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参考人(森主一君) 私がこの場で御
意見を申し上げますのは、おそらく御期待は私の専門的な立場からの
意見であるというように思いますので、この場の私の専門といいますのは、湖沼
——湖の生物を
研究しておるということだと思います。ですかから、そういう点から御説明したいと思います。
それで、この総合
開発の問題点が二つあろうかと思います。マイナス一・五
メーターの
水位低下がときどき起こる、その問題と、それから
琵琶湖の
水質の汚染の問題ということになると思います。
それで、マイナス一・五
メーターの
水位変動がときに起こるということに関しましては、私ども昭和三十六年から昭和四十一年まで足かけ六年間
建設省の委託を受けまして
琵琶湖生物資源調査団というものをつくりまして、
琵琶湖の生物をこういった見地から
研究してまいりました。それで、その後も現在に至るまでそういった方面の
研究を続けております。ですが、きょうは非常に時間が限られておりますので、その問題はわりあい短時間で終わらしていただきたいと思います。と言いますのは、ここにこういう、これは
建設省がお出しになっております「
琵琶湖生物資源調査団の報告」というのが一般に出ておりますので、これをごらんになれば大体わかります。まあなかなかわからぬかもしれませんが、わかるはずでございます。ですが、まあかいつまんで申しますと、
影響は下等な生きものほど少なくて、高等な生きものほど多いということが言えます。それで、かつ漁獲の対象になっておりますのは、高等な生きものですね、魚とか貝とか申します高等な生きものでございますので、したがって、そちらのほうの
影響というのは相当
考えなければいけない。
それで、魚に関しましては産卵場の問題、大体岸近くに来て産卵するのが多いです。それから、子供がそこで育つわけです、モがたくさんはえております、その下で育つ、その問題。それからアユですね、特に
琵琶湖で非常に重要なのはアユでございますが、これは全国の放流アユの八〇%は
琵琶湖のアユを使っておるわけですから、単に
琵琶湖だけの問題ではなしに、全国の問題であります。そのアユの遡上、川へさかのぼってくる。これは年に二回のぼります、春と秋です。春のときにのぼってくるのは成長のために川へ入ろうとする。それをつかまえて全国へ放魚のために出すわけですが、秋ののぼってきますのは川の口を入って、そこで産卵するためにのぼってまいります。この
水位低下によりましてその時期によりまして、もし 上の時期に当たったら、これは重大な
影響があるということが言えます。そういう魚の
影響のほかに今度は貝ですね、
琵琶湖は御承知のように養殖真珠をやっておりますが、その母貝が「イケチョウガイ」という貝ですね、そのほか「セタシジミ」という有名なシジミがありますけれども、特にこの「イケチョウガイ」は深さが二十
メーターぐらいのところまでおります。おりますけれども、親の住む場所と子供の住む場所が違う。それで、子供は深さ五十センチから三
メーターぐらいの間に最も多く住んでおります。したがって、
水位の変動というのはその部分で最も起こるわけであります。そうすると、この真珠母貝の生産というものに非常に大きい
影響がある。あるいは養殖真珠のいかだの問題もございますけれども、そういう点はちょっと省略いたしまして、そういった問題が
水位低下に関してございますので、あるいは漁具とか漁法とかのいろいろな問題がございます。
しかし、そういう問題は一応その
程度にいたしまして、こういう
影響があるだろうというようなそういうことを
考える前に
琵琶湖の現状がどうであるのかということをまず認識する必要があると思います。この点でいままでお述べになった方の中の御
意見と多少違う点があるかもしれませんが、私どもは
琵琶湖の岸に
研究所がございまして
琵琶湖の定期観測というものをずっとやっているわけでございます。その結果の一、二を御紹介したいと思います。
私どものやっております、プランクトンの調査、こういうものをやっておりますが、この
植物プランクトンあるいはバクテリア、そういうものが最近異常に繁殖しております。それで、御承知のように、京阪神にくさい水騒ぎというのがございました。これは一九六九年ですから昭和四十四年ですか、そのころから非常に激しくなりまして、それであれは光化学スモッグみたいに急激に広がって、そしてことしなどはもうすでに始まっておる、初めのうちは夏だけということだったのがだんだんと広がりつつあります。それで、これは全く
植物プランクトンの異常増殖あるいは放線菌といいますバクテリアがございます、そういうものの異常増殖、そういうものから何か
においが出るということらしいですが、そういうことが、昭和四十四年以来急激に起こってきたということ。それからもう一つ、これは
南湖の話ですが、水道を取り入れているのは。それじゃ一体、
琵琶湖の大橋ですね、あれから北の非常にきれいな水があると
考えられる、あの部分はどうか、あれはやっぱりきれいじゃないかということがございますが、どっこいそうじゃない。それは私どもはあそこの北の七十
メーターの深いところで調査を毎月一回やっておりますけれども、そこの生きものを見ますと、われわれ見ますのに、一平方メートルに何ぼ生きものがおるかという、面積一平方
メーターを見るわけです。そこにもっぱらおりますのは、「イトミミズ」といってミミズの類です。これは金魚屋などで売っている赤子というやつですね。あの「イトミミズ」が湖底べた一面におるわけです。それが昔は非常に少なかったんですね。ところが一九六六年、六七年ごろから、いまから五年ぐらい前から大増殖を始めまして、それでその当時一平方
メーターの面積の中に重さにして五
グラムくらい「イトミミズ」がおったんですが、逐年増加いたしまして、去年は二十四
グラムになっております。
つまり五倍ですね、五年間に五倍といったら、毎年こうふえていっておるわけです。きれいな水をたたえているように見えますけれども、
汚濁は着実に
進行しておるということでございます。
それからその付近に、底の
酸素、
酸素の量は非常に重要でございます。この
琵琶湖の底の
酸素がどうなっているか。それで、生きものは
酸素を呼吸しております、水の中に溶けている
酸素を呼吸するわけでございます。もしも腐敗したものがございますと、その腐敗したところへバクテリアなどが繁殖しますし、あるいは腐敗したものが物理化学的に酸化させられるということで、やはり水の中に溶けている
酸素をとる。したがって、きたないところでありましたら、
酸素が減るわけです。ところが、
琵琶湖の七十メートルの北のきれいだと
考えられているところのそこの水の中の
酸素は、これまた着実に減っているわけです。いまから五年ぐらい前でございますと
——溶け得る最大量がございます、水の中に溶け得るかりに最大量を一〇〇といたしますと、数年前までは一年の中では一番少ない時期で六〇%以上の
酸素が溶けておりました。ところが、それが逐次減りまして、一九七〇年というと昭和四十五年ですか、そのときには三二%になっておる、溶けておる
酸素が。
つまり、それだけ
有機物がたまってきたということです。ですから、着実に
汚濁化が進んでおるということこういう現状に立ちまして、これはせっかく水をとろうとしましても、あるいはまたさっきのお話の観光とか、レクリエーション、そういうものを
考えるにしましても、水がよごれてくればこれは全部御破算ということになります。ですから私としましては、何よりも申し上げたいのは、まず何よりも
水質がよごれていくことを防止する。これは今度の措置法にちゃんと修正としておつけになりました。「
自然環境の保全と
汚濁した
水質の回復を図りつつ、」とこれがぽんと一番に出ておる。これを非常に私重要視していただきたいというように思うのでございます。
それで、その措置で
琵琶湖の場合は、まあこれは川よりはその措置がむずかしい、たまりますから。先ほどのお話のように、入った水が五年半もたまっておる。五年半たまっておる間に、きたない入ってきたものを全部
琵琶湖がこしておって中へためる。そうして上澄みを瀬田川へ捨てる。そういうかっこうになるわけでございます。ですから湖の場合は、
汚濁防止は川よりはむずかしい。しかも、湖でも深い大きい湖は小さい湖より一そうむずかしい。だから
諏訪湖の汚染防止を
考えるよりは
琵琶湖の防止を
考えるほうがもう格段にむずかしい。それからさらにむずかしいことは
農耕地があるということです。いま
津田さんがちょっとおっしゃいましたけれども、この
農耕地からの農業
肥料ですか、そういうものの汚染に対する貢献度というものは、
都市排水あるいは
工業排水、そういうものに比べて非常に大きいパーセントを占めております。これは数字などは一応略しますけれども、ですから一体何をとめていいのか、農業の
排水路から出てくるもの、これをどうしてとめるかというと現在ほとんどお手あげの
状態だと思う。ですからたとえ
都市排水をうまく
処理しても、
工場排水を
処理しましても、この農業
排水から出てくるものがお手あげであれば、これは
汚濁は
進行するにきまっておる。ですから、それに対していろんなことを
考えなきゃなりません。そういうことでございますので、少なくもまずいまやるべきは、
下水道の完備、これはこちらの皆さんお触れになりましたので説明いたしませんが、
下水道の完備あるいはし尿
処理施設の完備ですね、そういうものは何をおいてもやらなきゃならぬ。
それから
滋賀県というより、まあ
琵琶湖はおそらくいろいろな
関係だと思いますが、内湖をどんどんつぶして、この内湖をつぶすということは水産上の
影響ということも大きいのでございますが、しかしあそこは、
排水が入ってきてあそこで沈でんしておって、
排水を浄化しておったわけです。その浄化池をなくしたということですね。ですからきたない水が、そのまま
琵琶湖へ入るようになった。これは非常に大きい。ですから内湖的
環境というのは大いに造成する必要がある。それからいま
三村さんもお触れになりました湖周自動車道、これは昨年の十月ですか、朝日新聞が全国で調査なさっておりますけれども、まあ全国の国定公園、国立公園で、その破壊の元凶というのは自動車道であるということになっておるわけです。ですから、これは
三村さんの御
意見よりは私はもっと強く、こういう湖畔を自動車でばっと走るというようなことはもういけない。それで遊歩道とかあるいはせめてサイクリング道路ですか、そういうふうなものにすべきであるというような
考えを持っております。もう少なくも、この
環境整備の手段が十分にできるまではそういうふうにすべきである、あるいはまあ日本人のモラルの問題もございましょうが、そういったものが十分でない段階でどんどん仕事を進めるべきでないというように思うんです。
時間、もうちょっといただきたいと思うんですが、それで私は、一体それでは
琵琶湖、
琵琶湖といって、
琵琶湖の価値というのは何か、これは私かねてからこれには四本の柱があるということを
考えております。その一本は、水そのものの価値でございます。
つまり下流で水がほしい、
工業用水、水道水がほしいという、この無機物であります水ですね。この水そのものの価値、水資源といいますか、それから二本目が、これは水産上の価値でございます。三本目は観光上の価値、これはこちらがお触れになりました。観光上の価値ですね。それから四本目、この四本目が十分に認識がないように思いますが、それは文化教育上の価値と私称しております。
琵琶湖は、これは数百万年あるいは一千万年以上古い歴史を持っておる。あの湖は世界でシベリアのバイカル湖、それからアフリカのタンガニーカ湖、それに次いで
琵琶湖というくらいに古いということになっております。その他の世界の湖はたいてい数千年あるいは数万年の歴史なんです。これが数百万年あるいは一千万年、こういう歴史を持っておるという湖は世界で非常に珍らしいわけです。そういうものでありますがゆえに、日本列島の歴史とかあるいは地球の歴史とか、そういうものを調べることによってわかってくる、あるいはそこに住んでおる生きものを調べることによって生きものの進化の歴史がわかる。現に日本に住んでおります淡水産の貝が六十種おります。その中で
琵琶湖に四十
種類おります。そして、
琵琶湖だけにしかいない貝が二十
種類おります。
つまり、日本に住む貝の三分の一は
琵琶湖だけにしかいない。ですからそういった点を
考えますとこれはいま貝だけ申しました。その他生きものよく似ております。ですからまさに国宝的な価値があるというように私
考えます。この文化教育上の価値というものをあまり大きく言っておりませんので、これを特に強調しておきたいと思います。
それで、四本の価値をそれぞれ点数を与えなければならぬわけですね。それで、今回の措置
法案では、地域住民の御
意見を聞いてやらなければならぬというようになっております。これはまことに私けっこうなことだと思うのです。それは最終的に地域住民がそれぞれに点数を与えて、どういうふうにしていく、
琵琶湖の運命をきめていくということだろうと思うのでございますけれども、いまの文化教育上の価値というものがどの
程度に点数が与えられるか、これはひとつ特に参議院などでよくお
考えいただきたいというように思うのでございます。
ですから、終局的に工事をおやりになるならば、この手順というものを
考えて、
水質保全、こういう
関係の工事をまずやる、それがちゃんとなった段階で、次に進むというようにしていただきたいというように私は思います。それだけです。