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1971-03-19 第65回国会 衆議院 法務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年三月十九日(金曜日)     午前十時二十七分開議  出席委員    委員長 高橋 英吉君    理事 小澤 太郎君 理事 鍛冶 良作君    理事 田中伊三次君 理事 福永 健司君    理事 岡沢 完治君       石井  桂君    江藤 隆美君       島村 一郎君    千葉 三郎君       永田 亮一君    羽田野忠文君       松本 十郎君    村上  勇君       林  孝矩君    青柳 盛雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 植木庚子郎君  出席政府委員         法務政務次官  大竹 太郎君         法務大臣官房長 安原 美穂君         法務省民事局長 川島 一郎君  委員外出席者         最高裁判所事務         総局総務局長  長井  澄君         最高裁判所事務         総局民事局長  瀬戸 正二君         法務委員会調査         室長      福山 忠義君     ————————————— 本日の会議に付した案件  民事訴訟法等の一部を改正する法律案内閣提  出第八二号)      ————◇—————
  2. 高橋英吉

    高橋委員長 これより会議を開きます。  民事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。鍛冶良作君。
  3. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いまさら申し上げるまでもないことですが、裁判はよほど重大なものでございますから、裁判には、裁判をしたる裁判官がみずから私が責任を持ってこれをしたものであるということを天下に表示する、その意味においてみずからその裁判署名をし、そして日本の旧来の慣例として捺印をする、こういうことが日本の大きな慣例であると私は思うのであります。この点は原則としてくずすべからざるものではなかろうかと思うが、大臣はこの点はどのようにお考えになりましょうか。
  4. 植木庚子郎

    植木国務大臣 従来の制度そのものにおきまして、仰せのとおり裁判というものは重要な問題でございますから、それだけにそれに関与する裁判官、これはほんとうに国民権利義務に関する重大な決定をする立場におるのでありますから、それに対して責任を持つ意味において、やはりこれまた日本の従来の民間における一般考え方から申しましても、ただいま鍛冶委員仰せのとおり署名をする、捺印をするということは、その慣例上からいいますと、まことにごもっともな趣旨だと私も思います。  しかしながら、今回のこの改正案につきましては、従来の実行の経過にかんがみ、また事件数の状態、だんだんとたくさんになってきて、そしてこれに対しての問題が、いままでのとおりのやり方をこの際若干そこに修正を加えてもそう妨げにならないのではないかというような見地からの改正案になっておるのであります。その意味においては多年の慣行——慣行といいますか実績上この程度修正をするほうが、手続その他いろいろな点から見ても時勢にだんだん適するようになってきたのではないかということからの改正趣旨になっておるのでありますから、これはまた一応うなずき得るということで、私どももこの改正案にして国会の御審議を仰ごう、こういうことに相なったわけでございます。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もう一つ重大なことは、裁判というものは、いまは変わりましたが、昔ならば天皇の名において国民に宣告したものです。その意味において、裁判官なればこそ裁判に対して私がやったということを天下に表示する意味署名捺印をしたものだ、私はこう思っております。この意味で、裁判官がみずからした裁判署名捺印をするということは、裁判官としてのみずからのプライドを表示する意味においてもたいへん重要なことだ。みずからの品位をみずから高める、その地位を保つ、こういう意味においても署名捺印するということはけっこうなことだ、もっと言えば必要なことじゃなかろうかと思われるが、この点はいかがです。
  6. 植木庚子郎

    植木国務大臣 その点もある意味においては私も全く御同感できるのでございますが、この改正案を立案し、この案に決定するまでに至った間の経過につきましては、実は私も御承知のとおり最近この地位についたばかりでございまして、部内の審議の際もおそらくは裁判所当局、またわれわれ法務省関係部局としてもいろいろと甲論乙駁、必ず十二分の審査を遂げた結果こういう改正案ができたと思います。その点につきましては政府委員から御必要に応じてお答えさせていただきたい、かように存じます。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私は、先ほどから申しました二つの意味から、大原則として裁判官はみずから裁判に対して署名をし捺印をせられることが最も権威ある必要なことだと思うのであります。しかしながら、何でもかでもやれというて期日変更までやれというのじゃ私はございませんよ。けれども原則はそこである。また裁判官たる者、それくらいの権威を持たれることが非常にいいことだと私は思うて、これを大前提にしてきょうの質問をしよう、こう思うのです。  そこで、大臣は何でもかでもやらなければならぬということになると複雑だから、こうおっしゃいますが、期日変更やそこいらのちょっとした命令書くらいまでやれとは私申しませんが、それじゃここいらならいいじゃないか、これは裁判官がいいじゃないかと思われることでこの問題は解決するものじゃないと思います。国民がこんなものにまで裁判官にお手数かけぬでもいいじゃないか、こう思うものはやらぬでもいい、こういうことがこの問題の分岐点だろうと思う。この点法務省なり裁判所なりがどう考えておられるか。この立案は法務省でやられたようですから、まずその点を法務省責任者から御返答をお願いいたしとうございます。
  8. 川島一郎

    川島(一)政府委員 裁判国民の側にとりましても非常に重要な意味を持つものである、したがってその手続も慎重でなければならない、もちろん内容のこともございますけれども、形式的にも慎重でなければならない、こういう御趣旨はまことにごもっともでございます。  今回の改正案は、御承知のとおり裁判に三種類ございますが、そのうち判決、これにつきましては従来の署名捺印するというたてまえをくずしておりません。そのままに維持しております。判決というものは、言うまでもなく裁判の中の最も代表的なものでございまして、手続の面から申し上げましても非常に慎重な手続で行なわれることになっております。民事訴訟法規定によりますと、判決というのは原則として口頭弁論に基づいてなされるべきものである、また判決というものは必ず書面でなければならない、しかもこれを当事者に告知する方法といたしましては、判決主文を朗読するという言い渡しの方法によってされるというようなことがきめられております。また、この判決につきましては、ほかの決定命令と異なりまして、覊束力とかあるいは覊絆力というような特別な効力が認められております。そういう点を考えまして、判決につきましては民事訴訟法も最も慎重な手続を必要としておるという点を考えまして、今回の署名捺印の線はそのままくずさないことにいたしておるわけでございます。  それに対しまして、決定命令でございますが、これは先生よく御承知のとおり、非常にたくさんの種類のものがございます。中には書面につくらなくてもよいというものもございます。この決定命令をする場合には口頭弁論が開かれるということは必要でございませんし、当事者に告知する方法としても、これは相当と認める方法でよいといったように、判決と慎重さあるいは厳格さにおいてだいぶ程度のゆるやかな手続が定められております。そういう点から考えまして、決定命令につきましては判決と必ずしも同一に考えなくてもよいのではないか。ことに、その数が非常に多いという点から申しまして、裁判事務合理化文書作成の便宜その他の面も考えまして、署名捺印にかえて記名捺印をすることができる、このようにいたしたわけでございます。しかしながら、この趣旨はあくまでも署名捺印をしないというのではございませんので、署名捺印をするのがたてまえでございます。しかし、ただいま申しましたような裁判事務合理化観点から、記名捺印をすることが相当であると認められたものについてはそういう方法によっても差しつかえない、こういう趣旨でございます。そういう趣旨で今度の改正法案というものを御理解いただきたいというふうに考えております。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうもいまの御答弁を聞いておると、ちょっといまの改正案意味が違うように思われるのだが、署名捺印することが原則である、しかし、ものによってはやらぬでもいい、こうおっしゃる。それならばそういうようにせられれば私は納得がいくと思う。署名捺印すべきものだと思う。しかし、こんな簡単なものなら記名にかえてもよろしい、これこれのものは記名でいいんだ、こういうが、どこから署名捺印をせなければならぬものかわからないので、それで私はこれを聞いているのです。いまあなたのことばからすれば、署名捺印することが原則なんだ、ものによっては記名捺印でもいいんだ、こう言う。そういうふうにやられるならば、これは私は問題ないと思う、こんなものはいいだろうということを言うなら。この改正はそうでないですよ。これこれのものはみな記名捺印でいいんだ、ものによっては署名捺印をするぞ、こういうんですよ。あなたの言われるのと反対のようですが、これはどうですか。
  10. 川島一郎

    川島(一)政府委員 私が申し上げたのは、法律のたてまえといたしまして、決定命令のようなものにつきましても、本則としては署名捺印をすることが必要であるというふうに規定しておきまして、そして、ただし記名捺印をもってその署名捺印にかえることができる、こういうふうに規定してあるわけでございます。したがいまして、この趣旨は、署名捺印でも記名捺印でもいずれでもいいということになるわけでございますが、規定ていさいから申しますと、たてまえは署名捺印である、それに対して記名捺印をしてもよいんだという特例を認めておく、こういう形になるということを申し上げたわけでございます。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それならば、いまあなたの言われたように法律をこさえられたらどうですか。(「法律はそうなっているよ」と呼ぶ者あり)いやいや、そうじゃないですよ。これこれのものは記名捺印をしてもいい、こういうふうに限定されればだれも文句はありませんよ。それなら文句はないんですよ。そういうふうに限定されれば問題ありませんよ。そうじゃないものだから問題になる。  そこで私は、この法案を見るなら、そう何もかにもやらねばならぬというものでもないし、また裁判所でもいろいろなことがあるから考えられるということはわかりますよ。私どもずいぶん長く  なにしておるからわかるが、かつてはどうもとんでもない判事が出て、署名捺印までも書記に預けておいてとんでもないことが起こったりすることがありますからね。初めてこれが出るとすぐそれを連想して、これは出るかなあ、こう思って、やはり何としてもこれは署名捺印原則とすべきものだが、これはどこかにきめておかなければならぬものだ、こう思っておったので、これこれのものについてだけは記名捺印してもいい、こういうのなら私は文句ないと思います。そうなりますか、ここで。私はそうはとっておりませんよ。
  12. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 お答えいたします。  裁判にとりまして一番大事なことは、慎重な審理とその結果下される判断内容でございまして、その裁判書署名するか捺印するかということは方式の問題にすぎないわけでございます。記名したから審理を簡単にするとか、あるいは署名であるから審理判断を慎重にするというわけのものではないのであります。方式署名にするか記名にするかということは、判断それ自体とは関係がないことでございます。したがって、裁判官から見ますと、裁判書署名するか記名するかによって、少しも態度は変わらないのであります。しかし、重要な決定につきまして、現に争っている当事者立場から見ますと、裁判書裁判官署名がほしいという心情はございますし、この心情は理解するにかたくないのであります。このような当事者心情あるいは一般国民感情、こういうものを考慮しまして、運用の面で適切な処置をとりたい、こう考えている次第でございます。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まあ時間がないから、どういうものからそれを欲しておるとあなた方は思いますか、具体的におっしゃってください。
  14. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 このように裁判を受ける当事者立場あるいは当事者心情という観点から見まして、署名が望ましい重要な決定命令とは何かを考えた場合に、膨大な数にのぼる決定命令種類の中から、特定の種類決定命令を抜き出して一律に決定するということは非常に困難でありまして、結局事案内容によりましてケースバイケースできめていくよりほかいたし方がなかろう、こう考えている次第であります。したがって、署名するか記名でかえるかということは、その裁判をする個々の裁判官事案内容当事者感情とを考慮して判断していくのが相当でありまして、その裁判官の良識ある判断に期待せざるを得ないし、またその良識に十分期待することができるであろう、こう考えている次第であります。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで困るんですよ。抽象的にはそのとおりでございます。ところが、甲裁判官がよかろうと思うことと、乙裁判官がよかろうと思うことと違います。違うかもしれません。違うでしょう、人によって。そうすると国民の側で、こういうものにさえ署名捺印があるのに、こういう大事なものにない、これはどうもいかぬと、こういう気分が起こってくる、ここがこの問題の一番大事なところだと思われるのです。その点で何か、ここいらのものならば大体国民が納得するだろう、ここいらのものならばやはりやっておかなければいかぬだろう、こういう何かをひとつあなたのほうでやっておかれないと、人によって違うのだ、こうなると、さてな、どうなんだろう、こういうことで、何というか、千差万別ということになってきて、裁判権威に非常に影響を与うると思うのです。それからもう一つ言われましたが、裁判によく尽くしてくれた、これはもちろんたいへんなことですが、それよりもやはり裁判というものに対する品格、重みですね。これは、やはり署名したのとしないのとでは、相当まだまだ日本の間では考えがありますから、そこいらの点から考えて、何かあったらと思うのです。  これは、私一人でそういうことを何も考えておるのではなくて、事務に当たっておる方面から——あえてあなた方の言われることに根底から反対するのじゃないのです。何かひとつこれならばよかろう、こういうものが考えられぬかというので、実際はあなた方にも私の考えておることが出ぬから、私こういうことを言うのだが、何かそこいらで出ないと、あの人の言うのはこういう簡単なものでもやる、あの人が言うのはこういうのでもやらぬのだ、こういうことになると、どうも人によって違うということになる。それから裁判というものは、やはりみずからやったんだから、これぐらいのことはおれがやったんだぞといって、みずから署名するというぐらいのことがなくちゃいかぬだろうということは、まだまだ国民の間に残っておると思う。丁寧にやったかやらぬか、それは丁寧にやらなかったらたいへんですよ。これは私は、そこがだいぶ違うと思う。ここいらは何か見通しをつける方法はないものですか、いかがですか。
  16. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたとおり、結局ケースバイケースでございますので、一律な標準をつくるということは困難かと存じます。しかし、裁判を受ける当事者立場から見ますと、ある裁判所ではこうで、ある裁判所ではこうだということでは、これまた問題があろうかと思いますので、そういうことにつきましては、裁判官会同等の機会に裁判官と大いに話し合ってみたい、こう存ずる次第であります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 刑事訴訟法は、大体どういうふうにやっておって、どんなようなふうですか。
  18. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 刑事訴訟法におきましては、昭和二十六年以来、判決以外の裁判書、すなわち決定命令については、すべて署名捺印原則ではございますけれども記名押印をもってこれにかうることを得ということになっておりまして、現在の民訴の改正案と同じ内容のものでございます。ただ令状につきましては、法律で戦前からすでに記名押印でよろしいということになっております。それは裁判官運用で、令状につきましても署名押印している裁判官もあるやに聞いております。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それは規則できめて、そして重要と思うものを裁判官がやるように内規か何かでやっておられるんでしょうね。そういうことにいっているでしょう。その点いかがですか。
  20. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 内規をつくって、それに従って実施しているということは聞いておりません。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それなら何に基づいてそういうことになったのですか、刑事訴訟法は。
  22. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 結局事案事案によりまして、各裁判官判断で、あるいは署名し、あるいは記名しているものと存じます。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 だって署名捺印すべしということになっているでしょう。それを記名押印でやってもいいということは、何かがなければできないでしょう。それは何によってやるのかということを聞いているのです。
  24. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 それは刑事訴訟規則でそういう規定がございまして……。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 だから、それを聞いている。
  26. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 それで各裁判官がその運用としてケースバイケースで、あるいは署名し、あるいは記名しているわけで、その根拠は刑事訴訟規則にございます。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで、その規則には裁判官みずからが重要と思うものについてやれとでも書いてあるのですか。ただ単に重要なるものはやったらいいと書いてあるのか、そこが私は民事訴訟法影響があるから聞きたいところなんです。
  28. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 現在の民事訴訟法改正案と全く同じでございまして、決定命令については記名押印をもってかうることができるということになっておりまして、その限定は何らございません。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすれば、もしも極端に言えば、全部記名押印にしてもいいことになりますね。
  30. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 そのとおりてございます。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだとすると、それでうまくいっているとおっしゃるならなにでしょうが、これはもっと考えなければならぬかと思います。やられてしまったらそれまでで、それっきり文句が言えないことになりますから、ほかの世論とはだいぶ違うように思われます。これはもう少し考えさせてもらいたいと思います。  私は、きょうは時間がございませんから、この程度にいたします。
  32. 高橋英吉

  33. 岡沢完治

    岡沢委員 私がここで指摘するまでも存しに、司法の適正な運用のためには、法曹三者と申しますか、いわゆる裁判所あるいは法務省、そして在野法曹といわれる日本弁護士連合会法曹三者の意思疎通と申しますか、相互信頼関係というのはきわめて重要だと思うわけでございます。  私がいまから質問いたしますことにつきましては、すでにさきの委員会小澤委員からも質問がございました。小澤委員は与党でございますし、私は野党の一人でございますし、また日本弁護士連合会一員でもございますので、重複することは避けながら、しかし、同じ問題について質問してみたいと思うわけでございます。  この法案中身そのものは、昨年の通常国会裁判所法改正にも結びつくことでございまして、それほど異論はございません。むしろ法案提出に至る手続につきまして、日本弁護士連合会からおそらく大臣のところにも、最高裁にも参っておると思いますが、私たちにも「民事訴訟法等の一部を改正する法律案に関する要望書日本弁護士連合会の正式な文書要望書が参っております。その「要望趣旨」に、「今回の法改正は、いずれも日本弁護士連合会と十分なる協議をすることなく、国会に上程しようとしているものであって、甚だ遺憾である。今後かかることのないよう政府に勧告されたい。」要望趣旨の第一にこういう文章があるわけでございまして、こういう中身がうたわれておるわけでございます。私は、日本弁護士連合会一員から、あるいは一会員からの要望であれば、それほど大きく取り上げるつもりはございません。しかし、日本弁護士連合会として、正式にこうしてこの法案に関連して国会上程手続について遺憾の意を表されたということにつきましては、前回小澤委員に対する質問答弁でもありましたけれども、やはり手続上の不手ぎわと申しますか、問題が残されておるのではないか。昨年の法改正に結びつきまして、参議院の法務委員会附帯決議等もございます。あの中身そのものについては問題もあろうかと思いますが、少なくとも法曹三者が司法関係法律改正について十分な連絡意思疎通があるべきだと思いますし、そのこと自体は、私は当然とらるべき法務省の措置ではないかと思う。  この要望書に付記されました「法曹三者の協議等に関する経過メモ」というものがございます。大臣は、この経過メモは御存じでございますか、お読みになりましたか、お尋ねいたします。
  34. 植木庚子郎

    植木国務大臣 この問題につきましては、実はきわめてざっと一覧しただけの程度で、深く熟読はいたしておりませんが、趣旨はこの書類によって大体了承しております。
  35. 岡沢完治

    岡沢委員 大臣はこの法案提出のとき、まだ大臣に御就任にならなかったので、それらはむしろ事務的に御担当川島民事局長あるいは最高裁のほうの瀬戸民事局長、それぞれに、この日本弁護士連合会が出しております要望書に付記された経過メモは事実に合っているかどうか、お尋ねいたします。
  36. 川島一郎

    川島(一)政府委員 日本弁護士連合会要望書に記された経過メモが事実に合っているかどうかという点でございますが、ここに記載されております事項は、おおむねこのとおりであるというふうに考えております。  ただ、私ども立場から加えさしていただきたいと思いますのは、今回の民事訴訟法の一部改正法案提出するにつきましては、ここに記載された以外にも日本弁護士連合会といろいろ御連絡したことがございます。それを少し簡単につけ加えさしていただきますと、今回の民事訴訟法の一部改正法案日本弁護士連合会のほうに最初に御相談を申し上げましたのは、昨年の十二月の中旬でございます。そのときに要綱案をつくりまして、民事局担当参事官日本弁護士連合会事務総長と次長に対しまして要綱の御説明をいたしております。その後ここにございますように、法律案ができましてから、昨年の暮れに法律案をお持ちした、こういう経過でございます。  それからここに記載してございませんが、本年の一月になりまして、一月九日、日本弁護士連合会司法制度調査会というのが開かれまして、そこでこの法案についての検討をされたわけでございますが、このときは、やはり日本弁護士連合会事務総長の御指示がございましたので、民事局担当官が二名その調査会に出席いたしまして、法案についての御説明をいたしております。  あとは、大体ここに書いてあるとおりでございます。
  37. 岡沢完治

    岡沢委員 最高裁のほうはどうですか。
  38. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 法案協議に関する関係は、法務省川島民事局長から御説明されましたので、裁判所関係といたしまして、この要望書の最後にございます「法曹三者の協議等に関する経過メモ」この記載について簡単に御説明申し上げます。  この日時の経過につきましては、ここに記載のとおりでございますが、論議の内容につきましては、抽象的に記載がございますので、少しその協議経過を補足して申し上げますと、この附帯決議に関する事項日本弁護士連合会最高裁判所との連絡協議の場において検討いたしまして、法務省に参加していただくことを御論議願いたいと申し出ましたのが昭和四十五年の十一月二十日、再開後の連絡協議会の第二回のときでございます。裁判所からの申し出に対しまして日弁連側は、その点は検討して意見を述べたいということでございました。次に次回の昭和四十五年十二月十八日、再開後の第三回の連絡協議会におきまして、この点を引き続き御協議願ったのでございますが、いろいろ付議事項あるいは代表権の問題等について御論議がありまして、明確な御意見が得られなかったわけでございます。その席におきまして、提出法案につきましては早急にこの場で御検討いただきたい、今年の一月下旬には提出法案について法務省から国会のほうに御説明申し上げなければならない手順になると考えられるので、早急に態度をおきめいただきまして、三者の協議の場をおつくりいただきたいということを督促いたしましたわけでございます。そういうタイムリミットの問題が入ってまいりましたので、弁護士連合会のほうでも努力をくださりまして、ここに書いてございますように、一月十六日に、附帯決議について三者協議をする場を設けることに同意するという意思決定がございましたようで、一月十八日に、最高裁判所のほうにこの同意の申し入れが初めてあったわけでございます。  その後、具体的にどのような場をつくるかにつきまして、裁判所といたしましては日弁連側と法務省側に試案をお届けして御検討を願いましたのですが、協議事項、付議事項につきまして御意見の一致を見ないまま今日に至りましたわけでございまして、何とか三者協議の場ができるように裁判所は今後とも強く願い、あっせんの努力をしたいと思っておるのでございますが、それぞれのお立場がありまして、御意見の一致が見られないまま今日に来ておるという実情でございます。
  39. 岡沢完治

    岡沢委員 結論から言いますと、この法案が提案されるまでの間に、三者の協議会すら持たれていないわけですね。裁判所と弁護士会との協議はあったようでございますが、法務省を交えた協議は、具体的にはこの問題のためには開かれていないということは言えるのじゃございませんか。私の解釈は間違いでございますか。
  40. 川島一郎

    川島(一)政府委員 この法案の閣議決定は二月二日でございます。私どもといたしましては、それまでに裁判所並びに弁護士会の御同意を完全に得るように努力をいたしたつもりでございますが、先ほど申し上げましたように、裁判所にも別途御協議をいたしましたし、日弁連に対しましては、昨年の十二月以降当局の係官が日弁連のほうに参りまして御説明をして、口頭では大体の御了承を得ておったというふうに申し上げられると思うのでありますが、裁判所法務省、弁護士会の三者が合同して集まる、そういう機会は持っておりません。ただ私どもは個別的に協議をしても、意見の一致が得られればそれでいいのではないかというふうに考えております。
  41. 岡沢完治

    岡沢委員 川島局長の努力もよくわかります。しかし、できれば三者が一つのテーブルについて話し合いをして、——もちろん最終的に三者が一致しなければ法案提出はできないというほど厳密に解すべきではないし、もちろんまた前回の答弁にもありましたように、三者の立場それぞれありますから、意見の違いがあることも当然でありますが、そのことを前提にして、われわれ国会審議するというのが筋だと思いますけれども、少なくも一緒のテーブルについて御論議する機会を当然持たれるべき性質の、事務的な事案でございますから、ものではなかったかということを指摘させてもらい、この問題につきましては必ずしも最高裁判所法務省側だけに手落ちがあったとは私も思いません。やはり日本弁護士連合会側にも問題のあることは十分承知いたしております。今後やはり三者一体となって日本司法制度をよくする努力を続けてもらいたいということを指摘させていただきたいと思います。  それから日本弁護士連合会要望書にございますように、前回の昨年の通常国会における法改正に関連いたします附帯決議、衆議院の場合にその三項に「簡易裁判所の民事関係事物管轄の改正にかんがみ、裁判所は訴訟当事者の意向を尊重し、不動産に関する訴訟その他複雑な事件の取扱いについては、民事訴訟法第三十条第二項、第三十一条の二の活用により簡易裁判所の管轄に属する訴訟を地方裁判所において処理しうるよう努めるとともに政府及び裁判所はこれに関する法改正についても検討すること。」と、今度のいわゆる請求異議、執行文関係の異議だけではなしに、いわゆる「不動産に関する訴訟その他複雑な事件」の訴訟についても法改正を求める附帯決議が付されているわけであります。今回は請求に関する異議、執行文付与についての訴えだけに限られた理由はどこにあるのか。あるいは今後この附帯決議趣旨に従って「不動産に関する訴訟その他複雑な事件の取扱い」についても、前向きにと申しますか、附帯決議の線に沿って法改正をされるのかどうか、その辺をお尋ねいたします。
  42. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 附帯決議には、簡易裁判所の訴訟手続に関する特則の活用、あるいは不動産事件等困難な事件は簡易裁判所ではなくて地方裁判所でやるような運用並びに法改正を検討しろという条項があることは、御指摘のとおりでございます。その附帯決議の要求しておりますのは、まず運用をはかれ、運用でまかなえない場合には立法も検討してみろ、こういう趣旨に存ぜられるのであります。裁判所といたしましては、現行民事訴訟法三十条の二項あるいは三十一条の二等の運用規定がございます。前者はいわゆる要請受理、簡易裁判所の管轄に属すべき事件を地裁に起こして、地裁で審理してくれという要求がありました場合には、地裁で受け付けるという制度でございます。また後者のほうは、簡易裁判所が受け付けた事件で、簡易裁判所審理判断するのが相当でないという場合には、その裁判官の裁量によりまして地方裁判所に移送し、地方裁判所において審理判決をするという制度でございますので、まずこの運用を十分にはかり、これを活用するということを裁判所考えまして、法案成立直後に簡易裁判所中央会同並びに首席書記官会同等を開きまして、また本年の二月には各高裁別の簡易裁判所判事会同というものを開きまして、この附帯決議趣旨を徹底するとともに、自庁処理、裁量移送の制度を活用することを強調してまいったわけでございます。  その結果、裁判所法改正が実施せられましたのが昨年の七月一日でございますが、それ以後昨年の十二月三十一日までの統計によりますと、要請受理件数は一カ月平均百七十五件、裁量移送は一カ月平均百二十四件、合わせて約三百件程度の事件が簡易裁判所から地方裁判所に移されて審理されているという実情でございます。裁判所といたしましては、まずこの要請受理並びに裁量移送の制度の活用ということを目下のところ大いにはかっている次第でございます。
  43. 岡沢完治

    岡沢委員 質問時間は三十分とお約束しましたので、あまり時間がないので残念でございますが、もう少しオーバーすることを許していただいて、今度の請求異議事件の地裁への管轄がえは、いわゆる請求の価額が三十万をこえる場合、いわゆる地裁の当然扱うべき訴額の場合に限っておられるようでございますけれども、衆議院の附帯決議の第五、「政府及び裁判所は、即決和解に対する請求異議事件を地方裁判所の管轄とする法改正について検討すること。」これは別に訴額を限定せずに、一応請求異議事件に対する訴訟の全部を地裁行きという読み方もできるわけでございますし、また和解に対する異議あるいは執行文付与に対する異議等につきましては、やはりそれだけの地裁でやる価値があるような見解も私は成り立つと思いますが、今度の法改正で、いわゆる訴額を三十万をこえる場合にだけ限られた趣旨をお尋ねいたします。
  44. 川島一郎

    川島(一)政府委員 お答えいたします。  「即決和解に対する請求異議事件を地方裁判所の管轄とする法改正について検討すること。」こういう附帯決議が出されたわけでございますが、この附帯決議趣旨といたしましては、私どもはこういうふうに理解しておるわけでございます。すなわち、即決和解というのはこれはすべて簡易裁判所で扱うことになっております。したがって、訴額のいかんにかかわらず、地方裁判所へ行く余地はないわけでございまして、すべて簡易裁判所で扱われる。したがって、その即決和解に対する請求異議事件も、これは民事訴訟法規定の解釈上、第一審裁判所が扱うというその規定の解釈からいたしまして、即決和解を行なった簡易裁判所の専属管轄に属する、こういう解釈がとられておるわけでございます。  そこで、即決和解のうちにも、本来三十万円以下で簡易裁判所が訴訟であれば扱うような事件と、それから即決和解でなければ、普通の訴訟であれば、三十万円以上で地方裁判所で扱われる事件と、二つあるわけでございまして、ここでいわれておる趣旨は、本来ならば地方裁判所で、訴訟として扱う場合には地方裁判所で扱うようなそういう事件についての請求異議事件だけを地方裁判所に持っていく、こういう改正を検討せよという趣旨であろうと思ったわけでございます。と申しますのは、一般判決の場合を考えますと、通常の訴訟の場合には、三十万円以下の事件というのは簡易裁判所が取り扱います。したがって、その確定判決についての請求異議事件というのも同じく簡易裁判所に提起されるという関係になるわけでございます。それとの均衡から申しまして、即決和解につきましても、三十万円以下の和解についての請求異議であれば、これは簡易裁判所が扱うほうが均衡がとれるであろう、こういう解釈でございます。
  45. 岡沢完治

    岡沢委員 もうこの問題についての議論はこれ以上しませんけれども、いわゆる裁判所の和解が判決と同じ効力を持って、それに対する異議は控訴の性質も私は見られないことはないということを考えました場合に、やはり訴額三十万円以下であっても地方裁判所で扱うことも、一つの見解としては成り立つのではないかという点を申し上げたかったわけであります。  それから、最高裁事務総局民事局でお出しになりました「民事訴訟法等の一部改正(民事裁判関係文書署名押印形式の改正)について」昭和四十六年三月八日付の文書がございます。これによりますと、第一として「署名押印に代えて記名押印することは、時代のすう勢である。」とトップに書いておられるわけでございます。弁護士会のこれは反対意見の中に、先ほど読み上げました要望書でございますけれども、「社会のすう勢は、サインの重視にあることに注目しなければならない。」むしろ正反対の意見を述べておられるわけでありますが、この辺どう調和して考えるべきか。私はこの弁護士会のサインが重要視される方向、欧米の慣習等から考えても、必ずしも極端な、あるいは間違ったこじつけの意見でもないと思います。最高裁のこの点に対する見解と日弁連の見解も、重要な問題ではありませんが、感覚からいいますと、全く反対の意見を述べておられますので、この辺どういうふうに解釈しておられるか、お尋ねいたします。
  46. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 東洋におきましては、古来署名よりも印を重んずるという長い間の慣習がございました。欧米におきましてはそういう慣行がございません。すべて署名でやっているということでございます。  それで、小切手とか転々流通するようなものにつきましては、本人が一体振り出したのかどうかということが後日非常に問題となる場合がございますので、証拠的な意味におきまして署名というものが非常に重視されるという点においては、取引上署名のほうがいわば近代的であるということもいえるかと思います。ところが、裁判所文書というものは、これは原本は裁判所が厳重に保管しているわけのものでございますから、他人によって偽造されるというようなおそれは全くないわけでございまして、したがって、取引上の見地からする近代化と裁判所事務の簡素化という面からする近代化とは性質が違うかと思います。裁判所が近代化と言っている趣旨は後者の意味でありまして、弁護士会が近代化と言っている趣旨は前者の意味であろうと思うわけであります。
  47. 岡沢完治

    岡沢委員 まあ、この論争を繰り広げても結論が出ないと思いますので、いまの瀬戸民事局長のお答えの中にありましたが、裁判所で偽造ということは絶無だという趣旨の御答弁、先ほど読み上げました文書にも、第三に「今回の改正が弊害をもたらす虞れはない。」中身として「裁判所においては、裁判書の原本が偽造される虞れは皆無といってよく、」というふうに書いておられます。しかし、先ほど鍛冶委員のほうからも、印鑑等が書記官に預けられて、簡単にいわゆる書記官裁判になるおそれなしとしない、長い間の弁護士としての御経験からの発言であろうと思います。裁判所裁判書の原本が偽造された実例はいままでございませんか。あるいは慎重である最高裁判所が「裁判所においては、裁判書の原本が偽造される虞れは皆無」と言い切っておられますけれども、実際にそう断定されて、今後事件は起こらないという——何といいますか、予想されませんか。その辺をお尋ねいたします。
  48. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 裁判書の原本が偽造されたという例はいまだかつてございません。  先ほど来問題となっておりますのは川口簡裁の事件でございまして、これは刑事の逮捕状をあらかじめ署名捺印して書記官に数通渡しておいた。それで書記官が電話で裁判官に問い合わせて、発付していいかどうかという電話連絡だけで、書記官が空白に所要の事項記載しまして発付したという事件でございまして、記名捺印のためにそういう事件が起こったわけのものではございません。署名捺印した白紙の逮捕状を発付したという事件でございまして、これは裁判官として重大な義務違反でありますし、むろん裁判官として不適格なものでございますので、その後罷免の裁判によって罷免されておるわけでございます。その以外にはそのような不祥事が起ったという事例は聞いておりません。
  49. 岡沢完治

    岡沢委員 日弁連の要望書をたびたび出して恐縮でございますが、「要望の理由」の中に「記名捺印変更することは、その印の保管が、いきおい書記官にまかされることとなりがちとなり、決定命令の作成が、事実上書記官によって行なわれるおそれが生ずるであろう。」と書いております。また私は、いかに記名捺印が認められたからといって、印章の捺印自体裁判官がその裁判書内容を精査して確認した上みずからされるべきだと考えるわけでございますが、実務上もそういう取り扱いが確保されるかどうか。実際に書記官に印鑑をまかして書記官の捺印、だれが捺印したかはあとでわからぬわけでございますから、そういう点について裁判官みずからが、記名捺印の場合も捺印はみずからするんだということについて、最高裁判所としてどういう担保といいますか保証を要請しておられるのか。裁判官も人間であり、また中には非常に有能な、あるいはまた過ぎたことをする書記官もなきにしもあらず、裁判官の場合は異動がございますけれども、書記官の場合もう主的に、特に簡易裁判所の書記官なんかで数十年同じ裁判所におるという書記官も非常に多いわけでございます。それだけに私は日本弁護士連合会の心配も必ずしも危惧ではないという感じがするわけでございますが、その辺についての最高裁の見解を聞きます。
  50. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 今回の改正で変わりますところは、従来署名していたものを記名でもよろしいということだけでございまして、裁判官裁判書内容を作成した上みずから印を押すということは、署名の場合と記名の場合とで全く違わないわけでございます。裁判官がみずから判を押すということは裁判官に課せられております義務でございますし、また長い間の裁判所の慣行、確立した事務でございまして、判を書記官に渡しておくというようなことは全くございません。現に私もここに自分の判を常に持っているわけでございまして、その点の心配は全くございません。
  51. 岡沢完治

    岡沢委員 瀬戸民事局長がそうおっしゃるのですから、信用するしかないと思います。事故の起こらないよう希望しておきます。  次の質問がほんとうは今度の記名捺印への法改正の中で一番問題だし、すでに小澤委員からも鍛冶委員からも御指摘のあった問題でございますけれども、なるほど判決は今度の改正内容からは除かれておりますが、決定の中にも破産の開始決定あるいは仮処分、仮差し押えの決定等で判決と同じだけの重みと、あるいは権利義務変更国民にもたらす決定があるわけでございます。こういうものについてまで一応法律上は記名捺印の道が開かれたわけでございますが、実際の運営はケースバイケースでと瀬戸民事局長からの答弁があったわけでございます。しかし、その答弁内容の中でも、たとえば当事者の意思を尊重してとか、その重要性については事案内容を見てとか、非常に主観的なものが入るおそれがあるわけでございます。この問題につきましては、前回の委員会小澤委員質問に対する答弁でも、裁判官会同等で明らかにしたいという趣旨の御答弁もございました。しかし私は、裁判官も数多く、またその質も千差万別であることを考えました場合、やはり最高裁規則等で、いま私が指摘しましたような、たとえば破産開始決定あるいは仮差し押え、仮処分決定というようなものと他のきわめて形式的な担保取り消し決定なんかとは性質が全く違うわけでございますから、その辺について基準を最高裁規則等で明らかにされるか、あるいは会同等で基準を明示されるということが事務的にも第一線の裁判官を惑わさない、あるいはまた裁判を受ける国民にも安心感を与えるのではないか。もう少し具体的に中身について、まあ法の中には抽象的にされておりますけれども規則等で明らかにされる必要性といいますか、ケースバイケースという抽象的なものでは非常に心配だというのが共通のわれわれ委員の疑点ではないかとも思いますし、国民の心配ではないかと思うわけでございまして、その辺について私はもう少し具体的な方針があってしかるべきではないかと思うわけでございます。最高裁の意見を聞きます。
  52. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたとおり、われわれは署名にするか記名にするかによって何ら本質的な相違はないという立場にあるものでございますけれども裁判を受ける当事者あるいは一般国民感情を考慮して、重要なあるいは直ちに国民権利義務変更を来たすような決定につきましては、これはやはり署名押印することが望ましい、こう考えている次第でございます。  ただし、何を一体それじゃ署名押印にするのが好ましいかということは、先ほどからたびたび申し上げているとおり、一律に決定することはできないのでありますけれども一般的に署名が好ましいというものをしいてあげますならば、次のようなものが考えられるかと思うのであります。  それは、第一に商法五十八条が規定しております会社の解散を命ずる裁判、あるいは破産法百二十六条の破産を宣告する裁判、あるいは会社更生法三十条の規定しております会社更生手続を開始する裁判、これは自然人ないし法人のいわば生死を決するような裁判であるばかりでなく、個別的な強制執行と異なりまして、総合的、包括的な強制執行でございますので利害関係人が非常に多い、多くの人に影響を及ぼすというところから、こういうものは署名押印が好ましいということが第一に考えられるわけでございます。  二番目には、和議手続の開始、会社整理の開始、あるいは特別清算の開始を命ずる裁判、これもいま申し上げました裁判に準ずるものとして重要な、あるいは国民権利義務に非常に影響を与える決定であるということが言えるかと思います。  三番目に考えられますのは、民訴法七百六十条の規定する断行の仮処分。断行の仮処分は通常の仮処分と異なりまして、暫定的にもせよ申し立て人に勝訴決定、本案判決を与えたのと同じような満足を与えるものでありますし、相手方には本案の敗訴判決を受けたのと同様の影響を与えるものでありますので、これまた署名するのが好ましいかと考えるわけであります。  しかし、一般的にはそのように言えましても、やはりケースバイケースであって、これは裁判官運用にまかされるのが適当であって、法律あるいは規則で従来どおり署名押印ということを一律に決定するのはやはり事務上の混乱を招きますし適当ではない、こう考えておる次第でございます。
  53. 岡沢完治

    岡沢委員 もう一点ぐらい。いまの民事局長の御答弁、かなり具体的で、私は当然だと思うのでございますが、それをあえて規則にはしないでケースバイケース、会同等できめるとおっしゃる理由がちょっと私は——わからぬこともないのですよ、ケースバイケースで会同で決定すれば。また、あんまり厳密に規定するなら法改正中身の中に入れたらいいじゃないかということも、わからぬことはございません。だけれども、やはりいま例示されたような決定の場合、これはもう当然私は署名捺印のほうが、先ほど御答弁の中にございましたその裁判書を受ける当事者の心理といたしましても、あるいは決定中身からいたしましても、裁判中身からいたしましても当然だ。だから規則でおきめになることのほうが、むしろあやまちをなくすものでは互いかという感じがするわけでございまして、これは意見として申し上げておきます。  それから、委員長から時間の制約がございましたが、最後に、この法案の中にも例の執行文付与の訴えまた執行文付与に対する異議の訴え等がございます。この強制執行法案改正作業の進捗状況、この委員会でもかつて論議された点でございますが、その後どういう強制執行関係法案の準備が進んでいるか、これをお尋ねして、私の質問を終わりたいと思います。
  54. 川島一郎

    川島(一)政府委員 強制執行の改正の作業でございますが、これはもう非常に前から手がけておるわけでございますが、御承知のとおり民事訴訟法は、強制執行を除く部分につきましては、一応大正年代に全面的改正が行なわれまして、昭和に入ってから施行されておる。ところが、強制執行のほうは、民事訴訟法が制定されてからほとんど手がつけられておりません。しかも総合的に一つの体系をなしておりますので、これを改正するとなりますと、ほとんど全体にわたって検討をしなければならないというような問題もございますために、もう法制審議会におきましても、相当長期間にわたって検討をいたしておるわけでございますが、その中で特に問題になりますのは、いま仰せになりました執行関係訴訟の問題でございます。そのほかにも、これに関連するいろいろなこまかい問題がございますが、そういった問題を検討しているわけでございますが、大体一通り検討を終わりまして、いまそれをどういうふうに組み立てるかという作業をやっているところでございまして、これをどの程度の規模の改正にするかということは、いままでの検討結果を集約しながら改正案をまとめるという段階にこれから入っていくところでございます。
  55. 岡沢完治

    岡沢委員 終わります。
  56. 高橋英吉

    高橋委員長 青柳盛雄君。
  57. 青柳盛雄

    ○青柳委員 先ほどから問題になっております前国会での附帯決議の実行の問題ですが、いままでの御答弁では、請求異議等の本草案でいわれているような管轄の問題だけで、大体あとは運用にまかせるということのようでございますけれども、どうもこの点について日弁連あたりとの間で意思統一が必ずしも十分でないように思えるのですが、これだけでもうこの附帯決議は立法手続にまで持っていくものはないというお考えでございますか、どうでしょうか。
  58. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 裁判所法が施行されたのは昨年の七月一日でございますので、ここ当分は運用の面を見守りたい、その上で立法化の必要があれば検討したい、こう考えている次第であります。
  59. 青柳盛雄

    ○青柳委員 一応最高裁判所考え方はそういうところで、今後まだ検討する余地はあるように見えますけれども、問題は日弁連あたりでは、今度これをきめられた内容そのものにはあまり反対では危いようでありますけれども、ほとんどこの全面的な相談にあずかっていない、連絡はしてきたという程度のものであります。だから、この附帯決議ができるまでには、日弁連の相当の要請があったからだと私は思うのです。だとすれば、この附帯決議の線をほんとうに生かしていくのには、少なくとも日弁連、最高裁でお考えになるならば、法務省も加えて三者の協議がひんぱんに行なわれる、これが民主的なやり方だと思うのです。それをしないから、非常な不満が出てくるわけです。しかも、これでおしまいだというようなことが言われている。あとは運用でやればいいのだ、こうなると、運用ということになれば、これも三者協議運用についていろいろ協議をするならば、これも民主的でないとは言えないかもしれませんけれども運用はあとは裁判所部内のことだというような簡単な考え方で、検討して必要とあればまた自分のほうで考えるというような独善的な立場というものが貫かれていくと、これは在野法曹、日弁連あたりでは非常な不満を持つと思うんですよ。何事によらず、大きなことであれ、小さなことであれ、まず在野の人たちの意見を徴するとか、それと協議をするというような姿勢が必要だと思うのですが、これはどう考えておられますか。
  60. 川島一郎

    川島(一)政府委員 司法制度に関しましては、附帯決議の問題もございますけれども、それ以外にもまだまだこれからいろいろな問題が起こってくると思います。そういった問題につきまして、法曹三者の間で意見を交換していろいろの措置をはかっていくということはきわめて必要なこと、御指摘のとおりであると考えております。  そういう意味におきまして、私どもといたしましては、この民訴の改正だけの問題ではなくて、これからの問題につきまして、そういったお互いの意思の疎通をはかる方法としていろいろな、先ほどから問題になっておりますような三者協議の場所をくつるということも必要であると思いますし、そういうものができれば望ましいと考えているわけでございます。
  61. 青柳盛雄

    ○青柳委員 だめ押しのようになりますけれども、この不動産に関する訴訟とかその他複雑な事件についての決議の趣旨については、先ほどの御説明では、裁判所部内でいろいろと会同等をお開きになって、運用で解決をするということで意思統一をしたようでありますけれども、このことについて、日弁連あるいは法務省協議をされたことがありますか、ないですか。
  62. 高橋英吉

    高橋委員長 それは先ほどからたびたび出ておるのだが……。
  63. 青柳盛雄

    ○青柳委員 日弁連と相談をしたかどうかということです。たとえば、相談はしなかったとしても、こういうことでいきますがどうですかということで協力を求めたかどうか。
  64. 川島一郎

    川島(一)政府委員 その点につきましては、裁判所のほうでいまいろいろ努力をしておられるものですから、正式にはお話はいたしておりません。個々的にいろいろお会いしたときに話が出るという程度でございます。
  65. 青柳盛雄

    ○青柳委員 それでは次の問題、先ほどからもずっと繰り返しになっておりますけれども裁判書の中の決定命令記名押印にかえるようにしてもよろしいという例外規定、結局は例外ではなくて、それがほとんど原則みたいになるような運用だというお話でございました。要するに事務合理化ということに帰するようでございます。しかし、いままでの答弁を聞いておりますと、形式などというものはあまり問題ではなくて、実質が問題なんだというふうな、切り離された形の答弁になっている。しかし、形式によって実質が保証されるということも考えなければならないと思うのです。署名をするというこの形式は非常に繁雑なことではあっても、これはやはり一応全体を目を通すという保証になるわけです。もっとも、見ないで署名だけするという場合も、忙しいときにはあるかもしれませんけれども、少なくとも押印するだけよりは非常に慎重さがふえるだろう、何となく署名をするということの重々しさが署名する人自身にも出てきますから、これは単なる形式だ、中身さえしっかりしておれば別に形式は問うところじゃないので、忙しいから判だけは自分で押すのだからということ、そういう考え方でやるからやはり問題が起こるということを国民は危惧するわけであります。現に刑事訴訟法の上ではたいへんなものが記名押印になっている。だから民事でもそれにならってもよろしいのではないかというような考え方もあるようでありますけれども、これは本法案審議するにあたってどうこうと言うのじゃありませんけれども、刑事訴訟手続のほうで、いろいろのものを規則記名押印で間に合わせておるというところにたいへんにわれわれは危惧を感ずるわけでありまして、これ自体もう合理的で何も問題はないのだということではないような気がいたします。たとえば召喚状であるとか、差し押え捜索状とか逮捕状、あるいは差し押え、捜索、検証令状というようなものがすべて裁判官記名押印で済まされておる。勾引状でもそうですし、身体検査の召喚状でもそうですし、あるいは鑑定留置状もそうです。事人権にかかわる重要な裁判裁判書においては記名押印で済まされておる。そういう中で例によって逮捕状の問題が起こってくるわけでありますが、ある裁判所で、自分は逮捕状を出すことは不適切だと思って判を押さなかった、それが警察の手に渡って、逮捕され、留置されたというような事実が大問題になったことがございますけれども、そういうふうに形式を軽んずると、いろいろと弊害が出てくる場合があり得ると思うのですね。偽造などということはほとんどないのだ——それをわれわれは期待するわけであります。  そこで、お尋ねするのですが、裁判官が持っておる印というのは、実印なのでしょうか、それとも普通のどんなものにでも使えるような印なのか。それはたとえば権利義務に関して、実印というのは非常に重要視されておりますけれども、そういう実印を押すようにしてあるのかどうかということと、それからこれは私物なのか官給品であるかというようなこと。私物だとすれば幾つ持っておってもかまわないわけでありますが、官給品の場合は幾つ与えるかというようなこと。そしてまた、この保管はどうなっておるのかということですね。この点を実情についてお尋ねしたいと思います。
  66. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 実印ということばは、法律上の用語ではございませんで、一般的に言われるのは、印鑑証明がしてある判、これを実印と呼んでおるようでございますが、その意味における実印では必ずしもございません。  なお、判は官給品ではございません。私物でございます。  保管につきましては、各裁判官が常時所持をしているという状況でございます。
  67. 高橋英吉

    高橋委員長 時間がきょう十二時までですが、あとどのくらいかかるのですか。もし長いようだったら火曜日にやるから、その冒頭に、留保して質問することにしては……。
  68. 青柳盛雄

    ○青柳委員 それならばあと五分ぐらいでやめて、あとは次回に続行させていただきます。十二時まで。  簡易裁判所あるいは地方裁判所の支部あたりで、裁判官がいないときに、仮処分とか担保取り消しとかいうようなものが、書記官によって事実上原本はできないのに正本が出されたというようなことがあるようであります。いないときにということは、他の裁判所のほうで執務をしておるとか、出張しておるとかいうことでいないけれども、あとから押してもらえばいいというようなことで、とりあえず書記官のほうで原本の存在を前提にして正本を出すというようなことがあるようでございますけれども、こういうようなことも明らかに弊害を生みやすいし、また裁判官が判を臨時に書記官に渡して押させるというようなことまで起こってくる危険性があるわけであります。だからこういう点で先ほど来いろいろ、そういうことはあり得ないのだと言っておりましたけれども、やはり署名にしておくほうが非常に安全性がある。  そこで、お尋ねするのですが、個々の裁判官の良識にまかせるという抽象的なことではなしに、何とかこれを文書化するというようなこと。たとえば先ほど言われました三つの場合ですね、会社の解散命令とかあるいは和議とかあるいは断行の仮処分とか、こういうようなことを一応裁判所考えられているというのですが、これは裁判官会同などでまた相談をするというようなことも前提になっているのでしょうが、こういうことについて、これを何とか一つの組織化したものにする意思はないのかどうか。これは最高裁規則にするかどうかというところまではまだ研究が十分至っておりませんけれども、何らかの形でこれが統一され、そして単に良識で、やってもよい、やらなくてもよろしいのだということのないようにするということを考えておるかどうか、これをお尋ねして、きょうは質問を打ち切ります。
  69. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 法律もしくは規則でふるい分けをするということは考えておりません。あくまで運用におまかせを願いたい、こう存ずる次第であります。
  70. 青柳盛雄

    ○青柳委員 法律規則でやらなくても、たとえばそれが一つの慣行になれば、たいていの裁判官はその方針で運用に当たるというようなけじめになるものですね、よりどころになるものを何か考えているかということを聞いているのです。
  71. 瀬戸正二

    瀬戸最高裁判所長官代理者 会同等で十分に話し合った上、一定の考え方が固まりますれば、これを通達として流すというようなことも考えております。
  72. 青柳盛雄

    ○青柳委員 それではその固まるまでの間に、例の三者協議会といいますか、特に当事者の代理をやります日弁連あたりに相談をかけるということも、全然考えていないというわけではありませんか。
  73. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 まだ三者協議会を開くという一致した結論に到達いたしてはおりませんけれども、日弁連も最近理事の方々がおかわりに在るようですが、その後引き続き裁判所と日弁連との間の協議会を続行して、三者協議の場をつくるように努力したいというお話は、事務当局から御連絡がございまして、私どものほうとしては三者協議の場をつくり、また従前の協議を続けたいという考えは従前と変わりがありません。その機会は早急につくりたいと私どものほうは強く考えているわけでございます。
  74. 青柳盛雄

    ○青柳委員 一般論としてのそれはわかります。だからぜひそれは励行してもらいたいと思うのでありますが、いま裁判官会同などでよく意見を一致さして、これを通達などにして出すという場合に、通達として出すのは一つのいいことだと思うのですけれども、その場合にも裁判所だけでこれだけだと、さっき一応思いつきのように三つのグループを言われましたけれども、これだけなんだというようなことでなしに、弁護士のほうからも、これも入れてもらいたい、あれも入れてもらいたいというような希望があったら、それをその裁判所会同の中で参考にし、そして大体一致したところで可能な限りしっかりしたものにしておく、こういうようなお気持ちがあるかないかということをお伺いしているのです。
  75. 長井澄

    長井最高裁判所長官代理者 もちろん協議の場で弁護士会のほうの御意見は十分伺って、その運用については間違いのないように、また円滑にとり行なわれますように努力することに、何らやぶさかではございません。大いに御意見を述べていただくことを私どもは歓迎するつもりでございます。
  76. 高橋英吉

    高橋委員長 次回は来たる二十三日午前十時理事会、理事会散会後委員会を開催することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後零時三分散会