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1971-05-18 第65回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年五月十八日(火曜日)     午前十時十九分開議  出席委員    委員長代理 理事 小澤 太郎君    理事 小島 徹三君 理事 田中伊三次君    理事 羽田野忠文君 理事 福永 健司君    理事 畑   和君 理事 沖本 泰幸君    理事 岡沢 完治君       石井  桂君    鍛冶 良作君       河本 敏夫君    島村 一郎君       永田 亮一君    松本 十郎君       向山 一人君    渡部 恒三君       大原  亨君    黒田 寿男君       土井たか子君    中谷 鉄也君       横路 孝弘君    岡本 富夫君       林  孝矩君    青柳 盛雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 植木庚子郎君  出席政府委員         総理府総務副長         官       湊  徹郎君         法務大臣官房長 安原 美穂君         法務大臣官房司         法法制調査部長 貞家 克巳君         厚生省環境衛生         局公害部長   曾根田郁夫君         通商産業省公害         保安局公害部長 森口 八郎君  委員外出席者         議     員 畑   和君         内閣官房内閣審         議官      植松 守雄君         内閣官房内閣審         議官      神川誠太郎君         法務大臣官房訟         務部第二課長  朝山  崇君         法務省民事局参         事官      宮脇 幸彦君         厚生大臣官房審         議官      横田 陽吉君         厚生省薬務局薬         事課長     山高 章夫君         最高裁判所事務         総局総務局長  長井  澄君         最高裁判所事務         総局経理局長  大内 恒夫君         法務委員会調査         室長      福山 忠義君     ――――――――――――― 委員異動 五月十七日  辞任         補欠選任   勝澤 芳雄君     八木  昇君 同日  辞任         補欠選任   八木  昇君     勝澤 芳雄君 同月十八日  辞任         補欠選任   江藤 隆美君     渡部 恒三君   村上  勇君     向山 一人君   赤松  勇君     横路 孝弘君   勝澤 芳雄君     大原  亨君   日野 吉夫君     中谷 鉄也君   三宅 正一君     土井たか子君   山田 太郎君     岡本 富夫君 同日  辞任         補欠選任   大原  亨君     八木  昇君 同日  辞任         補欠選任   向山 一人君     村上  勇君   渡部 恒三君     江藤 隆美君   土井たか子君     三宅 正一君   中谷 鉄也君     日野 吉夫君   八木  昇君     勝澤 芳雄君   横路 孝弘君     赤松  勇君   岡本 富夫君     山田 太郎君     ――――――――――――― 五月十五日  出入国管理法案反対に関する請願青柳盛雄君  紹介)(第五九六六号)  同(青柳盛雄紹介)(第六一三四号)  同(浦井洋紹介)(第六一三五号)  同(小林政子紹介)(第六一三六号)  同(田代文久紹介)(第六一三七号)  同(谷口善太郎紹介)(第六一三八号)  同(津川武一紹介)(第六一三九号)  同(寺前巖紹介)(第六一四〇号)  同(土橋一吉紹介)(第六一四一号)  同(林百郎君紹介)(第六一四二号)  同(東中光雄紹介)(第六一四三号)  同(不破哲三紹介)(第六一四四号)  同(松本善明紹介)(第六一四五号)  同(山原健二郎紹介)(第六一四六号)  同(米原昶紹介)(第六一四七号)  同(林孝矩紹介)(第六一四八号)  同(樋上新一紹介)(第六一四九号)  同(二見伸明紹介)(第六一五〇号)  同(古川雅司紹介)(第六一五一号)  同(松尾信人紹介)(第六一五二号)  同(松本忠助紹介)(第六一五三号)  同(丸山勇紹介)(第六一五四号)  同(宮井泰良紹介)(第六一五五号)  同(渡部一郎紹介)(第六一五六号)  同(渡部通子紹介)(第六一五七号) 同月十七日  出入国管理法案反対に関する請願小川新一郎  君紹介)(第六四〇一号)  同(大橋敏雄紹介)(第六四〇二号)  同(近江巳記夫紹介)(第六四〇三号)  同(岡本富夫紹介)(第六四〇四号)  同(沖本泰幸紹介)(第六四〇五号)  同(鬼木勝利紹介)(第六四〇六号)  同(貝沼次郎紹介)(第六四〇七号)  同(北側義一紹介)(第六四〇八号)  同(小濱新次紹介)(第六四〇九号)  同(古寺宏紹介)(第六四一〇号)  同(多田時子紹介)(第六四一一号)  同(鶴岡洋紹介)(第六四一二号)  同(鳥居一雄紹介)(第六四一三号)  同(中川嘉美紹介)(第六四一四号)  同(中野明紹介)(第六四一五号)  同(西中清紹介)(第六四一六号)  同(山田太郎紹介)(第六四一七号)  同(和田一郎紹介)(第六四一八号)  同(浦井洋紹介)(第六四一九号)  同(小林政子紹介)(第六四二〇号)  同(田代文久紹介)(第六四二一号)  同(谷口善太郎紹介)(第六四二二号)  同(津川武一紹介)(第六四二三号)  同(寺前巖紹介)(第六四二四号)  同(林百郎君紹介)(第六四二五号)  同(東中光雄紹介)(第六四二六号)  同(不破哲三紹介)(第六四二七号)  同(松本善明紹介)(第六四二八号)  同(相沢武彦紹介)(第六五二二号)  同(浅井美幸紹介)(第六五二三号)  同(新井彬之君紹介)(第六五二四号)  同(有島重武君紹介)(第六五二五号)  同(伊藤惣助丸君紹介)(第六五二六号)  同(大久保直彦紹介)(第六五二七号)  同(大野潔紹介)(第六五二八号)  同(桑名義治紹介)(第六五二九号)  同(斎藤実紹介)(第六五三〇号)  同(坂井弘一紹介)(第六五三一号)  同(鈴切康雄紹介)(第六五三二号)  同(瀬野栄次郎紹介)(第六五三三号)  同(田中昭二紹介)(第六五三四号)  同(竹入義勝君紹介)(第六五三五号)  同(広沢直樹紹介)(第六五三六号)  同(伏木和雄紹介)(第六五三七号)  同(正木良明紹介)(第六五三八号)  同(松尾正吉紹介)(第六五三九号)  同(矢野絢也君紹介)(第六五四〇号)  同外二件(安宅常彦紹介)(第六六七五号)  同外二件(赤松勇紹介)(第六六七六号)  同外二件(井上普方紹介)(第六六七七号)  同外二件(大出俊紹介)(第六六七八号)  同外二件(黒田寿男紹介)(第六六七九号)  同外二件(畑和紹介)(第六六八〇号)  同外二件(松本七郎紹介)(第六六八一号)  同外二件(米田東吾紹介)(第六六八二号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 五月十四日  出入国管理法案即時撤回に関する陳情書  (第三一一号)  不動産登記改善等に関する陳情書  (第三五二号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の  一部を改正する法律案内閣提出第八四号)  事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさ  せた事業者等の無過失損害賠償責任に関する法  律案細谷治嘉君外十名提出衆法第五号)      ――――◇―――――
  2. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 これより会議を開きます。  委員長所用のため、指名により私が委員長の職務を行ないます。  本日、最高裁判所長井総務局長大内経理局長から、出席説明要求があり、これを承認いたしましたので、この際、御報告申し上げます。  下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横路孝弘君。
  3. 横路孝弘

    横路委員 ことしの予算分科会で、最高裁判所職員定員の問題、とりわけ速記官の問題を中心にお尋ねしたわけでありますが、時間の関係で少し残っている問題がありますので、それに関連して少しお尋ねをしていきたいと思います。  最近民事事件刑事事件とも大体事件数そのものはやや減少ぎみ減少ぎみといっても都会等にはいまの過密過疎状態を反映して事件が集中している、ひまなところはひまになる、こういう現象が出ているわけです。その中で、この間の御答弁ですと、人員配置がえをやってそれに対応していくんだ、こういうお話があったわけですけれども人員配置がえということで具体的に問題になるのは、地方支部なり簡裁の問題というのはやはり一つ大きな問題になっていくわけです。そのあたりの問題ですね。やはり過疎になったからといっても庶民のいろいろな法律紛争というものがあるわけです。だから裁判所というものはそこに残してほしいという一つ要求がある。それと同時に、都会にどんどん集中していって、全体としては減っていますが、大蔵との関係でなかなか定員がとれないという点がある。その辺のところを苦労されているだろうと思うのですけれども配置がえの中身をもう少し具体的にどういうようにお考えになっているか、お答えをいただきたいと思います。
  4. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 配置がえの問題というのは非常に具体的な形になりますけれども一つ裁判所にどれだけの職種の人をどれだけの数配置するかという基本的な方針につきましては、私どものほうで過去二年間、本年度でとりますれば昭和四十五年及び四十四年の二カ年間のその庁の事件数の平均を各庁ごとにとりまして、そして全職員の数、定員法上認められました職種ごと職員事件の数に案分しまして、各庁の一応の人員数を算出いたします。しかしながら、職員がその土地に長く住まうことによって土地への愛着感、その土地事件に対する関心というようなものも無視できない要素がございますので、全く算数で出た結果を定員とすることなく、その土地の将来の発展状況、それから職員異動状況、それから住居の状況等も勘案しまして、定員数異動に関しても無理のないところまで、各担当の局、部あるいは当該本庁の意見を徴しまして定員数をきめまして、その定員に合うごとく無理のない異動によって事件数に合わせるように努力いたしておるわけでございます。  これが定員配置の基本的な方向でございますが、御承知のように、昨年は簡易裁判所事物管轄の拡張がございまして、事件数移動関係がまだ安定いたしておりません。それといろいろ反則金制度あるいは公害事件というような事件の実質的な内容に影響を及ぼすような変革が行なわれましたために、ただいま事件数移動が非常に激しい状態にございますので、こういうものも勘案して無理のない定員配置をきめていきたいと考えております。  これが定員関係でございますが、先ほどなお、過疎化したからといってすぐ裁判所をやめてしまうことのないようにという御指摘もございましたが、これはまことにごもっともな御指摘でございまして、基本的にはやはり国家の司法的救済というものはどのような手続でどのような便利さをもって配置していくかという考えに立脚するものと思われます。このような観点から臨時司法制度調査会では、簡易裁判所整理統合というような施策を御答申になったわけでございますけれども、では実際にどの程度の数にするかということになりますと、なかなか具体的な答えが出てまいらない、基本的な方向はわかりながら数字に出すということがむずかしいために、整理統合という方向は打ち出されても実施面数字が出てこないというのが現状でございまして、やはり具体的にその庁の事件状況、交通の状況、人口、そのようなものをすべて勘案しまして、地元のほうでここは廃止してもらっても事件処理の上にマイナス面が出てこないというような地元の御同意といいますかコンセンサスが得られた段階整理を進めて、より一そう効率的な予算の使用、人員異動ということをはかっていきたい。そのために整理統合が御期待のようには必ずしもまいらないという形が出ておりますのが現状でございまして、無理に整理を進めて合理化をはかるというような考えはいまは持っておりませんで、やはり司法的救済がいまの日本はどのような形であることが最もふさわしいかという観点から考えておるわけでございます。
  5. 横路孝弘

    横路委員 その簡裁の統廃合の問題については、基本的な方針は全く私もそれに賛成でございまして、要するに司法的救済といいますか、その地方庶民のいろいろな紛争というものを解決するためには、私の北海道なんかになりますと出かけていくのが非常にたいへんなところばかりでありますから、そういう意味ではその地域の声というものをまず第一に尊重してやられるという考え方に従ってぜひそれは進めていただきたいと思うのですけれども、いまの定員の中の配置がえの問題、それはその事件数と比例していろいろ配置がえされるということになりますと、場所によっては独立簡裁なんかの場合、一名ないし二名しか現在員がいないという地域が出てくるのではないかと思うのです。  その関係でちょっとお尋ねしたいと思うのですけれども、いま現在員が二人程度のところというのはありますか。
  6. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 私のほうの基本的な考え方としまして、一つ簡易裁判所には裁判官以外の職員といたしましては、書記官事務官、廷吏、この三名は絶対に必要な職員ということで、定員配置といたしましては二名というのは一庁もございません。全部三名以上配置しております。ただ現実問題といたしまして、土地によりましては裁判所職員にふさわしいその職種の方が得られないというようなことから充員が非常におくれておるという庁が幾つかございますために、三人の定員が実現できないでおるというような庁が現実にはございまして、非常に残念なことでございますけれども、充員不可能というような状況が三人に満たない庁であるという印象をお与えしているのではないかと思います。
  7. 横路孝弘

    横路委員 では、その定員ではなくて現在員が二名、三名にいっていないというのはどこどこですか。
  8. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 現在員、欠員関係となりますと、任用したりあるいはきょうやめる、明後日採用できるという異動がございますので、ただいまのところは私のほうで把握しておりません。人事のほうにはあるいは電報がまいっておるかもしれませんが、総数といたしましては、独立簡裁二百八十一庁のうちあるいは二十庁くらいは充員できていない庁があるのではないかと考えておりますが、現在員の問題でございまして異動がございます。
  9. 横路孝弘

    横路委員 そういう二人のところで宿日直関係はどういうことになっておるのですか。
  10. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 宿日直の問題はきわめて困った問題でございまして、近代的な執務体制からいえば時間外の勤務というのはないことが原則であろうかと存じます。したがいまして、宿日直廃止できますように私どももいろいろ配慮いたしてはおるわけでございます。  その具体的な施策といたしましては、二百八十一のいわゆる独立簡裁と申しますか地方裁判所支部のないところの簡易裁判所につきましては、極力庶務課長宿舎構内に設けるようにいたしまして、昨年度までに二百八十一庁のうち、土地が狭いために、構外に建築のやむなきに至ったものもございますけれども、大部分は構内で、百八十二庁、今年度予算でさらに二十二庁追加の予定になっております。このようなところでは庁舎宿舎がほぼ一体となっておりますので、実質的には宿直がなくても執務上支障のない形ができるわけでございますけれども、先生も御承知のように、裁判所につきましては、いろいろな令状関係、あるいは上訴、抗告の関係の書状、あるいは時効がきょう成立するというのできょうの十二時までに訴状を出さなければいけないというような、緊急の受付を要する事件法律上受領を義務づけられているというような関係もございまして、実質的には廃止できる形でございましても、法律上これを正面からやめてしまうということは、国会の御審議を仰がなければ実現できないというようなこともございます。このようなものにつきましても、たとえば令状の受理につきましては、ある庁にまとめるとか、あるいは地方裁判所支部の庁にまとめてやるというような形で、申し合わせによって日直廃止する、事前に連絡を受けてからそのような執務をするというような形をとるようにいたしまして、ただいま事実問題としての日直が何とか廃止できないかということを内部的に検討しておる段階でございますが、はっきり何月何日から宿直廃止する、日直廃止するということになりますと、法律上の改正を要するという問題も一部ございまして、明確に申し上げることは困難でございますが、その方向で、たとえば庶務課長宿舎構内に建てるというような手当てをいたしまして、執務近代化に努力いたしておる現状でございますが、その実現につきましては、もうしばらく時間をかしていただきたいと思っております。
  11. 横路孝弘

    横路委員 その宿舎ができているところについては、宿日直は実質上は廃止になっているわけですか。つまり、そこに住んでいる人がいるわけでしょう。あともう一人いるわけですね。その人は宿日直をやらぬで済むような体制になっているのですか。
  12. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 通達を出して日直廃止する、宿直廃止するということは、法律違背の問題が出ますので、非常に申し上げにくいところでございますけれども、たとえばあすはやむを得ない用事があるのですが、庶務課長レクリエーションに出かけないでお宅におられますか、留守番がおられますか、連絡があれば戻って執務するという形で、あるいは事実上便宜的な措置を講じている庁はあるいはございますかもしれませんが、まだ通達によってそれを明確にするという段階には到達していないわけでございます。できるものはやりたい、内部的に検討している段階である、こう答えさせていただきたいと思います。
  13. 横路孝弘

    横路委員 そうするとあと、四、五人というのが非常に多いわけですね。これはどのくらいありますか。
  14. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げました二百八十一庁の独立簡裁のうち、三人庁が約百庁でございますから、残りの百八十一庁が四人以上の庁になるわけでございますが、四人以上の庁で四人が何庁、五人が何庁という調べはちょっと持ってきておりません。
  15. 横路孝弘

    横路委員 独立簡裁なりあるいは地方支部というのは、そういう意味で非常に職員の皆さん方苦労されているわけですね。仕事そのものはそんなに忙しいということはないけれども、時間的な拘束というものは非常にあるわけですね。特に宿日直関係で、その辺のところを廃止方向で検討されるということは前にもお答えになっているようでありますけれども、ぜひその方向で進めていただきたいと思います。この間の予算分科会のときにも指摘をしておいたわけです。最高裁判所が非常に新しい建物、りっぱなものができる、それはそれでけっこうなんですけれども、しかし一方、一審を充実していくという方向から見ると、そこの職員の問題とか施設の問題というのはやはり整備をしていかなければならないと思うのです。たとえば、私のほうの北海道のいろいろな裁判所支部等を見てみると、小樽あたり支部でも証人の待合室がない。みな廊下でずらっと待っている。それから岩内あたりになりますと、弁護士の控え室だって暖房が全然入っていないから、みなオーバーを着て、時間が来るまでがたがたふるえながら待っている。結局書記官のところに行って、そこでストーブにあたらせてもらうというような状況でして、一般の人の控え室も同じ現状です。東京あたりでも、豊島簡裁あたりでもやはり控え室がなくて、廊下にずらっとみな待っていなければならぬというふうだ。豊島は聞いた話でありますけれども、そういうことを考えると、もう少し簡裁なり支部なりの建物を充実していくということも、きちんと計画的におやりになる必要があるのじゃないかと思いますけれども、その辺のところはどのようになっておりますか。
  16. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 ただいま簡易裁判所庁舎の問題につきましてお尋ねをいただいたわけでございます。お答え申し上げますが、御指摘のように、北海道管内におきまして、まだ老朽庁舎あるいは設備の不完全な庁舎が残っておりますことは事実でございます。いま御指摘岩内でございますとか、そういうところはおそらくそうした古い庁舎でございますから、不十分な状況があろうかと思います。また証人控え室などについても、必ずしも十分な設備が整っておりませんので、訴訟関係人に御迷惑をおかけしているというふうな現状も確かにあるだろうと存じております。東京管内豊島簡易裁判所もああいう場所でございますので、確かにそういう事情も残存しておると考えております。私どもといたしましては、そうした状況を一日も早く解消したい、かように考えております。  北海道につきましては、御承知のように、現在札幌高等裁判所地方裁判所の合同庁舎をつくっております。ほかに、最近におきましては、旭川の裁判所が完成しました。お尋ね支部簡易裁判所につきましては、浦河でございますとか、江差でございますとか、富良野でございますとか、そうした裁判所が次々に新営されているという状況でございます。  東京管内におきます簡易裁判所につきましては、数年前から整備をされておりまして、まず大森の簡易裁判所、次に渋谷の簡易裁判所といったところをやり、本年度中野簡易裁判所改築をいたすという段取りになっております。若干時間がかかりますけれども、一日も早くそうした整備を急いで、御趣旨に沿うように努力いたしたい、かように考えます。
  17. 横路孝弘

    横路委員 それは何かきらんと計画を立てておやりになっているわけですか。
  18. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 私ども計画といたしまして、戦前に建築されました木造の庁舎、これを最優先的に考えまして、昭和四十八年度までには改築を完成したい、そうした計画を昨年度から立てまして、四十六、四十七、四十八の三カ年計画というものを樹立いたしております。それが一番基本的な計画でございます。その中でも積雪寒冷地でございますとか、その後の建築でございましても、老朽庁舎でございますとか、そうした事情をかみ合わせまして、計画を実行しておるという段階でございます。
  19. 横路孝弘

    横路委員 ぜひそういう方向で進めていっていただきたいと思うわけです。  それで、時間もございませんので、定員の問題についてお伺いしたいのですけれども、最初に四十三年度決算——この前衆議院をたしか通ったはずであります。この決算の中で、人件費関係のところで不用額というのがありますね。職員欠員があったので、職員俸給を要することが少なかった等のために生じた不用額というのがありますけれども、この不用額中身について少しお尋ねしたいのです。  この、職員欠員があったという欠員中身ですね。これをちょっと御説明いただきたいと思うのです。
  20. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。  四十三年度欠員でございますが、裁判官が七十人、それから秘書官が九名、それから一般職が二百二十四名、合計三百三名と相なっております。
  21. 横路孝弘

    横路委員 ちょっとその一般職中身を、行(一)の書記官家裁調査官速記官事務官そのほかという区別をされておりますね。この区分で何名かということをちょっとお答え願いたい。
  22. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。  先ほど一般職欠員が四十三年度で二百二十四名と申し上げましたが、その中で行政職(一)表の、行(一)の職員でございますが、この数が二百九名でございます。それから行口の職員欠員がございません。それから医師でございますが、これが十五人、合計二百二十四名と相なっております。
  23. 横路孝弘

    横路委員 その二百九名の内訳を書記官何名、家裁の調査官、これは補も含めて、速記官事務官その他という区別でひとつ……。
  24. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 それでは順次申し上げます。行政職(一)表職員の二百九名の内訳でございますが、教官が十四名、裁判所調査官が二十一名、それから書記官が九十四名、速記官が十七名、家庭裁判所調査官が十九名、家庭裁判所調査官補が二名、それから事務雇が四十二名、技官が三名、工手が一名、廷吏が五名、タイピストが十六名でございまして、以上が欠員でございますが、事務官に二十五名の過員がございますので、差し引きますと二百九名の欠員と相なるわけでございます。
  25. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、決算不用額というのは、そういういま御説明いただいた欠員合計三百三名ですね、その欠員の三百三名分が一応補充できなかったからということで決算されている、つまりこれは不用額として返した、こういうことになるわけですね。
  26. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 そのとおりでございます。
  27. 横路孝弘

    横路委員 それで財政法上の問題ですけれども、一応予算の上ではいろいろ定員というのはきめられておりますね。四等級何人、何が何名というふうに非常にこまかくきめられている。その辺のところとこの決算関係ですね。決算になると、そういう決算のしかたじゃなくて、これは人件費総額として決算されているわけですけれども、これはそれぞれの、たとえば書記官なら書記官何名ということを基本にして予算がつく、それから速記官何名ということについて予算がつく。その間の流用というのは、これは法律的には別に問題ないのでしょう。
  28. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 法律的には問題ございません。
  29. 横路孝弘

    横路委員 それから予算からいくと、四等級で、たとえば速記官の場合、四百三十六ということになっておりますね。五等級は四百三十五ということになっておりますね。この四等級、五等級というのを上に上げる、五等級を四等級にするという場合には、大蔵の承認とかそういうものは要るわけですか。
  30. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 それは等級別定数の折衝ということで大蔵省との折衝が必要な事項であります。
  31. 横路孝弘

    横路委員 そこで、昭和四十年から四十六年までの「職員定員の変遷」という表をいただいておるわけですけれども欠員ですね、速記官だけについてでけっこうですから、昭和四十年から四十六年まで、ちょっとお知らせ願いたいのです。
  32. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 速記官定員につきましてはお手元に差し上げてございます。欠員につきましてはちょっと準備がございませんが、大体二十名前後、十七名の場合、二十一名の場合というように移動がございますが、二十名前後の欠員ということに相なっております。
  33. 横路孝弘

    横路委員 そこでこの速記官の養成の問題なんですけれども、現在書記官研修所の中に速記部というようなものを設けてやっておられるということですけれども、それは毎年大体何名ぐらい養成しておるわけですか。
  34. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 速記官の養成は非常にむずかしい過程をたどりますので、途中で変遷というか減員がございますが、約五十名を目標に入所させまして養成いたしております。
  35. 横路孝弘

    横路委員 それは五十名ちゃんと集まっているのですか。
  36. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 五十名に満たない場合もございますが、予算上五十名を目標にいたしまして試験をいたしまして採用いたしております。これは御承知でございましょうが、速記官は非常に平均的な能力の要求される職種でございまして、法廷に出て、早口の人もあるいは発音の明確でない方もございますが、これを正確に記録に残していくというためには、非常な精神的な緊張とそれから判断力と指の動きというものが一定の能力以上でございませんと、記録が落ちて取り返しのつかないことになるということのために、五十名採用いたしましても、ほんとうに速記官として能力が保証されて執務できるという人が、そのすべてに実現できる、備わっているというわけではございませんので、非常に気の毒でございますけれども、途中で脱落して、もとの職場に帰るという人もございますので、これだけの採用した人がすべて速記官として任官できるという現状でないきびしい職種であるということをあわせて申し上げたいと思います。
  37. 横路孝弘

    横路委員 その募集はいまどういう人を対象にやっていますか。
  38. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 これは内部から速記官を希望する人を募集いたしまして、一定の試験をいたしまして採用して修習させております。
  39. 横路孝弘

    横路委員 それはどうして一般公募なさらないのですか。
  40. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 一般公募いたしますと、それだけ欠員が充員されて——現在裁判所の中にはそれだけの人員がおるわけでございますから、それを公募しますと、それだけプラスになってくるということがございます。もちろん、やめた速記官については公募もできるわけでございますが、内部的に希望する人がかたりございますので、まず内部で充足していくという方針をとっております。
  41. 横路孝弘

    横路委員 いま外部から速記を入れていますね、東京地裁なんか。あれは、たとえば去年なら去年でもけっこうです、おととしでもけっこうですが、何名、大体時間幾らぐらいのお金払って、どこの裁判所、東京地裁だけというようにも聞いておりますけれども、入れておるのか、その支出は予算上どこの項目から出ているのか。
  42. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 横路委員からの発言のように、東京地方裁判所におきましては外部の速記者もあわせて使っておるというのが現状でございます。それは私ども耳にいたしておりますところでは数社、三、四社くらい速記業者があるようでございまして、そこにお願いをして速記をしてもらう。単価は一時間当り四千百円ということになっております。  そこで、予算でございますが、予算は東京地方裁判所の裁判費の中でこれをまかなっておるわけでございます。  そこで、何名くらい使っておるかということでございますが、これはいろいろ事件が集中的に係属してそれを処理する緊急の事態といったことに即応するためにやっておるわけでございまして、私どもといたしまして裁判に関係のあることでございますので、あまり人数その他までつかんでおりません。これは東京地方裁判所が実際上の運用として裁判費の中で支出をいたしておる、こういうことに相なっておるわけでございます。
  43. 横路孝弘

    横路委員 その人数はわかりませんか。つまり、入れているということは足りないということでしょう。足りないということのためには養成しなければならぬ。その養成は、私の聞いておるところではやはり中からの人員というものが非常に少ないわけですね。まだまだ大幅に入れなければならない問題があるわけでしょう。そこら辺のところをもう少し、何名大体雇用しているのかというのはおたくのほうで調べればわかることなんで、まだお調べついていませんか。
  44. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 実情を申しますと、まだそこら辺の調査はいたしておらないのが真相でございまして、裁判費でございますので、私どもといたしましては外部速記に限らず、裁判費の運用につきましてあまりこまかい調査をいままで実はいたしておらないのが実情でございます。
  45. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 その点につきまして……。  お尋ねのように、速記官が不足であるから外部速記を頼んでいるのではないか、そのためには増員をすべきではないかという御指摘でございまして、まことにそのとおりでございます。ただ一つには、先ほども申し上げましたように、速記官が非常に緊張と能力を要求される職種でありますために、今日外部から募集いたしても応募してくる人が少なくなっている。御承知のように速記官は高校卒の一番、二番というようなすぐれた素質の人がかなり先輩に入っておりますが、最近そういう人が志してこなくなったということが内部募集に踏み切らざるを得なくなった一つの原因でもございますが、そのほかに、これは定員運用上の一つの隘路でございますけれども、すべての需要をまかなう定員ということは一番大きな場合を考えてパイプをつくるということでございまして、ふだんはそれほどたくさんの水を流す必要はないというような場合には、やはりふだんの需要に備えるだけのパイプであとは臨時的にパイプを設定するという形での——たいへん恐縮なたとえでございますけれども、外部速記にたよるということは予算の効率的な使用あるいは職員間の負担の均衡という点からやむを得ない措置という形で外部速記の運用という問題が出てまいっておるわけでございます。私どもといたしましては、やはり速記は職務内容としては従来の要領筆記よりはまさること数等でございまして、この拡充は念願しているところでございまして、縮小するとか減員するというような考えは毛頭ないわけでございますけれども、御承知のように非常に緊張度を要求されるという、執務近代化には逆行するような職務内容が内部にございますために、これを伸ばすことに非常な悩みを感じているわけでございます。その解消といたしまして、たとえ時間を少し延長しても反訳の時間を少なくするということのために、コンピューターの導入による自動反訳装置というようなものの研究も開始いたしておるわけでございますけれども、やはり緊張度を要求できる時間というものはおのずから限度がございまして、この点でも充員難とあわせまして私ども非常な悩みをかかえているわけでございます。この点については新しい近代的な能率器具の検討によりましてこの隘路を打開していきたい。研究しておるわけでございます。
  46. 横路孝弘

    横路委員 ちょっとくどいようですけれども、その東京地裁で外部から入れているやつ、単価四千百円ということですが、総額幾らですか、お金の面で。
  47. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 これはあるいは東京地方裁判所に調査いたしますと総額はわかるかもしれませんが、先ほど申し上げましたように、東京地方裁判所予算の支出として実行としてそれをやっているわけでございます。裁判費と申しますと、消耗品でございますとか電話料でありますとか旅費でありますとか、全体をひっくるめて裁判に必要な費用、それを裁判費といっているわけでございます。非常にこまかいものに分かれておるわけでございます。でありますので、それを全体的によく精査いたしまして集計いたしませんとその総額はつかめないということになっています。私どもといたしましては、裁判に関係のある費用でございますので、東京地方裁判所の運用をまかせておるというのが実情でございまして、現在のところまだ総額を調査もいたしておりませんし、持ち合わせもいたしておらないという現状になっております。
  48. 横路孝弘

    横路委員 それはちょっとしたら調べて報告してもらえますか。
  49. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 必要がございましたならば私どものほうでさらに調べまして、適当な方法によってお知らせ申し上げます。
  50. 横路孝弘

    横路委員 それはぜひ調べて報告をしてもらいたいと思います。  そこで、いま長井さんからも御答弁があったのですが、これはこの前もお答えになっているわけですが、人員をさらに速記についてふやすというような方面での拡充ということはもう少し検討の余地がある。そしていまおっしゃったコンピューターを活用しての速記制度の大幅な拡充あるいは別の余地、いまおっしゃった導入ということだろうと思うのですけれども、そういうことで現場の速記官の人というのは非常に不安を持っているわけですね。不安を持っていると同時に、東京地裁がなぜ入れているかというとやはり足りないからなんですね。その辺のところを現場の不安に対して皆さんのほうで一体どうこたえられておるのか。  その問題の背景には、これからお尋ねしていきますけれども、やはり速記官欠員の具体的な中身というものが問題の背後にあるわけでありまして、その辺のところを基本的な方向として、もう速記官制度というものは将来やめてしまうのだ。だからそれで養成も十分やらぬし、定員定員としてこれはもう五、六年九百三十五名でずっときているわけです。どうもそういうような考えが最高裁にあるのじゃないかということで、私も法律家の一員として裁判所職員の人とよく話をする機会がある、札幌あたりあるいは地方へ行ったときも話をすると、皆さんそういうことをおっしゃられるわけですね。ともかくどこへ行ったって速記の人というのは仕事がたいへんだ、なぜ人員を補充してくれないのかという要求をいつも出している。たしかおたくのほうにもそういう要求というのはずっときていると思うのです。その辺あたりの問題ですね。速記官の将来的な展望ということでどのようにお考えになっているのか、やはり基本的な姿勢というものをもう少し明確にしていただきたいと思います。
  51. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 速記官の皆さんが現在の職場に不安を抱いているということは私も十分存じております。第一線で仕事をしておりますときにも親しくつき合った速記官の諸君がたくさんおりまして、その悩みも聞いております。私も先ほど申し上げましたように、速記官の現在の執務はやはり裁判所としてはぜひ取り入れていきたい方向である。正確な公判記録の録取ということはこれは一つの新しい獲得した文化でございまして、後退することはできないわけでございますから、この方向はぜひ進めていきたいという観点から、速記官制度を縮小するという考えは毛頭ないということは先ほども申し上げたとおりでございます。  ただ、非常に緊張を要する職種であるということ、公務員に対する待遇というものには一定の限界があるということ等のために、この職種にたえ得る人が出発当初のように募集してもたくさん得られないというような悩みがございますので、この緊張を少しでも緩和して速記制度を実質的に充実していくためにはどうしたらいいかという観点からの検討をいたしておるわけでございますが、そのために最近はいろいろな録音機の活用、研究によりますところの録取の方法というようなことが裁判所以外では非常に急速に進んでおりますので、私どもは別に現在それに踏み切るというようなことではなく、やはり速記官の将来というものについて不安のないようにするためにはどのように執務体制を改善してやったらいいかということを考えて研究しているわけでございます。現に自動反訳装置の研究のために一千万に余る金額を予算として計上していただきましたのも、速記官の要望にこたえた近代的な執務体制の確立ということからでございまして、速記官を縮小するためのコンピューターというようなことでないことをここではっきり申し上げまして、決して速記官制度を将来あるいは近々に廃止してしまうというような考えを持っていないことを、ここではっきりあらためて申し上げたいと思います。また、そのためには速記官諸君の知恵も十分にかしていただいて、明るい執務体制というものを考えていきたいとも考えておるわけでございます。
  52. 横路孝弘

    横路委員 そうするといまの定員は別にして、現在員で十分だというようにお考えですか。
  53. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 どの程度あったら十分かということはむずかしいことでございます。現に東京地方裁判所でかなりの外部速記にたよっているという現状を見ますれば、やはり不十分ではないかという御指摘も十分成り立つわけでございますが、できることなら、速記官の増員の要望も第一線裁判所からは参っておりますので、そのような手当てもできる限りやっていきたい、こう考えておりますが、何ぶんにも充員難であるという観点がございまして悩んでおるわけでございます。
  54. 横路孝弘

    横路委員 いまの裁判所予算上の定員で現実に人の一番足りない分野というのは、たとえば行(一)なら行(一)に限ってどの分野が一番足りないのですか、そしてどの分野がわりと余裕があるのですか。それは予算要求するとき、いつも定員をたくさん要求している分野というのがあるわけでしょう。
  55. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 まことにお答え申し上げにくい問題でございますが、予算といたしましてはその年度ごとに予算が確定されますと、それをもって一年間の執務体制に責任を持つという態度でございますから、この点については不十分であるということは申し上げられないわけでございますけれども、しかし、やはり妥協もございますので、年々積もり積もればある分野においては定員的に不十分であるということも勢い出てまいりますが、その面におきましてはやはり裁判部門が中心となりますので、書記官系統の職員がきわめて不十分である、もう少し増強していきたいという考えでございます。
  56. 横路孝弘

    横路委員 つまり予算上の定員より実際人を多く入れている分野というのがあるわけでしょう。それはどういう分野に、つまりそこが実質的には定員として大蔵との関係の折衝の中でとれないわけですね、とれないけれども必要だというので人をともかく入れている分野というのがあるわけでしょう。それはどういう分野が多いのか、こういう質問なんです。
  57. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 職種から申し上げますと、行政職(一)表の職員と行政職日表の職員とがございまして、行政職(一)表のほうは御承知のようにいわゆるデスクワークをやっております。行政職。表は庁舎の管理、監視というような実務的な職員、つまり清掃、自動車の運転、昇降機の操作、ボイラー、このような機械設備の担当者、このような職員がございますが、現実の問題といたしましては、庁舎がどんどん拡充されていく、あるいは自動車が導入されるということでこの面の職員はきわめて必要とされている、むしろ増員を要求されるのが現状でございますが、反面、清掃会社であるとかこういうような、公務員でなければ処理できない職務内容というわけでもございませんので、外部の企業に委託する、あるいは、たとえば電話交換機というようなものは非常に人手を要しないような形で発展してまいりますので、機械設備近代化と申しますかすぐれたものを採用いたしまして、増員の要求を金の問題あるいは機械設備要求というような形で転換いたしておりますが、この面で毎年の予算要求では行口職員を多く要求しているというのが現状でございます。ただ、その解消につきましては、なかなか国の方針といたしまして増員を認められないために能率機械によってこれを代替しているという形で解決しております。
  58. 横路孝弘

    横路委員 予算上の定員としては認められないけれども必要だというので人を配置するという場合、その費用というのはどこから持ってくるわけですか。
  59. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 定員として配置する必要はない、たとえば季節的にある期間を限ってボイラーをたいてもらうというような場合には、その期間あるいはパートタイムによりまして、庁費系統の予算として、人件費としてではなく要求してこれを実施いたすわけでございます。
  60. 横路孝弘

    横路委員 そういう場合はそれは人件費からじゃなく庁費から出しているわけですね、お金は。
  61. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 さようでございます。
  62. 横路孝弘

    横路委員 そこで、速記官制度のいろいろな議論の中でも前提になっているのは、どうも欠員が二十名しかいないというあたりの認識がやはりおかしな議論になっているんじゃないかと私は思うんですね。その養成の問題一つとってみても、その背景には、縮小はしないということをおっしゃっても、速記官制度そのものをこれからコンピューターを入れてなにするということになれば、少なくとも人員をふやすという方向じゃないですね。人員をふやすことによって速記官制度をさらに充実していくという方向でないことだけは——どうもお答えを聞いていて、機械にかえていく、人員はふやさない、いまの体制でいくんだということが背景にあるように私には受け取れるわけであります。基本的な方向としてはそのように確認してよろしいわけですね。
  63. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 いま人員をふやさないんだということを申し上げるような気持ちは私にはございませんので、やはりコンピューターも導入しながら速記制度というものはもっともっと拡充して、裁判所の記録というものが要領速記ではなくて正確なる逐語的な記録であるということが私ども理想でございますから、どのような形にしろ拡充していきたいという念願でございます。したがいまして、能率機械の採用によって速記官がいまのように高度な緊張した執務体制から解放されて、人が得られるというような状況が実現できますればこれは理想でございまして、速記官をもっともっと採用してこの面を拡充していきたいという考えも持っておるわけでございます。  いまはっきり、それじゃ何名来年から増員するかという御質問でございますとお答え申し上げにくいのでございますけれども、基本的には要領速記から逐語的な記録へ向かわざるを得ない。ことに最近は公害の問題等になりますと非常に専門的な特殊な用語が出てまいりまして、要領速記ではとうてい録取できないわけでございますから、そういうものの正確な記録という観点からも速記官制度あるいはこれに関連した制度の拡充ということは、人員の面におきましても機械の面におきましても、これから考えてまいりたいということでございます。
  64. 横路孝弘

    横路委員 いまの毎年の速記の養成の人員というのは、現実にはその年の消耗した分、つまり退職したり病気でやめられたりというような分を補充する程度でしょう。だから予算上の定員はこのままでも、まだまだ実質的に人員をふやすということはできると思うのです。欠員が二十人いるという答えですけれども、その二十人だってきちっと穴埋めするような増員計画、養成計画というものを立ててやらなければならぬと思うのです。それには何か先ほど一般公募で人が集まらぬから内部的な採用に改めたのだということだけれども、しかし、そうではなくて、一般募集をやるべきだというのが速記官の人たちの意見じゃないのですか。
  65. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 あるいは速記官の皆さんの中にもそういう御意見があるかもわかりませんけれども、先ほども申しましたように、速記官としてたえ得る人ということがきわめて獲得が困難でございまして、御指摘のように減員をかろうじて食いとめるというような養成計画しかいまの段階ではできないのでございますけれども、先ほど来申し上げましたように、もう少し執務の負担の軽減された形の執務内容ということが実現できませんと、この隘路が解決できないと思います。速記官の皆さまの負担は非常に緊張の連続でございまして、これをもう少し緩和された執務内容として考えなければ、一そうの増員ということがむずかしいのではないかという見通しを持っております。  なお、この点につきましては、速記官の皆さんと日ごろ接触しておりますけれども、なお十分意見を聞きまして、速記官制度に不安が残らないようによく意見を聞いた上での検討をして、円滑な運用をはかっていきたいと考えております。
  66. 横路孝弘

    横路委員 どうも私、その答弁では納得できないのです。ちょっと話は戻りますけれども、四十三年度決算の場合の欠員というのはいつ現在の人員になっているわけですか。
  67. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 十二月一日現在でございます。
  68. 横路孝弘

    横路委員 四十三年の……。
  69. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 そうでございます。四十三年十二月一日でございます。
  70. 横路孝弘

    横路委員 そこで、前の議事録をいろいろ調べてみますと、四十三年四月五日の内閣委員会で国家公務員災害補償法のいろいろな議論というのがされていて、それに関連してわが党の大出さんから欠員の問題も含めていろいろ話があったわけですね。私もことしの分科会のほうで速記官の名簿について提出をしてほしいというお願いをして、提出をされますということだったのですが、何かまだ作業が終わっていないようなのです。これはいつごろまでにお出しいただけますか。
  71. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 お約束を実行しないでたいへん申しわけございませんでした。おわび申し上げます。実はもう届いていると思っておりましたのですが、昨日差し上げていないことがわかりまして、さっそく準備したいと思いますが、これは速記官だけの名簿というのはございませんので、裁判所職員の名簿がございますからさっそく本日お届けいたします。その中には全速記官の氏名、配置が掲載されてございます。
  72. 横路孝弘

    横路委員 それはことしのものはいいですから、決算のときのものをいただきたい、四十三年十二月のものを。
  73. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 ちょっと私のほうでその名簿を差し上げたのかと思いまして昨日調べてみましたが、私のほうで作製いたしましたものでございましょうか。あるいは速記官の同窓会か何かで作製したものではございませんでしょうか。
  74. 横路孝弘

    横路委員 いや、私の質問の趣旨は、いま現在の名簿じゃなくて、四十三年の十二月一日のときの名簿をできれば提出をしていただきたいということです。これは決算のときの根拠になっているわけです。
  75. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 四十三年当時の在職状況をつかむというのは、ちょっと私のほうでつくった名簿でございましたら出てくるのでございますけれども、内閣委員会ですと私のほうから提出したという関係がちょっとよくわからないのでございます。
  76. 横路孝弘

    横路委員 いや、四十三年の四月五日の議論のときに、大出先生が速記官の名簿を手にされていろいろな議論をされているわけです。これは皆さん方お出になってないから、内閣委員会には出席する必要はないからといってお断わりになったそうだが、事情を聞いてみたら、そのときおたくのほうから速記官名簿を出されていることだけは間違いないようです。ことしの予算分科会のときも名簿を提出されるということで、いまの名簿をもらりてもいいわけですけれども、できれば四十三年十二月一日の決算の基礎になっているところの名簿をお出しいただければ、私のほうで決算書と突き合わせていろいろ調査するのに役立つので、できれば十二月一日の名簿を出していただきたい、こういうことです。
  77. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 帰りまして、当時そのようなものが作製されておりますれば、そのものをお届けすることにいたします。もし見当たりませんですと、各人の履歴に当たりまして四十三年当時のを再現ずるというたいへんな作業になりますので、その点は御了承いただきたいのでございますが……。
  78. 横路孝弘

    横路委員 できなければそれでいいですけれども、ただその四十三年当時の議事録を読みますと、そこで定員何名、欠員何名と言っておるけれども、実際裁判所職員名簿には何名しかいないということが現実に人事院のほうと大出先生で議論されておるのです。ですから、その名簿あるはずでありますから提出されたのでしょう。だから、もしそういうことでおたくのほうで出したものでしたら、私のほうにもそれと同じものを出していただきたいし、もし作業がたいへんでしたらことしのでもけっこうですから出していただきたい。それでよろしいですか。
  79. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 御趣旨わかりましたから、さがしましてございましたらお届けいたします。
  80. 横路孝弘

    横路委員 時間が一時間という約束で来てしまいましたので、最後にこれは指摘だけでやめておきますけれども、この分科会のときにもいろいろ議論されて、おたくのほうは欠員はもうこれだけですと、書記官について何名、速記官について何名という公式的な見解を御表明になったわけですね。速記官については二十名前後、書記官については七十名前後。しかし、現実に私、北海道裁判所のものを調べてみると、実際はそんなものじゃないわけですね。たとえばおたくのほうで速記官二十名ということになりますと、全国のいろいろのところを割り振りして考えてみても、その数は北海道から推定していったってなかなかそういう数にならない。それから法曹会というところで出しておる、あれはどの程度権威のあるものか知りませんけれども職員録でずっと拾い上げてみると、そうするとおたくのほうの言っておる数字にはならぬわけですよ。相当大きな開きが現実にあるわけですね。そうすると、これは財政法のいろいろな問題も出てくるでしょうし、決算も四十三年度のはまだ参議院で審議しているはずでありますけれども、いろいろなそういう問題が出てくると思うのです。その辺のところを数字をもって、事実をもって明らかにするということでなければ、いま言った速記官の問題にしても、おたくのほうで人員をふやすんだふやすんだと言っても、それは欠員二十名という把握だからそういう議論になるわけです。二十名を養成すればいいのだということになるわけです。そうでなくて、たとえば職員録で調べた数を見ますと、二十名というような数でなく、欠員が三百とか四百という数字になっておるわけです。それだけ養成しなければならぬということだから、私は一般公募に募集というものを切りかえなければならない。機械を入れたっていまの人員で足りないから、そういう方法でもってとにかく人を補充する、人員を拡充するという方向でなければ、いまの速記官の問題は解決しないと思う。書記官だって同じです。七十名ということをおっしゃっておるけれども、法曹会で出しておる職員録を見ると二百、三百という数字ですよ。  だから、それをやはり拡充しなければならぬということになると、いまの養成制度そのものだって、前提の数字が違うのですから、ただその辺のところは公式的なものは公式的なものでよろしいけれども、具体的に皆さんが部内でやられる場合は、そういうやはり現状をきちっと把握された上で作業をやっていかないと、私はあとで大きな問題になるのじゃないかと思うのです。私は、その辺のところを書記官はもっと確保してほしいし、人員として拡大してほしいし、速記官についても養成所の定員をさらにふやしてほしい。内部的には欠員になっておる分はさらに埋めるという募集体制なり中での養成計画というものをきちんとお立てになってやらなければ、職員の負担というものがどんどん重くなるということだけでよい裁判をすることはできない。最高裁だけりっぱな建物をつくっても、一審充実強化ということは裁判官の数をふやすことだけでなくて、そこで働いておる書記官から速記官から廷吏の人から——たとえば学生事件一つあれば、ほかの法廷全部休みにして書記官から速記官全部動員して機動隊のかわりみたいなことをさせておる。そんなばかなことはない。そういうことはやはり人数が足らないからでしょう。だからそこら辺のところを、それは予算上の定員定員でいいから、要するに中身の問題として充実するという方向で検討してもらう。そういう公式的な御回答だけいただくようだったら、やはりこれは私たちとしてももう少し検討すべきものを検討して、少し別な角度からの議論をしなければならぬというふうに思うわけです。  そういうことで、時間が来ましたからこれで終わりにしますけれども、ぜひそういう具体的な中身をともかく充実するという方向での計画というものを、しかも上だけよくするというのじゃなくて、下のほうで働いている人たちを大切にするという姿勢でぜひこの裁判というものをそういう面からも強化をしていく。真実を発見するための裁判というものをそういう面からやはり実現していくという姿勢というものが、最高裁当局に私は一番望まれることじゃないかというふうに考えて、こういう質問をしたわけであります。また別の機会に、さらにもう一歩突っ込んだ議論を、これからおたくのほうのそういう養成等の動きなんかも見ながら議論を進めていきたい。  きょうはこれで終わりにしたいと思います。
  81. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 岡沢完治君。
  82. 岡沢完治

    ○岡沢委員 最初に、下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律、この法律の基礎になっておる下級裁判所の設置基準の時点ですが、法律を見ますとこれは昭和二十二年の法律第六十三号、そうしますとこの法律の成立した二十二年が一応の基準だと思いますが、そう考えてよろしゅうございますか。
  83. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 御指摘のように、昭和二十二年が基準として設置されておるわけであります。
  84. 岡沢完治

    ○岡沢委員 この法案の審議に関連して与党の羽田野委員、ただいま社会党の横路委員から質問がありましたが、そのお二人に共通した点で、下級裁判所の統廃合について非常に重要な指摘がございました。私も何回かこの問題について質問をさせていただきました。今度提案されました法律案中身も、結局は名称の変更とか区域の変更とか、形だけの変更であって、この提案理由にもございますように、市町村の配置統合あるいは人口移動、特に最近の道路交通事情の変化あるいは電話を中心にした通信事業、こういう面を配慮した実質的な簡易裁判所あるいは地方裁判所の適正配置について、議論をされながらほとんど前進をしていないというのが現状ではないかと思いますが、裁判の能率、裁判官あるいは書記官事務官の方々の適正配置ということは、いい裁判をするのときわめて密接な関係があろうかと思いますから、この下級裁判所の統廃合について具体的にどういう努力をされ、あるいはどういう計画をお持ちか、お尋ねします。
  85. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 下級裁判所整理統合の問題につきましては、ただいま御指摘のように、昭和二十二年の時点におきまして法律が制定されましてから実質的な変更は一つも行なわれていない。整理統合といいますか、近代の日本の社会にマッチした裁判所の設置という点での検討が不十分ではないかという御指摘と存じまして、まことに同感に存ずる次第でございます。  現在の裁判所が設置されましたときには、一応の基準といたしまして、小額の民事事件、比較的軽微な犯罪に関する刑事事件、これを簡易迅速に処理させるために、警察署の管轄の一つまたは二つごとに一つという基準で設置されたと説明されておりますが、ただいま簡易裁判所事件数は、民事訴訟事件が、これは年度によって変わりますけれども、大体年間十二万件、刑事の訴訟事件が四万件、これを一万件以内の幅で前後いたしております。そのほかにいろいろ略式命令であるとか道路交通の即決事件、そのほかいろいろな軽微な手続の科料の決定に至りますものまで入れますと、訴訟事件を含めまして年間約二百万件の事件が係属いたしております。これは道路交通関係事件処理が、反則金等によりまして裁判所の管轄からはずれましたために、かなりの減少を見まして二百万件になっているわけでございます。  これを、今年度増員していただきました分を含めまして、簡易裁判所の判事が七百六十九名ございます。一応この裁判官によりまして二百万件の事件を処理するという関係で計算をいたしますと、一人前の事件数というのはごくわずかになるわけでございます。年間含めまして二千五百件、それを一日に計算しますと、かなり少ない件数になってまいりますけれども、そのような形で裁判官配置いたしまして、現在の事件数に見合った定員を設定いたしますと、一人前に足りない裁判所が五百七十庁、このうち十六庁は事務移転をしておりますから現実に開設はしておりません。それを差し引きました五百五十四庁のうち、一人前に足りないものが約四百ございます。〇・一人前にならない裁判所もかなりございますが、配置しないわけにまいりませんので、これは二つの庁を合わせて一人というような形での配置を余儀なくされておる。裁判官とそれ以外の一般職員も必要なものを配置するということになりますと、実質的に多数の事件を処理する庁というのは非常に片寄ってまいっておるわけでございますので、最近の交通事情等を考えまして、やはり裁判所整理といいますと消極的という批判を受けますけれども、合理的な配置への検討の努力というのはぜひいたさなければならないものと考えておるわけでございます。  現に、整理統合につきましては、私のほうでも法務省と調査をし検討いたしておるわけでございますけれども、日本弁護士連合会におきましても、昭和三十九年の三月二十六日に、最高裁判所長官に対しまして、「簡易裁判所整理統合に関し要望の件」ということで、百三十三庁、調査の結果これだけは整理してほしいという御要望も出ておるわけでございます。その後、臨時司法制度調査会におきましても、具体的な数は出てまいりませんでしたが、整理統合の基本方向を打ち出しておられまして、法務省、最高裁判所でその実施についてはたびたび検討の機会を持っておるわけでございますが、何ぶんにも地元の御要望と一致しないで、この法律を改正していただくということが困難でございますために、法律提案御当局としても慎重な態度をとられまして今日に至っておるわけでございますが、私どもといたしましては、何とか地元の御意見もおまとめいただきまして、合理的な裁判所配置ということは一日も早く実現していただきたいというふうに念願しているわけでございます。
  86. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いまの総務局長の答弁を聞きましても、現在の下級裁判所、特に簡易裁判所配置が不適正であり、人口の密度に比例をしないし、現在の交通事情その他にもマッチしないということを十分お認めで、適正配置の必要性を何回かこの場所でも御答弁になりながら、現実には十六庁の未開庁の庁が現に存在したり、あるいはいまおっしゃったように事件数からすると〇・一人前にも満たない簡易裁判所が多数存在する。私は全く時代おくれと申しますか、裁判所の時代適応性を疑わざるを得ないような現状であるといえると思います。もちろん地元の要望を全く無視しろというわけじゃありませんし、税金のむだづかいあるいは裁判官裁判所職員の負担の平均化あるいは能率化、近代化等を考えました場合に、この問題は、一部の地元が、刑務所とは違いまして裁判所は残してほしいという要望があるからといって、優柔不断的に、現在まで形式的な廃止はされましたけれども、実質的な人口移動、交通事情に応じた配置等をなされないということはむしろ怠慢ではないか。われわれ自身もこの点については反省をいたしますけれども、積極的にこういう法改正案をお出しになる場合、人口移動に見合った、あるいは交通事情、通信事情に見合った適正配置についても、思い切った提案をなさるべき時期に来ているのじゃないか、むしろおそ過ぎるのじゃないかという気がするわけでございます。同じような問題が、衆議院あるいは参議院の定数と有権者のアンバランスの面で指摘されるわけでございますが、この面は政治的に非常にむずかしい問題がありまして、なかなか実現困難かと思いますけれども、これだって当然実現しなければならぬと同じように、この裁判所廃止統合につきましても、思い切った勇断を示していただくことが、裁判所が国民から信頼され、あるいはまた税金を合理的に使い、あるいは裁判所職員の負担を平均化するという意味でほんとうに必要な時期だと思うわけでございます。先ほど申しましたように、もう少し具体的な計画立案があってしかるべきではないかと思うわけでございますが、総務局長の見解を重ねてお尋ねいたします。
  87. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 まことに御指摘のとおりでございまして、怠慢のおしかりを受けてもやむを得ないものと存じております。私どもも、ただいまのような配置のために職員の不均衡からくる不満と非能率、予算のまことに効率を失った使用ということについては、誠実におこたえしなければならないと思いますので、法律の提案庁でございますところの法務省にも十分にお願いをいたしまして、整理統合の法案につきましては、早急に具体案を得まして御審議をいただきたいと思っております。  ただ、裁判所といたしましては、国民の世論を直接に伺うという機構にございませんために、国会御当局の御理解と御支援を特にお願い申し上げたいと思っておる次第でございます。
  88. 岡沢完治

    ○岡沢委員 それぞれ議員には選挙区があって、実際に提案された場合に、反対の動きがあることも予想はされますけれども、しかし、こういう場合にこそ見識が必要でございますし、一つの庁だけの統廃合とおっしゃいますと、非常に風当たりが強くなりますけれども、全国的に、ほんとうに適正配置しなければならない地区が過密地帯にも過疎地帯にも充満しているだけに、一挙になさるという決断がかえって活路を開く道ではないかと私は思うわけでございます。  いま内閣委員会等で防衛予算あるいは四次防が大きな論議の対象になっております。これは四十七年度から五年間に五兆八千億を使う。私は憲法の精神あるいは近代国家の基本からいいますと、力にかわるに法の支配ということが大原則だと思います。防衛庁予算を拡充することについては野党こぞって反対でございますが、裁判所予算、司法関係人員あるいは施設の充実、近代化合理化等につきましては、当委員会におきましても、超党派で、むしろわれわれが叱吃激励して、裁判所何しているという面での批判こそいたしますけれども予算が多過ぎるとかいうことで反対をしたのは一党もございません。先ほどの横路委員の質問にいたしましても、速記官を中心にいたしまして、その充実について、野党側からの大きな要望、指摘があったわけでございますし、われわれも——防衛庁予算は年次計画として、一次防、二次防、三次防、四次防と、これはほうっておいても政府のほうで非常に大きな膨張係数を示すような増加ぶりをなさいます。裁判所のほうでは、司法関係予算をもっと充実、拡充をされまして、国民から信頼され、あるいはまた職員につきましても、誇りを持って仕事ができるような待遇あるいは施設改善について事務総局は意欲を示されていいのではないか。いろいろいま最高裁の姿勢を中心に、司法権の独立等について国民の関心を呼んでいますこの時期は、タイミングからいたしましても、裁判所を人的にも、質的にも、物的にも充実する絶好の機会であるし、このこと自体は大きな目で見た場合に、日本が平和国家、民主国家として進むのにきわめて正しい方向である。防衛予算を削っても、四次防の十分の一の予算でも大きな裁判所関係の改善、改良につながると私は信ずるわけでございます。経理局長もおいででございますが、もう少し雄大な計画裁判所関係、司法関係予算人員あるいは施設についての充実を年次的に立案される御意思はないかどうか、その辺をお尋ねいたします。
  89. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 ただいまお話がございましたように、当委員会におきまして、常に私ども裁判所予算につきまして、非常な御理解また御鞭撻をいただきまして、常々感謝申し上げております。その上にただいまさらに非常に御理解のある御支援、御鞭撻のことばを賜わりまして、私どもまことに身にしみて感謝いたす次第でございます。  私どもといたしましては、この機会にさらに心を新たにしまして、裁判所人員、施設その他裁判上必要な経費の充実につきまして、特段の努力をいたしたい、かように存じます。
  90. 岡沢完治

    ○岡沢委員 ここで感謝してもらうよりも、具体的に計画を立案していただき、大蔵省とも折衝してもらい、国会に関する限りは、法務委員会ではほんとうに共産党から自民党まで一党といえども裁判所関係予算について、多過ぎるとか批判をしたことはないわけであります。むしろ少な過ぎる、充実がおくれ過ぎる、近代化合理化がおくれておるという指摘を与野党こぞってやっておるわけですし、私は絶好の機会じゃないかと思うわけでございます。ぜひ前向きに具体的に検討していただきたいと思います。  これはこの機会に、先ほどの統廃合と結びつきますが、何回か私はこの場所でも御提案いたしました巡回裁判所の思想、たとえば先ほどの横路委員の御出身地の北海道とか東北とかあるいは九州なんかでは採用する時期に来ているのではないか。道路事情、通信事情、先ほど申しましたようなことを考え、あるいは裁判官の子弟の教育等を考え、あるいは執務合理化、能率化等を考えました場合、ぜひ巡回裁判所を実現するための努力をなさるべきタイムリーな時期に来ていると感ずるわけでございますが、御見解をお聞きいたします。
  91. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 巡回制の採用につきましては、内部的には検討いたしておるところでございまして、現実の問題といたしましては、たとえば北海道の旭川地方裁判所におきましては、管内支部には裁判官配置を現実にはとりやめまして、本庁から事件のつど出張して裁判をするというような形で、実質的な巡回制の採用をいたしておるのでありますが、これをさらに制度的に確立していくという努力が必要な段階に来ていると考えられますので、なお関係の局とも連絡をとりまして、ただいま御指摘の件は実現できますように努力いたしたいと考えております。
  92. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いままでは裁判所の物の面での問題点を私なりに指摘をさせてもらったわけですが、いま司法権の独立等とも関連いたしまして、裁判官の心の問題につきまして、たとえば明治、大正生まれの裁判官昭和生まれの裁判官あるいは研修所出身の裁判官とそれ以前に任官された方との断絶の問題、あるいは裁判官裁判所書記官あるいは事務官あるいは速記官との断絶、意思疎通の問題、これは私は無視できないと思います。裁判所が国民から信頼されなければならない存在であることは言うまでもありませんが、その場合に、裁判官内部であるいは裁判所内部で断絶的な傾向あるいは不信感がありました場合、裁判所の信頼ということはとうてい期待し得ないと考えるわけでございます。たとえばいま申しました裁判官書記官、これは補助機関かもしれませんが、裁判の能率化あるいは適正化の面と、手続上ではございますが密接な関係があるし、迅速化とも大きな関係があると思うのです。裁判官書記官事務官等との交流等につきまして、予算的にあるいは制度的にどういう御用意があるか、あるいは御計画が現に実施されておるか、あるいはまた実施されようとしているか、そういう点につきまして総務局長の御職権の範囲内でお答え願いたい。
  93. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 裁判官裁判官以外の職員書記官事務官との間の精神的な断絶という問題は、これはきわめて重大なことでございまして、私どももそのようなことのないことを念願しながらも、そのような困った事態を感ぜざるを得ない場合がございます。これを日常の生活の中において埋めていくという努力を裁判官にも書記官にも、いろいろとサービスの面としてお願い申し上げているわけでございますけれども、制度的にこれを考えていかなければ根本的な解消はできないと考える次第でございます。そのような形の一つの実現といえますかどうですか、特任の簡易裁判所の判事の制度というものを新しい裁判所法発足の段階に制度化していただいておるわけでございますけれども、はたしてこれが所期のような効果をあげて、司法の民主化という面に役立っているかどうか、反省を要する点もあるのではないかと思うのでございます。このほかに権限の委譲、そういう問題も過去において検討され、臨時司法制度調査会においても答申の中で提案していただいておるわけでございます。  御承知のように、裁判所といたしましては、一般職員にも裁判官への道を何とかして広げられないものであろうかという念願を持っているわけでございますけれども、ただいまの裁判所法のたてまえとしては非常に困難なものがございます。ただ何とか部分的にも権限委譲ということで、責任ある職務権限の確立が、裁判官一般職員との間の精神的な断絶をなくしていく上においての一つの方策と考えて、実現可能な形でこれを考えたい、このように存じているわけでございます。  家庭裁判所の調査官あるいは一般の調査官というふうな面では、かなり精神的には断絶感がなくなっておりますが、そのほかの一般職員にも広げまして、その職分において責任の持てる体制の確立ということが必要であろうかと存じますので、具体的にどのような形をとるかという問題になりますと非常にむずかしいのでございますけれども、さしあたりは権限委譲というようなドイツ方式も検討に値する方向であると考え、近々に、書記官協議会という全国的な組織がございますが、そこから代表をドイツ、オーストリアに派遣いたしまして、権限委譲の問題を実施に研究してくるというような企てもあると聞いておりますので、その面からただいまの御指摘におこたえできるような方向が打ち出せれば幸いと存じている次第でございます。
  94. 岡沢完治

    ○岡沢委員 小島理事のほうから、時間的に早く切り上げるようにという示唆がございました。協力したいと思いますが、いま総務局長の御答弁にもございましたが、書記官同士、事務官同士、調査官同士はそれぞれ横の連絡をとっているようでございますが、裁判官書記官、あるいは裁判官と調査官、あるいは裁判官と調査官と書記官、あるいは事務官、この横の連係といいますか縦の連係といいますか、調和のとれた連係が薄いように私は感じます。  司法権の独立あるいは裁判の独立が裁判の独善になったり裁判官の孤立になったのでは、私は決して正しい裁判所のあり方ではないと思います。それだけに、大内経理局長もおられますが、裁判官はことさらに疑われることを避ける意味で、弁護士在野法曹ともあるいは書記官とも事務官とも一線を画される傾向が、しいていえばあると私は思う。そういうものと、やはり制度的に予算的に共通の場を持つような措置がなされてしかるべきではないか、経理局長として、こういう面での予算措置等について御用意があるかどうか、あるいは現在までどういう検討がなされたか、お尋ねいたします。
  95. 大内恒夫

    大内最高裁判所長官代理者 ただいまのお尋ねにつきましては、まだいままで、そうした裁判官書記官との横の連係といったような問題につきまして、経理上格段に考えたということはないわけでございます。まだいま急にそういう方策も思いつかないわけでございます。なおよく検討してみたいと思います。
  96. 岡沢完治

    ○岡沢委員 非常に消極的な答弁ですけれども書記官集会とか裁判官会同はございますが、その両者が一緒に会合する機会に、幾らか、お茶代くらいの予算措置は当然なされるべきじゃないかと思うわけです。あるいは一般研修等もあっていいのじゃないか。裁判所はかたいところであるだけに、そういう予算がないと実現されませんので、そういう面で裁判所が人間的にもあるいはまた予算的にも、なごやかにいくような配慮をなさるのがむしろ事務総局の大きな仕事だと思いますだけに、ぜひ前向きで御検討いただきたいと思います。  もう一点、福岡地裁の小倉支部関係で質問したいと思いましたけれども、時間の関係でその質問はあとに残しまして、私のきょうの質問は終わります。
  97. 小澤太郎

  98. 青柳盛雄

    青柳委員 憲法七十六条第一項で、下級裁判所の設置は法律できめることになっております。したがって、その改正が本法案としていま提出されているわけであります。  そこでお尋ねいたしますが、この下級裁判所の設置の原案をつくる中心的な役所は法務省であるのかあるいは最高裁判所であるのか、これをまず大臣にお尋ねしたいと思います。
  99. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 ただいまの御質問は、下級裁判所、ことに下級裁判所の当面の御議論の焦点のように思いますが、裁判所配置の問題にかかわりますので、これはやはり最高裁当局、すなわち裁判所当局の御発意によって、われわれは立法化あるいは法案の成立をはかるというお手伝いをしている状況であります。しかし、事はわれわれのほうと表裏をなす役所でございますから、お互いによく相談をし、現地の実情その他も相談の上で、なるべく同じ歩調で進みたい、こう思っております。
  100. 青柳盛雄

    青柳委員 そこで、最高裁判所お尋ねをいたしますが、この法案自体にはあまり問題はないと思いますけれども、いま国民注視の的になっております沖繩施政権の返還が日程にのぼって、返還協定ももうそろそろ締結されて、秋の臨時国会では批准が行なわれるというような日程になっております。そうなりますと、当然、施政権の返還された沖繩の地域下級裁判所が必要になってくるのではなかろうかということが常識として考えられる。現在沖繩には、施政権がアメリカにございますから、下級裁判所はございません。新しく下級裁判所をつくることになると思いますが、それについてすでに最高裁としては腹案を持っておるのかどうか、持っているとすればその内容の概略をいま公表することはできないのか、これをお尋ねしたい。
  101. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 沖繩が復帰いたしました場合の裁判所の設置につきましては、私のほうとしては率直に申し上げますと現状のまま引き継ぎたいという強い希望を持っておるわけでございます。現状のままと申しましても下級裁判所はないわけでございますが、現機構のまま引き継ぎたいという強い希望を持っており、これが沖繩の方々の二十五年の御労苦にお報いする私どものできる唯一の方法であると考えております。しかしながら、これには法律の制定と予算の裏づけという重大な問題がございまして、法案につきましては法務省御当局の御責任によって取り運んでいただかなければなりません。予算につきましては大蔵省と話をつけるという重大問題がございます。腹案という形で申し上げますと、私どものただいまの権限を逸脱したことになってしまいますので、現状のまま引き継ぎたいという強い希望を持っておるということで御了承いただきたいと思います。
  102. 青柳盛雄

    青柳委員 現状のままというのをもっと具体的に言いますと、名称も違うわけでありますし、機構も必ずしも本土とは同じではないわけなんで、対応的な観点から言いますならばどういう形になりますか、高等裁判所に類するもの、あるいは地方裁判所に類するもの、あるいは簡易裁判所に類するものがいずれも沖繩の現地には琉球政府の裁判所といいますか、そういう形で存在している。それを現状のまま引き継ぐということなのかどうか、そこをもっと具体的にお話し願いたいと思います。
  103. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 ただいま抽象的に強い希望という形で申し上げましてたいへん粗雑でありましたけれども、沖繩にただいま琉球高等裁判所がございますが、沖繩高等裁判所を設置するということは沖繩県という単位の関係上ちょっと困難でございますけれども、高等裁判所級の司法機関、たとえばあそこに高等裁判所支部が設置できることは私どもとしては望ましいことではないかと考えて、実現できるものであればそのようにできたらと考えておるわけでございます。  そのほか地方裁判所地方裁判所支部、家庭裁判所簡易裁判所、あるいは裁判所と違いますが検察審査会というような組織——これは沖繩が復帰に備えまして、非常な努力をもちまして日本のいまの司法制度に合わせるようにできるだけのことは努力しておられますので、円滑にいまの形で日本国の裁判所の組織にできますれば好ましいのではないかという観点で具体案を検討中でございます。
  104. 青柳盛雄

    青柳委員 そこで現在働いている沖繩県人が相当多数おられるわけで、この人たちの要望、また同時に現地住民、沖繩の県民の要望というものがすべて反映されるような形で新設したい。引き継ぐというのは実際上の話なんであって、新設したいということでございますので、これは最高裁の姿勢としては非常に私ども歓迎するところでありますけれども、ただ問題は、先ほども答弁の中で触れられましたように、予算との関係があり、また同時に、裁判官並びに職員の定数の増加という問題もございます。そういう点で現地の住民やそれから特に現在の制度の中で働いておられる人々、関係者、これは在野も含めてでありますけれども、そういう人たちの要望というようなものは最高裁のほうへ出されているかどうか。また出されていない場合にはどういう形でその希望や意向というものが反映されるようにしようとされているのか、それをお尋ねしたいと思います。
  105. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 沖繩の希望につきましては、政府の機関といたしまして沖繩・北方対策庁におきまして調査の上慎重に御審議になっておりますが、裁判所自体といたしましては琉球高等裁判所の首席判事を経由いたしまして詳細に希望が申し出られておりまして、これに従いましてすでに五つの班を沖繩に派遣いたしまして、現地側の希望と実情を調査いたしております。なお今後もこの調査を継続いたしまして、でき得る限り沖繩の希望と私ども考えとが調和いたしますような形で沖繩の新しい裁判所の設置を実現していきたいと考えておるわけでございます。
  106. 青柳盛雄

    青柳委員 先ほどから簡易裁判所についてはいろいろと御議論が出ておりました。合理化しなければいかぬのだ、どうも政治的な配慮でむだなものを設けておるというのはあまり感心せぬのじゃないかというような話がありました。沖繩の今度の復帰にあたって新設する裁判所をそういう観点合理化しよう、多少出血があってもやむを得ないのじゃないかというようなことがあるとすれば、これこそまさに復帰不安と称するものが沖繩の人々の中にあるわけです。いままでそこでやや安定した生活があったのに合理化されてしまう、ここで首にされたのではたまらない。そういう点で合理化一般は必ずしもわれわれも反対すべき筋ではないと思いますけれども、この際とばかりに沖繩県民あるいは関係方面の意向を無視したような強引なやり方があるとすれば、これは問題だと思います。そこは先ほどの腹案の中では、自分たちのできないことだ、予算関係がある、そう言っておられたけれども予算についても最高裁とすれば当然必要なものは要求する権限があるわけですから、そういうものを含めてこの点不安のないようにやっていくお気持ちがあるかどうか、重ねてお尋ねしたいと思います。
  107. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたけれども、四半世紀にわたる御労苦に対しまして報いるのには、いまのままの姿で新しい裁判所を設置するのが好ましいという基本的な考え方を持っておりますので、いま私のほうから、実施機関に過ぎないものが将来のことを申し上げるのは出過ぎたことになるわけでありますけれども、それぞれ所管の法務省ないしは大蔵省と十分に話を遂げまして、御要望に沿うような形で実現したいと考えております。
  108. 青柳盛雄

    青柳委員 終わります。
  109. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 これにて本法律案に対する質疑は終了いたしました。     —————————————
  110. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決いたします。  本法律案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  111. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 起立総員。よって、本法律案は原案のとおり可決すべきものと決しました。  おはかりいたします。  ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  112. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 御異議なしと認めます。よって、そのように決定いたしました。     —————————————   〔報告書は附録に掲載〕      ————◇—————
  113. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 次に、細谷治嘉君外十名提出事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせた事業者等の無過失損害賠償責任に関する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岡本富夫君。
  114. 岡本富夫

    岡本委員 私は、野党三党が提案いたしておりますところの事業者等の無過失損害賠償責任に関する法律案並びに政府が出そうとしておるところの無過失賠償責任の問題について、若干ただしてみたいと思います。  〔小澤(太)委員長代理退席、羽田野委員長   理着席〕  そこで最初に、この野党提案の無過失損害賠償責任に関する法律案の提案された理由を提出者から聞きたいと思います。
  115. 畑和

    ○畑議員 今回社会党、公明党、民社党三党で提案をいたしました本法案について、その提案の大きな理由、それを御説明いたしたいと思います。  いままで民法の大原則というものがございまして、民事上の私法上の損害賠償の際には故意、過失が必要である。故意、過失が相手方になければ損害賠償を請求することができないという民法七百九条の大原則がございます。この民法七百九条の大原則というものは、近代の最近までの資本主義の発展と相見合うものでありまして、故意、過失がなければ自由に事業活動をやってよろしい、故意、過失がなければそれによって生ずる損害についても賠償する責めは負わないのである、こういうようなことになっておりました。またその規定によってこそ初めてこの近代社会ができ上がったというわけでありまして、非常に自由な事業活動ということが保障されたわけであります。  ところが、最近は機械などもえらい異常な発展を遂げましたし、非常に精密な機械などもできました。またざらに、薬品などにつきましても非常にデリケートな薬品などができまして、事業者といえどもほとんどその損害についてあらかじめ予見し得ないようないろんな結果というものが生まれてまいるようになりました。そうなりました場合に、被害者のほうで相手方の、すなわち事業者の故意、過失というものを立証しなければ損害賠償がとれないというようないまの民法の七百九条の制度によりますと、最初の目的と違った結果になってしまうというようなことになってまいったわけであります。特に最近の公害問題についてしかりであります。  そこで、われわれはそうしたいままでの民法の大原則に対して、環境の汚染というものを中心とし、さらに俗にいう食品公害あるいは俗にいう薬品公害、こういったものにも広げて——正確な意味での公害とは違いますが、そういったものも含めて、そういった製造の過程において排出され、あるいはまたその製造の過程において添加されたりなんかしたようなことによって被害が出て損害をこうむった人がおるという場合には、被害者のほうで相手方、すなわち事業者の事業活動にあたっての故意または過失を立証しないでも、すなわち故意、過失がなくとも無過失で責任を負わせるというような制度にしなければならぬというような観点からこの法案をつくったわけであります。去年の終わりの例の公害国会の際にも、われわれ三党で別な形の無過失賠償責任の法案をつくりまして提案をいたしました。けれども、それはそのまま廃案ということになりました。そこで、今度われわれはさらにそれに検討を加えまして、新たな観点からこの法案を提出した次第であります。  本来、世論も公害問題の処理について、被害者救済の問題については非常に関心を持って、そうした制度の制定が望ましいというような考え方が示されておったのでありまして、総理もかねて宇都宮の一日国会で、そういった制度を検討し提案をするといったような意味の発言もされたのでありますが、公害国会の際にはとうとうその提案がなされないということで、われわれは世論にこたえて、公害国会で先ほど申し上げましたような別の案を提案をいたしました。そうしてさらにまた、政府で提案をするかと思って待っておりましたが、提案がなされないものでありますから、われわれさらにそれに検討を加えまして、この前は物質の名称なども指定しなくて非常に抽象的なものだということで非難を受けた点もございますが、そういう点も修正をいたしまして、具体的に物質の名前をあげ、さらにはまた、あげられないものについては政令に委任をするというような形で具体的なものにいたしました。そういう点がこの前とは違っておるわけでありますが、さらにまた食品公害あるいは薬品公害、こういうものも加えて提案をいたしたものであります。  われわれといたしましては、ともかく世論にこたえるというような意味で、やはり七百九条の例外を一般的な規定でやる必要がある。いままで政府におかれましては、具体的な個別法規の一部修正等によって無過失責任を規定しているところも部分的にはございますのですが、一般的に七百九条の例外規定を単独法で出した例がございませんので、われわれはこの世論にこたえる意味でも、この時代の要請に沿った立場で、あえて政府に先がけて提案をいたした次第であります。そういうふうに御了解願いたいと思います。
  116. 岡本富夫

    岡本委員 まことによくわかりました。  そこで、なるほど日本はいま公害列島だといわれておりますし、それによって起こるところの被害者、これがいまたくさんございます。一万数千人ともいわれておりますし、まだまだ潜在したそうした被害者がいるというので、そういう人たちを救ってやらなければならぬ、こういう世論が高まっておるわけでありますけれども、そうしたときにおきまして、やはりこういった救済、それから今後起こるであろうと思う公害を抑止しなければならない、こういうような観点から、早急にこの法律案はやはり可決をして成立させなければならぬ、こういうふうに私は思うのです。  そこで、今度は政府のほうでは、この無過失賠償責任制の法案について、いまどういうようになっておるのか。佐藤総理もそういった答えをしておるし、また先国会においても検討する——検討ということは、それはただ検討するだけなのかと言ったら、そうではなくして提出をして可決をする、要するに成立させるというように検討しておるのだという答えもあったし、たびたび山中長官からもそういう答えがあったわけでありますが、もう会期もあまりないわけでありますけれども、そこにおいて、現在政府のほうではどういうような法案を出そうとしておるか、あるいはまたどういう態度なのか、この点について、きょうの最高責任者の湊副長官からお聞きしたい。
  117. 湊徹郎

    ○湊政府委員 ただいま野党提案の説明がございましたが、私ども昨年の公害国会の際に、でき得べくんばできるだけそろえた形で、規制立法のほかにあるいは刑事法、民事法等にわたる御承知公害罪及び挙証責任の転換ないし無過失責任という形が公害についてとれないか、できる限りそういうものもやはり一つ公害に対処する法体系の一環として必要であるというふうな前提でスタートをしたのでございますが、率直の話、昨年の公害国会の段階におきましては公害罪、及び民法の先ほど話のございました過失責任原則、これでもって今日までずっと貫いてきたものに対して一応の例外ともなるべき無過失責任、この二つの問題は普通の行政法規とは性格が違いますので、できれば法務サイドにおいてこの二つだけは御検討願い、それから残りの行政、主として規制法を中心にした各種行政法規等については、私ども公害対策本部でやっていこう、こういうような話し合いで進んでまいったのでありますが、法務部内におけるいろいろ御検討の結果、実は過失責任の原則に対する一般的な民法の例外原則をこの際立法化するということは非常に困難である、法体系全体をくずすもとになるので。そこでこれは行政サイドからぜひともこういう種類のものについて、こういう原因によって発生した、こういう対象の被害についてはということで、ある程度範囲を限定して個別の発生原因ないし限定された範囲ないしそれぞれの物質ごとにやはりその問題をひとつ御検討願い、そして御相談をいただければ法務サイドとしてもひとつ相談してまいりましょう、こういう経過に途中から実はなったわけでございます。  ことばは妙なことになりますが、挙証責任の転換じゃなくて、提案責任の転換みたいな形になってまいりまして、それ以来、私どもいま申しましたように法律の性格もございますので、主として行政分野よりも実際にこの法律ができたときに運用の掌に当たります裁判官の皆さんあるいは弁護士の皆さんあるいは法律学者の皆さん、こういう意見を相当程度やはり拝聴してきめなければ、行政の側だけできめたのでは私ども直接将来の執行のものさしに使うわけじゃございませんので、そこら辺をかなり慎重に考える。同時に、中央公害対策審議会、御承知のように付属機関としてございますので、ここで慎重な御検討をお願いいたしてまいりまして、大体考え方の骨子については政府部内の意見をまとめた次第でございます。それに基づいて現在要綱をつくり、そしてそれに基づく法律案については法制局のほうで技術的な検討を一方で願うと同時に、今度は党の内部におきましても、従来の公害プロパーのものでなしに、あるいは法務あるいは商工関係等について個別に御審議を願い、あるときには説得をいたしまして、大体話し合いが最終段階になって、そして政審、総務会という最終の段階でいま部内調整を党のほうにはお願いをし、政府部内においてはさきに申しましたように法案作成の段階に入っている、こういう状態でございます。
  118. 岡本富夫

    岡本委員 そこで、もう一つ確かめておきたいことは、もう会期も余すところ十日もありませんが、その間に調整がついて法制局のほうへいま出しているというのですが、法律案になってそして必ず出してくるという考えがおありかどうか。また大体そういうように決定しておるのかどうか、このところをひとつはっきりしてもらいたいと思います。
  119. 湊徹郎

    ○湊政府委員 政府といたしましては出したいということで、実はけさの閣議においても口頭でこういう状態になっておるという報告を総務長官から行ないまして、そして最終的な努力を傾けたいというふうに思っております。
  120. 岡本富夫

    岡本委員 最終的な努力ということですが、そうすると努力したけれどもだめだった、そういうことになってはこれは相ならないと思うのですがね。また出したけれども調整つかなかったというようなことでは、少し責任がないように思うのですが、大体何日をめどに——もう余すところ何日もありませんので、われわれもやはりそれに対するところの審議の体制というものも組まなければならぬ。その点について大体何日をめどにということはもう部内ではできておると思うのですが、  いかがですか。
  121. 湊徹郎

    ○湊政府委員 ただいまのお話でございますが、当然国会の会期その他から考えて、出しおくれたという内部の批判等もいままでずいぶん、もういやというくらい実はお聞きをしておりますが、私どもきょうあすじゅうにめどをつけたいということで、現在総務長官ももっぱらそちらのほうで調整に回ってやっておるという現状でございます。
  122. 岡本富夫

    岡本委員 大体きょうあすじゅうということで了解をいたします。  そこで、総理府から今度出そうとしている要綱を私拝見をいたしましたが、この中に、複合公害については今後検討するというようなことになっております。特に硫黄酸化物等の排出による被害に対する賠償責任の問題については、複合公害の特殊性に照らし、その被害に対する民法七百十九条の適用の問題を含めて今後引き続き検討する、こういうことになっておりますけれども、これがなくなりますとこれは救済ということが非常におぼつかないのではないかと思うのです。  そこで、この七百十九条の共同不法行為、たとえば集団不法行為ということになると思うのですけれども、この複合汚染にもやはり二種類あると思うのです。たとえば四日市のように硫黄酸化物、これがほとんどである、それから工場企業は大体きまっておる、こういう場合と、それから京浜のようないろいろな物質があらゆる企業から出ている、こういう場合と二つの複合汚染の場合があると思うのです。そこでまず民法七百十九条の解釈について、たとえば四日市ですと二十数社ですね。その中から硫黄酸化物をどんどん多量に出しておる、そして公害が出ている。こういう場合ですと大体発生している企業というものははっきりするわけですね。こういう場合も集団不法行為、共同不法行為の中に入らないのかどうか、これについて法務省の見解をひとつお聞きしたい。
  123. 宮脇幸彦

    ○宮脇説明員 局長が来られませんので私から申し上げます。  民法七百十九条の共同不法行為の態様は、先生も御承知のとおり前段、後段の二つに分かれております。前段の場合は、加害者が複数でありながらその加害者の行為が客観的に関連共同しておる場合でございます。もう一つの後段の場合は、加害者不明の場合でございます。  ところで、先生の御指摘の四日市のコンビナートの例が一体前段に当たるか後段に当たるか、まことに微妙でございますけれども、常識的にはおそらく前段の各事業者の加害行為が客観的に関連共同している場合に当たるのではないかというふうに一応考えられます。もちろんコンビナートと申しましても範囲がはっきりいたしませんので、中心部分に関する限りというふうに御理解いただきたいと思います。  ところで、そういうふうに理解いたしました場合でも、各事業者が行なっておりますところの加害行為が、それぞれ損害発生の可能な場合と不可能な場合がございますけれども、どうもこの場合は、各事業者の行為は単独では損害発生が不可能な場合ということになるようでございます。ところで、その場合さらに分かれてまいりますけれども、どうも四日市の場合にはそれぞれの排出行為がおそらく一けたないしは二けたと申しましてもせいぜい十数%でございましょうから、民法七百十九条の原則に戻りまして、一体各人に全損害を負わせられるかどうかという点が、まことに法律上微妙な問題になってまいります。おそらく現在の訴訟におきましてもその点が最も大きな争点になっておるのではないかと思われますけれども、その場合に一つ考え方は、全損害を負わせるべきであるという考え方、もう一つは、各加害行為と因果関係のある範囲で損害を負わすべきであるという考え方、この二つ成り立つと思います。しかもこの場合、いずれに該当するかは、また事実関係によってもかなり左右されますので、私どもは結論的にどうだということは、事実関係が不明であります関係上、お答えを留保させていただきたいと思います。
  124. 岡本富夫

    岡本委員 通産省に聞きますけれども、この四日市をまず一つの例としてきょうのこの問題を論議してみたいと思うのですけれども、四日市のあの企業は排出基準を全部守っておるのかどうか。それから厚生省のほうからは、現在四日市におけるところの公害患者ですね、これがどのくらいいるのか、これについてお聞きしたい。
  125. 森口八郎

    ○森口政府委員 現在四日市におきます企業は、大体排出基準は守っております。
  126. 曾根田郁夫

    ○曾根田政府委員 公害の被害救済法に基づきます認定患者は、本年の四月末で六百五十三名になっております。
  127. 岡本富夫

    岡本委員 いま答えたように、四日市の場合はこういった基準を守っておる。この基準にも問題はあるのですけれども、現在の大気汚染防止法を見ますと、硫黄酸化物なんかは着地濃度ではかる拡散方式をとりますから、絶対量というものを押えてないものですから、絶対量を押えないとどうしても自然に還元する。要するに空気の汚染とそれからそれが自然によってきれいになるその浄化作用、これとの見合いというものを考えますと、これは問題があろうと思うのです。いずれにしてもこういった基準を守っておるけれども、現実にはこうした被害が出る、こういうことでありますが、この場合、四日市では二十数社ですか、この企業から発したものでありますから、ほかから出たものではない。そういうことになりますと、過失はない、基準を守っているのですから。しかし、現実にはこういった病気が出ている、患者が出ている、こういう場合ですね。私はすでに企業は、私たちは基準を守っておるから間違いないんだ、こうは言えない。したがって、やはり社会的の道義を考えて、公害基金というものを出している。そして公害防止事業団に金を出して、そして政府から半分出して、いま公害病の人たちを救っていくという救済制度があるわけです。全然責任がない、こういうことになれば、これは企業がそうした公害の基金に金を出すわけはない。もうすでに、基準は守っているけれども被害を与えているという感触と申しますか、そういった責任は免れない、また感じておると思うのです。そういうことになりますと、この七百十九条の解釈からすれば、当然無過失賠償の責任をとっていく、これが普通ではなかろうかと思うのですが、これについての考え方を、ひとっこれはこの法案を提出しようとしているところの公害対策本部からお聞きしたい。
  128. 植松守雄

    ○植松説明員 七百十九条が複合公害にどのように適用されるかという問題につきましては、いま法務省から大体の御説明があったわけでございます。それをもう少し具体的に、いまの御質問に当てはめて御説明をしなければならないのではないかと思うわけでございます。  先ほどの説明にもありましたように、四日市の被害を考えた場合にも、確かに現在訴訟が起こっておる事案につきましては、磯津地方で、しかも風向きの関係等からいって、どうも特定の企業からの排出物がそれに集中しておるといったような客観的な事情がある事案が、いま訴訟で争われているようでございます。しかし、もちろんその住居の方向によりましては、全体の風向きの関係で、個々の被害者をとらえて考えてみた場合には、どの企業の排出物がどの程度その被害に関係があるのか、影響を持っておるのか、個々にはつかみがたいという場合がいろいろあるのではないかと思います。したがいまして、先ほど法務省のほうで御答弁がありましたように、民法の七百十九条の前段でいくのかあるいは——現在の訴訟は御承知のように七百十九条の前段の適用という形で争われておるようでございます。しかし、被害者の居住地の状況によりましては、前段のほうは無理で、あるいは後段でいかなければならないのではないかという場合もあろうかと思います。  ところで前段、後段を問わず問題は、民法はいわば古典的な市民法ともいうべきものでございますから、本来複合的な公害についてそれがどう適用されるかということを厳密に予測して書かれたものではございません。当然新しい事態に即してそれを読まなければならない。そうしますと、いま法務省から説明がありましたように、いろいろな考え方があるわけでございます。つまり本来民法が予定いたしておりますのは、不真正連帯債務でございますから、だれか一人の者が全額の賠償をして、そのかわりその全額の賠償について支払った者が他の者に対して求償して、加害者相互の間の負担の分担をはかっていくということが本来の趣旨でございますが、いまのような状態でございますと、四日市のような比較的限定された、いま先生、二十数社とおっしゃいましたが、そういうような場所でありましても、だれか特定の企業がいわばねらい打ち的に不真正連帯債務を負って、それを他の企業に求償する場合にどの限度で一体求償できるのか。そもそも民法七百十九条が適用されるかどうか。その辺の点がいまの学説、判例の動向ではまださだかでないというのが現状ではないかというふうに考えております。
  129. 岡本富夫

    岡本委員 そこで、たとえば道交法、これを守っておれば交通事故は起こらないのだ。ところがそうではない。現実に交通事故はどんどん道交法を守っておりても、あるときある瞬間に、ほんとうに事故が起こるというのは瞬間なんですね、そういうようでやはり事故が起こった。それに対するところの賠償責任というのがある。したがって、基準を守っておる、しかし現実に被害を起こした。こういう場合はやはり責任があるのじゃないか、こういうように私は考えるのですが、その点についての解釈をひとつお聞きしたい。
  130. 植松守雄

    ○植松説明員 道交法の場合は御承知のとおり——特別に自動車事故の場合と申したほうが正確ですが、自動車事故の場合は御承知のようにいわゆる自賠法によりまして、挙証責任の転換が一方において行なわれる、また保険によってそれがカバーされるというような仕組みがとられておるわけでございます。それはやはり個別の一対一の民事関係でさばくということにいたしますと、一方において加害者が無資力の場合等の救済が十分でないという配慮もあろうかと思いますが、やはり保険という仕組みをそこへ導入しないで通常の民法の手法、私人対私人の争いで解決するのには問題があるというような形の政策的な配慮からいまのような仕組みがなされたのではないか、このように考えております。  そこで、公害の場合でございますが、確かにおっしゃいましたように、客観的に、たとえば四日市の企業なかりせばその公害は起こらないという意味においては、公害の原因者たる企業はきまっておるいええばいえるかと思います。しかし、それを個別の一対一の争いという形で民法の原則に当てはめて考えてみた場合には、あくまでも個別のケースにおける因果関係が問題でございますし、また個別のケースにおける負担の分担を公正にやっていくということが民法の目的でございますから、そういう観点から考えますと、やはり無過失というような民法の次元でこれをとらえた場合には、やはりいろいろ問題があるということはこれは否定できないのではないかというように思います。しかし、そのことは、われわれ決して硫黄酸化物について無過失責任の問題を全然あきらめてしまっているというわけではございませんで、やはりそれなりの、そういう特殊性に即した新しい民法の展開といいますか、新しい法的な解決を求めた努力をしなければならないということは、われわれも十分そう感じております。ただし、これはにわかにいま、どういうものがあるかといいますと、民法七百十九条という基本的な規定の修正でございますので、法務省とも何度も論議したわけですけれども、いまのところこれというだれしも納程し得るような決定的なきめ手を見つけあぐんでいるというような状況でございます。  そこでしからば、それをたとえば保険というような制度でカバーしていくというような問題も一つ考え方ではないかと思います。まあ不完全な、不十分ではございますけれども、現在の特別措置法による救済、これは救済の内容自体についていろいろ御批判があることは、われわれ十分承知をいたしておりますが、やはりそういう方向での一つの救済の方法という問題も、言ってみれば、一種の基金をプールをして、そこでその被害者に対する救済に当たるということでございますから、自然発生的に、こういう特殊の民法次元で救済しにくい問題に対する解決の方法として考えられた考え方であろうかと思います。やはりそういう方向もこの際あわせて考えていかなければならない。つまりその一つ方向だけで対処して、それで完全な解決が得られるものであるかどうかは非常に問題でございまして、民法次元でも考えていく、それと同時に、また現在の特殊措置法の問題、それの今後の改善の問題、それからさらに、もちろん規制の基準そのものを強化していくということが、これが基本的に重要であると思います。そういういろんな施策を総合して、この問題に対処していかなければならないのじゃないかというのがわれわれの考え方でございます。
  131. 岡本富夫

    岡本委員 どうもちょっと私、あなたの話が何かわかりにくい。  そこで、法務省にもう一ぺん見解を聞きますけれども、先ほど私が説明したように、道交法によって、法律を守っておる、しかし、瞬間的に事故が起こる、それでもやはり賠償の責任はあるわけです。そうすると、企業が二十数社あっても、その二十数社は全部排出基準を守っておる、ところが、現実にそうした被害が起こった。これは結局は同じことじゃないですか。風上とか風下とか、それは関係ないのですよ。現実に風上とか風下とかいっても、これは気象によりまして、西風もある、東風もある、あるいはたつまきもあるのです。そんなばかなことを言って、風上ならいいのだ、こんな考え方はおかしいのだ。風というのはいつも下を向いておるわけじゃない。西なら西を向いておるのじゃない。でありますが、その点を考えると、法務省の見解として、私が先ほど言った、基準を守っておっても、要するに道交法を守っておっても事故が起こる、そういったことを考えるとき、大体結論としては同じことじゃないかと私は思うのですが、それを……。
  132. 宮脇幸彦

    ○宮脇説明員 先生の御質問の点は、排出基準との関係かと思いますけれども、排出基準を守りましても守りませんでも、現行の民法のもとでもなお過失責任が働くわけでございます。と申しますのは、排出基準を守ったからといって、過失がなくなるわけではありません。したがいまして、排出基準を守るか守らないかの点と、無過失責任の立法をするかしないかというのは必ずしも直結しないように思います。  それと、なお先生のもう一つの点は、結局因果関係の問題に帰するのではないかと思いますが、先ほど公害対策本部で申されました点も、因果関係のある損害は加害者が負い、因果関係のない損害であれば加害者がその責めに任じないということを抽象的に申し上げただけでございまして、民法の解釈としては、いま申し上げたようなことになるかと存じます。
  133. 岡本富夫

    岡本委員 たとえば四日市は、ああした企業が来ないときはあんなぜんそくはなかった。そこにあれだけの二十数社が来たために、その原因によってたくさんの人が被害を受けておる。因果関係ははっきりしておるのだ。これはどの企業、どの企業と個別的に、これはおまえのところじゃないか、いやうちじゃない、こうなれば別ですけれども、そこへ二十数社の集団、要するに共同不法行為によって、その共同責任によって、そういうようなところの公害が起こっておる。そうなれば、まあはっきりこの一社だけだとなれば、これは過失責任ですよ。しかし、共同だから無過失の適用ということにはならないのかどうか。要するに七百十九条の適用は受けられないのかどうか。この点についてもう一ぺんはっきりしてもらいたいと思います。
  134. 宮脇幸彦

    ○宮脇説明員 現行法のもとで、結局過失責任によって各工場の排出が因果関係がある損害を起こしておりますれば、七百十九条の適用があるということになるわけでございます。でございますから、結局原因と結果との因果関係がいわば先決問題でございますが、その点が否定されますと、いずれにしても七百十九条の適用はないということになるわけでございます。繰り返して申し上げますが、問題は加害者の過失ある行為と結果、すなわち損害との因果関係が認められる限度においてそのようなことが問題になるということになるわけでございまして、まさにその点が現在訴訟で争われているところでございます。
  135. 岡本富夫

    岡本委員 こういった問題を訴訟に持っていって、そして力のない被害者が訴訟の費用を出し、あるいはまたさっきも畑提出者から話がありましたように、挙証責任の転換ということにもなるわけですけれども、結局裁判に持っていかなくても、要するに排出基準を守っておっても現実に損害を与えたということになれば、これは無過失ですね。これは賠償責任というものはやはりどうしてもつくってやらなかったら、あるいはまたそれがなければ被害者は救えない。裁判では、それはもうどうだ、こうだといって長い間どんどん引っぱっていって、たくさんの方が自殺をしたり首をつったり、あるいはまた生活ができなくて苦しんでおるわけです。そうして昼は会社に行って夜は病院に入っている。こういうようなことを考えると、どうしても賠償責任というものをつくってやって、そしてその被害を救ってあげるというふうにならなければならないと私は思うのですが、その点について公害対策本部、いかがですか。
  136. 植松守雄

    ○植松説明員 おっしゃるとおり、現在の古典的な民法の七百九条の故意、過失の原則のもとにおける損害賠償がいろいろ立証の面でむずかしい問題がある。また先ほど畑先生からも御説明がございましたように、近代企業がますます生産のプロセス等複雑になっておりまして、従来の民法の単純な原則ではぐあいが悪い、被害者の救済に十分でないということから、無過失賠償問題が出てきております。したがいまして、一般的に新しい事態に適応するために、民法の原則を必要な限度で修正して無過失賠償責任を認めなければならない、この点については政府部内においても異論はないわけでございます。御承知のように、幾つかの過去における立法例もあるわけでございます。公害について何らかの形の無過失賠償責任を導入することが適当であるということについては、意見が一致しておるわけでございまして、問題はどの限度でそれを導入するのが適当であるかという問題であって、われわれが考えておりますのも、野党で御提案になっているものと公害に関して本質的に変わるものとは考えておりません。ただ硫黄酸化物については七百十九条との関係のきわめて複雑な法律論がございまして、現段階においてこのままの形でそれを適用することは非常に問題を残す。やはりその問題をもう少し基本的に詰めていって、それから検討をしなければならないのではないかというのがわれわれの態度でございます。
  137. 岡本富夫

    岡本委員 畑提案者に対しては、この公害をどう考えているのか、あるいは七百十九条との関係についてお尋ねしたい。
  138. 畑和

    ○畑議員 非常に公害対策本部並びに法務省は慎重に考えておられるようです。  七百十九条の問題ですね。それが先ほども言われたように、四日市あたりの集合したところ、それとまた東京あるいは大阪、こういったところで、一体だれが犯人だかわからぬといったようなところと二種類あるわけです。四日市あたりにつきましては共同不法行為についての七百十九条の問題についても比較的解決しやすい点があるのですが、そういう点が大阪あるいは東京のような場合にあるということがあって、なかなかむずかしいんじゃないかということで非常に心配をされているんだと思うのです。しかし、それは東京、大阪で、実際には因果関係の問題や何かで困難な問題もありましょう。けれども、やはりこの規定をする必要がある。これをやらないと、一々相手方の過失を立証しなければならぬ、零細な被害者のほうで。しかも技術的に非常に幼稚な被害者なものですからね。因果関係の問題とは別なんでございます。私たちの言っておるのは、無過失、故意、過失の問題でありまして、その問題と同時に困難な問題は、因果関係の問題です。ですから、われわれが無過失で救われたといたしましても、因果関係で救われない場合があるかもしらぬけれども、実際には裁判官が挙証責任の転換ということを相当やりまして、逆に相手方の事業者のほうでむしろ因果関係がなかったということを積極的に立証しなければ、結局は因果関係があったとみなされるというふうに、実際には裁判官が挙証責任の転換を因果関係においてはやるであろうし、また事実、故意、過失の問題につきましても、現実の例としては、そういった挙証責任の転換の考え方を導入して裁判官がやっている例があるのです。ありますけれども、それが法規になっておりませんから、われわれはあえてここで、少なくとも因果関係は別といたしまして、故意、過失の問題については、過失について相手方が立証しないでもよろしい、結果責任だということにわれわれは規定しよう。実際問題として、東京や大阪等における場合のように、だれが犯人かわからぬ、非常に零細な、こまかいのが多くてだれかわからぬというような場合もあるでしょう。捕捉しにくいこともありましょうけれども、しかし、やはり規定しないよりもしたほうがよろしいという考えで、われわれは、民法七百九条の例外規定として一般法規として、単独法としてこの法案を提案をした、こういうことになるわけであります。  実際にはこの網で救えないものもありましょうけれども、少なくとも四日市あたりは、共同不法行為の問題についてもこれができるのです。あとは共同不法行為でだれが犯人かわからぬ場合にも、幾つかの工場でだれかが連帯責任を負って、そのあとで仲間で争えばいいのですから、そうすれば被害者は早く救済ができる、こういうことになるという観点から、われわれはあえて、そうした七百十九条のような問題はあるといたしましても提案して、やはり法規として発動させてよろしいというような考えからこの法案を提案したわけであります。
  139. 岡本富夫

    岡本委員 まことにすきっとした、よくわかった名答弁であります、なるほどそうすることが、わが国の公害の抑止あるいは今後の人たちの生存権というものを考えていきますと、どうしても必要だ。こういうものには私も賛成はいたします。  そこで、いかにかっこうだけ無過失賠償責任の問題を取り上げたといいましても、やはりそこまで持っていかなければならぬ。それでなければほんとうの骨のある、ほんとうに総理が一日内閣で答弁したようなものにならないと私は思うのですが、総理の意向をくんでおるところの政府でありますから、湊副長官のそのほうの決意、たとえばいま部内で調整している分については入っていない、それをもうあと二日間でというわけにはいかぬでしょうが、じゃその次の段階では、野党のいまの提案のあったようなものを検討して入れるという前向きの姿勢が私はほしいと思うのですが、それについて最後に結論を国民の前で明らかにしてください。
  140. 湊徹郎

    ○湊政府委員 先ほどからの議論を聞いておりまして、私は実は法律の専門家じゃございませんから細部にわたった点はよくわかりませんけれども、しかし、でき得べくんば、かりにいろいろな有害物質を特定するについても、入れ得るものは入れていきたいという前提で、今日まで内部の検討を進めてまいったわけでございますし、そういう点で政府部内の意見を最終的に固める段階におきましても、ただいまの硫黄酸化物のような複合公害等については、今後の検討課題として残していこうということで、何かこの国会を通じてその検討することを明らかにしながら、問題は問題として御議論のあるところ重々承知しておりますので、そういう形でひとつ今後も続けて努力をしていきたいというふうに思っております。
  141. 岡本富夫

    岡本委員 時間がないですから最後に、いまお話がありましたように、やはり挙証責任の転換、こういうことも再度ひとつ要求をし、それについての決意も伺って終わりたいと思います。これはやはり湊副長官からお答えを願いたいと思います。
  142. 湊徹郎

    ○湊政府委員 私どもも昨年の公害国会以来の内部の検討を通じて、挙証責任の転換あるいは無過失賠償責任という形で何かまとめたいということで今日まで来たのでありますが、先ほどから議論がございましたように、挙証責任の転換については、従来の判例等を通じて逐次積み上げられてきておる経過等もございますので、願わくば無過失責任という形で今後できるだけ範囲も広め、解決をしていく方向で努力したいというふうに思っております。
  143. 岡本富夫

    岡本委員 どうも歯切れが悪い。やはり野党が出しているその提案の法案と同じような趣旨に沿ってひとつ検討していく——首を振るだけではなくて、はっきりそれだけをひとつ最後にお答えを願いたい。いいですか、それでないともう一度……。
  144. 湊徹郎

    ○湊政府委員 ただいまおっしゃるとおり検討していきます。
  145. 岡本富夫

    岡本委員 終わります。
  146. 羽田野忠文

    ○羽田野委員長代理 大原亨君。
  147. 大原亨

    大原委員 私の都合で時間が少しなくなりましたが、私はこれからひとつ野党三党の提案にかかる、事業活動に伴って人の健康に係る公害を免じさせた事業者等の無過失損害賠償責任に関する法律案、これにつきましてひとつ率直に質問いたします。野党提案に対しまして、野党的な質問があるかもしれませんが、ひとつ御了承いただきます。  この野党の提案が出ましてから各方面できわめて活発な議論が起きてまいりました。この三野党案につきましては、私どもがいろいろと検討いたしてみましても、必ずしも十全であるとはいえないという点があると思います。その点を時間があればやはり明らかにしていただきたいと思いますが、そういうことと一緒に、野党が提案いたしましたことを契機に、政府もようやく提案するような姿勢をとりつつある。しかし、これは会期末になりまして非常に歯切れが悪いわけであります。これは岡本委員からの質問にもあったと思います。  そこで時間もなにですから、第一に御質問いたしたい点は、第一条、第二条に関係をいたしまして、野党案に関係して政府が現在用意をいたしておりまする中央公害対策審議会に諮問いたしました案との対比においてお聞きいたしたいわけですが、主としてどういう点が一条、二条に関係いたしました問題で違いがあるのか。こういう点について、ひとつ畑さんのほうからお答えいただきたい。
  148. 畑和

    ○畑議員 伝えられる政府案とわれわれの案との基本的な一つの違いは、われわれの案は、先ほど申し上げましたように、民法七百九条の過失責任主義、これに対する公害に関してだけの例外の、しかも一般規定、こういうふうに御承知を願いたい。それに対しまして政府でいま考えておられる法案の要綱を伺いますると、やはり従前のような考え方を捨て切れない。すなわち、かつて私が法務大臣と公害国会で議論をいたしましたように、縦割り、横割り、われわれは俗にいう横割りである、ところが、政府案のほうは縦割りでいこうということをあの当時に言っていました。鉱業法だとか、あるいは原子力損害に関する法律だとか、そういう個別法でやる、あるいはいままでの大気汚染防止法あるいは水質汚濁防止法といったものの一部修正で、その部分についてだけ物質をあげて無過失責任を規定しよう、こういう姿勢のようでありまして一時、私、この案ができましたときに山中長官に示して予算委員会分科会で質問をいたしたのですが、その当時は山中さんの考えもわれわれの考えに非常に近かったというふうに思います。まさに王手飛車を取られた形であるということを彼が私に言明したのであります。それくらいだったのが、さらにまた後退したのは、どうも法務省のほうが一般規定は困る、こう言ってがんばったに違いない。七百九条の大原則を破ることになる、その自由取引、その自由経済の資本主義の体制をやはり維持しなければならぬということだろうと思うけれども、われわれはもうそういうことではまかない切れなくなったのだと思うのであります。もうかえって七百九条が人間の健康をむしばむような結果になりまして、被害者救済にならないということで、われわれは人の健康をまず守るというような立場を基本といたしまして、七百九条の例外をあえて、環境汚染の問題について、あるいはさらに薬品、食品公害についてまでも一般的規定で規定しようということなのであります。  そういう点が私は政府案と基本的な立て方の大きな違いだと思うのです。ただ、実質的には政府案とわれわれの案とはそうたいして違ってない。政府案のほうは、おそらく大気汚染防止法や水質汚濁防止法で、これをその一部改正で無過失責任を規定していこうということなんでありまして、それをだんだんと広げていこう、個別法でいこう、こういう考えです。われわれはこれを一般法の七百九条の、民法の例外規定でまずきめる、こういうふうに考えておる。そこが違いだと思うのです。
  149. 大原亨

    大原委員 法務省は、三野党案につきまして、いまの民法七百九条の特例を設けて網をかけようという考え方に対しまして、どういうお考えですか。
  150. 羽田野忠文

    ○羽田野委員長代理 法務省はいま訴訟担当しかいませんが……。
  151. 大原亨

    大原委員 時間が惜しいですから次に進みます。  それで、畑議員に御質問いたしますが、両案を比較いたしてみますと、複合汚染の問題がある。複合汚染の問題では、政府はこの問題については法律案として出さないというふうに審議会にかけました案にあります。こちらは複合汚染をも含んでいる、対象としている。  それから、この点についてお答えいただきたいのですが、健康被害に限定をしておるのはこれは双方とも同じです。そのほかに経済的被害がたくさんあるわけですが、これは野党の案はどうい趣旨ですか。
  152. 畑和

    ○畑議員 われわれもこの前の公害国会のときに提案した法案には、健康被害以外につきましても、財産被害についても規定しておりました。しかし、それは公害にかかわる財産被害全部ではございません。それではあまり広過ぎますので、ただ人が口にする食品についての財産権、食用に供するものの生産に携わる財産権、すなわち漁業権あるいは農業権というかそういったものについてだけでありましたが、少なくともそれだけについては、単に人の健康に直接害があるだけじゃなくて、そういった財産的な損害についても規定をいたしたのでありますけれども、これについてもだいぶいろいろな政府あるいはその他のほうからも反対もあったようです。それというのは、どんどん広がってどれだけ際限なくなるかわからぬといったような非常な危惧の念を持たれた面もあるようでありまして、したがって、これじゃなかなか反対が多くて通らぬだろうというような現実的なことも考えまして、この案でいけばおそらく自民党といえども承知してくれるであろうというような意味でその点を削る。  同時にまた、もう一つわれわれが今度変えましたのは、この前の法案では物質の名前をあげておりませんでした。非常に抽象的な要するに公害ということだけでしぼったわけでありますから、その点がどこまで広がるかわからぬというような心配があったようでありますので、これもまたわれわれ物質を特定しまして、しかもその物質は特定したものでなくても、あとで政令でそれを指定するものについては政令に委任をしてその物質にまで広げる、こういうような意味で物質を具体化したという点がこの前と違っております。  ついでに申し上げます。
  153. 大原亨

    大原委員 非常に現実的な配慮をされた御苦心のところだと思います。  総理府対策本部、これは簡単にお答えいただきたいのですが、つまり複合汚染についての無過失賠償責任についてはこれはペンディングにしているわけです、出さないというふうになっているわけですね。政府はそれはどういう見解なんですか。
  154. 植松守雄

    ○植松説明員 複合汚染の問題は、先ほど岡本委員との間でいろいろ論議がございましたように、現在どうしても民法の七百十九条の解釈とぶつかってくる。そこでどうしてもやはり現状法律解釈はこうなるということをだれしも言い切れない状態でございます。そこでそういう状態のもとにおいて、現在の故意、過失のもとにおける責任という民法の原則、その原則を取っ払ってしまった場合には、極端にいいますと、多数の工場がある、そのうちの一つの工場が被害を受けておる人の頭上にばい煙を落としているということがわかれば、一般的にたとえば亜硫酸ガスとぜんそくとの間の疫学的な因果関係というのはいま公知の事実でございますから、したがって、どこかの企業をつかまえてきて、その人がその被害に多少とも加功しているということを立証すれば、その人に全額の不真正連帯債務を負わせることができるということにもなりかねないという解釈が一部においてあるわけでございます。そういたしますと、どうもその辺の法的な措置をしっかり固めておかないと、簡単に故意、過失ということをこの際それについてはずすのはどうであろうか、もう少しその辺の法律整備考えなければいけないのではないだろうかということでございます。
  155. 大原亨

    大原委員 これをあえて踏み切って出された畑議員のほうからもう一回簡単に結論的にひとつ……。
  156. 畑和

    ○畑議員 その点ですけれども、先ほどもいろいろ議論がございましたが、いろいろな場合がある。四日市のような場合あるいは大阪、東京みたいなだれが犯人かわからぬといったような場合がある。それは確かにある。そういう点で七百十九条との関連でなかなか踏み切れないというのが政府の態度だと思うのでありますが、われわれはそうかといって、これをこのままにしましたらいつになっても研究課題でついに最後まで研究課題に終わるであろう、それほど複合公害というのはなかなか広範囲になると微妙なものであります。そこでわれわれはこれはあえて規定をして、少なくとも四日市あたりはこれで捕捉できる、しかも因果関係はわれわれは別なんですから、因果関係の議論をしているのではない、故意、過失の議論をしているのですから、そういう場合に過失を被害者のほうで立証しなくてよろしい、原告のほうで立証しなくてよろしい、こういうことになるのですから大いなる進歩だと思うのです。七百十九条の問題は別の問題になってくるのではないか、こういうふうに思ってあえて提案したわけです。
  157. 大原亨

    大原委員 これは対策本部、政府の原案によりますと、無過失賠償責任の論拠として危険責任論に基づいている。これは法文上は具体的にどういうふうに表現するのか。それから野党案についてはどういう見解を持っているか、その観点から。
  158. 植松守雄

    ○植松説明員 別に法文の上で危険責任論云々の文句は出てまいりません。ただ危険責任主義の考え方が出ておりますのは、有害物質を具体的に指定をしていく、そしてその一定の有害物質を扱うことには極度の注意をしてもらいたい、その極限において故意、過失がなくても責任を負うという無過失の考え方が生まれてくるということでございまして、別にそのことについては出てまいりません。また、その点に関しましては野党案と少しも本質は変わらないと思っております。
  159. 大原亨

    大原委員 それでは野党案の特色は第三条、第四条があることが一つの大きな特色です。これは畑議員からお話しのとおりですね。そこで第三条は食品衛生法との関係ですね。薬事法との関係が第四条、これは非常にたくさんの議論が出ておるわけです。  私は、最初に厚生省にお尋ねしたいのですが、食品衛生法の関係で、いわゆる食品公害は野党の提案のような無過失損害賠償責任の対象として厚生省が賛成しなかった。つまり対策本部の原案をつくる過程において賛成をされなかった、こういうことについて私は一定の見解があると思うし、あるいは各方面から意見が出ておるわけです。それをかいつまんでひとつお答えいただきたい。
  160. 横田陽吉

    ○横田説明員 食品の問題でございますが、食品に基因する危害を防止するために無過失責任論をとってこれを防止する、こういう考え方でございますが、実は私ども法体系的にこれがどうのこうのという点につきましてはお答えする立場にございませんので、現実に食品衛生法を施行しております行政の立場から申し上げますと、まず食品に基因する危害を防止するという点につきましては、食品の製造業者でございますとかあるいは販売業者がその事業遂行をなすにあたりまして十分な注意義務を果たすことによって、危険な食品は一切製造、販売されてはならない、このような結果を来たすような行政をなさなければならない、こう考えておるわけでございます。  そういった観点から、現行の食品衛生法におきましては、いま製造業者及び販売業者等の営業者に対しまして、業種によりましては管理責任者を設置させますとか、あるいは製造設備を許可性にひっかけまして厳重な審査をした上でその製造を許可するとか、そういった制約ないし義務を課しておるわけでございますが、これらの制約ないし義務のかけ方があるいは必ずしも十分でないのではないか、こういう問題はあろうかと存じます。たとえば食品関係に基因いたします大きな事故の例といたしましては、森永の砒素ミルクの事件でございますとか、最近ではカネミのライスオイルの問題がございますが、前者につきましては、原料のチェックが必ずしも十分でなかった、こういう点に問題がございましたし、それから後者の事件につきましては、製造装置の瑕疵にその原因があるというふうになっておりますので、製造装置のチェックについて必ずしも十分でなかった、こういうことがあるわけでございます。したがいまして、食品衛生法という取り締まり法規の体系の中におきまして、たとえば原料のチェックは必ずしなければならないとか、あるいはある一定業種の製造業につきましては、製造装置のチェックはこれぐらいの頻度でこのような点に着目をしなければならないとか、そういった周到な注意が払われるような義務づけをする必要がある、このように考えておるわけでございます。  したがいまして、こういった点を実際に実施をいたします際に、行政的に可能な限りのことは行政指導でいたしておりますけれども、やはりいろいろ考えてみますと、食品衛生法の体系の中で、ただいま申しましたのは一例でございますが、さらに規制内容を厳格化するような、そういった改正が必要かと存じまして、実は厚生大臣の私的諮問機関でございます食品問題等懇談会におきまして、これらの観点から過去一年ほどいろいろ御審議をいただいております。その結果、ここ一、二カ月内にその結論も出るようになっておりますので、そういった結論にも立脚いたしまして、とにかくあぶない食品は製造もされないし、販売もされないということのために、必要にして十分な規制措置を講ずるような立法の検討に着手いたしたい、このように考えておる次第でございます。
  161. 大原亨

    大原委員 チクロの問題が起きましたときに、私は予算委員会で総理大臣から答弁を得ておる点は、食品衛生法についてはこれは再点検するのだ、現行の食品衛生法は非常に不備である、こういう点は政府も認めまして、再点検するということで、いまの横田さんのお話のような経過があると思います。そこで、食品衛生法で、防腐剤とかあるいは香料とか着色剤とかあるいは調味料とか甘味料とかいうふうなものについて、三百数十種につきまして、政府はこれを指定いたしまして、使用を許可しておるわけですね。この行政処分は一体どういう性質のものですか。この行政処分というのは、許可とか認可と違うわけですけれども、行政処分は法律的にどういうことになるのですか。これはなぜかというと、政府がそういうふうにメーカーあるいは国民に対して、こういう基準と規格では使ってもよろしいというふうに、食品衛生法で食品添加物について方針を出すわけですが、そのことで、もし発ガンとか催奇性とか、奇形児を産むとか、そういうふうなおそれがある、あるいは新しい事実が出る、そういう場合には一体どこが責任を持つのかということになりますね。これは野党案の第三条の運営とも深い関係があると思うわけですが、そういう点はいかがですか。
  162. 横田陽吉

    ○横田説明員 食品添加物につきましては、原則としましては、こういったものは使ってはならない、そういうたてまえを法律ではとっておるわけでございます。したがいまして、厚生大臣が保健衛生上の見地から、使っても差しつかえないものを告示いたすわけでございますが、これの法律的な性格は、一般的な禁止を、個々のケースにつきまして、十分な学問的な見解に基づいて解除する、そういうことでございます。したがいまして、通常、法学上いわれておりますことばを使いますと許可処分、禁止の解除という意味で許可処分ということに相なろうかと思います。  そこで問題は、チクロのように適法に許可された添加物によりまして何らかの危害の発生のおそれがあるということになりまして、これを禁止いたしたわけでございますが、こういった場合の責任の問題は、許可をいたします際に、十分な検討を行なわずして許可をしたということになりますと、これは許可をいたしました国にもその責任がある、こういうことになります。ただ問題は、許可をいたします時点におきまして、その当時の学問の最高の水準に従って十分は毒性試験等を検討いたしました結果、だいじょうぶであるというようなことで許可をいたしましたものが、その後の長期にわたる使用についての新しい学問的な角度から疑問が提起をされたという場合におきましては、これはどのように許可の時点において周到な配慮をいたしましても不可避的に起こってくる問題でございますので、そういった場合には、これを許可いたしました国にはその責任はない、このような考え方をとっておるわけでございます。  それからチクロの場合は、現実に被害が起こったかどうかという問題でございますが、実は動物実験の結果、こういうおそれがあるということが判明いたしまして、その結果に基づいてこれを禁止いたしたわけでございますわけで、現実にこのチクロの使用によっての健康上の被害その他の被害というものは起こっておらない、このような判断をいたしております。
  163. 大原亨

    大原委員 これは大切な点ですが、野党案の第三条は、畑議員からお答えいただきますが、食品衛生法で禁止が解除された、そういう厚生大臣の立法行為、省令によって禁止が解除された対象物質による被害以外に、食品を製造する過程で起きた、製品ができ上がるまでの過程で起きた、そういう事故に対しましても、混入されました物質による被害に対しましてもこれは含まれておるという表現になっておるのであります。いままでのケースをあげてみますと、これはカネミ・ライスオイル事件があるわけです。一つは森永の砒素ミルクの中毒事件があるわけであります。これは畑さんじゃなしに横田さん、厚生省にお伺いしたいが、そういう問題については、厚生省、政府はどういう見解を持っておるのか。
  164. 横田陽吉

    ○横田説明員 ただいま御指摘の森永の砒素ミルク事件とか、それからカネミのライスオイル事件のような食中毒事件の発生、これはできるだけこういったことが発生しないようにするためには、先ほど申し上げましたように、取り締まり法規である食品衛生法の体系をより詳細化することによりまして、絶対といってもいいくらい、こういった事件が起こらないようにすべきであるということは当然でございます。ただ、不幸にいたしましてこのような事件が発生いたしました際に、私ども行政当局者として最重点に考えておりますことは、まず被害の拡大をいかにして防止するか、それから不幸にして被害を受けられた方の救済をどのようにするか、この二点でございます。  この二点をしっかりいたします際には、一番大事なことは原因の究明であろうかと存じます。砒素ミルク事件の場合にも、当時の岡山大学の小児科におきまして、変な患者が来たというようなことで、最初は何が原因であるかよくわからなかったわけでございますが、これをいろいろ学問的に検討されまして、森永のある種のミルクの中に含まれている砒素である、こういうことがはっきりいたしましたわけですが、それからもう一つはカネミ・ライスオイルの場合もそうでございますが、こういう病気自体が、非常に珍しい病気としてあらわれてまいりますので、どのような基準でもって診断をし、どのような方法で治療をするか、こういうことが、当初におきましてははっきりいたさないわけでございます。したがいまして、診断基準なり治療方法をできるだけ早い機会に確立をする、こういうことをいたさなければなりません。それから第三番目には、そうはいいましても、それなら現実に、たとえば仕事を休まれて病院に通われる方の生活保障をどうするか、それから健康保険等の場合、被扶養者の場合は半額は自己負担でございますから、その半額の費用負担をどうするか、こういう費用負担の問題、つまり、繰り返しますと、原因究明、診断治療法の確立、費用補てん、この三つの問題、そういったことを現在では医療関係の研究費によって一時立てかえをいたしまして、いずれ加害者がはっきりいたしました際にそこから求償をする、こういうやり方をいたしております。  実は、私どももいろいろこういった事件を処理してまいっております過程において、できるだけこういう事件に対する特別な救済制度でもはっきりできたならば非常によろしいのではないか、そういうふうな印象を持っております。したがいまして、これらの事件に対しましての救済制度をいかようにするかということは非常に大事な検討すべき問題だと考えておりまして、私どもも鋭意検討を重ねておる次第でございます。
  165. 大原亨

    大原委員 いまのたとえばカネミのライスオイル事件でも、それから森永の砒素ミルクの事件でもそうですが、被害者は長い間かかって訴訟をやっていて、治療費も生活費もない、こういう状態が放置されているというところが問題です。ですから、そういう点についての救済措置をやることは、いまお話がありましたけれども、これは絶対に必要なことなんです。単なる研究費という名目ではだめだ。  そこで、これが本立法との関係ですが、カネミのライスオイル事件は、御承知のように製造の過程でパイプに穴があいておって、そして塩化ジフェニールが混入した。これが大きな障害を及ぼして、顔が灰色になるとか、おできができるとか、そういうことになりまして結婚もできない、こういう人もたくさんおるわけです。そこで後遺症の問題になってくるのです。  そういう問題は、現行の民法七百九条の不法行為の問題だけでは、故意、過失の因果関係の問題だけでは、これは解決できないのではないかという見解があるわけですが、これは私は食品公害を入れるか入れないかの一つの大きなポイントだと思うわけです。食品衛生法による三百数十の添加物自体については、横田審議官お話しのように、ずっといままでのことについて再点検を加えながらきびしくやっていって、国の責任を明確にしていけばなくなる可能性は十分にある。しかし、製造の過程の中で、つまり申請ではなしに、政府が進んで許可をした物質を正しい基準で使っていれば、これは監督を厳重にする限りはなくなるだろう。科学的な究明も並行していけばなくなるだろう。しかし、それ以外のものを、たとえば砒素なら砒素を使えば森永の、ミルクというものが、その性能上、よく売れるものが安くできるというようなそういう条件にある場合、独自にそういうものを入れる、あるいは製造の過程の中で混入する。こういうふうな場合等を含めてみると、食品の問題は直接健康と生命にかかわる問題ですから、やはり無過失責任について大きな網をかぶせることは妥当ではないかという議論があると思うわけです。だから対策本部は、一つも議論もしなかったのかどうか。この点については畑議員はどういう御見解でこれを入れられたのか。食品衛生法との関係について御見解があれば、あらためてあわせてお聞きしたい。
  166. 畑和

    ○畑議員 先ほど来議論がありまするように、結局国で許可をした、あるいは禁止を解除した、そういうような薬品や原料、そういったものによって被害が起きた場合、一体だれの責任になるか、国の責任じゃないか、そういう議論もございますけれども、ただ、そういうことによって国が行政的に許可あるいは認可したものの必ずしもすべてを免責するものじゃないと私は思うのです。もっと広い立場でわれわれはこの法案を考えなければならぬと同時に、またそうした認可なんかされていない、たとえばカネミの場合の塩化ジフェニールの問題とか砒素の問題もそうですが、私も薬のことはよくわからぬのですが、そういったものを混入して被害が出た場合、それはもちろん民法の七百九条の問題でいまやるほかないのですけれども、その場合でも、カネミの場合なんかも立ち入り検査をしたために初めてああいったパイプから漏れておったという事実がわかったわけでありまして、もしこれが立ち入り検査でもしなかったら、これはわからなかった。そういった場合に、あくまでもその過失があったということを零細な被害者が、しかも技術的に非常に無知な人たちが、これをあえて立証することは非常に困難だということで、そういう意味でも許可したもの、認可したもの以外についても——私はそのほうに特に重点を置きますが、そのほうについて特に無過失責任の必要がある。同時にまた、許可したあるいは認可したものにつきましても、それは行政法規であるのだから、私法上の一般問題につきましても、認可されたものを使ったのだからもう普通の一般法規で過失がなければいいのだということだと、やはり相当漏れることがある。同時に、これから将来いろいろな技術の進歩がありまして、ほんとうに予想しなかったような事件が出てきます。たとえば薬品のほうではサリドマイド児、あれなんかはほとんど予想されなかった、いまだからこそわかったけれども。こういう問題は、やはり食品や医薬品の場合でも出てくるのではないか。そういうことでやはり大きな網を打つ必要があるのではないか。同時に反面、先ほど来お話のありましたように、行政的な取り締まりをもっともっと厳重にやって、無過失責任でやる必要がないくらいになることが必要じゃないか、私はこの点についてはそう思っております。
  167. 大原亨

    大原委員 その点、対策本部はどう考えておりますか。
  168. 植松守雄

    ○植松説明員 いままで論議が重ねられましたように、食品の問題につきましては、人の健康に非常に重大な影響があるというような問題、その点において公害と同じような位置づけができると思います。その意味からいいまして、当然公害について無過失の問題を考える場合には、この問題についても検討しなければならぬということは、われわれもそう思います。  現在、公害対策本部といたしましては、いわゆる公害対策基本法に基づく典型七公害というのを公害として定義づけておりまして、その範囲で役所の仕事といたしましてはわれわれはそちらのほうの問題を扱うわけでございますので、今回はわれわれとしましては、公害問題について具体的な案をまとめたということでございます。  食品の問題は、医薬品の問題も同様でございますが、厚生省の所管でございまして、われわれは厚生省のほうに、その後当然横並びとしてそういう論議が出てまいりますので、その辺の検討を依頼したというのが本部の立場でございます。
  169. 大原亨

    大原委員 つまり、国のやったことについては国家賠償法もあるでしょうが、私法上の関係については民法と特例法があるわけですが、食品衛生法については、食品についての全製造過程についての監督取り締まりを厳重にする、こういうことが再点検の一つの項目に出ております。これは前に御答弁になったとおりですが、それが両々相まってやはりこの公害、つまり食品とか薬品というような化学物資による直接的な汚染、それと大気とかその他環境汚染の問題は典型的公害で対策本部が出しているということですね。ですから、そういう本質的には似通った問題があるわけです。公害問題が大きくなると、食品問題や薬品問題が大きくなる、こういう相関関係が実際に住民や国民の間にはあるのですから、やはりこれは、総合的にとらえることが非常に必要です。そして一方では、やはり食品衛生法を根本的に改正をしなければ、無過失責任だけをやってもなかなか救済措置はできない。こういうことですから、やはり化学物質による、あるいは公害による健康の被害、汚染というものについては、将来はもっと広い観点で、ひとつ野党の案もしんしゃくしながら考えてもらいたい。野党の案では、そういう食品衛生法なり、いわゆる国と国民との関係における食品衛生の規制についての側面が、法律の表面には出ておりませんけれども、そういう点がとかく議論のあるところですから、そういう点については将来とも考えてもらいたい。時間の関係でそういう希望を申し上げておきます。  第四条で問題は、これはかなりたくさん議論が出ております。私どもはその中で、野党の案に対しまして出ておる議論については耳を傾ける点もたくさんあるわけであります。薬務局は一体どういう考え方をこの野党の案については持っておるのか。これは遠慮も会釈も要りませんから、ひとつ率直にお答えになってください。
  170. 山高章夫

    ○山高説明員 医薬品につきましては、先ほど食品について御答弁申し上げましたような、基本的には同じイデオロギーで考えておりますが、特に医薬品の場合に、無過失責任を課しました場合、不測の危険にさらされることをきらいまして新薬の開発がおくれる、あるいは開発について非常に意欲を喪失するというようなことも考えられるわけでございます。そういう点をいろいろ考慮いたしますと、やはり薬事関係法令の規定等を整備するとかあるいは指導を強化しまして、企業の過失責任を重くすることによりまして、実質上無過失責任と同様の効果をもたらすほうが政策上得策であると考えておるわけでございます。
  171. 大原亨

    大原委員 これも一つの議論です。二つをあげられたわけですね。薬というのは大体毒なんですよ。ですから毒と薬の効果、薬効というのは背中合わせですね。毒をもって何とかを制す。ただし、毒にも薬にもならぬという薬もあるわけです。インチキな薬もあるわけです。外国では薬と認めないようなやつを日本では薬、薬といってマスコミでコマーシャルをして売っているものもある。これもやはり問題ですね。  このことはおくといたしまして、あなたが言われた点で第一の点は、そういう薬の本質に基づいて薬の新しい開発をする。制ガン剤でもやっぱり放射能を使ったりするわけです。放射能の量を過ごすとまたガンになるわけでしょう。そういう側面があるわけですから、環境の汚染というふうな間接的な化学物質による汚染というふうなものとは少し違うという点はわかる。だからそれを不当にチェックするということになれば、これは問題だということです。  それからもう一つ、薬事法を改正して、食品衛生法と同じように国が取り締まりの規制をきちっとしておいて企業責任を明確にしていくならば、薬によるそういう事故、公害というものはなくなる、そういうことですね。  そこで私は、具体的な問題を厚生省繁務局に質問したいわけです。サリドマイドの事件は、御承知のようにサリドマイドという睡眠薬を妊娠をいたしておる婦人が飲みましたならば胎児に影響を与えていく、奇形児が生まれていくというのがサリドマイドの事件であります。大日本製薬はこれを申請するにあたって、そういう問題については動物実験も臨床実験もしていなかったと思われるわけです。国際的にそういうふうな常識でありました。しかし、サリドマイドと奇形児との因果関係というものが相対的に認められるようになったし、特にドイツのレンツ博士がその研究結果を発表いたしましてから大きな反響を呼びまして、この問題は逐次外国におきましても問題が解決されておるわけですが、そういう厚生大臣に許可を申請した薬のデータの中に、当然妊婦に対する影響、奇形児が生まれるという危険性、そういうものについて申請の資料の中にメーカーが触れていない、研究が足りていない。そういう面に対する企業の責任というものは一体どういうことなんですか。これは資料が十分でなかった、許可をした厚生省の検討のしかたが十分でなかった、こういうことにはならぬのですか。
  172. 山高章夫

    ○山高説明員 サリドマイド事件は現在裁判所に係属中でございまして、国が被告になっておりますので、本件については具体的な確答を差し控えさせていただきたいと思いますが、一般的にいいまして、昭和四十二年以降、新薬の開発については非常に厳格にいたしまして、ただいまお話しのような資料も当然つけさせますし、いわば科学技術の限界に近いデータを出させているというのが現状でございます。したがって、今日の段階で不十分な資料あるいは虚偽の資料等が出てまいりました場合には、それは当然に製造業者の故意あるいは過失であるということが断定できると思います。
  173. 大原亨

    大原委員 昭和四十二年以降についてはきびしい基準をやっているから、そういうもとにおいて事故が起きた場合においては、民法七百九条の故意、過失で処理できる、こういうことですね。ただ現在十万以上も薬が許可されているわけです。これからの新薬の許可については、そういうきびしい基準があるわけですが、いままでのやつについては全く日本の場合は野放し状況ですね。そういうことから考えてみまして、たとえば二重盲検法で再点検をしろとかいろいろなのがあるわけです。アメリカは、アメリカの医師会は日本の医師会とは違うわけですが、しかし、その学術団体に対しまして委嘱をしまして、安全性について検討させる。日本のはメーカーの申請主義である。メーカーが文書で申請する、それで動物実験や臨床実験をつける、こういうようなことであります。ですからメーカーが許可をとりたいために、副作用やそういう毒の作用について、マイナス面について資料を隠したり、そういうふうなことがあれば、それは発覚しない限りは、因果関係が明らかにならない限りは被害者は救済されないということになるわけですね。だから日本は完全だというふうなことを言われるが完全ではない。日本の四十二年以降のことについても完全ではない。副作用の追跡については二カ年しかないから、二カ年が済めば新しいものがどんどん出て、薬として許可できるわけですから、それだけではだめだ。だから薬事法はあなたが言われたこと以上にもう少し抜本的に検討すべきだ、こういうふうに思います。それでない限りはやはり無過失責任について網をかぶせておいてやるという、畑議員ほかの野党提案というものが合理性があると思うのですが、いかがですか。
  174. 山高章夫

    ○山高説明員 たいへん貴重な御意見を拝聴いたしました。十分先生の御趣旨を体してさらに検討を進めたいと思います。しかしながら、ただいまお話もございましたが、製造業者の企業責任という点について十分に整備してまいりますれば、無過失責任というような事態はほぼなくなる、実質的には無過失賠償責任と同様の効果を生ずる、しかも政策的には新薬の開発その他を促進すると、うことで得策ではないかと考えているわけであります。
  175. 大原亨

    大原委員 私、厚生省、法務省の態度でけしからぬと思っているのは、サリドマイド事件等で政府が被告になっておるということですね。政府が被告になって、被害者であるサリドマイド奇形児を持っておる——きのうも裁判があったでしょう。そういう奇形児を持っておる親権者その他の訴訟に対しまして、これは防戦する側、企業と同じような側に立って防戦している。因果関係がなかった、故意、過失に対しても反対の立証をしていると思うのだが、それは私は裁判の記録を十分見ていないからわからないけれども、そういうことになれば被害者の立場というものはないのじゃないか。政府はどっち側についているのだということになる。いまの薬事法の解釈でも、政府は大日本製薬がサリドマイドの睡眠薬について申請をするときに、メーカー主義である、それから文書主義である、そういうことでやっておる。その資料の範囲内で許可を厚生大臣は与えておるのである。その資料、データ以外に、妊産婦が飲んだ場合に胎児が奇形児になるというふうな問題についてはデータがなかったのであるから、そういう事態が出た場合においては、厚生大臣はそれを企業者の責任ということとは別個に、これは被害者の立場に立って——これは政府の責任じゃない、その範囲においては。であるから、やった企業のデータが不足である、あるいは副作用の追跡が怠慢であった、そういうことについてはっきりした態度をとるべきじゃないですか。そういうことが、私は政府のやり方は間違いじゃないかと思うんだ。政府が同じように被告席にあって、メーカーと同じように防衛するというようなことは、そして被害者をいじめるというような結果になることは、これはおかしいじゃないか。これはアンプル入りのかぜ薬の事件もありましたし、あるいはサリドマイドの事件以外にも、最近はスモンのキノホルムの整腸剤の問題が出ております。これはまだ訴訟なんかにはなっていないと思います。だが、そのときの政府の立場というのははっきりしなければ、企業責任が明確にならないのではないかと思うのですが、いかがですか。  時間が来ているから私が協力しますが、つまりこのことはひとつあり方について根本的に検討してもらいたい。何といったっておかしいですよ。薬によって、幾ら合法的な薬であっても、許可されている薬であっても、その面は食品衛生法とはまた違うと思うんですよ。食品衛生法は三百数十種添加物を政府は許可しているんです。そしてWHOの百分の一くらいの低いところに基準を設けているわけでしょう。しかし、薬については毒と薬が背中合わせだということからもそうですけれども、副作用についても、開発のときにもそうですけれども、追跡する責任がメーカーのほうにあると思う。そういう追跡のできないメーカーは、たとえ中小企業対策上といえどもそんなものは存続をさせる意味はない、これからだんだん医療が高度化していく上においては。ですから、そういう点について政府が責任の分野を明確にすることが企業責任を明確にしてこの害をなくすこと、だから薬事法においてもそういう点を検討しなければ、薬による公害というのはなくならぬだろう、こういうふうに私は思うのですね。その点が重要な問題であるから、私は部内において十分検討してもらいたい、いかがですか。検討してください。
  176. 山高章夫

    ○山高説明員 御指摘の点は、先生と全く同感でございまして、企業の医薬品についての効能あるいは副作用については常時追及していくべき義務があると存じております。そういう点を十分重視しながら薬事法の運用を今後やっていきたい、こう考えております。
  177. 大原亨

    大原委員 そこで、私が申し上げたい点は、食品衛生法も、薬事法もそうなんですが、いろいろな各方面から意見が出ておる。野党三党の提案に対しましてもいろいろな批判が出ておる。薬剤師会からの批判も私は見ました。これも主張の限りにおいては私はもっともだと思っておる。しかし、このことをなくす道は、国民の立場に立って何かといえば、これは食品衛生法を完全なものにしていく。薬事法は抜本改正においてもむずかしい課題であるけれども、日本の薬務行政についても抜本的に改正をしていく。医薬分業等も私はやるべきだと思う。そうして患者に対して医師と薬剤師が別個の独自の責任を持つべきだと思う。そういう点等を含めてそういう対策を立てることにおいて初めてこの無過失責任の問題が、法文だけで有名無実ということはないが、存在の意義というものが薄れていくことになるであろう。   〔羽田野委員長代理退席、小澤(太)委員長代理着席〕 しかし、それが危険であるというふうな面がなくなる。そういう面においては、私は逆に言うならば、第三条、第四条をつくられた野党三党の案というものは、大きな役割りを果たしてしかるべきである、大きな役割りを果たすのではないか、結果としてはそういうことになるのではないか、こういうふうに思っておるわけです。ひとつ提案者のほうから最後に見解を聞かしてもらって、こまかい質問はきょう省きましたが、私の質問を終わります。
  178. 畑和

    ○畑議員 まさにそのとおりであります。いろいろ医薬品関係などからも相当反対の意見が表明されておりますが、しかし、その薬業界におきましても、やはりまず自分たちがしつかりやらなければいかぬのだというような声は、まず第一に強いようであります。それで特にわれわれが問題にしたのは、あのサリドマイド事件、これが当時の技術としてはあるいは予見することができなかったかもしれませんけれども、しかしそういった場合に、過失を被害者のほうで立証しなければならぬということは、私は非常に酷だと思うのです。そこでやはりこういった法律が必要だ、そうして大きな網にかける必要がある。実際にはそうした薬事法あるいは食品衛生法でもっと取り締まりを強化をする。そうすることによって、確かにいまの質問者の大原さんの言われたように、われわれの案が実際にはそんなに働かないで済むようにひとつなってもらいたい。その一つの促進剤にも役立ったと私は思っております。  以上、私の提案者としての見解を申し述べておきます。
  179. 大原亨

    大原委員 終わります。
  180. 小澤太郎

    小澤(太)委員長代理 次回は明十九日午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時四十六分散会