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羽山政府委員 お尋ねのとおり、その当時の
調査をいま反省いたしてみますと、非常に見落としがあったようでございます。それは、まずその当時、
警察から
通報をいただきましたのが四時前でございまして、それから夜が明けまして九時ごろまでかなりいろいろなことをやっております。それは、ただいま
警察庁の
局長も言われましたが、
刑務所といたしましては、逃げたのではないかということで
頭数の点検、これは二千人からおりますので、一回やりますと三十分以上かかるわけでございますが、それを二回やっております。それから、よく逃げました
あとで、
偽装就寝と申しまして、ふとんの中に人間が寝ているかっこうをいたしまして、逃げて
あとはもぬけのからというようなことがあるわけでございますので、そういう
疑いのある
囚房は一々
かぎをあけましてふとんをまくるというようなことをやりますので、つい時間がかかるわけです。それから明け方になりまして、どうも
頭数は合っておるということで、これは問題の
区域は四区というところでございますが、その四区の
印刷工場付近を詳細に見ております。そのときに、
ナイロンロープを折りましてぐるぐる巻きにしまして、腰にでもかけるようにいたしました
ロープが一束ちょうどその
印刷工場の
西側に落ちておりました。その
付近に茶色の手袋が落ちておりました。その当時の撮影いたしました写真がございますが、それからその
付近の外べいに、明らかにへいをずり落ちたというような形跡の
足あとらしい痕跡がございました。どうやら外から入ったらしいという想像をいたしたわけでございます。
これらのことは、その当時
刑務所の
保安課長が
堺北警察署に参りまして、事情を
説明いたしまして報告をいたしております。
それから問題はこの
工場で、
印刷工場でございますが、
印刷工場は、
特殊印刷物印刷中につき許可なく入場を禁ずというような大きな看板が出ておりましたほか、
かぎが厳重にかかっております。それから、その
工場の中に仕切りました
倉庫用の
部屋がございます。俗にこれを
倉庫室とか
乾燥室とか言っておるのでございます。したがいまして、かりに
工場の
かぎが破れましても、中に
一つ部屋がございまして、そこに
かぎがかかってございます。その
かぎのほかに、四センチか五センチぐらいの幅の、御
承知の段ボールなどを荷づくりいたしますときに使いますテープが封をするように張ってございまして、そこから入れば封を破らざるを得ない、こういうふうな状況で、そこも
異状がない。たまたまここに
ガラスがございまして、これは
あとでわかったのでございますが、窓の
ガラスが破れておったのでございます。その点を見落としましたのは、非常に
調査といたしましては大きな見落としになるわけでございますが、結局それらを総合いたしまして、試験問題には
異状がない、こういう判断をいたしたようでございます。
あとで
承知いたしましたところによりますると、犯人は、
工場の外側に渡り廊下があるのでございますが、その渡り廊下の屋根と申しますのがわりあいにひょっとはがれるわけでございます。その渡り廊下の屋根に上がりますと、
あとはだんだんに
工場の屋根に行くというような構造になっておりまして、四十五
工場と四十六
工場というのが二むね接着してついております。そのちようどまん中のところが
工場の壁面でございますが、そこに横に板を打ちつけた部分がございます。それをドライバーかペンチか何かではずしまして、犯人は上から入りまして、はり伝いに下へ、ちょうどその四十五
工場と四十六
工場の中間のところに飛びおり、そして問題のその
倉庫室というところは四十六
工場の一番北側のほうにあるのでございます。そこへ参りまして、ただいま申し上げましたように、どうやら
ガラスを破って、その内側に金網が張ってあるのでございますが、金網をたんねんにはずしまして向こうへ押して、そして中に入った。中には当時相当枚数の、総計枚数で申しますと、
大阪大学その他から請負いました注文は三十万枚以上の紙でございますが、その枚数から、今日われわれがいままでの段階で
承知いたしておりますところによりますと、一間ごとに盗んだ。ただし、英語と数学の問題は幸か不幸かそこに置いてございませんで、別の倉庫に仕上がって置いてございましたために、英語と数学の試験問題は被害がなかったのでございますが、その他の社会とか理科とかいうものを一問ごとに盗んだようでございます。そうして外へ出まして、当日は、成人の日の明け方入ったのでございますが、遺憾ながら成人の日で休みでございました。休みでございましても
工場の周辺等には見回りが回るのでございますが、あの
入学試験問題を
印刷しておる
工場のところにはあまりむやみに行くなというような説示の薬がきき過ぎまして、その動哨も
印刷工場の中をのぞくというようなことはしなかったようでございます。犯人は一日じゅう——昼間はとにかく一日じゅうその
工場の中におったわけでございます。
今日の想像でございますが、犯人といたしましても、そこに入ったということを気づかれることは非常にうまくないわけでございまして、入って何か
入学試験問題の答案を盗まれたというような
疑いが生じますれば、おそらく
大学のほうはすぐ問題をつくり直すでございましょうから、そこでそういうことに備えたと思うのでございますが、金網をはずして押したと申し上げましたが、そういうものを非常にうまくもとのように直しまして、そして窓
ガラスその他もできるだけもとのように直しまして、またもとの天井から外に出た、こういうことになっておるわけでございます。天井から入ったということにすっかり気がつかなかった、この点が、今日になりまして、当時の
調査の非常に大きなミスであったというふうに反省をいたしておるわけでございます。