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国務大臣(愛知揆一君) まず第一に手続的な問題で申しますと、御案内のように、四十三カ国が批准の寄託をやりますればこの条約が効力を発生するわけでございます。すでに四十三カ国以上の批准は相当前に完了しておりまして、さらに多くの国が集まって最も近い機会に批准の寄託式が行なわれることになります。そうなりますと、効力が正式に発効するわけでございますが、そうなると日本の
態度の表明
ということが非常にむずかしくなる。つまり、効力が発生した以降になりますと、条約に参加するかしないか
ということになりますと、初めから批准と同様の問題が起こってくるわけでございます。そこで、そういうふうな情勢を目前にいたしまして、まず署名をしておいて、そして批准
というものについて慎重な検討を加える余裕を持ったほうが、ただいま
総理大臣の言われましたように日本の国益の立場からいって妥当であると、こういう結論を
政府としては得たわけでございます。しからば、これからどういう点について具体的に問題か
といいますと、大きく分ければ二つかと思います。
一つは安全保障の問題、それからもう
一つは原子力平和利用の問題それらの点につきましては、すでに署名に際しまして相当長文の日本
政府としての
態度を内外に表明いたしまして、世界各国にこれは公
文書として提出もし、また国内的には、全
国民的に問題をともに考えていただきたい
という意味合いから国内にも十分
政府の
態度というものを表明いたしたわけでございます。
そこで、かいつまんで申し上げますならば、安全保障
という命題で考えてみますと、核兵器保有国とそれから核兵器保有をしていない国とが既成事実の上に立って非核保有国が永久に不利な立場になる
というようなことはできるだけ避けなければならない。そこで、この条約がそもそも国際的に話題になり議題になりましたときに、御承知のように、日本
政府としてはずいぶん努力をいたしまして、核兵器保有国の核軍縮義務
というものを本文の中に入れることには成功いたしたわけです。それから、五年ごとにレビューをする
ということを本文に入れることにも、これは主として日本の主張が通っている。こういう経過もございますので、こういうことに踏んまえて、これは六八年の国連総会で勧奨決議が出たときの日本が賛成するときの
態度にも表明されておりますが、今後核兵器保有国がほんとうに真剣に核軍縮
ということについての義務を履行するような努力が誠実に積み重ねられていく、同時に非核保有国に対する脅威を与えない、あるいは非核兵器保有国の安全保障
ということについて十分の配慮がこらされている
ということの誠意と努力を見きわめていく
ということが、これからの日本側としての努力の中心課題であると思います。これは基本的な
態度の問題である。
もう
一つは、非常に具体的な問題になりますが、平和利用につきましては、日本はもう世界的にも現在すでに相当な立場を持っておりますし、これからの可能性の問題から言えば、もう世界の第一級の国になりつつあるわけでございますが、これに対して、現在すでに日本が服しておりますIAEA
——国際原子力機関の査察については、日本は最も忠実にこの査察に服しているわけですが、現状でもユーラトム諸国に対しても相当不公平な扱いになっておりますから、この機会にまず、ことばは悪いかと思いますが、失地を回復する、さらに進んで将来長きにわたって日本の平和利用について過重なる査察あるいは不平等なる査察を日本だけが不公正に受ける、こういうことがあってはならない。で、その点については
先ほど総理からも触れられましたけれども、すでに先月の末から国際原子力機関、すなわちIAEAにおきましては、すでにどういうふうな保障
措置協定ができればいいか、モデル協定の相談なども国際的に始まっておりますが、幸いにして日本の
委員、あるいは原子力機関の
部長クラスにも日本の代表者が入っておりますが、かなりの国際的な信頼を得ながら、日本の立場を表明しながら国際的なモデル協定のよいものができるように
ということについては、かなりの日本としてはよい立場を得つつあるように思われますので、この点については具体的な、また当面する問題として一段と努力を進めてまいりたいと考えておるわけであります。これはもういまさら申し上げるまでもございませんけれども、この条約は多数国間の条約である
ということと、同時にですね、この肝心の平和利用に対する査察の問題などについては、査察協定を守る義務
というものは条約に明らかにされておりますけれども、肝心の守るべき協定の中身
というものは条約発効後二カ年以内にできることになっておりますから、守るべきものができないうちに守る義務だけを持つ
ということについては、いささかこれは日本のような立場の国としては問題があるわけです。そういう点から言って、通常二国間の条約などの場合には、調印即批准
ということは当然のことと思いますけれども、この条約の性格や特色から申しまして、調印と批准
ということについては特殊の考え方をとってしかるべきではないか
というところも、
先ほど政府が署名に踏み切りましたときに考慮いたしました
一つの要素でもあるわけでございますから、特にこの査察協定の日本に不利のないようなでき上がり
ということについて今後努力を払って、そして、たとえばユーラトムが受ける査察と実質的に不平等にならない、平等が確保される
ということを見据えた上でなければ最終的に日本の
態度を明確にすることができない、こういうふうな
態度をとることは私は当然ではなかろうかと思います。
大体以上申し上げましたところで、この条約をめぐる
政府の考え方
というものは御理解をいただけるかと思う次第でございます。