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参考人(天谷和夫君) ただいま紹介にあずかりました天谷です。私は各省庁にまたがる移転予定期間に働く職員約六千名で組織されている東京国公移転
反対連絡会議の
事務局長をしております。で、この
会議を代表しまして、
筑波研究学園都市建設法案に反対するという立場から
意見を申し上げます。
私たち国立試験研究
機関に働く職員は、
日本の科学技術の
発展の基礎をつくる基礎研究の分野でも、またその蓄積を基礎に
経済を
発展させ、
国民生活の
向上、
国民のための
行政上必要な目的研究、応用研究の分野でも、それぞれの持つ能力を十分に発揮し、価値のある貢献をしたいと望んでいます。そして、そのためには、第一に、各研究者が科学者として自分の正しいと思う
意見が述べられる、そういう自主性が保障されること、そしてまた、このような環境の中で多くの人々が互いに他の人の言うことを十分に聞き、討論し、納得ずくでものごとをきめて、お互いに協力してやっていくという民主的な運営が保障されなければなりません。このことは科学の
発展の歴史からも明らかなことでありますし、また理論的にも結論づけられることであります。
そして第二に、皆で相談してきめた研究
計画、あるいは施設設備の
要求に対して必要な財政的、人員的な保障を与えることが必要です。
第三に、もちろん職員が心おきなく仕事に専念できるだけの待遇を保障する必要があることは言うまでもありません。
しかし、現実にはどうでしょうか。このような科学技術をほんとうに
発展させる条件というものは満たされておりません。国立試験研究
機関では下からの
意見はなかなか上には伝わらず、自由な
発言は圧迫されたり、握りつぶされたりします。そういうことが非常に多く行なわれております。一方、上からの通達や指令は末端まですぐに伝えられます。
機関組織としてのこのような状態は、人間にたとえれば手が熱い熱いと
感じているのに、それが脳には伝わらず、手をのけることができず、そうして大やけどをしてしまうというふうなこっけいな状態に
相当するのであります。
第二番目に、
予算がどのような状態にあるかと言いますと、比較的自由に使える経常費というのは比較的少ない。そしてまた、かなり
予算が、金がつくというそういう部門はありますけれども、それは
政府が望んでいる特定のテーマだけに限られております。したがって、研究が全体として見れば跛行的にならざるを得ません。また、研究者の中には、金がほしいという場合に、心ならずも研究の本来の
発展方向を曲げざるを得なくなっている、そういう人もあります。また最近、金にならない研究には金を出さないという傾向も強まっています。また早くレポートを出せというふうなことで追いまくられ、レポートがないと昇格もできない、昇給もしないというふうな状態で、レポートの出やすいテーマだけに走る傾向も出てきております。
このような状態の中で、長い間置かれておりますと、利潤を追求を第一の目的とする
企業の研究所とは違い、基礎部分を充実し、その蓄積の上に立って
国民的立場から解決を迫られている課題にこたえていくという、
国民の立場に立った国立研究
機関としての望ましい姿から逸脱してくるということは想像にかたくありません。そして、実際にそのような状態が起こっていることはいなめない事実であります。私たちはこのような状態に決して満足しているわけではありません。また、私たちの職場では職員の協力
関係を悪化させる諸制度や、あるいは
競争心をあおるいろいろのことが行なわれて、各研究者はタコつぼに入っているというふうな状態が生じております。また、研究に必要な人員も、総定員法というものができてから、一そう不足を来たしております。これは人員の不足ばかりでなく、人をとるために一そう争いが大きくなるという事態も生じております。さらに加えて、生活条件からいいますと、低賃金のためにアルバイトをしたりして時間が取られる、あるいは賃金が安いためにほしい専門の本も買えない、そういう状態もあります。また劣悪な住宅事情のために、勉学が思うようにいかないという事情もあります。
こういうような事情の中で、多くの研究者は自分の能力を十分に開発し、発揮できる状態にありません。そして、そのことは現在国立試験研究
機関の
発展をはばんでいる最も大きな原因だというふうに
考えます。私たちは、このような障害を一歩一歩、
一つ一つ取り除いていくことが、
日本の科学を着実に
発展させていくという、そういう道であるというふうに思っております。そして私たちはこのような現状を少しでもよくしようということで経常費、研究費の増額、それから大幅賃上げ、住宅手当の
要求、その他多くの職員の
要求を繰り返し繰り返し
政府に
要求しております。しかし、
政府は誠意ある態度を
示しておりません。このような現状を放置したまま科学技術振興のためだといって筑波研究学園都市に行けと言われても、多くの人々は納得しないわけです。
では、筑波研究学園都市というのが科学技術振興になるかということになりますと、これはみなそうとは
考えておりません。それはどうしてかといいますと、一昨年の
国会でも明らかにされたように、建設の主体が明らかでない、それから具体的な
計画がない、そういうふうなこと、あるいはわれわれが向こうに行ってからの生活の保障がない、あるいは向こうに行けば必ず施設などにも金がつくというふうなそういう財政的な保障もないということであります。第二に、これは一番その大きな
理由ですが、この
計画を進めるやり方であります。これは
皆さんの
意見を聞かないで一方的に進めよう、そういうやり方であります。このことはこれからこの
計画を進めていこうとされる
政府の方々も、よく聞いていただきたいということであります。昔から、三人寄れば文殊の知恵ということわざがあります。これは何かものごとやろうとするときには、それぞれの人の持つ知恵を出し合えば名案が出てくるということを言ったものです。で、このことはこの
計画についても言えます。特にこの
計画は研究
機関の内部の
計画ばかりでなく、新しい都市環境において起こると予想される多くの問題があります。この問題は膨大かつ複雑であって、多くの人々の知恵を借りなければならないし、またそうでなければできない性質のものであります。しかし
政府は、移転予定
機関の職員の
意見を聞かないことはもちろん、
関係機関の長の
意見、
政府当局が都市
計画を依頼した都市
計画学会の
意見すら聞かず、また、全国の科学者の代表
機関である学術
会議の申し入れに対しても、誠意ある態度を
示しておりません。このような事実は、各省庁の
機関で具体的にあげればきりがないほどであります。このようなやり方では、決して理想的な研究学園都市ができるということは言えません。さらに、この
計画があるというために、現地における建物、施設の
要求が押えられ、このため数年間おくれたという例もあります。また個人的には、将来の生活設計が立たず困っている人もいます。ですから、この
計画は科学技術の振興になるということはとうてい
考えられないわけです。で、以上のような事実が明らかになって、これにつれて移転予定
機関当局側も、この
計画に対する意欲がなくなってくるのは当然です。
一方、地元の
要求から今回突然この法案が出されてきました。この法案の内容を見ると、私たちが強く主張してきた移転
機関職員の待遇、たとえば都市手当などについても何ら触れておらず、また、最も重要な職員の
意見を聞いて移転の可否を決定するという保障がありません。私たちは、このような法案を成立させて、この
計画をさらに一そう強引に進めようというやり方は、事態を正しく解決の
方向に進めることにはならず、混乱が起きる危険性を
感じております。現に、先日の
衆議院建設委員会では、今
国会終了後、
関係各省庁に働きかけるというようなことを、
政府は答弁しております。
現在のこのような事態になった
根本原因は、少数の人たちの誤った発想法で、
計画がまず最初にきめられ、権力的に一方的に進められてきたことによると
考えられます。また、官庁のなわ張り根性もそれを助長した
一つの大きな原因と
考えられます。私たちの研究
機関の長も、四十二年九月の閣議了解のときには、バスに乗りおくれるといって
計画に賛成いたしました。しかし工技院傘下の各所長は、四十四年四月工技院当局が
意見を聞いた
ところ、全員そろって現在の
計画は研究の
発展にならないというふうに言っております。また厚生省
関係の研究
機関でも、所の
意見として
計画をおろしてくれということを、上部の
機関に上申しております。で、どうしてこのようなふうになったかといいますと、これは一昨年の
国会で
計画のないこと、責任母体のないこと、その他もろもろの事実が明らかになったからであります。
では、これからより正しい解決を得るにはどうしたらいいかということでありますが、
国会においてはこれまでの事実を
国民の前に明らかにして、できるだけ多くの人々の
意見を聞き、きめていくことだというふうに思います。そして
国会では、この法案を
日本の科学技術教育の将来に関連する重要な問題であるので、
建設委員会のみでなく関連のある科学技術振興特別
委員会、文教
委員会等々で十分
審議し、きめるべきと
考えています。そして、継続
審議をしていただきたいというふうに
考えております。また、
政府も四、五千億の巨費を投じて、また移転前後に数年にわたって研究のブランクを生ずると
考えられる既存
機関の移転、これによる損失は、現在一人当たり年間四百万円程度の研究投資を
政府は行なっておりますが、約五千人の研究者が数年間ブランクになると
考えますと、一千億以上の損失になるというふうに
考えられます。このような大きな損失をあえてして、既存
機関の単なる集中移転をするという、そういう利益がどこにあるかということを
政府は明らかにしていただきたいというふうに思います。おそらくこのことはできないのではないかというふうに思います。私たちは、ですから
日本の全体の科学の
発展というものを総合的に
検討して、この
計画を現在の移転予定
機関のみを対象にせず、たとえば学術
会議が従来
勧告してきた基礎科学の幾つかの研究所の設立の
勧告等も含めて、この
計画を全面的に再
検討することが必要というふうに
考えます。またわれわれも、
日本の科学技術が
国民とどのような
関係にあるべきかという立場から、各研究
機関の今後の
方向も
国民的な立場から
考えていかねばならないというふうに
考えております。また議員も、現在の国立試験研究
機関の現状について事情を詳しく調査し、
日本の科学技術の真の
発展のために具体的な努力をしていただきたいというふうにお願いする次第です。
以上で私の陳述を終わります。