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1972-05-23 第68回国会 衆議院 法務委員会 第26号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十七年五月二十三日(火曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 松澤 雄藏君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 高橋 英吉君 理事 中谷 鉄也君    理事 沖本 泰幸君 理事 麻生 良方君       石井  桂君    鍛冶 良作君       千葉 三郎君    中村 梅吉君       松本 十郎君    河野  密君       横路 孝弘君    林  孝矩君       青柳 盛雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 前尾繁三郎君  出席政府委員         法務政務次官  村山 達雄君         法務省刑事局長 辻 辰三郎君         法務省矯正局長 羽山 忠弘君  委員外出席者         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 委員の異動 五月二十三日  辞任         補欠選任   畑   和君     横路 孝弘君 同日  辞任         補欠選任   横路 孝弘君     畑   和君     ————————————— 五月二十日  出入国法案反対に関する請願安宅常彦君紹  介)  (第三五一二号)  同(阿部昭吾紹介)(第三五一三号)  同(阿部哉君紹介)(第三五一四号)  同(阿部未喜男君紹介)(第三五一五号)  同(赤松勇紹介)(第三五一六号)  伺(井岡大治紹介)(第三五一七号)  同(井野正揮君紹介)(第三五一八号)  同(井上普方紹介)(第三五一九号)  同(石川次夫紹介)(第三五二〇号)  同(石橋政嗣君紹介)(第三五二一号)  同(上原康助紹介)(第三五二二号)  同(卜部政巳紹介)(第三五二三号)  同(江田三郎紹介)(第三五二四号)  同(大出俊紹介)(第三五二五号)  同(岡田利春紹介)(第三五二六号)  同(大原亨紹介)(第三五二七号)  同(加藤清二紹介)(第三五二八号)  同(勝澤芳雄紹介)(第三五二九号)  同(勝間田清一紹介)(第三五三〇号)  同(角屋堅次郎紹介)(第三五三一号)  同(金丸徳重紹介)(第三五三二号)  同(川崎寛治紹介)(第三五三三号)  同(川俣健二郎紹介)(第三五三四号)  同(川村継義紹介)(第三五三五号)  同(木島喜兵衞紹介)(第三五三六号)  同(木原実紹介)(第三五三七号)  同(北山愛郎紹介)(第三五三八号)  同(久保三郎紹介)(第三五三九号)  同(黒田寿男紹介)(第三五四〇号)  同(小林信一紹介)(第三五四一号)  同(小林進紹介)(第三五四二号)  同(後藤俊男紹介)(第三五四三号)  同(河野密紹介)(第三五四四号)  同(佐々木更三君紹介)(第三五四五号)  同(佐藤観樹紹介)(第三五四六号)  同外一件(佐野憲治紹介)(第三五四七号)  同(斉藤正男紹介)(第三五四八号)  同(阪上安太郎紹介)(第三五四九号)  同(島本虎三紹介)(第三五五〇号)  同(下平正一紹介)(第三五五一号)  同(田中武夫紹介)(第三五五二号)  同(田中恒利紹介)(第三五五三号)  同(田邊誠紹介)(第三五五四号)  同(高田富之紹介)(第三五五五号)  同(武部文紹介)(第三五五六号)  同(楯兼次郎君紹介)(第三五五七号)  同(千葉七郎紹介)(第三五五八号)  同(辻原弘市君紹介)(第三五五九号)  同外一件(土井たか子紹介)(第三五六〇  号)  同(堂森芳夫紹介)(第三五六一号)  同(内藤良平紹介)(第三五六二号)  同(中井徳次郎紹介)(第三五六三号)  同(中澤茂一紹介)(第三五六四号)  同(中嶋英夫紹介)(第三五六五号)  同(中谷鉄也紹介)(第三五六六号)  同(中村重光紹介)(第三五六七号)  同(楢崎弥之助紹介)(第三五六八号)  同(成田知巳紹介)(第三五六九号)  同(西宮弘紹介)(第三五七〇号)  同(芳賀貢紹介)(第三五七一号)  同(長谷部七郎紹介)(第三五七二号)  同(畑和紹介)(第三五七三号)  同(華山親義紹介)(第三五七四号)  同(原茂紹介)(第三五七五号)  同(日野吉夫紹介)(第三五七六号)  同(平林剛紹介)(第三五七七号)  同(広瀬秀吉紹介)(第三五七八号)  同(藤田高敏紹介)(第三五七九号)  同(古川喜一紹介)(第三五八〇号)  同(細谷治嘉紹介)(第三五八一号)  同(堀昌雄紹介)(第三五八二号)  同(松浦利尚君紹介)(第三五八三号)  同(松沢俊昭紹介)(第三五八四号)  同(松平忠久紹介)(第三五八五号)  同(松本七郎紹介)(第三五八六号)  同(三木喜夫紹介)(第三五八七号)  同(三宅正一紹介)(第三五八八号)  同(美濃政市紹介)(第三五八九号)  同(八百板正紹介)(第三五九〇号)  同(八木昇紹介)(第三五九一号)  同(安井吉典紹介)(第三五九二号)  同(山口鶴男紹介)(第三五九三号)  同(柳田秀一紹介)(第三五九四号)  同(山中吾郎紹介)(第三五九五号)  同(山本幸一紹介)(第三五九六号)  同(山本政弘紹介)(第三五九七号)  同(山本弥之助紹介)(第三五九八号)  同(横路孝弘紹介)(第三五九九号)  同(横山利秋紹介)(第三六〇〇号)  同(米田東吾紹介)(第三六〇一号)  同(麻生良方紹介)(第三六〇二号)  同(受田新吉紹介)(第三六〇三号)  同(門司亮紹介)(第三六〇四号)  同(青柳盛雄紹介)(第三六〇五号)  同(浦井洋紹介)(第三六〇六号)  同(小林政子紹介)(第三六〇七号)  同(田代文久紹介)(第三六〇八号)  同(谷口善太郎紹介)(第三六〇九号)  同(津川武一紹介)(第三六一〇号)  同(寺前巖紹介)(第三六一一号)  同(土橋一吉紹介)(第三六一二号)  同(林百郎君紹介)(第三六一三号)  同(東中光雄紹介)(第三六一四号)  同(不破哲三紹介)(第三六一五号)  同(松本善明紹介)(第三六一六号)  同(山原健二郎紹介)(第三六一七号)  同(米原昶紹介)(第三六一八号)  同(安宅常彦紹介)(第三六六六号)  同(大出俊紹介)(第三六六七号)  同(金丸徳重紹介)(第三六六八号)  同(畑和紹介)(第三六六九号)  同(藤田高敏紹介)(第三六七〇号)  同(古川喜一紹介)(第三六七一号)  同(堀昌雄紹介)(第三六七二号)  同(黒田寿男紹介)(第三六七三号)  同(米田東吾紹介)(第三六七四号) 同月二十二日  出入国法案反対に関する請願米田東吾君紹  介)  (第三七〇二号)  同(谷口善太郎紹介)(第三七三〇号)  同(米原昶紹介)(第三七三一号)  同(青柳盛雄紹介)(第三七八四号)  同(浦井洋紹介)(第三七八五号)  同(沖本泰幸紹介)(第三七八六号)  同(西中清紹介)(第三七八七号)  同(林孝矩紹介)(第三七八八号)  同(丸山勇紹介)(第三七八九号)  同(林百郎君紹介)(第三九一九号)  同(東中光雄紹介)(第三九二〇号)  同(松本善明紹介)(第三九二一号)  同(小林政子紹介)(第三九二二号)  同(浦井洋紹介)(第三九二三号)  同(谷口善太郎紹介)(第三九二四号)  同(津川武一紹介)(第三九二五号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案(内  閣提出第八六号)      ————◇—————
  2. 松澤雄藏

    松澤委員長 これより会議を開きます。  内閣提出罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横路孝弘君。
  3. 横路孝弘

    横路委員 刑法改正作業がずっと進められているわけでありますが、初めにその点を少しお尋ねしたいのです。  きのう法制審議会総会が開かれて、昨年の暮れに法制審議会刑事法特別部会が出した刑法改正の結論は、全面改正が必要であり、改正要綱は、それまでに部会で決定された改正案のとおりとするということが昨年の暮れにきめられているわけでありますが、その審議が始まったようでありますが、今後のこの作業見通しですね、どのような方法で、大体どの程度のところをめどにして進められていくのか、その作業見通しについてちょっとお尋ねしたいと思います。
  4. 辻辰三郎

    辻政府委員 刑法全面改正作業でございますが、ただいま御指摘のとおり、これを調査審議いたしておりました法制審議会刑事法特別部会は、昨年の十一月二十九日に、刑法全面改正をする必要がある、その場合の改正案は、この部会が決定した改正刑法草案によるのが適当であるという決定をいたしまして、これを法制審議会総会報告をいたしました。  この報告を受けました法制審議会総会は、去る四月に第一回のこの刑法関係総会を開いたわけでございまして、昨日第二回の総会が開かれたわけでございます。それで、昨日は大体今後の審議方法をどうしていくかという審議と、それから、これはまず関係ある各章を一括しながら一応この改正刑法草案というものを審議して、その上で、現行刑法改正する必要があるかどうかということも含めて、法制審議会としての意思を決定しようということになったわけでございます。そういたしまして、まず関連がある数章をもとに審議していこうということで、最初の、改正刑法草案の一章から四章までのところをまとめまして昨日は審議されたわけでございます。  かような審議方法で、この改正刑法草案法制審議会総会調査審議をしていかれるわけでございますが、私ども事務当局見通しといたしましては、おおむねこの総会審議期間は一年ぐらいではなかろうかという見通しを持っております。なるべくすみやかに審議されることを望んでおるわけでございますが、大体いまのところは、一年ぐらいの期間見通しております。
  5. 横路孝弘

    横路委員 刑法改正の問題については、これは非常に大きな問題でありますので、こまかい議論は、また法案が出された場合の時点ですることにして、いままでの議論の中から、たとえば監獄法改正というような問題も、刑法改正と足並みをそろえて行ないたい。実は小林法務大臣の当時には、刑法改正を待たないで先に監獄法改正をやるんだということで非常に一生懸命だったようですが、結局、いつの間にやらうやむやになってしまって、その次は、刑法改正と大体同時になるのじゃないかということになった。  ところが、いまの作業を見ておりますと、刑法改正のほうはもう法制審議会総会審議が始まっておるということになっておるわけですね。そこで、この監獄法改正というのはいまどんなことになっておるのか、これをお尋ねしたい。
  6. 羽山忠弘

    羽山政府委員 監獄法改正は、すでにこの法務委員会でも御質疑を受けましてお答え申し上げたとおりでございますが、四十二年の六月以来作業を行なってまいったわけでございます。いよいよ刑法法制審議会にかかるという段階になってまいりましたので、私のほうでも、これにおくれてはまことに申しわけないという次第でございますので、鋭意努力いたしまして、本年の一月末に一応矯正局の構想をまとめまして、目下、現場を含めましての法務省部内意見を聞いておる段階でございます。法制審議会刑法がかかっております間に、監獄法改正案法制審議会に諮問をいたしたい、こういうふうに考えまして、鋭意努力いたしておるところでございます。
  7. 横路孝弘

    横路委員 監獄法改正作業というのは、刑法改正にもこれは長い歴史があるわけでありますが、監獄法のほうにもこれは長い歴史があるわけですね。  その矯正局のほうでまとめられた案というものについて少しお尋ねしたいのですけれども、いままで大きなものとしては、昭和三十二年にまとめられた監獄法改正要綱草案というものと、それからもう一つは、そのあとで、昭和三十九年でしたかにまとめられた刑務所法要綱案というのがありまして、これはかなり考え方が違った二つの案になっているわけです。こまかい点は別にして、これは姿勢としては、どちらの法案に近い内容になっているのですか。
  8. 羽山忠弘

    羽山政府委員 姿勢といたしましては、どちらの法案と申しますよりも、私どもは、現在訓令、通達等を含めて運用いたしております実態を基礎に、御承知国際連合がきめております被拘禁者処遇最低基準規則というものを参考にいたしまして案をまとめようといたしておるわけでございまして、内容的には、ただいま御指摘がございました両方の案に入っておる部分も、かなりあるように思うのでございます。  したがいまして、どちらに近いかということは、ちょっとむずかしい御質問でございまして、一口にお答えはできかねるように思うわけでございます。
  9. 横路孝弘

    横路委員 では具体的に、現在の監獄法のどの点を改正なさるわけですか。
  10. 羽山忠弘

    羽山政府委員 まず二、三の例を申し上げますと、監獄、すなわち刑事施設で、監獄ということば刑法にあるわけでございまして、監獄法監獄ということばを使っておるわけではないのでございますが、刑事施設におきましては、身柄収容確保するということが、未決たると既決たるとを問わず非常に重要な問題でございます。そこで、身柄収容確保内部の規律、秩序の維持というような問題があるわけでございますが、これについて、保安上の措置というものがどの程度にとれるものとすべきであるか。前々から御質問がございます戒具とかあるいは懲罰とかいうような問題があるわけでございますが、これは保安上の措置と申しますと、すぐ基本的人権という問題にぶち当たるわけでございまして、そういうものの措置をとります場合の要件を、できれば具体的に妥当な線が確保できますように、なるべく詳細に規定したほうがいいのではないかというようなことで、ここでかなり条文を詳しく書こうとして、何回も書いては消し、書いては消しというような努力をいたしておるわけでございます。  第二点は、現在の監獄法におきましては、被収容者処遇に対して不満を持ちましたときに、所長に対する面接と情願というような二つ制度しかないわけでございますが、最近は行政不服審査法というようなものができておりまして、所管の大臣に対してじかに不服の審査を申し立てる制度ができてきておりますので、こういうものを監獄法の立案の中に取り入れることはできないものであろうかというようなことを考えまして、これも目下内部で案を練っておるのでございます。  次は、御承知のように、行刑面におきましては非常にいろいろな処遇方法が進みまして、被収容者外部通勤するとか、あるいは開放的な処遇などと申しまして、へいのない刑務所というようなものを、すでにある程度試行的に実施いたしておるのでございますが、これが無制限にやれるというようなことになりますと、懲役、禁錮は監獄に拘置するという刑法条文との関係におきまして、非常に問題が起こるわけでございます。どの程度開放状態であれば拘置ということになり得るのであろうかという点に、非常にデリケートな問題があるわけでございます。こういう点で、教育的処遇近代化あるいは社会化と申しますか、そういう点にかんがみましていま検討を加えており、作業賞与金その他の法的性格等につきましても、国際的な基準参考にいたしまして検討を加えておるというような状況にあるわけでございます。
  11. 横路孝弘

    横路委員 矯正局の案はもうまとまって、いま言われた検討というのは、法務省の中の検討ですか。
  12. 羽山忠弘

    羽山政府委員 さようでございます。
  13. 横路孝弘

    横路委員 そこで、その矯正局の案についてお尋ねしているのですけれども改正点としてあげられた点、たとえば身柄確保ということも確かに一つ要件ではあるでしょうけれどもあとはもっぱらいかに教育をするかということですね。これもやはり、刑務所の中における監獄法が対処すべき一番基本的な問題だろうと思うのです。  そこで、たとえばいま言われた中間処遇制度としての外部通勤制とか一時帰休制というようなものは、採用されているのですか、いないのですか。
  14. 羽山忠弘

    羽山政府委員 ある条件をつけまして、採用しようといたしておるのでございます。  ただ、わかりやすく申し上げますと、きょう施設収容者が入ってきた、それをさっそくあしたから外部通役に出すというようなことは、おそらく許されないことであろうと思うのでございます。出すにいたしましても、どの程度条件が具備した場合に出したらよいかというようなことにつきましては、なかなか現場その他でも意見がございますし、法律家法律家なりに、現場現場なりにいろいろ意見を申しますので、それらの調整がなかなか手間どりますのと、一応実態がある程度固まりましても、それを法律条文に書くということになりますと、これはまた別の困難が伴いますので、なかなか思うようにならないということが現状でございます。
  15. 横路孝弘

    横路委員 その辺のところが、実は先ほど言った二つの案の大きな対立点になっているわけでしょう。つまりものの考え方が、身柄確保というところに重点を置くのか、もう少し教育というところに重点を置くのかというあたりから、そもそも刑罰とは何かというところの議論にまで実は対立が根ざしていて、この二つ法案というのは、姿勢において非常に違うわけですよ。いまの矯正局長の御答弁ですと、何か条件をつけて、条文上きちんと一応制度として確立したいということですか。現実には、外部通勤制なんというのは四国のほうで行なわれていますね。外部通勤制ということに値するのかどうか別にして、一応そういう形でもって、一般民間工場刑務所の中から出ていって仕事をやらせていますね。そういう制度としてやることには、現場反対があるとかおっしゃってはっきりしないのですが、一応制度としてはつくられるということになるわけですか。
  16. 羽山忠弘

    羽山政府委員 現在実施いたしております外部通勤制なり開放的処遇なりは、現場の諸君は非常に進歩的でございますから、外部通勤制とか開放的処遇とかということでいろいろ御説明も申し上げると思いますが、実は現実に実施いたしておりますのは、受刑者が単独で外に出てまいりまして、通常のサラリーマンが通勤するのと同じように行って帰るというのではなくて、何らかの意味職員がついてまいりまして、職員が監視をいたしております。その意味では、厳格な意味での外部通勤制ではないわけでございます。私ども国際連合基準などから理解いたしまする開放処遇あるいは外部通勤と申しますのは、文字通りの開放処遇あるいは外部通勤でございます。それが、自由刑に処せられた者がすぐそういう状態に置けるということでは、何のために自由刑を言い渡したのかということで、理論的に衝突が起きるわけでございます。  それからもう一つ、実務的には、もしこれを実施いたしまして、万一失敗例が非常に山積いたすということになりますると、結局外部通勤なり開放処遇それ自体が自殺するということに相なりますので、実務面においてまず開放処遇なり外部通勤なりを実施いたしまして、まず絶対間違いがない、百発百中というわけにはとうていまいらぬと思いますが、相当程度確実に通勤に出した者が帰ってくる、開放的に処遇いたします者はまず逃げないというような実績が、現場の経験からいいまして判断ができる、その判断をする基準は何であろうかということが、まず実務的な角度からの第一点の問題でございます。  次は、法律的な問題といたしましては、仮釈放要件期間が過ぎたというような者は、あるいは通勤にいたしてもそうおしかりを受けると申しますか、刑法立場から申しましても、もう仮釈放期間が過ぎたんだから、まだ仮釈放の許可はきていないけれども、試験的に通勤をやってみるあるいは開放処遇をやってみるというようなことが許されるのではないかというような意味で、そこを、法律的な要件も加えまして規定はできないものであろうかというふうに考えておるわけでございます。
  17. 横路孝弘

    横路委員 矯正局のほうとしては、できるだけ取り入れたいというのが大体の意見でしょう。つまり、現場意見はそうだというのだからね。したがって、それに法務省の中で反対があるわけでしょう。そうじゃないのですか。
  18. 羽山忠弘

    羽山政府委員 実は私も刑法法制審議会の幹事でございまして、ときどき法制審議会でもお答えを申し上げたり御説明を申し上げたりしておるのでございますが、行刑と申しますのは要するに裁判執行でございまして、裁判がおきめになったことを行刑執行する。したがいまして、これは刑法監獄法との対立というような問題ではなくて、刑はこういうものであるべきだという考え方から、それからわれわれがそれに従ってその執行を行なうというふうになってくるべきものであろうかと思うのでございます。行刑現場がいろいろ進歩的なことを申しますけれども、それがすぐはね返って、刑罰そのものの本質を動かすような議論は、ちょっとなかなか、いままでのところは通用しがたいのではないかというふうに考えるわけでございます。  したがいまして、私どもは、刑法とそれから現場における行刑の運用の実績等を見まして、どこにその調和点を求めていくかということが、監獄法改正作業の非常なむずかしい問題であるというふうに御理解いただけば幸いでございます。
  19. 横路孝弘

    横路委員 せっかく逮捕して、起訴して、有罪に持ち込んで、刑務所に入れたと思ったら、外に通わして働かせるなんというのはけしからぬという、そういう段階での一般予防を強調する立場はある。それはあるのでしょうが、しかし、いま全体の国際的な会議等の風潮あるいは思想の変遷みたいなものを見てみると、つかまえて刑務所へ入れたことで国の仕事が終わるわけではなくて、そこからむしろ国仕事というのは始まるのだという考え方のほうが、最近の立場としては大勢じゃないかというように私は思うのです。  ですから、現場考え方が進歩的だ、進歩的だと局長がおっしゃられることが、実はやはり皆さん方の、法務省の中の幹部レベル人たち考え方を、逆に言うと何か表明していられるように受け取られるので、決して進歩的とかなんとかじゃなくて、やはり実際の受刑者と接触している人たちが、その人間をいかにして世の中でもう一度社会人として活動さしていくのかということに思いを起こせば、いろいろな考え方というものは出てくるし、現実世界各国でいろいろなことを試験的にやってみた結果として、いま議論しておる外部通勤制とか帰休制度というような問題がこれは出てきたわけであります。別に単に観念的な中から出てきたのではなくて、そういうたくさんの皆さん方先輩が、そういう受刑者教育ということに当たられてきた先輩が、やはり世界各国で苦労してやってきた一つの結果としてこれは出てきている問題であるのじゃないのでしょうか。だから実験的にまずやってみて、その結果どうこうという問題じゃないように私は思う。  しかも、現実にいろいろな制約、制限があって、いまおっしゃられたように、それはことばどおり外部通勤制度そのものではなくても、やはりそういう実験というのは行なわれているわけなんで、行なわれているのにはそれなりの合理性があるからこれは行なわれているわけでありまして、そんな意味では、どうも矯正局自体がそういう立場だったら、これはもう出てくる監獄法なんというのは一体何を改正するのか。さっき身柄確保という保安上の問題が何か重要だというようなお話があったので、むしろそんな点でがんじがらめに受刑者をしてしまうような法案改正が出てくるような心配を、いまのわずかの時間のやりとりの中で受けとめるわけなんです。  ですから、私が最初に言った、この二つ法案でどうなのかということは、これは何の雑誌でしょうか、法務総合研究所の藤平さんの「監獄法改正の経緯」という論文をちょっと読んでみると、この人は三十九年の刑務所法要綱案の中から帰休制外部通勤制が削られたことについての不満を述べられているのですけれども、それがやはり矯正に当たっておられる人たちみんなの総意じゃないかというふうに思うのですけれども、その辺のところはいかがですか。
  20. 羽山忠弘

    羽山政府委員 御指摘の点は、私どもは最も審議いたしましたし、また最もむずかしい問題でございまして、最後のきめ手と申しますか、どういうふうにするかという最後のところは、国民感情と申しますか、そういうようなものにいくよりしかたがないのではないかと、私はさしあたり考えておるのでございます。  たとえば、話をわかりやすく申し上げるために一つの例を申し上げますと、北欧のある国などにおきましては、奥さんがいる受刑者は、奥さんが面会に来まして、刑務所職員も立会せずに夫婦生活のようなことを施設内で許可するというようなこともあるそうであります。したがいまして、女房がいる者はうちへ帰すというようなこともやっているようでありますが、わが国におきまして、たとえばこれを採用するかどうかというような問題があるわけでございます。私は、さんざん議論いたしまして、矯正局意見といたしましても、日本でこれをやるのはどうもまだ少し早いのではないかという考えで、現在の矯正局案にもこれは入っていないのであります。  この辺をきめますのは、結局のところは刑罰というようなものの本質、それからそれをどういうふうに理解するかというようなことについての国民感情と申しますか、何かそういう一般的な考え方がきめるのではないかという感じがいたしまして、これを矯正局案に取り入れるほどの勇気はなかったわけでございます。こういうような問題で、なかなかむずかしい点が多いというわけでございます。
  21. 横路孝弘

    横路委員 その問題だって別にふしぎじゃなくて、皆さん方の大先輩の中にも、正木さんをはじめとしてそういう提唱をしている方はたくさんおられるわけです。それはやはり国がどれだけ責任を持つかということで、勇気がないとおっしゃられたけれども、まさに勇気がないと思うのです。  ですから、帰休制外部通勤制の問題にしたって、いま実際中でどういう議論をしておるわけですか。矯正局の案の中にはいろいろ条件を付してあって、どうもそれが何かまだまとまらぬというような印象を受ける。ともかくそういう議論というのは、いまの改正案の中で何回も法務省の中で議論していて、結局最後にいきつくところは何かというと、刑罰の本質のところにいってしまうわけでしょう。日本の主流は、目には目を、歯には歯をという非常に単純素朴な刑罰論が基本になっているわけですけれども、やはり刑罰論というのがどうも法務省の中の主流であって、そちらのほうにいつも教育刑を主張するほうは敗れてしまうというわけで、監獄法改正は大正時代から延々と続きながら、いまだに実現していないということになって、いまの時点でまだ繰り返しておられるような印象を受けておるわけです。世界的な思想の変遷といいますか、流れというか、国際会議なんか開いたって、大体方向としてはそういう方向にいっているんじゃないですか。
  22. 羽山忠弘

    羽山政府委員 刑罰に関する限りでは、刑事局長がおりますから、刑事局長からお答えするのが筋だと思いますが、御承知のように、私が理解する限り、刑法の大原則に責任主義ということがあるわけでございまして、責任主義を度外視して、ちょっと刑罰理論というものがこれまでのところ成り立っていないように思うのでございます。今度の改正案も、責任主義を基礎にしておるように思うのでございます。  しかしながら、その責任主義が行刑教育的思想と全然相いれないものではないように、私はいまの案を見て思っておるのでございまして、結局、それはどこに調和点を求めるかということになり、それが、われわれの作業が非常に難航する一つの理由だ、こういうことになるわけでございます。
  23. 横路孝弘

    横路委員 じゃ、たとえば刑務作業作業賞与金や何かの問題についての基本的な考え方というのは、今度の矯正局案ではどういうぐあいになっておるのですか。
  24. 羽山忠弘

    羽山政府委員 文章はこれからまだ変わるかもしれませんが、私がいま記憶いたしておるところによりますれば、作業賞与金というものは、少なくとも受刑者作業意欲と申しますか、勤労意欲の刺激に役立つ、それから釈放後の更生資金に役立つというような趣旨をもって作業に従事した受刑者に支給されるもの、そういう趣旨になっているのでございます。
  25. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、いまのような状態からは飛躍的に前進をするというように理解してよろしいのですか。
  26. 羽山忠弘

    羽山政府委員 財政的な手当ての問題は、この条文を書かなくても、実は現在においても可能であるわけでございますが、財政的な問題でなかなかむずかしい問題があるのでございます。と申しますのは、刑務所受刑者が就業いたしておりますが、それらの人々が刑務作業によりましてあげる収入の金額、それから彼らが従事いたします作業の内容、特にまたその一人一人の受刑者の能力というものを考えますと、大体におきまして入っております受刑者は能力のいい者が入っていないわけでございまして、そこでこれだけの仕事をしておって、しかもそれに見合う作業賞与金の金額が幾らであるかというような議論になりますと、これはただいま申しました作業賞与金によほど恩恵的な考え方を入れまして、国は少しくらい損をしても、国は持ち出しになっても受刑者作業賞与金についてはめんどうを見るんだというような考え方になりませんと、条文を書きましても、財政的手当ての面でなかなかむずかしいのではないか。  いずれにいたしましても、こういうように書きますれば、現在の法律作業賞与金をやると書いてあるだけでありまして、作業賞与金がどういう効用を果たすべきかなどというようなことは書いてないわけでございますので、多少その点では現在よりも効果があるかもしれませんが、具体的に飛躍的に金額がふえるかどうかということは、またこの法律案をつくりましたあとでの、われわれと財政当局とのいろいろの折衝によらざるを得ないというわけでございます。
  27. 横路孝弘

    横路委員 あと、その受刑者に対する懲罰の種類や手続の適正という面では、現行の監獄法と比べてどのようにお考えになっておるのですか。ちょっと具体的に……。
  28. 羽山忠弘

    羽山政府委員 懲罰制度につきましては、できるだけ懲罰の要件をはっきりさせて、科罰手続を適正にしていきたいという一言に尽きると思います。あとは、先ほど申しました不服申し立て制度というものを新設いたします。これは現在ないわけでございまして、そういう制度によりまして、懲罰について不服がある者の迅速な救済をはかりたい、こういうふうに考えておるわけでございます。
  29. 横路孝弘

    横路委員 戒具についてはどうですか。
  30. 羽山忠弘

    羽山政府委員 戒具につきましては、要件を具体的に書こうということにいたしておりますが、戒具そのものにつきまして、たとえば手錠とか捕繩というようなものは現行どおりでございます。  それから、前に御指摘の鎮静衣というようなものはすでに廃止というか、事実あまり使っておらないわけでございますが、これらにつきましては、アメリカの状況などを見ましても、こういう器具がまことに日進月歩でございまして、だんだんあまり苦痛を与えずに、しかも鎮静なり制圧の効果をあげるというようなものが発明されておるようでありますので、これは法律には要件を書く程度にとどめまして、そのものについては、別途命令に譲りたいというふうに考えておるところでございます。
  31. 横路孝弘

    横路委員 こまかい議論は別にして、姿勢としては、あまりいまの世界的な矯正の考え方の変遷に沿った改正とはどうも言えないようでありますが、皆さん方のほうで、法制審議会にかけられる段階というのは一応いつごろですか。その前に、やはり皆さん方の案等もわれわれのほうに提出をしてもらって、また議論をしていかなければならぬというように考えるわけですが、一応めどとしては、法制審議会刑法改正のほうは大体一年ぐらいということでしたね、先ほどの御答弁ですと。皆さんのほうは、そうするとそれに間に合わせるということのようでしたが、大体いつごろをめどにしておりますか。
  32. 羽山忠弘

    羽山政府委員 法制審議会刑法がかかっている間に諮問をいたしたい。法制審議会の先生方もなかなかお忙しい方でございまして、この刑法をかけておいて、また監獄法をかけ、そして少年法をかけるというようなことになりますと、やはり手が回りかねるように拝見をいたしておるわけでございます。それは法制審議会の御都合でございますが、私どものほうにおきましても、これはまことに申しわけないのでございますが、率直に申し上げまして、私ども改正作業は予定より約半年おくれております。  このおくれました理由は、先ほど来申し上げましたように、改正作業自体が容易ではございませんので、問題点によりましては、解決の糸口を見つけ出すのにも相当の調査、研究を要したものが少なくないということが第一点でございます。  第二点は、まことに遺憾なことでございますが、御承知のように、ときどき行刑施設には事故が起きるのでございまして、そのつど監獄法改正作業に従事いたしております職員までが、臨時に事故対策のほうにかり出されるというような実態になっておりますので、極力こういう事態にならぬように指導いたしまして、精力をこちらのほうに全面的に投入するように努力してまいりたいというように考えておるわけでございます。  そのような事情がございまして、約半年おくれておるということを御了承いただきたいのでございます。   〔委員長退席、小島委員長代理着席〕
  33. 横路孝弘

    横路委員 その事故があってというのは、人手が足りないということなんでしょう。人が足りないから作業がおくれるというのも、それもいまきびしい定員削減時代ですから、皆さん方も苦労されておるのでしょうけれども、そういうことで、こういう重大な問題がどんどんおくれていくというのも困った問題です。  そこで、あまり監獄法ことばかりやっておってもあれですから、刑法改正から罰金等臨時措置法の問題に入っていきたいと思うのですけれども全面改正を必要とする理由というものが、この説明書を見ても、あまりよく実はその辺のところがはっきりしない。法務大臣が昭和三十八年でしたか、諮問したときの理由というのは、五十年たって、この間社会情勢や国民感情が推移したということ、それから日本国憲法の制定をはじめとする法律制度が変遷したということ、それから刑法の理論というか、刑事政策思想というものが発展した、大体この三つをあげられて、そしてどうだろうかという形での諮問だったと思うのですけれども、この全面改正を必要とする理由というのは、この辺のところを検討されてどういうことになったわけですか。説明書じゃなかなかよくわからないわけです。
  34. 辻辰三郎

    辻政府委員 刑法全面改正の必要性というものは、ただいま御指摘の理由によるものでございます。
  35. 横路孝弘

    横路委員 たとえば社会情勢、国民感情の推移というのは、一体どういうぐあいにとらえられたわけですか。
  36. 辻辰三郎

    辻政府委員 たとえば、これは社会情勢の推移に応じまして、新しくやはり自然犯として刑法典に取り入れるべき犯罪というようなものが出てきておるという点が、一つの顕著な一例であろうかと存じます。
  37. 横路孝弘

    横路委員 新しいいろいろな違法行為といいますか、守らなければならぬ法益が出てきたということなんですか。  国民感情の推移というのはどういうことですか。
  38. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは国民感情の推移にも、当然いろいろな理由があると思いますが、やはり責任主義の一つの徹底といいますか、これは罪刑法定主義のもとにおいて責任主義というものを徹底していって、国民の基本的人権というものを守っていくという一つの大きな思想があろうと思います。
  39. 横路孝弘

    横路委員 ただ全体的に見ると、犯罪類型というのは非常にふえて、しかも刑が非常に重くっていますね。法定刑が重くなっていて、新設の犯罪というのはほとんど加重類型になっていて、公務執行妨害なんかも三年から五年、騒動の単純関与なんというのは、二千五百円の罰金から今度は懲役刑も入ってくる。暴行にしても脅迫にしても背任なんかにしてもすべてそうですね。つまり、法定刑を引き上げなければならないというあたりの理由というのはどういうことですか。
  40. 辻辰三郎

    辻政府委員 ただいま御指摘のように、法定刑が一つの加重類型というような形で別に高いものが定められておるという点もございますけれども、やはり法定刑が下がっておるものもございます。これはやはり現在の社会情勢、国民感情の問題というものに帰着するわけでございまして、たとえば尊属に対する殺人であるとかそういうものについては、これは考え方を改めておるというような点も、一つの国民感情の推移、社会情勢の変遷というものと関連があろうかと思うのでございます。
  41. 横路孝弘

    横路委員 それは、明治憲法時代の刑法といまの憲法時代の刑法と違ってくるのは当然でありまして、尊属殺なんかは、そういう意味では、法律制度の変遷というようなことを受けての改正だろうと思うのですけれども、明治憲法と違って、基本的人権を尊重するというような現行憲法を刑法に反映させるという意味では、いまの尊属殺もそうでしょうけれども、ほかにはどういう努力というものがあるわけですか。
  42. 辻辰三郎

    辻政府委員 たとえば、責任主義の徹底ということを考えました場合に、犯罪の成立の要件一つといたしましての法律の錯誤の問題とか、あるいは結果的加重犯というような問題、こういうものにつきまして、あるいはまた不能犯というような問題、これはやはり現行刑法と違った責任主義の徹底という一つの基本観念から手を加えておるわけでございます。これはやはり、一つ基本的人権の尊重という理念から出ておるものと考えております。
  43. 横路孝弘

    横路委員 これは日弁連等でも意見書を出しておりまして、これから大いに議論しなければならぬと思うのですけれども、ちょっと一つ要望があるのですけれども、これは政務次官、刑事法特別部会会議で毎回速記録がつくられているわけですね。その要録というようなものが、小さな冊子にまとめられているわけなんですけれども、これを公開して、これに参加された人たちはどういう議論をしたのかということが国民の前に明らかにされて、その上でわれわれもこの刑法改正という非常に大きな問題を考えるということが必要じゃないかと思いますし、また、学者の中からもそういう声というのがたくさん出てきているように思うのです。そこで、この会議の速記録というようなものを、ぜひ公開をしていただきたいというように私、思うのですけれども、政務次官、いかがですか。
  44. 辻辰三郎

    辻政府委員 ちょっと技術的な問題がございますので、事情を申し上げたいと思うのでございます。  刑法全面改正作業法制審議会における経過でございますが、これは私どもといたしましては、つとめて公開をいたしまして、広く批判を求めておるわけでございます。たとえば現在までの刑事法特別部会審議の状況であるとか、あるいは特別部会における小委員会審議の状況、あるいはまた三回にわたって行ないました各地の刑法研究会における審議の模様というものを、つとめて、これは関係者限りという面もございますが、公開をいたしております。  ただ、全般的に広く公開いたすとなりますと、法制審議会の議事というものは原則として非公開である。特に非公開にする実質的理由があるかと申しますと、特定の委員さんがこういう意見を言ったということは、やはり避けるべきじゃなかろうか。抽象的に、こういう意見もあった、こういう意見もあったということについては、私どもは広くこれを公表いたしまして、批判を受けたいと考えておるわけでございますが、技術的な問題といたしまして、特定の委員さんが法制審議会でこう言ったという点が、法制審議会のあり方等の関係において問題になる。そこに一つの難点があるわけでございます。
  45. 横路孝弘

    横路委員 ただしかし、法制審議会というのはほかの審議会と違いまして、みんな学者、法律家ですね。自分の信念に基づいて発言しておるわけでしょう。だれがどう言ったということがわかったって別に差しつかえないと思う。大体ある人間なら人間の考え方なんというのは、本そのほかで公表されておるわけですし、何もそこで言ったことが明らかになったから、自分の発言を差し控えるなんというような人がもし法制審議会にいるならば、むしろそういう人選をしたほうが問題なんであります。皆さん方公開されていると言うけれども、たとえば「ジュリスト」なんかにちょこちょこっと書かれていますね。書かれているけれども、あれは個人の立場で書かれているのであって、皆さん方のほうであれをまとめて冊子にされているものがあるでしょう。あの程度のものはきちんとわれわれにも提出をしてもらいたい。要求しても、いつも何だかんだと言って全然出してくれないわけですね。また学者の人たちに会ってみても、審議会のメンバーから話は聞けるけれども、実際どういう審議をやっているかというのはあまりよくわからないから、ぜひあれを公開してほしいという要求、要望というのはあるわけですよ。たとえば辻刑事局長がどうおっしゃったということだって、それは皆さんの立場からものを言っているわけですから、そこで都合が悪いというようなことはないと思うし、また、別にいろいろな利害得失がからんだ問題じゃなくて、まさにその人間の信念と学識経験の問題だけでしょう。   〔小島委員長代理退席、委員長着席〕 したがって、そこを隠される必要性というのは全くない。  そこで政務次官、これはやはりぜひ公開をしていただきたいと思うのです。この程度のやつは、それは行政として当然ですよ。刑事法特別部会、しかも小委員会のいろいろな議論というのがあるわけでしょう。その小委員会議論を、私たちとしては、どういうことを考えられて、そしてこの結論になったのかということですね、それがよくわかると、この法律をつくる趣旨とかいうようなものというのがやはりよくわかるので、そんな意味議論がお互いにできるわけです。その辺のところは何もごまかす必要のないところで、やはり公開をされることがいいんじゃないかというふうに思うのですが、いかがでしょうか。
  46. 村山達雄

    ○村山政府委員 横路委員のおっしゃることもよくわかるわけでございますが、いま局長が言われましたように、個々の人の意見をそのままストレートに出す必要があるといたしましても、やはり場面によるのではないかと私は常識的に考えるわけでございます。数多くの政府の審議会がございます。もとより、その論議の過程あるいはそれの発想の基礎になった考え方、こういったものはおそらく全部出ていると思うのでございますが、一人一人の委員がどういう発言をしたか、まあ横路委員のように高い見識を持っており、そしてまたそういう制度的に見る人ばかりがおるわけではございませんので、やはりその辺のことは、その場面、場面に応じていくほうがいいのじゃないかと思います。  ただ、速記録はとっておるわけでございますから、必要がありまして、そういう非常にこまかい議論が専門的な分野で必要であれば、やはりそういう資料を出すことにやぶさかではございません。一般的に全国民の前に、どの人がどう言ったというようなことは、何しろ一億の国民でございますから、やはり多少慎重を期したらどうかというのが、私の常識的な考え方でございます。
  47. 横路孝弘

    横路委員 あと議論をするのですけれども、たとえば罰金の制度について、例の準備草案改正刑法草案ですね、準備草案にあったやつがだいぶ落ちているのですね。その落ちていった過程が、じゃこれでわかるかというと、これを読んでみてもさっぱりわからぬのですよ。なぜ落ちたのかということがわからぬのです。そしてやはり要録みたいなものを、まとめられたものを見ると、ああ、こういう議論があって落ちていったのかいうことがわかるわけですね。そこで初めて議論ができるわけですよ。それがなかったら、この準備草案に出ていたやつが、議論の結果こうなりましたということが、これだけ見たところで、なぜそうなったのかというのは全然わからないのですから、その間の議論というのは、やはり私たちに非常に貴重な一つの資料だと思うのです。  それは、いまの刑法といういわば一つの基本法、これのあり方というものをめぐって、これはほんとうに簡単にどうこういじくるような問題じゃないわけでしょう。したがって、そういう意味では私もまた、この罰金の問題を調べていくと、その辺のところが、どういうことでこれは落ちていったのか、どんな議論があったのかということを、非常に知りたいということになるわけですね。学者の意見というのは本を見れば大体わかるので、それとまた違ったことを法制審議会で主張することもないので、だから、そんなところでは——じゃ、速記録全部ということじゃなくて、まとめられたやつ、あれはどうですか。
  48. 辻辰三郎

    辻政府委員 ただいま罰金の問題の御主張がございましたけれども、おことばを返すようで恐縮でございますが、罰金に関します限りは、ただいまの改正刑法草案説明書のほうにも一応簡単に経過が書いてあるわけでございます。  なお、先ほど来御指摘法制審議会刑法改正に関します刑事法特別部会あるいはその小委員会の議事内容でございますが、これは関係方面には実はお配りをいたしております。たとえば日本弁護士連合会にもいろいろ御協力を願っておるわけでございまして、日本弁護士連合会のほうには、これらの議事要録は全部お届けをいたしておるということで、必要な方々についてはできるだけ公開をいたしておるというような運用になっております。
  49. 横路孝弘

    横路委員 それじゃ、われわれにはそれはだめなんですか。
  50. 辻辰三郎

    辻政府委員 これはいろいろ法案の御審議を願うわけでございますので、御必要等ございましたら、考えさせていただきたいと存じます。
  51. 横路孝弘

    横路委員 それでは、日弁連のほうに提出されているということだったら、私たちだってそれは努力すれば手に入らないこともないのだけれども、しかしそうじゃなくて、やはり当然国会に、私は法務委員じゃないですけれども法務委員会のメンバーの方ぐらいには、刑法改正をいまから考えるという意味では、もうすでにまとめられた膨大な資料というのはあるわけですから、それはやはりお出しになることがいいのじゃないかというように思います。  委員長、これはどうですか、ぜひそうしてもらいたいと思います。国会図書館にもどこにもないのですね、そういう公の場所には。関係方面へというのは、日弁連に渡しているということを聞いて安心したわけですけれども、やはりこれはぜひ提出してもらいたいと思う。委員長ひとつ……。
  52. 松澤雄藏

    松澤委員長 御要望がございましたら、御遠慮なく要望してください。要望してくれなければ、私は、ただ意見を聞かれたってしようがないから……。
  53. 横路孝弘

    横路委員 その点、あと理事会で検討してください。理事会の議題にのっけるということで……。
  54. 中谷鉄也

    中谷委員 関連して。刑事局長、いま横路委員質問ですけれども、法務委員と、それからそれぞれの党には刑法審議について特別委員会だとか司法についての調査の特別委員会とか、そういう法務部会関係者もおりますが、そういうところ、法務委員全員には要求の有無にかかわらず、そういうのは配っていただけますね。簡単なことですから、また当然のことだと思いますから約束をしてください。
  55. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは考えさせていただきますけれども、問題は、いままで調製いたしております部数の関係もあり、また結論を出すに至ります一つの過程でございますので、それはもちろんごらんくださいまして御審議願うのはけっこうなんでございますが、非常に膨大なものになっておるわけでございます。決して私どもこれは非公開とか、それを隠しておるという意味ではございませんので、後刻大臣、政務次官とも十分御相談いたしまして、当委員会の御決定等の関係におきまして、出すという方向で検討さしていただきたいと思うのでございます。
  56. 中谷鉄也

    中谷委員 簡単なことだと思うのです。部数の関係なら、増し刷りがまだできていないからというような問題はあると思うのですけれども、いずれにしてもすでに配付して、これだけ残部がありますということになれば、横路委員のほうからそういう要求もあるわけですから、当然質問者の横路委員、それから各党の政調、政審、そういうところへ、残部が限定されているようなお話ですから、とりあえずそれは届けていただきたい。それでよろしいわけですね。とりあえずですよ。
  57. 辻辰三郎

    辻政府委員 相談いたしまして、極力御要望に沿うように努力いたしたいと思います。
  58. 横路孝弘

    横路委員 そういうことで、別に私にあれしなくても、各党それぞれ一つぐらいずつ渡していただければいいのじゃないかと思いますので、その線でひとつ協力をお願いしたいと思います。  それで、罰金等臨時措置法ですけれども、いままで何回も議論をされているところだろうと思いますが、なぜ四倍に、しかも一律に上げなければならなかったかという点を、いま一度お尋ねをしたい。
  59. 辻辰三郎

    辻政府委員 今回、この法案によりますと、刑法及び暴力行為等処罰ニ関スル法律、経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律、三つの法律に定めます罰金刑につきましては、その法定刑を一律に四倍にしていただくという案になっておるわけでございます。  そこで、この四倍という数字はどういう考え方から出てきておるかという点でございますが、これは、現行の罰金等臨時措置法は、御承知のように昭和二十三年の法律でございます。それから現在まで二十数年を経過いたしておるわけでございますが、申すまでもなく罰金刑というもの、あるいは科料も含めまして財産刑というものは、犯罪者に財産的苦痛を与えることを内容といたしておるものでございます。そういう点からまいりますと、昭和二十三年当時と現在の経済状態を考えてまいりますと、賃金は二十三年と四十六年とを比べますと十五・九倍ということになっておりますし、国民所得の上昇率というものを見てまいりますと、二十三年と四十五年と比べまして十・八倍ということになっておるわけでございます。かような状態で現行のままでまいりますと、これはやはり罰金刑としての機能が著しく減殺されていくということがまず考えられるわけでございます。  そこで、国民所得やあるいは賃金の上昇率と並行して罰金の法定刑の上限も倍すべきじゃなかろうかというような議論が出るわけでございますけれども、これは必ずしも昭和二十三年の当時にこれを復元していこうという考え方ではございません。御承知のとおり、昭和二十三年は終戦直後のたいへんな貧窮の、特異な時代でございました。それをまず勘案いたしますと、とても二十三年当時のものを基準にする必要はないということになるわけでございます。  そこで、経済事情が比較的安定したと考えられております昭和三十年を基準にしてまいりますと、賃金の上昇率は約四倍、一人当たりの国民所得は約六倍ということになっておるわけでございます。それと、やはりこの罰金の法定刑を改定いたします場合には、刑事司法の実際の運営というものも考える必要があるわけでございますけれども昭和三十年当時の言い渡されました一件当たりの罰金の平均額は三千十五円でございましたけれども昭和四十五年にはこの平均額が一件当たり一万四千四百八十四円、すなわち昭和三十年の四・八倍というような数字になっております。  かような観点からいろいろと考慮いたしまして、現在におきましては、この刑法等三つの法律につきましては、法定刑の上限を四倍にしていただくのが妥当であろうと考えた次第でございます。
  60. 横路孝弘

    横路委員 麻生先生が時間の関係で、私、そのあとでまた続けてやります。ちょっと一時……。
  61. 松澤雄藏

  62. 麻生良方

    麻生委員 もう大体質問が全部出尽くしていますけれども、政務次官にお尋ねします。  私は法律家でも弁護士でもないのですが、罰金というものは、やはりうんと上がっていったほうがいいのですか。基本的にどうですか。
  63. 村山達雄

    ○村山政府委員 上がるとか下がるとかいうことでなくて、やはり罰金刑はその目的を達するに必要にして最小限度であればいい、かように考えているわけでございます。
  64. 麻生良方

    麻生委員 政務次官、つまり罰金がうんと上がれば犯罪が少なくなるとお考えですか。
  65. 村山達雄

    ○村山政府委員 私も法律家ではございませんけれども、もちろん、上がれば上がるほどそれは犯罪は少なくなるかもしれませんけれども、それだけで罰金刑がつくられているわけでもない。やはり罰金を受ける人の立場ももちろん考えねばならぬわけでございましょうから、必要以上にやることはないのではなかろうか。私の常識でございます。
  66. 麻生良方

    麻生委員 いままで罰金の額が非常に低いから、裁判官が判断する場合、どうも低過ぎるので実刑のほうで科していく。それが今度罰金が上がってしまうと、罰金のほうで済まそうというようなことで、要するに罰金を払える能力のある者は楽になってしまうという傾向も出なくはないということを心配しますよ。これは裁判官がどういう判決を下すか、いろいろ心証の問題もあると思いますけれども、いままで罰金が非常に軽いから、つまりいまの物価に合わないから、だからその段階判断すると、非常に軽微なものになるので禁錮とかその他実刑のほうを言い渡される。しかし、犯罪者の立場からは実刑はいやですからね。それが罰金で済むなら、納められる能力のある者はかなり楽になってしまうから、そういう意味で、罰金を上げさえすれば犯罪者が減るかどうかということについては疑問を持つのですけれども、もう一度その辺の見解を……。
  67. 村山達雄

    ○村山政府委員 おそらく最初法律を制定するときには、自由刑と罰金刑の選択刑になっているときには、それぞれ裁判官の判断でどちらをやるかということは、当然立法者も考えてやられたと思うのでございます。罰金が低いから自由刑にいくとか、あるいは罰金が高いから罰金にいくとかいうような、罰金刑の量の定め方であっては困るのではなかろうか。今度の改正もおそらくその辺のことを考えて、先ほど刑事局長からお話しになっているように、常識的に四倍くらいが適当だというのも、その辺の感覚ではなかろうかと思っております。
  68. 麻生良方

    麻生委員 罰金のことで、これはここには関係ないけれども、たとえば自動車の保管場所の確保等に関する法律ができたでしょう。そうして、いままで道路の上に置いていた車がみんな処罰の対象になって罰金を取りましたね。あれでだいぶん罰金の収入がふえたでしょう。だけれども犯罪は減りましたか。
  69. 辻辰三郎

    辻政府委員 この自動車の保管場所の確保等に関する法律は、道路交通法とともに、一つの典型的な交通事犯だということで、昭和四十三年の七月一日以降は反則金制度というものができておるわけでございます。そういうことで、まず刑事罰にいく前に行政罰を第一次的に科していこうということで処理されておるわけでございます。その面におきまして、この反則金によりましてやはり相当の金額が収入になっておると思うのでございます。  しかし、それによって犯罪が減ったかということになりますと、それは、犯罪の発生原因というものはいろいろございますから、罰金や反則金ができたから直ちに犯罪が減るというような性格のものではございません。むしろ不適正な罰金ということになりますと、これは逆に刑罰の機能が低下するということで悪現象が出るわけでございますが、適正な罰金であるからといって、直ちに犯罪が減るということにはなかなか相ならないのではなかろうかと考えております。
  70. 麻生良方

    麻生委員 現行法は昭和二十三年にできたのですか。
  71. 辻辰三郎

    辻政府委員 さようでございます。
  72. 麻生良方

    麻生委員 そうすると、いままで何していたのか。いままでずいぶん物価が上がっているのだけれども……。
  73. 辻辰三郎

    辻政府委員 今回刑法等の三つの法律につきまして、これは法定刑の上限を四倍にしていただくということでございまして、法定刑の問題でございますから、実際の裁判は、その法定刑のワク内で言い渡されてくるわけでございます。その場合に、もちろん二十三年から経済状態が非常に変わってまいっておりますので、具体的に言い渡されます罰金額というものは、徐々に法定刑の範囲内で上がってきたわけでございます。その法定刑にまだ余裕があるものでございますから、経済状態が進展してまいりましても、直ちに法定刑を改定していただくという緊要性がなかったわけでございます。ところが、昭和四十三年ころになりますと、刑法犯の一部の犯罪につきまして、この頭打ちの現象ということが出てまいりまして、法定刑の上のほうに裁判例が集中してまいってきたという現象があるわけでございます。  そういう関係から、この頭打ちの現象をはずしていただくという意味で、今度は法定刑の四倍というところをまた法定刑の上限にしていただくわけでございます。早い話が、結局、頭打ち現象が昭和四十三年ころまでは顕著でなかったということで、現行の法定刑の範囲内で適正な裁判が行なわれてきた、これが現在まで改正をお願いしなかった理由でございます。
  74. 麻生良方

    麻生委員 そうしますと、その幅の中にいたというわけなんですね。その幅の上のほうにきてしまったという判断改正せざるを得ない。それで四倍にする。そうすると、これからもまだ物価は上がっていくという勘定を法務省はしているわけですか。
  75. 辻辰三郎

    辻政府委員 これはその前提といたしまして、やはり罰金刑というものは、犯人から金銭を剥奪するということで財産的苦痛を与えるということがその内容でございますから、経済事情の変遷によりまして、その金額が相対的に著しく低いものであるということになりますと、罰金刑の効果というものがなくなるという意味におきまして、一般的に経済事情の変動と実際に科せられます罰金との関係は、やはり一つのバランスがとれていなければならぬということに相なるわけでございます。  さような意味におきまして、先ほど来お話がございました改正刑法草案におきましては、現在御審議願っておりますこの臨時措置法の改正案とは異なりまして、それよりも一応もっと高い罰金刑というものを考えておるわけでございます。今回御審議いただいておりますこの罰金等臨時措置法の一部改正案は、刑法全面改正ができますまでの一つのつなぎとして、頭打ち現象とかそういうものを避けていただくという意味でお願いいたしておる法律でございまして、これを根本的に、現下の経済事情との関係で、また刑罰の機能ということをよく考えて検討してまいりますと、やはりこの改正刑法草案というほうが一々審査をされておるわけでございますので、ここに引き継ぐまでの一つの経過的措置として、現行の四倍ということにしていただいておきますならば、この改正刑法というほうにスムーズに移っていけるのじゃなかろうか、かような考え方でございます。
  76. 麻生良方

    麻生委員 そうすると、要するに暫定措置というわけでしょう、刑法を根本的に改正するまでの。それなら、さっき横路委員がいろいろ資料を出せとかということでしたが、やはり刑法改正の骨子というものがないと、暫定措置としてこれがいいかどうかという判断がなかなか出てこないのじゃないですか、われわれ審議するほうの側から言えば。
  77. 辻辰三郎

    辻政府委員 もちろん、この刑法改正という作業作業として行なわれているわけでございますが、この法律案もこの法律案として、もちろん刑法全面改正までの措置であるということでございますが、これはまたこの改正法案として十分理屈があるというふうに考えておるわけでございます。  ただ、この改正刑法草案の資料、法制審議会における資料を提出しろという御意見につきましては、先ほど申し上げましたように、できるだけ提出するように取り計らっていきたいと考えております。
  78. 麻生良方

    麻生委員 できるだけというのじゃなくて、提出すると言ったらどうですか。
  79. 辻辰三郎

    辻政府委員 たいへん技術的なことで恐縮でございますが、先ほど申しましたように部数が非常に少ないのでございます。これはまだ審議会の、しかも部会審議の状況でございます。あるいはその小委員会審議の状況でございまして、そのなまのものを直ちに国会の先生方のほうにお出しするというような意味では、まだ熟していないという考え方もございますし、そういうことを予定しておりませんでしたので、つくりました部数なんかが少ないのでございます。そこで、そういうことをよく検討いたしましてから御必要の向きに出させていただきたい、かように考えておるのでございます。
  80. 麻生良方

    麻生委員 部数が少ないからなんて言うからおかしくなるので、そんなものいまはちょっとリコピーでとれば幾らだってとれる。近代文明の利器があるのですから、部数が少ないからというのは理由にならないのじゃないですか。
  81. 辻辰三郎

    辻政府委員 おことばでございますが、この刑法改正作業は五つの小委員会に分かれておりまして、それぞれの小委員会が八年間に百五十回開かれておるのでございます。そしてまた、その部会が八年間に三十回開かれておるのでございまして、百五十回の五倍でございますから、小委員会の回数は七百五十回ということに相なるのでございまして、その七百五十回の審議要録を全部お出しするという点に、部数との関係もありたいへん困難な面があるのでございます。
  82. 麻生良方

    麻生委員 それはやろうとすればすぐできることですよ。とにかくこんなのがたくさんいろんなところから配られてくるのだからね。だから、そういう要求があれば、やはりそれにこたえるようにしてもらいたいと思いますね。  それから、もう一つ聞いておきたいことは、たとえば婦女暴行その他刑があるでしょう。これを罰金にするのでしょう。いままでの前例でいくと、罰金を納める犯罪者の場合、どういう納め方をしていますか。大体財産をあらかじめ調べて、そして納められるなというような判断に基づいて罰金刑にしているのか、あるいはそんなことは一向おかまいなしに罰金刑に処しているのか、その辺はどうなんですか。
  83. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金刑は、先ほど来申し上げておりますように、犯人から金銭的利益を剥奪することによって財産的な苦痛を与えるというところに本質がございますから、本来、その犯人の財産状態というものが、罰金額を裁判の上できめます場合に、これはあくまで法定刑のワク内でございますが、そのワク内で、犯人の財産状況というものを十分考えて裁判をされるべきものでございます。本質はそうでございます。  一般の刑事犯の場合には、十分そういう観点から科刑が行なわれておるというふうに思うのでございますけれども、先ほど来御指摘のような、道路交通法違反というようなものになりますと、これは一つの、犯罪そのものがたいへん技術的と申しますか、法定犯と申しますか、そういう犯罪の性格がございますし、たいへん多くの数にのぼるわけでございまして、裁判所におきまして一人一人道路交通法違反の者について、その財産状況というものを審査することは、とうてい事実上不可能であろうという面がございます。これはしかし例外的な場合でございまして、本来、刑法にございますような刑事犯の罰金というものは、財産状況との関連において十分審査されて判決が行なわれておるというふうに考えております。
  84. 麻生良方

    麻生委員 十分審査されて、納められる能力のある者には罰金刑ということになるのだろうと思うけれども、それにしても、保釈金とか罰金を払う場合、相当無理して払うわけです。そうすると今度は、その犯罪者によって被害を受けた者、傷害にあったり暴行にあったりした者、その被害の賠償についてどういう関係になってくるのですか。
  85. 辻辰三郎

    辻政府委員 犯罪を犯しまして罰金に処せられるその場合に、その犯罪によって別に被害者に害を与えておるという関係で、被害者に賠償しなければならないという関係でございますが、その場合に、罰金があまりきつくなると賠償する能力がなくなるのじゃなかろうかという御指摘であろうと思いますが、これは実際の裁判におきましては、この賠償能力というものを十分考えて裁判されておると思います。といいますのは、まず賠償したかどうかということが、罰金幾らにしようかという裁判一つの具体的な判断の指針になろうというような関係になっておりますから、この罰金を上げたからといいまして、すぐに賠償能力に響くというような形にはならないと思うのでございます。  なお、御参考までに、罰金が納まらない場合には労役場留置という制度がございます。この労役場留置の件数がどれぐらいになっているかということが、罰金というものが楽に納まるか納まらないかということの一つの目安になろうかと思いますけれども昭和三十二年には、罰金が納まらなくて労役場留置の執行をされた者は、罰金全体の数の〇・六%でございました。これは千人に六人という意味でございますが、これが昭和四十五年になりますと〇・二%、千人に二人というような形になっておりまして、この罰金刑というものが、これはこの数字はいろいろと解釈できると思いますけれども、この罰金が相対的に安くなっておる、だから納めやすくなって、労役場に入る者が少なくなっておるというふうに見れますし、あるいは罰金が過酷にわたっていないというような見方もできると思いますが、一応このような現状に相なっております。
  86. 麻生良方

    麻生委員 それから、ここにある経済的な変動ということで、当分の間の特例というのだけれども、変動というのは上がったり下がったりするんだけれども、罰金刑というのは下がった実例というのはあるのですか。
  87. 辻辰三郎

    辻政府委員 明治以来ございません。
  88. 麻生良方

    麻生委員 何かの措置で貨幣価値が切りかわったような場合、やはりこれは下がるわけですか。そのときは下げなければならぬでしょう。
  89. 辻辰三郎

    辻政府委員 理論としてはさようでございますが、現行刑法が明治四十一年に施行されておるわけでございます。それが昭和二十三年の現行のこの罰金等臨時措置法によりまして、刑法犯については五十倍ということになったわけでございます。それを今回はまた四倍ということで、刑法犯に関します限り、明治四十一年の現行刑法の二百倍というところに上げさせていただきたい、かように考えておるわけでございます。
  90. 麻生良方

    麻生委員 大体、罰金を上げれば犯罪者が少なくなるだろうという想定、それはわからないことはないんだけれども、やはり何となく金で全部犯罪が解決されてしまうような風潮ができることもあまり好ましくないのですよ。何回やっても金さえ出せばそれで済むというような、そういう風潮が起こらないように、ひとつ十分に配慮してもらいたいということが希望意見です。  それから、もう一つ質問しておきますが、現行法では、刑訴法二百八十四条の「五千円以下の罰金」二百八十五条第二項の「五千円を超える罰金」を、一律におのおの「五万円以下の罰金」「五万円を超える罰金」としていたのを、今度の改正案では、刑訴法三百九十条を加えた上、本法三条一項各号に掲げる罪については二十万円と四倍にし、その他の罪については二万円と分けて規定しているわけでありますね。これはいままで再三質問した点です。刑訴法自体がこのように区別していない点を別法で区別するということは、問題であるという意見があるんだけれども、これについて見解を述べてもらいたい。
  91. 辻辰三郎

    辻政府委員 ただいま御指摘の点でございますが、現在の刑事訴訟法によりますと、この五千円以下の罰金または科料に当たる事件の第一審につきましては、被告人は公判期日に出頭することを要しない、これは一定の軽い罪については公判期日に出頭することを要しないということになっております。これが刑事訴訟法二百八十四条の規定でございます。それからなお、軽いけれども、それよりももう少し重い刑につきましては、公判の期日に出頭する場合のこの制限を緩和いたしております。一般の事件よりも緩和いたしております。それから、控訴審におきましては、一般的に被告人は出頭しなくてもいいわけでございますが、特に出頭さす場合の規定が、先ほど御指摘の刑事訴訟法三百九十条でございます。これは刑事訴訟法で、その公判出頭への義務という問題を、法定刑が五千円以下というところで、一応この五千円を基準に区別をいたしておるわけでございますが、これが刑法との関係では、昭和二十三年にこの罰金等臨時措置法ができました関係で、臨時措置法で、この刑事訴訟法の五千円というものは、刑法については五万円以下というふうに改まったわけでございます。これは刑法昭和二十三年当時に四倍にいたしましたから、この刑事訴訟法は、その当時は、低い刑法の法定刑というものを前提にしてこの五千円という基準ができておったわけでございます。そこを、刑法のほうが法定刑を四倍に上げてまいりましたから、そういう関係で、刑法犯については、この五千円という基準は五万円にするというのが、現行のこの罰金等臨時措置法考え方でございます。  ところが、その場合に、刑法以外のいわゆる特別法の罪につきましては、この現行の罰金等臨時措置法は、特別法の法定刑は、最高額が二千円に満たないものは二千円に上げますというのが、この臨時措置法の内容でございました。そこで、刑事訴訟法は五千円というラインをつくっておるわけでございますから、特別法のほうは、この罰金等臨時措置法ができましたときに、この二千円以下のものを二千円にするというだけのことでございますから、何らこれを手を加える必要はなかったわけでございます。そこで、この現行の罰金等臨時措置法は、この刑事訴訟法の五千円というラインは、刑法犯については五万円というふうに見るが、その他のものについては何も規定しなくてもよかったわけでございます。  ところが、今回のこの法律案によりますと、刑法犯はまたそれの四倍にするということになりますから、この五万円は二十万円というふうに読みかえていかなければならないということで、刑法犯等については二十万円、それから刑法等三つの法律以外の特別法犯については、今回のこの法案は、八千円に満たないものは八千円にするという内容でございますから、この刑事訴訟法は五千円というラインを引いておりますわけでございますから、それをそのまま動かさずにこちらが八千円というふうになりますと、いままで公判に出なくてもいいという一定の軽い犯罪の特別法違反の方が、公判に出ていかなければならないということに相なるわけでございます。それはやはり現行法の考え方とはそぐわないのじゃなかろうかということで、今回は、特別法犯につきましては二万円というところをラインにして五千円を二万円というように読みかえて、一定の軽い特別法犯の方々については、公判への出頭の免除の規定その他を適用していこう、こういう考え方になっておるわけでございます。
  92. 麻生良方

    麻生委員 最後に、公共料金の値上げだと、諸物価にはね返ってくるからあまり賛成できないのだけれども、この罰金刑の値上げで、ほかの料金にはね返っていく可能性のあるものはありますか。
  93. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金刑は、申すまでもなく、犯罪を犯した者について罰金が科せられるわけでございますから、罰金刑が法定刑として定められておる犯罪を犯した、こういう者についてだけ適用されるわけでございますから、罰金の法定額を上げていただきましても、一般の物価とかそういうものとは、何ら関係のないものであるというふうに考えております。
  94. 麻生良方

    麻生委員 たとえば、犯人の立場に立って弁護する弁護士という商売があるでしょう。この弁護料のほうは全く無関係でしょうか。
  95. 辻辰三郎

    辻政府委員 無関係でございます。
  96. 麻生良方

    麻生委員 ほんとうに無関係ですか。  それじゃ、これで終わります。
  97. 松澤雄藏

  98. 横路孝弘

    横路委員 いまの麻生さんの最後の質問ですが、質問の趣旨は、区別をどうしてしたのかということが質問の趣旨じゃないかと思うのですが、区別を特別法と刑法と分けた趣旨はどういうことなんですか。
  99. 辻辰三郎

    辻政府委員 ただいまの公判への出頭義務の関係でありますが、これはただいま申し上げましたように、特別法について手当てをいたしませんと、現在よりも特別法の方々についてたいへん不利益な結果になるということでございます。区別をしておるというのは、これは現行の、先ほど来申し上げました罰金等臨時措置法の制定時の事情と刑事訴訟法の制定時の事情から、かような区別をせざるを得なかったということに基本的になっておるわけでございます。それを前提にして、今回は前と大体同じような形で改正をさせていただく、かようなわけになっております。
  100. 横路孝弘

    横路委員 先ほどの御答弁の中にもあったのですけれども、今回の措置というのは、刑法改正をするまでの暫定措置だ、こうおっしゃったわけでありますが、なぜ四倍にしたのかというのは、先ほどいろいろ御答弁があったように、経済的な変動、実質賃金が大体四倍になっているから、四倍というところあたりに落ちついたのじゃないかと思うのですけれども、そうすると、改正刑法草案との関連というのは一体どういうことになるのか。あれは法制審議会だ、関係ないのだ、そう言ってしまえばそうかもしれませんけれども、ちょっとそういうふうに割り切るわけにはいかぬ問題であります。  しかも、改正刑法草案の場合、たとえば罰金刑は三十八条で一万円以上ですね。科料は五百円以上一万円未満。この改正案は、罰金は四千円以上、科料は二十円以上四千円未満。つまりこの改正刑法草案の場合は今回の皆さん方措置の二倍ですね。これだって、それなりの理由があってこういう案というものが出てきたのでしょう。そうすると、今回のこの暫定措置なんというものは、しかも先ほどのお話ですと、一年間で大体法制審議会審議が終わるということであれば、全くこれは説明がつかないことじゃないですか。
  101. 辻辰三郎

    辻政府委員 改正刑法の問題でございますが、もとより法制審議会におきましては、この一年間くらいというふうに見込んでおりますが、そのあとに国会の御審議があるわけでございます。それから、改正刑法がいよいよ施行されるということになりますと、それに伴う必要な関連法律改正ということも当然伴ってくるわけでございまして、現実にこの改正刑法が施行されます時期につきましては、これはそう一年というわけにはとうていまいらないということでございます。そういう事情があるわけでございます。  そういう事情を前提にいたしまして、刑法全面改正までには若干の日時があるということを前提にいたしまして、しかも、現在刑法全面改正につきましては法制審議会においていろいろ慎重に審議されておる、純刑事的な立場検討されておるわけでございます。そういう際に、罰金というものについて刑事的な感覚というものをあまり出すことはふさわしくないだろう。私どもの今回の改正案におきましては、現行刑法が考えております基本的な考え方に立って、そして現在の経済事情その他との関係において、むしろ刑事的な考え方現行刑法の線をそのまま踏襲して、そこで一応の現在の経済事情やあるいは裁判の頭打ちの状況、そういうものを勘案いたしまして、この際法定刑を刑法犯については四倍、その他については、八千円未満のものは八千円にしていただくということが、むしろ刑法全面改正作業との関係におきましても最も適切なものであろうという考え方から、かような案と相なったわけでございます。
  102. 横路孝弘

    横路委員 やはりそこのところがおかしいと思う。実際に罰金刑というのは刑罰なわけですから、その額を上げるというわけですから、やはり罰金刑という一つ刑罰の機能ということを考えて皆さん方だってお出しになったわけでしょう。そうすると、その刑事的な感覚を出すのは問題なんで、出さないで、とりあえず当面の措置として、こうおっしゃったところで、刑法自体全面改正ということが着々と進行しておって、その中では、いろいろ各則の罰金についても、それぞれの考え方というのは、やはり現行刑法と違った形で出てきているわけです。だから、こういう議論が、しかも八年間の積み重ねの議論というものがありながら、その積み重ねの議論を全く別にしておって、ともかく四倍くらいだから四倍に上げておこう、こういうのでは、私はやはり非常に大きな問題じゃないかというように思うのです。  だから、たとえば皆さん方説明によると、刑罰としての機能低下とか、刑事司法の適正な運営に阻害をもたらしているというようなことをおっしゃられているけれども、しかし、それがもう待てないほどそんなようなことになっているかというと、決してそんなことじゃないと思うのです。そこのところは、皆さん方一体どうお考えになっているのか。   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕
  103. 辻辰三郎

    辻政府委員 私のことばが足らなかったかとも思いますが、この改正案は、現行の刑法というものを前提にした刑事的な考え方でございます。改正刑法のほうは、御承知のとおり、懲役刑につきましても、現在の一月以上というのを三月以上にするとかいうことで、罰金のほかにも刑罰のほうについて一つの新しい考え方を示しておるわけでございます。こういう基本的な刑罰論というものは、これはこの改正刑法作業に譲るのが当然でございます。そしてこの改正刑法の施行を待つということなんでございますけれども、その時期まではこれは待てない実情になってきました。すなわち、この法定刑の頭打ちの現象でございます。  そういう点を考えまして、あくまでもこの現行刑法考え方を基本にいたしまして、それに現下の経済事情の変動というものを考えてできたのがこの案でございます。
  104. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、この改正刑法草案の、たとえば罰金刑の場合の最低を一万円以上とするという根拠というのは一体何ですか。皆さん方のほうは、いろいろ検討された結果、四倍が妥当であるといって出してきているわけでしょう。改正刑法草案のほうは四倍どころか八倍ですな、計算すると。そうすると、ともかくこれは全然説明のつかないことでしょう。これからあとまだ何年かかかるから、物価の上昇を見越して罰金の最低を一万円にしたなんということじゃまさかないだろうと思うんですね。  だから、やはりその辺のところの緊急性なんというものは、もうちょっと詳しく説明してもらわぬと、法定刑が頭打ちになったからといったところで、じゃ、それがすぐそのまま刑罰としての機能低下になっているのかどうか。あとでもう少し罰金刑というのはどういうことかということの議論をしたいのですけれども、その辺のところはどうお考えになっているのか。いま四倍で、二年かあるいは早くて来年あたりに、出てくればこれをまた二倍にします、刑法改正であまり一ぺんに上げてしまうと、これはやはりそんな点での批判を受けるというので、いまちょっと上げておいて、そしてまた刑法改正で上げるという、いわば悪い言い方をすれば、悪徳商人の物価引き上げのやり方みたいな、そんな感じさえ私ども受けるわけなんです。その辺のところ、もうちょっと説明をしていただきたい。
  105. 辻辰三郎

    辻政府委員 改正刑法草案におきましては、罰金は一万円以上とするということでございまして、そして科料は五百円以上一万円未満とする、罰金と科料というものをかような評価をいたしておるわけでございます。これはやはり罰金刑と科料刑の一つの限界というものを、こういうところに置くのが適当であろうという考え方からきておると思うのでございます。  ところで、先ほど来るる申し上げておりますように、今回の改正案は、現行刑法を前提にして、刑事的な考え方現行刑法のとおりである。ただ、経済的事情とそれに伴う罰金刑の機能低下、あるいは具体的に裁判における科刑の頭打ちという現状を見まして、現下におきまして、刑法犯につきましては、この法定刑を四倍にするというのが適当であろうという考え方でございます。
  106. 横路孝弘

    横路委員 法律改正というのは、そんな簡単にやってもらっちゃ困るんですね。たとえば、これは皆さん方には直接関係がないけれども、道路交通法なんというのは毎年毎年改正されているんですね。わけがわからなくなっています。だからそんな意味で、やはり法的安定性ということは、法律にとっては非常に重大なことなんで、いまともかく皆さん方説明だと、四倍、四千円が妥当です、こう言っておいて、またあとから一万円にしたというのでは、それはやはり国民に対して説明のつくことじゃない。じゃ、罰金刑というのは一体何なんだということになると思うんですね。  だからそういう意味では、皆さん方の提案理由書を見ると、ともかく物価上昇というのが最大のポイントになっていますね、罰金刑の場合。そうすると、この改正草案の一万円というのは、やはりこういう作業をした結果出てきたのでしょう。私は何も高くしろという議論をしているわけではない。いまともかく罰金等臨時措置法で、いろいろ皆さん方の中で検討された結果四倍が妥当だ、ところが法制審議会のほうは、八年間検討した結果、例の刑事法特別部会のほうでは一万円が妥当だ、こういうことになったわけですね。その辺のところを、同じ法務省が管轄しておって、全然統一的じゃないわけでしょう。つまり、考え方としてはそれは新しい刑法理論に基づいたものです、こう言ったところで、罰金刑についてそんなに考え方が変わってきているわけでもない。  そうすると、やはりその辺のところの説明というのは、ちょっと論理的にはできない問題で、とりあえずともかく何とかしょうというような発想しかないように思うのですけれども、一体罰金等臨時措置法、これを上げようという考え方というのは、法務省の中でいつごろ出てきて、どうして今国会に出てきたのか、その経緯というのはどうなっているのですか。
  107. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金等臨時措置法改正の事務的な作業でございますが、これは事務的には昭和三十年代から、やはり経済事情の変動ということで、これは改正する必要があるんじゃないかということから検討が始まったわけでございます。  ところで、この時期におきましては、刑法全面改正作業が、これは昭和三十八年よりもまだ前に事務的な刑法改正の準備をいたしておりました。そういうことがございますので、昭和三十年代におきましては、やはり刑法全面改正作業に待つほうが適当ではないかということで、この罰金等臨時措置法改正の必要性は考えられながらも、刑法全面改正のほうでお願いしようというふうに考えておったわけでございます。  ところでその際は、先ほど来申しましたように、まだ裁判の実務におきまして、科刑の頭打ちという現象はなお出てきていなかったわけでございます。これはやはり概観的に申し上げますと、昭和四十三年あたりからこの頭打ちの現象が出てまいりました。そういう現象と、それから刑法全面改正作業の今後の見通しということをいろいろと勘案いたしますと、やはりこの際は罰金等臨時措置法改正願って、刑法全面改正までの期間をどうしてもつないでいただく必要があろう、かように考えて今国会に提案をいたした次第でございます。
  108. 横路孝弘

    横路委員 昭和三十年ごろからそういう議論があったならば、あと二、三年待てばいいものを、何でまたこういう形でやったのか。  たとえば、こういうことになると、今回の罰金等臨時措置法改正改正刑法草案と比べてみて、改正刑法草案のほうが罰金が低くなっているのがあるのですけれども、何かわかりますか。
  109. 辻辰三郎

    辻政府委員 改正刑法草案の各則と、今回のこの臨時措置法の適用を受けます刑法犯の罰金額とを考えてまいりますと、改正の結果、この改正刑法草案よりも罰金額が高くなるというのが四つほどございます。これは業務上失火、重過失失火、それから第二はわいせつ文書頒布等の犯罪、第三は贈賄罪、第四はあっせん贈賄罪でございます。
  110. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、今回の改正案が通るとこれは上がるわけですね。もしこれを前提とすればですよ。これをこのままいくとすれば、そこでまた下げられるという奇妙なことになるわけですね。そうしてこれは、こちらのほうが私はおかしいと思うのですけれども、本来罰金刑に一番ふさわしいと思われているような贈賄とかあるいは過失犯について、むしろこの罰金刑が下がるという奇妙な現象が起こるわけなんです。そうすると、この法的な安定性ということを考えますと、上がったり下がったり、こんなことで二、三年後またおかしくなるというのでは、これはどうしたってつじつまがやはり合わない。そう思いませんか。
  111. 辻辰三郎

    辻政府委員 この改正刑法草案は、これからまだ法制審議会総会審議もございます。それから国会の御審議がございます。何もコンクリートになっているものではございません。  私どもは、ただいま御指摘のように、この罰金等臨時措置法改正刑法草案の法定刑といろいろ比較検討をいたしております。その結果、大多数のものは改正刑法草案のほうの罰金刑の法定額のほうが高いわけでございます。それで例外的に、今回の改正によって結果される法定刑が高くなるものが、先ほど申し上げた四つございますけれども、この四つは、実はもう当然御了解願っていると思うのでございますが、昭和十六年の刑法改正の際にこの法定刑が定められ、現行刑法の全般から見ると、部分的にこのあとから改正された罰金額、そういう関係で単純四倍いたしますと、これが改正草案の刑よりも重くなるということに相なるわけでございます。
  112. 横路孝弘

    横路委員 結局その緊急性というのは、宣告刑が法定刑の上限に近づいてきたということだけですか。緊急性ですよ。
  113. 辻辰三郎

    辻政府委員 まず緊急性の第一は、ただいま御指摘の一部犯罪における科刑の頭打ちの現象でございます。しかし、その前提といたしまして、激しい経済変動というもの、昭和二十三年以来の経済変動とこの法定刑との関係は、これはたいへんバランスを失しておりまして、罰金刑全体といたしまして、現在刑罰の機能を十分果たし得るかどうか、これはやはりその点に改正の大きな基本的な考え方、必要性があろうと思います。
  114. 横路孝弘

    横路委員 法律論というのは往々にして抽象論になってしまうので、機能を果たしていない、低下していると言ったって、では実際上どう低下しているかということになると、なかなかそういう意味では実証的な研究というのは、罰金刑についてほとんどないのが現状ですね。私も調べたけれども、ほとんどそういう資料というものはないのです。そういう意味では、では緊急性が問題だとすれば、いまおっしゃった四つか五つくらいのやつについてだけ上げればいい。一律に全部上げるなんという必要はないでしょうし、この皆さん方の添付されている資料を見たって、全部が全部そんなことにはなっていないわけですね。その辺のところはどうですか。一部だけ、必要なやつだけやればいいじゃないですか。
  115. 辻辰三郎

    辻政府委員 これはやはり刑罰、特に刑法の場合には刑法全部の体系というもので、それぞれの犯罪についてそれぞれの刑事的な評価がなされているわけでございます。そういう関係で、現行の刑法で頭打ちになっておるものだけの罰金刑を上げるということは、やはりふさわしくないわけでございまして、それはやはり刑法全面改正作業におきまして、他の犯罪との関連を十分に検討していくべき問題であろうと思うのでございます。  そういうことで現在は、刑法犯につきましては、相互の犯罪の刑事的評価というものは捨象いたしまして、一律に法定刑を四倍ということにしていただくのが、これが現在最もふさわしい方法であろうと考えたわけでございます。
  116. 横路孝弘

    横路委員 どうもそこのところが、やはり私のほうで納得できないのでございまして、たとえば現行刑法の罰金刑だって非常におかしい。おかしいと言えばおかしいところがあるわけですね。たとえば、傷害と暴行というのは罰金の場合は同じになっていますけれども、傷害というのは人の身体を傷害したもので、暴行というのは傷害に至らなかったものをいうわけなんです。ところが、それが法定刑が同じというのは不合理性があるから、たとえば改正刑法草案のほうでは、別に区別をして傷害のほうを重くしているわけです。そういう配慮というのは、今回の罰金等臨時措置法の  一部改正案の中で、一応そういう不合理性は本来ならば是正すべきでしょうね。  ところがそれが、ともかく少ないから、ただ一律にやるのだと言ったところで、刑罰としての一つの機能というのを罰金刑は持っているわけですから、そういう意味で、やはりできるべき点というのはいまの改正案の中だってできるべきです。あるいはそれが妥当でないというなら待つべきだ。私はそこのところが、どうも何といっても納得できぬところなんですね。その辺のところどうなんですか。たとえば傷害と暴行だって一律に上げないで、できるなら区別して上げたほうが、より刑罰としての機能を果たすことができるのでしょう。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕
  117. 辻辰三郎

    辻政府委員 先ほど来申し上げておりますように、今回の改正法案現行刑法の体系をそのままに維持いたしました。刑法の体系そのものを再検討するというほうは、これは現在行なわれております刑法全面改正作業のほうにお願いをする。あくまでもこれは現行刑法を前提にして、経済状態との勘案において一律に法定刑の上限を上げるというほうが、この刑法全面改正との関係におきましては妥当であるというふうに考えたわけでございます。
  118. 横路孝弘

    横路委員 今回の措置で、国の収入というのはどのくらいふえるのですか。
  119. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは、かりにこの案が法律になりまして七月一日から、この案にはそうなっておりますから、七月一日に施行ということに相なりました場合を考えますと、これは御承知のように、この法律施行後の犯罪についてしかこの法定刑の上がった罰金は科せられないわけでございます。そういたしますと、これは本年度においてはそんなに、ことしの末ごろからこの法律が動いていくということになろうと思いますし、またこの改正というものが、法定刑の上限を上げるというだけでございますから、実際の裁判におきましては、直ちに裁判で四倍になるわけではございません。この法定刑のワク内で徐々に裁判の科刑が上がっていくというような要素がございますから、この改正案ができたからといって、直ちに幾ら罰金額の収入が上がるかということは計算できないわけでございます。少なくとも本年度におきましては、とりたてて言うほどの大きな罰金額の収入があるというふうには考えておりません。
  120. 横路孝弘

    横路委員 いま年間どのくらいあるのですか。
  121. 辻辰三郎

    辻政府委員 大体罰金収入は、四十五年だと思いますが、約二百四十億でございます。もう少し正確に申しますと、四十五年の罰金既済額は二百四十五億三千百万円ばかりでございます。
  122. 横路孝弘

    横路委員 それは道路交通法のやつも入るのですか。道路交通法違反の反則金のやつも……。
  123. 辻辰三郎

    辻政府委員 道路交通法違反も入るわけでありますが、反則金は入っておりません。
  124. 横路孝弘

    横路委員 それは収入として入った分ですね。宣告されているのはどのくらいなんですか。判決で言い渡されている罰金額の収入です。
  125. 辻辰三郎

    辻政府委員 言い渡された罰金額の総額は幾らという資料はございません。検察庁におきまして罰金を徴収いたします場合の資料しかないわけでございますが、その資料に基づきまして、四十五年は二百四十五億幾らというものが調定されております。
  126. 横路孝弘

    横路委員 あと幾ら残っているかという、売り掛け代金じゃないけれども、回収未済になっているのは幾らくらいあるのですか。
  127. 辻辰三郎

    辻政府委員 その資料、ちょっといまこちらに資料を持ってきておりませんが、私が申し上げました二百四十五億幾らというのは、昭和四十五年に検察庁で既済になった、未済を除きます既済になった金額が、二百四十五億幾らという数字でございます。
  128. 横路孝弘

    横路委員 既済になったというのではなくて、何か執行不能決定なんかしたやつはどうなっているのですか。
  129. 辻辰三郎

    辻政府委員 既済になったというのは、労役場留置によって徴収したものも入るわけでございます。それから、非常に例外的なものでございますが、不能決定いたしたものもこの既済額に入るわけでございます。
  130. 横路孝弘

    横路委員 あとは大体何%くらいですか。その取り立てることのできないやつは。
  131. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは後ほど直ちに御報告いたしますが、私の記憶では、そんなに大きい未済額にはなっておりません。とても一割というような数字にはなっていないと思います。
  132. 横路孝弘

    横路委員 そこで、この罰金刑の機能について少し議論してから、いまの改正草案議論のところにまた戻っていきたいと思うのですけれども、罰金刑というのは年々ずいぶんふえていますね。科せられた者の数というのは九〇%以上をこえて、九五、六%くらいになっているんじゃないですか。大体何%くらいですか。
  133. 辻辰三郎

    辻政府委員 昭和四十五年におきましては、確定裁判を受けました人員の九五・五%が罰金でございます。昭和四十四年が九五・三%、昭和四十三年は、これは反則金の関係があるわけでございますが、まだ反則金が前半は罰金になっておりました関係もあって、昭和四十三年は九七・二%、四十二年は九七・八%という数字になっております。
  134. 横路孝弘

    横路委員 昭和四十五年の場合は人数はどのくらいですか。三百万くらい、あるいはそれをこえてますか。
  135. 辻辰三郎

    辻政府委員 昭和四十五年は、これは道路交通法の大部分が反則金になりました関係で、昭和四十三年よりはずっと減っておりますが、四十五年は百五十九万八百二十六人ということになっております。
  136. 横路孝弘

    横路委員 そこで、この罰金刑は、刑事政策的な面からいいますと、長所としては、いわゆる短期自由刑の弊害を避ける、その代用だというようなことですね。手段として適当だというようなこととか、それからまた効果をあげるためには、すべての犯罪に一般的に妥当するのではなくて、特に、たとえば営利を目的とした犯罪に効果があるという点。短所としては、これはたぶんずいぶん議論されている点だろうと思いますけれども受刑者の財産能力によって効果が違ってくる、ある意味では貧富の差によって刑罰の公平性を欠くのではないかというような点が、一般指摘をされているわけですね。  それで、短期自由刑の代用としての罰金、それからまた、罰金の効果あるいは罰金の不平等性というような問題について少しお尋ねをしていきたいと思うのですが、まず第一審の有罪判決のうち、罰金刑が規定されていない犯罪で、自由刑を言い渡された者というのは大体何%ぐらいになりますか。
  137. 辻辰三郎

    辻政府委員 全体的な選択刑で、懲役と罰金があるものについて、全部についての懲役と罰金の割合ということでございますか。
  138. 横路孝弘

    横路委員 第一審の有罪判決のうち、ともかく罰金刑がついていない、自由刑だけの分について、それが大体何%ぐらいかということです。つまり短期自由刑の問題についてお尋ねしたいから、そういう質問をしているわけです。選択になっていない、罰金刑のない犯罪です。懲役と禁錮だけの分については、全体のうちの何%ぐらいを占めていますか。
  139. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは全刑法犯ということになりますか。
  140. 横路孝弘

    横路委員 いや、刑法典の刑法犯でけっこうです。
  141. 辻辰三郎

    辻政府委員 刑法典のうちの選択刑として、罰金がない、懲役または禁錮の言い渡しを受けた者が……。
  142. 横路孝弘

    横路委員 一審の有罪判決のうちの何%ぐらいを占めていますか。
  143. 辻辰三郎

    辻政府委員 刑法犯全体のうちの何%かということでございますか。
  144. 横路孝弘

    横路委員 はい。
  145. 辻辰三郎

    辻政府委員 その点、いま計算しておりませんのですぐ出ませんが、すぐに計算してみます。
  146. 松澤雄藏

    松澤委員長 質疑者と答弁者に申し上げます。  委員長の許可を得て発言をしてください。二人だけの間でやられたのでは会議議録がうまくいきません。
  147. 横路孝弘

    横路委員 はい、わかりました。  そこで、受刑者のうち懲役六カ月以下というのは大体何%ぐらい占めますか。つまり短期自由刑、大体六カ月以下といわれていますね。それは大体どのくらいになるか。
  148. 辻辰三郎

    辻政府委員 ちょっといま調べさせていただきます。
  149. 松澤雄藏

    松澤委員長 ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  150. 松澤雄藏

    松澤委員長 速記を始めて。
  151. 横路孝弘

    横路委員 私のほうにはあまり新しい数字がないものですから、新しい数字をちょっと知りたいのです。昭和三十年代ですと、大体一〇%前後のように私のほうの調べではなっているわけです。結局、一定の金額の支払いというものを罰金刑は強制するわけですね。したがって、自由刑に比べると、やはり一般予防の面でも特別予防の面でも、効果というのは低いだろうというふうに思うわけです。ただ、先ほどの御答弁ですと、九五・五%というようにどんどんふえていっているのは、罰金刑というものが、一般予防の面でも特別予防の面でも効果は薄いけれども、短期自由刑の弊害を回避するという作用があるから、裁判所のほうでもだんだん罰金が多くなっているのでしょうし、あるいは皆さん方のほうでも、略式で、傷害等について正式裁判を要求しないで罰金にする。あれはなかなかたいへんだからということもありますが、そこには、傷害なんかの場合は、私はずいぶん多くの問題があると思うのですけれども、しかし現実には、そういうことでやはり罰金刑というのはふえていっているだろうと思うのです。  そうすると、六カ月以下というのが昭和三十年代の数字だと、少なくとも一〇%前後あるということになりますと、これはやはり短期自由刑の弊害をなくするという面からいうと、やはりその辺のところはまだ考える余地があるんじゃないか。私はその罰金刑がふえているというのは、一つはそういう側面があるというように思うのですけれども、その辺はいかがですか。
  152. 辻辰三郎

    辻政府委員 先ほどの、受刑者のうち短期自由刑受刑者がどれくらいかというような最近の数字でございますが、これは昭和四十五年に刑務所に新たに入った者について申し上げますと、昭和四十五年の新受刑者は全体で二万五千八百九十名でございます。そのうちで六月以下の刑によって入っております者が三千二百四十三名という数字でございまして、一割強という数字になっております。  それから、先ほどの罰金刑がふえてきておるのは、短期自由刑の弊害をなくするという観点からふえてきておるんじゃなかろうかという御指摘でございますが、そういう考え方裁判官あるいは検察官のほうにあろうかと思いますが、これは現実の問題といたしましては、何といたしましても道路交通法及び刑法犯につきましては、業務上過失傷害という事件がたいへん多いという一つの犯罪現象の照り返しという面がたいへん多いのではなかろうかと考えております。
  153. 横路孝弘

    横路委員 そこで、矯正局長がおられるのですけれども、短期刑の受刑者に対する指導というのはどんなぐあいにおやりになっているのですか。三月以下、六月以下……。
  154. 羽山忠弘

    羽山政府委員 お尋ねの点は、私どものほうでは一番むずかしい問題の一つでございまして、まず心理テストその他のテストをいたしまして、どういう作業に向くかということを判定いたしまして、そしてその短期の者を分類いたしまして、そういう作業に向く施設収容するように努力いたしておるわけでございます。  御承知のように、刑務所におきましては職業訓練などを実施いたしておりまして、受刑者の中には、この訓練を受けまして、いろいろ免許あるいは免状などをもらって出ていく者が多いわけでございますが、六月以下というものはそういう実情が非常に貧弱である。しかも、六月以下でありましても、満期まで置くということはやはり望ましくない。できればその事前に仮釈放いたしまして、一月でも一月半でも仮釈放期間を置くことが適当である。特に初犯者につきましてはそれが適当であるという考え方がございますので、処遇といたしましては、刑務所におきましては、はなはだ不十分な処遇しかできないというのが実情でございます。
  155. 横路孝弘

    横路委員 そこで、短期自由刑の弊害を避けるという意味での罰金刑の機能というものを考えてみると、一つは、やはり罰金の適用範囲を拡張すべきだという議論が出てくるわけですし、それからもう一つは、短期自由刑の罰金への転換を認めるべきだという議論がやはりあるわけです。外国なんかでも、ドイツ刑法をはじめとしてそういう規定をしている立法例というのはずいぶんあるわけなんですけれども、わが国でも準備草案の五十六条に、「自由刑に代わる罰金の言渡」ということで、「懲役又は禁固を言い渡すべき場合において、特に軽い情状があり、且つ自由刑を科することが適当でないと認められるときは、その刑に代えて罰金を言い渡すことができる。」のだという規定があるわけなんです。  ところが、これは改正刑法草案の中には全く出てこなかったわけなんですけれども、その辺のところの理由みたいなもの、これをちょっと御説明願いたい。
  156. 辻辰三郎

    辻政府委員 これはやはり、そこまで刑罰というものを基本的に変えるのは、適当でないという考え方であろうと思います。  ただ、刑法改正作業におきまして罰金刑が議論されましたのは、主として、先ほど来御指摘のように、罰金刑が財産の多寡によって違った効果をもたらしてくるという罰金刑の一つの宿命と申しますか、そういう点を考えて、これをむしろ日数罰金制を取り入れたほうがいいかどうかというような観点から議論がなされたわけでございます。これも御承知のとおり、やはり日本の刑罰制度を一挙にそこまで変えるのは適当でないということで、刑事法特別部会の結論では、この日数罰金制もとらないようになっております。  なお、ちょっとついででございますが、先ほど罰金の未済額がどれくらいあるかという点について、数字が出てまいりましたので御報告いたします。先ほど私は昭和四十五年の全国検察庁の罰金の既済額は二百四十五億三千百四十七万八千円と申し上げたのでございますが、この四十五年の検察の未済額は一億一千十一万二千円と、これは多少前年度が入っておるかもしれませんが、約ということで、私どもの統計では一億一千十一万二千円という数字になっております。
  157. 横路孝弘

    横路委員 いまのこの準備草案の五十六条ですが、そこまでやるのは妥当ではないという結論になったというのですが、妥当ではないという結論になったのはわかるのですけれども、なぜそういうことになったのか。つまり、短期自由刑というのはなかなか矯正の面から考えてもこれは処置しにくい問題だということであれば、こういう一般原則を設けておいて、その本人の状況を見てするというのは、やはり非常に妥当な、そういう意味では、短期自由刑の弊害を避けるという意味での罰金刑の機能を果たし得る、一つの方針として当然あるべきじゃないかというように思うのですけれども、この一般原則についてはどうなんですか。
  158. 辻辰三郎

    辻政府委員 この自由刑にかわる罰金の言い渡しという考えでございますが、この準備草案の五十六条の考えは、刑法改正法制審議会作業におきましては、これはやはり選択刑として罰金を書いておけばよろしい、懲役または禁錮、それとまた選択刑として罰金ということで規定しておけば、それで足りるということが、一番の大きいこの採用しなかった理由であると思います。  それと、付随的には、自由刑にかわる罰金の言い渡しということをいたしますと、一般に寛刑化の傾向を不当に招くのではなかろうかという危惧もあったやに聞いております。
  159. 横路孝弘

    横路委員 この説明によると、もっぱらそこなんですね。いま局長がおっしゃられた後段のほうが説明書の理由になっているわけですよ。そこが私、よくわからないのです。なぜ刑の機能を緩和することになるのか。つまり問題は、一般予防的な面で効果が減少するということなのでしょうか。決してそうじゃないと思うのですね。それはそのときの事情で裁判所が判断するわけですから、あるいは皆さん方裁判所に対する不信の念があったのかもしれませんけれども、   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕 そういう意味では、どうして刑の機能を緩和することになるのですか。
  160. 辻辰三郎

    辻政府委員 これはやはり罰金に転換できるということになりますと、自由刑よりも罰金のほうが何といっても楽だということで、寛刑化の傾向を招くということは、これは常識的に否定できないことであろうと思います。私は、先ほど申しましたように、選択刑として罰金があれば、それで事足りるべきものであろうというのが、むしろ理論的な一つの考え、筋であろうと考えております。
  161. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、罰金の適用範囲と罰金刑というものをやはり拡大をしていかなければならぬということになりますね。その辺のところはどうですか。
  162. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは理屈として、いま御指摘のように、短期自由刑の弊害を避ける意味で罰金刑を拡充していくということであるならば、これは罰金刑の法定刑をふやしていくという帰結には、理論としては相なろうと思います。
  163. 横路孝弘

    横路委員 短期自由刑の弊害を避ける意味で罰金刑というのを考えられながら、一方で、支払いができないときは労役場に入れられるというのは、不合理じゃないかという議論がこれまたあるわけですね。この労役場留置処分件数というのは一体大体どのくらいで、毎年何人ぐらい金が払えなくて入っておるわけですか。
  164. 辻辰三郎

    辻政府委員 先ほど来申し上げております昭和四十五年を例にとりますと、罰金の既済になりましたのが二百四十五億幾らでございますが、このうちで労役場留置処分をいたしましたのが、金額といたしまして四千二百六万七千円でございます。そして件数としては三千二百二十名であります。これは同一人があるいは二回ダブっている場合もあろうかと思いますが、件数として三千二百二十件ということに相なっております。
  165. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、毎年減ってきているわけですね。その前の平均は大体五千人、五、六年前だと八千人ぐらいだというようになっておったのですが、年々減っている傾向にあるというように理解していいのですか。
  166. 辻辰三郎

    辻政府委員 減っております。
  167. 横路孝弘

    横路委員 この罰金の延納とか分納とかという問題ですね。資力がなくて払えないで入る人が、それでも毎年三千人からおるということになれば、やはり制度として延納、分納の問題とか、あるいは罰金の執行猶予とか仮出場の問題というのは、これまたいろいろと議論されているのですが、罰金の執行猶予というのはこれまた非常に少ないし、罰金の仮出場なんというとほとんどあるかないかぐらいのことになっているわけですね。その実態ですね、執行猶予と仮出場についてどうなっていますか。
  168. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金の執行猶予の件数でございますが、昭和四十四年中に罰金の言い渡しがありました件数は百五十七万八千二百十件でございます。そのうちで罰金の執行を猶予されました件数は二百七十三件でございまして、全体の〇・〇一%でございます。仮出場の件数については、ただいまわかりません。
  169. 横路孝弘

    横路委員 ほとんどないのじゃないか、こういわれているわけなんです。  そこで、この延納、分納の問題についても、準備草案の四十五条では、「罰金の言渡があった場合において、犯人の資産、収入その他の事情により、直ちにこれを完納させることが困難であると認められるときは、期間を定めて、その延納又は分納を許すことができる。」ということになっていたのが、やはり改正刑法草案では削除されているわけですね。支払う意思がない人間は別にして、支払う意思がありながら資力がないために支払えない人間、こういう人たちを救済をして、社会活動させながら金額を払わせるという意味では、やはり延納、分納制度というものは、法律的にきちんとすべきじゃないかというように私、思うのですけれども、いかがですか。
  170. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金の延納、分納につきまして、準備草案では規定がございましたけれども、現在の改正刑法草案ではこれが落ちておるという点は、御指摘のとおりでございます。  これは、法制審議会審議されましたときに、御承知のとおり、現在でも検察官の一つの職務として分納、延納ということが事実上行なわれておる関係で、実際の現在の運用にまかしていいという考え方から、この規定が落ちたというふうに理解をいたしております。
  171. 横路孝弘

    横路委員 説明書によると、あるいは出ておられる皆さん方のいういろいろな説明によると、検察庁の事務が非常に繁雑になる、徴収事務が増加するというので、そういう制度を設けてもらっちゃ困る、ただでさえ人が足りないところにますます仕事がふえるという、つまらぬ理由でこれが削られたという経過のように私は聞いておるのですが、私はそれじゃ困ると思うので、その辺のところはどうなっておるのですか。
  172. 辻辰三郎

    辻政府委員 徴収事務が、たいへん繁雑になるという意見もあったやに聞いております。
  173. 横路孝弘

    横路委員 実際上行なわれているというのは、やはりある程度合理性があるから行なわれているので、その担当している窓口も、いういろ訴えられて気の毒になったので認めてやるということで行なわれているのでしょうけれども、ただ法律的にいうと、いまのような法律制度のもとで延納、分納というのはどうなるかというと、いろいろ問題がないわけじゃないようですね。それで、現在では実際どの程度行なわれているのですか。たとえば何%なんという数字があるとわかりいいのですけれども、ございますか。
  174. 辻辰三郎

    辻政府委員 数字としてはございませんが、ただ、現在罰金の大半というものは交通関係でございます。そういう関係で罰金の分納、延納というのが申し出される件数は比較的少ない。特殊の場合であろうと思います。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕 しかしながら、検察庁においては、これは十分に処理いたしておるわけでございます。
  175. 横路孝弘

    横路委員 刑法の十八条五項によると、「裁判確定後三十日」云々ということで、「執行ヲ為スコトヲ得ス」ということになっておりますね。そうすると、一応一カ月過ぎるとどういう事務手続になっているのか。督促状を出したり何かして、結局収監なら収監決定をした場合には呼び出しをかけてやるのでしょうけれども、そうすると、たとえば延納、分納を約束させた場合に、まあ実際どの程度期間で行なっているのか私わかりませんけれども、たとえば一年なら一年とか、二年なら二年を十回分割払いにした場合に、その辺のところの関係というのはどうなるのか。この法律を見ると、一カ月過ぎると検察官のほうは、国のほうは執行しなければならぬように規定上は読めますね。
  176. 辻辰三郎

    辻政府委員 現行刑法十八条の五項は、「裁判確定後十日内ハ本人ノ承諾アルニ非サレハ留置ノ執行ヲ為スコトヲ得ス」という規定でございますので、あまり早くは、すぐにはできませんよという規定であろうと思うのでございます。  なお、次の十八条の六項でございますが、この六項で、「罰金又ハ科料ノ言渡ヲ受ケタル者其幾分ヲ納ムルトキハ」云々とございますので、現行法においても、その幾分を納めるということを前提にして書いておるということが、一つの分納の根拠になっておると私は理解をいたしておるわけでございます。  ところで、この分納の実情でございますけれども、実際は罰金額というものは、先ほど来申し上げておりますように交通関係事犯が多いわけでございまして、いわば一応資力のある方が多いわけでございます。そういうことでこの分納というものは例外的なことでございますけれども、これが長期にわたって、一月一回、一年というような、そんなに長いような分納の形は比較的少ないものと考えております。大体数回ぐらいの分納で納まっていっております。そして分納を認めた限りにおいては、申すまでもなく、一時にその全額の納付がないからといって、直ちに労役場留置の執行というものはいたしていないわけでございます。
  177. 横路孝弘

    横路委員 それなら、ちゃんとそれを法律制度としてつくったらいいんじゃないですか。そのほうがはっきりして、一つの権利といいますか、そういうことも考慮しているんだという意味で、明確になるんじゃないかと思うのです。
  178. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは、やはり刑法改正のときの一つの立法論になるわけでございまして、いろいろな考え方があろうかと思います。しかし、罰金というものは確定した段階におきまして、もう国の債権というものは確定いたしておるわけでございまして、あとは罰金の執行方法の問題でございます。執行方法についてどのように刑事政策的にこれを考慮していくかという一つの立法論の問題に相なろうかと思うのでございまして、それにつきましては、先ほど申しましたような法制審議会考え方もあろうと思いますし、ただいま横路委員のおっしゃるような御意見も十分あろうと思うのでございます。
  179. 横路孝弘

    横路委員 これはあれですか、本人が希望して、そこで話し合いをして何回に分けて幾らずつというようなことを、徴収事務をやっている窓口あたりできめるわけですか。その辺の判断でいいのか。実際の実務はどうなっているのですか。
  180. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは、分納の申し出がありました場合には、もちろん窓口の徴収係の者が十分事情を伺って、そしてそれがほんとうかどうかということも十分調査をすると思います。その結果、検察庁部内の担当の責任者までこれがまいりまして、そこでこの分納を認めるという決定をいたしておるというのが実務の運営でございます。
  181. 横路孝弘

    横路委員 そこで、その不公平さをなくするという意味で、日数罰金制の問題も議論されたけれども、これは準備草案段階でも、最終的に削除されてしまった。ただ、量刑の場合に経済状態を考慮するということ、これについての一般規定が、準備草案で罰金、科料についてはあったというのも、やはりその辺の罰金刑の弊害というものを非常に考えた結果が、この準備草案に出てきたのだろうと思うのです。これがまた削除された理由というのは、一番初めのほうで申し上げたとおり、大体この説明書があまり詳しい説明がないので、私たちによくわからないのですが、まあ私なんかの考えですと、罰金刑を言い渡す場合に、その資産とか収入とかいうような経済状態を考慮しなきゃならぬという一般原則は、やはり非常に妥当な一般原則として、当然刑法の中で規定されてもいいんじゃないかというように思うのですけれども、その辺のところの審議の推移というのはどうなっていますか。
  182. 辻辰三郎

    辻政府委員 改正刑法草案の四十八条でございますが、四十八条の二項に、「刑の適用にあたつては、犯人の年齢、性格、経歴及び環境、」この環境というころで、経済状態も当然含んでいるという考え方でございます。
  183. 横路孝弘

    横路委員 いや、当然含んでいると言うが、しかし、必ずしもそうではないんじゃないですか。それだったらそのように明確に、前の準備草案のほうにあった一般原則、準備草案のほうでは、四十八条の前にたしか四十七条があって、四十七条で一般基準というものをきめておって、さらに罰金、科料の場合には、罰金刑の持っている弊害というものを特に強調した形の刑の一般基準というのを定められているわけですが、今回はそうじゃない。刑の適用において、一般的に罪刑その他を含めた場合の一般基準になっているわけでしょう。したがって、そんな意味で罰金刑の持っている弊害というものを、特に意識はされていないように私ども受けとめるわけなんですけれども……。
  184. 辻辰三郎

    辻政府委員 御指摘のとおり、改正刑法準備草案におきましては、四十八条におきまして特にこの罰金、科料の適用についての考慮事項を規定いたしておるわけでございます。しかしながら、先ほど来申し上げましたように、改正刑法草案におきましては、刑の適用として、その一般基準というものはすべての刑に通ずるものとして、この一般基準があれば足りるという考え方で、準備草案の四十八条というものは取り上げられなかったというふうに理解をしておるわけでございます。
  185. 横路孝弘

    横路委員 まあ委員長のほうからの要望もございますし、大臣はまた参議院のほうに戻られるということなんで、最後に大臣にちょっとお尋ねしたいと思うのです。  今回のこの罰金等臨時措置法ですね、四倍に引き上げるわけでありますけれども刑法改正作業が始まっておりまして、きのうも第二回目の総会が開かれたようであります。その改正刑法草案の中では、今回の罰金等臨時措置法措置よりもさらに大幅に上げるという内容が出ているわけですね。これは法制審議会刑事法特別部会の結論としてですが、そちらのほうはいまの新しい刑法理論も取り入れて、そしてまた、いまの刑法の中にある不合理性というのもある程度是正している。たとえば、傷害と暴行が法定刑一緒のやつを、傷害のほうを重くするというような措置改正刑法草案の中ではとっているわけです。そんな意味では、私はいますぐ、ここに緊急性があるからといって、罰金を上げなければならぬ理由というのはほとんどないと思うのですね。したがって、刑法改正まで待つべきではないかというように私は思うのですけれども、大臣、いかがですか。
  186. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 私は、やはりその時代、時代に適応している法律制度でなければならぬ、それが昭和二十三年のそのままでいけるものかどうかということに、非常な疑問を持っておったわけであります。お話しのとおりに、刑法改正案を私みずから来年は提出したいと思っております。しかし、来年提出できたとしても、来年から施行されるかどうか、そういうことは保証のないことであります。  そういう意味からいたしますと、ほんとうを言いますと、あるいは現在草案の中の罰金額をそのまま持ってくるということも考えられるかもわかりませんが、それではいわゆる非常に思いつきであって、そういうようなわけにはいかないが、せめて罰金額が往復のタクシー代よりも少ないのだというようなことは、やはり法の権威という点から考えましてもどうか。したがって、やはりその時に適応した、できるだけの内容を盛ったもののほうがいい、こういう判断に立ったわけでありまして、その点では、四倍がいいかあるいは五倍がいいかということになりましょうが、しかし、現在の草案が施行されるまでの間に、中間的なといいますか、ある程度それに近い内容を盛ったもののほうがいいのではなかろうか、かように考えておるところであります。
  187. 横路孝弘

    横路委員 今回の罰金等臨時措置法の引き上げも、四倍という額を、まあ適当にこの辺にしょうやというのできめたんじゃなくて、それなりに皆さん方のほうで検討された結果であろうというように思うわけであります。その趣旨の説明というものもいままであったわけでありますが、一方改正刑法草案のほうも、八年間いろいろと議論をしてきた結果がここに出てきておるわけでありまして、その間にだいぶ大きな開きというものがあるわけですね。そうすると、これは確かに来年国会に出されたとしたって、ずいぶんたくさん大きな問題がありますし、非常にこれは大ごとでありますから、そう簡単に、何回か議論してそれで終わりということに、これは絶対ならない種類の法案だろうと思うのでありますが、そういう点はあるにしても、それぞれいろいろ議論されてきた結果が、とにかく違ってきておるということだけは間違いないわけですね。皆さん方のほうで十分やはり罰金等臨時措置法だっていろいろ検討された結果、四倍というのが妥当であろうということでいま提案されている。法制審議会のほうでもいろいろ議論された結果、一万円というのが妥当である、これでなければ罰金としての、刑罰としての機能を果たせない。  そうすると、一体これはどっちがどうなのか、私たちのほうから見るとさっぱりわけがわからぬわけですよ。そうすると、どうも今度の罰金等臨時措置法の引き上げというものは、刑法改正の間当分の緊急の状況のためにとおっしゃるけれども、何かまたさらに上げるための、ワンクッションおくための、非常に場当たり的な、思いつき的な引き上げのように私としては受け取れるわけですが、その辺のところ、大臣の見解はいかがですか。
  188. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 まず、この四倍の引き上げの法案につきましては法制審議会を経ておるわけで、法制審議会の方々もこれならよかろう、むしろやるならこういう一律の引き上げでいってもらいたい、こういうような意向もあるわけであります。  四倍がいいか悪いかということでありますが、まあ現在の改正刑法草案どおりに罰金額がきまるかどうかということもわからないわけでありますし、また引き上げるにいたしましても、まあ引き上げ過ぎではないわけでありまして、この程度なら引き上げ過ぎにはならない。そうして、非常に上限ばかり使っておる現在の判決が、ほとんど上限を使ってどうにかかろうじてまかなっておるというような弊害も是正できるのではないか、そういう考え方に立っております。
  189. 横路孝弘

    横路委員 まあ罰金の機能みたいなものも、正直なところ、実際どういう役割りを果たしているのか、いろいろ調べてみてもよくわからないのでありますが、ただ、いろいろな機能があるというのは、先ほどちょっと議論をしたわけでありますけれども、そんな意味では、ひとつこの際ちょっとお願いしておきたいのは、刑法改正の点について法制審議会のほうで審議が始まっているようでありますが、日弁連等でもこれはいろいろな意見がありますので、法制審議会の中だけで議論するというのじゃなくて、もう少しやはりこの問題というのを、広く国民の場に持ち出すような場の設定というようなことも法務省としてお考えになって、いろいろな人の意見というものもやはり広く聞いていただきたい。学者の中にも、いろいろ研究グループをつくりまして、若手の研究者がいろいろ研究を重ねている。そういう人たちの話を聞いてみても、どうも閉鎖主義的に議論というものが行なわれておって、さっぱりわれわれにわからぬという、こういう意見を言う方もおられるので、先ほど資料の提出も要求をして御了解を願っておったわけなんですが、そういう意味で、法制審議会議論というものを閉鎖的に取り扱わないで、もう少し公にして、そして議論をするということについての、大臣の基本的な姿勢というものをお伺いしたいと思います。
  190. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 私は、別にそう秘密主義でやったり閉鎖的に考えてはおりません。まあそういう点で、草案については、専門家の人がいろいろ議論の材料にかなりされておるわけであります。ただ、問題が問題でありまするから、非常に議論の内容そのものがむずかしいために、そう大衆的なあれにはならぬのじゃないかと思いますが、学識のある方々については、十分検討していただくということは、非常にけっこうだと思います。
  191. 横路孝弘

    横路委員 刑法改正と同時に、少し議論したのは監獄法改正の問題です。これも刑法改正と同じように、作業歴史というのが非常に長くて、問題点というのはもうとうの昔に出てきておるわけですよ。そうしてあとは何が問題かというと、法務省の中でもって、非常にこれは、刑罰というのは一体何かというそもそも根本的なところからのものの見方、考え方というのがかなり違った考え方があって、その辺のところの調整をどうするかという問題だけなんですね。いつもこれに失敗をしているわけでありまして、いままでもずいぶんいい監獄法改正案というのが出てきておるわけですけれども、出て、これはいいなと思うと、これはちょっと理想に走り過ぎているなんということで、刑事局あたりからクレームがあって却下になったり、大体話を聞いておるとそういうことなんで、もう少し矯正局のほうもがんばってもらいたいというように思うのですが、さっきの局長の話だと、前の局長よりもどうも後退しておるのじゃないかという印象を受けておるのです。  そういう意味で、ただ身柄を拘束するというだけが刑務所の機能じゃなくて、その人間をどうやって社会にもう一度復帰させてやるかというのが機能なんで、その辺のところを大臣のほうでも十分お考えになって、何とか刑法改正までには間に合わせたいというようなことだったのですが、どうも先ほどのお話を聞いておると、急ぐばかりが能じゃないので、ほんとうに社会復帰というようなことを考えた案というのを、ぜひつくってもらいたい。これも急ぐばかりが能じゃないけれども、しかし延々と、これは戦後間もなくからもう何回もやられては、結局法務省の中で話がまとまらぬでいつもつぶれてきている、あるいはつぶされてきているのかもしれませんが、その辺のところをひとつ大臣としても、刑法ばかりじゃなくて、罰金等臨時措置法等も戦後間もなくの法律ですが、監獄法というのもまたずいぶん古い法律であるわけなんでして、そういういまの新しい矯正の実績というのが世界各国であるわけですから、その実績に基づいた方向での改正というものを、ぜひ早急に考えていただきたいというように思うのです。
  192. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 矯正施設というのでありますか、それにつきましては、もうすでに局の手は離れまして、いま現場の連中が、実際に行なってどうかというようなことを検討しておる段階でございます。私もできるだけ早く出したいというので、非常に急いでもらっておるわけであります。  いずれにいたしましても、刑罰の判決は、やはり一般的に厳罰というようなことになるのはやむを得ないと思います。しかし、一たん判決を受けましたあとの、その人を再び社会に早く復帰させるということについては、もちろん刑務所の問題もありますし、それから刑務所と同じ考え方でもっと私は保護観察、要するに社会に復帰しながら矯正していく、矯正すると言うと語弊がありましょうが、二度と犯罪を起こさないようにするというような、これは一連の体系で、結局は、一般的に威嚇することも必要であり、今度は、一たん刑を受けましたあとは、できるだけ早くその人に適応した処置をする、そしてできるだけ早い機会に社会に復帰させ、二度と犯罪を犯させない、こういう考えですべて運んでおるような次第であります。ただいまの御趣旨は私も同感でありますし、そういう考え方で進んでおるつもりであります。
  193. 横路孝弘

    横路委員 先ほどの矯正局長の答弁ですと、現場の人は進歩的で、進歩的でという話をなさっていた理由が、いまようやくわかったわけですが、結局現場におろして、現場のほうからいろいろ意見が出てきておる段階なわけですね。それで、別にこれは進歩的とか保守的とかという問題じゃなくて、世界の積み重ねの実績と方向というのがあるわけなんで、どちらかというと、法務省というのは仕事の性質上しかたがないのかもしれませんけれども、やはり厳罰主義で、ともかく法定刑を上げればそれで犯罪は少なくなるみたいな、非常に単純な発想というものがどうもあるようなんです。それは仕事をやっていて、犯罪者を捜査して、つかまえて、起訴してということになると、やはり検察庁あたりはそれが主たる仕事ですから、そういう感じをお持ちになるのはやむを得ないのかもしれません。  だから、そんな意味で、矯正などという仕事法務省の管轄であるのがいいのかどうか、むしろ裁判所あたりに管轄を移したほうがよりスムーズにというか、よりきちんとした矯正行政というのがあるいはできるのじゃないかというようなことが考えられるわけですが、いずれにしても厳罰だけで事足りるわけではありませんので、いまの方向に沿ったことでの監獄法改正というのをまとめていただきたいというように思うわけであります。  そういうことで、これで終わりにいたします。
  194. 松澤雄藏

    松澤委員長 次回は、明二十四日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時十四分散会