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参考人(
河角庸君) それではロサンゼルスの
地震につきまして、私どもの見たことと、その南関東地域の
地震に対する
対策に参考になる点だけを簡単に申し上げます。
新聞などで御
承知のとおり、この
地震は
マグニチュード六・六という
地震でございます。これは
日本では中
地震と言われる
程度で、
昭和二十四年ごろだったと思いますが、そのころに起こりました今市の
地震とか、あるいは七、八年前に起こりました宮城県北部に起こった
地震、あるいは二年前に起こりました岐阜県の北部といいますか、中部といいますか、その辺に起こった
地震などと大体同じ大きさでございまして、入口の密度の低いところでは
日本でも十数人死んだかどうかといったような
程度の
地震で済んだと思いますが、今度のロサンゼルスの
地震は、近代大都市の近くに起こったという点で、非常に
東京付近に大
地震があるかと心配しているわれわれにとりましては、参考になる点が多いのではないかというふうに考えて
現地に参りました。しかし、この
地震が実はロサンゼルスの町の中心に起こらないで、北西の方向に、中心街から四十キロ余り離れた山の中に起こりまして、ほんのロサンゼルス市の一部分が先ほどから申し上げております烈震区域という、
日本の木造家屋が倒壊するような強さの範囲はほんの一部分、北西の部分がかかっただけでございます。ですからロサンゼルスの大ロサンゼルスと言われておるロサンゼルス市という中にまた幾つかの小さな市が含まれておりますが、それを含めた面積から考えますというと、おそらく二十分の一くらいのところの部分だけが被害を受けた
程度で済んだのでございまして、非常にしあわせであったわけでございます。そしてまたこの
地震が朝の六時零分という非常に都合のいいといいますか、しあわせな時刻に起こりまして、火を使っている家庭も少なかったし、また路上を走っておる車のラッシュの時間でもなかった、そういう点で非常に被害が軽く済んだわけでございますが、それにもかかわらず、近代施設の象徴ともいうべき高速
道路が非常に大きな被害を受けました。
それからまた、耐震設計をして昨年の十月に落成したというオリーブ・ビュー病院という病院が一階の柱がめちゃめちゃになりまして、こんなに傾いて、そしておそらく取りこわさなければならないようになると思いますが、そんな
程度の大被害を受けたという点で、いままで考えられていました普通の
地震の状況から考えますというと、何か耐震設計図に欠陥でもあったんではないか、あるいは施工の面でごまかしでもあったんじゃないかというような点をわれわれは問題にして行ったわけでございますけれども、
現地へ行ってみますというと、この
地震の震源の深さが十五キロ
程度というような非常に浅いものであった。そのために、震源の真上の震央と言われる点の周辺では、震源からの距離が近かったために非常に強い震動が起こりました。まあ、いままで
日本の
地震でも、その
地震力が重力と比べまして何%というような、その%で
地震力をあらわすことが
地震工学上は普通でございますが、そのあらわし方で言いますというと、
日本の建築基準法では、重力の三割、三〇%
程度の設計強度を取らなければいけない、三〇%
程度の
地震力を考えることに
日本ではなっておりますけれども、それを上回って、重力の一〇〇%というような
地震動が、アーチダムを持っている貯水池のすぐわきの山のはたの上で観測されましたし、それから、先ほど申しました大被害を受けた高速
道路とか、近代的な耐震設計をしたオリーブ病院などの辺では、重力のおそらく四〇%、五〇%というような
程度の
地震力が加わったものと考えられます。その上に、断層がその地帯に、ちょうどあらわれたのでございます。その断層は上下に二メートルくらいの落差が起こり、そして水平に北のほうの部分が西にやはり二メートルくらいすべるというような大きな動きを示しました。その断層からそういうふうな大きな動きを示したところから、十キロ
程度の距離に、いまのような病院とか高速
道路がありまして、その断層線の方向に、いまの施設のあった地域までずっと割れ目が地上に見えるというような地変の起こった地帯にあったわけでございまして、そういう狭い断層に沿って、その北側に約二、三キロの幅の地域が帯のようにつらなっておりまして、その部分だけが非常な被害を受けました。ですから、その被害区域の中にありましたガス管、水道管というようなものが、やはり非常に大きな被害を受けました。
日本の参考になる点は、高圧ガス管については、いままでは、ガス会社の
意見によりますというと、元せんを締めるから問題はないというふうに言われておりましたが、向こうでは、高圧ガス管が破裂しまして、
道路に直径二メートル以上というような穴が十数カ所にあくほどの勢いでガスが吹き出して、数時間それが吹き続けた。非常にしあわせなことに、その地域が密集市街地でなくて、郊外の非常にゆったりした住宅地でありましたために、漏れたガスに引火したのは、たった
一つの穴からだけでありまして、それもそばの電柱を焦がしただけで済んでしまいました。これが
東京のような密集市街地だと、やはり高圧ガス管が走っております。そして、
東京の中央区あたりの隅田川寄りに走っている鉄管は、直径が百十センチというような大きな鉄管でございますので、そういう高圧ガス管がもし切れて、そこからガスが噴出しましたら、大阪のガス爆発のような、ああいう事態ができたのではないか。私どもとしては、この問題は慎重に考えなければならない問題だということを教えられてまいりました。
まあ、その他の点につきましては、先ほどの高速
道路がこわれたというのも、
地震が非常に強かった、
日本の設計震度の指定されております三〇%
程度の重力とひとしい
地震力のおそらく倍くらいの震動があったという地域で、そうして耐震設計の設計された強度は、
日本で要求される強度の三分の二くらいの強さしがなかった。ですから、結局、設計された強度の三倍くらいの強い
地震動が働いたために、高速
道路も、そうして新しく建てられた病院なども被害を受けたと思います。しかも、その耐震設計をしました病院のほうは、建物はもう使いものにならないと思いますけれども、その中で死んだ人は、直接
地震によって破壊したコンクリートのかたまりに打たれて死んだという人がただ一人出ただけでございます。二百人余りの入院患者のうち一人だけであった。そういう点で非常に耐震設計というものが役に立ったと私は思っております。その同じ病院で、二階建で一階がぺしゃんこになってしまったのも起こりましたから、そういうのはほんとうは感心できないわけでございます。もし普通の日中で、人が働いている時期だったら、おそらく三、四十人の人がその建物の下敷きになって助からなかったと思いますが、全くペしゃんこに、柱がめちゃめちゃにつぶれて地面の上に落ちておりましたから、そういう問題もございますけれども、とにかく本格的に耐震設計をすれば、もう最大級の
地震の強さにも耐えられるという立証が得られたと私思いますので、ほんとうに
地震に耐えるような建物を建てれば建てられるという点で、非常に教訓を得たと思っております。
それからまた、高速
道路は、建物よりもさらに弱かったらしゅうございます。そうして、しかも、こわれた部分は三、四メートル、三十メートル以上といったような高いところを走っている橋のようになった部分でございまして、そういうところが、
日本に比べますと非常に細い橋脚が折れたり、あるいは橋げたがはずれたりしまして、落ちたものでございまして、そういう点から見て、
日本の高速
道路というのは、アメリカから見ますというと数倍の耐震設計が行なわれていると思いますので、その点ではかなり安心感が得られたと思っております。
あとの問題は火事の問題ですけれども、火事の問題は、今度のアメリカの場合は、先ほど申しましたように、非常に広い空地を持った住宅地だけが
地震力が強かったわけでございますので、そういう点で木造住宅はほとんど被害がございませんでしたし、したがって、火事もほんとうにばらばらに起こっただけで、一軒燃え上がっても、消防が全然来てくれなかったのに、ただ一軒灰になっただけで、隣の家のペンキがちょっと焦げる
程度で済んだというふうな被害状況であったのは、ほんとうにまあ、うらやましいと感じました。
日本と比べまして、
道路が広がったり、また
道路から五メートルくらい引っ込んで家は建てなければいけないという規則になっていたそうでございまして、そういう点で、また、隣との間も空地があるというような、非常に緑の中に家が建っているというような状況でございましたので、被害はほとんどなくて済んだ。火災というのは、もうアメリカでは、ほとんど郊外の住宅地もたいして問題ありませんし、また、中心街のようなところは不燃建築が多いわけでございますので、そういう点でも、火事の問題はそれほど心配にならなかったと思います。
ただ、今度の
地震で超高層ビルなどの耐震性について十分ほんとうの試験ができたわけではございません。ロサンゼルスの中心街には超高層ビルもずいぶん幾つかございましたけれども、その辺に働いた
地震力というのは、
日本の耐震設計の基準から見ますというと、まあ最高重力の三〇%くらいの強度を持たせるというものから見ますと、その半分か三分の一くらいの震動しか働かなかったために、超高層ビルが無事に残ったとしても、別にそれで設計がいいとか安心だとかというわけにはいかないのじゃないかと思うわけでございまして、そういう点から見まして、耐震設計の問題は、超高層ビルに関する限り、まだほんとうに安心がいくというようなデータが今度の
地震で得られたというわけではございませんけれども、今度の
地震のかなり強かった地域内に、アメリカでは強震計が二百七台くらい据えつけてありまして、そのうちの九〇%が完全な記録がとれました。それで、その記録と、建物の上に置かれた強震計も記録がとれておりますので、そういうものを解析しますというと、やはりそのほうからその建物の耐震性の判断もある
程度はできるかと思いますから、将来そういう問題についての参考になる結論が出てくるかと思いますが、ただ
一つ問題は、この
地震があまり大きくなかったために、超高層ビルのようなものに共振れを起こして、そうして大きくなるというような、そういう長い周期の震動が含まれていなかったという点で、今度の
地震だけで向こうの超高層ビルの耐震性が十分チェックできるとは限らないかとは思いますけれども、まあしかし、…普通の建物、先ほど言いました激震地にあったオリーブ・ビュー病院などがあの
程度に持つことを考えますと、超高層ビルも
地震のときにかなりだいじょうぶではないかという見通しはつくと思いますけれども、大きくゆれるということは避けられないと思いますので、まあ霞が関ビルのような、ああいう大きなビルで、そして日中になりますというと二万人から五万人というような人がいるときがあるというふうに考えられております建物で非常に大きくゆれる場合に、中にいた人たちがパニックを起こさないという保証はございませんので、そういう面から、もっと、どの
程度ゆれるかという可能性について本格的な研究を積み重ねて、
日本の超高層ビルのそういう点をチェックしておくようにと、ぜひ
お願いしたいと思うわけでございます。このことは、先月の十二日にありました
衆議院のほうの災害
対策特別
委員会でも
お願いしたわけでございますけれども、非常に私としてはその問題が心配になりますので、その点をまた重ねて
お願いしたいと思います。
長くなりまして、どうも恐縮でございました。