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1970-04-24 第63回国会 衆議院 内閣委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十五年四月二十四日(金曜日)     午前十時三十八分開議  出席委員    委員長 天野 公義君    理事 伊能繁次郎君 理事 熊谷 義雄君    理事 佐藤 文生君 理事 坂村 吉正君    理事 塩谷 一夫君 理事 大出  俊君    理事 伊藤惣助丸君 理事 和田 耕作君       阿部 文男君    伊藤宗一郎君       加藤 陽三君    笠岡  喬君       辻  寛一君    中村 利生君       堀田 政孝君    山口 敏夫君       石橋 政嗣君    木原  実君       横路 孝弘君    鬼木 勝利君       門司  亮君    東中 光雄君  出席国務大臣        運 輸 大 臣 橋本登美三郎君         国 務 大 臣         (防衛庁長官) 中曽根康弘君  出席政府委員         防衛庁長官官房         長       島田  豊君         防衛庁防衛局長 宍戸 基男君         防衛庁人事教育         局長      内海  倫君         防衛庁衛生局長 浜田  彪君         防衛庁経理局長 田代 一正君         防衛庁装備局長 蒲谷 友芳君         防衛庁参事官  江藤 淳雄君         防衛施設庁長官 山上 信重君         防衛施設庁総務         部長      鐘江 士郎君         防衛施設庁施設         部長      鶴崎  敏君         運輸大臣官房長 鈴木 珊吉君         運輸省自動車局         長       黒住 忠行君         運輸省航空局長 手塚 良成君  委員外出席者         内閣委員会調査         室長      茨木 純一君     ————————————— 委員の異動 四月二十四日  辞任         補欠選任   受田 新吉君     門司  亮君 同日  辞任         補欠選任   門司  亮君     受田 新吉君     ————————————— 本日の会議に付した案件  防衛庁設置法等の一部を改正する法律案内閣  提出第二三号)  運輸省設置法等の一部を改正する法律案内閣  提出第一五号)      ————◇—————
  2. 天野公義

    天野委員長 これより会議を開きます。  防衛庁設置法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。木原実君。
  3. 木原実

    木原委員 長官も御存じのように、昨日総理とわれわれとの議論の中で、国の安全、平和、防衛にかかわるたいへん重要な問題が出てきたように思います。私は日本の安全と平和にかかわる問題は中国との間の安定した関係というものが確立をしなければならない、こういうふうに考えておる者の一人でございます。ただきのう総理は、たいへんむしろファナティックで、何といいますか、悪いことばで言えば少し独善的な発言が多かったようにも思います。私がおそれますのは、総理のきのうのようなたいへん高い姿勢で、そういうもの前提にして、これからの防衛政策あるいは日本の安全の問題というものが追求をされるということであれば、かえって危険なものを感ずるわけであります。長官はかねて防衛の問題について、あるいは外交が優先をする、あるいはまた外交経済との調和の中でこれからの防衛というものは位置づけられなければならない、こういう御発言もあったと思います。そこでお伺いいたしたいわけでありますけれども、中国との関係、昨日たまたま中国脅威ということを総理は言われました。したがいまして、中国との関係がこのままではたしてよろしいのか、つまり外交抜きで、それから二十五年間にわたる全くの断絶ということを前提にして防衛の問題を進めていく、はたしてこれでよろしいのかという心配がわれわれにはあるわけであります。したがいまして、長官のこの辺についてのお考え方を伺っておきたいと思います。閣僚として、あるいはまた政治家として、むしろ積極的な御発言をひとつお願いいたしたいと思います。
  4. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 中国との関係日本国交上非常に重要な部分をなすもの考えます。中華民国政府との間には国際法上の条約を締結して国交がございますが、大陸中国とはいまだにそういう関係もなく、外交的に見れば不正常な関係にありますけれども、日本の将来の運命考えていきますと、やはり中国民全体との平和回復国交正常化、そういうことが望ましい。それがまたアジアの安定と世界の平和に通ずるものだろうと思います。私は、中国一つであると思いますし、台湾大陸との関係中国人同士がきめていただくべき問題である、そのように心得ます。いずれにせよ、ともかく日本中国運命というものは、世界の平和、アジアの安定のためにも非常に重要な要素をなすもので、われわれ日本人側としても、中国の取り扱いについては非常に細心かつ周到でなければならぬと心得ますし、また中国民族性中国の置かれている国際環境等々をよく知悉した上で、適切な措置がなされていかなければならないと思います。そういう中に立って、私らが特に日本人の欠点として反省しなければならないと思いますことは、中国民族はやはり非常に長時間に、歴史的にものを把握していく。そしてものを処するという場合に二十年、三十年の長期間を一つの単位ぐらいに考えものを処しているという、ゆうゆうたる大民族であるということ。それからやはり東洋道徳に育ってきた世界優秀民族一つでありますから、人間信義関係というものを非常に大事にする。これは北京であろうが台北であろうが変わらない。人間信義というものを非常に大事にする国柄であります。そういうことをよく注意して、ややもすればわれわれ日本民族がそういう経験的なスケールの大きさを忘れて、また短時間的にもの考えるというくせにとらわれて、目先のことで右往左往すべきではない。やはり腹を据えて、ゆうゆうたる揚子江の流れのような気持ちに日本人もなって、そして長期にわたって忍耐強くたゆまず努力して事態を改善していくという心がまえが必要である。かつ日本側としては中国側のいうことを、それは北京であろうが台北であろうがよく聞いて、そしてよくかみ分けて、その中に妥当な判断を日本独自でつくっていく必要がある、そういうふうに考えます。今度古井さん、松村先生藤山先生、御苦労いただいて帰ってきていろいろ御発言なすっていますけれども、あの人たち発言内容というものは、よくかみしめて、政治をする場合の素材としてこれは考えていかなければならない、私は政治家としてそのように考えております。
  5. 木原実

    木原委員 中国の特性、それからまた特に中国一つである、そして台湾の問題は内政の問題として考えていくべきだ、こういう考え方には私ども非常に賛成です。ただ中国との問題がこういう形であらためてクローズアップされてまいりましたこの際に、もう一ぺんさかのぼって考えなくちゃならぬことは、やはりわれわれの中に、防衛の問題ともかかわりあるわけでありますけれども安保条約という問題があると思います。御承知のように、昨日も、台湾蒋介石政府との間に講和を結んだ選択は誤りではなかった、総理はそうおっしゃいました。しかし、そのことはそのことといたしまして、そのことによってわれわれはすでにそれ以来二十年、大陸との間には断絶状態が続いているわけです。そうしますと安保条約そのものが、これは言うまでもありませんけれども、日本の安全ということ以外に世界の冷戦の中から生まれ、あるいはまたいまでは、端的に言って、アメリカ中国封じ込めないしはアメリカアジア政策の一環として安保条約が結ばれておる。そのことによって必然に中国との関係における日本の位置づけが行なわれておる。こういう姿になっておると思うのです。ですから中国との現在の困難さの問題は、すべてとは言いませんけれども、安保条約という問題にかなり大きな問題がある。言ってみれば日本アメリカとの関係は、裏返して言えば日本中国との関係である、こういう形になっているように思います。そうなりますと、中国との関係長官の言われるように長い時間をかけて考えていく場合に、どうしてもやはり安保とのかかわりを抜きにして日本が、それこそ自主的に、自由な立場で中国の問題に取り組む余地というものは少ないのではないか、こういうふうにわれわれは問題を考えたわけであります。その点について長官の御意見を伺いたいと思いますけれども、一体安保の問題における中国の問題をどのようにお考えでございましょうか。
  6. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 まずこの間の覚え書き貿易共同コミュニケの中で、私は閣僚の一人といたしまして、誤解があったことは非常に残念だと思っております。それは、一つ日本軍国主義であるというふうに断定され、あるいはその危険があると強く指摘しているということ。そういう事実は絶対ない。私たちはその点は非常に強く戒心しておる。特に先ほど申し上げましたように、また前にこの国会でも申し上げましたように、私としては、中国との間に、軍備拡張の悪循環が起きることのないように十分戒心していきたいと思っておるということを申し上げておるわけです。その範囲内における自主防衛ということをもっぱら心がけておるわけであります。冒頭に申し上げましたように、日本中国との関係というものが、日中両方運命にとっても世界運命にとっても、非常に重大であると考えますがゆえに、私は、そういう発言をし、慎重に考えておるわけであります。  もう一つは、沖繩問題本土沖繩化沖繩返還ペテンであるというような意味のことを言われておりますけれども、これも誤解である。日本国民沖繩復帰を歓迎し、沖繩復帰のためにとられた政府措置を、この間の選挙で見ましても、圧倒的に支持しておるのでありまして、ペテンであると考えておる日本人はほとんどいない、そう考えるのです。そういう意味において、日本国民を代表している政府の一員としまして、その二つの点は誤解であると私はいわざるを得ないのです。  それから安保条約の問題につきましては、これは前に中国政府の要人の方が日本政治家に対して、安保条約はあってもいいんだ、それは主権範囲内でやることである、そう言われておるのを私は記憶しております。現に、中国自体がソ連との間に中ソ友好同盟条約というものを締結しておって、そしてその第一条には日本が名ざされて、通俗用語でいえば仮想敵国みたいな扱いを受けているような記憶が私にはあります。そういうように、それは中国がおやりになることでございますから、われわれが別にとやかく言う筋ではございません。それは主権範囲内でおやりになることでございます。それと同じように、日本主権範囲内で日本存立のために外国と提携するという自由もまたあると思うのです。ただ、その場合に提携のしかたが外国脅威を与えたり、侵略の可能性を秘めるということはいけない。そのために安保条約におきましても、国連憲章精神及び条章に従ってやるということが大黒柱になっておるわけであります。またこの間の佐藤ニクソン共同声明も同じ精神で貫かれておるのです。そのことはわれわれ銘記してもらいたいと思うし、われわれはそれを誠実に守っていこうと思っておるわけでございます。  そういう意味からして、安保条約があるから国交ができないのであるから、安保条約を廃棄しなければものが成立しないということに私たちはくみするわけにはいかない。日本には日本運命自分できめる権利が国際的にもあるのでありまして、そういう民族存立の基本に関する部分については、政府はその正当な権利を擁護していかなければならぬ、そう思います。したがって、日本が自存していくためにアメリカと提携し、安保条約を締結しておることは当然の権利であって、その運用を正しく行なっていくべきである。安保条約に書かれておりますようにこれは防衛とそれから平和のために行なう。そういう趣旨を貫いて行なっていけば、他国からとやかく言われる筋のものではない。私は一般的に防衛の問題とか、安全保障の問題とかいうものは、常に外国との関係で、非常に国際的影響も大きいことでございますから、できるだけ節度をもって、外国誤解を与えないように細心に注意深くやっていかなければならない、そういうように考えております。
  7. 木原実

    木原委員 安保があるから、中国との問題がたとえばパイプが通じにくい、こういうふうには私も考えません。また長官もおっしゃるように、確かに中国のほうでも安保があってもやっていこうではないか、こういう話は以前にあったことも承知をいたしております。ただ問題は、アメリカ日本との関係の中で安保条約によってわれわれ縛られ過ぎているのじゃないか。そのことがわれわれの具体的な、中国に対するあるいはアジアの分裂諸国家に対するフリーハンドを縛っているのではないか、その辺に私どものやはり国の平和、安全を求める行動が制限をされるのではないか、こういう考えをわれわれは持つわけなんです。したがって、長官が入閣をされる前、安保を解消する時期の問題、方法の問題等について御発言があったと思いますけれども、私はやはりこの安保というものがわれわれを縛っている。そのことが中国との関係においてたいへんに停滞を生ぜしめておる大きな原因になっているのではないか。こういうふうに考えるわけですが、その辺についての御見解はどうですか。
  8. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 私は防衛庁長官就任以来、安保条約があるがゆえに日本拘束を感じているとか、アメリカから制肘を受けているというようなことを感じたことは実感として一回もございません。おそらく社会党の皆さんや国民の一部には、アメリカからとやかく言われて事実上の圧力を受けたりしているんではないかと想像されていらっしゃる方があると思いますが、私は実際長官に就任していろいろなことをやってみて、そういうことを感じたことは一ぺんもない。むしろ私自体は、一個の日本人として、日本運命を守り、日本政治家として責任を果たしたいと思って、好きかってなことを、日本人として言ったりやったり、またこれからもやろうとしておるのでありまして、むしろはらはらしているのはアメリカのほうじゃないかと私は思います。それで正しいと思う。そういう意味フリーハンドを失っているということはないのです。ただわれわれは、やはりいまの憲法を守り、そして自由と民主と平和というもの中心にした政治体制をもって、最大限の自由を国民に保障していこうとするものでありますから、それと同じような方向を意図している自由世界アメリカというものと提携していく。そして相足りないところを補い合っていくということは、これは国が主権を持ってその道を歩もうという場合にはおのおの選択し合う道であると私は思っております。日米間の安全保障体制というものはすなおな姿だと思っております。しかし、だからといってわれわれがそのために拘束を受けたり不自由に感じているというふうに考えることは、私、ございません。
  9. 木原実

    木原委員 そうしますと、現実の問題として、中国との関係の中で障害になっているもの、これは少し長官担当分野を越えますけれども、ついでですからお聞きをしたいわけですけれども、たとえば共同声明の中に昨日も問題になりました台湾との関係あるいは韓国運命日本運命につながるんだという意味の問題の提起がございました。そういたしますとまず中国との関係障害になっておるのはやはりわれわれが台湾というものを十八年前に選んだ、このことが中国との関係の中で最大の障害になっている、こういうふうに考えてよろしいですか。
  10. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 共同声明というようなものは、それが北京でつくられたものにせよあるいはワシントンでつくられたものにせよ、それは関係国がお互いに妥協し合い自分の言いたいところもある程度はがまんし合い、そしてできるもの共同声明というものなのであって、佐藤さんがニクソン大統領共同声明をつくるについては、それ相応苦心努力忍耐があった。日本にもあるでしょうしアメリカ側にもあったと思う。また今度北京でつくられた共同声明にしても、古井さんと中国の方との間には、やはりそれ相応苦心忍耐とがまんがあったろうと思うのです。そういう点で妥協的にできているもの共同声明なのであって、そういう共同声明を読むという場合には、むしろ歴史的、時間的要素をくみ入れて読んでいく必要がある。文章をせんさくするということは意味ないことだと私は思っております。それよりも状況証拠といいますか、そのときの国際環境なり両国の関係なり、そういう民衆の一般的な世論とか感覚というもの中心声明文というようなものは読むべきであって、訓話学みたいに文章をせんさくしても益ないものだ、私はそう思いますね。だから佐藤ニクソン会談においても、あるいは古井さんと中国の方との共同声明においても、十分そういう余裕を持って、十年、二十年の歴史的な大局的な考えを背後にひそめながら解釈していくべきものである、こう私は思います。
  11. 木原実

    木原委員 そうしますと、共同声明の中でこれは文章のせんさくではなくて、かなり新しい要素として台湾の問題に触れ韓国の問題に触れておるわけですね、ワシントン共同声明の中で。これについてはたとえば台湾に問題が起こり、昨日も総理発言がありました。あるいは三十八度線に問題があった場合に、韓国危機日本危機に通ずるんだ、こういうことばがあり、そのことが非常に大きな新しい政治問題だという形で表面に出てきたわけなんです。その際に、しからばわれわればかりそめにも一国の元首他国元首との間に一つの合意に達した事項だ、こういうふうに考えているわけですけれども、長官の御発言によりますと、しからばそれは長い歴史の中で見るべきものであって、という御発言なんですが、そういう問題についての、たとえば防衛の面からの裏づけというかアプローチというか、そういうものはないということですね。つまりあれは一つの妥協の産物であって、一つの話し合いの中で出た問題として記録にとどめた、したがって台湾の問題が、あるいは韓国の問題が共同声明の中で提起をされたけれども、そういう状況が起こったときに、日本防衛の問題として取り組んでいこうという、政策的な裏づけは必ずしもないのだ、こういうふうに解釈してよろしいのですか。
  12. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 自衛隊関係することはないと思うのです。ただ、国との関係というのは経済もあるし、文化もあるし、外交もありましょうし、政治的要素がうんとございますから、そういう意味においては関心を持つということは当然のことであると私は思います。そうして安全保障の面においては、安保条約からくる事前協議その他の問題がかぶさってきておるとは思いますけれども、自衛隊関係するということはない、私はそのように解釈いたします。
  13. 木原実

    木原委員 そうしますと、これはたいへん大きな問題だと思うのですけれども、かりに三十八度線に事態が起こる、あるいはきのうの総理の御発言の中に、一つの想定として言われましたけれども、台湾に事が起こる、そういう場合には、日本防衛力というものは必ずしも発動はしないとおっしゃるように、外交上の問題あるいはまたアメリカ自身がどう行動するかは別にいたしまして、あるいはそれとの関係は生ずるけれども、日本防衛問題としてはそれには関与しない、こういうたてまえははっきりしておるわけですね。
  14. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 それはもうはっきりしています。自衛隊本土防衛に徹するということであって、他国脅威を与えるようなことはやらないということに徹しておるのでありますから、その点ははっきりしておると思います。
  15. 木原実

    木原委員 これはあとの問題にもなるわけでありますけれども、ただ、そう割り切りましても、これは現実事態が起こる、しかもこれから日本自衛隊が持とうとしておる艦船あるいは飛行機——飛行機にしましても、かなり足の長いものが出ておる。言ってみれば、装備兵器の面から見ると、従前の自衛隊の力に比べて著しく行動半径が延びているわけですね。可能性としては、絶えず裏づけになるものを準備されておるわけですね。ただ、長官は、政治的に、外交的には関係があるけれども、しかし自衛隊としてははっきり関与しないのだ、こうおっしゃっておるわけですけれども、それにもかかわらず、自衛隊はそういう可能性を求めて力の増強を行なっておる、こういうことになるわけです。私はその辺に、これから先の問題として、将来の問題として、あるいは四次防への展望の問題としても、ぬぐい切れない心配国民の中にあると思うのです。政治の問題として割り切る、しかしながら自衛隊としては、その政治の問題として割り切ったものを上回っていくような戦力が持たれようとしておる、この辺についての何か矛盾はお感じになりませんか。
  16. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 そういう御心配をなさる必要は全然ございません。攻撃的脅威を与えるような兵器は持ってもおりませんし、また持たない。ファントムのようなものにしても、防空用に使おうとしておる。インターセプトであって、爆撃のために使おうとしておるのではない。わざわざそのために爆撃照準装置をはずしておるようなことまでやっておるわけです。したがって、これはあくまで防衛のための兵器として、その兵器の性格まで規定してやっておるわけであります。また別に航空母艦を持っておるわけでも、あるいは長距離弾道弾をつくろうとしているものでもない。核兵器を持とうとしておるのでもない。そうして、三次防とか四次防とかいわれますけれども、その一つの一番大きなファクターは、アメリカが戦争直後日本に貸与した、援助してきたアメリカの古い兵器、もう使いようもない戦車や何かがごろごろしているわけです。日本のいまの連隊とか師団あたりに行ってみまして、一体これでいざというときに役に立つのかと思うような、第二次大戦中の廃棄処分するような古い兵器がごろごろしているわけです。それを国産のもので代替しよう、そういう非常に大きな努力を示しておるのであって、必ずしも金額とかそういうものによって示されておるようなものではないわけなんです。そういう内容をよくお調べいただけば、この程度の努力はあたりまえの努力である、私はそのように思うのであります。
  17. 木原実

    木原委員 この点はたまたま、軍国主義の問題ではありませんけれども、例のアメリカ下院調査団報告新聞で見ますと、同じような心配をしているわけです。長官がそうおっしゃるのなら、これは多少アメリカ下院向けにも重ねて御発言をいただきたいと思うのですが、あのアメリカ下院人たちの調査報告なるものは、将来の問題として、日本経済力の発展に応じた武力が日本に持たれる。しかもこれから自衛隊が守ろうとしておる海域はさらに長く伸びるであろうとか、あるいは憲法という歯どめがあるけれども、しかしこれは非常に弾力的に運営されているのだとか、そういうことが一つの根拠になって日本軍国主義の懸念ありと、これは東側ではなくて、西側から吹いてきた風なんです。私もかなり不当な報告だと思うのですけれども、アメリカ向けに、ひとつその辺についての御発言をこの際お願いしたいと思うのです。
  18. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 別にアメリカ向けに言う必要はないので、事実は事実として明らかにしておく必要があるから申し上げたいと思うのですが、新聞で読んだ範囲内においては、あの報告認識不足もはなはだしい。調査不十分の報告である。それは英文の正文を読んでみないとああいうものはよくわかりません。ですから、新聞で読んだ範囲内においてはと私申し上げますけれども、認識不十分の、調査不十分の報告である。もう少しよく日本をお調べ願いたい、こういうふうに希望いたします。
  19. 木原実

    木原委員 ただ長官、この段階で北京でああいう共同声明が出た。さらには北京の周恩来首相は、これに先立って平壌におもむいて朝鮮との間にも、日本軍国主義に対して非常に鋭い警告を発するという共同声明のようなものを出している。調査不十分かどうかわかりませんけれども、たまたま期せずして、アメリカのほうからも軍国主義という一つことばが吹いてきた。誤解であり、曲解であり、調査不十分だ、われわれはそう判断をするわけです。しかしながら日本を取り巻く、いずれも関係の深い国々の中から期せずして軍国主義というあらしが吹いてくる、ことばが押し寄せてきた。誤解であり、曲解であり、調査不十分であっても、やはりこの事実は事実として、そういう声が上がっておることは、やはり政治的に大きいと私は思うのです。  そこで、お伺いをしたいわけですけれども、軍国主義、これはなかなかはっきりしない概念ですけれども、いままでの総理の御発言によりますと、日本には平和憲法があるのだ、あるいは文官優位のシビリアンコントロールも確立しているのだ、軍国主義になる心配はないのだ、こういう御発言があったと思うのです。たてまえは確かにそうなんです。しかしながら、憲法についてはこれはもう確かに弾力的な運営が行なわれてきたとわれわれは判断をいたしております。それからまた、文官優位の問題についても、残念ながらまだ日本にはこういう伝統が薄いものですから、確立をしているとおっしゃいますけれども、決して十分なものではない。こういうふうな考えを私は持つわけです。  そこで軍国主義というのは、私の考えでは、やはり軍事力が、あるいは軍事が政治を動かしていく、そういう関係一つあると思います。それからまた、他の諸施策の中で軍事優先の政策がとられる、こういうようなことは、外から見れば、言うまでもありませんけれども、やはり近接をする諸外国はそのことによって軍事的な脅威を感ずる。こんなような問題があろうかと思うのです。たまたま日本経済はたいへんに伸長をいたしておりまして、相次いで資本が諸外国に輸出をされていく、進出をしていく。こういう経済的な進出もあります。このことと合わせ重なって、日本が持つ軍事力の伸びというものに対して、おそらくこれは名前をあげました国々だけではなくて、東南アジア諸国の中でも、経済進出の次には日本の軍事力の進出が続いてやってくるのじゃないかという心配をしておる国々もやはりあると思うのです。そういう事実を、われわれは軍国主義ではないのだと、幾ら国内でわれわれがそう言ってみましても、そういう心配がある以上は、特に防衛の担当者として、その辺についてのきちんとしたけじめなり態度なりをお示しになる必要があるのではないか、こういうふうに考えるわけですが、その辺についての軍国主義についての長官の御見解なり、あるいは歯どめはこれだというものをひとつお示しを願いたいと思います。
  20. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 アメリカ中国からきている軍国主義とかそういういろいろな考え方は、むしろ予防的、警告的に騒がしくやっているのではないか。しかしなぜそういうものが出てきているかということを考えてみると、これはわれわれも注意しなければいかぬので、日本経済力ものすごい勢いで伸びてきている、そしてその上に日本民族というものは非常に優秀である、そういう近代科学技術を駆使して経済力がこれだけ伸びてきて、一億という大きな人口を持ち、しかも単一民族日本語という単一言語しかないという、きわめて結束力の強い、ふだんは議会でけんかしていても、いざ「よど号」があぶないとなると、社会党の方まですぐ京城へ飛んでいってくださるという、ある場合には日本一家になりますからね。やはり民族的結束性というものがこの経済力と結びつくと、また何をやるかもしれぬ。それがまた一たん軍事に転化したら、またたく間にやられてしまうぞという不安、危惧を与えていると思うのです。つまり経済的成長と日本民族の優秀性と同質性というようなことですね。だからこれは外国人の立場になってみましたら、なるほどそういうふうに変わったらおっかないぞと思うのはあたりまえでしょう。そこは日本人として私は考えなければならぬところだと思うのです。そういう意味で、中国にせよアメリカにせよ、そういう声が出ているということは、われわれは一つの資料としてよく検討すべき要素があると思う。しかし、じゃ現実軍国主義があるか、いま先生のおっしゃいましたように、文民統制というものがないのか、軍人がいばってやっておるのかといえば、厳然として国会が、つまり国権の最高機関である国民の代表である国会に責任を負う文民が、政治家が軍事を掌握してやっておるのであって、軍人どもがいばってものをやっているというような日本ではないです。これはもう先生、御存じのとおりです。あえてお願いすれば、画竜点睛を欠いておるのは、国会に防衛常任委員会がないということです。これは文民統制上きわめて遺憾な事態であって、外国からいわれればそれが指摘されるのじゃないか。外国の普通の例から見るとそう言われるでしょう。それから、政策で軍事が優先かといわれれば、日本の軍事費というものはGNPの〇・八%程度であって、外国を見ると米ソ中あたりが一〇%、あるいはその前後にあります。あるいはドイツやイギリスが七%から八%台にあります。日本はわずかに〇・八%で、一%にも達していない。GNPだけを問題にするわけにまいりませんけれども、そうでもあるし、私自体自主防衛五原則を申し上げて、こういう方針でやりたいと申し上げておる。その中ではいまのような点を非常に戒心をして、ほかの国策とのバランスとか、あるいは日本経済的な成長や国民生活の安定を平時において阻害してはならないと思っておる、そういうことも積極的に申し上げてあるのです。そういう点を見れば軍事が優先しているとは毛頭思わない。  私、きのう、スイスの副大統領の昼さん会に出まして、スイスの人たちと話し合ってみましたけれども、あのスイスなんかは、予算の面から見ましても、あるいは動員体制から見ましても、民族総武装の体制をとっております。副大統領は何か陸軍の少佐だとか言っておりました。大使も何かキャプテンだといったから大尉なんでしょうね。そういうように、スイスのような平和な中立の国でもこれだけの軍備を持っておるという事実を見ますと、日本がいかに現在は平和国家であるかということがわかっていただけると思うのです。ただしその潜在力は持っておる。その潜在力がいつ転化するかわからぬという危惧を外国に与えておる。その危惧を与えないように歯どめをしっかりするということ、それから政治がしっかりと握っておるということ、これが非常に大事であって、日本くらい文民統制がしっかり確立されている国はないと私は思っておるくらいであります。
  21. 木原実

    木原委員 私も後段はたいへん賛成なんです。ただ従来の経過から見ますと、戦後はいわばゼロから出発をしたわけですけれども、日本自衛隊の伸びというのはめざましいものがある。これはバイバイゲームみたいなもので、この勢いで経済の伸びに乗って軍事力が伸びていく。しかもわれわれは過去を持っているわけです。それだけに長官おっしゃるように、よほど文民の掌握力あるいは歯どめ、こういうものがしっかりしてなくちゃならぬというわけですが、しかし具体的に歯どめといえば、これは憲法であり、あるいはまたおっしゃいましたようにシビリアンコントロールの機能の強化、こういうことにもなると思いますし、あるいはまた国民の理解、合意の上に立った軍事力の掌握、こういうことになってこようかと思います。残念ながらその点については、憲法の解釈にしましても、御承知のようにこの点についてはわれわれと政府との間にいまだに見解の一致しない面がある、こういう事実があるわけです。そしてその背景の中には軍事力がともかく経済の伸びにつれてたいへんに成長を続けておる。これから先どこまで伸びていくのだ、こういう問題があるわけです。国会の中でも、日本の自衛力の限界というものは一体どこに置くのだ、こういうことが問題になりました。しかしそのつどはっきりしません、論議をかわしましても政府のほうはお逃げになる。それからまた、これはあとでも問題にしたいと思いますけれども、想定をしていけば、日本の自衛力はもう際限なく伸びていく要素というものを絶えずはらんでいるわけですね。いままでは日本自衛隊は確かに総体的に力が脆弱で、ましてや政治の面にアプローチをするだけの要素はございませんでした。しかしながら、それ自体が強化されていくということになると、それを育てた立場を越えて転化していく、過去においてもそうであった、そういう心配というものは絶えずあるので、確かにそれだから政治あるいは文民のコントロールが強化される心要があるのだというのですが、しかしそれにもかかわらず心配がある。そうなりますと、そういうことにならないような歯どめの具体的な措置として、一体これからさらに伸ばしていこうとする自衛力の限界を、長官としてはおおむね一やや長期的な御見解でもけっこうですけれども、どの辺に置こうとされるのですか、これはむずかしいでしょうが……。
  22. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 私は、防衛問題に関する歯どめで一番大事なことは国会にあると思うのです。それで非常に不幸なことですけれども、実際正直に申し上げますと、何しろ民主政治というのは選挙の政治ですから、与党と野党が投票を中心もの考えていく、そうして防衛外交について共同の基盤が欠除している。そうなると、片方は強調して重大性を認識させようと思ってどうも右肩に力が入り過ぎる、片方は逆の面を言ってまた投票を得ようと思うと左の肩に力を入れ過ぎる。そういう意味で国が正常な自然体でなくなっていくんですね。正直に言って、われわれは自民党ですが、社会党の人と立ち会い演説をやるときには、やはり防衛が必要である、しっかりしなくちゃならぬと言って実際問題として強調しますわね。力を入れますわね。それに力を入れ過ぎると、今度は社会党のほうは、あんなナンセンスなことはないというようなことで、また力を抜いて、タイヤの空気を少し出そうとしますわね。そういうような、実体から離れまして投票のためにから回りして、そして別のところで問題がぐるぐる回っていくという形ぐらい不幸なことはないですよ。だから政治家が国に責任を持つというならば、与党も野党も共通の地盤をつくり、共通の土台に立って一緒になって統制すべきものは統制する、それが正しい議会政治のあり方じゃないかと私は思います。しかし遺憾ながらいまの状態は、自民党と社会党、共産党の方々とは百八十度の落差があって、犬が東向きゃ尾は西向くというような形になっている。これぐらい不幸な危険なことはないと私は思っている。この事態をすみやかに解決して、そして大体国民が欲している基盤を両方で模索し合いながら土俵をつくり合って、その土俵の上で、少しの落差があるし政策の多少のニュアンスの違いはあるでしょうけれども、そういうところを国民の前へ見せ合って、ともに建設的に規制をしていくという、そういう基盤ができることが最重要なことだと私は思います。そういう政治家としてやるべき基本をやらないで、兵器がどうだとか武器がどうだとかいうようなことは枝葉末節ですよ、私に言わしむれば。その点を私はまず強調したいのです。  それから第二に、兵器や武器について、大事なことはそれよりも戦略構想ですね。そういう日本防衛の固有の戦略構態、体系というものについて話し合いをして最大公約数をつくるということが非常に大事。つまり運用の問題があるわけです。条約でも何でも文章じゃない、実際は運用ですからね。この運用についてやはり国会の中で話し合える大きな土俵をつくりながら共同して規制すべきものは規制していく。その次に兵器や何かが実際は出てくるのじゃないですか、順序から言いましたら。兵器につきましては、憲法を順守して攻撃的脅威を与えるようなものは持たないということでありますから、これも両方ででき得べくんば話し合いをしていくべきである。この限度はどうだろう、この限度はどうだろうかとお互いが話し合って進める段階が来れば、こんないいことはないと思うのです。そういう点について私らも反省いたしますが、野党の諸君もぜひお考え願いたい、そう思うのです。
  23. 木原実

    木原委員 これは共同の土俵をつくるということについては、われわれも必ずしも異論があるわけではありません。確かにそのとおりです。ただ共通の基盤については私どもは、長官も口にいたしましたけれども、憲法というものがある。憲法の解釈の幅がこういうことになっておるわけですね。私は、どうも憲法のワクをはずれてものを言っているのではなくて、むしろこの憲法のワクを一番右のほうへはずそうとするところで与党の皆さん、あるいは政府のほうが動いてきた、こういうことだと思うのです。しかしおっしゃるように選挙もからむ、いろんなこともありますから、確かに表向きは幅が広過ぎたと思います。あるいはまた必要以上の対立、対決の関係を繰り返してきたかと思うのです。しかしながら共通の基盤がないわけではないと思うのですね。それを探っていくということについてはわれわれも決してやぶさかではございません。ただここでの問題は、私どもとすれば、まあ私どもが非武装中立というようなことを言い、そんなことを言っているから社会党は票が減ったのだという御批判も含めまして、やはりそういう主張が、ある意味では今日なお軍国主義に進んでいくのをセーブしてきたという、現実的な政治的な機能もあったと思うのです。ですからこれはもう少し広い視野で言えば、日本人はやはり八百長をやっているんじゃないかと外国人が見るような側面もあるのじゃないかと思います。ですから私どもは抽象的に非武装中立ということを言うわけではございません。これはやはりひとつかみ合う土俵を見つけて、確かに長官の言うようにあり得べき理想の姿を共同してつくり上げていこう、こういうことについてはお約束ができると思います。そういう前提でなければ国会でこうやって話ができないわけですから、これは長官のおことばでございますけれども、私どももそういう努力をいたしておるわけでございますから、御理解をいただいておきたいと思うのです。  そこで、たまたま長官のいまのおことばの中に、戦略構想というおことばがありました。私もそうだと思うのです。兵器の体系を論じ兵器の選択を論ずる前に、日本防衛の問題についての戦略構想という問題が考えられなければならないと思うのですが、たまたまそういうことにつきまして、昨日私は総理に一言御質問しました。中国からの脅威という問題があるわけですね。これも先ほどのおことばのように共同声明の中の文言としてだけの問題ではないと思うのです。従来、御承知のように仮想敵国はつくらない——何を相手に防衛庁は自衛隊を強化しているのだ、こういう問題がしばしば国会の中でも問題になりました。そのつど仮想敵国はつくらない、われわれには仮想敵国はないのだ。こういうことで、われわれから見れば問題がたいへんにうやむやにされてきたと思うのです。しかしながら中国脅威である、こういうことを佐藤・ジョンソン会談の中である意味では確認をされ、それを受けて昨日総理も、あらためて中国脅威ということについて若干お触れになりました。私どもは、やはり脅威の存するところは脅威の存するところとして確認をしたということは、これは従来の防衛問題についての国会の論争の中で、やはり一歩の前進じゃないかと私は思うのです。必ずしもそのことによってわれわれは中国に対して敵視をする、あるいは中国仮想敵国視するということではなくて、防衛庁が目ざそうとしている日本防衛が、一つの何といいますか、問題点が出た、こういうふうに考えるわけです。ですからこの問題を大事にして、長官のおっしゃる自衛隊が存在をしておる、志向をしておる戦略問題というもの考えられていき、解明をされていく一つの手がかりになるのではないか、こういうふうに考えるわけです。  そこでむずかしいことかもわかりませんけれども、中国脅威という問題について、私は長官の御見解を承っておきたいと思うのです。御承知のように、総理は昨日、中国は核兵器を持っている。しかも国際的なつき合いがない。そのことがわれわれにとって脅威だ、ここまでおっしゃったわけですね。そうしますと、中国との関係の中で、防衛上われわれが脅威だと考えなければならない点は、おおむねその辺のことだと解釈してよろしいでしょうか。
  24. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 中国脅威ということばは、前の共同声明にはありましたけれども、この間の佐藤ニクソン共同声明から除かれていて、そして中国が建設的、協力的になることを期待するというようなことばに変わってきておる。これはアメリカの首脳部と日本の首脳部の事態に対する認識が少しずつ変化をして、そしてそれが意見として合致してきているのではないかと私は想像いたします。このことはいいことであると思います。それで私らは、仮想敵国というものは実際ほんとうに持っていない。これは憲法のたてまえからも当然のことである上に、政治のたてまえからいたしましても、日本の永遠の平和と繁栄を考えてみますと、そういうものは持たぬほうが非常に賢明な行為である。そういう意味日本政府仮想敵国を持たないでやってきているということはずっと続けていくべきである、そう思います。  脅威とは何だ、そういう形になりますと、これは直接ないし間接侵略の危険性が意思と能力で結びついて組織的に発生する場合に、脅威というものはあると思う。意思があっても能力がないという場合に、これは潜在的脅威でしょう。あるいは能力があっても意思がないという場合も、これも潜在性を持つ。両方が結びついた場合に顕在性が出てくる、そういうように私は考えます。  それで中国の問題につきましては、そういう顕在的な脅威はない、そう私考えます。総理も、いま言われたようなことは潜在的なことをおっしゃっているのではないか、そう思います。
  25. 木原実

    木原委員 脅威について、総理の御発言ですと、脅威は存在する、こうおっしゃったわけですが、長官は、これは潜在的なものとして受けとめたい、こういう御発言で、これは総理よりだいぶ御冷静のように承ったわけですけれども、しかしそれにもかかわらず、いま直ちに国際情勢その他を考えてみて、長官おっしゃるように直接的な侵略の危険というものはないであろう。しかしながら間接的な侵略というものについては危険性がある。何か反戦青年委員会がどうのこうのということまできのうはおっしゃったわけですけれども、たいへんむずかしい問題で、こういう場では発言がしにくいわけですけれども、しかしながら中国脅威が存在をする、脅威がある、あるいはまた間接侵略の可能性がある、こういう発言がきのうあった。それでこだわるわけでありますけれども、実際に間接侵略の可能性というものも、長官のおことばをふえんをして考えれば、それも潜在的なものとしてしか存在しない、間接侵略の差し迫った脅威というようなものはないのだ、こういうふうに状況判断をしてよろしいのですか。
  26. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 間接侵略というようなもの考えてみますと、国内に暴動とか内乱とか騒擾を起こして、そしてそれが外国勢力と結びついて行なわれるという場合に、そういうものが出てくると思います。現在そういう情勢にあるかどうか、私はまだ断定できない。しかし、たとえばこの間の赤軍なんかは、おそらく北朝鮮も迷惑だったと思うのですけれども、人のいやがるところへ無断で押しかけていって、革命の国際基地をつくるというようなことを言ってやっている連中もなきにしもあらずですね。そういうような情勢を見ると、そういう一部の学生もあって、がたがたしているということは、危険性はあると考えていい。そういうぐらいの考え方に立って、われわれ自身としては、いろいろな対策を講じていきたい、こう思います。
  27. 木原実

    木原委員 アメリカのレアード国防長官の最近の発言によりますと、中国は七三年ごろに核の運搬手段を、ICBM、大陸間弾道弾を完成する、こういう見通しについて触れているわけです。この中国脅威の中には核兵器が存在をする、こういう前提があるわけだし、それに運搬手段がさらに加わってくる、つまり能力として、きわめて近い将来にそういうものを完備する、それについて、われわれは——長官ことばによりますと、脅威は意思と能力だ、こういうことですが、中国ではしばしば、たとえば核兵器については、われわれは初めに核兵器を使用することはあり得ない、こういうことを過去において声明をいたしております。したがって中国は、意思として、核兵器を使う、あるいは侵略の意思はない、こういうふうに判断をしてもよろしいのかどうかということと、しかも、それにもかかわらず、能力としてはたいへんに進み、近い将来に運搬手段を持つ、そういう形で進んでおる。このことについて、直接侵略の可能性の問題としてわれわれは脅威を感じなくてもよろしいのかどうか、御判断をひとつ承りたい。
  28. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 目下のところは、脅威を感ずる必要はないと思います。
  29. 木原実

    木原委員 そうしますと、将来の問題として、一時アメリカでも中国のそういう核兵器体系の進展ということを予想をして、いわゆる迎撃ミサイルの網を張る、こういうような措置がとられるとかとられないとかいうことが問題になりました。日本の問題としては、中国が核兵器を持ち、運搬手段を完成していく過程の中でも、それに対抗して長期的に何かを考えていくという必要はない、こういうふうに判断をしてよろしいですか。
  30. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 日本は何もアメリカのまねをする必要はないので、日本日本としての固有の外交政策を持ち、隣人としての政策を持ち、日本国民世論、日本の法制に従った独自の政策をやればいいことで、アメリカのまねをしようなどとは毛頭考えません。
  31. 木原実

    木原委員 そうしますと、アメリカのまねではなくて、核には核をという、こういう考え方で対抗する余地は将来にわたっても考えなくてよろしい、こう判断してよろしいですか。
  32. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 それは世界政策としては、外国の核を外交戦略として抑止力に使うということは十分考えられるし、また世界平和を維持するためにやるべきだと私は思うのです。自分でもってそういうことをやるというような、ばかなことはやるべきでない、こう思っております。
  33. 木原実

    木原委員 そうしますと、中国脅威が存在するという昨日の総理の言明にもかかわらず、われわれとしては、中国との関係は、冒頭お話もありましたように、やはり外交を通じて、政治を通じて安定をした関係をつくりあげていく、これが基本であって、そして中国脅威を、言ってみれば侵略の意図と能力——侵略の能力は持っていても、その意図を、われわれは脅威として受けとめなくてもよろしい、こういうふうに解釈をしてよろしいですね。
  34. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 けっこうです。
  35. 木原実

    木原委員 そうしますと、先ほど少し触れました間接侵略の問題。いまおっしゃいましたように、一部の学生諸君がとっぴな行動をする、革命だといって毛沢東の写真を振り回す、こういう事態があるのは御案内のとおりです。しからば、あれが、すぐたとえば自衛隊法の七十八条にいう外国勢力と結びついて一種の内乱を起こす、そういう基盤を持ち、あるいは条件を備えているというふうには必ずしも考えませんし、児戯に類することだ、こういうふうに考えているわけですが、間接侵略というものについて、従来とも問題になったわけですけれども、実際に間接侵略というものについて一体どういうふうに考えているのか、そういう可能性があるとお考えになっていらっしゃるのですか。
  36. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 現代の世界戦略体系の中から見ると、アジアの場合、非常にその可能性はある。しかし日本にいま具体的に及んでいるかというと、その点はまだよくわからない、疑問だと私は思います。
  37. 木原実

    木原委員 従来も長官の御発言にたしかあったかと思いますけれども、直接侵略の心配はない、かりにそういう意図があっても、たとえば安保条約という、あるいは核のかさという抑止力も働くのだ、したがって日本自衛隊の主たる任務は、間接侵略に備えるのだ、こういう意味のお話もありましたし、間接侵略ということが、法律の条文としてではなくて、しばしば何か想定されているようにも思うのですが、しかし、どう考えましても、間接侵略の可能性といいますか、状況というものが私どもの頭の中ではつくれない。アジアの中でも、たとえばベトナムのような国あるいはまた開発途上の国で未開の分野が多いという国々ないしは特に分裂をした国々、民族が分断をされている国々、こういう中では、これは、おそらく日常ふだんに間接侵略といっていいような状況があると思うんですね。しかしながら先ほど長官も触れられたように、いわば同質の、それからまた国内が開発し尽くされていて、あるいは道路、交通、通信あるいは民度、こういうものが発達している日本の国に、間接侵略というような形で、たとえばそういう状況を生み出すものがほんとうにあり得るのかどうか、こういうふうに考えるわけですが、その点については、つまり自衛隊の一番大きな戦略構想の基礎になる問題だと思うのですが、その点についてのお考えはどうでしょうか。
  38. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 政治が失敗すれば、一夜にしてそういう条件ができると思うのです。だから、政治が一番大事な要素であると思っております。
  39. 木原実

    木原委員 しかし長官、それは少し一般論過ぎると思うのです。なるほど、やはり政治にかかわる問題だと思いますけれども、しかしながら政治が失敗をするというおことばの中身の問題もさることながら——間接侵略ということは、言ってみれば確かに政治の問題である。しかしながら、それが内乱という形をとる、あるいは暴動という形をとる、しかもそれが一ないしは二国以上の国々と気脈を通ずる、その扇動を受ける、そういうものでそういう形のものが起こっていくというふうに想定をするということは、政治が失敗をすればと、こうおっしゃいましたけれども、それは、あなたは政治家として御自分に自信がないか、あるいは国民民族的な同質性に対する信頼が薄過ぎるからじゃないでしょうか。どうでしょうか。
  40. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 政治が失敗しないという可能性はないわけです。われわれは、しないように一生懸命に努力しておりますけれども、そういう点は、戦々きょうきょうとして反省しつつ、失敗しないように努力していくべきものでありますけれども、万一にもしないということも言い得ない、長い歴史の間においては。まさかドイツにヒットラーみたいなやつが出てくるとは思わなかったかもしれませんが、出てくることは出てきたのです。日本の場合においてもやはりわれわれ政治家がしっかりしないといかぬ、そういう意味においてやはり一種の保険みたいな要素もあるわけですね。絶対死なないといったって死ぬかもしれない、けがしないといったってけがするかもしれない、自動車がぶつかってくるかもしれない、そういう要素もあるので、われわれ政治家が鼓腹撃壌する政治を続けられるという自信はだれも持ってない、現代は非常にむずかしいそういう時代であると私は思います。
  41. 木原実

    木原委員 長官が失敗をしてもあとは十分にやっていけますから……。あまり御心配は要らないと思うのです。長官はたいへん自信家のようだと思いますけれども、案外自信がないのでどうも見直さざるを得ないと思うのです。私どもはもう少し日本人というものを、いまの政治というものを信頼をしているわけです。自民党が必ずしも信頼の対象じゃありませんけれども、しかし政治については信頼をしておるから、必ずしも武器を持たなくても平和の道というものはあるのだ、これはもう民族を信頼し近隣の諸国の善意を信頼する以外にないと思うのです。もちろんこれは絶対の道じゃありません。ただ私が心配をするのは、間接侵略という条項があるために、政治が失敗をすればとおっしゃいましたけれども、何か政治が失敗をするときには、それに結びつけて、間接侵略だということで自衛隊が、日本の軍部がいわば政治の私兵になって使われる可能性というものは、これまた絶えず存在するわけであります。  もう一点御見解を承りたいと思うわけですが、そもそも間接侵略というようなもの考え方というものは、これは戦前の日本にはなかった。特にこういう発想が法律の中にも入り、自衛隊が生まれた根源にもなるわけですけれども、そうなりますと、一体こういう発想というのは大体マッカーサーの発想じゃないかと思うんですね。占領下時代の発想じゃないかと思うのです。日本が敗戦の中で行く末も定まらない、たしかそういう状況があったと思うのです。あるいはまたアメリカ人の発想の中には、アジア人は信頼できない、日本はかわいいけれども、どういうことになるかわからない、近隣諸国では中国も共産主義になった、ソ連も近づいてきた、朝鮮も分断をされておる、日本がいっそういう影響を受けるかわからない。自衛隊が生まれたのは、冷戦行動の中で、ああいう占領下の中で発想されたことであって、その根源の中には日本民族を一枚岩として信頼をしない外人の思想があるのじゃないかと思うのですが、どうでしょうか。
  42. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 木原先生は長い政治家としての御経験をお持ちでございましょうが、社会党におかれても、大会にもはや自衛隊みたいな防御集団をつくらなければ大会ができないというようなことは、夢想だにもしなかったのじゃないですか。そのためにかん詰めで徹夜して、籠城して大会を開くというようなことは、政治家におなりになったときに、夢にもお考えにならなかったと私は思うのです。現代はそういう時代で、突風が吹きますね。(大出委員「内政干渉だ」と呼ぶ)だから、きのうも大出先生の巧妙な御質問があったから、さあっと突風みたいな春のあらしが吹いたわけです。非常に質問が巧妙だとああいうふうに突風が吹いてくる。それと同じように、社会現象でもそういう現象がないとはいえないと、私この間の社会党の大会を見てしみじみと感じたわけでございます。  そういう面から見ましても、間接侵略という問題はないとはいえない。現代っ子というものはわれわれにはわからぬ要素がかなりあります。しかし終局的には日本人は結局日本人で、そう心配ないと思いますよ。しかし、そういう用意がないということはまたいけない。間接侵略に対するということばはマッカーサーの発想じゃないかというお話がございましたが、そういうことはありません。いまの自衛隊法及び防衛庁設置法は、あの当時、三党の政策協定で生まれたわけです。私はそのころ改進党を代表してこの法案をつくった一人でありまして、いまの西村直己君が自由党であって、中村梅吉先生が日本自由党で、改進党から私が出まして案文をつくったので、マッカーサーなんかから借りた思想ではありません。やはり日本の将来の社会構造やそういう変化を予想いたしまして、こういう文章を入れておいたわけでございます。
  43. 木原実

    木原委員 私はどうしてもここでひっかかるのですけれども、われわれも自衛隊の力を借りたわけではないのです。警察の力は少し確かにそれは借りました。しかし自衛隊の力は借りない。そこで七十八条によりますと、間接侵略ないし緊急事態、そういうことばがあります。私は緊急事態総理の命令によって自衛隊が出動しなければならないという事態は、それは長官心配になるように、気違いもいるわけですからこれはあるわけです。しかしながらそれはそれで、緊急事態、治安出動、それでいいのであって、間接侵略、つまり一国ないし二国以上の他国の教唆を受けて国内に内乱が起こる、それに対処をするやり方ですね。そういう想定、これはいわゆる警察的な出動、緊急事態に対する出動あるいは治安出動と言っていいでしょうが、それとは概念が違うものだと思うのです。それは確かに気違いもいる世の中ですから、そこまでは否定いたしません。しかしながら長官がおつくりになった十八年前とこの間のやはり日本の変化というものもある、安定の度合いというものもある。未来永劫こういうものを持っているということは、日本はこれからどういう形で成長していくかわかりませんけれども、自衛隊にとって、自衛隊の性格を誤るものではないか、こう思うわけです。ですから、その後の変化に応じて、やはり間接侵略という問題については慎重に再検討を要する問題ではないか、少なくともそういう問題を含んでいるのではないか、これは明らかに頭から——日本人の中には、長官ことばをかりれば、もし政治が失敗をすれば、一ないし二国以上の外国の何かにすがって内乱を起こしていこうというものが絶えず存在するということで、長官のお好きな民族的同質性からすればこれを疑うような条文を掲げている。これは日本自衛隊にとって、つまり国民的な合意を損ずる一つの大きな要素ではないか、私はむしろ長官のために心配するわけですが、どうですか。
  44. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 こいねがわくは、こういう条文は、いまのようなときは、ないほうがいいと私は思うのです。しかしそれを取るにはまだ政治として自信がない。また国際情勢その他の変化もよく戒心して見ていかなければならぬ、そういう現状であると私は思います。しかしまた一面こういう文章があることが、自衛隊自衛隊としての性格を意味しているようにも思うのです。つまり何といいますか、外的の防衛だけでなくて、情勢によっては警察の支援後拠としての問題もやる、海上保安庁のうしろだてもやる、またオリンピックにも協力する、そういう社会性を持っている一つの力という意味があるのではないか。社会党でしたか、公明党でしたか、国民警察隊に変えろというお話がございましたね。国民警察隊という考え方は、こういう考え方中心になるのではないかという気もしますよ。それはやっぱり非武装中立という考え方から、外敵と戦うということは否定して、そういう意味で治安維持とかなんとかということで国民警察隊という発想が出たのではないかとも思われますね。それはやっぱり自衛隊という性格というものをお考えになってああいうものが出てきているので、昔の軍隊という発想が基礎にあってああいうものが出たのではないのではないかという気も私はするのです。そういう点から見ますと文民統制ということば自体が変なんですね。つまり軍がある場合には文民があるのですけれども、いま憲法の解釈であの文民というものはだれかと聞くと、これは憲法論を聞かなければわかりませんが、軍人は日本にはいない情勢ですね。それで、自衛隊の制服の現役の者がという程度の解釈ですが、では彼らは軍人であるかというと、憲法では軍人ということばは使わないことになっておりますね。そうするとみんな日本におるのは文民じゃないか。とすると文民統制というのはどういうことをやっておるのか、こういうことも、実は私は就任してからいろいろ考えてみまして、考えさせられるべきものがあるように思うのですね。そういう意味において、この自衛隊の性格というもの日本独特の性格を持っていて、世界じゅうの軍隊が自衛隊みたいになればいいんじゃないか、そういう気がいたします。
  45. 木原実

    木原委員 これは私どもにとっては大事な点でして、私どもとしては国民警察隊という考え方を持っておるわけなんです。したがって、繰り返すようですけれども、警察的な機能を果たす、治安出動をする、緊急事態に対処する、そこまではいいと言うんです。ですが、間接侵略ということで、そういう形で他国と結んで、他国の扇動を受けて内乱が起こる、それに対処をする軍隊、軍事力。これでは国民の中に敵をつくるのではないのか。だからその点をはずせば、これは長官がいまお触れになりましたけれども、われわれと合意に達する面が出てくるわけなんです。それはともかくとしまして、そういう含みがあるから、これは新しく尋ねているわけなんで、御見解をお伺いしたいと思うのですけれども、私どもとしては、これは決して長官がいまお触れになりましたような自衛隊のそういう側面の機能を否定はいたしません。しかしながら、どう考えましても二、三の外国の教唆扇動を受けて国に内乱が起こる。もし内乱が起こって、内乱が起こるというのは政治の失敗ですから、そのときに軍隊が出動をしたということになれば、その軍隊は、これはもうやはりその失敗した政治の私兵になるわけですよ。やはりそういう意味でのいわば同一民族の中での相克は避けたい。政治の失敗は当然政治の面で処理をする要素というものがあるわけですから、いまだかつてそういう状態になって軍隊が出動をして成功したためしはないです。これはベトナムしかり、いまのインドシナ半島の諸国の状態を見ておれば、何かの政治の失敗があって、軍隊が出動をして民族の悲劇が上積みをされることはあっても、そのことによってまっとうな解決がついているという姿はない。日本が何もその轍を踏むことはないと思うのです。ですから、これから先のことを考えれば、万一のことがあるかもしれない。万一のときでも政治の失敗を、失敗した政治家によって軍隊が使われるようなことがあってはならぬ。それだから、願わくば間接侵略、そういうことばの中に含まれておるさまざまないわば要素というものは、はっきりと芟除をしていく必要があるのではないか、こういうふうに考えるわけですが、どうですか。
  46. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 そのお考えには部分的には私も共鳴いたします。というのは、やはり政治が非常に大事であるということを申し上げたいわけであります。そういう点からすると、やはり野党が健全にたくましく成長していただかぬと、そういう危険性が出てくるように私は思うのです。日本が自民党だけで長い間単独政権を続けているということは、あまり民主政治のために感心しないと私は思うのです。実際そう思うのです。自民党員として自民党自体を批判し反省しているのであって、これはやはり、国民は息抜きがないというと、暴力に走ったり変なところへ走りますよ。私は民主主義者としてやはり議会政治というものを大事にし、そうして政権交代が正常に行なわれ、国民の息抜きのチャンスをつくるということが、われわれ議会政治家としてほんとうに考えなければならぬことであると思う。このまま五年も十年も自民党単独内閣が続くというようなことは、日本の発展のためにはたしていいかどうか、私は政治家として考えますね。そのためにはほんとうの意味で野党は国民の信望を得るように成長していただきたい、そういうように私考えます。ですから、いつか私おこられましたけれども、情勢によったら、七〇年代の後半か適当なときに協議離婚したらどうだ、自民党は野党がたくましく成長しないのなら、そういう形ででも政権交代のチャンスをつくらぬと、国民にあきられるぞというようなことも言うたことがありました。そういうように、やはり一番根本はもう政治なのであって、政治のもとを正すということを心がけていきたい。しかしいまの間接的な云々ということばは、私は現在の日本の国情から見れば取ってはまだ危険である、そして自衛隊の機能として置いておかなくてはならぬ、しかし将来はそういうことばは要らぬような形に日本がなっていくということが望ましい、そういうふうに思います。
  47. 木原実

    木原委員 どうも選挙に負けた上に、おまけに長官から何か社会党の責任を問われたのでは、これはどうも立つ瀬がないわけです。(「社会党がんばれ」と呼ぶ者あり)これは同志がいるから、われわれ議会政治は健全だと思っております。われわれも大いにがんばって、自民党さんに少し減ってもらうように努力したいと思います。  それはそれといたしまして、長官、そうおっしゃいますけれども、これはもうあまり繰り返しませんけれども、具体的にそれでは間接侵略ということを想定して、私どもの頭の中にはこれはイメージとして浮かんでこないわけですよ。ある月夜の晩に九十九里浜にゲリラが上陸して、国内の反乱分子と一緒になって東京を攻める、こういうストーリーは描かれませんよ。ですからあなたは、まだ間接侵略という問題を除いていくのには時期が早い、こうおっしゃるのですけれども、またいまいろいろ政治が大事だということをおっしゃいました。おっしゃいましたけれども、政治は健全ですよ。いろいろ言われますけれども、絶えず批判を受けているということを含めて私は健全だと思う。国内にやはり内乱という想定をしなければならないという状況、ましてや外国と結んで内乱を起こさなくてはならぬという状況は、少なくとも日本の中にはないのだ、そういう誇りがなければ自衛隊はやっていけないのではないか、こういうふうに私は考えるわけです。ですから、自衛隊の戦略の中には、たとえば陸の大きな戦略の問題の中には、確かに間接侵略に対応するということがあるのですけれども、実際に想定をされるものはせいぜい学生の問題だけであったり、あるいはまた何か治安出動のワクの中の問題じゃないですか。何かそれ以上の危険性があるというなら、豊かな想像力を駆使して、こういう可能性もあるのだ、だからこういうものに備えるのだということを明示してもらいたいと思うのですが、どうですか。
  48. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 目下のところは私はそうないと思っております。しかし政治が失敗しないとは限らないし、そういうような面からいついかなる事態が起きないとも言えない。間接侵略という場合は、外国勢力と結びつくこともございますから、外国がどういう考え方を持って行動してくるか、そういうことにも関係いたします。日本人の善意は信じておりますけれども、一部にそういう不逞の考えを持つ人間がいないとも限らない。そういうあらゆる面で国の安全保障はやっておかなければならない、こういうように思います。
  49. 木原実

    木原委員 これは幾らやってもあれですから、ただ最後に一言この問題について申し上げておきたいと思うのですけれども、いまの自衛隊は悲劇的な存在だと思うのです。日本の安全に関する、あるいは防衛に関する基本的な姿勢というものが、一方では安保条約、先ほど議論がありましたから繰り返しませんけれども、安保条約という関係を通じて片足をアメリカに突っ込み、そうして片足は、これはもう共同声明ではありませんけれども、やはり台湾の問題、韓国の問題を踏まえて、アジアの中に、ことばが過ぎるかもしれませんけれども、敵を求めようとする。しかも国内の問題でいえば、間接侵略云々ということばの中に、少なくとも国民の一部を絶えずやはり敵として認識をしなければならない、そういうような何本かの足の上に自衛隊が立っている。これでは国民の合意を得ようと思っても得られないと思うのですね。これこそ私は政治の責任だと思う。ですから、私はかなりの部分では反対ですけれども、長官がある段階でやはり安保は解消すべきだ、こういう形の御発言もありました。だから、そういう観点からすれば、私は、やはり自衛隊国民の合意を得られるためには、いま申し上げたように形をすっきりさせて、いわばそれこそ民族の安全のために存在をするんだというすっきりした姿を出しませんと、これはいつまでも安保の問題に引きずられ、あるいはまた一方ではアジアの安定しない国交関係の中でさまよい、そうして国民の一部を絶えず敵として意識をして行動を律していかなければならない、戦略を立てていかなければならない。これは自衛隊のために惜しむ。私どもとしては自衛隊の機能が、長官が御指摘になったように、民衆の中にとけ込んで警察的な機能を果たしていく、そういう意味で、世界でも特殊な勢力として存在をするということについては、これは認めていこうではないか、こういうところまできているわけなんですが、しかしそこまでいっても、いま申し上げたような具体的な状況があるわけですから、これが国民の合意を将来にわたって妨げていく非常に大きな問題点だと私は思うのです。そこに一番問題を感ずるわけですけれども、その点についてひとつ御見解を承って、次に進みたいと思います。
  50. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 先生の御発言の趣旨はよく考えてみ、また大事な点を指摘していらっしゃるとは思いますが、自衛隊台湾に足を突っ込んでいるということはございません。それから、国民的合意をつくるということは非常に大事であります。一九七〇年代は非常に可能性と選択の時代であると総理大臣も演説で勇敢に言っておられることでもありますから、われわれもそういう観点に立って、あらゆる可能性、選択というもの考えつつ進んでまいり、できるだけ国民的コンセンサスをつくるように防衛問題についても前進していくべきだ、私はそういう信念をもってかなり放胆なことも言い、やっているつもりであります。どうかそういう国民的なコンセンサスをつくるためにいろいろと御教示願えればありがたいと思います。
  51. 木原実

    木原委員 私どもの主張は繰り返しませんが、さらにやや具体的な問題としまして、自衛隊は陸海空それぞれに、官庁的にいえば年度の計画、あるいはやや長期にわたる運用の計画を持ち、軍事的なことばでいえば、それぞれの戦略構想というものを持っていると思うのです。  まず陸の問題についてお伺いをいたしたいわけです。  陸の十八万、長年の悲願であったが、この陸上自衛隊の目ざそうとするものは、長官おっしゃったように間接侵略の可能性もある、それから局地戦の可能性もある、いろいろなことが考えられるわけですけれども、陸上の部隊を運用する場合の基本的な戦略構想といいますか、考え方は一体何に基づいているのですか、何を目ざしているのですか。その点をひとつお示しいただきたい。
  52. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 やはり本土並びに国民生活を防衛する、そういうことが基本にあるだろうと思います。それから間接侵略にも対応する力を養っておく、そういうこともあると思います。私は、陸上自衛隊の定員については、当分もうこの限度でよろしいという考えを持っておりまして、定員をこれ以上ふやすということはいま考えておりません。これはやはり一つの限界を示しておるものだと思うのです。そういうことは空についても海についても、ある限度までくればお示しできる段階になる。またわれわれが新しい防衛計画をつくるときには、この程度のことをやりたいということもお示ししなければならぬと思う。そういう意味において、ある段階が来て、そして限界を具体的に示す時期も来れるだろうと思います。陸上自衛隊の定員というのはその一つの一里塚でもあると思います。
  53. 木原実

    木原委員 陸の定員の十八万、これは限度で、しばらくこれでよろしい、こういう考え方は、あなたの前任者からも実は承ったわけです。ただ、ことばを返すようですけれども、しからばなぜ十八万でよろしいのか。その裏側にある構想といいますか、これから海と空に力を入れるんだ、こういうお話がありました。しかしながら、それなら十八万で一応満足すべき段階まで来ておるのだ、こういうふうにお考えになっておる根拠は何かおありですか。
  54. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 いままで言い古されましたように、十三個師団を配置して、そして日本列島全般における配備状態を考えて、それから日本の将来の経済成長等も考えてみまして、員数についてはこの程度、しかし省力化とか機動力とか装備とか、そういうものについては改善を要するものはある、そう思っておるわけでございます。
  55. 木原実

    木原委員 従来の経過をたどってみて私流に解釈をしますと、これはやはり間接侵略についての構想の影響かと思うのですが、いままでは、たとえば北のほう、北海道などを中心にして、かなり強力に部隊の配置が行なわれておりました。それが漸次西のほうに重点が置かれるというふうにも考えられるわけですが、これは何かそういう変化があったというふうに解釈してよろしいですか。
  56. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 別に変化があったというのではなくて、基本計画が順次展開してきた、そういうふうに考えていいと思います。
  57. 木原実

    木原委員 陸は十八万で十分だとおっしゃるのですが、私はむしろ陸のほうは減らしてもいいのじゃないか、こういうふうに考えるわけです。これはどこの官庁とも総定員法その他が出まして、たいへんに人員の削減が行なわれておる。今度出てまいっております法案は、海の三百名というもの中心になっておるわけですが、しかし陸のほうはむしろ減らしてもいいのじゃないかという感じが私はするわけです、これはそれぞれ内部の事情があると思いますけれども。と申しますのは、陸が、おっしゃったように、たとえば間接侵略に対抗する、あるいは不測、緊急の事態に備えて出動をする、そういうことなんですが、この十八万の兵力——私がこういうことを申し上げる背景の中には、かつての日本の軍隊は大陸で戦うということを想定して、非常に大部隊の陸軍を保有した、こういう大きな過去があるわけです。やはり陸の伝統というものの中には何かそういうものが芽ぶいてくる時期があるのじゃないか、このような心配も実はあるわけです。ですから私は、陸については、その果たす機能からいえば、国内の安定の度合いというものを考慮して、これ以上ふやさないということも一つの歯どめですけれども、むしろ逆に減らしていってもいいのではないのか、こういうふうに考えるわけですが、どうですか。
  58. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 定員を減らす考えはございません。やはり先ほど申し上げましたように、これからは定員は現在のままにしておいて、装備の近代化、あるいはアメリカから貸与された非常に陳腐化した兵器の更新、機動力、そういう点に力を入れていくべきだと思います。
  59. 木原実

    木原委員 そこで先ほどの問題に若干戻るようですけれども、たとえば間接侵略が想定をされる、あるいはまたいろいろな、いわゆる総理の命令による出動、こういうことが長官のおことばによりますと可能性として存在をしておるということになるのですが、なかなか想定が私ども頭の中には浮かんでこないわけですが、かりにそういう事態が起こったとして部隊が出動しますね。しからば出動したときの行動についての規制、こういうものが何かおありなんですか。たとえばそういう事態があって部隊が総理の命令で出動をする。そうしますと、そのときに部分的に内乱状態になっていて、撃ち合いが始まる、あるいは殺傷事件が起こるという場合に、たとえば戦死という概念はまだ自衛隊の中では確立していないわけですね。そういう場合に、隊員の死傷についての補償というものは一般的な在来の形で補償するのですか。
  60. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 その点は政府委員をして答弁せしめます。
  61. 内海倫

    ○内海政府委員 ただいまの点でございますが、手当あるいは災害補償というふうな問題につきましては、現在規定されておりますものは、いわば平時の場合における問題でございますから、防衛庁職員給与法の中でも自衛隊の出動に際して手当あるいは災害補償その他給与のことに関しては別に法律で定める、こういうことになっておりまして、別途法律を予定しております。したがって、私どもとしましては、現在まだどういうような案というものを持っておるわけではございませんが、今後にわたっていろいろな材料を得て検討していかなければならない、こういうように考えております。
  62. 木原実

    木原委員 これから別途に法律で考えるというわけなんですが、私は大事な問題だと思うのです。というのは、長官によりますと、間接侵略というもの心配がないわけではないのだから、こういう概念は法律からはずすわけにはいかない、こういうことですし、それからまた自衛隊の日常の訓練の目標が究極のところやはりそこにある。そうすると、出動の可能性、こういうものは絶えずあるわけですね。そういうものも間接侵略と判断をして、総理が出動命令を下される。これは、普通の災害出動やおそらく警察的な機能をもって出動する場合と区別される出動の可能性もあるわけでありますけれども、そういうときになると、昔ですと、たとえば平時の訓練の場合とそれから戦時の状態の場合の処遇、こういうものは全く違ったものがあったわけですね。いまからそういう戦争に備えて法律をつくるというのもたいへん妙なものですけれども、しかしたてまえとしては、そういうものがなくてはならない。これは何も隊員の死傷の問題だけではないと思います。たとえば出動するその辺の民有にかかる土地、建物が、あるいは接収される、あるいは損壊をされる、あるいは自衛隊が作戦の必要上急場で収用といいますか、使用をする、そういうときの収用のしかた、あるいはまた使用のしかたなり補償のしかたなり、さまざまなことが想定をされるわけですが、それらについてもこれから考えよう、こういうわけですか。
  63. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 それらの点は自衛隊法百三条一項に一応規定ができておりますけれども、その具体的内容は政令できめることになっておるようでございます。それらの政令はまだきめられておりません。
  64. 木原実

    木原委員 政治がしっかりしていましたら天下泰平で、何もそこまで考えなかったというのは、お互いに胸を張ってよろしい、いいことだと思うのです。しかし私が質問を申し上げた論理からすれば、長官は、警察出動なりそういうこともあっても何か在来のやり方で補償その他の措置もとれると私は思うのですよ。しかしながら、長官はたいへんねばり強く、間接侵略というようなものについては、はずすわけにはいかないんだ、こうおっしゃるわけです。その場合には、これは自衛隊法でいう急迫不正の侵略があった、こういうような場合を想定しておるわけです。それならば、自衛隊はそういうことで出動する場合があり得るという意味ですから、しかもそういう出動はふだんの他の出動の形態とは当然区別して考えてしかるべきものではないか、こういうふうに考えるわけです。この点は区別して考えてよろしいのですか、どうですか。
  65. 島田豊

    ○島田(豊)政府委員 ただいま長官から御説明がありました百三条の関係は、これは七十六条の防衛出動の関係でございまして、その際における施設の管理あるいは土地等の収用あるいは物資の収用等につきまして規定をいたしてございます。治安出動につきましては特別にこういう規定はございませんので、治安出動の場合にいろいろなそういう問題が生じました場合には、既存の法令を適正に適用して、適正な措置を講じていく、そういうことに相なると思います。
  66. 木原実

    木原委員 これは長官、むずかしい問題だと思いますけれども、やはり出動の性格、形態、こういう問題についても——従来はいわゆる治安出動なるものもなかった。訓練、災害出動ですか、そういうことで済んでまいりましたけれども、しかしこの法律のたてまえにもある、しかも長官のお考え方によると、やはり可能性としてはそういう出動をしなければならない条件というものが存在をしておる、こうおっしゃるのですから、それならばそれの裏づけになるようなものをやはり用意をしなければ平仄が合わないことになる。ですから、出動の形態あるいは出動の性格、そういうものをやはりきちんとして決断をする、そういう問題はございませんか。どうでしょう。
  67. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 そういうものを制定する必要な事態が生まれましたら制定する必要はあると思いますが、いたずらに人心を刺激するというようなことも政治上考慮すべきであると思って、いまのところは保留しているのだろうと思います。
  68. 木原実

    木原委員 これはおそらく政治の判断だろうと思います。ですからわれわれも、法律に書いてありましても間接侵略やあるいは緊急事態等があって戦時的な体制でもって、装備でもって自衛隊が出動するというようなことがあってはならないと思いますし、あらしめないように努力をするということがお互いの最大の努力目標だと思います。しかしながら他の半面、たてまえからいきますと、それが備わっていなければ——先ほど来議論をいたしました間接侵略の問題も長官はいろいろおっしゃいましたけれども、実際問題として間接侵略というようなことは将来の問題としてもそうは心配することはないのじゃないか。こういうことになれば、さっきの話に戻りますけれども、それならばいっそ間接侵略の問題はむしろ自衛隊の性格からはずしていったらどうか、こういうことにもなるわけです。これはあまりくどく申しませんけれども……。それじゃ長官の御判断は、政治的な刺激その他を避けて、いまのところは必ずしも必要が認められないからつくっていないんだ、必要があればつくる、こういうことでございますね。
  69. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 そのとおりでございます。
  70. 木原実

    木原委員 それならば、さらにもう一つお伺いをいたしたいわけですけれども、そういう場合の兵器使用の制限というような問題については、何か別に規定がございましたか。たとえば治安出動の場合の兵器の使用の制限、規制。
  71. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 政府委員より答弁いたさせます。
  72. 島田豊

    ○島田(豊)政府委員 防衛出動をかけられました場合には武力行使に関する規定があります。防衛出動をかけられたときには武力行使をすることができます。その場合には国際慣行、国際法、こういうものを十分に順守していかなければなりません。治安出動につきましては警察官職務執行法が準用せられますし、それ以外につきましても若干の武器使用に関する規定がございまして、そういうものを適用していく、こういうことになります。
  73. 木原実

    木原委員 治安出動の場合には警職法が準用される、こういうことですね。そして武器の使用等については国際法、国際慣行を順守してということですか。
  74. 島田豊

    ○島田(豊)政府委員 防衛出動の場合には武力の行使ということでございますから、武器の使用ということも含まれると思います。
  75. 木原実

    木原委員 そこに長官、武力の行使という問題があるわけです。治安出動も幸いにしていままではなかった。これは七〇年代もないことを望みたいわけですが、しかし、一方では武力の行使についての——私は必ずしも十分な措置かどうかはわかりません、内容を詳しく知りませんから。しかしながら、武力の行使その他についても一定の規制を設けておる、こういうことがあるわけです。これはそうであっても、そういう場合には武力を行使をする、こういう前提があるわけですね。武力を行使するということになれば当然相手があることですから、その場合には隊員の死傷ということも存在するわけです。その場合の補償は——これは少し話がそれますけれども、現在の自衛隊のたとえば訓練中の事故死あるいは事故に基づく死傷、こういう場合の補償の問題も、実は公務員一般がそうだといえばそうなんですけれども、あまりにも乏しいという側面があると思います。そういうことを考えますとなおさら、治安出動の場合に命令によって武力を使う、当然相手もそれに準じたものを持っていると考えなくてはなりません、こちらが使うわけですから。そういう出動で死傷者が生じた、それについての特別な補償なり何なりというものがないということは、これまたたいへんな片手落ちじゃないですか、どうですか。
  76. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 その点も政府委員に答弁させます。
  77. 内海倫

    ○内海政府委員 先ほど答弁申し上げました出動の際に特別な規定をするという場合における出動と申しますのは、この場合は治安出動も防衛出動も両方含まれるものでございます。したがって、ただいま先生のおっしゃいましたように、治安出動の場合における災害補償あるいは諸手当、こういうものもやはり別途法律で定める、こういうことでございます。
  78. 木原実

    木原委員 それじゃもうちょっと具体的に尋ねておきますけれども、たとえば最近習志野で降下訓練中に一人事故でなくなった隊員がおりましたね。そういう場合に具体的にどれくらい補償が出ているのですか。
  79. 内海倫

    ○内海政府委員 実際に交付いたしましたものを御説明申し上げたいと思います。  国から給付しましたのは、これは災害補償法に基づくものですが、遺族補償年金が十四万六千六百二十円、それから葬祭補償、これは葬祭のための補償でございますが八万三百四十円、それからこれはまだ十九歳の少年隊員でございますが、これに対する退官退職手当が十二万四百四十五円、それから賞じゅつ金が百二十万円でございます。したがいまして、総計いたしまして、遺族に対する年金として十四万六千六百二十円、それから先ほど申しましたような一時的に給付されるもの、総額百四十万七百八十五円、こういうことでございます。このほかに共助会というものをつくっておりますから、これの弔慰金が四十五万円、それからこれは法令に基づくものではございませんが、隊友会からの見舞い金が五千円。なお念のためつけ加えますと、本人の掛けておりました生命保険による支払いは五百五十一万三千七百五十五円ございます。  以上が陸士長十九歳の少年隊員の死亡事故に対する補償でございます。
  80. 木原実

    木原委員 これは他の公務員の場合にもある程度当てはまると思いますけれども、生命保険におんぶしているようなものですね。これは長官、私ども自身は自衛隊に対して賛成をいたしておりません。しかしたくさんの青年諸君やあるいは隊員諸君が——これは職業としていえば最も危険な職業ですよ。そして総理をはじめ長官も含めまして、口を開けば使命感を強調しておる。またふだんの訓練の中でも、おそらくそういう使命感に基づいて教育訓練を受けていると思います。われわれも兵隊の経験があるわけですけれども、しばしば死傷の危険な線を歩いていると思いますね。私は何も金銭に還元してものは申したくないわけですけれども、それにしては、これもわれわれの責任かもわかりませんが、国の措置というものは冷たいですね。実際に国が出しているものは幾らもないわけです。生命保険が五百五十一万ですか、そして合計しまして百四十万円、実際に国が出しているのは百万円前後ですか。いずれにいたしましても、きょうび自動車で人身事故を起こしても御案内のとおり一千万円以下ではとてものことどうにもならぬという状態ですよ。これは先ほどの問題にも関連をするわけですけれども、それほど長官自衛隊の存在を強調し、それからまた国の安全の一つの柱だというのならば、この辺からのアプローチはやはり何か大きな手抜かりがあるのではないですか、どうですか。
  81. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 御指摘のとおりでございまして、その点に対していま検討を命じてあります。
  82. 木原実

    木原委員 自衛隊員の意識調査、正確の度合いは別にしまして、私ども断片的に見ることがあります。たとえば自衛隊員の募集の方法その他を見ましても、最近のいわゆる現代っ子、というとことばが悪いのですけれども、そういう風潮になじむせいか、かなり金銭によって募集しておられる。自衛隊へいらっしゃい、三年いれば技術も身について七十万の貯金ができますよ、これが普通の状態で隊員を募集する場合の呼びかけの一つになっておる。その可否を私はここで問うわけではありません。金銭の問題に還元するのはあれですけれども、ただそういう状況の中で自衛隊員の意識調査その他を見ますと、いざ戦場に行くかと問われた場合に、行くという答えが、御存じかもしれませんけれども意外に少ない、そういう状態があるわけですね。喜ぶべきか悲しむべきかということですね。職業としての自衛隊員としてはつとめるけれども、しかしいざというときに、それでは自分の命を投げ出すかと問われたときには、私の見た資料が片寄っておるのかもしれませんけれども、意外に少ないという印象を受けた資料を見たことがあります。私は、そのことが金銭によって埋められるものではない、もっと深い問題があると思います。しかしながら、少なくとも昔流儀にいえば、国のために生命を常に投げ出して行動するということを規定されておるそういう隊員に対しては、しかるべきものがないと隊のこれからの運用上、構成上、向かっていく方向についても、はからざるあやまちをおかすのではないのか、こういう感じがするわけです。いま長官はこれらの点については検討を命じておる、こうおっしゃいます。検討は確かに必要ですけれども、もの考え方がどうもちぐはぐのような感じがするわけです。その辺の御感想はいかがです。
  83. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 その点は御指摘のとおりであると思います。したがいまして、できるだけ早期にそれは改革したいと思っております。
  84. 佐藤文生

    佐藤(文)委員 人事局長に質問します。  ただいまの質問について関連質問をいたしますが、習志野で事故でなくなった。そういう場合に金額の面と精神的な面と私は二つあると思うのですが、精神的な面で遺族に対してどういう措置をしたのか。具体的にいえば、防衛庁長官あたりの、練習中にこういう事故で命をささげたのだ、こういったような表彰状というか感謝状というか、そういうものを出す規定がありますかありませんか。
  85. 内海倫

    ○内海政府委員 自衛隊におきましては、自衛隊員の公務に尽くした功労を顕彰いたしまして、最高は内閣総理大臣の特別防衛功労章、さらに長官から、さらに各指揮官からその功績を顕彰する賞詞、それから内閣総理大臣の場合、長官の場合、記章を授与する、こういうふうな措置を定めております。それからさらに、先刻もう御存じのように、これとは別に勲章を贈呈する場合もございます。したがいまして、個々のそういうふうな事例に照らしましてこれに対する措置をとっておるところでございます。
  86. 佐藤文生

    佐藤(文)委員 長官に質問します。  いまの答弁について私まだ疑義があるのですが、いまから五年前のことです。やっと昨年これが片づいておりますが、九州の十文字原という演習場で、同じ十九歳の陸士長だったと思いますが、演習中に通信線を延線中に、その端のほうが服にまつわりついて、そしてトラックから落ちて即死した事件があります。ただいまも言ったような補償金が交渉の結果だんだんと出たのですけれども、なかなかこの交渉がうまくいかない。西部総監のほうに私直接連絡をとったけれども、なかなかうまくいかなくて、中央までやってきまして、ようやくただいま言ったくらいの金額が支給されるようになった。しかし、それはもう単なる事務的な手段だけでやったために、遺族の方は非常にさびしく思いまして、国のために命をささげたのだ、こういうことで何とか防衛庁長官の感謝状というか、遺族に対して、あるいはそういったなくなった兵に対して、将来残るようなものをもらいたい、こういったような精神面を非常に要求されました。しかし、そういう規定がないということで、なかなかうまくいきませんでした。そこでついに地方の新聞に、その遺族の精神面に対する非常に冷たい防衛庁のあり方が大きく取り上げられまして、なかなか解決できなくて、ついに私が間に入りましたけれども、父親が、もうこうなったならば東京に上って宮城の前でぼくは首をくくる、こういう遺書を残して東京に出てきたのであります。そういう事態になって私も驚いて中に入って、そういうことをしないでくれ、何とかぼくが話すからということで、防衛庁長官に直接話をしまして、そういう規定がないので、長官個人の表彰状を出そうということで話がついて、ようやく決着いたしたことがあります。そこで、いま言ったようなことが具体的に規定されてないのじゃないかと私は思うのです。したがって、補償金の額も、いま交通戦争で、万一命を失っても相当額を支給される時代に、このくらいなわずかな額ということとともに、精神面に対する防衛庁の内規というのか、そういう規定がいまなお確立してないのじゃないかという印象を持っておりますので、その点について検討させるということだけではいけないと思うのです。私は、早急にはっきりした線を出して、精神的な面あるいは物質的な面において十分に補償ができるようにしていただきたいということをお願い申し上げたいと思います。
  87. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 この点は自衛隊のみならず、警察官あるいは海上保安庁職員等も含めまして、公務殉職者に対する冷遇が著しいわけです。それでこの間も山中総務長官とも話しまして、全面的にこれを再検討してもらおう、そういうことで、再検討し、必要な措置をとろうと思っております。
  88. 木原実

    木原委員 私はこの問題は自衛隊員も——もというのは悪いのですけれども、自衛隊員も基本的に人間として尊重されなくてはならぬと思うのです。どういうあれか、自衛隊入隊のときには、憲法に忠誠を尽くすという意味での、そういう何か宣誓のようなものがないということを聞いております。これはあるならば訂正をしていただきたいと思います。しかし、当然憲法に基づく基本的な人権、いろいろな面できびしく制限が加えられております。たとえば政治活動の自由という問題については著しく制限が加えられております。これも職務の性格上やむを得ないと私も思いますけれども、しかし制限が加えられておるだけに、生命であるとか健康であるとか、言ってみれば基本的な部分についての処遇のしかた、そういうものはやはり最大限に尊重されなくてはならぬ、こういうふうに考えるわけです。御承知のように、かつての軍隊が、しばしば基本的人権が無視された中でつくられてきた、こういうことがあるのですが、いまの自衛隊はそういうものとは違うと思います。違うと思いますけれども、しかし、制度として、処遇の面できちんとしたものをつくることによって、人間として尊重していくのだ、こういう姿勢をやはり示してもらいたいと思います。しかも自衛隊というのは、どこの軍隊でもそうですが、世間とは何かしら隔離された世界で大ぜいの若い人たちが生活している。そういう中ですから、外からはうかがい知れない側面も確かにあると思う。それだけに、ただいまの問題も含めて尊重していく、こういうものをはっきりさしてもらいたいと思うのですが、それらについての配慮はいかがですか。
  89. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 感慨といたしまして私も全く同感でございます。自衛官の人間尊重ということを私も打ち出して、そのために努力しているところでございますが、さらにいろいろな部面にわたりまして点検をしてまいりまして、実行してまいりたいと思います。
  90. 木原実

    木原委員 話が少し飛びますけれども、たとえば兵器の問題にいたしましても、最近いろいろな新しい化学兵器ができておるわけです。問題になりましたBC兵器日本はこれを持たないのだ、こういう線でいろいろな意思表明があったことは私も存じております。いま自衛隊の中にはこのBC兵器に属するようなものは開発はしていないし、お持ちにもなっていない、こういうふうに判断してよろしいですか。
  91. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 そのとおりでございます。
  92. 木原実

    木原委員 化学学校というのがございまして、ここではおそらくそういうものに対する防護の訓練をやっているのではないかと思うのですが、この化学学校というのは、一体何ですか。
  93. 内海倫

    ○内海政府委員 化学学校と申しますのは陸上自衛隊にある学校でございますが、この学校での教育の目的は、ただいま仰せられましたように、化学兵器等についての相手方の使用に対する防護方策をどうするか、さらにそういうふうな防護器具をどういうふうに整備するか、あるいはそういう防護兵器をどういうふうに補充していくか、こういうふうなことを訓練し、さらにいろいろ研究する、こういうことを目的とする学校でございます。  学校の内容といたしましては、幹部、曹及び士にそれぞれ分けまして、それぞれに必要な訓練を行なっておる、こういうことでございまして、いわばきわめて消極的な、防護面からの措置を教育しておるところでございます。
  94. 木原実

    木原委員 おそらくそういうことであろうと思います。積極的にこちら側で化学兵器というようなものは開発もしないし持たない、こういう前提があるわけですから、ただ、それに対しての防護の訓練をする、こういうことですね。  ただ、その防護の問題ですけれども、この防護の問題というのは、実は化学兵器を使用することとは紙一重のところではないかと思うのです。そういう意味では、防護するためには現実に化学兵器に類するようなもの一つの演習材料としてでもある。したがって、私はこの防護訓練ということは使用ということと裏と表の関係にあると思うのです。ですから、これは長官にひとつ政治的な決断を御表明いただきたいのですが、CBRというような兵器1もっとも核兵器については、御案内のとおり非核三原則というものがしばしば表明されて、少なくともいまの政府が続く限り、核兵器はつくらず、持たず、持ち込ませずという原則が確立しておるわけですが、CBRという兵器もある意味では核兵器に類似をする一種の皆殺し兵器だといわれております。しかも殺傷の度合いが核兵器のようにはでではない。はでではないけれども、たいへん安上がりに容易に開発することができるし、入手することができる。しかも影響力は核兵器にきわめて類似した影響力を持つ、こういうことがいわれておるわけです。ですからそうであるならば、あらためて非核三原則にのっとったような意味で、われわれはその種の兵器を持たないんだという宣言のようなもの政治的にお出しになる、そういう必要はお考えになりませんか。
  95. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 私は議会でCB兵器は持ちませんと明言をしておりますし、総理大臣も議会で明言しておるのでございまして、国権の最高機関で責任を持って言っていることばでございますから、それを御信用願いたいと思うのであります。
  96. 木原実

    木原委員 ただ、それにもかかわらず相手方は使うかもわからないという想定のもとに防護の訓練が行なわれておる。私はくどくど申しませんけれども、防護訓練をしておるということの中には、やはり使用をするということといつも紙一重の状態が存在しておる。だから、疑えば、そういう御言明にもかかわらず、容易に入手しやすいしかもたいへん安上がりだ、しかも国民の目につかないところで使用することができる。こんなようないろいろな条件があるだけに、これは繰り返しあれをするようですけれども、そういう兵器は人類の敵だ、こういうことで、もう少しきびしい不使用宣言のようなものを私はしてもらいたいと思うのですが、いかがですか。
  97. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 お考えには全く同感でございますが、宣言にするか何にするか、やはり一番強いのは、国会で国民の前に約束することが一番強いのではないかと私は思います。
  98. 木原実

    木原委員 防護ということに関連をいたしまして、これは衛生局の関係になるかと思いますけれども、隊員の諸君に対してしばしば、たとえばインフルエンザの予防であるとかあるいは赤痢の予防である、こういうことで、集団的に一種の実験が試みられておる、こういうことはございませんか。
  99. 浜田彪

    ○浜田政府委員 いままでに、この間も問題になりましたインフルエンザあるいはポリラクトンの投与等につきましては大体市販の段階に至る前に臨床的な試みということでございまして、いわゆる人体実験というふうな形のものではございません。現在では、この間勝田で行ないましたポリラクトンは市販されております。インフルエンザにつきましても、国立予防衛生研究所で行ないました国家検定に基づいて、検定を済ませたあと私たちが使ったのでございまして、決して人体実験的性格を持ったものではございません。
  100. 木原実

    木原委員 勝田で行なわれたというポリラクトンも、市販以前の段階で千名余りの学校の生徒に試みた、こういうふうに実は私も聞いておるわけです。人体実験ではない、こうおっしゃるのですが、特に自衛隊の中の若年者である学校生徒、こういう諸君はやはり自衛隊のしかも学校、そういうので世間から隔離されて、ある意味では指示に対して従順な諸君の集団だと思うのですね。したがって、人体実験ではないとおっしゃるわけですから、人体実験ということにはこだわりませんけれども、しかしながら、そういう試みをするのには、試みるほうからすればたいへんに実験しやすい状況にいる集団だと思うのですね。それだから、私は先ほどの話に返るわけですけれども、自衛隊員は人間として尊重されなくてはならぬ、こういうことになりますと、まだ市販以前の臨床実験だとおっしゃいますけれども、きょうび集団的にそういうからだを出してくれるという人はおそらくはかには見当たらぬだろうと思うのです。そういうことから、たとえば自衛隊のある部分が、自衛隊の学校生徒がそういう対象にされるということについては、私はいささか義憤を感ずるのですが、その点についての抵抗感はそちらのほうにはおありじゃございませんか。
  101. 浜田彪

    ○浜田政府委員 ただいま御指摘のありました点につきましてはそれぞれ関係の研究室、病院あるいは学校等でそれぞれ事前に実験を済ませまして、そのあと、成果があるという研究報告が出ております、その二次的な段階で、実験というふうな名を使っておりますけれども、実際問題としては市販のものよりも非常に免疫効果の高い、そうしてより臨床効果の高いものという意味で、実はインフルエンザワクチンの接種と同じような意味で使用したものでございまして、一番最初に自衛隊に使うということには私も抵抗を感じますけれども、実際はそれぞれ特定の研究機関において十分成果があがるものということで、効果が確認されたあとでその追試を行なったものでございますので、私は心配ないのではないかというふうに判断をいたしております。
  102. 木原実

    木原委員 たとえばそういう臨床的な実験をやる場合に、これは拒否する自由があるわけですね。これは自衛隊人たちもそうだと思うのです。しかしながら、こうやって社会におる者ですと、何だそんな痛い目はしたくはないといって拒否することもできると思うのですが、いま申し上げましたように、自衛隊それ自体がある程度集団的に世間から分離した一つの集団の社会、その中でさらに学校生徒、こういうような集団の中で生活をしている若年の諸君にとりましては、そういう自由を持たないとは言いませんけれども、きわめて従順に自分のからだをそういう薬品の実験等に供する、こういうことになると思うのです。だからその立場を考えてやらなければならぬと思うのです。そうでないと、これだけの何か新しい薬品実験をする場合に、しかも個々の臨床実験は幾ら重ねたにしましても、一度に集団的にそういう実験が行なわれるという場はきわめて少ないと思うのです。それだけに内局あるいは責任者としては、その立場を考えて慎重にやってもらいませんと、何か自衛隊の隊員がそれこそ薬品の人体実験の好餌にされているのではないか、勘ぐれば何か薬品会社が自衛隊と組んで適当にそういうことをやっているのではないか、黒い霧があるのではないかという観測さえも生まれるわけですね。そういうことがあってはならぬと思うのです。ですからこの種の試みは、おそらくこれは集団的な医学上のいろいろな問題も私はあると思うのです。その判断は私はいいと思いますけれども、少なくとも何か疑問を持たれるようなそういうやり方については、相手の立場を考えてやって、慎重であってほしい、こういうふうに思うわけですが、どうですか。
  103. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 その点は御趣旨を体して慎重にやります。
  104. 木原実

    木原委員 これはぜひお願いをいたしたいと思います。  そこで、使われましたインフルエンザないしは赤痢菌に対する予防の——赤痢菌なんというものは、これは先ほどの話じゃありませんけれども、細菌兵器としては現に使用されるわけですね。そういうものに対する対抗措置、しかも実験の過程の中でたまたまということばがありますけれども、偶然赤痢患者が発生しているとか、いろいろな、私の友人が調べたものですけれども、何か推測すればたいへん奥行きの深いような事故も起こっているわけですね。それだけに私は慎重の上にも慎重を期してもらいたい。そうして先ほどの問題に返りますけれども、かりそめにも人間の弱点につけ込んでいくような、そういう細菌兵器の類あるいは化学兵器の類というものは、つくらず、持たず、使わない、こういう原則をひとつ確認をしてもらいたいと思いますが、どうですか。
  105. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 人間尊重、特に自衛官の人間尊重の理念に徹して、慎重に措置してまいりたいと思います。
  106. 木原実

    木原委員 もう少しお伺いをいたしたいと思います。  陸の問題に次ぎまして、海の問題を少しお伺いをいたしておきたいのですけれども、これから四次防にかけて海の力をふやしていきたい、こういうことです。たまたま先ほど来触れましたように、これからの海上自衛隊防衛の任に当たる区域というものも広がっていくのではないのか、マラッカ海峡まで伸びていくのではないのかというようなことがアメリカの国会議員を刺激したような事態もあります。これからの海上自衛隊の、いってみれば戦略構想といいますか、そういうものはどういうところに重点を置いて運用をして考えていくのか、お伺いをしたいと思います。
  107. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 本土防衛のために領海並びにその周辺海域を守る、それから日本の船団護衛と申しますか、物資補給のために必要な護衛措置を講ずる、それも大体近海において行なう、そういう二点を中心にして考えていきたいと思っております。
  108. 木原実

    木原委員 まあ航路の安全を期するということだと思うのですが、範囲はどういうことですか。たとえば南西航路の面については、一説にはフィリピンあたりまで、それからまた太平洋の面ではグアム島の近くまで、これが航路防衛範囲ではないか、こういうことをいわれているんですが、そういうふうに考えてよろしいんですか。
  109. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 海上交通保護の範囲につきまして、そう明確に定めたものはございません。そのときどきの二次防末なら二次防末、三次防末なら三次防末の海上自衛隊の兵力量と申しますか、防衛力によりまして、おのずからどの辺までできるかということが相対的にきまってくる、こういうことでございます。
  110. 木原実

    木原委員 従来海上自衛隊一つの任務として、たとえば事が起こった場合に、宗谷あるいは津軽、対馬、こういう海峡封鎖というような任務がある、こういうことをいわれていたんですが、それはそういうことですか。
  111. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 海上自衛隊の運用構想の中には海峡を防備するということは大事な任務の一つとして考えております。
  112. 木原実

    木原委員 これは私の判断で、間違っていたら御指摘をいただきたいと思いますけれども、やはり海上自衛隊、私はそうたいした戦力ではないと率直には思いますけれども、ただ安保条約に基づくアメリカ軍との関係というのが、ここでもたいへん私は不明確な感じがいたします。しかも安保条約は、たとえばかりに商船に対しての攻撃があった場合には、御案内のとおり安保条約は発動しない、こういう限定されたものなんですけれども、しかしこの海上自衛隊の何かアメリカ軍との共同作戦といいますか、これはまあ全般に共同作戦は不明確なんですけれでも、そういうものは何かはっきりしたものがほんとうにあるのですかないのですか、どうですか。
  113. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 陸海空に限りませんけれども、安保条約と組み合わせてわが本土防衛する。たびたびお話が出ておりますように、攻撃力は安保によって米軍に期待するということが基本構想でございます。しかし具体的にどの地域をどちらがどういう部隊で担当するかというようなことを平時からきめておるわけではございません。間接侵略なり直接侵略——まあ間接侵略の場合は安保が働くということはまずないと思いますが、直接侵略の様相にいたしましても千差万別でございましょう。そのときの状況によりまして平素の両方の意思疎通を密接にいたしておきまして、そのときの直接侵略の様相によりまして、具体的に協定をして運用する、こういうことになると思います。
  114. 木原実

    木原委員 現在の三次防もそうですけれども、潜水艦に対する攻撃力といいますか防護能力といいますか、そういうものを強化していきたい。そういう考え方が出てくる根本はやはり潜水艦が相当に、たとえば近海に遊よくしておる、そういう事実の上に立って、あるいはこれからの海上の安全のかなりの部分が対潜水艦の問題だ、こういうふうに判断なさってのことなんですか、その根拠は何ですか。
  115. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 先生のお話のとおりで、昔のように艦隊同士が海上で決戦をするというふうなことは、これからは日本に限らずどの海上でもなかなか起こり得ないのではないかという感じがいたします。特に日本に当てはめてみた場合には、日本国民生活、経済力を破壊するということが、かりに侵略する場合には可能性の多い、向こうから見ましてやりやすいやり方ではないかという感じがいたします。その場合に一番役に立つのが潜水艦であろうということが考えられるわけで、したがって海上自衛隊としては対潜作戦というもの一つの重点にして訓練をしている、また装備もしている、こういうことでございます。
  116. 木原実

    木原委員 これはおそらく想定をする相手側の潜水艦の機能というものも、たとえば原子力潜水艦も含めて機能がたいへん大きくなっている、強くなっている。それに対抗するためには、対抗しなくちゃならぬわけでしょうから、やはりヘリコプターを使うとか新しい要素がずいぶん加わってきているようですけれども、やはり相手のあることですから、出ていったはいいが相手のほうが強かったというんじゃどうにもなりませんから、そういう側面から見ますと、一つには長官がいつかお触れになりましたけれども、将来の問題として原子力を推進力として持つ潜水艦を日本自身が持つ、こういう可能性はおありなんですか、そこまで長官はおっしゃったのですか、どうですか。
  117. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 原子力基本法の解釈において、あの基本法は原子力の爆発力あるいは放射能を使って直接人を殺傷するとか破壊するということを兵器として使うことを禁止しておるのであって、たとえば平和利用の結果、それで鋼鉄がよくなるとか、それが甲板に利用されるとか、あるいは原子力発電が自衛隊で使われるとか、あるいは原子動力による推進力が普遍化した場合にそれを自衛隊が推進力として使うということを禁止しておるものではありません。将来そういう時代になったら使うことも検討することになるでしょう、そういうことを答弁したのであります。
  118. 木原実

    木原委員 たいへんな論理的に問題のあるところだと思います。私は、同じ論理でいけば、一番心配いたしますのは、たとえば相手側が原子力潜水鑑だ、そしていろいろの機能を持っている、しかしそれに対して有効な防衛のための攻撃をかける、そういう場合には長官のただいまの論理は、兵器としての潜水艦ではあるけれども、これはほんとうのエンジンですからいいじゃないか、こういう解釈だと思うのです。しかし同じ筆法を当てはめて考えてみますと、相手側があるわけだから、機能的にこちらが動こうとすれば、たとえば攻撃をかける場合にはやはり核を使用したほうがはるかに捕捉力も大きいしというような論理にも何か結びつくような感じがするわけです。直接この問題が結びつくとは思いません。ただ、これからの兵器競争の中で核という問題が論理的に出てくる、こういう問題を私は考えるわけです。ですから、長官のいまの御発言の中身は、これは原子力基本法の解釈の問題として、推進力ですから、これは電力に核エネルギーが使われていてもその電力を自衛隊が使ってどうのこうのということはないのだ、これと同じことで、推進力としては潜水艦に使ったって原則に触れるわけはないんだ。それは解釈としては成り立つと思うのです。ただそれをふえんをしていけば、私はやはりこれは兵器の競争の中で核という問題が論理的に出てくるような感じがするのですが、どうでしょうかね。
  119. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 論理的に出てくるか出てこないか知りませんが、ともかく非核三原則に徹してわれわれは実行していこうと思っております。
  120. 木原実

    木原委員 それはよろしいでしょう。ただ、もう一つ、あわせてお伺いしたいわけですけれども、将来四次防なら四次防の段階で、対潜用空母のようなものをおつくりになるお考えはございませんか。
  121. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 つくる考えはないと思います。
  122. 木原実

    木原委員 そうしますと、かなり近い将来にわたって——大体いま自衛隊が持っておる艦船というのは、十二、三万トンですか、そういうことだろうと思うのですが、これで実際にいろいろ戦略だなんだといわれておるわけですけれども、実際に政治状況が、かりに悪くなったというような場合に、航路の安全というものが確保できるのでしょうか、どうですか。
  123. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 できないと思います。
  124. 木原実

    木原委員 そうしますと、できる段階まで努力をするという行き方と、もう一つは、できないという前提であるならば、特に近隣諸国との間の政治的な関係を、絶えず安定をした形に維持していくという努力が伴わなければどうにもならぬということですね。
  125. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 そのとおりでございます。
  126. 木原実

    木原委員 そうしますと、かねて財界の一部などで、マラッカ海峡まで安全を確保しろというような声が、しばしばあがっておりました。これはおそらく架空のことだと思いますが、そうなりますと、私はここで長官ことばをいただいておきたいと思うのですが、軍備によっては必ずしも安全というものは確保できない。したがってそこには、当然のことですけれども、近隣諸国とのあらゆる面での平和の維持のための努力というものが先行されなければならない。そこで冒頭の話に戻ってくるわけですけれども、長官は、そういう平和の、あるいは安全のための政治努力に重点を置いて、何が何でも、たとえば海の問題についていえば、艦船を拡大強化することによって、安全が保たれるのだ、そういう道を歩くのではなく、政治による安定の道を歩いていくのだ、その中に部分的に、気休めといっては悪いのですけれども、その自衛隊の海の艦隊が努力をいたしておる、こういうふうにいまのところ考えておいてよろしいですか。
  127. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 おおむね同感でございまして、外交努力を主として、軍事は外交に従属する、そういう考えでいきたいと思います。
  128. 木原実

    木原委員 わかりました。  それでは、もう時間だそうでございますが、たいへん長い時間いろいろ問答を重ねましたけれども、最後に一つ、やはり一番心配なのは、それにもかかわらず四次防の構想をなさっていらっしゃる。そして、おそらくどこも頼んだわけはないと思うのですけれども五次防という声まで聞こえてくる。一体どこまで自衛隊を強化していくのですか。自衛隊の限界というものをもう少しはっきりした形で示していただく、何かそういう方途がないものでしょうか。たとえば相手側があることですから、何か状況がおかしくなって、相手を見れば相手はいろいろなものを持っておる、あそこまで対抗していくのだ、こういうことになりますと、これは、もう御案内のとおり、国の名前はあげませんけれども、たいへん強大なものがあるわけです。これとの競争関係に入れば、冒頭の話ではありませんけれども、これはもう軍国主義への道になると思うのです。ですから、自衛隊が強化をされていく限界を示す——しばしばこの問題は、国会でも問題になりましたけれども、限界の一つのめどというもの国民の前に、ここまでですよと、こう言って示す方法はないものかどうか、これが一つです。  それからもう一つ、あわせてお伺いをいたしておきたいと思うわけですけれども、一国の軍備というものは、これは政治が優先するとおっしゃいました。政治が優先をするということの中身は、状況によってこれは大きくしなければならぬときもあるでしょうし、逆に小さくするときもあるわけです。ところが自衛隊の十八年は、これは高度成長の中の高度成長、それだから、よけいに先が案じられるわけです。状況がこういうことになれば、自衛隊はこの程度に縮小をしていくのだ、こういう要素というものがないと、とてもこれは国民を説得することはできないと思うのです。不安のほうが先に立つ。ですから、かりに四次防の計画をお出しになる場合には、状況をあわせて、これだからこれだけのものが必要なのだ、こういうふうな問題の出し方をしていただくと同時に、マイナスの計画をお持ちになっていただきたいと思います。四次防はこういう計画でいくけれども、しかしながら状況は、中国との間の国交も回復した、朝鮮の分裂国家との関係も改善をされた、ちょうどソ連との関係が十年前に比べて著しく改善されたような形で改善をされた、こういう状況がかりにあれば、逆に自衛隊の力というものはこの程度にとどめておいてもよろしいのだ。言ってみれば、一つの増強計画を出すときには、プラスの計画とあわせてマイナスの計画を絶えず持つ、こういう配慮というものがないと、納税者としてはとても納得ができないと思うのですが、そういう考え方はどうですか。
  129. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 まず限界の点でございますけれども、防衛力というものは、やはり客観情勢に応じて相対的なものだろうと思います。したがって一番大事なことは、政策統制ということである。でありますから、国会が非常に重要である。先生のような御議論を承ることが、政策統制のためにも非常にきいているし、国民がそれを通じて監視もしているわけでございまして、国会の機能が一〇〇%動くような形をとるということがまず一番大事だと思います。  それから第二番目は、われわれが防衛をやろうという思想の問題でございます。この思想をよく点検していただいて、その思想をそのとおり実行しているかどうか、これは自衛隊を点検されるなり、常時監視していただいて、国会議員の先生方が責任を持って国民を代表してつとめを果たしていただく、そういうことが大事だと思うのです。  第三番目に、いまの数量や兵器の性能の問題がございます。この点については、いままで申し上げましたように、厳に戒心をしていくつもりでございます。  それからマイナスの計画というお話がございましたが、論理的には確かに振幅はあるべきであると思います。そして不要な部分は除いて、必要な部分に加えていく、そういうことは当然考えられなければならないと思います。しかし現在の日本の情勢を見ますと、高度成長といいましても、これは予算面から見ましても、あるいは実際の面から見ましても、防衛はそう高度成長ではございません。アメリカから貸与され、あるいは援助された武器を代替するのが、いま精一ぱいという状態でございまして、これを国産化によって代替をして、そして日本的な防衛体系をつくり、その上に立って次の段階が考えられるのではないか。私は、いまの情勢から見ますと、ある程度の充実ということはまだ必要ではないか、こういうように考えているのでございます。充実につきましては、陸の人間はこの程度でいいが、重点からいえば空、海というものがまだ著しく不足している、そういうように考えます。
  130. 木原実

    木原委員 もうこれで終わりますけれども、私は、やはり将来のことを考え一つの制度としてぜひ考えてもらいたいと思うのです。というのは、日本の公務員の皆さんは、自分のところに与えられた任務にはきわめて忠実な方たちである。ですから、ともかく自衛隊というものが強くなればいいのだ、強くなるというのは、多々ますます弁ずで、予算もよけい取ってきたほうがたいへんいいことなんだ、大きいことはいいことだということでお励みになる。しかし、これは事と次第によりけりなんですね。ですから、特に自衛隊というような場合には、軍隊というような場合には、一つの制度として、長官のおっしゃったような意味ででもなお増強の余地があるのだ、こういうことで増強をお考えになる。しかしながら、状況が変化し、周囲が安定に向かえば、自衛隊はこういう形で縮小していくのだ。こういうことが、プラスマイナスという形であわせて、もの考え方として出てこないと、国民の目から見れば、ともかく十八年間成長を続け、四次防、五次防もどうなっていくかわからぬ。しかも経済力が大きくなった。その経済力の上に乗ってやっていけば、これはもうたちまちにして世界で指折りの軍隊ができ上がってしまうのではないか。しかも近隣諸国を見渡せば、それでもなお足りないという論議が当然出てくる。これでは先行きが案じられるという形が、平均的な国民の気持ちでもあると思うのです。それに答えなくてはならぬと思うのです。そういう要因をあわせて考えないと、四次防にも不安を持ち、外国軍国主義の復活ではないかと思う。国民もそうかなと思うのですね。それは自衛隊のあり方を含めて、あるいはまた制度の問題としても十分にひとつ御配慮をいただきたいと思います。  それからもう時間がありませんので、一言だけつけ加えておきますけれども、かつて——これからもそうですけれども、自衛隊は軍事産業との関係が非常に深くなっていく。現在でも深いわけですね。しばしばこれまでも問題が起こってまいりました。あなたの前々の増田防衛庁長官は、みずからの率いる防衛庁を称して、伏魔殿と机をたたいて、そこで悲憤憾慨をなさったことがある。私は、これらの問題についてもやはりきちんとした制度上のワクというか、措置が必要じゃないかと思うのです。少なくとも新しい兵器や技術の開発あるいはそれの計画、そういうものをやり、たとえばそれを発注をする部局、こういうもの自衛隊あるいは防衛庁が全部一貫作業でやるんではなくて、少なくとも発注については、やはり別な政府機関にゆだねる、つまり防衛自体は具体的な金銭関係にはタッチしない、こういうふうな分離の措置等もとってしかるべきじゃないか、こういう意見も持っているのですが、あわせて長官の御意見を承って、終わりにいたしたいと思います。
  131. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 産軍複合体のようなものが出現しないように、われわれも厳重に監視、戒心してまいりたいと思いますが、発注の点は、経済的効率とか機能性という面から見まして、やはり防衛庁内部において行なうということが適当であると考えます。
  132. 木原実

    木原委員 じゃ、終わります。
  133. 天野公義

    天野委員長 横路孝弘君。
  134. 横路孝弘

    ○横路委員 私は、きょうは、自衛力の限界について、法律論じゃなくて、実体論からひとつ議論したいと思いましたけれども、本論の前に二つほどお尋ねしたいと思います。   一つは、長官も御承知のことだろうと思いますけれども、長沼のミサイル基地の設置に関しまして、現在札幌地方裁判所で行政処分の取り消しの裁判が行なわれております。ことしに入りまして、先月の十三日の法廷におきまして、次に述べます十四の書類につきまして、文書の取り寄せの申請が許可になりまして、裁判所のほうから、すでにこれは防衛庁の各責任者のほうに取り寄せ申請が行っておると思うのですけれども、一つは昭和二十九年から昭和四十五年度までの統合防衛計画、これは統合幕僚会議の事務局長あてに書類が行っているはずです。また昭和二十九年から四十五年度までの陸上自衛隊防衛計画、あるいは海上自衛隊、航空自衛隊、それぞれの防衛計画、それから同年度間の陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の教育訓練計画、昭和三十八年度の統合防、衛図上計画、いわゆる三矢研究といわれるもの、それからさらにフライング・ドラゴン計画、あるいはブルラン計画、あるいは松前・バーンズ協定、あるいは治安行動草案、あるいは防衛庁長官と警察庁長官との間の治安出動に関する覚え書き、あるいは第三次防衛計画における技術研究計画、これらの書類について裁判所のほうに提出してほしいという旨、もうすでに防衛庁のほうに行っていると思いますけれども、これの取り扱いについてすでに検討されて、結論を出されたかどうか、その点をまずお伺いいたしたいと思います。
  135. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 政府委員をして答弁せしめます。
  136. 江藤淳雄

    ○江藤政府委員 先般三月十三日の札幌地裁の裁判におきまして、裁判長からそのような十四項目の書類の資料の提出の嘱託が出ております。あくまでこれは提出の嘱託でございまして、法務省のほうで検討いたしまして、現在法務省のほうとしましては、これを特に提出する意思はないというふうに承っております。
  137. 横路孝弘

    ○横路委員 その法務省のほうで提出する意思がないということでございますけれども、その前提として、いまの十四の書類は、それぞれ、この裁判の中で、たとえば統合防衛計画については、統合幕僚会議の事務局長あてということになっておりますけれども、それぞれの責任の所在のところにこれらの書類はあるわけでございますか。その存在についてお伺いしたいと思います。
  138. 江藤淳雄

    ○江藤政府委員 十四項目の中には、実際に資料がありますけれども、提出ができない秘密書類もございます。またブルラン計画とかいうような全く資料のないものもございます。
  139. 横路孝弘

    ○横路委員 その内容を明らかにしていただきたいのです、個々の一つ一つについて。
  140. 江藤淳雄

    ○江藤政府委員 私、いま急な質問でございますので、資料を持っておりませんが、統合防衛計画とかあるいは昨年度の防衛計画であるとか、あるいは三次防までの防衛計画であるとか、そういうようなものの書類はございます。しかしながらこれは部内におきまして秘密書類になっておりまして、部外に提出はいたさないことになっております。それからそのほかの——私はあまり記憶がございませんが、フライング・ドラゴン計画とか、あるいはそのほかの資料というものは、実際にもございません。
  141. 横路孝弘

    ○横路委員 そこで長官にお尋ねしたいのですけれども、この取り扱いは、もちろん防衛庁だけのことじゃなくて、法務省のほうとも十分に検討された上で処理なされるということになると思いますけれども、自衛隊の現在の姿なり実態というもの国民の前に明らかにしていくということが、やはり長官のおっしゃったように、国民的合意を得るためにも私は必要不可欠なことだと思うのです。いまのお話ですと、法務省のほうでは書類を出す意思はないのだ、こういう話でありましたけれども、ぜひその辺のところを法務省ともう一度検討していただいて、たとえば過去の統合防衛計画なりあるいは教育訓練計画のようなものについては、やはりこれを提出をする、こういった方向で、再度検討していただくということについて御答弁をいただきたい。
  142. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 その点は部内でいろいろ協議して、法務省のほうとも連絡しておると思いますが、法務省の見解というのも非常に大事でもあると思います。よく調整してやっていきたいと思います。
  143. 横路孝弘

    ○横路委員 この長沼の事件につきましては、いま裁判長に対する忌避の問題なんかも起きておりますけれども、結局さばかれるもの自衛隊の実態そのもの。ところで国民が知らないうちにどんどん防衛力を強化していって、自衛隊の実態そのものがまさに裁判でさばかれる対象になっておるのですよ。皆さま方のほうでも、それが合憲なんだということであるなら、やはりその事実、実態、内容をできるだけ明らかにしていくということでなければならぬと思いますので、ぜひそういう方向で検討をしていただきたいと思います。  それからもう一つは、今月の二十一日の日に、日本原の演習場の東地区で、この演習に反対しておる地元民がすわり込みをしておるにもかかわらず、百五ミリのりゅう弾砲の実弾の射撃訓練をしたということにつきましてお尋ねをしたいと思うのですけれども、二十一日の本委員会におきましても、同僚の議員から質問がありまして、それに対して中曽根防衛庁長官のほうでは、十分実情を調査した上で善処をするというふうに御答弁になっていたと思うのです。その後の調査をされた内容、これの御報告をいただきたいと思います。
  144. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 調査の結果を政府委員から答弁せしめます。
  145. 江藤淳雄

    ○江藤政府委員 その後私どものほうで調査しました結果によりましては、射撃並びに警備上の面から見ました負傷者等は一名もございません。
  146. 横路孝弘

    ○横路委員 負傷者がないからそれでいいというのじゃなくて、その間の経過なりいきさつについて一体どういうことになっているのかということをやはり御報告願わなければ、負傷者がいないからということで済まされる問題ではないのです。
  147. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 従来、日本原演習場はもっぱら西地区のみの短距離射撃を実施していましたが、今回は、今後当演習場の全面使用をはかる目的のもとに、特科部隊による東地区への実弾射撃を実施するための演習を行なったものであります。すなわち、四月十八日から六日間、第十三特科連隊第二大隊七十人により一〇五ミリりゅう弾砲の実弾射撃を行なうこととし、その計画概要については、四月十一日に関係町長に通報してあります。  この計画に基づき、四月二十一日十二時三十一分から三十七分の六分間にりゅう弾三発を射程三千八百メートルで西地区から東地区の弾着地域に射撃したものであります。砲弾は弾着区域縦二百メートル、横百メートルの中央の目標に対し、十メートル以内に三発とも命中、その破片は縦三十五メートル、横七十メートルに散布したにとどまった。  なお、射撃にあたっては、危険防止のため弾着地域をほぼ中心として東西約四百五十メートル、南北約六百メートルの危険地域を設定した上、さらにその外側に立ち入り禁止地域を設ける等、安全に万全を期してやったものであります。  そして、当庁並びに警察の調査によりましても、実射並びに警備面での負傷者は一名も出ておりません。すなわち、今回の日本原演習場東地区への実射にあたっては、あらかじめ午前六時から空陸両面から関係区域の捜索を行ない、その結果、八時四十五分五名、九時から十時四十五分までの間六名、他の一名は、危険区域外の山奥に逃げ込みましたが、二十一時二十分ごろ演習場外の部落内で発見されております。そうして十時三十分九名を下山させるとともに、十一時十分八名を着弾地で発見、これを背後地観測点に同行し、射撃終了後、安全を確認した上で下山させました。また十一時ごろ危険区域内に入っていた学生七名も場外へ退出したことを確認しております。  なお、他の数名が背後地観測点より下山した八名と相前後して十三時二十分過ぎに那美池付近に下山した際、危険区域に入っていたと述べ、他の者がこのうちの一人が負傷したのではないかと述べましたが、危険区域内にいたことは確認されず、負傷したと述べたことについても、射撃によるものであるとの申し出はございません。  したがって、防衛庁としては、射撃による安全確認の措置を完全に実施したものであり、さらに射撃によって人に傷害を与えた事実は全くないことを確信しております。妨害の排除の措置についても、説得により平穏裏に下山または背後地観測点に誘導しており、擦過傷を負ったと述べているものについては、少なくとも砲弾の破片等による負傷ではないことは明らかであります。
  148. 横路孝弘

    ○横路委員 そうすると、いまの報告によりますと、危険地域の中には人はいなかったというのですか。
  149. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 いなかったようです。大体弾着地点にいまの大きさの、二百メートル、百メートルというものを設け、その外側にまた安全帯を設け、そして警備兵を置いてやったものであって、この弾着地点に該当する人たちはいなかった、こういうことになっております。
  150. 横路孝弘

    ○横路委員 私のほうで聞いている話では、弾着地点なのかその周辺の安全地帯なのかわかりませんけれども、その中に十名ほどの人間がいて、そして負傷者はいないけれども、その爆撃でびっくりして、一人は何か意識を失ったらしいのです。いずれにしても、二百メートル以内のいわゆる危険地域、警備隊を置いていたその中の地域に十名ぐらいの人間がいたという報告を受けているのですけれども、その点についてどうですか。
  151. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 当日は午前六時から自衛官約六百五十名、警察官約三百六十名をもって危険地域及びその周辺を入念に捜索し、人員が存在しないことを確認した後、さらに射撃直前の午前十一時から、念のため、約一個中隊をもって危険区域内を数回にわたり精査するとともに、午前六時から射撃終了までの間、演習場内三十一カ所に監視所を設け、一カ所当たり自衛官三、四名を配置して警戒に当たったほか、ヘリコプター四機をもって空中からも捜索、警戒を行なったのであります。  また、十二時三十一分から十二時三十七分までの一〇五ミリりゅう弾砲による実射の後、十三時から十五時三十分までの間、ヘリコプター二機をもって弾着地周辺を点検、十四時三十分から十五時四十分までの間、約百六十名をもって地上点検を行なったが、全く異常を認めなかった。  さらに十四時四十分ごろ、地元住民一名が行くえ不明となっているとの地元住民からの申し立てにより、十五時四十五分から約三百二十名をもって関係住民と協力して山狩りを行なったが、約六時間後の二十一時二十分、その一名はすでに下山しており、その居場所が地元消防団員によって発見されたとの報告を受け、二十一時三十分帰隊した次第であります。  以上のような手配をしたのでございまして、措置は遺漏なかったと考えております。
  152. 横路孝弘

    ○横路委員 いまの報告によりますと、全く過失がない、あるいは危険のないことを十分確認した上でやったのだ、こういうお話でありますけれども、私のほうで聞いている話とは、非常に内容が違うのです。そこで、私は、こういった問題は非常に重大な問題でありまして、安全を確認してやったのかどうかという事実の認定の問題にも入りますので、やはり当委員会で調査団を組織して現地に行って、現地の住民とも話し合って実情について調べるという措置が必要ではないかと思うのですが、これはぜひ委員長のほうで、理事会にはかってそういう措置をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  153. 天野公義

    天野委員長 いずれ理事会で御相談申し上げます。
  154. 横路孝弘

    ○横路委員 自衛隊のこういう演習に際しては、やはり安全を確認する、人命を尊重するという視点に立ってやらなければいけないと思うのです。その取り扱いはあとで行なうということでございますので、時間もございませんから、本論に入って二、三質問したいと思います。  先ほど木原委員からも質問が出ておりましたけれども、やはり国民の中には、自主防衛論ということと、いまの経済成長をバネにして伸びていく防衛力の増強というものに対する不安があると思うのです。これは、国民の中にあるばかりではなくて、世界じゅう、日本の周辺の国それぞれの中にある。一つには、きのうもこの委員会で問題になっておりましたけれども、中国がいわゆる日本軍国主義だといって批判している。この軍国主義だと批判している内容というのは、いまの自衛隊の力に対する一つの恐怖みたいなものが私は中国にあると思う。これは中国ばかりではないので、きのうの夕刊にも出ておりましたけれども、アメリカ下院外交委員会のレスター・ウルフを団長とするアジア特別調査団もいっているのは、いまの自衛隊は、アメリカのほうで放置してしまったら、どこまでも伸びるのじゃないかという。あなたは先ほど、アメリカには気がねしないでのびのびとやっておるという御答弁をされておりましたけれども、そのことが、まさにアメリカの中にもこうした不安を持つ人が出てきている。東南アジアの中でも、フィリピンをはじめとして、戦前日本のいろいろな脅威を受けた国の中には、やはりそうした感じを持っている国々が相当ふえてきているのです。  そこで、こうした日本の軍事力を脅威考える国が、中国にしても、フィリピン等の東南アジアの国にしても、あるいはアメリカの中の一部の人たちの中にも出てきているというのは、私は非常に重大な問題だろうと思います。日本外交の基調というものは平和外交であるというふうに考えますと、政府の主観的な意図は別にいたしまして、客観的な自衛隊のいまの戦力というものがそうした恐怖感を与えている。この点について、長官のお考えをお伺いしたいと思います。
  155. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 海外からのそのような御判断はおのおの自由でございますけれども、日本の実情に対する非常な認識不足があるように思います。ただしかし、先ほども申しますように、日本経済力が非常に伸びておるということと、この民族が非常に優秀で、この経済力と優秀な民族が一たん軍事に転化したら非常におそろしい力になる、そういう危惧を持ち、その危惧が先に出てきているのだろうと私は思うのです。現状は、いまこのように平和な政策をし、つつましやかにいっているのでありまして、その心配はない。しかし、日本にはそういう経済力と優秀な民族という素地がありますから、誤解を与えないように、厳重にその点は戒心してやっていかなければならないと思います。
  156. 横路孝弘

    ○横路委員 結局それは受け取り方に問題があるので、誤解だというふうにおっしゃられますけれども、特に中国なんかの場合、日本に対してそういう受け取り方をするということ自体が、今度は中国のほうで日本に対抗してさらに武装を強化していくということになるのです。誤解だといってそれで済まされる問題ではないと私は思う。今後日本が平和外交を進めていくのだということを言っても、一方、日本の周辺の地域の国がそうした誤解を持って、誤解に基づいてさらに武装強化していくということになれば、これはアジアの緊張を緩和することにならない。むしろ激化することになるのじゃないか。これは何も経済力だけではなくて、やはり自衛隊の力、戦力というものに対する一つの恐怖感というのがもうすでに出てきておるのじゃないか。そういうふうにお考えにならないと、今後外交を進めていく上で、この日本のいまの防衛というのはかえって一つのガンになってくる、そういうような感じさえ私はするのです。その辺のところを重ねて御答弁いただきたい。
  157. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 先ほども申し上げましたように、日本のそういう力が転化した場合のことを考えての予防、警戒措置的な発言ではないか、私はそう思います。
  158. 横路孝弘

    ○横路委員 予防、警戒的措置、こうおっしゃられるけれども、そのことによって実際に、たとえば中華人民共和国が日本を意識して防衛を強化していく、こういうことになれば、やはりアジアの緊張を激化させることになるのじゃないかと思う。  では、長官にお尋ねしたいと思いますけれども、いま日本自衛隊の戦力は、一体アジアにおいてどのくらいですか。陸、海、空、それぞれについてお答えいただきたい。
  159. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 政府委員をして答弁せしめます。
  160. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 数で申し上げますと、まず陸で申し上げますと、中共、インド、韓国、南北両ベトナム、中華民国、北鮮、パキスタン、インドネシアに次いでおります。十番目になります。海でいいますと、中共、インドネシア、中華民国の次で、四位になります。それから空でいいますと、中共、インドに次いで三番目になります。  以上でよろしゅうございますか。
  161. 横路孝弘

    ○横路委員 たとえば、陸上自衛隊の場合は、兵員数でいくから十番目、こういうことでありますけれども、火力等も含めた総合戦力でいうと、日本はすでに中華人民共和国に次いでアジアで二番目だということをいわれている。この点についてはどうですか。
  162. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 総合的な戦力というのは、具体的にはかることはきわめてむずかしいと思います。人の質の面、精神力の面、国民の基盤の面、装備のそれぞれの性能の面、そういったものを全部総合しなければ、そういうものは出てまいりませんので、アジアにおいて何位だというふうに具体的に申し上げることは、なかなかむずかしいと思います。
  163. 横路孝弘

    ○横路委員 そうおっしゃるならそれでもいいですけれども、いずれにしても、いまおっしゃった経済力の問題を考えてみても、少なくともアジアの西側陣営の中では、すでに一番のそういった大きな戦力を持っていると私は思う。海軍のトン数あるいは飛行機の場合の機数でいっても、もうすでに二番目、三番目という状況にあるわけです。これが、私は、そうした先ほど来の一つ脅威というような受け取り方になっているのじゃないかと思うのです。  そこで、長官にお尋ねしたいと思うのですけれども、海にしても空にしても足りないのだ、陸上については人員はそれで大体満足しているというお話だったのですけれども、実情は、いま御答弁があったような実情なんです。そこで、日本防衛構想といいますか、戦略構想といいますか、こういうもの考える場合に、いまの防衛庁では、このアジアの周辺だけを限定して戦略構想というもの考えておられるのか、それとも、もう少し広く、アジアといってもいろいろ地域がありますけれども、東南アジアから何から、もう少し周辺を広げた範囲日本防衛構想というもの考えておられるのか。私は、それによって自衛隊の戦力の限界というものもおのずから出てくると思うのです。その点について、どのようにお考えですか。
  164. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 自衛隊に関する限りは、アジアとかそういう大それた考えじゃなくて、日本本土周辺を考えてやっておるわけです。
  165. 横路孝弘

    ○横路委員 私は、それならば、もうすでに自衛隊の戦力で十分じゃないかというように考えるわけでありますけれども、その点についてさらにお尋ねをしてみたいと思うのです。  いま世界の国の中で防衛予算がどんどん増加していっている国というのは、先進国の中では日本だけだと私は思う。御承知のように、ソビエトも、アメリカも、もうとうとう防衛費の負担にたえかねて、防衛費の削減というのがことしの予算の中から行なわれていますし、ヨーロッパの諸国どこをとってみましても、国防費のワクに対して限界をはめて、その中でやっている。増加はしていないのです。イギリスにしたって、西ドイツにしたって、みんな同じなんです。その背景には、一つには、やはりフルシチョフ以後の平和共存路線の問題、緊張の緩和というものが、そのまま継続している。特にヨーロッパの場合は、そういった背景が、このような防衛費が伸びない、押えられている現状となっていると私は思うのです。  日本周辺の地域に関して考えてみましても、ベトナム戦争はありまして、小さい紛争はあるけれども、大きな点で直接日本脅威を与えるような、そういう情勢の変化というのは、ここ四、五年何もない。それなのに、毎年一六%も一七%も一八%もというぐあいに、どんどん防衛費が伸びていっている。  そこで私は長官にお尋ねしたいのですけれども、アジアの現在の情勢の中で、日本に対して特に脅威を与えているような点、そういった不安を感ずる点というのは、現在ありますか。あるいは、これから四次防の構想を立てられる、これから五年間の見通しでもけっこうです。そういった情勢の変化というのは考えられるでしょうか。
  166. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 日本防衛費がふえた、こう言われますけれども、一九六八年、六九年を見ますと、アメリカが二十八兆六千四百七十四億円、ソ連が十四兆三千二百八億円、中共が二兆五千二百億円、インドが五千二百二十七億円、日本がことし初めて五千六百九十五億円、こうなったのであります。そのほかの国々は、毎年、これだけの金額を、蓄積してきているわけです。日本はようやく五千六百九十五億円という台になったので、ともかくスタートがゼロからスタートして、非常に微弱な力で出てきているので、伸びの倍率は多少大きいかもしれませんが、絶対額から申したら、問題でない数字であるわけです。そういう点をぜひお考え願いたい。  それから、日本が持っておる武器は、ほとんどアメリカから貸与されあるいは有償、無償の援助で来た、古い、第二次大戦中のアメリカの老朽兵器が大部分である。そういうものを代替して国産の兵器でかえていくという、そういうお金が大部分を占めておる。私は国産化及び自己開発の金をずいぶんふやしたいと思っておりますけれども、いまの情勢では、そういうアメリカの陳腐化したものに代替するという努力が相当部分を占めなくてはならぬ。そういう点を見ますと、金額のみならず内容を見ましても、それほど脅威を与えるという内容にはなっていないのです。したがって、よくいわれますように、防衛費が多いとかあるいは伸び率が大であるとかいう、そういう一般的な考えものをお考えにならないで、中身をよく点検して、歴史的因縁までよくお考え願って御議論願ったほうが、正しい議論になるのではないか、こう考えます。
  167. 横路孝弘

    ○横路委員 そこで、その中身を点検して議論するために基本的な認識となるその情勢の変化について、どうお考えになりますか、こういうのが私の質問の趣旨だった。その点については何も触れられないで……。
  168. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 ここで申し上げましたように、顕在的脅威というようなものは、私は目下のところはないと思います。しかし、防衛というものは、一年や二年あるいは三年、五年というような短期間にものを考うべきではなくて、私は、何を防衛するかと言われたときに、それは祖先から子孫に引き継いでいく日本民族の生活共同体及びその国土である、そういうことを言って、連綿として続いている生活共同体と国土を守るという考えに立たなければいけない。最近の百年を見ましても、日清、日露の戦争あり、欧州大戦あり、満州事変あり、さまざまな栄辱を浴びて歴史が推移してきているわけです。したがって、今日こういう状態だから明日はこのまま続くとは限らない、そういう意味において、日本の地政治学的位置とか環境とかそういうものから考えた、ある平均単位の防衛力というものを恒常的に用意しておくということは、非常に重要なことです。そしてそれが客観情勢等に応じて振幅を持っていくということが正しいやり方であろうと思うのです。そういう面から見ますと、日本の現在の防衛費及び防衛という問題の国政の中における地位等を見ますと、まだきわめて節制と節度のあるポジションを占めておるのでありまして、私は、この現状は軍国主義であるとかほかの国に脅威を与えるというようなものではない、こう確信しておるわけです。
  169. 横路孝弘

    ○横路委員 私たちのほうも、その国民の生活を守るあるいはこの国の歴史と伝統を守っていこう、さらに豊かな生活を実現していこうということについては異論がない。そのために、はたして軍備をもって守るのがいいのかどうなのかという点で議論をしているわけであります。  そこで、ともかく絶対額がわからないんだからどんどん伸ばさなければならないというお話でありましたけれども、いま日本は、国連の十八カ国軍縮委員会に出席しているわけです。先日、佐藤総理大臣が参議院の予算委員会でこういう答弁をなさっている。防衛力というものは相対的なものだ、しかし相対的なものだということになると、際限もなくなるという心配がある、だから大体各国とも少なくとも将来は軍縮の方向へ向かうべきだということで努力をしている、日本もジュネーブで努力をしているんだという発言があった。私は、この発言の限りでは非常に賛成なんです。現在この十八カ国軍縮委員会で米ソそれぞれの案が出されて、いずれも最終的な目標というのは軍備を全縮する、全面的に撤廃するという方向なんです。二つの案にいろいろ基本的な違いがあります。ソビエト案では五年でこれをなくそう、アメリカの案では六年以上でこれをなくしていこう。そこで私は、これは将来の問題でありますけれども、日本安全保障政策としても、国連のレベルでこうした軍縮の条約というものができた場合に、やはり日本としてもこれに当然参加する。将来的な展望としては軍備を全然なくしてしまうんだ。もちろんそれにかわるものとして、いろいろこれは検討されているところであります。いますぐ二年、三年でどうこうという問題ではないけれども、しかし私は、少なくとも七〇年代の終わりまでにはこれを実現しなければならないし、またいまの世界情勢を見ていくと、だんだんそういった方向にやはり進みつつあると思うのです。こうした将来の展望と、さらに国連のレベルでそういう話し合いがまとまった場合の日本安全保障、私はやはり軍備全廃という方向で行くべきだと思いますけれども、その点について、防衛庁の長官としての立場からのお考えをお伺いいたしたいと思います。
  170. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 私は、個人の政治哲学として、民族非武装、人類武装というのが次の人類の段階として適当であると考えておるので、そういう方向に持っていくために軍縮ということは非常に大事な仕事であると思います。ですから、国際的にそういう協定ができれば、当然日本も参加すべきであると思います。それから、でき得べくんば世界じゅうが日本自衛隊みたいなもの防衛力を変えていってもらったらいいのじゃないか、そう思います。
  171. 横路孝弘

    ○横路委員 しかし、もうすでにアジアではこれは三番目、四番目という力を持っているのですよ。世界の国がみんなそんなにどんどん防衛力を増強したら、とんでもないことになると思うのです。だから、どうしてもここで自衛隊の実態というもの内容というもの国民の前にできるだけ明らかにしていくということが、私は必要だろうと思うのです。  そこで、この軍縮の方向にだんだんいまの国際情勢の中では歩みつつあると思う。そのイニシアチブを日本がとったらいいんじゃないか。少なくとも、先ほど長官は顕在的な脅威というものはいま日本の周辺にはないというふうにお答えになった。ですから、防衛力の今後の増強と新しい技術の開発ということはもうやめて、消耗したものを補給するという程度にして、そしてこのあとは日本外交に、たとえばいまシベリア開発に日本の財界まで行って話をしているのです。そうしたソビエトを相手にして、いろいろ陸上自衛隊をどうする、海上自衛隊をどうする、航空自衛隊をどうするということを考えるのは、軍人ならともかく、政治家としては私は妥当ではないと思う。シベリアの開発の問題あるいは日中の国交回復の問題あるいは北朝鮮との国交回復の問題、そうした方向で日本全体の政治の動きというものを持っていかなければならないと思うのですけれども、この防衛力の増強を凍結するという点については、いかがでございますか。
  172. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 外交を重視して、外交の機能を非常に働かせるという考えは賛成です。しかし、防衛力を凍結するということは、目下のところは不適当であると思います。
  173. 横路孝弘

    ○横路委員 結局足りないのだ。それじゃ、陸上自衛隊にしても、航空自衛隊にしても、あるいは海上自衛隊にしても、どこまでその用意をすれば十分なんだということになれば、それは相対的なものだから具体的にはお答えできませんという答弁がはね返ってくるのです。そこに私はやはり国民が不安を感じている大きな理由があるだろうと思うのです。  そこで、二、三お尋ねをしたいと思うのですけれども、国防の基本方針の中には、防衛力増強のものさしとして、国力、国情に応じて、自衛のため必要な限度で効率的な防衛力を漸進的に整備するということを明らかにしている。しかしその防衛力の整備計画、第二次、第三次のそれぞれを見てみますと、第二次の整備計画の中では、局地戦以下に有効に対処するための防衛力の整備、これは非常に限定されているわけです。これが三次防になりますと、侵略に対する抑止力として有効な防衛力、四次防の点につきましては、前に有田長官のときに、局地的な直接、間接侵略に独力で対処できる防衛力の整備というように、だんだんその範囲というものが広がってきている。そこで、日本の基本的な防衛構想を考える場合に、一体この侵略に対する抑止力というものをどこまで考えたらいいのか。戦略、戦術の、核に対する抑止力というのは、考えればやはりこれはもう核による以外にない。それは日本は持たないのだ。そういうことになりますと、軍事的な観点から限れば、一体この抑止力ということについてどの程度のことを今後の方針としてお考えになっているのか、この点を明確にしていただきたいと思います。
  174. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 抑止し、また侵略があれば排除する。この抑止と排除は、本土防衛に関して必要であるだろうと思います。抑止については、日本がそういう自衛力を持って、来たらやられるぞ、うかつに侵略できないぞ、そういう心理的効果を与えておくということが抑止力になるだろうと思います。また、平和愛好民族としての政治を行なって、国際的にもそういう国であると世論的に認められているということも、国際政治の上から大事なことだろうと思います。そういうような両方の面の努力をわれわれはしていく必要があると思います。
  175. 横路孝弘

    ○横路委員 そこで、その抑止力として考えられている相手方の攻撃力、これをどのようにお考えになっているのかということなんです。これは通常兵器による攻撃、段階がいろいろあると思うのです。核については、いままでの答弁をお伺いしていますと、これはアメリカの核のかさで守ってもらうんだ。そうしますと、通常兵器による攻撃といっても、これはもういまの段階では非常に際限がないわけです。一体どの辺のところまでお考えになっているのか。そこを明確にしていただきたい。
  176. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 これは相手もあることですから、何で来るか、それは相手の意図によるのでわかりません。ある場合には間接戦略で、武器補給をやるという場合もありましょうし、ある場合には航空母艦や潜水艦で来るということもありましょうし、ある場合にはゲリラで補給線を断つという場合もございましょう。そういうわけで、これは一がいに言えない問題であると思います。
  177. 横路孝弘

    ○横路委員 先ほどお答えになりましたけれども、抑止力ということになると、やはりある程度の脅威あるいは相手に対する打撃力というもの日本が持たなければ、脅威にならぬわけです。この点はいかがですか。
  178. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 それは当然のことです。来たらやられるぞという、そういう意味の心理的効果を持っていなければ抑止力にならない。
  179. 横路孝弘

    ○横路委員 そうすると、従来日本の自衛力を考える場合に、他国に対して脅威を与えるような武装はしないんだというのが憲法上の一つの大きな制約として、何回も皆さんのほうで答弁されてきたことなんです。いまの答弁によると、やはりある程度脅威を与えなければならない、私はやはりそこに微妙ではあるけれども、大きな違いがあると思う。その点、いかがですか、重ねて。
  180. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 日本外国に対して侵略あるいは攻撃的脅威を与えることをやらないという意味であります。本土に来たものをこちらがたたくというのは戦術的攻撃力であって、それが防御の上にも必要不可欠の要素にもなっているでしょう。そういう意味においては、矛盾しているものではありません。
  181. 横路孝弘

    ○横路委員 時間がないので、なかなか質問があれなんですが、もう一つだけお尋ねしておきたいと思うのです。  中曽根防衛庁長官の自由民主党の安全保障調査会における演説要旨というのを私たちこの委員会のほうからいただいたのですけれども、その中で、自衛隊はすでにかなりの実力を備えているんだ、ある程度の局地戦においてはアメリカの支援がなくても外からの攻撃を寄せつけないことができる、あってもこれに対して撃退し得るんだというようにお答えになっているんです。ある程度の局地戦というのは一体どの辺のところを想定されてこういう御発言になったのか、それを明らかにしていただきます。
  182. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 大規模な近代兵器を駆使した組織的侵略というものはなかなかむずかしいんですけれども、ゲリラであるとか、普通小規模に行なわれる程度のもの、つまりゲリラ的なものですね、そういうものについては、かなりの抵抗力を持っている、そういう意味であります。
  183. 横路孝弘

    ○横路委員 そうすると、もう間接侵略に対しては現在の自衛隊の力で十分対処できる、こういうことでございますね。
  184. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 おおむねそうです。
  185. 横路孝弘

    ○横路委員 そこで、日本に対する直接侵略の内容、どういうことを想定されているのか。日本に対する武力攻撃です。いろんなケースがあるだろうと思う。日本に対して直接攻撃をしてくる、あるいは世界戦争の中で日本が戦争に巻き込まれてしまう、あるいは日本の近海で漁業に従事している人に対する攻撃から戦争状態あるいはそういった状態になる。一般的に直接侵略という広い概念でいわれますと、一体直接侵略のどこに日本の自衛力の限界を持っていくのかということがなかなか明確になりませんから、どういう類型を直接侵略の内容としてお考えになっているのか、それを明らかにしていただきたいと思います。
  186. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 防衛局長をして答弁せしめます。
  187. 宍戸基男

    ○宍戸(基)政府委員 これも千差万別で、なかなかお答えしにくいわけですけれども、いま先生のおあげになりましたようなことも、一つ可能性として考えなければいけないことじゃないかと思います。ただ、われわれの現在の段階における防衛力整備の基礎となる考え方としましては、まず核戦争ということも理論的にはあり得ましょうが、そういうものはわがほうの防衛力の整備計画では考えない。それから第一次あるいは第二次大戦のような戦争体型も理論上はあり得ましょう。しかしそういうもの考えない。これは安保体制によるんだ。わがほうの自衛隊でそういうことを排除するということはとらないというのが、まず大きな前提になります。日本本土周辺におけるいろいろな紛争に対処するんだ、逆にいえばそういうことになるわけでございます。
  188. 横路孝弘

    ○横路委員 本会議の予鈴が鳴りましたが、ほんとうはそこから議論が出発していく出発点にようやくなるわけなんです。まあまたの機会を見てその辺についてはひとつこまかく、私たちも皆さん方のほうの土俵に上がって、その土俵の中でこれからいろいろ議論をしていきたいと思いますので、最後に、これはひとつ中曽根長官のほうに要望したいことなんですけれども、自衛力の限界というのは、結局相手との力の関係で相対的だ、相対的だということをいうからには、日本の周辺の脅威内容というものが、一体どういうもので、それに対してどういうようなケースが想定されて、どの程度の防衛力であれば十分なのかということがなければいけない。それをやはり国民に納得させるというのが、私は、防衛庁の立場から見て、防衛庁のほうではやはり当然そうやるべきだと思う。ところが、従来の二次防なり三次防を通しての国会の議論というのを議事録で見ますと、ともかく皆さんのほうは、その辺をもう全然お答えなさろうとしない。たとえば仮想敵国の問題にしてもそうであります。そういった基本的な考え方というのを抜きにして、ともかくアメリカから借りているから、これは日本ものにかえなければならない、古いから新しくしなければならない。先ほど御答弁になりましたように、絶対的なものがともかく不足なんだから、何とか大きくしなければならないという、そういった装備計画、その次元での議論にしかならない。だから、私はそうした意味で、この周辺の脅威内容なり今後の国際情勢の変化なりというその辺をやはり基本的に押えて、しかもそれについて防衛庁としての考え国民の前に明らかにして、そうしてその上で四次防についての基本的ないろいろな問題についての議論の土俵というのをつくっていくべきじゃないか、皆さんのほうからそれをつくっていないのです。この点を最後にお伺いして、残念ですが、時間がありませんのでやめにいたします。
  189. 中曽根康弘

    中曽根国務大臣 その点は次の防衛計画をつくる一つの基礎条件でもありますので、目下策定中でございます。いずれ適当なときがまいりましたら、適当な量にいたしまして公表いたしたいと思います。
  190. 横路孝弘

    ○横路委員 じゃ、終わります。
  191. 天野公義

    天野委員長 本会議散会後委員会を再開することとし、暫時休憩いたします。    午後一時五十八分休憩      ————◇—————    午後四時五分開議
  192. 天野公義

    天野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  防衛庁設置法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を続行いたします。門司亮君。
  193. 門司亮

    門司委員 私は、同僚各位の了承を得まして、忙しい時期でもございますし、あとの会議の都合もあろうかと思いますので、ごく簡単に質問を終わりたいと思いますが、ひとつ当局も、あまり発言を私のほうからしないで済むように、ごく簡単に、明確に御答弁を願いたいと思います。  お尋ねをいたしますことは、すでに再三のいままでの話し合いの中で十分御了承のことと思いますので、私、くどくは申し上げませんが、昭和三十九年の事故でございまして、これは厳格にいえば非常にむずかしいこともいろいろあろうかと思います。昭和三十九年の九月八日に米海軍のジェット機が神奈川県の大和市上草柳二百十七番地の四の館野正盛所有の鉄工所に墜落して、そして館野君の子供が三人と従業員が二人なくなりまして、工場がめちゃめちゃにされた事件のあったことは御承知のとおりであります。この事件に関連して、その後の処置の問題についていろいろいきさつがございまして、今日までこの事件が完全に片づいておらない。きわめて遺憾な問題でございまして、単に個人の問題とはいいながら、発生後すでに六、七年にもなっていまだに事件が解決しないということは、私どもだけじゃなくて、政府もやはり遺憾なことだとお考えになっておると思いますが、そのことについてのごく簡単な御質問を申し上げたいと思います。  それで、質問をします要旨は、御承知のように、その当時の損害の賠償についてでございます。損害の賠償についてここに当時の書類がございますが、この書類をずっと見てみましても、損害の賠償についてのいろいろないきさつがあるようでございます。工場がこわされてほとんど全壊いたしておりますので、営業のできないことは当然であります。ところが、賠償の対象としては、この営業補償というようなものがほとんど賠償の対象になっておらない。そういう営業補償というような不確定要素については、協議の際にほとんど問題にしていないというようなことが大体数字の上であらわれておるかと思いますし、また当時の状態がそうであったように聞いております。  それからもう一つ大きな問題は、遺族補償につきましても、ホフマン方式につきましては、御承知のように最高裁の判決等を見ましても、第三項を適用するようになっておるかと思いますが、これが当時は第二項の非常に価格の低いもので算定されておることも事実であります。  こういう問題をずっと総合いたしてまいりますと、本人の当時の損害の請求額と賠償の決定額との間には、非常に大きな開きがございます。これらの問題をいまここで私は多かったとか少なかったとかいう議論をしようとは考えておりません。この問題はとにかく曲がりなりにも一応解決を見た形を示しておりますので、これをいまさら追及しようとは考えておりませんが、問題は実はここから発生しておるのでございまして、したがって経過を申し述べないわけにはまいらないのであります。  これから発生した問題としてはどういうことかといいますと、当時この土地は御承知のように厚木の米海軍の飛行場に非常に近い距離でありました関係から、工場の再建をしようと考えましても、その距離の関係においてここは不適当な土地であるという政府側の断定で、この敷き地は全部国が買収をいたしております。そこで問題になってまいりますのは、鉄工所を続けていこうとすれば、おまえのここは不適格だからということで国が土地を買収してしまわれる。そうするとどうしても代替の土地を求めないわけにはまいりません。そこで当時の施設庁といたしましては、その代替の土地を見つけてあげるということが、一応口約束であったとかなかったとかいうような議論はあったようでございますが、しかし、されたことは私は事実だと思うのです。それを裏づける証拠は、ここに神奈川県庁から出てまいりました書類が二、三ございます。これによっても私は明らかだと思います。  そこで問題になってまいりますのは、それならその土地をどこにするかということで、ここにその当時の日誌がございます。この土地をあっせんするいろいろ施設庁の役人、あるいは県庁渉外課の役人と一緒に方々見て歩いたという日誌がございますが、かなり多方面の敷地を物色された努力が払われたあとは明らかになっております。そこでたまたまここならよろしいのではないかということの行なわれた土地がございます。その土地の所在地は、相模原市の麻溝台の佐野原千五百九十五番地、こう書いてありますが、ここは大体大蔵省の所管で普通財産である、そうして現在宅地ではあるが、しかし空地になっているということになっておりまして、ここならどうかということで一応話が進められたようでございます。これはそのときの書類の証拠づけでありまして、昭和四十二年十月十六日付で神奈川県渉外部の渉外課長から館野正盛氏あてに「さきに依頼のありました事項について横浜防衛施設局に照会したところ、次のとおりでありましたので回答いたします。」と書いて、所在地は相模原市麻溝台佐野原千五百九十五番地、公簿地目は雑種地で三千三十坪八五、現況は宅地であるが空地である、現在は大蔵省所管の普通財産ということで、これは明確に県庁からこの土地の裏づけをする書類が実は参っております。それと同じように、同じ日付で当時のこれらの問題を担当いたしておりました神奈川県の道佛という課長からやはり同じような書類が来ております。「当時の担当課長としての記憶によれば、上記回答文書の経緯は次のとおりである。1 事故発生後、館野正盛氏と横浜防衛施設局との間には、米軍飛行機墜落事故による損害賠償の問題と工場再建のための用地問題とが関連して進められていたと記憶している。2 工場再建問題について館野正盛氏は、当初、従来の場所に再建することを計画していたが、横浜防衛施設局は、その場所に再建しないよう要望し、館野正盛氏所有の当該土地買収の交渉を行なったものと記憶している。」ここで買収がされているわけであります。「これに対し、館野正盛氏は、当時の県内土地価格の状況から国による買収価格と相当の価格で国有地を売却してもらいたい旨の主張をしていた模様である。3 このような交渉の過程において、館野正盛氏は横浜防衛施設局職員の連絡または、案内により工場再建の候補地として、県内数か所の国有地を実地に調査した事実があったと記憶している。4 標記の回答文書は、館野正盛氏の依頼により、上記工場再建のための代替地払い下げあつ旋の件に関して、その地番、地目、面積等を横浜防衛施設局に照会して、その結果を連絡したものである。」ということで、これがさっき申し上げました公文書の裏づけとなっておるのであります。したがって、これらの問題を考えてまいりますと、当然施設庁が解決の当時に賠償の低かったこともさることながら、工場敷地を全部国が不適当だといって買い上げたその代償としてあっせんするということは、明確な約束された事実だといっても私は差しつかえがないと思う。単なる口約束ではなかったと申し上げても差しつかえがないかと思います。ところがこれがいまだに実行されておらない。時間がございませんので全部一ぺんに申し上げて、一ぺんに回答を求めたいと思いますが、その後のこの土地の状況を調べてまいりますると、きわめて最近において、この土地は大蔵省に他の事業団体から払い下げの申請の出ておる事実が明らかになってまいったのであります。そうなってまいりますと、周囲の事情からずっと考えてまいりますと、この土地はおそらくいま申請されております事業団体に払い下げられることが順当ではないかと私は思う。そういう地理的条件を備えておるわけであります。そうなってまいりますと、三十九年以来ずっといろいろいきさつはあっても、とにかくあっせんしようということでやられたことが、また全部御破算になってしまう。そうすると、これが一体いつ実行されるかということになってしまう。工場を再建しようとしても、不適格だといって、土地は国が、これは非常に安い価格であります。当時あの辺は坪一万二千円くらいで買い上げておりますので、当時の価格としてもかなり安い価格であったと思われる。そしてその代替地をあっせんしようといったが、いつの間にかその土地がなくなってしまったということになると、一体本人はどこへいけばいいかということにならざるを得ないのでありまして、この種の事件の事後処理としてはきわめて遺憾な問題であろうかと私は考えております。長官部長も御存じのように、中曽根大臣に、きょうは大臣は参議院の関係でこちらに見えないというものですから、先ほど委員会の前に、皆さんの前で大臣ともお話ししてこの由を伝えまして、大臣も本人に対しては非常に気の毒だということで何とかしてやれという御答弁があったことは、長官もお聞きになったと思います。この種の問題でありますから、くどく申し上げますと非常にたくさんな書類がございます。ございますけれども、これを一つ一つ拾い上げると、安保条約の第六条から来る問題まで引きずり出して話をしていると非常に長くなりますから、これは賠償済みだということで一応施設庁も考えておるようでございますので、そこまで私は追及いたしません。そのときの価格が安かったか高かったかというようなことまでここで議論しようとは考えませんが、そういう問題のよって来たる原因から現状を考えて、できるだけ早くこの問題の処置をして片づけてしまいませんと、一個人の問題であるとはいいながら、日米間の今日の事態の中では一つの非常に大きな問題ではないかと考えますので、どう対処されるか、ひとつ率直に御返答願いたいと思います。
  194. 山上信重

    ○山上政府委員 館野さんの問題につきましては、米軍の飛行機が墜落したということのために一家の柱を失われたり、昭和三十九年以来いろいろ家庭的な困難も味わわれた方でございまして、これに対する措置といたしましては、いま先生がおっしゃいましたように、補償の問題につきましては一応解決いたしたということになっておるのでございますが、これらと関連いたしまして、当時の土地が飛行場に非常に近いということで、いわゆる安全措置事業として館野さんの御希望もあり、移転をするということで移転補償をいたした際にこの土地を別にどこかあっせんすることについて担当者がそのあっせんについて努力しましょうという話もし、あるいはその候補地の一つとしてこんなところがあるということが県のほうから通知が行ったというようないきさつになっておるようでございます。これにつきましては、過去におきまして施設庁といたしましても非常にお気の毒な方でもございますので、極力多方面に土地のあっせんをし、いろいろさがした結果、いまお話のありましたような土地について、一応候補地として国に折衝をいたしてきたのでございます。過去におきまして一度それはぐあいが悪いという話もありましたが、再び話を返して、私が長官になりましてからも館野さん御自身からも話を伺っておりまするので、再度これらについて何とか御要望に沿えるように、少なくとも前に売り渡した土地面積程度までは何とか確保できるようにしたいというような考えのもとに折衝をさしておりましたが、現在いろいろまた問題もあるようでございます。これらにつきましては、いま先生のお話のありましたように、御本人にとりましても非常にお気の毒な実情でもあり、いろいろ過去のその補償にからむ経緯もあるようでございますから、私どもといたしましてはできる限りこれはひとつ早目に解決するように努力いたしたいと存じます。どうしてもそこがだめだという場合のときには、他の土地をあっせんするということも一つの方法でございましょうし、何といたしましても、われわれとしてはできるだけひとつ御要望に沿えるように努力いたしたい。特にまた大臣からもそういうお話もございまするので、そのつもりでおりますことをお返事申し上げておきます。
  195. 門司亮

    門司委員 もう一つよく考えていただきたいと思いますことは、この経緯の中で、実は現在の土地は一応本人が払い下げを申請いたしまして、そして施設局で直した、筆を入れたあとがありまするが、筆を入れて、そうしてこういう形でないと払い下げはむずかしかろうということで、本人に申請さしております。ところがその書類は却下されているのですね。その辺の事情というものはちっともわからぬのですよ。国があっせんをするといって、こういうものを出しなさいといって出させたところが、それは困るということで、大蔵省のほうではその書類が却下されておるという事実があるのですね。このようなことを考えてみると、何が何だかちっともわからない。最近では、さっき申し上げましたように、他の事業団体のほうから大蔵省の本省には、きのう調べてみますとまだ書類が届いてないようでありますが、横浜の施設部長あるいは施設部、そこには書類が提出されていることは事実であります。こうなってまいりますと、館野君自身としては何が何だかわからぬ。全く国にだまされたようで、再建しようとしたら不適当だからといって土地は米軍に取り上げられてしまう、あとはあっせんするからということで、四年も五年もたってもまだ目鼻がつかない。やっと何とかここならよかろうと考えたところが、それもだめになってしまうということになりますと、また新たに問題を起こして、またこのくらいの時間がかかると大体いつごろになるか、まごまごしていると七〇年代も終わりにならないと解決がつかないのじゃないかっこれでは本人にとってはどうにもなりません。したがって、大臣からのおことばもございますので、ひとつその点を十分御了承を願って、そしてできるだけ早く解決をするように、私はここでいつ幾日というわけにはまいらぬと思いますが、努力をしていただきたいということを強く要望しておきます。  それからもう一つだけついでに聞いておきたいと思いますことは、最近米軍の多少の引き揚げがございまして、そうしてわりあいに基地の解除が行なわれているような傾向が見えます。これはあなたの所管じゃない、ほんとうは防衛庁長官に聞くことが一番いいと思います。先ほどちょっと大臣にお伺いしたのでありますが、そのあとにすぐ自衛隊が入ってきて、地元民としては長い間占領されたままで困っておって、やれやれ解除されるかと思うといつの間にか自衛隊が入ってきて、そのまま継続されてまた使われるということで、地元の失望はかなり大きいのであります。この問題に対しまして、これも施設庁の当面の一つの仕事でありますが、しかし、自衛隊自体の責任者としては長官であります。施設庁の長官が責任を負うことはどうかと思いますけれども、事務当局としてはあなたのほうが大体折衝されることになっております一つの窓口でありますから、一応お伺いをしておきたいと思いますが、これらの問題に対してどうお考えですか。地元としてはほんとうに迷惑なんです。米軍が長い間占領しておって、地元は非常に窮屈な、土地の発展にもかなりの障害があったことをがまんしてきて、解除されるかなと考えておるといつの間にかそこが、あとは自衛隊が使うのでございますということで占領される——占領ということばはどうかと思いますが、使用されてしまう。これに対して、立場上、的確な御答弁を要求することは無理だと思いますけれども、窓口としての御意見をひとつ伺っておきたいと思います。
  196. 山上信重

    ○山上政府委員 まさに私が的確にお答えする立場でないかもしれませんが、あるいは大蔵省のほうが——返還後の施設の決定ということは、国有財産については必ずしも私どもが権限を持っておるわけではございませんが、いままでやってきました私の気持ちといたしましては、国有地でありましても、返還後の処理ということにつきましては、地元の方々の御利便ということも十分考慮して、そういうほうに向けるような配慮をいたしておるつもりでございます。ただ防衛庁としても必要だというような土地については、これまた防衛からの要請もございます。それらの間は調整をはかってまいっておるということであろうと思います。いままで安保協議委員会で約五十の施設が返還、使用転換あるいは移転等が協議せられました後におきまして、合同委員会でいろいろ返還等が協議決定をいたしましたものが現在まで二十八ございます。そのうち現実に返還になってまいりましたのは二十六でございます。それらのうちで自衛隊に行ったものがたいへん多いというおしかりをときどき受けるのでございますが、実際はこれらのうち五つの施設はもともと自衛隊の施設で、たとえば日出生台の演習場というようなものについては、それが返ってきますと当然自衛隊が演習場——それを米軍に使わしていたものが返ってきたということで自衛隊が使っているものが五つございます。これが全体の六千万平方メートルのうち五千六百万平方メートルということで、数量的に非常に多いわけです。残りが二十幾つありますが、そのうち自衛隊のほうに変えたものは五つだけでございます。その他は一般の使用のほうに持っていくというようなことで計画が進められておるようでございまして、必ずしも自衛隊ばかりに持っていくというのは現実ではございませんが、そういうものもときに出てまいります。これらにつきましては、私が最初に申し上げましたような方針で今後とも臨んでまいりたいというふうに考えておるような次第でございます。
  197. 門司亮

    門司委員 いまのせっかくの御答弁ですけれども、私も少し言い方が足りなかったけれども、米軍が使っているうちに自衛隊がいつの間にか入っている。これは事実なんです。いよいよ大蔵省に一ぺん返還されて、それからさらにどうするということはあまりやらないと思いますが、あなたのほうの関係に、いつの間にか自衛隊さんがちゃんと入っておって、そうして解除になるとそのときはもうすでに既成の事実として自衛隊がいるというケースがかなりあるんですよ。いままでにかなりそういうもので基地の処理をされているほうが多いんですね。そういう面もさっき言いましたように、あなたのところは窓口であって、あなたが当面の責任者じゃありませんから、あなたを責めるわけにはまいりませんが、あなたのほうが窓口である以上は、やはりお考えを願って、ひとつ地元と連絡をして、地元の了解を得てもらいませんと、地元としては、解除になるのだということになれば、自衛隊の入らぬように、よそに持っていかれないように、かなり大きな費用を使って陳情運動でもしなければなかなか言うことを聞いてもらえないということで、実際にたいへん困った一つの要件なんです。そういうことのないように、ひとつ取り計らいを願いたいということをお願いいたしておきます。  どうも途中からでありますので、私はこの辺できょうの質問を終わります。どうぞ考えておいてもらいたいと思います。      ————◇—————
  198. 天野公義

    天野委員長 運輸省設置法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。木原実君。
  199. 木原実

    木原委員 設置法に関しまして少しお尋ねをいたしたいと思います。  大臣も過般はいろいろ御苦労さまでございました。  あまり時間をとらせませんので、簡潔にひとつお願いいたしたいと思います。  今度の設置法が出ているわけですけれども、運輸省の機構が、私どもから見ますと、何かどうも少し片寄っているのではないか、こういう感じがするわけです。海、陸、空とあるわけですけれども、海のほうにはそれぞれ各局、乱立しているわけじゃないでしょうけれども、海上保安庁まで入れますと、五本の指で数えるほどある。ところが陸のほうは、御案内のとおり、自動車局だとかいうようなことですね。空は御検討なさっていらっしゃいますけれども航空局一本だ。これは何か理由があるわけでございますか。整理の方向といいますか、改編の方向というものは何か考える時期に来ているのじゃないでしょうか、どうでしょうか。
  200. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 おっしゃるように、私も運輸省に参ってみますと、陸海空——陸海空だけではなくて、海の中から土地の下のほうまで、地震までやるわけですね。たいへん広範に仕事がなっておるわけです。私も、船舶局、海運局あるいは港湾局というものが何かどこかでひとつ共通点があって、これを整理することはできないものだろうかということでいろいろ検討してみましたが、やはりなかなか事情があるのですね。船舶局は御承知のように船をつくるほうだということです。それから海運局のほうは船を動かすほうになってきている。船員局というのは労使の労のほうになっている。港湾のほうも御承知のように違っている。やはり共通点はないことはありませんけれども、これを一緒にするということはなかなかむずかしいような点があります。ただ問題は、その一部を、将来やはり行政機構がむやみに大きくなることは好ましくないことですから、思い切って民間に移譲してしまう。そういうことが可能になったときには、これは考える余地があるのではないか。たとえば政策的及び監督的なものだけを役所というところは原則としてやる。そして実質的には仕事は民間にやらせる、こういうことが、行政全体の考え方が変わってくればこれは抜本的改正の余地がありますが、まだそこまで実際上行政機関の中の問題として熟しておらない、しかし将来は考えざるを得ない問題であろうと思います。
  201. 木原実

    木原委員 私も別にこの問題で深入りしようとは思いませんけれども、どうもやはり見ておりましてそういう印象が強い。逆に交通の事情も、時代によりまして、それぞれ変わってきているわけでありますから、やはり時代に即した行政需要に対応していくような措置というものは当然考えてしかるべきじゃないか、こういう感じがするわけであります。と申しますのは、他の面で私どもが接触をしますと、これは例の総定員法のときにもいろいろと申し上げたことがあるのですけれども、一番国民と接触する分野の人手不足ですね。これは一例をあげますと、たとえば陸運局はたいへんな仕事を持っておりまして、私もたまに東京の陸運局に参ります。これは役所ですからそれぞれ許可認可事項を持っておりますし、権限というものを背景にした仕事をしておるわけですが、これが民間の人手をかりてやっておる。しかも関係のある業者の団体といいますか、そういう人たちの手をかりてやっている。私ども目をつむっているわけですけれども、これはどう考えても姿が正しくない。だからもうさまざまなうわさを私ども聞くわけです。これは何とかしなくてはならぬと思うのですが、そこからやはりいろいろな問題が出てくると私は思うのです。この辺の人員の配置、いろいろ問題があると思うのですが、目に余るものがあるのですが、どうですか。
  202. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 行政全体としますと、やはりいろいろでこぼこがあると思います。むしろ運輸省自体だけからいいますと、御承知のように、運輸省の仕事は、たとえば鉄道、自動車、航空、海運、港湾、いずれも成長行政なんですね。したがって、一律に五%というのは非常に痛いわけです。しかし、なかなか、御承知のように今度米の減産をやるにいたしましても、実際上はある地域に対してはパーセンテージを低くするとか、ある地域に対してはパーセンテージを多くするということのほうが実際に即しておるのですが、なかなかそれはできないということで、大体同じような率でやっておるようです。それと同じように、各局ごとに大体の定員の削減を行なって、その中でやりくりをする、実はそうなりますと無理があると思うのです。自動車などの激増に対して定員増が行なわれない。しかし、私はもの考え方として、はたして行政事務が多くあるからそれをそのまま定員増に持っていくというよりは、できるだけ民間に移すべきものは移す。車検のようなものになりますとだいぶ民間に移しておるようでありますが、指定工場を含みまして、こういう技術基準を定められて、それに従ってやることができるもの、そういうものはやはりできるだけ民間に移したほうがいいと思う。それから登録関係にいたしましても、手続を非常に簡便にして、登録それ自体はやはり非常に重要な基本的なものでありますから、これを直ちに全部民間に移すということは困難でありましょうが、手続はなるべく簡便にするということによって、そして少ない人間で多くのものをこなすことができる、こういうことをもっと積極的に考える。ただ御承知のように、登録関係では電算機を入れまして、膨大なものをできるだけ早く抽出するという方法をとりつつありますので、これらができれば、人間の数を無理にふやさなくても相当機械にこれを肩がわりさせることができる。しかしいまおっしゃったように、足らぬために民間人を使っておるという点ははなはだ好ましくないことでありますから、これはできるだけ避けたい。それにはひとつ行政事務で移せるものは思い切って移すという勇敢なる態度をとらぬと簡素化ができない、かように考えております。
  203. 木原実

    木原委員 一般論としては確かにおっしゃるとおりだと思います。しかし、それにしましても、たとえば車検の問題が出ましたけれども、自動車時代で民間に委託をしてやっておる面があるわけですけれども、これもやはり早急に何とかしなくてはやはり汚職まがいなことも出ることになるわけですね。ですから、これはひとつ大臣のおっしゃったような線でぜひ改善の方途を講じてもらいたいと思います。  それから、あわせまして、御承知のように、物価安定会議あるいは行管方面から、自動車営業の免許といいますか、そういうことについて、台数等については制限をはずしてしまえ——これは物価安定会議のほうはその立場からの提言だと思うのです。それから行管のほうはまた似たようなことでものを言っていらっしゃる委員の方もいる、こういうことになってくるわけですが、この辺については何か御見解がおありですか。
  204. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 これは私は大いに意見があるのですよ。皆さんにお聞き願いたいと思うのですが、はなはだ自説を遂げて申しわけないと思うが、これは物価安定政策会議総合部会でこういうことを言っておるのですよ。「すでに事業免許制、台数規制については、昭和三十八年八月行政管理庁より廃止の方向で根本的に検討すべき旨勧告されており、今後は、台数規制は原則的に廃止するとともに、事業免許の付与に当っても、明確な基準の下に一定の欠格条項に該当する者以外は、新規参入を認める方向で、競争原理を積極的に導入することが望ましい。」これは木原さん、どうですか、木原さんとすればこれがやれると思いますか。ほんとうに利用なさっておる方、あるいはタクシー業務を幾らかでも知っていらっしゃる方、このとおりやったらタクシー業界はどうなりますか。台数規制は原則的に廃止しろというんですね。かってなことだけでしょう。現在東京だけで約四千台から五千台の車が運転者がいなくてあいているのですよ。その上に規制を解除してやって、タクシーがふえるのですか。これはどうなんです、皆さん。こういうことをやられるのははなはだ迷惑なんですね、国民だけはよくわからぬから。それから「事業免許の付与に当っても、明確な基準の下に一定の欠格条項に該当する者以外は、」黙って認めろ、いま東京都内でどれくらいの事業会社が売りに出ていますか、大体御承知でしょう。おそらく三十社に余るものが売りに出ている。だれがこんなものを希望しますか。この問題、東京のことをいっているのでしょう、原則は。いなかのほうは別ですがね。いわゆるタクシーは足でもって、大都会においてはこれは日常生活だ。根本を探らないでこういうことをいわれては、役所としては迷惑千万なんです。  それからもう一つおかしなことは、「その際、安全の保全とサービスの確保」安全の保全をどうするのです。むちゃくちゃにもしタクシーがふえたとして、監督権を強化する、運輸行政の強化をはかる、そうして安全の保全をしろ、それからもっとありますね。「交通警察行政の強化、労働時間の規制、過当な歩合制給与体系の廃止」もっともなことだけれども、しかしながら交通警察行政を強化して、そこでこれら一般、たくさんあらわれたものをつかまえろというのですか。これはどういうことになるのです。提案した人に聞きたいのです。それから「労働時間の規制、」むちゃくちゃにできたものをどういうふうに取り締まるのです。事業免許制があればこそ、これはある程度介入権があるわけですね。それを一定条件の欠格条項に該当する者以外はどんどん認めろ。過当な歩合制給与体系を廃止しろ。収入があってこういうことが言えるのでしょう。収入がないからできないんじゃないですか。その上今度はタクシー料金は上げちゃいかぬ。上げろとぼくは言っているわけじゃないが、こういう実際を知らない議論をされては国民は迷惑する、われわれ運輸省としては。実際はいま申しましたようにわずか三万五、六千台。いま事業者がやっておるタクシーは大体三万五千ぐらいでしょう。そのうちに四千五百台も運転者がいなくてやれない車がある、こういうことを言っているのです。無制限にこれをやったら、しかもこれは最近にこんなことを言ったのでしょう。いつでしたかな、四十五年四月六日。こういう実情を調べないでこういうことを言われたのでは、国民は迷惑する。われわれのほうも迷惑する。皆さんからなぜやらぬかといわれるから。問題はそうじゃなくて、タクシー事業というものがはたして適正か、産業として成り立つかどうか私は心配しておる。たとえば一坪百万円とか百五十万円とかいう、市内地であれば、そういう土地を買って駐車場をつくる、事務所をつくるというようなことは可能ですか、いまのような収入で。これはできないからみんなやめるのですよ。東京では申請だってほとんどありません。こういう実情を無視してこういう議論をやられても決してタクシー界の改善にはなりません。われわれはもちろん希望があれば当然このようなことをやっております。車を申請してくればどんどん許可します。それは申請してくる以上はやれるという自信があるから、ぼくは原則として許してやろうその結果赤字になろうが、黒字になろうが、それは企業体の責任で行なうのだからそのとおりにしてやれ、こう言うのですが、関係者皆さん、幾らかタクシー事業を御存じの方は、東京で三十台や五十台のタクシーをやることはかえって不経済である、やはり三百台とか五百台とかいうことにならなければ、現在土地の価格、建築その他管理費の増大、こういう面から見て不可能だ、三十台や五十台では。これは幾らかでも——常識です。そういうことを無視してこういうことをいわれても、しょうがない。しからばこれをやらなくていいかといえば、これはやらざるを得ませんから、ある意味においてはできるだけ会社の経営に対して近代化をはかる、あるいはまた個人タクシー等についてはできるだけこれを認めて、そうして足をふやす。そのために皆さんに対して今度の国会におきまして、タクシーの近代化臨時措置法といいますか、そういう法律を出しまして、できるだけ国もこれに対して協力をしてやる。けれども、これも、国が五億も十億も金を出すならいいのですけれども、わずか三千万か二千万出しまして、そうしてあとは業者から五億だ十億だと取っていってできるかどうか。そんなことを言ったら失礼になってしまうから申しわけないのですが、これが実情である。しかしながら、そう言ったのでは始まりませんから、私は業者その他を大いに激励し、そうしてまた事業についてはわれわれもできるだけの協力をしてやる、こういう形で市民の足を確保していきたい、かように考えております。
  205. 木原実

    木原委員 どうも内閣委員会のそこにお立ちになりますと、きのうの総理といい、きょうの橋本さんといい、たいへんどうも鼻息が荒くなりまして、なんだか主客転倒したようですが、しかし御意見はよくわかりました。物価安定会議のほうも、しろうとはしろうとなりにいろいろ考えてやったことだと私は思いますし、それから行管方面からも聞こえてくる声があるわけで、これは内閣委員会の問題として一度担当大臣の意見を聞いておきたい、こういうことなのです。これはわれわれもひとつできるだけ勉強しまして、ともかく市民の足がスムーズに確保される、こういうことであると同時に、いろいろとやはり行政にわたる面については合理化を進めたい、こういう気持ちですから、あまりこれ以上続けますというとまたハッスルされると困りますから、そういうことにいたしておきます。それはわかりました。  それに関連いたしまして、まだ人手不足のところがかなりあると思うのです。いまは自動車の問題がたまたま出ましたけれども、海の関係ですね。たとえば先般も問題になりました大型船が事故を起こした、こういうものを調べておりますと、あれは労務検査官というんですか、何かそんなようなものもほとんど手が回らなくて、これはまた何か海事協会のようなところに委託をしておるという始末。海事協会にもそれぞれ造船会社あるいは船会社その他から何がしかの上がりがあるとか、いろいろ現場オルグに行っていますと話を聞くわけです。この辺の私が申し上げたいことは陸運局——例でございますけれども、たとえばいまの海の関係、検査の関係等を見ましても、運輸省はいろいろと多方面にわたって、監督なりあるいは行政指導の面なりあるいは許認可の面なり、たくさんお持ちになっていらっしゃるのです。不必要なものはもちろん整理をなさっていると思うのですが、それがあるがために非常に国民と接触する範囲が多いのですが、そのわりに人がいない。この総定員法が実施されてまだ間がないわけなんですけれども、これはどうにもならぬ側面があるのじゃないかと思うんです。ですから私は、おっしゃるように道は二つしかない、どうしても必要な監督権限あるいは許認可、こういうものは、軸になるわけですから、いまの話のように、へたに削りますと——しかし先ほどもおっしゃったように、思い切って、民間に委譲できるところは委譲していくなり、つまり合理化をさらに進めてもらうということと、それからやはりこれは何といっても行政需要としてあるわけですから、人のことは、総定員法の存在にもかかわらずやはり考えていただきませんと、関係をする業者の人たち、ひいては国民がそのために迷惑をこうむる。これは現場に行って、まのあたりに話を聞き、関係者の声を聞いてみますと、圧倒的にそういうことが多い。それを無理してやっておりますと、せっかくのたとえば監督検査という大事なことがどうしてもわき道にそれがちになる、こういうことになると思うのです。その辺をひとつ何か方向を出していただきたいと思います。
  206. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 それは木原さんのおっしゃるとおりです。特に成長行政といいますか、運輸省のようにどんどん非常な勢いで仕事がふえていくところ、そういうところには、定員減をされますと、われわれは非常に苦しくなります。いま船の問題が出ましたが、これは海事協会にいわゆる検査がまかされておるわけです。海事協会は法律に規定されておりますね。法律によってできているものでありますが、もちろんこれには船舶の技術基準といいますか、そういうものがやはり厳重に示されております。それにもかかわらず大型船のいわゆる海難事故が起きる、私もこれに対して非常な関心を持っております。  そこで、私自身しろうとなりに考えますことは、なるほど海事法できめられたいわゆる船舶建造基準、構造基準というものは、りっぱなものだと思います。まさか学者がそうやっておつくりになったのですから、りっぱなものだと思うのです。それに従って船ができる。そのでき上がったものを監督する。その点は一〇〇%間違いのないもの考えざるを得ませんけれども、ただ問題は、われわれしろうと——木原さんもそうお考えだと思うのですが、これらの船舶の構造基準というものは、過去の経験とデータに従って基準というものをつくるわけです。しかし、海象にしましても、気象にしましても、過去の経験で、それ以上のものが出ない、こうなってくれればいいのですが、波も三メートル以上上がらない、海象の早さは決してそれ以上はいかない、こういうことならいいのですが、実際問題としては、気象にしても、海象にしても、すなわち台風等におきましても、これも必ずしも過去以上にのぼらないとは限らない。でありますから、建築の場合におきましても、過去震度七という場合においては、それをはるかに何%、何十%をこえる線に一応基準をおいて、そして建築基準というもの考えていくわけです。けれども、私詳しいことはわかりませんけれども、船舶構造に関しても、もちろんそれに。プラスアルファをつけていると思いますけれども、なおやはり人命尊重といいますか、そういうものがそこなわれるということは、たいへんな国家的不経済であり、世界的な不経済なんですよ。やはり船舶構造基準というものを相当上げる必要があるのではないだろうか。その船舶構造基準に従ってそこで海事法という法律に従って検査するのでありますから、これらにまかせてもけっこうでありますが、ただ、おっしゃるように、民間でありますというと、造船業者との間に何かありはしないかということの疑いも一般から見ればなきにしもあらずであるだろうと思いますが、その点は現在まではそのようなことはないとわれわれは確信をいたしております。けれども、それにいたしましても、やはり基準をある程度世界的にあげる必要がある。日本だけあげたのじゃ損をしますから、世界的にも基準をあげる、こういうことによってしっかりしたものをつくり上げる。それが運賃コストに影響がありましても、世界的にあげればこれは同じことですから、さような意味では、私はせんだっての事故以来、その世界的にいわゆる船舶構造の基準をあげるということについて、日本政府があるいは日本関係がイニシアチブをとって、世界の船の基準をあげるように努力しろ、こういうことを言っておるわけであります。なおかつ、せんだっての「かりふおるにあ丸」の遭難を機会に大型船舶の総点検を行ないまして、そうしていやしくも危険と考えられる個所に対しては思い切った補強工事を行なえ、こういうことで船によっては七、八千万円あるいは何千万というような金をかけて補強させておるような次第であります。
  207. 木原実

    木原委員 私は人手の足りないというのはいろいろ見たり、聞いたりしてきたわけですけれども、おっしゃるように、安全を確保するということが前提になりますと、確かに私もしろうとでよくわかりませんけれども、従来の基準というものも、おっしゃるように過去のいろいろな経験や学識を積み上げたものだと思いますけれども、現実にああいうことが起こってみますと、きちんとした基準をおつくりになることは、基本的に私どもは賛成ができるように思います。ただ、安全の問題で私も気になりますのは、海が近いですから、たとえば東京湾あるいは瀬戸内海を大きな船が走っているわけです。島かと思って寄ってみると動いている。これが一つ事故を起こすことを思いますと、背筋が寒くなるような感じがするわけです。しかも、だんだん大きくなっていっております。しかも、御案内のとおり、海もまた交通が激しくなっておりまして、船は当然いろいろな規制があると思うのですが、しかし、それにしても一定のトン数以上の大型タンカーは、たとえば特定の東京湾あるいは瀬戸内海のある部分はやはり入港制限をするとか、航行に規制を加えるとか、事故も外海ならばまだ救いようがあると思うのですが、ああいうところでやられますと、これはちょっとはかりがたい大事故が起こるような感じがいたします。ほかの人たちに聞きましても、そういう危険性を感ずるという人も多いわけです。関係者に聞きましても、やはり不測の事故ということをきわめておそれておる、こういうことなんですが、そういう制限がかりにできるというようなことは、どうなんでございましょうか。もっと目につくところはほかにもあるでしょうけれども、近いところでは東京湾、それから瀬戸内海の一部ですね。しかも島陰をかなり早いスピードの近代的な船、大型の船が走っているとか、私どもがたまたま瀬戸内海などを昼間通ってみましても、昨年でしたかこの委員会で呉吟視察に参りましたときも、少し沖合いに出て驚いたわけです。何回も大きなやつが、島かと思っていると、つながって動いている。そこに自衛隊の船も参りますし、それから何か小さなスピードの早い船が縦横に動いている。こういう姿を見るにつけまして、何かやはりこれも事故が起こってからではしょうがないわけですから、危険とみなされる海域等についてはやはりそれだけの入港禁止を含めた措置がとれるものかとれないものか、御意見を承りたいと思うのです。
  208. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 全く同感です。たいへんなことが起きる心配があります。東京湾及び瀬戸内海ですね。おそらく二十万トンのタンカーが沈没したりしたら、これは東京湾などはたいへんなことになる。それがために一つは海上交通法というのをやりたい、こう思っているのですが、なかなか与党の間でも問題がある。社会党さんのほうは絶対反対というわけで、これがほんとうは一つの規制する方針なんですがね。しかしこれはなかなか実現が、漁民といいますかそういうような関係やら何やらで、漁船との関係で非常にむずかしい。しかしこれも思えば、ほんとうは補償で片がつくものならば、関係業界でも、われわれも補償については協力しましょう、政府がイニシアチブをとってやってくれというんですが、これは木原さんと海上交通法についてやるといったらたいへんな問題になる、むずかしいことになると思うんですがね。しかし、これはやはり何とか考えてやっていかなければならぬ、何とか説得をしてやっていかなければならぬ、これが一つですね。  もう一つは、おっしゃるように、十万トン以上の船はやはり私は入港を制限しなくてはいかぬのじゃないだろうか。浦賀水道などもいま十万トンでもなかなかいまの数の上からいって危険がある。神経をすり減らすようなぐあいにあの中に入ってくる状態なんです。私も、港湾局、海運局の諸君に、何か入港の制限の方法を考えてはどうか、ところがまたこれは沿岸の関係者から見れば、やはりそこまで来たほうが便利なものですから、だんだん港湾を大きくしたい、東京湾の中でも東京湾開発計画なんていうのがありまして、千葉県あたりでも十万トン、二十万トンの船をつけようという計画をしているわけですね。これはひとつそういう総合的な見地からお互いに譲るべきものは譲らないと、たいへんなことになる。そのかわり浦賀沖のほう、すなわち東京湾沖にシーバースのようなものをつくって、そこからパイプ輸送をするということ、この三つを考えないと、東京湾の開発開発といいまして非常に大きな船が入ってきたら、たいへんなことになるわけですから、こういう総合的な勘案によって、おっしゃるようにやらなければたいへんなことができる。しかし間に合わない点もありますから、海上保安庁のほうで、あるいは化学消火船とかそういうものを十分に整備して、万が一起きたときにはこれを小範囲にとどめる、こういうくふうを現在はいろいろとやっているわけであります。
  209. 木原実

    木原委員 これは大臣もよくおわかりだと思います。海上交通法の問題は、別の小さな問題もあるというふうに私どもも聞いておりますけれども、御承知のように、たとえば東京湾の市原石油会社の技師の人たちに聞いてみますと、小さなタンカーでもあの辺で何か事故を起こして一ぱい油びたしになり、かりにそれに火がついたら、これは連鎖反応を起こして、どうにもならぬだろうというわけですね。われわれは適切にそれに措置をする技術を持っていません、こう言っておるような始末ですね。しかも岸壁に着くのはいまのところ小さい船ですけれども、沖合いにはかなり大きなのが入ってきておりますし、そういうことがあるわけですし、石油は御案内のように日常ふだんに大量に消費をされて、あるいは加工その他に使われておるという状況があるために、せめて海の上だけでも油に関してはだいじょうぶだ、こういう措置を何か一つ考えていただきたい、こう思います。  それから、話がいろいろで恐縮でございますけれども、今度は陸のほうにまいりまして、大臣よく御案内のとおり、バスの問題、これは例の過疎のほうのバスの対策ですね。これはどこの県もそうだろうと思いますけれども、われわれの県でも過疎と過密が共存しているような県ですから、片方からは過疎の問題で何か問題を言ってくる。しかし、千葉県あたりはそれほどたいしたことはないと思いますが、やはり深刻な問題だと思います。それから、あわせまして過密のところがまたどうにもなりません。これは道路の渋滞あるいは増発、増便をしようと思っても人手が不足だ、こういうことは重々よくわかるわけです。しかし、過密のところだと、それにもかかわらずバス会社もだんだん整理統合されまして、独占の弊害もやはり見ておりますとあると思うのです。一番大事な時間帯に、幾ら人手が足りないかわかりませんけれども、全然利用者のほうに向いていない。会社の都合だけでどうにもしようがないのですよ。これでやられたのでは、過密地帯におる者にとりましては、せっかく移り住んだのはいいけれども、陸の孤島になってしまう、こういうのが実は相次いでいるわけです。ですから、過密のところの問題については、一定の路線を確保するために、人手不足あるいは道路の渋滞という基本的な問題がありますが、しかし、それにしても増便の方法を何かやはり政府としても行政指導その他の形で考えていただかないと、どうも投げやりなところが多いと思うのです。それは、一つには独占の弊害が片方では出てきているのではないか。そうかといって、あの辺の市営のバスを走らせるわけにはいかないというような姿があるわけですし、ひとつ御見解を承りたいと思います。
  210. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 お客さんが一ぱいあるにかかわらず、独占事業でほかは許さないという方針はないわけでありますが、もし、さようなところがありますれば、そういう過密地帯ですから、申請者があればいつでも許可いたします。ただ問題は、それならばなぜ申請者が出てこないかといいますと、御承知のように最近非常に人間の動き方の状態が変わってきたのですね。いわゆる工場あるいは会社といいますか、そういう方面に働く人間は非常に増加してきている。ところが、一般の自分の家の中におってやる仕事はだんだんと減ってきておる。かようなことでラッシュアワーといいますか、午前七時から九時までの二時間というものは、おそらく過密のところにおいては、列車でいいますと二〇〇から二五〇、二六〇という倍以上を通勤列車は運んでおるのです。バスの場合はおそらく一五〇くらいになっておるのではないですか。ところが、それ以外の九時から午後の三時とか四時までの間は、従来は六〇%くらいの人間が動いておったものが三〇%くらいに減ってしまう。ところが、御承知のようにいまの勤務制度は、乗車勤務時間が八時間ではなくて、会社に行って終わるまでが八時間、そうすると、いまから二十年前なり十年前の状態とは、この間に運ぶ人間の数から計算しますと、運転手一人当たりの運ぶ数量というものは逆に減るわけですね。そういうような状態からして、なかなかバス事業も引き合わないということのために、なるほど朝夕のラッシュ時間には一五〇%のお客があっても、その大部分の時間が三〇%前後、これでは計算上合わないということから、やはりバス事業に対して魅力がなくなってきた。ですから、過密の地帯におきましても新しくバス事業をやろうなどという、定期便事業をやろうなどという人はほとんどあらわれてこない。これが一つ、それをどうすべきかというお話でしょう。過疎地帯においても同様でありまして、今日必ずしも過疎地帯の人口は減っておるのではないのです。千葉県のごときはこの数年間でもって人口は五、六十万ふえておるわけでしょう。ですから、過疎地帯において人口が減ったのではなくて、今度は過疎地帯においては逆にいつでも乗れるような自動車をみんな持ったわけです。しかし、通勤時間というものはそれで通うわけではありませんから、通勤時間は適当な人が乗ります。一日二十四時間のうち、わずか四時間だけは一〇〇なり一一〇なり八〇なりの充足率がありますけれども、その他の時間になりますと二〇%もない。こうなりますと、いわゆる平均収入になりませんから、そこで過疎地帯ではとうていバスがやれない。こういうことから一最近あるいは休止する、あるいは廃止するというような申請が多くなってまいっております。  そこで、そういう実態からして、本年度の予算におきまして、御承知のように法律もできまして、過疎地帯振興特別法といいますか、そういう法律の中に、やはり過疎地帯におけるところの事業に対しては車両の補助金を出す、本年度は助成金を出す、こういうことで何とか補いをつけようとしておりますが、何もかもやる費用として百三十億ではどうにもならないですね。これはやはりもっと思い切って出さなければいかぬ。大蔵省、なかなかさいふのひもが固いものですから、われわれ要求してもそのとおりまいりませんけれども、もう一つ、やはりいま申したように社会の変遷といいますか、こういう変遷に対して政治考え方を思い切って変えなければいかぬと思うのです。やはり国民ひとしく、山間にいても農村におっても、豊かなる生活をする権利がある、また憲法ではこれを保障しておる。こういう点から考えるならば、さようなところに対しては、やはり国が思い切った助成政策、そういうことをやる、こういうような道を積極的に考えませんと、過疎地帯の対策も生まれてこない。ことに交通というもの人間を平均的に移動せしめる大きな役割りをしておるのですから、そういう事業に対しては国の助成といいますか、協力というものを思い切ってやる必要がある。もういわゆる従来のもの考え方を変えなければならない、社会状態が変わってきたのですから。そういう予算的といいますか、そういうような考え方を持っていかなければならぬということを私自身考えておりますし、政府もまたそういう方針を徐々に考えつつあるというところでございまして、木原さんのせっかくの御質問に対して十分な答えでありませんけれども、その方向でわれわれはいきたい、かように考えておるわけであります。
  211. 木原実

    木原委員 これは私も同感でありまして、特に過疎地帯につきましては、私企業といえどもきわめて公共性の高いことですから、他の部分では公共性を強調しておりながら、やはり私企業ですから、どうしても採算に乗らなければ廃止ということになるのは当然のことです。しかし、それを確保していくのがある意味では国の責任という面もあると思います。  もう一つ、それにあわせまして、先般のこの委員会で住宅公団の総裁がおいでになりましていろいろ論議があったわけですが、その際に、やはりこれまた足の問題が出たわけです。入居者あるいは関係の住民の人たちからは、御案内のとおり、何しろすぐ一万、二万という大きな団地ができる。ところが、しばしば足は一向に向いてこない、こういうことが、間々でなくて、至るところにあるわけなんです。だから住宅をつくるほうは住宅のみだ、これはよくわかるわけです。しかし、そのしわ寄せは鉄道にも来る、それからバスのほうにも来る、住民のほうにも来る、こういうことになっておるわけですね。最近も町田の市長かなんかが足を持ってこなければ公団住宅お断わりだ、こういうことなんです。これはそれぞれ事情があるわけなんですけれども、ただ、国民の側から見ますと、国に総合性がない、こういう批判があるわけですね。私ども、大いに選挙のときにはそういうことを言うわけです。しかし、実際にはこれは困るわけです。たいへんなことなんですが、やはり公団といえども、一カ所に一万、二万という人口が来るというのは、一つの町あるいは村ができるわけですね。そこで足の計画というものがしばしばそごを来たしておる。これではせっかくの国の政策というものが半分しか生きないわけですね。その辺についての、つまり総合的な立場で鉄道を敷けという市長の発言があったのを新聞で見ましたけれども、鉄道を敷くまではなかなかたいへんだろうと思いますが、せめてそういうところにはやはり人口にふさわしいバスの問題を解決をしてやる。これはやはり政府間で、あるいは公団等の関係の中で、何か合理的な方向を見出していくような大きな計画があるときには、当然足の問題が一つ入っていく、こういうような形というものは、もう少し積極的にとれないものでしょうか。
  212. 橋本登美三郎

    ○橋本国務大臣 おっしゃるとおりで、まことにこれは困ったことであり、またむずかしいことでもあるわけです。たとえば、木原さんのところでもそうですが、おそらく現在千葉県下におけるベッドタウンとしての戸数は、まだ十万にはなりますまいが、七、八万くらいにはなっていると思いますね。その七、八万戸というものは、一戸当たり一人が出てきたとしても七、八万人ということです。これは最近は一つの大団地主義になってきました。一つは教育機関の問題、あるいは緑地の問題等を含めまして、どうしても五百とか一二百という団地よりは、二千五百とか五千とか一万のほうがより効率的である、こういうことから、大団地主義、住宅公団なりあるいは県の公社にしてもそういう政策をとってきております。それは当然だと思うのです。そうなりますと、今度はある一定時間に、七時から九時まで、あるいは六時半から八時半までに、その七、八万の人がこっちへ移動するわけですね。これは道路では問題が解決つかないということですね。そこで千葉県の場合におきましては、御承知のように複々線化を進めておる。今度成田空港ができますれば、そこには新幹線を持っていこう、ここまで考えなければ、結局は解決がつかない。こういう意味で新幹線なり、あるいは私鉄にしても複々線なり国鉄も複々線ということを計画し、目下実施を進めているわけです。その場合に、いわゆる通勤用の軌道は、民間と国鉄とを問わず、こういうものに対しては、やはり思い切って国が助成しませんと、やれませんね、とてもそれは引き合わないですから。一日計算しても、わずか二時間、三時間しかないのです。ですから、ある意味においては、そういう抜本的なもの考え方をしなければならない。政府の一人として申しわけないのですが、大蔵省当局が考えなければいけないですね。だから国鉄の場合でも、国鉄に対して鉄建公団というものがあるゆえんのものは、そこに安い金を入れて、そして国鉄に安いものを引き渡すということが原則でなければならない。ところが、利子のない金をやらなければならないのに利子のつく金ばかり多くやりまして、なかなかそこまでできない。日本経済がそこまで力がないといえばそれまでのことですけれども、ここまでどんどん伸びてきたのですから、将来の借金はそう心配をしないで、少し放漫政策になりますけれども、やはり鉄建公団に思い切った無利子の金を入れなければ、どうしたって鉄道運賃が高くなるのですよ。幾らしたって全体をカバーすることば困難です。あるいは私鉄の場合におきましても、やはり大都市の通勤圏に必要な軌道に対しては、思い切って助成といいますか、ただ金を貸してやるのではなくて、金をある程度くれてやるくらいの考え方をしなければいかぬ、こういうことで、私は四十五年度に初めて、地下鉄に対しては必要なる工事費の二分の一以上を国が持つ、こういう制度を明らかにしたのであります。そこから始めたのですが、将来はたとい地下鉄でなかろうとも、結局は大都会は地下鉄が入ってくることになりましょうが、郊外におきましても、そういう制度を運用しなければいかぬ。そういうことによって、やはり足の確保をはかる。そうすれば、一万戸の団地に国鉄あるいは私鉄が行けば、これはスムーズな人的交流ができる、私の基本的方針はその方針で進めてまいりたい、かように考えておるわけであります。
  213. 木原実

    木原委員 もう時間が過ぎましたので、これで終わりたいと思いますが、確かに大臣のおっしゃるように、かなり思い切ったことをやりませんと、御案内のとおり、自治体にしわ寄せが参りまして、自治体も手をあげている実情を見ますと、これはどうにもならぬ。ですから、これはおっしゃるように、何か抜本的なといいますか、大臣のおっしゃったような構想を思い切って進めませんと、現実に足の確保ができない、こういう姿があるわけでございますから、これはひとつお願いをいたしておきたいと思います。  もう時間がございませんので、きょうは三里塚の問題はやめておこうと思いますけれども、ただ一つ、パイプラインの問題はまだ解決していない。海岸から持っていくというのは、建設省のほうは、道路の下は大阪のガス事故等もありましたので、何かたいへん警戒ぎみだということ、また何か油の計画が非常におくれているというような話も聞くわけですが、これは局長、どうでしょう。
  214. 手塚良成

    ○手塚政府委員 東関東自動車道の下にパイプラインを張って、航空用の燃料を輸送するという計画、これは当初から持っておりましたし、現在もまたそれが一番能率的だと考えておるわけです。ただ地元住民の方々が非常に一般の自動車その他の交通との関係で、危険であるというような御意見をお持ちであるようであります。いままで土地買収等におきましては、実はあまり明確な計画を示しながらはやっていなかったわけでございますが、現実はこれを設置するという前提のもとに、道路の幅その他も計算をいたして土地買収も進めてまいっております。いろいろ今後PRその他は必要だと思いますけれども、こういった計画は計画どおりに推進をいたしたい。またそういうふうに可能であろうと考えております。
  215. 木原実

    木原委員 これは建設省の意見も聞いてみなければならぬわけですが、やはり安全性の問題その他というのは新しい問題として出ておりまして、こういうことになりますと、建設省のほうも、特に大阪の問題があったものですから非常に慎重になりまして、何か新しい計画なりあるいは図面なりを示してもらわなければ、こういうような話が伝わっているのですが、そういうことはございませんか。あなたのほうとしては既定方針どおりやりたい、しかし建設省のほうは必ずしもオーケーというわけではないのでしょう。どうでしょう。
  216. 手塚良成

    ○手塚政府委員 ただいま具体的な技術的な打ち合わせはやっておりますけれども、これを抜本的に変更しなければならないというほどの報告は受けておりませんので、既定の方針どおりいけるもの考えております。
  217. 木原実

    木原委員 御承知のように、あの周辺は逐次過密になっていく可能性があるわけですね。それから道路の下は、私どもはしろうとですからよくわかりませんが、周辺といってもこれは一時と違いまして、さらにこれから過密になっていくことを予想しなければなりません。そうしますと、特に油ですから不測のことがないように——この委員会でも、あれはガスであったわけですが、安全という問題については、これは何よりも金の問題ではなくて、安全が第一だ、こういう確認を委員会としても得ているわけなんです。ガスと油の違いはありますけれども、やはり特に航空燃料というようなものは引火性の高いものだと考えられますから、これを通すためには、従来の計画等にこだわらないで、最善の道を選んでもらいたい、こういうふうに考えるわけです。その折衝はあなたの段階で始まっているわけでございますか。これは公団の仕事ですけれども……。
  218. 手塚良成

    ○手塚政府委員 これはすでに公団自体において建設省と、先ほど申しました具体的な技術的な検討、打ち合わせを進めております。おっしゃいますように、この油輸送については、安全上の問題というものは十分検討しなければいけない。いろいろ外国等でやはりこういうことをやっておりますので、そういう資料あるいは現在の実績等も検討いたしておりまして、この計画の中に十分そういうことを盛り込んで、事故の発生ということは絶対防ぎたい、そういった上でのパイプ輸送、かように考えております。
  219. 天野公義

    天野委員長 次回は、来たる二十七日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後五時十九分散会