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瀬川参考人 日本証券業協会連合会会長の瀬川でございます。
委員の皆さまにおかせられましては、平素何かと
証券市場のために御配慮、御指導いただきましてまことにありがとうございます。この席をかりまして厚く御礼申し上げます。
本日は、
証券市場の当面する問題について
意見を述べよとのことでございますので、いささか所見を申し上げまして御参考に供したいと存ずる次第でございます。
皆さま御承知のように、八月十六日の米国
ニクソン大統領の
ドル防衛策の発表を
契機といたしまして、株価はいまだかつて見ないほどの急落を演じたのでございます。本年に入りましてからの株価の動向を見ますと、
輸出の好調、外八投資の増大などを背景といたしまして、年初来堅調に推移いたしまして、特に六月以降株価は一段と上昇傾向を強めまして、八月十四日には東証株価指数は二〇九ポイント、旧ダウ平均で申しますと二七四〇ポイントという
市場最高値を記録したのでございます。ところが週明けの十六日の
ドル防衛策発表当日は二一〇ポイントの急落を見せまして、その後四日間で実に五五〇ポイントの下落を示したのでございます。その下落率は二一%でございまして、
昭和二十八年のいわゆるスターリン暴落の際、二十三日間で二二%の下落率を示したことと比較いたしますと、今回の下げがいかにきびしかったか、いかに激しかったか、おわかりいただけるだろうと思うのでございます。
本連合会といたしましては、今回の暴落より一カ月ほど前の七月の九日に、
証券会社に対しまして、「
証券市場は、年初来活況の一途を辿りつつある
現状にもかんがみ、協会員は国際化された
証券市場の担い手として、苟しくも行き過ぎた投資勧誘に亘ることのないよう一層適正かつ慎重な態度を保持されたい」旨の通達を出しまして、強く業者に要望した次第でございます。また、暴落の直後におきましては、八月の十九日付をもちまして「
証券会社は
事態の推移を冷静に見極わめ、いやしくも
証券界の信用を失墜することのないよう一層慎重に行動されたい」旨、要請したのでございます。
東京証券取引所におきましても、株価の暴落に際しましては、理事長から一般投資者並びに
証券会社に対して同様の要請を行ないますとともに、信用
取引の委託保証金率の引き下げ、値幅
制限の強化など、
証券市場の安定化並びに秩序の維持のため所要の措置を講じたのでございます。
その後、八月二十八日の
変動為替相場制への
移行の際は、
証券市場は冷静にこれを受けとめ、
為替相場が安定的に推移いたしたこともございまして、
証券市場は波乱含みながら落ちつきを取り戻しておるのでございます。この間、
わが国証券市場が一日たりとも閉鎖という
事態に立ち至らずにその
機能を発揮し得ましたことは、関係
当局の御理解と御尽力並びに一般投資家各位の冷静な御協力のたまものでございまして、深く感謝の意を表するところでございます。
今回のような
ドル防衛策が講じられましたことは、
わが国の円の強さ、すなわち
わが国経済の力強きことが大きい原因でございまして、このような点から見ますと、今回の措置は
わが国経済の前途に致命的な打撃を与えるということではなくして、長期的に見ますなれば、新しい国際
経済の均衡のもとに
わが国経済は引き続いて着実に発展していくものと存ずるのでございます。と申しましても、
わが国経済が新しい国際的均衡に適応していくまでの調整過程におきましては、
わが国経済はきびしい試練に立たされるものと考えられます。
これに対処いたしまして、
政府当局におかれましては大幅な国債の増発を行ない、大規模な社会資本の充実と大幅減税を実施することを考慮されている旨承っております。このような思い切った
経済政策を実施いたしますことは、これまでややもすれば立ちおくれておりました社会資本を充実し、高度の福祉実現に資するのみならず、国際収支の不均衡の是正にも役立つものでございまして、私どもは全面的に賛意を表する次第でございます。
なお、このような新しい
経済政策を実施するにあたりまして、
輸出の減少によって特に打撃を受ける
中小企業に対し積極的な対策を講ずるなど、きめこまかい配慮を加えられるようにお願いいたしたいのでございます。
ここで、
証券市場の
立場から若干
意見を申し述べさせていただきたいと存じますが、まず第一は企業の自己資本充実についてでございます。
これは毎回毎回繰り返されたことでございますが、皆さまもよく御承知のように、
わが国企業の自己資本比率は諸
外国に比べまして著しく低く、最近では一七%を割るというまことに憂慮すべき
状況でございます。今後
わが国の
経済の国際化が進展いたしまして、企業が一そう激しい国際的な
経済変動にさらされるということを考慮いたしますと、企業の体質を一段と強化していくことが緊急の要務でございます。これがためには法人税の引き下げあるいは減価償却の促進など、内部保留を増加させる方策を講ずることはもとより必要でございますが、積極的に株式資本を増加いたしまして、これによって自己資本を増強するとともに、国際的な乗っ取り、買い占め等に対しましてあらかじめ備えておくことが特に肝要でございます。
現在、企業は、不安定な
国際通貨情勢による
輸出の減少、さらには将来予想される不況の到来に備えまして、それぞれの
立場からいろいろの対策を講じているところでございますが、最近の動向を見ますと、中には不況対策の一環として配当率の引き下げを検討している向きもあるやに聞いております。しかしながら、
経済の一時的な波乱に際会いたしまして、安易に配当率の引き下げをはかることは、企業の長期的な発展、企業の安定化の見地から非常に大きな問題があろうかと存ずるのでございます。この際こそ、企業経営者におかせられては株主尊重に徹せられ、配当の維持につとめられることが自己資本充実につながる道であると存ずるのでございます。
委員の皆さま方におかせられましては、この点について十分な御理解を賜わりまして、企業の当面する不況に対しましては積極的にその対策を講ぜられるとともに、税制その他諸般の
施策におきまして、企業経営者が配当を行ないやすくするような環境を整備していただきますように、本席をかりてお願い申し上げる次第でございます。
第二は国債発行に関する問題でございます。
まず、今後予定されております国債の発行は、その金額が大幅にのぼるということもさることながら、
日本経済が全く新しい局面を迎えた現段階において発行されるものであるということにつきまして、国民に十分理解を求めることが必要であろうかと存じます。
政府当局におかせられましては、国際的な
通貨不安という環境下での国債発行であればあるだけに、それが
わが国の
経済の安定、国民福祉の増進に資するものであるということを十分強く訴えるとともに、健全なる
通貨並びに国債は、国民が誇りをもって守っていかなければならない国民資産であるという意識を国民の間に高めていただく必要があろうかと存ずるのでございます。このためには積極的な国民運動を展開すべきでないかと考えておる次第でございます。
国債発行の姿勢といたしましては、
わが国が当面する
経済的難局に対処して、緊急、非常の措置として巨額の国債発行を行ないます場合は、あるいは市中消化によらず、その多くを
資金運用部
資金ないし日銀引き受けによって行なうこともやむを得ないものと存じますが、本来、国債発行に節度を持たせて、財政の健全性を貫くためには、発行条件、発行量等は
市場原理を踏まえて弾力的に決定さるべきであり、この意味から、長期的には原則として市中消化によらなければならないと存ずるのでございます。私ども
証券界といたしましては、長期
資金の
資金調達のにない手といたしまして、業界あげてその販売
体制の確立につとめ、個人消化の促進をはかりたいと存ずるのでございます。
どうぞ、
委員の皆さま方におかせられましては、国債の個人消化の見地から、償還期限、利率等、発行条件の弾力化の再検討、
証券市場におきますところの引き受け、流通
金融の拡充や流通
市場の一そうの整備をはかられますことはもとより、個人に対しましては税制上の配慮を厚くするなど、諸般の
施策を総合的に推し進められるよう御検討願いたいと存ずる次第でございます。
特に税制上の措置といたしましては、国債に対する別ワクによりますところの少額貯蓄の非課税
制度の限度額を引き上げられたいのでございます。限度額は現在五十万円、そのワクは明年一月には百万円に引き上げられることになっておりますが、国債の急増に対処するため、この限度額をもっとさらに拡大する必要がございます。そのほか、国債に対する相続税について何か特別措置を講ずるなど、国債を国民の
金融資産として一そう魅力あるものとされたいのでございます。
以上、今回の
ドル防衛措置に関連いたしまして所見を述べたのでございますが、
証券市場は
わが国経済の国際化の進展に伴いまして、国際的資本交流の場としていよいよその重要性を高めるのみならず、今後の国債発行を基軸とする長期
資金の
調達機関としてその責務は一そう重かつ大になってまいるのでございます。われわれ
証券業に携わるものといたしましては、この際、
証券市場がさらに円滑な
機能を発揮し得るよう、売買仕法の改善、投資勧誘態度の一そうの適正化、
証券会社の資産内容の充実をはかり、
証券界に負荷されました責務を果たしていきたいと存ずるのでございます。
どうか、皆さまにおかせられましては、私どもの意のあるところをおくみ取りいただきまして、
証券市場の健全な発展のため御配慮を賜わりますよう、特にお願い申し上げる次第でございます。
御清聴ありがとうございました。