○山本伊三郎君(続) また、その立法
過程を見ても、全く異常な経過をたどってきたのであります。
私は、
本法案に対する反対の
理由といたしまして、二つの大きな問題を指摘したいのであります。
その第一は、まず立法
過程であります。
衆議院における
審議の実情は、たびたび論じられていますが、
衆議院社会労働委員会では、ほとんど
内容の
審議を行なわれず、しかもその採決に至っては、出席議員の何人なるかをつまびらかにされず、強引に可決されたと聞いております。また、本案の
衆議院本
会議における採決も、違憲の疑いのある暴挙にひとしいものであるに至っては、言語道断と言うべきであります。
また、本院における
審議の
実態も、
国会史上初めての
中間報告を
強行せしめ、また、期限つき
委員会審議の
強行は、多数党の暴挙の悪先例として、千古にその悔いを残すものと私は思います。(拍手)
さて、私は、本案の
実態と
内容について論じたいと思います。この
法律の源は、
健保の
抜本改正に端を発しているのであります。いまからちょうど二年前の第五十五
国会に
健保特例法として姿をあらわしましたが、野党の反対で成立せず、次の第五十六
国会で再び提案されて、難航の末、八月の十八日についに成立したものであります。当時の
政府の説明は、
医療保険の
抜本改正の行なわれるまでの暫定
措置として、二年間の時限立法として提案されたのであります。そして二年後には、健康
保険制度の
抜本改正を必ず出すとの約束であったのであります。私は、当時本院の社会労働委員長といたしまして、この
政府の
答弁に全くその真意を
理解することはできなかったのであります。それよりも一種の当時怒りを感じたほどでありました。これほど一時のがれの
政府の
答弁はなかったのであります。
そもそも健康
保険制度の
抜本改正とは、一体何を意味するものでありますか。若干でも
医療保険の
実態を知る者においては、その
抜本改正のいかに容易でないものかということは知っているはずであります。今日、健康
保険の
抜本改正を望む声は、
一つの
国民の世論となっていることは事実であります。しかし、
抜本改正抜本改正といっても、その
立場立場において三者三様であります。おのおの異なった希望と構想を持っていることは御存じのとおりであります。被
保険者である労働者は、労働者としての要求があります。社会
保険よりむしろ
社会保障への道を進むべきであるという
意見であります。また、
診療担当者としての
医師会は、
医師の
立場としての要求があります。また、
健保連合会または事業主は、支払い者の
立場から、
診療担当者、すなわち
医師会との間に鋭い対立のあることは、皆さん御存じだと思います。このような三者三様の対立
意見を十分知りながら、二年間の期限で
抜本改正とは全く
国民を愚弄したものであると、その当時、私は考えておったのであります。しかも、この際も強引に
健保特例法を、しかも、臨時
国会を開いてまでこれを成立せしめたものであります。私は、二年前のこの
健保特例法成立の際に、すでに
政府の許すべからざる
責任を責めなければならないのであります。
しかるに、また、昨日の
総理の
答弁の中にも、いまの上原君の
自民党の賛成演説の中にも、二年間の延長はまあ修正されて時限立法でなくなったけれども、二年後の通常
国会には
抜本改正を出す決意を表明されたのであります。そのことをよく吟味いたしますと、きのうの佐藤
総理のことばの端には、きわめて語尾が明らかになっておりません。
抜本改正案の提案できるよう
努力すると結んでいるのであります。さすがに
自民党の総裁であります。——ほめている意味で言っているんじゃないですよ。非常にのがれ道をいった
答弁をしておられます。私は、現在の
政府も、
昭和四十六年八月までに
抜本改正の困難なことを自覚しておると思うんです。それは、私が推測はできます。もし、
政府が真に
抜本改正を断行する意思があるなれば、すでに、その要綱を
示して、
社会保険審議会及び
社会保障制度審議会に諮問しておらなければなりません。このような重要な、利害
関係の相反するものを同
審議会において、一年、二年ぐらいで結論の出るはずはございません。もし、それを出すとするならば、
政府のメンツを立てて、中間
答申として、ほんの一部、抜本どころか、ほんの枝葉末節な改正案を
答申さして
国会に出すことは火を見るよりも明らかであります。もし、
政府・与党の諸君が、私のこの断言に対して反論があるならばやってもらいたいと思うのであります。私は、自信を持って言えるのであります。もう二年といえば、来年は安保条約改定のときであります。この政治問題の大問題のときに、おそらくこの
健保抜本の改正に関する
答申が出せるような政治情勢では私はないと判断しておる。かりに、来年春に出ましても、その年末の予算にどう組むか、
政府部内の
意見も対立すると思います。先ほど申しましたように、
医師会対支払い者の
関係というのはきわめて微妙であります。これをどう調整するか。いまの佐藤
内閣には、それだけの力はないと、私断じておるのであります。
次に、私は、今回
政府が説明した、また、昨日の
厚生大臣の
答弁に従って出されたところの
抜本改正の要綱について、
政府の考えておることの間違いを指摘しながら、論じたいと思います。
昨日、
厚生大臣、また
総理大臣が
衆議院で言われました
抜本改正の要綱が、四つ出ております。第一は、
負担の公平化と
給付の均等化であります。第二は、
地域保険と職域
保険及び老人
保険の組織の再編成、第三に、
診療報酬の体系の是正、第四に、
医薬分業を検討するということであります。これは、
医薬分業について結論を出すといっておりません、検討するということで逃げております。私はそれもそうだと思うのです。
医薬分業の問題がうわさされてからすでに数十年になります。戦前から
医薬分業がいわれておりますけれども、これは実現しない。あとで私は申し上げますけれども、
医薬分業というものがはっきりしない限り、
医療保険の抜本的な改正はあり得ないと私は信じておるものであります。
そこで、第一の
負担の公平化と
給付の均等化の問題であります。一体、
負担の公平化と
給付の均等化とは何を意味するものでありますか。
政府は、おそらく
保険料または
保険税の統一をよもや考えておるとは思われないのであります。また、
給付の統一化を考えているとも現在の段階では思えないのであります。このこと自体、きわめて困難な問題であります。御存じのとおりであります。
現在、
医療保険の範疇に入るものは、まず
健康保険法があります。この
健康保険法には、また
政府管掌と組合管掌という、同じ法体系でありますけれども、問題を含んだ、いわゆる被
保険者が存在しておるのであります。そして、海上労働者を対象とした
船員保険法があります。次に、日々雇用という変わった形の労働者を対象とした日雇労働者
健康保険法があります。また、公務員及びこれに準ずる労働者を対象とした各種の共済組合法があります。以上は、称して被用者
保険として雇用労働者を対象とした
医療保険であります。
また、これに対して、
地域保険と称して、農民、自
営業者を対象としての
国民健康
保険があることは御存じのとおりであります。しかし、この
地域保険の中には、例外として——これは
厚生省の怠慢とは思いますけれども、五人未満の零細
企業の被用者労働者が含まれておること自体も問題があります。これまた後に触れますけれども、
政府の便宜主義によってかようなものが残っておるのであります。これが
医療保険の体系を非常に乱しておることも、また
抜本改正に支障のあるところであります。
以上述べました五種類の
医療保険は、その
内容は
医療を主体として、
国民の健康保持を目的とするものであるが、その立法の趣旨は、おのおの違っておるのであります。ここにもまた、
医療保険の
抜本改正の困難な問題が伏在しておることは、御存じのとおりであります。この立法趣旨及びその歴史の相違が、
抜本改正の困難な重要な要素になっているのであります。
たとえば、
健康保険法の立法
過程を見ますると、この
法律は、社会
保険の先駆として大正十一年に成立したものであります。当時は、わが国の社会情勢は、労働運動の勃興期でありました。当時の
政府は、労働者の懐柔策として、資本家の労務
対策の必要上から、実はこの健康
保険——
内容は
医療保険でありますけれども、その立法趣旨でつくったものであります。
衆議院の、戦前、大正当時のこの衝に当たったのは、かつて
自民党の総裁になられた鳩山一郎氏が特別委員会の主査をされておったと記録が出ております。したがって、労働
対策の立法趣旨が重点でありますので、
保険財政の組み立ても事業主に多くこれを課するという
方法をとっておるのであります。これは当然のことであります。その当時、資本家陣営、いわゆる経営者陣営から、この
健康保険法すら立法に対しては猛烈な反対があったのであります。いかに日本の資本陣営の方々が
社会保障制度に対する認識がなかったかということは当時を見ましても明らかであります。このことは被用者
保険、単に健康
保険だけではありません。被用者
保険の特徴となっております。したがって、
保険料の
負担は被
保険者には軽く事業主には重いというのが、これが通例であります。それだけではないです。今日の大
企業の健康
保険組合の実情を見ましても、自己の
企業の経営上の利得を考えて、従業員の健康管理の必要上保健施設も比較的
充実されております。このことをもって
医師会の方々は、健康
保険組合管掌の組合は財政が非常にいいんだ。したがって、その財政を、財政の悪い
国民健康
保険のほうに流すことによって
医療の
内容が
充実するという主張をされておることを散見しておるわけでありますが、それは私は基本的に間違いだと思うのです。このような立法趣旨と歴史を持つ
健康保険法の被
保険者と、他の
医療保険の対象者との
負担の公平化、
給付の均等化といっても、これはとうてい言うべくしてなしがたい問題がその底にひそんでおるのであります。そのことを
政府がはっきりと認識して、二年後にこの
抜本改正の第一の要項をどう実現するかということが問題であります。しかも、今日の
自民党は大産業、大
企業の基礎に立っておる政党であります。すなわち、独占に支配されておる現
政府でありますので、この大資本の厚い壁がいまの
自民党の力で破れるかどうか、私は注目をしておるのであります。私がここで論ずるだけじゃない。事実二年後にこれはあらわれてくるのでありますから、私の言うことが間違いであるかどうか。二年後にはこれは証明されるという事実があることをはっきりと皆さまに言っておきたいと存ずるのであります。
また一方、日雇労働者
健康保険法でありますが、これは御存じのように、別な立法趣旨があります。これはいわゆる戦後、失業
対策の一環としして生まれたものであります。日々雇用の労働者はきわめて低賃金であります。しかも、その就労も安定性がないのであります。したがって、この対象の被
保険者に対しては
負担を軽くし、主たる財源は国がまかなうという立法の趣旨でなければなりません。その意味において、
負担の公平化、
給付の均等化ということは、被
保険者たる日雇い労働者の
保険料をむしろ低く押えて、そうして
給付水準を一定の線まで上昇さすことが
負担の公平化であり、
給付の均等化と、私は信じておるのでありますけれども、はたして、そういうものが二年後に出てくるかどうか、これも参考のために覚えておいていただきたいと存ずるのであります。
また、次に、各種共済組合、これは公務員あるいは公務員に準ずる公社、これらの働く方々を対象としたいわゆる
医療保険の体系の一部であります。この方々が、民間の健康
保険の被
保険者と同じ体系であることは言うまでもありません。ただ、その雇用主が国または地方公共
団体、その他、特殊な
団体に雇われておるという特殊な
関係から、
保険料なり
給付も若干の相違のあることも認めざるを得ないのであります。このように、被用者
保険のみをとってみましても、
負担の公平化、
給付の均等化という
抜本改正の第一要項を実現するにしても、なかなか困難な問題を含んでおることは、私だけでなくして、
自民党の中にも、
医療保険、社会
保険のたんのうなベテランがおられますから、私の言うことに腹の中で賛意を表している方もあると思うのであります。
次に、問題の
地域保険といわれる
国民健康
保険であります。この
法律は、
昭和十三年成立したものであります。しかし、この成立までにはいろいろな論議
過程があります。当時は、御存じのように、シナ事変が起こり、大東亜戦争に日本が突入しようという、きわめて軍国色の強いときでございました。したがって、
政府は、強兵策の必要なことを痛感しておったのであります。特に、農村の
医療及び健康
対策というのは、強兵策に重要な役割りを演じておるということを痛感しておったのであります。当時の内務省の社会局の
国民健康
保険創立の要綱を見ましても、その意味が十分にじみ出ているのであります。その立法精神も、戦争遂行、強兵策が目的であったことは、当時のいま申しましたいろいろの
政府の要綱案によっても明らかに示されておるのであります。
しかし、戦後は、この
国民健康
保険も、
国民皆
保険の基盤として運営されて発展してきたことは、私も認めざるを得ないのであります。しかし、その
給付の
内容はきわめて低く、この
国民健康
保険が
抜本改正の根源をなしておると言っても過言ではないのであります。すなわち、この
国民健康
保険の対象者は、さきに述べましたごとく、農民、自
営業者、そして五人未満の零細
企業の労働者でありますため、一部には、なるほど、高額所得者も含んでおりますけれども、ほとんどが低所得者の一般市民であります。したがって、その
保険財政はきわめて悪く、その
給付も劣悪であることは、御存じのとおりであります。
以上、
抜本改正の第一の要項である
負担の公平と
給付の均等化を通観して得られる結論は、低所得者を対象とする
国民健康
保険、
政府管掌の健康
保険の両者と、他の比較的進んだ健康
保険あるいは共済組合の財源と
給付水準をどう調整するかということが、これは一番重要なポイントであります。
政府は
抜本改正として、この
負担の公平化と
給付の均等化をどう打ち出してくるかは、私は火を見るよりも明らかであります。それは比較的財源の豊かな
医療保険から、
給付水準の低い財源の乏しい
医療保険に対しての財源のプール制であります。しかし、単純なプール制ではおそらく各種
医療保険の被
保険者は納得しないので、それに似通った
制度を持ち出してくることは十分警戒しなければなりません。おそらく厚生当局でもすでにそういうことを考えておると私は推測をしております。また、
給付水準にいたしましても、この
受益者負担という論理を拡張いたしまして、いわゆる一部
負担金という
制度が私はまた出てくると思うのです。薬代に対する一部
負担金は、どういうことか
自民党の
修正案でこれを取った。またあとでこれを述べますけれども、これもひとつ重要な伏線があると私は見ておるのであります。そのことは、私がいま申しましたことの立証として、第二の
抜本改正の要項である
地域保険と職域
保険の組織の再編成を主張されておるところにその含みがあるのであります。なぜ職域
保険と
地域保険の組織の再編成をするかということは、おのずから私が先ほど申しました意図を含んでおるところを忘れてはならぬと思うのです。いま
質問の時間でありませんから
政府にただすわけにいきませんけれども、そういうことはありませんという
政府の確言が得られるかどうかであります。
厚生大臣はここにおりますけれども、討論の時間でありますから
答弁ができないことを喜んでおられると思いますけれども、そういうことを十分胸におさめてもらいたいと思います。
私は
抜本改正とはそのようなものであるとは考えておりません。まず今日の最も問題になっておるこの
国民健康
保険——
地域保険、
国民皆
保険の重要な役割りを演じておるところのこの
国民健康
保険の財源を
政府がどこまで
負担するかということであります。現在、
給付費の四五%、市町村に対して事務費の
負担をしておりますけれども、これに対してはそう大きな
負担は必要はございません。私の経験からいきましても、もう五%、五〇%に引き上げれば、特殊なところは別でありますけれども、
給付水準も引き上げ、財源的にも私はいけるという自信を持っておるのでありますけれども、それがなかなか
政府はやらない。そのように、もしこの
国民健康
保険、
地域保険のこの経営がスムーズにいくようになれば、あえて
政府は苦労して
国会でいじめられて、いじめられても
抜本改正を出すということを言わなくてもいいのであります。現在、市町村に対する事務費の
負担も実は超過
負担の
原因となっているわけなんです。いわゆるこの実績どおりの補助金を出さないために市町村は非常に苦しんでおることは
自民党の諸君も御存じのとおりであります。皆さん方も非常に運動されておるのです。したがって、五〇%まで
政府の補助金を引き上げ、市町村に対する事務費を、十分とは言いませんけれども、必要な実績だけ
負担すれば私はこの
国民健康
保険も一応自律的に
給付を引き上げ、運営も私はスムーズにいくと信じておるのでありますが、以上述べましたこのことから、一体健康
保険自体、その
制度上に
抜本改正の必要がどこに大きな問題があるかということであります。
抜本改正を叫ぶ
政府の意図が、
政府の財政
負担をできるだけ押えて
給付水準を実質的に引き下げるものであるならば、われわれは断固反対せざるを得ないのであります。かつて一昨年だと思いますが、私がまだ社労委員長のときだと思いますが、
厚生省試案を出して世間の非常な
批判を買うたことは御存じのとおりでございます。これを追及いたしますと、あれは事務的な、事務の間の問題であって、それが新聞社にスクープされたということで断わりを言っておりましたけれども、その一端をのぞかしたものも、私のいま言ったような被
保険者なりあるいは
保険者の犠牲によって
抜本改正をやろうという意図のあることはうかがえるのであります。われわれの言う
抜本改正とは、まず、各種
医療保険の先頭をいく
給付水準に引き上げることであります。そして所得の再配分の理論を含んだ
負担の公平をはかることであります。社会
保険か
社会保障かの論議は学者の間にもあります。また、
国会の
審議にも出てきますし、それは観念的な問題として私はいずれでもよい、
政府がこの社会
保険に対し、
医療保険に対しどれだけ力を入れるかどうかの問題であります。
そこで私は、以上健康
保険の
制度組織についての
抜本改正の
問題点を指摘したのでありますが、私は、この
抜本改正を考えるならば、現在の日本の
医療制度を
改革しなければとうていいかないと思うのであります。前にも若干触れましたけれども、今日の日本の
医療制度では、いかにその上に乗っかっておる上層建築物の健康
保険制度をいらおうとしても、改正、
改革しようと思っても、それはだめです。泥津の中にビルディングを建てるようなものであります。したがって、今日の
医療制度は自由開業のたてまえであります。私はそれをいいとか悪いとかいう論議をきょうしたくはありません。したがって、そのような自由開業主義でありますから、きわめてその
診療機関が偏在しております。しかも、現在いまだ、
厚生省の調べでは無医部落が二百数十もあるということであります。町村合併で区域が広くなりましたから、無医村という村単位の
医者のおらないところはございませんけれども、部落部落を検討すると、まだお
医者さんのおられない部落が二百以上もあるということであります。また、
診療機関の設備にいたしましても非常に不均衡であります。一方、例をとりますけれども、今日教育機関である小中学校はどんな山間僻地にも設けられております。教師もりっぱに派遣されております。教育の
機会均等がほぼ
国民に徹底しておるのであります。しかるに、人間の
生命を守る
医療機関が、なぜ僻地の
国民に
機会均等が行なわれないのでありますか。
国民総生産が世界第二位と誇らしく言っておりますけれども、これで文化国家と皆さん言えますか。
私は、この
原因は、
医療関係者、すなわち
医師、
薬剤師及び
看護婦等、その他多くの
診療従事者の処遇の問題と人員不足に帰するものと思うのであります。特に、
診療の第一線で働いておられる
看護婦さんの人員不足は、すでに叫ばれて久しいものがあります。しかるに、
政府は一体どんな手を打ったのでありますか。今日、
看護婦の夜間勤務が大きな社会問題となっておることは御存じのとおりであります。
政府はこの際、
医療制度の根本的な改善を考えるべきであると私は思うのであります。いわゆる健康
保険制度の
抜本改正の基盤として、
医療制度の
改革というものが重要な要素である。これを私は十分皆さん方に知っていただきたいのであります。
次に、私は
医薬分業について少し触れておきたいと思います。
今日世間では、お
医者さんが薬を商い、
薬剤師が化粧品を売っておる、こういう悪口を言う人があります。しかし、これはあってはならないことでありますが、この悪口は、今日のわが国の医薬
制度の
実態をあらわしておるんじゃないですか。
薬剤師さんは化粧品を売らなければ生活できないという
実態であります。私は、あえて欧米の実情を引例することはいたしませんが、なぜこのような
医師が薬を扱うことに多くを費やし、
薬剤師が薬種製造業者の手先として、その商品の小売りに、また化粧品の小売りに奔走しなければならないんですか、私は
理解に苦しむものであります。高度な学問をして世に出た人材は、もっと国が大事にしなければならぬと思います。日本人は、物に対していろいろ大事にする観念がありますけれども、人に対してはきわめて冷酷であります。特に現在の
政府・佐藤
総理は人命尊重を言われますけれども、人間に対する
考え方はきわめて冷酷であります。
社会保障の
現状を見ましても、私はそれを立証できると思うのであります。願わくは、
政府は勇気を持ってやっていただきたいと、まだ希望はつないでおります。
政府は、
医療保険の
抜本改正と称して、先ほど触れましたように弱い者いじめの
保険料の引き上げとか、
受益者負担の意味を取り違えて一部
負担金を考え出すとか、こそくなことばかりに気を配らずに、
医療制度の
抜本改正と
社会保障の原則に立って
抜本改正を考えていただきたいのであります。
次に、私は、本案の
内容について、反対の
意見を若干述べたいと存じます。
本案が最初
国会に
提出せられたときは、
健康保険法及び
船員保険法の
臨時特例に関する
法律等の一部を改正する
法律案となっていたことは、先ほど申したとおりであります。そうして、この
法律の
内容の主体は第一条であったわけであります。第一条の
臨時特例の期間の延長というのが、この
法律の主体であったわけであります。それが突然
衆議院で
自民党の一方的な修正でこの第一条を削除されたわけなんです。私は、長い
国会生活で、
法律の第一条を削ったというような
法律は見たことがないのです。御存じのように、
法律の第一条は、その目的なり、その
法律の基本を規定したものであります。その第一条を削除して、しかもこれが修正だというようなことに至っては、法制上の問題はこじつけてもいいのでありますけれども、少なくとも立法府に身を置く者としては、これは避けるべきであります。この第一条が削除された瞬間に、この
法律はその性格が変質したのであります。その
法律はなくなってしまったのであります。そして新たなる
法律ができたのであります。このようなものを、しかも先ほど申しましたように、強引に、十分な
審議をせずに、本院においても委員会における一回の趣旨説明もやらずに
中間報告をするとは、少なくとも今後私らのあとあとに、国
会議員として参議院に籍を置く人があるでしょう、いまこの
法律を
審議しておる与党、野党を問わず、いまおる国
会議員のいかに能足らぬかを暴露することであります。その性格が変形して、母法である
健康保険法及び
船員保険法の改正案となったのであります。このような修正は、先ほど申しましたように、法制上は無理をしてもできると思いますが、なかなかわれわれ立法論としては納得できないのであります。このことにつきましては、本院においても同僚諸君が何回も触れられましたので、こまかいことは省略をいたします。
私は、いま問題になっています
健康保険法の特例法が第五十六回
国会で
審議されたときの社会労働委員長として、一言触れておかなければならぬことがございます。当時
厚生大臣は坊秀男氏でありました。私は坊
厚生大臣と数度議論をいたしました。委員長でありますから、委員会においての正式な議論をいたしませんけれども、大臣からも私的に
意見を聞かれたこともあります。それは「
政府は二年後に
抜本改正を必ず出すと言うが、そんなことは一体あなたできると自信を持っておりますか。」、私はいまだから言っていいのでありますけれども、「この二年間の時限立法は
衆議院で修正されてつけられたのであるので、私は自信がありません。」、私は坊
厚生大臣は正直だと思っておる。おそらく
医療保険の今日の
実態を知る者としては、それは当然です。当時はこの健康
保険特例法の重要な
問題点は、実は
政府管掌の被
保険者の
保険料を千分の五引き上げるということよりも、
制度的には薬代の一部
負担の新設が大きな問題であったのであります。また、健康
保険に対して若干の知識を持つ者は、
保険料については労働者の掛け金を取るのでありますから、基本的に反対であるけれども、健康
保険の
制度として薬代に一部
負担金を課するということは非常な問題があったわけであります。それを実は今度は簡単に、
自民党は内部でどういう話があったか知りませんけれども、あっさりこれを削除したわけであります。私はこの点については問題がありますけれども、それは別にいたしましょう。
この健康
保険制度上非常に問題があるということを、これを投げ捨てて削った以上は、あとに残るものは財政問題だけであります。二百二十五億の
赤字、もう今日二百二十五億は、本年度も二百二十五億
負担することでありますが、実際は、決算の上では、それは非常に変わってくると思うのです。私の試算では、おそらく四十四年度においては百五、六十億の
赤字でないかと思っております。もっと減るかもわかりません。したがって、この
制度上の一番問題の薬代の一部
負担を削って、財政上の問題だけで、これほど騒動をしなければならないんですか。
政府管掌被
保険者は二千万以上おられる。それらの方々に、わずか二百億以下の傘を出すのが、
政府はそれほど問題がありますか。この点が、私はどうしてもこの
法律案審議の
過程の問題——一応別途にいたしましても、
政府はなぜ強引にこれまで押してこなければならないんですか。私は、この問題はあとに含んでおると見ておるわけであります。いわゆる
抜本改正とつながる問題であります。もし、この特例を廃止して、もとの
健康保険法の姿に返れば、
政府管掌被
保険者の
保険料率は千分の六十五になります。特例を廃止するんでありますけれども、実質的には千分の五の
保険料の引き下げになる。これが次にくる
健康保険法の
抜本改正に大きな支障のあることは認められるわけであります。したがって、わずか二百億程度の問題で
衆議院は数日徹夜をし、参議院も徹夜をして、これほど大騒動しなければ、
自民党の皆さん、皆さん方は二百億程度の金を
政府から引き出すだけの力はないのですか。私はこの際、
自民党は意地になっておられてはいかぬと思うのです。低賃金で苦しんでいる、また、物価の上昇で生活難にあえいでいる
政府管掌の被
保険者、中小
企業の労働者が主体であります。農民が主体であります。それらの方々に対して、なぜ私は、
政府は財政的に寛容な
措置はとれないかと思うのであります。健康
保険のこの問題で、廊下で
自民党の皆さんとお話しいたしますけれども、個人的に会うと、私の
意見に賛成の方が相当あります。私はよく考えていただきたいと思います。皆さん方は政権を取っているんですよ。野党が幾ら言ったところで、おそらく
政府は聞きませんけれども、皆さん方が一丸となれば、このような問題は消えてしまうのであります。そうして、きょうもあしたも徹夜をせずに済むわけであります。私はいま申しましたように、わずか千分の五の引き下げについては、おそらくこれだけの問題であれば、福田
大蔵大臣もおそらく無理をしてでも出すと思うのでありますけれども、これが今後の
抜本改正につながるという、大きな綱のかかっておることをよく御存じであると思うのです。それが今日この健康
保険の改正案に対して、執拗に、強引に
自民党・
政府が打ち取ろうという考えがここにあるということを、私は指摘しておきます。皆さんの中には、
自民党の諸君でも、そういうことを知らない人があるかもしれませんので、特に、忠告をしておくわけであります。
私は、最後に
政府・
自民党の皆さんに申し上げます。
医療保険は、一億
国民がすべて該当する問題であります。また、
国民の
生命にもかかわる問題であります。真剣に考えていただきたいと思う。私の演説に若干やゆ的なことがありますので、お笑いになる方もあると思いますけれども、きわめて真剣に考えていただきたいと思う。わずかな財源の出し惜しみによって、政治の不信を買うもとになることを私は心から悲しむのであります。
以上、
政府・
自民党の猛省を促して、撤回を要求するのであります。
最後に、社会党の
修正案につきましては全面的に賛成するものであります。
これはおそらく
自民党の諸君は、腹の中で、何だと思われるかもしれませんけれども、真剣にこの
修正案を玩味してもらいたいと思う。社会党と
公明党の
修正案の
内容には、若干の相違はありますけれども、この
医療保険が、
国民の生活にどれほど重要であるかということを身にしみた
修正案であります。直ちに、財政的にそれが実現するかどうかは、われわれ政権はとっておりませんけれども、その線に前向きに進むことこそ、日本の社会
保険の発展の大道であるということを宣言いたしまして、私の討論を終わります。(拍手)
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