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1971-01-29 第65回国会 衆議院 予算委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年一月二十九日(金曜日)     午前十時三分開議  出席委員    委員長 中野 四郎君    理事 田中 正巳君 理事 坪川 信三君    理事 藤田 義光君 理事 細田 吉藏君    理事 大原  亨君 理事 田中 武夫君    理事 鈴切 康雄君 理事 今澄  勇者       足立 篤郎君    相川 勝六君       赤澤 正道君   稻村左近四郎君       植木庚子郎君    小沢 一郎君       大坪 保雄君    大野 市郎君       大村 襄治君    奧野 誠亮君       賀屋 興宣君    唐沢俊二郎君       川崎 秀二君    上林山榮吉君       小坂善太郎君    國場 幸昌君       笹山茂太郎君    田中 龍夫君       登坂重次郎君    灘尾 弘吉君       西村 直己君    野田 卯一君       福田  一君    松浦周太郎君       松野 頼三君    森田重次郎君       石橋 政嗣君    阪上安太郎君       辻原 弘市君    楢崎弥之助君       西宮  弘君    原   茂君       細谷 治嘉君    安井 吉典君       相沢 武彦君    大久保直彦君       坂井 弘一君    正木 良明君       岡沢 完治君    竹本 孫一君       谷口善太郎君    松本 善明君  出席国務大臣         内閣総理大臣  佐藤 榮作君         法 務 大 臣 小林 武治君         外 務 大 臣 愛知 揆一君         大 蔵 大 臣 福田 赳夫君         文 部 大 臣 坂田 道太君         厚 生 大 臣 内田 常雄君         農 林 大 臣 倉石 忠雄君         通商産業大臣  宮澤 喜一君        運 輸 大 臣 橋本登美三郎君         郵 政 大 臣 井出一太郎君         労 働 大 臣 野原 正勝君         建 設 大 臣 根本龍太郎君         自 治 大 臣 秋田 大助君         国 務 大 臣         (内閣官房長官)保利  茂君         国 務 大 臣         (総理府総務長         官)      山中 貞則君         国 務 大 臣         (国家公安委員         会委員長)         (行政管理庁長         官)      荒木萬壽夫君         国務大臣         (北海道開発庁         長官)         (科学技術庁長         官)      西田 信一君         国 務 大 臣         (防衛庁長官) 中曽根康弘君         国 務 大 臣         (経済企画庁長         官)      佐藤 一郎君  出席政府委員         内閣法制局長官 高辻 正巳君         内閣法制局第一         部長      真田 秀夫君         総理府統計局長 関戸 嘉明君         公正取引委員会         委員長     谷村  裕君         防衛庁長官官房         長       宍戸 基男君         防衛庁防衛局長 久保 卓也君         防衛庁装備局長 蒲谷 友芳君         防衛施設庁長官 島田  豊君         経済企画庁国民         生活局長    宮崎  仁君         科学技術庁長官         官房長     矢島 嗣郎君         法務省民事局長 川島 一郎君         外務省アジア局         長       須之部量三君         外務省アメリカ         局長      吉野 文六君         外務省条約局長 井川 克一君         外務省国際連合         局長      西堀 正弘君         大蔵省主計局長 鳩山威一郎君         国税庁長官   吉國 二郎君         厚生省公衆衛生         局長      滝沢  正君         厚生省医務局長 松尾 正雄君         厚生省社会局長 加藤 威二君         厚生省児童家庭         局長      坂元貞一郎君         厚生省保険局長 戸澤 政方君         厚生省年金局長 北川 力夫君         農林大臣官房長 太田 康二君         食糧庁長官   亀長 友義君         通商産業省通商         局長      原田  明君         通商産業省公害         保安局長    莊   清君         通商産業省重工         業局長     赤澤 璋一君  委員外出席者         予算委員会調査         室長      野路 武敏君     ————————————— 委員の異動 一月二十九日  辞任         補欠選任   小川 半次君     唐沢俊二郎君   小坂善太郎君     國場 幸昌君   楢崎弥之助君     石橋 政嗣君   矢野 絢也君     正木 良明君   渡部 一郎君     大久保直彦君   竹本 孫一君     麻生 良方君 同日  辞任         補欠選任   唐沢俊二郎君     小川 半次君   國場 幸昌君     小坂善太郎君   石橋 政嗣君     楢崎弥之助君     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和四十六年度一般会計予算  昭和四十六年度特別会計予算  昭和四十六年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 中野四郎

    中野委員長 これより会議を開きます。  昭和四十六年度一般会計予算昭和四十六年度特別会計予算昭和四十六年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、総括質疑を行ないます。石橋政嗣君
  3. 石橋政嗣

    石橋委員 私は、総理施政方針演説を聞いておりますときに、非常に関心を持ったと申しますか、注目した点が実はあるわけです。それは、「われわれは日常生活の面においても、とかくいら立ちがちであります。平和な民主主義社会をなまぬるく感じて、性急に現状を変更しようとあせったり、中には、極端な行動に走ろうとする者さえあります。」と述べた点であります。  この指摘は非常に正しいと思うのです。ただ、このような現象が出てきたのは、総理がおっしゃるように、わが国のような情報化社会におきましては、変化のテンポが非常に激しい、だからこういう現象が起きたんだというとらえ方には、納得がいきません。もしこの原因というものを正しく把握しておられるとするならば、もし総理が、どうしてこのようないら立ちが出てきたのかということを正確に把握して、その原因を真剣に究明し、それを解消するための方途を求めて、その実行を誓ったならば、非常にりっぱな施政方針演説ができて、国民大半も共鳴し、拍手を送ったに違いないと思うのですが、どうもこの原因把握というものは、私から言わせると、ちょっととぼけたものだというふうに言いたいわけなんです。  私なりにこの点について述べてみたいと思うのですが、このような国民いら立ちというものは一体どこからきているのか。性急に現状を変更しようとあせったり、極端な行動に走ろうとするのは一体なぜなのか。それこそ根底にあるものは、政治に対する不信なんじゃないでしょうか。政党政治議会制民主主義に対する不信というものが根底にあるからこそ、いら立ちが起きておるし、性急に事を解決しようというような風潮が左右両翼から出てきているんじゃないか、私はこういうふうに思うわけです。だとするならば、国民政治に対する不信をつくり出した点においては、私たちといえども、その一端の責任を負わなくてはならないと思います。それは、自民党の内閣であり、佐藤内閣であるから知らないというわけにはまいらないわけですけれども、しかし、その責任大半は、やはり六年余の長きにわたって最高権力者の地位を占めてこられた総理が負わなければならないことも、また事実だと思うのです。  そこで、この不信のよってきたるところをいろいろ探ってみたいと思うわけですが、実績としてたくさんあると思うのです。一つには、小骨一本抜かないと言ったはずの政治資金規正法の改正が、いまだに実行されない、口先だけに終わっているというようなこともそうでしょう。中国政策に代表されるように、きのう言ったことときょう言ったこととがふらっと変わるといったような一貫性のなさ、そういうことからも私はきていると思うのです。それから、憲法は守る、平和国家に徹すると言いながらも、着々と軍事大国への道に踏み込んでいっておるというようなことも、その一つでありましょう。それとまた、安定させる安定させると言いながら、毎年毎年とめどなく上がるばかりの物価というものに直面した国民、そこにいら立ちが生まれ、政治に対する不信があらわれておるともいえましょう。そのほかにも、人間尊重を口にしながら、実は経済優先、それも大企業中心被害者を全く顧みないで、加害者である大企業から多額の政治献金を受けて、魂のこもらない、形ばかりの対策でお茶を濁している公害問題というようなものも、いら立ち原因であり、政治への不信を生む原因になっておると私は思うのです。このほかにも、法務大臣ともあろう者が、議員会館を舞台に、暴力団と結託して手形の乱発をはかる。暴力団資金づくりに協力する。そればかりか、てんとして恥じた風もない。法務大臣権限を利用して違法な帰化を認めるといったようなことも、これは当然政治不信を生み出す原因になっております。また、政治的な色彩が濃いといって、現実に、具体的に憲法法律を逸脱したような何らの行為もない、そういった法廷指揮をやったこともなければ、判決をやったわけでもないのに、単に政治的色彩が濃いという理由青法協の会員を圧迫するかと思うと、一方では、非常に政治的な発言をすることでとかくの問題のあった人物を、平然と最高裁の判事に登用するといったような矛盾をあえてやるというようなことも、私は、政治不信を生み出す原因になっておると思うのです。  このように見ていきますと、「新しい年を迎え、その任のいよいよ重きを痛感いたしております。」と、総理は、同じく施政方針演説でおっしゃったわけですが、この、その任の重きを痛感するということが、いま私が申し上げたような一つ一つの問題、たとえば政治資金規正法がいまだにできない、そのあせりのあらわれであり、物価の安定や公害の撲滅が遅々として進まない、この気持ちの告白であり、中国問題解決の糸口が全くつかめないということからくる自責のことばであれば、私は幸いだと思うのです。ところが、どうもそういうふうにはとれないのですね。非常に浮き上がった、ただ単に、その任の重きをいよいよ痛感いたしますと、ことばのはずみで出てきたような感じを受けてならないわけなんです。迫力がないのです、これが。こういうことがやれないことのあせり、責任感というものが出てきてないわけです。  そこで私は、いまいろいろ申し上げた問題をこれからお尋ねしたいと思うわけですが、政治資金規正法物価の問題は、あと関係の各同僚議員がそれぞれ質問をしていただくことになっておりますから、私は、主として公害中国政策、それから軍事大国化といったような問題について、順次お尋ねをしたいと思うのですが、その前に、先ほど触れました二つの問題について、まずお聞きをしておきたいと思うのです。  一つは、この西郷法務大臣行為について、総理大臣はどう思われるのか。このような人物法務大臣にしたことについて責任をお感じになっておられるのか。法務大臣在任中に行なわれた行為も含まれているわけです。その責任をどのようにお感じになり、今後総理、総裁としてどのような措置をとられるつもりなのか、これをお答え願いたいと思うのです。先ほど申し上げたように、いら立ちというものが政治不信、そこからきている。だとするならば、こういうものを一つ一つ正していくことがなければならない。そうしなければ、任重しと言ったことばも非常に空疎なものになりますので、私は、まじめに一つ一つお答えをお願いしたいと思うのです。まず第一に、この西郷法務大臣の問題についてお答えを願います。
  4. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 石橋君から、私の施政方針を聞いての率直な御意見をただいま伺うことができました。私としても、たいへんよく聞いていただいたと、かように思って、お話を謙虚にただいま承っていたつもりであります。  私が現代の世相について感じておること、これはあの施政方針演説で尽きるように思いますが、直ちにそのことは、事象として、現象としては認めることは同感だけれども、その原因の究明については全然見方が違う、まあ全部政治不信、こういう立場からお考えになっておるようでありますが、私は、そこまで政治不信をすぐ結びつけるのには、やや飛躍があり、どうもぴったりこないものもあるのではないか。しかし、まあとにかくそれはそれとして、政治不信一つ原因であるだろう、かようにも御指摘になって、ただいま謙虚に伺ったつもりでございます。しかし、私は、全部が全部政治不信だと、かように片づけるわけにはいかないように思います。その前提についての所見は、ただいま申し上げますように違う点もありますが、現象のとらえ方については私同様だろうと思いますので、これも、これより以上申しません。  そこで、ただいまの西郷吉之助君の事件について、最近の新聞の報道でございます。また、これはただいま捜査権上にある問題でございます。これをただいま私が、この機会にとやかく申すことはいかがかと思います。しかし、仮定の問題として言えることは、私自身がかような人を選んで、そうして、問題を起こしたようなことがそのまま報道されているとおりであるとすれば、たいへん私自身の不明をお断わりする以外には、謝す以外にはないと、かように私は感じておる次第でございます。
  5. 石橋政嗣

    石橋委員 政治不信に尽きるという見方にはちょっと異論があるとおっしゃいましたが、総理施政方針演説の中でも、「平和な民主主義社会をなまぬるく感じて、性急に現状を変更しようとあせったり、中には、極端な行動に走ろうとする者さえあります。」ということは、そのことを私はお認めになっていると思うのですよ。議会制民主主義というものではもうどうにもならないじゃないか、何の変化も求められじゃないか、いろいろおっしゃるけれども実行が伴わないじゃないかということが、この中に込められているわけですから、これはやはり総理も、政治不信というものが根底にあることをお認めになっておるものと思います。だからこそ、われわれ政党政治家として、いままさに真剣にこの政治というものに取り組まなければ、悔いを千載に残すことになると思えばこそ、私も確認をしておるし、これから質問もしていこうと思うわけです。  いま、西郷法務大臣の問題についてのお答え、一応いただきました。私は、それで満足するわけではございませんけれども、一応のお答えとして承わっておきたいと思います。  次に、先ほど指摘いたしました第二の問題として、この青年法律家協会に加盟しておる裁判官に対する政府の態度であります。これは一次的には最高裁判所の問題でございますから、政府にかかわる部分についてのみ私はお尋ねをするにとどめたいと思うわけですが、事実、先ほど申し上げたように、憲法擁護ということを大きな目標にした協会に加入しておるというだけを、いま問題にしているわけです。これはまことにおかしいと思うのですね。実際に、加入していることによってどのような反憲法的な、違法な法廷指揮が行なわれたのか、判決が出されたのか、そんなものは何にもないわけだ。加入しているということだけが問題にされている。これは非常に重大な問題です。しかし、いま申し上げたように、この部分は一次的には政府の問題ではございませんから、政府にかかわる問題として、このようなあいまいな原因でもし政府再任を拒否するというようなことがあったら、たいへんだと思うのです。これは絶対にやらない。名簿がもし最高裁から出されてまいりましたときに、このような理由によって再任を拒否するというような措置は、絶対に政府としてやらないということを、この際確認しておいていただきたいと思います。
  6. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいまの私ども民主国家においての特色、これは何と申しましても三権分立だと、かように私は考えております。立法、司法行政、お互いにその立場を守るということ、これが本来のわれわれが厳守しなければならない基本的な問題だと思います。この観点に立って、私どもが、政治司法に介入する意思のないこと、これはもうはっきり申し上げておきます。いわゆる政治司法に介入し、裁判権裁判を曲げるとか、干渉するとか、さようなことはない。この三権分立はどこまでも守らなければならない、かように思っております。このことをまず第一に申し上げておきます。  第二に、裁判官任命の問題であります。  これは、皆さん方の立法的な法律手続によって、行政府にまかされた一つ任命基準がございます。その任命基準によりまして私どもは扱うつもりでございまして、これを故意に、特殊な関係から云々されるようなことのないように、厳正にこれを運用していく、この考えであること、これも最初に申した三権分立のたてまえから当然のことだ、かように思っておりますので、この点もはっきり申し上げておきます。
  7. 石橋政嗣

    石橋委員 私は具体的にお伺いしたわけです。三権分立のたてまえに沿って、最高裁判所に属する分については後日同僚議員から質問していただきますので、政府にかかわる分についてのみをお答えを願っているわけですが、これは憲法第八十条によって最高裁判所が指名した裁判官名簿が今度出てくるわけです。その場合に、青法協加盟裁判官でも、最高裁判所名簿に載せて、そして政府任命を求めてきたときに、あらためて政府の段階でそのことを理由再任を拒否するというようなことはございませんでしょうねと、こう申し上げておるわけであります。
  8. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いまのお話は、お尋ねいたしますが、青法協のメンバーだと、そういうことを理由にして再任を拒否することはないでしょうねと、こうおっしゃるのですね。——そのとおりです。
  9. 石橋政嗣

    石橋委員 それでは公害質問に入りたいと思います。  公害問題につきましては、暮れの臨時国会におきまして法律の制定や改定が行なわれたわけでございまして、私どももこれを一歩前進として認めるにやぶさかではございません。しかし、公害法律をつくったり環境庁という役所をつくったりすることでは決して解決しないのであります。大切なことは、政府、自治体、こういったものにほんとう公害問題に取り組む意思があるのか、ほんとう国民の生命と健康を憂えて、これを防止するために厳正に法の執行をやろうという意欲があるのかということが私は問題だと思うのです。意欲だけではなくて、存分に働けるだけの権限も与えられなくちゃならないし、あるいは予算も裏づけがなくちゃならないでしょうし、指導、援助といったようなものも行なわなければならないでありましょうが、とにかく大切なのはこの政治の姿勢であり、取り締まりに当たる行政機関意欲であると私は思う。それでは、はたしてそれが現在の政府にあるのか、私はこのことを問題にしたいと思います。ただそういう意欲はございますかと聞けば、ありますと言うにきまっておりますから、事実をもってきょうはいろいろお伺いしたいと思うのです。  私は、少なくともいままでのような政府心がまえではだめだ、これを立証したいと思います。確かに、法律からは経済との調和ということばが取り除かれましたが、政府関係当局取り締まりに当たる人たちの心から取り除かれておらないと私は思うのです。そのことを最も代表的に示したのが、きのうの総理松野委員に対する答弁じゃないでしょうか。はしなくも私は出てきているような気がすると思うのですよ。電力はほしいが、電力会社発電所が設置されるのは困るなどというのはおかしい、こういうところにこの心がまえ本音がちょろちょろ出てくると思うのです。もっと典型的なのはこの間の荒木さんですか、スモッグなんというのは風が吹けば吹っ飛んでしまうよなんという、そういうところに本音が出てきておるのですよ。こんな心がまえ公害が処理できる、解消するなどと思ったら、とんでもない問違いです。政府最高責任者であるあなた方がそういう心がまえでおるものですから、実際に行政機関にあって関係各省等がどういうふうにこの公害問題に取り組んでいるか、私は企業との癒着ぶりというものをきょうは全面的に取り上げてみたいと思うのです。総理は知らなかったとおっしゃるかもしれませんが、あなた方の意を体したつもりで実際に取り締まらなくちゃならない立場にある役人はこんなことをやっているのですよということを、いまから私は明らかにしていきたいと思うのです。  そこで、問題をしぼる必要があると思います。一般論としてやるわけにもまいりませんし、それからいろんな問題をここで取り上げるのもぼけてまいりますから、水質汚濁防止水質規制という一点にきょうはしぼります。場所も四日市という代表的な公害都市を選んで、この事例を明らかにしていきたいと思うのです。法律が幾らできても、魂がこもっていない限り何の役にも立たないということを立証しようというわけです。  そこで、いま申し上げたように、水の問題、水質汚濁防止の問題にしぼって話を進めるわけですが、御承知のとおり昭和三十四年三月一日施行の水質保全法及び工場排水規制法というものがございました。これが年末の臨時国会で新しい法律に衣がえしたわけでございますが、この水質保全法工排法のもとにおいてどういうことが行なわれてきたかということです。私は結論を先に申し上げますと、これは公害防止役割りを果たしてないんです。それどころか、実は企業水質汚濁を公認し、保護し、あまつさえ企業とのなれ合いによって逆に汚濁を悪化させる役目を果たしたという驚くべき事実があるということであります。これは客観的に一番わかりやすいのはやはり数字ですから、科学的な、客観的な数字をもとに立証してまいりたいと思うのです。  昭和四十一年、水質規制が行なわれたわけですが、その直前四日市水質検査をいたしております。調査をいたしております。そのとき四日市港の水質はどういう状態にあったか、これからまず御説明したいと思う。あと経済企画庁に資料の提出を求めますから、用意しておいてください。  これは経済企画庁水資源局昭和四十年九月に出したもので、第十二特別部会、これは四日市鈴鹿地先海域水質の解析、この中で明らになっておる数字であります。すなわち、水質規制が行なわれます直前の四十年九月の経済企画庁調査に基づく四日市港の汚濁状態はどういう状態であったか。CODが一・八六PPMであります。油分が〇・三六PPMであります。ところが水質規制が行なわれたあと、四十一年に規制が行なわれているわけですが、水質規制が行なわれたあと昭和四十三年から四十四年にかけて同じく調査が行なわれております。ここにありますが、これは四日市衛生部公害対策課調査したものであります。この数値はどういうふうになっているかというと、CODは一二から一八PPMにふえておるのです。いいですか。規制直前CODは一・八六PPMでした。それが規制の後に調べてみたら、CODはか一二ら一八というPPMですよ。約十倍に悪化しているのです。油分については〇・五から〇・九PPM。先ほど申し上げたように規制前は〇・三六PPMですから、これも二ないし三倍にふえておるわけであります。中でも最もひどいのは、この四日市港内の大井の川橋付近の数値です。これも同じくこの資料の2の中に入っておるわけですが、これは系統的に年次を追って私は参考のために申し上げてみたいと思います、CODの数値を。昭和三十九年は二五PPM、四十二年は四〇PPM、四十三年は四八PPM、四十四年は五〇PPM、四十五年は九三・八PPM、たいへんな悪化ですよ。ちなみに申し上げますと、四十三年から四十四年にかけて行なわれた調査の結果のCOD、すなわち一二ないし一八PPMというのは許容限界量をはるかに越えておるし、先ほど申し上げたように規制前の約十倍に達しておるという事実を御認識願いたいと思うのです。それから油分の〇・五ないし〇・九PPMというのは、魚ににおいがつく限界値、着臭限界値、これの五十倍から九十倍の値を示しておるという事実を御承知おき願いたいと思うのです。この一点から見ただけで、法が何の役に立っておるかということを私は言いたいのです。法律ができる以前よりも、法律ができたあとのほうが悪化している。その悪化している度合いも、二倍とか三倍とかいうならとにかく、CODに至っては十倍も悪化しているのですよ。これで何の法律ですか。私が言いたいのはこのことなんです。おそらく総理もこのような実態は御承知おきないのじゃないかと思うわけですが、私はその点について、この基準を設けた第一次的な責任者である経済企画庁長官に、このような実態を御承知であったかどうかをまず最初にお尋ねしておきたいと思います。
  10. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 ただいまの四日市の具体的な例でございますが、確かにおっしゃいますように従来の水質規制というものが不十分であった、これはわれわれもひとしく認めておるところであります。そういう意味において今回のもろもろの改正もでき、そうして体制の整備も行なっておるわけであります。したがいまして、過去の四十一年次とそれから以後に続く各種の水質汚濁の増大、この事実は否定するわけにはまいりません。いろいろと今日の時点に立って考えてみますと、もちろん水質基準をきめますときには企画庁がきめますけれども、結局地元と十分に一緒になって調査もし、そうしてその上でもって基準をきめてきておるのでありますからして、結局今日の時点からすると、当時の水質基準というものに甘さがあったという点が一点あったかもしれません。そしていま、そういう意味において当然のことですが、今日の急激ないわゆる工業化のテンポの時代でありますから、われわれはどんどんそういう点の見直しを行なっております。四日市についても、その見直し調査をいまやっているところでありますけれども、そういう基準の問題がありましょう。あるいはまた、基準が設定されましても、それが現実に守られておるかどうかの監視体制の問題、これについても今回は特にその整備をこれから大いにやっていこう、こういうところでございます。また、いずれにしましても、人口の過度集中によるところの家庭汚水の問題もある。そうした点が従来必ずしも十分でなかった。われわれはそうした実績にかんがみて、この際新しい立場に立ってこの見直しを行なっておる、こういうことであります。
  11. 石橋政嗣

    石橋委員 あまり明快にお答えにならないわけですが、私が聞いたのは、このようなひどい悪化のあったことを基準設定の責任官庁である経済企画庁の大臣として御承知であったのかどうか、このことだけ聞いているのですよ。あとはこれから順次聞いていきますから……。  参考のために申し上げておきますが、四日市の工場排水は一日三百五十万トン。そのうちCODを例にとりますと、排水量四百トン以上の大手がほとんどこの九九・六%というものなんです。大手会社がほとんどこのCODを排出しておるわけなんです。このことをまず認識しておいていただきたい。  それから、これは少し古いのですけれども政府が定めました水質汚濁防止に関する勧告、これは昭和二十六年に出たものですが、そのときの数値からいきましても、BODが五PPM以上になると水は浄化作用を失う、非常に早く腐敗するという、いわば基準になる数値というものは五PPMだということですね。それと比べてどれほどひどいものであるかということが実際に認識があるのかどうか。私、いま数字を並べたわけですけれども、五PPMというものと比べてどんなに悪い水になっているかということがまず認識されておるのかどうかということすら疑いたいような答弁なんです。五PPM以上になると水は自浄作用を失って腐敗するといわれているのに、実際には一二とか一八PPM、おそるべきことだという認識がございますか、大臣。しかし、あなたにこれ以上この問題についてお伺いしません。時間の関係もありますから、なぜこういうことになってきたのかということに移りたいと思います。  第一は、結局、基準設定にあたっても行政機関企業とがなれ合いでやっているということですよ。規制とは名ばかりで、実際は企業の要請に基づいた基準を定めているということです。CODに関して、例を石油化学工業にとってみましょう。先ほどもちょっとあげた資料ですが、第十二特別部会のこの解析の中に、昭和四十年九月の各企業別のCODはどれくらいの数値を示しておったかというのが出ております。ちょっと読んでみましょうか。三菱油化五七・六PPM、三菱化成七八・六PPM、三菱江戸川三八・八PPM、合成ゴム一三・四PPM昭和石油一五・一PPM四日市製油二八・五PPM、三菱モンサント六六・七PPM、大協石油六・九PPM、谷口石油七七・一PPM、いずれも相当な数値を示しておりますが、それでも一〇〇以下ですね。一〇〇以下です。ところが、四十一年のCOD規制告示によれば、数値をどこに求めておりますか。実態がこのような実態であるにもかかわらず、規制基準として経済企画庁はどの程度のPPMを示しましたか。私の調べたところでは平均二〇〇、最高三〇〇。二〇〇ないし三〇〇PPM規制基準としているはずです。この事実をお認めになりますか。
  12. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 当時二〇〇というものを設定しておる、おっしゃるとおりであります。でも、これは主としてそこにあるところの産業の性格上、油分を中心にしてやったもののようであります。したがって、CODについて必ずしも十分でなかった、こういう実情があるようであります。
  13. 石橋政嗣

    石橋委員 その他の問題はあとでゆっくりやりますから、あわてないで、聞くことだけお答え願えればいいのです。  経済企画庁で把握した実態は、先ほど申し上げたとおり非常に高い数値ではあるけれども、それでも私が申し上げたものは最高七八・六PPM、最低が六・九PPM、一〇〇以下です。もっと厳密にいえば七八・六以下です。現実がそのような数値であるのに、規制基準として二〇〇PPMとは何ですか。三〇〇PPMとは何ですか。これで法律ですか。結局、公害を防止しようという本来の趣旨を忘れている。逆にどういう役割りを果たしているかというと、汚濁の公認ですよ。いままだ七八・六から六・九程度の汚濁状態なのに、二〇〇ないし三〇〇まではよろしい、こんな法律がありますか。このような問題があるのです。幾ら法律をつくったってだめなんですよ。法律をつくることが問題じゃないです。公害を防ぐことが問題なんです。これはまだほんの序の口ですよ。こういう心がまえ公害の防止ができるかと私は言いたいのです。おそらく総理もこのような実情にあることは初めて知ったのじゃないでしょうか。その点ちょっとこの辺で所見をお伺いしておきます。
  14. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私も実情についてただいま数字を伺いながら、ずいぶん変わったものだなと、かように実は聞いていたのでございます。私も、あまり実情には詳しくございません。しかし、それぞれいままでの数値をきめるときも、皆さんにもおはかりをして、自民党だけできめたわけではないだろう、かように思いますので、それらの点については、やはり法律ができたその経過等も十分御了承いただきたいと思います。
  15. 石橋政嗣

    石橋委員 これをきめたのはどこだという問題が、いま自民党だけできめたんじゃないとおっしゃいますけれども、直接きめたのは水質審議会の第十二特別部会ですよ。第十二特別部会というのが、四日市・鈴鹿地区地先の海域の基準の設定をしているわけです。このメンバーにも問題があるのです、実は。なぜかというと、加害者が加わっているのですよ、大企業の代表が。たとえば企業を言いましょうか。紡績協会の代表、石油連盟の代表、日清製油の代表、こういうものが入ってやっているのです。だから、この業界代表の意向というものが強く反映するという一面がストレートにある。そのほかに、経済企画庁の姿勢そのものにあるのですよ。そのうしろには通産省が控えている。これも順次やっていきますがね。全く規制しようなんという心がまえがない。  いまの二〇〇ないし三〇〇PPMというのがどこから出てきたか、私もずいぶんこれを読んで調べてみました。そうしたら、一つ出てきたのです。第十二特別部会の参考人意見要旨というのを経済企画庁でまとめております。この中に出てきました。この中で三菱化成四日市工場代表がいみじくも発言しているのです。いいですか、こういうように言っております。これは経済企画庁の参考人意見要旨ですよ。「COD基準については、当工場が溶剤系の生産を行なっているために、水溶性有機物質の溶存が避けられず、かつ、これの除去はきわめてむずかしい実情にありますので、当工場の要望としては、二〇〇ないし三〇〇PPM程度の基準設定を要望いたします。」はしなくもここに出てきました、はしなくも。べらぼうな、二〇〇ないし三〇〇PPMという基準設定を、業者である、企業である三菱化成四日市工場代表が参考人に呼ばれた席上で述べた、その一番高い数値を持ってきて基準設定をやったのは経済企画庁ですよ。こんな心がまえで、どうして公害を防止できますか。この事実はお認めになりますか。私は、参考人意見書、経済企画庁がつくったやつを読んでいるわけです。
  16. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 これは二〇〇というのが事実でありますから、私もこれを別に否定するわけではありません。しかし、こうした心がまえといいますけれども、私はやはり一種の過渡的な問題であろうと思います。私たちが今日公害問題を考えるときに、別にその立場を踏襲しているわけではありません。新しい角度からこれを処理していこう、こういう観点に立っているわけであります。
  17. 石橋政嗣

    石橋委員 反省が見られないですね。またそれじゃ例を引きましょう。  いまのは業者が要望したその数値が、たまたま基準と一致したという程度ですが、業界の意向をそのまま認めたということを経済企画庁が堂々とこの中で述べておりますよ。これは水質審議会特別部会議事録です。この中でSSです。この点について、経済企画庁事務当局の説明が行なわれておりますが、味の素のSSは、業者の希望どおり一二〇ないし一八〇とした、いいですか、経済企画庁自体が認めていますよ。味の素の希望どおり一二〇ないし一八〇としました、これがあなたのお役所の実態なんです。どこに公害防止意欲がありますか。法律をつくっても、この心がまえを直せますか、直せるならどういうふうにして直すか、具体的におっしゃい。私は、事実は事実と認めて、反省が大臣に少なくともあれば、もう少し前向きの発言をしたいけれども、あなたにはその意欲認められませんよ。私は、法律をつくったってだめだ、役所をつくったってだめだ、そこにおる政治家なり役人の姿勢が問題なんだ、腹がまえが問題なんだと言っているんです。こんな気持ちを踏襲してどんな法律をつくったって意味ないじゃないですか。てんとして恥じていませんよ。業界の希望どおりしたんだ。とにかく私は、調べれば調べるほど腹が立ってきました。何が公害対策だ、何が公害対策だと思いました。完全に企業との癒着ですよ。  私は、油分の問題についても例を引いてお話ししたいんですけれども、もう大体わかったと思いますから、油分は省略します。  次に、PHの問題をやります。もっと奇怪なのは、この四日市・鈴鹿水域について四十一年の規制にあたって、PHを省いたということです。この港域だけPHの基準を行なわなかったということです。これがどんなに重大な事態をもたらしたか、経済企画庁長官は御認識がございますか。まずこれも数字から示していきたいと思うんですが、経済企画庁がまとめました第十二特別部会参考人意見要旨、この中に明らかに示されておるわけですけれども、三十九年の段階で四日市港において、排水口から三百メートル離れた地点のPHを三・七と認めております。非常に強酸性を示しておるわけです。経済企画庁自体が海面汚染を確認しておるわけです。ところが、なぜこの四十一年の規制にあたって、四日市だけは酸の規制を除いたのですか。まずその点からお尋ねしたいと思います。
  18. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 私も、技術的な点でありますが、いま聞いてみますると、相当海にアルカリ性が強いということで除いたようでございます。当時のそうした事情に立ってやったものと思われます。
  19. 石橋政嗣

    石橋委員 海水がアルカリ性だから、酸を流しても中和するからとおっしゃるんですね。
  20. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 これは私もちょっと技術的な点で必ずしも自信ないのですが、いま担当者の言を徴してみますると、そういう話であります。
  21. 石橋政嗣

    石橋委員 そういう説明をしてきたのですよ。それでは、ほかのところはなぜ規制したのです。四日市の港だけ中和できるのですか。ほかの港は同じ海水じゃないのですか。日本の周辺の海の水は、四日市と福岡、大牟田、岩国と比べると水質が違って、ほかの港は酸性の海水でも流れているのですか。四日市だけがアルカリ性の海水が流れているのですか。なぜ四日市だけ省いたかと聞いているのですよ。
  22. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 これが海域の第一号であったそうであります。第二号以後は、その点についての考え方が確立しまして、入れたそうであります。したがって、初めてのテストケースということで、自信がなくて入れなかったそうでありますが、四十五年にこれを追加いたしております。
  23. 石橋政嗣

    石橋委員 四十五年に追加したのは、海上保安庁がこの酸の問題で検挙したからですよ。一日五百トンも塩酸を排出しておる日本アエロジル、一日二十万トンも硫酸を排出しておる石原産業、これを港則法違反で検挙した。そこで、あわてて経済企画庁が緊急追加規制をやったのじゃないですか、その点は認めますね。
  24. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 そうした事実のようであります。
  25. 石橋政嗣

    石橋委員 私も、もちろんこういった問題についての専門家ではございません。しかし私は、専門家であるかないかという問題ではないと思う。心がまえがあなた方と違うのです。私たちは、何としても公害を防ぎたい、国民の健康を守りたい、生命を守りたいという気持ちに燃えているのです。あなた方は、いま申し上げたことでも明らかなように、何とかして企業に迷惑をかけないようにという立場でしかものを考えていない。ここで酸の規制をやり、アルカリ性の規制をやれば、どうしても企業が不便を来たす、だからできるだけ規制をはずしていこう、規制をする場合も高い数値を示して、結果的には汚濁を公認してしまう、ここに問題があるのですよ。  いま申し上げたこの検挙事件、まだ石原産業のほうは処分がきまってないのですが、日本アエロジルのほうは起訴猶予になっちゃった。その起訴猶予にした理由一つに、あなたも読まれたと思いますが、四日市港についてはPHの規制がないということが取り上げられているのですよ。四日市港にはPHの規制がないから、一日五百トンの塩酸を流した、それは悪いけれども、罪にならぬ。——罪にはなるが、起訴猶予ですから罪にはなるがということになるでしょうけれども、結果的には罪にならぬ、実質的には不起訴なんですから。それほど重大な結果を招いているのですよ。あなた方が規制をやらなかったばっかりに、犯罪人がこう然と大手を振ってのさばっているのですよ。こういう重大な結果を招いているということをしっかりと頭に置いておいていただきたい。  ここに私は写真を持ってきていますが、これが四日市港の写真です。酸の海ですよ。生物は一切住めないのです、ゴカイしか住めないのです。こういう状態をつくることに、実質的に経済企画庁は手をかしているのですよ、手をかしているのです。規制をしなかった。  ここで私は、この問題に関して企業関係当局との癒着ぶり一つ立証したいと思うのです。これはまだ処分のきまっていない石原産業のほうですが、こういう報告書をまとめております、得々として。いいですか、読みますから。これは石原産業四日市工場でつくりました「四日市工場排水規制の現況と対策」というものです。「水質審議会現地聴聞会においては、山田工場長、次長在職中同会に臨み、当工場が海域に位し、海水の有する微酸性の中和作用と現実に当工場至近海面における海水のPH値を示して中和処理の不要なることを具申された。」いいですか、聴聞会で石原産業の代表者がPH値を示して中和処理の不要なることを具申された。「水質審議会の重要メンバーである某を往訪したり、通産省はじめ名古屋通産局、三重県各関係者へのワーク等も行ない、幸いにして当海域に限って水質基準の項目の中にPHの規制が加えられず、SSのみが規制の対象となった」と報告書が出ています。われわれの運動の勝利でございます。報告書がまとめられていますよ、これが実態です。あなた方はいろいろと口実をかまえますけれども、全部底は割れているのです。全部企業との癒着なんです。経済企画庁のみならず、通産省、これは特にうしろにおって糸を引いているのは通産省のほうだと思う。経済企画庁に圧力をかけたという面も随所に出てきております、参考人の意見の中で。経済企画庁が通産省の圧力に屈したのだということを立証している人もたくさんおります。とにかく通産省といい、経済企画庁といい、国民の健康とか生命とかいうものは何にも念頭にないのですよ。企業の言いなりです。得々とワークの成果だ、その結果幸いにPHの規制が加えられなかった、あなたがさっき言ったSS、浮遊物質の問題だけで済んだ、こういう報告書が出されているじゃないですか。ことさらに私は固有名詞を省略しましたけれども、とにかく話になりません。  もう少し、実際にどういう規制を行なっているのか、監督を行なっているのかということについても、若干私は指摘して、見解を聞いてみたいと思うのです。一番問題なのは、この規制にあたって加重平均方式をとっているということですよ。たとえば、一つの工場があります。こっちの排水口からものすごい強酸性のものをたれ流す、こちらの排水口、Bの排水口からは、比較的汚濁の要因になるようなものを含まない機器類、機械類の冷却水に使った程度の水を排出しておる、その場合に加重平均がとられているのですね。一方のAという排水口からどんなに悪質な廃液が流れておってもかまわない、平均した数値で扱うから。こういう実態であることはお認めになりますね。
  26. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 排水基準の設定にあたって、いまおっしゃったように加重平均方式をただいままでとっております。
  27. 石橋政嗣

    石橋委員 いまのような港の場合でしたら、まだ理屈言えば通る面があるかもしれません。極端な場合は、同じ工場で、Aの排水口はAの川に流し込んでおる。Bの排水口からはBの川に流しておる。この場合でも加重平均方式をとられておるのですよ。Aのほうはものすごい汚濁をもたらしておるのですよ。しかし、全然影響のないC川に流しておる排水口があれば、こちらは問われない。こんなばかばかしいことは改めねばならぬとお思いになりませんか。これはあなたよりも、総理大臣、聞いておってどうお思いになりますか。改めなければいかぬとお思いになりませんか。私は、あと対策のところで述べたいと思いましたが、ここでお聞きしておきたいと思います。
  28. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これはもう基本的に、先ほど来言われるように、法律ができただけでは何にもならない、やはりそれを忠実につとめていく、いわゆる目的がどこにあるかということを十分見きわめて、それに沿うようにしていかなければならない。そういうように考えると、現在の立法だけではずいぶん不備があるように思います。先ほど来の御説明、またお尋ねも、現状の不備についての剔抉だと、かように私は聞いたのでございます。そういうような点がこれから、法律はできた、また実施にあたってそれぞれ不都合があるようだ、こういうようなことで順次直されていくものじゃないだろうか、かように私は思いますので、そういう点について十分皆さん方の御意見も伺い、りっぱなものにするようにこれからも努力してまいりたい、かように思います。  具体的にただいまのお話がありましたが、この具体的な事案については、私、まだもう少し考え方もあるのじゃないだろうか、かように思います。たとえばいまのAの川、Bの川、これなどは明らかに規制の対象になるべき筋のものだろうと思います。Aから排出されておる、Bから排出されておる、それが非常に近似の場所である、非常に近距離にあるとか、こういうような場合だと、またそこらにもやや違ったものもあろうかと思いますが、とにかく実情に合ったように規制はいたさなければならない、かように私は思います。
  29. 佐藤一郎

    佐藤(一)国務大臣 加重平均方式には、確かにいろいろの問題がございます。そこで、私どもは、今度の法律改正に際しましては、従来のその方式をやめます。排水日ごとに基準を設けてまいる、こういうことにしております。
  30. 石橋政嗣

    石橋委員 一つずつそういうふうに直していってもらいたいと思うのです。  次に、監督の実態ですが、これは通産省が各工場へ立ち入り測定をやるということがきまっておったわけですが、四日市の場合、昭和四十一年の水質規制以後五年間に、ただ一回やっただけと私は聞いております。この点、通産省は認めるかどうか。四日市に限らず、そのほかに報告を適時受けておるのかどうか。正確に実態を把握しておるのかどうか。私の聞く限り、全国の工場の半数以上が基準に違反しておる、こういうように聞いております。  ところで、かつてこの水質基準違反で、工場排水規制法第十二条に定められた操業停止の処分を現実に受けたという例を聞かないのですが、その事実があるかどうか。それから、改善命令を発した例が何件ぐらいあるか。これを、旧法に基づく実態としてひとつ知らせていただきたいと思います。
  31. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 ただいまのお尋ねにつきましては、資料をもちまして後ほど御報告をいたしますが、先ほどから承っておりまして私感じておりますことを率直に言わせていただきたいと思います。  それらの基準をきめました時代の経済企画庁行政責任者は、あるいは私自身ではなかったかと思います。そういう立場から率直に申し上げますと、私もそれほど問題を深く存じませんでした。したがって、あのときに問題をそれほど知っておれば今日のような事態は防げたかもしれない、そういう責任感じます。ただ、それが今日の私ども行政の姿勢であるわけではないということを言わせていただきたいわけです。  現実に石原産業のお話をさっきからなされましたが、あそこは硫酸を使っておりますから、PHが非常に落ちまして、一ぐらいになった段階があったと思います。その後しかし、石原産業がたしかそのための防止施設に六十億円ほどの金をかけたわけでありまして、資本金は四十五億でございますから、かなり思い切ったことをやったわけでございます。そこで、今日PHは六ぐらいに回復したというふうに思っておりますので、私ども、過去においてこの問題について十分な認識がなかったことは率直に認めますけれども、今日の段階で、それが政府行政の姿勢であるわけではありませんし、また、企業もかつて言っておったようなことで通れるものではない。今日は、そういう指導を決して私どもいたしておりません。自分の過去における責任は、私は感じます。  資料につきましてお求めの点は、後ほど提出いたします。
  32. 石橋政嗣

    石橋委員 資料は後ほど出していただきたいと思います。  それじゃ、通産大臣が積極的に責任を感ずるとおっしゃいましたし、しかしいまは違うのだということばも付言されました。その中で、幸い石原産業の例を引かれましたから、私も石原産業の問題をいまから取り上げます。  これほど四日市港がひどい死の海になった原因はなぜか。いままでずっと申し上げてきましたが、もう一つ大きな原因があるのです。それがまさにいまあなたがおっしゃったこの石原産業なんです。施設を設けたとおっしゃいます。ばく大な投資をしたとおっしゃいます。いつやったのですか。海上保安庁が港則法という法律を適用して検挙してからです。それまで工場側が幾ら進言しても、会社自体はてんとして恥じず、一日二十万トンの硫酸排出を一年以上続けてやったのです。その中で通産省がどのような共犯的役割りを果たしてきたか。私はいまからやりますよ。共犯ですよ。違法を奨励しています。確たる文書をもって私はやるのですから。まさに共犯だと私は感じました。改善したのは、通産省の勧告によるものでも何でもありません。海上保安庁の勇気によるものです。  この四日市港をこれほど悪化させた非常に大きな要因の一つに、石原産業が四十三年六月にチタン第二工場を増設したことがあるわけです。従来のチタン月産四千五百トンから六千トンに増産することになりました。そのときに、法に基づく手続もしなければ、処理施設も行なわず、これ以来増産に伴って余分の廃液が出る。この分がなまのまま港に排出されたのです。いいですか。一日二十万トン、けた違いです。先ほど申し上げた日本アエロジルは、一日五百トンです。こっちは一日二十万トンです。このような二十万トンという硫酸を港の中にそのまま流さなければならなかったのは、法で規定された処理施設をつくらなかったからです。通産省が指導するどころか、それを認めて、違法を承認していることに原因があるのですよ。  まず、この増設、これが無届けで行なわれたことは、通産大臣、認めるでしょうね。
  33. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 具体的に調べまして、後ほど御報告いたします。
  34. 石橋政嗣

    石橋委員 具体的に調べますって、いま調べてくださいよ。これほどはっきりしたことはないのですから、この設置の手続すら、実際に操業開始のあとで始めているのですよ。しかも、法律にもとるからさかのぼって届けをしてくれという指導までしているのですよ。いま調べなさい。
  35. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 何ぶんにも、私どもにもたくさんの行政の案件がございますので、できるだけ早く調べまして御報告いたします。
  36. 石橋政嗣

    石橋委員 これは総理も、聞いておられて重大な問題だとお気づきだと思います。しばらく待ってという問題じゃありません、けさ私、言ってありますから。四日市港のことを聞く、水のことを聞く、石原産業のことを聞くと、あなたの部下に私は朝言ってありますよ。いま取り寄せていただきたい。私が言うことがうそならうそとおっしゃってください。
  37. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 石原産業の工場の施設の増加についてお尋ねでございますけれども四日市についての御質問ということは承っておったわけでございますが、そこまで具体的に承っておりませんでしたので、まことに恐縮でございますが、できるだけ早く調べまして、そんなに時間がかかると思いませんので、御報告いたします。   〔大原委員「そんなことがあるのかね。全然許可も何もしないで、かってに操業できるのかね。そんな答弁だめですよ。」と呼び、その他発言する者あり〕
  38. 中野四郎

    中野委員長 ちょっと待って……。
  39. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 施設の増設が無許可で行なわれたらどうかという具体的な問題でございますから、調査にそんなに時間がかかるとは思いませんので、ただいま調べますように申してございますから、後ほど御報告ができると思います。   〔発言する者あり〕
  40. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 すでに、調査をいたしますように申しましたので、もちろん御質問の時間中に報告を申し上げることができると思っております。
  41. 石橋政嗣

    石橋委員 それじゃ、私、通産省が確認する材料をいまから提供しておきます。確認することの必要な一番ポイントは、いま申し上げたように、増設をしたその段階で、法の示すところによって指導しなければならなかったんです。ここがポイントですから。廃液がそのまま出されないで済むかどうか、それだけの施設がちゃんと行なわれているかどうか。監督し、指導しなければならない立場にあったんです。ところが、実際には放任しております。それじゃその増設工事をやっていることを知らなかったかというと、知っているんです。通産当局ははっきり認めているんです。あとでこれをそのまま読みますけれども、工場見学もやったことだし、まあいいでしょうと言っているんです。見学をしたことを監督、指導とすりかえてしまっているんです。実際に操業を開始しましたのは七月です。これは当時の社長の石原廣一郎さんの「八十年の思い出」という中にもちゃんと書いてありますです。六月です。「四十三年六月二十日酸化チタン工場増設完了す(月産六千トン)」これは当時の社長の記録です。六月にちゃんと完成している。ところが、工場と通産当局との話し合いがいつから始められたかというと、七月に入って始められました。増設工場が完成して、そのあと翌月に通産当局と工場側とが話し合いをしております、つじつまを合わす話し合いを。いいですか。これはどうしてこの処理施設を設けるか、そういう話し合いじゃないのですよ。六十日以前に届けにゃならぬ、工場の増設をやろうとする場合には。その手続を全然しないまま、完成して、操業を始めちゃったから、どうしてつじつまを合わせるかという話し合いをしているのですよ。いいですか。このことは歴然としています。なぜならば、話し合いの結果、工事着工は四十三年八月十五日にしましょうという合意に達しているからです。六月にできたものを八月十五日に工事着工したことにしましょう、完成及び使用開始年月日は四十三年の九月十五日にしましょう、そうして通産当局が工場から増設の申請をする日付を六月十五日にしましょう、一カ月さかのぼって、話し合いのときから六月十五日に届けたことにしましょう、こういう話し合いが行なわれているんです。このとおりになっていますよ、調べたら。工場はもうできちゃった、仕事を始めた。その段階で話し合いをして、さかのぼって六月十五日に届けをしたことにしてくれ、そうして工事の完成は八月十五日にしてくれ、操業開始は九月十五日にしてくれ、そうしなければ法律に反するから、こういうことです。こういう事実を確認しなければ話を進められないですよ。進められると思いますか。事こまかに指導しているのです、脱法行為の指導を。どうして公害を防止しようかなんということはただの一言もこの話し合いの中で出てきませんよ。どうして法律とつじつまを合わせるかということしか出ていませんよ。
  42. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 先刻申し上げましたとおり、事実を確認いたしまして、できるだけ早く御報告いたします。   〔「企業と通産省の談合じゃないか」「そういうことがあるかないかはっきりしなければだめじゃないか」「委員長、これじゃ先に進めないよ、休憩、休憩」と呼び、その他発言する者あり〕
  43. 中野四郎

    中野委員長 石橋君に申し上げますが、ただいま名古屋の通産局のほう調査しておりますから、間もなく御質問中に御回答ができ得ると思いますので、質問をひとつ御継続を願いたいと存じます。
  44. 石橋政嗣

    石橋委員 この問題は、私からあらためて申し上げるまでもないと思うのですけれども、石原産業自体が一昨年の十二月、先ほど申し上げたように四日市海上保安部によって検挙されているのです。だから、おそらく通産省としても責任を痛感して、一体事態はどうなったのか、ここ一年余の間に十分に検討がなされているものと私は思う。監督官庁としての責務を実際に果たしておったのか、その上なおこのような検挙されるような事件を石原産業は起こしたのかどうか、当然主務官庁、監督官庁として通産大臣は思い至らなければならない問題です。一日二十万トンの硫酸を四日市の港に流して検挙された、ああそうか、それだけで済む問題ですか。おそらく責任感じて、大臣として、一体どうなっているんだ、監督官庁としての責任は全うしておったのかどうか。私に言わせれば、積極的に報告がなかったとしても報告を求めてしかるべき重大事件ですよ。いまになってここでまだ事情がわかりません、名古屋通産局に聞いてみなければわかりません、といったような問題ですか、これ。しかも私は抜き打ちにこんなことをやろうとも思いませんから、けさ通産省の担当者が私のところに聞きに来ました。何をお尋ねになるのでしょうかと言うから、あなたのところがきょうの焦点だよ、通産省が焦点だよ、場所は四日市、問題は水、石原産業の問題。それ以上聞かれませんでした。問題も全部言ってあります。長い間公害問題を担当してきたうちの委員人たちも、通産局みんな知っているよ、通産省は知っているよ、こう言っております。知っておらなければならない問題を私は聞いているのです。いままで実態を把握してなかったと言えば、それは新たに問題になりますよ。いままで大臣が知らなかった、所官局長が知らなかったと言って済む問題だと御認識ですか。そのことからまずお伺いしましょう。
  45. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 送検をされましたのが四十五年の一月であったかと思いますが、ただいま御指摘になっておられる時点におきましては、先ほど石橋委員も言われましたようにPHの規制はなかった、そのことのよしあしはともかくといたしまして、なかったのでございますので、その件で送検をされたものかどうかということも、事実関係として私としては知りたい点がございます。  それから許可制であったのか届け出制であったのか。届け出とするとどの点を届け出るのか。PHの規制がございませんから、硫酸を使うこと自身がとも思えませんし、チタン工業自身は許可事業ではないという点がございますから、いずれにいたしましても御指摘のようなことでございますと行政としては非常に大きな誤りをおかしたことになります。したがいまして、もう少しきちんと事実を調べまして、私からお答えをさしていただきたい、こう思います。
  46. 石橋政嗣

    石橋委員 それじゃ、いまの特定の事件、私が問題にしている時点をあとにして、一般論としてお伺いしましょう。これぐらいのことは、あなたがわからなくたって聞けばすぐわかることです。  いま届け出制かどうかわからないとおっしゃいましたが、工場のこの増設、チタン第二工場を増設する場合に、工場排水規制法第四条によって増設届けの義務が企業側にあるのかないのか、そのことはお答え願えましょう。
  47. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 一般に工場排水規制法によりまして、いわゆる公害関係の施設を含む場合が多うございますから、それについては届け出制になっておるわけでございます。
  48. 石橋政嗣

    石橋委員 同じく工場排水規制法第八条によって、届け出のあった日から六十日以内は着工してはならないという規定があることも御承知ですね。
  49. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 届け出がなされますと、届け出を受理した側は、改善命令、あるいはその計画そのものを無効にする行政措置をとり得るわけでございます。この期間は六十日でございますので、ただいま言われましたような解釈になってまいると思います。
  50. 石橋政嗣

    石橋委員 お認めになっておるのですよ。届け出の義務はあるのです。届け出があってから六十日間着工できないのです。なぜこのような規定が工場排水規制法でなされているか。この六十日の間に、いわゆる公害といわれるようなものが起きないように、通産当局が厳重に指導監督していくための期間なんですよ。そうでしょう。その点お認めになりますね。
  51. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 それはそのとおりなのでございますけれども、問題は、その場合に対象となる公害の種類が何であったかということになるわけでございますから、PHの規制がございましたら、これは当然石橋委員の言われたようなことになるわけでございますけれども、当時PHの規制がございませんから、その届け出の対象になるべき公害の要因は何であったかということが、ただいま私にはっきりいたしません。それを調べて申し上げたいと思っているわけでございます。
  52. 石橋政嗣

    石橋委員 あとで私は通産局と石原産業との談合の内容をつぶさにお話ししますが、その中でも、届け出の義務があること、六十日以内に着工できないことは、通産局はちゃんと言っているのです、会社に。監督官庁として常識ですよ、そんなことは。少なくともこの期間に、汚水処理という重大な問題についての指導がなされなくちゃならないのです。少なくとも公害防止というものに真剣に取り組もうという姿勢と意欲があるならば、ここが生命なんです。ここを十分に生かさなければ公害発生の原因を見のがすことになるのです。ところが、何もしてないどころか、いま申し上げたように、実際に完成してしまっている。七月にはもう動き出した。その時点で通産局と企業と話し合って、六月十五日に増設届けを出したことにしてくれ、そして実際に着工するのは八月十五日ということにしてくれ、完成及び使用開始年月日は九月十五日にしてくれ、そうすれば法律に違反しないからという指導をしているのですよ。その事実をお認めにならなくては、話は進まないじゃないですか。こんな大切な期間を全然見のがしておるだけじゃなくて、法律に違反しないように手引きしているのです。さかのぼって届け出をすれば法律に違反しないから、そうなさい、わかりました、やりましょう、そのとおりやっているのですよ。ここを認めないで私に質問続けろと言ったって——あとは事実を証明し、そしてこういうものをなくして、ほんとう公害をなくするためにはどうしたらいいかという、私なりの具体的な提案をしたいと思っているのです。あとはまさに建設的な提案をしようと思っている。しかし、こんなルーズなことが行なわれておるのを確認もしない。その時点で私が幾ら建設的なものを話したって、また空虚な議論に終わっちゃうんですよ。こういう姿勢をどうしたら直せるのか、そこなしに幾ら建設的なものを出したってだめですよ。どんな法律をつくったってだめだと、私は冒頭から言ってあるのだから。ぜひ確認していただきたい。私が言ったこの届け出に関して、このような作為行為が行なわれているかどうか、確認してください。私はその話し合いをした役人の名前も全部ここに持っています。しかし、それをあえてあげようとは思いません。なぜならば、問題はあなたたちの姿勢にあるからですよ。下のほうの役人は、こうすることが政府に忠実なるゆえんと思っているからだ。だからあえて実際に話し合いをした役人の名前をここであげようとは思いません。あなたたちの姿勢を正してもらおうと思っているのです。
  53. 中野四郎

    中野委員長 午前の会議はこの程度にとどめまして、午後は一時から再開することとして石橋君の質疑を続行いたしますが、それまでに、通産大臣より午後再開のときに、先ほどの御要求の点を御報告するように取り計らいますから、以上、御了承を願いたいと思います。  暫時休憩をいたします。    午前十一時四十九分休憩      ————◇—————    午後一時四分開議
  54. 中野四郎

    中野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  総括質疑を続行いたします。  この際、通商産業大臣より発言を求められております。これを許します。宮澤通産大臣。
  55. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 午前中に石橋委員から御質問のありました石原産業の件につきまして、ただいままで調べましたところを御報告申し上げます。名古屋の通産局について調査をいたしておりましたために、時間がかかりましたことをおわびいたします。  この石原産業につきましては、昭和四十一年十一月に通産局が立ち入り調査をいたしておりますが、その際、SS、浮遊物の点は基準に合格をいいだしておりました。PH、水素イオン濃度は基準が先ほど御指摘のようにございませんので、これについては具体的な指導はいたしておりません。四十三年二月に第二回の立ち入り検査をいたしております。  そこで問題の四十三年の六月十五日の点でございますが、通産局で保存しております書類を調査いたしましたところ、四十三年六月十五日付でチタン増設設備の届け出を通産局に出しております。これは、先ほど申し上げましたように工場排水地域でございますし、指定工場でございますから、届け出の義務があるわけでございます。許可ではございませんが、届け出の義務がございます。この六月十五日付の届け出書類は、通産局は六月十五日に受理したというスタンプを押しております。御承知のように、官庁文書は、受理いたしましたときの日付を残しておくことになっておりますが、六月十五日受理というスタンプが押されてございます。通産局ではこれを受理いたしました段階で、この工事の中の仕様につきまして、SSを減らすための大幅改善をする必要があるということと、PH対策として、硫酸の回収と副産物の利用に必要な施設を整備する必要があるという行政指導をいたしたようでございます。行政指導と申しますのは、先ほど申し上げましたように、PHについての基準が当時ございませんでしたから、法的に改善命令を出すことができなかった、法的にそういう根拠がございませんので、行政指導をいたした由であります。この行政指導の際、ただいま申し上げましたような施設を翌年の二月までに、昭和四十四年の二月までに整備するようにという指導をいたしたようでありまして、その時期になりまして、四十四年の二月になりまして通産局が、指導が実現しておるかどうかについて立ち入り検査をいたしました。しかし、施設は着工されておりませんでしたので、その旨さらに強く指導に従うようにということを申したわけでございます。  なお、四十四年の四月には、工場排水法の監督権が三重県に政令で委任されておりますので、その年の五月に、今度は三重県が立ち入り検査をいたしております。  問題の施設は、昭和四十五年の十月に完成をいたしました。  なお、昭和四十四年の十二月、海上保安庁四日市海上保安部が港則法違反で捜査を行ないまして、四十五年一月に書類送検されております。これは当然御承知かと思いますが、港則法第二十四条第一項「何人も、港内又は港の境界外一万メートル以内の水面においては、みだりに、バラスト、廃油、石炭から、ごみその他これに類する廃物を捨ててはならない。」という、港を整備するという見地からこの港則法がございます。この規定に違反をしておるということで、四十五年の一月に書類送検になりまして、現在、津地検の四日市支部で取り調べ中でございます。  私どもがただいままで、与えられました時間で名古屋通産局につきまして書類で調べましたところは以上のとおりでございまして、六月十五日付の届け出書が実はかなりあとに出されておったといたしますと、受付の日付がそうなっていなければならないわけになりますが、書類の上では六月十五日に受理をしたという印が押してあるわけでございます。  そこで、石橋委員の御指摘に忠実に考えてまいりますと、別途、石原廣一郎氏著の「八十年の思い出」という書物がございまして、その年譜の中に、この工場は昭和四十三年六月二十日に完成したというふうにしるされておる由でございまして、この点の事実関係がはたしていかがであったのであろうか、石原氏の記憶違いであるのかあるいはそれが事実であったのか、こういう問題が一つございます。  なお、会社自身の記録によりますと、この会社の操業開始は四十三年の九月二十一日になっております。  以上がただいままで書類につきまして調べたところでございますが、当時の直接この安件を担当いたしました者をただいま追跡をいたしておりますので、その担当者に直接質問をいたしますれば、もう少し詳細なことがあるいはわかってくるかと思いますが、これはちょっとただいままでのところ時間的に間に合っておりません。  以上のとおりであります。
  56. 石橋政嗣

    石橋委員 肝心のところはお答えにならないわけです。ニュアンスとしては、私が指摘しておることを否認するかのごとき答弁と受け取りました。したがって、もう少し証拠をもってやらなくちゃならぬわけですが、先ほど法律的な問題については私の見解と大臣の見解と一致しておりますけれども、一応確認しておきたいと思うのです。増設届けというものは工場排水規制法第四条によって出さなくちゃならない、義務づけられておるということは確認されました。同じく八条によって届け出から六十日以内は着工できない、六十日たたなければ着工できないということも確認されておりました。  問題は、六月十五日に受け付けた、届け出の受け付けをやったというスタンプが押してある、こういうんですね。私は、七月にそれは談合して、通産局と石原産業とが談合して、さかのぼって届けをしたことにする、その際にあわせて、工事着工は八月十五日にしたことにし、完成及び使用開始年月日は九月十五日ということにしようじゃないかという申し合わせまでもしているということを私、指摘しているわけです。これを裏づけるためには、いつ工場が動き出したかということを調べれば一番いいんですよ。調べましたか。私は調べていますよ。生産日報を持っていますから。工場が完成しないで品物が出てきますか。これ、会社の生産日報です。何月何日にどれだけの生産量があると、六月から出ているじゃないですか。工場もできていないのに生産品がどうして出てきますか。いつから操業を始めたかお調べになりましたか、スタンプだけおっしゃるけれども。スタンプは六月十五日に受け付けたことにしようと話し合いでやっているんだから、押しますよそれは、六月十五日に。工場がいつから動き出したか。  先ほどは、ちょっと私は社長の「八十年の思い出」というのを引用しました。ここでもはっきりと工場が六月二十日に完成したと書いてある。それを記憶違いじゃなかろうか——死んだ人だから、死んだ人の記憶違いにすりかえようとする、そういう意図さえ見えます。それだけ持っているんじゃない、私は。生産日報を持っているんですよ。何だったら、一日何ぼ生産されたか全部読みましょうか。第二工場幾ら出ている。参考までに関係部分ちょっと読んでみましょう、六月のところ。「今次第三期合理化新設第二工場は、中旬以降逐次各装置、機器の最終チェックを終え、二十日火入れ式挙行後全工程順調に試運転のスタートを切り、各工程逐次安定化し、月末現在仕上げ工程の最終調整を残すのみの段階となった。」これは六月です。ずうっとそれ以後の生産量は生産日報の中に明らかになっています。あなたの六月十五日は、ほんとうにそれが有効であったにしても、九月十五日にならなければ物はできないわけでしょう。違法操業でしょう。品物はできているじゃないですか。それすらすでにおかしいのですが、六月十五日にしようというのも七月の話し合いなんです。通産局と石原産業の当事者と話し合ったのは、七月十六日の話ですよ、六月十五日にしようというのを話し合ったのは。全部判こを押していますよ、工場長も全部。報告書が出ているのです、通産局との談合の報告書が。話し合ったのは七月十六日です。場所は名古屋通産局です。どういう話し合いが行なわれたのか、事こまかに私は説明しましょうか。しかし、その前に認めることが前提ですよ、認めることが。こういう違法行為が通産局の指導のもとに行なわれて、法で義務づけられておる届け出期間までさかのぼって、七月十六日の時点で、六月十五日で出しなさいというようなことを通産局が指導しているということを、いま私は問題にしているのですよ。否認するのですか、そんな事実はないと。否認できますか。その点からお答え願います。
  57. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 まず最初の点でございますが、操業開始は四十三年九月二十一日というふうに、調査の結果、出ております。それと、先ほど御指摘の点とを考え合わせますと、あるいは操業開始以前のテストというようなことがあり得たかと思いますが、それは推定をするしか方法がございませんので、九月二十一日でございます。  それから次に、六月十五日の受理印を、改ざんしたのではないかという、そういう意味の御指摘であろうと思いますが、これは書類の上で調べます限り、それを肯定する材料もございませんし、またあるいは石橋委員のお立場からは、否定をする材料もないであろうという御指摘になろうかと思いますが、いずれにいたしましても書類の上では、これは受理は六月十五日でございます。ただいまのような御指摘の点は、当時担当しております者がはっきりいたしますと、それにつきましてなお調査をする必要がございますので、私の御報告はこれで終わっておるわけではございません。ただいま、与えられました時間内において、これだけのことを調査いたしたわけでございます。
  58. 石橋政嗣

    石橋委員 九月に操業したことになっているとおっしゃいますが、法律のたてまえからいえば、そういうことにしなければつじつまが合わないのです、六月十五日に届けたことになっているから。八月十五日に工事が終わって、九月十五日以降でなければ操業できないのです、法のたてまえから。それでつじつまを合わしているのですが、実際に生産しているじゃないですか。七月の集計もこれに出ているのです。八月の集計も出ているのです、第二工場どれだけの生産量という。その点、肝心なところ調べてないじゃないですか。スタンプのところだけ調べたってだめですよ。その点は行くえ不明だとおっしゃるのですけれども、行くえ不明にしているのじゃないですか。しばらくどこかに隠れておけ、と。そんなことはもうすぐわかることですからね。いつから操業を始めたかということはすぐわかることですから、スタンプを幾らごまかしたって。もう少しさかのぼっておけばよかったと、いま反省しておるかもしれぬ。六月十五日ではなくて、四月十五日ぐらいにしておけばよかった。その程度ですよ、あなた方の反省というのは。——それじゃ、大臣のほうから、そういった談合した者の名前を言えということでございますから、私はあえて申します。  先ほど申し上げたように、七月十六日に石原産業の後藤なる人物が呼ばれまして、通産局の森課長補佐と杉本事務官と話し合いをしております。その話し合いの内容ですが、先ほどこれは申し上げたとおり、「今回は増設の届け出となるので、工事着工は四十三年八月十五日、完成及び使用開始年月日は四十三年九月十五日とする。なお、届け出は着工前六十日前となるので、上記日程からさかのぼり、四十三年六月十五日に受け付けたことにする。」いいですか、これが第一です。「当方は、すでに設備は完工し、七月は試験操業、八月から本格操業の旨の説明をしております。」いいですか。「本来ならば、工場長名で始末書を提出してもらわねばならぬが、工事中に工場見学をしたことでもあり、局としてもあらかじめ内容を聞いていたので、上記のとおり調整する。上記日付で工事期間は一カ月であるが、基礎工事は含まず、かつ発生施設のみの工事を対象と考えるゆえ一カ月でよい。前回四十一年四月八日届け出以後の能力増強分については、全部今回の増設分として記入すればよい。」懇切丁寧です。次に、「特定施設の能力が増加し、排水量が多くなった場合は、これに見合った水質の改善がなされることを原則としている。したがって、若干でも水質が改善されるように報告されたい。」いいですか。「前回届け出四十一年四月八日の工場排水等の水質表では、SSが通常一四二PPM、最上二二一PPMと報告されているが、一〇〇ないし一二〇PPMで報告願えないか。局の工事への立ち入り検査結果では、SS通常六九の感度が出ている。」六九という数値が出ているが、一〇〇から一二〇ぐらいにしてくれないか。また「同表は、新旧比較できるよう対照表を記載されたい。汚染処理の方法欄には、前回届け出以後、工場を建設した処理施設を全部あげること。たとえば沈でんの拡充があるはず。様式は前回と同様とする。工場配置図は作り直し、色分け区別をされたい。めんどうのこととは思うが、局では、最新の届け出で全部チェックするので、前回提出分を訂正したもの——したがって、前回分とダブる分が多くある——を提出してほしい。」ごめんどうのことでございますが、ですよ。「硫酸鉄の処理予定を添付していただきたい。本届け出書は県へ一部提出され、本件につき県から指導されるため、処理予定を添付しておく必要がある。ただし、予定はあくまで予定であり、将来これの実行を約束されるものではない。使用開始後十五日以内に使用開始届けを提出されたい。」まことに懇切丁寧でございます。しかも、一歩へりくだって、ごめんどうでございますが、こういう態度でお願いしているのです、違法行為をした者に対して。  こんな態度で、監督も指導もあったもんじゃないですよ。だから、先ほど申し上げたように、何の施設もないまま増設分の工場ができて、その分だけ結局、処理施設がないから、一日二十万トンの硫酸をなまで港に捨てにゃならぬことになった。一年数カ月も捨てた。一日二十万トンですよ。そこで、四日市の港は全く酸の海と化した。これが状態です。このとき、ほんとう公害を食いとめたい、市民の健康を守らなくちゃならぬという使命感が通産省にあったならば、この事件は未然に防ぐことができたんです。あなたは先ほど、あとで施設をやった、何十億という金をかけた、こうおっしゃいます。それは海上保安庁に検挙されたあとです、あなたも認めたように。やろうと思えばできるんです。できるだけやるまい。追い詰められて初めてやった。やったとたんに、金をかけてやったと胸をそっくり返している。私に言わせれば、金かけさえすればできるもんなら、なぜ最初からやらぬか。行政機関はなぜ最初からやらせないかと言いたいのですよ。やったからいいじゃないかという問題じゃないじゃないですか。これは起訴猶予処分になった日本アエロジルの問題についても私は非常に不満を感じているんです。市民がいま検察審査会に持ち込んでおりますけれども……。検挙されたあとに、施設をちゃんとやったからいいじゃないか、こういう思想が一貫しています。企業に対してはそれほど寛大であるものが、個人に対してはどうですか。港則法の場合でも、同じ四日市で、魚屋さんが魚のはらわたを三輪車に積んで波止場に持っていってぽんと捨てた。起訴されて有罪になっているじゃないですか。個人に対してはこれほどきびしいのに、企業は、検挙されたあと施設改善をやったからよろしい、起訴猶予、何たることです。弱い者いじめじゃないですか。これがいまの行政機関の姿勢なんです。検察庁までそれに同調しているんです。これは政治の反映ですよ。だから私は、一通産局の役人の名前なんかあげたくなかった。彼らにしてみれば、そうすることがあなたたちに忠実なるゆえんだと思ってやっているんです。問題は政治の姿勢なんですよ。この事実をお認めにならないで、私にこれ以上質問を続けろといってもおかしいです。これははっきりしていただきたいと思います。
  59. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 まず、前段お読み上げになりました問答でございますが、石橋委員の御発言をお疑いをする理由があるわけではございませんけれども、これは本人につきまして私ども自身調査をさせていただきたいと思います。  それから、後段の点は、先ほども申し上げましたとおり、PHが規制をされていない時代でございますから、法律上の改善命令を出すことができない、これは事実問題としてお認めを願わなければならないと思います。したがいまして、行政指導をした、こういうことでございます。
  60. 中野四郎

    中野委員長 ただいまの問題につきましては、通産大臣はすみやかに本問題を調査し、本委員会に報告されるよう要望いたします。  石橋君に申し上げますが……。   〔「答弁、答弁」と呼ぶ者あり〕
  61. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 先ほど与えられました時間で文書による事実関係を御報告申し上げたわけでございますが、石橋委員の御指摘の点を伺っておりますと、書類の受付の日付をさかのぼらせたのではないかというようなことが考えられるわけでございまして、そうなりますと、単に行政の適切、不適切ばかりでなく、公文書偽造ということも考えなければならないのではないかと思います。したがいまして私どもとして放置できる事態で当然ございませんから、まず関係者を確認いたしまして、関係者につきまして私ども調査をいたしまして、それをさらに御報告をさせていただきたいと思います。
  62. 中野四郎

    中野委員長 石橋君に申し上げます。  本問題につきましては、通産大臣の報告を待って別の機会を与えますので、残余の質疑を御継続を願いたいと思います。
  63. 石橋政嗣

    石橋委員 理事会の決定でございますから従いたいと思います。  その前に、やはりなまなましいいまの質疑応答の中でかわされました内容をじっとお聞きになっておった総理の感想を私は一応お聞かせ願っておきたいと思うのです。公害問題に真剣に取り組むと幾ら口で言っても、行政機関がこういう姿勢であっては、これはほんとうの解決になりません。何度も申し上げるように、法律をつくることも、手直しすることも大切ですし、役所をつくることも大切ですが、心がまえというものがこういう心がまえであったのでは、全然解決にならないわけです。私はそのことを問題にしておるわけですが、ひとつ率直なる御見解、御感想を承って次の質問に入りたいと思います。
  64. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 実は、言われるまでもなく、お尋ねになるまでもなく、発言を求めて私の感じ方を率直に御披露すれば、あるいはかようにまで紛糾しなくても問題が片づいたんじゃないか、かようにも考えながらいきさつを静かに見守っていたのでございます。ただいま言われるように、一応理事会において結論が出ております。また、それを尊重すると、こう石橋君も言われますから、そのことは、もうそれはそれとしてけっこうです。しかし、お尋ねの御趣旨は、個々の具体的の事例の探求もさることながら、基本的にどうも行政機構あるいは行政を担当する者が企業家と癒着しているんじゃないか、そういう点をいかに整理するつもりだと、こういうところに質問が発したと、かように考えております。その問題をめぐっていろいろやりとりをされたと思っております。  私がいまさら申し上げるまでもなく、この前の臨時国会公害立法等を採用した、この際にも実は在来の考え方ではないのだ、在来からの考え方ではこの問題は解決しないのだ、こういうことで内閣の中に公害対策本部を設置し、私自身が本部長を買って出る、そして山中君を副本部長にして、各省にまたがる公害行政の一元化をはかっていこう、そして強力にこの問題と取り組む、まずいままでの姿勢を改めること、これが何よりも必要だ、かように私自身が痛感しておったのであります。このことは昨年の一日内閣におきましても、実はすでにその態度、その姿勢を示したつもりでございます。またその姿勢に基づいて、ただいま申し上げるように対策本部を設けた。そしてこの前は、臨時国会で各党の協力を得て、たいへん珍しいことだが公害だけについての諸立法ができ上がった。あの短い期間中に、ほんとにこれは各党とも熱意を持ってこの法案と取り組んだ。そして修正は受けましたものの、またある点では各党それぞれの立場において必ずしも心から御賛成は得なかったにしろ、十四の対策法が成立した。これは私は憲政史上でも珍しいことではないか、かように実は思っております。この臨時国会の成果をもって今後の公害対策公害行政に立ち向かう、こういう考え方でただいまいるのでございまして、すでに御承知のように、皆さん方は特別な省を設けろ、かような御指摘もありましたが、私は、環境庁、これをつくることによって公害行政の一元化が可能ではないか、かように思っておるのでありまして、一応その線でただいまスタートしておりますが、しかしまだ予算その他が成立したわけではありませんから、もちろんこれをつくるにあたりましては各党の御意見も十分しんしゃくいたしまして、そしてりっぱな公害対策行政が可能なような処置をとりたいものだ、かように実は思っております。そしていま重ねて申しますが、何と申しましても姿勢が、いままでのような事業に癒着した、そういう関係公害行政対策を立てる、こういうことでは国民の信を得るゆえんではない、かように思っておりますので、この点では、石橋君が御指摘になったとおり、私も、この問題は在来の考え方を大転換して初めて効果があがるのではないだろうか、そのためには、十分私どもの姿勢も考え直していかなければならぬ、かように思っておる次第でございます。これは簡単な表現ではございますが、これから後、いまの法律をもって十二分ではありません。まだまだ各種立法を必要とするだろうし、あるいはまた公害基準等についてもさらにさらにもっと精度を高めていくような、そういうような諸施設も必要だろうと思いますし、あるいはまたその他の問題、ことに公害被害者の救済などの問題については積極的に取り組んでいかなければならない、かように私は思っております。しばしばいわれます、おそらくきょうもお尋ねがあったはずでございますけれども、どうも公害問題をこの程度で一応預かったので、そこまではいきませんでしたが、無過失責任の問題なども、これから私どもが検討を要し、研究すべき課題だ、問題だ、かように実は考えております。  ただ所信の一端だけを御披露いたしまして、そしてこれにお答えをいたしますけれども、先ほど通産大臣から、この問題をやみからやみに葬るような考え方はしない、こういう話をしておりましたが、私自身も、これはもっと明確にして、国民からほんとうに信頼されるような処置をとりたいものだ、かように考えております。そのことを申し添えておきます。
  65. 石橋政嗣

    石橋委員 私が特に言いたいことは、法の実際の運営に当たる公務員諸君の、先ほどから申し上げておるような姿勢というものも問題です。しかし、やはり何といっても政治最高責任者である総理大臣なりあるいは大臣各位なりの発言にも慎重を期してもらいたいと私は言いたいのですよ。確かに法律からは経済との調和という条項ははずれたかもしれぬけれども皆さん方の気持ちの中からははずれてないんじゃないか。それがときとしてぽっぽっと出てくるのではないかという気がしてならないのです。そういうものがある限り、下で法の運営に当たる公務員の諸君も、厳正に公害を防止するということを考える前に、企業立場、産業の立場ということをつい考えてしまう。皆さん方は何げなく言ったかもしれぬが、敏感に反映するということをもう少し慎重に考えてもらいたいと思うのです。たとえば、先ほども例として申しましたように、電力はほしいけれども発電所をつくることは反対だというのはおかしいと、総理は簡単におっしゃる。発電所をつくることが反対だというのではないのです。公害をまき散らす発電所は困るといっておるのです。荒木さんだってそうですよ。スモッグなんというのは風が吹けば吹っ飛ぶ、カドミウム米なんてばりばり食う勇気が必要だ。こんなことをぽんぽんぽんぽん総理や大臣が言って、公務員諸君はまじめに法の運営に当たれますか。これが問題なんです。先ほどの港則法違反の問題についてもそうです。公害をなくそうといって一生懸命取り組んだ公務員諸君は、情状酌量の余地がある、その後改善したからいいじゃないかといって起訴猶予ということをされると、どんなに自分たちがまじめに取り組んで公害をなくそうとしたって、上のほうがそんな姿勢なんだからだめなんだという感じになっちゃうのですよ。失望しちゃう。意欲を失なう。このことを私は問題にしたいわけなんです。これなくして公害対策というものはあり得ないということを私は強調しておるので、事実は事実として明らかにしたいとは思っておりますが、ポイントはそこにあることをしっかりと頭に置いていただきたいと思います。  それじゃ、決定どおり次の質問に移りたいと思います。あまり時間がなくなったわけですが、中国問題に入ります。  私は元日に総理が記者会見をしておられるのをじっと聞いておりました。そして感じましたことは、新しい年を迎えて、いよいよ総理も真剣にこの日中問題、中国問題というものに取り組むのかなと、正直のところそういうふうに受け取ったわけです。ところが、それからもう三日後になると、ぐらりと元日にお話をされたことと違う談話が伊勢で行なわれておる。全く期待を裏切られました。それだけじゃなくて、冒頭に申し上げたように、ぐらぐらぐらぐらと一国の総理大臣の発言がこのように変わるということは、やはり政治に対する国民の信頼というものを裏切ることになるのです。そういうところからやはり不信というものが生まれてくるわけなんです。こういう面でも私は非常に残念だと思うのです。  総理自身、元日にはこうまでおっしゃっています。日中問題これはむずかしい問題だ、しかし、この問題と取り組まないで日本の外交はない、そうまで断言しておられます。だとするならば、ほんとうに取り組む姿勢がないということであれば、方針も定まってない、腹もきまってないということであれば、総理みずから日本には外交不在ということを自認することになりますですよ。私は、このことについてまず先にお尋ねしたいのですけれどもほんとうにこの中国問題というものを解決しよう、日中関係の改善をはかろうという意欲を持っておられるのかどうか、まず冒頭にお伺いしておきたいと思います。
  66. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 日中問題がむずかしい問題であるということは、北京を最近訪問された石橋君もお認めだろうと思います。しかし、私自身は、ただいま言われるように、むずかしかろうが、どんな困難があろうが、とにかく日中問題を解決しないで、そうして過ごせるはずはないんだ、よし時間がいましばらくかかるにしても、これは解決さるべきものだ、かように私は考えております。そこらにもし皆さん方と違う点があるとすれば、そういう、早急に解決はできない、いろいろ考えなければならない問題があるんだ、こういうことで、いかにも私の元旦における記者会見と四日の伊勢神宮における会見とが食い違っておるかのようなお話でございますが、しゃべっておる当の本人は別に変わっておるとは思っておりません。この問題は非常にむずかしい問題だ。それには違いない。しかし、よしむずかしくっても、このアジアにいて隣の国、そことの間の国交調整ができない、こういうようなことではこれはならないんだ。しかし、相当時間はかかったって、とにかく片づけなければならない問題だ、かように私は思っております。
  67. 石橋政嗣

    石橋委員 それでは、そういう前提でお尋ねをしたいと思うのですが、総理は盛んに大使級会談を提唱しておられるわけですけれども、この大使級会談においてほんとうに国交正常化、国交回復の問題についても話し合う用意があるのですか。正月の記者会見では、あるとはっきりおっしゃっておるわけですが、その点を確認したいと思います。
  68. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いま、大使級会談、そういう場合に当然出てくるのは基本的な、全般的な問題だろうと思います。限定して、たとえば抑留者の釈放、それだけに限定をしての話、そういうようなことではなかなか相手方も相談には乗りにくい、かような議論が出てくるだろうと思います。私は、そういう意味からも、とにかく話し合いの機会をつかみたいのです。でありますから、いまいきなり、何を話をするか、かようにいえば、とにかく抑留者を早く帰してくれということが一番具体的な問題だし、また関係者とすればそのことを非常に心から願っておるだろう、そういう問題が取り上げられる、こういうことは具体的には言い得ると思います。しかし、相手方からどういう発言がされるか、これは私どもまだ十分接触をしておりませんから、そういうことになって双方で話がさらに深まっていけば、そんなけっこうなことはないと思っております。でありますから、社会党の方が北京にお出かけになったことも、たいへん相互の理解を深める意味において役立っておる、かように私は思って歓迎をいたしております。別に、ただいま申し上げるように、話を限定する、こういうようなつもりはございません。
  69. 石橋政嗣

    石橋委員 当然国交正常化、国交回復の問題も話し合いが行なわれるだろうというんですが、私はここで若干、国交回復の場合には日中間にどういう手続が必要なんだろうかということを考えてみました。それが平和条約という形になるのか、あるいは国交回復協定ということになるのか、国交回復議定書という例もありますし、共同宣言という例もありますが、とにかく二国間で、日本と中華人民共和国との間で何らかの条約の締結というものが当然必要だというふうに思っているのですが、この点についての御見解を承りたいと思います。
  70. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私は、この両国間の話、どういう形をとるのがいいのか、そこらにも問題があると思っております。まだとにかく話も始まらないうちからいろいろな形も考えておく必要があるだろうと思いますけれども、やはり政府考える場合だと、普通にはある程度お互いの意向を打診し合って、そうして会談に臨む、これが普通の形であります。いままでしばしばいわれておりますように、なお戦争状態は続いておるんだ、こういうようなことを一部でいわれておりますから、そういうようなところからも、そんな事態でないことを十分に認識してもらわなければならないと思います。私は、日本の降伏宣言というか、ミズーリ艦上においての日本の降伏、これはちゃんと正式に認められたと思っておりますし、そういう意味で、いまさら戦争などあろうわけがないのであります。しかしながら、そういう点も、まだ戦争はあるんだ、そういうような言い方をされておること、そういう状態でありますから、まだまだなかなか双方の話し合い、これはむずかしいことじゃないだろうか、かように思っております。
  71. 石橋政嗣

    石橋委員 御承知のとおり、中国側のほうは、明らかに平和条約の締結を前提としているわけなんです。これに対して日本側の腹がまえというものがきまってないということ自体がおかしいわけですよ。私たちも、平和条約の締結、これは平和条約という名称にこだわるつもりはございません、先ほど申し上げたように。しかし、少なくとも日本と中華人民共和国との間に二国間の何らかの条約が締結されなければならない。そうしなければ国交正常化、国交回復というものはあり得ないという見解をとっておるわけです。これは中国でも確認してまいりました。中国がそういう。それに対して、こちらのほうはその必要があるのかないのかもわからぬようでは、一体この話し合いはできないわけですよ。だから私は当然に必要だという前提に立ってお尋ねをしておるわけですが、そういうものがなくたってかまわぬのだという解釈もとっておられるわけですか。これは外務大臣からでもけっこうです。
  72. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいま総理からお答えしたところで尽きると思いますけれども、なお若干つけ加えて申しますと、かねがね申しておりますように、日華平和条約におきましては、条約というものの定説から申しましても、締結に当たるのは国を代表する機関であって、そしてこの日華平和条約締結の主体である国の代表機関として日本政府と締結に当たりましたのは中華民国政府であって、そして国と国との関係においては、平和条約の第一条によって戦争状態が終結したということが規定されてあるわけであります。この点は第四条におきましては、国と国との間で戦前に結ばれておった条約が効力を失ったということも規定されておるわけですが、こういう種類の国と国との間の取りきめというものは、適用地域の範囲とは別の問題である、これが条約論としての正しい解釈であると思います。同時に、たとえば第七条とか第八条とか、通商その他の規定がございますが、これは適用の範囲というものによって左右されるものである、これが交換公文によっていろいろ規定されているところにかかわりを持つわけである、これが政府の日華平和条約に対する見解であり、態度でございますから、この条約論から申しますと、中国という国との間の平和は回復したあるいは戦前の条約は失効した、このことは、この条約によって、こういう種類の一ぺん限りのきまった国と国とのことについては、これで処理が済んでいるというのが日本政府の見解でございます。ただ、これもたびたび申しておりますように、中華人民共和国政府は、日華平和条約そのものを認めないという立場であって、法的には戦争状態が続いているのだという見解をとっておるということも、これは事実として承知いたしております。同時に、これは総理もしばしば言っておられますように、今後日中の間を何とか改善していきたいということにおいて新しい事態が生じてまいりますならば、その間の経過においてこういったような問題も、両方の話し合いと申しますか、そういう中でおのずから解決していく筋合いのものであろう、こういうように考えておるわけでございます。
  73. 石橋政嗣

    石橋委員 この戦争状態が終わったのかどうかということが一つの焦点になるわけですね。総理は盛んに、日本と中国との間には戦争状態が終わったのだとおっしゃるわけですけれども、この人的交流が行なわれている、貿易が行なわれているということをもって戦争状態にはないというのは無理なんです。私たちがいま問題にしているのは法律的な問題です。だからインドとの間でもビルマとの間でも、平和条約を結んだときにやはり戦争状態終結宣言を行なっているわけです。法律的にこれで終わりという形や手続が必要なわけですよ。だから、いま人事交流が行なわれているから、貿易が行なわれているから戦争状態にないんだというのは、これは法律論じゃないわけだ。それじゃいまどういう形になっているのかというと、これは国会の答弁の中でも出ているわけですけれども、たとえば日ソの間で共同宣言ができるまでの間の状態は、日ソ間はどういう状態にあったのかということに対して、これは法的には休戦関係だ、全面的戦争休止、戦闘休止の状態だという説明がなされておりますが、これは間違いないでしょうね。
  74. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 間違いございません。
  75. 石橋政嗣

    石橋委員 そうすると必然的にいまの日本と中華人民共和国との間には、この考え方が適用されるべきなんです。休戦関係、全面的戦闘休止の状態であるという規定が私は正しいと思うんですよ。だから、これを完全に名実ともに戦争終結させるためには、二国間の条約締結が必要だ、こういう解釈を当然とるべきです。事実、一方の中華人民共和国はその主張を終始言っておりますし、これをひっ込めることはないわけです。第一、中華民国との間に戦争状態の終結宣言を行なったからといって、中華人民共和国との間にもこれを適用するというのは無理がありますよ。なぜならば、日華平和条約の第一条に「日本国と中華民国との間の戦争状態は、この条約が効力を生ずる日に終了する。」とあるわけです。ところがこの時点に、すでに中華人民共和国というのはあるわけだ。中華人民共和国がその後にできたんならば、政府のそういう解釈も、また場合によっては理屈に合う場合があるかもしれませんが、中華民国と戦争状態の終結宣言をした時点に、すでに中華民国の全然支配の及ばない中華人民共和国という強大な国はもう現にあった。その中華人民共和国との間の戦争状態までこれで終わったという解釈は、もうまさに牽強付会です。先ほど引用されました交換公文自体、台湾政府のほう自体が心配しておるじゃないですか。交換公文において、「中華民国政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある」この条約の適用地域をこのように交換公文で確認したが、これでは心配だというので、さらに議事録において「又は今後入る」というのは「及び今後入る」という意味だ、こういうことまでやったのはなぜか。台湾自体が心配しているんですね。「又は今後入る」ということにしておくと、台湾と大陸が一体になったときに、肝心の台湾のほうが適用にならないのじゃないか、こういう心配があるから「又は」は「及び」と同じだという確認までしている。台湾政府自体がそんな心配するくらいこれはあいまいなのです。それを持ってきて、これがあるから中華人民共和国との戦争状態が終わったというのは、これはちょっと無理ですよ。外務大臣もそうお考えになりませんか。
  76. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 交換公文についてもお触れになりましたけれども、同時に、台湾についての帰属ということですね。これについては日本国としては放棄をしているだけでございまして、どこに放棄したかということは、平和条約その他におきましてもはっきりしておりません。そういう関係もございますから、国民政府側といたしましても、そういう点にもあるいは留意をした書き方を大いに主張したのかとも想像されるわけでございますけれども、御指摘のように、その条約が締結されたときには、中国の状況は御指摘のとおりの状況であった。ただ、私が先ほど申しましたのは、条約としてこう締結されて、そして国を代表する政府として、相手方として選択をしたその相手方と結びました条約において、国と国との戦争状態が終結したというのは、先ほど申しましたように解すべきものであって、これは第四条その他についても同様のことが私はいえるであろう、こういうことを申しておるわけでございます。  これが日本政府の条約論としての立場であって、同時に、しかし、中華人民共和国政府はそういう見解をとっていない、逆の見解をとっている、このことも日本政府は承知しておるわけでございます。したがって、将来、先ほど申しましたような状況の推移の中においてこういうことは解決されることがあり得る。しかし、私は月中の政府間の接触を持ちたいと祈念しておるものでございますけれども、現在の政府間の接触を持ちたいと考えているこの段階におきましても、この戦争状態が終結しておるという立場を日本政府としてとっておることは、たいへん私は大切な一つの要素ではないだろうか、かように考えております。
  77. 石橋政嗣

    石橋委員 外務省の立場からいえば、交渉技術というものを常に頭に置いておりますから、そういう議論も成り立つかもしれません。しかし、少なくとも政治家の姿勢として、そういうことでは通じないのです、相手に。やはりきちっとしていかなければいけないと私は思うのです。だから、もう少し詰めてみたいのです。  先ほどから日華平和条約の四条を引用されるわけですけれども、四条の場合で非常に注目しなければならないのは、ここにおいては「中国」ということばが使われているのですね。読んでみますと、「千九百四十一年十二月九日前に日本国と中国との間で締結されたすべての条約、協約及び協定は、戦争の結果として無効となったことが承認される。」中華民国との条約の中で、ここだけに「中国」ということばが使われておるのは一つのポイントですよ。なぜ使われているのですか、ここだけ「中国」と。中国というのは台湾だけじゃないのです。この概念は大陸も含めておるわけです。ここに「中国」ということばが使われておるのはなぜか、こう聞けば、平和条約で「中国」と使われているからだとお答えになるでしょう。だとすると、サンフランシスコ平和条約自体台湾というものを分割した考え方をとっていないということです。中国は一つとしてサンフランシスコ平和条約は扱っているということになるのですよ。そうはお思いになりませんか。
  78. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 いま正確に条約文で見て御説明をいたしたいと思って見ておったところですが、中国ということばをほかのところにも使われておると思いますし、平和条約の「中国」というところを引用したものでもありましょうし、同時に、中国は一つであるという立場をとっておりますことも御承知のとおりでございます。
  79. 石橋政嗣

    石橋委員 大切なことは、サンフランシスコ平和条約においては、中国は一つだという、そういう立場が貫かれておるということですよ。これはお認めになったわけですが、そこへもってきて、この台湾政府との間だけで日華平和条約を結んだということが非常に問題になっているわけなのです。だから、サンフランシスコ平和条約の精神をすら踏みにじっている条約であるということすら言い得るわけです、ここで。  そのことはおいて、私は先ほど外務大臣がおっしゃった問題の中で非常に大切な問題が一つありますから、もう一度確認しておきたいと思うのですが、サンフランシスコ平和条約で日本は、台湾、澎湖島のいわゆるすべての権限を放棄したわけですね。ところが、これがどこに帰属するかきまっていない。日華平和条約の中でもそれについては全然触れてない。法的にはいま宙ぶらりんなんです、台湾というのは。中華民国自体は、蒋介石政権自体は、台湾はおれの領土だ、おれの支配の及んでいる地域だと考えておるでしょうが、それはどこからも認められたことのない、台湾ひとりの主観的な判断にすぎない。これはお認めになりますね。
  80. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 台湾につきましては、先ほど申しましたように、日本国としてはこれを放棄したのでありますから、この帰属がどういうふうになっているかということについては、日本政府としては申し上げることは差し控えるべき性格の問題である、かように存じております。  それから、ついでで恐縮でございますが、先ほどの御意見の中にございましたが、国連との関係でございます。国連におきましては、これもいろいろ御議論のおありになるところだと思いますけれども、事実の問題として、国民政府が国連創設以来中国の代表権を持っており、また安保常任理事国の席を持っておりますことも御承知のとおりでございますから、国連との関係におきましても、その関係は十分説明がつくことと思います。
  81. 石橋政嗣

    石橋委員 国連自体、持ち出されましても、これがすでに虚構の上に成り立っているということは、私は終始申し上げているわけです。台湾政府が代表権を持っておる、しかもその持ち方が安保理事会の常任理事国で拒否権まで持っている、これは矛盾を感じられるでしょう。これは虚構ですよ。それを引用されるのもけっこうですけれども、私がお聞きしているのは、このサンフランシスコ平和条約においては中国は一つであるという、そういう考えの上に立っておるということを申し上げているわけなのです。これは間違いないでしょうねと、その証拠に日華平和条約でもちゃんと中国ということばを使われておるじゃないですか、こう申し上げているわけです。
  82. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 この点は先ほど申し上げたとおりでございますし、また日本政府としても中国は一つである、そうしてまた中国が一つであるということについて国民政府、北京政府両方ともこれを強く主張しておる、これが現実の姿である、かように思います。
  83. 石橋政嗣

    石橋委員 そうしますと、平和条約というものの一つの目的といいますか、平和条約締結の目的の中には、領土条項の最終的な処理というのがあるわけです。これが台湾、澎湖島についてはなされていないわけです、いま。日本はそのすべての権限を放棄したけれども、さてどこのものかということは、国際的に、法的にいまだにきまってない。どこの領土でもないわけですね。それじゃ、どこでそれをきめるのか、いつきまるのか。それは連合国がきめることだとおっしゃるかもしれないが、実質的にはそうであろうと、法律的な手続としては日本が平和条約を結ぶ、そういう形の中で処理されることは過去の実例が示しております。たとえば沖繩の問題の処理あるいはソ連との間の問題——あれだって共同宣言にしたのは、領土問題が最終的に処理されなかっただけで、領土問題の話し合いがつけば、日ソ間で平和条約の締結という形で処理されるわけです。向こうで連合国がどういう形で相談するかは別として、日本の立場からいえば、どこかの国と平和条約を結ぶ中で解決されるわけです。台湾と平和条約を結んだけれども領土問題は処理されてないということは、どこかの国とあらためて平和条約を結ばなければ領土問題は処理されないという理屈になるのですよ。そのどこかの国というのはどこだ。これは必然的に一つの中国、われわれからいえば、中華人民共和国。そうじゃないと言うなら、それでは何で台湾との間で領土問題を処理できなかったのですか。台湾との間に平和条約を結んだらなぜ処理できなかったのか。一つの中国である、その一つの中国を標榜する二つの政府、その片一方の台湾政府とは平和条約を結んだが、領土問題の処理ができなかった。だとするなら、もう一つの、おれのほうがほんとうの代表だという国と結んだときに、この問題は解決する。常識じゃないでしょうか。いかがです。
  84. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 領土問題の解決というふうに取り上げられての御質問ですけれども、領土問題ということになりますと、中華民国との間には、台湾を放棄したということが日本側としてはあるだけでございまして、それ以外にはその帰属がどういう形できまるかということは、これは多数関係国間で最終的にはきまるべきものかと思いますけれども、日本と中国との間の関係においては、放棄したという事実関係だけであって、それ以上約定すべきものはないのではなかろうかと私は思います。  それから中華民国政府との関係におきましては、先ほども申しましたように、日華平和条約の適用範囲についての交換公文等が、そういうこともあるので特に交換公文として規定された、これがこの条約の成り立ちである、かように私は承知いたしております。
  85. 石橋政嗣

    石橋委員 日本として認めてないことは当然です、権限がないわけですからね。しかし、国際的に、いかなる条約その他によっても、台湾政府の領土として、蒋介石政府、中華民国の政府の領土として台湾、澎湖島が確認されたということは全然ないことはお認めになりますね。
  86. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 いまの日華平和条約の上におきましては、国民政府が現に統治をしている対象というところで関係が出てくると思います。それ以外にはございません。
  87. 石橋政嗣

    石橋委員 現に支配している、統治しているということは事実だが、蒋介石政府、中華民国政府の領土であるということは、いかなる形でも確認されてないということをお認めになりますかと聞いているわけです。
  88. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 その点は、答弁申し上げておることが正確にびっしりいかないかもしれませんけれども、日本としては台湾は放棄したということでございますから、それについてどこに帰属をさせるべきものであるということを日本としてはいうわけにいかないわけでございますから、これはどことも日本としては約定の対象にならない、こういうふうに解すべきものと思います。
  89. 石橋政嗣

    石橋委員 そこで、私は何度も申し上げるように、結局、中華人民共和国と平和条約というものを締結する以外に、戦争状態法律的に終わらせる方法もないし、最終的に領土問題の処理もあり得ないという見解をとっておるわけなんです。ところが、それを積極的に認めようとなさらない。何らかの二国間の条約が日中関係に必要だということをなかなかお認めになろうとしない。というと、やれない何か要因があるのじゃないかと、逆に疑わざるを得ない。日本と中華人民共和国との間に二国間の条約を結ぶことは、日本政府はどこかから拘束されてできないのじゃないか、言えないのじゃないか、そういう疑念がわいてくるわけです。  そこで、調べてみましたら、出てきたのが、この中国問題に関する一九五一年十二月二十四日の吉田内閣総理大臣からダレス大使にあてた書簡なんです。これは本会議でもちょっと議論になりましたけれども、明快な回答がなされておりません。この書簡は私信だから拘束力はないと、簡単に総理はおっしゃったが、私信とは言い条、これは内閣総理大臣の出した手紙ですよ。ほんとうにもうこれは一片の私信だというふうに片づけていいものでしょうか。総理にお伺いします。
  90. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これはよく御承知と思いますけれども、いわゆる吉田書簡といわれるものに二つございまして、ただいま御指摘のものは昭和二十六年かと思いますが、吉田総理からダレス大使あて書簡ということになっておるかと思います。これはいまのお尋ねの点に関連した書簡でございまして、したがって、この書簡はその使命を終わったものである、過去の文書である、こういうことがいえると思います。その書簡としての要するに役目は終わった書簡である、こう解すべきであると思います。  それからただいま私信ということを仰せられたのは、これはいわゆるその後の問題でございまして、これは一私人としての吉田さんの張群あてといわれておる書信のことかと思いますが、これはまさしく私信でございます。
  91. 石橋政嗣

    石橋委員 使命が終わったとおっしゃいますけれども、これはきちっと整理しておかなければいけない部分が非常にたくさんあると思うのです。そういう簡単なことばで処理されてはならないものがあると思うのです。  たとえば一番肝心な、私がいま問題にしておる平和条約の締結の問題ですが、ここでは「中国の共産政権に関しては、この政権は、国際連合により侵略者なりとして現に非難されており、その結果、国際連合は、この政権に対するある種の措置を勧告しました。」これは変わってないでしょう、現状。これを国連で取り消されましたか。いいですか。その次、「一九五〇年モスクワにおいて締結された中ソ友好同盟及び相互援助条約は、実際上日本に向けられた軍事同盟であります。」これも変わっておりませんですよ。そのあとに「事実、中国の共産政権は、日本の憲法制度及び現在の政府を、強力をもって顛覆せんとの日本共産党の企図を支援しつつあると信ずべき理由が多分にあります。」これは変わっているかもしれません、よくわからぬけれども。私は変わっていると思います。しかし、重要な問題について二つ変わっていない。「これらの考慮から、わたくしは、日本政府が中国の共産政権と二国間条約を締結する意図を有しないことを確言することができます。」といっているんです、総理大臣は。前提としてあげられておる条件の柱になるものは変わってないじゃないですか。それを、状況の変化だ、もう使命は終わったと片づけられるのですか。そうすると、これは変わったという見解を政府はおとりになるのですか。国連の中国に対する非難決議、これも現に生きている。中ソの相互援助条約、同盟条約、これも生きている。こういうものがあるから、日本は絶対に「中国の共産政権と二国間条約を締結する意図を有しない」こういうふうにダレス大使に吉田内閣総理大臣が約束した。使命を終わったのですか。終わったということは、こういうことが変わったという判断でございますか。
  92. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 それは事情をよく御了解の上でのお尋ねかと思いますけれども、要するに、日華平和条約を締結するに至るプロセスにおける日米間の関係から出てきたところの一つの経過でありまして、私がさっき歴史的なものであってその使命は終わったと申しますのは、日華平和条約というものが締結をされたことによってその書簡の使命は終わったのだ、こういうふうに私は申し上げたわけでございまして、いろいろその説明その他につきましては、たとえば一番最近の場合で申しましても、日米の首脳者会談でも国際情勢の分析やそれに対する合意をいたしておりますそれらの状況の表現なども、時代の変遷や政府の意図によって非常に変わるものでございますから、そういう意味におきまして、その書簡は当時すでに使命は終わったものである、過去のものである、こう申し上げて間違いではないと思います。
  93. 石橋政嗣

    石橋委員 それでは結論だけお伺いしますけれども、こういう吉田総理大臣のダレス大使あての書簡というものは、もういま考慮する必要はない、必要に応じて中華人民共和国との間に二国間条約を結ぶことも十分に可能である、こういうふうに理解してようございますか。
  94. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これもその答弁が食い違っておしかりをいただくかもしれませんが、その書簡は、要するに、日華平和条約が成立するまでの経過において意義のあったものでございます。そういうふうに政府としては理解をいたしております。
  95. 石橋政嗣

    石橋委員 総理お尋ねいたします。私はそれではこの書簡の問題を離れてもけっこうです。必要に応じて中華人民共和国との間に、条約、協定の必要がある場合には、条約、協定を締結することも十分にあり得る、こういうふうに理解してようございますか。
  96. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 日本と中国との関係、これはいまのままでいいと私は申しませんが、何か解決策がないかというのでいろいろくふうはしております。しかし、いま石橋君から端的なお尋ねでございますが、端的にこれを答えることはなかなかむずかしいことです。  そこで、誤解のないようにお願いしたいと思いますのは、先ほどの吉田首相のダレスあての書簡についてもいろいろの御議論がございました。そうして中ソ条約についてもお触れになりました。また国連においての中共を侵略国家として非難した決議についてもお触れになりました。そのとおりです。この中国の問題、これはここ急に起こった問題ではなく、もう二十数年、実は各国の間で論議されておる問題であります。したがいまして、ただいまのように簡単に、これは長いからもうこの辺で片づけたらどうだ、こうは実はいかないように思うのです。私はむしろ石橋君や成田委員長にも伺いたいように思いますのは、おそらく戦争状態はまだあるということを片一方で主張しておられるが、昨年お出かけになったときは、これは休戦状態にしろ何にしろ、戦争状態はないという状況のもとにおいてお出かけになったのじゃないだろうか、かように私は思うのですよ。またそうあるべき筋のものだと思います。  しかし、北京政府あるいは台湾にいる国府、この二つがやはり中国は一つであり、そのいずれもが、われこそは正統政府なり、かように主張しておるところに問題の取り扱い方のむずかしさがあるわけであります。最近になりましていわゆるアルバニア決議案、その以前はソビエト案なるものがいろいろ云々された。これも国際関係でございますから、石橋さんも十分御承知のことだと思います。そのソ連案なるものは引っ込んで、アルバニア案がただいま一つにまとまっている。昨年初めて反対を押えて、そうして賛成が多くなった、こういうような状況に初めてなったのです。とにかく北京政府をめぐっての、また国府をめぐっての問題は二十数年来論議されておる、まだまだ解決案が出ておらない、これが実は実情でございます。  しかし、とにかくわれわれとすれば、何といいましても同じようにアジアに位する隣同士の国でありますから、この問題がいまのような状態で何やらわけのわからない形で、人は交流するわ、それから貿易額も八億三千万ドルも一年間に行なわれる、そういうような関係にもなっておる。密接度は相当増してきている。また片一方で覚書貿易、こういうような協定貿易まである。しかし、どうも政府はタッチしておらない。こういう関係がいつまでも続くことはこれはよろしいことではないと私は思います。しかし、ただいま言われますように、それではどういうようにするのだ、直ちに結論を出せ、かように言われても、結論は出てこない。これはいままでもたびたび申し上げたとおり、慎重にこの問題と取り組んでおる、こういうととでございます。  申すまでもなく、国益に関する問題であり、同時にわれわれの平和に関する問題である、極東の緊張緩和の問題でもある。そういうことを考えながら、この問題に対処していかなければならない。こういうことでありますから、その急がれる気持ちはわからないではございませんが、まだ十分に考え、そして誤りなきを期したい、これが私の心境であります。
  97. 石橋政嗣

    石橋委員 一つには、いま申し上げた平和条約の問題もあるわけですが、それ以外にもいろいろなことが口の端にのぼるわけですね。気象協定だ、郵政協定だ、何協定だと、いかにも政府間にそういう協定をいまにも結んでいいかのごとく、そういう話し合いを大使級会談でするかのごとくしばしばおっしゃっているわけです。だとするならば、こういうものは一切もう拘束されないのだ、必要に応じて日中間に政府間の条約、協定を結ぶことも十分に可能なのだということぐらいははっきりしておかないと、口先だけだというふうにとられる心配も現にあるわけですよ。そのことを私は整理したいと思っていま申し上げておりますので、そういう意味でもう一度その点についてのみお答えを願いたいと思います。
  98. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 もちろんいまの状態でこれを固定する考えはございませんし、私は、可能な範囲から話が片づいていくのだ、こういうことも一つの方法だろうと思います。またその他の方法も考えないではない、かように御理解をいただきたいと思います。
  99. 石橋政嗣

    石橋委員 残念ながら時間がありませんから、少しピッチを上げたいと思うのですが、二月に日中覚書貿易協定延長に関する交渉が行なわれるようでございますけれども総理としてはほんとうにこの協定の継続を望んでおられるのか、この点をひとつお答え願いたいと思います。
  100. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ほんとうに望んでおります。
  101. 石橋政嗣

    石橋委員 ほんとうに望んでおるとすれば、私は相当ここでいろいろな配慮が必要だと思います。具体的にはここで申し上げません。いずれまた同僚議員各位からもお話があると思いますが、私たちもいまここでこの貿易協定すらなくなるということはゆゆしき問題だというふうに考えております。政府としても全面的にでき得る限りの支援態勢といいますか、これが延長されるようにそういう角度から協力する姿勢を示すべきだ、このように考えております。  そこで、思い出していただきたいのは、この覚書貿易協定、以前はLTといっておったわけでございますけれども、こういうものがどうして出てきたかということを思い出していただきたいのです。これは周総理と松村謙三さんとの間のメモ、これが始まりなんですね。この中で究極の目標は両国間の関係正常化、つまり国交回復にあるのだ、この目標を踏まえてLT貿易をやりましょう。これが引き続いて覚書貿易協定という形に伝統的につながっているのだということをお忘れにならないようにしていただきたいと思うのですが、その点は十分に御承知でございましょうね。
  102. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 このLT貿易というのは、ずいぶん古くからでございまして、松村さんの前に高碕達之助さんあたりがいろいろくふうされた、かように私は理解しております。
  103. 石橋政嗣

    石橋委員 私はそのLT貿易というのが松村・周会談によって確認されたいわば合意メモに基づいて始まっておる、その合意メモというのは、究極の目標として両国間の関係正常化、つまり国交回復にあるのだ、この究極の目標につながるものの一環として貿易協定を結ぶのだという合意メモがあることを御存じですかと、こう申し上げたのです。
  104. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 聞いたこと、ございます。
  105. 石橋政嗣

    石橋委員 それでは最後に申し上げたいのですが、私たちは確かに昨年も中国に行きました。いろいろと意見の交換もはかりました。これは何とかして日中間の正常化、友好関係の確立、それで国交回復をやりたいという念願に燃えておるからです。したがって、政府が、中国は一つであり、中国を代表するものは中華人民共和国、北京政府であるという立場をおとりになるならば、われわれとしても全面的に、かつて鳩山内閣の際日ソ交渉に全面的に協力したと同様に、協力するにやぶさかではないということは再三申し上げておるとおりなんです。  そこで、政府立場で簡単にいかない、蒋介石政府、台湾政府というものを常に持ち出してくるわけですけれども一つ考え方として、それでは、中華人民共和国と台湾との間は完全に一つなんだとお互いに言っておるし、日本政府も、まあ腹は別として、従来も一つの中国だと言っておる。これを一つにするための努力というものは日本としてはできないものでしょうか。もし真剣に一つの中国という立場に立って政府が台湾を何とかしようという気持ちになるならば、われわれだって中華人民共和国に働きかけるにやぶさかではないのですが、そういう役割りを日本として持ち得るというお考えはございませんか。
  106. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私は、同一の地域に対して二つの政府がある、これはずいぶん民族としては苦しい問題であり、またいろいろの難儀な難渋な問題だ、かように思っております。したがいまして、この二つの政府が、いわゆる北京政府、また台湾政府、双方で話し合うというか、そうして、もともと一つの中国と双方が言っておるのですから、双方で話し合うという、そういうことはできないものだろうか。とにかく武力は行使しないという、これは独ソ条約でも確認しております。独ソ条約で武力は用いないということは確認しておりますが、どうも独ソ条約の場合は現状を同時に確認したという、現状を肯定するというか、固定化する、そういうような考え方でありますが、とにかく私ども一番困るのは、双方が中国は一つと言いながら二つの政府のあることだ、かように考えますので、双方で話し合っていただいて結論を出してもらうという、それが何よりも大事なことではないかと思っております。これを双方で話がつけば、それをわれわれが承認すること、それを認めること、これは当然でありまして、それこそが望むことだと思っております。私は、もう先例もありますから、お互いに武力は行使しない、話し合いでその問題を片づける、こういうようなことであってほしい。これはもう隣国にいる国として当然のことであります。御承知のように、国連では長いこと、国連創立以来常任理事国の地位を占めておる台湾政府であります。あるいは国が小さいとかあるいは人口が少ないとかいろいろ申しましても、国際的には評価してしかるべきだと思っております。そういうような地位にある国府の関係でもありますから、北京政府もそれがどうも一省だとか小さいとか言わないで、双方で話し合うこと、しかも武力を用いないこと、これが何よりも大事なことじゃないだろうかと、そのことを心から願っておるような次第であります。
  107. 中野四郎

    中野委員長 石橋君に申し上げますが、お約束の時間が経過いたしましたから、結論をお急ぎ願します。
  108. 石橋政嗣

    石橋委員 残念ですけれども時間が来たということでございますからこれで一応やめます。先ほど留保した事項もございますので、その点についてはあらためて質問を継続することにいたしたいと思います。(拍手)
  109. 中野四郎

    中野委員長 これにて石橋君の質疑は終了いたしました。  次に正木良明君。
  110. 正木良明

    正木委員 予算委員会の冒頭でございますので、まず総理お尋ねをいたしたいと思います。   〔委員長退席、坪川委員長代理着席〕  佐藤総理は今国会の冒頭における施政方針演説の中でいろいろとお述べになりました。その最後に、結びとして、国民に訴えるということでおっしゃっておりますが、いささか訓戒じみたことをおっしゃっていらっしゃるわけであります。非常に内容としてはりっぱなものであります。ただ、ここでわれわれというふうな呼びかけでおっしゃっておりますのは、これは決して佐藤内閣という意味ではなくて、国民全般を含めて日本人としてのわれわれ、日本国民としてのわれわれというふうにおっしゃっているのだと思います。そこで、先ほど石橋さんもお触れになりましたが、「われわれは日常生活の面においても、とかくいら立ちがちであります。平和な民主主義社会をなまぬるく感じて、性急に現状を変更しようとあせったり、中には、極端な行動に走ろうとする者さえあります。しかしながら私は、平和を維持し続けるということは、非常な根気と忍耐と努力が必要だと信ずる」また「われわれは壮年期に入った民族として、いまこそ内政、外交のあらゆる面にわたってじみちな努力を続けるべき時期」が来たというふうに確信するとおっしゃっている。非常にりっぱでありますが、そこで、国民にこれだけのことを求め、訴えるということになりますと、どうしてもやはり必要なのは政府の姿勢であるというふうに私は思います。指摘されるべき、またたださるべき佐藤内閣の姿勢というものについては、幾つかの問題点が山積いたしておりますが、一つ一つ申しておりますと時間がむだでございますので、その中で特に申し上げてみたいのは、政治資金規正法の問題でございます。  昭和四十六年一月十八日、この間の十八日でございますが、日本社会党、公明党、民社党三党の国会対策委員長佐藤内閣総理大臣に対して申し入れを行なっております。三項目の申し入れの最後に、公害対策を充実強化するために無過失賠償責任法案の提出及び佐藤総理公約の政治資金規正法改正案を再提出すべきであるということを申し入れをいたしております。これは官房長官を通じて申し入れをしたのでございますが、このことは佐藤総理はお聞き及びでありましょうか、同時にまた、この点についてどのようにお考えになっているか、これをまずお尋ねをいたしたいと思います。
  111. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 三党から官房長官に申し入れをされた事柄については詳細に承っております。また、政治資金規正法、これは他の機会にもお話ししたと思っておりますが、過去におきましてたいへん苦い経験を私自身なめてきておりますので、今回もしもこれを提出するということになれば、ほんとに各党から喜ばれるような、満足して支援がいただけるような、そういうものでなければならない、かように思っております。まだ提案というようなところまで至っておりません。しかし、これは私の長い間の政治経験から申しましても必要なものではないか、実はかように考えておる次第でございます。
  112. 正木良明

    正木委員 三野党がそろって申し入れをいたしたのでありますから、内閣から政治資金規正法の改正案が提出されれば、これに協力するのは当然のことであります。しかし、いまの総理お答えでございますと、お考えになる時間があまりにも長いように私は思うのでございますが、もうそろそろ煮詰まってもいい時分であるし、いまこのように政治不信というものが高まっておるということ、こういうことから考えても、やはり最も正すべき金と政治とのきたない関係というものを清潔にするということ、これをまず第一に掲げなければならないのではないかというふうに私は思います。  したがいまして、重ねて佐藤総理にお伺いをいたしますが、今国会中に政治資金規正法改正案をお出しになるおつもりはございますかどうですか、お答えをいただきたいと思います。
  113. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 この通常国会は、実は長いようで短いとでも申しますか、途中地方統一選挙など行なわれますために、またなかなか延長も困難な状態でございますので、はたしてこの会期中に皆さんの御要望にこたえることができるかどうか、ただいまのところ私も危惧しておるような次第であります。ただいま一番急いでおりますのは、この総括質問中に関係法律案を整備すること、これで実は手一ぱいで、ただいまのところそれに没頭しておるような状態ですから、いま言われますように、予算案以外の事柄についてはあとにならざるを得ない、しかもこの国会は、会期が長いようだが、途中で自然休会その他も予定しなければならない、かように実は考えております。
  114. 正木良明

    正木委員 これは佐藤総理もよく御存じだと思うのですが、政治資金規正法の改正をしろということを答申した選挙制度審議会からの答申ですね、特別な答申が出ましたが、これからもう十数年たっている。そういうことから考えて、今国会は非常に時間が足りないから出せないということではなくて、ほんとう政治資金規制という問題をやる気があるかないかということにかかっておると私は思うのです。そういう意味において、どうも政府のほうでお出しにならないようでございますので、これはおそらくこの三党が共同提案で今国会に提出しなければならないというふうに考えておりますが、いずれにいたしましても、これはやはり自民党の総裁としての佐藤総理がその気になって野党から提案された法律案にしろ、真剣に政治資金を規制して、政治姿勢を正そうという姿勢がなければどうにもならないことでありますので、これは強くその点についてこの場をかりて再び申し入れを申し上げておきます。  さらに、この点ともう一つは、無過失賠償責任制度の問題でございますが、これは昨日の松野質問お答えになりまして、山中長官は非常に積極的な姿勢をお示しになって、私はけっこうだと思うのですが、それにしても今国会には提出は不可能であるというようなニュアンスの御答弁があったように承っております。無過失賠償責任制度というものについては、非常にむずかしいということはわかりますけれども、しかし公害によるところの被害者救済につきましては、この無過失賠償責任制度というものが非常に重要な役割りを果たすということは、前国会の公害連合審査のときにも、私はるるそのことを述べたのでございます。そういう意味におきまして、もしこれもお出しにならないとするならば、これは前国会において野党三党が共同提案した無過失賠償責任制度に関する法律というものを提案しなければなりません。したがいまして、この政治資金規正法の先ほどの問題と無過失賠償責任制度の法律案について、どのようようにお考えになっているかということを御答弁いただきたいと思います。
  115. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 政治資金規正法についてまずお話しいたします。  選挙制度調査会から答申を得たのは、ずいぶん以前のことでございます。その後事情もずいぶん変わってきておりますので、これは答申のままではいけない、かように今日は考えております。新しくやはり政治資金を規制するについては、今日の状態に合ったものが必要のように思います。そうして私が申し上げるまでもないことですが、この選挙それ自体がもっと政党本位になるとか、あるいは選挙区の制度もある程度手を入れるとか、そういうような選挙制度そのものとも関連を持って政治資金をきめるというのが本来の考えられる行き方じゃないか、かように思っております。ただ金だけの点で、いまの状態のままで政治資金を規制しろ、これも全然効果がないとは申しませんが、せっかくそれだけのことを思い切ってやるならば、ただいま申し上げるような諸点もあわせて考うべきものだ、かように私は考えておるので、もう少し時間がかかるように思っております。ただいま選挙制度調査会も重ねて審議中だ、かように承っておりますので、いましばらく結論の出るのを待って、しかる後にわれわれの態度もきめたい、かように思います。  第二の無過失責任の問題につきましては、これは昨日も山中総務長官からお答えをいたしましたように、何といいましても、責任賠償というか過失のもとにおいての責任制度、それがいまの憲法の、また民法の大原則でございますから、その大原則に対する例外だ、こういうことで簡単には実は結論の出ないもののように思います。私も若い時分にはずいぶん、大学に行っている時分、無過失責任、これは何よりも必要だという、そういうほうの論者でございましたが、だんだん年をとるに従ってもう少し考え方も変わって、やはり事態に適応したというか、やはり原則は原則として故意または過失、それがやはり本来の基本だ、その例外的なものだから、例外的なものについては、やはり十分国民の納得のいくようなものでなければならない、かように私は考えておる次第であります。  ただ公害の場合に一つの問題は、被害者がたいへん広範にわたり、しかもまた、その挙証責任が、ただいまのようなたてまえだとその責任被害者自身にある、こういうようなことでその救済に思うようにいかない、こういうような点もありますので、それらも勘案しつつ適当なる救済措置がとれるように方法も考えなければならぬ、かように思いますが、そういう意味で前向きにはこの問題について取り組んではおりますけれども、結論をまだ出しかねておるというのが実情でございます。
  116. 正木良明

    正木委員 政治資金規制法の改正について選挙の問題をお持ち出しになりました。これは密接な関係があるということは当然のことであると私は思うのです。ところが前例によると、選挙制度の問題を政治資金にからめて解決しなければならぬという考え方の根底には、たとえば金のかからない選挙をするために選挙の公営というような問題を考慮していこうというならば、また話がわかりますが、必ずここにいわゆる問題になった両輪論といわれる小選挙区制と、そうして政治資金規制という問題をからませるというようなことがすでに実績としてあったわけであります。そういう意味において、私は選挙制度、いわゆる小選挙区制というようなものはこの際からませないで、そうして政治資金それ自体を清潔な問題にするという——国民がそれを求めているわけでありますから、これをやはり早急に実現すべきではないかと思うし、なお選挙の問題についてからませるとするならば、先ほど申し上げたように金のかからない選挙のための選挙公営をこの中に含めるというならば、私は決して賛成にやぶさかではないわけでありますので、この点は案を検討されるにあたっては十分考慮していただきたいと思います。これはもう答弁要りません。したがいまして、御答弁によると、この国会にはお出しにならないようでありますから、三党から共同案を提出したいと思いますし、同時にまた、無過失賠償責任の法案につきましても、この点については提案をしたいと思います。かねてそういう無過失責任ということについては共鳴なさっておった佐藤総理のことでございますから、この点どうかひとつ初心を忘れないように御協力をいただきたい、このように思います。  なお、内政問題に入ろうと思いましたが、先ほど石橋議員がおやりになりました中国問題、記憶の新しい間にそれをその上に上積みをして議論をしていきたいと思いますので、日中問題から質問をさしていただきたいと思います。いろいろ疑問点がたくさんございます。  佐藤総理の発言の中にどうも私の耳にとっては奇異であったのは、戦争終結がミズーリ号上の降伏文書によってきまったということをきのうもおっしゃいました。きのうのときのは、松野発言で降伏ということばが出たので、そうお答えになったと思いましたが、先ほどの石橋さんの質問の中には、はっきりと戦争終結ということを言っているのですが、これでもやはりミズーリ号上の降伏文書が時点になるのでありましょうか。
  117. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 厳格に言えばミズーリ艦上、これは休戦というのが本来のたてまえだろう、かように思います。しかしながら、とにかく撃ち方やめをしたことだけは確かですから、そういう意味で私は、戦争状態はこれで終わったんだ、しかし、それを総仕上げするのには、先ほど来から議論がありましたような、何らかの条約が、取りきめが必要だ、かように私思ったのです。
  118. 正木良明

    正木委員 それではっきりいたしました。一応戦闘状態、大砲の撃ち合い、爆撃のし合い、鉄砲の撃ち合いというものを戦争だとあなたはおっしゃっている。それがなければ戦争状態ではない。したがって、降伏文書というものから、もう手をあげたんだからこれからは戦争状態がないのであって、ほんとうの意味の戦争状態の終結のためには、特殊な手続が要るということをいまおっしゃいましたね。そうすると、いまいわゆる中華人民共和国との間の戦争状態というものは、いわゆる正確な手続はまだないのでありますから、戦争状態があると考えてよろしいか。
  119. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 どうも私が出てまいりますと、よけいなことかもしれませんが、先ほど申し上げましたとおり、一九四五年の九月二日に降伏文書に署名をいたしまして、そこから経過的には発足するわけですけれども、中華民国を代表する機関として国民政府との間に日本政府は日華平和条約を締結をいたしたわけです。この場合の条約としての考え方は、法的には国と国との間の戦争状態は絡結しましたし、それから戦争前における中華民国との間の条約等も効力がなくなりましたし、そのほか平和条約も各条ごとについて御説明をしてもよろしいのでありますけれども、これは適用地域についての交換公文の適用範囲とは別問題であって、いわばエンティティーということばがよく使われますけれども、国と国との間の状況におきましては、国を代表する政府間においての取りきめというものは、法的に国と国を拘束するというのが、これは条約論として正しい考え方である、かように存じます。
  120. 正木良明

    正木委員 私は、大体それなりにわかります。法律的な意味から言うと、一国一政府という原則から言うならば、その一国と平和条約を結んだ場合には、それは全部に及んでいるという考え方をしなければならないという考え方はわからないことはない。わからないことはないが、しかし、現実の問題としてそういうふうな形で今後の外交交渉なんというものは進めていけますか。決してそうではないでしょう。そういうふうに言うと、佐藤総理はすぐ現実的な問題を出すじゃないですか。現に人間が往来しているではありませんか、鉄砲の撃ち合いがないじゃないですか、交流があるところにどうしてそんな戦争の脅威がありましたか、そういうふうに佐藤総理はすりかえて戦争状態がないとおっしゃる。しかし現実にいま外務大臣がおっしゃったことはわかるのですよ。法律的にはそういう考え方をせざるを得ないということはわからないことはないけれども、現実には、あの地域限定の適用をした交換公文というものは、現実的な立場に立っているのであって、もしかりに、法的に中華民国政府との間に結ばれた平和条約ということは、もう一つ裏を返して言うならば、中国では中華民国が正統代表政府であると認めたという形で、今後の話し合いというものは進めていけないでしょう。  現に、この日華平和条約を締結した吉田総理も、そのことをちゃんとおっしゃっているじゃないですか。これはきのう松野さんが盛んに引用なさっておりましたが、吉田総理の「回想十年」、この中で吉田総理はこういうふうにおっしゃっていますね。「調印された日華平和條約は、十四カ條の正文のほかに、議定書、交換公文その他の複雑な形式をとったが、要するにこの條約は、臺灣及び澎湖島を現に支配している國民政府との間の條約であり、將來は全面的な條約を結びたいけれど、調印された條約としては、國民政府を全中國の代表政権として承認したものではなかった。これらの点については、條約案審議の衆参両院でも、私は機會ある毎にこれを明かにした。」、このようにおっしゃっていますよ。したがって、衆参両院でこのことを明らかになさったというので、私は議事録をさがしてみましたら、なるほど吉田さんはうそをついていらっしゃいません。ちゃんとありました。これはたくさんありましたが、代表的なものを持ってまいりましたが、これは昭和二十七年六月二十六日の参議院外務委員会の議事録でありますが、この中で、曽祢委員質問に対してこのようにおっしゃっております。「もとより日華条約は、早く隣国との間に条約関係に入りたいという考えから入ったのであります。これが将来中共政権に対して云々ということでございますが、これは、日華条約は一に台湾政権との間の関係においていたしたのであって、中共政権についての関係はないのであります。」こう言っていますね。同じ日、別な質問で、やはり曽祢さんの質問に対するお答えであります。「この条約によって日本政府は、この中華民国国民政府というものを全面的な中国の主人として承認したものではない、こう考えまするが、その点は総理のはつきりしたお考えを、イエス・オア・ノーでお答え願いたい。」という質問に対して、吉田さんは、「これは条約にもはつきり書いてありますが、現に中華民国政権の」いわゆる台湾政権ですね。「政権の支配しておる土地の上に行われる事実を認めて、その支配せられておる領土を持つ中華民国との間に条約関係に入る。将来は将来であります。併し目的は終りに一中国全体との条約関係に入ることを希望して止まない」こういうふうに、吉田さんは早いところ中華人民共和国政府と条約を結ぶことを希望していますよ。そうしてこういうふうにおっしゃっているのです。曽祢さんはまたここに念を押しています。「総理が、差紙でお話しにならないで、ずばりと言えば、全面的な承認ではないということでございましよう。」こう重ねて確認の質問をなさいましたのに、吉田総理は「そういうことです。」、こう言っております。こういうことになってまいりますと、現実の問題として明らかにこの交換公文の意味するものというのは非常に重大な意味を持っておるというふうにいわざるを得ないのであります。したがいまして、やはり外交というものはそういう法理論的なものも一面必要でありましょうけれども、本来必要なのはこの現実という立場に立っての交渉、それが一番大事ではないかと私は思うのです。そういうときにいたずらに法理論を振りかざして、もう戦争状態はございません、中華民国と平和条約を結んだらそれで全部終わりです、賠償も全部済んだのですというような考え方というものは、きわめてうしろ向きの考え方であり、これは、交渉を進めるのではなくて、停滞させ、ないしはうしろ向きにさせるものではないか、このように考えるのでありますが、その点を、この吉田総理お話を含めて御答弁をいただきたいと思います。
  121. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 吉田先生の「回想十年」それから国会における、その当時の衆参両院における実に活発な論議、私も私なりに十分承知しているつもりでございますが、いまお読み上げになりました曽祢委員との間の応答のほかに、それにすぐ引き続いてまたいろいろの論議がございます。私は、先ほど来お断わりいたしておりますように、まず条約論としての立場で申し上げ、同時にこの見解については中華人民共和国政府はこれを逆の見解をとっているという事実があるということも私は指摘を十分しておるつもりでございますが、従来からの日華平和条約についての政府の見解を総合して申し上げますとこういうことでございます。国際法の主体は原則として国家でありますから、国家を代表する機関は政府であって、その政府との間で締結された条約は、有効に成立した国家間の合意として当該国家全体を法的に拘束するものでございます。日華平和条約において戦争状態の終結や戦前条約の効力のごとく、本質的に国と国との関係を律する事項について、一国を代表する正統政府との間で一たん成立いたしました合意は、その政府が現実に支配を及ぼし得る地理的範囲のいかんにかかわらず、当該国家を有効に拘束する、こういう見解をとっております。  しかしながら、条約の規定の性質上、その地理的適用範囲が問題となり得るものにつきましては、中国の領土の大部分について中華民国政府の実効的支配が及んでいない事実、それから一方では最終的帰属が決定していない台湾、澎湖諸島を中華民国、国民政府が支配している現実に着目して、適用地域に関する交換公文においてその適用範囲を中華民国政府の支配下にある地域に限定したというのがこの日華平和条約についての基本的な政府の見解でございます。したがいまして(正木委員「吉田さんがおっしゃったことじゃなくて、現在の政府の……」と呼ぶ)現在の政府でございますが、吉田総理の当時の見解それからそのときの国会、その後における総理、外務大臣等の答弁を集積いたしました現在の政府の見解がそうでございます。  したがいまして、国と国との間で合意せられたものとして、第一条の戦争の終了とか、第四条の戦前条約の効力とか、第六条の国連憲章の原則の尊重でありますとかいう種類のものは、適用の地理的な制約を受けない。国としての有効的な拘束を受けるものである。それから地理的な適用範囲の対象となるものは第七条、第八条、第九条、議定書第二項というようなものでございまして、これは通商航海とか漁業とか航空とか、そういう種類のものになっておるわけでございまして、これが条約としての政府の見解でございます。
  122. 正木良明

    正木委員 そこで、そこまでかた苦しくおっしゃるなら、先ほどもいささか問題になりましたが、日華平和条約第二条で、いわゆる台湾、澎湖島その他の所属の島嶼の権原を放棄いたしておりますが、これはどうして放棄先をきっちりきめなかったのですか。こんな条約なんてないでしょう。どこへ放棄したかわからないというようなきめ方なんてないでしょう。取りあえず放棄します……。どこに帰属するか、どこへ放棄するか。
  123. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これはサンフランシスコ条約にさかのぼらなければならないわけでございまして、日本は他の領土につきましても、たとえば北方領土におきましても南樺太というようなところはわがほうとしては放棄をいたしましたが、その帰属は未決定でございます。それと同様でございます。
  124. 正木良明

    正木委員 そこで、これは前例にはならぬのですよ。したがって、北方領土の領土問題が解決して日ソの間に平和条約が締結されたときに、おそらくこの領土問題というものは、こんな形式では、いわゆる権原放棄ということの宣言は行なわれないでしょう。これはソ連に帰属するならソ連に帰属する、日本に帰属するなら日本に帰属するというようなことになる。樺太のことでありますから、これははっきり放棄をいたしておりますから、これはソ連ならソ連の帰属になる。いわゆるソ連邦に対して放棄をするという、相手方がはっきりきまるはずですよ。ところがこれだけは相手方をきめていないということ、これが問題だというのを私が申し上げておるわけなんです。これはもちろんサンフランシスコ平和条約の第二条(b)項「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。」ということだけを規定しておりますね。そのあと新南群島及び西沙群島についても同様の放棄が規定されておりますが、どこに放棄するか、どこに返還するかということは書いていない。また同時に、サンフランシスコ平和条約の中国が受益できる権利を定めた二十一条、この中に領土の問題は除外していますね。そうして受益事項というものを定めておりますが、その受益事項の中には領土関係はわざわざ抜いてあるのですよ。抜いてあって、そうしてそのほかの一切の権利というもの、条約に明文として書かれたそのほかの一切の権利というものは、この条約に加盟しないもの、署名しないものについては適用しないということを書いてある。だからこういう変なことが起こってきたのじゃないですか。しかし、その腹の底には何があったかといえば、先ほどのダレスあて吉田書簡の中にも出てまいりますけれども、また同時にその精神というものが日華平和条約の交換公文の中に生かされてきたわけでありますが、これは私ども委員長の代表質問の中にもそのことに触れておりましたが、これは私は、はっきり言って、ダレスのどうかつ外交によってやむを得ず中華民国を選ばされた日本の全権としての吉田さんのぎりぎりの抵抗であったのではないかというふうに考えます。おそらく吉田さんの頭の中には、これはもうだれが見たって中華人民共和国というものを選ぶべきであろうという考え方があったのではないかというふうに考えます、それは公表されておりませんけれども、推測にすぎませんけれども。だからこそやがては、いまはどうあろうとも、やがては中華人民共和国政府との間に平和条約が結ばれなければならないであろう、そのためにはできるだけそういう障害となるようなものは小さくしていこう、なくするわけにはいかないでしょうが、小さくしていこうという配慮があってこのような条約が結ばれたのではないか、あのような交換公文が締結されたのではないか、このように私は考えるわけです。その点、どうでしょう。
  125. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 事実関係ですからなんですが、たとえばさっき南樺太のことを申しましたけれども、これは日本が放棄しておりますけれども、ソ連に対して放棄したとか、ソ連に帰属することを認めたとかいうものではございません。それから、日本が現に強く主張しております国後、択捉は放棄はしておりませんから、ソ連に対して返還を要求しているわけでございます。なお、ソ連はサンフランシスコ平和条約に入っておりませんことも御承知のとおりと思います。それから日華平和条約については、先ほど例示的に申しましたが、第二条に台湾、澎湖島の放棄の確認の規定がございますが、これも適用地域の範囲以外の問題で、国と国との約定の部類に入るもの、こういうふうに御解釈いただいてけっこうであると思います。  それからこの日華平和条約が締結されたときの経過、いきさつ等については先ほど石橋君の御質疑にもございましたが、そのほうの吉田書簡等にもその当時の事情等がよくわかる点もございましょうし、またその後いろいろの書きものなどにも、そのときの吉田さんの苦心のほどはあらわれております。そしてその結果できましたのがこの日華平和条約であるということは政府としてもよく承知いたしております。
  126. 正木良明

    正木委員 これは、重ねて申し上げておきますが、これは一九六一年二月の「世界週報」です。この中で西村熊雄さん——西村熊雄さんとは、サンフランシスコ平和条約当時の条約局長で、講和全権の随員をなさっておった。このサンフランシスコ平和条約の吉田さんのブレーンだったともいわれておるような方だというように私は聞いております。この方が一九六一年に、この日中国交回復という問題が、いまから十年前でございますが、非常に高まってきたそのときに論文を載せているんですがね。この中でやはり同じようなことを言っていますよ。ずっと経過が書いてございまして、「その後、年あけてすぐ、日本は国府と平和条約の交渉をはじめた。この交渉にあたっての日本の根本方針の一つは、吉田書簡のラインにそい、大陸関係を条約に入れないことであった。このことはもちろん、国府の大いに不快とするところではあったけれども、吉田書簡にハッキリいってあることであるし、互譲の結果、平和条約付属の公文のなかで「本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約に関して云々」の限定条項の主旨を日本全権から申し送り、中国全権からこの了解を確認する旨の反簡を出すことで解決している。また、この条約の第二条が日本の台湾および澎湖島に対する主権の放棄を確認するだけで「だれのために」放棄するかを明言していないことにも留意していただきたい。」といっていますね、この人は。やはりちゃんと意図的にやっておるんですよ。「この平和条約は五二年四月二十八日、すなわちサンフランシスコ平和条約の発効の日署名された。それはサンフランシスコ平和条約の発効によって日本は独立を回復し吉田書簡にあるように条約を締結することが「法律的に可能」となったからである。これで明らかなように、日本の国府承認は国府を中国全体の代表政府として承認したものではない。日本の承認は、国府が現実に支配している地域の政府としての承認である。われわれは、それを限定承認と呼んでいた。もちろん、国際法上、また国際政治上こういう事例はない。日本がつくった先例である。それをしもあえてしたのは、中国問題が今日のような状態」——今日のような状態とは、一九六一年の日中国交回復が非常に高まってきたという状態をさしますが、「今日のような状態に立ちいたることを予期して、その場合この平和条約の存在が大陸中国に対するわが外交の障害となることを——必ず障害になるが——最少限度にとどめようと苦慮したところからきたものである。日本がこのような変則な平和条約を結ぶことについては、国府もイギリスも十分了解していたものと了解している。」云云ということが書いてあります。  そこで問題として、この間からずいぶん日中問題の具体的な質疑応答が続けられておるのでありますけれども佐藤総理の答えがさっぱりはっきりしないのですね、慎重、慎重で。これはちょうど沖繩返還の前に私どもが一生懸命白紙に筆をおろすとかおろさないとかということでさんざんやかましく言い合ったときにも、ずいぶん白紙論をお通しになった。それと同じような状況がいま起こっておるわけでありまして、おそらくああいうことが起こるということは、早いということであるかもわかりませんけれども、まあそれは冗談としても、こういう問答を繰り返しておってもしかたがないことでありまして、ここで佐藤総理にあらためてお聞きしたいことは、原点に立ち返って、将来のアジアのあるべき姿というのはどういうものなのか。またそのために日本の役割りというものはどういう役割りを果たさなければならぬのか。もっと具体的に言うならば、いままでのような形で、また現在のような形で、国府とは友好関係をきわめて密接に結んでおるけれども、もう無視できない大国であるところの中華人民共和国と全く対立しておるというような状態のままで、はたしてアジアの平和、アジアの安定、こういうものが実現できるのか。また実現できないとするならば、その日本の果たすべき役割りは何か。もしこのままでも実現できるというならば、どういう理由によって、どういう見解によってそれが実現できるのか。一応その原点に立ち返って一回総理のお考えを承りたいと思うのです。
  127. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いま、原点に立ち返って、こう言われるのですが、現時点ということですか。もっとさかのぼってということなんですか。
  128. 正木良明

    正木委員 考え方をさかのぼってということですね。やっぱりアジアをどうするかということから考え出さなければいかぬでしょう。
  129. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 そこに問題があるのです。さかのぼって戦争終結の直後の状態考えてみる……
  130. 正木良明

    正木委員 そういう意味じゃなくて、考えの原点ですね、時間的な原点ではなくて。
  131. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 だからそういうこともなかなかむずかしいから、私はいま確めておるのですが、しかしやっぱりスタートラインというか、そこから出ていくというと、これはやっぱり戦争の直後の状態だ。それから続いておる状態、それを無視ができないんだ。同時にまたその間にずいぶん事態が変化してきておる。その現状はずいぶん変わってきておる。その現状でどういうように処置するか、こういうことが問題だろうと思います。  私が申し上げるまでもなく、日米間だけではなく、いわゆる国連自身の規定は一体どういうような扱い方をしておるか。これは中華民国は最初から国連の常任理事国の一員でございます。日本だけ——日華平和条約を結んだ、その状態で日本だけに責任があるようなお話がありますが、もっと原点に返ってみると、そこは国際的にはそういう状態であった、その国際状態はいまなお続いておる、かようにいわざるを得ない。私どもがなかなか国連にも加盟ができない、いわゆる敵国であった、そういうような事態において、その当時もうすでに中華民国は国連の常任理事国の一員であった。しかしその後になりまして、二十数年たって、まあことしは二十六年目ですが、中華民国がそれでは中国本土に対して施政権を及ぼしておるかというと、これは全然及んでおらない。これはもう現時点から申せばここに大きなるフィクションがある。   〔坪川委員長代理退席、委員長着席〕 先ほど来中華民国と平和条約を結んだ、このことが戦争を全部について終結さしたんだ、かように私どもは申しております、国と国との間の戦争はそれでやんだのだ、かように申しますが、それがフィクションだ、こういうように言われること、また北京にある政府がそれを有効なものとして認めておらないこと、これも私は否定するものじゃございません。そういう話をしておるということ。しかし私どもがいま困っておるのは、何と申しましても二つの政府一つの中国を主張しておる、そこに問題があるのです。しかも私どもと中華民国との関係は、国府との関係は、長い友好親善のつき合いでございます。関係の薄いカナダやイタリアのように、急にこれを取りかえる、こういうわけにはいかない。そこに日本の苦しみというか悩みがあるわけであります。この点は御理解いただけるだろうと思います。そうして中華民国、国府が中国大陸に対して施政権を及ぼしておりません。同時にまた、先ほど来いろいろ、放棄して行く先はどこなのか、それがきまらないじゃないか、こう言われるように、中国は一つだという北京政府自身も施政権は、小さくても台湾には及んでおらない。澎湖島にも及んでおらない。そういう実情にあるわけです。しかし、二つの政府が同じように中国は一つなりと言っておるのに、私どもが、いや一つじゃない、二つじゃないか、かように申す筋のものでもないと思っております。だからこそ先ほどもお答えをいたしましたように、双方で話し合いができる、同一国家、同一民族だ、こういう意味で話し合いができればそれに越したことはないんだ。そのときに、何といってもわれわれが最小限度期待するのは、武力を用いないで、話し合いで片づけていただきたいということです。とにかく戦火をまじえてもらっては困る。何とかそういうような方法ができないだろうか。日本などが仲に立ってとやかくするというような出過ぎたことをする筋のものではないように思う。ここに私は、やはり一方で国際信義も重んじなければならないし、しかしいま当面しておる現実も直視しなければならない。一体そこらに矛盾のないような方法があるのかどうなのか。それはやはり、いまのような状態を続けていって、そうして歴史的な時間的な問題で自然に解決される、そういうことを待つ以外にないのじゃないのか。したがって、私はいま積極的な発言はいたしません。正木君から言われるように、どうも佐藤の態度がわからぬ、相変わらず慎重だ、慎重だと言っている……。しかし、必要なときには私も発言をいたします。ここできめなければならぬというときなら私が発言をいたしますが、まだただいまのところあらゆる関係を調整する段階にある、こういう状態でございますので、私がいま慎重な態度を変える、そういう状況ではないこと、これを重ねて申し上げる次第であります。  どうも皆さん方、ずいぶんせっかちに結論を出せと言われております。参議院でも、どうも言っていることが二日前と同じじゃないかというような話まで出ております。二日や三日で私の考えが変わるわけでもございません。同じような気持ちでおることを御了承いただきたいと思います。
  132. 正木良明

    正木委員 総理、私がいまお尋ねしておるのは、そのことは何べんもお聞きしておるので、よく総理のお考えはわかっておるわけです。その問題を繰り返して話をしておっても時間のむだでありますから、これから将来アジアのあるべき姿ということも、やはりそれは総理のことでありますから当然考えていなければならぬと私は思うのです。その場合に、そのあるべきアジアの平和とか安定というような問題を考えたときに、いままでと同じような形で、台湾に片寄ったままで、中国と対立するというような関係のままでそういうことが実現できると思いますか。このことを私はお尋ねをいたしておるのです。  それともう一つは、何べんも繰り返して、両方が話し合ってくれればいい、話し合ってくれればいい、そうして一つにきめてくれればいい。これは一つにきめればいいです、それは。しかし、きまるような状態であるかどうかということも見通すのがやはり政治家の責任であると思うし、それが能力であろうと私は思うのですが、それでは総理ははたしてどちらかにきまるような話し合いができる、そのようにお考えになっているわけですか。そういう芽があるようにお考えになっているのかどうか。  三つ目。もう一つは、このどっちかが代表だというふうにきめてくれるだろうという、そう期待を持つときは両方とも等距離である場合ですよ。あなた方でお話し合いになってちゃんとおきめになれば、そこと平和条約を結びましょう、それまではどちらとも一応中立の形をとりましょう、というならその話はわかるけれども、片方とは完全に手を握り、片方とは対立をしておって、そして両方でお話をしなさい、しかも一つの中国論を両方が相互否定的に発表しておるところに、そういう傍観的な立場でいけるかどうか、こういうことも現実の問題として私はおかしいのではないかというふうに考えるわけです。
  133. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 もう何度も申したことですから簡単に申し上げます。  日本が平和国家であり、これはもう自由を守り平和に徹する、これは国の基本的方針であります。相手の国がいかような政治形態をとろうと、これは御自由でございます。いずれの国とも仲よくするというのが日本の基本的姿勢でございます。この点はまず第一点として御了承をいただきたい。  第二点として、私どもがいま一番困っておるのは、いわゆる分裂国家の問題だと思います。アジアにおいては不幸にして三つある。そのいずれもがたいへんな問題でございます。欧州には一つの分裂国家がある。その欧州のドイツの問題は、独ソ条約でいかにも問題が解決するかのような気配を見せておりますが、これはまだまだ本格的に解決したような問題ではございません。いましばらく、これは世界の悩みではないかと思っております。私どもはやっぱりこの事態に目をおおうてはいけない。それで一方的に問題を解決してはいけない、かように私は思います。  第三点。どうも国府とはたいへん仲よくするが、北京とはどうも仲よくしないじゃないか、かようなお話でございます。(「現実の問題じゃないか」と呼ぶ者あり)現実の問題から見まして、中国大陸との間の貿易は昨年はたいへんな伸び方であります。八億三千億ドルにものぼったという。一年間に三割二分も拡大したという。これは一体どういうように説明すればよろしいのか。(「政府はどうしている」と呼ぶ者あり)このこともお考えをいただいて中国大陸との関係は調整されつつある。——政府はどうするか、こういう不規則発言がございますが、国民政府の一部というか、日本政府、それをなすものでございますから、民間貿易だからといって全然政府考え方と別なことをやられておるわけではありません。それにもまして、やはり国府との関係もいろいろ深まっております。おそらく貿易額も九億ドル程度ではないかと思っておりますが、それらのことを考えると私はいま日本のとっておる、歩んでおるいわゆる平和外交というものは成功しているのではないかと思っております。これはやっぱりお互いに守り抜いてそこに初めて日本の行き方もあるのではないか、かように思いますので、私はこの方向で行きたい、かように思っております。  以上お答えいたします。
  134. 正木良明

    正木委員 それではちょっと問題の見方を変えますが、佐藤総理、どうですか、中華人民共和国政府と将来は条約を結んで国交を開かなければならぬというふうにお考えになっていますか、どうですか。
  135. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これは何度も申すのですが、いまのような状態がいつまでも続くとは思いません。私は必ずそういうものがそのうちに解決を見る、かように思っております。
  136. 正木良明

    正木委員 時間は指定されませんでしたけれども、中華人民共和国政府との国交回復、中華人民共和国を承認、平和条約の締結ということが行なわれなければならないときが必ず来る、というふうに私は了解いたしましたが、そのときに、この日華平和条約というのはどういう位置づけになり  ますか。
  137. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いまの日華平和条約、これはもう一つの条約であり、現実の問題を起こしている、形成しております。しかも先ほど来申しますように、友好親善の度合いは深まっております。そういう状態のもとで今度はどうなるのか、こういうことでございまして、それは先ほど来何度も申しますように、まだその実情が十分はっきり申し上げかねる、そこらを十分慎重に考えなきゃならないのだ、かように申しております。
  138. 正木良明

    正木委員 その場合、慎重にお考えになっているというのは、時間だけをかせいで何も考えてないということじゃないと思うのです。慎重に考えているということは、あらゆる場面を想定してお考えになっているということなんですから、そのお考えになった過程において、張群あて吉田書簡、いわゆる蒋介石にあてた吉田書簡、いわゆる輸銀使用をやめるという内容の吉田書簡ですね、この吉田書簡の位置づけというものは、再三お聞きしておりますが、一向にはっきりしないのですが、どのようにお考えになっていらっしゃいますか。
  139. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 先ほども石橋君の御質問お答えしたとおりでございます。これは私の人である吉田茂氏から張群氏にあてた書簡でございますから、政府としてこれにとやかく申すべきものではない。これが従来から繰り返し申し上げております政府の態度でございます。
  140. 正木良明

    正木委員 一九六八年六月八日に蒋介石総統の日本報道関係者に対する談話というのが出ているのです。日本の報道関係者のおも立った論説委員クラスの方々を蒋介石が呼びまして記者会見をした。そこで非常に重要な問題は、このいわゆる輸銀使用に関する吉田書簡に触れております。これはこの前、委員長の代表質問で申し上げましたが、あまり確たる御返事がございませんでしたので、ここでしっかりとお聞きしたいわけです。  「吉田書簡は中日平和条約と相互関連の関係がある。私は吉田先生と当時互いに了解したが、吉田書簡は実に中日平和条約の補充文書である。これは当時、吉田先生が日本政府を代表し、私が指導する中華民国政府と交わしたものである。中日平和条約が締結されてのち双方が互いに不充分を感じていたからこそこの書簡が生れ出たのである。こんにちこの吉田書簡を廃棄すれば、それはすなわち中日平和条約の廃棄に等しいものとなる。」このように内容として述べております。いわゆる輸銀使用のあの吉田書簡は一私人の出した書簡であって、それは政府の関知しないところであるというふうにおっしゃる。それは私人の文書でありますから、関知しないということも通るかもわかりませんが、しかし、向こうさんは、政府の代表者がこの吉田書簡についてはこれほど重要な価値づけをしているのです。  そこで、お聞きしたいことは、その蒋介石総統の考え方を含めて、吉田書簡に対する日本政府考え方というものをお聞きしたいのです。
  141. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいまお述べになりましたそのことは、私、正確に記憶しておりませんが、一昨年でございましたと思いますが、当予算委員会でも御質問がございましたが、これはそのときにも政府の見解として申し上げましたのは、先ほど申したとおりでございます。政府といたしましては、その吉田書簡というのは私人の資格でお出しになったものでありまして、日本政府としてはそれ以上に申し上げることはございません。
  142. 正木良明

    正木委員 非常に重要なことでありますので、確認をもう一度いたしておきます。このように蒋介石総統が非常に重大な価値を持たした吉田書簡ではあるけれども、蒋介石さんのほうがそういう価値をおつけになったことは日本政府の関知しないことであって、この輸銀使用のいわゆる蒋介石あて、正しくは張群あての吉田書簡というものは、われわれとしては何ら価値を見出していないと、日本政府の正式な見解としてお述べになったものと了解してよろしいですか。
  143. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これはいま初めて申し上げるわけではございませんで、そのことは一昨年かにもお尋ねがございましたときに、蒋総統が会見でこうこうこういうことを言っておられるということで御質疑がありましたときにも、そのいわゆる吉田書簡というものは吉田先生個人の私信でございますから、日本政府としてはこれにとやかく申し上げることはございませんと、これを当委員会で政府として御答弁申し上げております。今日も全く変わるところはございません。
  144. 正木良明

    正木委員 私がなぜこのようなことを一つ一つ申し上げているかというと、日中国交回復というものはやらなければならぬ、そのように総理もお考えになっていらっしゃる、同時にまた、しからばやらなければならない日中国交回復、中華人民共和国の承認というものは何が障害なのかということ、少なくとも障害と思われるようなものをあげて、それはこの席上で一つ一つ消し去っていかなければいかぬ、そのために私はこのことを何べんも繰り返してお聞きしたわけであります。ダレスあて吉田書簡もお聞きしたかったわけでありますが、それはすでに石橋さんがお聞きしたので、そのことは日華平和条約が結ばれるまでの問題であって、現在関係ないというおことばでありますから、これも阻害の条件ではないようです。そしてまた、この輸銀使用の問題、吉田書簡につきましても、蒋介石のほうがどのように価値づけしようとも、日本政府はそれは中華人民共和国政府を承認するにあたっての阻害条件ではない、このように私は了解をいたします。  そうすると、結局何が残るのか。それは、先ほどからの話もありますように、残っている問題は、要するにお互いに一つの中国を主張しておるから、その間に入って日本が困っている、これが最大の悩みのようですね。だから、もう非常に安易な話として、両方ができるだけ話し合いをして一人にきめてくれればいいというきわめて安易な考え方をしておるわけです。ほんとうにそういうふうな考え方であるならば、総理、どうしてときどき大使級会談なんて呼びかけるのですか。中華人民共和国と大使級で話し合っていきましょうなんということを、そういうことを言い出すわけですか。そういうことを言うから、私たちは、ああ総理はまたもや前向きになってくれたか、こうして喜ぶ。ことしの正月からの一連の動きだってそうです。お正月にはそういうふうにおっしゃった。お伊勢さんに参られたら、各関係国、いわゆる米、ソ、韓、台、この四カ国の意向というものを考えなければならぬ。そうかと思うと、十一日には、ビジネスウイークの外人記者に対談なさったときには、私が政権を持っておる間は中国政策については絶対変更はありませんなんということをおっしゃる。聞いておるほうの国民は実に目まぐるしいわけです。総理は三日や四日で考え方が変わるかと先ほどおっしゃいましたけれども総理自体はそのように変わっていらっしゃると私は思うのです。  その一連の談話の真意を聞きたいということと、もう一つは、先ほど最初にお聞きいたしましたこと、この点について総理、御答弁をいただきたいと思います。
  145. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私の会見の幾つかを拾い上げて、考え方が変わっているんじゃないか、こういうことでございます。別に私は変わっておるとは思いません。私が北京政府と交渉を持ちたいというそのことには変わりはございません。もちろんそれを単独に日本だけの関係で問題を片づけるときめてかかる、こういうものでないということ、これは伊勢でお話をしたように、各国の意向も十分確かめた上で取り組まなければならない問題だ、こういうことでありますから、別に正月の問題で目まぐるしく変わってはおらない。ビジネスウイークに対しての問題は、相手のあることでございますから、早くこの問題が片づけばけっこうですが、おそらく私の任期中はさような問題は変わらぬだろう、こういうことを申し上げたので、これも別に変わったものではございません。  私は基本的に、何度も申し上げておりますが、どこまでも仲よくしたいという、私は平和に徹するという、そういう主張をし続けてきているものでございます。最近は一部で日本軍国主義、どうも反動の親方佐藤榮作というようなことも聞きますけれども、さようなものでないことをこの機会にはっきり申し上げて、そうしてさようなことのない、誤解のないようにしたいものだと思っております。
  146. 正木良明

    正木委員 そうすると、ビジネスウイークの外人記者にお話しになったのは、中国のほうが私の政権担当の期間中にはおそらく変わらぬだろう、こういうふうにおっしゃったのですか。総理が変わらぬのじゃなくて、向こうが変わらないだろうということですか。そういう論理の展開からいうならば、向こうが変わらぬから私も変わらぬのだということですか。そういうことなんですか。要するに佐藤総理は、相手にしろ自分にしろ、いずれにしても自分が総理をやっておる間は中国問題は何ら進展しないということ、変更しないということ、これはみずから確認なさったことですか。
  147. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 とにかく問題は重大でございますから、さように簡単には片づかぬ、かように私は思っております。
  148. 正木良明

    正木委員 自分がやめることが簡単にわからぬとこういうのですか。そうじゃなくて、この中国問題が簡単には片づかぬだろう、こういうことですか。どうも両方にとれるような……。
  149. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 どういうようにお話し申し上げたらいいかと思いますが、私のほうは先ほど来一つの姿勢を打ち出しております。しかしながら同時に、私は見通しとして相手方がなかなか固いからそれで私の間には片づかぬだろう、かような見通しもすると、こういうことを実は申しておる。
  150. 正木良明

    正木委員 まあいいでしょう。いずれにしても、あなたが大使級会談を呼びかけられた。ここでしばしば中国問題が非常に世論的に高まってまいりますと、総理は大使級会談を呼びかけられるわけですが、一向に実現しない。これは総理は、相手が非常に硬直した姿勢でそれに対応して乗ってこないからこの大使級会談が開けないのだというふうにわれわれにしょっちゅう説明をなさいますが、しかし、私は一面、よく言われることであり、外交の専門家である愛知外務大臣や、ましてや佐藤総理大臣はよく御存じだと思いますが、中国という国は非常に原則を重んじる国だというふうに私どもは聞いております。その原則というものを示さないで、何となく会って何となく話しましょうというようなことで、大使級会談なんというものが私はできるはずがないと思うのです。したがって、私はここで一番大事なことは、真剣に総理が大使級会談を呼びかけられて、これを緒につけて、日中国交回復というような問題を政治日程の上にのぼらせていこうという気持ちが積極的におありになるならば、やはりここで政府としてのいわゆる中華人民共和国に対する基本的な姿勢というものを示さなきゃいかぬと思います。その基本的な姿勢の根本は何かといえば、やはり中国の正統政府というものが中華人民共和国政府だということをはっきりきめない限り、私はこの問題の壁を打ち破れないのではないかというふうに考えますが、その点、総理いかがでございますか。
  151. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これは正木君の御意見を伺っておく以外には方法はございません。と申しますのは、二つの政府がいずれもが中国の正統政府とかように申しておるのでございますから、これをきめるということができない。そのためにただいま話が進んでおらない、かように御了承いただきたい。
  152. 正木良明

    正木委員 それともう一つ大きな問題は、日本軍国主義の親玉佐藤榮作なんて向こうは思っているといまおっしゃいましたが、ぼくは一〇〇%中国の言い分に賛成するわけじゃありませんけれども、しかし、やはりそういう点についても何らかの形での反省がなければならぬだろうと思います。同時にまた、証明もしなければならぬだろうと思います。そうではないということの証明をしなければならぬと思います。これはやはり、総理が国連総会に出席して、わが日本は経済大国とはなっても軍事大国にはならないのだということを言っているだけではいたし方のないことでありまして、これはやはり、実績として日本が軍国主義に向かわないのであるということの証明をしなければならないと私は思います。   〔委員長退席、田中(正)委員長代理着席〕 やはり、この問題の底に横たわっている問題は幾つかあるだろうと思いますが、その一つの問題は、やはり一昨年の佐藤・ニクソン共同声明の中のあの中国敵視の発言だと思うのです。特に、台湾海峡におけるところの事態というものがわが国の安全ともう直接関係があるし、そのためには在日米軍への便宜供与ということについてはきわめて積極的にするのだというような発言があります。やはりこういう点がきわめて強い刺激を相手に与えておるということも考えなければなりません。  それと同時に、後ほど中曽根長官にも私は質問をしたいと思いますが、このたびの四次防の計画それ自体におきましても、これもいわゆる軍事力強化という面についてはきわめて大きなものであると私どもの目に映るわけであります。従来、この間も話がございましたが、歴史的に見ても、経済大国というものは必ず軍事力強化というものに転化していくということは事実でありますし、また、そういう目で見ようとしておる者に対して、いや私どもはそうではないのです、軍事大国にはならないのです、経済大国になるのですという口先だけの弁解だけでは、これは何の証明にもならないのであって、そういう点も十分考え合わせていかなければ、やはりその非難というものは当然受けていかなければならないのではないか、このように思いますので、その点についてお答えをいただきたいと思います。
  153. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いままで私どもは北京に対して敵視政策をとったことはございません。これは戦争に負けてから日本は仮想敵国を持たないということもしばしば申し上げておるし、平和に徹するということも申し、あの憲法のもとで仮想敵国などあろうはずはございません。これで敵視政策のないこと、これはおわかりがいただけるのではないだろうかと思います。  それに、よく引き合いに出されるのは私とニクソン大統領との共同コミュニケ、これがいつも引き合いに出されます。しかし、あれを読んでごらんになりまして、どの点が一体敵視政策になるのか。台湾海峡に問題が起きても、そういうものに日本が関せずえんとして、高みの見物がしておられましょうか。これは私皆さんにもひとつ考えていただきたい。私どもは別に相手を敵視しているわけじゃない。先ほどもここで申しましたように、国府と中共との間で話をする、これは両国で話をしてください、絶対に武器に訴えないという平和で話をしていただきたい、こういう念願を申しました。そのこと自身が敵視政策だといわれるでしょうか。そのとおりのことがニクソン大統領と私との間の共同コミュニケの一こまであります。この点は正木君にもぜひ理解していただきたいと思います。  それからもう一つ、最近の問題で、中曽根君にお尋ねをすると言われるから、四次防等についてのお尋ねだろうと思いますが、どうも最近、私たいへん気になるのは、日本が軍国化しているというそういう問題であります。私はせんだって天皇陛下の七十年写真展、これを見に参りました。北京放送は何と言っているか。反動佐藤榮作は天皇の七十年展に出かけた、そういう放送をしております。私自身が耳にしております。また皆さん方の中からも、どうも保守党内閣は軍国主義の方向へ行くのじゃないか、はっきりは言われないにしても、その不安を持っておるような、心配があるんだというような発言がしばしばございます。これは、別に北京ではなしに、わが国の国内においてそういう話がある。私は伺いたいのですが、軍国主義とは一体何を言うのでしょう。どういうことが軍国主義なんでしょう。これはひとつ、私ははっきり聞かしてもらいたいのです、観念的に。私の理解するところでは、やはり軍備を整備し、戦争に備え、戦争の準備をする、そういうような意味で、あらゆる面でこの軍事が、政治も教育も社会も、あらゆるものをリードする、そういうものが軍国主義といわれるものじゃないだろうかと思っております。一体、さような状態に日本が置かれているでしょうか。これは、私はこのくらいはっきりしていることはないと思います。私はあえて長い説明をするのも、口やさしく軍国主義ということば国民の一部から口をついて出ますから、軍国主義というものは一体何なんだ、こういうことを申し上げたい。核兵器も持たないし、徴兵制度もしかないようなそういう国を、軍国主義呼ばわりすることが適当か適当でないか。これは賢明な国民が判断されるだろうと思います。  私は、国民の皆さんにはしばしば申し上げるのですが、これからの民主主義の世の中では、国のあり方というものは国民意思によってきまるんだ、こういうことをせんだっての施政方針でも申し上げたつもりであります。軍国主義というようなことには絶対になる危険はございません。いまの国民は、その点では厳として政府を監視しております。したがいまして、もうその御心配はなさらないようにお願いしたいし、むしろ、私どもが平和に徹する外交を進展さしていく、そういうところにひとつ声援を賜わりたい、かようにお願いをする次第でございます。
  154. 正木良明

    正木委員 いま軍国主義について大演説をぶたれたわけですが、私は軍国主義論争をここでしょうと思っているわけじゃないんだ。だから、ぼくが軍国主義を言い出したみたいに議論をふっかけられても困るんですよ。ぼくは軍事力強化という線に進んでいくということを申し上げたが、軍国主義なんて一つも言っていない。また、ぼくはしかし、その軍国主義が全く芽がないとも思いません。  そこで、東南アジア諸国にしろ、まあ中華人民共和国等は別の問題としても、東南アジア諸国についても、日本の再びの軍事的侵略、少なくとも軍事力を背景にした経済侵略ということを非常に危惧していることは事実です。同時にまた、あなたが最もその友邦と信じておるアメリカですら、日本には軍国主義の台頭の芽があるということを言っているじゃないですか。そういうことから考えて、私が申し上げたいのは、そういうふうに言われたが、おれはそんなことは全然ないんだというような無反省な気持ちではなくて、一つ一つの事実の上に立って、やはりそういう軍国主義に少なくとも育つであろうかと思われるような芽というものは、いまからつみ取っていかなければならないのではないかということを御提言申し上げておるわけなんです。  だから、そこで一つ大きな問題は、台湾に問題が起こったらどうしますか、そんなのはあたりまえの話じゃないですかとおっしゃるけれども、しかし、台湾との間に問題が起こるのは何かといえば、やはり中華人民共和国との間の問題でしょう。だから、いま平和的に話し合いをしてくださいと言ったことばの裏は、向こうとやり合うに違いないというふうな考え方がおありになる。そういうときに、日本の本土にしろ沖繩にしろ、そういう米軍基地を使ってアメリカ軍が行動するということが起こるとするならば、これは完全にその紛争ないしは戦争に日本は巻き込まれることになるじゃないですか。そのことをみんなが心配しているんじゃないですか。これも後ほど、第五空軍が引き揚げるとか引き揚げないとかという問題がありますので、中曽根長官に聞きたいと思っておりますけれども、そういう問題にも関連して、いわゆる肩がわりというような問題がきわめて着々と進められておるんです。ニクソン・ドクトリンに基づくところの日本の自衛隊の強化ということが行なわれようとしている。人間が集まらないからなかなか増員できませんけれども、装備の上ではきわめて優秀な軍隊が日本に生まれようとしておるんじゃないですか。そういう問題を私は指摘しているのであって、そのことについて何ら無反省であって、一朝事あるときにはどんどんやっていいじゃないですかなんというような議論をふっかけられても困るし、だからといって、見回してごらんなさい、どこに軍国主義の芽がありますかなんと言ったって私は困る。ただ、それは総理意思の中にそういうものは当然のことだと見のがしていくところに、その軍国主義が育っていく芽があるのじゃないかということを私は指摘をいたしておるのでありますから、その点はどうかひとつ謙虚に反省をしていただきたいと私は思うのであります。  そこで、話は少し戻りますが、先ほどの輸銀使用の吉田書簡に関連してでありますが、このことについて総理は伊勢参宮のときの記者会見で、中国に対する輸銀使用を許すときは、問題が起こらない情勢ができておらねばならない、こういうふうに言われておりますね。これはおっしゃいましたか。おっしゃいましたらば、その問題が起こらない情勢というのは、一体どういうことをさすのか、新聞の報道で私は承知いたしておりますが、そのようにあります。その問題が起こらない情勢、輸銀の使用について問題の起こらない情勢というのは何をさすのかということを御説明をいただきたいと思います。
  155. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 中国との間で輸銀を使用すること、輸銀使用の場合はケース・バイ・ケースで考える、これがいままでの公式の発言でございます。それをまた変える考えもございません。
  156. 正木良明

    正木委員 ケース・バイ・ケースというのは、たとえば具体的な問題を出さないと、ケース・バイ・ケースというのはケースが起こらぬとわからぬと言うでしょうから、この吉田書簡のときに、公表はされておりませんが、毎日新聞が一九六五年八月五日にすっぱ抜いておりますが、この張群あての吉田書簡の内容に、一つは「中共向けプラント輸出に関する金融を純粋の民間ベースとすることについては、貴意」——貴意とは国民政府のことですが、「にそいうるよう研究を進める。」二番目には「本年度」——これは昭和三十九年度をさしますが、「本年度中は、輸銀を通ずるニチボー・ビニロン・プラントの対中共輸出を認め考えはない。」というふうにいっております。たとえばここに出てまいりましたようなニチボー・ビニロン・プラントというようなたぐいのもの、これそのものとは言いませんが、こういうたぐいのものが申請が出たときに、また中華人民共和国との間に商社が話し合いがまとまったときに、これは輸銀の使用というものを許すケースになりますか、どうですか。
  157. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ケース・バイ・ケースというのは、具体的に問題が出たときに、そのときに考える、こういうことでございます。前もってこれこれの場合は許すとか、これこれの場合はどうするとか拒否するとか、そういうことを申すのではございません。
  158. 正木良明

    正木委員 少なくともこの張群あて吉田書簡が発せられたとき、いわゆる吉田元総理が話し合いをなさったようなケースの場合、今度も同じように拒否をなさるかどうかということをお聞きしているわけです。
  159. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど答えたとおりであります。
  160. 正木良明

    正木委員 それではだいぶ時間もたちましたので、中曽根長官にひとつお伺いをいたしたいと思います。  四次防の問題でございますが、戦後の日本の防衛を見てまいりますと、昭和二十五年に自衛隊が発足しましてから、三回にわたって長期防衛計画が実施されております。これまでに四兆二千億円という巨額の国費が計上されたわけであります。今度防衛庁が発表した来年から始まる第四次防衛計画におきましては、この二十年間の四兆二千億円をはるかに上回るところの五兆八千億というような巨額の防衛費が計上されておるわけであります。  そこで、この中にはもちろん相当な人件費が入っておりますというお答えがあるだろうと思いますが、特にこの人件費の問題を除外をいたしまして、これから調達をしていくところの自衛隊の装備という問題についてお聞きをいたしたいのでありますが、まず第一に、この四次防で計画しておるような編成並びに装備というものは何のために必要ですか、そこからお聞きしたいと思います。
  161. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 専守防衛の見地から日本列島を防衛するためには、今日の情勢を見ますと、海上関係の警備力において非常にまだ不足しておるところがございます。また防空力におきましても、ナイキその他のミサイルあるいは一部の航空機等において不足しておるところがございます。それから陸上警備力において機動力それから集中力、そういう面においてまだ非常に不足しておるところがございます。そういう意味において、いわば日本守備隊としての自衛隊を育てていくという意味において、次の防衛力整備計画を必要としておるわけであります。
  162. 正木良明

    正木委員 日本を守備なさるのはよくわかりますが、日本を何から守るのですか。どういう脅威ないしは侵略ということを予想なさっておりますか。
  163. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 脅威というようなものは、侵略の意思と能力が結びついたときに脅威が発生いたします。現在の国際情勢を見ますと、顕在的脅威が日本の周辺にあると思いません。しかし、それがいつ結びつくかという可能性は歴史上あるわけでございます。やはり防衛の問題はそのときになってあわてて一朝一夕にして築き上げられるものではないので、歴史の通則から見ましても、五年、十年、三十年の長期にわたった一つの概数計算をした上の安全率というものを見て、各国とも建設しているわけです。われわれもそういう見地に立ちまして国力、国情にふさわしい防衛力をつくっていこう、そういう考えで長期計画を持っておるわけでございます。
  164. 正木良明

    正木委員 ただ国民の一人として私が心配するのは、備えあれば憂いなしという考え方で進みますと、どんな想定だってできますから、その想定に対応するという備えということになってまいりますと、これはもう無制限に広がってしまうわけです。それじゃどこが限度かというと、佐藤総理以下皆さん方は、口をそろえて国力、国情に応じてと、もうきわめて抽象的な限界説をお述べになるわけであります。  そこで、もっと具体的に、そのために必要なことはどういう脅威というか、どういう状況というか、そういうものはあるかないか、また将来発生するかしないか、その状況というものをやや具体的に、また的確にある程度想定して、それに対するものでなければ、ぼくはとんでもない大きな防衛力なんというものを当然いわゆる制服の人たちは要求してくるのじゃないかと思いますが、そういう点、長官が想定なさっていることはどういうことですか、具体的に。
  165. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 まず核戦争は除外いたしまして、普通の大砲とか飛行機とかというような通常兵力によって限定戦が日本列島に起こった場合、あるいはそういうものと関連して間接侵略が日本列島内に起きた場合に、これを制圧し、あるいは侵略を排除するに必要にして最小限のものを増勢しよう、そういう基本観念に立っておるわけであります。
  166. 正木良明

    正木委員 これは防衛白書の中でおっしゃっておる考え方と同じでございますか。——そこで、それもきわめて抽象的な言い方になるわけなんですが、長官が昨年の十二月の一日に外人記者クラブで記者会見なさっていますね。その中で、自衛隊は間接侵略または外部勢力に支持された都市ゲリラ活動、間接侵略の補助または仕上げとしての限定的な侵入及びそのエスカレートした形である局地戦争、こういうふうに非常に重点を都市ゲリラというような問題に状況設定をなさっておるようでございますが、この新聞の報道、間違いございませんか。
  167. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 都市ゲリラ並びに外部からの侵略、それを大体対等に並べてあのときは話したつもりであります。
  168. 正木良明

    正木委員 そこで、今度あなたが整備なさろうとする自衛隊の装備の中には非常にでかいものがございます。たとえばりゅう弾砲、カノン砲なんというようなものも陸のほうで相当整備されるようでございますけれども、これはどういうものに対処してこういうでかい大砲をおつくりになるのですか。
  169. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 大体外部からの侵略に対してそれを抑制し、あるいはそれを制圧する、そういう用意でやっておるわけです。
  170. 正木良明

    正木委員 もう少し具体的に言ってください。外部からの侵略というのは、どこから撃ってどこで防御するか。
  171. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 日本列島に万一相手が上陸してきて、そして一部が占拠されるとかなんとかということが将来あり得るかもしれな、そういう場合に平原において大砲を撃ち合うということはないとはいえない。それは一つの想定でございますけれども、そういうことも心配の中の一つに入れて装備しておるというわけであります。
  172. 正木良明

    正木委員 あなたのこの防衛白書による想定によると、この都市ゲリラというものは確かに重視なさっておるのです。しかし、ゲリラというものは市民の間に入って、どれが敵だとかどれが味方だとかわかりませんよ。そういうものをまず鎮圧するということから始まって、それがだんだんその勢力が強くなって、外部からの応援ということで外部勢力というものに結びつくというふうに考えられるのですがね、このお考えというのは。いきなりいわゆる直接侵略というのが外部からあるということは全然想定なさっていないじゃないですか。そうすると、いわゆる都市ゲリラというような内部の内乱といいますか、暴動といいますか、そういうふうな形のものが起こって、それはもうとても鎮圧できるような状態でないような状況が必ず起こるというふうにお考えになっていますか、どうですか。
  173. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 都市ゲリラ、つまり間接侵略とそれから直接侵略を対等に並べてあのときは話したと申し上げましたが、われわれの考え方もそういう考え方です。しかし、そういう直接侵略が誘発されるケースがどういう場合にあるかということを考えてみますと、内乱あるいは騒擾が拡大して、そしてそれが収拾がつかないような段階、あるいはそういう段階に至らなくても、それが外部からの侵略を誘発する。最近のアジアにおける戦争の形態を見ると、そういう形態が非常に多いようにも見受けられます。そういう想定も一つの条件として考えておるわけであります。
  174. 正木良明

    正木委員 ちょっと総理にお伺いいたします。  従来こういう革命とかまたそういう暴動とかいうものが起こる状況というものが必ずあるのですよね。ただ何となく平穏な中で突如としてそういう暴動が起こるなんていうのは考えられぬ。歴史的に見ましても、また近時起こっておる事例を参酌いたしましても、たいていの場合はやはりその国の政権が腐敗する、もしくは国民が非常にその政権に対する不満を持つ、そういうものが背景となって、きわめて偶発的なものであったとしても、それと要するに一緒になってそれに参加するというようなことが一つの大きな規模のものになっていくということが通例であります。したがって、ここで一番大事なことは、その政権が腐敗しないことですよ。国民から政権が信頼を失わないようにすることです。そういうことが、先ほども私が冒頭に申し上げたように、公害の問題にしろ、物価の問題にしろ、政治姿勢の問題にしろ、いろいろの問題について、政府が確かに国民のために存在し、国民のために善政を行なっておるのであるということでなければ、やはり国民の支持を失っていくということになれば、もし一朝そういう問題が起こったときには大きな問題になっていくと私は思うのです。そういう意味で私は、軍備を強化するということが、これは備えあれば憂いなしなんだから、またすぐできるものじゃないんだからつくっておかなければならぬというふうな議論をなさいましたけれども、しかし第一次的に何をおいても大事なことは何かといえば、それは政権の担当者であるところの政府のいわゆる政治姿勢というものにきわめて重大なものがあると思う。この点について佐藤総理は、そういう問題の起こらないような自信があるということは明言できますか。
  175. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 御指摘のとおり、何をするにしても国民から信頼されなくてはいけないと思います。信なくんば立たず、不信では絶対に成功するわけではございません。また同時に、さように申したからといって、いまやっておるものが信頼をつなぐゆえんでもあるのです。いまの防衛力の整備という、こういうような問題は信頼をつなぐゆえんでもあるという、そういうところに思いをいたさなければならないのではないかと私は思うのでありまして、正木君も別に無防備でけっこう、だいじょうぶだ、かように言われるのではないと思います。しかしいま一番問題になりますのは、平和国家になっている日本にそんな軍備が要るか、また国際情勢は別に心配はない、かように言っていながらなぜそういうような整備をする必要があるのか、こういうような問題があろうかと思います。私は、軍備の問題について、大まかに申しまして、日本一国でその軍備を整備する、こういうような状態ではない、いまの状態はですよ。これは核の存在を見ても、日本は核兵器を持たないということを言っている。これはアメリカの協力を得なければどうしても日本は安全ではない、この一事でさように思いますし、また核を持っている国、これはもう二、三に限られておる。米、ソ、中、さらに仏、英と、こういうように限られておりますが、これは、それらの国も核兵器を使うというような機会がそう簡単に来るとは思わない。しかし通常兵器の場合には、これらの国々はおそらく十二分に持てる力を動かすに違いないと思います。そういうことを考えると、どうも日本の場合、一国でこの国を防衛することはできない、そういう意味から日米安全保障条約は結んでおるものの、なお日本自身がみずからなすべきことを怠るようなことがあってはならないというのが現状ではないかと思います。先ほど国力、国情に応じて整備するということを中曽根君が申しました。さような状態なら無限大に拡大するのじゃないか、こういうような御心配であるかのように聞き取りましたが、さようなものは皆さん方もお許しにならないだろうし、政府もさようなことは許しませんから、その辺は御安心をいただきたい、私はかように思います。どこまでも大事なことは国民から信頼されること、国民の信頼なくては何らの政治はできないということ、それはもう御指摘のとおりであります。
  176. 正木良明

    正木委員 そこで長官に再びお尋ねいたしますが、十二月二十一日の日米安保協議委員会で、大幅な在日米軍の引き揚げがこの三月から六月までに行なわれるというふうに合意されたといわれております。一万二千人の兵力の撤収、特に三沢、横田、厚木の戦術航空部隊、横須賀の海軍部隊を引き揚げるということになっておりますが、この三沢、横田、厚木の戦術航空部隊が引き揚げたあと、肩がわりと申しますか、航空自衛隊でそのあとを埋めるというような考え方があるのですか。
  177. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 肩がわりという考え方はございません。本来日本がやるべき日本列島の防衛の仕事を自衛隊が引き受けてやる、そういう考えに立っております。
  178. 正木良明

    正木委員 そうすると、第五空軍が引き揚げてもかわらないという意味ですか。
  179. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 今回発表されているような規模の移動に関する限りは、防衛上そう不安はないと思っております。
  180. 正木良明

    正木委員 そこで、これは通産大臣になると思いますが、武器輸出、兵器輸出のことです。新聞の報道によりますと、川崎重工がスウェーデンか対潜水艦ヘリコプターの国際入札に参加する、こういう報道がございましたが、これは通産大臣どうなんでしょうか。私がいま非常に心配するのは、少なくともこれは軍用のヘリコプターだというふうにいわれておりますが、ただ単に武器輸出の三原則にひっかからないからというのでお許しになるおつもりなのか、それとも武器、兵器なんというのは一切のものについて禁止をしていくという方向をとるのか、その点ひとつ明快にお答えいただきたいと思います。
  181. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 御指摘のように三原則を持っておるわけでございますけれども、法的には貿易管理令で一々許可する許可しないをきめればよろしいことでございますので、実はその話は正式に何も聞いておりません。三原則を満たせばこれはもう許さなければならぬというようなものでは必ずしもございませんから、そこは聞きました上で、私が管理令で禁止するかどうかをきめたいと思っておりますが、まだ実際にそういう話が出てきたわけではございません。   〔田中(正)委員長代理退席、委員長着席〕
  182. 正木良明

    正木委員 この新聞の報道によりますと、ぼくが非常に重要だと思うことは、川崎重工が「国内需要だけに頼っていては、コスト切下げができないため、海外に売り込む努力をしてきたが、まとまった機数を輸出するには、軍用しかないと判断、こんどの応札となった。」というふうにいわれておるわけであります。この点から考えますと——こういう現象は必ず起こるわけですよ。中曽根長官は兵器の国内生産ということ、防衛産業の振興ということに非常に前向きかつ積極的だということを聞いておるわけなんですが、ましてや四次防においてこれだけの装備が充足され、しかもそれが大幅に国内生産にたよっていくということになれば、そのための設備投資なんというものも相当行なわれてくるでありましょう。そうなってきたときに、この過剰の設備ができ上がっていったときに、そこから生まれてくる製品というものは一般家庭が買うわけはないのですからね。幾ら金を持っていたって機関銃一丁買おうかなんてことは絶対ないのですから、全部自衛隊が買うか、ないしは自衛隊が買わなければその余った製品はどこへ振り向けるか、これは国外に対する輸出しかない。そういうことから考えると、私はこういう問題を見すごしにするということ自体、大げさな話をすれば日本の産軍複合化というような問題の芽が出てくるのではないかというふうに考えるわけであります。そういう意味においてこの点のチェックを十分にしてもらわなければならぬ、このように確信をするわけでございますが、一つは防衛産業の育成という問題についての中曽根長官のお考え、また、こういう武器に関係する、兵器に関係するものの輸出に対する考え方を通産大臣に再びお聞きをいたしておきたいと思うわけであります。
  183. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 兵器を国産化するということは望ましいと思います。しかし、それが輸出圧力という関係になったりあるいは外国に対して兵器を輸出するという方向に安易に流れるということは、これは戒めなければならぬと思います。特に兵器の輸出につきましては、三原則を順守しまして慎重にやらなければいかぬと思います。
  184. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 昨年もたしか申し上げたと思いますが、従来ライフル銃、銃砲のようなものが若干輸出されております。数字は非常に少ないのでございますけれども、これは警察などの目的で外国がほしいという場合があるようでございます。自衛隊の装備を国産化をしていくということは、それ自身いいことだし、大事なことだと私思っておりますけれども、それを、どう申しますか、輸出のほうへ販路を広げていこうということは、私としてはあまり気の向くことではございません。別途航空機工業は、私どもなるべく育てていきたいと思っておりますのですが、そうしますと、ただいま御指摘のように、やはり外需、輸出ということに考えていきませんと、なかなか内需だけでまかなえないということがございます。そこでYSのように、民間機ならば、それは輸出を大いに奨励したいと思いますが、どうもいかにもこのきなくさいというようなものは、私は感心したことではない、原則論としてはそう考えております。ただ、ただいまのケースは、具体的に出てまいっておりませんので、まいりましたら判断をいたしたいと思っております。
  185. 正木良明

    正木委員 最後に、この問題について総理のお考えを聞きたいのですが、総理の口ぐせの平和に徹する、こういう意味からいえば、平和国家として、かりにこの三原則にひっかからなくても、武器と称せられるようなもの、兵器と称せられるようなものについては輸出をしない、日本は平和国家として死の商人にはならぬ、この確信のある言明をいただきたいのですが、どうでしょうか。
  186. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど来、通産大臣並びに防衛庁長官からお答えをした、それを総理としても確認をしております。
  187. 正木良明

    正木委員 もう時間がありませんので、すかされた答弁で困りますけれども次に進みます。  実は公明新聞で——けさの公明新聞ですが、このたびの沖繩のガス移送に関する琉球政府調査団のうちの化学・技術担当の東大教授農学博士の田村三郎さんと、兵器・一般担当の軍事評論家の小山内宏さんの、いわゆる沖繩における毒ガス剤兵器移送計画、これをレッド・ハット、赤い帽子作戦と称しているらしいのですが、それに関する調査研究報告というものが公表されました。ここでこれを一読いたしますと、私は非常にりつ然としたわけであります。私が特にこの問題をここに取り上げるのは、この毒ガスというような問題がきわめて重要な意味を持っておるということと、もう一つは、沖繩の方々はそうではないと私は確信いたしますが、日本国民の中には、沖繩で毒ガスを早く取りのけてもらいたいという気持ちはわかる、しかしその毒ガスを移すのにどうしてあんなにごたごたしたんだろう、早く持っていけばいいじゃないかなんというような、実に簡単な考え方をしている人たちがある。毒ガスというものはどれだけおそろしいものであるか、しかもその毒ガスを動かすということについては、どれほど重要な問題が含まれておるかということが、この中にありありとあらわれてまいります。これは、第一次的には沖繩政府と米軍との間の問題であるかもわかりませんが、しかし、この沖繩の毒ガスを移送するという問題、撤去するという問題については、やはり日本政府としても黙視することのできない問題であるし、同時にまた、アメリカとの交渉において、外務大臣も、またこの沖繩の毒ガスそれ自体の移送等の問題については山中総務長官も、きわめて関心が深いというふうに聞いておりますので、この点についてひとつこの調査研究報告にのっとって質問をしていきたいと思っております。  ここで、まずおそろしいことは、この毒ガス弾というのは、単なる毒ガスの毒性ということではなくて、この弾体の中に、信管、炸薬、そうして毒ガスというふうに、毒性ともう一つは爆発物であるということです。その意味はわかりますか。砲弾だということです。砲弾の中に毒ガスが入っている、毒ガスだけではないということです。だから、爆発物であると同時に非常に猛毒を持ったものであるということです。今度レッド・ハット作戦において移送をいたしましたが、非常な問題点が数々出ております。  まず第一の問題点は、毒ガスが漏れておるかどうかということを調査団が調べておるわけなんですが、この毒ガスが漏れておるか漏れていないかということを調べるについて、非常に簡単な検査用具しかアメリカ軍は用意しなかった。薄茶色の化学的検知用紙、こういうものしかなかった。そのためにほんとうにこまかい調査ができなかったということがこの中に出ております。  ここで念のために申し上げておきますが、今度移した毒ガスは、沖繩に貯蔵されておるところの毒ガスの中では、最も毒性の少ないHDという毒ガスでありまして、いわゆる日本語で言えば、俗にカラシガスといわれておるものですね。びらん性のガスであります。マスタードガスといわれるものです。カラシのにおいがする。これは一番毒性が薄いわけなんですが、そのほかにいま残されておる毒ガスは、いわゆる致死性の神経ガスがいまだ知花の弾薬庫の中に残されておるわけですが、これはまた猛烈に毒が強いわけであります。一トンあれば東京都民全部殺せるというような猛毒を持った神経ガスであります。そういうものが現に沖繩に貯蔵されておるということです。これが第一番に問題なんです。  こういうものを沖繩県民の知らない間に、隠密裏に沖繩に運び込まれたということ、これ自体が一つの大きな問題であります。しかもこれはジュネーブ協定によって、毒ガスなんという化学兵器は使っちゃいかぬということになっておる。にもかかわらず、そういうものをアメリカ軍が条約に入っていないということだけで運び込んでおるわけですね。しかも、この中で非常に危険を感じておることは——私も危険を感じたことは、毒性と爆発物ということをまず頭に置いていただくことと、嘉手納の航空基地と知花の大弾薬庫というのは、隣合わせだということです。そうして嘉手納飛行場を使う飛行機というのは、しょっちゅうこの知花の弾薬庫の上すれすれに左へ旋回して飛び立っていくのだそうであります。したがって、この前B52の爆発事故が滑走路で起こりましたけれども、あのような滑走路の端っこで少し離れておったので、知花の弾薬庫に対しては大きな被害はございませんでしたけれども、現にあのB52の爆発事故が起こったときには、このB52の破片だとか爆発物の火の粉なんというものは、知花の弾薬庫に全部降り注いだ——全部じゃありませんけれども、相当量降り注いだ。そのために米軍の消防隊並びに琉球政府の消防隊は、むしろB52の爆発事故にすぐさまかけつけずに、知花弾薬庫で消火活動ないしは水をかけて火の粉を消するということに専心した。もしかりにあの弾薬庫に大きな被害が起こっておれば、この貯蔵されておる弾薬だけではなくて、この中にあるところのいわゆる猛毒ガスですね、毒ガス、これも同じように誘爆を起こして大被害が起こっていたに違いないということが発見されておるのです。そういう問題から、付近の住民の人たち、少なくとも沖繩の県民がこの毒ガスという問題についてはきわめて重大な関心を持ち、即時撤去ということをやかましく言っておるのは、この点に私はあるのであろう、このように思います。したがって、しょっちゅう嘉手納の飛行場を使って飛行機が飛んでおるわけですから、もしかりに——これはほんの一例でありますけれども、かりにこういう事故が起こったとすると、沖繩じゅうたいへんなことになってしまうということが予想せられるわけでありまして、これの早急な搬出ということを考えていかなければならない、このように私は痛感するわけであります。したがいまして、今度百四十トンの毒ガスが運び出されたわけでありますが、いまだにまだ一万三千数百トンというような毒ガスがあの中に残っておるわけであります。この一万三千数百トンも、はたして弾体も込めて一万三千数百トンなのか、中身だけで一万三千数百トンなのかということさえ米軍は明らかにいたしておりません。こういうことから考えると、沖繩における毒ガスという問題は、私たちにとってはきわめて脅威と思われるようなものでございます。したがって、この沖繩におけるところの毒ガスの搬出、移送という問題について、日本政府としてどのようにお考えになっていらっしゃるか、まず山中長官お尋ねをいたしたいと思うわけです。
  188. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 私から一言最初に申し上げますが、この毒ガス問題が起こりましてから、政府といたしましては全力をあげて早期そして安全な撤去ということに精魂を傾けて対米折衝をいたしておる次第でございます。今回の百五十トンのマスタードガスの搬出につきましても、政府からの専門家の派遣ということをはじめといたしまして、政府側の懸念する点につきましては、米側の非常な協力を得まして、琉政当局においても非常な苦労をされたわけでありますが、関係方面一同の協力によりまして、ともかく第一回の搬出ができたわけでございますが、引き続いて鋭意努力を傾倒いたしております。  先般、本会議でもちょっと一言いたしましたが、私のただいま受けております印象といたしましては、米側のジョンストン島における受け入れ体制等は、当初懸念いたしましたときよりもある程度進捗しておりますので、この上ともできるだけすみやかな、しかも安全な撤去につきまして、政府としていたすべき努力については万全を尽くしたいと考えております。
  189. 山中貞則

    ○山中国務大臣 沖繩の毒ガス、公表一万三千トンについては、毒ガス漏れによって事故が起こりましてから、初めて沖繩の人たちも沖繩に持ち込まれていることがわかったという、まことに遺憾な事態で今日まで立ち至っております。  ただいま外務大臣の言われましたように、一応本土政府側も強力なる折衝をいたしました結果、米議会筋においてまだいろいろの異論があるようでありますけれども、アメリカの政府責任においてジョンストン島への搬送を開始いたしました。その第一陣の百五十トンが幸いにして不幸な事態も起こらずにジョンストン島まで運ばれましたこの事実は、私はきわめて大きな意味を持つものと思います。しかしながら、第二次以降をすみやかに搬出しなければならないということは、ただいまも例をあげて、仮定の事実であっても、B52一機のあの滑走路のはずれにおける炎上事件が、かりに知花弾薬庫で起こったらということを例にとられましたことでもわかりますように、われわれ本土の者たちがなかなか沖繩県民の気持ちをそのままわからないほど非常に深刻な問題であります。もしわれわれの家の床の下に、第二次大戦中に米軍が投下した不発の爆弾が、ある日あることが発見された。その日から昼も夜も自分の家の中でじっと眠ることも食事することもできないような気持ちになるその気持ちを、沖繩の人々はいま終始味わわされておるのが毒ガス問題に対する沖繩県民の偽らざる心情であります。でありますので、すみやかに撤去をしてほしいということに対して、アメリカ側もようやくジョンストン島の設備も、議会側の了解はあとで取りつけるような話でありますけれども、少なくとも私たちの予測いたしておりましたよりも早くでき上がる情勢下にありますので、でき上がり次第すみやかにわれわれとしては沖繩から一個残らず、一トン残らず、これは運び出してほしいという気持ちで努力をいたしておるわけであります。私は外交権はございませんが、沖繩を訪れた際の責任者のランパート高等弁務官に対する会談その他において、あらゆる機会をとらえては私自身の沖繩の立場を代表する担当大臣としての気持ちを沖繩県民にかわって強く訴えているところでございます。  しかしながら、第一次の輸送ルートというものについては、幸い二日延期の必死のその期間における努力が成功いたしまして、現地の人々の、納得ではありませんが、やむを得ざる処置としての了解を取りつけることができましたものの、今後の二次輸送については、いまのルートで行くことは、はっきり申し上げて非常に困難であろうと私も思います。現地のすでに運び去られたルートを通ってみましても、再び同じルートを通すことは、なかなか関係住民の了解を得ることはきわめて困難であるという印象を受けたことは、率直にいなめないところであります。でありますので、琉球政府に対しましても、第二次撤去に際しては、人のほとんどいないルートというものの選定に具体的に取り組んでほしいということをお願いしております。そのルートの決定を受けて、米側に対しては再大限人の存在していない場所というものをすみやかに新ルートとして建設することに了解し、さらに協力し、本土政府も——最近アメリカもたいへん予算的には貧乏たれておりますので、本土のほうもこれに対して予算を半分ぐらい持とうではないかということまで、総理の裁断を得まして決定もいたして、アメリカ側もそれに対応する姿勢を示しております。  すみやかに琉球政府側において新しいルート、住民の納得を得る新しいルートを設定していただきまして、それを米側との間で、工事に着工することにより、予定されておりますジョンストン島の受け入れ施設の完成には新しいルートを通って、危険でないような状態で、不幸な事態の起こらない状態で、すみやかな全量撤去が行なわれるよう、いやしくも復帰の時点等において一個たりとも現地に残ることのないように全力を傾けてまいります。
  190. 正木良明

    正木委員 このたびの移送が幸い事故なく行なわれた。これは非常に喜ばしいことでありますが、しかし、内容をしさいに点検いたしましたこの調査研究報告書におきますと、いわゆる危険は、毒ガスのことですから、しょっちゅうある。これは別として、この輸送の方法等について非常に危険なものが実際あったわけです。それが事故につながらなかったということについて、これは偶然の幸運であったわけでありますが、だからといって、この第一次の輸送と同じような輸送方法並びに経路というようなことで、今後のものが無事故で終わるということでありません。したがって、この第一次の輸送において実際に経験した数数の問題というものをやはり一つ一つ検討し、それを練り上げ、そうして要求すべきことはしっかりと米軍に要求をしてもらわなければならぬわけです。そうして万全を期し、無事故を期してもらわなければならぬわけであります。  それで、ここで問題点を、幾つかあがっておりますので、それを要約して申し上げますと、先ほどの検知器は簡単な二種類のものしがなかったということがございます。さらに、万一の事故発生に対してはどうするか、人間及び家畜に対する対処方法はどうかということを調査団が米軍にいろいろと質問をいたしておりますが、これは何もなかったそうであります。また、危険の予想地域というものを明示してその範囲内の人たちは避難されなければならぬから、それを事前に明示しなさいということを要求したけれども、これは事故は起こらないのだということで、これは答えられなかった。  一つ一つの最初計画を立てたのと実際に行なわれた輸送の事実とにも相当大きな問題がありまして、一つは、毒ガス輸送のあのトレーラーというのは大体平均二十キロで走行すべきであるということが最初に取りきめられておったのにもかかわらず、その監視者の測定によりますと、四十キロで走っておる。しかも非常に危険な斜面を走る場合があります。そのときには幸い安全運転はなされたけれども、最初に約束された制限速度二十キロが四十キロというふうにオーバーしたというような問題があります。またジョンストン島へ運ぶため港で輸送船に積み込む場合、向こうの天願桟橋というのですか、これは非常にあやふやな、完全な設備の整った桟橋でありません。したがって、九台のトレーラーがそれぞれ一台ずつその桟橋に乗っかって、そうして積みかえをやるということになっておる。それが一台済んでからまた次の一台が入るというような形で船への積みかえをやらなければならないというふうに最初は計画されておったのにもかかわらず、そういうことが実行されずに、あの桟橋に並べるだけの車が全部入ってしまった。ああいう貧弱な桟橋でありますから、もしかりにあの桟橋がこわれたということになるならば、これは非常に大問題になるし、その毒ガスを詰めた砲弾が、もしもこれからガスが出たということが想定されますと、あのHDという毒ガスはずっと水の表面に広がる特性を持っておりますから、非常に大きな被害を及ぼすということになったのであります。幸いその桟橋がこわれなかったので事故が起こりませんでしたけれども、こういう点についても万全を期す、慎重を期すという点についてはきわめておろそかであったということがいわれるわけであります。同時にまた、この輸送路の路肩、道の斜面でありますが、非常に弱くて、これも幸い事故が起こらなかったけれども、今後は十二分に注意をしなければならないということであります。  それともう一つは、非常に重大なことでありますが、最初トレーラー十台でこの百五十トンの毒ガスを運ぶということになっておったのに、当日はトレーラーが九台になりました。なぜ九台になったのかということが非常に重大な問題になってくる。このことが屋良主席からランパートに照会をしても、なぜ九台になったのかということは、ランパートさえ知らなかったというような事実が発見されております。そういうふうに、アメリカの部内においてもその連絡がきわめて密接ではなかったというようなことが行なわれております。  同時にまた、もし万一この輸送の途中、または積みかえの途中、こういうときに万一の事故が起こったときのいわゆる救急対策というものは、はたして万全が期せられておったかというと、そうではない。おそらく米軍におけるところの救急対策は、米軍の救助だけで手一ぱいであって、住民側へ及ぶような対策ではなかったということがいわれております。弾薬庫の中におけるところの毒ガス砲弾の点検が、すべてに行なわれていない。今後運び出される毒ガスがどのような形態であり、先ほども申し上げましたように、重量が砲弾をくるめての重量なのか、中の毒ガスだけの重量なのかも明らかにされてない。そういうような状態で、まだまだ米軍に秘密主義的なところがあって、非常に問題があるということ、それと、いわゆる砲弾としての耐用年度がそろそろ来かけておるというような、まだ十年ぐらいあるらしいですが、通常の砲弾だったらもう五年ぐらいあるらしいですが、中に入っておる毒ガスというものが非常に、化学薬品でありますので、その侵食が激しい。したがってその点について、これはどの程度のものかということを実地に調べてみなければなりません。もし砲弾に亀裂があったり侵食が起こったりして、それが外に浸出している、にじみ出ているというようなことがかりにあるとするならば重大な問題でありますが、このことも十分にいまだ行なわれていないということであります。そういう意味で非常に大きな問題が起こっております。特に先ほども申しましたが、繰り返して申し上げて、今回運び出されたHDという毒ガスは、いま沖繩に貯蔵されておる毒ガスの中では一番毒性の低いものであるということです。そういうものであり、同時にまた、砲弾としての耐久の非常にいいものだけをよって運び出したのではないかということが心配されておりますが、それの確認はされておりません。そういう意味から申し上げまして、移送路の経路についても問題でありますが、これは先ほど長官がおっしゃいましたので十分御承知であろうと思いますので、この点については省きますが、こういう点が事実大きな問題として残されたわけであります。ただそれが事故につながらなかったということだけで今後の安全対策に万全を、安全対策をおろそかにしていいということではありませんので、この点について申し上げておきたいと思うわけであります。  そこで、この調査研究報告書は、今後の問題としてこういう点を問題にいたしております。  まず第一に、大前提として、地域住民の安全対策というものの万全が期せられなければならぬ。それが最優先に行なわれなければならぬということであります。また具体的な問題といたしましては、住民サイドにおけるところの科学調査団というものをつくれ、そうして事前調査と点検をより正しい形で行なうべきである。そうして必要以上の不安というものをなくさなければならぬということを提言をいたしております。同時にまた、米軍は可能な限り輸送計画全般を公開しろ、そうして協力を求めなければならぬ。今回の第一回の移送というものについてはこの点について欠けるうらみがあったので、その点一そうオープンにやらなければならぬということを強調いたしております。同時にまた、住民の避難対策というものについての考慮というものを十二分にやらなければならぬ等々の問題が出ております。  そこで特に外務大臣と総務長官にお願いしたいわけでありますが、この研究報告が米軍側に要請する事項というものをずっと列挙いたしております。その中の一つは毒ガス警報機、神経ガスのための——今後運び出される神経ガス、これは猛毒のやつです。警報機とか検出器材を提供させること、次は住民に対する米軍の技術的、応急措置を提供させること、特にG系、V系、今度運び出されるのはG系とV系の神経ガスですから、これに消去剤、もし事故が起こったときにその毒性を消してしまう薬がございますが、それを十分に用意しなければならぬということをいっております。特にGBとVX、今後運び出される毒猛の神経ガスについては、密閉して安全輸送のできるようなコンテナ車の開発をしなければならぬのじゃないかということを提言いたしております。  それから先ほど総務長官指摘なさった安全輸送路の確立と建設、そして調査団は毒ガス剤移送を核実験並みにとらえて保安体制を高めてほしい、それくらいの考え方でなければたいへんなことになる、ということを警告いたしております。また実施通告期間を早目にして、住民側の安全対策が十分立てられる余裕を与えてほしい、これらの提言をしておるわけであります。私はこの問題について、もっとこまかく詳しく、むしろこういうことを知っているかとかああいうことを知っているかという形で質問をしようと思いましたが、しかしこの問題はむしろ沖繩県民の安全という点から考えて、私はあらゆる人がこれに協力をして、そしてこの毒ガスなんというような殺人兵器を、先ほど長官がおっしゃったように、自分の家の床の下に爆弾が入っていたらどうするんだ、それと同じ気持ちで不安な毎日を送っている沖繩の人たちの気持を考えたときにどうすべきかということを、まず考えなければならぬ。そういう立場から言いまして、私はこのようにむしろ提言という形で皆さん方に申し上げたわけであります。この点は単に沖繩の問題であるというふうに片づけずに、ああ毒ガスかというような考え方で過ごさずに、どうかひとつ政府総理以下関係の大臣は米軍と交渉すべきことは強力に交渉していただきたい。そうして沖繩の毒ガスを一日も早く撤去できる体制というものをつくり、また事実安全に撤去できるように努力をしていただきたい、このように考えて申し上げたわけであります。どうかひとつ、総理以下、関係閣僚の御答弁を最後にいただきたいと思います。
  191. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 詳細な御提言をいただきましてありがとうございます。先ほど申し上げましたように、政府といたしましても今後ともあらゆる努力を傾けて、安全ですみやかな撤去を期したいと思います。そうして沖繩の方々に一日もすみやかに安心をしていただきたいと思っております。
  192. 山中貞則

    ○山中国務大臣 私自身が沖繩に住んでおる沖繩県民のつもりで、外務大臣とともに努力をいたします。
  193. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 正木君から具体的な個々の御提案がありました。たいへん今後の参考にもなると思いますし、われわれが毒ガス移送について万全を期す、これはもう政府責任だ、かようにも考えますが、それについても、ただいまのような具体的な提案が何よりも必要なことであります。どうかこの上とも政府を御鞭撻賜わりますようお願いいたします。ありがとうございました。
  194. 正木良明

    正木委員 沖繩に関連して、もうあと二、三、御質問を申し上げたいと思います。  総理また外務大臣のたびたびの言明にかかわらず、やはり不安感が一まつ残っておるのは、ベトナム戦争がなかなか終わりそうにないということであります。ベトナム戦争がなかなか終わりそうにないという状況のもとで返還協定等の作業が進められておるといわれておるわけでありますが、そこでまず、なぜ不安かといえば、やはり何といっても佐藤・ニクソン共同声明第四の中で「両者は、万一ヴィエトナムにおける平和が沖繩返還予定時に至るも実現していない場合には、両国政府は、南ヴィエトナム人民が外部からの干渉を受けずにその政治的将来を決定する機会を確保するための米国の努力に影響を及ぼすことなく沖繩の返還が実現されるように、そのときの情勢に照らして十分協議することに意見の一致をみた。」とあります。しかも、これが収束状況に向かっているというふうな判断がございましたけれども、再び今度はこのベトナム戦争に関連してカンボジアにおけるところの戦火が非常に拡大し、また大幅な介入を米軍がしておるというような状況のもとで、この沖繩基地の占める役割りというものは、米軍側から見るときにはきわめて大きな役割りを果たしてくるのではないかというふうに私は考えます。そういう意味において、この佐藤・ニクソン共同声明第四における、返還時においてベトナム戦争が続いている場合には再協議をするという問題、この点をもう一度総理のほうから、はっきりした考え方というものを述べていただきたいと思います。
  195. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 直接折衝しておる外務大臣からお答えするほうが適当かと思いますが、諸準備はそれぞれ私どもが予定したよりも順調に進んでいる、わりに早く進んでおる、かような状態に見受けます。したがいまして、ただいまのベトナムの問題あるいはカンボジアの問題等々、いろいろ心配する点がなきにしもあらずですけれども、そのために返還交渉に支障を来たすとか、新しく問題が展開されるとか、こういうようなことはただいままでのところ全然ございません。そのことをひとつ申し上げて、そうして御安心いただきたい、かように思います。
  196. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 総理大臣からお答えのとおりでございます。  で、これは前々から申し上げておりましたように、もしベトナムについての再協議というものが必要である場合がありとしましても、それは七二年中の返還、核抜き本土並み、このワク組みの中で行なわれる協議でございますから、よく問題にされますような事前協議の予約といったようなことは含みませんですから、万々一そういう再協議ということがあるとしましても、そういう点については御心配は全然ございませんということをはっきり申し上げておきたいと思います。
  197. 正木良明

    正木委員 まあそれでいいようなものなんですが、私たちがひっかかるのは、一九七二年沖繩返還ということが合意されておるのに、どうしてわざわざ再協議ということを共同声明に入れたのか。七二年に返還するということがはっきりきまっているんだけれども、何らかの状況が予想せられる、そのためにこの再協議という問題を入れたのであって、これは単なる形式にすぎぬのだと、こういうことであれば、それはそれなりにまた安心ができるわけなんですが、そもそもこの再協議というような問題を入れたということの説明だけをひとつ重ねてお願いしたいと思います。
  198. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 この点は、共同声明についての日本政府としてのいわば解説書のような形でございますが、外務大臣説明の中にもはっきり書いておきましたように、ベトナムの戦争というものが実際現に行なわれておったあのときの状況からいって、そうしてただいま御指摘のように現に続いております、そういう状態においては、何しろ戦争のことですから、どんなことが起こるかもしれない、もし万一さような場合があったら相談をいたしましょうというだけのことでございまして、本体は、ただいま申しましたように沖繩返還についての原則はもうはっきりきまっておるわけですから、その範囲内で、協議が必要としてもその中で行なわれるわけですから、その点には何らの御心配はございません。また現にさような心配を少しも感じておりません。
  199. 正木良明

    正木委員 それに関連して、最近またアメリカの海兵隊司令官のチャップマン大将が沖繩基地からの自由発進という問題について言明がございました。そういうことはあり得ないという答弁は再再されておるわけでありますが、そういうことがアメリカ側から、たとえばサイミントン委員会におけるところのジョンソン証言の中にもそういうことが出てまいりますし、また当面の重要な役割りを占めておる地位にあるところのアメリカの海兵隊司令官がそういうことを言い出すということになると、やはり国民は、これはまた裏には何かあるのではないかというような考え方を持つわけであります。  そういう点について、なぜそういうような問題が起こるかというと、結局は事前協議という問題に、イエスもあればノーもありますというような考え方で、少なくとも最初事前協議の制度が安保条約に取り入れられたときには、戦争に巻き込まれないための歯どめだという説明がなされたわけでありますから、事前協議があったときには、日本の基地を使って他国の紛争並びに戦争に介入することを許さない拒否的なものとして国民はこの新安保条約の事前協議を受け取っておった。にもかかわらずこの事前協議の内容というものにはイエスもありノーもあるということになってまいりますと、どうしてもそういうアメリカ側の発言があるたびに、われわれとしては、事前協議をかぶせるのだという政府の説明があっても、これはむしろノーと言うよりもイエスと言うほうの度合いのほうが強い、むしろもう事前協議でイエスと言う予約をしているのではないかということが非常に心配になるわけであります。そういう点について、むしろ拒否的な立場のほうが強いのだということをはっきりとなさる必要があるのではないかというふうに私は思いますが、その点いかがですか。
  200. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 安保条約とこれに関連する取りきめについては、一九六〇年の改定以来、何ら政府考え方は変わっておるわけではございませんで、ただいまお話がありましたイエスもあればノーもあるということは事前協議——協議というものである限りにおいては、六〇年以来政府が公に明らかにいたしておりますように、その政府の態度というものは全然変わっておりません。  それから、チャップマン海兵隊大将の最近の記者会見等についての御質問でございましたが、これは全体の文脈をごらんいただきますとわかりますが、やはり安保条約関連取りきめのことに言及して事前協議のことに——もちろんこれは事前協議にかかるべき問題であるということがその前提になっております。それからさらにそのあとでまたその点について、自由発進というふうに大きく伝えられたものですから、その点について報道陣がさらにあらためて質問をしまして、それに対しましての答弁というものは、きわめて明白に日本側の見解と同じような見解が述べられておりますことにも御注目願いたいと思うのでありまして、事前協議というようなものを否定したり、あるいはいつでもイエスだということが保障されているのだとか、そういうふうな意味を含めての自由発進というようなことを言ったわけではございません。
  201. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いまの外務大臣のお答えで十分かと思いますが、これが本土の場合だと直ちに受け入れられて、事前協議する場合にイエスもありノーもある、こういうこともそのまま率直に受け入れられるのでございますけれども、沖繩の場合には、幾ら核抜き、本土並み、かように申しましても、沖繩がいままで強力な軍基地である、またB52も飛び立って、そうしてベトナムに行ったじゃないかとか、いろいろ心配されるような事件が過去において起きております。したがいまして、沖繩が祖国に復帰する、その際に、特別な地域としての別な取りきめがあるのではないだろうか、そういうような一部の不安がいまなお残っておる、かように私思いますが、それは絶対にないんだ、沖繩が祖国に復帰したその暁には、本土並み、核抜き、このことをはっきり申し上げておきまして、そうしてただいまのような疑惑、不安、これを一掃したいと思います。この点では政府は、もちろん本土と沖繩、これを区別する考えは毛頭ございませんし、また相手国アメリカも本土と沖繩を同じに考えておりますので、それが沖繩の祖国復帰、こういうことになるのでありますから、ここに本土並み、核抜き、さような状態でございます。
  202. 正木良明

    正木委員 私がなぜそんなにしつこく言うかというと、たとえば在日第五空軍、これは日本の防衛のためにいるんじゃないということをいうのですよね。サイミントン委員会ではマギー大将もまたジョンソン国務次官もはっきりとそのことを言いますね。日本の直接の防衛のためにいわゆる米空軍がいるのではないのだ。何のためにいるのかというと、いわれる周辺の国々のためにいるのだということをはっきり言ってます。日本本土——すでに安保条約の事前協議の制度があった日本でさえも、そういうことが堂々と言われておる。まだいまだかつてその事前協議というものは一度も起こっておりませんが、しかしそういう事前協議の必要な事態というものが起こったときには、これは必ず日本を守るだけではなしに外へ飛び出していくということが使命なのでありますから、この際には必ず戦闘作戦行動というものは起こるのです。ましてや沖繩においては、そういう従来の基地のあり方からいって、そういうことが非常に数多く行なわれるのではないかということは、これはもう考えの帰結として当然のことなんです。だからやはり何といってもここで大事なことは、われわれがこの事前協議の制度を持ったということは、戦争に巻き込まれないために、この制度をわざわざ新しい安保条約で入れたのであるから、その戦争に巻き込まれないためには、われわれとしては他国の戦争についてはイエスを与えないということが大前提とならなければならぬ、私はこのように思いますので、このことを申し上げたわけであります。そういう意味において、どうかひとつ頭の中には常に、日本が戦争に巻き込まれないようにどうすればよいか、どうすべきかということを、これは本土はもちろんのこと、沖繩の新しく返還される基地についても考えていただきたいと思う。したがってこれの一番心配ないことは何かといえば、本土においても沖繩においても基地を撤去するということであります。そういう意味で総理考え方を最後にお聞きをいたしておきたいと思います。
  203. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど私もくどいように申しましたのは、沖繩が特別に扱われるのじゃないか、本土並みといいながら、沖繩だけは特別な区域として、本土とは違った取り扱い方を受けるのではないか、こういう心配が一部にあるだろう。さようなことは絶対にありません。こういうことを重ねて実は私からもお答えしたつもりであります。  ところで、そういうような心配がないために、もう一切米軍基地は引き揚げるようにしろ、こういうお話ですが、私は日本の安全保障、そのために日米安保条約は必要だ、かように考えております。これは各党によりまして、それぞれの考え方があるようでありますから、一がいには申しませんけれども、私は日本の自衛隊だけで日本の国土を守るという、これは近代的な兵器その他のことを考えまして、十分ではない、かように思いますから、やはり米軍の抑止力というものを、これはやはりフルに使いたいような気がいたしますし、またこれから先の時代は、やはり一国だけでその国を守るということ、そういうようなことを考える必要はない。これはやはり他国と協力して日本の国土を守るという、そういうような時代だと私は思いますので、日米安保条約があること自身が、別に恥ずかしいとか恥だとか、かようにまで私は思いません。私は日本自身が、できることはやはりみずからの力で、みずからの国土を守るということ、そういうことが第一の本来考うべきことだ、かようには思いますが、しかし、なお足らざる点が多分にございますから、そういう点ではアメリカの力をかりる、これが必要なことだ、かように思っております。そうして、ただいま米軍基地が日本にあること、それが危険なんだから、それをなくしろ、かように言われますが、これはやや論理的飛躍もあるのではないだろうか。どうもかってな国民だ、とにかく自分のところは守ってくれろ、しかし一切便宜は供与しない、こういうようなかってな国みたように思われても困るのではないだろうか。私の国際主義的な考え方から申せば、やはり日本の頼みになる国——また、その国の行動についても私どもはやはり制約はしつつ、戦争を好むものではございませんが、しかし、その戦争抑止力、これはやはり十分に——ここに基地があることによってそれが戦争抑止力であるという、そういう意味で、基地をなくする、これには私は賛成できません。  以上私の考え方を申し上げておきます。
  204. 正木良明

    正木委員 考え方としてはきわめて対立するものがございますが、時間がございませんので、また別の機会にこの点については十分に詰めてみたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
  205. 中野四郎

    中野委員長 これにて正木君の質疑は終了いたしました。  次回は、明三十日午前十時より委員会を開会いたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後五時三十八分散会