○石橋政嗣君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
琉球諸島及び
大東諸島に関する
日本国と
アメリカ合衆国との間の
協定の
締結について
承認を求めるの件及び
関連七
法案につきまして、総理及び
関係閣僚に対し、若干の質問をいたしたいと
思います。(
拍手)
総理は、所信表明演説におきまして、「
沖繩問題は、
日米間の友好と信頼のきずなのもとに、戦争で失った領土を平和裏に話し合いで回復するという、とれまでの歴史にない最も好ましい解決を見ることになり、
日米修好百年の歴史に、さらに輝かしい一ページを書き加えることになった」と述べられました。このことばは、いままでに何回となく聞かされてきたことばでありますから、おそらく、これは
沖繩問題に対する総理の考え方を最も端的に示したものであろうと
思います。
ところで、このような見方、考え方は、はたして正しいのでありましょうか。私は、明らかに間違っていると
思います。(
拍手)基本的な認識において、このような大きな食い違い、間違いがあるからこそ、国論が大きく割れ、
本土と
沖繩の間に埋めがたいみぞができたのだと
思いますので、この点を最初に取り上げてみたいと思うのであります。
総理、
沖繩はほんとうに戦争で失った領土なのでございますか。もしそうだとすれば、アメリカの
沖繩支配の根拠法とされているサンフランシスコ
平和条約第三条は、領土処分の
規定だということになります。そして、そのことは同時に、第三条が、領土不拡大の
原則、カイロ宣言、ポツ
ダム宣言に違反するものであることを立証することになるわけであります。総理はそれを認められるわけであるかどうか、お伺いいたします。
この点に関しましては、去る十月二十七日のアメリカ上院外交委員会において、
ロジャーズ国務長官が、「
米国は日本から主権を奪い取っていないので、
沖繩返還協定によっていかなる主権の移動もないと了解してよい」と証言していることに注目すべきであります。アメリカでさえ、
沖繩支配の合法性を立証することは、ついにできなかったのであります。
戦争で失った領土を平和裏に話し合いで回復するのだなどと、二十六年に及ぶ不法な権力支配を美化したり、合理化する必要は絶対にありません。(
拍手)
沖繩が
祖国に
復帰するということは、あやまちが改められ、本来あるべき姿に戻るということにすぎないのであります。
百歩譲っても、戦争で失った領土を平和裏に回復した例はいままでの歴史にないというのは、明らかに事実に反します。第二次大戦後においてすら、イギリス軍などによって占領され、一九五四年イタリアに
復帰したトリエステの例及びフランス軍に占領され、一九五六年西ドイツの主権下に戻ったザールの例をあげることができます。かつてないことをなし遂げたのだと誇りたい気持ちはわからないでもありませんが、史実を曲げるわけにはまいりませんので、指摘しておきたいと
思います。(
拍手)御意見があれば伺いましょう。
次に、総理、あなたは、アメリカが
沖繩の直接支配をやめようと決意した
最大の理由をすら正確に把握いたしてないようであります。アメリカが
沖繩を手放すことを決意したのは、ロジャーズ長官の証言でも明らかなように、屋良主席の誕生に代表される
復帰運動の高まりによるものなのです。これ以上
復帰をおくらせたら、基地の機能の
維持に必要な住民の協力が急速に得られなくなると見てとったからにほかならないのであります。言うならば、彼らは、激しい
県民の
復帰運動に手を焼いて、日本
政府との話し合いに応じたわけです。
それなのに、日本
政府には、さきに指摘したように、
沖繩の
祖国復帰は当然のことという認識がないばかりか、アメリカの
政策転換は抵抗闘争のたまものという認識もなく、ひたすらにお願いするという態度をとったため、アメリカはそれをよいことに、数知れぬ要求を次々と突きつけてきたというのが実情ではないのでありますか。(
拍手)
アメリカが、
沖繩と引きかえの形で日本に突きつけてきた要求は、枚挙にいとまがございません。おもなものだけでも優に十をこえるありさまであります。
いま、その幾つかをあげてみますならば、基地の規模、特に機能の
維持を保障すること、事前
協議制を実質的に廃止し、核の持ち込みと
自由使用を保障すること、一年以内に自衛隊六千八百名を
沖繩に配置し、米軍基地の防衛、局地防衛の任に当たること、韓国と台湾
地域の安全に関する
責任を分担すること、自衛隊を増強すること、防衛分担金を支払うこと、アメリカの兵器を購入すること、
沖繩における
県民の対
米請求権を
放棄すること、米軍
資産の引き継ぎ、移転は有償とすることといったものから、本来、
沖繩とは全く
関係のない円の切り上げ、
貿易・資本の自由化促進、繊維等の対米輸出規制、対外援助費の増額、肩がわりというようなものにまで及んでいることは、いまや周知の事実であります。(
拍手)
アメリカは、みずからの不法、不当な行為をやめる
条件として、新たに別の不当な要求を持ち出してきたわけです。それを、こともあろうに、
政府は次々と受け入れるか、あるいは受け入れようとしているのが現状なのであります。これでは、総理のおっしゃるように、
日米間に友好と信頼の空気が高まるはずなどはございません。それどころか、両国の
関係は、戦後の二十六年間を通じて、ある意味ではいまが最も険しいといっても言い過ぎではないのではありませんか。その
責任の一端は、長年にわたり、アメリカに対し言うべきことも言わず、追随と迎合を事としてきた日本
政府にあるのであります。(
拍手)
総理、あなたが、もしこのようなアメリカの要求を妥当なもの、もしくはやむを得ないものと確信して受け入れられたのであるならば、その信ずるところに従って、ありのままを
国民に向かって率直に話したらいかがでございますか。なぜ真実をひた隠しに隠し、うそにうそを積み重ねるのでありますか。
そのような事実がないというのであれば、いまから幾つかの例をあげてお尋ねをいたします。
第一は、基地の規模についてであります。
政府は、基地は縮小されると申します。そしてそれを裏づけるために、
返還される基地を示したC表を大きくふくらませ、
返還されない基地を示したA表を小さく見せるために、いじましいような小細工をさえ弄しています。しかし、どんな細工をしようと、
沖繩全県において基地の占める率は、一四・八%から一二・三%になるにすぎないのです。これがあなた方の言う
本土並みの実態であることを、よもや否定はされますまい。(
拍手)
第二は、基地の性格と機能についてであります。
政府は、日本の領域となる
沖繩に、多くの謀略、諜報、破壊活動を任務とする部隊や
施設を引き続き置くことを認めているではありませんか。総理、あなたは、このような近隣諸国に対する敵対行為、挑発行為を認めながら、何の影響もないとほんとうに信じておられるのでありますか。それに、あなた方の言うところによれば、
日米安保条約は本来平和的なものであり、防衛的なものであったはずではなかったのですか。そうだとすれば、このような敵対行為、挑発行為を日本の領域内から行なうことは、
条約の性格や
目的にも反するということになるのではないのですか。お尋ねをいたします。(
拍手)
第三は、自衛隊の
沖繩派遣問題です。
自国の領域となる
地域に自国の軍事力、すなわち自衛隊を配備するのに、なぜアメリカとの
協議や
合意書の
交換が必要なのでありますか。自衛隊は自発的に
沖繩に行くのですか。それとも、アメリカに要求されて、アメリカの基地を守りに行くのですか。みずからの意思で行くのだというのならば、なぜ久保・カーチス取りきめなどというものが必要なのか、ぜひ、
国民がわかるように
説明していただきたいのであります。(
拍手)
第四は、核兵器の問題であります。
政府は、
協定第七条において、
佐藤・
ニクソン共同声明第八項で
合意された「日本
政府の
政策に背馳しないよう
実施する」ための費用を日本側が負担することになったので、核兵器が
沖繩から撤去されることは明白になったと申します。こんな珍妙な論法がまたとあるでしょうか。
共同声明第八項で
ニクソン大統領が約束したのは、あくまでも「事前
協議制度に関する
米国政府の立場を害すること」のない
範囲に限られているのであります。しかし、その点は一応おくことといたしましょう。問題は、ここでいう日本
政府の
政策なるものが、核をつくらず、持たず、持ち込ませずという、いわゆる非核三
原則であるという保証はどこにもないのであります。
総理、あなたは、よもや自分がかつて主張した核四
政策なるものを、いまになって都合よく忘れたわけではございますまい。あなたは、一昨年一月三十日、この壇上で、わが成田委員長の質問に答え、「
政府が非核三
原則を
政策として打ち出したことは、これを可能にする前提、つまり、
沖繩基地を含めて
米国の戦争抑止力がアジアの平和と安定に有効に働くという保証があったからであります。」と明確に述べているではありませんか。いまになって、核は撤去するというのでありますが、それでは、もはや
沖繩の核は
わが国の非核三
原則の前提
条件ではなくなったのでありますか。そうだというのであれば、それはどのような情勢の変化によるものか、その理由を御
説明願いたいのであります。(
拍手)
さらに、核撤去の費用を日本側が負担するという以上は、
沖繩の核は、アメリカにとっては、引き続き置いておくことが望ましいのであるが、日本の
国民感情などを考慮してやむなく撤去するのだというふうに理解すべきだと思うのでありますが、間違いございませんか。
沖繩の核についてのこの二つの質問に対し、矛盾のないようお答えを願いたいと
思います。(
拍手)
なお、撤去の費用を負担するということは、現在
沖繩に核があるということを前提としたものであり、したがって、撤去は
施政権返還の日までに完了すると理解してよいのかどうか、撤去確認の方法とともに、あわせてお答えを願いたいと
思います。
第五は、
自由使用の問題であります。
総理は、
返還協定の
基礎となっておる
共同声明の中で、「
沖繩の
施政権返還は、日本を含む極東の諸国の防衛のために
米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではない」との見解を表明し、
ニクソン大統領に確約をいたしております。これでは、実際問題として、
沖繩からの米軍の行動に制約を加えることは不可能ではありませんか。
現に、あなたは、ナショナル・プレスクラブにおける演説で、「事前
協議に対し前向きにかつすみやかに態度を決定する方針である。」と断言しているのであります。これでどうして、事前
協議制は依然として有効であり、今後は
沖繩の基地といえども、
本土と同様、米軍が自由に
使用することはできなくなるなどといえるのでありましょう。
総理、私が言いたいのは、先ほども申し上げたように、なぜ、ありのままを
国民の前に明らかにしないのかということなのです。
沖繩の
祖国復帰を実現するためには、これらアメリカの要求を受け入れざるを得なかったのだと言えばよいではありませんか。うそにうそを積み重ねることが、どんなに政治に対する信頼をそこなう結果となっているか、そのことを真剣に考えていただきたいと思うのであります。それとも、いまなお、アメリカのそのようなもろもろの要求を承知した覚えはないと言い張るつもりでありますか。それならばそれで、いまあらためてこの席上で、はっきりと次のことを
国民の前で誓っていただきたいと
思います。
一、基地の全面撤去を目ざし、
復帰の時点においては基地の密度と機能を
本土並みに縮小、削減させる。
二、
沖繩から一切の核兵器、毒ガスを撤去させる。そしてそれは、必ず点検の上、確認し、再持ち込みは絶対に許さない。
三、米軍の
沖繩からの自由出撃は認めない。
四、自衛隊の派遣は行なわない。
五、攻撃用兵器、特殊部隊、謀略宣伝
施設等は必ず撤去もしくは撤退させる。
六、
沖繩県民の対
米請求権は
放棄しない。
七、
米国資産は無償で
県民に譲渡させる。
八、外国
企業の不当な権益は認めない。
九、
県民の
自治権はもとより、民主的諸
権利と
制度は必ず守る。
十、
裁判の
効力については、
日本国憲法に沿って、すべて申し立てに基づく再審理の道を開く。
十一、軍用地は、
県民の要求に従って
返還し、復元補償など、
県民の
損害は完全に補償する。引き続き軍用地として
使用するための強制収用は行なわない。
十二、形式のいかんを問わず、秘密の取りきめは一切行なわない。
以上のことは、
政府がいまなお
核抜き本土並みということばを口にし、アメリカの要求に屈した事実はないというのですから、確約できるはずだと思うのでございますが、いかがでございますか。ぜひお約束をしていただきたいと
思います。(
拍手)
最後に、私は、一言大切な問題に触れておきたいと
思います。
それは、あれほどまでに
祖国への
復帰を熱望した人たち、そのために、異民族支配に立ち向かって勇敢にしかも粘り強く戦ってきた
沖繩の人たちが、この
協定のもとでの
復帰を喜んでいないという事実についてであります。
平和条約第三条を第二の琉球処分と呼び、
本土の
独立回復をあがなうために
沖繩は売り渡されたのだと信じている同胞たちは、いままたこの
協定をきびしく批判し、第三の琉球処分ということばすら口にし始めているのであります。
総理、私は心から申し上げます。
沖繩県民が目を輝かして、戻ってくることができるようにする
責任がわれわれにはあるのです。
県民たちが夢にまで見た、核も基地もない平和な島、米軍も自衛隊もいない
沖繩の実現が
祖国復帰の暁には期待できるのだという、そんな希望の持てる
協定を結ぶ義務がわれわれにはあると思うのであります。
私は、あらためて提案をいたします。
現地
沖繩において必ず公聴会を開き、
県民の気持ちをしっかりとつかんだ上で、もう一度アメリカとの交渉を持っていただきたい。
総理、世界の潮流は大きく変化しているのです。中国は国連における正当な代表権を回復しました。
ニクソン大統領はやがて北京を訪問します。南北朝鮮の間でも交流の話し合いが始まっております。この
協定の
基礎となっている
佐藤・
ニクソン共同声明は、すでに過去のものとなってしまったのであります。(
拍手)ということは、
協定そのものが過去のものとなったということであります。断じてやり直すべきです。昨日の
外務大臣の失態に象徴的にあらわれたように、どこに精魂を傾けた者の真摯な姿勢がうかがえますか。(
拍手)これだけでもやり直しを要求するのは当然だといえるのではありませんか。もし、再交渉に成功するならば、
沖繩県民はもちろん、
国民があげて、歓呼の声をあげて祝福するでありましょう。日中友好の機運も一段と高まるものと確信いたします。同時に、私は、そのとき初めてゆるぎない真の
日米友好
関係も確立するであろうということを申し添えて、質問を終わりたいと
思います。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕