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国務大臣(水田三喜男君) ここに、
昭和四十七年度予算の御審議をお願いするにあたり、その大綱を説明し、あわせて今後における
財政金融政策について、私の所信を申し述べたいと存じます。
新年を迎え、過ぎ去った激動の一年を回顧してみますと、国の
内外にわたり、いわゆる戦後
体制がその
歴史的な
役割りを果たし、いまや、われわれは新たな
発展と飛躍のための大きな転機を迎えていることを痛感いたします。
まず、
国際経済面におきましては、戦後四半世紀にわたり、
米国の
経済力にささえられてきた
国際経済が大きな試練を受け、新たな
秩序の確立に向かって脱皮しようとしております。昨年八月以降の
国際通貨体制の動揺と十二月末の
通貨の
多国間調整の
実現は、まさにこのような
変化を象徴するものであります。
また、昨年における一連の
国際交渉を通じて、われわれは、今後の対外取引については、節度と自制を持たなければ、
国際的摩擦を招くおそれのあることをあらためて
認識いたしました。との意味におきまして、今後の
経済運営にあたり、幅広い
国際的視野に立つことがより一そう要請されるのであります。
次に、
国内経済面に目を転じますと、
わが国経済は数年前までは、一人当たり
国民所得において西欧諸国の水準をはるかに下回り、
国際収支の天井の低さに悩まされていたのであります。このような時期におきましては、社会資本の整備や、社会保障の充実など、
国民福祉向上のための各般の施策を推し進める場合に、
景気過熱のおそれや、
国際収支の赤字の増大という制約要因を意識せざるを得なかったのであります。
しかしながら、いまや
わが国の
経済力は、
国民総生産において自由
世界第二位を占めるほどの充実を見せ、
国際収支の面においても、そのゆとりを活用し得る段階に立ち至ったのであります。これとほば時期を同じくして、成長と
福祉との調和をめぐって
国民の関心は高まり、今後の
経済運営のあり方に対して、発想の転換を求める機運が高まってまいりました。これは、
経済成長に伴って、
国民の意識に大きな
変化が生じたことによるものと考えます。
このような
内外諸
情勢の
変化を顧みますとき、私は、本年こそは一九七〇年代を展望する
長期的な視野の
もとに、
財政金融政策の転換の
第一歩を踏み出すべき重要な年であると痛感しております。
私は、以上申し述べましたような現状
認識と未来への展望の
もとに、
財政金融政策の基本を、内にあっては、
わが国の充実した
経済力を活用して、
福祉社会の
建設に、外にあっては、
国際経済との調和に置き、もって均衡のとれた成長をはかりたいと考えております。
福祉社会を
実現するために、次のような施策を講じてまいりたいと存じます。
まず第一に、
国民の日常生活にゆとりと安らぎをもたらすために、住宅をはじめ、上下水道、公園、緑地等の生活
環境施設を中心とした社会資本の整備を積極的に進めていくことであります。
国民は、物質的な豊かさだけではなく、さわやかな空気、澄んだ水、明るい太陽、緑に包まれた自然など、住みよい生活
環境を求めており、
政府がそのような新しい国づくりに主導的な
役割りを果たすことをますます強く期待するようになりました。われわれは、社会資本の蓄積不足をできるだけ早く取り戻すべきであるという
国民の強い要望に対し、十分にこたえなければなりません。
第二に、
経済成長の成果が社会のすべての階層に対して、十分に行き渡るようにするために、
国民各層の強い連帯感にささえられた社会保障を充実していくことであります。
わが国の社会保障の水準は、西欧諸国に比べて低位にあるといわれますが、その反面において、
わが国の租税や社会保険料の負担が相対的に軽いことも事実であります。
福祉社会の
建設はわれわれの志向すべき
国民的
課題であり、
政府は、このため一そう
努力してまいる
所存でありますが、
国民各位におかれても、適正な負担を通じて、これに寄与されんことを期待しております。
第三に、消費者物価の上昇、公害の発生など、これまでの成長
過程において生じてきたひずみ現象を是正していくことであります。昨年末に行なわれた円の切り上げは、物価の安定に対して好影響をもたらすことが期待されますが、消費者物価の安定のためには、輸入政策を積極的に活用する一方、低生産性部門や流通機構の近代化、合理化を含め、
経済活動の能率を一そう高めていかなければなりません。
産業公害の防止につきましては、企業の社会的責任として推進すべきものでありますが、
政府も、税制上、金融上の優遇措置により、企業の
努力を支援してまいりたいと考えております。
戦後の
わが国経済は、ガット、
国際通貨基金等を中心とする
国際経済体制の
もとで、
世界経済との深い
つながりをもちながら
発展してきましたが、いまや、
世界経済の中で大きな比重を持つに至った
わが国経済は、今後
国際経済との調和をはかってまいるごとが肝要であります。
このためには、まず第一に、
国際通貨体制の安定強化のために積極的な
役割りを果たすことであります。昨年末ワシントンで開催された十カ国蔵相
会議における合意に基づいて、
わが国は、これまでの一ドル三百六十円の対ドル基準レートを改定して、一ドル三百八円にいたしました。今次の
多国間の為替レートの
調整の結果、
世界各国は対外取引の安定を取り戻すことに成功しましたが、これによって、
国際通貨問題が最終的に
解決されたわけではありません。
わが国としては、
関係諸国と相
協力して、
国際通貨体制の残された諸問題の根本的な
解決のために
努力してまいる
所存であります。
第二に、ガットその他の場を通じて、自由無差別な
貿易の
促進を強く呼びかけると同時に、
わが国の
経済力や
国際的地位にふさわしい
経済の
国際化を一そう推進し、保護
貿易主義や
経済ブロック化の傾向を牽制し、
世界の平和と
繁栄をはかることであります。
第三に、
開発途上国との間の
経済交流を深めていくことであります。このような観点から、昨年八月には特恵関税の供与を開始したところでありますが、今後一段と
経済協力の拡充につとめるほか、
開発輸入などを通ずる
貿易の
拡大にも配慮していく必要があると存じます。なお、このような
国際協調の推進にあたっては、
経済的な面にとどまらず、広く人的
交流を含めた
国際交流の強化についても力を注いでいく必要があると考えます。
昨年後半以降、金融市場は、外国為替資金の大幅払い超等による企業の手元流動性の増加や民間設備投資の伸び悩み等による資金需要の落ちつきを反映して、これまでのほぼ慢性的な資金需要の超過基調から一転して、本格的な金融
緩和の
様相を呈しております。このような
情勢の
もとで、
国内景気の現況と海外金利の動向を勘案して、十二月二十九日に〇・五%の公定歩合の引き下げが実施されました。この結果、公定歩合は四・七五%と、実質的に戦後最低の水準となりましたが、今後とも、
内外経済環境の
変化に即応した妥当な金利水準の
実現をはかっていくことが重要であると考えております。また、今後予想される
内外資金の流出入の増大など、
通貨調整後の新しい
情勢に適応し得るよう、準備預金制度の改定等金融調節手段の整備
拡大に
努力してまいる
所存であります。同時に、最近における
わが国資本市場の
国際的な地位の
向上、金融
環境の
変化、公債政策の積極的活用等の
事態に対応し、公社債の円滑な発行、流通をはかる見地から、引き続き資本市場の整備育成に一そう配慮してまいりたいと考えております。
昭和四十七年度予算の編成にあたりましては、以上申し述べました
財政金融政策の基本的方向にのっとり、
財政の健全性を保ちつつ、積極的に有効需要の
拡大をはかり、かつ、
国民福祉の
向上を強力に推進することを主眼といたしております。
その特色は、次の諸点であります。
第一は、
通貨調整に伴う
国際経済環境の新たな展開に即応しつつ、当面する
国内経済の停滞をすみやかに克服するため、予算及び
財政投融資
計画を通じて積極的な規模の
拡大をはかったことであります。このため、公債政策を活用いたし、
建設公債、市中消化の原則を堅持しつつ、一般会計における公債発行規模を一兆九千五百億円に
拡大しております。また、
財政投融資
計画における
政府保証債の発行額は、四千億円を予定しております。
第二は、
国民福祉の
向上のための施策の充実をはかったことであります。すなわち、各種社会資本の整備、社会保障施策の充実、物価対策、公害対策など
国民生活の充実
向上のための諸施策の推進に特に重点を置いております。
第三は、租税負担の軽減合理化をはかったことであります。所得税につきましては、さきにその減税を特に早めて昨年秋に行なったところでありますが、
昭和四十七年度には、個人住民税を中心として負担軽減を行なうことといたしました。これらの改正による減税額は、
昭和四十七年度では約三千五百億円と見込まれます。
かくして、
昭和四十七年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも十一兆四千七百四億円となり、
昭和四十六年度当初予算に対し、二兆五百六十一億円、二一・八%の増加となっております。また、
昭和四十七年度
財政投融資
計画の総額は、五兆六千三百五十億円でありまして、
昭和四十六年度当初
計画に対し、一兆三千五百四十六億円、三一・六%の増加となっております。
以下、
政府が特に重点を置いた施策についてその概要を申し述べます。
まず、税制の改正であります。
個人課税の一般的軽減につきましては、さきの臨時
国会において、千六百五十億円の所得税の年内減税を行ないましたが、これは、
昭和四十七年度におきましては、二千五百三十億円程度の減税となるのであります。
昭和四十七年度の税制改正におきましては、これに引き続き、
地方税について個人住民税、個人事業税を中心として、千億円に及ぶ減税を実施することといたしております。そのほか、所得税におきましては、老人扶養控除の創設、寡婦控除の適用範囲の
拡大をはかっており、また、相続税におきましては、配偶者及び心身障害者に対する負担軽減を行なうことといたしております。
企業課税につきましては、法人税の付加税率の適用期間を二年間延長することとし、また、当面の
経済社会
情勢に即応する措置としては、輸出
振興税制を大幅に整理縮減するほか、住宅対策、公害防止対策、中小企業対策等の措置を講ずることといたしております。さらに、空港施設等の整備充実に資するため、航空機燃料税を創設することといたしております。
次に、歳出について申し述べます。
第一は、社会資本の整備であります。
経済動向に即応し、有効需要の積極的な喚起をはかり、
国民生活の質的
向上を期するため、住宅及び上下水道、公園、
環境衛生施設等の生活
環境施設の整備を重点的に推進するほか、道路、港湾、空港その他の交通施設の整備、治山治水等の国土保全のための施策についてもそれぞれ大幅な増額をはかっております。
なお、治山事業、治水事業及び
都市公園の整備につきましては、それぞれ
昭和四十七年度を初年度とする新規五カ年
計画を策定することとしております。さらに、廃棄物処理施設につきましても、新たな五カ年
計画の策定を予定いたしております。
また、新幹線鉄道等の
建設を円滑に進めるため、
日本国有鉄道及び
日本鉄道
建設公団に対する出資を大幅に増額するほか、
日本国有鉄道の
財政再建をはかるため、国からの助成を強化し、あわせて所要の運賃改定等を行なうことといたしております。
第二は、社会保障の充実であります。まず、今後予想される老齢人口の増大に対処し、老人
福祉の充実強化をはかるため、老人医療の無料化の実施、老齢
福祉年金の大幅
改善その他老人対策の飛躍的な拡充を行なうことといたしております。さらに、
社会福祉施設の充実、障害
福祉年金及び母子
福祉年金の
改善、生活扶助基準の引き上げ、身体障害者、児童、母子等の
福祉対策、特殊疾患対策の充実など各般の施策に配意し、
福祉の
向上に遺憾のないことを期しております。
なお、健康保険
財政の健全化のため、所要の
改善合理化措置を講ずることといたしております。
第三は、物価対策の推進であります。消費者物価の安定をはかるため、
昭和四十七年度におきましても、低生産性部門の生産性の
向上、流通対策、労働力の流動化、競争条件の整備、生活必需物資等の安定的供給、住宅及び地価対策等の各般の物価対策を積極的に推進することといたしております。特に、近年価格上昇の著しい野菜をはじめとする生鮮食料品の安定的供給と円滑な流通をはかるため、生産、出荷、流通の各面にわたる施策を大幅に拡充することとしております。また、関税面におきましても、生活関連物資を中心に
関税率の引き下げを行ない、物価の安定に資することといたしております。
第四は、公害の防止及び
環境保全のための施策の推進であります。より豊かで快適な
国民生活の
実現をはかるため、上下水道、廃棄物処理施設等の生活
環境施設の大幅な充実、水質保全、大気汚染防止、騒音防止等のための諸施策の推進、公害防止事業団、
日本開発銀行等の公害対策
関係融資ワクの大幅
拡大、税制面における公害防止準備金制度の創設、公害防止施設特別償却の範囲の
拡大など、各般の施策を講ずることといたしております。
また、国立公園内の民有地の買い上げを進めるなど自然
環境の保全にも配意しております。
第五は、農林漁業及び中小企業の近代化であります。農林漁業につきましては、生産性の
向上をはかりつつ、需要の動向に即応した農政を推進するため、野菜をはじめ果樹、畜産等の
振興、稲作転換対策の推進、農業基盤、漁港、林道等の整備、構造
改善の推進、農林漁業金融の充実、農畜水産物の流通
改善等各般の施策を講ずることといたしております。また、米の需給の実態に即応し、引き続き生産
調整措置を講ずることとし、米価水準を据え置きとして所要の経費を計上いたしております。
中小企業対策につきましては、
国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫、中小企業
振興事業団等の融資規模の
拡大、小規模事業対策の強化等の施策を講じ、あわせて
政府関係中小企業金融三機関等の貸し出し金利の引き下げを行なうこととしております。なお、最近における繊維
産業の状況にかんがみ、繊維工業の体質
改善、離職者対策等についても十分配慮を行なっております。
第六は、
文教及び科学技術の
振興であります。
文教につきましては、公立
文教施設整備の拡充、幼稚園
教育の
振興、育英事業の推進、私学助成の強化、医学
教育の充実、社会
教育施設及び
体育施設の整備等各般の施策を講じております。
科学技術の
振興につきましては、新しい原子炉の
開発、宇宙
開発、海洋
開発等を進めるほか、電子計算機技術の
振興にも配意しております。
第七は、海外
経済協力と
貿易対策であります。新しい
国際経済環境の展開に即応しつつ、海外
経済協力基金及び
日本輸出入銀行の事業規模の
拡大、
経済開発特別
援助、技術
協力の充実などにつとめております。
なお、原油等のエネルギー資源の安定的な確保についても、所要の措置を講ずることといたしております。
第八は、
沖繩振興対策であります。本年五月十五日、本土に
復帰することとなりました
沖繩の
振興に遺憾のないよう、県民の生活と職業の安定、
福祉の
向上、
教育の充実、各種社会資本の整備、
産業経済の
振興等各面にわたる施策に十分配慮いたしております。
第九は、防衛力の整備と基地対策の推進であります。防衛
関係費につきましては、引き続き防衛力の整備をはかるほか、本土及び
沖繩を通じ基地
関係諸施策を推進することとしております。
最後に、
地方財政対策について申し述べます。
昭和四十七年度の
地方財政につきましては、
景気の停滞による
地方税及び
地方交付税の伸びの鈍化、住民税、事業税等の
地方税の大幅減税の実施等を考慮し、次の措置を講ずることといたしました。すなわち、
昭和四十七年度限りの特例措置として、一般会計からの臨時
地方特例交付金の繰り入れ及び資金運用部資金からの借り入れを行ない、また、
沖繩の県及び市町村に交付する必要があると見込まれる
地方交付税の財源につきましても、
昭和五十年度まで経過的な特別の措置を講じ、既定分を合わせて、交付税及び譲与税配付金特別会計から総額二兆四千九百三十九億円の
地方交付税交付金を
地方公共団体に交付することとし、さらに、小学校校舎整備費補助金の補助率の引き上げ等による
地方負担の軽減、
地方債の増額等を行ない、
地方財政の健全な運営を確保することといたしております。
以上、
昭和四十七年度予算の大綱について御説明いたしました。
財政金融政策の究極の目標は、
国民福祉の
向上にあることは申すまでもありません。しかし、そのためにどのような政策手段を優先すべきかは、
経済の成長段階に応じて
変化すべきものであります。
いまや、
内外経済の大きな転換期にあたり、今後の
経済運営の
課題は、
現下の
景気停滞をすみやかに克服して均衡のとれた成長を確保し、
国民のはつらつたる創意を生かしながら、新たな国づくりを通じて生きがいのある
福祉社会を
建設することであります。
政府はこのような
国民福祉向上のための路線に沿い、今後とも着実に施策を講ずる
決意でありますが、
国民各位におかれても、この新たな国づくりに積極的に参加され、その輝かしい成果を次の世代に伝えることができるよう、格別の御
協力をお願いいたしたいと存じます。
各位の深い御
理解を切望する次第であります。(
拍手)
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