運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1971-12-16 第67回国会 参議院 沖縄返還協定特別委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年十二月十六日(木曜日)    午前十時十三分開会     —————————————    委員異動  十二月十六日     辞任         補欠選任      青島 幸男君     野末 和彦君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         安井  謙君     理 事                 高田 浩運君                 玉置 和郎君                 西田 信一君                 米田 正文君                 大矢  正君                 西村 関一君                 黒柳  明君                 松下 正寿君                 春日 正一君     委 員                 岡本  悟君                 金井 元彦君                 川上 為治君                 佐藤 一郎君                 塩見 俊二君                 高橋 邦雄君                 塚田十一郎君                 寺本 広作君                 内藤誉三郎君                 橋本 繁蔵君                 原 文兵衛君                 平島 敏夫君                 増原 恵吉君                 山下 春江君                 山本敬三郎君                 山本 利壽君                 小野  明君                 加藤シヅエ君                 鈴木美枝子君                 田  英夫君                 羽生 三七君                 森 元治郎君                 渋谷 邦彦君                 中尾 辰義君                柴田利右エ門君                 星野  力君                 野末 和彦君    国務大臣        内閣総理大臣   佐藤 榮作君        法 務 大 臣  前尾繁三郎君        外 務 大 臣  福田 赳夫君        大蔵大臣臨時代        理        田中 角榮君        通商産業大臣        文 部 大 臣  高見 三郎君        厚 生 大 臣  斎藤  昇君        農林大臣臨時代        理        山中 貞則君        運 輸 大 臣  丹羽喬四郎君        郵 政 大 臣  廣瀬 正雄君        労 働 大 臣  原 健三郎君        建 設 大 臣  西村 英一君        自 治 大 臣  渡海元三郎君        国 務 大 臣  江崎 真澄君        国 務 大 臣  大石 武一君        国 務 大 臣  木内 四郎君        国 務 大 臣  中村 寅太君    政府委員        内閣法制局長官  高辻 正巳君        内閣法制局第三        部長       茂串  俊君        防衛庁参事官   高瀬 忠雄君        防衛庁参事官   鶴崎  敏君        防衛庁防衛局長  久保 卓也君        防衛施設庁長官  島田  豊君        防衛施設庁総務        部調停官     銅崎 富司君        沖繩北方対策        庁長官      岡部 秀一君        沖繩北方対策        庁調整部長    田辺 博通君        法務省民事局長  川島 一郎君        法務省刑事局長  辻 辰三郎君        外務省アジア局        長        須之部量三君        外務省アメリカ        局長       吉野 文六君        外務省条約局長  井川 克一君        外務省国際連合        局長       西堀 正弘君        大蔵大臣官房審        議官       前田多良夫君        大蔵省主計局次        長        平井 廸郎君        大蔵省理財局次        長        小幡 琢也君        文部省初等中等        教育局長     岩間英太郎君        厚生省社会局長  加藤 威二君        厚生省児童家庭        局長       松下 廉蔵君        労働省職業安定        局長       住  榮作君    事務局側        常任委員会専門        員        小倉  満君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリ  カ合衆国との間の協定締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)     —————————————
  2. 安井謙

    委員長安井謙君) ただいまから沖繩返還協定特別委員会を開会いたします。  委員異動について報告いたします。  本日、青島幸男君が委員を辞任せられ、その補欠として野末和彦君が選任されました。     —————————————
  3. 安井謙

    委員長安井謙君) 琉球諸島及び大東諸島に関する日本国アメリカ合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件を議題といたします。  前回に続き質疑を行ないます。  加藤シヅエ君。
  4. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 私は、沖繩返還協定に関する審議も、野党委員たちのきめこまかい質疑と、それに対する政府の御答弁にたくさんの時間をかけましたが、そのしんがりを承りまして、今日は、総理大臣並びに外務大臣質問をいたします。  私の質問は、佐藤総理並びに福田外務大臣のこの協定関係して起こるところの外交姿勢と、日本及び日本を取り巻く国々との関連についてどれだけの平和的、建設的な努力がなされたか、あるいはなされなかったかということについて伺うものでございます。沖繩返還協定及びそれに関連した国内法についての質疑応答は、聞く側にしてみれば、幾ら時間をかけて伺ってもまだまだ足りないという気持でございますけれども政府側にしてみれば、同じような内容質問の積み重ねをやっていられるというようなわけで、ずいぶんお疲れのことだとお察しいたします。しかし、協定を取り囲んでの質疑応答は、いつでも二筋の平行線が続くのみで、沖繩県民の心に残るものはただむなしさの一語に尽きるのではないかと思います。どうしてこんなことになってしまったんだろうか。一昨年の十一月二十一日、佐藤総理の訪米の際に、日米共同声明が発表されまして、七二年・核抜き本土並みということがはっきりいたしました。総理はまるで勝利者のような気分で、社会党がかねがね叫んでいた核抜き本土並みをそっくりかちとってやったというような御気分であったように思います。そうして四十四年の総選挙に臨まれて三百議席を得られたんでございます。で、沖繩県民の長く続いた苦悩の道について、ともども心を痛めてまいりました本土国民も、その当時は、沖繩が返る、沖繩が返る、こういうふうに叫ばれれば、それを一応のメリットと考えて、政府・与党に流れた票は少なくなかったと思います。しかし、日米共同声明背後を読み取ったものは、佐藤総理のこの勝利者のような気分についていくことができない矛盾を感じてこれを批判いたしました。そうして、今日、ここにでき上がった琉球諸島及び大東諸島に関する日米間の協定調印式が、せんだって六月十七日にはなやかなテレビ中継で行なわれて、日本国民にはこれがはっきりと知らされました。これは、その儀式のはなやかさにも似合わず、あけてくやしい玉手箱ではございませんが、この協定内容に盛られている事柄は、沖繩県民の命運を決定し、ひいてはわが国の将来の方向をも決定するような重大な意義を持っているにもかかわらず、現実沖繩県民の夢をかき消して、きびしい現実の前に直面させ、また、わが国の将来の方向沖繩という小さな島に本土基地の密度の百五十倍をも占めると言われる堅固な米軍基地を固定化して、わが国及び極東の平和維持をはかろうとするということが明確になりました。これが冷厳な現実と申すものなのでございましょうか。これでは沖繩県民失望落胆及び将来に対する不安は察するに余りあるものがあると思います。その心は琉球政府主席屋良さんが日本政府及び国会に提出されました復帰措置に関する建議書に切々として訴えられた文章に盛られ、また基本的な要求事項もここに盛られております。しかも建議書屋良主席が持参、上京されたその同日、その直前に衆議院協定委員会強行採決が行なわれました。屋良主席は、初の公選主席として当選されましたとき、七四%の支持率を得られました。そうして民族指導者として大きな役割りを果たしてこられましたことについてはだれもが認めているところでございます。  総理大臣は——お伺いいたしますが、あらためてこの復帰措置に関する建議書というものを御自分の手にとってお読みになりましたでしょうか。そうしてその御感想はいかがなものであったでしょうか。まずこれをお伺いいたします。
  5. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 直接のお尋ねから答えますが、ただいま屋良行政主席の持ってまいりました建議書、これは私も直接もらい、同時に、「はじめに」という項から書き起こされて各項目にわたっての詳細なものを目を通しました。その中には、もうすでにお答えいたしましたようにいままでの主張と違う部分もありますし、また、これは今日できない事柄もございます。また、われわれの運用の面によってはそれに沿い得るものもあります。また、われわれがこれから考えていかなきゃならないと思うような点もございます。それらの点は方向として私もお話をしたように思います。  ただ、私がこの際に立ち上がってお答えしたいのは、沖繩返還、これはこれによって終わるのではないということであります。いまようやく祖国復帰、これが実現して、それが沖繩祖国復帰へのまあ入口というか、第一歩だと、かように考えなければ、とても沖繩がなめてきた戦中、戦後のこの苦難、これに本土がこたえるという、そういうことはできないのであります。私は、そういうように今回の返還協定をとっていただき、そうして今後のわれわれの努力によって本土と一体化の方向にさらにさらに努力が続けられる、かように御理解をいただくならば、ただいまの与野党間の隔絶ももっと縮まるのではないだろうかと思います。私は、ただいま表現されましたように、別に勝者のような気持で帰ってきたわけでもありません。私は謙虚に皆さん方のお気持を体して、アメリカニクソン大統領と交渉したはずであります。また、私も重ねては申しませんが、沖繩を訪問した一九六五年から始まっての一連の苦労も私なりには苦労したつもりでありますし、また、私の意外な長期政権、その間にもし後生にとやかく言われるものがあるとすれば、おそらくこの問題だろうと思います。しかし、これは私一人の、またそれでできることではございません。私は、何と申しましても、県民百万、これが祖国復帰を心から願っておる。あらゆる場合にその運動が続けられ、また祖国一億の国民も、これと一体となって、そしてわれわれ政府当局を激励叱咤されたと、その結果もたらされたものである。そうしてその場合に相手方がアメリカであったということも非常なわれわれの交渉としてはいい結果をもたらすことができたんではないだろうかと思います。私ども南北、基本の本来の領土をそれぞれの国に奪われておりますが、南はさきに小笠原諸島が返り、今回沖繩の問題と返還にも取り組んでおります。しかし、北方領土についてはいまなお私どもの手の及ばないそういう状況下にあることを思うと、私は百万県民、一億国民、この悲願が達成された、同時にその相手アメリカであったと、アメリカわが国との日米安全保障条約相手国であり、対等の立場において、相互信頼のもとにおいてこのことがなされた、かように考えるべきだろうと思います。そうして誤解のないように申しますが、私はこれは返還第一歩だと、これからその中身を盛ることだと、これはわれわれ本土国民のなすべきことではないだろうかと、かように思うのでございまして、どうぞその点は誤解のないようにお願いいたします。
  6. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 ただいまの御答弁を伺いまして、返還協定がややもすれば、その協定の条文を読んでおりまして、これがずっと続く固定化されたものであるというような印象を受けるときに、私どもは何とも言いがたい気持ちに襲われます。しかし、ただいまの総理の御答弁によりまして、これは沖繩返還されるその入口であるというふうに解釈してほしいと。それは私もぜひそうであってほしい、これはたいへんにきびしい入口であったと思いますが、これから先に行なわれる努力がさらに県民に満足を与えるようなものでなくてはならないという総理の御確信に対しまして、私もこれはほんとうにぜひそうであってほしいと願うものでございます。  そこで次にお伺い申し上げますことは、国の安全とか世界の平和とかいうようなものを願うということは、単なることばだけであってはならない、その吐いたことばには、いつも心から出た自分の正直な気持ちの裏づけがなくてはならない。私は自分にもこのような態度を心がけているものなのでございますが、同時に、政治家として国の総理外務大臣も、その国の平和の指導的立場にあるものとしては、その吐かれたことばとその背後にある心の動きと、そしてその信念から出るところの行動、そしてその正しい行動の絶えざる継続性、こうしたものが肝心であると思って私は佐藤総理のそのお顔にあらわれる表情を絶えず見守っております。心の動きがその表情にだれでも正直にあらわれます。私はこんな意味で、国民代表として、その一国の総理大臣のお心のお気持ちがどんなふうに動いているかということを絶えず見守っている、こういうわけでございます。  そこで総理大臣にお伺いいたしますが、ただいま御答弁の中にもございましたが、総理は初めての、日本総理大臣として沖繩を訪問されました。「ひめゆりの塔」に参詣されて涙を流してぬかずかれた、その当時のことを新聞の報道で知りました。沖繩復帰なくして戦後は終わらないということば総理は吐かれました。あのときの総理の御心境は、すなおに沖繩県民の遭遇した悲劇、二十五年歩み続けてきたイバラの道をわが身に感じて県民とともに泣き、県民と力を合わせて平和の島、琉球を心に描かれたと信じております。総理大臣が、そうしたあなたのお心の中に燃え上がった県民への愛情が、この協定のどこにどのような形で盛られているか、これがなかなかちょっとわからないのでございます。現実を無視した同情論では政治はできないということもわかっておりますが、私は同情論だけで申しているのではございません。総理大臣外務大臣日本の国の外交姿勢に、従来の行きがかりの上に安住するのではなくて、新しい道への探索の第一歩を踏み切るということから始められることだと思います。そうした姿勢が先行して、そしてそのあとに条約とか協定とかが続かなければならない。現に目新しいところでは、去る十二月の十日、西独ブラント首相ノーベル平和賞受賞のためにオスロに向かわれました。ブラントノーベル平和賞受賞決定は、西独がその信頼を回復した輝かしいあかしであると、これは旧敵国であったフランスの新聞ル・モンドが書いたと申します。西独日本とともに枢軸国の一つとして世界戦争を始めた国であり、ナチスドイツが行なった残虐行為世界の人々を戦慄させました。敗戦国ドイツが直面した苦難は、同じ敗戦国日本の経験したそれ以上のものがあったかと思います。国家が分断され、ベルリンに厚い壁が今日なおきびしく立ちはだかって、自由な交通が許されない。ドイツを取り巻く西欧諸国が、戦後引き続きヒットラーの思い出とともに、この国を憎み、警戒し、欧州の中で村八分的な存在であったことは御承知のとおりでございます。この苦難の中から立ち上がったドイツは、目ざましい経済的な発展をいたしました。しかし、エコノミック・アニマルの汚名を浴びせられた日本と違って、ヨーロッパを中心とする緊張緩和と、イデオロギーの違う東欧諸国との接触など、建設的な外交行動が継続的に行なわれました。また、ナチスの行なったユダヤ人大量虐殺犠牲者に対しては、記念碑の前にブラント首相は涙をためてひざまづいた。その謙虚な姿勢、平和への意欲、こうしたものがあれほどむずかしかったドイツとポーランドとの間の条約協定に成功をもたらしました。このたびの受賞は、ドイツ平和国家として再生しつつある道徳的あかしを意味するものであるといわれております。そこで佐藤総理大臣福田大臣は、これはよそごととは思えない、私たちへの励ましのことでもあるのではないか。いま日本が平和への道を、具体的にみんながわかるような行動で示す時期がきているのではないか。それはどういうことか。まずお隣りの国、中国との国交回復への努力ではないか。新聞紙上で知るところによりますと、周恩来首相は、佐藤総理に対して、きびしい批判をしたり、また、日本軍国主義復活云々というような疑惑が絶えず指摘されております。私は、よその国の批判に同調するものではございませんが、日中国交回復が、両国のために少しでも早くなされ、その相互信頼関係が打ち立てられますならば、いまここに審議中の沖繩返還協定の中の大きな部分を占めているところの、沖繩軍事基地化という重たい石を取り除くことができるのではないか、こうした一歩を踏み出す勇気がいま必要なんだ、これに対して総理大臣はどういうような御心境で、どういうようなことをお心に描いていらっしゃるか、それを承りたいと思います。
  7. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) たいへん、ただいまのお話を聞きながら、私が沖繩を訪問した当時を思い起こしております。沖繩を訪問した当時の事柄を思うと、あまりにもそれが感傷的であった。その後の沖繩問題をいろいろの面から検討してみますると、戦中、戦後を通じてとても筆舌に尽くすことのできないような苦難の道を歩んでおられます。これについては、私ども政治家として心情的にこれに同情するということは、これは当然のことでありますが、それよりも何よりもこの状態を改善すること、これと取り組むこと、これが一番の政治家としての責務だと、かように考えて私は取り組んできたつもりであります。そのことは、いずれこの協定等を通じて、そうして先ほども申しましたように、これが祖国復帰への第一歩だ。それからさらに施策を充実することによって、沖繩ほんとうの平和の島にすることができる、かように申し上げたのであります。そういうように考えると、われわれのなすべきことは非常に大きい、かように思います。  ところで、いま沖繩基地、われわれが二度と戦争をしないこと、こういうことをほんとうに心から誓ったものがいまの平和憲法ではなかろうかと思います。また、われわれの自衛隊法、これも外地には一切出ていかない、そういう形のものでございます。みずからを自衛するという、そういう立場の権利は持っておりますが、それより以上には出ない、これはいままでもたびたび申し上げたのでございます。そういう点に立って、沖繩にある基地は、今後は日米安全保障条約の範囲内においてその行動その他がとどまることになるんだ、こういうことを実は申してきております。ところが、はたしてさようなことができるのか、アメリカは今日までアジアの太平洋の防衛キーストーンだ、かように言っているのに、そういうことができるのか、こういう疑問が出てくる。同時に、そのことはこれからの日本の将来にも非常な影響を持つことになります。まあただいまアジア緊張緩和方向に向かっておる。かようにいわれております。ニクソン大統領の訪中、これも新春早々に実現するでありましょうし、また一連の考え方も非常に緊張緩和方向に動いておる、このことは見のがせないように思います。そのこともやはり手伝って、アメリカ沖繩日本に返そう、こういうことに決意をしたと、かように考えてもいいのではないだろうかと思います。  そこでその緊張緩和のもと、それは一体何か。これは申し上げるまでもなく、ただいま御指摘になりましたように、日中国交正常化だと思います。中華人民共和国中国代表として、国連に加盟することが今日までできなかった。しかしながら、今回はそのことがはっきりきまった、中国代表中華人民共和国である、そこで国連に迎えられる。同時に、安保理事会常任理事国にもなる、こういうことでありますから、これはわれわれもそのまま認めなければならないし、またそういう観点に立って、いままで中華民国相手にしていたこの関係をも、中華民国そのものは今日も存在はいたしておりますが、やはり国交のない中国との国交正常化をはかっていく、中華人民共和国との国交正常化をはかるというこのことが、ただいまの緊張緩和、それに非常に役立つだろう。遠いアメリカのことは別として、われわれもこれはぜひともしなければならない。これが政府姿勢でもあり、申すまでもなく、ただいまの日本国民姿勢だ、かように私は考えておりますので、この国交正常化について、さらにさらに努力を続けていかなければならない、かように思っておる次第でございます。
  8. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 総理大臣の御答弁によりまして、日中国交正常化のために非常に意欲的なお考えをお持ちになっておるということ、これはたいへんにけっこうでございますから、ただいま問題が提出されようとしております日中国交回復決議案が出ますときには、総理も十分に積極的な意欲的なように、これができるように御努力くださることをお願いいたします。  続いてお伺いいたしますのは日米関係でございます。日米関係につきましては、総理はいつも日米間は相互信頼の上に立っているということを申しておられまして、どうか今後とも日米間にはいろいろむずかしい経済問題その他がございましょうが、いままで打ち立てられてまいりまして、また、日本アメリカとはもう切っても切れない密接な関係を続けていかなければならない国としての、相互信頼関係を今後とも継続されるような最大の御努力を私からもお願いいたします。  ただ私、一つ申し上げたいことは、いままで相互関係につきましては、たいがいの場合、アメリカがイニシアチブをとって日本がこれに歩調を合わせていくというような、そんな姿であったのではないか。これは戦後いろいろアメリカからあたたかい手を差し伸べてもらったりしてまいりましたいろんな関係もございますので、日本としてあまりにもいままで出過ぎたことをするということができないような事情にあったということも理解できないわけではございません。しかし、もう二十五年を経過いたしまして、アメリカ日本に対する評価のしかたもずいぶんと変わってきた。協力国であると同時に競争国でもあるというような見方も始めております。これはいいことだと思います。しかし、競争互いを傷つけ合う競争ではなくて、互いが繁栄するそういう競争でなけりゃならないはずでございます。したがいまして、日本総理大臣外務大臣としてもいろんな機会にアメリカのやろうとしていることが、もしアジア緊張緩和のために役立たないようなことであったり、そういうような場合あるいは日本にとっては耐えられないようなことであった場合には、そういうようなことの事情をよくよく御説明なさいまして、向こうが心からそれを理解するような、そういう努力がなされなきゃならぬ。そして機会があったらば、ただ向こうがいろいろ言ってきたことを、けっこう、けっこうというようなふうに賛成しないで、こちらから積極的にあなたのおやりになっていることは、これはどうかと思う、そういうようなことがあったらば、それに対して積極的なサゼスチョンをなさる、そういうこともできるというような間柄が、ほんとう相互信頼関係であると私は思います。そこで、総理は近くニクソン大統領との会見をなさる、これは大きなことであると思います。  そこで、いまアメリカがインドとパキスタンとの間に行なわれている戦争に対して何を考えているのか、どういうことをしようとしているのか。新聞にあらわれたような報道だけでは十分に私どもは理解することができないのでございますが、国連もたいへんに心配して決議案の連発をいたしております。この決議案がなかなかどうもほんとうに当を得ているところにいかないので、いつも連発に終わっていることは残念でございますが、中国とソ連との対立関係、そしてそれに対してアメリカがどういう態度をとるかということがインドとパキスタンとの戦争を問題としてこれが動いてきているわけでございます。新聞の報道によりますと、アメリカはソ連の拒否権の発動というものに対して非常に批判をしているというようなことも聞いております。どうしてアメリカがそういうことをやるのか、インドのやっている戦争を何と思っているのか。私は、インドのやっている戦争は領土的野心があるのでもなんでもなくて、国境を侵して流れてくる東パキスタンからの難民九百万にものぼるこの人たちを、自分の国がすでに人口が過剰で食糧が不足で困っているときに、ガンジー首相は、これをみんなかかえて食べ物を与えようと努力をなさった、こういうことは人道的に高く評価されなくちゃならないことだと思います。後世までこれはほんとうにいいことをなさったと、みんなこれは人が記憶することだと思います。そういうようなこの難民たちが、自分たちの郷土に政治的な圧制がなく、宗教的な迫害のないところの自治体を打ち立てて、そこへ帰りたいという、そういう意図のもとに起こった戦争であるならば、これは世界の多くの国が自己の利益というようなものを離れて見たときには、これはこの東パキスタンの人たちの考えているこの要求というものは決して無理ではないんじゃないかというふうに見ると思います。それに反対するような民族自決のこの正しい動きに何か反対するような動きをもしアメリカがやっていらっしゃるというようなことがありましたら、これはちょっと私たちは理解ができない。総理は、ニクソン大統領にお会いになったときに、民族自決ということはこれは正しいことなんだ。これに対してやっぱりその方向でもってアメリカ行動なさることのほうが世界的な信用を得るためにも大切じゃないかというようなふうなお考えをお持ちになって進言をなさるというような、こういうことはおできにならないものだろうか。このことを伺いたいと思います。
  9. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 今回の印パ戦争に対しまするアメリカ動き、これは、アメリカの考え方はいろいろあるようでありますが、これを端的に申し上げますと、即時停戦、また撤兵、この二つに尽きるようであります。その即時停戦、撤兵ということが、これがほかの大国に利害が——いろいろ見方が違うのじゃないか、そういうふうに思います。そこで、安全保障理事会が開かれまして、アメリカからもそういうような趣旨の提案がある。わか日本も、最後に開かれました安全保障理事会におきまして、そういう趣旨の提案をイタリアと一緒にやったんです。ところが、まあいろいろの提案が安保理事会に提案されましたけれども、結局、ソ連のビートウ——拒否権にあいまして成立しない。そこで印パ戦争における国連の貢献、国連を舞台としての印パ戦争の解決、これはなかなか見通しが暗いような情勢になってきているのが現状でありますが、私はその国連の場におけるアメリカ動きを見ておりまして、民族自決を否定するというような考え方、これはいささかも認めません。そういうのでなくて、何とか平和をこいねがいたい。それにはまず即時停戦、撤兵である、こういう主張なんです。しかし、総理大臣がサンクレメンテでニクソン大統領とお会いになる、そういういい機会でありますから、まあ印パ紛争がそのときまでに解決していればたいへんけっこうでありますが、もし解決されない、そういうような事態でありますれば、十分意見を交換いたしまして、そしてどうすればいいんだ、これは日本アメリカも必ず同じ道を行かなければならぬということはありませんけれども、十分議論をしてみるべき問題である、こういうふうに考えております。
  10. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) ただいまの印パの紛争についての外務大臣の話、とにかく戦争は私どもこれは避けたい、とにかく話し合いでものごとを決したい、こういうことが主でございますから、ただいま申しますように、戦争やめろと、即時停戦、そうして撤兵、国境の外においてそうして話し合いをしろ、こういうことを提案しておる、これはただいま問題でございますが、私は前段の日米間の問題について御指摘になったことはたいへん大事なことだと思っております。私は、いつもそのことに触れるのでございますが、これはもう日本開国の初めから日米関係関係を持った。日本が近代化に目ざまされたのも、これはアメリカとソ連だ、かように思いますが、そのときにアメリカの影響は非常に大きかった。そうして最初の間はたいへんうまくまいっておりました。そうして日露戦争の際も、日本だけではなかなか講和に取りつけるわけにいかなかった。アメリカのあっせんによってポーツマス条約、これができた。こういうような状況でございますから、たいへんうまくいっていたと思います。しかしながら、日露戦争終結後の、あるいは満鉄経営だとか——いわゆる満鉄の前身をアメリカがやはり支配するとか、あるいは排日移民法案が成立するとか等々によって日米間はよほど冷たくなった。さらにまた、軍拡等の際に、さらにその問題が火を吹いて一そう競争関係が激化した、そうしてついに不幸なるさきの戦争になったわけであります。私はそのことを考えながら、今度はかような間違いは二度と繰り返してはならないんだ、そういうことをほんとう国民の皆さまにも誓っていただきたい、政府はもちろんのことそういうことで取り組みたい。いまやようやく日本は対等の地位にまでアメリカの援助のもとにのし上がることができました。そうしていま経済大国としていろいろ問題を引き起こしてはおりますけれども、これもしかし話し合いで片づく問題でございます。私はそれらのことを考えながら、ただいまは過去のような戦争、武力によってものごとをきめる、そういう時代ではないんだ、話し合いによってものごとはきまる、印パまた同様だ、かように私は思っておりますので、日本のいまとっておる態度が中立の態度であり、そして戦争行為だけはやめてくれという心からの願いである。そこらの誤解はないように、いずれの側にもっていないんだ、中立の立場で戦闘を即時やめること、そうして国境外に撤兵する、そういうことを願っておる。これだけはそのままひとつお受け取りいただきたいと思います。
  11. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 いま外務大臣並びに総理大臣から同じようなことを印パの問題について申されたのでございますが、とにかく戦争はやめてくれということはこれはどこから聞いても当たりさわりのないことでございますが、日本のいままでの外交というのはいつでもまず当たりさわりのないことを言う。それではほんとうの指導精神というものはないと思います。民族の独立ということ、自決ということ、これは正しいことじゃないんでございますか。方々の小さい国々が戦後立ち上がったのは、みんな民族自決という、この原則に従って立ち上がって、小さい国でも国連に一国として、独立国として参加する喜びを得た。このことが今度の戦争の原因じゃないか。それをも知らぬ顔して、ただ戦争するな、戦争するなと言うんでは、そこには何にも外交上の指導精神というものが見られないじゃございませんか。私はこんなことを申したくないんですけれども、そういう外交は政治家の外交じゃなくて、官僚の外交なんです。官僚の外交というのは当たりさわりなく、うまくそこを通過すればいい、その場がしのげればいい。それではいつまでたっても日本ほんとう信頼というものを回復できない。それで、私はさっきからブラントさんや何かのことをここに持ってきて申し上げているんで、民族自決の要求というものは正しいかどうか、このことを率直にお答えいただきたい。
  12. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) いま印パの紛争でいろいろ問題になりますのはレヒュジー、これが先ほどは九百万と言われました。インド側で言っているのは一千万と言っている、パキスタン側で言っているのは二百万あるいは三百万と言っている。その数からもうすでに問題であります。また、民族自決なら、他国がとやかく言うべき筋合いのものではない。これは私は、それだけの内政干渉がましいことはしないほうがいいんじゃないか、かように私は思っております。今日やはり問題は民族自決、これは第一次大戦の際に日本自身が提唱したりっぱな原則であります。しかしながら、ただいま申し上げるようなことは、そのことによって内政に干渉する、こういうことは望ましいことではないように思っております。
  13. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) いま加藤さんから、日本の外交は事なかれ主義だ、こういうふうなお話で、印パ戦争につきましても同じような感触だ、こう言うんですが、この印パ紛争に対しましては、わが国は当初から即時停戦、これは私は正しいことであろうと思う。しかし、これは決して事なかれ主義じゃないんです。これは印パ紛争に利害を持っておる大国から見ると、いろんな見方のできる態度であります。しかし私どもは正しいと、こういうふうに考えますので、即時停戦ということを言っておる。  それからもう一つのことを言っておるのですが、この戦争背後にはインド、パキスタンにおける貧困という問題がある。難民の問題であります。この問題を解決しなければこの紛争というものは根を断たない。そこで、大国というか、力ある国々が力を合わしてその問題に取り組もうじゃないかという呼びかけをしておるのです。  その二つが私どもがこの紛争に臨む態度でございますが、これは国際社会においても非常に幅広い共感を得ております。で、この考え方を決議案に盛り込もうじゃないか。そういうようなことで、あるいは総会において、あるいは安保理事会において、各方面から日本のこの主張、これが取り入れられておる。こういう状態で、決して事なかれ主義で安住しておる、こういうことじゃございませんから、ひとつ誤解のないようにお願いしたい、かように思います。
  14. 西村関一

    西村関一君 関連。  ただいま印パ紛争についての質問に対するお答えの中に——私は、今回のわが国代表部の国連における印パ紛争に対する活躍については、前の中国代表権の問題のときとは違って、かなりりっぱな働きをしておるというふうに評価しているのであります。がしかし、なかなか問題は複雑でごいざますし、また非常に困難な状態でございますから、ちょっとやそっとのことでは解決がつかない。ただ単に貧困の問題——これはインド、パキスタンを含めて、亜・インド大陸全体の問題として取り上げられる問題でございますが、貧困の問題の解決は恒久的な問題として考えなくちゃなりませんが、今度の紛争の背後にはやはり二十三年前の独立の時代から、あのように東と西とに分かれて独立したというところにまでさかのぼって探求しなければならぬ問題があると思います。そういうようなことからも非常に独立運動が起こっておる。東パキスタンの独立運動が起こっておるということに対して、この独立運動を支持するとかしないとかいうことは、これはやはり内政干渉になりますから、政府としてはにわかに態度をきめることはできないと思いますけれども国連の場において、表舞台において紛争の解決に努力するとともに、やはりアジア外交、国連外交ともにアジア中心の外交ということを政府は常に言っておられるのでありますから、積極的に——決して事なかれ主義の態度をとっておるとは思いませんけれども、あるいはインドの政府とパキスタンの政府の中に入ってこれが解決のための調停の労をとる。またインドとパキスタンだけの問題ではございません。背後には、御承知のとおり、ソ連がありますし、中国がございます。それぞれ別々な立場で別々な方針をとっておる。ソ連はインドに対して、中国はパキスタンに対して支持を示しておるという状態でございますから、その問題はアメリカだけの態度では解決がつかない。三極外交ということがいわれておる今日におきまして、それぞれの国に対してもやはり働きかけをする必要があると思うのです。そういうことから考えましても、私は、日本政府中国に対してもものを言えるときを一日も早く来たらせるようにしなければならぬと思いますし、これは中国に対しても、ソ連に対しても、やはり日本アジアの大国としてアメリカと同様にものが言えるような状態をつくり出していただきたい。そうでないと、この問題の解決にもならぬと思うのでございます。そういう点、私は総理及び外務大臣のこの問題の解決に対する積極的な姿勢を求めるのでございます。そういうことに対しまして、私は関連でございますから多くを語ることができませんが、総理及び外務大臣の御所信を承っておきたいと思います。
  15. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) ただいま西村さんのお話、全く私は同感であります。そういう方向でいま最大の努力をいたしておるということを申し上げて、お答えといたします。
  16. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) ただいまの基本的な考え方は西村君御指摘のとおりでございます。ただ、印パの問題につきましては、パキスタンもインド側もそれぞれアピールしておりますので、私どものところにも詳細にそれぞれの国の主張を持ってまいっております。その際に一貫してこれに返事をいたしておりますことは、先ほどのような事なかれ主義ではありませんが、平和に徹した話し合いをするようにと。そのためには戦闘をやめることだと。また、同時に国境から遠のくことだと。そうして難民についての救助は国連を通じて積極的に取り組むべきだと。こういうような話をしておるような次第でございます。
  17. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 外務大臣にお伺いいたします。先ほどから私は、アジア緊張緩和と、日本が軍事基地というようなものにかじりつかなくてもいいような状態をつくるために近隣と友好関係をさらに深める。そうしてその第一歩として、中国との国交の問題についていろいろ申し上げましたけれども、この中国との国交回復の問題については、いろいろ長い間のいきさつ、あるいは台湾政府とのいきさつ、いろいろのことがございますから、非常にここをどこから切りくずして前進したらいいかということはたいへんにむずかしくて、外務大臣としてもずいぶんとお心をお悩ましになっていらっしゃることだと思うのでございます。私は、そこで一つ申し上げたいのは、最近美濃部東京都知事が北朝鮮及び中国を訪問されました。そしてそのときに美濃部さんはその第一声として、日本戦争責任について都知事という公人の資格において中国に対して謝罪をされた。これが新聞に報道されました。で、これは非常に大きな意義を持つことでございまして、事柄は抽象的な、一人の人が、戦争に対してほんとうにすまなかったと美濃部さんが心から思われたからそのことばを吐露された、それだけのことなんでございますけれども、その影響というものは非常に大きくて、広く人々の心に入り込んでいくのでございますし、そしていろいろいがみ合った感情や何かがそこからほぐれていくんじゃないか。私はこの美濃部さんがこういうことをなさったということを非常に高く評価したいと思います。したがって、いま外務大臣がどうやって中国に入り込んでいこうかと、非公式な政府以外の方がいろいろの御努力をしていらしゃいますけれども、やはり最後は、政府としてやらなきゃならないことはどういうふうにしてやったらいいかということでございますが、これは政府としてであると同時に、外務大臣その方として、どういうような信念をもって、どんなような気持ちをもって中国に対処していくか、そのことも非常に大きな影響を持つと思います。それで私は、何かの機会に何かの形式をもって、中国の人々に対して、戦争中に行ないましたあの残虐行為やたいへんな破壊活動、こうした御迷惑に対しまして心からの謝罪をされる、国を代表しての謝罪をされる、こういうようなことをするということは非常に意味があると思いますけれども外務大臣、何かの機会にそういうようなことをしてみようというお気持ちはないか、そうした勇気はお持ちにならないか、これを率直に伺いたいと思います。
  18. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 日中間の国交の打開につきましては、これは私というよりは総理大臣がもう最大の問題として日夜心胆を砕いておると、こういういま現況でございます。そこでいろいろ交渉——交渉というか、この国交の打開をいたす場合の前提条件というものについて論議があるわけなんです。あるいは日華平和条約をどうするとか、いろいろなことがいわれておりますが、私はいま加藤さんが御指摘になった問題、そこに非常に大きな関心を持っております。つまり、日中が話し合うその最大の前提は何だというと、私は相互信頼問題である。その相互信頼問題なしに、幾ら技術的な具体的な問題を話し合ってもこれは意味をなさぬ、そういうふうに思います。その信頼関係樹立の大きな一つの問題は、まさに御指摘になりましたわが国の日中戦争といいますか、あの際に中国国民に対しまして御迷惑をかけた、この点に対する陳謝という問題から始めなけりゃならぬじゃないか、そういうふうに思うのです。総理大臣は、衆議院の予算委員会でありましたか、委員会において、これを深く遺憾とすると、こういうふうに申し上げられております。これは私は政府間接触というものを早く持ちたいと、こういうふうに思っておりますが、その政府間接触における第一の問題は、私はその点にあると思うのです。それからお互いほんとうにもう戦争は再びしないと、あの陳謝したようなああいう事態が両国間にもう起こり得ないということについての両国の深い確信の樹立といいますか、その辺に問題があるのじゃないかと、そういうふうに思います。とにかく戦争によって御迷惑をかけたこの問題については、私は率直に申し上げまして、日本国といたしまして深くこれを遺憾とし、陳謝しなければならぬ問題であると、こういうふうに考えておりますが、これをどういう時点で、どういうふうな形で公に中国に対して申し上げますか、これはもうしばらくこの日中国交回復のプロセスを見た上で選択しなけりゃならぬ問題である、そういうふうに存じます。
  19. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 そういう私が申し上げましたようなことに対して、外務大臣総理大臣もそういうお気持ちを十分にお持ちになっていらっしゃるということを伺いまして、私は、それを喜び、ぜひそれが少しでも早く実現されるようにと切望してやみません。  そこで、いままで日本の外交において、戦後、日本が侵略国としてひどく方々に御迷惑をかけ、方々から、戦後、後々まで憎しみの感情が日本及び日本国民に向けられたということに対して、皆さんもよく御記憶だと思いますが、東南アジアの諸国の方々は、今日は非常に平和的に日本と交わってくださいますが、あすこまで行くのにもたいへんな日本の外交上の骨折りが官民両方の面で行なわれたということをもう一度思い返していただきたいのでございます。そして特に、私が、謝罪をすることがいかに相手国政府当局及び国民の多数の心をとらえるか、そこから入っていかなくちゃいけないかということを申し上げているのでございますが、岸さんが総理大臣でおられましたときに、東南アジアを平和ミッションとしてお回りになる、そのときにも私は進んで当時の岸総理にお目にかかりまして、いま、まず最初にお出になるオーストラリアなどでは、在郷軍人の方たちが、たいへんな怒り、憎しみを持ってゴーホーム・キシというような旗を立てて出迎えられると、そういうようなところに一国の総理が入っていらっしゃるということは、これはたいへんなことだと、それに対しまして、どうか岸総理として、そこへ入り込んでいらっしゃる最初のことばは、戦争中はまことに申しわけなかった、私たちは反省して心からこれをおわびいたします。そのことばでお始めになってくださいということを進言いたしました。岸さんもよく御承知と思いますけれども総理として、公に、これらの東南アジアの国々におわびのことばをもって始める外交をお始めになって、その結果が非常によかったといって喜ばれ、帰られましてから、閣議に正式にこのことを報告しておられるのでございます。こういうようなことが日本の外交にも例があったということに、どうか総理並びに外務大臣も心強くお思いになって、ひとつ、その戦法で切り込んでいらっしゃるというようなことをぜひやっていただきたい。私はこれを切望いたします。  そこで、外務大臣に最後に伺いますが、せんだって天皇、皇后両陛下が御訪欧なさいますときに、外務大臣は就任早々まだ日も浅く、また御病気の御静養のあとにもかかわらずお供なさいましたのでたいへん御苦労であったと思います。したがいまして、お察しするところ、十分な御準備ができていたのかどうか私には少し疑わしいと思うのでございますが、私はたまたま天皇、皇后両陛下がロンドンにお着きになりましたその同じ日に、ある国際会議に出席するために私はロンドンに参ったのでございます。そして両陛下がどのような歓迎をお受けになるのか。日本にいたらテレビにかじりついてでも見たいところでございましたけれども、会議に出ているのでそれもならずで、新聞を集めて見たのでございます。そういたしましたら、実に一日本人としてショッキングなニュースをたくさん見ました。そういうようなあまり心よくないニュースというものは、一体外務大臣に率直にほんとによく報道されているのかどうか。どうもその辺があんまり通じていないんじゃないか。いいことだけは大臣にお聞かせするけれども、あまりよくないことはそのままにして、時の流れるのにまかしてしまうことになっているのじゃないか。私は、特にその中で驚きましたのは、日本の天皇陛下が、ああしたお人柄の方でいらっしゃいます。学者でいらっしゃいます。別に戦争を好むお人柄では全然ない。この日本の天皇陛下のお人柄というものが少しも英国やオランダの人たち——戦争によって日本に依然として憎しみを感じているこれらの人々に理解されていなかったということでございます。たいへん残念なことです。ですから、その新聞の記事には、ひどいのになりますと、日本のエンペラー・ヒロヒトはヒットラー、ムッソリーニと組んで戦争して、あの残虐行為にも加担したのだ。これはエンペラー・ヒロヒトではなくて、エンペラー・ヒロヒットラーと言うべきだ。こんなことが書いてある。これは日本人としてほんとに残念なことです。そんな戦争好きな天皇陛下ではいらっしゃらない。なぜ、あれだけのお人柄が理解されていなかったか。そしてもう二十五年も経過いたしておりますから、戦争のあの当時のことなんかは忘れられているんじゃないかというような気分でおいでになったところに甘さがあったと私は思います。私たち民間人が旅行すれば、二十五年間もたっても、行くたんびに憎しみ持っているなんては言われませんけれども、一国の代表としての天皇陛下がおいでになれば、あの戦争当時にひどい目にあった人、家族が死んだ人、コンセントレーション・キャンプで残虐行為を受けた人、ビルマの死のロードの建設で倒れた人、こういう人たちの遺族、その友人、生き残った人、そのときの苦しみが二十五年たってもそのまんま胸に燃え返ってくるのでございます。そういう感情が広がって、それが新聞記事のあっちこっちにあらわれている。宮廷外交ははなやかであった。天皇陛下はたいへん御満足なすったということは私も心から喜びます。しかし、下のほうを流れている層に、そんなような憎しみが解決されないで残っていた。外務大臣もそれを御存じなくて、ただお供をしてお歩きになったんでは済まないと私は思います。私は及ばずながら一個人としてのおわびのことばを述べる機会があれば述べましたし、またそれがBBCに放送されたり、あるいはオランダのテレビに放送されたりして、それだけのことでも、オランダのコンセントレーション・キャンプでひどい目にあった方々、三十八名の方が署名した公開状をオランダの百の新聞に送って、日本の婦人議員がここであやまった、戦争中のことについて謝罪をした。私たちはこれ以上憎しみの感情を持ち続けることは許されない、許そう。こういうことを公開文として新聞に発表してくださいました。こういうような、これは一民間人の努力にすぎないことでございますけれども、ああいうような公式の大きなことが行なわれる前に、政府当局として、そういうようなことが何らかの形で行なわれておりましたら、そこでさらにヨーロッパにおける日本の真価というものが、もっともっと深く打ち立てられたのではないかと、私はそのことを残念に思っております。福田外務大臣は、その当時のことについてどのようにお思いになりますか伺いたいと思います。
  20. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) いま加藤さんのお話を承りまして、私、非常にショッキングな気持を覚えました。と申しますのは、私も実は陛下の御訪欧の成果がどうであろうか、こういうことにつきましては、もう細心な注意を払っておったわけです。いま、ロンドンの話を出されましたが、私もロンドンの新聞は、もう全部目を通しております。その中には、いろいろ御訪欧中のできごとについての記事もあります。あるいは、過去を回顧いたしまして、そうして日本のとった行動に対する批判の論説なんかも出ておる。そういうことは耳にし、まあ目にもいたしたわけでありますが、しかし全体といたしまして、私は、陛下が非常な平和愛好者である。日本の天皇裕仁、その人は好感の持てる人であるという印象を与えたと、こういうふうに総合的に理解をいたしておるわけなんです。そういうことでありますが、私も代議士でありますからね、選挙をいたします。そうして人の顔を——選挙運動に際しまして寄って来る人の顔を見ること、そういうようなことにつきましては、いささか心得があるものという自信を持っております。たいへんな人が出てきてお迎えくださる。そのお迎えをするその顔色です。これは大局的に見ましてね、これは憎しみの顔じゃなかったです。これは歓迎の顔であったと、こういうふうに見ております。しかし、御注意の点、これはだんだんとありがとうございました。今後ともそういう細心な注意を払いまして、いささかといえども、いま御指摘のようなことがあってはならないということは肝に銘じてまいりたいと思いますが、実際、私は、そうじゃなかったということをこの席を通じて陳弁をいたしておきたいのであります。
  21. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) どうも私の答弁が長くて、時間をかけて相すみませんが、ただいまの加藤さんのお話、私はほんとうに、われわれは反省をしたら、それは何度繰り返したってその反省があってしかるべきだと。一度あやまったらもうそれで済んだと、こういうものではなく、やはり憎しみを、それはいつまでも続いていると。それについての十分の理解がないと、どうも日本人の甘ったれた根性は意外なところに不幸を招くんではないだろうかと、かように思います。そういう意味の御注意だろうと思います。さような意味で、私どももさらにさらに反省もし、またほんとうに率直にあやまるべきはあやまる。こういうことで親交を重ねていくようにしないと、上御一人に、ただいまのような不信または誤解、そういうことがあってはまことに相すまないと、かように私は思います。  最初に中国の話を出されましたが、中国の最近の新聞にやはり戦犯呼ばわりをしていると、そういうようなことも私どもの記憶に残っております。こういうことは何といってもわれわれが反省をすれば、そういうものをやはり持続された形で絶えずみずからを慎んでいかないと、やはりもう、一度あやまったらそれで済んだんだと、こういうような気持ちではものごとは氷解していかない、真の建設にはならないと、かように、私もみずからを顧みる次第でございます。  ありがとうございました。
  22. 加藤シヅエ

    加藤シヅエ君 時間が経過いたしましたけれども、もうちょっと、もう一つだけ言わしていただきます。  それは、国際的に日本人でさらによく理解してもらうためには、その残虐行為に結びつきまして、日本が動物に対しても非常に残虐であるというようなことが絶えず言われまして、愛知外務大臣なんかも、ロンドンに行かれたとたんにプレス・コンファレンスでそれを言われて、ひどい目におあいになったということを伺っております。必ずしも全部の人が日本で動物に対して残虐なことをやっているわけでは決してございません。けれども日本には、動物を、ほかの国が持っているように、やはり人道的立場から情けをかけて、これを適切な管理をするという法律がいまだにできてないということは、これは国内で野犬の問題が処理できなかったりして困るだけではなくて、外国に対してもたいへんなこれはショッキングな感じを与えるのでございます。それで、これは外務大臣の御所管ではございませんで大石環鏡庁長官の御所管でございますから伺うのでございますが、最近山形の動物園のあのりっぱなライオンやなんかの動物が、えさ代が百万円できないというのであれを撃ち殺したというような写真が新聞に出る、あれは日本の子供たちにどんなむごい感じを与えたでございましょうか。そして、あれは外国へも、日本はたった百万円のえさをつくることもしないでこれを撃ち殺す、そういう残虐行為をする民族でいまだにあるか、こういうふうなたいへんなこれは対外的にも悪い印象を与えたと思います。  そこで、私はかねがね議員立法でいろいろと奔走いたしておりますが、いまだに微力であるためにこれはできないので、幸い今度は環鏡庁に鳥獣保護課というものができておりまして、こういうことはやっぱり政府提案としてはっきりした、日本はちゃんと動物に対しても適正に扱っているんだ、人道的な日本人であるというその立場を示すために、これは政府提案の法律をお出しになる時期がきているんじゃないか、私はこういうふうに信じまして環境庁長官にお伺いいたします。
  23. 大石武一

    国務大臣(大石武一君) いろいろと日本人が動物愛護に対する精神の欠けているような御批判もあるようでございますが、残念でございます。私は、日本人は大体人情の豊かな、愛情の豊かな民族だと思います。ただ、動物の扱い方、その飼い方あるいは表現のしかたがへたなために、あるいは訓練がないためにいろいろな混乱が起こると思います。そういうことでございますので、われわれは、このわれわれ日本人の愛情豊かな人間性というものをもっともっと正しく動物愛護の上にも、これをやり方がうまくいけるように、そのように考えたいと思いまして、できますならば御希望に沿うような動物愛護の法律もつくってまいりたいと考えておる次第でございます。
  24. 安井謙

    委員長安井謙君) 以上で加藤君の質疑は終わりました。     —————————————
  25. 安井謙

    委員長安井謙君) 次に森元治郎君の質疑を行ないます。  森元治郎君。(拍手)
  26. 森元治郎

    ○森元治郎君 返還協定について御質問する前に、福田外務大臣にちょっと伺って、それから協定の問題に入ろうと思います。  きのうの本会議でうちの川村清一君の質問に大臣のお答え、いわゆる大陸だなの問題については政府間交渉をやってみるというような御答弁がありました。これについて伺います。福田さんは大臣になってから見ていると、何かしたいと思って前へ出過ぎるんですね、少し。これはあわてなくてもいいんですよ。じっくりと外務大臣考えておやりになるという覚悟が必要で、その例として、政府間交渉ってどことやるんですか。
  27. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 御質問中国との間の問題をどうするかと、こういうお話なんです。いずれ大陸だな問題につきましては、東シナ海の問題でありますから中国からも話があるだろうと。中国はいま国交を持ちませんから、中国との大陸だな問題の話し合いは、これは私はいま中国との間に国交正常化のための政府間交渉を持ちたい。その政府間交渉の過程においてこの問題はいずれ出るでありましょうからその際において話し合いたいと、こういうお答えをしたんです。中国との間をどうするかという質問であります。
  28. 森元治郎

    ○森元治郎君 この問題を一番先に火をつけたのは台湾から持ち上がってきたわけですね。台湾から問題を提起された場合は、いま自民党の方針としては正常なる国交を持っておる国ですが、この政府とはどういう態度をとりますか。
  29. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 中華民国との間は御承知のとおり国交があるわけであります。しかし、大陸だな問題は中華民国がいかなる主張をいたしましてもその主張に従う、そういうわけにはまいりませんです。これは利害関係のある国々がみんな寄ってそこで意見が一致しなければこの問題は動かし得ない、そういう考えです。
  30. 森元治郎

    ○森元治郎君 これは大陸だなについては隣の台湾、中華人民共和国あるいはまた利害関係国としては韓国も入りたがるだろう、こういういろんな国々が大陸だなについては非常な関心を持っておる、これをどういうふうに対応しますか。台湾と中国はいまのような関係、また韓国と中国との関係はこれはとても仲がいいとは言えない、こういうものを個別的にやるんですか、みんな集めてやるんですか、どういうお考えを持っているんですか。
  31. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) いままだその方法論まで考えてはおりません。おりませんが、いずれこの問題は起こってくるであろう、こういうふうに思いますが、お話しのように、これは韓国もおそらくそういう考え方を述べてくるであろう、こういうふうに予想されます。そこで、利害関係のある国々が集まってこの結論を得なければ現実の問題としては動かし得ない、こいううふうに見ております。
  32. 森元治郎

    ○森元治郎君 これは本論じゃないから簡単にしますが、私は、きょう現在は尖閣列島の領有権は問題なく日本だ、大陸だなと尖閣列島の問題は別個の問題である、もう一つは、もし、第三国から話し合いがあった場合には、正当なる申し入れ、相談したいとか——けんかではだめでしょうからね、正当に話したいというんなら話し合おうというだけで必要にしてかつ十分だと思うんです。外務大臣としては。いまり中国に調子づけたようなかっこうなんかする必要はないので、この問題はなかなかこれは深刻複雑ですからね。その点はもっと牛歩的な態度でしっくりいかれたらいいと思う。  それでもう一点だけ聞くのは、なぜアメリカは領有権の問題について奥歯に物のはさまったようなことを特に言うのか、この真意は。さきに竹島問題という問題がありましたね、あれでも同じであって、何かどこかの国から領有権について問題でもあると自分がすうっと引いて、返還したなら返還しただけで黙っておれば必要にして十分だと思うのに、帰属はわからないと、そういうふうな言い方はどういう意味か、その意味だけを聞きます。
  33. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 帰属はわからないとは言ってないんです。沖繩返還協定は、この協定によってこの帰属に影響を及ぼすものではない、こういうことを言っておるわけです。言っておるにしても、私どもとすれば、はっきり日本のものですよ、こううふうに言ってくれればたいへんありがたいわけなんでありますが、これはお察しのとおりのいろんな事情があるんではないか、そのような感じがします。しかし、それはいずれにいたしましても沖繩返還協定以前の問題です。日清戦争のとき、われわれは台湾、澎湖島の割譲を受けた。そのとき尖閣列島は入っておったかというと、入っておりませんでした。それから平和条約第三条でどういうふうになったかといいますれば、これは台湾、澎湖島はわが国は放棄しました。しかし、尖閣列島を含む沖繩列島はこれは信託統治、また暫定的にはアメリカの施政権施行、こういうことになっているんです。一点の疑いもないんです。ないそのものにこの条約が、今度の条約が影響を及ぼすものではないというのはまことに蛇足であります。言わずもがなのことだと思いますが、何らかいきさつがあった。しかし、抗議をするというほどのことでもないのですよ。この返還協定は、これはいままでの尖閣列島の地位に影響を及ぼすものではないと、こういうことなんですから、抗議をする、そういう性格のものでもない、こういうふうに理解しております。
  34. 森元治郎

    ○森元治郎君 私は、アメリカがきれいに返したと言えばいいものをなぜよけいなことを言うのかという、そこを聞いているんです。日清戦争の話はいいです。わかりました。
  35. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) きれいにお返しいたしましたということは経緯度をもってもうはつきり示してあります。
  36. 森元治郎

    ○森元治郎君 とにかくこれははなはだ不愉快な問題ですね。アメリカがなぜこうだということは、やはり外務大臣として、折りを見てとっくりと確かめておくべきだと思うんです。今後問題になりますから確かめておく。抗議、これもいいでしょうが、どうなんだと、なぜだということをやっぱり聞いておかないと問題が起きたときにあわせてますから、しっかりアメリカがよけいなことを言うんじゃないということを押え込んでおかなければいけないということを忠告して協定に移ります。  総理大臣に伺いますが、あと九日か十日以内にいよいよ協定は成立する方向に行っているわけです。もう総理はうまい答弁で、これでもう大体野党を押え込んだと思っておられるかもしらぬが、なかなかよく大臣の前からの御答弁やなんかを伺っていると、依然として問題が残る。質問のしかたによって、たたき方によってそれに応ずる答弁ですから、どうしてもそういう理解できないものが残っております。その一番大きいものは、核兵器の持ち込みの点、核兵器については三つの原則があるほかに、たとえ持ち込みについてアメリカ側から事前協議の申し入れがあっても断固ノーと言うと、たいへんに強い。そこで私は、これは本会議の質問で御答弁をもらわなかったんですが、事前協議できてもノー、三原則ですからはっきり幕を張っている。そうすれば日本は、沖繩を含めて日本は核兵器については縁のない地帯ではないか、こういうことを御質問したんですが答弁がありませんでした。核非武装の宣言をするつもりはないという御答弁でありましたが、私は宣言しろと言ったんではないんで、現実には縁のないところじゃないか、こういうことを申し上げたんですが、どうですか。
  37. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 縁のない地域だという、これがちょっとわかりかねたんじゃないかと、かように思います。重ねてお尋ねするのもいかがと思いますが、私の理解を深めてお答えをいたしたいと思いますのでお尋ねいたします。
  38. 森元治郎

    ○森元治郎君 縁がないとは、要するに核兵器などというものはないし、どこからも、第三国から、あるいはアメリカからもちろんこういうところに核兵器の持ち込みはない、核兵器が貯蔵され、在置されることはない、どこを見ても核兵器というにおいもない、そういう意味で縁のないということを申し上げたんです。
  39. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) ひとり沖繩ばかりではございません。そういう意味なら本土沖繩日本国内には核兵器はない、また、その持ち込み事前協議の対象、そういう相談を受ければノーでございます。かように私はっきり申し上げておきます。
  40. 森元治郎

    ○森元治郎君 そこで九日の衆議院沖繩特別委員会で、美濃さんというわれわれの議員が、これは外交問題の専門家じゃない方のようですが、しろうとといわれるような人はわりあいにすなおな質問をするのですね、すなおな。これは大事なんですよ、すなおというのは。それほど事前協議もノーだ、三原則だというのならば、核兵器の持ち込みは事前協議の主題としなくたっていいじゃないか、それ以前の問題ではないかという質問が出た。これはほんとうにすなおな国民の理解だと思うのですよ。専門家というのは案外だめなんですから、しろうとのほうがずっとすなおですから。そうしたら総理はずるいから、あれがないと持ち込まれるかもしらんからやはりあったほうがいいなんてごまかしているのですが、そうじゃなく、それ以前ではないかというのです、以前ではないかと。この質問もやはりそう聞きたくなるのですが、もう一ぺん確かめます。
  41. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) どうもすなおな方の答弁、これが問題をいろいろ複雑にするようだ、どうも核の問題ははっきりさして、もう疑問の余地のないほうがいいように思います。したがいまして、私はもうどんな場合でもノーだ、これははっきり言うことにするということで私の考えも整理したつもりでございますし、またお聞き取りになる方もそういう意味でたいへんわかりいい、かように思うのじゃないか、かように思っている次第であります。
  42. 森元治郎

    ○森元治郎君 私はいままで核の持ち込み、事前協議に関して質問答弁を聞いていますと、約束したわけではないのだが、みんなのその気持は無意識に第三国へ、沖繩なら沖繩を通じて戦闘作戦行動、核兵器を持ち込んでこれを使う、第三国に使う場合を考えておるような質問が多かったと思うのですが、この美濃さんの質疑から、日本があぶないときにはどうするか、日本が……。これははしなくも大きな問題になったわけでしたね、衆議院では。そのときの答弁が、事日本に関する限り、一朝事あるときは日本が危急存亡というのならばそれは別だというような御答弁があったように思うのです。まあこういうのが速記録のようですから読んでみます。「私は、核兵器が世界にもうなくなれば……、事前協議の対象になる……心配もないと思っております。しかし、……わが国の危急存亡の際に、また日本防衛のためにアメリカが核兵器を持ち込もうというような事態が全然ないと……言えるかどうか。」ここから先がちょっとおどかしのような感じもするのですが、「祖国を愛する者のことばといたしましてはいかがかと私は思います。」と、こう読んでみますればね、事日本に関して、これなくしてはだめだとなれば、これはいままで何と言おうとも、何と国会で答弁していようとも、一切を捨てて国を守ることは最高の任務ですから、オーケーするのは当然だ、こういうことになろうと思うのですが、ここをやっぱりはっきりしておきましょう。そうすれば今国会はこれでこの問題は明瞭になりますよ。
  43. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) いまのようなお尋ねがありますから、はっきりさすようにどんな場合でもノーと申しますと、こういうことではっきり私の頭も整理し、それでまたそれがいままでの答弁でもあり、これでもう間違いない、かように思って、どんなところでも疑問が残らないと、かように思っておる次第でございす。
  44. 森元治郎

    ○森元治郎君 そうすると、いまの御答弁では、これなくしてはというような危急存亡の際でもノーと言うと、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。たいへん明快なんですけれども、国会を通過させるための、どうせ総理も七年もやったんですから、そうやらないんだから、通つちまえばいいんだというので答えているんじゃ困るんですが、危急存亡の際とも入れないというただいまの発言は、これは大きな発言だったと思います。私はこういう緊迫した——核兵器などというものを事前協議で持ち込みましょうかと相談を持ちかけるような雰囲気という状態は、相当緊張したものでありますね。緊張したものです。突然じゃない。やっぱり戦争状態が何年かかかってだんだんと盛り上がってくる。過去数年の緊張の高まりでしょう。これを政府がただ自分の専断で、外交権といいますか、専断でかかる重大問題をイエスとかノーとか言う前に、やはり国会があるんですから、国会の多くの人に賛成を求めるという、こういうことも十分同時に考えなくちゃいかぬと思うが、総理はどうですか。
  45. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) もちろんそういう点はあろうかと思います。しかし、政府の考え方はこれははっきりする。これはもうどういう場合でも核の持ち込みは事前協議の対象となるが、その場合にはノーと言うと、これがいかなる場合でも変わらないところであります。そうして、私どもはいわゆる核のかさの庇護を受けておる、かように申しておりますが、これはただいま申し上げますように、日本に持ち込まなくとも米軍の核の戦争抑止力、これは十分安全保障条約で確保されておる、かように思います。また、そういうことについて政府が国会の御意向をまた無視する、こういうようなことがあってはならないと思いますが、おそらく国会も政府のいまのような考え方には御賛同願えるのではないだろうか、かように私は期待するものでございます。
  46. 森元治郎

    ○森元治郎君 まあしつこくなりますけれども、やはりこういう問題はたいへん大きな問題です。緊張ムードの中の事態だから、国会というものを忘れないで国会と連絡をとってやるということ、事前協議があった場合にはこれを報告し、そして国民の賛同を求めるというような時間的余裕が十分あるはずですから、これはやらなくちゃいけないと思います。  ところで、総理のそういうただいまのようないかなる場合でも、ほんとうにいかなる場合でも例外なしに核兵器を持ち込まぬと、持ち込みは許さない、これはアメリカには十分伝えて向こうの理解をとっているかどうか。向こうの上院のお話やいろいろなものを見ても、例外的な場合にはわれわれは権利を留保しているというようないやな話がきょうまで消されないで残っているんですね。こうなれば私はアメリカに向かって正式に申し入れ、了解させなくても、一方的宣言ないしサンクレメンテの会談では、国会ではとうとう押されたけれども私はこういうことを言ったと、この点は了解してくれと、このくらいやっぱり一本注意しておかぬと、向こうの理解とくずれていますとかえって友誼をこわす結果にもなると思う。これははっきり向こうに通告を何らかの形でされる御用意があるかどうか。
  47. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) もちろん、今回のこの沖繩返還協定についての国会の質疑の応答のそのことについては、アメリカ自身も非常な関心を持っておるから十分聞いておると思いますが、しかし、幸いにして来春早々サンクレメンテでニクソン大統領と私会談することになっておりますから、そういう際はただいまのような御注意もあるし、また私が事前に、たびたび申し上げますように、野党党首との会談をもって、その上でサンクレメンテに出かけるということをいま考えておりますので、おそらく各党党首との会談を持つ時期は年内、これもひまなときという、時間をつくってという考えでございますから、二十九日か二十八日かその辺になろうかと思いますが、その辺までにおそらくもつと明確に、どういうような話をするかこれまたその際に十分いたすつもりでございます。これはもう各党党首からもいろいろ御要望はあるだろうと、先ほども外交権は政府だと、かように言われておりますから、私は国会の意思を無視して外交ができるわけではありませんので、そういう点では間違いなきを期するつもりでございます。
  48. 森元治郎

    ○森元治郎君 核の問題に関連して、核兵器を日本からなくするのだ、撤去するのだということは条約に明文されていると、これは一貫した答弁ですね。ところが、だれが考えてもみんなこれは納得しないのはこの問題なんですよ。衆議院段階でうんと攻めれば協定は通らなかったかもしらぬが、こっちへきてしまいましたからなかなかこれは容易じゃないですが、どうですか、これは福田さん、正直に読んでこれは核撤去を明文だといえるんですかね、これは。第七条になりますね、ここには核という字がないことが一つ、それから前条にある「合衆国の資産」という文章のサブジェクトがあるわけですね。それからその後にくっつかっている「雇用の分野」こういうふうにサブジェクトがはっきりしている文章に、これは実に上手に頭のいい人がつくったんですからこうなったんでしょうが、アメリカ合衆国が沖繩などの日本への返還を、おととしの「共同声明第八項にいう日本国政府の政策に背馳しないよう実施すること」ここに核撤去が書いてあるというのですが、字がないこと、それから主題がないこと、第八項といったってどうにも出てきませんしね。専門家は別ですよ、書類とってきて第八項に照らし合わせればなるほど書いてあるが、何もなければわからないですよ、これは。明文化したというのですが、わかりましょうか、皆さんに。
  49. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これはしろうとにはたいへんわかりにくいことかと思いますが、専門家はすぐこれは核だなというふうに理解できる条文だと思います。つまり、第八項というものを引用してある。第八項はどういうふうに書いてあるかというと、「右の日本政府の政策に背馳しないよう実施する旨を総理大臣に確約した。」こう書いてある。それを受けましてこの第七条ができておる、そういうことでありますので、これは核抜きをさしておるのであるということが理解できる、かように解釈しております。
  50. 森元治郎

    ○森元治郎君 第八項には核兵器について総理お話をしているんですね。核兵器という字が書かれている、しかもこの条約の前文には共同声明を基礎として、基礎に立ってと書いてある。それなら八項のすなわち核兵器については、とこう書けば、何も世間を騒がせないで、専門家だけじゃなく国民がわかりやすくなると思うのだが、なぜ核兵器という字を入れないのか、核兵器については云々しちゃいかぬ、タブーだというんだが、いつの間にかもうそんなものはうそっぱちになっちゃって、アメリカのどこであろうと、上院であろうと、どこでもみんなもう核兵器がどこにあるかないか言っているんですね。いままで日本政府はよけいなことで人の国の原子力法がどうだとか、大統領の専管事項だなんて人の国のことばかり持ち出してきますがね。いまは普通になっちゃっているんですよ。どこにあるかということは。そういうときにこれを抜いてこれで御承認を願いたい、七千万ドルおまえ協力しろといってもこれはおかしい、それが一つ。それからこの前も本会議で申し上げましたが、何で荷物の間に入れるのですか。前に二つありましょう、進駐軍労務者の退職金の問題と、合衆国の資産の移転の問題の中にすうっと入れているのですね、目立たないように。あなたは三原則の中には核抜きということをうんと上に掲げている。掲げたんなら、やっぱり大きく目玉商品見えるように書かなくちゃだめじゃないですか。核兵器を、これ八条だからもう一条さえふやせば、核兵器は撤去しますと書けば世間騒がせることないのですね、これは。なぜそうしなかった。アメリカが抵抗したから……。自分で抵抗さして上院でもってせいせいとしゃべっているなんていうのはけしからぬです、これは。これはやはりこの条約はなっとらぬ、この条約は。もう一条何でつくらなかったか。どうです、大臣。
  51. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 核が沖繩にあるということを承認をするということについては、アメリカは最後まで抵抗いたしたわけです。しかし、わがほうといたしましては核はあるに違いない、これを撤去するということを明らかにしてもらいたいということを、これも最後まで私どもは主張したわけです。そういうことから核兵器という直接説法をとらないで共同声明の第八項と、これを引用するということで折り合ったというのでありますが、これは第八項、こういうことを書きますれば、わがほうといたしましては、先ほど読み上げましたような文言をさすものである、こういうふうに間違いなく理解できるところである。アメリカ側としては第八項と言えば、これは核兵器と言わない、直接な説法をしていないというところで、まあ一応気休めというかそういう状態になるのじゃないか、そういうようなことでその議論の妥協というか、これがこの条文になっておると、こういうふうに御理解願いたいのです。これを資産の引継ぎの次に持ってきたと、こういうお話でございまするが、これは経過です。つまりまず資産の承継、これがきまった、それからその次にただいまの問題、それから最後に交渉というよりは、両方のこれは話し合いというようなことで労務者の問題を取り上げると、こういうことになりましたので、その経過的に書いてある。しかし、私どもとすれば、この第七条、これの目玉商品は何んといってもこれは共同声明第八項を実行するのだというところにあると、こういうふうに御理解願います。
  52. 森元治郎

    ○森元治郎君 両方で折り合ってこうやったと言うんだが、結局核を撤去するということをここであらわしたわけですね、結局。書かなければこれ一番いいのだが、書いてこれが核撤去なんだと言えば同じことじゃないですか、これが核撤去に当たるのだと。だから私はそれではもう許せないですな。断固としてアメリカをうんと言わさなきゃだめですよ、こういうものは。条約ですから。これが一体明文化されたとあくまでもおっしゃいますから、明文化したつもりではある、誤解はあるかもしれぬが、何かこうくっつけなければおかしいじゃないですか。明文化されていませんよ。どうもこの論議やってて私はうしろのほうにいていつも思うのだが、これは白い色ですよね。これは白だと言うのだけれども、あなたのほうでは黒だとがんばる。だれが見ても白なんだが、あなたのほうから見ればこれを黒にしてしまうのですね。そういうようなところがある。これはやっぱり明文化は十分には果たされてないと思うのですが、どうですか。
  53. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これは、森さんもよく御承知の上のお話と思いますが、たいへん苦心をしたところなんです。これはまた私は非常に巧妙にできておる、こういうふうに考えるのです。とにかくアメリカでは核があるということを、確認をするということを非常にいやがる、最後までいやがる。しかし、日本側といたしますれば金を出してもいい。金は私が当時大蔵大臣です、大蔵大臣としてこの問題について積極的に賛成の意思を表明したわけです。核撤去がほんとうに実現できるということでありますれば、私は金は惜しまない、こういう態度をとったわけであります。その表現を一体どうするか、こういう問題になってきまして、これは愛知大臣もたいへん苦心されたと思いますが、アメリカにそういう立場もある。しかし、わが国にはわが国立場もあり、しかも大蔵大臣が核撤去のためには金は惜しまない、こう言っておる。こういう立場を踏まえまして第七条というものができ上がった、こういうことであります。ですから私は非核三原則、これはこの条文に表現をされておる、こういう理解が持っておるわけであります。
  54. 森元治郎

    ○森元治郎君 それから核撤去の問題で確認の問題が国会では非常に論議をされ、結局政府のほうでは撤去されることははっきりしているのだが、国民の十分な納得を得るために努力しましょうということで今日きている。これは協定をつくったときにそのくらいの配慮は当然じゃないですか。核どうした核どうしたとみんなが騒いでいるときに、この条文だけじゃなく、撤去の確認について国民にわからせるようなものが同時に協定の中に入っていなきゃならぬと思う。言われて何とかしてみましょう、はっきりと抜くと書いてあるのだけれども、それほど御心配ならばということで今日まできたら、この手抜かりはお認めになるのでしょうね。
  55. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 私どもの解釈としては、共同声明第八項があります。また協定第七条がある。またアメリカ国会における幾多の証言がある。そういうようなことからいささかの疑念も持っておりません。これでいいとは思うのですが、今国会のこの審議のずうっと経過を考えてみると、いま森さんが御指摘したような問題があると、こういうお話でございますので、目下それをどういうふうに実現をするかということを検討しております。これはアメリカでもずいぶんこれについては抵抗する問題かと思いますが、どういう名案があるか、どういうやり方があるか、それにつきまして目下検討しておる、こういうふうに御理解願います。
  56. 森元治郎

    ○森元治郎君 私きのうの委員会に午後出席しなかったのですが、何か一月のサンクレメンテの会合でしかるべき方法を、ニクソン大統領あるいはアメリカ政府と形があるものをつくるというふうな御答弁があったようにも聞くのですが、違いますか。
  57. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) そこでたまたま一月六日、七日にサンクレメンテの両首脳の会談がある、これは非常にいい機会でありますので、その辺はこの問題に結着をつけるいい機会じゃないか、そういうふうに考えておるのでありまして、まあアメリカとすると、この問題は非常に重大な問題というふうに考えておりますので、事務的にいろいろのことをやってみましたが、なかなか満足なことにならない。そこで、この両首脳の会談を開く際に取り上げる、そうして何らかの結論を得るというふうにしたいものだなと私はただいま考えております。
  58. 森元治郎

    ○森元治郎君 いかにその場合にニクソンさんが、佐藤総理あるいはわれわれ国民に納得いくような声明をされても、ほんとうの寄って立つところは条約なんですね、条約が最高の権力です。トランプで言えばジョーカーで、切り札でやればほかはみんな取ってしまうというあれと同じで、条約なんですね。そうでなくて、ほかのほうでなんぼ遠ぼえしても補助的の力しかないんですね。これはそういう意味でこれを条約に明記しなかったということは本条約の欠陥であり、われわれが条約に賛成できない一つの大きな理由であります。ですから総理、サンクレメンテではこの核兵器撤去について国民の満足のいくような何らかの措置をアメリカ側ととるということと、いかなる場合でも核は日本には持ち込みはお断わりいたしますという二点だけはお話しになると理解してよろしいわけですな。
  59. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) その二点につきまして、全力を尽くしてみたいとそういう考えです。
  60. 森元治郎

    ○森元治郎君 この共同声明ですが、おととしのことですけれども、第一印象は、佐藤総理はあせったなという感じがするのですがいかがですか。その理由はこの共同声明というのを声を出して読むとよくわかるんです。これは目で読んじゃだめです。これは抑揚をつけてニクソンと佐藤と、私やってみたんです、自分で。とてもじゃないがアメリカの御気分が変わらないうちに早く返してもらいたいというあせりで、あなたが日本にいることはアジアの平和のために大事でございます。お出になるときには十分御協力いたしましょう。すべてあなたの言うとおり、そして最もあなたがかっかとしたのだと思うのは、そこにお持ちの第七条、さんざんアメリカのことを自由にさせますというようなことを言っておいて、「総理大臣は、日本政府のかかる認識に照らせば、前記のような態様による沖繩の施政権返還は、日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではないとの見解を表明した。」ここなんかは早く返してくれ、もう非常にあせりがこれに見える。これが共同声明の少し、少しじゃない、大きく出過ぎた原因だと思う。これに対して今度は大統領のほうは声は小さいですよ。「大統領は、総理大臣の見解と同意見である旨を述べた。」と、ちょっとです。片一方はかっかして、かかる関係が、これはよけいなんです、ここのところは。よく読んでごらんなさい、第七条ですよ。これはこういうところに踏み込んだ共同声明の誤りをあなたが何でもいいから取り返したいのだというあせりが日本に、極東、台湾、韓国の平和と安全、こういう大きく足を踏み出す原因になったと思うんです。そこで私が伺いたいのは、これ本会議で聞いたのですが、御説明、御答弁がないから伺うのですが、これはやはり条約の基礎となっております、共同声明は。したがって電気じゃありませんが、帯電して条約になっているんです。血と肉になっているんです。これやっぱり条約的な効果だと思うんです。単に外務大臣は核兵器だけの撤去の趣旨の骨子が条約化、条文化されたというだけじゃなく、共同声明は条約になっちゃったんですね。そういう見解を私はとる。そこでこの前御質問したら、第三安保条約ではないかということを伺ったわけです。その理由、いままで政府が口をすっぱくして言ったことは、第一次、第二次安保条約日本日本本土防衛アメリカは極東の平和と安全の維持に寄与する。外はアメリカ日本日本、もしどっかの国が攻撃した場合は共通の危険、あなたと私の共通の危険、アメリカがたたかれれば日本が一諸に受ける。日本がたたかれれば日本にいるアメリカが一諸になって防ぎましょうという御説明で一貫してきた。今度は大きく踏み出したのですね。韓国、台湾地域の平和と安全も日本の安全にとっては大事なことだというふうに大きく出たということは現行条約ではとてもそこまではカバーし切れない新たな問題、これは第三安保条約と私は名づけるのです。総理防衛問題の大家ですよ総理が一番。どうお考えになりますか。
  61. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 安保条約に対する見解は岸内閣で新安保を策定したあのときと少しも変わりません。あの当時、森さんもよく御承知のとおり、安保条約の目的は何だと、こういいますれば、日本及び極東の安全、これを保持するんだと、こういうことでございます。その極東の、しからば極東は何だと言いますれば、フィリピン以北、韓国、台湾を含めた地域である、こういうふうにお答えしておりますが、その考え方は今日少しも変わっておらぬ。したがって第三安保だと、こういうような性格のものでは全然ありません。
  62. 羽生三七

    ○羽生三七君 ただいまの問題に関連してお尋ねいたしますが、三月二十七日に私は予算委員会で日米共同声明について触れた際に、申した際に、佐藤総理大臣は、日米共同声明で台湾の問題に触れたことは一言余分であったと、こうおっしゃった。それははっきり速記録にも載っておりますし、おわかりのことと思います。  それからもう一つは、韓国のことについては、衆議院において曽祢議員の質問に答えられて、曽祢議員が軌道修正をやったらどうかと、こう言った際に、日米共同声明の韓国のことに関して軌道修正をやるかどうかは米中会談の結果を見てと、こう答えられた。しかし私は、この前もお尋ねをいたしましたように、それより前に、米中会談より前にサンクレメンテでニクソン大統領佐藤総理がお会いになる。したがいまして、いまの森委員質問は第三安保の性格を持ったものじゃないか。そういうことはないとおっしゃる。そこで一番問題は、いまの台湾と韓国に関する問題が日米共同声明に付加されたわけですね。したがって、日中関係がそういうことになっておれば、台湾問題に触れたことが余分なことであったことは、これは明らかであります。したがって、次には朝鮮問題ですね。この問題を朴政権の最近の動きがあるにいたしましても、先日もお答えがありましたように、緊張緩和方向でこの問題を見ていきたいとおっしゃった。そういう意味で言うならば、今度の日米会談ではやはり何らかの形で私は具体的にどういう形で声明が出されるか、あるいは出されないのか、それはわかりませんが、何らかの形で軌道修正をされるべきである。そうでなければ、いま森委員が言ったように、第三安保の性格を持つことに必然的にならざるを得ないわけです。だから根本的な問題に関連すると思いますので、これはぜひ総理からひとつお答えいただきたい。
  63. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 曽祢君から衆議院でお尋ねを受けましたのは、韓国に関してプレスクラブで私が演説をした、その点で、やや事前協議の場合にイエスを言うように解釈される、こういうようなお尋ねでありまして、これはどうもことばが足りなければそういう点は誤解のないように、事前協議にはイエスもあり、ノーもあると、こういうことを申しました。また台湾の問題についても私も触れましたが、これはやはり隣家の火事、その場合に類焼を受けないようにということをやるので、こちらから出かけて火を消すまでは手伝う、そうこまでは考えておらない、こういうことを実は申したように思っております。また、日本の憲法、日本自衛隊法等々を考えてみますると、やはり日本の自衛権の発動、その範囲内は私ども自衛隊の任務でありますけれども、それより以上に出てどうこう、これは任務の逸脱と、かような非難を受ける、これは当然だろうと思います。  そこで、先ほど来森君からいろいろお尋ねがありますが、第三の安保だと、こういうことを言われますけれども、私どもはさように実は考えておりません。まあ先ほど、白だと言うのに、これを黒だ黒だと言うのが政府だと言われるが、私は政府のほうから申すと、白だと、かように申しておるのにどうして黒だ、黒だと言われるのか、たいへん私意外に思うのでございまして、いわゆるただいまも第三の安保だと、かように言われますけれども、今回はさようなことは考えておらない。これはその第三の安保という考え方がいままでも野党の諸君からしばしば指摘されたように、これは沖繩本土化になるのじゃなくて、本土沖繩化される、こういう表現をされますが、そうじゃありません、どこまでも。本土に適用されておる安全保障条約並びに諸取りきめがそのまま何らの変更なしに沖繩にも適用される、こういうことでございますから、その辺の誤解のないようにお願いしておきます。
  64. 羽生三七

    ○羽生三七君 それは総理、おかしいと思うのですね。はっきりと、三月の予算委員会の際に、台湾問題に触れたのは余分であったと答えられ、速記録にも載っているし、各新聞もみんなこの問題に触れられておるわけですね。それから韓国との問題について触れられた軌道修正というのは、確かに事前協議の問題ではありました。ありましたが、これは韓国に対する姿勢を基本として曽祢君は質問しておるわけですね。したがいまして、台湾については一言余分であったということを明確にそこで言われ、それから韓国についても、いわゆる事前協議の場合の、前向きの、というのがかなり積極的なイエスにとられておることは誤られがちであるので、何らかの軌道修正が必要ではないか、そういう曽祢委員質問に対して、米中会談の結果を見て、というわけなんです。それより前に日米会談があるのですから、やはり私はこの際何らかの形で、第三安保と言うか言わぬかは別として、その基本的な問題についてニクソン大統領との間に、少なくともアジア情勢の転換を可能ならしめるような範囲の問題に触れることが重要ではないか、これが一つ。  それからもう一つは、森委員質問が先に行きそうなので……。この七条に関連して、七千万ドルの核撤去費ですね、これは大づかみで政治的判断で出されたと言われたわけです。この内訳は言われません。ところが先般私の質問に対して福田外相は、これは単に核弾頭、つまり核そのものの撤去だけではなしに、核施設全部の撤去を含む、こうお話しになりました。これは内地も沖繩も全部そうなると思います。つまり、もうアメリカは核弾頭、核兵器はもとより、それはもう当然でありまするが、それに必要なすべてのシステム、施設全部なんだ——これはアメリカが了解しましたか。一方的な願望なのか、はたしてこれは確実にアメリカも了解されておるのか。私はこれは非常に重要だと思います。それほど——アメリカがもしこれをそれまで認められるのならば、おそらく日米会談の際にも、核の撤去をどうして具体的に検証するかという問題に触れられるようでありますが、その際にアメリカはこれを拒否する理由はないと思います。全部撤去し、日本も非核三原則で何らのアメリカ側の持ち込みを認めない。アメリカ日本の政策に背馳しないようにする。それからシステムをすべて撤去すると、それならば具体的な検証の方法を講じて、たとえば専門家——防衛庁だけではいかぬと思いますね、専門家。場合によったら国会調査班まで含めて何らかの検証をする必要があるし、またアメリカが拒否する理由は毛頭ないと思います。第一段は佐藤総理から、第二段は関係の方からひとつお伺いしたいと思います。
  65. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 先ほど来の台湾条項、これは一言多かった、こういうこと、これはあまり意味がないというような意味で、政府がそこにまで触れたことはこれは一言多かった、こういうことで御理解をいただきたいと思いますし、また、ただいま朝鮮のほうの条項は、御指摘になったとおりであります。そうして私は、これはいま、新春早々、来年ニクソン大統領に会うのですから、いずれにいたしましても沖繩返還協定、それまでには両国の国会で承認は得る、こういうことになりますから、さらにこの問題については意見を交換すること、これは当然でございます。それぞれの立場においてそれぞれの問題がもっと明確になってくる、かように私もそれを期待いたしますし、また、ただいままできまっておらない返還の時期など、これはもちろん問題でございますから、それらの批准交換、そういう時期をどういうふうにするか、これなどもよく話さなければならない。そういう際に、ただいまのようなものも含めて、十分話し合うつもりでございます。しかし、そういう際にでも、いわゆる第三の安保、こういうふうな考え方には持っていかないつもりでございますので、ただいまの核条項、その取りきめの再確認、こういうことにいたしたいと思います。また、先ほど外務大臣の問題についてのお尋ねがありますが、これは外務大臣からもお答えするだろうと思いますが、私は核の撤去ということ、これはもう最高の政治的判断でかようにきめた、こういうところにただいま撤去するのはどういうものか、こういうようなこともその政治的判断の中の一つであった、かように思いますので、私はまあ外務大臣に、この問題はどうも深入りはできないな、こういうような話をしたことを外相との間には記憶いたしております。私はまあただいま答弁したということでございますから、それらの点についてどういうように外務大臣お答えいたしますか、それはお聞きとりいただきたいと思います。
  66. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 核撤去というのは、つまり何回も申し上げておりますが、事前協議の対象となる諸施設ですね、これは核弾頭はもとよりですが、基地、そういうものを含んでの意味でございます。
  67. 羽生三七

    ○羽生三七君 アメリカも了解したのですか。核に関する施設一切、全部を撤去することを了解したのですか。
  68. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 事前協議の対象となるような施設、これを撤去する、こういう意味でございます。
  69. 森元治郎

    ○森元治郎君 いま総理から、第三安保のようなようには持っていかない、こういうような大きな答弁があったわけですが、私はこの共同声明のアクチブな内容から比べると、現行条約は、比較すればパッシブな条約だと思うのです。やはりこれはまた国会でさんざんやられた論議ですが、どうも共同声明はこれは協定条約と同じような性格になってきたと思うのです。なったと思うのです。安保条約沖繩返還協定の基礎になることによって条約的効果——何かとなれば共同声明第何条を引用して国家間の関係を律するというような力を発揮してくるのじゃないかと思うので、大臣、これは協定に準ずる条約そのもの、あるいは条約に準ずるものだと理解されますか、共同声明を。私はそう理解する。
  70. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 条約なり協定は、これは両国の間に権利義務の関係が発生するわけです。これに反して共同声明は両首脳の意図表明である、それによって直接国民を縛るという性格じゃない、そこに違いがあります。
  71. 森元治郎

    ○森元治郎君 これは一月にニクソンにお会いになるときには、もう総理も認めたように、あの当時の、おととしの認識に立った協定であって、第三安保条約の性格を帯びていることは、総理が第三安保に持っていかないということばでも裏づけされるので、修正する必要がある。これは両首脳の意図の表明というならば条約と違って直すことはむずかしくないのですね。時勢に適応した修正をするということはむずかしいことじゃない。それから恥ずかしいことでもない、情勢ですから。われわれが問が抜けて、何をそんなに認識したかということは少しがまんすれば、それは修正すべきだと思うので、共同声明は今度のサンクレメンテでも出さないというようなお話ですが、何か会談ですから世界が注目し、国民が見ているのですからコミュニケのようなものは出るでしょう。この際にやはり形はとにかく、一昨年の共同声明は修正さるべきものだと期待するのですが、総理いかがでしょうか。
  72. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 一九六九年の両首脳の共同声明は、あの時点で両首脳が話し合った結果を率直に記録にとどめたと、こういうことでありますが、今日多少事情は変わってきております。緊張緩和のムードが出てきていると、こういうふうな理解を持っておる。しかし、まだこれが固定化したというふうな段階にもなっておりません。そういうようなことを考えまするときに、基本的にあの考え方、当時の考え方を改めていくんだ、それで字句もそれに伴って修正するんだ、こういう必要は私はなかろうかと、こういうふうに思うんです。しかし、おそらく両巨頭の会談の最大の課題は、世界緊張をどういうふうに緩和するかと、こういう問題に最も重点が置かれると、こういうふうに思います。思いますが、そういうことを、かりにその会談の結果を記録にとどめるということにすれば、おのずから二年前の共同声明、それは変わっていくと、こういうことではないかと思うんです。どこの国のあれを見ましても、共同声明を発しました、二年、三年たちましてあの共同声明はこの点を修正するというような行き方は、これはないんじゃないかと、こういうふうに思います。
  73. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) たいへんうかつなことで、いまさら申し上げるのもおかしなことですが、第三の安保という、この第三の安保の内容も聞かないで第三の安保をやるようなことはございませんと、かように申しました。ただ、私がやらないと言ったのは、この第三の安保の中に台湾条項があるとか、あるいは韓国条項が入っている、この前のコミュニケにはそういうものが入っている、そういうことがやっぱりまた取り上げられて安保の拡大の方向へいくんじゃないのかと、こういう御心配から第三の安保というようなことばを使われたんじゃないだろうかと、かように思って、さようなことはいたしませんと、かように実は私のほうが早計で申し上げたのです。そうして、安保は、ただいま実施しておる安保、その条項並びにその関連取りきめがそのまま沖繩に適用になるんで、これは沖繩本土並みになるという、そういうことでございますということをはっきり実は申し上げたので、この点では誤解のないように願いたいと思います。  また、一九六九年のコミュニケを訂正すべきじゃないかと、こういうお話がございますが、コミュニケの性質から申しまして大体そのときときによってきめられる筋のものであります。ことに一番はっきりしておるのは第四項、いわゆるベトナム戦争遂行中の場合にはあらためて協議をするというような条項がありましたが、しかし、幸いにして、ベトナム戦争はやってはいるけれどもただいまの返還協定、これはスムーズに調印ができたと、こういうことからもコミュニケの状態を別に変えなくともそれでいいんではなかったろうかと、かように思いますし、これがまあ実際でもありますから、その辺は御了承いただきたいと思います。
  74. 森元治郎

    ○森元治郎君 私は、大臣、福田大臣ね、字句の修正とか、総理は訂正とか言いましたが、条約局がやるようなことを言っているんじゃないんですよ。会うのは親玉ですから、両方の。親分というのは高い見地に立って抽象的なわけのわからないような大きなことを言うんですよ、上の人はね。そこで十分にじみ出るんですよ。私は字句を言っているんじゃないから、その点は、共同声明を訂正すべしというのは、訂正しましたと言わなくても読んでみりゃばかでなけりゃわかりますから、私たちの言う方向にこれは直っていくものだと期待するし、いま大臣もそういう御答弁がありました。そういうことをサンクレメンテで期待しております。行かれて忘れないように、外務大臣しっかりやってください。
  75. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) わかりました。
  76. 森元治郎

    ○森元治郎君 それから、基地の縮小に移ります。これは、ふしぎな感じをこの協定見たとき初めから感ずるんですがね。いま、この国会で条約審議をやって、A、B、Cとアメリカの軍の基地の仕分けをして御審議を願っている最中に、基地整理縮小の交渉を一生懸命やりますと、何か安直といいますか、人をばかにしているんじゃないか。もうさんざんやってきて、このA、B、Cなら、A、B、Cになったら、これ以上はできない、当分時勢の変化を待つと言うんならわかるが、いま協定審議している最中に整理縮小と、こう言う意味がわからないんです。整理縮小とは何をおっしゃっているのか。
  77. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) まさに森さんのおっしゃるようなことをアメリカが言っておるんです。六月に協定締結されたばかりじゃないか、締結されたばかりなのに整理縮小とは一体どういうことですかということを反問してくる、これはアメリカ立場です。ところが、わが国といたしますと、一応六月の時点であのA表というものをきめた、しかし、その後国会の論議の経過を見ましても、また現地からの要請を聞きましても、この基地という問題が非常に大きな問題である、何とか全力を尽くせ。ことにこの間は御承知のように、衆議院基地の整理縮小に関する決議をいたしておるような次第です。総理大臣は、それに対しまして厳粛にこれを実行すると、こういうお答えをいたしておるわけです。そういうことなんです。まあアメリカから見ますると、きめたばかりなのにまた蒸し返すとは何事だと、こう言うんでありますが、私どもとすると、そういう国内の世論、こういうものを受けて対処しなければならぬと、こういうことになりますので、これはA、B、C表を動かすこと、これは私はもうできないと思います。いま、この段階においてこれを動かすことはできない。できないが、提供するときめたそのA表の中におきまして、さらにまたアメリカ側の協力を求めなけりゃならぬ、こういうものがある、こういうふうに考えまして、これもサンクレメンテの会談におきましては、ぜひ総理大臣から持ち出していただきたいと、こういうふうに思っているんです。まあちょっと、特にアメリカ側の立場に立ちまするとおっしゃるような話の出そうな問題でありまするが、わがほうはただいま申し上げたような方針で対処したいと、こういうふうに考えております。
  78. 森元治郎

    ○森元治郎君 アメリカの言うのはもっともだと思うんですよ。私は、外交の心がまえとして、これは大臣ね、ていさいのいいこと言っちゃいかぬと思うんですよ。がんがん突っぱって、相手のいやがることでも主張して、その主張は記録に残っている。その残った火種で次の交渉は継続されるわけですね。そのときは、へえ、けっこうですとやめといて、取っちゃったらこっちのものだ、施政権さえ取りゃ、まず、だまかして取っとけば、今度はもう返せ返せと、これはアメリカから見ればずるいと見られると思うんですよ。どのくらいその基地の問題で戦った、交渉でやり合ったのか、A、B、Cに仕分けするまでにどれほど真剣に応酬されたのか、どうも真剣な応酬の努力の経過がわれわれに伝わってこないんですね。嘉手納基地は全部返せ、あるいはあそこの水上基地は返せ、そういうようなことをやったのかやらないのか、へえ、けっこうでございます、返してくださるものだけちょうだいいたしますと言っといて、あとになってから、ちょっとまたあれ返せと、こういうんじないかと私は勘ぐるんです。そうすると、これは基地問題の継続交渉ということになるわけですね。A、B、Cとはさまったが、これ以上は何としてもアメリカ譲らないが、私はこれで引くわけじゃないんだと、引き続き粘ると、こういう意味ですか。
  79. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 六月の時点ではああいうふうにきめましたが、なお、さらに内外の情勢を考慮いたしまして引き続き粘ると、こういうことでございます。
  80. 森元治郎

    ○森元治郎君 伺っておきたいのは、どのくらいこちらは要求したんですか。基地が少ないほうがけっこうですわね。できれば、さら地になってくれれば一番いいんで、どのくらい要求されたか。交渉経過だからだめだなんて、またすぐ言うかもしらぬけれども、こちらが言っただけはかまわないですよ。どのくらいの広さで、どことどこはぜひ返してくれと言ったか。
  81. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) この問題は愛知外務大臣が非常に苦心をされたんです。それで私も、はたで見ておりまして、ほのかにその苦心の数々を承知しております。たとえば那覇の空港が今度返ってくる、あれなんかもずいぶん愛知外務大臣は苦労いたしました。結局わが国といたしましては、移転のための金幾らか出さなきゃならぬというようになりますが、私は大蔵大臣としてそれに賛同を求められた。これはぜひ基地を返してもらいたいと、そういうためにはその支出もいたしましょうと、そういう話も受けております。それから牧港の住宅地をどうするかというような話もそのときもあったくらいであります。とにかくずいぶん苦心をし、ぎりぎりのところだというので、あのA表というものができ上がったんです。ですから、アメリカから見ますると、いままた協定の批准も行なわれない、返還もまだ実現をしない、その前にそういう話が出てくる、これはどういうもんだろうという一種異様な感触を持っておるようです。ですから、この基地の問題というのは整理縮小の決議案がありまして、私どもは全力は尽くしまするけれども、そう容易なもんじゃないと、こういうふうに考えておる。  私はその中で、いま具体的にどうだというお話でございますが、とにかく沖繩本島の中部、あそこに人口が非常に稠密です。そこにまた基地の密度が非常に高いわけです。その問題に着目をいたしております。それからもう一つは演習場なんかいろいろあります。それがあの基地機能、米軍の基地に対する機能、これ以上のものはないかというものについてなお検討しなけりゃならぬかなと、こういうふうに考えております。それからさらにレクリエーションのためのいろんな施設もあります。これが過剰ということはないか、これも私の頭にあります。そういう問題。それからもう少し大きな意味におきましては、私はこれからの極東情勢、沖繩を、また日本をめぐる国際環境、こういうものがどういうふうになってくるか、これが決定的な要因を持つと思うのです。それからもう一つは、これはアメリカ側の問題でありまするけれどもアメリカがニクソン・ドクトリンというものを出しておる。これはアメリカの財政事情からきておると、こういうふうに見ておるんですが、その財政事情が一体これからアメリカはどういうふうに変化していくか、こういう問題、これがこれからの未必の問題ではございまするけれども、もしそういうような状態でありますれば、これは沖繩基地の状況に大きな影響を及ぼすであろう。しかしそういう未必の状態にもかかわらず、ただいま指摘いたしましたような問題、これらの問題につきましては、米側ととくと話し合ってみたいと、そういうことでございます。
  82. 森元治郎

    ○森元治郎君 どうも話を聞くと、基地の整理、縮小、基地というんですから、私らには大きいという印象受けるんですね、広くて大きいところ。お話、きょうばかりでなく伺っていると、大臣得意のゴルフ場、それからレクリエーションセンターとか、あるいは中部の密集地帯、何かこう端っこのほうのでこぼこしたのを引っ込めてくれみたいな話なんですね。基地の整理縮小ということばには合わない印象受けるんですよ。それはもうA表はだめだからしかたがなくて、それ以外の出たり引っ込んだりをきれいになでるのが基地整理縮小の今後のやり方というふうに私は受け取るほかないんです。この点がどうも整理縮小という名に値しない。国会の決議などもあり、大いにやりますと言っておりますが、ゴルフ場とレジャーセンターぐらい、あるいはあそこに乗馬クラブがありますがね。そんなのとったって何にもならぬですよ、小さくて。でかいやつをがっぽりともらうような交渉しなけりゃいけないんじゃないですか。それが基地の整理縮小、小さい施設ではない、基地というふうにわれわれは理解するんです。  それからもう一つ。大臣は着任した、着任じゃない、大臣になって、ヨーロッパから帰られてすぐ、コナリーさんが来たからよく頼んでおいた。コナリーさんは、これは銭金の親方ですから、外交問題じゃない、ニクソンからちょっと何か言ってるから聞いてこいといって来たんだというそうですが、この人にあなたが地図を見せて、ここがこうたいへん混雑しておるからよろしくやってくれと頼んだと、岸さんにも、ニクソンさんにお会いになったとき、よろしく頼むと、なんかこうなあなあみたいな感じがするのですね、この大問題をやるのに。どうなんです、この基地の整理縮小。ちょっと通貨調整の問題、いろいろな貿易自由化の問題で来た人にお願いして、耳に入れて言ってくれ、こういう問題の取り組み方が、姿勢が間違っていると思うのですよ。これは安保協議に、あなたも安保協議委員会の今度はりっぱな代表です、日本のね。そこへ正式に文書でこれとこれとこれと、こういうことなら、私らも整理縮小に努力しているのだなということがわかるが、いまのところはあまりにお手軽な感じを受ける。したがって、整理縮小、大いにやりますと言っても、あまり非常に期待を持てない、むしろ落胆をしておるのですが、この二点を伺います。
  83. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) この問題は日米合同委員会の場の問題だというような小さな問題じゃなくなってきておるのです。これはもうアメリカ側についていいますれば、これは大統領の決断だというくらいな問題になってきておる。それはなぜかと申しますと、先ほど森さんも疑問を持たれましたが、とにかくまだ条約協定の効力も発生していないのじゃないか、その際に条約協定内容をなしているところのA表を整理をする、それは行き方として理解できないというような感触をまあ持っておるわけであります。そこで、これは向こうの当局も言うのです、事務的にはとても片づきません、これは大統領の決断を待つほかないですよと、こう言う。そこで初めて岸さんが渡米してニクソン大統領に会われる、こういうので岸さんに、大統領にお願いをさした。そうすると、大統領はよく話はわかりますと、わかりますが、しかし詳細についてはコナリー財務長官が行くから、この人に話を聞くことを命じますから、これによく話してもらいたい。こういうことで、私はコナリー長官にも話しておるのです。それから外交ルート、もちろんマイヤー大使その他を通じまして、アメリカの国務省当局にはとくと申し入れておるわけなんです。なかなかこれはアメリカとすると、理解の届かない面があるのです。そこはまあ大統領の英断に待つほかない、こういうふうに存じまして最高の努力をしておる、こういう状況で小手先じゃもうとても片づかぬ、それくらいむずかしい問題になっておるという点を御理解願いたい。
  84. 森元治郎

    ○森元治郎君 これやはりそうすると、大臣の交渉方針としては、協定成立後はもうかまわないわけですね。いま協定審議中ですが、協定成立したあとは正式な両国間の議題として案をもって折衝する、折衝開始を呼びかける、応ずるかどうか別として、そういう覚悟は持っておられるのでしょうね。その場合には、あるいは現在でも案はお持ちなんでしょう。どういう、どことどことどこで、面積どのくらいになる、何ヘクタール、お持ちになっていますか。
  85. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) さしあたりの私の考え方につきましては先ほど申し上げたとおりでありまして、その辺のことをいま考えておるのです。おるのですが、まだ交渉中の案件でありますので、そのどこのどこをどうする、こういうようなことはこの席では申し上げられません。これはまあいろいろ影響が出て、そしてかえって交渉を阻害するというようなことになるかもしらぬ、そういうふうに思うのです。いずれにいたしましても、これは正式の議題、議題とおっしゃいますが、今日正式の議題、とにかく大統領と総理大臣の間の話にする、これ以上の最大の手続はございませんのでございます。
  86. 森元治郎

    ○森元治郎君 聞けば聞くほど小さい基地縮小の努力であって、時期的にはいまは協定審議中だからいまごろ持ち出してきても向こうは受け付けないというのがきょうの現状のようで、これから長く努力しますということですね、簡単にいえば。
  87. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これからも長く、もというところが大事なんですが、これからも長く努力をいたします。
  88. 森元治郎

    ○森元治郎君 実に取り組み方が口先だけだということがわかるのですが、この基地の整理縮小というのは、根本的にいえばアメリカの駐留の問題をどうするかということにもなるでしょう、根本は。二つの問題があると思うのだが、日本がうんと防衛努力をやってくれれば、肩がわりしてくれるならば、それは考えようというのは、これはアメリカがかねがね言ってるところですね。また日本には大いに防衛努力を期待して、またやると言っておると、日本政府は。向こうから見れば日本政府はやると言っておるのだと。もう一点は、今度は日本側からアメリカを見て、いつまでアメリカさんにいてもらいたいのだという願望もあるわけですよ。長くいてもらいたいというのもあるしすぐ帰ってもらいたいという願望がある。この点についてパッカードが上院でお話ししている一節はおもしろいと思うのだが、アメリカ沖繩駐留が同盟国として自分たちの利益になると日本国民が受けとめる限度が駐留継続に必要な条件になる。日本がいてくれ、どこまでいてくれというのか、そういうのも問題だと。それからまた、日本自身がうんと防衛努力するならそれまた考えようという二つがあるのですね。この点について大臣の考えを……。
  89. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) まあ仰せのとおり、御指摘の二つの問題は、これからの沖繩における基地問題、これに重要なつながりを持ってくると、こういうふうに思います。まあ自衛隊の派遣ということを今度実行するわけでございますが、自衛隊の沖繩派遣ばかりじゃない、日本本土における体制がどうなるか、これも沖繩における米軍の配置、これには大きな影響を持つであろうと、こういうふうに見ております。それから日米で、安全保障体制下でいろいろ協議をいたしておりますが、その協議を通じて極東の情勢をどういうふうに判断するか、それに対して日米共同してどういう体制をわが国内においてとるか、こういうこと、これも沖繩の問題には大きな影響を持ってくるであろうと、こういうふうに思います。
  90. 森元治郎

    ○森元治郎君 先へ進みます。さっき羽生君から話があった、この核の撤去ですね、いわゆる七千万ドルというやつ。大臣は撤去してくれるなら幾らでも金出すと、まあたいへん勇ましいことを言ったのだが、ところがこの七千万ドルのうち、一体どういう内訳でしょうというと口を緘して語らない。とうとうこれはきょうまでがんばって通してきた。何も言わない。どうして言わないのですか、これは。
  91. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) この七千万ドルという金が、これが内訳をきめにくい性質のものであると、こういうことなんです。まず、核の撤去、これに金がかかる、これが一つ。それからもう一つは、アメリカの軍がこれからふえることは私はないと思います。だんだんと沖繩から引いていくという態勢に移ると思います。その際はまあ多額の軍としての投資資産、これをただで置いて帰るわけであります、そういう状態がある。それからわが国の要求というか、要望によりまして沖繩を解除するものもある。つまり特殊部隊の一部というようなものです。そういうことを、これを総合的に判断いたしまして、そして七千万ドルと、こういうふうにきめた。実はこういうことを申し上げますと非常にわかりがいいんではないかと思うのですが、資産承継で一億七千五百万ドルを一応めどをつけたわけです。それに対して軍労務者の待遇改善費、これが七千五百万ドル、これがめどがついた。そうすると二億五千万ドルになるのです。で、二億五千万ドルじゃアメリカはこの返還協定に対しまして満足しない。そこで多額の要求があったわけであります。非常な額にのぼる要求でございますが、その要求に対しまして、ただいま申し上げましたような核の問題それから米軍の置いていく資産の問題、それから当方より要請いたしまして退去する特殊部隊等の問題、そういう問題があることを考慮いたしまして、七千万ドルの支出をする、そういうふうにいたしたわけでありまして、これは交渉事ですからそう私どもの言うふうなわけにはいかない。アメリカ側にもアメリカ側の要求がある。そこで多額の要求をするアメリカとの間に七千万ドルで手を打ったと、こういう形のものでありまして、したがって中身は、これとこういうこういうものがあるのだという説明はいたしかねる、こういう性格のものでございます。
  92. 森元治郎

    ○森元治郎君 この問題だけでもこれはたいへんな問題で時間を食いますが、私はそっちのほうじゃなくて、国会というのは行政府の専断によって税金を払って、内容はわからない、これで押し切られて、ああそうですかで立法府は黙っていていいんだろうかどうかという問題、これはどうなんでしょう。あなたは財政法の大家とか、いろいろそっちのほうの大家だが、法的にいえばどういうところに根拠があるのでしょう。
  93. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 国会のほうが国の支払う金について黙っておればいいのだという認識はさらさら持っておりません。現実にいま問題となっておる七千万ドルにつきましても、そのいきさつはどうか、その内容はどうか、いろいろ国会からお尋ねを受けておる、そういう状態です。しかし、そういういきさつできまった七千万ドルであります。ただしそのいきさつから見まして、この七千万ドルの内訳は申し上げられませんです。しかし、こういう性格のものですよと、こう申し上げておりますので、まあ御理解が届き得る説明をしておるんじゃあるまいか、そういうふうに考えております。私は当時は大蔵大臣です。ですからどこまでも一つ一つ説明できるように説明できるようにということをこいねがって、外務大臣にこの問題の折衝をお願いしたのですが、折衝の結果こういうふうになった。アメリカで非常に多額の要求をした。それを少しぐらい減らすというようなことでそして内訳が解明できれば、それも気の済む問題かもしれませんけれども、大蔵大臣としますとそんな多額の金を払ってもらうわけにはいかない。まあ値切るということばは妥当ではないかもしれませんが、私としては値切り値切って、とにかく七千万ドルは支出いたしましょう、これで政治的解決といたしましょう、こういうことに相なったわけでございまして、決して立法府をないがしろにしているというような考え方はさらさらございませんです。
  94. 森元治郎

    ○森元治郎君 立法府を無視するということはさらさらないということは結局無視されたと同じことなんですが、日韓のときもそういう金の出し方があったようですね。日韓のときにも。一体知っているのはだれなんでしょう。総理と、大蔵大臣と外務大臣と。ほかにたくさん閣僚がいるが、これは知っているのかどうか。あとは外務省の役人の一部。それだけ知っているんでしょうかね。知っている範囲はどうなんでしょうか。
  95. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 七千万ドルの内訳、具体的に項目はこれで、その項目に当たる金額はどうだということは総理大臣も御承知ございませんでございます。
  96. 森元治郎

    ○森元治郎君 総理も知らないし、知っているのは福田大蔵大臣、金を出すほうですから。外務大臣……。
  97. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 当時は愛知外務大臣でありまするが、愛知外務大臣も承知をしないし、私は大蔵大臣でありましたけれども、私も承知をしない、そういう性格のものでございます。
  98. 森元治郎

    ○森元治郎君 そうですがね。大蔵大臣も知らない、外務大臣も知らない、総理も知らないが、七千万ドルは出すのだ。ふしぎな、ちょっとわからないんですがね。どうしてだれもわからない、のか。だれが……。そういうことはあるんですかね、総理どうなんですか。
  99. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) こういうことはめったにないことでございます。ただいま言われますように、高度の政治的判断で最終的な決断を下したのでございます。したがいまして、政府部内でもあまりその点については根掘り葉掘り聞くことができなかったと、こういうものであります。しかし、私どもが私の金を払うわけじゃございませんし、この金は国民の負担であること、これは間違いないのでございますから、そういう意味で高度の政治的判断だ、かように申しましても、皆さま方から十分御批判もいただいて、そうして、それによって核が撤去されると、まあずいぶん高いものだけれども、というような感じで了承されるかどうか。そういう意味の御審議も十分いただかなきゃならぬと思います。ただ、両国の間におきましては、ただいま申し上げるように、高度の政治的判断によってきまるものもありますし、あるいは積算の基礎を突き合わして、そうして十分そろばんをとってみるような問題もあります。事柄の性質上そういうようなものでございますから、この点はまあ、森君にも御理解がいただくだろうと、そのものが高度の政治的判断を要する問題だ、こういうことについてはおそらく御理解はいただけるだろうと思います。私もたいへん残念で、せっかく立ち上がりましたが、その詳細について御説明をすることができないと、これまことに残念に思いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
  100. 森元治郎

    ○森元治郎君 総理退席なされるようですので、うしろのやつを先にして伺いましょう。  この北方問題と沖繩返還との関係ですね。従来ソビエト側でも、日本アメリカ軍の駐留、安保条約といったような関係から、歯舞、色丹を一たん返すと、日ソ共同宣言で、平和条約ができた暁には返すと言ったのだけれども、それすらも、途中でまたグロムイコ外務大臣の通牒によって、当分返さない、駐留軍との関係で。そういうことで、北のほうは非常に不満足な状態で今日まで経過した。そして、自民党の宣伝は、選挙宣伝でも、沖繩を取り返して施政権を取り返し、そして北のほうの問題もそれによって道が開けていくんではなかろうかというようなことを大いに宣伝しているわけでしょう。これでは、このような返り方では、自民党諸君が地方などの遊説などでやっている演説は、もろくもついえさってしまう。これはやはりきれいな本来の姿で返るような状況であったならば、北の問題についてソ連側と話し合う場合でも、環境が非常にいいんですね。それができなかったということは、たいへん北方問題処理上も大きなマイナスを残してしまったということが一点。  もう一点は、ずっと定期協議に来る予定で、長い間、三年ばかり来られないグロムイコ外務大臣が、来年早々でも日本を訪れたいというような、向こうのイニシアチブで訪日するようなことを聞いておりますが、沖繩返還と北のほうの問題の処理について、どういうふうに持っていこうとするのか、長期的な見通しを伺っておきます。
  101. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 森君も御承知のように、日ソ間の問題いろいろあります。大体シベリア開発その他貿易上の問題はわりに円滑に推移しております。年々それらのものは拡大されている。また、開発計画なども両国の間で話し合いが進んでおる。しかし、どうも北方領土の問題になりますと、簡単に問題が解決しない。領土ばかりではございません、操業安全にいたしましても、これすらもなかなか意見が一致しないと。まあただいままでのところ、漁獲量等については、これはもううまく話し合いができておりますけれども、それにしてもなかなか一方的にソ連側の主張のほうが強いような、そういうようなことを当方では感ぜざるを得ないような状況にあります。しかし、とにかくそのほうは、漁獲量の問題は年々新しく結ばれつつある。とにかく、最近の状況から申して、そういうようなことを考えると、全体は非常にうまくいっているのかと、かように考えますと、なかなかそうでもない、デリケートな両国の関係に問題のあること、これは無視できないと思います。まあ、先ほど来、いろいろ日米間の問題についての忌憚のないお話をされましたが、私は、日ソ間の問題についてどうも忌憚のない話をすることは、とかく誤解を招きやすいのではないだろうかと思いますので、本来主張すべき点も、われわれの最小限度の主張でございます。本来の日本領土、領域、そういうものは、サンフランシスコ条約がありましても、私どもは放棄したつもりはございませんし、またさきの戦争は、そういうものを、領土を拡張するというような戦争ではなかったはずでありますから、それぞれ戦争によって領域が変わったと、こういうようなものはもとへ返すという、そのことは取りきめましたけれども、それより以上にはきまっておらない、かように考えますので、こういうことは、これはまあ、堂々と主張すべき点でありますが、しかし、なかなかこういうものも、それなりに受け取ってもらえないところもあります。やはり直接面と向かって話し合いをすることが最も望ましいことではないだろうかと、かように思って、その機会を待っている。ただいま言われますように、外相の交歓訪問等が行なわれるということになっておりましたが、なかなかグロムイコ外相が日本まで出かけてくれないということで、しばらくその道がとだえております。しかし、最近は、グロムイコ外相日本に来るという前ぶれの情報もございます。そういうことがあれば、そういう際にこそ話し合うことが望ましいのではないだろうか。私はどうも国会、そういう場で話をすることは、ペテンもなければ、それは正々堂々たる話だから、そのまま受け取っていただきたいと、かように思いますけれども、問題がデリケートな段階にあるだけに、そこらは注意したほうがいいんじゃないだろうか、むしろ外相が来られた際に十分話し合うということが誤解を受けないゆえんでもあるのではないだろうか、かように思っております。  私は、沖繩返還をされたと、こういうことは、北方領土を解決する上においても、これは大きな資料になるだろうと、材料になると、かように思いますけれども、しかし、米軍基地がそのまま存続する、米軍の機能がそのまま維持される、こういうように解釈されると、なかなかいままでの主張を変えると、こういうことにもいきかねるだろうと、かように思います。これらの点についても、沖繩日本への復帰、そのことがもたらす米軍の性格等についても、十分の説明をすることによってその間の誤解を解きたいと、かように思っております。  いずれにいたしましても、これらの事柄は、大きくアジアの情勢が緊張緩和方向にただいま動いておる際でありますから、それだけに話はしいいと思いますが、どうもどこでどう言ったというようなことがあとで問題になっても困りますので、これは慎重に取り組むべき事柄だと、問題がたいへんなデリケートな時期になっておるだけに、私どもも慎重であってほしいと、かように思っておりますので、ただいまの程度で、せっかくお尋ねでありますが、お答えをとめさせていただきたいと思います。
  102. 森元治郎

    ○森元治郎君 日ソ問題は、お話しのようになかなかデリケートな問題ですから、それ以上突っ込みません。  それでは協定に戻ります。  時間が迫ってまいりましたので、少し飛ばして質問をするんですが、一つの問題は、アメリカ資産の引き継ぎですね。衆議院でもさんざん議論をした問題、これは私、直接また同じことをむし返すのではなくて、われわれは、みんなのすなおな感じでは、ガリオア資金などによって設立されたような公社の財産の買い取り、引き継ぎ、銭を出しての。それは必要がないんじゃないか。当然こちらにもらっていいんじゃないかというので、質問も野党側は一致してそこにきているようですね。私の聞きたいのは、アメリカは占領当事者として民生安定のために努力するのは当然のことであって、そういう意味の占領地行政を助けるためのガリオア資金のようなものの影響というのはこれで一切なくすべきだというふうに考えます。大臣のほうでは別な見解、アメリカの財産権だというので適当な対価を出さなければならぬという説明でしたね。それはいいんだけれども、私が伺いたいのは、日本だって沖繩に相当援助しているのですよ。この点は山中長官もおられるから伺いたいのだが、日本は、よその国に押えつけられて、無理に引きずられて、われわれと一緒に講和復交後独立国に戻り得ないで、アメリカ軍の下に入っていた国の同胞が気の毒なばっかりに、施政権を向こうが持っている国に、日本は一番初めは昭和二十七年講和条約の年でしたと思うのですが、文部省関係で二百十三万円くらいの金をまず第一回送って、それから逐次池田・ケネディ会談とかあるいは第一回佐藤・ジョンソン会談などからずうっと沖繩に対する日本の援助金がふえてきたわけです。アメリカももちろんそういう空気に押されてケネディのときになってからプライス法の改正などがあって、たくさんの、二千五百万ドルくらいを出そうというのだが、これは議会で削減されて、千二百万ドルくらいの上限の援助をしていいということになって、両方そろってきたわけですよ。この金も相当な額になっている。これはほんとう日本の好意ですね。そして悪いことには、アメリカ日本が援助額をふやしていくに従って、初めは援助を、施政権でも侵されると思ったのか、あまり好まなかったのですね。だんだんとこれはうまいものだと思ったかどうか知らぬが、ずっと引いてきて、自分の援助金を減らして、日本は昭和四十年あたりからぐんぐんぐんぐん多くなってきて今日までに至っているのですね。そういう経過を考えれば、アメリカ資産の銭出せなんということは、アメリカは言えないはずですよ。そもそも信託統治にしようなどというけっこうな議論をする。信託統治というのはやさしいことばで言えば、そこに住んでいる住民のためというのが第一で、自分のため、すなわち施政国であるアメリカのためにはかるのは信託統治の考えじゃないのですね。信託統治でもしようといったくらいのアメリカだったらもっとやるべきなんです。こういう点考えたらば、こんな一億七千五百万ドルですね、その中の二つの公社の引き取りなどは言えた義理じゃないと思うのですよ。そこでその議論の前に、山中長官に、日米沖繩に対する援助の今日までの総計、それから予算における割合、アメリカは援助金をだんだん減らしますから、沖繩琉球の予算に占める割合は非常に低くなってきている。日本は三〇数%になってきている場合がありますね。年もある。この点をちょっと数字を説明してください。
  103. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 本土政府が援助という形で米側の了解を前提として始めましたのが一九六二年からで、おっしゃるとおりでありますが、確かにプライス法あるいはまた佐藤・ニクソン会談等が背景にあると思われるような感触の援助金の推移が顕著に見られます。本土政府がそれまで完全な施政権下に満足すべき財政援助ができなかったことも反省しなければならぬと思いますが、ただ、数字の問題だけ申し上げますと、古い年度のことは一応省略いたしますが、円建てで一応申し上げますけれども、昭和四十年から見ますと、昭和四十年には琉球政府の予算総額二百三十九億五百七十四万三千円に対しましてアメリカ政府の援助が二十九億八千三百一万二千円で、対比率が一二・四%、本土政府の援助が二十三億四千七百五十二万円でございまして、これが九・八%、このときまではまだアメリカのほうが、一二・四と九・八でございましたから、昭和四十年度においてはアメリカの援助金のほうが高かったということになります。しかし、その翌年の昭和四十一年になりますと、これが逆転をいたします。すなわち琉球政府の予算総額三百四十五億二千九百六十四万九千円に対してアメリカ側は金額はふえておりますけれども、三十二億八千二百五十二万七千円で、比率は九・五%に落ちまして、そのかわり日本側が五十五億二千八百二十四万一千円で一六%にふえました。このような傾向が顕著に続いてまいりまして、最終的に申しますと、一九七二年度すなわち本年度昭和四十六年度予算において琉球政府の一般会計総額の九百四十九億八百九万円に対してアメリカ側は三十一億八千六百万円で、その比率は三・四%であります。しかしながら、本土政府のほうは一般会計だけでも四百十八億九千七百八万二千円、比率にして四四・一%になっておりますが、この他にも、四十六年度予算の沖繩に対する援助額は総額、復帰対策費として六百億二千万円ということになっておりますから、これは一般財源の付与、起債等も含んでおりますので、実質上の対比率はもっと高くなっておるわけであります。いままでの援助いたしました金額の総額は、これは便宜上琉球政府の統計資料に基づくドル建てで申し上げさせていただきますが、アメリカが施政権を行使いたしまして以来の総額が一億二千六百十五万七千二百二十五・五二ドルです。日本側のほうはそれに対して二億二百九十六万二千八百一ドル九十セントと、こういうことになります。
  104. 森元治郎

    ○森元治郎君 数字に強い福田大臣は全部頭に入っていると思うのですがね、非常に、この差を見ると、四十年以降、アメリカ側は、一番多くて、これは沖繩の当初予算だそうですが、約一九%くらいの援助額、それが最高なんですよね。日本の場合は、これに反して、だんだんふえてきまして、三四、五%、あるいは来年度は四〇%にもなる。こんなに違っているのですよ。ですから、人の施政権に日本が金を出して助けてやって、そうして今度は民生安定のために設立されたものを代金よこせと言ったら、け飛ばしたらどうですか。どんな交渉をやったのですか。そんなうまいことを言うんじゃない。自分が施政権持っていて、施政権返しもしないで銭だけは裏のほうから受け取って、のうのうとして今度は、水道と電気だって自分でも使うくせに、その銭を出せというのは、これはあなた、私はもうむかむかしちゃったですね。大臣どうでしょう、この交渉。
  105. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これは、森さんの御指摘のような事情もあります。ありますが、この協定は、これは資産の買い取りという考え方をとらなかったわけです。これは、資産の買い取りというと、いろいろな感触が出てくる。そこで、協定では、資産を承継すること、また共同声明第八項に従って日本の政策にアメリカが協力すること、それから軍労務者の関係などを考慮いたしまして総額三億二千万ドルの支払いをいたしますと、こういう協定をいたしたわけでありまして、法律上三億二千万ドルは支払います、それに対する見合いは何だと、こういうと、法律上はその見合いというものははっきりはさしていないのです。しかし、これは、国会に対しましても、国民に対しましても、御納得を得なければならぬと、こういうことから、これをどういうふうに理論づけるかということを考えたわけでありますが、その三億二千万ドルのうち一億七千五百万ドル、これは承継する資産に見合うものである、それから七千五百万ドルは、これは軍労務者の待遇改善に見合うものである、それから七千万ドルは核撤去またその他の先ほど申し上げましたようなものに見合うものである、こういう御説明をすることにいたしたわけでございますが、どこまでも、資産買い取りという考え方をとらないのです。資産は承継いたします、しかし、これは民生上非常に有益なものであるからこれをひとつ評価してみましょうといって評価した結果が一億七千八百万ドルになる。それを一応一億七千五百万ドルと、こういうふうに見当をつける、こういうことにいたしたわけです。  で、いま御指摘の問題、これは確かに、ただいま森さんからも御指摘があり、また山中長官からもお答えをいたしたとおり、アメリカ琉球政府に対する援助額、私どもは、これに対しましては非常に不満です。私は当時ずっと大蔵大臣でございましたが、これはもう、これが少し前よりも減るというような傾向さえある。そういうことに対しましては、外務当局を通じまして、非常に遺憾の意を表せしめ、これが増額方を要請したんでありまするが、アメリカも、だんだんと施政権が日本に移転をされるという日の近くなるにつれまして援助を手控える、こういうことになってきて、ただいま申し上げるような比率になったような次第でございまするが、いずれにいたしましても、わが国琉球政府に対しまして多額の援助をした。しかもこれは、施政権がアメリカにある琉球政府である。この援助費はどのような性格のものであるかというと、これは琉球政府に対する援助なんです。いまわれわれが引き継ごうとしている、評価しようとしておるその資産は軍資産、これは別個のものなんです。それで、これが有機的に多少背景的に関連がないとはこれは私は申し上げかねますが、とにかく引き継ぐものは軍資産であり、かつ、われわれが援助したものは、これはアメリカ施政権下にあるとはいえ琉球政府に対する援助である、それはランニングの金としてそのときどきにおいて使われたんだと、こういう性格のものでありますので、まああれだけの援助をしたんだからただで置いていってもいいじゃないかという考え方、これはまあそういう考え方はあり得ます。私はあり得るとは思いまするけれども、まあ対外交渉はそう簡単にもいかない。そういうことで、三億二千万ドルを支支払います。そのうち一億七千五百万ドルはこういう資産に見合うものであるという説明をいたしておる。そういういきさつでございます。
  106. 森元治郎

    ○森元治郎君 田中大蔵大臣臨時代理、福田外務大臣の話を聞いても、向こうの理論づけをするような話はなかなかうまいんですよね。軍の管理である資産の継承であるといったようなことで。これは政治問題ですから、たとえば核の七千万ドルだって、何かこうふわあっとした、つかみ金みたいな話でしょう。それは外交交渉ですよ。これはもう私は非常に納得しない。アメリカがあまりのがりがりだと思うんです。残り時間八分ですから、こういう問題を含めて、この返還交渉に対する基本的態度がもう間が抜けておったということ、だれが一体やったのか知りませんが、アメリカは軍事関係は現状維持、現状維持、それはゴルフ場とかリクリエーションセンターくらいはどうか知らぬが、現状維持、機能も規模も現状維持。返還に伴う銭は一銭も出さない。そういう確固たる方針で臨んでいる。日本の方針は一体どういうもんであったか、これはあとで御答弁を願いたいんだが、私ら見ているところ、案はない、何言ってくるか、値段を少し安く小切ってやろう、——小切るというんですか、向こうの出てくるものを幾らかでも低くしてやろう、むずかしかったらあやまっちまおう、がんばってきたら引こう。もうまことにこれは交渉なんというもんじゃないですね。これは、秘密裏にやっているからこういうことになるので、ときどきブレスのほうにちらちらと情報を流していけば、それはとても強腰で交渉できたと思うんだが、裏のほうで、ときどきは、そんなことを言うんならば協定締結も考えなければならぬぞなんておどかされたこともたいへん数が多いそうですね、数が。何回もやられている。いやだからあんまり言いませんが、二十回くらいありますな。やられた者は知っていますよ、言った人は忘れますが。それじゃたいへんだというので、佐藤総理は一日も早くという親分の命令だから、ずっと引いて、金で片づくものは金でいこうじゃないかと、にわか成金変なところで金で勝負しよう、こういう交渉態度はほんとうにこの返還協定でつくづく強く感じますね。どんな態度で臨まれたのか。向こうのほうが合理的です。利益、上院のあの報告書を読んでみると、もう佐藤さん以上に利益利益ということ、返すことがアメリカの利益、日本の利益ということで、利益が多い。日本は情緒的なんですな。情緒的、エモーショナルというか、何となく人のよさそうな、相互友好親善理解なんというようなことを言っているが、アメリカ相互親善理解なんという字なんてありませんよ。あったら見してください。みんな、利益になるかどうかという判断です、そろばんで。これが今日のだらしない交渉になったと思うんですね。VOAもがんばったらしいが、結局け飛ばされてしまった。沖繩におけるアメリカの企業の保護についてどうだと。日本は少しこうぎゅっと締めようかと思ったところが、どっこい許さない。おれの言うとおりにしなければ協定締結も考えるぞと言われて、ああそうですかとなって、みんな引いちゃった。全部引いているんですよね。交渉なんというもんじゃない。ディクテーションですよ。ニクソン大統領安保教室で佐藤という生徒がディクテーションをきれいにやったのがこれが今度の協定ですよ。書き取り、そういう印象を受けるのです。時間がないから続けます。基本方針を伺います。  もう一つは、この沖繩返還交渉の取り組み方の基本方針が私は、佐藤さんあるいは福田さんは返事したくないけれども、やっぱり平和条約第三条にこだわるんです。表面の理由は何といっても信託統治にするまでおれがこの施政三権を持っているんだという、あれにこだわる、あれ表面の理由ですから、裏にどうあろうと。裏は私も知ってます。が、これは信託統治にするまでというのでスタートした。ほう、信託統治にできるのかねと、ひどいことをするものだと思って見ていた。そのうちに、前の岸総理が五七年に行ってアイゼンハワーと会って、施政権を返還してくれないかとやった。その次は池田総理とケネディ大統領、それから佐藤さんがジョンソン、ニクソン、ニクソンとこうくるわけですが、施政権返還と言ったとき向こうの返事は、極東情勢、極東の緊張緩和がするまでは自分はこれをつかんで管理をしていたいというのが、向こうの初めの、五七年の岸さんに対するアイゼンハワーの最初の公式な態度ですね。どこにも信託統治はもうすることもできないし、やるつもりもないから、しかし返すについては、これは軍事上の観点からというならまだしも、そんなことはもうせいせいと捨てちゃって、極東に平和と安定が来るまではいるんだ、こっちはそれをのみ込んで帰って来た、そのときに違うと、これは向こうの、あなたのほうの施政権下に入っているのは、三条によって信託統治にするアメリカの提案に日本は同意すると、こういうことで押えられていると思ったので、話は違うじゃないか、極東情勢と関係ないというところで一もんちゃくやってしかるべきだったと思うんだが、信託統治と軍事問題がいつの間にかすり変わってしまって、極東情勢が安定をするならばということで、ああそうですかと待ちながら、今日までじんぜんときてしまった。しょっぱなの取り組みが大事だったと思うのですね。それじゃ、どうしてそういう間違いが起こったかと想像するに、これは信託統治にはするけれども、おれはいつまでも持っているつもりはないんだよという、吉田さんなり池田さんなりの当時の人には、まあダレスでもアメリカ当局も言っておったのでしょう。そういう私的のことが頭にあるものですから、つい乗ってしまったが、元来条約を根本に論ずるとするならば、信託統治をやらないと、あるいはやれないとアメリカが踏み切った段階で返してください、極東情勢の安定とおっしゃるけれども、それとこれとは違います、たてまえが。一論戦があって、それからこう経由してくるのであればいいが、あまりにも極東情勢の変化、共産主義の力がもっと弱まって脅威が少なくなったならば、なんという議論に乗ったところに間違った返還交渉、沖繩返還交渉というのは、同時に軍事条約的性格を持ったものにまで発展してきたという歴史的経過があると思うのです。過去のことを言うと、総理はおもしろくないようだが、やっぱり、返還にあたっては、なぜ返還が起こったんだという事実も国民各位に間違いなく経過は知らしておくべきだと思うのです。佐藤さんはそういうことは知っているのでしょう。だから異民族の統治といって、あるいは精一ぱいのアメリカに対するふんまんをぶちまけたんだと好意的に理解してあげますけれども、事の道理はそういうことだと思うのです。そこで、佐藤総理は何かこういう質問をすれば……きょうはいないからいいけれども、そんな過去のことなんか聞く必要がないと、きょう返ってくるというこの歴史的事実こそ大事だなんておどかすのですね。それは聞きませんよ、それは。歴史的事実なんだから、つながっているのだから、歴史は。こういう、事のスタートから沖繩返還協定が間違っていたということ、それと、返還協定に臨む態度はあまりに非合理、あまりに情緒的、人情的で、計算の基礎なり理論構成ができていない。それで押し流されてきた。早く返してもらいたいからこれでいってしまえというのが政府の態度のように思う。外務省発行の何とかいうこの小さいパンフレット——ことしの十月に出た“沖繩返還について”というのにも、ぬけぬけと書いてありますよ。足りないものは値切っちまうということが書いてある。値切っちまう、意見も何もないのですね、理論構成も。だからすべてが国会で質問されればやむを得なかったという答弁で、十二月十六日までに逃げ込んできたわけですよ。現実は私の言ったとおり。違いますか。  これで終わります。
  107. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 私は佐藤総理大臣ではありませんけれども、私が聞かれても、この沖繩返還というのは偉大なる歴史的事実である、そういうふうに思います。つまり、これはもうしばしば言われていることでありますが、これは本質的には今度の沖繩返還は施政権の返還であります。ですから、領土の返還とこれは法的には違う。しかし、実体的には非常に同じ面を持っておる、こういうふうに思うのです。領土の返還が、しかも、戦争で失われたような領土が話し合いで返ってくる。これはしばしば申し上げておるとおり、史上まれなことであります。領土の返還じゃない、施政権の返還ではございますけれども、とにかく、この施政権は戦争で失った施政権です。それが今回返ってくるというのですから、これはもう偉大なる歴史上のできごとである、こう思っていいと思うのです。  それで、平和条約第三条の問題にお触れでございますが、私は平和条約第三条をアメリカがこれを行使しないで、施政権のままであったということが、またこの偉大なる事実を実現させた一つの大きな機縁になっている、こういうふうに考えるのです。やっぱり、一億国民日本国民、また百万の沖繩県民努力、こういうことが私は根底にあると思います。しかし、同時に歴代政府はずいぶん努力したということもある。また、アメリカがとにかく、戦争で失った領土、この施政……アメリカ戦争によって引き継いだ施政権も、話し合いで返すという態度に出たということですね。これらが積み重なって私は、この偉大なる事実が実現したのだと、こういう認識を持っております。  この返還交渉に何かコンニャクみたいに筋が全然ないと、こういうお話ですが、筋はちゃんとある。三本の筋があります。これは森さんもよく御承知のとおり。つまり、核抜き本土並み、七二年中返還、この線で応酬してきておる。これをよく知っておって聞かれるのですから、私もなかなか答弁しにくいのでございますが、筋は通った立場で対処してきておるということだけは御認識を賜わりたいと、かように思います。
  108. 森元治郎

    ○森元治郎君 ちょっと、言われっぱなしじゃ承認したようになるから、ちょっと簡単に……。
  109. 安井謙

    委員長安井謙君) 時間が……。
  110. 森元治郎

    ○森元治郎君 失った領土だというようなこと、これはやっぱり事実と違うんで、アメリカは私が先ほど言うように、利益のためにもう放すことが日米親善であり、沖繩基地確保、アジアの平和と緊張緩和役割りを果たす上でも返したほうが自分のためになる、日米関係にもいいという、さっき申した合理的な判断から返したので、結局人情論で返したのではないということ、失った土地ではないということ、これだけを申し上げて終わります。(拍手)
  111. 安井謙

    委員長安井謙君) 以上で森君の質疑は終わりました。  午前からの質疑はこの程度にとどめ、午後二時半から再開することとし、休憩いたします。    午後一時三十分休憩      —————・—————    午後二時四十一分開会
  112. 安井謙

    委員長安井謙君) これより委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、質疑を行ないます。  渋谷邦彦君。
  113. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 きょうお尋ねいたしたいところは少々こまかくなるかもしれませんけれども、それをお含み置きの上ひとつ御答弁をいただきたいと、こう思います。  まず第一点は、A表、B表、C表という一つの取りきめがもうすでになされておりますけれども、このA表の中に盛られた地域あるいは個所というものは、将来変更があるのかないのか、そしてまた同時に、現在もうすでに確定されていると思われる八十八カ所についてはそのとおりなのかどうなのか、まず、その点からお伺いしたいと思います。いかがでございましょう。
  114. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) A表は、これは返還協定実施までは変更はございませんです。
  115. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 私どもが調べた範囲では、はたしてこのA表の中に含まれるのかどうなのかといういわゆる疑惑の点ですね。たとえばこの東恩納地域というところがございますけれども、こうした点についてはどうなっているでしょうか。それは名称が全然違っていてもう一つの区域の中に全部含まれているのかどうなのかという点でございますが。
  116. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 提供すべき基地はA表全部に掲げておりまして、A表以外には全然ありませんです。いま御指摘の東恩納ですか、東恩納というところにつきましては、政府委員のほうからお答えを申し上げます。
  117. 吉野文六

    政府委員(吉野文六君) 先生御指摘の東恩納基地というのは、了解覚書の第二十四号の石川陸軍補助施設になっております。これはもとナイキ基地でございまして、いまは閉鎖になっておりまして、そのあとにアジア特殊活動部隊が入っております。これは御存じのとおり石川市の東恩納とそれから具志川市の栄野比、両方に分かれておりますが、両方ともわれわれの基地としては二十四号の石川陸軍補助施設と、こういうことになっております。
  118. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 今回の要するに返還されない地域については、いろいろいままでも指摘もされ。論議も繰り返されてまいりましたけれども福田さんは実際に現地にいらっしゃったことございますか。私は何回か参りまして、あまりにも人種的な差別が激しいということに憤りを感じましたよ。ここはいわゆる米軍専用地域であると。当然沖繩県民に解放されていいような地域についてですよ。たとえば海水浴場等をはじめとして、何様ということになりますけれども、そういうような地域が依然としてA表の中に設けられている。こういう点についていかがでございますか。
  119. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 沖繩における基地の密度、これにつきましては私も非常に関心を持っておるわけであります。特に沖繩本島におきまする中部ですね、この地区には人口が稠密である。そこへ基地がまた細密である。こういうことで、これはかなり大きな感触を沖繩県民に与えておるという点は私十分承知しております。  それから沖繩へ行ったことがあるかというお話ですが、数回行っております。
  120. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そこで、福田さんもよく御存じだろうと、私いやらしいことを申し上げたようでございますけれども、いまお認めになった。なぜ今回の返還協定締結する際にあたって、そういう地域の策定をわれわれが認めなければならなかったのか。——われわれというのはちょっとおかしい——政府自体が認めなければならなかったのか、どういうわけでしょう。
  121. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 基地問題につきましては外務当局が非常に努力をしたんです。最後にどうしても那覇空港、あれは返還を実現をしたい、こういうようなこと、また那覇周辺はもう少し整理ができないかというような努力も続けられました。そういういきさつは、私は当時大蔵大臣でありましたが、つぶさに伺っております。にもかかわらず、基地問題というものは、またアメリカから見まするとなかなかこれは容易ならざる問題でありまして、今回のA・B・C表とこういうことにならざるを得なかったと、せい一っぱいの努力をしたということだけははっきり申し上げさせていただきます。
  122. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 せい一ぱいの御努力、わからないでもないんですけれども、しかし、やはりがまんにならないということがございましょうね、民族意識の上から。総理大臣いかがでございましょうか。いま外務大臣、御答弁ありましたように、まだ依然としてそういう差別的な、あるいはもっと掘り下げて申し上げますと、人種的なというところまで言うのはどうかと思うくらいに今回のA表の中にそういう地域が含まれている。しかも、それが米軍の使用にどうしても必要だと思われない地域も含まれているわけですね。これもいままでいろいろ議論があったと私は思うのですが、本院においてもあらためてその問題について政府もどうしてそうならざるを得なかったのかと、また、あるいは総理が一月に訪米される際に、そういった点も含めてA表というものから除外する、そういう話し合いというものをなされるおつもりなのかどうなのか、これ合わせてお伺いしたいと思います。
  123. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) いま渋谷さんの御指摘の問題は、私どもでもまた同じ関心の問題なんです。ですから、当然一月のサンクレメンテ会談においてはこれは問題にしなければならぬことであると、そういうふうに考えております。しかし、とにかく返還協定はきまっておると、そしてその附属文書としてA・B・C表がきまっております。これを返還実現の日まで動かすことはできませんけれども、しかし、もうすでにその前ではありまするけれども、そういう話し合いも始めておる。総理じきじき大統領に対しましてこの話を持ち出すと、こういうふうにお願いしたいと、かように考えております。
  124. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そうしますと、今回の総理、サンクレメンテの会談を踏まえまして、いま福田さんの御答弁のとおり、そういった可能性のある問題については十分折衝をいたしまして、A表からC表に振りかえられるということは考えてよろしいんでございましょうか。
  125. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) A表からC表への振りかえ、これは返還実現前にはむずかしいと思います。その後においてA表をC表へと、こういうような実体的な結果が得られるように今日から話し合いを始めたいと、こういうことを申しておるわけであります。
  126. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 沖繩の同胞、これは米軍基地をつくる、その米軍の基地作成にあたっては所有権その他が強引に奪取されたと申しますか、人権侵害までおかして取り上げられたと、こういうことで、たいへんな、そのこと自身についても、理解に苦しむというか、苦労を重ねておりますが、その後においても、ただいま御指摘になるように、米軍と沖繩住民、これが区別されている。その人種的な差別待遇、これは耐えられないところじゃないかと、私どもはその実情を察知し、思いをいたしておるわけであります。それはもう御指摘のとおりであります。したがいまして、こういう事柄返還協定の際において考慮されてしかるべきじゃないかという渋谷君の御主張も、これはもう当然のことだと思います。しかし、いろいろ折衝は持ったが、現状に非常な変化を及ぼすことはなかなかできないと、こういうことでやむを得ずただいまのようなA表、B表、C表の区分をしたわけであります。私はいまのような状態で、たとえば海水浴場を共同使用すると、こういうようなことがもしできたとしても、いまのような状態では、平和のうちに双方が楽しむというか、そういうわけになかなかいかないんじゃないかと、どうもいまの偏見、そういうものはぬぐい去ることのできないものだと、かように私は思っております。私どもやっぱり沖繩の同胞の祖国復帰を心から願っておるのも、さような待遇を受けておると、またあのようにして基地ができたと、自分たちの所有権が取り上げられたと、そういうところの非常な憤激がぬぐい去ることができない、これが一番の復帰協その他の運動の根源ではないかと思うのであります。したがいまして、今回祖国復帰すると、かように思って、反対ではないけれども、しかし、皆さん方の御批判を聞きましても、どうも今回の返還協定その他のものについては非常な不都合、不満があるじゃないか、いまなおわれわれの不平不満を解消してくれないと、こういうようなものがいま残っておる。かように私は思うのでありまして、そういう点をただいま外務大臣も率直に認めまして、そうして機会あるごとにこれを正していく、直していく、このことを申しておるわけであります。私は、サンクレメンテの新春早々の会合におきましても、これらの皆さん方の御審議の経過はこれを披露するにやぶさかではありません。また披露した結果は、もっと返還協定というものについてアメリカも認識を改める必要があるのではないか、かように思います。それらの点を積み重ねて初めて県民の、同胞の願望は達成されるのではないかと思う。しばらく時間をかしてくださいと言わざるを得ないのでございますが、ただいま、いまのような状態で直ちに同じ場所で一緒になって遊ぶとしても、なかなか問題が起こりやすいと、こういう危険がまだ存するのではないか。それを私は心配をいたしますので、将来かような問題があってはならない。人種的差別が行なわれると、こういうようなものは取り除かなければならない。また、私どもも偏見を持つつもりはございませんが、偏見を持ってはいけないと、かように私は思いますけれども沖繩の現状は、そう簡単に過去、戦中また戦後を通じての今日までの軍政あるいは民政、それらの事態を通じてなかなか一体になることはむずかしいのではないかと、かように思います。そういう意味でただいま問題を提起されたと、かように思い、私どもそれを無視するわけではありません。その方向において最善を尽くしていきますが、ただいますぐ直ちにいま返還協定をやり直すとか、そういうところまではまいりません。その点を御了承いただきたいと思います。
  127. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いま総理の御答弁を静かに伺っておりますと、たいへん、何と申しますか、わが意を得たりというようなことをおっしゃった。それはアメリカ自身が返還協定について考え方を変える必要もあるであろうと私はもっともだと思います。したがって、今回のサンクレメンテでの会談におきましては、いまるる述べられた、総理日本人である以上は、その日本人の真情というものをぜひとも吐露していただいて、なぜそういう差別待遇を——いままで沖繩本土と一体化するんだと、あるいは日米安保体制のもとにおいては本土並みにするんだと言いながらも、現実にそういう問題が横たわっているわけですね。それは私が何も力んで申し上げる必要はないと思うのです。しかし、沖繩県民の心情からいえば、おそらくはその問題については最大の屈辱じゃないかということを私どもは感じます。したがって、今回のサンクレメンテの会談においては、こうした問題を踏まえて、特に沖繩県民の心情というものを十分把握されていらっしゃる総理といたしましても、日本人というものを代表されて、その点についてのもちろん話し合いを通しての、いわゆる具体的に申し上げればA表からC表に変更され得る——先ほど外務大臣の御答弁では、返還時まではそれは不可能であろうというふうに言われました。しかし、せめてもの贈りものとして、返還前にこうした取りきめができるということが非常に重要な要素を含むのではないだろうか。いま総理はしきりに、そういう地域を解放することによっていろいろと問題が起こる可能性を言われました。それは私も認めないわけではございませんけれども、しかし「案ずるより産むがやすし」ということがございますように、そうしたまず基本的な原則に立たれて、再度私は、いませっかく総理自身がそういう御決意を持たれているという、せめても、具体的にじゃこうしよう、こういう考え方でニクソンと話し合いの場を持つということをお約束いただけないか。
  128. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) もちろん、話をするつもりでございます。これはもう皆さんから御要望があるまでもなく、私自身、これはもう当然の私の責務だ。かように思っておりますので、この会議を通じても、各党からいろいろ、御質問の形ではございますけれども、御要望を兼ねてのお尋ねだと、かように思っておりますので、それらの点については詳細に話し合う、このことにやぶさかではございません。ただ、私がいま申し上げているのは、いままで取りきめたものがそういうことによって改善される、これは望ましいことです。望ましいことですが、やはり一応改善するという取りきめをすれば、それでそれなりにいまの協定協定として話を進めていただいて、そして批准交換を終えて、それまでにもそういうことは片づけ得るのじゃないか。私はさように思いますので、そこらの時間的な前後の問題についてはひとつ政府にもおまかせをいただきたいと思います。まあ、政府も、ひとつ皆さま方から御鞭撻を受けてさようにしたいものだと、かように思っております。
  129. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 まあ、おまかせいただきたいとおっしゃることは、おまかせ申し上げたいと言いたいところでございますけれども、いままでいろいろな問題点がありますだけに、やはり疑惑は残る。不安が残る。まあ、いずれにしても、そういう点のぬぐい切れない気持ちがあることは、総理御自身も反対意見の中からおくみ取りいただいていると思いますけれども、しかし、いま述べられたように、少なくとも話し合いを通じて、一つの結論ですね、でき得べくんば、返還時以前においてそうしたことが具体化されることを切に要望申し上げたい、こう思うのであります。  それから次にお尋ね申し上げたいことは、やはり請求権の問題がしばしば政治課題として取り上げられているわけでございますけれども返還協定第四条第二項を除いて、第一項においては一切放棄する、このように明記されているわけでございます。そうした場合に、単純に私どもが——というよりも沖繩の方々が考えた場合に、じゃ今後、いままで損害を受けたそういう問題についてはどのような補償がなされるのであろうか。日本政府が責任を持ってこれをやってもらえるのであろうかというようないろいろな考え方が出てくると思うのでありますが、こうした一番基本的な点からまず再確認の意味でお尋ねをしてまいりたい、こう思います。
  130. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) いわゆる請求権と称するものは非常に案件が多いのです。これは無数にある、こう申し上げても差しつかえないかと思います。その無数にある請求権といわれるもののうち、返還協定締結をするという時点において性格のはっきりしたもの、これはできる限り整理してみたい、こういうふうに考えたわけであります。  まず第一に、アメリカ政府の法令で補償すべきもの、また、沖繩における米軍の布令によって賠償、補償をなすべきものときめられた事項につきましては、アメリカがその責めに任ずる。  それから、そういう法的な根拠はありませんけれども、いわゆる軍用地の復元補償、それから那覇軍港の海没地、これにつきましてはアメリカが支払いの責めに任じましょう、こういうことにし、その他にまだいろいろあるわけなんです。そのうち、講和前の人身補償の問題につきましてはこれをわが国において処理するというので、いま法律案を提案をいたしておるわけであります。その他の問題につきましては、これはわが国は対米請求権は放棄するが、しかしながら、反面におきまして、わが国の手において調査し、これはその事案の性質に応じまして適正なる処置をいたしたい。こういうふうに考えておるわけでありまして、これはまずこの実態の把握、つまり調査が先行します。その調査に従いまして、予算の措置を必要とするというものがあれば予算措置をする。また、これは法的措置までとったほうがいいだろうというようなものがありますれば法的措置をとる。そうして対米請求権は、アメリカが支払いに任ずるもの以外におきましては、これは日本政府としては放棄をしますが、わが日本政府の手において適正な処置をつけたい、こういうのが基本的な考え方でございます。
  131. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そうしますと、重ねて、当然請求の権利を保有している問題については、それは日本政府が間違いなく肩がわりをしてその責任に応ずる、こう理解してよろしゅうございましょうか。
  132. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) まあ、大体そういうことになりますが、ただ、いわゆる請求権といわれておるものを一々点検しますと、権利として成立するというものはそうたくさんはないんです。しかし、権利として成立しないものにつきましても、これはいままでの二十六年間の御労苦、こういうものを考えますときに、何らかの措置をしなければならぬだろう。これは国内的な措置で片づけます。  それから、もしアメリカに対する請求権の放棄なかりせばアメリカに対して権利として主張し得るもの、そういうものが今度は主張をアメリカ政府に対してできなくなった、そういうものにつきましては、その実態に応じまして適正な処置を講ずる、こういう考えでございます。
  133. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 要は、福田さんは法律的な問題等々を十分頭の中に描きながらいま御答弁されたろうと私は思うのですが、これは私が申し上げるまでもなく、この法律的な解釈はこうであるという論拠によって補償というものはなされるべき筋合いのものではない。確かにいろんなケース、いろんな種類のその問題があることは私どもも知っております。したがって、それを包括的に政治的な課題としてこれを処理、またいま答弁にもありましたように、場合によっては、臨時にそれに対する特別措置法というものをつくらねばならないとおっしゃいました。当然だと私は思います。いま沖繩県の方々が一番聞きたいという点は、要するに、一番多いのは人身事故ですよ、御承知のとおり。これに対して一体どうするのか。端的に、人身事故——交通事故をはじめとしていろんな事故がございます。ピストルでやられて殺されたという問題も含めますと、その数は相当たくさんあるわけですよ。そういったものを含めて、これが法律的に見ればこうである、あるいはこういう判断が成り立つということを言われたんでは、やはり県民感情としては、何をやってんだ本土政府はと、これは当然そういうそしりを免れないことは言うまでも私はないと思うんです。そこで、たとえどういうケースであっても、それはおっしゃることはわかるんですよ。けれども、やはり包括的にこの機会に、いままで前例がないだけに、そういう沖繩が返ってくる、過去の歴史においても、世界の歴史を見てもかつてなかったそういう領土の返還というものを考えた場合に、これはもうやはりいま私申し上げたように、政治的な解決の方法をもって善処していただきたいということなんですが、どうでしょうかということなんです。
  134. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) これは私のほうで現実に取り扱うことになっておりますが、アメリカ側が継続をしてこの問題を扱う以外の講和前のいわゆる人身損害、この補償につきましては、御承知のとおり一時金で人道上の問題を十分認識してとりあえず処理していこうと、そうしてあと米側が引き継ぐものについてはこれは千差万別、いろんなケースがあるわけですが、これをいま御指摘のように、何だかお役所仕事式の片づけ方でなしに、一々これはやはり相談に乗って、米側の事務員に要請するものははたから要請してやる。また本土に引き継いだ分については、これまた詳密な調査をとげまして、そして、もしそれに対しても立法の必要があれば立法措置をとってこれに対処しようということで、すでに法案を用意して臨んでおるわけであります。これも御承知のとおり非常に千差万別、いろいろありますから、口では簡単に言いましても、実際に実行の面では骨の折れることだと思いますが、これは二十六年間の苦難本土政府が償うというような心持ちで直接事務を取り扱うものは対処しなければならぬ、こういうことで私強くいまから話し合いをしておるような次第でございます。
  135. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それはわかるんです。だから、いま私が言いたいことは、そういうもの全部含めて一括して政治的判断に基づいた、その沖繩県民の御希望に沿う解決のしかたをするかどうか。それはいろいろなケースがありますよ、それは。申し上げるまでもない、いま私も述べましたとおりですね。ですから、総理大臣ね、この点は明確にやはり端的に、請求権を放棄はしているけれども日本政府としてはその問題について必ず責任を持って補償するかどうかと、この一点だけでいいと思うんですよ、補償しますとか、補償しませんとか。それをごたごたと言って、これはこういう場合もある、こういう場合もあると言われたんじゃ、いま防衛庁長官が言ったようにお役所仕事になっちゃう。政治的な判断でもって、これは必ず全部日本政府の責任において補償しますと、こう言ってもらったほうがよろしいんじゃないでしょうか。これはむしろ……、ちょっと待ってください、総理大臣答弁求めますから。
  136. 安井謙

    委員長安井謙君) 江崎長官からひとまず……。
  137. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) それは全責任を持って補償いたします。これはお約束しましょう。
  138. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いかがでしょう、総理大臣
  139. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 防衛庁長官がただいまお答えいたしましたが、やはり調査が前提になるのじゃないでしょうか。私ども調査もしないで何でもみんな補償しますと、こういうことを言うのはこれは乱暴過ぎると思います。請求権を放棄した。これは「見舞金」ということばを使っておりますけれども、それは補償の意味の賠償という意味でも差しつかえません。アメリカに対して持つ請求権、これを日本が放棄し、政府が放棄した。しかし政府がかわってそれを償うと、こういうことでございます。
  140. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それは調査をするということは、いま佐藤さんから御答弁いただかないまでも心得ていますよ。けれども、それを全部踏まえた上でどうするかと、いま端的な答えを沖繩県民の方は求めているからということで御答弁いただいたわけであります。  次にお尋ねいたしたいことは、やはり憲法問題について、いままで本会議等におきましても、総理の御答弁では、憲法違反の疑いはないと、このようにおそらく衆議院においても、また参議院においても、少なくとも概括的にそういうような御答弁がございました。ただ、いろいろ考えてみると、憲法にどうしても抵触するのじゃないかということの疑いが依然として私どもはぬぐい切れない面があるわけでございます。そこで技術的な問題については高辻法制局長官から、いままで特に問題になってまいりました、なぜ憲法違反にならないのかという、その理由づけについてまずお尋ねをしておきたいと、このように思うわけでございます。  それで私申し上げたいことは、先般も総括質問のときにちょっと触れておりますが、十四条それから二十九条、三十一条、三十二条、九十五条、この点について、こういう論拠によって明確に憲法違反ではないと——思います、というのは困りますからね、その点は御承知のとおり。ここで明確にひとつお願いをしておきたい。
  141. 高辻正巳

    政府委員(高辻正巳君) いわゆる公共用地暫定使用法案についてのお尋ねでございますね。それについて憲法の規定との関係を論ずるにつきまして、あらかじめ御認識をいただいておきたいことが一つございますので、その点にちょっと触れて、憲法の個々の条文を申し上げたいと思いますが、この法案の本質的なねらいがどこにあるかといいますと、それはすなわち公共の利益に及ぶおそれがある支障を除こうという点にあるということ。復帰時に広く公共の目的に供されている土地が、復帰時以降も引き続いて同様の目的に供されないことになりますと、公共の利益に著しい支障を及ぼすおそれがあることになるので、何とかしてこれらの土地を復帰時以降も復帰前と同様の用途に供されるようにしまして、公共の利益上の支障を生じないようにしたいというのがまず前提にありまして、それには当然今後それを使用する者がその土地の使用について正当な権原を取得しなければならぬことになりますので、本土における場合と全く同様に、所有権者等と折衝を重ねまして使用権原を取得するようにしなければならないのでありますが、その権原を取得するまでの間に、万一にも復帰の時期が到来することになりますと、土地が供用されてきた従前の公共の目的を達成することができなくなりますので、その結果は公共の利益に著しい支障を及ぼすおそれがあることになりますので、なむなく暫定的な期間を限りましてそれを使用することができるようにしておこうというのがこの法案の本来のねらいであるわけです。要するに、公共の利益に及ぼす支障を除こうという点にある。憲法の規定との関係を論ずるにつきましても、この点の認識を離れては意味がないことになると思いますので、まずその点を申し上げて、個々の条文についてさらに言及したいと思いますが、これもいまお話がありましたように、実は総括質問のときにごく大ざっぱにお話をいたしました。それぞれ個々の条文についてはいろいろな論点があると思いますが、それを抜きにして言うことになりますと、ごく概括的にやはり申さなければなりませんが、憲法十四条、法のもとの平等との関係についてはどうか。これはよく出る問題でありますが、十四条は、その規定を見れば明らかでありますように、要するに、すべて国民を人種、信条、性別、社会的身分または門地によって、要するに、人格の価値がすべての人間について平等であるというこの憲法の理想にたがって、これを差別するということを問題にしているわけで、その根底には個人の尊厳ということがあるわけでありますが、この法案は、沖繩の住民を、人種、信条、性別、社会的身分または門地によって、人格の価値がすべての人間について平等であるという憲法上の理念にそむいて、差別しようというものでは全くないというのが十四条に関して申し上げることであります。  それから二十九条との関係については、これはおそらく、さらにこまかい論点をあげられればまたそれにお答えしたいと思いますが、二十九条は、公共の利益のために私人の土地等を正当な補償のもとに使用することができることを規定しているものでありますので、この法律案の内容も同条に違反するというようなことはないと確信をいたしております。  それから三十一条のいわゆる法定手続の保障との関係でございますが、この規定は刑罰に関した規定であることは条文を見れば一見明瞭であります。また、これが罪刑法定主義の側面を規定したものだということもありまして、直接には刑罰に関する規定であるということでありまして、この法案はそういうことではございませんが、しかし、その法意はやはり行政手続においても尊重されるべきであるという考え方から申し上げるわけでありますが、この法律案は、実体的要件として、先ほど申し上げましたように、暫定使用の対象としている土地——工作物も入りますが、公共の利益のための特別の必要性が認められ、かつ、復帰による共用の中断を避けることが公共の必要からいってやむを得ないものであるということが絶対の要件になっている。実質的の要件になっておる。それから、その実体的要件を踏まえた上での手続的要件として、対象とされる土地の区域等を定める告示やあるいは関係権利者に対する通知が行なわれることを必要としているのでありますから、これも全く問題がないと考えております。  それから憲法三十二条、これは裁判を受ける権利との関係でございますが、この法律案は、そのいかなる規定も、土地所有者等が裁判所に出訴することを少しも妨げてはおりません。したがって、問題になるはずがないと思います。「思います」というのがいけなければ、妨げているものではありませんから問題がありません。  それから最後に、憲法九十五条のいわゆる地方特別法の規定でございますが、地方特別法の規定についてよく誤解がある。渋谷さんはそういう誤解はないかもしれませんが、これは一般の法律案が国会の両議院で可決されたときに法律となるということについてのたいへんな例外でありまして、両議院が可決しただけでは成立をしないで、住民投票の過半数の賛成を得たときにはじめて法律が成立をするという、一般の規定からいいますと非常に例外的な規定でございます。ところで、その特別法に当たるかどうかということでありますが、まずその実体的要件としまして、条文を見ればわかりますが、この特別法の対象となるのは地方公共団体そのもの、それについての規定であることがまず第一点でありますが、そういう実体から申しまして、この法律案が地方公共団体そのものについての規定ではないということ。それからもう一つ非常に技術的にむずかしい問題があると思いますのは、ただいま申したように、住民投票を経ないと成立をしないわけでありますが、実はこの住民投票ができるとすれば、返還後でなければならない。返還前にはそれができない。しかも、この法律案は返還と同時に発効しないことには意味がないというようなことからいいまして、もっと簡単にいえば、返還前はまだそこには憲法が施行されておらないという手続的な面の制約もございまして、実体面、手続面、いずれの面から見ても、憲法九十五条には乗っからないというふうに確信をいたします。  もっとも、この九十五条の問題は、立法過程においてやはり判断されるべき問題だと思いまするので、これに関して私は私の主張を押し通そうと、むろんほかについても押し通そうという気はございませんが、これについては、私の判断ではなしに国会の御判断も、やはり何としても立法過程で最終的に決定されるのはむしろ国会の側であろうというふうに申し添えさせていただきたいと思います。
  142. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ただいまの概括的な憲法についての考え方、そのとおりだと私も思います。ただ、現実的な問題として一例をあげますと、憲法第十四条については、先ほど冒頭に申し上げましたように、あまりにもその人種差別という問題がからんでいるんではないだろうか。この辺は、総理大臣でも外務大臣でもどちらでもけっこうですけれども、どのように考えられて善処するのか。
  143. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これは実態的にはなかなかいろいろ複雑な様相があるようです。しかし、これが憲法がこの国民の法の前に平等であるという前に、この不平等である、こういうふうな、そういう状態ではないと、こういうふうに考えます。つまり憲法上の平等性、これを阻害しておるという憲法上の解釈、そういうことは成り立ち得ないと、かように考えます。
  144. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 何だかわかったようなわからないような答弁でありますけれども、しかし、たとえば返還前においてむずかしいとしても、返還後においては当然主権が日本に返るわけでございますから、日本国憲法というものが適用されなければならない。その法のもとにおいて平等であるという立場を貫くならば、当然いままで不公平な、そして沖繩県民こぞって不満の念を禁じ得なかった差別について、当然それが是正されなければならない。これは率直に、法律論なんか知らなくても、心情的にそうあるべきだということを願っていることは言うまでもないと私は思う。だから、その観点に立ってどうするか、こうしますと、そうしなければいけないというお答えをいただきたいわけであります。
  145. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これはできる限りですね、本土並み沖繩内容的にそういうふうになるように、これは最大の努力をいたします。
  146. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ですからね、それはもうそれ以外の御答弁をあるいはいただけないのかもしれませんけれども、そうすると、政府自体がいままで言ってきた本土並みあるいは本土と一体化、何が一体化であるか、具体的な証拠は何もないじゃないか。一番いま困っている問題はその問題じゃありませんか。差別の問題、請求権の問題あるいはそのほかにこれから御質問申し上げる混血児の問題、こうしたような問題が解決されないことには、やはりいままでしばしば論議されておりますように不安が残る、疑いが残る。なぜこういう返還協定を結ばなければならなかったのかというそしりを免れない。それを晴らすためにも、だから、いま私は言っているわけです。こうしますと、けれどもこれだけは可能性がありますと、せめてそこに弾力的に可能性があるというような、そういう答弁のしかたを私は期待したい。それでいま申し上げているわけです。
  147. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 七二年某月某日、まあ沖繩返還されます。その日に急に突然変異的に沖繩が様子を一変するというもんじゃない。やはり過去の歴史もあとを引きます。そのあとに尾を引くこの歴史、忌まわしい歴史は断ち切らなきゃならぬ。これはこれからの問題なんだ。施政権がわれわれの手に返ってくる。それを踏んまえまして努力を積み重ねることによって、初めてそれが実現される。もうある日突然何か様相一変と、こういうことはこれは期待はできません。しかし、最善の努力をして、内容ともにそういうお話しのような事態はなくなるようにですね、これはつとめたいと、こういうことを申し上げているわけです。
  148. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そうしますと、その時点で憲法違反という問題が起こったときでも、それは当然あり得るというふうに理解してよろしゅうございますか。
  149. 高辻正巳

    政府委員(高辻正巳君) 私どもは、この法案の論点としては、いろいろあげられたような問題が論点としてはあり得ますから、この点については非常に深い検討を重ねてまいりました。したがって、事、憲法の規定との関連に関しましては、先ほど御説明申し上げたとおりに、われわれとしては憲法違反でないと確信をいたしております。
  150. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 かつて砂川裁判に見られるとおりですね、告訴をされて勝訴をしたという経過がございます。公用地の問題において、沖繩県民が憲法をたてにとってそういう訴訟が起こった場合に、当然そういう先例がございますので、勝訴もするであろうし、また五年ときめたそういういろいろな問題について、いろいろな障害が起こり得る可能性というものは考えられないか。この点、どうですか。
  151. 高辻正巳

    政府委員(高辻正巳君) お答えを申し上げますが、すべての法律問題について、これに不服のある者は裁判を受ける権利を持っておりますから、すべての法律問題について不服のある者が裁判を提起して、訴訟を提起して裁判所に判断を求めるということは、これはあり得ないとは申せません。しかし、だからといって、これは憲法違反だというのじゃなくて、われわれとしては、これを憲法違反ではないと、慎重な検討の結果、確信している次第でございます。
  152. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 もちろん判決を見なければ、訴訟を起こして判決を見なければその決定的な結論というものは出ないと私も思うのです。しかし、いま私、例をあげましたように、砂川裁判という先例があります。ですから、そうした点を踏まえて考えてみた場合に、もっとその善処のしかたというものが、この公用地の問題にいたしましても、あるいはその人権上の問題にいたしましても、返還前に対応できる事柄というものが当然考えられていいし、また、先ほどから私くどいように申し上げておりますように、今回のニクソンとの会談というものは非常にその絶好のチャンスであるという点を考えますと、これはぜひとも解決の糸口をつくってもらいたい。その点、総理大臣いかがですか。
  153. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 幸いにしてニクソン大統領新春早々会談を持ちます。私はこの会談におきまして、各党党首との会談をいま要請するという、そういう形でたびたびお答えしております。おそらくその党首会談を踏まえて私は出かけるようになるだろうと、かように思いますので、その際に十分問題を整理して、その上でニクソン大統領に十分わがほうの主張をわかりやすく伝えるつもりでございます。そうして同時に、アメリカ側の善処を求めるつもりでございます。
  154. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 まあ、いずれにいたしましても、いままで最も疑点とされているような問題というものが衆議院においても浮き彫りにされておりますし、当然総理としても、もうおそらく命をかけてもこの問題については取り組んでもらいたいということを重ねて要望したいと思うんであります。  それから次に、いま沖繩の問題で、直接に対米精求権という問題にかかわるかどうか疑問といたしましても、これは当然大きな社会上の問題でございますから、そういう意味でお尋ねをして、その解決策というものを求めたいわけでありますが、私どもの調査によりますと、現在沖繩には混血児が約二万人おります。あるいは推定でございますからそれ以上いるかもしれない。ところが、戦後二十六年という間には成人している人も相当数あるわけであります。もうその人たちに子供は生まれているということは当然考えられることでございますが、まあ婚姻外にできた子供、いわゆる私生児でございますね。こうした問題もおそらくこれから大きな沖繩県自体の社会問題として取り上げられなければならないし、またその解決というものも急がなければならないと、こう思うわけであります。一番いま沖繩県の方々が苦慮しておられることは、国籍を持たないという子供を一体どう扱うのかと、はっきり申し上げて。やはり日本国籍でもない、さりとてアメリカ国籍でもない、いわゆる無国籍という、その立場の人たちが相当数になるわけであります。まあ、とにかく混血児が二万人、われわれの調査でも、いるという現状から見ましても当然考えられるわけです。こういった人たちの将来の就学、あるいはその就職、まあ、いろいろそういうことを考えた場合に、問題か起きることは当然だと私思うわけであります。まあ、こうした点について、やはり何らかの取りきめというものをきちんとしておきませんと、やはりやみからやみに葬られるというそしりをやはり受けるということを心配するわけであります。したがいまして、この点について、まず法務大臣、どういうふうに対応されるのか、それを伺った上で、最終的に総理大臣として、この問題含めて、こうした実際目の前に起こっている問題の解決というものをこうしたいという御答弁をいただきたいと、こう思います。
  155. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 民事局長からお答えいたします。
  156. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 簡単にやってください、時間がないから。
  157. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 簡単にお答えいたします。  アメリカ人と沖繩の女性とが結婚して子供を生んだ、こういう場合に、その生まれた子供の国籍がどうなるかという点につきましては、いろいろな場合があり得るわけでございまして、アメリカの国籍を取得する場合、それから無国籍となる場合、日本人となる場合、それぞれ要件によって違ってまいります。これらに対しましては、まだその正確な数は私どもとして把握しておりませんけれども復帰後は当然そういった点について調査することになろうと思います。
  158. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 こうしたいま切実な問題についてまだ調査ができていない——来年四月一日ともいわれ、七月一日ともいわれ、あるいは五月、六月ともいわれているその返還を前にして調査ができていないということ自体おかしいんじゃないでしょうか。法務大臣、どうなんですか、その点は。
  159. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 必要な調査については絶対に間に合うようにいたします。
  160. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 必要な調査とおっしゃった、これが必要じゃないんでしょうか。この問題をどうするかいま沖繩県民が血の出るような思いでいるということをわれわれが聞いているからいま尋ねているわけですよ。前尾さん、ぼくが聞いておるのにあなた話をしておるんじゃわかんないじゃないかよ。質問していることがわかんなくなっちゃうじゃないか。その点はどうだというのですよ。血の出るような思いで叫びを叫んでおるんですよ、どうしてくれるのだと。だから、返還後においてもわれわれ心配だと、こういうわけですよ。それをまだ調査が済んでいないなんということだったら、まことに残酷なやり方。だから、当初からわれわれが言っているように、今回の返還協定をめぐって、あまりにも、何んというか、思いやりのない中身じゃないかということがいろんな面でここに出てくるんじゃありませんか。どうですか。
  161. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 先ほど申し上げました三つの場合のうち、アメリカ国籍を取得している場合及び無国籍の場合、この場合につきましては、日本国籍を取得するためには帰化の手続が認められております。おそらく簡易帰化という手続きが認められることになりますので、帰化の申請があれば、その点は十分その段階において対処いたしたいと、かように考えております。
  162. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 だから、帰化の手続だなんて、日本人じゃありませんか。それをどうするかということをいま私は聞いているんじゃありませんか。そんな無責任なことを言われたんじゃ、沖繩県民、かわいそうですよ。二万人いると言った、ぼくは。もっといるかもしれない。それをいま尋ねているんじゃありませんか。それは大臣が政治的な立場答弁してもらわなければ困っちゃうというのですよ。
  163. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 先ほど来申しておりますように、復帰までには十分間に合うように万端の準備を整えさせます。
  164. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ならば、復帰までに間に合うように手続をするというなら、具体的にどういうふうにやりますということを明示してくださいよ。(「はっきりしろ、はっきり」「何もやってないのじゃないか」「答弁できないのならば休憩せい」と呼ぶ者あり)
  165. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 現在におきましても、帰化の手続は沖繩にあります事務所を通じて行なわれております。
  166. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それはもう私は納得できない。ちょっとね、はっきりした答弁を求めてもらうようにお願いしますよ。こんなことじゃ、いま一番切実な問題をぼくは言っているんじゃないか。四分になっちゃったよ。
  167. 安井謙

    委員長安井謙君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  168. 安井謙

    委員長安井謙君) 速記を起こして。
  169. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) まず捨て子の場合について申し上げますと、沖繩国内の捨て子は、これは日本人として取り扱っております。それから、そのほかアメリカの国籍を持っている場合及び無国籍の場合につきましては、本人が死亡をいたしますれば帰化の手続によって処理いたします。このことは沖繩におきまして十分周知するようにいたしたいと考えております。
  170. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 何だかその点はっきりしないのだな。捨て子がどうとか、それはあたりまえでしょう、当然それは。要するに、無国籍の問題をどうするかという問題がいまあるのです、現実に。この解決がなされなければ返還後だってたいへんな混乱が起きるということをいま指摘して申し上げているわけですよ。それは実際これから調査をしなければわからないのですか。もう調査が済んでいるのですか。それはいま捨て子は一体何人あるのですか、お尋ねしますけれども
  171. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 捨て子が何人あるかということは把握しておりません。
  172. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 捨て子の数はわかりませんが、いずれにしましても日本で引き取るという考えでいかなきゃならぬと思います。その点につきましては十分復帰に間に合うように準備をし、調査をし、また手続を考えたいと思います。
  173. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 まあ、いずれにしてもね、捨て子の問題はわからぬ、けっこうでしょう。いま資料がないからわからないのは当然でしょう。私が言っているのは、無国籍の者が必ず出るということの問題について、いま返還を前にしてこの救済措置をどうするのかということを尋ねているわけですよ。いまそれでほんとうにどうしてくれるのだということをわれわれは訴えられているわけだ。それをじゃどうするかということを具体的な解決の方法を与えてあげなかったらかわいそうじゃありませんか。
  174. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 無国籍の場合、無国籍者は現在沖繩に九十四名という統計になっております。これらの者につきましては、先ほど申し上げましたように、帰化の手続が比較的簡単に行なわれ得るということでございます。
  175. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 あのね、帰化の手続ということをいまおっしゃった。九十四名ともおっしゃった。それはあなた、いま私が質問申し上げたときに、これからと法務大臣がおっしゃったでしょう。これから調査をすると言ったじゃないですか。それ、どうしてわかったのですか、いまの九十四名というのは。
  176. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) これは入管の調査でございます。(「それでは最初からどうして言わなかった」と呼ぶ者あり)ただいま御質問中に判明いたしたわけでございます。
  177. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 総理大臣ね、お聞きのとおりですよ。一番いま、私は何も力んでものごとを言うわけじゃないけれども、こうした具体的な問題がいまたくさんころがっているわけです、御承知のとおり。けれども、責任ある答弁できないじゃありませんか。母法という沖繩返還協定それ自体に問題がある。いままでさんざん論議されてきたその中身の中にもこうした点が浮き彫りにされているじゃありませんか。総理大臣いかがでございますか。
  178. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 混血児の場合、この父親が米人で、これを引き取ってくれればこれは米国の国籍になる。これはもうはっきりする。ただどうも米人という顔はしているけれども、その父親がどれかわからないと、こういう場合があろうと思います。そういう場合に、母親が日本人なれば日本の国籍を持つのはこれ当然でございます。また、先ほど言われるように、日本国内において捨て子になると、そういう場合の国籍、これは日本人としてわれわれは扱う。これは当然でございます。それらの点がもっと川島君が明確に答えてくれればそんな問題はなかったように思いますけれども、何かたいへん心配しているようでございます。私はさように思います。
  179. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 総理大臣のほうが最も歯切れがいい答弁だったように思いますがね。これはいまこまかく申し上げるといろいろあるのですよ。これだけでも一時間以上ほんとうは問題点があるのです。それを前尾さん、これから調査をして云々なんていうことは——たいへんおこがましい言い方かもしれませんけれども、いま切実に苦しんでいる、どうなるかという不安を持っているその立場で考えた場合に、当然、いまこういう状況で進行しております、この問題についてはこういうふうに対応できますと、なぜ明確な御答弁がいただけないかということが私は非常に残念でたまらないわけです。いかがでございましょう。
  180. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 不覚にも私も知らなかったことは非常に残念に思います。しかし、先ほど来申しておりますように、十分時間に間に会うようにすべての処理ができるようにいたします。
  181. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 重ねて私申し上げるのは恐縮だとは思いますけれども、それはけっこうなんですよ。返還までの間に十分調査もいたしまして、そして沖繩県民の方々の意思にこたえ得るそういう解決方法を考えたいと。いま一番望んでおりますことは、具体的にどういうふうに一体してくれるんですかと——いま総理はくしくもこの問題については、捨て子についてはということまで明言されました。そのとおりだと私も思うのです。けれども、一番いま問題になることは、私は二万人というふうに数字をあげたんですよ。こうした二万人の自分たちは一体どうなるのか。就学の問題がある——学校へ行く問題があるのです。就職の問題があるのです。こうした問題がすぐ前面にぶつかってきた場合に、やはり具体的にこういたしますよということの明言を与えてあげませんと、かわいそうじゃないでしょうか。何のための返還協定の審査をやっているんでしょうか。当然そういうことはわきまえられた上で、それを前提にされてこの審議に法務大臣としてお臨みになっていらっしゃるんでしょうか。私はもし具体的にいま出せないと言うならば、次の機会にまたやります、まだ質問たくさん残っているのですから。その点はもう一ぺんやってください。  それから労働大臣、こうした就労の問題についてどう取り扱うのか、その問題も重ねて法務大臣の答弁が終わったあとにお答えください。
  182. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 詳しい手続なりそれは後刻お答えいたします。
  183. 原健三郎

    国務大臣(原健三郎君) お答え申し上げます。  沖繩本土復帰した場合においては、本土の職業安定法が働くようになることは言うまでもないところであります。それで、その日本の職業安定法第三条によりますと、「均等待遇」というのがありまして、これをちょっと読み上げますと、「何人も、人種、国籍……等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない」と書いてありますので、たとえそれが無国籍であろうと、たとえそれがアメリカ人の籍におりましても、それを差別はいたさず、就職その他職業訓練等々をいたします。
  184. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 すみません、ちょっと時間が経過して申しわけないのですが。  労働大臣は明確にいま答弁された。これはこれで納得します。確かにその門戸は開かれた。けれども、法務省自体の問題については、本人の意思ということもあります。さっき捨て子の問題もありました。私はアメリカ国籍を取得したいといういろいろな問題そういう技術的な問題が出てくると私思うのです。その回答をいっやってくれますか。それは事務当局でもいい、あるいは責任持って法務大臣から答弁願ってもいい。
  185. 川島一郎

    政府委員(川島一郎君) 日本の国籍を持っていない者が、日本の国籍を取得したいという場合には、これは帰化によるわけでございますので、帰化の手続ができるということを十分に周知徹底さしたいと思っております。  それから、アメリカの国籍を持っていないで、アメリカの国籍を取得したいという場合におきましては、これはアメリカに対する帰化の手続を申請して、そうして……(「それはわかっている、政府はどうするのだ」と呼ぶ者あり)これは、日本の国籍法によりますと、本人が志望によって外国の国籍を取得することは制限しておりませんので、憲法にも国籍の自由の規定がございます。したがって、その点につきましては、本人の自由意思におまかせする以外に方法がないわけでございます。
  186. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 局長さんではたいへんお気の毒でごいますので、総理大臣、総括的にいまの問題のやりとりをお聞きになられて、どう一体お考えになるか。これもサンクレメンテの課題でございますか。(笑声)
  187. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 先ほども包括的に申しましたが、国籍の取得はこれは本人の意思による、本人の意向によると、かように私は思いますが、ただ、先ほど、日本人の子供である、そういう場合において日本国籍を取得することはこれは私たいへん容易だと思います。また、アメリカの国籍を取得する、これはやはりその国の国籍法に準拠して国籍を取得することでなければならないと、かように思います。  問題になるのは、やはり何といいましても、混血児であることはわかっておる、しかし、父親がだれかということがはっきりしない、こういうような場合が非常に問題だろうと思います。具体的の場合に、そういうことをいろいろ調査しないと、法律家ははっきりしたことは答えられぬと言う。それではどうもお尋ねの趣旨には沿わないので、そういう場合に、やはり本人の意向を第一にして、そうしてその意向に沿うような処置をする、これが政府の考えでもありますので、その辺は御了承いただきたいと思います。  なお、先ほど申しましたように、捨て子でその母親も父親も全然権利を主張しない、こういうような場合には、日本国籍、これを取得する。
  188. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 一言締めくくりとして申し上げたいことは、私が非常に遺憾だと思いますことは、自分の省は関係ないんじゃないかと、極端な見方をすると、そういう感じもぬぐい切れないと私は思うのです。何も前尾さん自身を私は責めるわけではありませんけれども、しかし、こうした質問が当然予測されるということは考えてもいいはずだったと私思うんです。しかも、人道上の大問題です。けれども、それがまともにその答弁ができない。何のための一体委員会だと、こう申し上げざるを得ないわけであります。どうか、その点については、私御要求申し上げたとおり、いつどういう時点で、どういう方法で、具体的にいま私が御質問申し上げた件については処理するのか、文書をもって御回答いただきたい。それを申し上げて私の質問を終わります。
  189. 安井謙

    委員長安井謙君) 以上で渋谷君の質疑は終わりました。     —————————————
  190. 安井謙

    委員長安井謙君) 次に、松下正寿君の質疑を行ないます。  松下正寿君。
  191. 松下正寿

    松下正寿君 本委員会が開かれましてからだいぶ審議が進んだようでございますが、やはりいろいろな問題がたくさん起きましたが、一番沖繩返還協定についての根幹的な問題は私二つあるのじゃないかと思うわけであります。  第一は、やはり核の問題、核があるかないかという問題であります。これは、いや、ないんだ、いや、あるだろうと、ちょっとそれだけだと水かけ論みたいになるわけでありますが、その問題が一つと、それからもう一つは、やはり何といっても基地の問題だろうと思うのです。この二つが沖繩返還協定で一番いわばひっかかりになっておるうるさい問題であるわけです。  そこで私は、基地の問題はあとにしまして、核の問題ですが、政府はしばしば核がないということを明言しておられ、アメリカの言うことは信用すべきであるという立場をとっておられますが、  一般国民の何%かわかりませんが、野党側はほとんどこぞって、これに対する疑惑的な意見の表明をしておるわけであります。私は、この問題はいいかげんに片づけてはいかぬのじゃないか。やはり自民党とか、野党とかいうようなことは離れて、また政府国民という区別を全部離れて、日本国民全体が、ほんとう沖繩には核がない、本土にはむろんでありますが、全然そういうものはないということを確信して、安心したいんであります。来春早々総理アメリカを訪問されてニクソン大統領と会談されることになっておるそうでありますが、この前、どなたかの質問に対して福田外務大臣は、今回は共同声明は出さないようになるだろう、こういう御見解のようでありましたが、これも、絶対に出してはいけないというような御意見でもなかったようでありますが、ほかの問題は別としておいて、少なくとも、核不存在といいましょうか、ということについての日米共同声明のようなものをはっきりとお出しになったら、この問題についての国民の疑惑が晴れて、非常に気持ちのいい条約になるんじゃないかと思いますが、その点についての総理大臣の御見解をお聞きしたいと思います。
  192. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) いままでのところ、この返還後においては沖繩に核は存在しないと、これはもうすでに私とニクソン大統領との約束でもあります。この約束を疑う、私にはそういう気持ちにはなれない。また、安全保障条約、この締結相手国日本アメリカであります。条約締結しているその国。それがやっぱり疑いの、どうもやらないじゃないのかと、こういうような不信な状況では、ただいまのような日米安全保障条約というような条約は成立いたしません。そういうことも考えながら——これは各党ともそれぞれの立場があって安全保障条約を否定なさる党もありますから、わが党のようなわけにはいかないかもわからない。どこまで疑う、こういうことだと思いますが、私は日米安全保障条約締結しておるその間柄において、また、しかも最高の指導者であるニクソン大統領と私との約束、それが今回の行政協定の中にはっきり書かれている。かように考えますと、私はこれを疑うのは、まあ何でも、どこまでも慎重に、石橋をたたいて渡れというような、そういう感がするのでございまして、どうもそこまで私は必要がないように思いますけれども、しかし、これまでも外務大臣がしばしばお答えしておりますように、また私もお答えしたように、こういう問題について、いままでのような、約束を取りつけたというだけではどうも納得がいかないなら、もっと何か了承できるような方法も講じたいと、こういうことでいろいろ話しをしているわけであります。御承知のように、米国の上院におきましても、ロジャース長官、パッカード次官、これの証言までありましても、なおどうも心配なんだと、こういうような状態でありますから、また、幸いにして、私自身もアメリカに参りまして、サンクレメンテで新春早々ニクソン大統領と会うことになっておりますから、そういう際にこういう問題をよく話をすること、これは適当なことだと思います。ただどうも、まあ各首脳者等の話し合いにおきましても、いわゆる今度はコミュニケが出されないと、こうなりますと、日米間においてもコミュニケはつくらないかもわからない。しかし記者会見はする。さように私は思いますので、それらの点をも考えながら、もっと国民が納得のいくような方法はないだろうか。それについて最善の方途を見出すべくさらに努力をするつもりでございます。
  193. 松下正寿

    松下正寿君 総理の御答弁伺って非常に安心したわけでありますが、やはり私は、何も政府批判するわけでもありませんが、少し表現がじょうず過ぎたんじゃないかという感じがするわけでありますが、たとえばこの前の佐藤・ニクソン会談の第八項なんかにつきましても、「核兵器に関する日本国民の特殊な感情」云々、それについて詳細に総理が説明した、「これに対し、大統領は、深い理解を示し、日米安保」と、これは別に文法が間違っておるわけじゃなくて、このとおりで非常にいい文章だと思うのですが、あんまりじょうず過ぎて、何か大事なものが隠されておるんじゃないだろうかというような疑いが出てくるわけです。私は今度——いま総理はどういう形かということをはっきりおっしゃらなかったし、また、おっしゃることが困難かと思いますが、今度何か声明なりその他の方法で意思表示をされる場合には、こういう名文でなく——名文がちょっと迷う文みたいな感じもするわけですが、ちょっとしろうとわかりにくい文章でなく、もっとずばっと、核がないのだということをしろうとわかりするような、はっきりした表現を使うことができないものか、その点をもう一ぺんひとつ確認しておきたいわけです。
  194. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 十分検討いたします。
  195. 松下正寿

    松下正寿君 では、核の問題はその程度にして終了いたします。  次に、佐藤・ニクソン会談の共同声明で「朝鮮半島に依然として緊張状態が存在する」云々ということばがございますが、こういう認識が今回の協定の背景の一つになっておったというふうに見られるわけであります。この佐藤・ニクソン共同声明以来だいぶ国際情勢は変わっておりますが、この朝鮮半島における緊張状態というものは、この当時といまと比べて大体同じようなものであるか、あるいは、もっと緊張を増したか、あるいは、もっと緩和されたでしょうか、どういう御認識であるかお伺いしたいと思います。
  196. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 朝鮮半島の事態は、この前のコミュニケを出したときよりも、いまのほうが緊張の状態にあると、かように私は認識しております。
  197. 松下正寿

    松下正寿君 まことに不幸な認識でございます。そういう認識が間違っておることを指摘をしておきます。  第三の質問は、これは軍事基地に関するもので、軍事基地についてはこの前総理にお伺いいたしましたが、私の質問がへたなためか、総理がじょうずに逃げられたのか、よくわかりませんが、何となくかみ合っていなかったようであります。  そこで、ちょっとことばをかえまして、佐藤・ニクソン共同声明において「復帰後は沖繩の局地防衛の責務は日本自体の防衛のための努力の一環として徐々にこれを負う」云々、こう書いてあるわけであります。こういう意味の声明が行なわれたわけでありますが、このことは復帰後の日本防衛つまり、防衛庁長官管轄下にある日本防衛というものが、これを日本自体の防衛のため、日本だけの防衛の一環としてこれを行なう。ところが、そうでない。沖繩における米軍の基地のほうは、これは日本自体の防衛以外の目的を有するものであるかどうか、その点をお伺いしたいと思います。
  198. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 沖繩における米軍は、返還後におきましては、日米安保条約に基づいて、地位協定の上に駐留をする、こういうことになるわけでございます。その任務は、日本防衛はもとより、いわゆる、安保地域ですね、極東条項ともいいますが、極東の安全、平和を保持する、こういう任務をもまた持つ、こういう性格のものでございます。
  199. 松下正寿

    松下正寿君 そういうお答えになるわけでありますが、つまり、日本の自衛隊の責務というものは、日本だけの防衛、それだけで十分ならば、これは安保条約は要らぬわけですな。それだけでは足りない。そこで、基地が存続しているという、その基地の使命というものは、日本防衛に間接には関係がありますが、日本の自衛隊以外の防衛ほんとうの任務というものは極東の安全保障、こういう意味になるわけであります。これはことばとしては何らさしつかえがないし、そのとおりだと思いますが、これは政府としてははっきりと言いにくい点かもわかりませんが、もっとはっきりいえば、日本防衛というのは、これははっきりした防衛的な立場で守っていく。日本本土を守っていくだけで、非常に簡単でありますが、そうでなくて、極東全体の平和、防衛あるいは安全保障ということになりますというと、攻撃ということも、これも必要である。場合によっては、敵の領土を——ほかの領土を占領するとか征服するとかいう意図がないにしても、やはり防衛上の必要から攻撃基地というような性格を、目的を持っていないというと、日米安保の目的を達することができない。そういうような意味になれば、やはり沖繩の軍事基地というものは政治的でないまでも、少なくとも軍事的には攻撃的な性格を持っているし、持つのが安保条約上当然であるという結論になりそうでありますが、その点、いかがでしょうか。
  200. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) いま松下さんのお話で、初めのほうのところは、少し私どもと違うのですが、わが日本の国土の防衛は、第一義的には、自衛隊が当たるのです。しかし、自衛隊だけでは十分でない。そこで、沖繩返還後の状態を考えますと、沖繩を含む日本国土に駐留する米軍がこれまた日本防衛のためにも働くわけです。しかし、わが国土に駐留する米軍は、これは日本の国土の防衛ばかりじゃなくって、いわゆる安全保障条約対象地域、いわゆる極東地域と、こういうふうにいわれておりますが、その安全並びに平和の維持のために働く、こういうことになる。日米安保条約は、これは国連憲章、これを尊重するというたてまえになっておりますので、そのわが日本に駐留するところの軍隊の行動の性格、これは国連憲章の定めるところによって行動する、こういうことに相なります。
  201. 松下正寿

    松下正寿君 非常に筋道の立った御答弁ですが、やはり一番重要な点には触れておらないような感じがいたします。むろん軍事基地は、日本基地沖繩基地、いずれも安保条約に基づく基地であって、その点は形式上同じでありますが、ただ私の言っているのは、そういう点でなくて、実質的に沖繩基地は明らかにこれは日本における軍事基地とは性格が違う。これは私は常識だと思うんです。もっとはっきりいえば、攻撃的な性質を持っておる。その点を認めるか認めないかという点なんです。そうでないんだということになれば、これはまた話が違いますが、日本本土における基地沖繩における基地とは違うんじゃないか、軍事的な意味で違いやしないか。
  202. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) そこは非常に根本的な問題ですが、私ども本土並みと、こう申しておりますのは、そこなんです。つまり、米軍がいままでは行動は自由なんです。どうしようが、これはアメリカの欲するままであります。しかしながら、一たびわが国返還されまする以上は、沖繩における駐留米軍の活動、これは安保条約によって制約を受ける、そういうことになります。安保条約はまた国連憲章のもとに立つ条約であります。したがいまして、攻撃的な性格は持たない、こういうことです。
  203. 松下正寿

    松下正寿君 ちょっと、率直にいいますというと、形式論みたいな感じがするわけで、国連憲章、これは平和的なものである、それに従って日米安保条約、これも平和的な性格のものである。したがいまして、軍事基地等も、これも攻撃的な性質を持っていない。これは三段論法としてはさっとうまくいっているわけですが、しかし、これは私がくどくど言うまでもなく、国連というものの実態が現在どうであるかということは、これは私から長々言うまでもなく、外務大臣、一番よく知っていらっしゃるわけです。非常に憂慮すべき状態にあることは確かであります。そういったような国際情勢をはっきりと認識しますというと、やはりまた沖繩の軍事基地というものの実態をよく知っていらっしゃる福田外務大臣でありますから、もっと率直に、あの基地なるものが、本土基地と、日米安保条約のもとにあるから形式上同じだというふうに片づけられないで、実質的に違うかどうか、ひとつはっきりしていただきたいと思います。
  204. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 非常に大事なところだと思いますが、法的地位は、本土沖繩、この駐留米軍につきましては全然差別はございませんです。ただ米軍の機能というか、米軍の極東全体に対する配置、そういうようなことから、あそこに密度が高いとか、あるいは、本土におけるよりは高性能の部隊があるとか、そういう問題はありますよ。ありますが、これはどこまでも防衛的のものである。たとえば、いまフィリピンの北のほうで何か海上において紛争の海戦が起こった、これはどうも沖繩に近いですから、あそこに火の粉かかぶりそうだという際に出動するというようなことはあります。ありまするけれども、あすこかり出かけて行って戦争をしかけるんだというような性格のもんじゃない。それは本土におきましてもまた全く同様でございます。
  205. 松下正寿

    松下正寿君 まだ話がちょっと食い違っておるんですが、私が言うのは、アメリカなりあるいはその同盟国なり日本なりが、日米安保条約をたてにして、よその国へのこのこと出かけて行って、征伐するかどうかというような、そういうようなことを推定しておるわけじゃないんです。私は、アメリカも、日本はむろんでありますけれども、領土的野心などはさらにないんだと、したがって、非常に平和国家であると私は信じておるわけであります。したがって、政治的な意味においての攻撃性というものはないと私は確信しております。ただ、そうでなくして、やはり日米安保条約が必要であるというその立場でありますから、その日米安保条約なるものは、日米の安全保障に対して危険な存在があるということが前提になっておるわけです。そういう危険がなければ、それは日米安保条約も必要がないわけであります。日米安保条約が必要であるということは、それを侵す可能性がどっかにある。その国がどこであるかは別としておいて、そういう事実があるという、このまことにきびしい現実を前提としておる。その際に、単に軍事的な意味においての防衛だけでは足りない。やはり若干の攻撃的なものがないというとほんとう戦争阻止力にならないという認識が現在の日米安保条約立場であると私は考えておるわけであります。これに賛成、反対は別であります。そういう立場であろうと私は考えておるわけであります。そういう意味においての攻撃性というものは、これは日米安保条約立場から結局は同じだ。法的には同じでありますけれども、量的に違いますというと、やはりそこで質が違ってくるんじゃないか。そのことを私はお伺いしておるわけであります。
  206. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 沖繩返還されますと、沖繩本土と一体となるわけです。この一体となった日本わが国防衛しなければならぬ、こういうことになります。そのために自衛隊というものがある。しかし、自衛隊は憲法の制約下にありまして、わが国防衛しかできない。ところが、わが国防衛というものは、わが国本土——沖繩を含む日本領域を防衛するだけじゃこれはほんとうに安全とは言えない。これは周辺が安全でなければわが国の安全は確保しがたい。そこで、日米安保条約を結びまして、アメリカにそういう広域な——わが国を含むわが国の周辺、わが国の足らざるところはもとよりこれを補う、しかし、さらにその周辺の地域に対しまして安全と平和を保障するという任務を負担していただく、こういうことでありまして、どこまでも、沖繩本土における米軍のさような任務というものには少しの違いもない、これはもうはっきり申し上げることができると思います。
  207. 松下正寿

    松下正寿君 だいぶ話が近くなってきましたが、また同じようなことを繰り返したくないのでありますけれども沖繩本土とは同じだというのは、やはり法的に見て同じだというだけであって、実質的に沖繩の軍事基地の重要性、安保体制全体における沖繩のウエートと、それから本土のウエートといいましょうか、それとは相当違うのじゃないかということを私は申し上げておるわけで、法的にはいずれも同じであることは間違いございませんが、そのウエートが違うのじゃないかということを申し上げておるわけです。防衛庁長官
  208. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) いろいろただいままでのお話のやりとりを承っておりました。なるほど沖繩米軍基地が相当強大なものであることは、これはだれしも認めるところであります。しかし、強大であるからといって、やはり施政権がわがほうに返ってくれば、いうところの本土並みの扱いで日米安全保障条約が適用されるわけですから、これはやはり国際信義に基づいて、米側が一々従来の日米安全保障条約の適用に反する行動に出るときは当然事前協議をしてこなければならぬ。そしてわれわれのほうは、日本の平和を確保する上に約得のできない点があれば、これは堂々とノーとも言えるわけですから、基地の大小によって必ずしも私はその危険度が高いということにはならぬと思うのです。やはりわがほうの心がまえ、そしてまた、当然本土に返った以上は、それがまあ本土並みという意味ですから、本土並み沖繩基地も取り扱っていく、話し合いをしていくということでなければならぬと思います。
  209. 松下正寿

    松下正寿君 非常にはっきりした御答弁でありますが、私の考えて質問しておったこととちょっと食い違っておるわけで、私は事前協議云々ということは、いま全然私の質問のうちになかったわけで、それを私いま問題にしているわけじゃないのです。よくそういうこと問題にされる方もあるのでこれは問題になり得ると思いますが、私は現在はそれを問題にしていない。したがって、事前協議の場合に、あらかじめイエスにきまっているかどうかといったようなことは、現在私は問題にしていない。私はイエスでもあるしノーでもあり得ると、こう思っております。その点、私いま問題にしているのではないのですが、私の言いたいことは、そういう点よりか、むしろこの基地のために非常なめんどうが起きているわけです。これが日本返還になりましても、基地があるから、あるがゆえにいろんな問題が起きて、これが十分に国民が納得しない。ことに沖繩の方がはなはだ不満であるということもよく理解できるわけです。これを私はいますぐ撤去しろ、これは少しむずかしい話だと思いますが、やはり若干のプログラムをおいて徐々にこれは撤去するような方法を講じなくちゃならぬのじゃないか。私はこれは野党であるから云々といったようなことでなくて、ほんとう日本のために、また沖繩の方々のためにそういうようなことを考えなくちゃならないのじゃないか。  ところが、さっきからしばしば申し上げておるように、日本本土基地沖繩基地とはやはり違うことは確かなんですね、これは。法的には違わない。しかしながら、実際実質的に違うことは確かです。それを純粋の意味においての本土並みにするにはどうしたらいいか。これはなかなかむずかしい問題だと思うのでありますが、私はそれでこの前の委員会のときに総理大臣に対して、私は日米安保条約を解消しろと言っておるわけじゃありませんが、国際情勢も変わりましたし、またアメリカ自体の世界、ことにアジアにおけるコミットメントも徐々に整理するという段階に立っておりますから、この機会に日本が率先して、まあ別に日米安保条約をやめてすぐ四カ国条約にしろといったような簡単なことはできないかもしれませんが、少なくともそのステップとして、核兵器の、まあ全廃までいけばけっこうでありますが、全廃までいかないにしても、少なくとも地下実験を含む実験の禁止という程度の提案をすることによって全体の国際情勢の緩和をすることができやしないか。そうなりますというと、日米安保条約というものに対するところの日本の近隣諸国の疑いというものもずっと減ってきやしないか。  昭和三十二年、私は岸首相の特使として、核実験禁止の要請にイギリスに参りました。その帰りにアメリカその他に私が行きまして、当時のダレス長官その他いろいろな方にお会いいたしました。そのときの私の言っていることは、ほとんど話にならない。こういう世界の有力な方々は「いや、君の言っていることは理想論で、そうなってくればけっこうだけれどもソ連」——その当時は中国は問題にされておらなかったわけでありますが——「ソ連とアメリカとが核実験の禁止の協定に達するといったようなことは、そんなことは夢物語だ」というのが、これがその当時の認認であります。私はそれほど悲観的になる必要はないのじゃないかと思いましたが、その後数年ならずして、モスコーで米・ソ・英・三カ国間の——地下はむろん含まれておりませんが——大気圏内の実験禁止の協定が結ばれ、現在それは守られておるわけです。日本もそれに参加している。そのように私は必ずしもそう悲観的に見ないでも、もうちょっと積極的に進むならば、私は一〇〇%の軍縮はできないまでも、その程度のことは努力しがいがあるのじゃないか。そうすることが、ちょっと大風おけ屋式の遠い結論になるかもわかりませんが、この基地問題の最終的解決として願わしいことじゃないかと思うわけでございます。関係大臣のお答えを願います。
  210. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) 御意見はよく傾聴いたしました。そうしてまた、ほんとうにそういう平和努力をしていくことは政府として必要だと思います。  それから、なお沖繩基地を今後どう縮小していくのか。これは総理はじめ外務大臣もしばしば申しておりますように、施政権が戻ってくればやはり果敢に私は不必要なものは返してもらいたいという交渉を展開していいと思うのです。大体軍人というものは、ああいう基地というものを持つということ、離したがらない習性が、そういう通有性が軍人にはあると思うのです。これは基地によって戦い、基地によって命を全うするというわけでありますから、この基地を軍人の習性としては離したがらないですね。したがって、政治的に施政権を返すという場合に、やはり私はアメリカの国務省にしても大統領にしても、国防省を説得する上にアメリカ自身においても多少十分手の行き届かないところがあるのではないか。これは私ども、施政権が日本に戻ればやはり本土並みということは、不必要なものが、沖繩だから余分にあっていいというわけのものではありませんし、また、これを認めることこそ不適当なわけでありまするから、十分私努力をしていけば戻る可能性はあるというように思います。  それから、きのうも政治論と前提して申し上げたわけですが、海洋博のことがあまり議論をされませんが、海洋博が、昭和五十年といえば、返還の時点から三年目なんです。しかも、これは国際法に基づく海洋博でありまするから、世界のあらゆる国々から観覧者が多数来てくれることを望むわけですね。そのときアメリカが極東介入の基地としてあそこに強大な基地を持っているということがはたしてどうなんだろうかと、いろいろそういうことを考え合わせてみましても、私は現実的にもっともっと基地を縮小することは可能な問題だというように思えてならない。したがって、そういう努力総理はじめ協力いたしまして十分いたしてまいりたいと思います。
  211. 松下正寿

    松下正寿君 いまの最後の防衛庁長官の御説明、それで満足いたしました。  次に、福田外務大臣に、少し根性の悪いような質問をいたしますが、一昨日でしたか、今度の協定の第四条の請求権の放棄の問題について佐々木委員からいろいろ御質問がありましたが、それに対して、請求権の放棄というものは、これは沖繩県民の方々のためを思ってやったのだということを、質問も何べんもありましたが、それに対する答弁でも、私ここで聞いておったんですが、終始一貫、県民のためにやったのだということを繰り返しておられるわけです。私はわきで聞いておりまして、何か少し恩着せがましいような感じが、率直にいってしたわけです。むろん、この結果として沖繩県民のためになるとは私は思いますが、またそうでなくちゃならぬと思いますが、そういうような点よりももっと根本的なことは、やはり日米交渉、沖繩返還協定というなかなかむずかしいことで政府も非常に御努力されたことと思いますが、交渉の一つのやり方として、やはり請求権を放棄したほうがこちら側からちゃんとはっきりと放棄の方針を明らかにしたほうが交渉がしよかった、また、たくさんこれには前例があるというようなことを……。ことに日本は、まあいますぐじゃありませんが、いわゆる旧敗戦国であったというような実情等も考慮して、で、かたがた、ここから来るところのその被害というものもそう大きくはないんだというような点をも考慮しておやりになったんじゃないかと思いますが、そうではなくて、沖繩県民のためにやったのだと、こう恩着せがましく出てこられますと、それなら一体われわれの承認を得たか、だれに相談したかというような議論をしたくなってくるわけです。私自身、佐々木委員といろいろな点で同じ意見かどうかわかりませんが、少なくともこの御答弁伺っておって、何となく恩着せがましいという感じがしたわけでありますが、もう一ぺんひとつ外務大臣、その点で御意見を伺いたいと思います。
  212. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 一昨日の私のお答えでそういう印象を持たれたかと思うんです。それは佐々木さんから、そういう請求権を放棄してひどいじゃないか、その人々の心を聞いてみたかと、こういうような筋のお尋ねが再三ありましたので、私も再三にわたって、結果としてこういうことになりますということをお答え申し上げたわけです。これは、この請求権の放棄というのは、いま松下さんのおっしゃるとおりです。二つあると思うのです。一つは、この返還の時点においてアメリカ日本の間の法的関係を明瞭にしておく、あとでトラブルが起こると、このことは昨日も申し上げたわけであります。しかし、これは再三再四申し上げたのじゃなくて、たしか一度申し上げたことかと思います。そのあとで、しかしながら、放棄はいたしまするけれども、放棄されたその一人一人の権利者につきましては、国内的に調査の上妥当な措置をとると、こういうことを申し上げたわけです。そうしますと、結果はどうなるかというと、請求権が残っておる。対米請求権が残っておるが、その一人一人の請求権者がアメリカ政府相手にして訴訟を起こす、これはたいへんなことだと思う。それよりは、放棄はされまするが、国内的に適正な措置がとられるというほうがむしろいわゆる請求権者に対しましては便利じゃあるまいかと、こういうことを申し上げたわけであります。私は二つのことを申し上げましたが、あとのことばかり申し上げておるわけじゃない。松下さんのおっしゃるとおりの二つのことを申し上げておる、こう御理解を願います。
  213. 松下正寿

    松下正寿君 それでわかって私も安心しましたが、ただ、もうちょっとこの点をはっきりしておかなくちゃならぬのじゃないかと思いますのは、これははっきりいえば、請求権放棄ということは外交保護権の放棄ということになるわけですね。ところで、全部外交交渉にまかせる、あるいは日本国民が、つまり被害者がアメリカの裁判所へ訴訟を起こす、提起するというようなことは、これはたいへんなことですから、まあ、そういうことをしないで済むように日本で肩がわりしてやると、こういう点はこれは親心であると言っても別にうそをついているとは言えないと思いますから、その点はそれ以上私は追求する必要はないと思いますが、ただ、こういうことはどうですか。外交保護権を放棄しないでも、つまり、対米請求権というものを放棄しないでも、同時に国内立法その他国内の措置で、別に訴訟など起こさないでも救済策があるのじゃないか。つまり、並行してやれるのじゃないかと思います。そうでなく請求権を放棄して日本が肩がわりしたほうが、放棄をしないで、しかも国内の措置をする場合よりももっと有利であるか、まあ得をするかという問題であります。その点はいかがでしょうか。
  214. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 外交交渉では大体そういうようなことはありません。たとえば奄美にいたしましても小笠原にいたしましても、一応返還時をもって線を引いているわけです。それはなぜかというと、日米間に法律関係がぐずぐずと残っておる、こういう状態を断ち切る。まあ、法的関係返還日を境にいたしまして明確にすると、こういう趣旨でございますが、まあ、そういう趣旨で奄美も小笠原もやっておるが、まあ観念的に、松下さんがおっしゃるような、そういう請求権はこれは生かしておいてというような考え方ですね、これが観念的に成り立たないとは私は考えません。そういう考え方もあり得るとは思いますが、観念的にはあり得るとは思いまするけれども、そういう状態がはたしてこれ妥当かどうか。一方において、アメリカとの間に債権債務の関係がごたごたしておる、そういう状態下において国内法的の措置、なかなかこれはとり方がむずかしゅうございます。そういうのはどうでしょうかと、こういうようなことで、とにかく一応日米間の債権債務の関係はもう断ち切ると、しかし、断ち切りはいたしますけれども、それに見合うところの措置は国内的に適正なものをいたしましょうと、このほうが実際的じゃないか、そういうようなことから奄美の場合も、小笠原の場合も、今度また沖繩の場合もそうすると、こういうふうにいたした次第でございます。
  215. 松下正寿

    松下正寿君 だいぶはっきりしてまいりましたが、つまり、私の言ったような二本立てはまあできないが、ちょっと複雑だし、あまり望ましくないというのでまあ一本立て、外交保護権を放棄して全部肩がわりした、そういうような御答弁と思います。  そこで、最後にもう一点だけ確かめてみたいと思いますが、この外交保護権を放棄しないで対米請求権を残しておきますというと手続上非常にめんどうくさいということ、これはもう常識で納得できるわけであります。しかし、そういう救済方法もあるわけですね。そこで、手続上の困難ということはこれは別としておいて、ちょっと私の議論は観念的になりますが、別としておいて、実質的に沖繩県民の実際上の利益——手続は別としても実際上の得られる利益というものと、それから日本が肩がわりした場合の利益と比べてみた場合に、あとのほうが日本国民にとってもっと有利であると言い得るわけでございますか。その理由をちょっと御説明願います。
  216. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 外交保護権を放棄して国内的において適正な措置をとるということのほうが、私は沖繩県民には有利と申しますか、親切な行き方であると、そういうふうに考えます。その理由いかんと、こういうことでありますが、対米請求権を行使する。それにはアメリカの裁判所に提訴しなければならぬ。これは手続上たいへんなことであり、提訴するとはいってみましても、実際上、ことば関係もある、あるいは弁護士を頼まなければならぬ、その費用の関係もある。そういうようなことで、実際上、私は金銭問題は克服できる場合におきましても、非常にこれは困難な問題じゃないか。また、アメリカのほうで一体法廷が請求権をほんとうに権利として認めるのか認めないのか、これもいろいろ問題があるところではあるまいか、そういうふうに考えます。まあ、そういうようなことを考えますと、そういう実際上効果のない訴訟をアメリカに対して提起するというよりは、まあ一応外交保護権は放棄されるけれども、国内的に適正な措置がとられるというほうが私は有利であると、そう考える、そういうわけであります。
  217. 松下正寿

    松下正寿君 私ははっきりとそういう外交保護権を行使するということはなかなかめんどうなことであるから、裁判を提起する、訴訟提起ということは困難なめんどうくさいことで費用がかかる——これは手続上のことであります。私は手続上のことは別として、裁判で勝った場合に得られる利益というものと、それから、そうでなく現在のように肩がわりした場合と、その実質的な両方の利益を比較してみた場合にどうかということをお伺いしているわけで、手続上のことは別になっておるわけでございます。
  218. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) それはアメリカの裁判所がどういう判決を下しますか、その判決を見ないと比較はできませんが、私の想像するところでは——これはどこまでも根拠はない、想像でございます。想像するところでは、アメリカの裁判所がそう味のある裁判をするであろうというふうな感じはいたしませんです。
  219. 松下正寿

    松下正寿君 これで、いまの点についての質問を終わりますが、私の感想をちょっと言いますというと、日本と比べると、アメリカの裁判所というのは、民事に関しては非常に原告に日本よりか有利になっていますから、日本じゃどうも民事の場合には被告に非常に有利であって原告には大体不利であるということ、これは常識であって、別に統計をとったわけでも何でもありませんが、私は手続上のことをこれを別とすれば、私はアメリカの裁判所に訴えを提起してもそれほど不利な結果にならないのじゃないかと思いますが、これも単なる想像にすぎませんから、この程度で終わることにします。
  220. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) ちょっと待ってください。お答えいたします。  今度、請求権条項によりまして、アメリカアメリカの法令に基づくもの、ま沖繩における布令に基づくもの、これはまあ補償をするということになっているんです。アメリカのほうじゃ、それ以外に私のほうは補償するものはちょっと見当たりませんよと、こういうふうに言っていることを根拠といたしまして、どうも味のいい裁判はなかろうと私は想像していると、こういうことでございます。
  221. 松下正寿

    松下正寿君 これもこの前総括質問のときにお伺いしたわけでありますが、裁判権の引き継ぎの問題であります。これについて法務大臣から御答弁を願いたいんでございますが、あるいは外務大臣、または法制局長官でもけっこうでございますが、裁判権の引き継ぎ、これについての私の意見はこの前申し上げましたから繰り返しませんが、これは実際上やむを得なかった、こうするのが一番混乱を防ぐやり方であったと、こういう御説明を私は一応納得しておりますが、ただ、この裁判権の引き継ぎから生ずるいろんな問題がたくさんあることは、これは間違いないことであります。その諸問題について政府がどのような処置をおとりになるか、ちょっと一般的な点でございますが、御答弁を願いたいと思います。
  222. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) これはまあ繰り返してお話ししてまいったわけでありますが、引き継ぎましたあとは再審なり恩赦ということによって十分私は救済ができる。率直に申しまして、いろいろ調べましたところでは、アメリカの裁判もそうむちゃな裁判をそんなにやっているわけじゃないんでありまして、したがいまして、よほどひどいものにつきましてはもちろん再審なりまた恩赦によって減軽なりいろんな措置を講ずることができると思います。したがって、それで十分であるということはいろいろ調査した結果でありまして、そう不都合を来たすことはないと、かように確信しておるわけでございます。
  223. 松下正寿

    松下正寿君 いま法務大臣から再審ということを言われたわけでありますが、それについて現在の日本の刑事訴訟法第四百三十五条に一号から七号まで再審についての規定があるわけでございまして、これに該当しないものは再審ができないわけであります。この一号から七号までをよく読んでみますというと、まあ一言でいえば、事実についての誤りがあったとはっきりしたものは誤審の場合、大体において誤審の場合だけですね、これは。そうでなく、沖繩の場合には法律の適用あるいは法律の解釈、あるいは日米間の法律上の解釈の差、そういうところから来る問題がたくさんあるんじゃないかと思います。そこで、この再審というようなことは、これはまあめったにやっちゃ困ることで、法の安定という点から見ても、なるべく制限をして、再審などのチャンスを少なくしたほうがいいことは間違いございませんが、したがって、この刑事訴訟法の規定というものは私はこれは変更すべきでないと思いますが、沖繩の場合は非常に特殊な事情でありますから、これについての再審の範囲というもの、あるいは申し立てによる再裁判というような形、その他いろんなことが考えられると思いますが、それについての法務大臣のお考えをお伺いしたいと思います。
  224. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 私は刑事訴訟法の再審の最終の号でありましたか、まあ新しい証拠とかいろいろあります。そういう点で見直しますと、かなり再審の適用を受けるものがあるんじゃないか。これは存外国内でも再審はかなりの件数にのぼっておるのであります。したがって、沖繩の場合には、いろいろ不都合な例をお話しになっておりますが、大体再審をやれば成立するんではなかろうかというような感じがいたしておるのであります。
  225. 松下正寿

    松下正寿君 再審をやれば、とおしゃいますが、再審はちょっと簡単にできるものでなくて、やはりどういう法規によって再審をするわけでありますか。
  226. 辻辰三郎

    政府委員(辻辰三郎君) 復帰後におきまして、復帰前の裁判の再審をいたしますのは、特別措置法案におきまして、復帰前の沖繩の確定裁判は日本の確定裁判とみなすと、同一の効力を持っておるという規定を置いておりまして、そうして一方また、沖繩のこの復帰後の手続につきましては日本の刑事訴訟法が適用されるという規定を設けております。したがいまして、復帰前の沖繩における確定裁判につきましては、日本の刑事訴訟法の再審条項によって再審手続が行なわれることになるわけでございます。
  227. 松下正寿

    松下正寿君 いや、そこが私まさにお伺いしておるところなんです。そうしますというと、日本の法律でいうとこれは刑事訴訟法の第四百三十五条以外にないと思いますが、これは一号から七号まで非常に厳重な制限がされておるわけであります。これだとほとんど救済、再審ということはできないんじゃないかと思うんですが、いかがでしょう。
  228. 辻辰三郎

    政府委員(辻辰三郎君) 先ほど来御指摘のとおり、この日本の刑訴法の再審条項が適用されるわけでございまして、この日本の刑事訴訟法の四百三十五条の特に六号でございます。で、これは先ほど法務大臣がお答えいたしましたように、新たに有罪の判決が無罪になるとか、あるいはさきに言い渡された罪よりも軽い罪を認めるべき証拠が新たにかつ明白に出てきた場合、こういう場合には再審を開始するという事由になっております。で、これを沖繩の裁判、特に数は少のうございますが、米民政府裁判の場合に当てはめますと、証拠の新規性、明白性という面におきまして、日本の刑訴、日本の確定裁判の場合よりも再審の事由に当たる場合が多くなるじゃなかろうかと、かような見通しでおります。
  229. 松下正寿

    松下正寿君 これはそう思う、いやそう思わないという、これは水かけ論みたいになって、実際まだ再審が行なわれていないわけでありますから何とでも言えると思いますが、私、最後に、これは質問じゃなくて希望だけ申し上げますというと、やはりこの一号から七号までをよく厳密に検討してみますというと、これはやはり日本本土の場合、ごく平常な場合にはこれでけっこうだと思いますが、沖繩のような特殊な場合にはちょっと厳密過ぎて、厳重過ぎて再審ということは実際上不可能になりはしないかというおそれを持っているわけであります。したがって私は、今後これは条約関係なく、国内法になるわけでありますから、まあ申し立てによる再裁判、それから日本の法令の規定のない罪については公訴を提起された者を免訴とするとか、そのようないろいろな特別な措置が必要じゃないかと思いますが、この点、法務大臣にいま即答をお願いはいたしませんが、こういう点を十分に考慮していただくことをお願いして私の第三項を終わります。  あと四分きり残っておりませんが、非常に子供みたいな質問みたいにお考えになるかもわかりませんが、したがって、私のこれからお伺いすることが全く無用であれば非常にけっこうであると思いますが、まあ、いままでも国際関係でこういうことがなかったことではない、まあ、場合によっては非常に大きな問題になったこともありますからお伺いするわけでありますが、この協定では最後に「千九百七十一年六月十七日に東京及びワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した」と、いずれも正文であると。昔の条約などを見ますというと、英語を正文にするとか、あるいはフランス語を正文にするとかいうようになっておったわけであります。で、まあこんなことをされては日本にとって国辱ですから、と言って日本語を正文にするというのじゃ、アメリカのほうが言うことを聞かぬでしょうから、こういう取りきめは私はけっこうであるし、現在の慣例になっております。  ただ、こういうことから来る一つの不便は、ここで解釈の差が出た場合にどうするか。われわれ日本の側ではこれは日本語でこういうふうに思うと、アメリカ側では、いやこれは英語ではこういうふうに考えるというようなことになった場合にどういうことになるか。ちょっとその点、お伺いしたいと思います。これは外務大臣あるいは条約局長に。
  230. 井川克一

    政府委員(井川克一君) 先生御指摘のごとく、まさしく日英両文がこの正文となっております。もちろん私どもといたしましては、またアメリカ側の事務の方々ときわめて密接な連絡のもとに、この日英両国語につきましていささかもそごのないように大いに努力したつもりでございます。そしてこの協定の結果といたしまして、この日英両国語がともに正文であるということになり、その正文であるということを日米両国政府で確認したわけでございます。  しからば、いま先生のおっしゃいましたように、日英両国語にその理論的可能性としてそごがあるときにどういう解釈になるかということでございまするけれども、まさしくこの日英両国文がテキストでございますので、それが正文でございますので、いずれかのことばが優先するということはございません。そしてその場合に、日本側は日本語のテキストによって解釈をし、アメリカ側は英語のテキストによって解釈するということもございません。これは両国語とも正文でございます。したがいまして、日本側は、たとえば英語による解釈を主張することもできますし、日本語による解釈を主張することもできます。アメリカ側もまた逆の意味において同様でございます。このように、一言で申しまして日英両国語の間にテキストとしての、公文としての優越性というものがないわけでございます。
  231. 松下正寿

    松下正寿君 私もそのとおりだと思いますが、ただ、そこで、私はこの日英両文を全部非常にこまかく検討したわけじゃありませんが、たとえばこれはちょっと私だらだらっと見てちょっと頭に浮かんで、少しどうかなと思いましたのは、たとえば第五条の第一項でありますが、これは公序良俗に関することです。公の秩序、善良なる風俗ということ、これはもう日本の民法で非常にはっきりした意味を持っておるわけです。ところが、おそらく世界の法律のうちで日本のこの公序良俗ほど確立された原則はないんじゃないかと思われるくらい、非常にはっきりしておるわけであります。これは英語のほうで見ますというと、公序良俗に反しないということを、ノット・ビー・コントラリー・ツー・パブリック・ポリシー、これは辞書を引いてみてもこのとおり訳されておりますし、私は決してこれはどっちが原文どっちが翻訳というわけではないが、だれが見ても、こういうように英語から日本語に翻訳しても、日本語から英語に翻訳してもこうならざるを得ないと思うのですが、ただ、日本の民法における公序良俗は非常にはっきりした概念を持っている。その間に学者の意見の差というものは、まあ、ないことはありませんが、非常に少ないわけであります。ただ日本は、大体大陸法系統でありますから非常にはっきりしておりますが、英米では、このごろパブリック・ポリシーということばは、昔は使いましたが、あまり使っていないんですね。そこでパブリック・ポリシーということばを使うかわりに、いろいろなもっと個々の法律を適用して、もうあいまいなことばは使わないように非常に努力しておる傾向がいま見えるわけであります。で、そうしますというと、将来このことばから向こうのあいまいな、どちらかというと、あまり使いたがらないことばから誤解が生じはしないかということがちょっと心配になるわけです。それから、ついででありますが、その第二項のほうに「実質的な権利」ということが出ておるわけですが、それが英語のほうではアフェクティング・ザ・サブスタンティブ・ライツ、私はうっかりとこれはサブスタンシャル・ライツと見たのですが、よく見るとサブスタンティブと書いてあるわけで、サブスタンティブといいますというと、つまり「実質的」には違いないでしょうが、どちらかというと実体法的な権利——まあ手続上の、あるいは副次的な権利でなくして、実体法上の権利という意味であることは御承知のとおりであります。それを日本語で「実質的」といいますというと、何か形式的な名前ばかりの権利でなくて、もっと実際上の利益になるような権利というふうに、われわれはそういうふうに常識的に見るわけであります。ところがサブスタンディブというような英語を向こうの人が見ますというと、まあ実体法上の権利というふうに私はとるのではないかと思います。  ちょっと時間が過ぎましたから、その点を簡単に御答弁を願いまして、私の質問を終わります。
  232. 井川克一

    政府委員(井川克一君) その条約のテキストをつくりますときに、これは英語でつくってそれを日本語に翻訳するとか、日本語でつくって英語に翻訳するとかいうことでは、御承知のとおり、ないのでございます。この場合におきましても、ことにこの五条の問題につきましては、私どももわからないところが非常に多くあるわけでございます。したがいまして、法務省の民事の専門家、刑事の専門家、そしてアメリカからも来ておりました専門家が突き合わせまして、そして具体的な内容について合意を見たわけでございます。そして、その具体的内容日本の法令に当てはめますとどういうことばになるか、アメリカの法令へ当てはめますとどういうことばになるかということでお互いに使ったわけでございまして、したがいまして、その具体的内容について意見の一致がまず前提としてあって、そしてそれをいかにおのおののことばで、しかも専門語として表現するかということに非常に気をつかいましたものでございますから、私は、それはことに専門家同士の詰め合わせを経ておりますので、先生の御心配くださるようなことはあり得ないとかたく信じております。
  233. 安井謙

    委員長安井謙君) 以上で松下君の質疑は終わりました。(拍手)     —————————————
  234. 安井謙

    委員長安井謙君) 次に春日正一君の質疑を行ないます。  春日正一君。(拍手)
  235. 春日正一

    ○春日正一君 通告した質問に入る前に、通告はしてなかったんですけれども、非常に単純明快な問題ですから一つ質問さしていただきます。  わが党の松本善明議員が衆議院の予算委員会でCSG——陸軍混成サービス・グループについて質問しようとしたときに、とたんに福田外務大臣が、これは七二年七月一日までに撤去するというアメリカ側からの通知があったんだと、たぶん十分前ぐらいだと思いますけれども、まあそういうことがあったんですけれども、そうしますと、撤去したあとは空白になるわけですから、当然基地リストA表七十一に載せられておる地域というものは復帰のときには返還されるものだと、こう思いますけれども、その点どうですか。
  236. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) CSGは七月一日ごろまでに撤去されるということになっておりますが、そのあと地につきましては、まだ私どういうふうになったか承知しておりませんですが、そのことですか。
  237. 春日正一

    ○春日正一君 そこのところです。
  238. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) じゃあ政府委員からお答えいたさせます。
  239. 吉野文六

    政府委員(吉野文六君) A表七十一、知念補給地区に陸軍混成サービス群がいまおるわけでございますが、このあと地はほかの部隊が使うと、こういうことを先方は同時に発表しております。御存じのとおり、われわれにとっては沖繩は非常に基地が多過ぎると、そういうことをしょっちゅう言っておるわけですが、米側にすれば、まだこれでも狭過ぎると、そこであと地も使えるものは使うと、こういうことを言っておるわけです。知念補給地区につきましても、先方はまだ解放しないと、こういうことを言っております。
  240. 春日正一

    ○春日正一君 アメリカが必要だと言うんで、協定の調印時には提供するということであのリストがつくられたわけですね。だから、それが要らなくなったと言ってくれば、当然提供する根拠がなくなるわけですから、これは自動的にでももう戻ってこなければならぬ道理のものだと思います。それなのに、アメリカ側から別な用途に使うと言ってきたからといって、この七十一をそのままにしておくということになると、調印時と違った事態が起こってきたのにそのままにしておくということになるのじゃないか。特に防衛庁長官、先ほど松下委員質問に対して、基地はできるだけ小さくしなければならぬし、ということを盛んに強調しておられたけれども、その立場からいってもいいチャンスじゃないですか、要らなくなったと言うんだから、返してくれと、こう言うのは。この談判をおやりになって、七十一は七月一日までには取り戻すということになさるのか、それともアメリカが要ると言ったからそのままずるずる許すというのか、そこの点をお聞きしたいんですが。
  241. 吉野文六

    政府委員(吉野文六君) 一般論といたしまして、これらの基地は、そこにおる部隊のために提供するものではなくて、一般的に沖繩に駐留する米軍に提供すると、こういうことになっておるわけでございます。もちろん先生の御主張はよくわかりますし、われわれも同じように考えてずっといままで交渉してきたわけでございます。また、今後もそのような趣旨で交渉をいたしたいと思います。しかしながら、何ぶん、いままでのところ米側は、ともかく基地が十分でない。彼らとしても部隊を入れかえたりしてフルに使っておる。したがって、知念補給地区はいまのところ返せない、これがこの問題に関する回答でございました。
  242. 春日正一

    ○春日正一君 ちょっとまたおかしくなってきたんですけれどもね、基地は、そうすると一定の面積をアメリカに提供するということで、何の部隊がおるとか、何に使うということは全然限定されてないと、アメリカが自由に、それこそ日本に相談なしに基地の中身を入れかえるということができるということになるのかどうか。地位協定の二十五条では、基地の提供については、やはりそれぞれの固々の具体の基地についてやはり合意事項をつくって提供するということになっておるはずじゃないですか。そうすると、A表七十一に出ておるCSGはCSGとして、面積から、そこにどういう部隊がおるということまで確認して、それで提供するということが合意されたと、本来ならば、これはされる。七月一日にかりに返るとするか、あるいは五月一日になるかともかくとして、その返る時点で一つ一つの基地について地位協定二十五条に基づいて取りきめをしていくというのが安保条約の趣旨なんで、そういう意味からいえば、いまからそれをきめてA表といって出してくるのは少し早いんだけれども、しかし、それにしても、そうやってできたA表を、要らなくなったと言ったが、また別に使いますと言ったからそのままにしておきますということは、これはそういう協定上の解釈から見てもおかしいんじゃないか。そういうことをされたら日本の国、何をされるかわからない。その辺、どうですか。
  243. 吉野文六

    政府委員(吉野文六君) まさに先生の言われたとおり、われわれもこれらのA表の基地を向こうに提供するにつきましては、この地域をどの部隊が、どういう目的に使うか、どの範囲で使うか、こういうことをはっきり確認いたしまして合意に入るわけでございます。しかしながら、御存じのとおり米側はC表に掲げてある地区を解放するわけでありますが、   〔委員長退席、理事西田信一君着席〕 それからB表に書いてある地区もそれぞれの条件によって解放する。したがって、彼らとしては、これだけの土地を実はわれわれの要求に従って解放し、あるいは、したんだと、そこで彼らとしては基地が足りないんだと、そこで、これらの地区から解放のためにわがほうに返した基地の部隊をこれから先方がこちらのほうに回していくんだ、こういうことを先方は言っておるわけでございます。で、実際問題といたしまして、提供の際にもう一回、いかなる部隊が必要であり、十分な施設を持っておるかどうか、こういうことはわれわれも確認して合意をするわけでございますが、実情は先ほど申し上げましたとおり、そういうことでございます。
  244. 春日正一

    ○春日正一君 そうすると、何の部隊が来るということはまだはっきり言ってこない、ただあと地は使うからということだけ言ってきているということですか。  そこで聞きますけれども、さっきあなたも言われたけれどもアメリカ側の言い分を取り次いだんだろうと思いますけれども、とにかくC表に載せられた基地、あるいはB表に載せられた基地は返すんだから、ずいぶん狭くなっているんだから、だからまだほかに使いたいんだという言い分を持ってくると言いますけれども、C表に載せられた基地というものは全体から見れば幾らでもないでしょう。しかも、いままで訓練場とされておった、基地でない扱いを受けておったものまで今度はA表の中に取り入れておるという意味からいえば、逆に基地がふえておるとさえいわれておる。そういう状態のもとでアメリカは、それは先ほどの話にもあったように、軍人というものは、広いにこしたことはないから、そうしたいと思うだろうけれども、少なくとも日本政府なり国民立場からすれば、広過ぎるんだから、しかも、沖繩県の経済建設のためからいっても、基地があるために、実際いって、沖繩の経済建設というものは非常に困難になるし、ゆがめられると思う。そういう意味で、総理大臣も、将来にわたってできるだけたくさん返すように努力すると言っておられる。山中長官、腕を組んで渋い顔をしてますわ。だから、そういう意味から見れば、どうしても返さなきゃならぬし、現にこの基地については琉球政府の企画局がまとめた「軍用地等軍用施設転用の基本的考え方」というものの中で、一万四千百平米のCSG基地を保健休養のための自然緑地に転用する計画を持っておるというふうに報じられております。そういうふうに、地元では、それが廃止されるからこれを何に使おうということまで考えて、そうしてこれが返ってくることを希望しておるということを考えたら、これはやはり厳重に交渉して取り返すべきだ、そういうふうに思いますよ。そこで、この点はやはり外務大臣ですか、総理ですか、直接の担当の大臣から決意のほどを聞かしてほしいと思うんです。取り返すというのか、しかたがないというのか。
  245. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 十分事情を検討し、適正な結論を得たい、かように存じます。
  246. 春日正一

    ○春日正一君 私、主として請求権の問題をお聞きしたいと思います。大体アメリカ基地に対してこれがどう扱われるか、それから、長年にわたってアメリカの軍事占領下で被害を受けてきた沖繩県民の請求権がどのように扱われるか、このことで沖繩協定の性格というものが規定づけられると思う。そういう意味で、この請求権の問題というのは、内容の問題と同時に、これをどう扱うかという態度、これが非常に大事な問題になってくると思います。  そこで、そこに入る前に、これは総理に非常に簡単な質問ですけれども、お聞きしたいんですけれども総理衆議院協定特別委員会で、沖繩の米軍の行為には不当不法なものがあったということをお認めになるような発言をされていますけれども、どういう点に不当不法があったと考えておいでですか、その点からお聞きしたいと思います。
  247. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 野党の諸君からいろいろ指摘しながら私に質問をされました。これが一つの問題であります。同時にまた、私は瀬長君の書いた本も読ましていただきました。これなどを見ますると、土地の取得についてもずいぶん乱暴なことをしている。これがよし戦争の続きとはいっても、いかにも沖繩の方々はたいへんだった、かように思います。その他の裁判になりましても、当然の保護が行なわれてしかるべきだと思うような自動車事故等におきましても、どうも通行人が自動車を妨害したと、こういうようなことまで言われておる。ずいぶん気の毒な状態だったと、かように私は思います。   〔理事西田信一君退席、委員長着席〕
  248. 春日正一

    ○春日正一君 もう一つ、やはり同じ委員会で、たいへん不愉快な布令もあった、こう述べておられるけれども、これは大体どういうものについて言われたのか聞かせていただきたいのですが。たいへん不愉快な布令もあった、というふうに言っておいでになるのですね、どういう点についてそれを言われたのか。
  249. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) ただいまのような点は、不当不法というばかりでもなく、やはり不愉快な問題でもあります。
  250. 春日正一

    ○春日正一君 それで、そういう不当不法な行為とか、あるいは不愉快な布令というものについて、政府は今度の国会になって瀬長さんのああいうものをお読みになったとか、各委員からいろいろ具体的な事実があげられたとかということで認識を新たにされたということはあると思いますけれども、しかし、その前にも、土地の取り上げの問題であるとか、あるいは人身傷害の問題であるとか、非常に不法なことがやられておった。そういうことに対して抗議をされてきたことがありますか。
  251. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これはずいぶん抗議しております。ごく最近におきましても、総理の名におきまして、アメリカ政府に米兵による犯罪問題に対する警告といいますか、抗議といいますか、注意を喚起している。もうずいぶんこのことをやっているわけです。
  252. 春日正一

    ○春日正一君 それで本論に入りますけれども、瀬長議員が昨年十二月の十八日に「沖繩問題に関する質問主意書」というのを提出しております。それに対して政府がことし一月二十六日に出した答弁書では、総理は「米軍人、軍属の犯罪による被害者に対する損害賠償は、沖繩の施政権者たる米国政府がその責任において公正に処理すべきことである」と、はっきりアメリカが公正に処理しなければならぬということを答弁しておられます。  そこで、四分の一世紀にわたるアメリカの軍政下で沖繩県民がこうむったさまざまな被害について、これはわずか数時間の国会の審議の中で言い尽くせるものではありませんけれども、しかし、総理は、沖繩県民の被害に対する賠償が公正に処理されてきたと思いますか、どうですか。
  253. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) アメリカ側におきましては公正に処理されたと、こういう見解をとっておるんですが、しかし一面、沖繩県民の間には不平不満がずいぶんあると、こういうのが実態であります。
  254. 春日正一

    ○春日正一君 私はその客観的事実を聞いておるんじゃなくて、総理はそれを公正と思っておるのかと、主観的に。それをお聞きしたんです。外務大臣かわってお答えになるならそれでもよろしいけれども、そこのところ、政府として公正に行なわれてきたと言えるのかどうか、そこをお聞きしているんですわ。
  255. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 何せ、いま施政権はアメリカにあるわけです。法的状態は、これはアメリカとの間に生ずるわけです。その法的関係については、アメリカは、公正に処理したと、そういう見解をとっておると、こういうことを申し上げておるのです。ただ、今度は実態問題としてどうなるかといいますると、これはずいぶん県民の間に不平不満があると、こういう認識を持っております。
  256. 春日正一

    ○春日正一君 話に入る前提として確かめておきますけれども、サンフランシスコ条約三条のもとにある沖繩で、あそこの県民に対して日本政府として当然外交保護権を持っておるわけでしょう。その点はっきり。それが前提になりますよ。
  257. 井川克一

    政府委員(井川克一君) これを外交保護権と言うべきかどうかということばづかいの問題につきましては、ともかくああいうふうな先例が非常にない場合でありますので、外交保護権と申しますのは、通常、外国に住んでいる邦人の保護、そういうふうなときに使いますので、ことばづかいの問題は別といたしまして、あそこにおられる方が日本人であり、あそこに施政に当たっているのがアメリカであるというたてまえから、わが国としては適正な措置ということを要求し得る立場にあるということは言えると思います。
  258. 春日正一

    ○春日正一君 そうすると、結局、外国に住んでおる日本国民に対して外交保護権があるというなら、まあ潜在主権ということばで言われておるけれども日本の本来領土である、外国よりももっとわれわれの権利の大きいものの上に住んでおる国民を保護するという点では、むしろ一般にいわれる外交保護権よりももっと強いものがあるんだと、こう理解していいですね。
  259. 井川克一

    政府委員(井川克一君) そこのところはちょっとそう断言できますかどうか、私自身、自信を持っておりません。なぜかと申しますと、この施政権——三権というものは一般的なる主権行為の、普通にいわれまする主権行為の全体をさしているわけでございます。しかし、確かに先生がおっしゃいましたように潜在主権を持っている。しかも、あそこの領土は日本であるという特殊の事情も考慮されなければならないと思いますけれども、ただ、普通の場合の主権行為全体というものが、普通の場合において施政権として委譲されておりますので、したがいまして、必ず今度の場合のほうが強いという断言はなかなかいたしかねるのではないかと私は思います。
  260. 春日正一

    ○春日正一君 それでは、最低限、外国並みの外交保護権はあると、そういうことだと思います。私はそんな答弁のしかたでは困ると思うんだけれども日本条約局長が、日本の国の国民を保護するのにどういうものがあるかというようなことをはっきり知らぬで条約を結ばれておったんじゃやりきれるものじゃない。だから、あなたは、潜在主権という条件があるからもっと強くなるかと言ったら、そこは強くなるとは断言できないと言われたけれども、少なくとも外国並みのものはあると、それは否定できないと、こういうことでしょう。
  261. 井川克一

    政府委員(井川克一君) 先ほど来御答弁申し上げておりますように、それを国際上の外交保護権と言うかどうかは別にして、そのような保護する私たちは権利を持っているということを先ほど来申し上げているわけでございます。
  262. 春日正一

    ○春日正一君 くどいこと言うようだけれども、そうすると、外交保護権というものはないと言うんですか、あるかないかわからぬと言うんですか、どう言うんですか。
  263. 井川克一

    政府委員(井川克一君) 一番先、冒頭に私申し上げたと思いますけれども、外交保護権ということばの問題は、これは国際法上の一つのテクニカリティの問題でございます。したがいまして、この施政権下にあるという特殊の事態におきまして、それを外交保護権と呼ぶか呼ばないか、用語としての適切性は別としてと、しかしながら、あそこに、アメリカの施政権下にある日本人に対する保護権というもの、それを外交保護権と呼ぶかどうか、その用語の適切性は別にいたしまして、そのようなことがわが国としてはできる、こう申し上げたつもりでございます。
  264. 春日正一

    ○春日正一君 その問題、だいぶ大事な問題だけれども、ここらで保留をしておいて次にいきます。  そこで、実例を申しますと、琉球政府の法務局の資料で例の死亡事故の賠償の実例を言いますと、一九六六年五月十九日に発生した事件——米軍の空中給油機が墜落して勢水一雄さんという五十の方が死亡された。これの賠償請求額が五万八千四十二ドル七十七セント。ところが、約八カ月かかってきまった賠償額は一万四千百二十五ドル。こういうことになっております。それから一九六六年の十二月三日に発生した事件——コザ市のキャバレー経営者である我喜屋良元さん四十五歳が米兵に刺し殺された。この賠償請求額が十六万九千三百九十七ドル。これに対して約四カ月後に一万四千二百ドルの賠償が支払われたにすぎない。こういうようなことになっております。全体として見て、一九六五年から六八年の人身事故について、琉球政府の法務局のまとめたものによりますと、件数で八十件、請求額が五十九万一千二百三十三ドルに対して、解決したのは六十二件、賠償総額は九万九千七百五十一ドル。請求額に対して一七%ですね。そういうふうになっております。これで公正な解決と言えますか。これについてどういうふうに考えます。
  265. 井川克一

    政府委員(井川克一君) 先ほど外務大臣が御答弁申し上げましたように、このような事件につきましては、これはアメリカにおきまして外賠法の規定がございまして、アメリカ側といたしましては、これを適正に運用しているということを申しておると、こういうことを外務大臣がおっしゃいました。ただ、外務大臣はまた続けられまして、その一々の事案につきまして不平不満を持っておられる方も担当多いということを言われたことでございます。私どもも、一々の事案につきまして、これが公正であるとか公正でないとかいう知識を持っておりませんし、また、一々の事案につきましてアメリカ側を弁護する考えは毛頭ございません。
  266. 春日正一

    ○春日正一君 それじゃ国民を保護する政府の任務を果たしてないじゃないですか。何をされても知らぬというような……。  そこで、ついでですけれども、損害賠償については、それに関係する事件の判決が公正であるかどうかということも非常に大きな影響を与えるものだと思います。たとえば糸満町の金城さんがひき殺された事件、この事件では加害者が無罪になっております。これ自体、日本人として、また人道上から考えても許せないことですけれども、同時に、加害者が無罪ということになれば被害者のほうに落ち度があったということになるわけですから、当然金城さんの賠償額にも影響してくるということになるわけです。したがって、人身事故に対する損害の賠償というものは、加害者の裁判の判決についても再検討しなければ、そういう判決の結果、落ち度があったということで賠償が十分もらえなかったということもたくさんあり得るわけですから。ところが、瀬長議員がこの金城さん轢殺事件に対するアメリカの軍法会議の無罪判決を取り上げて、この判決に抗議する意思があるかどうかという質問したのに対して、政府としては、沖繩の施政権者たる米側の沖繩における個々の裁判につき、当、不当を指摘してやり直しを求めたりする立場にないと言って、抗議の意思すらないことを明らかしたわけですけれども、これでは金城さんが日本政府から保護されたということにはならないのじゃないか。その場合、金城さんをどうして日本政府は保護されるのか、そこらを聞きたいと思います。
  267. 井川克一

    政府委員(井川克一君) この糸満事件の刑事事件と、その後、その民事の賠償の問題は別でございますということは御存じのとおりだと思います。私の手元にあります書類によりますると、非常に気の毒でございました金城さんの事件につきましては、被害者の夫の金城英一氏より米側に対し、外国人賠償法により一万七千二百九十一ドル三十九セントの請求が行なわれていたところ、七月二十七日、米海軍は被害者の夫に対し、休業補償の請求を七十八ドル八十二セントに減額したほかは、他の請求を全部認めて一万七千七十四ドル五十三セントを支払って、民事的な問題としましては、本件は最終的に解決したというふうに承知いたしております。
  268. 春日正一

    ○春日正一君 そこで、さっき外国人賠償法でこの人身傷害を処理されておるというふうに言われたのですけれども、この賠償法を見てみますと、第一条の目的のところで、外国において発生した米軍関係の相当な損害賠償請求権を迅速に解決することによって、外国居住者と米国との間に親善関係の維持を促進するというようなことで、目的として、被害者の救済がアメリカとの関係を維持促進するというようなふうにされている。政治的な一つの恩恵を与えるというような立場からこれが処理されるものになっております。そういうものであって、特に問題になるのは、この法律をずっと読んでみますと、これは被害者の権利として損害が賠償されるのではなくて、米軍の一方的な査定によってそれがきめられる。しかも、賠償金の内訳や根拠、どうしてそうきめられたかということについては示されていないし、再交渉する道も開かれていない。すぱっときめられちまうというようなことになっておる。そうして、この賠償法の運営が知らされてないために、早く解決してもらいたいと思えば、みすみす低い金額で示談することをしいられる。示談書に判こを押さされるために、裁判にも持ち込めず、異議の申し立て権も認められない、こういうふうなことになっております。ここにそのあれがありますけれども、外国人賠償法にいうのは、法律のほうでは「提供する賠償金額が十分満足して受領されない限り……損害賠償の支払をしてはならない」と、つまり、これで満足しましたって言わなければ払わぬというのですね。しかも、この請求書のほうには、私は本請求のこの額を、十分な満足と最終的解決として受領することに同意しますと書いて、これに判こを押さされる。だから、これはもうどうにもならぬですね。そういうことが一方的にやられる。しかも、一つの事件で一万五千ドル以上のものはアメリカ連邦議会の承認を要すると、これは個別にこれを支出するという法律をつくることらしいんですけれども、そういうことになるために、一万五千ドル以上のものは実際上はめんどうくさくてとてもできぬと、実現不可能だということであきらめられてしまうというようなことになっておる。  それともう一つ大事な問題は、この賠償の請求者が、親米的であると認められて決定を受けたときに限って支払われるということがこの法律の中には書いてある。そうなると、この外国人損害賠償法というものは、アメリカが一方的に恩恵的にくれるもので、被害を受けた県民が権利としてこれを主張し、そうしてこれを受け取るということはできない筋の問題じゃないのか、こういう法律で処理されるということでそのままほっといていいのか、そこのところをお聞きしたい。これはもう局長じゃなくて、政策問題ですから大臣答えてください。
  269. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) だんだん承っておりましたが、そういう事例があります場合は、施政権がこちらに移れば、防衛施設庁が土地等の契約のためにいま概算要求でお願いしておりまするのは七百四十九人という数字なわけです。そこの中の相当数をさいてそういういろんな適切な措置をとる事務を取り扱わせるわけですが、したがって協定の四条二項による米軍が補償をするもの、それについて、そういう不当な取り扱いがあれば、その職員が実態について相談相手になって米側の職員に対して要求をするとか折衝をするとか、これはもうこちらに施政権が移ればそういう現実処理でやっていくことになっておるわけです。御安心願いたいと思います。
  270. 春日正一

    ○春日正一君 こういう、いま私の読んだような人身事故の賠償だけでなくて、土地の取り上げ、家屋の破壊、私有財産の没収というものについてもこれは無数に例があるわけですね。私、瀬長さんの本、ここに持ってきていますけれども、とにかく、せっかくつくったばっかりの家をこわされたとか、あるいは火をつけて焼かれたとか、自分の土地にくいを打たれるから嘆願に行ったら、ぐるぐる巻きにして監獄にほうり込まれたとか、非常な不当なことがたくさんやられておる。政府は、アメリカ軍による土地、家屋、私有財産の没収は正当な代価を支払っておるからヘーグの陸戦法規に違反しないと、こういうようなふうに言っておりますけれども、住民の承諾なしに、あるいは命がけの反対も踏みにじって農地や家屋も破壊したり、そうして軍事基地として取り上げるというようなことがサンフランシスコ条約三条のもとで許されることかどうか、この点、ひとつ確かめてかかりたいと思いますす。
  271. 井川克一

    政府委員(井川克一君) 申しわけございませんけれども、先ほど御指摘の点につきまして一言申し上げたいと思います。  それは、先生は、親米的な人間にしか払わないということをおっしゃいましたけれども、この外国人損害賠償法のこれは(2)の2をごらんくださいますと、「アメリカ合衆国の交戦国又はその同盟国の国民の場合は、損害賠償の請求者が、損害賠償委員会又は現地軍司令官により親米的であると決定された場合」でございまして、これは交戦、つまり相手と戦っていて——御存じのとおり、この外国人賠償法と申しますのは沖繩だけに適用がある法律ではございません。アメリカの占領地とかその他のところに、アメリカ軍隊がいるところに適用される法律でございます。そして、それがたとえばまだ占領軍としている状態の場合に、こういうのを言うのでございまして、先日も私申し上げた記憶がございますが、いわゆるビートラー書簡というものがございまして、沖繩につきましては、講和条約発効後はもちろんこの規定でなくなるわけでございまして、したがいまして、全部の琉球の方に適用があるのは、この法律からいたしましても、また、それを確認いたしましたビートラー書簡からいたしましても、当然のことでございます。
  272. 春日正一

    ○春日正一君 それで、答弁しないのかな、それだけで。ぼくはもっと先を聞いたんだけれども、サ条約三条のもとでこういう乱暴が許されるのかと。余分なことを答えたら飛んで行っちまった。どうにもならぬな。これは。つまりですね、政府は、米軍による土地、家屋、私有財産の没収は正当な代価を支払っているからヘーグの陸戦法規に違反しないと言っているが、住民の承諾なしに、あるいは命がけの反対も踏みにじって農地や家屋を破壊し軍事基地として取り上げることがサンフランシスコ条約三条のもとで許されることかどうか。
  273. 井川克一

    政府委員(井川克一君) たいへん失礼いたしました。先ほどの件をちょっと自分で書類を見ておりましたので……。  平和条約三条で許される行為かどうかということをおっしゃいましたけれども、そのもろもろの行為がまず第一にいつ起こったかということが、ヘーグ陸戦法規とおっしゃいますと、これは占領中のことではなかろうかと思うわけでございます。占領中の行為に、やはり先ほど申し上げましたように、私、一々の事件につきましてアメリカ軍の行為を弁護するつもりは毛頭ないということを申し上げました。そのような行為があったと思います。あり得たと思います。そして、それらのことは、占領中につきましては平和条約第十九条によって一応の解決が済んでいると、そしてそれにつきまして、アメリカの措置といたしましては、布令六十号による、放棄されたものであるけれども、一応の見舞い金が支出されている。日本政府からは十億円のお金が支出されているというのが現状でございます。講和条約発効後の第三条地域になりましてからは、土地、家屋、土地の収用その他につきましては、いろいろの経緯を経まして、現在におきましては布令第二十号のもとにおいて、私どもといたしましては布令第二十号自体の適正性というものを特に批判に値する、特に強い批判はできないと思います。そのような状況になって現在に及んでいるわけでございます。
  274. 春日正一

    ○春日正一君 私の聞いたこと一つも答えていない。私はそんなことを聞いているんじゃないんだ。住民の承諾なしに土地を取り上げたり、うちを焼き払ったり、命がけで、困ると言うのを取り上げたりするというようなことが、平和条約第三条でアメリカがあすこを治めるようになってからやっていいということに、約束になっておるのかどうか。国際的に見ても、戦時下じゃないんだから、平和条約三条以後になれば。その条件のもとでそういうことをされていいのかということを聞いているので、いいか悪いかと言ってくれりゃいいのよ。それをあなた、ずいぶん余分なことをたくさん言って時間を食っちまう、困る。
  275. 井川克一

    政府委員(井川克一君) たいへん失礼いたしました。ただヘーグ陸戦法規をお引きになりましたから、ヘーグ陸戦法規と申しますると、これはどうしても占領期間中のものになるわけでございます。そして平和条約第三条の地域になりましてからは、私は一度御答弁申し上げた記憶がございまするけれども、むしろ土地収用その他に関しましてはヘーグ陸戦法規よりももっと厳格な態度をとらなければならない、施政権者でございまして、占領権者のときよりも第三条に基づく場合においては、個人の土地その他の財産につきましては、施政権者の義務というものは占領権者の義務よりも大きいものがあると、こういうことを私は申し上げた記憶がございます。
  276. 春日正一

    ○春日正一君 だから、この例をいえば、一九五五年三月十一日、米軍武装兵約三百名、この米軍の指揮者は村長に次のように通告したと、「次に申す事を村長は区民に知らして理解せしめて下さい。合衆国の部隊は平和的な友好的部隊であります。軍の来島の目的は、皆様が良く御存知の処の五千呎の境に柵を設立する所にあります。村長さんは村民に誰でも此の工事に邪魔する人は即刻に逮捕され、そして沖繩に移送されて法廷の処置を受けるということを伝えて下さい。(中略)」と、こういうふうな形で一方的にばっと申し入れて、そうしてこの広い土地を取り上げてしまう。そうしてこれに対して必死の反対陳情を続けたけれども、強制的に立ちのきを命令して取り上げてしまった。そうしてこの一人の老人は自分の畑が取られるというので、何とかやめてくれと言って手まねで訴えたら、それを突き飛ばして、毛布でぐるぐる巻きにして有刺鉄線の円筒型に入れて、最後には監獄に送りつけてしまったというようなことがやられておる。そのほか、この同じ伊江島で、たとえば「山城守安さんという農家では、床板や壁板をはがしおえると、人々の嘆願も聞き入れずに、火をつおて、家屋を焼き払ってしまった。山城ウメさんの家でも、山羊小屋は焼きはらわれ、母屋は屋根もろともブルトーザーで押し倒された」、こういうふうになっているわけです。こんな例は幾らでもこの本の中には書いてある。そういうことはヘーグの陸戦法規によっても許されてない。「家ノ名誉及権利、個人ノ生命、私有財産並宗教ノ信仰及其ノ遵行ハ之ヲ尊重スヘシ。私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ス」と、こうなっておる。そういうものよりもっと強い態度をとらなきゃならぬというふうに言われておるアメリカの占領軍がそういう乱暴なやり方で土地を取り上げた。しかも、そうやって実際上取り上げてしまった土地を、あとから賃貸契約を結ぶんだと言って、そうしてこの賃貸契約はどうして結ばれるかといえば、アメリカが一方的にきめた非常に低い基準で地代を押しつけられてきておる。そういうものを正当な地代と言うことができるか、正当な賃貸関係と言うことができるだろうか、この点をお聞きしたいと思います。
  277. 井川克一

    政府委員(井川克一君) 一九五五年のころは、私どもの知っておりまする法令の適用によりますると、布令第百九号の時代でございます。布令第百九号によりますると、地主との交渉で合意が得られなかった場合には収用することができると、その場合に正当な補償を支払わなければならないと、それは供託されるという規定がございます。しかしながら、先生よく御存じのとおり、その後におきましていろいろな琉球の方々とアメリカの軍当局との間に話し合いがございまして、結局布令第二十号というものに至ったという過程はよく御存じのところだと思います。布令百九——私が先ほど来申し上げておりますように、個々の事件につきましては別といたしまして、ただいま私たちが存じております布令百九号というものの法文から見ますれば、正当な補償が支払われると、交渉が成り立たない場合に収用できるということが書いてございます。しかし、この経緯から、先ほども申し上げましたとおり、このような経緯がありまして、そこで、琉球側の反発というものがございまして、琉米合同会議というものができまして布令二十号に及んだという経緯はよく御存じのところだと思います。
  278. 春日正一

    ○春日正一君 だからね、それは布令何号と言うけれども、とにかくアメリカの大統領の行政命令十二節で「琉球列島にある人々に対し、民主主義国家の人民が享受している言論、集会、請願、宗教並びに報道の自由、法の定める手続によらない不当な捜索並びに押収及び生命、自由又は財産の剥奪からの保障を含む基本的自由を保障しなければならない。」とはっきり書いてあるのです。だから、アメリカの大統領行政命に反してすらそういうことがやられたんだ。それを条約局長アメリカの布令がそうなっておりましたとなぜ弁護するのだ、日本条約局長が。そうして、こういうものは地代といっても非常に低いものだし正当な契約じゃないと思うけれども、それでも低いということは防衛庁自身お認めになったんでしょう。だから六・八倍か、今度は上げるという方針をおとりになった。だから、非常に不当に取られて不当に安く使われてきたというこの損害というものは、戦後二十六年間ばく大なものですよ、これ。そうしますと、当然これは過去に遡及して正当な地代を請求する権利が私はあると思う。先ほど防衛庁長官、言われましたけれども、人身傷害の請求の場合でも、まだ残っておるものをそうするのじゃなくて、いままですでに外国人賠償法によって処理されたものでも、不当に低く扱われたもの、これに対しては正当な賠償ということになれば、再審を請求し、そして新たな請求を要求する権利が私はあると思う。これが今度の協定の中で、アメリカの法律に基づくものが残されるということの中でどうされるかということは非常に大事な問題だと思うんですよ。アメリカの支配のもとで、そういう一方的なやり方でやられてきた、泣き寝入りさせられてきた者が、その権利を回復するために、もう一度この者が適当に補償されておるかどうかということを調べて再審を請求する、そのことを確立する必要が私はあると思う。その点、どうですか。
  279. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) 過去の結論の出た事例につきましては、これはどうも施政権が違っておりましたし、一応まあそれで決着がついておると、そういう解釈に立っておるわけです。それから、土地代等においても確かに低かったと思います。今後のことについては十分配慮をしてまいりたいわけでありまするが、過去安かったからそれをどれだけその差額を認定するかという段になりますと、これはまたたいへんな問題が起こってまいりまするので、そういうことは現時点ではちょと考えておりません。詳細は施設庁長官に説明いたさせます。
  280. 春日正一

    ○春日正一君 そうすると、結局、いままでそういうひどい扱いを受けて、そうして自分の権利を十分主張できないという状態のもとで低い不満足な補償しか受けられなかったという人たちは泣き寝入りをしてくれ、こういうことですか。一言でいいですよ、イエスかノーか、それだけで、時間ないから。
  281. 島田豊

    政府委員(島田豊君) 先般も瀬長議員からそういう過去の土地の借料の問題についての遡及について御質問ございまして、私はちょっとその点については考えにくいということを申し上げましたが、ただいまこの問題について防衛庁長官からお答えになったような考え方を私も持っておるわけでございます。
  282. 春日正一

    ○春日正一君 私は外国人賠償法にしても、結局、司法的な賠償請求の手続についての制度的な裏づけというものは何もない。司法的な救済の道も閉ざしてしまっている。結局、行政機関に訴願するというほんのささやかな権利というか道というか、そういうものをあけてあるというだけのものであって、沖繩県民の基本的な権利を保障するものじゃないと思いますよ。こういう外国人賠償法や、あるいはこの土地の低い地代での損害というようなものをそのままにしておいて、しかも、こういうものが復帰後も人身傷害やそういう問題について適用されていくということになると、結局、これは占領中の状態が復帰後も残される。占領中に非常に片手落ちな権利のないような形でできた外国人賠償法といったようなものが復帰後も残されて、そうして復帰された政治のもとで、あなたが言われたように審査して、まだ未解決のものは請求するというようなことになれば、これは沖繩県民にとっては、かえってそのことによって不利益なんじゃないのか。日本の法律の基準なり、そういう手続に従って賠償も請求するというようなことにしたほうがいいんじゃないのか、こういうことになるんじゃないかというふうに思います。そういう意味で、やはり再審請求というものを含めて正当な請求権を当然私は主張すべきだと思うし、不当な賠償で泣き寝入をさせられている沖繩県民の被害の救済について徹底的にアメリカに対して主張すべきだと思うんですけれども、この点ではどうですか。協定の交渉の中で、こういう沖繩県民の被害の救済についてどの程度相手と渡り合って議論をされたのか、その点をお聞きしたいんですけれども
  283. 井川克一

    政府委員(井川克一君) これは先日も御答弁申し上げましたが、私どもといたしましては、一々の具体的の請求権というもの、請求の事例というもの、それを全部取り上げるとか全部知るということは、これは残念ながら不可能なことでございます。したがいまして、琉球政府の要請書、立法院の決議、あるいは土地に関しましては地主連合会の方々の要請書というものを全部慎重に検討いたしまして、また実態問題に対する琉球政府の多大の御援助を得まして、愛知大臣が、あるいは十項目と言っておられました、その他の項目も最終的にはもっとふえましたけれども、それらのもについて一々交渉をいたしたわけでございます。そして、条文に、御存じのとおりに四条二項におきまして、現在沖繩に適用されておりまする連邦法、あるいは特にその他の法令で認められている請求権につきましては引き続きアメリカは処理する。さらに、いわゆる復元補償漏れにつきましては四条三項の規定を新たに置いたわけでございます。さらにまた那覇軍港にございまする海没地につきましては、これを処理する方法をつくったわけでございます。  このようにいたしまして、結局それ以外のものをどうするかということにつきましては、先ほど外務大臣からも御答弁申し上げましたとおり、これは沖繩返還ということが行なわれて施政権が委譲されるという大きな事態の際におきましては、ここにおいて日米両国間の関係を整理してここできれいにしてしまうということが適切であるということになりまして、四条一項で放棄したわけでございます。しかしながら、四条二項におきまして、現在アメリカの外賠法その他につきまして向こうがやっておりますことは、あくまでもこれを事後も、たとえば復帰の前日にそういうふうな事件が起これば、そういうものにつきましては、アメリカ側がこれを持つということは当然のことでございまして、私どもは、ともかくアメリカが施政権者として法律的に責任があるものはあくまでアメリカに持たせるという交渉をいたしたつもりでございます。春日先生の先ほどのお話でございますると、日本政府がやればいいというお話でございまして、外賠法なんか出ないほうがいいということになりますると、請求権全部を日本側が放棄したほうがいいというふうな結論も出てくるわけでございますけれども、私どもとしてはそのような結論はとりませんでございます。そのようにアメリカ側に交渉いたしましてこのような結果を得たわけでございます。
  284. 春日正一

    ○春日正一君 聞いたことだけ言えばいいんだよ。  それで、この請求権の問題で、条文によれば四条一項で包括的に放棄するということを言って、二項で例外的に放棄の対象とならない請求権ですね、アメリカのいまある法律でやられるもの、それから三項で軍用地復元補償についての任意的な支払いというようなふうになっております。これにしても任意的な恩恵的なものだというようなことで、第二項のこの残っておるという、放棄していないという分はきわめて不十分な屈辱的なものだ、恩恵的にもらうというようなものだと、権利として確立されていない。これは沖繩へ行ってごらんになれば、みんなそれ言っておりますよ。請求権を権利としてわれわれは確立してほしいんだと、法律できめた権利としてもらいたいんだと、こういうふうに沖繩県民は言っておる。そういう面から見てこれは問題だから、私はこの問題出して、不当なものは再審請求権確立するという意思があるのかどうかとお聞きしたんですけれども、最後に一括的放棄の問題で、時間がありませんから簡単にお聞きしますけれども外務大臣は、きのう以来答弁を聞いてますと、放棄するのは沖繩県民のためだみたいなことを言ってますけれども、その辺、どうなんですか。
  285. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 放棄という問題は、返還時を境にしまして、日米間の債権債務の関係をここで明らかにしておく、これが一つ。しかし、そういう方法として、一定の請求権以外のものは放棄される、外交保護権が放棄されるということになる。そこで、その請求権、対米請求権、これをどういうふうに扱うかという問題になりますると、これは日本の国内的措置として公正妥当にこれを処理する、こういう方針です。しかし、いわゆる請求権、請求権と言いますが、権利として一体成立するかということになりますると、なかなかそうも言えない問題も多いようでございます。そこで実態調査を念入りにしてみたい。そしてその結果によりましてこれは措置を講ずべしという結論になりましたものにつきましてはそれ相応の措置をする、こういうことを申し上げたわけです。
  286. 春日正一

    ○春日正一君 その放棄の問題、けじめをつけると言いますけれども、放棄するというのも一つのけじめのつけようでしょう。しかし、請求権として、ここにすでに琉球政府が十項目をあげて、何件、何千万ドルというような金を出してきている。まだ私はもっとあると思うけれども、そういうものを一括してアメリカからもらって、それでケリをつけて、足りないところは日本政府が足し前をするというケリのつけ方もあるでしょう。そうでしょう。
  287. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 観念的にはそういうつけ方もあるかもしれない。しかし、返還の時点で、どのくらいの請求といわれるものがあるのか、これはわかりません。これは一人一人の個人に関する問題が多いわけです。そこで一般的に見て、アメリカが賠償の責めに任ずべきものはアメリカがその責めに任ずる。また支払いを要するというようなものはその支払いを行なう。それ以外のものは、これは外交保護権を放棄する。しかし、その放棄したいわゆるその請求権の処理は国内的に適正にやりましょう、こういうことにしたわけです。
  288. 春日正一

    ○春日正一君 そこが筋の問題なんですよ。つまり、それは沖繩県民はかりに百万円か二百万円か自分が請求権を持っておるとして、その二百万円をもらいさえすれば、日本政府からもらってもアメリカからもらっても同じだとは思っていないんですよ。私どももそう思っていない。請求権放棄して、日本政府があと出てきたものには手厚く補償しますと外務大臣言われるから、私、きのう来じりじりしておったんですけれども、何でアメリカが悪いことをしたのを日本国民の税金で払わなければならぬのか。だから筋とすれば、当然アメリカに対して、そういうこともあるんだし国民感情もあるんだから、だから琉球政府で調べたのがこれこれある、だから、それだけのものをとにかく払いなさい。それでもまかない切れぬところは日本政府でまかないましょうというような談判をなぜしなかったのか。そういう談判したことありますか、初めからあきらめてかかりましたか。
  289. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) まさにそういう談判をした結果が、いま協定第四条になっているんです。つまり、アメリカの法令に基づくもの、布令に基づくもの、そういうものは支払いの責めに任ずる、こういう措置になったわけです。これがすなわち、あなたがおっしゃるようなことをやった結果、そういうことができたわけなんです。
  290. 春日正一

    ○春日正一君 だから私は、放棄している分を、ここに十項目あるうち法令に基づくものというのは幾らもないわけでしょう。そうして出てきている問題がたくさんある。だから私は、そういうものを放棄するというんじゃなくて、取るものはきちんと取る、やるものはやるというならいいけれども、私も時間ありませんからはしょって言いますけれども。請求権は放棄します、そうしてアメリカの資産の引き継ぎですね、あるいは買い取りに三億二千万ドル出すという。アメリカにこの三億二千万ドルを請求する権利というものはあるんですか。何を根拠に請求してきたんですか。
  291. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これは外交交渉で相手のあることですから、わが国立場ばかりできめるわけにはいかない。これは請求が、権利があるとかないとかじゃないんです。外交交渉の問題であると、こういうことであります。
  292. 春日正一

    ○春日正一君 これで最後にしますけれども、結局、そういうことは、この協定アメリカの軍事的な要請、いわゆる基地というものも全面的にのんでしまって、さっきの話じゃないけれども、CSGが撤去しますというのに、土地は返さぬというようなことを言われるような始末になっておるし、これからは請求権の問題でも、沖繩県民の権利、日本国民の権利として主張すべきものは主張するというような立場を貫かずに、まあアメリカに、根拠もないけれども、とにかく三億二千万ドル出しましょうというような形で、アメリカのサンフランシスコ条約三条に基づく支配、こういうものを正当化し、そうしてこのアメリカの占領支配下で非民主的、隷属的な補償制度というようなものを正当化し、そして県民の感情を緩和するために、まあいろいろやろうというようなことを言っておるという点では、主権国家としての日本、民族の誇りを傷つける、そういうものだと私は思いますよ。このことを私は一言指摘して質問を終わらせてもらいます。
  293. 安井謙

    委員長安井謙君) 以上で春日君の質疑は終わりました。     —————————————
  294. 安井謙

    委員長安井謙君) 次に、野末和彦君の質疑を行ないます。野末和彦君。(拍手)
  295. 野末和彦

    野末和彦君 まず防衛庁長官にお聞きします。  というのは、きょうの新聞でちょっと気になることがありまして、新聞によりますと、海上自衛隊の哨戒機がソ連の艦隊を発見したと、けさの新聞に書いてありますがね。それで対馬から南下して沖繩附近まで追尾して、これがソ連艦隊であることを確認したということがあるんですが、これ事実ですね。新聞にあるんですよ。
  296. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) 防衛局長から……。(「大臣が知らぬのか」と呼ぶ者あり)
  297. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) まだ報告を受けておりませんが、近海を哨戒をしておるチャンスに、そういった不審艦艇を見つけることはあり得ると思います。
  298. 野末和彦

    野末和彦君 いや、いや違う。あり得るじゃなくて、朝日新聞にちゃんと出ているわけよ。だから、あり得るというより、事実もう確認しているということになってはっきり出ているんですがね。  で、そしてそうなりますと、ぼくが考えるに、海上自衛隊としては、現在の防衛識別圏からかなり逸脱していると、沖繩附近まで行っているわけですからね。だから、これは一体どうなっているんだと、その思うんですがね。防衛庁長官にお聞きしているんです。
  299. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) 朝からすぐこちらに参りましたので、私自身報告受けておりませんでしたが、いま確認したところ、新聞の記事にあるとおりだそうであります。
  300. 野末和彦

    野末和彦君 いや、だから、それはわかっている……。
  301. 安井謙

    委員長安井謙君) 野末君、発言を求めてください。
  302. 野末和彦

    野末和彦君 いや、それでね、防衛識別圏を逸脱しているんじゃないかとぼくは思うんですよ。それについての御意見をお伺いしているわけです。防衛識別圏というのがありますね。
  303. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) まず防衛識別圏というものはございません。防空識別圏というのはありますが……。
  304. 久保卓也

    政府委員(久保卓也君) それと、防空識別圏というのは、もし御説明さしていただければ、対領空侵犯阻止のための区域でありまするし、それは現在沖繩については米軍がやっておりますることであって、P2Vだろうと思いますけれども日本の哨戒機とは関係はございません。
  305. 野末和彦

    野末和彦君 そういうむずかしいことを言われちゃうと全然わからなくなっちゃうんです。(笑声)いや、ほんとうに。だから防空でもいいんですがね。ぼくはいただいた資料を見ますと、確かに沖繩近辺は全部米軍がやっているわけですね。そうすると、海上自衛隊の哨戒機がと、はっきり書いてあるわけですから、これはちょっと行き過ぎだと、そういうふうにぼくは思っているんです。で、まあどうせごまかされそうですから、先に進みますけれどね。  とにかく防衛庁長官にお聞きしているんで、防衛庁長官が、朝、新聞も読んできてねえし、こういう報告を受けてない。こういうのがぼくは非常に意外でね。ぼくの「防衛」とか、「防空」なんということばの違いなんというのは、たいしたことはないんですよ。その点をはっきりお聞きしたいんです。
  306. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) 私も朝早く出まして、実際、それは承知してないんです。ところが、それがもし日本の平和確保に危険をもたらすという事実があれば、これは、緊急私に連絡があるはずですが、それを認めたなら、その相手の艦隊が退去したとかいうことになれば、これはユニホーム段階で処理して、後刻、私に正式の報告があるものと、こういうふうに理解しておるわけです。
  307. 野末和彦

    野末和彦君 要するに、やっぱり不安があるからお聞きしたんですが、まだそこまでいってないでしょう。ソ連がどこへ行っちゃったかわからないって書いてありますから。ただ、もし、こういう場合、海上自衛隊が、沖繩の近辺まで追尾していくことによって、かりに発砲されたとか、何か事件が起きて、それからじゃおそいからね。大体、いろいろ、思いもしないことが起きて、起きてからいつもあたふたするのが政府ですからね。それが心配なんですがね。  そこで、この防空識別圏でも何でもそれはいいんですが、返還後に、アメリカがいま担当しているこの区域ですね、これを日本の航空自衛隊ないしは海上自衛隊が引き継ぐようになるんですか、どうですか。
  308. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) 主権が日本に戻ってまいりますれば、当然日本沖繩県ということになりまするから、おのずとその範囲は違ってくるわけです。
  309. 野末和彦

    野末和彦君 そうしますと、これはかりにそのまま引き継ぐとして、そうすると、これ、すごく広くて、上海の鼻っつらまであるわけですよ。そんなことやると、これはかなり中国を刺激することになりまして非常にに危険だと、そういうふうにぼくは考えているわけなんです。それでなくても、こういうふうに、いわゆるソ連艦隊を見つけたといって、沖繩附近まで追尾していくという海上自衛隊哨戒機、この姿勢は決して災害救助とか、防衛とか、そういう問題じゃなくて、かなり出撃のにおいが感じられるわけですね。そうなりますと、そういう自衛隊を沖繩に持っていく、配備するということが沖繩県民の心をどれくらい刺激するか、これがやっぱりぼくは心配なんです。それで、さっきからお聞きしているわけなんです。けさの新聞の記事ですけれどね。  とにかく、沖繩の人は、日本とそれからアメリカと、二度軍隊、いわゆる戦争に巻き込まれた。非常に苦い思いをしておるわけですから、まして、ここに自衛隊が配備されるということで朝日新聞が調査したら、五六%は反対ということを言っておるわけですね。やはりわれわれが考える自衛隊の考えと、それから沖繩県民が受け取るのと、かなり差があるわけですよ。ですから、その点を十分に考えに入れて、自衛隊を配備するときに、沖繩県民の声を、防衛庁長官はなりたてですからね。あらためて聞いてほしい、そういうふうにぼくは思うんですがね。
  310. 江崎真澄

    国務大臣(江崎真澄君) 先ほどの、日本の領海、領空、これにやはり無断で外国の航空機なりあるいは艦隊なりが入ってくるということを、これだけの主権国として黙ってほうっておくわけにはいけませんですね。だから、これはやはり追跡調査をする、また、そして領海、領空を侵されないようにするということは、これは国家として当然必要だろうと思うんです。  それから、後段の、沖繩に自衛隊を配備する件につきましては、御指摘の点は確かにあると思うんです。旧軍隊に対するイメージはよくないと思います。で、私も、たまたま防衛庁長官になりまするまで、自民党の国民運動本部長ということで、沖繩復帰のいろいろな、これは相談相手みたいな役割りも果たしておりましたので、沖繩県民の心情というものはある程度わかるような気がするんです。で、したがって、旧軍隊と防衛に徹する現在の自衛隊とでは、これはもう性格が違うということを十分PRしていきたい。これは単にPRだけでなしに、沖繩県民の理解を得ませんと、自衛隊というものが局地防衛に任ずるといって配備されても、やはり土地の人々の協力がなければ、十二分にその効果を発揮するわけにはいかないわけなんです。ですから、理解を深めるように十分これは努力をしていきたいと思います。しかも、新しい自衛隊では民生協力、特に、災害常襲県と言われる沖繩の災害救助活動などということに今後積極的に協力をする現実を見れば、必ず私は沖繩県民はああこうだったのかということで理解をしてくれると思いますし、また、そうあらしめたいと思って努力をしてまいります。
  311. 野末和彦

    野末和彦君 予想以上にていねいな答えをいただきましてありがとうございました。ひとつ努力されることを私もお願いしておきます。  今度は総理にお願いします。何かさっきからにこにこしていらっしゃるので急に親近感を持ちました。ひとつざっくばらんに総理お話ししたいと思います。  この衆議院と参議院における沖繩審議の推移を見ておりますとね、どうも政府と、それから沖繩県民の考え方、気持ちと若干隔たりがあると、かなりのズレがあるんじゃないかというふうに、ぼく個人は考えているわけですね。そこで、総理にお聞きするんですけれども沖繩返還というのは、県民が、米軍の銃剣の前でもって死を賭して戦い取ってきたものだというふうに考えているんですが、しかし、その県民がいま、返還は賛成だが、返還協定内容については大いに不満で反対だと、こういうことを言っておるわけです。総理としてはこの沖繩県民の反対の理由は、一番大きなあれはどこにあるとつかんでいらっしゃいますか。
  312. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 私は沖繩祖国復帰をする、これはみんな県民の方々も復帰については反対ではございません。また、野党の諸君も、協定には反対だがというような表現はしておられるが、とにかく、復帰はわれわれも進めなければならないと、かように言っております。私はそれはそのとおりだろうと思います。なぜそれではただいまの協定委員会やあるいは沖繩特別委員会でこうまで論議が展開されるかと、その展開される論議は、それぞれの問題について、政府の考え方が不十分じゃないかと、こういうような御指摘ではないかと思っております。これから、いろいろあなたも政府に対してお尋ねになるでしょうが、そういうような疑問点がただいまのように反対という形にあらわれておると。私は、しかし問題自身、これは復帰は賛成だと、しかしながら、それならばそれで、もっと沖繩県の同胞の心を心とした交渉をしないか、こういうことを言われるように思います。ただ、それに対して政府の言っていることは、現状が現状だから、これより以上のものはできなかったと、かように実は申しておるのでありまして、そういう説得力がまだ不十分だと、かようなことに尽きるのではないかと、かように私は思います。
  313. 野末和彦

    野末和彦君 ということは、反対の理由はいろいろありますけれども、一応それはある程度はお認めになっているわけですね、政府が十分でないという点でね。説得力がないということは、やっぱりまだ至らないということですからね。やっぱりほんとはそういうところを直していただかなければならないわけですね。  でも、とにかく先にちょっと進みますがね。気になっているのは、一部の反対だ、反対は一部だ一部だということをおっしゃるわけですよね。大部分は、協定内容ですよ。もちろん、復帰には異存のある人はいないと思うんですけれども、一部の人だとおっしゃる。この根拠がぼくはわからないんです。というのは、ぼくも沖繩に行ってみたり、あるいは沖繩新聞をいろいろ読んでみますと、決して一部とは思えないですね。もう不満の声が満ち満ちているわけですね。新聞の中に。もし総理新聞をお読みになれば、決して一部ではなくて、かなり大部分に近いのではないかと、そういうふうにぼくはどうしても考えざるを得ないのですが、どんなものでしょうか。
  314. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 新聞が全部の世論を代表していればそのとおりだと思います。必ずしもそうじゃないと私は思います。ことに沖繩においても、立法院は、これは絶対多数、これがちゃんと決議しているじゃありませんか。われわれの代表、また県民代表、その立法院の議決それは尊重されてしかるべきじゃないですか。新聞新聞としてこれは大事にされることはけっこうです。しかし、立法院の議決を大事にしないで、新聞のほうが大事だと、かように言われることには私は納得はできません。
  315. 野末和彦

    野末和彦君 ですから、立法院の件についてはぼくは必ずしも総理と同じふうには考えていないわけですよ。立法院の決議は確かに沖繩本土早期復帰ということを言っておりますけれども、三年前の主席選挙のときは、いま賛成している人たちが、そのときは早期復帰反対だったわけですね。反対だったわけですよ。それで、福田さんはその当時、復帰すれば沖繩はイモとはだしになるというようなことをおっしゃたっというふうにぼくは新聞で読んだのです、三年前の立法院の選挙のとき。それで、そのときは、三年前は早期復帰反対、いまは早期復帰賛成と、三年間で沖繩の経済状態とか沖繩そのものはそんなに変わらないのに、どうして三年間でころっと変わっちゃったのか、その辺がかなり変わり身が早いので、それがふしぎなんですよ。ですから、立法院の決議が絶対だと言うなら、じゃ、いまの政府の考え方は、三百一議席を持っているから、これは世論を代弁しているのだということになっちゃいます。それと同じ論法で、ぼくらは数だけじゃ絶対そうだと思っていませんからね。それで、とにかく立法院の決議を尊重するという総理のおことばわかりました。しかし、やはり新聞のみを大事にするわけじゃありませんけれども新聞も世論をかなり反映していることも確かなんです。ですから、同じ新聞を読んで、ぼくと総理とはかなり受け取り方も違うし、新聞に対する認識も違う。どうして同じ記事を読んでこんなに違うかふしぎでしようがないのですけれども、きのうも総理がそういうことをおっしゃっていましたけれども、やはりこれが年齢の差でなければ非常にしあわせだと思いますけれども。  じゃ、もう少し具体的なことをお聞きします。今度は外務大臣にお願いします。  この間沖繩に行きましたら、辺野古の弾薬庫の間を通っている道がありますね、あそこが停車禁止区域になっていたのですね。そこで、一緒に行った人に聞いたのですよ。ここで車をとめたらどうなるかということをちょっと聞きましたら、かりにパンクをしても、これはかなり厳重な警戒をされているところで、歩哨にとがめられたりつかまえられたりする、という道があったのですね、ノン・ストップの。御存じですね、これ。
  316. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 知りません。
  317. 野末和彦

    野末和彦君 それで、そこへ行きまして、なぜここが停車禁止区域になっているかと——ぼくの回った範囲では一カ所だけだったのですけれども——なぜかと考えたわけなんですが、そうしたら同乗している人が、たぶん核があるからであろうと言っておりましたけれども、後に衆議院審議で明らかになったところでは、辺野古の弾薬庫にこれは核があるというような話になったのですが、外務大臣はこれ、どう考えますか。なぜここが停車禁止の区域であるかということです。
  318. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) 非常にむずかしい御質問でありますが、今日、私は沖繩に米軍の核があると、こういうふうなにらみをしておるのです。ですから、それは否定いたしません。しかし、それが辺野古であるかどこであるか、そこまでは私はまだ承知しておりません。
  319. 野末和彦

    野末和彦君 ぼくは、とにかくそれを辺野古であろうと思っているわけですよ。ですから外務大臣と場所が違うかもしれませんけれども、いずれにしても、そこは、あるからこそ停車禁止区域になって、車をとめさせないと思っているのですがね。これが返還と同時に核が撤去されると、これはアメリカを信用しろということですから信用して待っているつもりですけれども、そのときに、返還と同時に核が撤去されたなら、これも、ノン・ストップのところも当然なくなると、ぼく流の考えではそうですね。ですから、それは別にしても、この道が停車禁止区域という標識が返還と同時に取られるのかどうか、その見通しについてお伺いしたい。
  320. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) これも難問でございますが、いま辺野古に核があるのかどうか、私まだ確認をしておりませんです。したがって、核は返還時には撤去される、これは確実でございますが、辺野古のその事態がどういうふうに変わっておるか、そこまでは私はまだ承知しておりませんでございます。
  321. 野末和彦

    野末和彦君 よくわかりました。  ぼくはしかしこの辺野古のノン・ストップという標識は、核の有無を非常にはっきりさせるような象徴的な標識だというふうに解釈していますから、もし核がなくなれば、これは当然取っ払われるだろうと思って、その時期を待っています。その時点で、またもしかしたらお伺いするでしょう。  それから今度は、やっぱり外務大臣のほうがいいと思うんですけれども、さっき春日委員からも問題になっておりましたけれども、請求権のことなんです。その請求権でも、大ざっぱなことじゃなくて、ごく具体的にちょっと疑問があったので教えていただきたいのですけれども、平和条約が発効してから復帰までの間における、その期間における米軍から日本人が受けた被害ですね。そういうものに対してまず補償は本土ではどうなっているか。まずお聞きしたいのは、本土ではどうなっているかということです。平和条約発効以後復帰までの、まだ復帰は来年ですけれども、まず本土でどうなっているかということをお聞きしたい、補償について。
  322. 島田豊

    政府委員(島田豊君) 本土におきまして、米軍人の行為によりまして被害を受けた場合の補償に関する規定は、地位協定の十八条五項でございまして、国内法としては民事特別法がございます。
  323. 野末和彦

    野末和彦君 そうなりますと、法律でかなり保障はされていると、問題はあるんでしょうけれども、さっきから聞いておりますと。しかし、請求額の大体どのくらいでもって補償が解決しているのですか、それも教えていただきたいのです。
  324. 島田豊

    政府委員(島田豊君) これは個々のケースによって違うと思いますけれども、私の記憶しておるケースでは、請求額に非常に近いところで米側との間に妥結をしておる、こういうふうに記憶しております。
  325. 野末和彦

    野末和彦君 本土では多分そうだろうとぼくも思っているんです。調べた範囲で、狭い範囲ですけれども、そういう結果が出ておるのですが、さて同じ期間における沖繩——平和条約発効から来年の復帰までにおけるこの期間において、本土ではかなりいい線が出ている、法律で保護されている。しかし、沖繩においてはどうなっているか、これをお尋ねしたい。
  326. 井川克一

    政府委員(井川克一君) これはすでにお手元に配ってございます「請求権関係国会提出資料」というのがございまして、もろもろの、いわゆる十項目その他につきまして、私らの知り得る限りの数字を出してございます。ただ、これは、請求額、支払い額、未処理額、却下額というふうなのが一ぱい出ておりまするけれども、したがいまして、いまここで、そのパーセンテージをすぐ出せと言われましても、この未処理額などがございますので、なかなかわかりにくいと思います。
  327. 野末和彦

    野末和彦君 それならばそれでいいんですけれども、処理された件についても、本土と比べるとかなり請求額を下回っているわけですね。これは金額的だけの問題ですけれども、それ以上に、本土の場合では法的保護がありますから、不服があれば裁判に持っていけるわけですね。ところが、沖繩の場合は、さっき出ました外国人損害賠償法ですか、あれが適用されているので、裁判に持っていけないわけですね。だから、かりに不服でも幾らかでもとにかくもらうしかないという。そうなりますと、同じ期間に同じ被害を米軍から受けた日本人が、本土にいた場合と沖繩にいた場合と、かなり大きな権利主張の面で差がある。この差は、これは本土並み復帰というにしては不公平じゃないか。というのは、沖繩でかなりこれを問題にしている人たちが多いわけですね。ですから、これは個人個人で、もちろんケース・バイ・ケースとか、調査とかいろいろ実情は違いますが、それにしても全体的に見て、この不公平、差というものは否定できないと思うんですよ。この差をどういうふうにして埋めるおつもりなのか、それがお聞きしたいんですがね、外務大臣
  328. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) それは所管が違うんです。
  329. 野末和彦

    野末和彦君 どうも官僚の答弁はわからないんです、ぼくは頭が悪いから。
  330. 島田豊

    政府委員(島田豊君) いま条約局長から答弁申し上げましたように、請求の中に、すでに支払いが終了したもの、それも全額支払い、一部支払いがございますが、それから却下をされた事例もございます。それからまだ未処理のものもございます。そこで、却下されたものにつきましては、これは復帰後の段階におきまして、これはまあ返還協定の四条の二項で引き続き権限のある職員が沖繩に残留いたしますので、その機関を通しまして、十分われわれとしてもあっせんにつとめたい。未処理のものにつきましても、これもわれわれはその処理の早期解決について十分要請してまいりたいと思いますが、先ほど来話が出ております実際の請求額と、それから実支払い額との差額につきましては、これをどうするかということは、なかなかむずかしい問題でございます。一応本人は同意書というものを出しておりますので、われわれとしてはこれはやはり処理済みではないかというふうに考えておるわけでございまして、ただ、この辺については、今後いろいろ検討いたしたいと思います。
  331. 野末和彦

    野末和彦君 まあ、いろんな問題があると思うんで、ケース・バイ・ケースになりましょうが、ぼくは考えるのに、本土でいま通用している、平和条約発効からずっと本土で通用しておりますこの法律、それをそのまま沖繩に、復帰の時点から前にさかのぼって適用するという意思がおありなのかどうか。これはもう外務大臣でなきゃわからないと思うんですけれども、どうなんでしょう。つまり差がありますね。差があるから一々そのケースに当てはめてというんじゃなくて、まずいま本土で通用しておるそのままの補償法をですね、さかのぼって——沖繩復帰したら、さかのぼって適用する意思があるかどうか、それなんです。
  332. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) その辺が非常にむずかしい問題であるということを施設庁長官からお答えをいたしておるんです。復帰後の、いわゆる補償——補償じゃ実際はないんですが、事後措置ですね。これは防衛庁、つまり施設庁ですね、これが人を沖繩のほうにたくさん出しまして、そうして処理すると、こういうことになってしまうのでありまして、私どもの手から離れてしまうんです。
  333. 野末和彦

    野末和彦君 大臣のお答えを聞くとわかるんですよ。どうもあちらさんを聞くとぼくはわからないんで。だから、むずかしいと言われればそれでわかるんですが、いろいろ回りくどくなると、ちょっとわからなくなりますが、まあありがとうございました。  どうしても聞きたいことがありますから、もう一回総理にお願いしますけれども沖繩返還された時点で恩赦をおやりになると思うんですよ、たぶん。人心一新とか、いろいろ理屈がありまして。で、この恩赦をおやりになると思うんですが、この中に選挙違反者の恩赦を含める意思がおありかどうか、これをお聞きしたい。
  334. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) まだ恩赦の問題は、過日も衆議院で聞かれましたが、まだきめておりません。皆さん方の御意見もおありだろうと思います。その辺も考えてこれからきめる、こういう状態でございます。
  335. 野末和彦

    野末和彦君 それはまあ当然です。ですから、先にいろいろとお聞きしたり、ぼくの意見も聞いていただきたいと思っているわけなんですけれども、たとえばこれは調べたところによりますと、昭和三十一年の国連加盟記念恩赦ですか、そのときに政治資金規正法に違反する罪というんで、そういうもので恩赦になった方が八人いまして、その中に総理のお名前もあるわけです。ですから、総理は恩赦というものに対して特別の関心を持っているんじゃないかと、そういうふうに思っているわけです。  で、その後の恩赦をいろいろ見てみますと、常に選挙違反者がいるわけですね。たとえば明治百年恩赦のときは、実質的には——おそらく反対なさるでしょうが——選挙違反者の救済に終わったような感じがする。数ではですよ、交通違反の数が一番多いということをいわれていますけれども、質的にいうと、選挙関係の違反者が恩恵を受けている。こういうのはどう考えてもぼくは納得できないんですよ。選挙違反というのは一番悪質なんでね。民主主義を破壊する連中なんですよね。それで大体恩赦を受けるのは、みんな常習犯というか、かなり質の悪いのがいるような気がしましてね。中国ことばに「天網恢恢疎にして漏らさず」と選挙違反はもう漏らしっぱなしなんですね。これが実に腹立ってしようがない。そこでぼくは総理にお願いしたいのは、恩赦があるのは、それはけっこうなんですよ。けっこうなんですが、選挙違反というものは除外するという立場で恩赦を考えていただきたい。ということは、いつもいろんないいかげんな選挙をしまして、選挙違反があたりまえのようになっていると、こういう選挙法というのは、とりもなおさず議会制民主主義を破壊する第一の原因だとぼくは考えているわけですね。ですから、総理にお願いすることは、この沖繩返還に恩赦がある、これはけっこうです。しかし、沖繩返還の恩赦に選挙違反が含まれることは、これは沖繩県民の心を踏みにじることになるんだと、なぜなら沖繩県民というのは、やはり平和と民主主義を求めて、平和憲法下において人権を復帰したいという、そういう気持ちでいままで返還に戦ってきたわけですから、何といっても、沖繩が返るからそれ、恩赦だ、選挙違反も甘く、というのでは、沖繩県民の心を踏みにじる。これだけは絶対にやってほしくないというふうにまあ考えますので、これはひとつ総理にお願いしておくことにします。よろしく。
  336. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 恩赦、これはただいま野末君は賛成だからおやりなさいと、ここまで言われました。ただ、選挙違反は除きなさいと、それを入れてはいかぬと、こういう御意見でございました。これは御意見は御意見として承っておくと。これはいつもの型の私の答弁でございますが、私は、もし恩赦をやるとして、最も必要なのは沖繩の同胞、不幸にしていままで罪に問われておると、こういうような方々が、これはやはり恩赦の対象になる一番の人たちじゃないだろうか。かように実は思います。それは瀬長君の本を読んでみましても、瀬長君も二回もつかまったとか、さらに市長の際にこれが圧迫を受けたとか、いろいろございますから、そういうような方はとにかく一番の被害者だろうと、かように思います。そういう事柄が救済されるなら恩赦としても十分効果があるのじゃないか。かように思います。その他の点についてこれは承っておくと、十分参考にすると、かように御了承いただきます。
  337. 野末和彦

    野末和彦君 わかりました。よくわかりました。もうそれ絶対に忘れないでおいてほしいと思うのです。また、それまでにどうか引退しないでください。  最後に、もう時間ありません。最後に一言だけ。  これも気になっているのです。きのう青島委員がロランCについて質問しました。そのときロランCの重要性というものに対してあんまり関心がないような御返事で、何か勉強しますというお答えだったのですが、しかし、これは勉強しますじゃ、ほんとう言って、おそいわけですね。勉強して、もしロランCの重要性がわかったら、沖繩にとってこれはたいへんな存在だということがわかったら、じゃ返還協定やり直すかといったって、もうそうはいかないわけでしょう。ですから、これはどう考えてもこの返還協定はめくら判の要素もある。契約する場合に、一々全部調べてから判こをつくのがあたりまえなんで、まだ勉強しますという余地が残っていると、まだ勉強しない未知の部分が残っている契約に判をつくのと同じで、世間にはこれは通らないと思うのですよね。ですから、その点を、ぼくはやはりこの沖繩返還協定はめくら判の要素がある。だからこそ沖繩県民も、復帰には賛成だが、協定内容は承服できないと言って声を大にして叫んでいるのだとぼくは思うのです。  そこで、最後に一言。もしこの返還協定内容からいってロランCの重要性が後日判明して、何か事が起こった場合には、やはりある程度の責任をとるというおつもりですか。
  338. 福田赳夫

    国務大臣福田赳夫君) ロランCにつきましては、きのうも申し上げましたように、私どもそうたいした知識持ってなかったのです。なおよく勉強してみます。そして適正な措置をとる、こういうふうに御理解願います。
  339. 野末和彦

    野末和彦君 時間がもう過ぎました。長々といろいろ答弁していただきましたけれどもほんとうはもうちょっと——ちょっといいかげんなところがあるので、ぼくはもう少しお聞きしたいと思いますが、次の機会に譲りまして、最後に一言。  この返還協定内容については、沖繩県民は、やはり不満でなくて、反対をしているというふうにぼくは考えます。ぼく自身もこのままの形は好ましくない、反対であるというふうに思っております。それだけを一言言って質問を終わります。  どうもありがとうございました。(拍手)
  340. 安井謙

    委員長安井謙君) 野末君の質疑は終わりました。  以上で本日の質疑は終了いたします。  次回の委員会は公報をもってお知らせいたします。  本日はこれにて散会いたします。   午後六時四十分散会      —————・—————