○
水野参考人 水野肇です。
私は、昨年からことしにかけて
チクロをめぐっていろいろの問題が起きたわけでありますけれ
ども、それを社会的に見てどういうふうに
考えておるかというようなものの見方のようなことを申し述べさしていただきまして、その中から行政なりそういうふうなものの
問題点というふうなものをできれば浮き彫りにしたい、そう
考えておるわけであります。
私は、この
チクロだけに限りませんけれ
ども、
一般に広い
意味の公害というものについては、いつでも
安全性と科学性というものとが非常に微妙な
関係にあるということが非常に多いんじゃないかと思うのであります。
まずその科学性の問題でありますけれ
ども、私はやはり科学性というものについては科学的な
データというものをはっきりさせるということが、あたりまえのことではありますけれ
どもたいへん重要なんではないかと思うのであります。多少失礼な言い方にわたるかもわかりませんけれ
ども、先般来の
チクロを見てみました場合に、しょせんは外国の
データにいささか振り回されている感というものがあったようであります。それは外国のはっきりとした
データというものでいろいろと論議があったわけではなくて、いわゆるマスコミの外電によって一喜一憂したような傾向がないではない。しかも、その情報をとるために、たとえば
厚生省について申しますと、アタッシェはいないというふうな行政上の大きな欠陥を持っておったんではないかと思うのであります。もちろん世界じゅうに
厚生省関係のアタッシェを置けなどというようなことは申しませんけれ
ども、少なくともワシントンには一人要るのではないか。これは何か行政措置でことしから置くようになったそうでありますので、まあ過去の話ではございますが、かなり情報不足というものがあったということが
一つであります。
それから第二番目には、これは私はおそらく国民の多くの方々が疑問を持たれたのだと思うのでありますけれ
ども、外国の
データが出ればそれをまるのみに信用して、それだけで日本の行政というものはいいのだろうかという点であります。多少、小理屈を言えば、日本人と
アメリカ人とではすでにいろいろな点において、少なくとも民族的な差はあるわけです。皮膚
ガンになる率などというのは
アメリカは圧倒的に多いわけでありまして、子宮
ガンとか胃
ガンは日本のほうが多いとか、
ガン一つをとりましてもそういうことがあるわけでございます。そういう点で私は、私個人の
意見でありますけれ
ども、やはり日本独自のものを持つ必要がこの際ありはせぬかということを非常に痛感したわけであります。もちろんそのつくり方としてはいろいろあると思いますけれ
ども、今日ございます国立衛生
試験所、たいへん御努力をなさっておられるわけでありますけれ
ども、少なくとも
アメリカのたとえばNIH、国立衛生
研究所でありますが、そういうようなものだとかいうふうなものと比べますと全然話にならぬわけであります。そういう点で、私は、日本もここまで経済成長しておるのでありますから、やはり国立衛生
試験所については非常に大きなものに拡充する、そうしてそこに
毒性センターのようなものをはっきりした形で設けて、日本は日本独自でやる、それがやはり私は日本の政治ではないだろうかというふうに非常に痛感したわけであります。
これは仄聞するところによるとという話でございますけれ
ども、先般閣議の
あとで総理と大蔵大臣と厚生大臣と三人がお話をなさっておられるところでやはりこの問題が出たそうでありまして、国家
研究機関というふうなものをつくらなければならないのならひとつ
考えなければならないなという総理の発言もあったそうでありますけれ
ども、私はやはりそこまで前向きのほうがこういう問題については非常にいいのではないかと思うのであります。それはなぜかと申しますと、もう
一つの問題として私はやはり医学というものはどうしたって不確かな要素というものが入らざるを得ないと思うのです。人工衛星が空を飛んでおるのと
人間が生きておるのとは一見どちらも科学のように見えますけれ
ども、
人間のメカニズムというものはほとんどわかっていないわけでありますから、そこではからざりきというふうな、たとえばサリドマイドのような事件はいろいろ起きてくるわけであります。そういう点から見まして、私はやはり重要なことは、いつの場合でもサイエンスでぎりぎりまで追っかけてなおかつ何がしかのプラスアルファというものが残る、それをどういうふうにやっていくかということが、
一つの政治なのではないかと思うのであります。つまり別の言い方をいたしましたならば、
安全性というものは科学にプラスアルファがやはりついて回ると思うのであります。たとえば、今般の
チクロの場合、科学的
データについてはさきに両先生からおっしゃいましたとおりである、私もそう信じておりますけれ
ども、それをどういうふうにやっていくかという場合に、たとえば
厚生省は
チクロを禁止した、そうしますとやはり
チクロそのものが
ほんとうに科学的にいえば幾らか疑問は残るわけであります。何も
チクロを食べたからといって必ずしも
ガンになるというものでは決してないわけであります。
チクロよりもっとはっきりしているものをいえば、それはたばこなんかのほうがはるかに有害であるわけであります。そういうようなことから見て、
ほんとうにサイエンスだけから追っかけていった場合には、結論がなかなか出にくいと思うのです。しかしそこで、
安全性と申しますか、要するに疑わしきは
使用せずという行政をそこに反映させたとします。そうしますと、やはりそこで何よりも重要なことは、国民が
厚生省並びに国に対して信頼を持つということなのではないかと思うのであります。そこの点が実は、
厚生省はそうはやったけれ
ども、
あとから何かいろいろあって、結局は禁止することを少し先のほうに延ばしたとか、
厚生省と農林省とがだいぶ
意見が違うとか、あるいは今般の牛乳の中のBHCの問題でも、いち早く農林大臣がさっと、もうだいじょうぶですと言ってしまえば今日これまでだというふうなそういうことではなくて、私はやはりそこは
ほんとうの
意味で閣議了解事項の要るようなものではないか、そう思うのであります。それは何よりも、国民が自分の健康について国を信頼するかしないかというせとぎわにくるわけでありますから、そこのところが私はたいへん重要な点の
一つではなかろうか、それを痛感した次第であります。
それからもう
一つは、これはたびたび、科学技術庁の本
委員会の速記録を見ますとあちこちに出ておるのでありますけれ
ども、やはり行政の一本化というものについては何らかの形で
考えなければならないのではないか、そういう時代が来ていると思うのであります。たとえば、
あとでもちょっと触れたいと思いますが、例の問題になっております
アメリカのFDA、これも
最初は農林省に付属しておったのでありますが、やがて、日本で申しますと文部省と
厚生省とを足したような省に移管されておるわけであります。私は何も、何でも
厚生省がいいとか何でも文部省がいいとか農林省がいいとかそういう
意味ではなくて、やはり行政の——もちろん各課長クラスあたりでいろいろ行政の連絡
会議というのはあるようでございますけれ
ども、そこのところは、もう少し制度の上でも何かこういうふうな問題についての一本化というものは、皆さま方も速記録で、本
委員会で御主張になっておられますように、私もまたやはり必要なのではないかということを思っておるわけであります。
それからもう
一つの問題としましては、こういう問題というのはやはり法律として一本何か要るのではないかという気がするわけであります。今日、日本だけではございませんが、西ドイツなどでもそうですけれ
ども、やはり役所というのがいろいろと分かれておりまして、こういう問題というのはどこの所管事項かというのはわりあいにわかりにくいことが多いわけであります。せめて、たとえば国民健康法というふうな、保健ではないので、つまり一億総健康というふうなそういうニュアンスのことでありますが、そういうような法律というものが
一つありまして、そこにかんがみて、あるいは照らし合わせて、そういうふうな方向の行政というのはそこへ持っていく、それの主管をどこにするかは別としまして、やはり私はそういうものがここでは要るのではないかと思うのであります。あるいはそれと似たような
考え方としましては、たとえば国家安全
委員会というふうなものも要りはせぬかと思うのであります。これは何も
食品だけが問題なのではなくて、いろいろなこと、すべて国民の生活を圧迫しているもの、そこには
安全性というものが出てこない限り結局はどうにもならないという時代に
アメリカでさえなっておるわけであります。そういうことから見まして、私は何もやたらにたくさん行政機構をつくれという
意味で申しておるのではありませんけれ
ども、今日、経済企画庁が元締めをしておるようなものをさらに発展させて、国家安全
委員会というようなものあるいは科学技術庁もそういうことをおやりになっておられますが、そういうことで何か
一つ——これはきょうのテーマではございませんが、事後の問題等も含めましてやはりそういうところで扱う必要がありはせぬかと思います。
それから最後に、私はぜひこれは
行政当局にお願いしたいのでありますが、やはり今回の
チクロを見て私が一番痛感しましたのは、日本の
厚生省をはじめ農林省もあるいは科学技術庁もその中に入ると思うのでありますけれ
ども、
アメリカのFDAの行政というものの
研究不足ということがいえるのではないかと思うのであります。FDAの
資料をかりに衆議院の先生方が持ってこいとおっしゃいましてもおそらくペラにして数ページのものしか出てこないと思うのであります。しかし、今日FDAの行政というものは、それがいい悪いは別としまして、世界を非常にそういう渦に巻いておるわけであります。ヨーロッパではかなり反対の
意見がございます。しかし、
アメリカの中でももちろんあるのでありますけれ
ども、これがそっくりそのまま私は右へならえで日本に来たらいいのかもしれませんし、あるいはそうでないのかもしれないと思うのですけれ
ども、そのあたりはやはり大いに
調査研究する必要があるのではないかということが
一つであります。
それからもう
一つは、私はやはりこういう問題については国民へのPR不足というものもかなり痛感した一人であります。なるほどマスコミはたくさんお書きになったし、そういう角度での問題は出ておるわけでありますけれ
ども、つまりPRというものが単にマスコミだけに依存するものではなくて、やはり国なりそういうふうなところで
一つの保健所なら保健所を単位にした、こういうたとえば
添加物なら
添加物につきましての
一つのPRというものが私は要ると思うのであります。それがつまり情報化時代といわれておりながら肝心の情報は実は流れておらないというのが日本の各階層でいろいろございますけれ
ども、私はやはりこれにもそういうことが出てきたのではないか、そう思っております。
それから一番最後に、では
チクロについてどうか、おまえ個人の
意見はということになったといたしましたならば、私はやはり政府並びに
厚生省あるいはそういう各官庁というものが国民の信頼を得るということ、そういうことにおいてまずやはり即時中止すべきではないかと思うのであります。しかし中止してどうするか、中止してその次は私はやはり日本でこれを追試するあるいは
研究するということが行なわれなければ、次にまた
アメリカの
データが来るのをお待ちしましょうということではほとんど
意見がないと思うのであります。もちろんそれは永久に中止する、
アメリカのとおりにやるんだということなら別ですけれ
ども、私はやはり個人としましてはまず中止してそうして日本にもずいぶんたくさんそういう道の権威の学者の方々はいらっしゃるわけです。予算を出しさえすればある程度のことはできる。
アメリカ並みと言いませんけれ
ども、ヨーロッパ並みには今日できる実力をお持ちになっておられるわけですから、やはり私は中止して日本で
研究する。もちろんそのためには先ほど触れましたように非常に優秀な
研究機関が必要であって、しかもそれは私は国立でないといけないと思うのでありますけれ
ども、そういうようなことがやはり私は
チクロについていえるのではないか、そんなふうに思っております。