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参考人(久後
治之助君) 私は、大阪市で株式
会社公益社の代表として
霊柩自動車運送事業を
経営しており、全国
霊柩自動車協会の会長をつとめております久後
治之助と申します。どうぞよろしくお願いをいたします。
本日は、私
どもがかってないというところの強いショックを受けております軽自動車に関する御審議にあたり、公述の機会を与えてくださいましたことを厚く御礼を申し上げます。
まず最初に霊枢輸送と申しますものは、一生のうちにまれに
発生する運送でありますので、一般はなじみの浅い輸送であり、しかも平素はあまり口にすることを好まないタブー的なこともありますので、そっとして敬遠されるような傾向のある輸送事業であります。そこで、御承知願っておる先生方も多いと存じますが、少しこの事業のアウトラインと特異性について申し上げたいのであります。
御承知のとおり、わが国の経済は年々一〇%を上回る高度成長を遂げてまいりましたが、これに伴い貨物自動車数も飛躍的に増加してまいっておりまして、約九百万台にも達しておりますのに、私
どもの
霊柩自動車数は、本年一月現在で二千二百八十五台で、常に横ばいにひとしい状態を呈しておるのが実情であります。何としても一般貨物の場合は、原料として工場へ、工場から製品となって倉庫へ、倉庫から消費地へと、幾度か輸送されるのに霊柩、すなわち遺体におきましては、原則として自宅から火葬場へのただの一回の輸送に終わってしまいます。この
霊柩自動車運送事業の輸送件数は、御案内のとおり人口の増減並びに死亡率によって左右されるものであります。ちなみに過去十年間における人口の増加状況と死亡率の推移をみてみますると、次のとおりでございます。すなわち
昭和三十五年九千三百四十一万八千人、死亡者数七十万六千、死亡率〇・七六%。
昭和四十年九千八百二十七万四千人、死亡者七十万人、〇・七〇%。
昭和四十五年一億三百七十二万人、七十一万人の死亡者数でございます。
以上の数字は国勢
調査の結果によるものでありますが、過去十年間を通じて、わが国の人口は、年間平均一%程度の増加にとどまっております。また死亡率のほうも、日本人の平均寿命が伸びている
関係な
どもございまして、逐年死亡率はわずかずつではありますが減少しております。大ざっぱに申しますると、大体千人に七人弱といったところでございます。ごく最近の例で申しますと、
昭和四十六年中の死亡者数は約七十二万人ですが、この中には乳幼児も含まれておりますし、地方によってはいまだに土葬の習慣が残っているところもございますので、正味霊柩車の輸送対象となるのは、全死亡件数の七〇%程度でございます。たいへん長々とこまかしい数字を並べたてて恐縮でございますが、私
どもの霊柩事業は一般トラック事業などに比べますと、きわめて輸送需要の乏しい、しかもあまり伸びる余地のない事業であるという点を、何とぞ御理解いただきたいのでございます。したがいまして、霊柩事業者は、ことし七月現在で民営七百七十四、公営三百八十九、合計千百六十三でありまして、その保有車数は二千二百八十五台であり、一事業者当たり一・九台という計算になり、全体の六〇%は一台持ちでございまして、大都市を除き全般にきわめて零細企業者のみであります。なお、霊柩車一台当たりの輸送距離は、都市部と地方部とでは若干の差異はありますが、平均いたしますると一回当たり十二、三キロどまりで、これ以上の輸送はこの事業の性格上走る必要がないわけであります。輸送回数も一台当たり月間二十回程度にとどまりまして、稼働率は全般に五〇%にも満たない現状であります。
私
どもの
霊柩自動車運送事業が、以上御
説明申し上げましたように、数々の特異性を持っている点につきましては、
運輸省御当局におかれましても、従来から十分御理解をいただいておりますし、行政面でも、一般の区域トラック事業と同列に扱うべきでないという
考え方に立って、いろいろと御
指導を賜わってまいりました。
運輸省御当局がこれまで霊柩事業をどういうふうに見てこられたかということを御理解いただくために、去る四十五年六月十五日付で自動車局長が地方陸運局長あてにお出しになった依命
通達がございますので、その原文の一部を読ましていただきます。
「貨物自動車運送事業の免許及び認可申請等の処理について」という表題ですが、この中で次のような一節がございます。「一般区域貨物自動車運送事業及び一般小型貨物自動車運送事業、路線事業以外の事業(特定事業および霊柩事業を除く)」途中でございますが、実はこのカッコを設けていただいた点が重要なところでございます。続けさしていただきます。「(特定事業および霊柩事業を除く)については、現在の
段階で特に新規免許を抑制する必要性は認められず、できる限り競争原理を導入することが利用者へのサービス向上からみて効果的であると
考えられる。したがって今後は、不況期等の特別の場合を除いては、免許処理を促進することによって当該申請地区での需給
関係が著るしく影響されるものでないと
考えてよい」という一節がございます。
実はこの
通達を契機としまして、一般のトラック事業に対する従来の免許や認可に関する方針が、大きく軌道修正されることになったわけでございますが、私
ども霊柩事業については、一般の、トラック事業と同じ軌道修正はなさらずに、従来通り、免許は厳密に、事業規模は一般区域トラックの公示車両数に満たなくてもよいという特別の取り扱いが残されたわけでございます。このことは、
先ほど私がるる御
説明申し上げました霊柩事業の特異性と、この事業の持つ公共的使命の重大さというものを、
運輸省御当局が的確に御判断いただいた結果であると私
どもは確信し、深く感謝申し上げております。
私
どもといたしましては、こうした御当局の適正な
指導方針を体しまして、かりにも免許事業としての体面を汚したり、法規に反して一般利用者各位に御迷惑をかけるようなことのないように、全国の事業者が機会あるごとに自重自戒を申し合わせてまいりました。また、何分にも大部分が零細な事業者の集団でございますので、
経営の合理化、近代化をはかることは非常にむずかしい
仕事ではございますが、各地域ブロックを中心としまして、全国一丸とした、全国
霊柩自動車事業協同組合を民営業者で結成し、資材車両等の共同購入や金融のあっせん、利用者に対するサービスの講習会、運転無
事故運動など、およそ手のつけられる事業については、きわめて意欲的に取り組んでまいった次第でございます。
このような状況のもとで、私
ども霊柩事業者は、今日まで地域社会への奉仕をモットーにいたしまして、ひたすら誠実にこのささやかな事業を守ってまいりましたが、昨年の通常国会で道路運送法の第二条が一部改正になり、昨年十二月一日より
実施されましたが、これによりまして、軽トラックによる事業の営業免許は撤廃されました結果、全国各地に相次いで軽トラックによる野放し霊柩車が出現し、まことに憂慮すべき事態が
発生しております。その実態につきましては、目下詳細な
調査を進めておりますが、今日までに判明したところだけでも、それぞれディーラーへの発注を含めますと、
九州地区百二十台、しかし、けさの
報告で百六十一台が実動車であるという
報告を受けております。北海道地区百三十九台、中部地区百三十五台、近畿地区二十五台と、すでに四百台をこえる車両が
確認されております。
全国の霊柩車の総数は、
先ほど申し上げましたように二千二百八十五台でございますが、すでに二〇%に近い無免許霊柩車が、
先ほど申し上げました四地区を中心に横行し、横行しようとしているわけでございます。しかもこれらの車は、マツダ、三菱、ダイハツの自動車メーカーが、それぞれの系列に、販売店がキャラバンを組み躍起になって売り込みを策しておりますので、将来ますます増加していくだろうと予想されます。このような現象は、平均一台程度の霊柩車をもって細々と営業を続けております免許業者にとりましては、まことに重大なるショックでございます。ことに普及の早かった
九州地区におきましては、前年に比べて二〇%から多いところでは六〇%も
仕事が減って、壊滅的な打撃を受けておるような実情でございます。まことにゆゆしい問題といわねばなりません。
およそ利用者の利便、公共の福祉が何よりも優先する昨今の社会風潮に照らしまして、私
どものことは二の次といたしましても、わずかの間に、多くの利用者を相手にさまざまな弊害をもたらしておるようでございます。すなわち、この事業の運賃は認可を受ける必要がありませんので、事業者の意のままに要求し、利用者はこれに服しておるのが実情でございまして、
九州の宮崎地区では、私
どもの認可によりますと、普通車で標準運賃二千六百円のところを、何とか
理由づけをしておりますが、二万五千円という破天荒な金額をぼったくられている事実がございます。さらに運転保安の面から申しますと、無理な設計によるものか、五月二十三日宮崎県日南市で転落
事故を起こしておるのを、幸い通りかかった霊柩の免許事業者が助けておりますし、七月七日には宮崎県諸方郡で、火葬場で一時間もドアが開かないで困ったという話でございます。
これらの詳細については、もっと
調査を進めるつもりでございますが、私
どもが最も危惧しておりますのは、こうした野放しグループの雲助行為が、霊柩事業者全体に対する社会的信用を失墜し、ひいては免許事業者本来の使命にもとるような公害を、全国に流布する危険性が多分にあるという点でございます。これら軽車両運送事業者も、道路運送法第三十条による「輸送の安全」及び同法第三十二条「公衆の利便を阻害する行為の禁止等」については、これを順守しなければならないのに、おそらくは、この人たちは道路運送法の何たるやも知らずに無法営業を続けており、おそらく道路運送法は「あっしにはかかわりのねえことでござんす」とでも
考えておることでございましょう。かような状態では、施主の足元につけこんで不当な料金をぼったくるケースが、将来ますますふえていくだろうと思われます。いまにして、これら無法のグループに対する対策を講じない限り、やがて数々の弊害が常習化し、私
どもが過去半世紀にわたって、営々として築いてまいりました順法精神とよき慣行が、根底からくつがえされるおそれがございます。
この軽自動車による霊柩車は、
九州地区において
発生したものでありますが、これに驚いた
九州ブロックにおいては福岡陸運局に、また
運輸省自動車局に陳情し、これが善処方を要請してまいりました。さらに何回も御当局に陳情を続けておりますが、去る五月十一日に、私
どもの全国事業者大会の席上、来賓として
出席された
小林業務部長さん、現在の局長さんは、当局でも対策を
考えるから業者も対策
委員会をつくるようにという御慫慂をいただきました。続いて
九州ブロックの代表が当時の
野村自動車局長に陳情した際にも、必ず歯どめをするという力強い確約をいただきました。にもかかわらず、今日に至るまで何ら適切な処置を講じていただけないのはまことに残念でございます。繰り返し申し上げますが、この問題は、単にわれわれ霊柩業界の浮沈にかかわる問題だけではなく、一般市民の生活にも新しい公害の種を内臓しており、いまにして適切なる対策を講じない限り、利用者各層にさまざまな弊害をもたらすことが憂慮されます。道路運送法第一条の精神に照らしましても、運送業者は利用者の利便を確保し、公共の福祉を確保することが至上命令であることは申すまでもないところでございます。
仄聞いたしますると、
運輸省の幹部間でも、今日のような軽車両による霊柩車の蔓延ぶりについては、夢にも予想しなかったという感じを漏らしておられるようでございますが、私
ども業界にとりましても全く同感でございまして、まさに晴天のへきれきとも申すべき事態に驚いております。しかしながら、事は早急に具体策を必要としますので、何とぞ事情御賢察をいただいて、一日も早く抜本的な対策を
実施くださるよう、切にお願い申し上げる次第でございます。
なお、せっかくの機会でございますので、御列席の皆さまの御高配を切望することについてつけ加えさせていただきたいのでございます。
御案内のとおり、民法の思想は人とものとに区別されている
関係から、道路運送法では、尊厳なる遺体も一個のものとして一般貨物の範疇に入れられておりますが、私
どもといたしましては、その持つ特殊性から、宿がえの荷物やくず鉄と同列にみなされていることに対し義憤を感ずるものでありまして、道路運送法の公布以来、この霊柩輸送事業を貨物自動車運送事業より独立して、旅客自動車運送事業、
霊柩自動車運送事業の三本立てにしていただき、この霊柩業種にふわさしい形の法的処置をいただくよう繰り返して陳情してまいっております。どうぞこの事業の輸送対象が、遺体であるという特殊性と公共性を御参酌くださいまして、私
どもの宿願である霊柩事業という事業種別を法制化してくださるように、衷心よりお願いいたします。
たいへん長い間公述いたしましたが、以上申し上げました数々に対して、諸先生並びに御当局の方々の御賢察を賜わりますよう、重ねてお願いいたしまして私の公述を終わることにいたします。ほんとうにありがとうございました。