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説明員(川城巖君) 私、
国立衛生試験所副
所長の川城でございます。
ただいまの御質問につきまして、農薬にもいろいろ種類がございますけれ
ども、本日の御質問の中心と
考えますのはBHCということと存じますので、その点に焦点を合わせましてお答え申し上げます。
BHCにつきましては、諸外国でも農薬として使っております。しかし、わが国においてももちろん使っておりますけれ
ども、外国と日本とは、やはり風土の相違がございまして、その
使い方あるいは使用量等について、だいぶ異なっております。ということは、わが国に発生する病害虫あるいは植物の病気等が、それらが、即、外国におけるものと同じであるということではございませんので、そういう点から、おのずから、
使い方、使う量も違ってまいるということでございます。
もう少しBHCそのものについて、こまかく御説明申し上げますと、外国で使っておりますBHCというものは、ガンマBHCというのを使っております。ところが、これは非常に化学的なことで、たいへん恐縮でございますけれ
ども、BHCは、異性体というのがございまして、この異性体というのはどういうものであるかと申しますと、化学的に申しますと、組成としては、元素として、炭素、水素、塩素というようなもので成り立っておりますけれ
ども、組成は同じでも、その配列のしかたによりまして、でき上がった化合物、同じBHCと名づけておりましても、性質が違ってまいります。それを異性体と申しておりますけれ
ども、もう少し世俗的なたとえで申しますと、
一つの同じ腹からの兄弟あるいは姉妹と言ってよろしかろうと思います。血は同じでありましても、顔、形が違っております。あるいは性格が違ったりというようなことが、われわれはこの社会に経験するところでございますけれ
ども、それと同じような
感じであると申し上げてよろしかろうと思います。
そこで、異性体に、現在、五つあるいは六つぐらいBHCについて知られておりますけれ
ども、外国では、その中のガンマというのだけ使っておりまして、日本では、そのほかに、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、その他一、二ございますけれ
ども、そういうもののミクスチュア、混合物を使っていたわけでございます。そこで、FAO、WHOの残留農薬の
専門委員会というのがございます。これは、インターナショナル、国際的なものでございまして、残留農薬についての毒性の問題等を勉強する国際的な
機関でございますけれ
ども、そこで取り上げておりますのはガンマBHCだけでございます。デルタについては全然取り扱っておりません。ということは、日本だけ、ガンマ、ベータを使った、異性体を含んだものを使っております。外国では、純粋のガンマだけのBHCを使っておるというような状態でございますので、そのような結果になっていたわけでございます。したがって、現在までのところ、ベータBHCについての詳細な安全性あるいは毒性についての試験というのは、報告がほとんどないと言ってよろしいと思います。
そこで、昨年ごろから、牛乳中のBHOの問題がいろいろと学会でも問題になってまいりました。その分析のデータを見ますと、アルファも検出されておりますほかに、ベータ、ガンマ、デルタ、そのようなBHCが検出されてまいっております。そのうちで一番検出率の高いもの、つまりたくさん検出されておりますのがベータでございます。しかも、毒性の点からいくと、ベータが一番毒性が強いという観点から、私
どもは、牛乳のBHCによる汚染の追跡をベータBHCに
目標を置きまして試験を行なっていこうというふうに
考えたわけでございます。
そこで、ただいま申し上げましたように、べータBHCの毒性試験についてはほとんど報告がございませんので、
国立衛生試験所におきましては、サルを使って
——サルは一番人間に近い実験動物であると、これは学界でひとしく認められておるところでございますが、このサルを
使いまして実験を行なってまいりました。で、その結果得られました一これは現在約四カ月になんなんとしている飼育実験でございますけれ
ども、その現在までの結果によりますと、最大無作用濃度、つまり、何らサルの臓器その他に影響を及ぼさない範囲においての最大の量は幾らであるか、ベータBHCの量は幾らであるかということを調べましたところが、二・五ミリグラム、サルの体重一キログラム当たり二・五ミリグラムという数字が出たわけでございます。
そこで、今回、いままでに私
どもは日本を八つのブロックに分けまして、それぞれの
地方の衛生研究所を中心にいたしまして、その地区の牛乳の分析をいたしたわけでございますけれ
ども、その結果、一番高い値
——これは平均値でございます。得られましたのが、長崎の生乳でございます。その生乳から一・二八八PPMというベータBHOの量が検出されております。これは、いままでに私
どもが全国的にネットワークを張りまして生乳サンプリングし、それを
テストした結果の最高平均値でございます。一・二八八PPMでございます。PPMと申しますのは、百万分の一単位でございます。一キロ中に一ミリグラムありますと、これが一PPMということになるわけでございます。そういう平均値の最大のものである一・二八八PPMにつきまして、そのベータBHCの摂取量をかりに計算をいたしますと、以下申し上げるようなことになります。
まず、乳児でございますけれ
ども、これはいわゆるお乳を飲んでいる状態における赤子でございますが、体重七キロの乳児を例にとりますと、これは一日一リットルの牛乳を飲用するとされております。これは東大の小児科から得たデータを基礎にいたしておりますけれ
ども、体重七キロの乳児では、一日一リットルの牛乳を飲むと言われております。そこで、一日のベータBHCの摂取量はどうなるかと申しますと、一・二八八ミリグラムとなります。一リットル飲むわけでございますから。
——先ほどの最大平均値一・二八八PPM、この最大値をとって、いまお話を申し上げておるわけでございまして、したがって、一・二八八ミリグラム摂取することになるのでございます。したがって、その赤ちゃんの体重キログラム当たりに換算をいたしますと、〇・一八四ミリグラムということになります。乳児の体重一キログラム当たりに摂取量が〇・一八四ミリグラムになるということでございます。
なお、乳児についてはそのような状態でございますけれ
ども、それがおとなの場合になりますと、牛乳も飲んでおりますし、そのほかの植物性の食品あるいは肉類等も摂取をいたしますので、こういうものについてはどうかということも一応試算をいたしました。おとなは、体重五十キロの方を標準にいたしまして、
国民栄養
調査に基づきます一日の摂取の食品を全部拾い上げまして、しかも、そのそれぞれの食品の量を拾い出しまして計算をいたしました。こまかい計算の過程は省略いたしますが、そういたしますと、体重五十キロのおとなの場合につきましては、ベータBHCは体重キログラム当たりについて〇・〇〇二六四ミリグラムということになります。
また、今度は、乳児とおとなの中間はどうかということも
考えてみました。これは学童を例にとりました。これは一応体重四十五キロといたしまして、おとなと同様の食事をとる、そのほかに、学童の場合に学校給食でもってさらに牛乳を大体二百グラムぐらいとるという計算をいたしまして、そういうことをファクターといたしまして試算をいたしますと、学童の場合には、体重一キログラム当たりにつきまして、ベータBHCは〇・〇〇八六六ミリグラムということに相なります。
また、神戸大学の喜田村教授の説によりますと、
——この喜田村教授は、従来から塩素系の、あるいはBHC等、類似の農薬のみならず、その他のいろいろな農薬についての毒性あるいは中毒その他についての研究の深い教授でございますが、この喜田村教授の意見によりますと、農薬によって中毒をした人は別といたしまして、そのほかの病気でもってなくなられた方の脂肪
——体脂肪でございますけれ
ども、体脂肪の中に含まれるベータBHCは、いままでのところ、十五例について見たところ、平均一二PPMであるということを発表されております。平均でございます。で、なおそれにつきまして、喜田村教授は、脂肪中のベータBHCの残留は平均一二PPMございますけれ
ども、この
程度は必ずしも人体の機能の障害を
意味するものではないと言っておられます。また、喜田村教授はシロネズミを使ってこのベータBHCの毒性の実験をされておられまして、連続投与いたしますと約三十日間でもって蓄積の限界に達するということを言っております。ある
程度、からだの中にたまってまいります。けれ
ども、特に脂肪層に沈着をするわけでございますけれ
ども、ある量に達しますと、今度、それ以上続いてベータBHCを投与してまいりましても蓄積量はふえていかないということでございます。で、なお、脂肪の中の半減期、と私
ども言っておりますけれ
ども、やはり、蓄積はいたしましても、徐々に排せつはされてまいります。徐々ではございますけれ
ども、排せつされているわけでございます。で、その蓄積された量の半分になる期間は大体二十日であるというふうなことも申しております。しかし、これはかなり学問的にこまかいデータの基礎的なものがないと、ちょっとおわかりにくい点がございますかもしれませんけれ
ども、いわゆる生物学的半減期と私
ども申しておりますこれは二十日であるというふうに報告されております。
また、岡山大学の平木教授、これは内科を担当されておる教授でございますけれ
ども、臨床のほうでございますけれ
ども、この平木教授は、有機燐製剤、これは農薬でございますが、これらにつきまして非常に造詣の深い教授でございます。この方の発表によりますと、特に肝臓障害ということを、まず
目標にいたしまして、そうしてベータBHOの慢性毒性を検索しているけれ
ども、まだその例がない
——いわゆる肝臓に障害が起こっているかどうかということを、まず
目標にいたしまして、ベータBHCによる慢性毒性中毒を検索をしておりますけれ
ども、まだ、確かにこれはベータBHOによるものであるという例にぶつかっていないということを言われております。まあそのような、いわゆる残留農薬の安全性あるいは毒性についての
専門家の御意見もございます。
このようにして、喜田村教授、あるいは平木教授、及び私
ども国立衛生試験所におきまするサルの実験の結果から
考えてみますと、これから先、厳重な
対策を立てまして、牛乳中に残留しておりますベータBHCを少なくする
方法を強力に推し進めれば、現在の
程度のBHC汚染による牛乳については衛生上の危険はないと判断されます。
〔
委員長退席、理事
林田悠紀夫君着席〕
しかし、この状態が長期間にわたるということは、決してこれは食品衛生上好ましいことではございませんので、したがって、何をおいても早急にベータBHCを減少させるような方策を強力に精力的に推進させることが望ましいと思っております。
なお、
新聞等でもって、ベータBHCの含量が許容量の三十何倍もあるというような報道がされたことがございます。ところで、ここで言う許容量と申しますのは、これは一九五〇年、だいぶ前でございますけれ
ども、フィッツーというアメリカの病理学者でございますけれ
ども、これがシロネズミを使って実験をいたしましたベータBHCの報告がございます。これは外国でやられた唯一のものではないかと私思っておりますけれ
ども、たまたま
一つございました。これの結果を見ますと、フィッツーの報告では、ベータBHCの最大無作用濃度、つまり、まあぎりぎりのところ、これまではだいじょうぶだ、これまで与えても、そのシロネズミについて何ら障害は起こらないというその量は、シロネズミの体重キログラム当たりにいたしまして〇・五ミリグラムという報告がございます。〇・五ミリグラム、これはシロネズミの体重一キログラム当たりについての数字でございます。こういう発表がございました。
で、発表はここまでなんでございますけれ
ども、この〇・五ミリグラム・パー・キログラム、つまり一キログラム当たり〇・五ミリグラムというのを、これを厳密に、きわめて厳密に安全率というものを
考えまして、そうしてその百分の一の〇・〇〇五ミリグラムという数字を一応ここの一日許容摂取量と仮定をいたしたわけでございます。一日摂取許容量と申しますのは、これは生物が
——これは主として人間を対象にするわけでありますけれ
ども、一生涯を通じて毎日摂取しても全然健康に障害を起こさないと
考えられる数字という
意味でございますけれ
ども、一日許容摂取量は、このフィッツーの実験成績からまいりますと、〇・〇〇五ミリグラム・パー・キログラムというふうに仮定されるわけでございます。
そこで、先ほど申しましたように、体重七キロで一日牛乳一リットル飲む乳児のベータBHCの摂取量は〇・一八四ミリグラム・パー・キログラムである。これは先ほど申し上げた数字でございますけれ
ども、これと、〇・〇〇五ミリグラム・パー・キログラムという、かりに仮定をした一日許容摂取量と比較をすると、なるほど確かに約三十五倍になるという
意味でございます。ところが、シロネズミというのは、−実験動物によっていろいろ性質が異なっておりまして、特にシロネズミの場合は、有機塩素剤に対して非常に鋭敏である、感受性が非常に高いということでございます。ほかの動物に対するよりも、非常に少量でも反応をするという特性を持っておりまして、そういうことを
考え合わせるということが
一つ。それからもう
一つは、一日摂取許容量と申しますが、いま申し上げましたように、生涯毎日連続して摂取した場合の数字である。その二つのファクターを
考え合わせますと、すでにわが国における牛乳の中のベータBHCはだんだん減少の傾向を示しております。これは、
あとで具体的に減少の傾向の数字も申し上げたいと思いますけれ
ども、数地区で実験を行なっておりまして、すでに減少の傾向が起こっておりますので、この傾向を
考え合わせますと、この三十何倍あるという数字を、いますぐにここでもって
議論の対象にすることはできないと
考えております。
なお、今回の私
どもの
調査によると、これは
厚生省並びに農林省でも
調査されたのでありますけれ
ども、
〔理事
林田悠紀夫君退席、
委員長着席〕
なぜ牛乳の中にそのようにベータBHCが混入してくるようになったかという、汚染のおもな原因は、結局、BHCで汚染をした稲わらを飼料に使っていたためであるということが判明いたしまして、それに対して、BHCで汚染されてない稲わらを使うように、もし稲わらを使うならば絶対BHCを使ってない稲わらを使うようにというような強力な措置を、農林省のほうでは現にとられております。
そこで、先ほど、だんだんに減少の傾向にあるということをちょっと触れましたのでございますけれ
ども、もう少し詳しく申し上げますと、実は、長崎県、福岡県、岡山県、大阪府、この三県一府におきましての実験を総括して申しますと、稲わらを全然食べさせないで牛を飼いまして、その乳を取りまして、中のベータBHCの残留量を逐次測定をしてまいりましたところが、つかみで申しますと、大体半月でもって五〇%の減少をするということがわかったわけでございます。したがって、今後そのような措置、それに匹敵するような措置をとってまいりますれば、相当のスピードでもって牛乳中のベータBHCの量は減少するということがはっきりと申し上げられると思います。
ただいまの御質問につきまして、大体この
程度ではないかと思います。