○
伊藤参考人 伊藤でございます。
私は、この問題に関しまして、
日弁連の中にも各種の
考え方、
意見がございますし、そしてまた、そういうものが私の事務
総長在職中に書面あるいは
口頭で述べられておりますので、そういう点を御紹介するということを主として申し上げたいと思います。
この問題に関しましては、大きく分けて三つの
考え方があるのでありまして、
一つは政府案の
考え方、すなわち
最高裁の
考え方でございまして、現在の
簡裁制度を前提として、
昭和二十九年以降の
経済事情の
変動に応じた訴額の引き上げをしてほしい。それは実質的には
昭和二十九年、三十年ごろの
簡裁の実情に戻すにすぎないんだという
考え方であります。これに対しまして反対説は、いま辻及び
和島参考人が述べられましたように、根本的には、
簡裁の
性格、本来のあるべき姿から見て、元来、通常の
訴訟事件というのを
簡裁で扱うのは不適当である。したがって、訴額の引き上げということは絶対に反対だという
考え方であります。もう
一つは、折衷説といいますか、修正説といいますか、この
考え方は、
経済事情が
変動しているということはこれは事実であるから、ある程度の訴額の引き上げはやむを得ないだろうが、しかし、それによって生ずる各種の弊害を個々的に是正する方法を講ずべきだという
考え方でございます。もっともこの折衷説には、基本的な
考え方、弊害の是正方法、その具体的な方法、あるいはその時期とかという面につきまして、非常に幅がございますので、これを折衷説という
考えで一まとめにするのがいいかどうかは多少問題があるかとは思いますが、ともかくいずれにも属しないという意味で、折衷説と申し上げておきます。ただ、政府案そのものに対しては反対だ、すなわちいま提案されている
法案を無条件で通すということには反対だということにおいては、これは反対説も折衷説も全く一致しているわけであります。
そこで、この三説がどういうふうに違っているかということを、ごく簡単に申し上げたいと思います。
その点は、お手元にございます「自由と正義」に私名義のレポートがございますので、そこに概略は紹介してありまするが、それを要約して申し上げますと、大体実質的な争点は大きく分けて三つになる。これはまさに辻君の言われたところでありまして、第一の争点は、
簡裁の
性格あるいは本来のあるべき姿をどうとらえるか、そうしてまた、このことと、現在の
簡易裁判所制度というものとはどういう
関係に立っているかという基本問題が
一つであります。二つ目は、その基本問題と切り離して、現在の
地裁と
簡裁の
訴訟事件の
負担の実情から見て、これを
調整しなければならぬというような
緊急性があるかどうかという問題、これが第二点。それから第三点としまして、かりに
調整するとしても、政府案のような一律訴額引き上げという方法がはたして妥当かどうか、言いかえれば、それによってどんな弊害が生ずるか、その弊害に対する手当てはどうかという具体的な問題、これが第三点であります。
そこで、まず第一の基本問題でございまするが、この点につきまして反対説は、
簡易裁判所というものは
民衆裁判所である。たとえば英国における
民事のペティセッション、
刑事のマジストレートコート、こういうものと同じ性質のものである。だから、
民事は、本来は調停とか和解とか支払い命令とかいうことを取り扱うだけで、
刑事は令状を取り扱うだけである。したがって、通常
訴訟というものは、本来の一
審裁判所である
地裁に持っていくべきものだ。このことは
裁判官が、
特任判事が五〇%以上ある、あるいは
上告審が、昔の
裁判所ですと
上告審は大審院であったのが、いまは
最高裁までいかなくて高等
裁判所になっているということによって明らかである。ところで、現在の
簡易裁判所というものは、
裁判所法の立法当時は、まさにそういうものを想定したものである。しかるにかかわらず、
昭和二十五年、二十九年の訴額の引き上げによって改悪が行なわれて、そうしてその
性格が変わってきているのだ。だから、本来からいえば、もとに戻さなければいかぬのだ。言いかえれば
訴訟事件そのものを
簡裁から全部はずしてしまって、
地裁へ持っていかなければならぬ。これが理論的な根拠になっているわけであります。したがって、
訴訟事件の
地裁の
負担過重というものは、
地裁の強化、拡充によって行なわなければならぬ。それを
簡裁の訴額の引き上げによって行なうということは、理論的に間違っているのだ、これが反対説の主張であります。
それに対して
最高裁といたしましては、
簡裁の本来あるべき姿、純法理的にいって本来あるべき姿については、これはまだ十分に研究する必要がある、問題点も多い。比較法的に見ましても、小額軽微な
事件についての特別なそういうふうな
裁判制度というものを設けているのは、これは世界各国どこでもそうだ。また、
当事者の利害という点からいっても、
訴訟の迅速、経済ということも、また
当事者の利益に非常に重要な問題であるから、その点も
考えなければならぬ。それからまた、審級
制度とか、そのほか
日本の全
裁判制度に
影響してくる問題であって、非常に多くの問題があるから、これを反対説のいうように、そういう
民衆裁判所がいいかどうかということは、
結論は直ちにいまは言えない。しかし、ともかくそれは今後とも
協議は続けるし研究もする。ただ、現在の
地裁と
簡裁の
訴訟事件の
負担に関する実情からいえば、非常に
地裁の
負担が重い。現在の
裁判所法の立法当時も、
簡裁の
性格というものをそういうふうな純然たる
民衆裁判所として規定したかどうかということは、これは必ずしも言えない。少なくとも
民事訴訟事件というものは
簡裁に残したし、そうしてその訴額を旧
区裁よりも引き上げるというふうな意向はなかったのだ。だから、現在の
簡易裁判所というものは、一部においては旧
区裁の権限というものも承継している。したがって、その
性格もある程度は承継しているのだ、こういうふうに述べているわけであります。
それに対しまして折衷説は、先ほど申し上げましたように、幅が非常に広いのでありまして、折衷説の中にも、この根本問題に関しては、反対説と同じ
考えの方も相当ございます。また、いま申し上げましたような
最高裁の
考え方と同じような
考え方の方もあるようであります。
次に、
緊急性の問題に関して、これは先ほど来お二人が言っておられますので、
統計上の問題は省略しますが、要するに、
昭和三十年ごろが
地裁が四二、三%、
簡裁が五七%ほどであったものが、いまは
地裁が六五%ほど、
簡裁が三五%ほどに逆転している、このままでは
地裁がパンクする状況だ、そこで、とりあえずそれを
調整するために、訴額を引き上げる以外にないのだ、こういうのが
最高裁側の
考え方でございます。
これに対しまして反対説側は、
統計上はそうなっているけれども、実際に
地裁が過重
負担とは言い切れない、
審理期間の問題その他から
考えても必ずしも過重
負担ではない、特に
簡裁は、もしこれを実行した場合に非常な過重
負担になって、
簡裁自体が麻痺
状態におちいるから、したがってとうていその
緊急性というものは
考えられない、ことに今日まで
最高裁部内では、先ほど申し上げました根本問題の解決のための努力をしていないじゃないか、こういう主張をしているわけであります。
折衷説は、これに関しましては、ある程度
緊急性は認めざるを得ないのじゃないか、
統計上の問題はともかくとして、現実に第一線
裁判官の声もあるし、また、われわれのところへ寄せられた
地方の
弁護士の声、たとえば京都なんかでは、
地裁は次回期日まで半年もかかる、ところが
簡裁ではかんこ鳥が鳴いている実情だという声もございます。また、山梨あるいは新潟等から寄せられたものにも、同じような声がございます。そこで、たとえば手形
事件とか貸し金
事件とかいうような金銭債権
事件で、しかもたいした争いもない
事件、こういうような
事件は、いまの
経済事情からいって、十万円というのはいかにも低過ぎる。相当程度引き上げても差しつかえないのじゃないか。しかも手形、貸し金その他こういう金銭債権の
事件が、
訴訟事件の
比率からいえば相当数を占めている、こういうことを
考えれば、ある程度引き上げても差しつかえないのではなかろうか。ことに立法当時の
簡裁の
性格をどうとらえたかということは別としまして、少なくとも現在の訴額十万円の
簡易裁判所制度というものは、
昭和二十九年以後できているわけでありますから、それを前提とする限り、二十九年以降の
経済事情の
変動というものを全く無視するということはおかしいじゃないか。したがって、根本問題の解決までには非常にいろいろな問題がございますので、とうてい二年や三年では期待できない。できないとなれば、とりあえずの手を打つということも必要ではないか。こういう意味で、
緊急性というものもある程度是認するという
考え方であります。
しかし、だからといって政府案に無条件に賛成はできない。一律に訴額を三十万に引き上げれば、いろいろな弊害が出てくるわけでありまして、たとえば先ほど来、例があげられておりまするように、不動産
事件であるとかあるいは金銭債権
事件にしましても、争いのある
事件なんかには相当複雑なむずかしい
事件がございます。元来、
管轄制度の本来の趣旨からいえば、むずかしい
事件は
地方裁判所に、簡単でやさしい
事件は
簡易裁判所にというのが本来の趣旨であります。ところが、これを訴額一本でいけば、訴額が低くてもむずかしい
事件もあるし、訴額が百万、二百万でも非常にやさしい
事件もあるはずでございます。
そこで、この
調整、言いかえれば、訴額にかかわらず複雑難解な
事件は
地方裁判所との競合
管轄にするとか、あるいは
当事者の申し立てに基づいて
地方裁判所に移送しなければならぬというようにして、その弊害を是正する。
次に、
簡易裁判所には
特任判事というものがある。
特任判事は、中には質のいいのもございましょうが、一般的にはあまり期待できないと
考えられます。そこで、そういうむずかしい
事件、複雑な
事件に関しては、立法的に
特任判事の職権を制限するとか、あるいはそこまでいかないとしても、
事件の配点に際して、そういう
特任判事には複雑困難な
事件を配点しないという行政措置をとる、こういう方法によって弊害を是正する。
それからもう
一つは、
簡裁事件の
上告審は高等
裁判所になっております。したがって、判例不統一ということが生ずるおそれがある。ところが、現在の
民事訴訟法におきましては、判例不統一を生ずるようなおそれのある場合には、高等
裁判所はそれを
最高裁判所に移送しなければならぬ移送義務が課せられているわけでございます。ところが、その移送義務に違反して移送しなかった場合に、救済される道が閉ざされているわけでございます。そこで、そういう場合には、特別
上告理由として、判例不統一を来たすような場合には、高等
裁判所が
上告審として
判決に対しても
上告ができるように
民事訴訟法を
改正する、そういう方法によって判例不統一という弊害は救済できる、またすべきである。
それから第四に、御承知のように、
簡易裁判所におきましては、
訴訟代理人は
裁判所の許可があればしろうとでもなれるということになっております。
地方裁判所以上は
弁護士でなければなれない。そこで、
簡易裁判所の
事件がふえれば、非
弁護士の
訴訟代理というものがふえて、いわゆる三百がばっこするおそれがあるのじゃないか。それに対しまして、
簡裁で非弁護人の
訴訟代理を許可する場合に、そういう複雑な困難な
事件とか、ことに今回もし訴額を引き上げた場合には、その引き上げによってふえた、上がった
事件については、非
弁護士の
訴訟代理を許可しない、
弁護士以外の
訴訟代理を許可しないという運用をとって、その弊害を是正してほしい。それから、先ほど
和島先生が言われましたように、東京とか
大阪とかの
簡裁というものは、現在相当忙しいわけであります。おそらく
現状のままで五割とか六割という
事件がふえた場合には、東京、
大阪の
簡易裁判所は非常に困ると
考えられるわけであります。これに反しまして
地方の
簡裁は、かんこ鳥が鳴いている
簡易裁判所が相当あるわけです。また物的施設にしても同じことが言えるわけであります。そこで、そういう人的、物的なアンバランスを現実に即した方法で人員の配置転換を行なうとか、物的施設の拡充を行なうというふうな手を打って、弊害を是正してもらわなければならない、こういう
考え方が折衷説の
考え方でございます。
ただ、折衷説にいたしましても、いま申し上げましたのは、折衷説の現在までにあらわれた一応基本的な
考え方であります。その
内容はさらにもっと具体的に検討しなければならないかもしれません。その
内容を検討するためには、やはり一年程度延期して、そうしてこの
調整をはかるにしても、いま申し上げましたような弊害の是正方法を研究するための一年間程度の延期は必要だという
考え方もあるわけでございます。
日弁連におきましても、昨年は八月以降こうした問題の
審議を始めまして、そして十一月二十七日までは
裁判所とのいろいろな
協議に入るかどうかということを争われてきて、結局十一月二十七日に
協議に入りまして、そして十一月二十七日以降本年の三月六日まで数回
協議を重ねてきたわけであります。そのうち実質
協議に入ったのは十二月の二十四日でございます。その前はその前提問題の討論が行なわれただけでありまして、十二月二十四日以降の実質
協議は主として
緊急性の問題、すなわち
地裁と
簡裁との
負担が実際にどの程度アンバランスになっているか、過重になっているかという問題、それからもし訴額を引き上げた場合に、
簡裁がはたしてやっていけるかどうかというふうな、先ほど申し上げた説明によりますと、いわば
緊急性の問題が主として討議せられていたわけであります。
その間に
日弁連に対しましては、この問題が具体的に提起されたのは
昭和四十三年の十二月、抽象的なものは
昭和四十二年の十月。もっとも
最高裁に言わせれば、
昭和四十年の九月三十日にこの
連絡協議を開くという、いわゆる両
総長間のメモができた際に、その問題を提起したと言っておりますが、これはともかくとしまして、抽象的に提起されたのが四十二年の十月、したがって
最高裁はすでに二年二カ月やっても
結論が出ないじゃないかということを
一つの
理由にしておりますが、しかし、具体的な形であらわれたのは四十三年の十二月からであります。四十三年十二月にこの問題があらわれてから、私が就任前、四十四年の一、二月ごろだと思いますが、もうこのころからすでに
地方の会員からは、ことにへんぴな
簡易裁判所の所在地なんかに住んでいる会員からは、ある程度訴額を引き上げるべきだ、しかし、複雑困難な
事件については
地裁との競合
管轄という趣旨で進めてほしいという書面も参っております。
次いで、
昭和四十四年九月に、この問題を
日弁連で
協議するため、いわゆる合同
会議というものが再開されて後、たとえば東京第一
弁護士会あるいは東京第二
弁護士会その他の会員からも、絶対反対というだけではなく、
日弁連としてはもっと積極的に建設的な具体的
意見を出すべきだという声が再三起こってきております。
そうして四十五年の一月になりましてからは、その具体的
意見というものが書面でも提出されております。ただいま申し上げました修正折衷説、それに大体似たような
意見が書面で提出されてまいりました。それからまた
会長室やあるいは事務
総長室にも会員が来訪されまして、同様な
意見が述べられておる。あるいは抽象的に絶対反対だけではなくて、もっと具体的な、建設的な
意見を提出して、そして
最高裁との
協議を進めたらどうか、そうしなければ
協議というものは行き詰まりになるじゃないかというふうな
意見が述べられてきたわけであります。
そこで二月になりまして、私と矢島
会長代行とで、何とかこの問題の局面を打開しなければならない、そのためにこの問題を一応
理事会にはかって、
理事会の議案として提出して
意見を聞いてみようじゃないか。この
理事会というのは、全国の単位会の
会長は全員
理事になっております。その他もなっておりますが、全部で七十名で構成されているわけであります。そのほかに正副
会長十一名加わりまして、八十一名で構成されているわけであります。この
理事会にはかることになり、そして二月二十一日にこの議案を提案して、ただいまの
最高裁の
提案理由、反対説の主張、それから折衷説の
理由、そういうものの
資料を出し、その
内容も説明して
意見を聞いたわけであります。
その結果、ここに速記録がありますが、
結論だけ正確を期するために読んでおきます。「矢島
会長代行より、大勢を伺っていると、折衷案が非常に数が多いようであるが、これを徒らに採決をしても如何かと思うので、折衷案を基本として、
理事者が合同
委員会と
協議して善処するというふうに、お委せ願えないかとの提案があり、(異議なしとの声あり)」最後にもう一度、私からその点の取りまとめの結果を確認しておきたいという発言をしたわけであります。「もう一度いまの取纏めの結果を確認しておきたい。折衷案というものを基礎にして、折衷案といっても非常に幅が広いから、それで、その具体的
内容は
理事者及び合同
委員会に一任していただく。」こういうことで差しつかえございませんか、それに対して異議なしということで、一応
理事会というものの
結論が出されたわけであります。
ただ、その
結論が一体どういう効果を持っているかということについては、多少疑義があるのでありまして、これは方針を打ち出しただけであって、具体的な
意見というものは確定していない。具体的な
意見というものは、正副
会長、すなわち
理事者、合同
会議に一任するということになっておる以上は、具体的な
意見が出なければ、正式
意見の決定とは言えない。また、具体的な
意見が、もし
昭和四十年十二月十九日の
日弁連の総会の決議に相反しているということになるならば、それは効力がないのではないか、こういうふうな異議や見解があるわけであります。しかし、正式にその問題を、つまり
理事会
結論の法的な
性格とか効力というものは今日まで
論議はしていないわけであります。
次いで二月二十四日に、この合同
会議の有志によって、先生方のお手元にもあると思いますが、
民事事件に関する
簡易裁判所の
事物管轄拡張案に反対する
意見の原案が作成されました。この原案中には、従来の反対説のほかに、東京第二
弁護士会からまた折衷説というものが一応取り入れられているわけであります。ただ、この
意見書と
理事会の
結論とは、一見矛盾するのではないかというようなことも
考えられるわけでありますが、しかし、その点につきましては、結局
論議はされていないのでありまして、これは折衷説といっても、それからいま申し上げました反対
意見というのも、いずれも政府案そのものに反対であるという意味においては一致している。そして反対
意見というものも、折衷説を排斥するという積極的な
内容までは含んでいないのだから、矛盾していないのだというふうな説明で、ほぼ通ってきているようであります。この反対
意見というものは、三月六日の
裁判所側との
連絡協議に再度提出されております。
ところが、三月九日に、御承知のように、
法制審議会で政府案が可決になって、そして自民党の政調会に回されるという段階になったわけであります。そこで、これを何とか打開するために、いわゆる一年延期説というものがこの前後に出てきたわけでありまして、一年延期説ということによって
最高裁との
対立を避けようとして一応提案したわけでありますが、結局
最高裁の拒否によって、三月六日の段階ではだめになったわけであります。この一年延期説というのも、
最高裁との
対立を避けるという意味では、一種の折衷的な
考え方であると思いますが、ただ、一年延期ということについても、その結果どうするかということは、受け取り方が違っていると思います。すなわち、反対説からいえば、これは反対運動を推し進めるための時間かせぎという受け取り方をしているのでありましょうし、折衷説からいえば、その間に何とか円満にまとめようという
考え方をしていると思います。
次いで、これがだめになりましたので、何らか具体的な
意見というものをこの際まとめる必要があるのではないかということで、三月十三日の正副
会長会議にその議案を提出いたしました。その結果、一応の
結論が出たわけであります。これも正確を期するために速記録を朗読いたしますが、
議題は「
簡裁民事事物管轄問題の経過報告並びに対策の件」という
議題で、経過の報告がなされた後、「五十嵐副
会長より、この
要望書案は私と
伊藤事務
総長及び二弁の
意見を総合してできたものである。これがよいか否かは本月十六日の合同
委員会に上程して決定する予定で決定されればそれが
日弁連の
意見となると思う。これは総会にかけず、主として合同
委員会で決定して
国会方面に出して
理解して貰うよう全力を挙げたい旨を述べ、
要望書案を読み上げ、これを三月十六日に採決して貰いたいし、
裁判所、
法務省に確約をとりつけて貰いたい。また是非鈴木
委員長にこれをとりまとめるようお願いしたい。勿論合同
委員会で決らない場合もあるが、今それを
論議するのはどうかと思うし、おそらく納得すると思う旨を述べ、これを了承した。」こうなっておりまして、そしてそのときに読み上げた
要望書案というものは、
簡易裁判所事物管轄調査問題につき、左のとおり
要望致します。
要望の要旨
一、
簡易裁判所の基本的
性格及び
簡易裁判所制度の本来的
あり方並びに
地方裁判所の充実強化については、今後とも
法務省を含めた法曹三者間において慎重に研究
協議し、できる限り速かにその具体案を樹立実現すること。
二、
簡易裁判所の
民事々件
事物管轄調整に関する
法務省案は、前項による対策確立に至るまでの、
地方裁判所の
負担過重を
調整するための臨時的・応急的対策であること。
三、前項の
法務省案は、つぎの附帯条件を付して、
昭和二十九年以降の適正な
物価水準にスライドする限度で、
簡易裁判所の
管轄となる
訴訟物価格を修正するものであること。
(1)複雑困難な
事件及び経済的価格が
訴訟物価格に比し高額な不動産
事件は、本来、
地方裁判所の
管轄とすべきであるが、取敢えず
民事訴訟法第三十条二項及び第三十一条ノ二の運用によつて
地方裁判所において審判することとし、他面、現在
地方裁判所の
管轄事件中
簡易裁判所の
管轄として差支えないものも若干ある。それ故、これらの諸点を速かに検討して、順次その立法化をはかること。
(2)特任
簡易裁判所裁判官に対しては、原則として、今回の
調整によつて
簡易裁判所の
管轄となるべき
民事々件を配点しないこと。
(3)
民事訴訟法第四百六条ノ二の運用につき、立法の精神を十二分に生かして活用すべく、かつ、速かに同条違反を特別
上告理由となるよう同法第四百九条ノ二を
改正すること。
(4)今回の
調整によって、
簡易裁判所の
管轄となる
民事々件につき、非
弁護士が介入することのないよう、
弁護士に非ざる者の
訴訟代理を原則として許可しないよう運用すること。
(5)今回の
事物管轄の
調整に伴い、
簡易裁判所の地域別に生ずる
負担の不公平、事務処理の不適正を招来しないよう、速かに必要な人的・物的ないし
司法行政的対策を講ずること。
これがそのときに作成されたものであります。ところが、この正副
会長会議で
結論が出た具体案は、原案でございます。確定はしておりませんが、これが三月十六日の合同
会議に提出されましたけれども、これは
出席者の反対によって否決されまして、そうしてその後、これは皆さんのお手元にいっておると思いますが、この
要望書案というものがその合同
会議で作成された、こういう経過をたどっているわけです。
この正副
会長会議の
結論も、いま申し上げましたような議事録の経過でございますので、その
性格とかあるいはその効力がどうかというような問題もあると思いますが、いずれにいたしましても、
弁護士会内部におきましても、この問題は、各種の利害の
対立もございますし、
意見もあるということを御説明申し上げまして、
参考意見の開陳にかえます。
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