○野原国務
大臣 ただいま議題となりました
家内労働法案につきまして、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
現在わが国では、問屋や
製造業者から委託を受けて、物品の製造、加工等に従事している、いわゆる家内
労働者が多数存在しており、その数は、把握し得たものだけでも百四十三万人に達しております。
これらの家内
労働者は、作業場所こそ一般に自宅でありますが、委託者から原材料等の提供を受けて、一人で、または家族とともに物品の製造、加工等に従事し、その
労働に対して工賃を支払われているものでありまして、その大
部分は、実質的には、
雇用労働者に近い性格を持っているものであります。
ところで、これらの家内
労働者は、工賃や安全衛生等に関する
労働条件が一般的には低く、従来から問題が少なくなかったのでありますが、特に最近の経済の発展に伴い、
雇用労働者の
労働条件をはじめその他の就業者の就業条件が向上している中にあって、そのおくれは著しいものがあります。
このため、家内
労働に関する対策の必要性は、かねてから指摘されていたところでありまして、
政府としましては、
昭和三十四年、最低
賃金法の制定により、さしあたり、最低
賃金と関連のある家内
労働者については、最低工賃を決定し得ることとして工賃面についての保護をはかったのでありますが、たまたま同じ時期にヘップサンダルの製造に従事する家内
労働者にベンゼン中毒問題が発生し、これらを契機として、総合的な家内
労働対策樹立への要請が高まってきたのであります。
このような情勢にかんがみ、
労働省は、
昭和三十四年十一月、臨時家内
労働調査会を設置して家内
労働の実態把握と家内
労働対策の検討をお願いいたしていたところ、
昭和四十年に、「わが国家内
労働の
現状に関する報告」を
提出されるとともに、今後の家内
労働対策の進め方について見解を示されたのであります。
これにより、わが国の家内
労働の実態は、きわめて複雑で、かつ、多岐多様にわたり、その対策は、なお慎重な審議を要することが明らかとなりましたので、
政府は、同
調査会の見解に従って、
昭和四十一年、
労働省の付属機関として家内
労働審議会を設置し、法制的措置を含む総合的家内
労働対策の検討をお願いし、
昭和四十三年十二月、同審議会の全員一致の答申を受けたのであります。
この答申は、臨時家内
労働調査会以来十年の長きにわたって
調査審議した結果に基づくものでありまして、
政府としては、これを十分に尊重して、ここに
家内労働法案を
提出いたした次第であります。
次に、この
法律案の内容につきまして概略御説明申し上げます。
第一には、委託者と家内
労働者との委託関係を明確化するため、委託者は、家内
労働者に家内
労働手帳を交付しなければならないことといたしております。
すなわち、委託者と家内
労働者との間における契約内容は、従来必ずしも明確でなく、無用の紛争の原因ともなっていますので、委託者が交付した家内
労働手帳に、委託等のつど、必要事項を記入することにより、家内
労働者の工賃等の権利保護に役立てようとするものであります。
第二には、家内
労働者及びその補助者の就業時間が長時間のものとならないよう委託者及び家内
労働者に対して努力義務を課するとともに、行政官庁が就業時間の適正化に関し必要な勧告をなし得ることとしております。
すなわち、家内
労働者が何時間就業するかは、家内
労働の性格からして本来自由でありますが、その健康を害し、工賃単価にも悪影響を及ぼすような長時間の就業は好ましいことではありません。しかし、家内
労働の実態から画一的にこれを規制することはきわめて困難でありますので、このような措置により、その自主的な努力を促そうとするものであります。
第三には、工賃の確保をはかるために、その支払い方法について必要な規定を設けております。
すなわち、工賃は、原則として、全額通貨により物品の受領後一カ月以内に、または毎月一定期日を工賃締め切り日とする場合はその日から一カ月以内に支払わなければならないことといたしております。
なお、産地等の実態により、直ちにこの規定を適用することが著しく困難な場合については、行政官庁は、審議会の意見を聞いて、当分の間、別段の定めをすることができる旨の経過措置を設けて、無用な混乱を生じないよう配慮をいたしております。
第四には、工賃の低廉な家内
労働者についてその
改善をはかるため、行政官庁は、審議会の意見を尊重して、最低工賃の決定をすることができることといたしております。
すなわち、最低工賃については、現在最低
賃金法において、最低
賃金の有効な実施を確保するため必要な限度においてこれを決定し得ることとなっておりますが、今後は、最低
賃金との関係のみでなく、家内
労働者の工賃の問題として、最低
賃金との関係も考慮しつつ、工賃の低廉な家内
労働者に対し工賃の最低額を定め得ることとしたものであります。
この場合において、最低工賃を決定するにあたっては、同一地域における同一または類似の業務に従事する
労働者に適用される最低
賃金との均衡を考慮することといたしております。
第五には、委託者及び家内
労働者は、危害を防止するために必要な措置を講じなければならないこととするとともに、行政官庁はこれらに対し、必要により、委託の禁止その他必要な措置を命じ得ることといたしております。
すなわち、安全及び衛生の確保に関し、委託者及び家内
労働者が守るべき必要な措置を
労働省令で定めることとし、この場合、家内
労働者の補助者についても、必要な保護がなされ得るよう配慮いたしております。
第六には、家内
労働に関する重要事項を
調査審議するための審議機関を、中央及び地方に設けることといたしております。
すなわち、
労働省に中央家内
労働審議会を、政令で定める都道府県
労働基準局に地方家内
労働審議会を置くこととし、地方家内
労働審議会を置かない都道府県
労働基準局の地方
労働基準審議会に家内
労働部会を設けることとしております。また、これらの審議機関は、家内
労働者代表、委託者代表及び公益代表各同数の委員をもって組織することといたしております。
その他、委託の打ち切りの予告、委託者の届け出、
労働基準監督官の権限及び違反の防止等に関する所要の規定を設けるほか、関係法令に関する整備を行ない、もって本法案の円滑な実施を期しているのであります。
以上申し述べましたとおり、本法案は、最低工賃を除き、従来全く
法律の
対象になっていなかった家内
労働者に対して、新たに法的保護を加え、家内
労働者の
労働条件の向上をはかり、もってその生活の安定に資することを
目的とするものであります。
しかしながら、家内
労働問題は、各般にわたる困難な諸問題を内包しておりますので、これが運用にあたっては、
法制定の趣旨について関係者の十分なる理解と協力を得て、実情に即しつつその円滑なる実施につとめるとともに、今後とも引き続いて検討を重ね、本法の施行その他の行政措置の結果を待って、逐次法的整備をもはかってまいりたい所存であります。
以上この
法律案の提案理由及びその概要につきまして御説明申し上げました。
何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
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