○合沢栄君 私は、
民社党を代表し、先ほど
農林大臣より御
報告のございました、
昭和四十五年度の
農業の
動向に関する
年次報告並びに本年度において講じようとする
農業施策に関連して、
総理並びに関係閣僚に対し質問いたします。
私は、この質問に先立って、
総理に対しまずお尋ねいたしたいのでございますが、それは、先ほどから質問のございました本年産
生産者米価についてでございます。
昨年来、
昭和四十六年度産
生産者米価に関する米価
審議会が開かれておりますが、まだそのような米価
審議会の結論が出ていない前から、
政府は四十六年産米価については引き続き据え置くということが、従来から報ぜられておるわけでございますが、米価
審議会を開催する意義は一体いずこにあるのか、
国民は大きな疑問を持たざるを得ないと思うのでございます。
政府は米価
審議会に先立って一定の結論を出して、米価
審議会を
政府の方針に従わさせようというような、そういった考え方を
国民はするのではなかろうかと思うのでございます。それは明らかに
制度を無視した
政府の独善でございまして、民主政治に反した、許されがたき行為といわなければなりません。しかも、
政府の
提出資料は、明らかに据え置きを意図し、無理なつじつまを合わせようとする逆算米価でございます。
これまで
政府は、米価を
引き上げることが消費者物価上昇の元凶であるとの見解に立って、過去二年間も
生産者米価を
昭和四十三年産価格で据え置く
措置を講じてきたのでございますが、この間に、四十四年度は六・四%、四十五年度は七・四%と、据え置き以前にも増して高い物価上昇があった事実に照らしても、また、米価が米作
農家にとっては労賃であり、都市勤労者のベースアップの現況から見ても、本年度も引き続き据え置くということは、何といっても不当であり、
生産者としての怒りは当然なことであり、また、消費者サイドから見ても、過酷な
措置だとの
意見もあるのであります。しかも、昨年度は、
政府の予期した以上の
生産調整に協力している実態を考えるとき、政治の条理からしても、物価、労賃の上昇に見合う米価の
引き上げは当然であると主張するものでございます。現に、
政府・与党である自民党の内部においても、
政府の方針に反発する動きのあることは周知の事実であります。
佐藤
総理は、これらの実態を踏まえて、再検討を迫られていると思うのでございますが、この議場を通じて、本年産米価に関する御所信のほどを明確にいま一度お示ししていただきたいと思うのでございます。
次に、
日本農業の内外を取り巻く諸情勢を見ますとき、まず、うちにあっては、依然として
農業従事者一人当たりの経営規模は小規模、零細であり、さらに米価の二カ年連続据え置きをはじめとし、その他の
農産物価格の全般的な停滞との両面作用からして、
農業所得は製造業労働者の賃金に比較して六七・五%と低下し、
格差は
拡大の一途をたどり、その結果は、第二種兼業
農家の急増という全面的な兼業化が進行していることは、
農業白書の示すとおりでございます。
したがって、
国民の消費需要の高度化、すなわち畜産物、野菜、果実等の需要
増大に即応した安定的な供給を確保することは不可能となり、農畜産物の輸入の依存度を高め、
国民食糧の国内自給率を低下しつつあることは、単に
農業の地位低下というにとどまらず、
国民経済の総合的な運営の面からしても憂慮せざるを得ない問題でございます。
また一方、ガット、ケネディラウンドの面からは、国内
農業条件のいかんにかかわらず、農畜産物の貿易の自由化と
関税の引き下げが、主として米国より強く要求されている現状からして、このまま推移するならば、
日本農業は、この大きな外圧と内蔵する自壊の要素とが重なり合って、白書が単純に記しているような、きびしい条件に直面している程度のものではなくして、破滅の危機にあるといわなければならないと思うのでございます。この危機的な
農業の現状を、
総理並びに
農林大臣は、はたして危機感を持って認識しておられるのかどうか、御見解をお伺いいたします。
次に、
総理、あなたも十分御承知のこととは存じますが、かつての
わが国の農村社会をおおっていた、あの暗くて悲惨な農民の生活は、今日の
日本には、もはやその影はないと感じておられるのかもしれませんが、決してそうではないのであります。今日、農村においては、
日本農業の中心であった米価の連続据え置き、さらに二百三十万トンの
生産調整、買い上げ制限、農畜産物価格の底迷等、
農家は将来の
農業に不安動揺し、農政に対する不信と不満が満ちております。
政府のいう総合農政も、
農業縮小政策としか感じていないのが現実であります。農村は、先ほどから申し上げておりますような条件のもとで、他
産業従事者との所得の
格差が急増し、
農業は衰微しつつあり、かつての暗い農村社会の再現を本質的に排除しているとは決して断言できないのであります。
現に、毎年三月から四月にかけて、あどけない幼顔の一面を残した中卒の少年少女の集団が、最も安い賃金労働者を求める企業群のつくり笑顔に迎えられて集団就職する、そのさまを見るとき、それは単に成長による就業
構造の変化を示す一面だと安易に見のがすことはできないのでございます。これは将来に向けて精魂を打ち込むに値する
農業の条件に恵まれずして、やむなく両親と故郷に別れを告げて、ただ生活のかてを求めて都会に行かざるを得ないという悲劇を宿命的に背にした若者たちの、悲しくもまた痛ましい姿であり、現代版的な身売りといっても差しつかえないのではないでしょうか。
また、小規模ながらも、開けゆく将来に希望をつないで農村に残り、懸命な努力を重ねた優秀な青年が、ついに志向する近代的
農業への可能性が閉ざされ、中年期に至って、なれない賃金労働者へと変わっていかざるを得ないという多くの事例や、また、
農業収入を補うため、妻子と別居して都市勤労者として働かなくてはならない、百万人をはるかにこえるといわれる農村の出稼ぎ労働者、あるいは、若者もいなくなった過疎地の老農夫が、廃屋の中で、だれにみとられることもなく死亡し、以後何十日もたってから発見されるという、人間には許されまじき悲惨な現実など、人間埋没の農村社会の悲劇は、いまなお現存することを忘れてはならないのであります。
このような農村社会の改革こそ、政治に課された当然の責務であります。はたして
総理並びに
農林大臣は、明るい農村社会への改革の決意をお持ちかどうか、所信のほどをお伺いしたいのでございます。(
拍手)
次に、
農業基本法が制定されて以来十一年を
経過し、
農業白書も今回で第十回目の
提出でありますが、
農業と他
産業との
格差の是正や、他
産業従事者との所得の均衡等、
基本法が目標とした諸点については、はたしてどれだけの進歩があったか。
農業白書から見ても、これまた率直に、ノーといわざるを得ないのであります。したがって、法と
制度だけは形式的に整ってはおりますが、実態としての
農業が、それとはかかわりなく衰退の方向にあるとするならば、これこそまさしく農政の空転であり、根本的な再検討と一大転換をはかるときを迎えておると思うのであります。
日本経済の今日の繁栄も、その原因をさかのぼると、食糧
生産に励んだ
農業者の努力、それによる外貨の節約、
資金、土地、水の供給、そして何よりも労働力の供給と購買市場の形成があったからであり、いわば
国民経済の基盤を形成している
農業、農民を枯渇のふちに追いやるような事態は、広く民族として、また国益の見地からも、許されるものではありません。
今日、
わが国経済が、ソ連を除けば世界第二位の経済的地位を確保したといわれることからしても、
日本農業と農村社会の
近代化を目標とする画期的な財政投入計画を政治として決断することが、何よりも必要なことだと思うのであります。社会全体が調和と均衡のある発展を期するためには、
産業及び社会として、
構造的な欠陥を持つ
農業部門への計画的、かつ、大規模な
資金投入の決断こそ、政治の果たすべき使命でなければなりません。
政府は一兆円の農林予算を評価されますが、その中身はうしろ向きであり、真の
農業近代化を目標とした計画に基づくものでは決してないのであります。
第二は、この決断のもとで、
農業以外の
産業、経済、社会部門の発展に即し、それとの調和のとれる
農業の仕組みを目ざして具体的な改造計画を、地域的特性に立って、
農業者の意欲的な参加を求めて樹立し、高い能率を持ち、恵まれた環境の中で確実に近代的
農業の営まれる方針を明らかに示すことであります。この改造計画が、民主的にして、しかも、それを担当する
農業者が積極的に参加して樹立されることによって、
農業の前途に関する全
国民的なコンセンサスが成立することは明白であります。
わが国の内外政策の基本は、平和に徹し、平和以外を歩むべきでないことは当然でありますが、その平和経済
構造の重要なる一面である
農業の
近代化計画に取り組まずして、五兆八千億にものぼる第四次防衛計画を先に策定せんとする
ごときは、政治の主客を転倒するもはなはだしいといわなければならないのであります。(
拍手)
以上述べたところの
農業近代化計画の策定、
実施こそ、真に政治次元から展開する本来の農政であり、高邁なる政治の
課題だと信ずるものでございます。今日、米価問題をめぐって全国から東京に参集している
農業者代表が要求している基本農政確立の真底にあるものは、実にこのような政治次元に立ち返った農政の確立であり、それへの転換にほかならないと思うのであります。
以上、私の提案を兼ねた質問に対し、
総理をはじめ農林、大蔵の各大臣から所信と見解を求め、質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕