○
吉田忠三郎君 私は、
日本社会党を代表して、
昭和四十六
年度予算三案に対し、
反対の意思を表明いたします。
佐藤内閣は、
政権の座にあることすでに六年有余の長きに及んでおります。その
政権の長さと反比例して、
国民の
不満はますます増大しているのであります。その
理由は、
佐藤内閣の
公約が少しも実現されていないからであります。
佐藤内閣は、
池田内閣の
経済政策を
生産第一
主義の
高度成長政策であると批判し、
経済の
安定成長によるひずみの
是正、
人間尊重の
政治と
社会開発を進めることを
最大の
公約とし、
昭和三十九年に
政権を担当して以来、この問題を提起をいたしておったのであります。しかし、その後の
実績は、
公約とはうらはらに、
池田内閣時代を上回る
生産第一
主義、超
高度成長の
経済政策となっているのであります。
経済のひずみは
是正されるどころか、かえって拡大し、
消費者物価は
上昇率を高め、
公害は
日本国中至るところで
発生しており、
国民はいまや、
インフレと
公害に対する
政府の
無策ぶりに
不満を通り越して憤りをさえ感じているのであります。人口の
都市集中によって
交通事故は年々ふえるばかり一であります。
交通事故による
死傷者の数は、
昭和四十年以降、昨年までで実に四百四十五万人にも達しているのであります。これではたして
経済の
安定成長によるひずみの
是正が実現されたのでありましょうか。
人間尊重の
政治が実現されたと言えるのでありましょうか。
佐藤総理は、
委員会においてわが
党委員の
質疑に答え、
事志と反したと述べておりますが、そのいなかは別として、基本的な
路線は、
佐藤内閣の
政策によって方向づけられてきたことはまぎれもない事実であります。
また、
社会開発はどうでありましょうか。
民間企業の
設備投資が年々三〇%近い
伸びを示したのに対し、
政府投資支出や
個人消費支出の
伸びはその半ばに近い
伸びにとどまっているのであります。特に
社会資本の立ちおくれははなはだしく、
下水道の
普及率のごときは、人口
普及率でわずか二〇%で、
米国の六八%、英国の九〇%、西独の六〇%などに比べ最低の
普及率であります。また、住宅難世帯の数はいまなお三百六十万世帯にも及び、さらに高い家賃や居住面積の狭さなどから、住宅に
不満を訴えるものの数を加えれば九百万世帯にも達すると言われているのであります。また、老人や身体障害者等、恵まれない人たちに対する
社会保障の立ちおくれ、農政や中小
企業対策の失敗、
税制の不公平等々、生活面における
政策の不在は、今日ほどはなはだしいときはないと言っても過言ではないのであります。
佐藤総理は、最近になって初めて、「福祉なくして
成長なし」と言われるようになりましたが、これまでは、毎
国会の施政
方針演説において、GNPが自由
世界第二位になったことを誇らかに強調してきたのであります。これは
佐藤内閣の
経済政策がGNP至上
主義の
経済政策であったことを端的に示すものであります。
佐藤内閣の
政治姿勢、
経済政策こそが、今日のような
物価や
公害をはじめとする各種のひずみを招いた根本の
原因であります。七〇年代の
経済政策の
目標は、もはや
国民総
生産ではなくして、
国民総福祉でなければならないとわれわれは
考えるものであります。
この意味において、今日ほど財政金融
政策をはじめとするあらゆる
経済政策が、
成長優先から福祉優先の
政策へ、産業優先から生活優先へと
政策転換を要求されているときはないと
考えるのであります。
昭和四十六
年度予算は、七〇年代の第二
年度目の
予算として、真に
人間尊重の
政策、生活優先の
政策実現に向かってさらに一歩を進めるべき重要な
予算であるにもかかわらず、何らその
政策に前進が見られないのであります。わが党が
昭和四十六
年度予算案に
反対する基本的な
理由は、この
予算が
政府の言うような中立機動型の
予算ではなくして、財政民主
主義に逆行した
経済成長優先の景気刺激型の
予算であり、高福祉高負担ならぬ高
物価高負担の低福祉
予算であるからであります。
以下、おもなる事項についてその
理由を申し述べます。
その第一は、四十六
年度予算と景気見通しとの関連であります。
政府は、四十六
年度の
経済を、過熱もなく大きな落ち込みもない
安定成長の
路線に乗せるため、
予算を
経済に対し中立的な性格のものとし、
経済情勢の変化に機動的に対処できるように中立機動型の
予算であるとしておりますが、
一般会計予算の
伸び率は一八・四%、
財政投融資計画の
伸び率は一九・六%と、いずれもGNPの名目
成長率を上回っております。殊に
一般会計予算の
伸び率は、戦後
最大の不況といわれた四十年不況克服のため公債
政策まで導入して
編成された四十一
年度予算の
伸び率を上回るばかりでなく、三十八
年度以降の
最大の
伸び率であります。また、
政府がこれまで、
予算が
経済に対し刺激的であるか抑制的であるかを判断する場合の論拠としてあげてきた
国民経済計算上の
政府財貨サービス購入の
伸び率とGNPの名目
成長率との
関係を見ましても、四十六
年度は、
政府の財貨サービス購入の
伸び率は一五・四%で、GNPの名目
成長率を上回っており、中立的
予算どころか、近来にない景気刺激的な
予算となっているのであります。ことに、四十六
年度はGNPの
実質成長率が一〇・一%と見込まれており、
政府みずからが
経済社会発展計画で
安定成長のめどとして示した年率一〇%台の
成長が見込まれているにもかかわらず、
実質成長率が五%という低さであった四十年不況克服のため
編成された四十一
年度予算の
伸び率を上回る
予算を組んだことは、
経済に対して中立的な性格とするという
政府の
予算編成方針に反するばかりではなく、すでに実施済みの二次にわたる日銀公定歩合の引き下げ、
財政投融資の三次にわたる追加、その追加額は二千百四十
一億円で、四十年不況の際の千九百八十八億円を上回っていることと相まって、これまでの超
高度成長によって
インフレ的な体質になっている
日本経済の
インフレ化を一そう
促進する以外の何ものでもないのであります。四十六
年度予算は、
物価の安定より
経済の
成長を、生活より産業を優先させた
予算であることは明白であると言わなくてはなりません。さらに問題なのは、
経済情勢の変化に即応して財政を機動的に
運用するためといって、一般会計の予備費や使途を特定しない国庫債務負担行為の額をふやし、公庫、公団等の債券や借入金の限度額を七千百三十八億円も拡大し得る
措置を講じていることであります。もしこの弾力条項をフルに発動いたしますならば、
財政投融資の
伸び率は実に三九・五%にも達するものであります。このような多額の財政資金を行
政府限りの判断で支出し得る
措置を講ずることは、使途を明示して
国会の議決を求める
予算原則に反するばかりではなく、財政民主
主義に逆行する
措置と言わなくてはなりません。もとより、われわれは、不況時における財政
措置の必要性を否定するものではなく、そのやり方を問題にしているのであります。
不況対策として財政
措置が必要ならば、なぜ補正
予算を組まないのでありましょうか。
政府は、四十三
年度予算以来、総合
予算主義の名のもとに、補正
予算を組むことを避ける
方針をとってきておりますが、いままた財政の機動的運営の名のもとに、弾力条項を拡大し、行
政府限りで財政支出を行ない得るワクを七千億円も拡大しようとしております。これは、まさに財政民主
主義を事実上空洞化するものであり、
国会軽視もはなはだしい行為と言わなくてはなりません。
その第二は、
税制の
改正であります。
政府は、四十六
年度において、初
年度千六百六十六億円の
所得税の
減税を行なうこととしておりますが、その反面、
社会資本整備の
財源に充てるためと称して
自動車重量税の
創設を行なっておりますので、
実質減税の額は千三百八十七億円にすぎず、
租税の自然増収に対する
減税の割合はわずかに九・三%で、
実質減税ゼロと言われた四十三
年度を除けば、過去十年来の最低の
減税額と言わなくてはなりません。特に
所得税の
減税は
基礎控除、配偶者控除、扶養控除の各一万円
引き上げを
中心とした
課税最低限の
引き上げであり、税率の緩和や大
企業、資産
所得者、医師等に対する
優遇措置のため四千三百九十四億円もの減収になっている
租税特別措置には、ほとんど手がつけられておらないのであります。まさに負担の不公平は、
是正されているどころか、かえって拡大しているのであります。また、
自動車重量税の
創設は、当然、
総合交通体系の
確立を待って行なうべきであるにもかかわらず、
予算の
編成の直前になってその新設をきめたことは、高福祉、高負担の名のもとに高負担だけを先行せしめるものであり、
物価高にあえぐ
国民生活の実情を無視するもはなはだしい
税制改正と言わなければなりません。
その第三は、
物価対策であります。
佐藤内閣は、新
経済社会発展計画において、最終
年度までに
消費者物価の
上昇率を三%台に下げると約束をしておりますが、新
経済社会発展計画の
発足した初
年度である四十五
年度で、すでに七・三%の
上昇が見込まれているのであります。
政府は、四十六
年度予算の
編成にあたっては、
物価の安定には格段の配慮をしたと言っておりますが、
不況対策を第一にした景気刺激
予算を組み、
物価対策の基本である総需要の抑制を無視した
政策をとっております。また、
物価対策関連
予算を一般会計、特別会計を合わせて前
年度より千六百五十億円増額をしたと
説明しておりますが、
物価対策に
関係のある
予算を集計したにすぎないこのような
予算の額を示しただけでは、現在の
物価情勢に対処できないことは、昨
年度の例を見ても明らかであります。昨
年度の
物価対策関連
予算は千百九十七億円増額されておりますが、
物価は七・三%も
上昇しているのであります。また、公共料金を厳に抑制すると言いながら、財政体質の改善を
理由に、郵便料金や電報料金の値上げ、
健康保険の保険料の値上げを行ない、また、
消費者米価に対する物統令の
適用を廃止し、公営、公庫、公団等、
政府施策、住宅の家賃まで値上げが予定されているのであります。しかも、最も問題になっている生鮮食料品
対策の
予算は、わずかに三十八億円増額されたにすぎず、管理価格や再販価格維持制度、地価
対策等について何ら前進した
対策は見られないのであります。これでは、
政府見通しの五・五%にとどめることが困難であることは火を見るより明らかであります。まさに
物価政策不在の
予算と言わなくてはなりません。
その第四は、
公害対策であります。
公害対策については、
政府は、
物価対策とともに最重点を置いたと
説明しておりますが、四十六
年度の
公害対策予算は、一般会計、特別会計を通じて九百三十億円で、
増加額はわずかに二百六十四億円にすぎないのであります。しかも、その七割は
下水道事業費であり、
公害被害者の救済、監視員の増員、
公害倒産の多い中小
企業の
公害防止施設に対する援助等の経費はきわめて不十分であります。また、
年間五千九百万トンにものぼるといわれる産業廃棄物処理施設に対する補助のごときはわずかに一億円であります。四十六
年度予算は、さきの臨時
国会で成立した十四の
公害立法を財政的に裏づける重要な意味を持つ
予算であったにもかかわらず、ほとんどが地方公共団体まかせの
予算になっているのであります。
大蔵大臣は、本
委員会における
答弁で、四十六
年度予算で、気持ちの上で最も力を入れたのは
物価と
公害であると述べておりますが、まさに気持ちだけであると言わなくてはなりません。もとより
公害対策は、
予算をつけるばかりが
対策ではなく、
経済政策、エネルギー
政策、都市
政策等、その
政策の根本にさかのぼって
対策を講じなければならぬことは言うまでもありません。しかし、それらの
政策についても何ら前進したものは見られないのであります。
その第五は、
社会資本の
整備についてであります。四十六
年度予算では、公共事業費は一九・七%と一般会計全体の
伸び率一八・四%を上回る高い
伸び率を示しておりますが、
予算額の半分以上は、
道路や港湾等産業
関係の輸送の隘路打開のための投資であり、住宅
対策費や
生活環境施設
整備費は、わずかに一二・八%を占めるにすぎません。また、四十六
年度から住宅、
下水道、港湾、交通安全施設等の五つの五カ年
計画を
発足させることとしておりますが、膨大な事業
規模を示しただけで、用地確保や
財源対策は何ら示していないのであります。特に、住宅については、今後五カ
年間に九百五十万戸の住宅を建設することとしておりますが、建設戸数の六割は民間の自力建設に依存しており、
計画達成に必要といわれる七万五千ヘクタールに及ぶ宅地開発や資金
対策は何ら示されていないのであります。都内で坪十万円以下で買える土地がほとんどないというような
政策不在の地価
対策、国有農地を坪二円六十銭でそのまま売り戻そうとするような土地
政策のもとで、三百六十万世帯といわれる住宅難世帯の
解消が、はたしてできるものかどうか、疑問とせざるを得ないのであります。また、
国鉄についても、
道路や航空等他の交通機関との
関係を
考えた総合的な交通体系を
確立した上で、真に利用者の立場を
考えた再建
計画を立てるべきであるにもかかわらず、これまで工事勘定に充ててあった財政再建債を損益勘定に繰り入れて収支を合わせるという、全くその易しのぎの
対策にとどまっているのであります。
その第六は、
社会保障についてであります。公共事業費は四十
年度予算以来最高の
伸びを示しているのに対し、
社会保障関係費はわずかに一七・八%の
伸びにとどまっており、前
年度予算の
伸び率二〇%をさえ下回っているのであります。また、その
内容を見ても厚生年金や福祉年金の
引き上げ、生活扶助基準の
引き上げ等、
物価上昇に伴う当然の
措置と、形ばかりの児童手当を実施するにとどまっているのであります。特に、児童手当については、その実施時期を四十七年一月からとし、四十六、七
年度は五歳未満までとした結果、四十六、七
年度に実際に支給される人員は、この制度を完全実施した場合の対象人員二百四十七万人のわずか三八%に当たる九十三万人にすぎないのであります。また、公共事業
関係の五ヵ年
計画はすべて認めているのに対し、老人福祉施設や身体障害児の収容施設、保育所などを緊急に
整備しようという
社会福祉施設整備五ヵ年
計画は見送られております。また、
健保の
再建対策については、保険料の
引き上げや国庫負担の定額制から定率制への切りかえなどにより、単
年度の収支を
均衡させるような
措置がとられておりますが、
医療保険制度改革の車の両輪とされている診療報酬体系の適正化には、何ら手をつけていないのであります。現在の診療報酬体系は、主として薬や注射の使用量によって支払われ、乱診乱療や医療費を急増させている
最大の
原因であります。
国民の総医療費は四十五
年度で二兆五千億円といわれ、年々の医療費の
増加額の四〇%は、投薬や注射代だといわれているのであります。今回の
再建対策は、これまで
政府が表明してきた抜本
対策の
公約に反するばかりでなく、財政再建に名をかりて一方的に被
保険者や患者に負担を転嫁するもので、断じて許すことはできません。
第七は、農業及び中小
企業対策であります。
政府は、今
年度予算で、
食管赤字と
過剰米の
増加を
理由に、二百三十万トンにのぼる米の
生産調整を行なうとともに、
政府の買い入れ量を五百八十万トンに制限し、
消費者米価に対する物統令の
適用を廃止することとしております。これは、これまで
政府が約束してきた
食管制度堅持の
公約に反するばかりでなく、
自立経営農家の育成を
目標として進めてきた基本法農政の失敗を
農民と
消費者に転嫁するものであります。また、
生産調整を今後五カ
年間続けるとしておりますが、それまで他
作物に転換し得る具体策は何ら示していないのであります。また、中小
企業は、景気の転換期と
経済の国際化の中で、経営は一そう困難の度を加えているのに、中小
企業対策費は前
年度予算の
伸び率を下回っております。
政府のいう福祉社会建設のための諸
施策は、いずれも不徹底に終わっているのであります。これに対し、防衛
関係費は、三次防の最終
年度の
予算とはいえ、前
年度予算に対する
伸び率は一七・八%と、文教及び科学振興費の
伸び率一六・五%を上回り、自衛隊
発足以来、最高の
伸び率を示しております。特に四十六
年度は六千七百九億円の歳出
予算とともに新たに艦船や航空機を調達するため、国庫債務負担行為及び継続費で二千五百六十四億円の後
年度負担を約束しております。五兆七、八千億円といわれる四次防の
計画規模と相まって、内政費の大きな圧迫要因となろうとしております。このような防衛
予算の計上は、
日本軍国主義復活に対する諸
外国の疑惑を一そう深めさせるものであり、
国民の納得を得ることはできません。
以上述べましたように、四十六
年度予算は、財政民主
主義に逆行した
経済成長優先の景気刺激
予算であり、高
物価、高負担の低福祉
予算であります。
日本社会党は、このような
予算に絶対賛成できません。
以上をもって私の
討論を終わります。(
拍手)
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