○吉田賢一君 私は、民社党を代表して、
昭和四十五
年度決算につき、佐藤
総理並びに
水田大蔵大臣に対し若干の
質疑を行ないます。
第一は、福祉国策についてであります。
顧みますると、
昭和二十年終戦直後、物資欠乏のときに、将来のため生産重視の
経済政策と、一方、憲法に宣言しました福祉
国家の建設は、国策の二つの大きな柱でありました。
国民の手になる生産が万人のために公平に分配せられ、道義と平和の国づくりに邁進することは、
国家最高の
目標でもありました。ところが、国策は、生産第一、
経済、至上主義として推進せられて、
国民福祉は軽視せられ、一方、消費水準の高まりにつれまして、生活の多様化、社会環境の立ちおくれの目立ち、あるいはまた、
物価高、
公害等続発してまいりまして、社会悪が重なってきたのであります。加えて、ドル・ショック、不
景気によって社会的な多くの矛盾があらわれ、が然国論は沸騰して、
経済至上主義への熾烈なる反省と福祉
充実を求める
国民的世論が燃えあがりました。
わが国の社会保障は、考えてみると、制度としては一応形式は整ったようですが、中身の貧困さはヨーロッパよりはるかにおくれて、問題は山積しております。一、二、例を指摘しますると、たとえば医療保障、公衆衛生の不備、医療とその負担の過大、医師、看護婦などの不足、リハビリテーションの不備、あるいはまた住宅国策の貧困さは、住宅難、住宅困窮世帯がはんらんしております。ことに物的生活環境の施設のごときは西欧の二分の一以下といわれております。さらに、最近の
公害の続発では、各地とも問題が次第に重大化してまいりました。
一体、何が原因であろうか。一言で言いまするならば、
経済至上、
高度成長国策の強行が、福祉を置き忘れた型の
財政政策となって繰り返してきたのであったことです。これが重要な原因です。ところが、いまや、好むと好まざるにかかわらず、
経済は、
国民のため、福祉の
充実、
国民の豊かなしあわせの実現に役立つべき本来の位置づけに立ち戻らねばならない。
この点から、
昭和四十五
年度決算を通じて見ましたときに、福祉国策に対する基本姿勢について、佐藤
総理の所信を伺っておきたいのであります。
第二は、
物価問題につきまして。
物価は、佐藤
総理の再三の公約にかかわらず、依然として上昇を続けております。四十五
年度予算の編成の方針につき、時の福田蔵相は、
物価抑制を眼目とうたいましたが、同
年度の
消費者物価は、戦後、インフレ期を除きまして最高でありました。四十六年も
政府予想よりはるかに上回り、四十七
年度はまた、
物価対策費は実に一兆四百二十一億円も計上しております。佐藤
総理の所信表町にも、重要施策だと述べ、あるいはまた、昨年私の
質問に対しましても、
物価対策はただ実行あるのみと決意を強めておると答えられました。しかるに、本
年度は、公共料金の値上がりが豪雨のように押し寄せまして、
国民は
物価厄年と嘆いております。
顧みると、十年前、
物価問題懇談会が設立せられまして以来、閣
議決定
事項も加えまして、幾たびか数十項目にわたりまして重要な
物価安定対策、
財政金融対策が決定を見まして今日に至っております。佐藤
総理の言のとおりに、実行あるのみで経過したのです。しかも、依然として年ごとに上昇の一途をたどってきました。
政府は、佐藤
総理の責任でなすべき施策は実行し、公約を果たさねばならぬのではありませんか。
忍び寄る不況下の
物価高に、町の感じは何とのう暗い。
国民の声なき声は、
物価の安定と暮らしの安らぎの念願であります。政治家は、一言をいやしくもすべきでない。言に忠実に、約を重んじ、所信を行なう。
物価安定対策の公約の実行につきまして、佐藤
総理はほんとうに偽らざる所信を述べてもらいたい。のみならず、この問題につきましては、
大蔵省も膨大な
物価対策費を
予算に組んでおる
財政当局でありまするので、相当な責任をもちまして所信を明らかにしてもらいたいのであります。
第三は、行政改革につきまして。
行政改革の問題は、幾たびか佐藤
総理は確約をせられ、臨調の積み上げた所産であります。また、他面、池田前
総理の貴重な遺産でもありました。それがいまなお未解決の
案件でありまするので、ここに重ねて伺わねばなりません。
自民党の故川島正次郎氏は、
昭和四十五年の九月に行政改革について新提案をして、
予算編成の方針等について内閣に総合企画庁の設置をすべきだとなし、そして他界せられました。いまはなきこの川島先輩の高邁な政治姿勢によりまする提案が一体どうなったのでありましょうか。しばしば行政改革の推進を約された佐藤
総理さん、いかがでしょうか。
また、去年の十月には、行政監理委員会は「行政改革の
現状と課題」を発表しました。特に重要なのは、その
最後の一節であります。すなわち、いわく、行政監理委員会は、
昭和四十年に設立せられた、自来、臨調の改革意見の実現のために
審議し努力をしてきた、
政府も臨調意見に沿って改革を推進するということをしばしば言明してきたが、当委員会の見解によれば、
政府の不十分な改革の
措置を効果的改革であるように、隠れみのとして利用せられたとの批評があるが等、辛らつな
政府への強い
発言をしたのであります。しかも、その長は、行政管理庁の長官であります。
行政改革につきまして、何が一体阻害原因であろうか。第一は、官僚機構の抵抗であります。第二は、
各種利益集団の活動であります。第三は、
国民が平常から関心度が薄い、不足しておるのであります。結論的に、改革の厚い壁は打ち破られなんだと主張しておりますが、他面におきまして、
国会審議の場で、各党は政治的なイデオロギーの差を超越して、
国民的合意に達し得べき基本線を見出し得るのではないかと、一つのアプローチを示しておるのであります。そう指摘いたしまして、かつ、幾多の提案をなして、終わりに、行政改革の推進を強く期待すると結んでおります。
最近、この行政監理委員会は改組の事態に直面しましたことは、公知の事実であります。四十五
年度の
決算審査にあたりまして、行政改革をなすことなくしては、
物価も
公害も、その他多くの政治問題の解決が容易にあらずということを考えまするときに、この池田前
総理の貴重な遺産である、しばしばの
国会への公約である行政改革につきまして、佐藤
総理は、何らかのほんとうに偽らざる所信を表明せられる責任はないのでしょうか。私は、あらためてこの機会にあなたの所信を伺います。
同時に、
水田大蔵大臣に対しましても、この行政改革につきまして相当な御意見があってしかるべきでないでしょうか。なぜならば、それは、膨大な
予算につきまして、それぞれの各省庁ともあんばいし、これを使っていく、これを平素もいろいろと見詰めていく、編成に参加していくという重要な立場にありますので、一言なかるべからずと思いますので、お尋ね申し上げたいのであります。
そこで、私は
最後に伺いたいのであります。ちょっと新聞を朗読させてもらいたい。
政治の
あり方。政治は、単に個人のものでも、リーダーのものでもない。
国民大衆のものだ。別な言い方をするならば、神の声を聞くことだとも言い得る。つまり、各階級、階層のあらゆる意見を聞いて、そしてその後、勇断をもって実行する、これが政治家の使命にほかならない。現代の文明の欠陥は、人間不在だといわれる。しかし、われわれの対象は人間で、人間性の尊重が思想的にもにじみ出なければならない。
経済成長の陰に人間性が滅却されているのは残念でないか。これが特に中小企業、農民に対する思いやりのなさになってあらわれておる。いまの政治に欠けているものはビジョンと総合的なソーシャルプランニングのないことだ。身近なもの、具体的なものばかり追いかけないで、たとえば二十
世紀もやがて終わろうとする現存、二十一
世紀への広大なる構想があってもいいのではないか。総合的施策を講じて初めて次の
時代へのビジョンが生まれる。いま欠けておるのは、こうした総合的なものの考え方だ。精神的なものを忘れた
経済の発展だけでは意味がない。総合的なソーシャルプランニングに基づかない
経済の発展が、今日のいびつな状態におちいったことを考えると、
経済成長をやかましくいう結果、中小企業、農業が立ちおくれてしまった。
繁栄の中の貧乏感をひしひしと感ずるとだれかが言ったことも考えてみたい。住宅、教育、
厚生施設などと総合的に結びつけられなければならぬのではないであろうか。
一体、この新聞の
発言はだれでしょうか。佐藤
総理、思い出してみてもらいたいのであります。非常に重要な
発言で、まさに現在の世相と政治の実情と、そしてわれわれが指摘する幾多の社会的な欠陥と混乱をまざまざと如実に語っている、同じような感じがするのでございます。
最後に私は伺いたい。
終戦直後、心ある識者が強調しましたことは、平和と道義の真正
日本の建設ということでありました。軍事的、
経済的に敗北したばかりでなく、道義的にも敗北し、
日本人の道義心の低いことが戦争によって暴露せられた。そこで、
日本の復興にはぜひとも道義の再建が必要であるといわれ、道義
国家の再建が一つの
目標ではなかったでしょうか。遺憾ながら、
日本はそうはいきませなんだ。今日の
わが国は平和ではあります。自由である。物質的には脇かで、四半
世紀にしてよく
世界の
経済大国となりましたが、道義の面、精神的な面におきましてはますます貧困になり、まことに憂うべき状態であります。
政治、
経済、
財政、行政の血はもとより、最近の忌まわしい世相、いずれを見ましても、その根本的原因は、この道義の退廃、モラルの低下に無関係ではありません。政治家は有言不実行、公約を守らない。一体これは何事でしょう。
国民はエコノミックアニマル化して、目先の利益の追求にきゅうきゅうとする。このような無責任な、無道義な状態は、
日本の将来を考えると、おそるべきことを思わずのであります。もう一度われわれは戦後再出発のあの初心に立ち返りまして反省すべきであろうと考えるのであります。
戦後最も長い間政権を担当せられた佐藤
総理、あなたの責任は、この問題を提示いたしまするときに、まことに重かつ大なるものがあることを思わざるを得ません。多くの公約をなぜ実行しないのか、できないのか、できないものをなぜすると言ったのか。政治家として恥ずべき限りであります。一体、こういうことであっては、今後の
日本はどこへ進んでいけというのであろうか。この点につきましても、佐藤
総理の偽らざる所信を承っておきたいと思うのであります。
以上をもちまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣佐藤榮作君
登壇〕