○鈴木一弘君 私は公明党を代表して、
政府の所信表明に対して、
総理並びに
関係閣僚に若干の
質問を行なうものであります。
佐藤総理は、一九七〇年を「
内政の年」と銘打っておりますが、その最大の焦点は、
物価の
上昇をいかに抑制し、
国民生活の安定をはかるかということだと思うのであります。私は激動の一九七〇年における
日本経済の方途について、
物価問題に焦点を当てて
質問をしたいと思うものであります。
政府の
経済運営に対する態度を見ると、
経済成長第一
主義でありますが、一体、
国民総
生産が自由
主義諸国の中で第二位であり、一人
当たり国民所得が
世界の十九番目であると言っていること自体ふしぎに思うことがあるのであります。
国民にとって大事なことは、
国民総
生産ということより、一年に何着の洋服を
国民一人一人が買え、何年で全
国民に住まいが行き渡り、食料は、バターはどのくらい、白菜は一人
当たりどのくらいになるかという問題を
政府はどのように考えているのかという、
基本的な
生活権に関することであります。この上から
国民総
生産、
国民所得を考えるという、
国民生活本位の
経済、財政
運営こそ必要であると言いたいのであります。ところが、明年度予算は警戒中立型、
物価抑制型と言いながら、その
実態は防衛費が戦後最大の一七・七%増というものであり、その内容は富国強兵指向型であり、
物価上昇型であります。まさに明治時代の殖産興業、富国強兵に戻りつつつあるきざしさえあるのであり、
国民の
生活権はますます脅かされようとしておるのであります。
そこで、まず第一に、財政
運営の問題についてお伺いいたします。財政
運営のいかんが
物価上昇を招くからであります。本年一月に、財政
制度審議会の
報告の中で、「今後さらに
経済の持続的成長を実現し、
物価の安定を図るためには、需要を押えるという総需要の調整が必要である。このためには財政・金融
政策による景気調整が必要である」と述べ、
物価の
上昇を押えるには総需要を押えることが重要であり、そのためには、節度ある財政の
運営がかなめであるとも強調されているのであります。まさに私はこの指摘のとおりだと思うのであります。ところが、
政府は、節度ある財政
運営どころか、新年度予算では、これを踏みにじって超大型予算とし、景気刺激型、
物価上昇型予算になったことは周知の事実であります。一九七〇年の
日本経済をいかにして
運営していくおつもりなのか。
政府の
演説では、慎重な財政
運営としか述べていないのでありますが、総需要抑制、
物価上昇を押える
運営はどうするのか、明確なる
答弁をしていただきたいのであります。
第二に、財政の規模と
経済成長率から見た
物価の
上昇についてであります。四十四年度予算について見ると、財政規模が一五・八%の
伸び率に対して、
経済成長率を一四・四%に見込んでおりましたが、実際には一八・五%になる
見通しであります。これに対し、新年度は財政規模では四十四年度を上回るのはもちろんのこと、不況脱出を旗じるしにした四十一年度をさえ上回る一七・九%の伸びであるのに対し、
経済成長率は四十四年の実績見込みより少なく見られておりますが、はたしてこれで景気刺激でないと言うのでありましょうか。また、
消費者物価においても、四十四年度は五・七%の
上昇は避けられない情勢にありますが、新年度予算では、財政規模の伸びが前年度より大きいのに、
物価の伸びが前年度より少ないということになっております。これでは、はたして
政府が
物価を押える意図があるのだろうか。再び
政府主導型
物価上昇となるのではないかと思うが、はたして四・八%の
物価上昇に押えることが可能であるかどうか。また、成長率は過小見込みではないのかどうか、
総理の明確な御
答弁をいただきたいのであります。
一方、
政府は、前年度実績との比較を避けて、むしろ
政府の財貨サービス購入の伸びが少ないので、決して景気刺激型、また
物価上昇型にはならないと
答弁を繰り返しておるのでありますが、問題は、財貨サービス購入が与える景気刺激の度合いにあるのであり、
伸び率だけでは判断できるわけがありません。しかも、
政府の財貨サービス購入の内容は、戦前の消費
中心型から、現在の投資偏向型に変わってきているのであり、それだけ景気刺激、
物価への波及は大きいと見なければなりません。また、財貨サービス購入以外の
補助金や振替支出の中でも、景気を刺激するものがあることは明白な事実であり、したがって、この点からも景気刺激型といわざるを得ないのでありますが、どう考えていらっしゃるのか伺いたいところであります。
第三に、歳入歳出の内容についてであります。
物価の安定のための歳入の有効な活用は、いかにして自然増収分の中から
減税として
国民に戻すかということであります。そこで、まず、自然増収が一兆四千億円の巨額にもかかわらず、
実質減税が千七百六十七億円に終わったということはあまりにも少額であり、自然増収に見合わないと思うのであります。最近五カ年間における自然増収に対する
減税財源の割合が一七%に達していることから見ても、新年度の予算でそれが一二%に急激に落ちているということは、
政府の財政硬直化のしわ寄せを
国民に強く負担させていることになり、まことに許せないことであります。少なくとも五千億円ぐらいの
減税は見込まれるわけでありますが、このような事実について、
国民の納得のいくように
答弁をいただきたいのであります。
次に、歳出における当然増経費の伸びと新規
政策費の割合についてであります。四十年度においては、財政の伸びの中に占める当然増に対して新規
政策費は約倍になっておりましたが、新年度予算に至っては当然増に対して新規
政策費は三分の一と、その割合は全く逆の様相を呈しております。財政硬直化の問題は、このようにますます深刻さを大きくしているのであります。私はこれらの財政硬直化を打開するために、現行の予算編成における実績積み増しによる配分
主義を根本的に改め、まず実績の洗い直しをすべきであると思いますが、そのようにする御意思がおありかどうか、お伺いしたいのであります。
いままで申し上げたような節度のない財政運用では、総需要を引き起こし、
物価の
上昇を招くと断定するものであります。まさに、
政府こそ総需要を
拡大しているものではありませんか。この際、財政硬直化にメスを入れるべきであるが、どう努力したのか、またするのかをお伺いしたいのであります。
また、国債の償還費が年々増加の一途をたどっているということであります。すでに国債の累績額が二兆九千九百五十一億円にもなり、その償還費が新年度で二千九百億円も見込まれております。
減税分に回されたのはわずか千七百億円であるのに対してあまりに大きく、決して健全な財政
運営とは言えないのであります。私は、このような
実態からして、国債発行のストップについて考慮すべき時期に来ていると思いますが、
総理の
見解を伺いたいのであります。
均衡予算を戦後続けてきた
わが国財政が、不況対策としてとった国債発行であれば、景気回復後は当然やめるべきであります。しかるに、景気回復後もとまらず、そのために従来の景気調整として用いられてきた金融操作の効果は大きく減少してきております。国債発行を軸として財政金融
政策を用いるとすれば、国債発行自体、厳密に行なわなければならないはずであります。まして、一般会計財源に回すなどという不明朗な姿ではならないと思うのであります。国債発行当時言われたように、赤字公債として一般財源充当に充てられ、その上、市中の遊び金を吸い上げるといいながら、事実は日銀の買いオペレーションや買い切りオペのため通貨の急膨張を招き、
物価上昇の原因ともなっているのであります。重視すべき点は、国債発行が、財源は幾らでもあるという思想と、通貨価値の下落は避けられないという考え、したがって、インフレはやむを得ないという思潮を生み出してきていることであります。引き締めろと一方で言っても、一方で国債による景気刺激を行ない、財政硬直化解消と言いながら償還のための国債費をふやしているのでは、景気調節も、
国民への協力依頼も全く説得力のないものとなってくるのであります。このように慢性的財政膨張、金融操作に対する不信を招いた
政府の強情ぶりにはあきれ返るばかりとしか言えないのでありますが、国債発行はいつまでに解消をするつもりか、お伺いをしたいのであります。
もし、やむを得ず発行をするというのであれば、税収その他による会計は一般会計とすることはいままでのとおりでよろしいと思いますが、国債
収入による会計は別にするべきであるということであります。すでにアメリカでは、国債
収入による投資的経費については別勘定となっているはずであります。このようにすれば、国債を経常的経費に使用することはなくなり、いわゆる赤字公債というおそれはなくなってくるのであります。また、投資的勘定の伸び縮みによって景気調節の効果をあげ得るということになりましょう。したがって、一般会計を二つに分け、国債発行による歳入の分と、いままでの一般会計にするべきであると思うのであります。一般会計に、国債
収入とそれによる事業
収入を一緒に入れていることは、将来、国債による軍備の拡張とか、殖産興業という
産業への強力なてこ入れをたやすくすることであり、これは富国強兵、大企業
優先予算への危険性を残すことであり、それだけに強く分離をはかるべきであると思うが、
総理の御
見解を伺いたいのであります。
第四に、貿易収支についてであります。貿易収支の
見通しについて見ると、四十四年度では輸出を二一・八%に伸ばし、輸入を二〇・六%に押え、輸入よりも輸出の
拡大を強く打ち出しているのであります。ところが、新年度予算においては輸出を一四・六%、輸入を一七・五%に伸ばすことにしており、前年度とは貿易
方針を一転して輸入の促進をはかろうとしているように見受けられます。このことでまず考えられることは、残存輸入制限の撤廃などに見られる大幅な貿易の自由化の
拡大、ひいては
自動車などに影響のあるいわゆる資本の自由化の急速な
拡大、あるいは関税の引き下げといった
日本経済の方向
転換であります。そこで、私は、新年度において
政府はなぜ貿易収支をいままでの態度と一変して輸入の促進をはかろうとするのか、その
基本的
政策を伺いたいのであります。
輸入促進は
物価引き下げになるという考えもありますが、卸売り
物価に関する限りは輸入意欲の強い原材料、いわゆる銅、アルミなどの非鉄金属等については、海外のインフレ要因をそのまま国内に招き入れるおそれが多いと思うのであります。その証拠に、ここ一、二年間における卸売り
物価の
上昇の原因の中で、輸入原材料の
上昇は実に需要の強さに次ぐ重大な要因となっているのであります。また、
世界的にも定評のある
わが国の
世界市場に対する需要の強さは、必ずや海外原材料の大幅
高騰さえ引き出すことになりかねないのであります。結局、
政府が考えている輸入促進の
拡大は結果的には卸売り
物価の
上昇を招き、ひいては
消費者物価の
上昇につながっているわけであり、いかにして
政府は輸入の促進と
物価の
上昇を調整し、
国民福祉の増進を行なおうとしているのか、お答えをいただきたいのであります。
また、最近、特に中共やソ連が非鉄金属をロンドン市場などで大量に買い付けていることが輸入原材料の急
上昇を招いていることは周知のとおりでございますが、これに対する方策はあるのかないのか、どうとられるのか、お伺いをしたいのであります。
第五に、新年度予算における
税制改正についてお伺いをいたします。
所得税減税については、
昭和四十三年七月の
税制調査会の長期答申にある
標準世帯夫婦・子供三人の
課税最低限百万円を
目標にして、今回ようやくその線に達したわけであります。これによる
減税額二千四百六十億円は、決して
政府の自賛するほどの大幅
減税ではないのであります。私は、百万円という
目標は二年前の
目標であって、その間の
物価の
上昇率一一・一%を考えればもっと
課税最低限を
引き上げなくてはならない、最低百三十万円程度が妥当であると思うのでありますが、今後の数年間にどのくらいまで
課税最低限を
引き上げるのか、構想と
決意をお伺いしたい。
また、五人
世帯を
標準とすることも、かつて参議院予算
委員会での私の
質問に対し、
総理は四人に改めることの検討をかたく約束をされたのでありますが、その後どう検討されたのか、お伺いをしたいのであります。
今回の
減税は、いずれにしても不十分であり、実際には所得
上昇に伴う税の増加分の一部を調整するにとどまっております。しかるに、これをもって
所得税減税の
目標は達成できたのであるから、今後は所得
減税を控え目に押えようとする発言が
政府内にあるやに聞き及んでおりますが、これは大いなる誤りであると思うのであります。この際、この点について腹蔵のない明確な
答弁をしていただきたいのであります。
また、法人税についてでありますが、法人税率は、不況対策を理由に
昭和四十年度に一%引き下げられ、
昭和四十一年度にさらに二%、合わせて三%も引き下げられたのでありますが、その後の景気回復という
現状からも、あるいは国際的に見て低い法人税の
実態からも、もとに戻すべきであるとする意見が強く出されていたのであります。私は、企業の付加価値額の配分から見ても、三%以上
引き上げるべきであると思うのであります。新年度予算においてようやくこれが若干実現したのでありますが、当初、大蔵省の考えていた二%
引き上げの線からは大きく後退し、二年間の臨時措置として、留保分については一・七五%の付加税を課することになったのであります。また、法人税の
引き上げの問題については、
税制調査会の答申原案にあった「法人税の増強による社会資本の
充実」とか、「法人の
税負担は戦後最低の水準であり、諸外国に比べて相対的に低い」といったような文章が最終答申書では削られているが、率の問題といい、この問題といい、自民党や財界などの圧力に
政府が負けた結果ではないかと、このように思うのでありますが、真相はどうなのか、お答えをいただきたいのであります。これは、税財政を私する問題であるだけに、はっきり答えていただきたい。また、それに対する
決意を
総理の口から
国民に明言していただきたいのであります。
次に、利子、配当課税についてでありますが、利子、配当課税の優遇等、すなわち分離比例課税についても、かなり以前から批判が多く出ており、
税制調査会でも本則に戻すべきことを何回となく述べてきたのであります。新年度予算においてようやく手がつけられるようになったのでありますが、やはり財界筋の反発が大きく、結局、利子についても配当についても優遇措置を五年間残したのであります。このことはたいへんな後退であり、本年三月三十一日の特別措置期限切れを目途として廃止するべきであるという
国民の多くの
期待を裏切ることになったわけであります。その上、従来三年区切りであった特別措置を五年間とするということは、むしろ
税制の改悪であるといわなければなりません。利子、配当課税について今後どうする気なのか、即時、特別優遇措置の撤廃をすべきと思うが、
答弁をいただきたいのであります。
七〇年代における課税問題の焦点は、現在のような低所得層からの累進課税、十種に及ぶ所得控除と税額控除による繁雑な平等化措置、租税減免特別措置などを改廃して、
税負担の公平化をどの程度まで実現できるかということであります。
政府は、七〇年代において
税負担の公平化をどのように進めていくつもりか、税による所得の平準化をどうはかるつもりか、その対策と長期的ビジョンを明確にしていただきたいのであります。
第六に、
物価問題についてであります。
まず、
物価政策の基礎となる新
経済社会発展計画の
策定にあたって、その
基本的
姿勢についてお伺いをいたします。新
計画の課題として、
政府は、「
物価安定を最
優先政策に取り上げる」と、その内容を明らかにしているのであります。さきの所得倍増
計画や中期
経済計画、あるいは
経済社会発展計画など、過去数回にわたってつくられたこれら長期
経済計画が現実の
政策運営に有効に機能を果たしたことがいまだ一度もなかったことは御存じのとおりであります。その原因は、従来の
計画が
経済成長率の
目標を実勢より常に控え目に見過ぎたことも当然でありましょうが、より本源的には長期的財政
計画がないことに基因しているものと考えざるを得ないのであります。この長期の財政
計画の上に立っての
経済計画でなければ、結局このたびの新
経済社会発展計画も、これらの過去の
経済計画と同じ轍を踏むことは明らかであろうと思うのであります。私は、この際、まずこの長期にわたる財政の
見通しを立てるべきであると思いますが、
総理は、その作業に積極的に着手するお考えがあるのかどうか、お伺いしたいのであります。
次に、
経済の寡占化に伴う管理価格の安定の問題についてであります。寡占化が進むことは、大企業の市場支配力を強め、競争を制限するおそれを生じさせるのであり、最悪の場合には、大企業の定めた価格が高いところで固定され、
物価の
上昇、特定企業だけの高利潤による不公平な分配、競争刺激の喪失や、産出高の制限による成長率の鈍化、失業の発生など、
国民経済を破壊するに至ることは、先刻万々御承知のとおりであります。
総理は、
日本の
経済を守り、
物価を安定させるため、管理価格の設定について、今後どのように対処していくのか、御
答弁をしていただきたいのであります。
次に、公共料金の値上げが
物価上昇の元凶であることは、言をまたないところでありますが、
政府は、過去数年間にわたり、国鉄運賃の値上げをはじめとして、積極的に公共料金の値上げを行ない、
政府主導型
物価上昇を招いているのであります。すでに、今年に入っても、タクシー料金の値上げ決定に続いて、
医療費、さらに大手私鉄、地下鉄運賃などの値上げの問題が一斉に続出してきているのであります。このような
国民不在の
政治姿勢に対して、
国民は大いなる
政治不信をますます深めているのであります。もはや「
物価安定に努力する」、「
物価対策を最重点
施策とする」といった抽象的な
答弁にはもう
国民はだまされないというのが偽らざる実感であります。もし、
総理がほんとうに
物価の安定を目ざし、
消費者物価上昇率を四%台に押える
決意があり、このことに
政治生命をかけているとお考えになっているなら、この引き続く一連の公共料金の値上げをストップさせるべき具体的な
実行策を示していただきたいのであります。
物価の安定を目ざす
総理の
勇断ある処置を
期待したいのでありますが、その
決意がおありかどうか、お伺いしたいのであります。
また、公共料金の決定に際しては、現在の各種審議会などばらばらに決定をみているのを改め、一本化し、厳正中立な裁定機関を設けて検討し、決定すべきであると考えますが、そういった機関を設ける意思があるかどうか、お伺いをしたいのであります。
次に、給与所得の大半を占め、極度に
国民生活を圧迫している家賃の問題についてお伺いをいたします。昨年、
イギリスの
経済紙「ファイナンシャル・タイムズ」は、
世界の主要都市の
生活費
調査結果を掲載いたしましたが、それによりますと、「
東京の家賃は、 ニューヨークのそれより高く、
世界第一位であり、食品は第二位で、安いのは
賃金である」と発表し、「住みにくい
東京」とらく印を押しております。民間借家の家賃は、
総理府
統計局の四十四年十一月の
調査によれば、
東京では三・三平方メートル
当たり千八百五十円、前年同期の千七百十円から約八・二%の
上昇となっておりますが、現実には一畳
当たり千五百円から二千円になっております。その契約内容は、賃貸期間が大体二年、契約のときには、権利金、敷金、礼金、前家賃などを合わせるとざっと十万円ぐらいかかり、やっと落ちつけたと思う間もなく契約期間の二年間があっという間に過ぎてしまい、その上、
物価上昇のあおりから家賃を上げてくれと家主に責め立てられ、子供ができたら出ていけという
状態でありますが、このような現実を
総理ははたして御存じでありましょうか。地価公示
制度がいよいよスタートしようとする今日、
政府は、これらの状況を踏まえて、家賃の公示
制度も考えてしかるべきであると思うのでありますが、お考えを伺いたいのであります。
また、公共
住宅も、地価の
高騰、
建設費の値上がりの影響を受けて年々
上昇し、低家賃であるべきはずの
公営住宅も、第一種
住宅の場合、月収二万四千円から四万円の入居資格に対し、
東京都営
住宅の例では、その家賃が八千円から一万円と、入居資格に対して高額になっております。さらに、
公団住宅の家賃が三万円になろうというに至っては、これはもう決して庶民のための
住宅とは言えないのであります。それでもなお応募率が高いということは、いかに
住宅難が深刻であるかということを物語っているものであって、多くの
勤労者がやむを得ず高い家賃を払って劣悪な民間の借家に入居しているという
実態を見のがしてはならないはずであります。昨年行なわれた
住宅世論
実態調査によっても、大都市圏の約六割が
住宅に不満を持っているという結果が出ております。このような庶民の切実な要求に対して、まず
政府のなすべきことは、低家賃の
公営住宅を大量に供給することであります。と同時に、公営、公社、公団を含め、公共
住宅全般について、現在の原価
主義家賃
制度を根本的に検討し直し、これら公共
住宅を同一管理体制のもとに置き、現実の入居資格に定められた
収入から見た適正な価格をきめるべきであると思いますが、
総理の
所見をお伺いしたいと思うのであります。
次に、
政府の無策を笑うかのように激しい値上がりを続けている地価の問題について、
総理並びに経企庁長官にお伺いをいたします。
日本不動産研究所の四十四年九月の
調査によれば、全国市街地の
平均価格指数は、
昭和三十年三月の十三倍にもなり、その上、昨年三月以来、半年の間に約一〇%の大幅値上がりを示しております。しかも、最近の傾向としては、地方都市の商業地、
住宅地の地価の
上昇率が六大都市の
上昇率を上回っております。このような傾向が続くならば、この数年で、
東京、大阪の二大都市圏の三十キロ圏から三・三平方メートル
当たり二十万円以下の土地は姿を消し、それがまた全国に及ぶであろうことは、過去の例から見ても明らかであります。
わが国よりはるかに所得水準の高い欧米においてさえ、大都市から一時間程度の
住宅地が三・三平方メートル
当たり四、五千円であることに比べると、
わが国の大衆の暮らしの内容は、
政府が自慢する
経済成長とはうらはらに、ますます貧弱なものと言わざるを得ないのであります。今日の地価の
高騰をこれまで許したのは、政権をとる者の大きな罪悪の
一つであります。なぜかならば、
政府自身、地価安定について三十年代の後半から地価対策閣僚協議会などで決議したり、宅地審議会、土地問題懇談会、
物価問題懇談会などから各種の
提案がなされてきたにもかかわらず、一部利害
関係者の圧力に屈し、土地問題の解決を放置してきたことが何よりの証拠であります。
総理は
施政方針演説の中で、「特に、最近における著しい土地価格の
上昇は、
住宅建設や
生活環境の
整備をおくらせている」と述べ、また、経企庁長官は
経済演説の中で、「強力な総合的土地対策を進め、地価の安定を達成することにより、
国民の
期待にこたえたい」と述べておりますが、米作削減を
中心とする農政の
転換と新都市
計画法の施行という一大転機を迎えた今日、どのような総合的土地対策を講ずる考えなのか、具体的にお伺いしたいのであります。
このように、今回の
施政方針には疑問が多々あるのでありますが、それを一言にして言えば虚飾と実像の違いであります。警戒中立、
物価安定は虚飾で、その実像は景気刺激、
物価上昇であるとしか言えないからであります。
次に、この
国民生活無視の傾向は
社会保障においても歴然たるものがあります。
社会保障制度審議会が
昭和四十三年十二月二十三日の申し入れ書の中で、「
昭和四十年までは若干の進展があったがその後は停滞気味であり、現在では、人口一人当り水準でいえば前記
目標のほぼ三分の一、
国民所得に対する比率でいえば
目標の二分の一にしか到達していない。すなわち、
わが国の
社会保障は表面的には大いにすすんだ形になったが、その
実質はむしろ後退ぎみと言わねばならない。」と述べております。そこで伺いたいのは、何が欠けて
社会保障の
充実がおくれたのかということであります。私は、まず欠けているのは
社会保障計画であると言いたいのであります。
社会保障に対する長期ビジョンは、いまだかって明らかにされたことがありません。これは全く
政府の怠慢というほかありません。一体、
計画を立てられるのか、ビジョンはどうするのか、お示しいただきたいと思うのであります。
次に、現在最も必要とされている
児童手当と
老人対策についてお伺いをいたします。ILOの
社会保障最低
基準の条約でも、
児童手当は重要な
部門を構成しているのであり、
わが国においても現在二百二十二の
地方自治体が、乏しい財源の中から
実施に踏み切っていることからも、その
重要性は疑いをいれません。また、
総理及び歴代の厚生
大臣も、
昭和四十三年度
実施、あるいは
昭和四十五年度
実施を
国民に公約してきたのであります。しかるに、本年度も
実施できないということは、
国民軽視、
国民不在の
政治であり、
総理の言われる内の
繁栄とはほど遠いものであると言わざるを得ません。
児童手当実施に一体いつ踏み切るのか、
答弁を求めるものであります。
また、最近の社会構造の変化や
生活環境の変化が
老人問題をますます深刻な社会問題へと導いております。まさに、
社会保障の不備が最も集中的にあらわれているのが、この
老人に対する福祉の問題であると言っても過言ではありません。長年、
国家社会の
発展に貢献してきた
老人は明らかに国の功労者であります。ところが、現行の
所得保障である
年金制度は全く実効がなく、現在の
物価高ではしょせん豊かな潤いのある
生活は望むべくもない実情であります。また、
核家族化の傾向のうち、
住宅事情はますます悪化し、さらに
老人に欠くことのできない
医療保障はあってなきにひとしい
現状であります。また、七十歳以上の
老人四百三万人のうち、三百十五万人が
老齢福祉年金を受給しておりますが、
月額二千円で一体何が求められるのでありましょうか。また、六十歳以上で約五十万人近くもいる寝た切り
老人の対策のおくれ、さらに、養護、特別
養護老人ホーム等の福祉
施設は全国に約八百か所、約六万六千余の収容能力にしかすぎず、
養護老人ホーム一つを取り上げてみても、入居を希望しながら入居できない
老人が全国に四万人もいると推定されております。このように、すでに入居している
老人への処遇は言うに及ばず、高い
経済力と文化を誇る
わが国において、
老人の自殺率が
世界有数ということは、この上ない恥辱でなくて何でありましょうか。これに行き詰まった
老人問題の焦眉の急を告げる所得、
住宅、
医療、雇用の四項目について今後どう対処されるのか、具体的に対策を明示願いたいのであります。
最後に繊維の自主規制についてであります。米国は、繊維製品の輸入を制限するため、
わが国等
関係諸国に対して自主規制を強要してきましたが、昨今の
わが国に対する二国間協定締結の申し入れに見られるごとく、米国における繊維製品輸入制限問題は一刻も予断を許さない情勢を迎えているのであります。このような規制要求は、自由な国際貿易に逆行し、ガットの精神に違背するだけでなく、米国繊維
産業が好況である
現状から見ても不合理なものであります。ケネディ・ラウンドによる関税一括引き下げを通じて、
世界通商の
拡大を強力に促進してきた米国が、このような措置に訴えようとすることは、大国エゴイズムのあらわれとしか言えないのであります。自主規制の強要は、
実質的には輸入割り当てと同等の輸入制限であり、この問題は単に繊維製品だけでなく、その他の商品にも波及するおそれが強いのであります。
そこで、まず第一に、
総理は、包括的協定及び二国間協定の実現を阻止し、あくまでガットの場において問題の解決がはかられるよう、強力な
外交交渉を貫き通す
決意がおありかどうか。
第二に伺いたいことは、
政府内の繊維の自主規制に対する
政治姿勢について、意見の統一ができていないのではないかということであります。下田駐米大使が、本国
政府の訓令の趣旨と違った発言をしており、また、前通産
大臣と現通産
大臣との
見解が大きく違ってきておりますが、この際、統一
見解を
総理より明らかにしていただきたいのであります。
第三には、アメリカに対する忠実
主義により、韓国、台湾、香港などの東南
アジア諸国あるいはEEC諸国に対する信用を大きく失う懸念がないかということであります。現に米国は、
日本が協定交渉に応じるのを待って、台湾、韓国、香港など東南
アジアの輸出国に二国間協定の締結を働きかけようとしているのであります。
わが国は、これまで東南
アジアの輸出国と協調して米国の繊維規制に反対してきたのであります。いまここで態度を変えるならば、
関係国の不信を買うことは必至でありますが、
総理は、これら
関係国に対してどう対処していくつもりなのか、明確に御
答弁を願いたいのであります。
以上をもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕