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参考人(
市川房枝君) 私は、
沖繩の
売春については、三十六年の六月に
キャラウェー高等弁務官から招待された
衆参各党派の代表十余名の中に加わって参ったのが初めでございます。そのときちょうど
一緒に参りました
社会党の
戸叶里子さんと二人で、ある晩おそく
沖繩の
新聞社の人に案内をされまして、
沖繩の
コザをはじめ
売春街を見て回りました。そして、全く何らの制限なく、いわゆる
売春花盛りとでも申しますか、そういう
状態を見て実にびっくりしたわけでございます。その後三回訪問いたしまして、この問題についても
心配をしてまいりました。
しかし、きょうは
沖繩立法院で
売春防止法が制定された
経過、その後の
処置なんかについて、私が
関係してまいりました、あるいは知っておることだけを簡単に申し上げたいと存じます。
私は、一昨年すなわち四十五年の三月四日に開催されました本院の
予算委員会で
佐藤総理及び
山中総務長官に対し、
沖繩における
売春問題について
質問をいたしました。そのころは、ちょうど
沖繩が一九七二年に返還されるということが大体きまっておりましたときでございます。返還されれば、この二十四年間の異民族の
占領下にあった
沖繩の
方たちが、初めて
人権の尊重を
規定をしております
日本の国の
憲法のもとで
生活ができる見通しとなったときでございます。ところが、
沖繩の女の
人たちだけは、その恩恵に浴することができないのではないかという
心配がある。それは
沖繩では、
本土で施行されております
法律はほとんど全部そのまま
沖繩の
立法院を通過して施行されていいのでありますが、
売春防止法はできておりませんでした。
琉球政府から
立法院に
法案は提案されておりましたけれ
ども、ほとんど審議されていなかった、こういう
状態でございました。
売春防止法の
実施には多少
準備が要りますので、早く
法律を成立させなければならないのじゃないか。こういうわけで、
総理と
官房長官に対して早く
法律が制定されるようにしてほしい。何でも
本土の
政府の一部には、
売春防止法だけは二、三年施行を延期するというような
意見もあるということがありましたが、そういうことになってはたいへんなんだ、こういう
意味で
質問をしたわけでございました。
それに対して
総理と
山中総務長官とお二人から
答弁がございましたが、簡単でございますのでちょっとそのときのことを読んでみたいと
思いますが、
山中総務長官が、まず「
沖繩を担当いたしておりますから私からお答え申し上げます。」ということで、「御
指摘のとおり、現在
沖繩におきましては、
米軍の
弁務官布令第百四十四号による主として
米軍要員に対する
売春の
禁止、並びに
一般刑法による
管理売春の
禁止、あるいは
琉球政府の
立法による婦女を
売春せしめたる
者等の処罰に関する
法律等々が一応あるわけでございますけれ
ども、それらの問題は、
市川委員御
指摘のとおり、
現状において、
米軍みずからが定めたそのような
禁止法令が守られているかいないかは、はなはだ疑問に思われる点が現象としてございます。そこで私も
沖繩の
現地をよく知っておるわけでありますが、そこらの
事情の
視察だけを私いたしておりませんでしたので、
総理府の
売春対策審議委員の方をわずらわしまして、下
調査と申しますか、
現状を把握していただくように、いまお願いをいたして、もう出発されるところでございますが、結論といたしましては、
本土に返りましたならば、
売春防止法は直ちに
現地に適用できるよう、その前に現
琉球政府におきまして、
本土の
売春防止法そのままの、準じた
立法をしていただくよう、またそれに対して
琉球政府が
立法の
措置をいま議会に対してとっておられるようでございます。以上のことを御報告申し上げておきます。」という
答弁でございまして、これに対して私が、「いま
総務長官は
沖繩でそのほうの問題だけを見てこないとおっしゃったのですが、実は一昨年秋、当時の
園田厚生大臣が
沖繩に
おいでになって、ひそかに
視察をなさった。さて、お帰りになってから、
日本の
新聞で「厚相、
がく然、
沖繩の
売春」なんていうような見出しで大きく発表されたのですが、現在の数字は約七千四百人
売春婦がいる(過去五年間に倍数にふえている)それでその九九%が平均五、六百ドルから、最高は四千ドルぐらいの
前借金があって縛られ、まるで戦前の
日本の遊郭の仕組みそのままが現在適用されているらしいのです。それでしかも、その総数の七七%は
生活のために
売春をしている。それから四〇%以上が子供を持っている
人たちだということであります。これはまあ
基地沖繩の
社会経済構造のしわ寄せが、この女の
人たちに集約されているわけであって、非常に私
どもはつらい
思いをしておるわけであります。
沖繩立法院には昨年の六月に
本土とほとんど同様な
内容の
売春防止法が提出されているらしいのですがほとんど進展をしていない。現在の
沖繩立法院は、御承知のとおりに自民党の
方々が過半数を占めて
おいでになりますから、私は
総理から総裁として、
立法院ができるだけ早くこれを成立させ、そうして
準備をしていただきたい。女の
人たちの
更生あるいは
業者の転職といいますか一そうして完全に
本土復帰のときには
婦人の
人たちにも、
日本の
憲法のもとで
人権が守られる
状態にしていただきたいのですが、
総理如何ですか。」これに対して
山中総務長官からございましたが、最後に
総理が「ただいま
総務長官から詳細に
お話をいたしました。私はもうこれで十分かと
思いますが、これは
政府の
態度であることで一言つけ加えておきます。ただ、
総務長官だけの
態度ではない、
政府自身が――と申しますことは、私の責任においてこの問題が徹底するようにいたしたいものだと、かように考えております。そのことをつけ加えておきます。またただいまの重大問題は、
禁止も
禁止だが、同時に
基地経済から抜け出る、そのためにどういう
処置をとるか。いろいろ
救済措置等につきましても万全を期する。このこともつけ加えさしていただきます。」まあこういう御
答弁がございましたが、このお
約束をいただいた結果でございますが、
政府は
総理府にあります
売春対策審議会の
委員を派遣することになっていると、
山中長官はおっしゃった、これはうそでございまして、
あとで訂正がありまして、何も
計画はなかったんでございますけれ
ども、すぐ
計画をして二人の方を
沖繩に派遣をされました。そして
現地でいろいろ
政府の意思をお伝えになったせいでございますか、いまの国会での問答は三月の初めでございましたけれ
ども、急に
沖繩の
立法院が
法律を取り上げて、そして可決をし、四十五年の七月の十日に公布、即日
実施をされることになったわけでございます。もっとも、
本土の場合と同様に、第四章の
更生関係は、一九七二年の一月一日から――これはことしの一月一日という
意味でございます。第二章の
刑事処分は、一九七二年の七月一日から――ことしの七月一日からとなっておりますが、第一章の総則はちゃんと生きているわけでございます。それから四十六年度の、そこで
本土の
予算の中に初めて
沖繩における
婦人保護関係の、いわゆる
沖繩財政援助費として
予算が計上されておりまして、その内訳は省きますけれ
ども、四十六年度総額で申しますと、五千六百六十五万円という
予算ができております。もっともこの
予算の編成されますときに、前からの
関係がございましたので、実は
戸叶さんと私が
北方対策庁に伺って、
沖繩の
売春は
本土とは少し違うのだだから、
本土並みでなくて、
予算を少しふやしてほしい、あるいは
婦人相談員もふやしてほしいというようなことを申し上げて、
幾らか取り上げられましたけれ
ども、いま申しましたような五千六百六十五万円ということで、この中にいわゆる
保護施設の
整備費というもの、それから
婦人相談所の
整備費あるいは
婦人相談員の
設置費、職員の
設置費等々が計上されておるわけでございます。もっともこれより先、実は
法案が通りました
あと、三、四カ月後の四十五年の九月に私は
沖繩へ参りましたんで、
立法に協力した
婦人団体の幹部の
人たちあるいは
琉球政府の
関係者の
方々と御
一緒に、この問題について話し合いをいたしました。ところが、そこで私が実はびっくりしたことは、その席には、たまたま
社会党の
土井さんが
沖繩に
おいでになっておりましたので、
土井さんにも列席していただきました。で、話をしておりますうちに、
沖繩の
現地の、ことに一生懸命やった
婦人団体の人が、
法律はできたのだけれ
ども、まだ施行されていないんですと、二年先に延びているんですと、こうおっしゃるんです。私はびっくりしてしまいまして、それから
沖繩の
売春防止法の法文を持っておりましたので、それをちゃんとお目にかけて、それで第一章は生きているんです。二章、四章はなるほど延期になっている。それで第一章の第三条に、
日本の
本土の
売春防止法と同じように「何人も
売春をし、又はその相手方となってはならない。」こういう
規定がございます。もちろんこれは
倫理規定でございまして、それに対する罰則はついてないのでございますけれ
ども、それを私が申し上げましたら、それはそうでしたね、というようなことでみんなびっくりしていたわけでございまして、私のほうもさっき申しましたようにあ然としたわけでございます。
沖繩では、したがって
法律ができても何らそれに対する警察のといいますか、
措置はしないで、前のとおりそのままほうっておいたと、こういう
状態でございます。
それから女の
人たちの問題として、さっきも申しましたけれ
ども、
前借金の問題が非常に重要九問題だということで、私は、
本土の場合には
前借金は
棒引きということで
処理をしたんです。
本土に
売春防止法ができましたときは、私
ども関係しておりましたので、そのことをよく承知しているわけです。ところが、
沖繩でちょうどその席に
沖繩の法務局の方にも来てもらっておりましたけれ
ども、それは言えないと、こうおっしゃるんです。だから、裁判をすれば公序良俗ですか、に反する契約は無効だという、これは民法の
規定によって
棒引きになる、
売春を条件とした
前借は
棒引きになるのだけれ
ども、単に
棒引きだということは言えないと、こうおっしゃるんです。そこで私は、その問題はむしろ
沖繩の問題よりも
本土の問題、
本土の
政府当局がどう考えているかという問題でしたけれ
ども、とにかくそういう
状態でございましたので、
一般の
沖繩の
人たち、女の
人たち、あるいは
業者の
人たちにももっとこの
売春防止法の
内容というものを徹底、普及する必要があるんじゃないですかと、こう申し上げて、
沖繩立法院の
当局の
方々が、
宣伝の
予算も少しはあるとかおっしゃっておりましたけれ
ども、少し私が差し出口をしまして、
宣伝のための
ポスターをつくると、その
費用がなければ、私
ども本土のほうで金をつくって送りましょうと、そうして
本土の民間の
団体の名前ならば、厳格な
法律も必要ないから、
前借金は
棒引きですということも書きましょうと、それから
売春防止法は生きているんだというものをつくろうということでしたが、同時に、その席に集まった
人たちで、やはりこれも
本土の場合で言ったように
売春対策のための
一つの
委員会をつくって、そうして皆さんで協力してやっていただく必要があるんじゃないかというので、その場で直ちにその
委員会ができたわけですが、これは後にもう少し公の
団体なんかも入りまして変わったんですけれ
ども、そういうことで帰ってまいりまして、さっそく
ポスターをつくって、なるべく早く張ってほしいと一万枚ほど
沖繩の
東京の出張所を通じて送りました。ところが、
あとでの報告には、私
どもはうっかりして
日本の年月を書いちゃったんです。
昭和何年と書いちゃった。ところが、
沖繩では西暦で千何百年。ですから、ここのところはぐあいが悪いからすぐ出せないという話を聞いたのですが、ごく最近に
沖繩に行って調べてみました方から伺いますと、
沖繩立法院の
政府のほうで、それは
ポスターはちょっと困るからと言うんで押えられていて、実は配布されていないんだということを聞いて私
ども驚いているんですけれ
ども、とにかくそういうことがございました。そのときに
本土へ帰りましてから、
厚生省あるいは
婦人少年局なんかの方に
一体前借金の問題はどうなっているんだということを聞いたんですが、まあ、
政府のほうのいわゆる公の書類でもって
棒引きだという通牒は出ていないことを確かめたんですけれ
ども、しかし、結果としては事実
棒引きで
処理をしたわけでございますが、それでどうも何といいますか、私はそういう
関係を持ちましたので
沖繩の
売春がどうなっているかと、ことに重大な
前借金はどうなっているかということを
心配をずっとしてきておりますが、その
経過を見ても、
沖繩がまだ
施政権がアメリカにあるから、
日本の
政府があまり公に手が出せないということもあるかもしれませんけれ
ども、しかし実質的にはもう前からかなり
行政の指導はして
おいでになるわけですし、
本土の
政府がやろうとお
思いになれば、さっきの
売春防止法がほんとに一夜にしてできたみたいな
経過から見ましても、できるんでございますから、それが現在ちょうど返還を目の前にしてさっき申しましたけれ
ども、ちゃんと
予算が
本土ではあって、そして、
沖繩に
女たちの
保護施設をつくる
予算が三千何百万円ちゃんとついておるんですけれ
ども、それはことしの一月一日からほんとは
婦人たちの
保護の面は
法律は施行されているわけなんですけれ
ども、建物もできていない、その他非常に
準備がおくれているということを知って、これはやっぱり
本土の
政府があまり熱意をお持ちになっていないんだ。私に、前に
約束してくださいました
山中総務長官あるいは
佐藤総理のお
約束が必ずしも実際に守られていないんだという感じを実は持っているわけでございまして、私の
関係いたしました範囲内でだけ簡単に申し上げさしていただきました。