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国務大臣(大石武一君) いまお尋ねがございましたので、無過失責任制度と自然環境保護法案の内容について
お話しを申し上げたいと思います。
無過失責任制度につきましては、去る三月二十二日に
衆議院に提案をいたしました。いずれ近く御審議を賜わることになっております。これはいろいろと世間ではうわさ、
批判がございますけれ
ども、この国会に提案した案そのものが環境庁の
最後の決定的な案でございます。もちろん、われわれは、このような案に落ちつくまでの間にいろいろな過程がございまして、あるいは一部われわれの
考え方が
新聞紙にも出まして、いろいろ御
批判を賜わったことがございます。おそらく、そのうちで、われわれは因果
関係の推定という条項を初め考えておりましたが、これを最終案には取っております。そのことにつきまして骨抜きであるということの御
批判が出ているのだろうと私は思うのでございます。御承知のように、この無過失責任の
法律案は三年ごしの内閣の公約でございます。ようやく今回できたわけでございますが、どんなことがあっても一番大事なことは、このような新しい思想、行政も、ものの
考え方をやはりここで確立することが一番大事であると存じます。同時に、それが被害者の救済並びに公害の防止に役立つというものであることが望ましいのでございます。私は、その二つを中心として考えました。何としてもこの思想を確立しなければならぬ。同時に、内閣が、直接患者、被害者の擁護なりあるいは公害の防止に役立つということは、結局は、一番大事なことは、いわゆる複合汚染の状態を持つ物質を確実にこれをとらえることでございます。そういう
意味で、われわれは、硫黄酸化物、粉じん、あるいは窒素酸化物のようないわゆる複合汚染の状態を持つものをまっ先にとらえまして、それをその
対象にしたわけでございます。同時に、われわれは、まずこの適用を人間の健康被害のみにとどめました。それは、きのうの午後の
委員会における
答弁でも申し上げましたように、将来はいろいろな大きなやはり総合的なものを考えなければなりません。近い将来には必ず生業を中心とする財産の補償、賠償についても考えなければならぬ、必ずそういう事態になると思います。しかし、まずこの思想を打ち立てることが一番大事だと考えました。そして、きのう申し上げましたように、これは要するに民法の大きな例外でございますので、まず
法律的には間違いのないものであるということ、そういうことを中心に考えまして、明確な
範囲内に限定したわけでございます。その結果が、
お話しのとおりの水質汚濁防止法と大気汚染防止法の二つの改正の内容にとどまったと私は考えておりますが、財産にまで入りますと、これは非常な大きな法案になります。また、それに対しては、まだまだ財産の補償につきましては不確定なものがたくさんございます。赤潮にしましても、まだ必ずしもその因果
関係が完全に究明されておりません。こういうことを考えますと、まずこの
考え方を行政に打ち立てることが大事であるという前提が、大きな法案を考えましてはとうていこの国会に間に合いません。そういう
意味で、とりあえずこの思想の橋頭保田を築こうという
考え方から、このようなある程度の内容に限定したわけでございます。
ただ、この場合に、因果
関係の推定でございますが、これは、御承知のように、公害というものはあらゆる千枝万葉の様態を持つものでございます。したがいまして、公害のすべてを包含するような一般的な因果
関係の推定は、これはつくることがほとんど困難でございます。そういう
意味で、私
どもは、因果
関係の推定というのは、ある
一つの型にかけた狭い
範囲のものだけを考えておったわけでございます。たとえて申しますと、いま煙突からいろいろな煙が出て硫黄酸化物その他が出る、この出ることは事実でございます。その硫黄酸化物によってぜんそく等の公害病が発生することもこれはわかっております。同時に、その
範囲内に患者がおります。まあ公害病、ぜんそく患者がおります。この患者がぜんそく病であることは間違いございません。それも、その硫黄酸化物の影響によって引き起こされたと、これもはっきりわかっております。ただ、わからないのは、その煙突からその煙が出て、それがその患者に到達するまでのいわゆる汚染経路でございます。これを間違いなくその煙突から出た煙によってこのようにこの病気が発生したんだという因果
関係の証明を患者に求めることはまずむずかしいのでございますので、それは当然、その分をわれわれは推定のきめで持っていこう、そのような
範囲をわれわれは考えておったわけでございます。ところが、そのようなことは、その後このわれわれの
考え方が公表されますると、いろいろな御
批判がございました。いろいろな各界に不安もございました。そういうものを総合いたしまして、これは何と申しましても、やはり政治というものは
国民の中に不安を与えるものではいけないとも考えました。また、同時に、現在の判例におきましては、その程度の因果
関係の推定はすでに判例がございまして、いまの裁判ではそれは必ずしも必要ではないという御判断がございました。それは、法務省の御
見解でも、そのとおりでございます。さらに、もしわれわれ考えます場合に、いまわれわれが因果
関係推定を考えておりますが、さらにそれを上回るようなすばらしいものの
考え方、判断のしかたが出るかもしれません。そうなりますと、われわれのこの推定の条項というものは、むしろ新しい考えの足を引っぱることになる可能性もございます。また、このような推定の条項ができ上がりますと、これは次第に一人歩きをいたしまして、千枝万葉の態様を持つ公害の中にどのような方面にまで拡大発展してまいるかわかりません。非常な不安がございます。そのような各界のいろいろな方々の御
意見がございましたので、これはやはり削っても被害者の擁護には十分に役立つと、こういうことを考えまして、いま一応これは削除したのでございます。
そういうことで、私は決して骨抜きではないと思います。この
法律を橋頭堡として今後ともこれを総合的なものに進めてまいれば、必ずや私は被害者の十分な擁護にもなり、あるいは公害の防止にも役立ち得るものと確信いたしておるわけでございます。
それから自然環境保全法でございますが、これは、お説のとおり、現在その法案の作成中でございます。そして、いま一番ぶつかっておりますのは、林野庁との
見解の見方の間に多少
相違がございますので、いまその
意見の調整をいたしておる段階でございます。いずれ数日中には調整ができると思いますので、できましたならば、できるだけ早く提案をいたしたいと願っている次第でございます。その内容につきましては、自然保護基本法と申しますか、基本的な自然保護に関するわれわれの
考え方なり心がまえ、そういうものを一応盛り込んでおりますが、さらに、われわれの自然を何とかしてりっぱに保全したいと考える
考え方をいろいろ段階に分けまして、たとえば原生保存地区というような、ほとんど人為的な手を加えないで——へたに手を加えれば滅んでしまうような弱い自然でございますから、そのような地域は、手を加えないで保存をする。その他、いわゆる自然良好保存地区と申しますか、われわれが十分に自然の保護をしながらそれをわれわれの生活に利用活用していくような、自然のあり方を段階的に応じましてそのような地区をきめていく。それからさらに、各県におきましては、いま自然保護条例をつくりましていろいろと心こまかい自然の保護をやっておりますが、これには法的な根拠がございませんので、これに対してもそのよりどころを与えてあげるというようなことも考えておる次第でございます。いずれにしても、近く調整ができると考えておりますので、いずれ皆さまの御
批判を仰ぐことになりますが、まあよろしくお願いを申し上げたいのでございます。