○矢山有作君 私は、
日本社会党を代表して、
昭和四十七年度予算三案に対し、とうてい受け入れることができない
理由を明らかにし、
反対討論を行なうものであります。
昭和四十七年度予算に
反対する
理由を申し述べます前に、それ以前の問題として強く指摘したいことは、
政府の基本姿勢が根本的に間違っているということであります。
沖繩返還協定の
内容について、国会、
国民にうそをついた事実、
政府の都合の悪いことは、すべて秘密のベールのもとに真実をおおい隠そうとする態度、国防、外交に関する基本問題について、
国民を欺瞞する数々の言動など、国政の基本にかかわる重大問題について、
政府は許すべからざるあやまちを犯していることであります。
さて、
反対の第一点は、
政府が持つ予算編成権をみずから踏みにじって恥じない態度についてであります。そもそも予算案を一たん国会に提出しておきながら、
政府修正を余儀なくされ、あまつさえ長期にわたり国会審議を空転させ、暫定予算を組まざるを得なくなったこと自体、大きな失態でありますが、追及さるべきはその奥にひそむもっと大きな
政府の基本的な態度の誤りであります。すなわち平和憲法をじゅうりんし、
自衛隊を本格的な軍隊に仕上げるという、
軍国主義復活への佐藤内閣の意図が明らかになった四次防予算の先取りは、文民統制を空文と化し、軍事大国への危険な一里塚であるということを指摘せざるを得ません。
反対の第二点は、発想の転換とはほど遠い、現実と遊離した予算案であるということであります。
政府は、この予算案は七〇年代の激動する国際環境に対処する基本的なあり方や、体質が変化した
日本経済のかじとりという二点について、正しい認識と十分な政策の選択が行なわれていないということであります。
政府は、口先では発想の転換とか、政策の軌道修正とか言いながら、でき上がった予算案は、予算規模ばかりいたずらに膨張し、中身は旧態依然として総花的で、当然増経費のみが大きくなり、新規施策費は片すみに追いやられている結果になっているのであります。一体、産業優先、高度成長第一主義を反省し、
国民の福祉を重視するという軌道修正の四十七年度予算は、その重点転換がどこに見られるのでありましょうか。国際通貨不安の中で、三百八円経済の構造改革をどう進めていくか、公債の増発とインフレ抑制の方途、過剰外貨の累積に対する輸出産業のあり方、福祉水準の向上目標、危機に瀕する農村を救う農業政策の
方向、国鉄や医療制度の根本的解決策、地方財政に対する抜本的な財源措置など、転換すべき発想、修正さるべき軌道が予算案には一向に見当たらないのであります。いかに政権末期の予算案とはいえ、政策に総合性がなく、公害や物価対策に見るごとく、行政の怠慢とあと追い政策が異常にはんらんし、新しい時代に即応する政策の選択もなく、ただ
一つ、政策の先取りといえば、軍事大国を指向する四次防先取りのみといった、今日のわが国の現実とは遊離した
国民不在の予算案と言うべきであります。
反対の第三点は、政策の一貫性が予算に反映されていないことであります。
政府説明によれば、
昭和四十七年度予算は
国民福祉の充実と景気浮揚の二本柱で構成されていると言いますが、そのいずれの面も不備、不徹底であり、斉合性が認められないのであります。不況だから公共事業費を増額するという、従来の政策の繰り返しだけが見受けられるのであります。これでは、
政府がいかに社会資本のおくれを取り戻し、福祉社会建設への第一歩を踏み出したと宣伝しても、
国民の側からすれば、文字どおりに信用することはできないのであります。高度成長のひずみを是正し、安定成長に軌道修正すると言いながら、税制や財政投融資を通じて、依然大企業優先の高度成長を夢み、あくまで輸出増進に大きな期待をかけていることは明らかであり、円の再切り上げを防ぐため八
項目の実施を約束しておきながら、実績は遅々として進まず、これまた大企業や金融圧力に屈して、産業救済的な面のみが強く前面に押し出されているのであります。その他、蓄積外貨の取りくずしと活用方法、輸入自由化と物価抑制、環境保全と公害対策、住宅政策と土地対策等々、
国民生活に深く関係するものについて、政策の一貫性が見られないのが現実の姿であります。そのほか、
一般会計予算の隠れみのとして財政投融資計画を安易に利用する旧態依然たる態度、地方財政の窮乏化に拍車をかける
政府の強引な施策など、国の予算全体に対する一貫性のなさは至るところで指摘できるのであります。
反対の第四点は、四十七年度予算が福祉型予算と特色づけるにはあまりにも羊頭狗肉であるということであります。四十七年度予算は、福祉重点が大きな柱であるとされておりますが、福祉の増大そのものが経済成長につながる体質に変化しているという基本認識に欠け、したがって、福祉型予算であることを具体的に証明する根拠はきわめて少ないのであります。四十七年度の社会保障関係費は、前年に比べて二二・一%の伸びで、これは
一般会計予算の伸び二一・八%とほとんど同じで、特にこの面に財源配分を厚くしているとは言えません。福祉を重視するというからには、予算に占める構成比を高めることがいま
一つ大切なことであります。しかるに、四十七年度の社会保障関係費の構成比は一四・三%で、四十六年度予算と同じ割合であり、しかも、四十年代を通じてこの構成比はほとんど変わっておりません。福祉優先に財政構造が転換されたあとは見当たらないのであります。また、公共事業関係費におきましても、総額で二九%伸びており、構成比は一八・七%を占めておりますが、中身を見ると、依然として道路、港湾など、産業基盤整備のための投資に重点が置かれており、生活環境施設整備費は、道路整備費のわずか六分の一といったありさまで、とても生活優先という看板にふさわしいものではないと言わざるを得ません。防衛計画や公共事業は長期計画を立てて強引に遂行しようとするのに、
国民福祉や社会保障に関しては長期計画もなければ、到達目標も示さず、国際水準に比べてはなはだしく劣る福祉水準が一体いつ西欧並みになるのか、
国民が一番知りたいことには何の
政府回答もないのであります。独占企業の管理価格、
政府主導の公共料金引き上げなど、物価上昇を放置しておいて、社会保障の面におけるわずかばかりの改善、金額の多少の上積みをもって福祉型予算と称することは、まことにもって僭越不当と言わなければなりません。人間尊重を公約し、老人対策を重視すると宣伝している
政府にとって、六十歳以上の老人が年間三千人以上が家出をし、五千人以上も自殺をするという悲しむべき現実に対し、何と説明するか聞きたいものであります。乱立している社会保障制度を改める抜本的な対策も示すことなく、年金のスライド制や、積み立て方式から付加方式への移行策すら明示できず、相変わらず福祉行政を地方自治体におぶさっている
政府が、何をもって
国民福祉重視の予算案といえましょうか。制度ばかりつくって
内容の伴わない全く羊頭狗肉の福祉型予算と言うべきであります。
反対の第五点は、四十七年度予算のいま
一つの大きな柱である景気対策について本筋があやまっているということであります。
政府は、不況克服のきめ手として巨額の公債を発行し、公共事業を拡大しようとしておりますが、その多くが土地代に食われ、土地成金をつくり、不動産業者をふとらせ、庶民には土地値上がりを通ずる物価高を押しつける結果を招いております。さらに、公共投資により直接景気を刺激する効果にはタイムラグが避けられず、また産業の分野が限られており、その受け入れ体制にも問題があるばかりか、
政府の事務的非能率も手伝って景気対策の効果が減殺されていることも見のがせないのであります。昨年度の補正予算で公共事業費は大幅に追加され、支出の促進がはかられたのでありますが、土地の取得難や、値上がり、設計能力の不足、行政事務の繁雑さ、非能率によって四十六年度の年度内消化は不可能だったのであります。その上、四十七年度予算は、
政府の四次防予算の先取りという、全く違法不当な
行為によって暫定予算に追い込まれ、公共投資の支出はおくれがちとなり、景気浮揚の芽を
政府みずからがつみ取る結果となっているのであります。また今日では、公共投資により需要拡大がはかられる分野は、土木、建築関連産業でその効果は限られており、しかも不況が深刻化している化学、機械などの産業分野にはほとんど公共事業拡大の効果は及ばないのであります。公共事業費の拡大、支出促進が景気刺激の万能薬でないことは明らかなのであります。このような状況下におきましては、公共投資のほかに、何よりもまず有効需要を拡大する最有力手段として大幅な減税が必要であることは言うまでもありません。所得税減税により個人消費を増進させることこそ景気浮揚ばかりでなく、経済成長を適正化し、
国民福祉の向上につながる、まさに発想の転換にふさわしい基本政策であるといえるのであります。しかるに
政府は、四十六年度補正による所得税減税を
理由に、四十七年度税制改正ではこれを見送り、物価調整減税すら認めない態度をとっているのであります。そればかりか、高福祉、高負担という名目のもとに増税の必要性を強調し、四十八年度の増税を打ち出していることは納得がいかないところであります。
これを要するに、
昭和四十七年度予算案は、
国民福祉を充実するものでもなければ、
国民の側に立って不況を克服することに役立つものでもありません。それどころか、財政を長期にわたって拘束する膨大な軍事費を、国会の審議のらち外できめて、無理やり予算に盛り込もうとするとともに、大企業の保護、優先の考えが貫かれ、
国民に公害と物価高を押しつけ、豊かな人間味のある生活とは、正
反対の
方向に持っていく危険きわまりない予算案であります。このような満身創痍の予算には、
日本社会党を代表して断固
反対するものであります。(拍手)