○
松永忠二君 私は、
日本社会党を
代表し、ただいま
議題となりました
昭和四十七年度
予算三案に
反対いたします。
いま、
佐藤内閣に抱いている
国民の
不信感は、言うこととすることが一致しないのみでなく、言っていることとやっていることと全く違うということであります。
社会党が公表した愛知・
マイヤー会談に関する
極秘電報の
内容は、われわれの視線をさえぎった
外交折衝の場で、
政府の
公式言明とは全く違う、まさかと思っていたようなやりとりが現実に行なわれていた事実を暴露しました。こうなりますと、
日米繊維交渉にも、第四次
防先取りも、
国民の知らないところで
密約が行なわれたのではないかという疑念の生ずるのは当然のことであります。
佐藤総理はさきの
臨時国会で、戦後
体制の
ワクの中で処理し切れない
国際の諸問題が生じていると述べ、本
国会でも、
世界情勢が激動し、
わが国の
国際環境がきびしさを加えていることを指摘し、いまこそ発想の転換を
行動に移すべきときであると述べています。まさにそのとおりであります。しかし、それがことばだけの
政治に終わっており、事実によって示されていないのであります。
米国との
関係は他のいかなる国との
関係にも増して重要であると強調されても、アジアの平和と安定と繁栄に貢献できる
役割りを果たすために、朝鮮
民主主義人民共和国、
中国、
北ベトナムとの新しい
外交の転回はどこにも認められません。
日米安保
体制と
国民の国を守る気概が強調され、四次防の実施を急ぐだけで、
国際的通念となりつつある
日本軍国主義化をどう打破し、非軍事的な新しい
安全保障の
方法について多角的な提案と論議をしようとはしません。新しい
国際通貨体制、
貿易の新秩序、高
福祉国家への軌道設定が強調されますが、事実は、
外貨準備高は増加をして円再
切り上げにおびえていますし、
長期的な展望と具体的な
施策に欠く
福祉政策は、
不況回復の遅延から再び産業優先へ逆戻りする危惧をぬぐうことはできません。
しかも問題は、その発想の転換がショックという外圧によってもたらされ、自主的な判断で行なわれていないことであります。
国際経済社会でも「外圧によってしか変わらない
日本、多圧を加えさえすれば変わる
日本」という陰口がたたかれるようになりました。しかも、四次防問題に始まる諸問題による
国会の空転混乱は目をおおうものがあります。まことに佐藤政権の末期現象であり、保守
長期政権の退廃であります。
外交、経済とも歴史的転換に直面しているとき、国内
政治の不毛に
国民は焦慮を感じておりますし、
政治不信はますます増大されつつあります。
佐藤内閣の
責任、自民党の
責任は甚大と言わなければなりません。(
拍手)
佐藤首相は、政権を担当した最初の
国会で「
国民の一人一人が新しい内閣に何を求めているか、時代が要求するものは何か、これを正しく把握し、それを愛情と
理解をもって実践に移してゆくことこそ、
政府の課題であり、
政治の根幹であると思います。」特に内政問題については「私は、人間尊重の
政治を実現するため、
社会開発を推し進めることを
政策の
基調といたします。」と述べました。七年有余を経た今
国会で首相の口から「いまこそ、発想の転換を
行動に移すべきときであります。
社会開発への前進をはかり、人間性豊かな社会をつくることは、私のみならず、全
国民の願いである」となぜ再び述べなければならないのでしょうか。首相の演説や
国会の
答弁の中には、みずからの
政治がどういう目標で発足し、いまこの目標にどこまで迫ったか、目標への達成を妨げた要因は何かを率直に反省し、これを次の時代にバトンタッチするという展望に欠けていると言わなければなりません。予想をはるかに越えた高度経済
成長のもとで、人間尊重の
政治を実現するための
社会開発や豊かな生活がなぜ実現しなかったのか。それは、
福祉水準が
所得水準に比例してふえるには一定の
制度的な条件が必要であり、思想的な転換が必要であるということを証明しているのであります。経済社会発展
計画に大きな食い違いが生じたのは、
昭和四十一年から四年間にわたって民間企業設備投資が年率二五%から三〇%の
成長を遂げたのにかかわらず、これを減速しようという有効な
政策がとられなかったからであります。しかも、低い
政府の固定資本形成さえ産業優先の姿が変更されませんでした。
社会保障についても、
昭和四十年まで若干の進展があったが、その後は停滞ぎみで、その
実質はむしろ後退ぎみだと
社会保障制度審議会が指摘しているのであります。また、
社会開発が自力建設にまかされ、
社会資本の供給を独立採算の公共企業、公営企業によって行なったり、その
財源を
受益者負担でまかなう
政府の企業化の傾向が中央地方とも著しくなってきました。
また、民間資本投資は過剰で、かつ地域配分も無
計画であるため、公共投資の不足が異常に表面化し、
公害、交通、都市問題、地価
上昇などの深刻な難問題が次々に起こってきたのであります。
こうした結果に終わった
社会開発、人間尊重の
施策の
現状を直視し、この上に立った反省の
施策が本年度
予算にどうあらわれているかの問題であります。
政府は
公共事業関係費二兆一千四百八十五億円、特に上
下水道、公園、
廃棄物処理施設の
生活環境施設の
整備には前年度当初
予算より五八・九%多い
予算を組み、
都市公園、
廃棄物処理施設についても五カ年
計画を策定したことを強調しています。また、
公害対策予算千六百五十四億円、財投二千六百三十八億円、
住宅対策にも一般会計、財投
計画で一兆円を計上したと述べています。しかし、
公共事業関係費の構成は、道路
整備、港湾、漁港、空港に四八・三%の
予算が組まれているのに、
住宅対策、
生活環境施設
整備に一三・五%が組まれているのみで、資源配分の転換などと言える性質のものではありません。ごみ処理施設
整備費補助が五十一億九千万円と約三倍になったと言っていますけれども、東京都のごみ
対策費は六百八十九億円であることと比較すれば、国の
努力の乏しさを知ることができます。
公害対策の五八・九%を占める
下水道整備をそっくりそのまま
公害対策費に入れることにも疑問があります。
老人
医療の
無料化と老齢
年金三千三百円は
社会保障関係の目玉商品であります。しかし、老人
医療無料化は、多数の市町村及び三十七都道府県がすでに実施済みのことを国がやっと実行したにすぎません。せめて
福祉予算というなら、野党
修正にもあるように、老齢
年金を五千円まで
引き上げなくては
福祉予算の看板が泣くというものであります。高
福祉政策を実現するのには、
政府経常支出を
国際水準並みにするため、現在より四%から五%高めるとか、個人への移転支出を八%程度にするとか、
国民所得の一五%を
社会保障に充てるとか、最も根幹的な
方針を確立することが大切であります。
近く策定をされる新経済
計画は、
国民福祉のための重要な、さまざまな分野について達成すべき目標をできるだけ数量化して明示するし、これらの目標を達成するための必要な
計画期間中の
政府支出額をできるだけ詳細に推計するとともに、この
財政支出
計画に対応する収入調達
計画も具体的に明らかにする必要があります。しかも、これらの
計画は、予想されなかった条件の
変化に対応できるよう、一年あるいは二年ごとに改定延長作業を定期的に行なうとともに、各年度
予算と経済
計画との間に緊密なつながりが確保されなければなりません。かくて初めて高
福祉政策は定着し、
政策の転換が具体化されるのであります。
ここで特に強調したいことは、
福祉政策システムを実施するために、財界の絶大な
政治的発言を抑制しなければならないという点であります。そして、各種審議会の人選が改められ、天下りの
福祉ではなく、
国民との対話を重視する経済
計画策定の方式が採用されることが重要であろうと思うのであります。
福祉国家における
財政の特色を膨張ということばであらわす人もあります。
政府は、景気回復と
国民福祉向上の二つの
目的を達成するため、一般会計に十一兆四千億円余、財投
計画に五兆六千億余を計上し、その
財源を得るために一兆九千五百億の国債、四千億の
政府保証債を発行することになりました。また、地方債は一兆七千二百七十八億円であります。国債と
政府保証債と地方債だけで四兆七百七十八億円、これに弾力条項の発動による年度途中の追加発行や
政府保証のつかない公社、公庫、公団債を入れると、まさに国債に抱かれた
財政、借金
財政と言わなくてはなりません。
政府は、建設
公債と市中消化の歯どめがあると言っていますが、
公共事業の
対象範囲を拡大していることや、金融機関の
公債引き受け一年後の
日銀買い受けを
考えれば、真の歯どめとなり得ないことは明らかであります。
財源不足をカバーするため国債発行をある程度行なうことはやむを得ないとしても、単なる景気
対策として、安易に国債を増発するようなことはとうてい賛成できません。国債発行には、
財政支出の合理化という前提と、
日本経済の
基本的な方向を踏まえて、
長期的なビジョンの上に立っての
計画性がなくてはなりません。
政府の国債発行にはこうした展望はないのであります。
社会資本の形成が一時的なものでなく、今後も一定の比率で長く行なわれていくとすれば、国債発行はそのための一時的措置としても、その背後に税制改正の
長期方針が用意されなければなりません。
政府は、
所得税については、四十六年度補正の千六百五十億円の年内
減税は本年二千五百三十億円の
減税効果を持っていると言っていますが、もともと四十六年度当初の、千六百六十億円程度の
減税が少なかったのであります。本年地方税
減税、
住民税減税一千億を行ないましたが、国税で果たせなかったことを、
財源補てんに苦しむ地方団体に代行させた感があります。特に指摘しなくてはならないのは、
財源不足で苦しんでいるときに、
法人税付加税一・七五%を継続したという見返りとして、電子計算機特別償却率
引き上げ、船舶特別償却率
引き上げなど、大企業
関係の
特別措置が行なわれ、しかも税制
調査会答申後に、自民党税制
調査会の手で新しく組み込まれたものがあることは、正しい税制改正を妨げるものとして非難を加えなくてはなりません。(
拍手)
いま
政府は、
成長率鈍化による税収の伸びの低下、建設国債発行の
限界から
財源さがしに夢中になり、付加価値税の導入、
物品税の大幅手直し、
公害税の新設などが次々打ち出されています。しかし、その底流には、
日本の
租税負担率は
国際的に低いということと、高
福祉、高
負担の
考え方があります。しかし、新しい
長期的な税制構想を確立するのには、
政府支出の
内容が
福祉優先型に切りかえられ、魅力ある高
福祉計画を
国民に提示をされるとともに、税制の公平性についての信頼を得ることが前提であって、これらの
努力を怠って、
負担感は軽いが実際は大衆課税である間接消費税の増収を安易にはかるべきではありません。
法人税は
国際的に税率も低く、
実効税率もはなはだ低いのでありますから、まず
法人税率の
引き上げ、
特別措置の全面的洗い直しなど、
法人課税の
強化をはかるべきであります。こうした
政策の実行なくして資源配分の転換はあり得ません。
いま
国鉄運賃値上げ、政管健保、国立学校授業料等、軒並みに
公共料金引き上げが行なわれています。
公共料金は、本来行政的に提供される財貨サービスを公営ないし公益企業の商品として提供される場合の対価であります。したがって、国家、公共団体がこれを経済的、
政治的観点から必要であると判断するならば、行政的に国家資金を投入して供給されるのが
原則であります。私立学校の授業料と格差がある幼稚園より安い大学の授業料値上げはあたりまえだという程度の
考え方では、世界各国が大学の授業料を無料にしていることも、私学に大幅な国家資金を出すことも
理解できるはずはありません。
政府は、本年、卸売り
物価は横ばい、
消費者物価は五・三%
上昇という
見通しを持っています。しかし、生活関連物資の関税引き下げは
消費者物価にほとんど反映していません。地価
対策費も計上されていますが、ほとんど
実効をあげていないのみか、
公共事業費の増大、
法人の
土地投機などで地価の暴騰の傾向は一そう顕著であります。
不況下の
物価高、
インフレーションによる貨幣購買力の低下、
不況による
賃金上昇率の鈍化、所定外労働時間の大幅な減少や、雇用の減少に加えて、累進的に増大する
租税負担だけが労働者に加えられて、労働分配率の改善、週休二日制の実施など、
円切り上げの教訓を生かす労働
政策はどこにも見られません。激しい春闘の行なわれるのも当然と言わなければなりません。
深刻な景気後退と国の
公共事業の拡大は、地方税や交付税の減少と
反対に、地方の
負担を増大させています。住民要求も
向上してきた現在、地方の行政
水準を切り下げることは許されず、地方歳出は一段と膨張を続けていくことは明らかであります。
国民生活により密着する公共施設の建設は自治体であります。しかし、地方税収入の歳入に占める比率は低下し、
公共事業の
財源の中の国庫
負担率は減少しつつあり、地方債の中の
政府資金はむしろ低下しつつあります。懸案である中央、地方の行政事務、
財源の再配分を断行すべきときであります。
政府は、
国際経済との調和をはかるため、
通貨調整を行ない、自由無差別
貿易、特恵関税供与、
経済協力を強調しています。しかし、
経済協力の主要な
目的が反共かいらい政権に対するてこ入れであったり、
日本独占資本の市場確保にあるという批判が強いのであります。また、経済援助がひもつきで、金利が高く、援助は輸出と同じで、他の国の援助分まで吸い取ってしまうという批判が開発途上国、
先進国からもあります。
不況による原材料輸入が減るため、
貿易収支が来年度七十億ドル以上の大幅
黒字になろうという見方が多く、
外貨準備高も二百億ドルに迫ると
考えられます。いわゆる
外貨減らしを
政府はくふうしていますが、ふくれ上がった鉄鋼生産が生産の三五%を輸出しなくてはならないような過剰体質にさせておいて、同時に苛烈な輸出圧力をかけた
日本経済の体質をそのままに置いては問題の解決はありません。ふえ続ける輸出にブレーキをかけようとするなら、重化学工業に片寄った産業構造を根本から変えることが必要となってきます。一方、アメリカの
黒字国に
責任をかぶせる身がってな
通貨政策に転換を迫る
日本の自主性も必要であります。
以上私は、今年度
予算の主たる問題を取り上げ、その欠陥の
原因と解決の方策について意見を述べました。
総理は、冒頭申し述べましたように、
国民一人一人が内閣に何を求めているのか、時代の要求するものは何かをいまこそ的確に把握しなければなりません。
佐藤内閣の支持率は、三十九年十一月内閣が成立して以来最低の支持率の二四%になりました。(「一九%だ」と呼ぶ者あり)一九%になりました。岸内閣末期安保強行採決後の支持率に次ぐ最低のものであります。政権末期の
政治の空白や、議会の混乱はあらためて申すまでもありません。
私は、
佐藤総理の決断を強く要望して、
反対の
討論を終わります。(
拍手)
—————————————