非武装中立ということがさっきの
憲法の平和主義につながっておるということを皆さんはまずお考えになる必要があるのではな
いかと思います。
私は、そこで、
総理も第九条についてお答えになっておりますけれども、重要なのは九条だけではございません。これは
憲法の前文でありますので、まず
憲法の前文を申し上げたいと思うのであります。
「
日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす恵澤を確保し、
政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が國民に存することを宣言し、この
憲法を確定する。」こういうふうにはっきりと前文で述べられておるわけであります。
さらに、「
日本國民は、恒久の平和を念願し、人間相互の
関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸國民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、壓迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會において、名譽ある地位を占めたいと思ふ。」このように前文は述べておるのであります。
そこで、まず私は
総理にお伺いをしたいのでありますけれども、専守
防衛ということは、こちらは守るだけでありますから、どこかの国が攻めてくるというのが前提でなければ、専守
防衛ということは成り立ちません。まずその点をはっきりしたいと思うのであります。
私たちの
日本を取り巻いております国は、
一つはアメリカであります。
一つはソ連邦であります。その次に韓国と朝鮮民主主義人民共和国、それから今度の中華人民共和国、こうなっておるわけであります。そこで、
台湾は御承知のように、今日
中国の領土の一部となっておるのでありますから、本来的には
中国と私どもの
関係の中で問題の起きない限り起こらないのが筋道でありますが、現在は御承知のように、アメリカがこれに武器を貸与して、そうしてアメリカが、韓国と
台湾については、その軍事的な問題についての責任を持っておるわけでありますから、もし韓国や
台湾が
日本を攻めるということは、言うならば、アメリカが
日本を攻めると同じ、同意義でありますから、私たちは、皆さんの立場から、そのようなことが考えられるとは思われないのではな
いかと思うのであります。そういたしますと、これを除外すれば、
中国とそれから北朝鮮とソ連だけが私たちを攻める可能性のある国と、こうなるのではな
いかと思うのでありますが、いまのこれらの
諸国に対して
政府がとっております
態度は、友好を進めようという
態度ではないのでありましょうか。友好を進めようとしておる国が、どうして
日本を攻めなければならないでしょうか。私たちは、論理の矛盾が皆さん方の考えの中にあるのではな
いかということを、まず明らかにしておきたいと思うのであります。(
拍手)
その次に、いまの
日本の状態を考えてみますと、われわれは、エネルギーの主要な部分であります原油をすべて国外に依存をいたしております。その他
日本のあらゆる資源について、
日本の現在の生産を維持しております原料は、ほとんどすべてを外国に依存をしておるのであります。食糧についても、小麦、大豆、油、飼料、これらの重要なものを外国に依存をしておるのでありますから、戦争というのは単に戦闘だけではなくて、これらのものが入ってこないという場合を考えるならば、われわれは、もはや戦争ができる立場に
日本は置かれていないと考えるのが正しいのではな
いかと考えるわけであります。(
拍手)戦争をもし起こすようなことがあるとするならば、それは戦闘の問題ではなくて、われわれの
生活の問題、生命が生きていくかどうかという、この問題にかかわる重大な
危機が参るのでありますから、このことを考えれば、
憲法の前文が示しておりますように、
諸国の公正に信頼し、さらに友好を続けるということの
外交の中にわれわれの
防衛があるのではな
いかと私どもは考えておるのでありますから、言うなれば、このことが私たちの非武装中立の土台をなしておるということをまず認識をしてもらいたいと思うのであります。
私は、この八月、下田における日米民間人
会議というのに出席をいたしました。そのときに、自由民主党の皆さんの同僚の田川誠一代議士が、アメリカの人たちにこういうことを申されました。いま
極東に
緊張や不安定があるとするならば、それはアメリカが
極東に軍事的な力を持っているからです、アメリカがこの
アジアから軍事的に手を引いていくならば、
アジアは直ちに平和になるだろうということを、アメリカの人たちにおっしゃいました。私は、自由民主党の中にこのようなりっぱな
考え方をおっしゃる方があるということに、心から敬意を表するとともに、(
拍手)その考えを持っていらっしゃる方が日中友好について先頭に立ってやってこられた、これらの諸般の
反省の上のお考えであるということに深く敬意を表したいと思っておるわけでございます。われわれはそういう意味では、日中問題と同じように、今日、皆さん方は、あるいは観念的だとかいろいろおっしゃっておりますけれども、やがて私は、われわれが申しております非武装中立というのが、全
国民のコンセンサスになることは間違いがないと確信をいたしておるわけでございます。(
拍手)
見解の相違は私はここでは論争をいたしませんが、以上、最初にまず、
総理が昨日お答えになりました問題について、私たちの立場を明確にいたして一おきたいと思うのであります。
二番目の問題は、
総理がおっしゃっております中に、
福祉と
成長の
関係についての問題がございます。ただいまもいろいろとお答えになりました。その
福祉と
成長の問題でありますが、ここに一橋大学の都留学長が「
田中首相に問う」という文章を書いておいでになりますが、私は、その中からちょっと引用をして申し上げたいと思うのであります。
「フランスのジスカールデスタン
蔵相は、自らが主導した去る六月の「経済と人間
社会」と題する国際
会議で、「
成長の人間化」の必要を説くと同時に、その困難を指摘し、「
成長率を一%余計に高めようとして、
社会をいらだたせ、人工的に不満をつくりだすことが正当化されるだろうか」という疑問」を呈しておられます。
また、「「
福祉が
成長を生み、
成長が
福祉を約束する」という好循環が可能となる」と
田中総理は述べられていますが、「このくだりを読んで、私は、去る六月のストックホルム
会議でヨーロッパ共同体のマンスホルトが語った言葉を想い出しました。彼は、ヨーロッパ共同体が
社会資本建設の
成長率を
GNP成長率の二倍にしようという決意を固めて、さまざまの
計画の手だてをつくしたが、やってみた結果は、どうしても前者を後者よりも高めることができなかったと言い、経済の中に仕組まれている
体制的なメカニズムの執拗さに注意を喚起したのでした。」「同じ一千億円を使って、1
社会保障の充実、2学園都市の
建設、3新技術をとり入れた生産設備の
建設を、それぞれにやった場合、一〇年程度の時間の幅で考えるなら、
GNPに及ぼす生産力効果は、3の場合」要するに生産設備の
建設が一番大きいでしょう、と都留さんは指摘をしておられるわけであります。
私も、この問題については全く同感であります。いま、
田中総理が、
成長が
福祉を生み、
福祉が
成長を生むとおっしゃいましたけれども、「
日本列島改造論」の中でいわれておりますような年率一〇%の
成長というのは、
福祉だけをやっていたり、あるいは
社会資本投資をやっていて一〇%の
成長というものは、これはたいへん困難な問題であります。当然、民間設備投資を大幅に取り入れてやることなくして、このことは不可能なのでありまして、ここに私は重要な問題が入っておると思うのであります。
そこで、これからが実は私が述べようと思っております本論でございますが、まず
総理に確認をさせていただきたいのは、「
日本列島改造論」で、「内についていえば、これまでの生産第一主義、輸出一本ヤリの
政策を改め、
国民のための
福祉を中心にすえて、
社会資本ストックの
建設、先進国なみの
社会保障水準の向上などバランスのとれた
国民経済の
成長をはかることである。」、ただいまの春日さんの御質問にも、生産第一主義をとらない、こうおっしゃっておるわけであります。そこで、これを受けて最後のほうで、「大都市や
産業が主人公の
社会ではなく、人間と太陽と緑が主人公となる“人間復権”の新しい
時代を迎えることは決して不可能ではない。」、こうお触れになっておるわけであります。
総理、これはこのとおりでございましょうか。ひとつ最初にちょっと、これだけ確認をしていただきたい。よろしゅうございますか。——まず御確認をいただきました。
そこで、私は、この
総理の御確認をもとにして、これから私の論議を進めたいと思うのであります。
私がきょう皆さんの前で申し上げたいと思いますのは、いまの世の中は資本主義の世の中といわれておるわけであります。資本主義の世の中の仕組みというのは、言うなれば、商品はもうけるためにつくられ、それを売ることも、もうけるために売られる。この場合の世の中の仕組みの中心には、利益を得ることを求めておるところの会社や工場、企業が中心にあって、私たち
国民は、それをもうけの対象として売られるという形で存在せざるを得ないのであります。私どもが願っております
社会主義の
考え方というものは、ちょっとここが違うわけでありまして、品物は
国民の必要に応じてつくられる、
国民の必要に応じて売られるというのが
基本的な
社会主義の
考え方であります。利益を求めて問題は動いていないわけであります。
そこで、いまの私たちの考えをもっと簡単に申しますならば、国がやっております仕事に、私たちの考えは多くあらわれておるわけであります。国は、御承知のように、学校をつくるのに、利益を求めて学校をつくるわけではありません。保健所をつくるのも、利益を対象でつくっておるわけではありません。
国民が必要だから学校がつくられ、保健所がつくられるわけであります。言うなれば、私たちの考えは、このような国のやっております公の部分を少しでも広げることによって、もうけを対象として
手段を選ばないいまの企業のやり方、会社のやり方に公の介入をしてまいらなければ人間中心の世の中にならないということを、私はここで申し上げておきたいわけでございます。(
拍手)
そこで、私は、こういう
考え方で、片方にはもうけのためには
手段を選ばない会社、片方には静かにしあわせを求める
国民と、二つを対置しながら、これからの問題をお尋ねをしてまいりたいと思うのであります。
そこで、まず
物価問題でありますけれども、池田
総理が、
昭和三十五年十月二十一日に、この壇上から私たちに就任初めての
所信を表明されました。その中で、「この経済の
成長は、旺盛な設備投資による企業の合理化、近代化を通じて、生産の順調な増加をもたらしますので、
物価の騰貴、通貨不安定等のインフレ的現象が生起する心配はないのであります。」と、こういうふうにはっきりとおっしゃったわけであります。いまを去ること八年前でございます。
しかし、皆さん、今日、池田さんがおっしゃったように、
物価の騰貴をしなかったでしょうか。
昭和三十五年を基準にいたしますと、今日消費者
物価は一八七・六という、約倍に近い状態になっておるわけであります。池田
総理がここでおっしゃったことは、池田
総理としてはそうするつもりはなかったでありましょう。しかし、そうなったのは何か。これは経済の仕組みがそれを今日にもたらしたわけであります。
さらに、佐藤
総理が、三十九年十一月二十一日のこの壇上で、同じく就任に際して、最初の
所信表明をなされました。「
物価問題は、
わが国経済の急速な先進国型への移行に伴い発生しました。根本的解決策は、すみやかに経済の
成長を安定基調にのせることでありますが、その過程において、農業、中小企業など、生産性の低い部門の近代化、流通機構の改善合理化をはかることが急務であります。」こうおっしゃっておるわけであります。池田
総理の当時の
高度成長に対して、佐藤さんは強い批判を持っておいでになりました。在野当時の、安定
成長をやるべきだといろ考えが、この最初の
所信表明にはっきりあらわれているわけであります。
ところが、佐藤
総理が
総理になられましてからの七年間は、実はたいへんな
高度成長をいたしまして、池田さんのときよりも高い、平均一〇・三%という
実質の
成長率になったわけであります。佐藤さん御自身が高い
成長をやろうとお考えになったわけではありません。しかし、経済の仕組みはその佐藤さんの願いを認めなかったわけであります。これが二つ目の問題であります。
さらに
物価問題について、ただいまも
田中総理がおっしゃったのは、生産性の低い農業、中小企業あるいはサービス業、これらの近代化、合理化だとおっしゃっています。ここで八年前に佐藤
総理も同じことをおっしゃっていてなお
かつ改善されていないのでは、
国民は
一体これをどう考えていいのでしょうか。私たちは、このようなことが全く空疎なことばとして
国民には聞かれているのではな
いかと、こう考えるのでありますが、
いかがでございましょうか。(
拍手)
そこで、これらの問題について考えてまいりますときに、私は、
国民が気がついておりません、重大な貨幣価値の損失問題にひとつ触れておきたいと思います。
ことしの三月の、銀行等の
国民の個人の預金は二十九兆四千億円でございます。郵便貯金が九兆五千億円、生命保険に六兆二千億、農協
関係十三兆四千億と、
国民の個人の貯蓄は五十八兆五千億円に達しております。
昭和四十六年は、一年間に消費者
物価が六・一%上がりました。
国民がこれらの貯蓄をしておりましたこの五十八兆五千億円は、一年間で六・一%分貨幣価値がなくなりました。その額は三兆三千億円に達するわけであります。一年間に、三兆三千億円、
国民一人一人が全部三万三千円ずつ、この一年間に
物価上昇のために自分たちの貯金が値打ちを失っていったわけであります。われわれが失っただけなら問題はありません。しかし、この中で銀行の預金とか生命保険に払っておりますものは全部、会社や企業が借り入れております。借りたほうはどうなるのか。借りております金額は、銀行の預金と生命保険と合わせて三十五兆円でございます。この三十五兆円の借金も、六・一%分だけ貨幣価値がなくなります。借金が減るわけです。
国民のほうの貯蓄の価値が減って、それだけ会社のほうの借金が減る。いまの
物価の上昇ということは、手を労せずして
国民から企業のほうへ金を移しかえる大きな働きをしておるわけでありますから、どうしてもわれわれはこのような
物価上昇を食いとめなければ、
国民として貯蓄をしていくわけにはまいらない、こう思うのであります。
この
物価の問題の中の重要な点は、管理価格の中に実は問題があるわけであります。本来、競争的な資本主義の状態でありますならば、生産性の低いところの商品というものは固定をして、生産性の高いところの商品は値段が下がるというのが、これが資本主義の本来の仕組みなのであります。ところが、だんだんと会社、工場は合併に合併を次いで、巨大寡占化をしてまいります。寡占化をしてくれば、そこでは話し合いによって価格が固定をしてまいりますから、生産性の高いものが実は値段を下げないで固定をして、相対的に生産性の低いものが上がっていくという、こういう形が現在の
物価上昇の新しいメカニズムになっておるわけであります。巨大な独占の企業が、このような生産性上昇分を当然
国民に、価格の上で還元すべきであるにもかかわらず、これを管理価格の形で温存をして、そうして超過利潤をあげ、その超過利潤でまた大きな設備投資をしていくという、この過程が
日本の今日の
高度成長をささえてきている。そうして同時に、
公害をもたらし、今日の通貨問題をもたらしておるわけでありますから、これらの問題については、私は、
政府はすみやかにこれらの管理価格
体制にメスを入れることなくして
物価対策を論ずることはできないと思います。
総理の
所信の中にも、この点は全然触れられておりませんので、特にこの
問題点についてのお考えを承っておきたいと思うのであります。(
拍手)
次に、
公害問題について、企業、会社の側とそれから
国民の側の立場で問題になるものを、二点だけ申し上げたいと思います。
いま私が住まっております関西では、関西新
国際空港をどうするかということが重要な
課題になっておるわけであります。神戸市をはじめといたしまして、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪市、泉南各市と、大阪湾に面しております各市は、いずれも市の議会で、この関西新
国際空港の
建設に反対の決議をいたしております。言うなれば、住民はすべて反対をしておるわけであります。ところが、賛成をしておる人たちがあります。それは神戸の商工
会議所、大阪の商工
会議所、泉南、堺等の商工
会議所に象徴される財界の方たちであります。
なぜ、住民が反対をし、財界は賛成をするのか。住民は、伊丹空港における騒音
公害がその付近住民に耐えがたい
公害の被害を与えておることに対して、十分承知をいたしておりますから、もうこのような騒音
公害はごめんだというのが、阪神間、大阪から堺に至る住民の願いであります。関西新
国際空港をつくるというのであるならば、まず先に伊丹空港の騒音問題が解決をしなければ、私たちは、これらの住民は賛成をしないと考えておるわけであります。ところが、それを無理にもつくりたいのは何か。もうけるために、利益を得るためにつくりたいというのが財界の皆さんの
考え方であります。
私は、
総理が、人間中心だ、人間復権だとおっしゃるのならば、
一体この住民の側に立たれるのか、利益を求めて空港を促進しておる財界の側に立たれるのか、この点について明確な御
答弁をいただきたいと思うのであります。(
拍手)運輸省は、十一月以降においてこの地域を決定すると申しておりますけれども、きわめて重要な問題であります。
総理のひとつ御
見解を承りたいと思うのであります。
その次に、瀬戸内海の汚染の問題でありますけれども、ことしは御承知のように、例年に類を見ない赤潮が何回も出てまいりました。赤潮の被害については、
昭和四十四年には六十七件、四十五年七十九件、四十六年百三十六件、本年は九月末ですでに百二十四件と、年を追って赤潮の
公害は瀬戸内海に広がりつつあります。この赤潮によりまして、ことしの八月には、養殖ハマチ等は七十一億円という膨大な被害を受け、漁民はその
生活を脅かされているというのが
現状でありますけれども、瀬戸内海の汚染はすみやかに処理をされなければなりません。
公害についてはいろいろと
所信でも、御
答弁でもお答えになっておりますけれども、これらの抽象的なことばでは問題は解決をいたしません。どうかひとつ十分な調査をされて、この瀬戸内海を汚染をしておる工場に対しては、操業停止を含むところの強い
姿勢で、この問題の処理をお願いしたいと思うのでありますけれども、
総理の御
見解を承りたいと思うのであります。(
拍手)
その次に、
社会保障についてお伺いをいたします。
社会保障の問題は、医療の問題と年金の問題をお伺いいたしますが、
国民の命であるとか健康というのは金では買えない問題であります。いまの世の中はすべてのものは金で買えますけれども、これは金では買えません。医療という行為を通じてのみ
国民の医療と健康は守られるのであります。
ところが、健康保険制度の問題をはじめとして、現在の
政府がとっておられます考えは財政
対策に終始をして、人間を
いかにして健康にして、そうして楽しく暮らさせるかという問題についての視点を欠いていると思うのであります。医療というものは人間を中心として考えなければならないものでありますから、どうかひとつ
田中総理はこの問題について、あるべき医療は
一体どういうものであるか、この
日本の
現状においてあるべき医療を考えるときに、
いかなる医療があるべきかということについて、きわめて専門的な分野でありますから、専門的な医師の意見を十分に取り入れられて、
ビジョンをひとつ——
日本列島改造論だけが
ビジョンではございません、人間は
いかに生きるべきかという問題も
一つの
ビジョンでありますから、これについての
ビジョンをお示しをいただきたいと思うのであります。
あわせて、私はこのいまの医療というのは、健康保険の制度によって単価とか点数は全部国がきめておるわけでありますから、言うなれば統制のワクの中に医療があるわけでありますが、その中で製薬業だけはもうけほうだいの自由な
体制がとられているわけであります。これは大きな矛盾であります。私は、もしいまのような状態を続けていくならば、当然製薬業についても公的な介入が行なわれてしかるべきではな
いかと考えるのでありまして、そのことによって初めて医療というものが全体的に
社会的なものとなると思うのであります。この問題についての
総理の御
見解を承りたいと思うのであります。
要するに、この医療の問題も、人間の問題かあるいは経済の問題かということになっておるわけでありますが、この次に申し上げます年金の問題は、
総理もすでに年金については、金額をふやそう、あるいはスライド的な発想を取り入れようという御
答弁をなすっておるわけでありますけれども、この量の問題はたいへんけっこうでありますから、ぜひやっていただきたいわけでありますが、もう
一つ重要なのは、質の問題だと思います。
私は、ここで、九月二十日の神戸地方裁判所が判決をいたしました問題を申し上げたいと思います。
母が障害
福祉年金を受けているという
理由で、母子家庭に支給されている児童扶養手当がもらえないというのは不合理であり、児童扶養手当法の併給禁止
規定は
憲法十四条に違反するという判決が、九月二十日に神戸地方裁判所で行なわれました。訴えておられましたのは、夫と離婚をされてマッサージ業をやりながら二人の子供を育てておられる全盲の、全然目の見えない堀木文子さんという御婦人であります。堀木文子さんは全盲の方でありますから、障害
福祉年金をもらっておられるのでありますけれども、むすこさんが中学生でありましたので、このむすこさんについて児童扶養手当を
福祉事務所に申請をされました。ところが、現在の児童扶養手当法第四条は、併給を禁止をいたしておりますために、
福祉事務所はこれを却下をいたしました。
そこで、堀木さんはこれを裁判所に提訴をされて、今日まで公判が続行されておったわけでありますが、九月二十日に裁判所は、この問題は
憲法十四条に違反をしておるということで、違憲判決を下しておるわけであります。ところが
政府は、これに対して、十月十一日、兵庫県を指導をして、大阪高等裁判所に上告をさせておるのであります。
私は、ちょうどこの前の
昭和四十三年八月五日の佐藤
総理に対する代表質問で、この壇上から佐藤さんに、当時問題になりました北海道の牧野さんの老齢
福祉年金におけるところの併給問題、夫婦併給問題が
東京地方裁判所で違憲の判決が下りましたので、この問題を取り上げました。そのときに佐藤
総理は、こういう答えをしておられます。「これは廃止する
方向で検討したい、かように思っております。そのとおり、ただいま言われますように、これをやめる
方向に検討するということをお約束をいたします。」と、裁判の結果が
いかようになろうともやめる
方向で検討いたしますと私に御
答弁をいただいたわけであります。
田中総理はいまの堀木裁判について、児童扶養手当と障害
福祉年金の併給について、上告をしておりますいまの厚生省の問題は別として、どのようなお答えがいただけるのか、まず承りたいのであります。(
拍手)
同時に、このことは単にこの問題の併給禁止だけの問題ではございません。現在の公的年金には数多くの併給禁止が実は法律の中に出されておるわけでありまして、現在老齢
福祉年金につきましては、四十九万五千六百件というのが併給禁止になっております。障害
福祉年金についても、二万七千五百件が併給禁止のために受け取られるべきものが受け取られていないというのが実情であります。
一体公的年金というのは何のために与えられておるのでありましょうか。この人たちが十分な
生活に対する力を持てない
社会における弱い人であるから、公の力でこれを救いたいというのが国の
考え方ではないのでしょうか。にもかかわらず、予算と財政のワクが優先をして、人間はどっかへ行ってしまって、予算がな
いから、財政がな
いから併給禁止をしようというこの考えは、
昭和三十六年に
国民年金法ができた当時ならいざ知らず、これだけの
高度成長した今日、このような
考え方が残っておることに私は重大な問題があると思うのであります。(
拍手)どうかひとつ、
田中総理は、年金の量の問題もさることながら、これらの質的な問題について、公的年金がほんとうにこれらの人々のためにある制度だということを確認をしていただきたいと思うのであります。
さらに、公的年金の中のもう
一つの問題は、実は
東京の老人ホームで起きておる問題でありますけれども、老齢
福祉年金をもらっておられる方が目が見えなくなりました。そこで、障害
福祉年金にかえてもらいたい、このほうが給付が高いわけでありますから、かえてもらいたいと申請をしましたけれども、却下をされたという問題があります。調べてみますと、障害
福祉年金というのは保険期間中に事故が起きて、そうしてその後になってでなければもらえない。いまのもらっておられる方たちは、この
国民年金法ができましたときに、強制適用除外であった五十歳から五十五歳の人あるいはそれ以上の方で当時から障害のあった者に限られておるということでありますけれども、これらの問題も、ただいまの併給禁止だけではなくて、公的年金の性格を考えるときにあらためて検討をして
いかなければならない重要な
課題だと考えております。
さらに、もう
一つつけ加えておきますけれども、寝たきり老人の援護の問題であります。現在、六十五歳以上の寝たきり老人三十五万人、一人だけの寝たきり老人、援護をする人のない老人、介護をする人のない老人が九万五千人もあります。
総理は、
所信表明の中で、寝たきり老人の援護に触れておられますが、どうかひとつ、この一人でさびしく寝ておられるお年寄りのためにまくら元に無料の電話を国の手でつけていただくわけには
いかないでしょうか。そうすれば、この人たちは不安がなくさびしさをまぎらすことができるのではな
いかと思います。現在、国は老人電話相談センターというのを四十六年度にわずか二百二十八人の方にやっておるというのでありますけれども、どうか、
成長を
福祉に還元をすると言われるのならば、この際、ひとっこれらの方たちに一年に一万個ぐらいの電話をつけて、十年
計画ぐらいで寝たきり老人のまくら元にはすべて電話があるという世の中にしていただきたいと思いますが、この提案について
総理のお考えを承りたいと思うのであります。(
拍手)
その次に、通貨問題について簡単に触れておきます。
私は、これ専門でありますが、簡単に申し上げておきますけれども、第三次円
対策で私は通貨問題は解決をすると思っておりません。そこで、最近、
政府はこの第三次円
対策の中で貿易管理令を発動するということをおきめになっておりますけれども、これはこの前、過ぐる大蔵
委員会で中曽根通産大臣にお越しいただいて論議をいたしましたけれども、これは緊急避難のための
対策でありまして、貿易管理令などというものは恒常的に使えるものではありません。
そこで、私は、もし切り上げになるならば、それだけ私たちが、いろいろと中小企業の皆さんが被害をこうむる、
国民に大きな迷惑がかかるわけでありますから、これを回避することのためには、輸出税をひとつこの際行なうべきであるということを提案をしたいわけでございます。一〇%程度の輸出税によってこれらの輸出品から国のほうに税金を取る。ただし、雑貨や繊維のような競争力の弱いものについては例外的な措置を設けて、少なくとも競争力のあるものにこれらの輸出税を取り、その輸出税をあげて
社会福祉に還元をすればいいのではないでしょうか。年間四、五千億円と予想される輸出税の収入が期待されるわけであります。これをやるならば、私はほんとうの円
対策になると考えるのでありますけれども、
総理のお考えを承りたいと思うのであります。(
拍手)
そのあとで税の問題でちょっと申し上げておきたいと思います。
ことしの
所信表明では、税の問題に一行も触れられておりません。一語も触れられておりません。
総理の頭の中には、税金の問題はどこかへ行ったのかと思うのでありますが、
国民は税金の問題には重要な関心を持っておるわけであります。
そこで、現在の税はどうなっておるかといいますと、法人税がたいへん安いわけであります。
昭和二十七年に四二%でありました法人税は、だんだんと引き下げられまして、四十一年には三五%まで下がってきたのであります。この三五%に下がったのを、たいへん景気がよくなってもなお
かつそのままになっておりましたが、私たちの強い要求に基づいて、
昭和四十五年に一・七五%引き上げて、現在法人税は三六・七五%というのが
日本の法人税であります。これは諸外国に比べて著しく安いのでありまして、アメリカは四八%、西ドイツは五一%、イギリスは四〇%、フランス五〇%と、いずれもたいへん高い法人税であります。諸外国の法人税が高
いから、向こうの
物価は高いわけです。
日本は法人税を安くして、そうしてこれらの法人、会社、企業にたいへんな恩典を与えながら、安い製品をつくらして、それで欧州やアメリカにいまなぐり込んでいるという実情でありますから、私はやはり国際的に公平な税制にすることが、いまの通貨
対策上からも、きわめて重要な問題だと考えるわけであります。
総理のお考えをまず承りたいのであります。
その次に、交際費の問題について申し上げておきますが、いま一年間に六万三千五百という個人のお仕事をしておられる商売その他の方たちが、法人に、株式会社になっておるわけであります。なぜこんなにたくさんの人が株式会社になるのでしょうか。それは法人税が安
いからです。税金が安
いからそうなるのです。
それだけではありません。いま交際費というのはどういう
規定になっておるかといいますと、租税特別措置法六十三条の五項で、「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に
関係のある者等に対する接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう。」と、こうありますから、あまり感心したものではないような感じを
国民の方々は受けられると思うのでありますけれども、この交際費が、一企業当たり四百万円、どんな会社でも無税になっているわけであります。これが実はたいへん大きな問題でありまして、あとは資本金の千分の二・五が無税でありますが、
昭和四十五年度で交際費は一兆七百一億円も使われ、そのうち無税が、七千八百二十三億円無税なのであります。これもやはりさっき申し上げました会社、法人のほうに有利であって、個人にきわめてきびしいいまの税法の
一つのあらわれだと思います。
総理は、この四百万円の問題について、これを三百万円に引き下げられる意思があるのかどうか、真剣にこの交際費
対策を講じられるのかどうかをお伺いをしておきたいと思います。
その問題のもう
一つあとに配当控除という制度があります。株式の配当だけ収入のある方を例にとってみますと、本年の税制では、三百四十三万一千六百五十二円、三百四十三万円まで収入が配当だけである人は所得税が無税であります。税金は一円もかかりません。現在四人世帯で考えてみますと、給与所得者の場合には百三万七千円が給与所得者の課税最低限であります。事業所得者の課税最低限は七十万九千八百九十六円とたいへん低いのに、なぜ配当だけの人がこんなに三百四十三万一千円も取っても無税なのでしょうか。もしこれだけ、三百四十三万一千円、月給取りがあれば、その所得税は三十一万六千八百円も取られます。さらに、事業をしておられる方ならば、四十二万八千九百五十六円も取られます。これはいまの会社に
関係のある、株を持った人たちに有利な恩典として与えられておるわけでありますが、これも会社、法人に
関係のある税制の
一つであります。私たちは、このような不公平な、税制が
国民の側にはきびしく、会社に
関係のあるものにはきわめてゆるやかになっておる実情を改めるべきだと考えるわけであります。
最後に、私は
選挙制度の
関係について申し上げておきたいと思います。
選挙制度の
関係について、昨日の新聞でございましたかも明らかにしておりますけれども、今度の
選挙の有権者を調べてみますと、兵庫五区と大阪三区との
人口比は一対五ということになってまいりました。このような
人口のアンバランスは、有権者の
選挙権に重要な
関係を持つものであります。
選挙は少なくとも民主的に公平な権利の上に立っていなければならないと思うのでありますから、すでに第六次
選挙制度審議会が
昭和四十五年五月十九日に、参議院の地方区の定数是正について答申をいたしておりますが、私はこの
選挙が終わったあとにおいては、これらの衆参の定数のアンバランス是正をひとつぜひやっていただきたいと思いますが、
総理はどのようにお考えか、お答えをいただきたいのであります。
それから、もう
一つの問題は、今日農村において、たくさんの出かせぎ人が
東京その他に来ておられます。この出かせぎの人たちに
選挙権が十分に行使されないという問題があります。今日、出かせぎの人たちは百万人をこえるわけでありますけれども、イタリアではすでにこれらの出かせぎの人たちには有給休暇と旅費を国が与えて、郷里に帰って
選挙ができる仕組みが行なわれておるわけであります。(
拍手)どうかひとつ、われわれの
日本におきましても、これらの出かせぎの人たちが、
選挙のときに一年一ぺん帰ってきて、家族が団らんの
生活の中で
選挙ができるような、このような
選挙にするということは、私は、きわめて
選挙について重大な問題だと思いますので、
総理の善処をお願いをいたしたいと思うのであります。
最後に、
政治資金の問題について申し上げたいと思うのであります。
私どもの成田
委員長も
政治資金についてお触れになりましたが、
昭和四十六年度じゅうに財界から
政治献金がどのように出たかということを具体的に申し上げますと、自由民主党に八十八億六千二百万円、各派閥に四十三億六百五十万円、個人に七十八億三千二百万円、合計二百十億五十万円が、財界から自由民主党の皆さんに届けられたと、自治省の報告は明らかにしておるわけであります。いま申し上げてきた、いまのもうけるために
手段を選ばない、節度がないためにエコノミックアニマルといわれておるこの
日本の法人企業の問題について、いま田中さんがいろいろとお考えになり、やろうとおっしゃいますけれども、いまの世の中の仕組みの中で、財界といまの
政府がどのような形にあるかということで、私は
政治の
路線はきまってくるのではな
いかと思うのであります。必要な問題について、ここで最初に私が申し上げましたように、人間と太陽と緑が主人公で、人間復権の
政治ができるというのであるならば、やはりこの
政治資金の
関係を断ち切って、自由民主党が公正な立場で、
国民の側に立って公的な介入をなさる以外には、私は、
日本列島改造をおっしゃっても、問題は本質的な解決にはならないと思うのでございます。どうかひとつ、そういう問題を含めて、
総理の御
見解をお願いをいたしまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣田中角榮君登壇〕