○青木一男君 私は、自由民主党を代表して、
日航機「よど」号乗っ取り事件について、
政府の
報告に対し
質問を申し上げます。
まず、百余人の乗客が飛行機の中で三日間監禁され、全
国民を深い憂慮におとしいれた「よど」号の事件が比較的すみやかに解決し、全員無事に母国に帰還したことは何よりも喜ばしいことでございます。
この結果を見るに至ったことは、ひとえに韓国
政府と北鮮
政府当局の人道主義の理念に基づく行為と協力によるものであり、深甚の謝意を表する次第であります。また、石田機長以下乗務員が、乗客の安全を第一義とし、冷静沈着、事に処し、よくその大任を果たした労苦を多とし、深く感謝するものであります。さらに、身をもって全乗客を救出した山村政務次官の勇気と犠牲的精神に対し深甚なる敬意をささげるとともに、かかる責任感の強い政治家をわれわれの同僚から出したことについて、無限の誇りを感ずるものであります。(
拍手)
私がふしぎに思うことは、「よど」号事件についての国会の論戦、新聞の論調、「よど」号の羽田帰着のときの記者団の
質問を通じて、題目が「よど」号の福岡出発以後のことに集中されておるということであります。しかし、外国に飛んでしまってはわが国の思うとおりにならないことはあたりまえであります。私は、問題の
重点は、福岡を立たせたことにあると思います。全員無事に帰れたのであるから、今回のコースが最善であると思っている人もあるかもしれません。しかし、今回の成功には偶然の要素が多く、当時の条件下で福岡を立たせたことは、乗客の安全という見地からも非常に冒険だったと思います。また、乗客の安全、即犯人の命に従うことであるときめている人も少なくありません。空中にあるときは、まさにそのとおりでありますが、地上で警察の保護圏内にあるときに、なお、同じ方式が通用するとなると警察無用論となるのであります。それでは犯罪の成功を保障するようなもので、事件の再発
防止ではなく、奨励になりかねないと思います。私は、地上では警察の責任で乗客の救出に全力を尽くすべきであって、その点は他の犯罪の場合と異なるところがないと思います。警察の責任といっても、直ちに実力を行使することを意味するものではありません。警察も常に乗客の安全第一を考えるべきものでありますから、ケース・バイ・ケース、最善の道を講ずることになるのであります。
「よど」号事件を顧みて反省すべき点は多々あります。今回のような大事件は未然に
防止できなかったものかどうかという点、また、「よど」号の福岡出発を阻止して国内で問題を解決することができなかったものかどうかという点、これらは、私だけでなしに多くの
国民の疑問とするところであります。国会における
質問によってこの間の
実情を明らかにすることは、国会の責務であるとともに、今後の事件の再発
防止のかぎとなるわけであります。その見地に立って、以下
質問申し上げます。
まず、運輸大臣に
質問します。私は、運輸大臣の現地における苦心と努力に対しては敬意を表するものであります。ただ、率直に言って、あれだけの必死の努力を福岡空港で試みていただけば、なおよかったと思うものであります。「よど」号を北鮮に向け出発させるかどうかはきわめて重大問題であり、日航からも指示を求めてきたと思います。運輸省としては、警察その他関係方面と協議して「よど」号を出発させない方針を決定し、現地に指令したと聞いておりますが、そのとおりであるかどうか、当時の経緯を伺いたい。
政府の方針どおり、「よど」号を福岡にとどめて現地解決をはかることができれば、外国をわずらわすこともなく、最も好ましい方法であったことは明らかであります。ただ、乗客の安全という基本方針から見て適切であったかどうかという点に問題があるわけであります。北鮮への出発を遅延した場合の機内の危険の程度についてはいろいろの見方がありましょう。さりとて、北鮮に飛ぶことが必ずしも安全の道とは考えられなかったと思います。安全航空の保証をとりつける前の北鮮行きは、明白に不法侵入でありますから、非常な冒険であり、少なくとも早期帰還はむずかしかったと思う。したがって、警察庁や運輸省が出発させないと決定したのは正しい判断だと思います。
政府の方針に反しての離陸は、何ぴとの責任において行なわれたものであるか、伺いたいと思います。石田機長の独断によるものと伝えられておりますが、その
理由について、機長の
報告したところを伺いたいと思います。独断専行であっても私は機長を責める気持ちはありません。それは日航の定めたこの種の事件に対処する準則に従っていると考えるからであります。
中央で「よど」号を出発させないと決定した以上、機長の
意思いかんに関係なく、出発を阻止する方法と時間は十分にあったのであります。現地では、最終的に給油バルブを閉じる方法をとることに決定したが、実行段階での行き違いで失敗したと伝えられておりますが、真相はどうであったか、伺いたいと思います。
次に
お尋ねする問題は、運輸大臣、
国家公安委員長及び
総理に対する共通の
質問でありますが、運輸大臣から一括して御答弁されてもけっこうであります。
本件のような事件の起きた場合、現地の
最高責任者は何ぴとが当たるべきものであるか、行政機構及び責任上の問題としての
政府の
見解を伺いたいと思います。
機長が飛行中に武器を使用して脅迫された場合、犯人の命令に従うことは不可抗力と認むべきであります。しかし、一たん着陸し、警察の保護圏に入った場合は事情が異なる。福岡に着陸してからの「よど」号は、もはや経常の航空業務の
対象ではなく、純然たる犯罪の
対象と化したのであります。乗客救助の責任も警察の手に移っていることは明らかであります。したがって、乗客をいかにして救出するか、乗客の安全を確保するため、
最後の手段として犯人の指示する北鮮向け離陸を認めるかどうかということも、警察を
中心とし、関係当局が、機内の
状況、外交関係までも考慮した上の総合判断で決定すべきであって、もはや機長や日航独自の判断にまかすべき段階ではなかったと思いますが、
政府の
見解を伺います。
次に、運輸大臣に
お尋ねします。今回の事件で、「よど」号が着陸してからも、機長が、乗客の安全のためには北鮮に飛ぶ以外に方法なしと即断したことに問題があるのである。この点は、日航の平素の教育訓練に関連があります。日航の制定した「機上不法行為に対する乗員の対応
措置」という規程を見ますと、犯人から着陸を命ぜられたる場合には、乗客がすみやかに解放されるように努力することとあるだけで、警察との連絡については一言も触れておりません。自力解決の意気は壮としますけれども、警察の力を借りずして乗客の解放を実行するという案は、現実を無視したものであり、解放の努力が成功しないときは、乗客の安全のために犯人の指示に従うという飛躍した結論になりかねないのであります。また、日航の対応
措置中には、犯人から国外へ飛ぶことを命ぜられた場合の
措置については一言も触れておりません。これも大きな欠陥であります。
政府は、日航及び他の航空会社のこれらの規程を改めさせる考えがあるかどうかを伺いたいと思います。
次に、
国家公安委員長にお伺いします。今回のような大規模な乗っ取り事件が起きたことに対し、
国民は非常に遺憾に思っております。また、「よど」号が長時間福岡空港に滞留していたのに、重大犯人を国外に逃亡させ、また、乗客救済の任務を自己の手で果たし得ず、韓国及び北鮮、その他諸国の援助を求めねばならなくなったということについて、心ある
国民は非常に残念に思っております。いかなる事情があるにせよ、警察の威信を内外に失墜したものと思いますが、「よど」号事件について
国家公安委員会の見るところを委員長より伺いたいと思います。
犯人は赤軍派の学生であったということでありますが、武装蜂起の演習までやって、大量に逮捕された過激分子の仲間である。また、北鮮またはキューバに渡って軍事訓練を受ける
計画を持っていると報ぜられた連中のしわざであります。徹底的に捜査し、今回のような大事件の発生を
防止すべきではなかったかと思う。公安委員長の見るところを伺いたいと思います。
現行法制は、
国民の自由と人権を尊重擁護することに徹しておるために、犯罪予防を目的とする捜査が非常に困難となっている。この法制上の不備が警察の事前
防止の活動を制約しているという事情があるかないかを伺いたいと思います。
三月三十一日、警察庁は関係方面と協議の上「よど」号を発進させないことを決意し、現地に指令したと聞いておりますが、その決定の
理由と、それがどうして守られなかったか、その間の事情を伺いたいと思います。
私は、あのときラジオを聞いていて、「よど」号を出発させるべきではないと考えた。イスラエル人を乗せたスイス機と異なり、乗客に怨恨を持つわけでもなく、また外国に脱出を目的とする犯人が、自分も犠牲となる爆破をやるはずがないと思いました。また、逃亡不可能な場合であります。乗っ取りだけであるなら比較的軽い刑で済むのに、極刑を覚悟して殺傷をやるはずがないと思いました。また、やけくそになるという危険もありますが、犯人が多数ということは、冷静な判断を期待できると思ったのであります。したがって、「よど」号の出発を阻止しても、乗客に危害を加える危険性は比較的少ないと判断した。これに反し、北鮮へその了解なしに飛ぶことの危険率がはるかに高いと判断したのであります。北鮮の空中、地上の警備が厳重で、不法侵入機が撃墜される危険性があり、またかりに機が安全に着いたとしても、乗客の早期帰還は期待できないと判断したからであります。日航の長野部長は、参議院で、韓国が撃墜しないように米軍に頼んだと証言しているほどであります。一部には、金浦に寄ったのがいけない、平壌に直行することが一番安全で、早期解決の道であったと論じている人もありますが、それは当時すでに北鮮から安全保証の了解を得ていた人でなければ言えない論であろうと思うものであります。したがって、警察庁が出発阻止を決定したことは当然であると私も思う。
この種の重大犯罪の再発を
防止するには、万難を排して犯人を逮捕して処罰し、その犯行目的を失敗に終わらせることが
一つのきめ手であります。今回の事件で、犯人が国外脱出の目的を達成したことは遺憾であります。この見地から、今後に処する方針について、委員長の
見解を伺いたいと思います。
次に、外務大臣にお伺いします。外務大臣は、三月三十一日夜の段階で、「よど」号の金浦空港出発に反対されていたようでありますが、その
理由について伺いたい。また、その
理由は、「よど」号の福岡出発にも適用されるものであったかどうかを伺いたいと思います。
次に、金浦における「よど」号の国際法上の地位についてお伺いします。「よど」号は航空協定による合法的の存在ではない。犯罪による略奪された飛行機であり、その犯罪は金浦空港でも継続しており、「よど」号処理の管轄権は韓国側にあったと思うが、どうでありますか。韓国
政府はその法的地位にもかかわらず、よく
日本側の意図を了解し、乗客の救出に全力を尽くしていただいたことは感謝にたえないところであります。二日まで説得を続け、三日に乗客全部が
日本に帰ったのであるから、大成功であったと私は思います。外相の見るところを伺いたいと思います。
「よど」号の北鮮側の取り扱いについてお伺いします。北鮮側が四月三日の「よど」号の乗り入れについて、事前の了解なしに入ったのであるから不法侵入であり、有罪であるという
見解をとったにもかかわらず、人道主義の立場から、山村政務次官と乗務員を直ちに帰さしてくれたことは、重ねて感謝しなくてはなりません。犯人たちがいま北鮮でいかなる処遇を受けているか、判明しているならば伺いたいと思います。
次に、法務大臣にお伺いいたします。
昭和四十三年三月の参議院予算委員会で、私は過激派全学連の暴力行動に対し、破壊活動
防止法を発動して取り締まるべきではないかと
質問したのに対し、法務大臣から、破防法を適用する
方向で
検討中であるとの答弁がありました。公安調査庁では、赤軍派学生に対して破防法を適用したのであるかどうか、これからやる方針であるかどうかを伺います。
現行破防法は、その適用についてこまかい制約があって、有効な事前取り締まりに適しない事情があるというならば、その事情を伺いたいと思います。
次に、
総理に
お尋ねいたします。今回の「よど」号事件でいろいろの国際問題が起こったのは、「よど」号を福岡から出発させたためであります。
政府のとった
措置について批判や反省があるとすれば、その
重点は福岡出発までの
措置についてであるべきであります。三月三十一日、警察庁は「よど」号を出発させないという方針を決定した。しかるに、事実「よど」号が出発してしまった。それは中央でも現地でも関係者間の連絡が不十分であり、中央の方針が現地に徹底しなかったためであると思います。現に日航の長野部長の証言によれば、「よど」号を板付に帰るように命令してほしいと米軍に依頼しておる。私はそれくらいなら、なぜ板付を出発さしたかと言いたいのであります。今後に備え、警察を
中心として、空港における総合行政体制を定めておき、事あったとき迅速妥当な処理をはかることが必要であると思いますが、
総理のお考えを伺います。
次に、この種犯罪の再発
防止には、
政府はいかなる対策を考えているか伺いたい。刑罰法や条約の
整備その他いろいろな案が含まれますが、根本的には、小学から大学に至るまで教育を刷新し、人倫の道を教え、この種の社会の平和を乱す犯罪は人道と文明への敵であり、許しがたい悪であるということをたたき込む必要があります。それと同時に、大学や高校の学生が過激活動におちいる
原因を除くことに努力せねばなりません。また、過激派学生に対する警察の取り締まりを徹底的に実行することであります。
また、この種非人道的の犯罪を許さないという世論の強い
圧力が必要であると思います。犯人は英雄気分でおるかもしれません。若い世代の人々がその風潮に感染しないようにすることがきわめて肝要であると思います。
総理のお考えを伺いたいと思います。
国の最も重要な行政である警察について、
総理大臣が指揮監督権のないいまの
制度は憲法に抵触するというのが私の持論であることは、
総理も御存じのとおりであります。
総理は今度の事件に関連し、この種犯罪の予防と事後の処理について、
中心機関として働くべき警察が
総理の指揮下にないということの不
合理と不便を感じられたかどうかを伺います。私もこの席で
総理に対し、警察行政についての責任に触れ得ないのをすこぶる遺憾に考えております。
次に、韓国と北鮮に対しては無条件に感謝すべきであり、非難めいた言辞を弄するのは非礼であると私は考えます。今回の事件を機として北鮮との関係を
改善すべしとの説があります。漸次友好関係を増すことはもちろん努力しなければなりませんが、今日の両国に対するわが国の基本的外交姿勢の差異は、複雑な国際的沿革のある結果でありまして、これを変更することは慎重を要するものと考えます。
総理の御所見を伺って私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕