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八幡参考人 私は
土地改良の学問をやっておりますが、私の
専門は
技術的な
工学でございまして、
土地改良の
法制とか
土地改良の
行政につきまして、特に勉強しているものではございません。しかし、私
どもがやっております
工学の成果が具体的な姿をとる
場面では
土地改良の
法制あるいは
土地改良の
行政、そういうものを通じて具現するわけでございますので、そういう点で
関心は持っております。以下申し述べることはそういう
立場、
かなり常識的な
立場から申し述べる、
つまり今度の
法改正案に盛られている
考え方につきまして
私見を述べさしていただくわけでございます。
法律改正案の
提案理由の
説明のところを読みますと、三つの柱が立っておりまして、
一つは
総合農政の新しい展開をはかるということ、そういう要請にこたえるための
措置である、これが
一つ。それから二番目は、
土地改良のいろいろな
事業の
内容の実質的な変化に対応するための処置である。三番目は、
都市化の進展に伴いまして、
農村における
都市と水の
農業上の
利用とそれから
都市的な
利用増の競合が
方々でできておるわけでありますが、そういうものに対処するための
措置である、そういうふうに
提案理由が
説明されております。
まず、
土地改良の
行政の
ワク内でそういう
改正が必要であるかどうかという、そういうその
ワク内での
立場から所見を述べますと、まずこの場合に
考えることは、そういうような
改正案に盛られている
考えが、
内容がはたして適当であるかどうか、そういうようなことが
一つと、それから、新しい
改正がいままでの
土地改良法の中に持っているその
メリットをそこなうということがないか、そういうような点を
考えてみたわけであります。
現在は、
農業の事情が非常に複雑、これは
地域的にもそうでございますし、いろいろな階層によって非常に複雑でございます。非常に
農業に
関心を深く持っている
農民もございますし、
かなり関心を失っている、そういうような者もおりまして、そういう
関心の濃淡と申しますか、そういうものが非常に多様でございます。そういう中で一律的な
法改正というようなことが
考えられた場合に、それを評価することはたいへんむずかしいわけでございますけれ
ども、とにかくこの前の
改正、
つまり昭和三十九年以後の
農業を取り巻く諸情勢は非常に変わっておりまして、したがって、それをいつまでも
昭和三十九年の時点で
改正された
法律で処理するということの矛盾は、これはもう言うまでもございません。そういう点で、当然、その
事態に対応した
改正をしていくべきであろう、そう思います。いろいろな
自分自身の経験から
考えましても、今度お
考えになっておられる
改正案のように
法律が
改正されたならば、多くの
メリットがそこに生じるであろう、そういうふうに一応
考えます。また、
現行の
法律が持っております
メリットを失わないというような配慮も、
改正案の条文を読ましていただきますと、相当にされている、そういうふうに
考えます。したがって、
改正された暁には、その
運用面で
——いろいろの御
説明のところで、見込みが確実なものだけやるとか、あるいは
受益者に
説明して
十分意見を聞くとか、あるいは地元の
意見を十分に
参考にするとか、そういうふうないろいろな御
説明があるようですが、これはその
運用面で守っていただくようにぜひお願いしたい、そういうふうに
考えます。したがいまして、
土地改良法という
ワクの中で
考える場合には、今度の
改正案は、全般的には評価に値するものだと思います。
ただ、これは一応
土地改良法という
法律の
ワク内で
考えた話でありまして、これは少し話が
ワクの外に出ることになりますけれ
ども、いかにそういう
農民のためを
考え、新しい
事態を反映させて
法律が
改正されても、肝心な
農業をになう
農民にあすの
希望がない、こういう状態であれば、そういう新しい
法律もまたたいへんむなしいものになってしまうだろうと思います。たとえば、これは後ほ
どもまたちょっと触れるかもしれませんが、
受益者の三分の二以上の
賛成云々というようなことがございまして、十分に
農民の
受益者の意向が尊重されることになっておりますが、これは当然守らなければやっていけないことだと思いますけれ
ども、その三分の二がたとえ四分の三であろうとも、そういう
個々の
農民の中にあすへの
希望と申しますか、そういうものがなければ、その三分の二もまた、数の上ではたいへんけっこうなんでありますが、
内容的にはたいへんむなしいもの、そらぞらしいものになってしまうのじゃないか、そういうふうに思うわけでございます。実際に、私
どものそばにおります若い
人たちがいろいろな機会に
農村に出ていろいろなことを調べてまいりますが、そういう
人たちが帰ってきて口をそろえて申しますのは、やはり
農業をやっている
人たちに非常に
希望が失われている、そういうことをまっ先に私
どもに報告するわけでございます。
そういう点からひるがえって
考えますと、今回の
土地改良法の
改正も、しょせんは、その法の
内部での対症療法的な
性格のものである、そういうふうに
考えざるを得ないわけでありまして、先ほど、今度の案はおおむね評価できると、そういうふうに申し上げましたけれ
ども、それもそういうようないわば限定的な
意味で支持するのでありまして、
政府あるいは立法の府といたしましては、一日も早くそういう
日本農業の将来、そういうものに
希望を持たせるような、そういう
方向を明確な形で打ち出していただきまして、そういう
展望の中で
改正された
土地改良法、そういうものが、そういう明るい
展望の中でしっかりと
位置づけられたものであるようにぜひしていただきたい、こういうふうに思うわけであります。それこそが真の
改正案である、そういうふうに思います。
以上は、全般的なことに対しての所感でございますが、個別的なことにつきまして若干申し上げますと、まず第一に、圃場整備
事業等における非農用地の取り扱いの
改善、そういうことでございますが、
農村の生産施設、たとえば農道というようなこともちょっと
考えてみましても、これは一応いままでの
土地改良法の中では、生産施設、生産上の機能だけが強調されて
考えられていたわけでございますが、実際にそういうことを調べてみましても、決してそういうものではございませんで、非常に生活上の機能をあわせ持っているということがよくわかるわけでございます。今度のこの
改正は、そういうような機能を改めて、圃場整備とか農用地の造成、そういうものにも配慮できる、そういうふうにお
考えのようで、そういう
改正は、確かにたいへんおそまきながら一歩踏み出した、そういうふうに評価いたすものであります。農道に限らず、
一般に
土地改良の
事業の
効果というのは、その裏面にと申しますか、
農業上の生産的な機能の向上、そういうことの裏側に意外なほど多くの派生
効果、二次
効果と申しますか、たとえば福祉
効果、そういうものを生み出しているものでございます。ところが、それが何か
法律の形式上の観点から、そういう
効果はことさらに無視されている。そういうようなことがあって、国民の一人といたしましてはたいへん歯がゆい思いをいたします。そういう点から
考えましても、一歩の前進ではあるけれ
ども、なお今後もさらに一そうそういう観点からの根本的な
改正をお
考えいただきたい、そういるふうに
考えます。
なお、ちょっと心配なのは、こういう
改正が行なわれますと、一応文面の上では、公共施設の
土地の取得を強制されることはないということになっておりますけれ
ども、実際の
場面では、いろいろな
社会的な陰の強制が加わりまして、
農民から
土地が奪われてしまう、そういう結果になりはしないかということがちょっと心配であります。しかし、そうだからといって、非農用地には全く触れられない、宅地が
一つぽつんとあるところは水路もずっと迂回させなければならない、そういうような法の
内容をいつまでもそのままにしておくというようなこともたいへんおかしな話でございます。この点は若干心配はございますけれ
ども、重ねて
運用面での慎重な配慮をぜひともお願いをしたい、こういうふうに
考えます。
それから二番目は、
土地改良事業の総合化でございますが、これは
技術者の
立場からすれば、非常に当然の
改正だと思います。従来工種別申請主義と申しますか、あるいは一
事業一
土地改良区主義と申しますか、そういうことで、むしろこっけいなようなことがところどころに起こっているように思いますが、これは私
どものやっている教育の面でも
技術的な知識を集約しております。たとえば
技術のハンドブックなんというようなものにつきましても、とっくにこういうことはやっておりませんで、いろいろな工種を
一つの
場面に有機的に総合して改良をはかっていくというようなことは、研究や学問や教育の面ではすでにやっていることでございます。これは
法律のほうがたいへんおくれておる、そういうふうに
考えます。したがって、こういう
改正はたいへん賛成でございます。若干そこに
補助率云々というような問題があるやに伺いますけれ
ども、こういう総合
事業につきましては、そういう点も十分に配慮する必要があるかと思います。
それから、
農業振興
地域整備計画、これに基づきますところの基幹
事業の実施の方式を今度はたいへん
改善される、そういうことでございます。これも
技術者の
立場からしますと、こういう
改正案はやはり必要であろうというふうに思います。基盤の整備
事業というものの
内容は刻々に変わっておりますが、特に前の
改正、
昭和三十九年以後、たいへん方式が
近代化し、大規模化しております。もちろん
農民の自主的な
意見に従いまして
事業を実施するという現在行なわれております仕組みは、その
メリットは、先ほ
ども申し上げましたように、保存しなければならないと思いますけれ
ども、新しい
事態が起こっているということもまた無視し得ないことでございます。したがいまして、その
改正は賛成でございますけれ
ども、しかし、これは
かなり歯どめを要することであって、あくまで
かなり先を見た先行投資的な、あるいは
かなり長期にわたる大規模な
地域の開発的な
性格を持ったそういう場合だけに限定すべきであろうというふうに思います。
ここではそういう場合の
事業費の負担の主体の問題があるようでございまして、これは私
どもどういうふうにしたらよいか、これは
かなり政策判断的な問題がからんでいると思いますので、積極的な
意見はございませんが、最近の基盤整備
事業の機能が昔よりも非常に広くなっているということから
考えまして、国あるいは
地方公共団体の助成の方式というものにつきましても、よりもっと突っ込んだ検討が今後も引き続き行なわれるべきであろう、そういうふうに
考えます。
最後に、例の用排水施設の
利用の関係の調整で、国営の造成施設等の
農業以外の他種
用水との共有化の問題でございます。これはいま
佐藤先生からいろいろなお話を伺いましたが、これはもしほんとうに水が余っているのであれば、その水はほかならぬ国民の水でありますから、これはまたそういう
事態、
農業用水から他種の水利に転用が進んでいるという事実もまた否定できないわけでございまして、そういう
時代あるいはそういう国民経済の変貌に法のほうが不備でありまして、現実的な
事態への対処ができない、そういうことであればこれはたいへん困りますので、そういうものにルールをきちっとしておく、そういう
意味ではこれはやはり必要なことであろうと思います。
ただ、
農業にどれだけの水が必要であるか、そういうような場合にこれをどういうふうにはかるか。あるいは、だれが、この程度は必要であり、この程度は必要でない、そういうようなことを判断するかということにはいろいろな問題があると思いますけれ
ども、このほうは
行政が暴走するというような心配はあまり私は感じないわけでありまして、むしろコンサーバティブに機能するであろう、そういうように
考えます。
以上でございます。(拍手)