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参考人(
中山研一君) ただいま御紹介いただきました
京都大学の
中山でございます。
急に御依頼を受けました
関係もございまして、
最初若干おことわり申し上げたいんですが、
準備が不足でございますので、本格的な
準備はできておりません。その点をおことわりいたします。それから、
大学におります
関係で、この種の
法律案の
必要性その他につきまして、実務的な
立場からの経験はございませんので、その点もあらかじめお断わり申し上げておきます。で、与えられました
資料を拝見いたしました
範囲内でただいまから若干の時間私の考えていることを申し上げまして、
審議の御
参考にしていただければありがたいと思います。
それでは、まず私の申します点をあらかじめ要約的に申し上げておきますと、まず第一の点は、
火炎びん等の
規制に関する従来までの
立法経過と申しますか、簡単なコメントを少し申し上げたいと思います。それから第二番目は、現在提案されております
火炎びん法がもし提案されなかった場合には、現在の
立法、
現行法の中でこの種の行為を取り締まる場合にどれだけの
立法上の
欠缺があるか、つまり今回の
立法ができますことによりまして従来の
立法の
規制とどの
程度違ってくるかという、まあ
立法上の
欠缺と申しますか――
現行法上のですね、その点について少し申し上げたい。それから
最後に、提案されております
法案の
内容上の若干の
問題点を申し上げたいと、こういうふうに思っております。
まず第一の点からでございますが、これはもう御
案内と思いますが、
火炎びんの
規制に関しましては、
昭和三十年の前後に生じました
事件で
最高裁判所の確定した
判決がございます。これは
火炎びんがはたして
爆発物取締罰則のいわゆる
爆発物に当たるかどうかという形で
議論がありまして、これも御
案内のように、
最高裁判所の二十八年、それから三十一年の
判決では、いわゆる
火炎びんなるものは理化学上のいわゆる
爆発現象を起こすものではない。で、
爆発物というのは
爆発作用そのものに直接の
破壊力があるものをいうという
立場から、
火炎ぴんというのはこれに当たらないという
判決でございます。したがって、この
段階で
火炎ぴんというものは少なくとも
現行の
爆発物法では
処理できないということが明らかになっているわけであります。
ところが、その後御
承知の
刑法改正作業との関連で再び
火炎びんの
取り締まりの問題が
立法改正作業の中から出てまいりまして、これも御
承知の
昭和三十六年にできました
刑法改正準備草案の中では百八十六条の二項、新しい
規定が入りまして、一項は本来の
爆発物に関する
規定でありますが、二項は「
爆発物に類する
破壊力を有する物」、それの
使用、
未遂、
予備というものを
処罰しようという形で
立法規定が
草案として存在いたします。で、
理由書を読みますと、ここに言われている「
爆発物に類する
破壊力を有する物」というのは明らかに
火炎びんを考えていたということが
理由書に明示されております。したがって、
昭和三十六年
段階では少なくとも
草案の
起草者は
火炎びんというものを
爆発物に類するものとして
爆発物取締罰則の中、もしくは
準備草案に新しく挿入されました
爆発物に関する罪の中で
処理をするという
立場をとっておったことが明らかであります。ところが、これに対しましては学界などを中心にしまして
反対論がございました。その
理由は、「
爆発物に類する
破壊力を有する物」という
規定のしかたがきわめてあいまいであるということ、
構成要件が非常にあいまいであるということで
罪刑法定主義の
関係で問題だということが出ておったと思います。
ところが、
準備草案の
作業が一段落しまして、新たに
法制審議会の
刑事法特別部会で本格的な
刑法改正作業が再開されまして、ごく最近
刑事法特別部会草案ができました。この中では実は
火炎びんの問題がどう扱われたかと申しますと、結論的にはこの
規定は削除するという形で落ちついておるのであります。その
理由を見てみますと、これは、
法務省から出しております第四小
委員会の
議事要録というのがございますが、この中から
火炎びんの
取り締まりをこの
部会草案から削除した
理由としまして、まず第一点は、
使用例が少ないという点であります。これは後ほどまあ
資料などで、
統計上のことがありますので、御紹介もいたしたいと思いますが、
使用例が少なくなってきているということと、それから将来
火炎びん――将来と申しますのは、この
段階では四十三年
段階の
議論でございますので、この点も御注意願いたいと思いますが、四十三年三月十一日の
委員会段階での
議論でありますが、
使用数が少ないということと、それから将来
火炎びんにかわるものが
使用されるおそれがあるけれども、どういう形のものが出てくるのか予測できないというふうな形で、
火炎ぴんという形での
規定にはちゅうちょするという
理由が第二点であります。それから第三点としましては、
火炎びんが実際に
使用された
段階では
放火、
傷害その他の罪を、
規定を適用することができるし、また持ち歩いている
段階の
取り締まりにつきましても、
放火予備とかあるいは多数人による場合は
凶器準備集合罪等の
適用可能性があるということからして、それほどの法の
欠缺は心配しなくてもよろしいと、こういう
趣旨の
理由が付されております。こういった
理由から四十三年三月
段階では、
部会草案の中には
火炎びんの
取り締まりを目標としたような
規定は設けないということに一応決定しておるわけであります。
ところが、
部会草案を形成する過程におきまして、
最終の収束は昨年の十一月
段階でありますけれども、その前の四十五年の九月
段階でもう一度この小
委員会てこの
議論が出でおります。四十五年の九月二十八日の小
委員会では、一応
草案の素案なるものが、第一次案なるものが出た
段階で、はたして
火炎びんの
取り締まりを含めてこの
爆発物に関する
規定の
部分をどうすべきかということが再び問題になりまして、非常に簡単ではありますけれども、格別の異議はなかったということの指摘がございます。これは
統計などとの
関係で若干問題がありますのは、御
承知のことと思いますけれども、四十四年が
火炎びんの
事件が一番の
ピークに達しました。四十四年が
ピークで四十五年が減って、また四十六年が増大していると、そういう
状況がございますが、この四十五年の九月二十八日の
委員会の
議論はいわばその減少した時点であったということも注目されますけれども、少なくとも四十四年の
ピークを
経過した
あとの
議論であるということは
念頭に置いておく必要があるだろうというふうに思います。具体的に
火炎びん法、今回の
法案が
提出の動きが出ますのは、
新聞紙上等で拝見します限りでは、四十六年の十一月ごろからではないかというふうに考えられますので、この今回の
法案の
趣旨は主として四十六年における増大に対処するということであったんじゃないか。
まあ以上がこれまでの
立法作業との
かかわり合いでの
火炎びんの
取り締まりに関する取り扱いの
経過であったと言えます。
それから次には、それでは
火炎びん規制のための
現行法にどれだけの
欠缺があり、今回の
法案でどの
程度のものが補充されるようになるかというような点を少し明らかにしておく必要があろうかと思いますので、その点を少し申し上げてみたいと思います。
第一の点は、
火炎びんが現に
使用されたりもしくは
使用されようとしたという場合でありますが、これにつきましては、先ほどもうすでに
委員会の小
委員会の
議論の中に申しましたように、現に
使用されたり
使用されようとした場合には、たとえば
放火罪であるとか
殺人罪であるとか
傷害罪――結果が出た場合でありますが、結果が出ない場合には
放火未遂、
殺人未遂等の
条項の
適用可能性がございます。
ただ、この点で
欠缺をあげますと、
傷害未遂の場合は御
承知のように
現行法に
規定がございません。したがって、
火炎びんを用いて人を
傷害する意図がたとえあったとしましても、それが
未遂に終わったという掲合には、
傷害未遂の現定がないから、これは
処罰できない。ただしこれは御
承知のように、
暴行罪というのがありますので、
傷害未遂は
現行法では一応
暴行罪で取り上げるということでありますから、全然ないというわけじゃありませんけれども、その点に若干問題があろう。
それから
放火未遂につきましては、これも御
承知のように、非
現住建造物の
放火につきましては
未遂の
規定がございませんので、人の住んでいないたとえば
倉庫に
火炎びんを投げつけるというような場合には、
倉庫が燃えればもちろん
既遂に達すれば
放火罪になりますけれども、達しない場合には、つまり単なる
物件についての
放火未遂というのは少なくとも
現行法では
処理できない問題が残るというわけであります。
それから次に、具体的な
使用や
未遂に至らなくても、
火炎びんを
製造したり
所持したり
運搬したりするという
推移類型がございますが、これについてはどういう
処理があるか、可能か。
現行法上の
処理としましては、
放火予備、まあもちろんこれはすべて
目的が必要でありますが、
放火予備もしくは
殺人予備、それから二人以上の場合には
凶器準備集合罪の問題がありましょうし、それから一人でも隠して持っているという場合は
軽犯罪法一条二号の
該当可能性があります。そうしますと、
火炎びんの
製造、
所持、
運搬等につきまして、
現行法で欠けてくるものは、一人でかつ公然と
所持している場合ということになるだろうと思います。で、この
部分がしたがって
使用または
使用未遂、
製造、
所持、
運搬すべてを含めまして、
現行法での
欠缺は
傷害未遂、
物件放火未遂、一人で公然と
所持している場合というふうな
類型が一応
現行法の
規定では、形ではまかなえないんじゃないかというようなものが出てまいります。
そこで、今回の提案されております
火炎びん法は、少なくともこの
欠缺を埋める、そういう機能を果たすんではないかと思われます。逆に申しますと、これだけの
欠缺を埋めるためにも
立法が必要かということにもなってまいろうかと思います。で、そのほか、
あとで
法案の
内容の中でも当然触れなきゃならないと思いますけれども、これ以外にも
火炎びんの
製造、
所持、
運搬だけではなくて、
火炎びんの、まあいわば半
製品と申しますか、非常に問題になってくる
部分だと思いますが、そこにも
所持の
規定を広げようとするわけでございますから、その
部分ではもう少し広がってくるだろうというふうに思います。
いずれにしましても、いまの
状況から判断できますのは、
火炎びんが実際に
使用されたりする場合には、もうすでに
現行法でほとんど
処理できるということがあるでしょう。そうしますと、
火炎びん等の
不法事犯の異常な増加ということももちろんでありますけれども、実際はこの
規定がないためにどういう点に実際の不便があるのかということをもう少し確認してから
議論を展開すべきではないかという
感じがいたします。特に主体は
製造、
所持、
運搬であると、しかもその半
製品であるということになった場合には、当然その
現行法の
規定のしかたに対する埋め方ということがどこに重点がかかるのかということが明らかになってまいろうかと思うのであります。いまのはただし
法定刑の
部分は一応排除しておきます。
処罰できるかどうかというだけで問題にしております。したがって
軽犯罪法なんかの場合にはたして
現行犯逮捕ができるかといった問題は残ろうかと思います。しかし、ただこれも御
承知のところと思いますが、
軽犯罪法でも
住所不定その他の
理由があれば
現行犯逮捕はもちろん形としては可能でございますから、その点では不可能だというわけではございません。
それから、まあ以上簡単に済ませまして、
法案の
内容上の
問題点について若干の点を申し上げてみたいと思います。
まず、非常に簡単な
条文でございますので、各
条項ごとに少しずつ問題を出してみたいと思いますが、まず第一条でございます。これは「「
火炎びん」とは」ということで
定義の
規定でございますが、いわゆる
火炎びんなるものの
内容が
法規定として
規定すればこのようになるだろうということはおよそ認められてよろしいかと思います。ただし、問題は、
火炎ぴんと
火炎びんでないものとをどうして区別するのかという
観点からこの
規定をながめる必要があろうかと思うのであります。これは全体の
構成要件すべてについてでありますけれども、
刑罰法規でございますので、典型的なものを
規定するということはもちろん必要なことでございますけれども、特にそうでないものとの
限界がどこにあるかということを
念頭に置いて
規定すべきだろうというふうに思います。このことは
衆議院でも
議論になっております
乱用防止というような
観点からも重要なことじゃないかと思いますけれども、そういう
観点からこの
規定をながめてみますと、まず「
ガラスびんその他の
容器」の「
容器」というところがどうしてもひっかかるのでありますが、この
ガラスびんに灯油その他のガソリンその他のものを入れるということについてはある
程度明示されておりますから、もっともその
ガラスびんの
形状、大きさ等必ずしもどこまでをさすのかということについては問題がありますけれども、と申しますのは、はたして
火炎ぴんとしての
使用をティピカルに考えた場合には、投てき可能なようなものに限るかどうかというようなことも
一つ問題になろうかと思います。
火炎ぴんというのははたして投げられないような大きなぴんというようなものも含むのかというようなことになりますと若干問題があろうと思います。ただし、これは投げられなくても
時限装置をつければ十分にその
使用可能だということも同時に考えられますから、その点については
立法者はどう判断するかということになろうかと思いますが、含めるか含めないかという判断になろうかと思いますけれども、ともかくもそういう、単に「
ガラスびんその他の
容器」ということだけで
限定が可能かどうかということが
一つの問題があろうかと思います。
それから「その他の
容器」と言われているものがはたしてどういうものかということであります。これは二条、
三条にすべて
火炎びんの
定義規定がかかっていきますので、そこで
三条の、特に
三条二項の
議論との
かかわり合いが当然一条でもすでに意識されなければならないと思うのでありますが、
あとでも若干問題にしますけれども、
最終容器に限るかという
議論が
衆議院段階でございました。つまり、
そのもの自体が
最終的な
容器であって、
そのものがつまり直接使われるのだと。使われるという
意味は、先ほど申しましたように、
使用可能な
程度の
形状、大きさ、
類型を備えていなければならないかという問題としてこの「
容器」の
限定が一条の場合にも必要なのではないかというような
感じがいたします。これはまた
あとで
三条との
関係で若干問題にいたしたいと思いますが、一条にもその問題があるかもしれないというふうに思います。
それから一条の
定義では、よくいわれます、これは
凶器の中に
性質上の
凶器と
用法上の
凶器があるということをよく法学上申しますけれども、
提案説明なり
提案理由などを読みますと、
火炎ぴんというのは
銃砲刀剣などと違いまして全然正当な用い方というのは本来ないんだということから出発しておられるように思われます。
銃砲というのは本来正当な
目的で使えば許可される。で、不法な
所持になれば
処罰されますけれども、
火炎びんの場合には、
火炎ぴんとして正当に利用する道というのがはたしてあるのだろうかということが問題になります。もしも、
火炎ぴんというのはそういう「人の
生命、
身体又は
財産に害を加える」ことだけにしか
使用されないものだというふうに考えますと、これは本来
性質上の
凶器でありまして、
用法上の
凶器というものはなくなってしまいます。しかし、そうしますと、この第一条の一番
最後に書いてあります、これこれの
装置を施したものであって、「人の
生命、
身体又は
財産に害を加えるのに
使用されるものをいう。」というのは、あまり
限定的な
意味を持たないのではないかという
感じがいたします。つまり、それ以外のものがあるのかということがまず問題にされなければならない。そうしますと、
火炎びんではたして正当な
用法というものはあるだろうかということが
一つ問題点ではないかと思います。この点との
かかわり合いで一条の
定義を考えてみる必要があろうかと思うわけであります。
ただ私は、一条につきましては、どういう点がここから問題になるかといいますと、結局
火炎ぴんというのは、したがって、どうしても
爆発物に類したものとして考えざるを得ないという問題があろうかと思います。なぜかといいますと、
爆発物というものの本来的な
使用は――もっともこれは
爆発物の実験その他で本来的な
使用があり得るかもしれませんけれども、
銃砲刀剣の
取り締まりというような
観点ではこの
立法上の
処理として
火炎びんの
処理はできないのであって、やはり
爆発物に類したものとしての
処理しかできないのではないかという問題が、
性質上、
用法上の
凶器かどうかという問題の中から出てくるのじゃないかという
感じがいたします、まあ、やや
定義規定でありますので、抽象的な
議論しかできませんけれども。
次は、具体的な
犯罪類型が出ております二の
火炎びんの
使用の罪、第二条でございますが、この第二条につきましては、一項、二項でございまして、一項は
火炎びん使用罪の
既遂罪、二項は
火炎びん使用罪の
未遂罪という形で
規定がされておりまして、一項は
具体的危険罪という形の
規定だというふうにいわれております。
火炎びんを
使用して現に人の
生命、
身体、
財産に危険を生ぜさせた者という
規定がございます。
ここで注意しなければならないと思いますのは、
提案説明にもございますけれども、人の
生命、
身体、
財産を侵害するという結果の
発生は必要ではないと。したがって、この
火炎びん使用罪は、
生命、
身体、
財産に対する結果犯ではなくて、
既遂罪そのものが
危険犯だということであります。つまり、具体的危険が
発生すれば本罪は
既遂になる。そうしますと、注意しなければなりませんのは、
既遂か
未遂かをどこで、つまり一項になるのか二項で落ちるのかということが、どこでこの
限界が置かれるかということでありますが、つまり抽象的危険の
段階でとどまっておれば
未遂だと。しかし、具体的危険が
発生すれば
既遂だと、こういう形になってこようかと思います。と申しますのは、
未遂というのも
危険犯でございますから、何らかの危険がなければ
処罰されないと。
既遂罪のほうは、ここでは具体的危険という形でこの論定がありますので、したがって、危険の
程度によりまして、危険の
程度が具体的の
段階に達すれば
既遂罪になるということになります。
で、
提案説明にも、一体本罪の
法益は何かということは若干
議論がありまして、何を守ろうとしているのか。これは
公共の安全と人の
生命、
身体、
財産の保護だというふうにいわれております。けれども、この
条文をながめました
範囲内では、少なくとも人の
生命、
身体、
財産に対する危険という形で
規定がありますので、
公共の安全ということを
法益の中に取り込むということは、この
条文の解釈としては私は少し筋が違うのではないかという
感じをしております。なぜかと申しますと、
公共の安全というものを
法益だと考えますと、抽象的危険か具体的危険かということの区別が非常につきにくくなってまいります。例を申しますと、たとえば現に人がおり、
物件があるというところへ
火炎びんを投げるというのは、具体的危険があるということで大
部分拾えるだろうと思いますけれども、これは極端な場合、極端というか一番明らかな場合、それから例をあげますと、
野原でともかくだれもいないところで
物件も何もないところで
火炎びんを投げたと、これは危険がないということが言えるだろうと。もっともこの場合にも
公共の危険があるというふうに言えないことはない。そうしますと、後者の場合は一体
未遂なのかということになりますと、
公共の危険というものを
公共の安全というものを
法益にいたしますと、
限界が非常につきにくくなる。したがって、
公共の安全という
ことばそのものはかまいませんけれども、その
内容は、人の
生命、
身体、
財産に対する危険というふうにとらえるべきではないかと思います。そうしますと、先ほど申しましたように、現に人がおり、そして
物件があるという場合には、
火炎びんが投げられて、たとえば不発で終わったという場合には、具体的危険はなかった。しかし、抽象的危険が存在するから
未遂だと、こういう形の
議論が可能になってくるのじゃないかと思います。そして、
最初ちょっと申しました
野原での、何もないところで投げるというのは、実はこれは
未遂でもない。そうすると、
未遂と
処罰のものとの
限界もそういう形で明らかになってこようかと思うわけです。普通、
不能犯と申しますけれども、結果は
発生しないんですから、
未遂ではありますけれども、しかし、はたして
未遂に値するような危険もあるのかどうかということが、やはり問題にならなければならない。通常、
殺人罪とかその他でございますと、結果が
発生すれば
既遂で、それから
発生の危険があれば
未遂ということですから非常にわかりやすいんでありますけれども、本来の
既遂そのものが
危険犯でございますから、その
意味で、危険の
段階の明確化ということが非常に困難になるということを明らかにしなければなりませんので、具体的にはどういうケースがどうなるかということは、ある
程度議論しておく必要があろうかと思うのであります。
それからついでに、もう一点だけ、
爆発物取締罰則は、今回の
法制審議会の
刑事法特別部会の
草案では
爆発物に関する罪としてそれを編入するという態度をとっておりますが、その
規定を見ますと、
爆発物罪も
草案の
規定では、やっぱり人の
生命、
身体、それから
財産に対する
危険犯としてとらえております。したがって、そこには
公共の安全ということばはございません。この点も
念頭に置く必要があろうかと思います。
もうすでに
未遂のことを申し上げましたのですが、二項の
未遂については、いま申しましたように、一方では
既遂との
限界をどう明らかにするかということと、他方では
未遂にならないものとの
限界はどこにあるかということを問題にしなければならないと思います。この点では、私が拝見した限りでは、政府の提案では、
未遂と
既遂の
段階は比較的明らかである。つまり、それはたとえば点火
装置の場合には火をつけたとき、それから発火
装置のあるような火災びんでは投てきしたとき、投てきして不発になったという場合が典型的な
未遂だというふうに言われておりますから、この点ではそうなろうかと思うのでありますけれども、しかし、実際に抽象的危険か具体的危険かということをどこで区別するのかということは、そう簡単にはきまらない問題があろう。たとえば そこねたと申しますけれども、当たらなくて近くまで飛んだという場合はまだいいかもしれませんけれども、中間、もう全然飛ばなくて中間よりも事前の地点に落ちてしまった、それは道路であったということになった場合は、一体
未遂なのかどうかということについては問題があろうかと思います。つまり、
既遂のほうはまだいいんですけれども、
未遂のほうは非常に広がる可能性を持っているということを、一般的に申し上げておく必要があろうかと思います。
二条のほうは非常に不十分でありますけれども以上にしまして、
三条のほうに移りたいと思います。
三条は非常に
議論のあるところでございまして、一項、二項ございます。まず
最初に一項のほうから問題にいたしますと、一項は「
火炎びんを
製造し、又は
所持した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」という
規定でございます。実はこれは
提案説明によりますと、この
火炎びんの
製造は、
所持というのは、
火炎びん使用罪の
予備罪的な性格を持つものだとなっております。
火炎びんを
使用する以前の
段階、もう少し前の
段階。先ほどの話につなげますと、
火炎びんを現に
使用すれば
既遂である。具体的に
発生すれば
既遂である。
使用したけれども、危険が抽象的にとどまれば
未遂である。さらにそれ以前に、いわば
予備の
段階で、実際には
火炎びんを
使用するのだけれども、
使用するいわば
予備的な
準備段階として、この
製造、
所持というものが位置づけられております。そういう
製造、
所持というものを、いわば本来
使用罪の
予備罪的な性格のものを、独立の
構成要件に高めるということになっております。したがって、
使用罪でも刑はもちろん軽くなっておるわけでありますが、若干私疑問だと思いましたのは、
予備罪でございますと、普通、何何の
目的をもってというのが入っております。本犯を犯す
目的をもって
予備をやるということで初めてその
予備罪というものの性格が明らかになる。ところが、この
条文には
目的がないのであります。つまり、
火炎びんを
使用する
目的をもって
製造、
所持したる者とはなっていないということであります。
そうすると問題は、
火炎びんを
使用する
目的でなくても、
火炎びんを
製造したり、あるいは
所持したりすることがあるのかという、先ほど来の問題にまた返りますが、たしか
提案説明の中に、特に
所持、
運搬等については
目的のいかんを問わないというふうに書いてございます。この
意味がどういう
意味であるのかということをはっきりさせる必要があろうと思います。本来、
予備罪として位置づけるためには、
使用目的というものがあって初めて
予備罪というものがありますので、その
意味で、この
使用する
目的というのがないというのが
一つの
問題点かと思われます。それは当然だというふうに
立法者は考えておられるのかもしれませんけれども、それならば、第一条に「人の
生命、
身体又は
財産に害を加えるのに
使用されるものをいう。」というのも当然の
規定ではないかというふうにも考えられます。その
意味で、この
目的規定――もっとも主観的な
目的による
構成要件の
限定がどれだけ
意味を持つかということははなはだ問題ではありますけれども、いわば
立法の構成として問題を出しておるわけでございます。
それから、次は実際上の問題でありますが、この場合の
火炎ぴんといわれているものの
範囲が問題になってくるわけであります。これはもちろん第一条の
定義を受けておるわけでありますので、第一条の
定義がここへかぶってまいります。「
ガラスびんその他の
容器にガソリン、燈油その他引火しやすい物質を入れ、その物質が流出し、又は飛散した場合にこれを燃焼させるための発火
装置又は点火
装置を施した物」、これが
火炎びんの実体的な
規定でございます。しかし、その場合にも
製造過程、
所持過程ですでに
処罰をするわけでございますから、
火炎びんであるものと
火炎びんでないものとは、実は
使用段階では非常に明確にあらわれますけれども、
所持や
製造の
段階では
火炎びんか
火炎びんでないかということは、それほどはっきりしない場合も出てくるのではないかというように思われます。たとえばびんの大きさであるとか、あるいはかん――
火炎かんというのがあるかどうか問題ですけれども、かんの場合はどうなるかということが問題だろうと思います。いずれにしましても、それは
準備段階でございますので、
準備段階ということは、まだそういう危険性がそれほど明確におもてにあらわれない
段階ですでに
規制をしようということでありますから、ある
意味では
火炎びんか
火炎びんでないかということの実際上の
限界が不明確になるおそれも出てくるのではないかと思います。
具体的には、私も詳しくわかりませんけれども、たとえば発火
装置をつけるということは相当手の込むようなことでございましょうから、ある
程度それがついているかついていないかということはわかるかもしれませんけれども、点火
装置というものは非常に簡略なものから、非常に――まで存在するし、それから点火
装置というものを意識して点火
装置ということをつけなくても、事実上点火すれば燃えるようなものになっていくような場合もないことはないんじゃないかというような
感じもいたしますので、その
意味ではここの
火炎びんの
範囲自体を、一条との
関係でやはりもう少し明確にしていく必要があろうかというふうに
感じます。しかし、これは少なくとも、
火炎ぴんということが出ている限りは、
最終容器であるということははっきりしているだろう、
最終容器というか、つまり、それにもうすでに発火
装置なり、点火
装置がついているということを
意味しておりますので、この点では比較的まだ明瞭であろうかと思います。
問題は第二項でございますが、第二項の場合には、
火炎びんそのものでなくても、
火炎びんに至る、
火炎びんの
製造過程で問題になるいわば半
製品を含めて
規制しようというわけでありますから、――この点につきましては、
衆議院段階で修正がございました。そして提案されています
条文は、その
意味では相当改善が施されているということは一般的に認められます。これは「
火炎びんの
製造の用に供する
目的をもって、」、ここでは
目的の
限定がございます。一項ではなかったのですけれども、二項では「
火炎びんの
製造の用に供する
目的」というものがなければ、半
製品の
所持や
運搬その他は
処罰しないということを
立法者は明言することになります。ところで、この場合にはいわば
部分品でありまして、まだ点火
装置や発火
装置の施されない前の
段階の
ガラスびんやその他の
容器にガソリンその他の入ったものということになっております。そうしますと、実は本罪は、
三条一項が本来
予備罪的なものと申しましたけれども、
予備のもう
一つ前の
予備罪になります。
予備罪を犯す前のさらに前の
段階のものになっていきますので、その
意味では、いよいよ――どう言いますか、はたして正当な
目的の、正常使われているものかどうかということの
限界が非常にきめにくくなってくるということが言えます。ガソリンその他は日常生活に使いますので、業務用にも使いますので、そういう正当な
目的によるガソリンや燈油などの
使用の中で起こってくる問題、行為形態と、ここで捕捉しようとしている行為形態との区別をどこでつけるかということが問題になってまいります。
結局修正案は、未完成品の
取り締まりをするけれども、その
段階にある
程度限界を置こう――歯どめがありませんと、先ほど来の乱用の危険にもかかわりますので、歯どめを置こうと。その歯どめは、これに発火
装置または点火
装置を施しさえすれば直ちに
火炎びんになるような、そういう
段階に達したものであればよろしいということになっております。
これは、
議論になりました
最終容器にかえるかどうかということと
関係がございます。つまり、
火炎びんをつくる
目的はもちろんあったとしても、その前の
段階にすでに、大きな燈油かんなりに燈油を入れておいて、それを現に
火炎びんに、
最終容器として
使用するものにつくる
目的でそういうものを用意しておったという場合に、その用意の
段階ですでに
処罰できるのじゃないかということが問題になりまして、そうではなくて、むしろ直ちにそれに発火
装置と点火
装置さえつければ
火炎びんになるようなものだということになりますと、当然その
最終容器に限るということになってまいろうかと思います。しかし、はたして、そういう
最終容器のみに限るということの確認が、この
条文から可能だろうかということが問題になろうかと思います。
それから、
取り締まりの側の要請からしますと、できるだけ早い
段階でこの種の
不法事犯の
取り締まりを明確にできれば捕捉したいということはもう当然だと思いますが、実際上の効果からしまして、もうでき上がった
段階ではおそいということがもし言われるとすれば、これはもろ刃のやいばですけれども、どの
段階でつかまえられるのかということが非常に問題。しかし、それは
刑罰法規でございますので、明確にしなければならないというジレンマがございます。この
条文で、つまり
最終容器に限るということになるのかどうかということが
一つの
問題点。
それから、その点との関連で、ドッキングということがよく言われますけれども、
最終段階で
部分品を合わせれば直ちに現物ができ上がる
最終段階をむしろ捕捉しようとしているというふうに考えるのかどうかということがここで問題になると思います。御
案内のように、
爆発物取締罰則では、
爆発物の
製造、
所持だけじゃなくて、その
爆発物のいわば
部分品、構成物の
使用もこれは同時に
処罰しております。したがって、
爆発物の場合は、相当明らかに、
そのものとその
準備段階とを一緒にやっているけれども、
火炎びんの場合、はたしてそのことがどの
程度可能かということが問題だろうかと思います。
だいぶ長くなりましたので、各
条文ごとの一応の、私の与えられました
資料から考えられます限りでの
問題点と申しますか、主として
刑罰法規の
構成要件の
内容をできるだけ明確にするという
観点から、はたしてこの
条文がどういうものを具体的に捕捉しようとしているのかということを明らかにする
意味で申し上げたわけであります。で、
趣旨は、いま申しましたように、この種の
立法が今日の
段階で必要かどうかという
議論を
最終的にいたさなきゃなりませんけれども、そのためにも、そういう具体的な問題のありかを検討した上で、その点についての
審議が必要なのではないか。そして、いわゆる治安法といわれている分野でございますので、必要最小限度に
限定をする――たしか
衆議院段階でも時限
立法にしてはどうかという御
意見もあったそうでございますけれども、そういう点も含めまして、今後どういう
火炎びん使用の予測があるかどうかということについてもわかりませんけれども、そういう点も含めまして慎重な御
審議をなさるように私どもとしては希望したいわけでございます。
一応私の話はこれで終わります。(拍手)