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福岡参考人 私は、日本道路公団の参与をしております
福岡正巳であります。
二月九日にカリフォルニアに発生いたしました地震
調査のため、日本
政府の合同
調査団の一員としてアメリカに派遣され、二月二十一日から三月四日の間に
調査を
実施してまいりました。
政府からは私のほかに十一名の人々が、さらに東京都からは河角団長以下七名、神奈川県並びに大阪府から若干名が加わりました。
調査は、これらの人々が一団となりまして、おのおの専門の立場から
実施いたしました。帰国後は、
現地調査の資料並びに知識を交換いたしました。さらに、天然資源の開発利用に関する日米
会議の耐風耐震構造専門部会の合同部会が東京において開催された際に、アメリカ側の部会員によるセミナー並びに資料の提供を受け、現在も
調査、研究を続けております。アメリカ側の話では、
調査の取りまとめは約一年かかるとのことでありますので、私どもはその
調査報告の検討をいたしました上で、最も正確な知識を得、そして結論を得たいと
考えております。
しかしながら、わが国における
地震対策は一日もゆるがせにできませんので、
調査中に見聞いたしましたこと、また、はだで感じましたことをもとにいたしまして
報告書を作成し、その中から得られました教訓を御
報告いたしました。
三月五日に第一回の中央防災
会議に対する
報告、三月三十一日付の第二回の
報告、これはお
手元に配付されておるものと思いますが、これをいたしました。また東京都からは四月に、一九七一年二月九日サンフェルナンド地震
調査報告書というものが発表されております。これらの
報告書の内容をここで詳細に
説明することは、非常に有意義だと
考えますけれども、時間がありませんので、残念ながら割愛せざるを得ません。そこで、これは十分お読みいただくことといたしまして、以下簡単に私の所感を申し述べたいと思います。
まず第一に、今回の地震は、二月九日午前六時という非常に朝早く発生いたしましたこと、ロサンゼルス市の都心から四十ないし五十キロメートル離れた山の中に震央があったこと、地震の規模がマグニチュード六・六と比較的小さかったこと、地震の継続時間が約十秒と短く、かつ大きな余震がなかったこと、水害や火災のような二次的
災害が起こらなかったなどのようなことが重なり合いまして、
災害が比較的小さく済んだということは、全く不幸中の幸いでありました。それでもロサンゼルス市からの
報告によりますと、
被害総額はワン・ビリオン・ダラーズ、つまり三千六百億円に達する巨額になります。アメリカの過去の地震の歴史をひもといてみますと、
被害額としては史上最大であります。現在都市における地震がいかに大きな経済的
被害をもたらすものであるかは、これを見てもわかるわけでございます。しかしながら、耐震工学の発達とその応用は、建物
被害の様相に変化を与え、死者の減少という形であらわれているように思われます。今回の地震の死者は六十四名となっておりますが、耐震建築のしてなかったベテランズ病院の死者四十六名、心臓麻痺と酸素吸入不能による死者十一名を除きますとたった七名になります。
私は、国内の地震の
調査には、
昭和二十一年の南海地震のとき以来たびたび参加しておりますので、地震のためにどのような
被害が出るかというようなことは、経験的にわかるのですが、物がどういうわけでこのようなこわれ方をするのかということは、いまもって完全にはわかりません。なぜこのようなこわれ方をするのか、どのようにすればこわれないようにすることができるかということは、耐震工学によって解明されなければならない、また解明されるはずでございます。ところが、耐震工学というのが未発達であること、どんどん新しい産業が発達し、新しい土木建築構造物がつくられ、これらのものがまだ地震の経験を経ていないというようなことのために、実際には十分解明されないのであります。まことにお粗末な技術的判断にたよらざるを得ないというのが現状ではないかと思います。今回の地震は、よく記録された地震といわれておりますように、約二百台の強震記録がとれましたので、この記録を手がかりにいたしまして、物の破壊がどうして起こるのか、その防ぎ方はどうすればよいのかということが研究できると思います。
地震がおそろしいのは、どこのどの構造物、建築物がこわれるのかわからない、また、その防ぎ方をどうすればよいかわからないということからだと思います。物がこわれなければ、何も心配することはありません。ゆれるだけが大きい、これはたいしたことではないということは、私どもが船に乗ってみると十分経験ができるわけでございます。大洋の中で台風に出会いますと、船は大ゆれにゆれます。船が沈没しないということがわかっておれば、たとえしけが二日、三日続いておりましても、そう心配はありません。地震の場合、震動は短時間に終わりますから、建物がつぶれて死傷する心配がないとしますと、震動が終わった後に平静を取り戻し、火災はぼやのうちに消しとめられるはずであります。物がこわれない
方法が見つかれば、それを実行するためにかかる経費もはじけますし、最小限、人命や大きな二次
災害を防止することから順次手をつけて、経済的実力に応じまして、
被害を最小にする
方法が講じられます。
今回の地震の震央に最も近いところにパコイマダムという洪水調節用のダムがありました。この付近の地質は、花崗閃緑岩という結晶質の岩盤で、ダムの高さは約百メートル、堤頂の長さは約二百メートルあります。堤体はコンクリートでできております。形式は定角型アーチダムです。このダムが完成しましたのは
昭和四年、一九二九年で、耐震設計がなされていなかったのです。ダムの左岸の台地に強震計が設置されておりました。この記録によりますと、重力の大きさと同じ大きさの加速度が上下、前後左右ともに加わったのであります。これは史上最高の値です。ところが、ダムには何らの
被害もなかったのです。ダムの設けられた谷間の山腹は、土砂くずれを起こしており、この点からも、震動がいかに激しいものであったかということがうかがわれますが、ダムは安泰でした。どうしてこわれなかったのかという検討は、建設省の土木研究所でも
実施しておると思いますし、当然アメリカでも
実施しているはずであります。
一方、バンノーマンダムはすべりましたが、危うく大
災害を免れました。これは日本にはない形式のダムで、ハイドロリックフィルのアースダムです。このダムは、新潟で起こったと同じように、砂の流動化現象のためにこわれたのではないかといわれております。この現象は、地震の際に必ずあらわれて大きな
被害のもとになるのですが、その現象は、まだ詳しくはわかっておりません。
建築物、橋梁、地下埋設物などについても、全く同様なことが言えます。
最後に、今回の
調査で得られました教訓並びにわが国で
実施が望まれるもののうちのおもなものについて、一言申し上げます。
お
手元にお配りしたと思いますけれども、ロサンゼルス地震に関する
政府合同
調査団
報告に書いてあります、三ページから八ページまででございます。時間がありませんので、一々の
説明も省かせていただきます。そのほか、いろいろなこまかい見解並びに提案が、ロサンゼルス地震の
調査団員から出されましたので、十分御検討くださいまして、採用すべきものは御採用賜わらんことをお願いいたします。
これをもちまして私の
報告は終わります。
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