○
長井最高裁判所長官代理者 琉球
高等裁判所以下の
系列が沖繩にはただいま設置されておりますほか、アメリカの
関係といたしまして米国民政府
裁判所という
系列の
裁判所も設置されておりますことは、ただいま御
指摘のとおりでございます。
司法権が本土に復帰いたします問題は、復帰協定の問題といたしまして外交ルートでまず検討されております。なお、国内的な問題といたしましては、閣僚
会議か閣僚協議会——ちょっと名称を失念いたしましたが、あとで正確なものを申し上げますけれ
ども、その下に沖繩
関係の担当官
会議が沖繩・北方対策庁に設置されまして、そこで検討され、
裁判所もオブザーバーとして参加してその
内容について意見を申し述べております。
裁判権の
関係におきまして、係属中の
事件につきましては、民事と
刑事とに分かれるわけでございます。
内容的に、まだ基本的な協定のほうが固まっておりませんので、確定した将来の計画として申し上げるわけにいかないのが残念でございますが、民事
事件につきましては係属の
事件は、ことに琉球
高等裁判所、那覇
地方裁判所、
家庭裁判所、簡易
裁判所、この
関係につきましては、組織の
関係も本土の
裁判所に合わせるように非常に涙ぐましい
努力をいたし、訴訟法あるいは実体法につきましても、その多くのものが本土のものを準用いたしておりますので、そのまま民事
事件を引き継いでいくことが
現実的に可能ではないかというふうに考えるわけでございます。
刑事事件につきましては、奄美大島が復帰いたしました際には、その効力はすべて引き継がないことといたしまして、あらためて必要な日本の法令の適用されるべきものについて手続を進めるという形をとったわけでございますが、沖繩は戦後四半世紀にわたりまして一つの法秩序を形成いたしてまいりました。これを無視することがきわめて困難でございますので、これをどういう形で引き継ぎができるかということにつきましては、いろいろな案がございますけれ
ども、これは返還協定、外交交渉の問題にも響きますので、私
どもから申し上げるべき筋合いではないと申しますか、お答え申し上げられないのが残念でございます。これはすべて政府の
関係で
処理さるべき問題でございまして、引き継ぐ場合を予想しましての私のほうの見解を申し上げただけでございます。もちろん、
先ほど申し落としましたが、民事
事件につきましても、公序良俗に反するようなものの
効果を認められないことは当然でございますが、大勢はそのような形で復帰の措置がとられるのではないかという構想で復帰後の組織、手続について鋭意検討中でございます。
それから、琉球政府
裁判所と米国民政府
裁判所の
関係の問題でございますが、沖繩の現行の
司法制度は、沖繩自体の民立法に基づく琉球政府
裁判所と、それからまた占領軍である米軍の布告等に基づく米国民政府
裁判所の
二つの
系列になっておるわけであります。琉球政府
裁判所は、民事
事件につきましては、原則として沖繩におけるすべての人に対して民事
裁判権を有しておるわけでございますけれ
ども、高等弁務官が合衆国の安全、財産または利害に影響を及ぼすと認める特に重大なすべての
事件、米軍人、軍属、米国民である米国政府被雇用者またはこれらの者の家族を当事者とする
事件で、当事者のいずれかの訴願に基づき高等弁務官が琉球の安全、外交
関係あるいは米国もしくは米国民の安全、財産もしくは利害に直接間接に重大な影響を及ぼすと認められるようなものにつきましては、民政府が
裁判権を行使すべきであるという
見地から、その旨の決定がございますと、民政府のほうに
事件が移送されるという扱いを受けておるわけでございます。なお、このような
事件が琉球政府の
裁判所に係属して最終的な決定、命令または判決がなされます以前においては、いつでも高等弁務官はこれを米国民政府
裁判所に移送するよう命令し得る、以上申し上げましたような
事件についてとられるわけでございまして、このような措置によりまして民政府
裁判所の手続が開始されるということになるわけであります。
刑事事件については、米軍人、軍属、米国民で米国政府の被雇用者である者、これらの者の家族を除いて、沖繩におけるすべての者に対して
刑事裁判権を行使できるわけでございます。しかし、高等弁務官が米国の安全、財産または利害に影響を及ぼすと認める特に重大な
事件は除かれます。このような
事件につきましては、民事
事件と同様、琉球政府
裁判所に係属いたしました場合にも、米国民政府
裁判所のほうへ移送されるということになっております。
さらに、米国民政府上訴
裁判所は、琉球
高等裁判所が
裁判権を有し、そこで
裁判がなされた民・
刑事事件で、一つは、琉球政府の最高の
裁判所の
裁判と米国民政府の最高の上訴審
裁判所の
裁判とが相反する場合、つまり両
系列の最上級審の
裁判の結果が相反する場合、それから二といたしまして、合衆国法、外国法または国際法の問題について当事者から上訴のあったとき、または上訴がない場合でも、民政府首席法務官が特に理由を示して
裁判所に申請した場合には、その
事件を再審理する権限を持つわけであります。米国民政府上訴審
裁判所は、再審理をした
裁判を確認し、変更し、無効にし、取消し、または差し戻すことができる。
刑事事件については、有罪判決を取消し、刑罰の種類を変更し、減刑しまたは刑の執行を停止する、このような
関係になっているわけでございます。
なお、民・
刑事事件を問わず、米国またはその機関に対する
裁判権は、米国議会によって特にその権限が与えられない限りは、米国民政府
裁判所も含めて、一切認められていない。これは国際法上の原則でもあろうかと存じます。
以上要するに、現在の琉球政府の
裁判所の
裁判権は、民・
刑事事件を問わず、米国民政府
裁判所との
関係で大きな制限を受けているということができるものと存じます。