○矢山有作君 私は
日本社会党を代表し、ただいま提案のありました
環境庁設置法案に対し
質問をいたします。
昨年の臨時
国会において、公害対策基本法をはじめとする十四件の
法律が成立し、おくればせながら、
わが国の公害対策もようやくその第一歩を踏み出したのでありますが、今
国会の冒頭明らかにされた石原産業の工場排水問題をはじめ、東邦亜鉛のカドミウム公害などに見られるごとく、行政官庁と企業の癒着公害が大きな問題になっております。これらの癒着公害にあらわれた特色は、専門家や研究家が公害の危険性ないしその発生を指摘すると、きまって、監督官庁は企業と一体になってそれを無視しようとし、データがあっても役所特有のマル秘扱いで公表をせず、住民運動が起こり、
国民が騒ぎ出すと部分的な
調査をやり、官庁の息のかかった御用学者などを集めた
審議会をつくり、その結論は、直ちに人体に影響があるとは思われないと、おきまりの
説明を繰り返します。ことに私は行政官庁と企業の密着し過ぎる姿を見るわけであります。すなわち、癒着公害であります。
わが国の過去の公害がそうであり、今日発生しつつある公害についてもまたそうでありますが、こうした癒着公害は、日本の公害の一つのパターンになっていると言って過言ではありません。熊本県の水俣病についても、新潟県の第二水俣病についても、常に役所は大なり小なり癒着公害の役割りを果たして、企業の利益擁護の立場に立ってまいりました。このことは、
わが国歴代の保守党
内閣の官僚
内閣の性格とも全く無
関係であるとは言い切れないものがあると思うのであります。なぜなら、日本の官僚は問題解決をなるべく引き延ばし、ほとぼりをさまし、最小限度の
措置しかとらない、いわば現状追認の習性を身につけているからであります。
佐藤内閣もその例外ではございません。昨年、
国民世論と住民を主体とした活発な公害告発が行なわれるまで、言を左右にしてその対策を引き延ばし、しかも、でき上がった公害対策十四法は、
国民が強く要望した公害罪法は財界の圧力によりすっかり骨抜きになり、被害者救済の有効な
措置をとらず、せいぜい有害物質の排出基準を最小限度引き上げたにとどまったのであります。今回提案された
環境庁設置法案が、こうした癒着公害の根源を絶滅してくれるという保証はどこにもないように感じられ、へたをすると、癒着公害の屋上屋を重ねる危険すらあるのではないかと
考えるのでありますが、
内閣の心がまえや、役人の心がまえを説くのはすでに何回か聞きましたので、
環境庁の設置が、こうした癒着公害を有効に
防止できるという
根拠を
総理並びに総務長官から明確にしていただきたい。
次に、
環境庁の設置と公害
防止上の諸問題をただしたいのであります。
環境庁の設置は、形の上で公害行政の一歩前進という向きもありましょう。しかし、提案された本
法案は、
国民が
期待していた
環境庁の設置とは、だいぶ距離があることもまた否定できないところであります。そこで、まず本
法案が公害問題をある程度生態学的な広い視野からとらえ、
環境保全という理念をも盛り込んでいる点はそれなりに評価できるのでありますが、逆に
環境庁の施策の重点が、肝心な公害対策そのものよりも、その焦点が自然保護というばく然としたものに傾き過ぎ、施策が焦点ぼけになったのではないでしょうか。所掌事務及び権限を定めた第四条を見ますと、「温泉に関する観光事業を指導
育成し、これらに関する利用施設の整備改善を図る」とか、「景勝地及び休養地に関し、
調査を行ない、これらの普及発達及び利用の増進を図る」とか、「温泉法の施行に関する事務を処理する」等々があるのでありますが、もちろんこれらが人間
生活を快適に保つための
環境保全の一つとなることを否定するものではありませんが、そうした分野までを含める前に、今日
国民の健康をむしばんでいる公害、たとえば、食品公害、農薬公害、薬品公害等がなぜ取り上げられ、
環境庁の所掌に入れられなかったのでありましょうか。
国民が
環境庁新設に
期待していたのは、前に述べました癒着公害の根源の一つが縦割り行政の結果であることを
国民はいやというほど知り尽くしておりますから、公害
防止行政を新設の
環境庁で、従来の縦割り行政の弊を一蹴し、一元的にやってくれるということではなかったかと思うのであります。
環境庁の機構や機能の当初の構想が各省庁の抵抗によって大きく後退し、最も肝心な
環境庁に移すべき行政分野を既存の役所に置いたまま、従来、担当の役所が軽視していた部門だけを
環境庁に集め、これに自然保護の名をかぶせた感が強いのであります。これでは
環境庁の業務としては優先順位を間違えており、このような政策選択を間違えた
環境庁に
国民は失望しております。
環境庁の重点は公害対策にあったはずであり、これが出発点であります。なぜ食品公害、農薬公害、薬品公害等を
環境庁の所掌事務になし得ないのか、本
法案作成の責任者である総務長官と、さらに農林、厚生両
大臣からは、移管することによってどんな弊害があるのか伺いたい。
次に、第四条に掲げる
環境庁の権限として、「
環境の保全に関する事務の総合調整」の規定に関連してお伺いしたい。たとえば、食品公害、農薬公害はもちろんでありますが、そのほか、通産行政については電力、ガスなど、いわゆる公害を発生しやすい業種を管理監督しておる既存の行政官庁の仕事のうちで、ことに許可、認可事務を処理する場合の前提条件として、
環境庁の
承認を得ることがぜひ必要ではないかと存じますが、本
法案では、この点が不明であります。この点どうなっているのか承りたいのと、もし許認可に関連して、
環境庁の
見解と監督官庁の
見解とが相反した場合には、公害に前向きに取り組み、その解決をはかるという本
法案の
趣旨からして、当然、
環境庁の
見解が採用され、許認可は中止さるべきだと解するのでありますが、その保障は本
法案の中に明記されておりません。この点は明記すべきだと思いますが、
総理の
見解を承りたい。
さらに、
環境庁は公害
防止の企画調整官庁なのか、企画
実施官庁なのか、その性格を伺いたいのであります。
環境庁がもし企画調整官庁としての性格しか持たないというのであれば、この庁の命運ははっきりしております。なぜならば、
わが国の官庁機構の中では、米国式の行政委員会的な官庁は必ず盲腸的役割りに終わっているからであります。行政管理庁、公正取引委員会、人事院、経済企画庁、みなしかりであります。行政管理庁が監察結果の勧告を各省庁に出しても、真剣に取り入れられることはほとんどなく、勧告倒れに終わるのが落ちであり、経企庁の存在もこれと五十歩百歩で、日本経済の動向に有効な力を発揮するのは、いつも経企庁ではなく、大蔵省であり、通産省であり、建設省等であります。こうした事実を
考えた場合、
環境庁が単に総合調整を主要な役目であるとするならば、これら官庁と同様の役割りしか果たし得ず、必ずや
環境庁に寄せるささやかな
国民の
期待すら裏切るでありましょう。もし
実施官庁としての役割りを果たさせようというのであれば、今回の
法案では不可能でありましょう。
環境庁に
実施官庁的な性格を持たせるというのであれば、各省庁のいかなる分野までを
実施することとなるのか、総務長官から明らかにしていただきたい。
この
環境庁は、何としても中途はんぱな新機構づくりと断ぜざるを得ません。
イギリスの
環境省が、住宅、運輸、土地問題までも含めた真に
国民生活の快適な
環境づくりをやっており、また、スウェーデンの
環境保護庁しかりであります。そして先進国では、この種の役所は
環境破壊に対処する明確なビジョンを
国民の前に提示して、文化的にも豊かな明日の
国民生活のあり方を明らかにしております。私は、
わが国の場合にも、真に経済的、文化的に豊かな
国民生活を築き上げるためには、
環境破壊を食いとめ、自然保護をはかるという発想はやや消極的に過ぎるのではないかと存じます。もっと積極的に自然保護にプラス人間のしあわせのための自然
環境の建設と開発に取り組むべきだと思います。
環境庁を設けるからには、そうした
環境建設、開発政策が大前提になくてはならないにもかかわらず、本
法案中にそれがありません。そうした積極的意味を持った
環境建設、開発政策の
観点からは、全国総合開発計画はもちろん、住宅、道路等々の長期公共投資計画等、明日の
国民の暮らしを考慮した各種の
政府の建設計画の調整は
環境庁の権限でないのでありましょうか。これら
政府計画が自然
環境破壊の有力な原因なのに、これを放置して、どうして真の人間
生活に値する自然
環境の建設、開発ができるのでしょうか。全総計画をはじめ、各種の長期公共投資計画と
環境庁の業務のあり方について、
総理、経企庁長官と総務長官の
見解を承りたい。
次に、公害被害者の救済と
環境庁の
関係について伺いたい。−
わが国の公害対策の中で一番おくれているのが公害被害者の救済対策であることは、多くの人々から指摘されてきたところであります。現行のそれが不備なことは、
厚生大臣もしばしば、「決して十分ではない、
改正を考慮する」と言ってきたことでも明らかであります。公害病にかかった人たちの八割以上が入院、治療代筆の出費、収入減によって
生活難におちいっていることは、昨年十二月十六日の朝日新聞の
調査でも明らかにされたところであり、これらの人々が二重、三重の苦労を背負わされていることは
政府も十分
承知しているところであるにもかかわらず、なぜ今回新設の
環境庁がこの業務を担当することにしなかったのか承りたい。
さらに、公害によって農地の使えなくなった農民、工場排水によって漁業で
生活できなくなった漁民
諸君など、激増する公害によって、公害患者、被害者は広範囲にわたっておるのでありますが、なぜ
環境庁の業務として救済対策に万全を期することにならなかったのでありましょうか。人間尊重を口にする
佐藤内閣が新設する
環境庁で、もし言行一致を
考えるなら、当然、公害被害者救済をどう扱うかが、まず明白にされなければならないのであります。なぜ公害被害者救済を明確に規定し、掲げないのか、承りたい。さらに、公害被害者救済対策の今後の方針を
厚生大臣からお示し願いたい。
次に、先般、行政管理庁から改善勧告を受けた農薬公害について、なぜ有効な
防止対策をとらなかったのか。農民の中には、BHCやエンドリン農薬の使用を奨励した農林省の
措置を行政公害だと主張し、国に補償を求める声も強まっていると聞くのでありますが、その
実情と
政府の立場、今後の方針を承りたい。
さらに、本
法案第四条第二十二号の規定と、その製造認可権との関連及び農薬行政の今後の方針について農林
大臣に伺いたい。
最後に、
厚生大臣に、薬品と
環境庁の
関係について伺います。かつて、不幸な奇形児問題を起こしたサリドマイド薬品、最近では、整腸剤キノホルム、頭痛薬アセトアニリド等が実は有害薬品ではないかと言われており、また、大衆保健薬が、その効能はほとんどないと言われております。昨今、米国のFDAは三百六十九種類もの有害ないしは無効の不良薬品を指摘しております。
わが国では、現在十一万種類の薬品が販売されているそうですが、この米国並みの点検を行なえば、合格するのはたったの二千種類くらいしかないという学者もあるのであります。このように、
わが国の薬品については、うそつき薬品、不良薬品による
国民の健康をむしばむ薬品公害が横行していると言っても過言ではありません。この
実情を
考えると、
環境庁の総合調整業務に薬品の安全性を加え、規定すべきだったと存じます。薬といえば厚生省の専売特許のように
考えておられるようでありますが、過去の医薬行政は、この薬品公害に何らの有効な役割りを果たさなかったばかりか、一部には、医薬行政が隠れみのに使われたとの批判すらあるのであります。薬品公害
防止の今後の方策並びに
環境庁業務との調整について
厚生大臣の所見を承りたいのであります。
以上で私の
質問を終わります。具体的かつ明快な御
答弁を
期待いたします。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕